各種雰囲気下でのTG-DTA測定 (特殊雰囲気TG

●各種雰囲気下でのTG-DTA測定(特殊雰囲気TG-DTA)
各種雰囲気下でのTG-DTA測定
(特殊雰囲気TG-DTA)
材料物性研究部 大田 玲奈
初期の重量変化の立ち上がりは、トナー≦PIフィルム
<吸水性ポリマー<活性炭の序列になることがわかる。
一方、トナーやPIフィルム、活性炭が約40分経過後に飽
和水分量に達しているのに対し、吸水性ポリマーは300
分経過しても飽和に達しておらず、さらに吸水が進行す
ることが予想される。図1から、材料によって吸水量や
1.はじめに
吸水速度が異なることがわかる。
材 料 が 高 温 に さ ら さ れ る と、 酸 化 に よ る 重 量 増 加
や 分 解 や 燃 焼 に よ る 重 量 減 少 が 生 じ る こ と が あ る。
TG(Thermogravimetry:熱重量測定)は、材料を加熱あ
るいは所定温度に保持した際の重量変化を調べる測定法で
ある。その特長を活かし、材料の熱安定性を把握するため
に利用される。また、重量変化以外に、DTA(Differential
Thermal Analysis:示差熱分析)で熱の出入りを同時に
測定することで、反応や分解の要因推定にも活用できる
(TG-DTA:熱重量-示差熱分析)
。TG-DTA測定は一般
的に窒素、アルゴン、ヘリウム等の不活性ガス雰囲気下
や、空気等の活性ガス雰囲気下で行われる場合が多い。し
図1 各種材料の吸水による重量変化
かし、湿潤雰囲気下のような実使用条件下での測定への要
望もある。本稿では、湿潤雰囲気下や減圧下で測定可能な
3.2 水蒸気導入TG-DTA測定
特殊雰囲気TG-DTAについて紹介する。
先述した湿度制御重量測定では、100℃以下の一定温
度、水蒸気量のコントロールされた一定湿度下での重量
変化を測定するのに対して、水蒸気導入測定では、バブ
2.装置概要
リングによって調整した湿潤ガスを導入しながら、最高
1000℃まで加熱昇温した際の重量変化を計測する方法で
TG装置の方式には天秤と試料の位置関係により、吊り
ある。試料近傍に湿潤ガスを導入することで試料の乾燥
下げ型、上皿型、水平型の3種類がある1︶。その中で、今
を防ぎながら、水蒸気の存在する状態での加熱重量変化
回用いたTG装置は水平型に相当し、試料とリファレンス
を測定することができる。
との重量差を検出する差動方式を取っている。また、試
図2に、乾燥または水蒸気含有の湿潤ガスを導入しな
料およびリファレンス近傍に熱電対がそれぞれ接続され
がら加熱したときの高分子電解質膜の重量変化および熱
ているため、試料に熱の出入りが生じた際に、試料とリ
の出入りを調べた結果を示す。測定雰囲気には、乾燥ガ
ファレンス間の温度差としてDTA信号を得ることができ
ス(Dry窒素 or Dry Air)および湿潤ガス(Wet窒素 or
る。この装置の天秤部を共通部材として、試料部周りの
Wet Air)を用いた。
加熱炉と試料管を変更することで、以下の例に示す様な
室温にて約4時間保持される間に、乾燥雰囲気下では
種々の雰囲気下におけるTG-DTA測定が可能となる。
試料に付着した水分が揮発することで、約6%の減量が
認められた。一方、湿潤雰囲気下では水分を吸着・吸収
して、約10%増量が認められた。
3.特殊雰囲気TG-DTAの適用例
3.1 湿度制御重量測定
湿度制御重量測定は、試料の温度制御を行うととも
に、湿度を制御した湿潤ガスを導入する測定法である。
測定時の温度や湿度は、試料近傍に設置したセンサーを
用いて測定する。測定可能な温度範囲は室温~80℃、湿
度範囲は20~80% RH(温度により制御可能な範囲が異
なる)である。
一例として、25℃、60% RH一定下で、水蒸気の吸収・
吸収による活性炭、吸水性ポリマー、ポリイミド(PI)
図2 高分子電解質膜の重量変化の時間依存性
フィルム、トナーの重量変化を調べた結果を図1に示す。
・19
東レリサーチセンター The TRC News No.115(May.2012)
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さらに、同試料について、室温から10℃ /minの速度
重量変化を調べた結果を示す。なお、シュウ酸カルシウ
でそれぞれ昇温測定を行ったところ、いずれの雰囲気下
ム一水和物の化学式から求めた減量率は以下のように推
においても、約600℃までにほぼ100%減量することがわ
定される1︶。
かった(図3)。図3の各TG曲線から減量開始温度を比較
すると、Wet Air<Dry Air<Wet窒素<Dry窒素の序列
CaC2O4・H2O
→ CaC2O4 + H2O (12.3%)
になった。雰囲気の違いに伴って、分解挙動が異なるこ
CaC2O4
→ CaCO3 + CO
(19.2%)
とがわかる。
CaCO3
→ CaO + CO2
(30.1%)
トータルの減量率
→ (₆1.₆%)
図3 高分子電解質膜の重量変化の温度依存性
図4に高分子電解質膜のDTA曲線を示す。減量の見ら
図5 シュウ酸カルシウム一水和物のTG曲線
れた約300~600℃間のDTA曲線に着目すると、Dry Air
およびWet Air中では、酸化由来と思われる発熱ピーク
各段階での減量率とトータルの減量率は理論値とほぼ
が見られるため、熱酸化分解が生じていると推察される。
一致しているが、減量の生じている温度は、減圧下の方
一方、Dry窒素およびWet窒素中では、酸化由来と思われ
が大気圧下と比べて、低温側にシフトしていることがわ
る発熱ピークは認められず、ブロードな吸熱ピークが見
かる。減圧TG-DTA測定法を利用すると、雰囲気の違い
られるため、熱分解が生じているものと推察される。
に伴う減量挙動の違いも明確になる。なお、今回はDTA
曲線を記載していないが、本測定でもTG信号と同時に
DTA信号も取得可能である。
4.おわりに
特殊雰囲気TG-DTA装置により、新たに湿度制御重量
測定、水蒸気を流通させながらのTG-DTA測定、減圧下
でのTG-DTA測定が可能となった。本装置を用いるこ
図4 高分子電解質膜のDTA曲線
とで、乾燥ガス以外の実使用環境を模擬した雰囲気下で
の測定に対応できる。今後もお客様のご要望を叶えるべ
く、技術の深化に努めたい。
なお、窒素、空気共に湿潤雰囲気下での加熱減量挙動
が乾燥雰囲気下の場合よりも低温で見られたことは、水
の存在によって熱(酸化)分解が促進されたためと考え
5.参考文献
られる。
1)小澤丈夫・吉田博久 著,
“最新 熱分析”
,講談社サ
3.3 減圧TG-DTA測定
イエンティフィク(2005).
装置に真空ポンプを接続して真空排気することで、装
置内を減圧に保ちながら測定することも可能である。測
定可能な温度範囲は室温~1000℃、最高到達真空度は5
~10Paである。
図5に、シュウ酸カルシウム一水和物について、減圧
下および大気圧下(窒素中)で、室温~1000℃での加熱
20・東レリサーチセンター The TRC News No.115(May.2012)
■大田 玲奈(おおた れな)
材料物性研究部 材料物性第1研究室
略歴:㈱東レリサーチセンターで熱分析に従事
趣味:陶芸