Ⅶ-20:異種材料の接着 ~界面の分析評価~

●[特集]TRCポスターセッション2013 Ⅶ-20:異種材料の接着~界面の分析評価~
み合っている1,2︶。
[特集]TRCポスターセッション2013
このため接着要因の解析は容易ではなく、多方面から
Ⅶ-20:異種材料の接着
~界面の分析評価~
のアプローチが必要とされる。表1に接着要因解明のた
めの界面や表面の分析項目とその分析手法をまとめた。
表1の項目のほかに樹脂の分子量や流動性なども接着強
構造化学研究部 泉 由貴子
度に影響を与えるため3︶、樹脂の物性測定や構造解析も
有効である場合が多い。
1.はじめに
3.樹脂/樹脂 −界面の化学的結合状態−
樹脂が関係する異種材料(樹脂/樹脂、樹脂/金属)の
接着では、樹脂の特性が接着強度に大きく影響を与える
場合が多い。
前述した接着の様々な要因のなかで、接着界面におけ
本稿では、接着の主な要因の解説と、樹脂/樹脂、樹
る化学的結合の形成については直接評価できる分析手法
脂/金属について、界面の化学的結合や結晶性評価を主
が少なく、実証することが難しい。ここでは、物理研磨
にFT-IR-ATR(Attenuated Total Reflection)法を用い
で接着剤と被着材の界面近傍を露出させ、FT-IR-ATR
て行った事例を紹介する。
法により化学結合形成の評価を行った事例を紹介する。
接着剤(2液型エポキシ樹脂:Ep)を2液混合し、被着
材(ポリアミド:PA)上へ塗布後、120℃×1時間加熱
2.接着の主な要因と分析手法
した試料について、接着剤側から被着材へ乾式研磨しな
がら、研磨面をFT-IR-ATR法により評価した。
接着の要因は、図1に示すような物理的結合、化学的
FT-IR-ATR法とは、測定面に高屈折率の結晶を圧着
結合、機械的結合、分子拡散が主とされている。実際の
し、結晶側より臨界角以上の角度で光を入射したときに
接着強度の発現は、接着界面に普遍的に働く物理的結合
おきる全反射を利用して、試料表面(~1μm程度)の赤
(分子間力)に化学的結合、機械的結合、分子拡散など
外スペクトルを得る手法である。測定結果を図₂に示す。
の+αが加わったものと考えられ、
使用温度、
応力(膨張・
反応前の接着剤(主剤)のエポキシ基の吸収強度比
収縮)
、試料形状、表面汚染なども含む様々な要因が絡
(A910エポキシ基/A1510芳香環)を元に算出したエポ
キシ基の反応率は、接着剤内層部では約88%であった。
物理的結合
化学的結合
基材表面と接着剤
が分子間力によって
結合
基材表面の官能基
と接着剤の官能基
が化学結合すること
で接着
+
+
-
+
+
-
C
C
C
C
B
B
B
B
A
A
A
A
被着材との界面付近では約93%であり、界面のほうが約
5%エポキシ基の反応率が高い結果を得た。
差スペクトル(Ep/PA-Ep-PA)により界面に特徴的
なスペクトル変化を解析した(図3)
。界面では、OH 基
νC=O
(PA)
(Ep)
Ep/PA
機械的結合
分子拡散
基材表面の微細な
凹凸に接着剤が入
り込むことで接着
拡散した分子鎖が
互いに絡み相溶し
た界面層を形成
Absorbance (a.u.)
O
δN-H
(PA)
(Ep)
Ep
① Ep内層部
② Ep/PA界面付近
③ PA内層部
ATR結晶
νC=O
Ep
PA
PA
1700 1600 1500
940
Wavenumber (cm-1)
図1 接着の主な要因
900
図2 乾式研磨+FT-IR-ATRによる界面測定
表1 接着要因の解析に用いる分析手法
分析項目
分析手法
接着要因
表面・界面の組成、化学構造
XPS、TOF-SIMS、FT-IRなど
物理的・化学的結合
表面・界面微細形状、結晶状態 等
SEM、TEM、AFM、X線回折、DSC、Raman
機械的・物理的結合、分子拡散
濡れ性・表面自由エネルギー
接触角
主に物理的結合
24・東レリサーチセンター The TRC News No.118(Mar.2014)
①
②
③
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の増加のほか、エポキシ系接着剤とポリアミドには存在
しないエステル結合が検出された。エポキシ基は被接着
①
②
③
体のアミド基のNH と付加反応しているほか、アミド基
の間に挿入反応しエステル結合を形成した可能性が考え
20μm
られる4︶。
δN-H
δN-H
(PA)
νN-H
(PA)
3600
C N
O H
アミド
3200
+
νC=O
(PA)
2800
1700 1600 1500
Wavenumber (cm-1)
H2C CH
O
C N
0.12
0.08
0.08
折りたたみ
(ラメラ)構造の
増加
0.04
0.04
接着強度の低下
0.00
0.00
①融着後急冷 ②融着後急冷 ③融着後徐冷
→130℃×1hr
図5 吸収強度比と接着強度の相関
HC OH
H
C O C CH2 N
挿入反応
0.12
(Al箔の破壊)
O CH2
エポキシ
O
20μm
0.16
接着強度(kN/m)
Absorbance (a.u.)
エステル
νC=O
吸収強度比(IR)
νO-H
νN-H
(A989:folding構造/A793:芳香環)
図4 偏光顕微鏡写真(クロスニコル)
付加反応
H
図3 差スペクトル(Ep/PA-Ep-PA)による界面の構造解析
的性質に大きく関係し、球晶の形成に伴う応力発生も接
着強度に影響を及ぼすと考えられる。
界面における樹脂の結晶性評価や使用する樹脂特性
(融点Tm、ガラス転移温度Tg、冷結晶化温度Tc)を正
今回の事例は、物理研磨とFT-IR-ATR法とを組み合
確に知り、使用条件を考慮することは接着強度を保つた
わせることにより、接着剤と被接着体との反応形成を検
めに重要であることがわかる。
出できる好例であり、官能基変化が関与する接着メカニ
ズムの解明にはFT-IR法が有効であることが分かる。
5.まとめ
4.金属/樹脂 −界面の形態変化(結晶化)の接着強度
への影響−
本稿では、異種材料の接着について、化学的な構造解
析からのアプローチとして主にFT-IRを用いた分析事例を
紹介した。接着は様々な要因により成り立つ現象であり、
熱 可 塑 性 樹 脂 は、 結 晶 性 樹 脂(PE、PP、PA、
接着力の発現や、接着不良の解明等には総合的な分析と解
POM、PET、PBT、PPS、PS、PEEKなど)の場合、
析力が必要とされる。今後も更なる分析技術と解析力の向
融着時やその後の使用温度による結晶成長が接着強度に
上に努め、皆様のお役に立てるように努力していきたい。
大きく影響することが知られている3︶。
ここでは、PET(約200μm)を融点以上(295℃)で
融解し、Al箔(12μm)と融着後、①急冷、②急冷した
6.参考文献
試料をガラス転移温度以上(130℃)で1時間加熱、③
徐冷の3試料を作製し、試料の接着強度(90度はく離)
とFT-IRによるPETのfolding構造の吸収強度比(A989/
1)日本接着学会,“接着ハンドブック第4版”
,(日刊工
業新聞社本)
,(2007)
A793)を評価した。
2)竹本喜一, 三刀基郷,“接着の科学”
(
,講談社)
(
,1997)
Al箔をガラスに変更し同様に作製した試料での偏光顕
3)中尾一宗,高分子,Vol.19, No.6, 472-484(1970).
微鏡(クロスニコル)観察(図4)では、①は暗視野で
4)向山吉之,西沢 廣,熱硬化性樹脂,Vol.6, No.1,
非晶状態であることが確認されたのに対し、②、③では
1-13(1985).
大きさの異なる球晶の形成が認められる。
図5に、試料の接着強度(90度はく離)とFT-IR-ATR
法による接着界面のPETの折りたたみ(folding)構造の
吸収強度比との相関を示す。PETの折りたたみ構造が増
■泉 由貴子(いずみ ゆきこ)
構造化学研究部 構造化学第1研究室 研究員
趣味:料理、子供と遊ぶこと
加するほど接着強度は低下した。球晶の大きさや密度
(ラ
メラと非晶質の割合、球晶同士の結合力)は樹脂の機械
・25
東レリサーチセンター The TRC News No.118(Mar.2014)