情報通信 1994

情報通信 1994
▽執筆者〔1994 年版
小林
情報化社会〕
弘忠
1937 年東京都生まれ。早稲田大学教育学部卒業。毎日新聞東京本社メディア編成本部長を経て,立教大学,武蔵野女子大講師,東京データネットワーク常務
取締役。
◎解説の角度〔1994 年版
情報化社会〕
●マルチメディアを軸とするハイパーメディア社会の到来が,現実味をおびてきた。アメリカでは光ファイバーを利用して全家庭に高度情報を伝達するシステ
ム「情報スーパーハイウェー」の計画が始動した。日本でも同様な計画が進められている。
●電子メディアは,単なる便利な道具からゆとりある社会へのアクセスとして考えられるようになったといえる。同時に産業構造も変革を迫られ,新社会資本
のひとつとしてメディアを見直す時代となりつつある。電子メディアは大衆に溶け込んだマスメディアに変貌しようとしているのである。
●しかし,メディアが大衆に浸透すればするほど複雑な事柄も生じてくる。知的所有権,著作権問題は電子の世界にも幅広く適用されることになろう。電子化
により新手の犯罪が発生することも予想される。プライバシーの保護もいっそう考慮される必要がある。
●もともと情報の流れは自由でなければならない。情報伝達に規制が施されるのは決して好ましくはないが,今後は国民の固有の権利とともに,知る権利,知
られたくない権利,情報に参加する権利をどう調和していくかが,現代社会の課題となってくる。
■情報スーパーハイウェー(Information Super Highway)〔1994 年版
情報化社会〕
アメリカが打ち出した競争力強化のための技術政策。光ファイバーを全米の家庭に張り巡らせて、高度情報システムを構築しようとする情報インフラストラク
チュア整備を目ざす構想。すでに、アメリカでは実現に向けて動き出しているが、日本でも情報を中心とする新社会資本整備計画が進められ、郵政省では光フ
ァイバー利用の「次世代通信基盤網」実施が策定されるなど、新しい情報システムに対して日米が走り出した。
アメリカの情報スーパーハイウェーは、もともとゴア副大統領が提唱、クリントン大統領も選挙中に公約として掲げてきた。具体的には「すべての家庭、企業、
研究室、図書館を結ぶドア・ツー・ドアのネットワーク」。これまで地域電話会社にまかされていた情報網整備を国の予算で行い、州を超えた光ファイバー網
を敷設するねらい。これが実現するとコンピュータと電話、テレビが一体化され、テレビ電話、携帯電話、高速データ通信、ハイビジョン放送、セキュリティ
ーサービスなどが光ファイバーで家庭に浸透する。つまり、マルチメディア社会を想定した計画といえる。すでに一九八〇年代から構想が練られ、そのステッ
プとして研究機関については大容量の学術用コンピュータ・ネットワーク(「NREN」)で全米にネットさせ、一秒間に数ギガ(一ギガは一〇億)ビットの情
報を送れる情報網創設のために九三年度一億二〇〇〇万ドルの予算が計上されているという。
アメリカのねらいは、光ファイバーによる情報インフラ整備と同時に、サービス、ソフトなどの技術もアメリカの主導権下にしようということにある。どのよ
うな方法で情報を送るか、どのようなサービスを提供するかの規約をつくり、技術面の知的所有権を確保する戦略ともいえる。そうなると、マルチメディア社
会が到来した場合、現在ほとんど日本や韓国で生産されているテレビもアメリカの技術がないと製造ができないことになる。
しかし、アメリカの通信業界では情報スーパーハイウェーに対して強い反発がある。民間を圧迫するというのだ。AT&T社などは独禁法訴訟を機に、長距離
サービス会社と七つの地域電話会社に分割されたうえ、政府が公共投資で全米ネットをすれば大打撃となる。したがって自由競争か政府主導かが大きな論争に
なっている。
日本の目的も同じで、アメリカが唱える「二〇一五年までに実現」を旗印にして、まず実験的な設備を建設する予定。両国が力を入れているのは、次世代の通
信として光ファイバー網が国の産業に大きな影響を与えることが予想されるためだ。産業界はすでにマルチメディアを見越して対策を立てており、国がそれに
どのように関与していくかが今後の問題となろう。そして光ファイバー網をめぐる日米の主導権争いも、し烈となりそうだ。
★1994年のキーワード〔1994 年版
情報化社会〕
★ハイパーメディア(Hypermedia)〔1994 年版
情報化社会〕
マルチメディアを統一して文字、画像、音響などを同じ環境に取り込んだメディア。マルチメディアのそれぞれの特性を生かし、より高度な機能をもたせるメ
ディアで、今後マルチメディア、ハイパーメディアを駆使した社会「ハイパーメディア社会」が到来するといわれている。すでにアメリカのアップル社がハイ
パーカードというソフトウェアを開発、実用段階にきている。日本でも情報発信基地である新聞社、放送局、ハードを受け持つ企業や商社が連合する情報産業
構造再編成が進みつつある。
★生活情報化懇談会〔1994 年版
情報化社会〕
家電産業の将来像を検討している通産省機械情報産業局長の私的諮問機関。情報伝達で成長する分野として情報、映像、通信を一括処理できるマルチメディア
の育成の必要性を報告書にまとめた。このために通信事業と放送事業の相互乗り入れを提案した。現在両事業の乗り入れは電気通信事業法や電波法などの法律
の壁もあり、参入が規制されている。この壁を取り払い、放送事業者がポケットベルの個人通信に携わったり、通信事業者が光ファイバーで映画を家庭に送れ
るようにするなど規制を緩和する必要があると指摘している。アメリカでは一九九二年に電話会社のCATVへの参入を認めるなど通信・放送の壁が崩れつつ
ある。
▲情報社会の基礎概念〔1994 年版
情報化社会〕
電子化社会ではハードウェアが先行する。ハードができてソフトウェアが考えられる。電子化社会で派生するさまざまな問題の対応は遅れざるをえない。しか
し対応を誤ると本来光となるべき情報化社会は陰に覆われる。将来を見越した知的社会基盤の整備が急がれるとともに、国民の情報に対する正しい認識、利用
が問われてくる。情報化社会は情報民主主義が確立された社会でなければならない。
◆情報(Information)〔1994 年版
情報化社会〕
簡単な定義は「ある事柄についての報せ」だが、より正確な定義は「生活主体と外部の客体との間の情報関係に関する報せ」。この言葉が初めて日本で使われ
たのは明治時代で、斥候などを派遣して敵情を報告することを指し、軍事用語として使われた。しかし、もともとは生物の誕生に情報の起源は始まるといわれ
る。生物は生存を維持していくために、たえず外部から自分をとりまく状況に関する報せを得て、これを識別し、評価し、外部環境に対応した行動をとる。生
活主体(例・シカ)‐客体(森の中)‐報せ(ライオンの足音)‐評価(危険だ)‐行動(逃げる)‐効用(命拾い)というサイクルがあり、これを情報サイ
クルと読んでいる。社会学的には「人間と人間との間で伝達される記号の系列」あるいは「人間と人間との間に伝達される刺激」と解釈される。
コンピュータ用語ではこのほかデータ(Data)がある。データとは「特定の目的に対してまだ評価されていない単なる事実」といえる。これを一定のプログラ
ムに従ってコンピュータが処理することで特定の目的を達成するのに役立つ情報が生産される。このような情報が集積され「特定の目的の達成に役立つように
抽象化され一般化された情報」が知識(Knowledge)であり「情報や知識を活用して理性的行動をとる能力」が知能(Intelligence)である。
◆情報社会(Information society)〔1994 年版
情報化社会〕
情報が物やエネルギー以上に有力な資源になり、情報の価値の生産を中心に社会、経済が発展していく社会。情報化社会ともいう。現代は高度情報化社会とい
われる。通産省産業構造審議会情報産業部会答申では情報社会を「人間の知的創造力の一般的開花をもたらす社会」と定義している。
似た言葉に脱工業社会(Post industorial society)がある。ダニエル・ベル(米)の唱えた未来社会で、
(1)保健、教育、レクリエーション、芸術などサービ
スと娯楽の充実、(2)情報に基づいた知的技術の発達と人間相互間のゲーム、(3)科学の政治化、専門・技術者の組織化、(4)未来志向とモデルやシミュ
レーションを駆使した将来予測がその内容。ドラッカー(米)は知識社会(Knowledge society)構想を打ち出し「財やサービスでなくアイデアと情報を作り
出し流通させるのが知識産業であり、知識が技術に代わって経済発展の推進力になり、知識に携わるものが権力を握る社会」と規定している。アルビン・トフ
ラー(米)は、「現代は人類が歴史の第三の波に洗われている時代」とし、(1)新しい家族形態としてエレクトロニクス住宅、(2)生産者と消費者を融合さ
せたプロシューマー(生産=消費者)の出現を予想している。
このような情報化社会の未来に対し、二つの見方がある。一つは各人の自由意思に基づく契約で成立する自由契約社会、人間の知的創造が開花する高度知的創
造社会といった人間本位の社会の到来を想定する見方。これは超技術社会あるいは文明後社会と呼ばれる未来構想である。一方は管理社会、オートメーション
国家の出現を危惧する未来思想。少数エリートのコンピュータによる管理で大衆が支配され、機械化、システム化されていくことを想定している。
◆情報民主主義(Information democracy)〔1994 年版
情報化社会〕
情報に関する基本的な権利。インフォーメーション・デモクラシーともいう。つぎの四つが柱。
(1)プライバシーの権利(Right of privacy)=私的に関する情報が他人に知られることから守る権利。
(2)知る権利(Right to know)=国民が国家機密などの情報を知ることができる権利。政府に情報開示を義務づける情報公開法はアメリカでは二五年以上
の歴史をもち、連邦政府関係だけでも、五〇万件以上の情報が公開されている。日本では、一九八二(昭和五七)年山形県・金山町が情報公開条例を作ったの
をトップに、三三都道府県、一五〇市区町村が条例を制定している。
(3)情報使用権(Right to utilize)=あらゆる情報を自由に利用できる権利。国家や大企業の情報独占が防げる。
(4)情報参加権(Right to participate)=データベースなどの管理への参加、政府の重要な施策決定への参加権。
(4)により国民の参加する直接民主主義が実現する。これら「知りたい」
「知らせたい」
「知られたくない」権利は、憲法で保障されている基本的な権利であ
り、健康で文化的生活を営むうえで欠かせない権利でもある。情報民主主義は、産業民主主義に代わるものとされている。
◆情報生産〔1994 年版
情報化社会〕
新聞、テレビ、書籍などの情報量を国民一人当たりに換算した数値。一九九二(平成四)年度の郵政省の通信白書によると世界三〇カ国の九〇年中の国民一人
当たりの情報量はカナダが約七ワードで一位。二位がアメリカ、三位オランダ、四位が日本。三位までの国はCATVの(有線テレビ)が発達、新聞やテレビ
など既存のメディアの情報量だけでは日本が一位で、世界有数の情報生産大国という。これに対して情報発信量のトップはアメリカで、CNNニュースだけで
も世界一四二カ国、一億人以上の視聴者があり、情報発信大国といえる。日本はその三分の一と少なく、情報の国際化の面では遅れている。
◆ME革命(マイクロエレクトロニクス革命)(Micro electronics revolution)〔1994 年版
情報化社会〕
ICなど半導体技術の進歩による情報革命の第二段階。コンピュータの発明と利用、普及が第一次情報革命とすればME革命は第二次情報革命。半導体技術の
進歩、コンピュータの小型化、情報処理技術の多様化、スピード化でOA(Office automation)、FA(Factory automation)、さらに、FAをネットワーク
化したCIM(Computer integrated manufacturing)がME革命で出現している。
◆ヒューマンインターフェース(Human interface)〔1994 年版
情報化社会〕
人間が、OAシステムと接続する接点をいう。マンマシンインターフェース(MMI
Man‐machine interface)ともいう。航室・電子等技術審議会(科学
技術庁長官の諮問機関)は一九九〇(平成二)年、同長官の諮問を受けて「ヒューマンインターフェースの高度化に関する総合的な研究開発の推進方策」を答
申した。人間と情報システムのかかわりは、これからは接点だけにとどまらず、記憶、五感、連想、感情、心理など知的機能、人間の内面にまで入り込んだ高
度なヒューマンインターフェースが、とくに研究開発では必要と述べている。
◆データベース(Data base)〔1994 年版
情報化社会〕
膨大な情報を磁気テープやハードディスクなどの形でコンピュータに記憶させ、必要なときデータをすばやく取り出せるシステム。一九五〇年代に米国防総省
が全世界に配備した兵員、兵器、補給品を集中管理するためにつくったデータ基地が語源という。用途別ではデータベース構築機関であるデータバンク(情報
銀行 data bank)が情報提供者(IP)から各種情報を受けたり、独自の情報を収集してコンピュータ化。このデータを一般に有料で提供する商用データベー
ス(日本科学技術情報センターのJOIS、日本経済新聞社のNEEDSなどが代表例)と企業や研究機関などがデータを集中管理し、企業、研究機関内だけ
で活用するインハウス・データベースに分けられる。種類別ではリファレンス・データベース(文献データベース)とファクト・データベース(ソース・デー
タベース)などがある。前者は文献、記事など文書の形のデータベース。後者は資料そのものや統計、数値、映像などをデータベースにしたものである。日本
の商用データベースの実数は、一九八二(昭和五七)年に四五六だったのが年々増加、九〇(平成二)年現在二三五〇になっており、年間の情報サービス生産
高も八七年の二兆円に比し八九年には四兆三五〇〇億円に達している(通産省調べ)。インハウス・データベースも、近年盛んにとり入れられ顧客管理、運行
管理などに利用されている。OA用に光ディスク使用の小型で大容量を記憶できる電子ファイル装置も開発され、今後も情報インフラストラクチュアの重要な
柱となると期待される。
◆ダイヤルQ2〔1994 年版
情報化社会〕
いろいろな情報を電話を使って利用する際、情報料を情報提供者に代わってNTTが通話料と一緒に徴収する「情報料自動課金サービス」。アメリカの「900
番」サービスの日本版。情報料は三分一〇円から三〇〇円の間で情報提供者が選べる。一九八九(平成一)年から始まったが、当初番組数は一〇〇程度だった
ものが九一年には八二〇〇、契約回線も一二五〇からピーク時には七万回線に急増した。しかし、番組の大半がピンク番組や不特定多数と会話ができる「パー
ティーライン」であったため風紀上問題化、さらに親が知らない間に子供が使用して一カ月の電話代が数十万円になる家庭もあり訴訟にまで発展してきた。こ
のためNTTは九〇年一〇月から規制を強化、二人の電話をつなぐ「ツーショット」番組を禁止したり「パーティーライン」の情報料を三分六〇円に制限した
りした。一方、業者の間でも番組内容の健全化の動きが出てきて、映画、放送のように、番組にも倫理コード(「テレ倫コード」)を作ることになり、全日本テ
レホンサービス協会、日本電話倫理協議会などがコードづくりを始めている。こうした状況からピーク時七万回線あったのが九二年三月末は五万回線に減り、
月間情報料も九一年一〇月の一三〇億円を最高に九二年三月には九九億円と減少してきている。
◆電子出版〔1994 年版
情報化社会〕
紙を使わず電子、エレクトロニクス媒体による出版物。紙の大量消費が森林資源の破壊を招くなどから電子出版事業がクローズアップされている。代表的なも
のとしてはCD‐ROM(コンパクト・ディスクを利用した読み出し専用記憶装置)がある。大量の出版物をディスクに収録し、キーワードなどによって検索
する機器で、とくに辞書、辞典の検索にはすぐれ、ディスクに収録すれば出版物のように場所もとらないので図書館にも利用されている。これまでは専用のデ
ィスクドライブ装置が必要で、しかも高価だったが、ソニーが一九九〇(平成二)年七月に五万円台の携帯用ディスクドライブ(電子ブックプレーヤー)を発
売してから注目された。ディスクドライブを内蔵したパソコンも登場している。低価格で利用できるので今後電子出版が出版業界の主流になるといわれている
が、問題はソフト〔電子ブック(EB
Electronic book)〕の充実であろう。
◆デジタルコードレス電話(Digital Cordlesstelephone)〔1994 年版
情報化社会〕
コードレス電話の次世代版。コードレス電話がアナログ式なのに比べデジタルなので盗聴防止に優れ、コードレス電話盗聴問題が解決できるといわれている。
電波の届く範囲も広いためトランシーバーや携帯電話並みの使い方も可能。郵政省は一九九三(平成五)年の実用化を目ざし、電話機メーカーと共同で実用試
験を実施し、音声の品質などをチェックしたうえで製品化する。
◆秘話サービス〔1994 年版
情報化社会〕
自動車電話や携帯電話など無線電話の盗聴防止にNTTがオプション(注文装備)で秘話機能を取り付けて始めた盗聴防止サービス。重さ一〇∼三〇グラム、
厚さ四・五ミリ程度の秘話機能を取り付けて盗聴をシャットアウトする。無線電話は盗聴されやすいためこうした機能が必要になってきた。ただ秘話機能を高
めると逆に通話機能が弱まるため、郵政省が主体となり、盗聴防止研究会を発足させて具体的予防策を検討、現在のアナログ式携帯電話から盗聴防止に強いデ
ジタルコードレス電話の開発を目ざしている。
◆バルネラビリティ(ぜい弱性)(Vulnerability)〔1994 年版
情報化社会〕
コンピュータ社会がもつぜい弱性のこと。コンピュータ社会の欠点。コンピュータリゼーションにより、社会機構の情報化が高度となり、きわめて便利になっ
た反面、コンピュータの機能が止まったり狂ったりすると大混乱に陥る。一九八四(昭和五九)年一一月、東京・世田谷で起きた地下通信ケーブル火災で銀行
の現金自動支払い業務が全国的にストップしたなどがバルネラビリティの典型例。対策として予備施設を備えるなどのリダンダンシー(冗長性
Redundancy)
が重視されるようになった。ここ数年、欧米諸国は本格的な対策に乗り出し、北欧諸国では国防面からもバルネラビリティ対策をとっているといわれる。高度
情報化社会になりつつある日本でも、コンピュータ犯罪防止と並んでその対策が大きな問題となっている。
◆ワード(Ward)〔1994 年版
情報化社会〕
新聞、テレビ、書籍などいろいろなメディアで提供される情報量を定量的にとらえた単位。一ワードは日本語の一語に相当する。テレビの場合、動画情報は一
分間につき一二〇〇ワード、話し言葉は同一二〇ワードなど一定の換算基準を決めて情報量を計算する。郵政省が情報提供量を計算するために考案した単位。
同省が世界三〇カ国の国民一人当たりの情報提供量をワード換算したところ、CATVを除いた情報量のトップは日本で、日本は情報生産大国とわかった。
◆ビジネス暗号〔1994 年版
情報化社会〕
情報の盗用やハッカーの侵入を防ぐために使われる暗号。アメリカがコンピュータ通信用の標準として採用しているデータ暗号規格(DES)やNTTが実用
化した高速データ暗号化アルゴリズム(FEAL8)などがある。いずれも暗号を解くには二進法で十数ケタもあり、スーパーコンピュータを使っても約二〇
万年かかるという。
◆コンピュータ犯罪(DP犯罪)(Computer crime(Data processing crime))〔1994 年版
情報化社会〕
コンピュータを悪用した犯罪。プログラムを書き変えたり、不正なデータを入力して金銭を詐取する金融関係の詐欺事件やパスワードを探り当て、国家や他人
の情報を盗用するなどの手口がある。最近の主な事件としては一九八一(昭和五六)年大阪の三和銀行支店の女子行員がオンラインシステムを利用、架空口座
を開設して多額の金を引き出した事件、コンピュータプログラムをコピーして会社を設立してリース販売していた事件(八四年)や東大海洋研究所にコンピュ
ータウイルスが侵入、海底地震データが被害にあった事件(八九年)などがある。社会的影響が大きいため法務省は八七年六月刑法を適用、(1)電磁的記録
の改ざん、破壊、
(2)銀行オンラインシステムの破壊、業務妨害、
(3)銀行預金口座操作による詐取に対しては懲役五∼一〇年を科す法律を施行した。しか
し、その後も銀行などのコンピュータ犯罪は跡を断っていない。
◆ハッカー(コンピュータ破り)(Hacker)〔1994 年版
情報化社会〕
直訳すると「たたき切る人」で、コンピュータに蓄積されているプログラムやデータをパスワードを使って盗んだり改ざんしたりするコンピュータ破りをいう。
アメリカでは一九八四年、NASA(米航空宇宙局)のコンピュータ情報が少年ハッカーにより盗まれ、大問題となった。日本でも八七(昭和六二)年文部省
の高エネルギー物理科学研究所のコンピュータが西ドイツのハッカーらによって侵入された事件、八九(平成一)年にはやはり西ドイツのハッカー・グループ
が西側諸国のコンピュータに侵入する方法に関するデータを旧ソ連国家保安委員会(KGB)に売り渡していた事件、さらにイギリスではハッカーが銀行のコ
ンピュータに侵入「人質をとった」として多額の現金を要求した事件(九〇年)など世界的に多発している。アメリカでは法制化でハッカー防止を図っている
が日本ではまだ検討段階。しかし安全装置を開発したり防止サービスを計画するなど民間企業ではハッカー防止策を事業化する動きが出始めている。
◆ワーム(Worm)〔1994 年版
情報化社会〕
ワームは虫のことだが、コンピュータからコンピュータへ虫のように動き回りいたずらをする病原体。コンピュータのウイルスが既存のプログラムに組み込ま
れ、コピーなどで伝染するのに対し、ワームはコンピュータにいたずらする独立したプログラム。日本でも国際的なネットワークを通じて侵入した例など数例
が発見されている。
◆電子セクハラ〔1994 年版
情報化社会〕
女学生が所有するコンピュータを使い、みだらな映像やことばを画面に映し出す新手のセクシャルハラスメント。イギリスの学生の間で流行している。女子学
生が大学間のコンピュータネットワークを利用するとセクハラ画面が現れる。女子学生のパスワードを盗用したセクシャルハッカーの仕わざ。
◆ファクス公害(Facsimile pollution)〔1994 年版
情報化社会〕
広告などをファクシミリで一方的に送ること。たれ流し状態で不要のコピーが届けられ、その間ファクシミリも使えないのでまさに公害。米カリフォルニア州
ではこれを規制する法案が提出され、軽犯罪法違反として最高懲役六カ月か、一〇〇〇ドルの罰金が科されることになっている。
◆瞬断〔1994 年版
情報化社会〕
電気がまばたきする程度の短い時間停電すること。瞬断によりコンピュータに入ったデータが消え、たとえばパソコンでは○・○五秒、ワープロで○・一秒の
瞬断でデータが被害を受けるので、OA時代には深刻な問題となる。瞬断の最大の原因は落雷といわれるため、電力会社ではレーダーで常時雷雲を観察し、送
電線に落雷した場合は他の送電線に切り替えて電気を送るという。この切り替え時間は約二秒だが、それでもOA機器は大きな影響を受けてしまう。そこでO
A機器の電気回路の入口に電圧を一定にする装置をつけたり、ワープロでも電池を内蔵して、データの消滅を防ぐなど瞬断によるデータ破壊防止がメーカーの
課題ともなっている。
▲産業と利用システム〔1994 年版
情報化社会〕
情報革命は急速に広がっている。技術革新の勢いはとどまるところを知らず、より精密に、より便利に、より簡便になってきた。日本はハード・ソフトウェア
分野とも他国を引き離しており情報産業とその利用形態は新しい社会資本を形成するまでになった。知的産業をどのように育成していくか社会のワク組にどう
位置づけるかが重要な課題となってこよう。
◆情報インフラストラクチュア(Information infrastructure)〔1994 年版
情報化社会〕
コンピュータと通信ネットワークが結合して形成される新しい型のインフラストラクチュア(社会・経済活動の維持、発展を支える基盤)。中心になるのが通
信衛星、通信回線、通信センター、データベースの四つといわれる。今後の社会、経済基盤は電気、水道などの工業インフラストラクチュアに代わり、これら
情報インフラストラクチュアが中心となる。
◆メカトロニクス産業(機電産業)(Mechatronics
(mechanics+electronics)
industry)〔1994 年版
情報化社会〕
LSIやマイクロ・コンピュータなどのエレクトロニクス技術と機械を結びつけた機電一体の産業。日本で造られた合成語。NC(数値制御)装置はじめ電卓、
電子式ミシン、電子式レジスターなどが代表例。毎年二ケタ台の成長率が見込まれ、メカトロニクス産業はマルチメディアと並んでこれからのトリガー産業(主
導産業)になるといわれている。
◆知識産業(Knowledge industry)〔1994 年版
情報化社会〕
知識を生産し、サービスする産業。フリッツ・マハループ(米)は知識産業を(1)教育、(2)研究開発、(3)コミュニケーション・メディア、(4)情報
機械、(5)情報サービスの五つに分類している。情報化社会の進展で知識産業が発展するのは確実といわれ、従来の第三次産業から独立させて第四次産業と
も呼ばれる。知識産業の中で今後とくに伸びるとみられるのが情報産業と教育産業。情報産業はコンピュータによる情報処理、情報提供産業などで、国土庁に
よれば情報職種に従事する人の割合が増大。二〇二〇年ごろには工業、農林漁業、サービス業の合計にほぼ匹敵すると分析している。教育産業もティーチング
マシンの発達、生涯教育の関心の高まりから成長するといわれている。
◆シリコン・アイランド(Silicon island)〔1994 年版
情報化社会〕
九州地区にIC(集積回路)を中心とした電子関係工場が集中し、世界でも最大級の基地となってきたことからアメリカのシリコン・バレー(Silicon valley)
にちなんでシリコン・アイランドと呼ばれるようになった。シリコン・バレーは米西海岸の良質のぶどう酒の生産地として知られている渓谷だが、シリコンを
材料とする半導体メーカーが大挙進出したためシリコン・バレーといわれはじめた。西部一帯にはこのほかシリコン・デザート(半導体の砂漠
シリコン・ランチ(半導体牧場
Silicon desert)、
Silicon ranch)などの半導体基地がある。
◆システム・ハウス(System house)〔1994 年版
情報化社会〕
ソフト・ウェア・ハウス(Software house)から発展してできた言葉。システム設計やソフトウェアの開発だけでなくマイクロプロセッサなどを組み合わせて
ユーザーの求めるシステムを開発したり、一方でコンピュータ販売やハードの開発もする企業。マイクロ・コンピュータが自動車、ゲームマシン、家電製品な
どに広く普及してきたために登場した新しい型の情報関連企業。
◆新高度情報通信サービス(VI&P)(Visual Intelligent and Personal Communication Service)〔1994 年版
情報化社会〕
二一世紀へ向けてNTTが開発を進めている高度通信網。広帯域サービス総合デジタル網を活用し、映像とパーソナルな通信サービスを計画している。ネット
ワークの中核となるのがATM(非同期伝送モード=一種の交換器)で電話回線に比べ二五〇〇倍の情報量を簡単に処理できる。映像や音声情報をそれぞれ同
じ大きさの信号の固まり(セル)に区分けし、セルごとのあて先に高速で送ることができるのでハイビジョンの映像も電話回線で送ることもできる。また各人
が一人ずつ電話を所有することも可能となる。NTTは二〇一五年までにネットワーク化を目ざしている。
◆オムニトラックス(Omnitrucks)〔1994 年版
情報化社会〕
全国規模で移動するトラックなど車両を通信衛星で常時位置を確認し、情報の応答や指示ができるシステム。たとえば事業所の運行管理コンピュータに車両番
号を打ち込むと運行中の車の位置が画面の地図に表示される。情報を車に送る場合は情報を入力し衛星経由で車に送る。車には直径三〇センチの衛星受信用の
小型アンテナ、位置測定装置が積み込まれ、運転席のノート型パソコンで情報が入力できる。
◆サテライト・コーディネーター(Satellite Coordinator)〔1994 年版
情報化社会〕
放送局などで国際衛星通信回線を運用する人。新しい専門職として注目されてきた。衛星回線を監視したり回線の予約申し込み業務、回線トラブルの処理など
に当たる。ニューメディア時代の新職種。
◆Gコード〔1994 年版
情報化社会〕
TV録画予約システム。新聞のテレビ番組に数字(Gコード)をつけ、リモコン装置の「ビデオ・プラス」に数字を入力すると電子回路が作動、録画予定時刻
にビデオが見られるシステム。リモコン装置はアメリカのジェムスター社が開発、全米では三〇〇万台も利用されている。日本でも一部の新聞社が採用。バー
コードと合わせ録画予約のためのコード方式が新聞ニューメディアの一つとなってきた。
▲研究開発と手法・技術〔1994 年版
情報化社会〕
豊かな社会の実現は情報のネットワークづくりといわれる。地域の研究機関、自治体、住民が情報を通し結び合う社会は地域新興に大きく寄与する。現在多く
の企業、自治体が互いに連合し、新しいネットワーク構築に取り組んでいるのもそのためである。学問の分野でも垣根を越えたインターディシプリナリーが必
要になってきた。研究、開発面でもマルチ化が進んでいる。
◆フィードフォワード原理(Feed‐forward principle)〔1994 年版
情報化社会〕
将来に対する制御。一定の方法や手順を決めておき、実際の結果がこれから逸脱した場合に外部環境の変化に対応して方法や手順を調整するフィードバックに
対し、将来の達成すべき目的に向かい、これまでの方策や手順を弾力的に変えていくこと。これにはコンピュータによるシミュレーションが有力な技法となる。
◆エキスパート・システム(専門家システム)(Expert system)〔1994 年版
情報化社会〕
各分野の専門家がもっている知識、判断方法をプログラム化しこれをコンピュータに推論させ適切な解答を導き出させるシステム。一九六五年にスタンフォー
ド大学が開始したDENDRALプロジェクトがはじまり。医師の専門知識をプログラム化して病気の的確な診断に役立てる医療エキスパート・システムが代
表例。知識ベース(専門知識を知的表現形式で蓄積したデータベース)と推論エンジン(知識ベースの中の推論を扱うシステム)から構成されている。
◆シンク・タンク(頭脳集団)(Think tank)〔1994 年版
情報化社会〕
頭脳工場(Think factory)ともいう。無形の頭脳を資本として商売をする企業や研究所のこと。(1)未来志向、(2)ソフトウェア、(3)インターディシプ
リナリー、(4)システム分析的手法がこれまである研究所や調査機関と違うところである。単なるアイデアや新商品の開発だけでなく宇宙、海洋開発などの
ビッグ・サイエンスや公害防止、都市開発などの社会開発といった複合的な技術、システムの開発をねらいとしているのが特徴。シンク・タンクの原型はアメ
リカのランド・コーポレーションで、これは第二次世界大戦後、空軍の援助で設立され、人工衛星システムを開発している。日本でも六五年代に入ってから民
間主導型のシンク・タンクがブームになり、七四(昭和五〇)年三月半官半民の総合研究開発機構(NIRA)が設立され、日本のシンク・タンクのセンター
的役割を果たしている。NIRAは社会の直面する問題を中立的な立場から総合的に研究する目的で、政策志向、学際型のプロジェクトに取り組み、二一世紀
プロジェクトやエネルギー問題などを研究している。
◆インターディシプリナリー(Interdisciplinary)〔1994 年版
情報化社会〕
学際または異専門間協業のこと。複雑な問題のシステム分析をする場合は、一つの学問領域、専門分野の知識、経験だけでは不十分で、多くの異なった学問や
専門知識が必要になってくる。たとえば人工衛星の開発の際は科学者だけでなく天文学者、地球物理学者、生理学者、病理学者、電子・機械・通信工学者など
多数の学問領域の学者や技術者の知識が必要になってくる。
▲政策と機関〔1994 年版
情報化社会〕
ハイテク駆使の社会は生活を実りあるものにする。情報未来都市実現を目ざし各地で構想が練られている。一方で、実りある社会は不安のない社会でなければ
ならない。コンピュータ停止で社会機能が低下する状態であってはならない。健全な知的社会を築くために国の機関、地方自治体も産業整備と合わせて政策面
のバックアップシステムの検討が迫られてきている。
◆国土法情報ネットワーク・システム〔1994 年版
情報化社会〕
投機的な土地取引、土地ころがしなどを防ぐため国土庁が一九九二(平成四)年から導入したシステム。同庁のホストコンピュータと自治体の間でパソコンに
よるネットワークを構築、情報交換をするのが目的。国土利用計画法によると、一定の面積以上の土地の取引は価格、利用目的を県や政令市に事前に届け出て
審査を受けなければならない。審査して利用目的が違ったり、不当に価格が高いと是正勧告を受ける。届け出件数は九一年は約三〇万件あり約四割が是正勧告
を受けている。このネットワークシステムは、審査のスピードアップと、悪質な土地取引の締め出しをねらいとしている。神奈川、千葉、山梨、京都など一〇
府県、政令市がネットを組み、活用しているが、同庁はさらに全国にネットを拡げ監視体制の強化を図ろうとしている。
◆メロウ・ソサエティ(Mellow society)〔1994 年版
情報化社会〕
情報化円熟社会構想。通産省が一九九〇(平成二)年から推進している。お年寄りの生活や仕事をパソコンなどでバックアップする新システムの開発が目標。
自治体、学者、企業が協議して具体案を練り、まず九二年度から患者の治療データ一元化のための健康センターの設置や、職住接近の中高年用のサテライト・
オフィスの設置を目ざしている。
◆次世代通信基盤網〔1994 年版
情報化社会〕
光ファイバーを利用して地方の情報通信を整備する事業。地域の研究所、企業、家庭を光ファイバーでつなぎ、映像を含む大量の情報を高速で伝送するシステ
ム。郵政省がモデル事業として実施することを決め、まず光ファイバー網を整備し、実験設備の建設から始める。数百億円を投入して、全国で二カ所に施設を
設け、実施する計画。もともと景気対策として、一九九三(平成五)年の不況で深刻な電機業界の活性化のために構想が立てられたが、家庭内でもマルチメデ
ィアも体験できる新しい情報伝達手段としてクローズアップされた。アメリカでも「情報スーパーハイウエー」と名づけた光ファイバー網システムが計画され
ている。
◆情報未来都市〔1994 年版
情報化社会〕
関東通産局が一九九一(平成三)年末に指定した埼玉中枢都市圏。浦和市、大宮市、与野市、上尾市、伊奈町の五市町を情報未来都市と名づけた。市民、地域
住民、企業が一体となって高度情報を享受できる社会づくりを志向して情報ネットワーク構築を図ることを目的に、研究が進められている。浦和、大宮、与野
には九五年、国の一八の機関が移転して「さいたま新都市」がつくられる。「さいたま新都市」を核として五市町の広域行政ネットワークを結び、民間企業、
地域住民との間にも情報ネットを広げ、産業、文化の向上を図ろうというねらい。九三年には具体案をまとめ実現に向けて始動する。
◆ハイビジョン・シティ(High difinition television city)〔1994 年版
情報化社会〕
郵政省は、ハイビジョン・システムを導入し、魅力ある都市づくりと地域の活性化を目ざす「高度映像都市(ハイビジョン・シティ)構想」を打ち出している。
一九八九(平成一)年モデル地域を指定、九二年度は新たに北海道夕張市、新潟県三条市、長野県駒ヶ根市、同県山形村、福井県鯖江市、徳島県北島町の六市
町村が指定を受け、第一次指定以来のモデル都市は計三〇地域となっている。指定を受けた地域は、金融、財政面の支援が受けられ、高度映像都市づくりの研
究をすることになっている。
◆S12〔1994 年版
情報化社会〕
米上院が一九九二年一月に可決したケーブルテレビジョン(CATV)消費者保護法のこと。ケーブル再規制法ともいわれている。アメリカではCATVの普
及度が高く、九〇年は五九%に達している。八一年には二八.三%だったからこの約一〇年で三〇%以上伸びたわけだ。それにつれて三大ネットワーク(CB
C、ABC、NBC)の主要時間帯の視聴率は、八一年四八.七%あったのが九〇年には三四.五%に落ちている。アメリカのCATV局の活動はこれまで自
由だったが、S12 はCATV局の受信料と番組利用を規制した内容となっている。競争が少ない地域では、地方自治体が基本料金の設定に当たることを定め、
CATV局の自由活動を規制した。またCATV局が空中波のテレビ局の番組を利用する場合、番組制作会社に著作権を支払うことも規定した。この結果CA
TV側はかなりの負担を強いられることになる。CATV側は視聴率の落ちている三大ネットワークを救済するための法律と強く反発、三大ネットワーク側は
CATVを保護するのはおかしいとこれも譲らず、メディア同士の戦いともなっている。
◆日本情報システム・ユーザー協会〔1994 年版
情報化社会〕
企業がコンピュータ・システムを運用する場合、総合的に制御するオペレーティング・システム(OS
Operating system)がメーカーによって異なっている
ことが多い。機種が違うと使用できないため、コンピュータ運用では、これが企業の悩みとなっている。そこで効率的なシステム運用を図ろうと設立されたの
がこの協会。ハード、ソフト両面からユーザーの立場でメーカー側にコンピュータの標準化を要求していくという。自動車、運輸、金融など大手企業三〇〇社
の経営者らが参画して具体的にメーカー側に訴えていくという。
◆転入学オンライン〔1994 年版
情報化社会〕
高校生の転入学先探しにコンピュータを活用した文部省のネットワーク・システム。正式には高校転入学情報等提供システムといい、一九九二(平成四)年二
月に稼働した。高校生の子供をもつ転勤者にとっての悩みは転入学問題。全国の転入学情報を東京の国立教育会館にあるホスト・コンピュータに入力し、父母
の問い合わせに応ずるシステム。高校の編入試験の日程、受験資格、転入、編入可能な高校などのデータがデータベース化され、これらの情報は全国の自治体
にある端末から引き出せる。当初は、三九自治体が端末機を設置、文部省のホスト・コンピュータとのネットワーク化を進めていた。九二年中には他の自治体
にも端末機が設置される計画。
◆アジア・太平洋電気通信体(APT)〔1994 年版
情報化社会〕
アジア・太平洋地域の電気通信網の整備、拡充を目的とした国際機関。国際電気通信連合(ITU)の下部機関で、一九七六年七月に発足した。本部はバンコ
クにあり二四カ国が加盟している。世界銀行の九一年度の総融資承諾額約一六〇億ドルのうち通信関係のプロジェクトの割合は一・六%にすぎない。このため
APTは世銀やアジア開発銀行にアジア・太平洋地域の電話網の整備、衛星電波を受発信する地球局の設置などのために配分額の増額を要請している。日本で
は政府開発援助の目玉として政府が九二(平成四)年度中にAPTに約一億円の特別資金を拠出する。この資金は加盟国の電気通信網の高度化に役立てられ、
APTではこの資金で日本基金(ジャパンファンド)を創設し、
(1)電気通信関係のセミナーの開催、
(2)発展途上国への専門家の派遣などを検討。郵政省
では日本の通信、放送技術を同地域に浸透させるのに役立つと期待している。
◆国際専用回線〔1994 年版
情報化社会〕
KDD(国際電信電話)などが保有する国際通信回線のうち、大口利用者に貸し与えられている回線。外国に支社や支店を多く持つ航空会社、銀行、商社、証
券会社などが契約により回線を借りて利用している。外国へ通信する回数が多ければ、それだけ普通の国際通信よりも割安となる。この専用回線を借りて顧客
である一般企業にデータ通信サービスをする国際VAN(付加価値通信網)は、日米間では一九八八(昭和六三)年の日米電気通信協議で合意されている。た
だし、国際VAN業者が専用回線を顧客に再販売(また貸し)して、低料金で一般の国際通信サービスをすることは認められていない。ところが九二(平成四)
年、アメリカは国際専用回線の再販売を認めるよう日本に要請してきた。国際通信回線利用の自由化を求めているのである。そうなった場合、国際VAN業者
は専用回線をKDDなどより安い料金で国際電話サービスを一般顧客に提供することが予想され、アメリカの通信自由化要求に絡んで国際専用線利用問題がク
ローズアップされてきている。
●最新キーワード〔1994 年版
情報化社会〕
●「意識通信」の時代〔1994 年版
情報化社会〕
国際日本文化研究センターの森岡正博助手が現代の電子メディアから生じた新しいコミニュケーションをとらえて「意識通信」の時代と命名した。例えば電話
は遠隔地への情報伝達の道具から話を楽しむものとして使われるようになった。とくに若い世代の電話に対する意識は変わってきた。総理府の調査では電話使
用の目的は、三〇代以上では通信・連絡が第一位だが、二〇代ではおしゃべりに使うのが一位の六五%となっている。パソコン通信にしても、情報を得る目的
から電子掲示板的利用、画面を通した会話に使われる傾向が強くなってきた。森岡氏によれば、これまでは大量の情報を早く伝えることに意義があり、こうし
た社会が情報化社会といわれてきたが、電子メディアの時代に育った若者は、情報の正確な伝達より、情報ネットワークがつくり出す「架空の世界」の中で他
人と触れ合うこと自体を求めるようになってきたという。「新たな情報社会とは電子メディアが生み出す架空世界の中で、人々がさまざまなタイプの人間関係
を増幅させてゆくような社会」と指摘し、重要視されるのは「情報伝達の正確さや効率性ではなく、メッセージを他者と交わせてゆくときの、その〈味わい〉
や〈濃密さ〉であろう」と位置づけている。
●マルチメディア(Multimedia)〔1994 年版
情報化社会〕
コンピュータと家電、通信、放送などの技術が融合し、あらゆる機能を備えたメディア。パソコンとテレビ、パソコンとCD‐ROMを組み合わせたりしてメ
ディアを有機的に結合する多機能メディア。たとえばパソコンとテレビを結合した機器では、野球中継でプレーしている選手の経歴なども簡単な操作で画面に
映し出すことができる。事典類を収納したCD‐ROMと音響、映像を組み合わせて、検索したものの形や音まで出す立体型メディアやデータベース、ニュー
スネットワークを接続して、自分でニュースを選択したり編集したりする電子新聞型メディアの応用も考えられている。一九九一年、世界最大のコンピュータ・
メーカーのアメリカのIBMがアップル社と堤携し、マルチメディア開発のための共同出資会社カレイダを設立。九二年になって日本の東芝とアメリカの娯
楽・出版の大手のタイム・ワーナーも参入、ソフトウェア面はアップル社、ハードウェア面は東芝で受け持つといった分担も決まり、開発に向け始動した。マ
ルチメディア産業は二一世紀には五〇兆円産業になるといわれ、産業面や国民生活の向上の面からも期待されているが、解決しなければならない問題も多い。
文字、図形、映像、音響など大量の情報を超高速で伝えるためには大容量の伝送路が必要である。衛星やISDN(総合デジタル通信網)の利用が検討されて
いるが、こうしたインフラストラクチュア(産業基盤
Infrastructure)をどう整備するか、これまでのソフト(番組内容)と全く違うソフトが要求されるの
で、多機能メディアに合ったソフトはどのようなものになるかの研究開発も課題となる。著作権保護の問題も解決していかなければならず、日本でも文化庁の
著作権審議会にマルチメディア小委員会を設置、制度の見直しを含めて検討が始められている。
●不法電波監視体制〔1994 年版
情報化社会〕
携帯電話、パーソナル無線といった無線利用が増える一方で、無線を改造した不法電波による通信障害も増加している。このため郵政省は一九九三(平成五)
年度から不法電波を監視する体制を強化する方針を打ち出した。不法電波をチェックする監視体制は現在もとられてはいるが、不法電波傍受用の監視システム
は全国で一〇カ所の地方電気通信監理局にしか設けられていない。不法無線を発する場所まで特定できるシステムが整備されているのは東京、大阪、福岡だけ
である。監視体制の貧弱さが、不法電波を増加させている一因ともいわれている。たとえば九〇年度に約二万六〇〇〇件の不法電波を監視システムでキャッチ
したにもかかわらず、場所までわかったのは二八〇〇件で、大半が網の目を逃れている。不法電波の位置をとらえるにはセンサーシステムを備えることが必要
だが、郵政省は都道府県の主要地に最低一カ所は設置し、すでにセンサーシステムのある三都市には増設して不法電波特定を図る。また地方電気通信監理局同
士が互いにネットワークを結び、統合的に不法電波を追跡する計画もたてており、今後さらに増加する傾向の不法電波追放を期している。
●インハウス・データベース(Inhouse data base)〔1994 年版
情報化社会〕
データベースを使用形態からみた場合、二つに大別できる。一つはデータベース・サービス会社がIP(情報提供者
Information Provider)から得た情報を
データベース化して一般に有料で情報提供する「商用データベース」。現在、国内で利用できる商用データベース実数は二三五〇件ある。企業は平均六・五シ
ステムの商用データベースを利用、とくに産業、経済情報の利用が多い(通産省の一九九〇年度版データベース台帳総覧)。もうひとつがインハウス・データ
ベース。これは企業や団体、研究機関が、企業内などに分散している情報を一カ所に集約して企業戦略、研究目的に生かす企業内、団体内、研究機関内データ
ベースをいう。八五年以降とくに企業が独自で構築しているインハウス・データベースが目立つ。企業の場合、人事管理、顧客管理、運行管理のほか統計業務、
財務会計、在庫管理、資料整理と幅広く利用できるので戦略情報システム(SIS
Strategic Information System)の代表例といえる。台所の油の汚れの取
り方といった日常の生活情報はじめ消費者の声まで三六万件の情報をデータベース化して消費者相談業務を開設、それを経営にも反映させている化学メーカー
もある。ただ顧客管理をする場合は個人情報を入れるので、プライバシーの保護が問題となるので、通産省や日本データベース協会はガイドラインを作成して
指導にあたっている。
●バーチャル・リアリティ(VR
仮想現実)(Virtual Reality)〔1994 年版
情報化社会〕
五感をコンピュータで計算して人工的に環境をつくること。人間は視、聴、触、味、臭感の五感で物事を感じとっているが、現実にないものをコンピュータで
人工環境を作り出し現実のように見せる。コンピュータ内にユーザーが入り、人工の現実感を知覚できる世界。考案のパイオニアのジャロン・ラニアーは「物
理的には存在しないが、機能からは存在しうる環境」と定義している。仮想現実を実感するにはコンピュータに指示を出すデータ・グローブと仮想の空間をの
ぞくアイフォンという眼鏡を使う。たとえば相当離れた場所に皿がある。人間の手ではとどかない。それがアイフォンを通せばすぐ近くに見え、データ・グロ
ーブで皿を持つこともできる。その皿を落とすと割れる音までする。しかし本当の皿はやはり距離を置いたところに割れないままで存在している。こうした現
実感はいわばコンピュータが人間の五感を感じ取り空間を作っているのだという。八〇年代に考案されたが、もともとはフライト・シミュレーターや実際の航
空機の操縦システムの研究開発から始まった。今後、人工衛星の修理ロボット・システムをはじめ、宇宙開発や医療への応用、高度なシミュレーターへの利用
が考えられ、新しいマンマシン・インターフェースとして注目されている。
●インテグリティ法〔1994 年版
情報化社会〕
コンピュータのソフトウェアに侵入してプログラムやデータを破壊するウイルス対策のために、通産省が開発を目ざすウイルス撲滅方法。コンピュータ・ウイ
ルスは人の体を蝕むように記憶装置に侵入する。自分と同じプログラムを作る増殖機能をもち通信回線、FD(フロッピーディスク)を通じて感染する。一九
七二年、アメリカでウイルスと名づけられた。その後被害が深刻化、日本では八八(昭和六三)年パソコン通信ネットワークのPC‐VANに他人のパスワー
ドが侵入、最初のウイルスといわれている。最近では九一年にパソコンネットワークのニフティサーブに「ウィナB型」のウイルスが入り、基本ソフトのMS
‐DOSで動くプログラムに寄生したり、同年、イタリアの画家ミケランジェロの誕生日の三月六日に世界で一斉にハードディスクを消す「ミケランジェロ・
ウイルス」がヨーロッパで発見されている。一定の時間になると音楽を奏でる「ヤンキー・ドゥードル」などもある。ソフトウェアにウイルスが入った場合、
プログラム容量が変形したり増減が生じる。つまり、完全性(インテグリティ)が崩れる。この崩れを利用して、早く異常を発見する方式をイングリティ法と
いう。あるプログラムを組む際、暗号で圧縮した別の同じ内容のプログラムも作成してコンピュータ処理をする。プログラムがウイルスにかかって形が崩れて
いけば同時に暗号のプログラムが検知して起動がストップ、被害を未然に防ぐ仕組み。現在のウイルス駆除方法は、プログラムのワクチンを使って処理をして
いるが、ワクチン方式ではデータが破壊されてから対応したワクチンを作らなければならない事後処理となる。イングリティ方式は、未然防止の点で効果が期
待される。通産省は外郭団体の情報処理振興協会とタイアップ、九六年には実用化を計画している。
[株式会社自由国民社
現代用語の基礎知識 1991∼2000 年版]
▽執筆者〔1994 年版
コンピュータ〕
細貝
康夫
1934 年神奈川県生まれ。防衛大学校理工学研究科卒業。(株)三菱総合研究所主任研究員を経て,現在,(株)東京計算サービスシステムコンサルタント,関
東学院経済学部非常勤講師(情報産業論)。著書は『データ保護と暗号化の研究』(日本経済新聞社)『コンピュータウイルスの安全対策』(ニッカン書房)『カ
ードビジネスのすべて』(日刊工業新聞社)など。
◎解説の角度〔1994 年版
コンピュータ〕
●通商産業省は 21 世紀に向けて,
「より人間に近い情報処理機能」を実現させるために,リアルワールド・コンピューティング(RWC)計画をスタートさせ
た。この目標に応じる技術シーズとして,「柔らかな情報処理」および「超並列超分散処理」が提示されている。
●「柔らかな情報処理」を先取りした研究開発が進められており,サイレントスピーチ,手話通訳のモデルシステム,群知能などの基礎技術の成果が発表され
ている。また,「超並列超分散処理」に関連して,超並列分散処理コンピュータ,光ニューロコンピュータなどが研究開発されている。
●企業情報システムの役割が「効率志向中心」の情報システムから「競争優位中心」の情報システムへと変革してきている。そのシステム構築には,クライア
ントサーバシステムやパソコンLANなどの利用が活発である。
●情報技術の進歩が経営目的,情報システムの役割や利用形態を変革させることから,特に相互運用性の確立,ヒューマンインタフェースの向上,セキュリテ
ィの確保,基幹技術の高度化・多様化・標準化などの技術動向を注意深く見守る必要がある。
■リアルワールドコンピューティング・プログラム(RWC計画)(real world computing program)〔1994 年版
通商産業省は九二年度から新しい大型プロジェクト「RWC計画
コンピュータ〕
通称四次元コンピュータ計画」をスタートさせた。RWC計画は、二一世紀の高度情報化社
会において必要とされる先進的で柔軟な情報基盤技術の研究開発を目的とする。つまり、人間の情報処理能力により近く、実世界の多種多様な情報を処理でき
るような技術の創造を目指す。
新情報処理技術の役割としては、
(1)情報ネットワーク上で適切な情報を適切な時に適切な仕方で供給できること、
(2)機械を人に合わせる、機械と人のイ
ンタフェースを見えなくする、機械と人のインタフェースをなくすといった方向にすること、(3)情報の所有者や、流通する情報の質の評価など、情報ネッ
トワーク社会で生じる新しい社会問題に配慮すること、(4)情報技術によって地球資源の有効活用と消費を抑えること、があげられている。
RWC計画は「より人間に近い情報処理」の実現を目指すことから、技術シーズとして、「柔らかな情報処理機能」と「超並列超分散処理」の体系を提示する
必要がある(図1)。期待される「柔らかな情報処理機能」には、
(1)誤りや不完全さを含む情報を解析し、有意な時間内に適当な判断や問題解決を行う機能、
(2)できるだけ生に近いデータを直接操作し、問題解決にとって重要な要素を抽出する機能、(3)人間に親しみやすくし、かつより高いレベルの知的作業
を可能にするインタフェース機能、(4)事象を感覚的にシミュレートする機能、(5)自律的に環境と相互作用しながら動作させる制御機能、などがある。
「超並列超分散処理」を実現するために、(1)汎用超並列システム、(2)ニューラルシステム、(3)統合システムの抽象化と設計などの新情報処理技術の
システム基盤を確立する必要がある。また、光技術の役割は、情報媒体としての特徴を生かし、新情報処理技術が目指す新しいツールである(1)並列ディジ
タル光コンピュータ、(2)光ニューロコンピュータ、(3)光インタコネクションを提供することである。
★1994年のキーワード〔1994 年版
コンピュータ〕
★サイレントスピーチ/思考入力コンピュータ〔1994 年版
コンピュータ〕
サイレントスピーチとは、声を出さずに心の中で言葉を話すこと。富士通研究所と北海道大学電子科学研究所のグループは、人が頭の中で「あ」の文字をイメ
ージしたとき、脳の電圧が変化する様子を脳波測定を通じてとらえることに成功した。今後、イメージする文字を「あ」以外に増やしていくことにより、長い
文章の本格的なサイレントスピーチを判別できる可能性もでてきた。
同研究グループはコンピュータの操作をキーボードからの入力によらず、最終的には手も声も使わずにサイレントスピーチによって、考えたことをそのまま入
力できる未来型の「思考入力コンピュータ」の開発を目指している。今回の成功によって、その第一歩を踏み出したといえよう。
★手話通訳のモデルシステム〔1994 年版
コンピュータ〕
日立製作所は、コンピュータを用いて手話を通常の文章に変換する手話通訳のモデルシステムを開発した。手話者が特殊な手袋をはめて手話すると、コンピュ
ータが手の向きや指の形を認識し、意味を把握するのである。これによって聴覚障害者と健常者のコミュニケーションが手話通訳者なしで可能になる。
手話者がはめる手袋には一〇本ずつの光ファイバーが張り付けられ、指の曲がり具合を検出する。手袋の甲につけたセンサーで手の位置や角度を割り出し、こ
れをワークステーション上で文書化する。
現在は、約二〇種の単語の組み合せによる「頭がとても痛い」「胃が重い感じがする」程度の文章しか通訳できないが将来は三〇〇〇語近くに対応できるよう
になるという。
★サブ・クォーターミクロンLSI〔1994 年版
コンピュータ〕
現在のLSI(大規模集積回路)は、回路の線幅が○・五ミクロンのものが登場している。一ミクロンの四分の一(クォーター)以下の線幅はサブ・クォータ
ーと呼ばれ、次世代のLSIは○・三ミクロン級といわれていた。
NTTは、次次世代のLSIといわれるサブ・クォーターミクロンLSIの開発につながる基本技術の確立に成功した。同社で開発した超伝導利用の小型シン
クロトロン放射光装置などを使って、○・二ミクロンの線幅の回路をつくる技術を確立した。これにより、現在の先端的なLSIに比べて一〇倍の高密度化と
一〇分の一の低エネルギー化が実現できるとしている。
この技術を使うと、将来は二・五センチ角のシリコンチップ上に現在の汎用大型コンピュータの主要な機能を搭載できるようになるという。
★群知能〔1994 年版
コンピュータ〕
個々のアリ(蟻)は餌を集めるにしても、においの刺激に応じて条件反射で物をくわえたり放したりしているだけで「餌を探して集める」と考えて行動してい
るわけではない。しかし、こうした単純作業も多数のアリが繰り返すと、一定の効率で「餌を探して集める」という目的が達せられる。「賢くない」アリを多
数集めると、単純な足し算ではなく、群れにそれ以上の知能、つまり群知能が生まれる。こんなアリの生態を工学的に活用する研究が始まっている。三菱電機
中央研究所は、群知能を応用した文書分類法を開発した。アリがにおいを基に餌などを分別するのと同様に、文中の特定の単語を手がかりにコンピュータが内
容ごとに分類する。高度の人工知能を使わなくてすむのがこの応用の利点で、膨大なデータベースにある大量の文書情報の自動分類に有効。
東京大学工学部の三浦宏文教授らの研究グループは、超小型ロボットであるマイクロマシンの制御にアリの群知能を利用して、多数のロボットを目的に向かっ
て誘導する研究を進めている。群知能では一台のロボットは交信や指揮のための高度な人工知能やセンサーを搭載しないから、サイズが小さく、多くの機能を
搭載しにくいマイクロマシンに適しているという。
★インテリジェント・パッドシステム〔1994 年版
コンピュータ〕
北海道大学の田中譲教授らの研究グループは、積木の要領でプログラムが作れるインテリジェント・パッドシステムを開発した。それはパッドと名付けた部品
をマウスを使って、コンピュータの画面上で組み合わせるだけで多様なプログラムが簡単に作り出せるシステムである。
個々のパッドは大小さまざまな紙のような外観で、文字の表示、画像の表示、数値計算、縮小・拡大を指示するレバーなどそれぞれ一つずつ機能をもっている。
たとえば、バネの機能を模擬するパッドと滑車のパッドを組み合わせるとバネと滑車による理科実験のシミュレーションソフトが小学生にも簡単に作れる。
田中教授は機能部品であるパッドに世界標準を設け、世界のどこで開発されたパッドでも、だれでも使えるようにしたいという。すでに二〇〇種を超える基本
的な機能をもつパッドを作成済みという。
★人工聴覚チップ/人間くさいコンピュータ〔1994 年版
コンピュータ〕
三菱電機は話し声に込められている感情を判定できる「人工聴覚チップ」を世界で初めて試作した。このチップはアクセントなどの違いを瞬時に読み取り、学
習機能を働かせて言葉の背後にある感情を類推する。
それは学習効果を備えた光ニューロチップと呼ばれるLSIで、一二ミリ角のガリウムヒ素基板の上に一万六〇〇〇個以上の光記憶素子を集積した。この素子
に、「このアクセント、イントネーションならこんな感情が込められている」といった経験データを入れておく。音声信号を経験データに照合して分析する仕
組みである。
「楽しい」と「たいくつ」の二つの言葉を感情を込めて発音する実験をしたところ、このチップは音声に込められた特徴を聞き分けることができたという。こ
の成果により、使い手の気分を察して動く「人間くさいコンピュータ」や、特定の人の声にだけしか応答しない音声入力の家電製品、防犯システム、教育機器
などへの応用が期待される。
★マルチメディア・パソコン(multimedia personal computer)〔1994 年版
コンピュータ〕
音声、静止画像、動画像、文字などマルチメディア情報を一括して扱えるパソコンのこと。このパソコンは、フロッピーディスク五四〇枚分の記憶容量のある
CD‐ROM(コンパクトディスクを使った読みだし専用メモリ)を標準搭載しており、大量のメモリを要する画像や音声のデータがパソコンで扱えるように
なった。また、ノートブック型も松下電器産業から日本、欧米市場に発売されている。利用範囲は、現在、社内教育、商品のプレゼンテーションなどである。
将来は、教育全般やエンターテインメント、種々のガイド、ゲーム、趣味などの分野に広がるだろう。ソフトウェアの面では、マルチメディアを扱うOS(基
本ソフト)として、アップルコンピュータのOS拡張システム「クイックタイム」や富士通の Windows MME
が販売されている。
★ペンコンピュータ(pen computer)〔1994 年版
コンピュータ〕
液晶パネル上に書いた手書き文字を認識し、入力させる装置を採用したノートブック型パソコンのこと。企業がペンコンピュータを導入する目的は、(1)手
書き入力やペン操作による操作性、(2)携帯性または省スペース性などの特徴を活用して、企業情報システムのデータ端末として使うことである。ペンコン
ピュータには、次の四つの入力機能がある。
(1)ペンを用いて画面上の位置を指定する機能、
(2)手書き文字や図形をイメージで入力するスケッチ機能、
(3)
ペンで書いた略号を用いて特定操作を指示するゼスチャー機能、(4)手書き文字を認識し、文字コードに変換する文字認識機能。用途は簡単に携行できるた
め、販売管理、物流管理、建設物の内装仕上げの検査、競技記録などである。
▲話題のコンピュータ〔1994 年版
コンピュータ〕
「柔らかい情報処理」や超並列超分散処理」を目指して、人間の右脳の直感的思考を実現させるための神経細胞・神経回路網の構造・情報処理機能を模倣した
非ノイマン型コンピュータの研究開発、および「超並列超分散処理」を実現させるために超電導素子の基礎研究が進展している。
◆超電導ニューロコンピュータ(neuro computer)〔1994 年版
コンピュータ〕
東北大学電気通信研究所は、超電導ニューロコンピュータの基本素子を世界で初めて開発した。
五ミリ角の上にニューロン(神経細胞)を二個使って、アナログ信号をデジタル信号に変換する回路網を試作した。基盤もニューロンもニオブ系の超電導体で
作り、配線には扱いやすい鉛合金の低温超電導物質を使った。この素子を摂氏零下二六九度の液体ヘリウムに浸して実験したところ、設計どおりに一〇キロヘ
ルツの速さで「1」「0」のデジタル信号が出ていることを確認した。超電導の特性を生かせば、一〇〇ギガヘルツ程度まで速くすることが可能という。
◆二世代ファジー/ファジー・コンピュータ(the second generation fuzzy/fuzzy computer)〔1994 年版
コンピュータ〕
ファジーとは、柔らかでぼんやりしていて、あいまいなことをいう。現在使われているノイマン型コンピュータは1か0か、正か負か、というように二値論理
(デジタル論理)で割り切っている。これをクリスプ(crisp)な世界というが、クリスプでは中間的な値がうまく取り扱えない。ファジー論理ではメンバーシ
ップ関数という一種の確率変数で中間的なあいまいな状態を表現し、人間の言葉のあいまいな意味内容を数理的に扱えるようにした。
第一世代ファジーは、地下鉄の運転、掃除機、洗濯機、調理器などの自動制御に威力を発揮した。第二世代ファジーは、人間や社会に直接働きかけ、知識処理
に威力を発揮するといわれている。
人間は直感や経験に基づく融通自在(ファジー)な行動を行う。これらをコンピュータでやらせようとするのがファジー・コンピュータである。九州工業大学
では、ファジーチップを開発し、本格的なコンピュータ化を目指している。ファジー・ソフトウェアはコンピュータ言語でこれを実現させたもので、ファジー
Prolog、ファジーLISP、ファジープロダクションシステムなどが開発されている。
◆光ニューロコンピュータ(optical neuro computer)〔1994 年版
コンピュータ〕
ニューロコンピュータは生物の脳の情報処理機構をハード的に模倣したもので、その特徴は「並列処理」と「学習」にある。この機能を光演算器を利用しレン
ズの組み合せやホログラフィにより相関などの演算を行わせたものが、光ニューロコンピュータである。
光ニューロコンピュータの特徴は、
(1)光には空間並列性という特徴があり、膨大な数のニューロン間配線が可能である、
(2)光波は互いにクロストークを
受けないで伝搬し、伝送容量が大である、(3)超高速演算ができるなどである。ベクトル行列演算に光技術を応用した光連想メモリーの研究や光アソシアト
ロンなどの学習機能をもつコンピュータの研究が進められている。
◆超電導素子「磁束量子パラメトロン」〔1994 年版
コンピュータ〕
新技術事業団の「後藤磁束量子情報プロジェクト」は、超電導素子「磁束量子パラメトロン」がスーパーコンピュータの一〇〇倍近くの計算速度(八ギガヘル
ツ)で高速動作することを世界で初めて確認した。
磁束量子パラメトロンは、二つのジョセフソン接合を回路で結び、磁束(磁場の強さを決める因子)の最小単位である磁束量子を電流の代わりに使って出し入
れする新しい型の超高速論理素子である。
この超電導素子は、現在のシリコン素子に比べて消費電力が一〇〇万分の一以下であるため、超高速・省エネルギー型超電導スーパーコンピュータの実現化が
高まった。
◆ASICマイコン〔1994 年版
コンピュータ〕
ASIC(特定用途向けIC)マイコンとは、市販のマイコンとユーザーが要求する機能とを組み合わせて、一チップに集積したLSI(大規模集積回路)の
こと。市販の八ビットや一六ビットのマイコンでは対応できない用途に使用する。このマイコンは、集積回路メーカーが特定ユーザー向けに開発し、通常は外
部へ販売しない。
このマイコンを使えば、従来複数のLSIが必要だった機器を一チップで実現でき、消費電力も小さくてすむ。用途には、マイコンのもつ情報処理機能と携帯
電話のもつ通信機能とを融合した電子機器、カメラ一体型VTR、ICメモリーカード付携帯用コンピュータなどがある。
◆データフローマシン/SIGMA1(data flow machine)〔1994 年版
コンピュータ〕
アメリカ、マサチューセッツ工科大学のJ・B・デニスが提案した非ノイマン型コンピュータの一種で、データ駆動コンピュータとも呼ばれる。
このコンピュータには命令の逐次実行系列を制御するプログラム・カウンタがない。その代わり、各命令は命令の種類と命令の実行結果の行先情報をもち、プ
ログラム自体はデータの依存関係を示すデータフローとして表現される。並列計算による高速性があり、非定型的高速処理を要求される科学技術計算用として
期待されている。
工業技術院(つくば市)はデータ駆動型の並列処理コンピュータSIGMA1を開発した。演算処理装置は約七〇〇個の集積回路で構成され、これに記憶など
を扱う処理装置を加えたものを四組まとめて基本ユニットとしている。処理速度は、一秒間に一億七〇〇〇万回の加減乗除を行う能力をもっている。ネットワ
ークを介して、三二ユニットの演算処理装置をホストコンピュータによって制御することに成功した。
◆スーパー・コンピュータ(super computer)〔1994 年版
コンピュータ〕
同時代のコンピュータの中で最も超高速の演算能力をもつものを呼ぶ名称である。原子力、気象、宇宙などの膨大な計算が要求される分野で利用されている。
最初米クレイ社のCRAY‐1(クレイ・ワン)が市場に出荷し、この名が浮上した。同社は、処理性能が二四ギガFLOPS(一ギガFLOPSは一秒間に
一〇億回の浮動少数点演算を実行)であるCRAYC90 を販売した。次に、日本電気は処理性能が二五・六ギガFLOPSである最上位機種「SX3・Rモデ
ル四四R」を発表した。これに対して日立製作所は最上位機種「HITAC・S三八〇〇」で三二ギガFLOPSの処理性能を実現し、世界最高速に躍り出た。
◆超並列処理(MPP)コンピュータ(Massively Parallel Processing)〔1994 年版
コンピュータ〕
現在のコンピュータは、決められた命令を一つひとつ順次に処理する逐次処理型である。人間の脳は一四〇億個ともいわれる神経細胞が同時並行処理を行う並
列処理型である。富士通は、約二〇〇個の独自開発プロセッサを使った並列処理コンピュータVP500 を発売した。処理速度は、三五五・五ギガFLOPSで
ある。
市場動向としては、米インテル社は処理速度が最大四〇〇〇個のプロセッサを使って処理速度が三〇〇ギガFLOPSのPARAGONXP/Sを、そして米
シンキングマシン社は、一万六三八四個のプロセッサを使って処理速度が一テラFLOPS(一〇〇〇ギガFLOPS)というCM‐五を発表している。
研究開発動向としては、東京大学は宇宙の進化を模擬する「GRAPE」を、筑波大学は素粒子物理研究用の「QODPAX」を完成させた。
◆OLTPマシン(Online Transaction Processor)〔1994 年版
コンピュータ〕
このマシンは、内部に複数の中央演算処理装置やメモリー、ディスクを装備しており、システムの一部が故障しても全体を停止することなく修復できるもので、
別名ノンストップコンピュータという。そのため、従来の汎用機に比べてオンライン取引の処理に適している。
導入効果として、(1)多数のオンライン取引処理が汎用機より優れ、コストも安い、(2)故障に強く、二四時間無停止の稼動が可能、(3)システムを柔軟
に拡張できるなどがある。このマシンの技術動向は、RISCチップを採用し高性能化している、データベース機能の充実によりデータベースマシンとしても
利用できる。
◆ジョセフソン・コンピュータ(Josephson computer)〔1994 年版
コンピュータ〕
工業技術院電子技術総合研究所は、ジョセフソン素子を使ったコンピュータの開発に成功した。それはニオブ系材料を使った次の四つのLSIチップ、(1)
レジスタ算術論理演算、(2)シーケンス制御、(3)命令メモリー、(4)データメモリーから構成される。これらを約一〇センチ角の基盤に装着し、零下二
六九度の液体ヘリウムに浸して超電導状態とした。実行に要した全チップの消費電力は六・二ミリワットと半導体の約一〇〇〇分の一である。現在四つのチッ
プをつなぐ配線部分に銅を使用したため、一命令に一〇〇〇分の一秒かかるが、超電導体を使えば、一〇億分の一秒以下で実行されるという。
日立製作所でも五ミリ角のチップを開発した。演算速度は、二五〇MIPS(一秒間に二億五〇〇〇万回)であった。
◆AXパソコン〔1994 年版
コンピュータ〕
AXパソコンとは、米国IBM社のPC/ATをベースに日本語処理機能をもつパソコンのことであり、そのパソコンはAX仕様すなわち、(1)統一された
操作性、(2)システムの相互互換性、(3)ソフトウェアとデータの互換性、(4)システムの拡張性、(5)国際性を満たしている。
AXパソコンは米国IBM社のPC/ATと同じアーキテクチャをもつため、そのPC/ATの英語ソフトウェア資産約五万本とハードウェア資産が利用でき
る。現在、AX協議会には三菱電機、三洋電機、シャープ、ソニー、キヤノン、カシオ計算機、沖電気工業、日立製作所、東芝などが加盟している。
◆ニューロ・コンピュータ(neuro computers)〔1994 年版
コンピュータ〕
脳を構成している神経細胞(neuron)・神経回線網(neural network)の構造・情報処理機能をモデル化し、高度の情報処理装置の実現を目指したコンピュー
タを、ニューラル・コンピュータ(neural computers)と呼び、この原理を既存のノイマン型コンピュータのうえにソフト的に、またはハード的に模倣したコ
ンピュータをニューロ・コンピュータと通常称している。
ニューロ・コンピュータモデルは非線形のニューロモデルを数多く結んだネットワーク上で並列分散的に情報処理を行うところに特徴がある。このアプローチ
のことをコネクショニズムとか並列分散とも呼ぶ。応用分野には、英文の音読学習、両眼立体視モデル、パターンの認識・理解、ロボット制御、金融関係の予
測、大量あいまい情報の処理など適用例が多くみられる。
◆光コンピュータ(optical computer)〔1994 年版
コンピュータ〕
光の優れた属性を生かした新しい発想でイメージされているコンピュータである。光を情報処理に利用するとき着目されている属性は、(1)超並列・高速処
理、(2)信号の空間配列の利用、(3)信号処理の多機能性、(4)信号相互間の無干渉性、(5)広帯域性、(6)信号の多様性、などである。
現在研究中の光コンピュータの方式には、(1)時系列演算方式(ノイマン方式)、(2)並列アナログ演算方式(画像処理による方式)、(3)並列デジタル演
算方式の三つがある。目指すところは超並列・高速処理コンピュータであり、ニューロ・コンピュータの技術として期待されている。しかし、その実現には光
技術に適したアーキテクチャの研究をはじめ、光インタコネクション(素子間を光で接ぐ技術)、非線形光学素子、空間光変調器の開発などにまだ多くの課題
がある。
◆非ノイマン型コンピュータ(non‐von Neumann‐type computer)〔1994 年版
コンピュータ〕
現在普及しているプログラム内臓、逐次制御型のデジタルコンピュータは、ノイマン型コンピュータといわれ、ノイマン博士の理論に基づいている。ノイマン
型はコンピュータの飛躍的な発展に寄与した一方で、宿命的ともいえるノイマンボトルネックと称する課題を負うことになった。これは人が作ったプログラム
で逐次的に処理することから必然的に生じる問題で、今日のソフトウェア危機もそれによって起こされている。
これの解決策として、人間の思考を表現できるコンピュータ言語とそれを可能にする高度な論理構造をもつ非ノイマン型コンピュータの開発が期待されている。
四次元コンピュータ、AIなどはその具体化といえる。
▲コンピュータ・ネットワーク〔1994 年版
コンピュータ〕
企業の情報システムは、その役割が「競争優位中心」へと変革してきており、オプーン・システム化、ダウンサイジングの進展に伴い、広域化、高度化、複雑
化、戦略化してきている。その実現にはあらゆる情報機器の相互運用をつかさどるOSI、UNIX、ネットワークOSなどが注目されている。
◆コンピュータ・ネットワーク(computer network)〔1994 年版
コンピュータ〕
独立した複数のコンピュータ・システムを通信回線により、互いに資源を共有することができるように結合させたシステムのこと。
コンピュータ・ネットワークの特徴として、(1)複数の処理装置を含むこと、(2)処理装置が独立または共同して動作できること、(3)処理装置間が有機
的に結びついていることがあげられる。
その効果には、
(1)通信回線の共用による通信コストの削減、
(2)分散による信頼性の向上、
(3)異業種間の結合による複合型業務処理の実現化、
(4)情
報流通の促進などがある。コンピュータ・ネットワークは、規模により、ローカル・エリア・ネットワーク(LAN)とワイド・エリア・ネットワーク(WA
N)に大別される。
◆ホストコンピュータ(host computer)〔1994 年版
コンピュータ〕
複数のコンピュータを一緒に使用する場合、フロントエンドプロセッサに対して背後にいて、主役(ホスト役)となるコンピュータをホストコンピュータとい
う。たとえば、大型コンピュータをホストコンピュータとして、それに、フロントエンドプロセッサのミニコンやパソコンを回線でつなぎ、非常に時間がかか
り複雑な処理をホスト側にやらせて、ミニコンやパソコンは端末としてデータの入出力を行ったり、パソコンがホストからの指示により各種の処理を分担して
行ったりする。
◆OSI(解放型システム間相互接続)(Open System Interconnection)〔1994 年版
コンピュータ〕
OSIは、異機種のコンピュータ間の通信を実現するために定められたネットワーク・アーキテクチャの国際標準である。このアーキテクチャは、各種のコン
ピュータや端末さらにはそこで動作するソフトウェアの機能と役割を明確にするとともに、コンピュータ間の通信のプロトコル(通信規約)を体系的に定めた
ものである。またネットワーク・アーキテクチャの異なるシステム同士の接続は原則的にはできない。OSIでは、構成要素のモデル化(基本参照モデル)、
資源の仮想化、プロトコルの階層化(七階層)などを基本コンセプトとし、現在、ISO(国際標準化機構)とCCITT(国際通信電話諮問委員会)が協調
して標準化の作業を行っている。
◆UNIX〔1994 年版
コンピュータ〕
UNIXは、一九六九年に米国AT&Tベル研究所がPDP7用に開発した時分割方式のマルチタスク・マルチユーザーのオペレーティングシステム(OS)
である。七一年にPDP11 上に移植する際にC言語で書き直され、移植性の高いOSとなった。七五年頃からソースプログラムが大学、研究所、企業等に配布
されるようになって急速に普及・発展した。
UNIXの優れている点は、(1)高品位文書の作成が容易、(2)文書検索が容易、(3)オープンシステム、(4)優れた操作性などである。
標準化動向は、OSF(Open Software Foundation)とUI(UNIX
International)の二団体でその主導権を争っていたが、九四年の半ばに向けて世界
的な統一規格を作成することで決着した。
◆ネットワークOS(NOS)(Network Operating System)〔1994 年版
コンピュータ〕
NOSとは、アプリケーション・プログラムに対して通信関連サービスを提供すると同時に、中位レイヤのプロトコル処理を行う基本ソフトウェアのことであ
る。NOSの基本機能としては、サーバ上のファイルとプリンタの共有機能、ユーザー管理とセキュリティ機能、障害対策機能があげられる。
その導入効果は、(1)異機種接続ができるため、ユーザーが自由にLANのハードウェアを選択できる、(2)既存の情報資産が継承できる、(3)パソコン
の能力を最大限に引き出せる、(4)市販のパッケージ・ソフトウェアを手軽に利用できるなどである。
◆インターオペラビリティ(interoperability)〔1994 年版
コンピュータ〕
コンピュータシステムの相互運用性があること、つまり、汎用コンピュータ、ミニコン、パソコンなど異なるシステムで処理された情報を相互に交換して円滑
に利用できることをいう。
異機種接続ができないとか、ソフトウェアの互換性がないなどの問題が情報化の進展を阻害しており、インターオペラビリティの確保が重要視されてきている。
その確保の方法には、標準化と変換による方法がある。標準化は、技術革新が著しいことなど多くの問題があるが、国家規格や国際規格制定の検討が世界各国
で進められている。標準化のなされない部分は、データ変換、プログラム変換、プロトコル変換などにより対処している。
◆マルチベンダーマシン方式(multi‐vendormachine supply)〔1994 年版
コンピュータ〕
複数のベンダー(製品の製造・供給元)から異機種のコンピュータの供給を受けること。これまでコンピュータは同一メーカーの機種に統一されて利用されて
いたが、ユーザーはそれぞれの業務に適した異機種のパソコンやワークステーションをネットワークを介して、使用するようになってきた。それをマルチベン
ダー環境という。これはメーカーを互いに競争させてよりよい情報システムを構築しようとするユーザーの知恵といわれている。これからは他社のコンピュー
タもユーザーの要求に応じて相互接続の保証をしないと、メーカーはビジネスとして成立しなくなる。
◆FTAM(File Transfer Access and Management)〔1994 年版
コンピュータ〕
FTAMは、OSIの応用層の規格が提供するファイル転送アクセス管理の規格である。OSIの応用層の規格の中では最も開発が進んでおり、一九八八年一
一月に情報処理相互運用技術協会(INTAP)により、機能標準実装品の接続実験が成功し、製品化直前の段階にある。FTAMは、(1)遠隔のファイル
全体の転送、
(2)ファイルの一部の読み取り、書き込み、書き換え、
(3)ファイルの生成、オープン、クローズ、
(4)ファイル属性情報の読み取り、変更、
を行う。実際の多様なファイルを統一的に扱うため、FTAMは、論理的な仮想ファイル記憶を定義しており、木構造で表現できるファイルを対象としている。
◆MHS/MOTIS(Message Handling System/Message Oriented Text Interchange System)〔1994 年版
コンピュータ〕
MHSは、CCITT(国際電信電話諮問委員会)で標準化作業を進めているメッセージ通信処理システムの規格である。MHSではメッセージはエンベロー
プ+本文の形で伝送される。エンベロープには宛先や配信時刻など配信に関する情報が、本文にはテキスト、画像、音声などの情報が含まれる。MHSが提供
する機能にはメールボックス機能、同報機能および配信優先機能などがある。MOTISは、OSIの七層の応用層が提供するメッセージ通信に関する規格で、
近年中に実装されることが期待されている。MOTISは、MHSと完全な互換性を保って開発されている。
◆MML(マイクロ・メインフレーム結合)(Micro Main‐frame Link)〔1994 年版
コンピュータ〕
MMLは、メインフレーム(ホストコンピュータ)とパソコンを通信回線で接続して両者が互いに協力し合って処理を進める方式である。MMLでは、ホスト
コンピュータとパソコンの連携による機能分散とデータベースの共有が可能となり、利用者にとってマン・マシン・インタフェースのよい環境が構築できる。
MMLには、
(1)端末エミュレータによりパソコンをホストコンピュータの端末とする段階、
(2)ホストコンピュータとパソコンの間でファイル転送を可能
とした段階、(3)パソコンとホストコンピュータが相互のデータベースを自由にアクセスしたり相互のアプリケーション同士でデータをやり取りできる段階
がある。
◆プロトコル変換(protocol conversion)〔1994 年版
コンピュータ〕
プロトコル変換とは、異機種のコンピュータのプロトコル(通信規約)を整合させる処理で、VAN(付加価値通信網
Value Added Network)サービスの一
つである。
異機種のコンピュータ間のデータ通信を実現するには、まず、プロトコルを整合させる必要がある。OSIなどで標準化の検討を進めているが、コンピュータ
メーカーが独自に定めている部分が多く、通信目的に応じてさまざまなプロトコルが使われているのが現状である。また、通信相手が多くなれば、それごとに
プロトコル変換を行うソフトウェアが必要となる。VANにより通信網自体がこの機能をもてば、コンピュータのネットワーク化と企業間のデータ通信に有効
となるであろう。
◆コンピュータ・セキュリティ(computer security)〔1994 年版
コンピュータ〕
自然災害(地震、火災、水害等)、システム構成要素(機器・ソフトウェア自体)の障害、不法行為(コンピュータ室への不法侵入、不当アクセス、操作ミス
等)などの脅威から、コンピュータ・システムを構成する入力・出力機器、ネットワーク、コンピュータ本体、ソフトウェア、データなどの資源を保護するこ
と。
コンピュータ・セキュリティ対策は、(1)技術面における対策、(2)運用管理面における対策、(3)法制面における対策に大別される。これらの対策によ
り、保護される利益としては、(1)個人の生命、身体、プライバシー、生活の利益、(2)個人および企業の経済的利益、社会的信用、(3)社会、経済の安
定的運用などがある。
◆データ暗号規格(DES)(Data Encryption Standard)〔1994 年版
コンピュータ〕
DESは、アメリカ商務省標準局(NBS)が一九七七年に公布したアメリカ連邦政府機関の標準暗号方式である。NBSが七三年に公募した中からIBMが
開発・提案した方式を採用した。
DESは、送信者と受信者が同一の鍵を用いて通信文を暗号化・復号するという慣用暗号方式の一種である。その処理手順は、六四ビットに分けられた平文の
入力を五六ビットの鍵が制御しながら、一六段にわたる転置と換字処理を行って六四ビットの強力な暗号文を出力する。復号は、これと逆の操作によって行わ
れる。その特徴は、(1)取扱いが容易なこと、(2)暗号化・復号の処理効率がよいこと、(3)鍵の生成が容易なことである。
◆公開鍵暗号方式(public‐key cryptosystem)〔1994 年版
コンピュータ〕
スタンフォード大学のヘルマン、ディフィー、マークルらが共同で発案した新しい暗号方式で、その原理は、次のとおりである。受信者が一対の暗号化鍵(公
開鍵)と復号鍵(秘密鍵)を作成し、復号鍵を秘密に保持するとともに暗号化鍵を公開して送信者に配送する。送信者は配送された暗号化鍵で平文(通信文)
を暗号化し、暗号文を受信者に送信する。受信者は受信した暗号文を復号鍵で復号し、平文を得る。この方式は、一九七七年マサチューセッツ大学のリベスト
らが素因数分解の困難さを利用したエレガントなアルゴリズムを開発し実現化した。彼らの頭文字をとってRSA方式といい、その特徴は暗号化鍵を公開して
いるため鍵管理が容易であることやデジタル署名が容易に実現できることである。
◆デジタル署名(digital signature)〔1994 年版
コンピュータ〕
データ通信では、手紙のように本人確認のための直筆署名を付けられない。デジタル署名とは、デジタル通信情報に対し、送信者の身元の識別・確認と情報の
内容が偽造されていないことを識別・確認する手続きである。デジタル署名は安全性の面から、
(1)署名文が第三者によって偽造されない、
(2)署名文が受
信者によって偽造できない、(3)署名文を送った事実をあとで送信者が否定できない、ことの三つの条件を満たす必要がある。
デジタル署名には、通信者間で署名生成に使用する情報を秘密にもつ一般署名と、送信者が調停者にメッセージと署名を認証してもらう調停署名がある。調停
署名は条件(3)を満たす。慣用暗号方式では、条件(1)だけを満たし、一方、RSA公開鍵暗号方式は条件(1)と(2)を満たす。それゆえ、重要なデ
ータ通信では、RSA公開鍵暗号方式と調停署名を併用するのがよい。
◆識別情報に基づく暗号方式(ID‐based system)〔1994 年版
ID
entity(識別子
コンピュータ〕
具体的には名前、住所のこと)を鍵の代わりに使うという発想による暗号方式である。つまり、送受信者間で公開鍵や秘密鍵を交換す
る必要が全くなく、また、鍵のリストや第三者によるサービスも不要で、任意の利用者間で安全に通信ができ、かつお互いに署名が認証できる暗号方式である。
識別情報に基づく暗号方式と署名方式の基本概念は、一九八四年に開催された Crypto'84 において Shamir によってはじめて提案された。これらの方式は、理
想的な郵便システムによく似ており、実現化のあかつきにはグローバルな解放型情報システムに使用することができる。
▲コンピュータの利用〔1994 年版
コンピュータ〕
個人または集団の意思決定の思考を支援する人工現実感、人工知能、シミュレーションなどの情報技術や手法、および人間とコンピュータの接点を意識させな
いためのインタフェースやOSとしての役割を果たす、自然言語処理、機械翻訳、TORNなどが注目を集めている。
◆TRON(The Realtime Operating system Nucleus)〔1994 年版
コンピュータ〕
TRONとは数千、数万のコンピュータを接続し、さまざまな相互関係をもたせながらそれぞれの目的を同時並列的に遂行する超機能分散システムを実現させ
るOS(基本ソフト)のこと。TRONプロジェクトは、超機能分散システムの構築を掲げて一九八四年から開始された。
TRON基礎プロジェクトとしてBTRON(ヒューマン・インタフェースをつかさどるOS)、ITRON(制御用リアルタイムOS)、CTRON(情報通
信ネットワーク向きOSインタフェース)、MTRON(分散型マルチ・マイクロプロセッサ用OS)、TRONCHIP(三二ビットVLSIマイクロプロセ
ッサ)がある。TRON応用プロジェクトとして電脳ビル、電脳住宅、電脳都市、電脳自動車網、TRONマルチメディア通信などがある。また、NTTは、
CTRONをISDN機器のOSの統一規格にすることを決定している。
◆人工知能(AI)(Artificial Intelligence)〔1994 年版
コンピュータ〕
人工知能研究が正式に始まったのは、一九五六年に行われたダートマス会議である。人工知能とは、高度情報処理技術者育成指針(中央情報教育研究所編)に
よれば「人間が用いる知識や判断力を分析し、コンピュータプログラムに取り組み、知的な振舞いをするコンピュータシステムを実現する技術である」として
いる。
AIに期待されている効果は、情報を相互に独立な個々のモジュールを内部にもち、ユーザーの必要に応じて問題解決手順に組み立てる知的な働きである。
AI研究には次の二つのアプローチがある。(1)科学的立場からのもので、シミュレーションによって知能のメカニズムを解明することを目的に、コンピュ
ータが使われている。この場合は一般的に認知科学といわれている。(2)工学的立場からのもので、知的能力をコンピュータに与えることを目的とし、知識
工学と呼ばれる分野に属している。応用面ではエキスパートシステムがある。
◆CIM(Computer Integrated Manufacturing)〔1994 年版
コンピュータ〕
CIMとは、これまで設計、製造、在庫管理など部分的に構築されていたシステムを共通のデータベースのもとで統合、受注から製品納入までの一連の企業活
動に関わる情報の流れを一元化した統合FAシステムのこと。CIMという言葉が生まれた背景には、生産管理、設計および販売管理などの各部門のシステム
化がほぼ完成し、市場ニーズの多様化に対応する部門間システムの統合化が求められたからである。
CIMのメリットは、
(1)製品企画から製品化までの時間の短縮、
(2)多品種少量受注と生産への対応、
(3)間接労務費の削減、
(4)製品になる前の仕掛
かり品の削減などがある。
◆プログラミング環境/シグマシステム〔1994 年版
コンピュータ〕
プログラム開発の各過程で必要な作業を支援するシステムをプログラミング環境といい、それはソフトウェアの生産性と品質向上に大きな影響を与えている。
シグマシステムやCASEもプログラミング環境を構成するツールの一つである。
シグマシステムは、情報処理振興事業協会シグマシステム開発本部が担当したΣプロジェクトの成果物で、プログラミング環境を提供する。Σプロジェクトは、
第一段階が一九九〇年三月に終了し、第二段階の普及・運用に入っている。そのため、システムを強化・拡充するための中核的事業主体として株式会社シグマ
システムが設立され、事業を開始している。
◆構造化プログラミング(structured programming)〔1994 年版
コンピュータ〕
この方法論はプログラム制御構造を規定し、独立性と保守性の高いプログラムを作成することを主な目的とする。構造化プログラミングは、段階的に細分化(ト
ップダウン)しながら作成される。まず、最初に論理全体を口語で記述し、「何をするのか」を明らかにする。次に、そのプログラムの章だて、段落わけを行
い論理的に意味の完結したモジュール化をはかる。最後に、それぞれの処理をその処理系に適合するようさらに詳しく記述する。この記述に際しては、順次、
選択、繰り返しの三つの制御構造を用い、基本的にGO
TO文などの無条件飛び越し命令を使用しないことによって、結果的に制御構造が明確で他のモジュ
ールから独立性の高いプログラムが作成される。
◆構造化システム分析手法(SA)/データフロー・ダイヤグラム/構造化設計(SD)
(structured analysis/data flow diagram/Structured Design)
〔1994
年版
コンピュータ〕
構造化システム分析手法は、ソフトウェア開発の上流過程(初期工程)である要求分析と設計の工程においてデータ構造の分析(静的分析)と処理手順の分析
(動的分析)を統合化して行う手法の一つである。
この手法では、まず、データの流れを出力から入力の順に分析する。この際に用いられるのがデータフロー・ダイヤグラムで、機能を表すプロセスとデータを
表すデータストアを矢印(データフロー)で結合し、機能情報の関連を図示したものである。次に、データフロー・ダイヤグラムに記述された入力から出力ま
でのデータの変換過程に着目して、処理機能の分析を行う。この段階は、構造化設計とよばれ、トップ・ダウンでモジュール分析した後にモジュール間の関係
を明らかにするという手順で行われる。
◆手続き型言語/非手続き型言語(procedural language/non‐procedural language)〔1994 年版
コンピュータ〕
手続き型言語は、変数の値を書き換えることを前提とし、計算の手順を直接的に記述するプログラミング言語で、ノイマン型コンピュータの機械語の動作の直
接的な表現に近いものである。現在、ソフトウェアの開発に使われている主要なプログラミング言語であるCOBOL、FORTRAN、BASIC、C、P
ASCAL、Ada などはすべて手続き型である。
これに対して、ノイマン型の逐次的な手順型実行の概念にによらずに記述するプログラム言語を非手続き型言語という。計算の過程を関数の合成で記述する関
数型プログラミング言語(LISPなど)や、処理対象の間の関係を示す論理式で記述する論理型言語(Prolog など)がある。これらは、処理するデータの間
の関係や処理対象の間の因果関係を記述するため、処理の構造が分かりやすい、並列処理構造の表現がしやすいなどの特徴があり、人工知能用言語として注目
されている。
◆第四世代言語(4GL)(4th Generation Languages)〔1994 年版
コンピュータ〕
第四世代言語の明確な定義はない。通常は、データベースの扱いを前提としたオンライン事務処理用のアプリケーションを対話型で開発するための支援ツール
のこと。
習得とシステムの変更が容易で、COBOLやFORTRANなどより生産性が数倍以上向上するといわれている。ほとんどの事務処理業務に適用できるが、
それぞれ得意な適用分野があり、各言語を使いわけることが望ましい。
今後、4GLはシステム開発全体を支援する一貫支援ツール群の中核になるとみられている。現在、知られている4GLには、IBMのCSP、ユニシスのM
APPER、インフォメーション・ビルダースのFOCUSなどがある。
◆プロトタイピング(prototyping)〔1994 年版
コンピュータ〕
主に、ソフトウェア開発の初期の段階において、小規模なプログラムなどを使って、エンドユーザーの要求確認、プログラムの仕様確認を行う手法をいう。プ
ロトタイピングモデルを使って入出力仕様確認などを行うことによりエンドユーザーは、早期の段階でシステムに関するイメージを明確化でき、適切な要求を
だすことができる。一方、このことは開発者にとっても早期に問題点が指摘され、システムの方向付けが明確化されるという意味において非常に有効である。
◆DBMS(データベース管理システム)(Database Management System)〔1994 年版
コンピュータ〕
データベースの維持と運用、すなわち、複数のユーザーが同時に更新や検索をしても効率よく処理しかつデータに矛盾が起こらないように管理するソフトウェ
アをDBMSという。また、DBMSをハードウェア化して組み込んだコンピュータをデータベース・マシンという。
DBMSは汎用ソフトウェアとして多くの商用システムが開発されており、これらはデータ構造から、階層型、ネットワーク型、リレーショナル型に分類する
ことができる。近年、オブジェクト指向DBMSが登場し始め、複雑な図形データの管理や、音声、イメージ等のマルチメディア・データの統合管理に威力を
発揮している。
◆自然言語処理〔1994 年版
コンピュータ〕
自然言語とは、相互の意志疎通を行う手段として、人類の誕生とともに自然発生的に生まれ、人類の進化とともに発展してきた言語をいう。計算機を用いて自
然言語を処理するのが自然言語処理である。
自然言語処理の意義は、言語理解の過程がどのようになっているかを研究し、使用言語の相違に基づく意味上の差違を解消して、人間とコンピュータとの新し
いインタフェースを確立することである。
自然言語処理の応用には、ワードプロセッサの文字作成支援、データベース・システムの自然言語インタフェースによる検索、機械翻訳やエキスパート・シス
テムへの質問応答などがある。
◆機械翻訳(machine translation)〔1994 年版
コンピュータ〕
ある言語で書かれた文章(英文)を別の言語の文章(日本文)に訳すことを翻訳という。機械翻訳とは、これをコンピュータを用いて自動的に行わせることで
ある。現在日本では、フレーム・メーカーやソフトウェア会社が開発している。翻訳システムは、技術分野向け、経済分野向けなど専門分野に分かれる。
翻訳方式は、(1)単語の置き換えや語順変換等による直接変換方式、(2)源言語の中間表現を目的言語の中間言語に変換する過程を含むトランスファ方式、
(3)意味解析を徹底的に行い、入力文を言語に依存しない普遍的意味表現(ピボット言語)に変換するピボット方式の三つに大別される。
◆バイオサイバネティクス(biosybernetics)〔1994 年版
コンピュータ〕
一九四三年にW・S・マカロックとW・H・ピックは神経細胞の動作原理を表現する数理モデルを発表した。バイオサイバネティクスとはコンピュータを利用
し、神経回路数理モデルによって情報処理という観点からの脳の動作メカニズムを解析する研究方法の総称である。その主な数理モデルには、(1)視覚神経
系階層構造モデル、
(2)パターン認識における学習モデル、
(3)フィードバック型パターン認識モデルがある。これらのモデルでは、実際の脳の回路網全体
を調べつくせないので、特定の部位、機能についての研究が行われている。思考、記憶、意思決定などの高度なモデルは、まだ、部分的にしか研究されていな
い。
◆仮想現実感(VR)/人工現実感(AR)(virtual reality/artificial reality)〔1994 年版
コンピュータ〕
仮想現実感とは、人間の感覚器官にコンピュータによる合成情報を直接提示し、人間周囲に人工的な空間を生成することである。これは人工現実感
(artificialreality)とも称されている。人工現実感の研究は現在機械技術研究所や米航空宇宙局で進められている。仮想体験システムは、仮想現実感の技術を
応用して、仮想環境を作り出し対話的に疑似体験を提供するシステムのこと。事例には、住宅展示場で特殊なアイフォンというメガネに写る虚像とデータグロ
ーブによりキッチンルームの体験をしたり、難病児の医療用として病室で多摩動物公園を散策する体験をしたり、教育用にタービン発電機の生産工場モデルで
危険な作業の安全性を学ぶことなどがある。
◆シミュレーション(simulation)〔1994 年版
コンピュータ〕
シミュレーションとは、現実の場を使って実験することが困難な場合または不可能な場合に何らかの模型を作って実験を行うものである。また、さまざまな情
報を収集し、分析し、起こりうる状況を想定して行動の指針にする方法ともいわれている。コンピュータ・シミュレーションは、数学的モデル(模擬表現)を
作成してからプログラムを開発し、コンピュータによって実行するもので、確率論的と決定論的シミュレーションがある。その開発はかなり複雑で高度な技術
が必要なため、GPSSやDYNAMOに代表される汎用シミュレーション言語が各種開発されている。
▲よく使われるコンピュータの基礎用語〔1994 年版
コンピュータ〕
エンド・ユーザー・コンピューティング(EUC)の意識が高まっている。これを支援するには、エンド・ユーザーとコンピュータとがフレンドリーに対話が
できる環境の設定が必須条件である。特に、ヒューマンインタフェース、マルチウィンドウ・システム、分散統合処理などの情報技術が重要である。
◆アーキテクチャ(architecture)〔1994 年版
コンピュータ〕
ハードウェア・ソフトウェアを含めたコンピュータシステム全体の設計思想、つまり構成上の考え方や構成方法のことをアーキテクチャという。これによりコ
ンピュータシステムの使い勝手、処理速度などの基本的な性格が決まる。具体的には、ハードウェアでは、処理単位である語長、記憶装置やレジスタのアドレ
ス方式、バスの構成方法、入出力チャネルの構造、演算制御や割り込みの方法などがある。また、ソフトウェアでは、オペレーティング・システム(OS)の
機能と構成、使用言語、プログラム間のインタフェースなどである。
◆統合ソフトウェア・アーキテクチャ〔1994 年版
コンピュータ〕
コンピュータシステムは、汎用コンピュータ、ミニコン、パソコンなどの製品体系別に組まれており、同一メーカーのコンピュータであっても製品体系が異な
るとアプリケーション・プログラムが動作しない。
統合ソフトウェア・アーキテクチャは、この問題を解決するために、複数の製品体系に共通した開発環境と操作環境を提供して、製品体系あるいは基本ソフト
ウェア(OS)が異なってもアプリケーション・プログラムを共有できるようにする新しいソフトウェア開発体系である。
代表的なものに一九八七年四月にIBMが発表したSAA(Systems Application Architecture)、富士通のSIA、日立製作所のHAA、日本電気のDINA
などがある。
◆オペレーティング・システム(OS)(Operating System)〔1994 年版
コンピュータ〕
OSは、狭義にはコンピュータの各種ハードウェアとユーザープログラムとの間に位置し、コンピュータに付属する各種資源(コンピュータ本体、ディスプレ
イ、プリンタ、記憶装置など)の資源を効率的に管理し、ユーザープログラムからの要求に対して資源を割り当てたり、各プログラムの実行をスケジュールし、
監視する制御プログラムとしての役割を行う。
また、広義には、各種言語のコンパイル、アセンブル、リンケージ等の言語プロセッサとしての働き、各種ファイルユーティリティ(ダンプルーチン、プリン
トルーチン、エディタ等)などサービスプログラムの提供を行う。現在使用されている主なOSとしては、UNIX、MS‐DOSなどがある。
◆コンパイラ(compiler)〔1994 年版
コンピュータ〕
FORTRAN、C言語、COBOL、PL/1などの高級言語で書かれたプログラムを機械語プログラムに翻訳するプログラムまたは、そのプログラム言語
の総称。
一般にコンピュータ自身が唯一理解、実行できる言語を機械語とよぶ。この機械語を人間が直接理解し、使用することは、不可能に近い。そこでプログラムを
人間が使用する口語に近い形で記述し、その言語の機械語への翻訳をコンパイラが行う形式をとるほうがプログラムの作成、保守には有利である。
また、機械語はコンピュータのハードウェアに密接に関連するため使用するコンピュータによってまちまちである。そこで各コンピュータがこのコンパイラを
用意することによって、人間が記述するプログラムはコンピュータに左右されにくいものにした。
◆インタプリタ(interpreter)〔1994 年版
コンピュータ〕
高級言語で書かれたソースプログラムを処理の実行にそって一文ずつ読み込み機械が理解できる形に翻訳しながら実行するプログラムまたは、そのプログラム
言語の総称。コンピュータの歴史からみると、インタプリタの存在の前に高級言語としてはコンパイラが存在した。
パソコン用のインタプリタとして有名なBASICは、元来、汎用機のコンパイラ、FORTRANの入門用として発明された経緯がある。
インタプリタは、すべての処理の実行に先だって機械語への翻訳を一括して行うコンパイラに比べて処理速度の遅さなどの問題があるとはいえ、任意の文の実
行がその場ででき、結果の確認が容易であるためプログラムの入門、デバックに幅広く使用される。
◆分散統合処理〔1994 年版
コンピュータ〕
分散処理とは、一台のコンピュータで行っていた処理を処理レベルにあわせて何台かのコンピュータを使用し、段階的または並列的に行うシステムの総称のこ
と。分散統合処理とは、ホストコンピュータの機能を分散することおよび分散から統合することである。
ユーザー部門に分散配置されたワークステーションやパソコンの高度化によってデータやプログラムの重複管理、データの全社的な共有化ニーズが増加し、処
理機能が限界にきている。これらに対処するため、分散統合処理が必要になってきた。具体的なシステムとしては、クライアント・サーバシステムやパソコン
LANがある。
◆マルチタスク(multitasking)〔1994 年版
コンピュータ〕
コンピュータ処理において、見かけ上、同時に複数の仕事(タスク)を処理できるようにした処理方式をいう。同種の用語にマルチジョブがある。また、同時
に一つの仕事しかできないものをシングルタスクという。マルチタスクは一般に仮想記憶を前提としており、大型コンピュータやミニコンではCPU(中央処
理装置)の能力が高くマルチタスク方式が当然となっているが一九八七年頃からパソコンにおいてもマルチタスク方式が採用されはじめた。パソコン用のマル
チタスク方式のオペレーティング・システム(OS)には、OS‐9、コンカレントCP/M、UNIXなどがある。現在、よく使われているMS‐DOSの
4.0 より低いバージョンのものはシングルタスク方式である。
◆トランザクション処理(transaction processing)〔1994 年版
コンピュータ〕
遠隔地の端末から利用者がコンピュータに処理を要求する単位をトランザクションといい、トランザクションをリアルタイムで逐一処理していくコンピュータ
の処理形態をトランザクション処理という。
航空機や鉄道の座席予約や預貯金システムなどが代表的なもので、リアルタイム性、障害時の復旧、排他制御、高い処理効率などが要求される処理である。
◆ヒューマン・インタフェース/マンマシン・インタフェース(MMI)(human interface/Man‐Machine Interface)〔1994 年版
コンピュータ〕
全く勝手に動く二者間の情報のやり取りを行うための取り決めや媒体装置あるいは技術をインタフェースという。マンマシン・インタフェースとは、人間とコ
ンピュータシステムとのインタフェースのことである。ヒューマン・インタフェースは、人間を表す一般的な言葉としてマンの代わりにヒューマンを用いると
いう配慮から使われ、「人間に近い形のインタフェース」として用いられている。
MMIの向上のための研究とは、人間にとっての使いやすさの追求であり、自然さ、便利さ、安全性などの観点から各種の研究開発が行われている。これまで
の変遷をたどってみると、
(1)カードによる一括処理、
(2)TSS端末による対話型処理、
(3)コマンドやメニューによる操作指示、
(4)マルチウィンド
ウの画面に向かってマウスによる操作指示、などへ移行してきている。
◆マルチウインドウ(multi‐window)〔1994 年版
コンピュータ〕
マルチウインドウは、コンピュータのディスプレイの画面をウインドウ(窓)とよばれる複数の領域に分割して、同時に複数の処理の状況を見られるようにす
るものである。マンマシン・インタフェース向上の要求に伴い、一九八二年頃から一般にパソコンやワークステーション(WS)への適用が始まった。マルチ
ウインドウ・システムには、マルチタスクをサポートしているか否か、それぞれのウインドウで動いているタスク間でデータ交換ができるか否かなどの違いが
ある。代表的なものに、米マイクロソフト社のMS‐DOS用の日本語MS‐WINDOWSVer3.1、UNIX用のX‐WINDOWS、ゼロックス社のワークス
テーションJ‐Star などがある。
◆仮想記憶(virtual memory)〔1994 年版
コンピュータ〕
一般に現在のコンピュータは、主記憶装置に展開されたプログラムの実行しかできないため、主記憶の容量を越えた大規模なプログラムはそのままでは実行で
きない。また、主記憶を構成する素子は、その速度要求等との関連から非常に高価なものが使用され、いちがいにこの部分を大容量のものにするわけにもいか
ない。
そこで考えだされたのが比較的安価な補助記憶装置を利用する仮想記憶である。
仮想記憶は、プログラムの実行に先だってその処理を行うために必要な部分のみを主記憶に読み込み、不必要になった部分を主記憶から排除するという処理を
繰り返すことで、あたかも補助記憶装置も主記憶の一部分であるかのように利用するのである。
◆MIPS(Million Instructions Per Second)〔1994 年版
コンピュータ〕
コンピュータが単位時間に実行できる命令の数を表す単位。一MIPS(ミップス)とは一秒間に一〇〇万回の命令が実行できることをいう。現在の超大型コ
ンピュータは、およそ一〇から一〇〇MIPS程度の性能である。関連用語としては、浮動小数点演算の速度の単位を表すFLOPS(フロップス)、論理演
算の単位を表すLIPS(リップス)などがある。
●最新キーワード〔1994 年版
コンピュータ〕
●CASE(Computer Aided Software Engineering)〔1994 年版
コンピュータ〕
CASEは一九八六年頃から使われ始めた言葉で、コンピュータ支援ソフトウェア工学と呼ばれ、その目的はソフトウェアのライフサイクル全般にわたる自動
化である。
第一世代CASEは、ソフトウェア開発において、要求分析から基本設計まで上流工程を支援するアッパーCASEと、詳細設計から原始プログラムや設計書
や操作説明書などのドキュメント(文書)の自動作成まで下流工程を支援するロウアーCASEからなる。
現在は第二世代CASEの統合型CASEに移っている。それは、要求分析から保守に至るソフトウェアのライフサイクル全体にわたって、一元的な開発環境
を取り扱うことができる。統合型CASEでは、統一されたユーザー・インタフェースによって各工程別ツールにアクセスできること、各工程で作成されたド
キュメント、原始プログラム、テストデータといったソフトウェア資産が共通データベースに標準化された形式で保管されることが不可欠である。
導入効果としては、設計品質の向上、ソフトウェアの再利用化と開発期間の短縮化、生産性の向上、開発情報の一元管理化、開発方法論の普及などが挙げられ
る。
●クライアント・サーバシステム(CSS)(Cliant Server System)〔1994 年版
コンピュータ〕
クライアント(顧客、具体的にはユーザーのパソコン)からLAN(構内情報通信網)上の異なる複数のパソコン、ワークステーション、メインフレームなど
のもつ資源(サーバ)を連携させ、分散処理するシステムのことである。資源を提供する側をサーバ、サーバに処理を要求する側をクライアントという。ただ
し、サーバとは、LANにおいてファイル、プリンタ、通信などの特別な機能を専門的に行うプロセッサのことである。CSSは次の四つのシステム開発・運
用環境を提供する。
(1)EUC環境
クライアントに対してデータファイル、プリンタ、プログラムなどを共用する連携機能を提供する。
(2)GUI操作環境
エンドユーザーが可視的にわかりやすく簡単に操作できる環境を提供する。
(3)相互運用支援環境/オープン環境
異機種のホストコンピュータとクライアントとを接続しかつオープン使用を可能とする環境を提供する。
(4)システムインテグレーション支援環境
CASEなどの情報システム構築の支援環境を提供する。
●グループウェア(groupware)〔1994 年版
コンピュータ〕
協調して作業を進めるグループのために特別に設計されたシステムのこと。また、グループによる知的生産活動を支援するコンピュータ・システムともいわれ
る。グループウェアの代表的な製品としては、電子会議システム、グループ内文書添削・推敲システム、設計会議支援システム、グループスケジュール管理な
どがある。これらのシステムは、個々の機能についてのアプリケーションがほとんどで、グループ活動全体を網羅するシステムは現在みあたらない。
グループウェアの技術的課題としては、
(1)人間の共同活動のモデル化や交換情報のモデル化を行う技術の確立、
(2)必要な情報を的確に選別し、利用者に
提示する情報フィルタリング技術、
(3)利用者に自由度の高いアクセス制御権を与えるための共有データの管理技術、
(4)グループ調整機能を含むグループ
通信技術、(5)共同作業を円滑に実施するため、参加者間に密接な情報交換を行うコラボレーション(協調型共同作業)技術などがあげられる。
●オープン・システム(open system)〔1994 年版
コンピュータ〕
一般には一つのメーカーやベンダーに依存しない、標準化または開示されたインタフェースをもつコンピュータ・システムのこと。オープン・システム化の意
義として、情報システムの相互運用性の確保を図り、ユーザーの機器選択の幅を広げるとともに不必要な重複投資を回避すること、情報通信環境をつくり、業
界内や業際間の情報流通の促進を図ること、マルチベンダー環境を生かして継承情報資源の有効活用を図ること、ソフトウェア・パッケージの市場創出により
ソフトウェア開発費が軽減することがあげられる。
オープン・システムのOSには九四年の半ばまでに世界統一規格が決まったUNIXがあり、オープン・プロトコル・アーキテクチャには、標準OSI(開放
型システム間相互接続)がある。また、ネットワークOSも開発されており、代表的なものに、ノベル社の Net Ware、マイクロソフト社のLANマネジャー
やウインドウズNTなどがある。
●エンド・ユーザー・コンピューティング(EUC)〔1994 年版
コンピュータ〕
EUCとは、エンド・ユーザー(利用部門)が自部門の情報システムに対して設計・構築・運用等のすべてを主体的に行うこと。EUCの思想は、利用部門の
不満が始まりという。つまり、情報システム部門は利用部門の情報化要求に対して、硬直肥大化した情報システムの保守や運用で手一杯のため、サービスの低
下やシステムのバックログ(開発待ち)の増加という事態が発生した。このような状況に対して当然利用部門は自分たちを主体に意識、やり方、体制を変えよ
うとする動きが現れた。また、この時期にEUCを支援する技術として、第四世代言語、グラフィカル・ユーザー・インタフェース、統合型CASE、オープ
ン・システム化技術等が登場した。
EUCの実現化には、
(1)操作が容易で利用部門が直接使用できる第四世代言語の利用、
(2)ネットワーク化により、利用部門の共同作業が可能となったパ
ソコンLAN(構内情報通信網)の利用、(3)利用部門が計画、分析、設計作業に参加すれば、情報システムを自動作成できる統合型CASEの利用という
三つの形態がある。
●グラフィカル・ユーザー・インタフェース(GUI)〔1994 年版
コンピュータ〕
GUIはユーザーと計算機システムの節点となる技術で、視覚に訴えたグラフィック表示で、ユーザーにとって簡潔で理解しやすい環境を提供するものである。
GUIの意義として、ユーザーと計算機の間に発生する複雑さを抑え、ユーザーの生産性、満足度を最大化すること、ユーザーがアクセスする範囲を拡大し、
かつて可能でなかったことを可能にすること、ウインドウ画面におけるグラフィック情報の直感的なわかりやすさと操作性を人間工学の観点から研究すること
である。
GUIの研究は米ゼロックス社を中心に一九七〇年代から始まったが、その商品化ではアップル社がパソコン上で実現させた。GUI環境として、MS‐DO
SではMS‐Windows、OS/2では Presentation Manager、UNIXでは Motif や Open Look などが提供されている。
これらは、いずれもオブジェクト指向概念を基に設計されている。そのため、日常われわれが生活しているのと同様の環境をコンピュータの中に類似的に取り
出し、日常感覚の延長線上で自然にコンピュータを操作できるようになった。
●ハイパーメディア(hyper media)〔1994 年版
コンピュータ〕
ハイパーメディアとはテキスト、音声、図形、アニメーションやビディオの画像など複数の情報を意味上まとまりのあるノードと呼ばれる小部分に分割し、ノ
ード間をリンクにより関係づけたネットワーク(網の目)構造のことである。このリンク機能を使用して情報を有機的につなぎ、芋づる(ナビゲーション)式
に関連する情報を対話的に引き出すことができる。
ハイパーメディアの意義は、人間の思考を豊かな表現力で容易にかつ自由に関係づけて、思考支援やコミュニケーションの円滑化を図ることである。
ハイパーメディアの特徴として、
(1)具体的なデータ値に対して次々と直接操作を行うナビゲーションによる情報検索機能、
(2)データと手続きの一体化に
よって、データ自身に関連情報を引き出す操作が付与されていることである。
この応用としては、電子出版、文書化を容易にする知的ファイリング・システム、企業電子編集印刷システム、思考支援システム、画像や音声の解説付き教育
システム、ビュジアルなガイドシステムなどがあげられる。
●オブジェクト指向概念(object‐oriented concept)〔1994 年版
コンピュータ〕
オブジェクト指向概念は、データと手続きを一体化(カプセル化)したオブジェクトという自律的機能モジュールが互いにメッセージをやり取りしながら協調
して問題を解決するという考え方である。
個々のオブジェクトは、あるオブジェクトからメッセージを受けると、手続きが起動され、自分自身に記述されている手続きを実行する。ただし、データに対
しては、情報を隠ぺいしているため外部から直接アクセスできない。したがって、オブジェクト同士の独立性は非常に高いため、プログラムが単純化され、生
産性と信頼性の高いシステムを構築できる。また、データの値が未定の場合オブジェクトをクラスとして定義し、機能が同じでデータの値だけが異なる複数個
のオブジェクト(インスタント)を効率よく生成できる。さらに、上位クラスのもつ手続きを下位クラスの手続として継承できるような階層構造により、少し
ずつ機能の異なるオブジェクトを効率よく作成できる。
この概念に基づいて Small talk
80 や Lisp などのオブジェクト指向プログラミング言語やオブジェクト指向データベース・システムなどが開発されている。
●RISC(縮小命令セットコンピュータ)(Reduced Instruction Set Computer)〔1994 年版
コンピュータ〕
RISCは、CPU(中央処理装置)内の命令語のアーキテクチャ(設計思想)に関する言葉である。
従来からのCISC(複合命令セットコンピュータ
Complex Instruction Set Computer)は、複雑な命令語体系をもち、計算速度やコストが犠牲にされてい
た。しかし、RISCは単純で限定された数の命令語体系をとり、演算方式を単純化してスピードアップとコスト削減を図った。現在、RISCチップの主な
製品にはSPARC、PARISC、MIPS、パワーPC、アルファがある。ワークステーション(WS)市場での競争は、一面ではRISCチップの競争
といわれ、WSメーカはこれらの製品別にグループ化されて覇権を競っている。その結果、初期において高速処理やグラフィック処理を必要とするエンジニア
リングWSなどの高度情報機器には欠かせない部品であったが、現在はRISCチップの低価格化が進み、ビジネスWSの市場が拡大されている。また、無停
止型のOLTPマシンにも搭載されており、さらに六四ビットのRISCを搭載し、処理能力が 200MIPSもあるWSが発売され、いよいよ六四ビットの時
代に突入する。
[株式会社自由国民社
現代用語の基礎知識 1991∼2000 年版]
▽執筆者〔1994 年版
OA革命〕
山本
直三
1929 年東京都生まれ。早稲田大学政治経済学部経済学科卒業。東芝OA機器事業部,東芝OAコンサルタント取締役を経て,現在,愛知学泉大学教授。著書
は『実戦オフィスオートメーション』(青葉出版)『日本語ワードプロセッサの活用法』『ワープロ文書生活』『ワープロ市民講座』(ビジネスオーム)など。そ
のほか日本事務機械工業会において,6年間にわたりワープロ部会長を務め,OA委員会および標準化委員会で活動し,現在もOA利便性調査研究委員会で活
動中。
◎解説の角度〔1994 年版
OA革命〕
●OAと言えば,ワープロ,パソコン,ファクシミリなどを使うことを安直に連想し,これらの道具を習得しさえすれば,それでOAを理解したと思うのは早
計すぎる。OAを理解しそれを実践するには,まずOAの本質を理解する必要がある。
●OAは,Office Automation の略で,直訳するとオフィスの自動化となるが,物的製造の自動化とは本質的に異なる性質を持つ。オフィスでは,事務や経営
活動が効率的かつ効果的であるべく,人間が共同して,創造的かつ快適に働ける環境とその仕組みを築くことが肝要である。つまりそこでは人間が主役という
本質がある。
●この本質を基本として,高度情報環境の活用を重視して,新しいオフィスの仕組みを作り出そうとするのがOAである。
●コンピュータやワークステーション,通信ネットワーク,OA機器の活用,データベースなどの情報環境など,インフォメーションテクノロジーによって,
どのようにオフィスを変革するか,どのようなニュービジネスを生み出せるか,オフィスで働く人はどうあるべきか,どんな問題が生ずるかなどもOAの課題
となる。
★94 年の最新語〔1994 年版
OA革命〕
■OAの課題と目標〔1994 年版
OA革命〕
OAは、様々なとらえ方をされ、様々な意味を持っている。
学校を卒業して就職しようとする人にとって、
「OAをする」ということは、パソコンやワープロを使うこと、つまりOA機器を操作することを意味している。
それは就職のためもあるし、家庭でOA機器を利用し楽しむためでもある。それほどOA機器は日常化している。経営体にとってOAとは、OA環境・OA機
器を利用して、企業の組織・運営形態・作業形態を変革し、より効果的かつ効率的な経営活動ないしオフィス活動を展開することを意味している。
OA環境は、コンピュータ、通信ネットワーク環境、OA機器およびこれらの要素を土台として発展する高度技術、さらに様々な応用システム、職場環境およ
びサービスからなる。これらの環境を高度情報環境と総称することができる。
このような環境は、マイコン技術の進展によって急速に進展し、これがオフィスから家庭生活にまで広く影響を及ぼしつつある。
「OAをする」ということは、
高度情報環境に適応し、OA環境を効果的に利用できるようにすることにもつながる行為である。
現代の国際環境において、わが国社会は、国際環境への対応、バブルの崩壊や円高の進展への対応など、経営およびオフィスは、創造と変革を強く迫られてお
り、OAは、その変革の主要な手段である。
★1994年のキーワード〔1994 年版
★ウインドウズ 3.1(WINDOWS
OA革命〕
3.1)〔1994 年版
OA革命〕
マイクロソフト社が開発したMS‐DOSによる三二ビットCPUを前提としたマルチウインドウ型のOSである。複数の業務を同時に動かし、それぞれ独立
した表示画面を用意し、実行状況などを表示でき、それぞれのプログラム間でデータや情報を交換しあうことができる。また、マルチメディア対応の機能を持
っているほか、操作はアイコン方式で、きわめて簡単になっている。これからのパソコンOSでは主流となると見なされ、コンピュータ各社は続々と採用を始
めた。
★CADオペレーター〔1994 年版
OA革命〕
景気低迷で人員削減のおり、特殊OA技能が重視されるようになり、その一つとしてCADオペレーターが注目されている。コンピュータ支援によるインテリ
アデザイン、型紙設計、図形の描画などの作業であるが、CAD技能のほか、グラフィックデザインの感覚が必要とされる。
★CD‐ROM書籍〔1994 年版
OA革命〕
読みだし専用のコンパクトディスクを使ったマニュアルないし書籍で、パソコンを用いて読む。文字はもちろん、画像はカラーで動画も可能、音も聞けるとい
うマルチメディアの電子書籍で、アトラクティブである。マニュアル、英会話、童話、辞書などが発売されている。
CD‐R(書き込みもできる)の開発が進んでいるが、これではさらに書き込みなど、双方向的な書籍も期待できる。
★ワイヤレスカード(wireless card)〔1994 年版
OA革命〕
ICカードの一種で、無線通信機能を組み込んだもの。郵政省で実用化が検討されている。たとえば利用法の例として、高速道路料金をあらかじめ支払った料
金をワイヤレスカードに記録させ、トールゲートを通過するとき、カードが車にセットされてあるだけで自動的に料金が差し引かれ、通過できる。
★電子投票システム〔1994 年版
OA革命〕
投票所に電子投票ボックスを置き投票者がボックスに入り操作をすると、投票者の確認、投票内容の入力などが行え、ネットワークで全部のボックスの投票結
果を即座に集計するというシステム。選挙には有力なシステムと自治省が採用を検討中であるが、公職選挙法の改正や不正防止対策など、さまざまな課題がま
だある。
★自動翻訳電話〔1994 年版
OA革命〕
国際電気通信研究所が開発を進めており、日本・アメリカ・ドイツの三国間で実験が行われている。それぞれ母国語で発言すると、向こうの言葉に自動的に翻
訳される。翻訳されるまで、数秒から数十秒かかること、内容が明瞭な文と発音であることが要求され、簡単な内容に限るが、異国交流の幅を広げるのに期待
される。
▲OAの意味と各種の考え方〔1994 年版
OA革命〕
コンピュータ、ネットワーク、OA機器、データベースなどの活用により、それを利用しないよりは、一段と効果的で効率的なオフィスの仕組みを構築し、快
適な職場環境を築くことができる。企業が生き抜いていくのにOAの発展にとって、OAとの取り組みは必須であり、個人にとってオフィスにおいて活動する
のに、OAの理解、OA機器の習得も大切である。しかし、OAの進展において、企業、個人間の格差を生み、ストレスも生ずるなど、配慮すべき課題も多く
生じる。
◆オフィス・オートメーション(office automation)〔1994 年版
OA革命〕
略称OA。事務機械化のアプローチは以前からあるが、経営およびオフィス全体を対象とする合理化への指向は新しい。OAという用語が最初に公式の場で使
用されたのは、一九七八年アメリカのナショナル・コンピュータ・コンファレンス(NCC)であった。以来、年とともにOAショーが世界で開催され、OA
の概念も定着した。高度情報社会に適応するためにOA推進は必然的なものである。OA機器はインテリジェント化され、コンパクトになって、個人ごとに保
有し、しかもネットワークで接続できる。LANやVANなどのネットワークが充実し、通信網はISDNによりデジタル化され、強力になり、OA環境は一
段と促進されつつある。
エレクトロニクスや新しい材料技術の発達にともないコンピュータをはじめ情報機器、通信機器、AI技術の発達がめざましく、これを活用するためのソフト
ウェアも発達。この電子的環境の下で、従来とは情報の質・量と時間をまったく異にした、はるかに理想的な情報システムを構築することができる。新技術を
前提としたシステムの編成や企業間結合やニュービジネスの創造に関する動きをオフィス・オートメーションという。これからはOAを前提とせずに経営シス
テムの構築は成り立たないであろう。
◆オフィス生産性〔1994 年版
OA革命〕
OAは一般的に電子情報環境に適応するもので、簡単に生産性だけで評価するべきものではない。しかし企業などでは、当面の利益や投資効果を重視して、経
費、スピード、原価、作業時間など、測定できる尺度に基づいて、生産性を測定することが多い。しかし、オフィスでは情報が主な取り扱い対象であり、人間
関係やアイディアや創造性など計りきれない課題が多い。測定可能な効率だけでOAを評価することはまちがいであると考えられる。たとえば営業行為をとっ
てみて、どんなに効率よく商品を揃えてみても、ほとんど売れず、ただ一種類の商品のヒットによって、利益が出たというように効率性がすぐに最終的な利益
や売上高に結びつかないケースが多い。開発でも同様である。また、効率化による効果が数年後に現れるケースが普通である。一般に生産性を測定するときの
尺度を、実際に測定できる勤務時間、事務労働時間、ファイル量、伝票の量、研究テーマ件数、事務処理スピードの測定量、研究時間、調査時間、経費など具
体的な数値の期間別の推移でとらえて評価する。オフィスは経営戦略の場であり、効率よりも、いかに戦略的に効果的な情報が提供されるかが重要なのである。
この生産性の評価は困難である。
OAの推進によって得られた時間的余裕や蓄積された知識や、AIや意思決定システムなどによる高度な判断、あるいはネットワークによる広域な活動能力な
どは、新しい経営資源である。これを活用する領域を、成果活動領域と称する。
この活動領域において、要員の活性化、経営戦略、経営の方向づけの活動が重要になってくる。OA時代では、経営者の真の実力が問われる。
◆ファクトリー・オートメーション(FA)(factory automation)〔1994 年版
OA革命〕
製造システムのオートメーションのこと。製造設備のオートメーションによって製造段階の自動制御による自動化と無人化が進む。この結果、要員の作業内容
は、設備の計画、整備保守、製品製造計画などオフィス・ワークが多くなるなど、ここもOAとは密接な関連を持っている。CAD(computer aided design)、
CAM(computer aided manufacturing)、CAT(computer aided testing)、CAE(computer aided engineering)などコンピュータ援用による方式はO
Aと密接に関連する領域のシステムである。FAは工場にとどまらず建設作業、運送作業などにも適用が進んでいる。通産省は一九八八(昭和六三)年度から
FA標準化推進五カ年計画を進め、FAシステムおよび一般オフィスとの相互接続を推進するためにOSIと調整をはかりながら実装規約をまとめてきた。F
Aはオフィスにおける機械的反復作業にも適用され、そのうちにロボットがオフィスで書類搬送サービスさえ務めてくれることもありうる。
◆フレキシブル・オフィス・オートメーション(flexible office automation)〔1994 年版
OA革命〕
ファクトリー・オートメーション(FA)では、ロボットの進展で、生産ラインが従来の単一生産工程の方式ではなく同一の工程で複数品種を柔軟に生産する
方式に変化していく。これと同じようにオフィスでもOAによって、在来の分業形態から、個人または職場が担当範囲を拡大して、広範な責任と機能を果たし
ていくようなフレキシブルなシステムとなる傾向にある。これによって分業から全人的な仕事の形態に移行し、やり甲斐のあるオフィス・システムとなるとさ
れている。
◆ラボラトリ・オートメーション(LA)(laboratory automation)〔1994 年版
OA革命〕
研究所や開発部門の研究開発のオートメーションもOAの一種である。研究開発の発想、資料の管理、思考過程から研究開発プロジェクトの管理に至るまで、
研究情報資源、開発支援ソフトウェア、エンジニアリング・ワークステーションなどOAシステムを駆使してソフトウェアの支援のもとに研究開発を進める。
◆ジョブステーション(Job station)〔1994 年版
OA革命〕
ワークステーションは主に端末機のことを指すが、これに対してジョブステーションという言葉が生まれた。これからのオフィスはOA機器を単に使うだけで
なく、オフィスの働く現場を、スペース、OA機器、ネットワーク、ファイリング環境、事務机、働く楽しさなどすべての条件を総合的にみたジョブステーシ
ョンという概念でとらえ、トータルで理想的な作業環境を考え出そうとする。そこにOA的な考え方が見られる。
◆フェイルソフト(failsoft)〔1994 年版
OA革命〕
OAシステムを構築するとき、システムの一部が故障したり、ファイルが破壊されたとき、その部分を切り離し縮退して、システムを維持、運用していく方法
である。分散処理システムでは、フェイルソフトに組みやすい。これにより、OAのバルネラビリティ(脆弱性)の補強が可能である。
◆OAインターフェース(Interface between human and OA System)〔1994 年版
OA革命〕
OAとは、システムが相互に接続して、統合的なシステムを形成する傾向が強い。また異なったシステムがネットワークを通じて情報を交換することが多い。
このためにシステム間の接続が問題となる。この相互接続を実現するための接点をインターフェースと称する。人間がOAシステムと接続する接点をマンマシ
ン・インターフェースあるいはヒューマン・インターフェースと称する。OAリテラシィは人間側のインターフェースであるといえる。
◆OAリテラシィ(OA
Literacy)〔1994 年版
OA革命〕
リテラシィとは「よみかきソロバン」をいう。これからはOA機器を介するコミュニケーション、電子的に蓄積された情報の検索、情報を要約して登録、電子
メールによる郵送などを行うことが多くなる。キータッチして事務をするなどは従来あまり馴染んでいなかった活動で、これもOAリテラシィの一つである。
キータッチもわが国では新しいリテラシィのひとつである。人間が在来のリテラシィで楽に操作できるようにOAインターフェースを人間にとって親しみやす
くする研究も盛んである。音声入力、手書き入力、マウス、アイコンなどがそれである。インターフェースは、人間の日常性にマッチするよう開発が行われよ
うが、人間サイドの習得は必要であり、ペンばかりに頼る意識から電子的なOAリテラシィも日常化するよう、考えを切り替える必要がある。
◆WYSIWYG(What you see is what you get)〔1994 年版
OA革命〕
OA機器の画面が人に親しみやすいようにインターフェースを提供しようとする考え方。たとえば、ディスプレイ画面に映し出される画面を、印刷で得られる
出力と同じ表現にしようとする概念である。DTPではWYSIWYGに編集することを最大の特徴としている。
▲OAオフィス環境〔1994 年版
OA革命〕
オフィスのシステム的な効率、効果、機能的に優れたオフィス、さらに快適なオフィスを築こうというような様々な考え方がある。
ネットワークによる外部との結び付き、ワークステーションなどOA機器の多面配置、そのパーソナル化、情報の蓄積と検索など、純粋なOAシステム環境に
対して、オフィスでは人間が主役という本質に着目して、人間が快適かつ創造的に働けるような環境や制度を研究し、作り出そうという、オフィス・アメニテ
ィという考え方がある。これには、OAによって生ずるストレスをなくし、生活の質を向上させようという考えがある。
◆エレクトロ・オフィス(electronic office)〔1994 年版
OA革命〕
コンピュータはじめOA機器により高度に装備され、レス・ペーパー、レス・エネルギー、レス・スペースが進行したオフィス。ここでは、必要な情報やデー
タはもちろん画像であれ文書であれ、直ちに手に入り、通信を用いて外部の情報を活用でき、相互に情報を交換し、情報を高度に分析加工できる。オフィスは
創造的かつ人間的思考活動に向く快適な環境となる。
◆パーソナル・オートメーション(Personal OA)〔1994 年版
OA革命〕
OAとは企業だけでなく、そこで働く個人活動に影響するし個人の生活にもおよぶ。OAは統合化とともに分散化の指向が強い。たとえばオフィスでは個人ご
とにワークステーションを持つ。これをパーソナル化という。そうなると必然的に個人がOA機能を自分のものとして活用できるわけであるから、自然と生活
の場でもこれを活用することになり、私的な活動にもOAが浸透する。これを見通して、様々な個人活動用のソフトウェアやサービスも提供される。また、I
SDNの進展により、個人的な広域活動も可能になる。これからは個人としてもOA武装が必要となる時代である。
◆エレクトロ・コッテージ(electronic cottage)〔1994 年版
OA革命〕
OA機器を装備し、外部と常時デジタル通信ができる、個人生活の中でOA的なオフィス・ワークのできる住居。トフラーが『第三の波』でその普及を予測し
た。経済のソフト化の進行で、コミュニケーションさえ十分にできれば在宅勤務で仕事ができるはずで、このような技術的環境を提供するのがこの電子住宅で
ある。
◆ホーム・オフィス(home office)〔1994 年版
OA革命〕
ネットワーク環境、パーソナルOA機器を利用することにより、自宅を外部に開かれたオフィスとして構成するもので、エレクトロコッテージと同じ。ホーム
オフィスを活用する社会システムの成熟にともない次第に増加しよう。個人業では、自然にホーム・オフィスとなる傾向がある。
◆ローカル・オフィス(local office)〔1994 年版
OA革命〕
OA、INSの進展によって、密接な通信環境が確立すればオフィスは中央に集中する必要はなく、極端には在宅勤務でもよい。そうすれば通勤地獄も解消す
る。だが、在宅勤務では人間的なコミュニケーションが図りにくい。その代わりに地域ごとに小規模のエレクトロ・オフィスを分散設置するという考えである。
これにより職住接近が図れる。
これをサテライト・オフィスとも称する。
◆サテライト・オフィス(satellite office)〔1994 年版
OA革命〕
ローカル・オフィスともいう。本社あるいは本部オフィスと離れて、分散して存在し、あたかも太陽の周りを回る衛星のような小型のオフィスという意味であ
る。これによって本社に集中しがちな要員を地方に分散し、都心のスペースコストの緩和、職住近接、交通地獄からの解放、空気のよい地域での健康的生活、
それを通じて地域社会との交わりなどを期待する。
このようなオフィス分散は、ISDNなどのネットワークや統合分散システムの充実などにより、情報技術的には可能であるが、仕事の進め方、労務管理、人
間関係、他企業や地域社会との係わりなど様々な面からの研究も必要であり、埼玉県の志木・上尾・鎌倉・横浜など、あちこちで実験的な導入が行われている。
東京一極集中の是正の決め手になるかどうか、それには官庁の分散も重要とされる。
◆インテリジェント・レンタル・オフィス〔1994 年版
OA革命〕
サテライト・オフィスは、都会を離れた衛星都市などに設置したローカル・オフィスであるが、これは逆サテライト・オフィスともいうべきものである。都会
の一等地に、OA機器などのインテリジェント環境を備えたオフィスを設置し、そのスペースを一般に臨時に提供するニュービジネスである。セールスマンや
集中的に作業をするようなプロジェクト・チームが利用している。
◆アミューズメント・オフィス(Amusement Office)〔1994 年版
OA革命〕
OAによるオフィス目標概念は、最初は効率や生産性を主とするものだった。次に効果やニュービジネスを生み出す創造的な場を目標とすることが考えられた。
これをさらに発展させて、働いて楽しく、創造的な場という概念が追求されるようになり、この用語が出てきた。日本事務機械工業会では「働く」という言葉
に「イ楽く」という新語を当てはめている。
◆ビル・オートメーション(Building Automation)〔1994 年版
OA革命〕
建物の空調、防災、暖房、衛生、照明、エレベーター、ドアの開閉、郵便などの総合管理をコンピュータで行うシステムのことである。ビルの全体的な状況を
知り、全体をバランスよく、合理的かつ自動的に管理していく。また、出入者の遠隔テレビ管理などをしてセキュリティ管理を行う。
雑居ビルなどでは、それぞれのビル利用者に対して、通信機能やコンピュータ機能など、インテリジェント環境を提供することがある。
◆ニューオフィス推進計画〔1994 年版
OA革命〕
コンピュータの普及、OAの進展と対比して、これまでのオフィスの環境では、ストレスが高じたり、目を悪くしたり、健康を害したり、それがひいては効率
の悪い状態を起こすなど、高度情報化環境にそぐわない状態がみられる。通産省では、新時代にふさわしい、健康で明るく快適なオフィスづくりを目指そうと、
ニューオフィス推進協議会を一九八六(昭和六一)年度に設置し、ニューオフィス化の指針を一九八九年に示している。これによると天井の高さ二・六メート
ル、照明拡散パネルの装備、気分転換スペースの設置、人間工学的オフィス配置、配線のアンダーカーペット化などが提唱されている。この計画に基づき基準
を達成したオフィスを毎年表彰している。
◆グループ・アドレス方式(group address method)〔1994 年版
OA革命〕
IBMがインテリジェント・ビルの机の配置について始めた柔軟な方式。営業部門など在席率の低い職場では、スペース効率がよくない。このため各人ごとへ
の特定机を割り当てをせず、数名のグループごとに、そのつど空いているスペースを割り当てる。この割り当ては、コンピュータに登録され、本人固有の電話
番号や端末IDもそのスペースに割り当てられ、在席場所も表示されるのであたかも自分自身の専有スペースと同じように使える。
◆EMC/電磁環境両立(electro‐magnetic compatibility)〔1994 年版
OA革命〕
電子的な機器が増加すると、それぞれから電磁波が発生し、相互に干渉し合って誤動作を起こしたり、電磁波が人体に悪影響を与えたりするおそれがある。こ
のため電磁波遮蔽ガラスなどが開発されている。郵政省では、電磁波に関する安全基準の制定を進めている。OA業界では電子部品や電子装置の電磁波の漏洩
を防止する機能をイミュニティ(immunity)と称し、VCCI(voluntary control council for interface)において対策を講じ、自主規制している。
◆VCCI(voluntary con.
trol council for interface)〔1994 年版
OA革命〕
情報処理装置や電子事務機械などの原因による電波障害を防止する目的で設立されたメーカー側の自主的な団体で、国際的な基準および郵政省の基準を充たす
ように技術基準と運用基準を定め、装置を規制している。装置には、商工業地域で使用される第一種と住宅地域などに適用される、よりきびしい第二種がある。
この基準に沿い妨害波が規定値以下であるものにVCCIマークが付けられている。
◆インテリジェント・ビル(intelligent building)〔1994 年版
OA革命〕
OAの展開に適した高度情報化ビル。高度情報通信、自動制御、ビルオートメーション、リフレッシュコーナーなど豊かなオフィスアメニティ環境、などのイ
ンフラストラクチュアを備え、ビル入居者が容易にOAの展開ができるような環境をもつ。単独の企業がインテリジェント機能をもつビルを建設する場合が多
いが、インテリジェント機能が共有できるようなビルの建設も進んでいる。テナントは、オフィスに入居するだけで、電子メールやコンピュータ機能など共用
インテリジェントサービスを受けられ、専有スペースではLANなどのネットワーク回線の展開、OA機器の柔軟な設置などが可能となる。また、EMCなど
安全対策も立てやすいようになっている。
▲OAによる社会の変化〔1994 年版
OA革命〕
これまで企業における効率化の追求がOAの主な場面であったが、ダウンサイジングによってだれでも高度な情報機器を入手し、活用でき、ネットワークの普
及により、OAの影響が、広く社会全般に及ぶようになった。
家庭もオフィスとして機能することが容易となるなど勤労形態にも変化が生ずる。電子的なマルチメディアによる情報のアクセス(受発信)が日常化し、情報
の表現形態が多彩になるほか、情報の広がり、スピードが敏速になる。それにつれて社会的なストレスも上昇し、適応能力の格差も問題となる。そのため学校
教育でも、情報教育などの対処がなされつつある。
◆VDT症候群〔1994 年版
OA革命〕
OAによって、パソコン、ワープロ、ワークステーションなどブラウン管が付いたビデオ・ディスプレイ・ターミナル(VDT
video display terminal)を多
用するようになったので、これらを使うことによる人体への影響が問題として出てきた。つまり輝度、色、電磁波、紫外線、放射線、などの影響やキーボード
を扱うことによる人体への影響などである。特に目に対する影響が心配されているが、最近はディスプレイの改良も進み直接な影響はないとされる。むしろ作
業姿勢や長時間の作業など、別の理由による肩こり、眼精疲労、けんしょう炎などが問題とされている。職場環境などによる心因的理由による問題もあるので、
いちがいに因果関係を特定することは困難であるが、研究すべき重要な問題である。
◆VDT労働省暫定基準〔1994 年版
OA革命〕
労働省では、一九八八(昭和六三)年基準を制定した。
(1)連続作業では、一時間の中で一〇分ないし一五分の休憩をとる、
(2)健康診断を適切な間隔でと
る、(3)視距離は四〇センチ以上離す、(4)画面が他の光源で光らない、(5)適度な室内照明、などとなっている。このような基準を守るには、管理者は
もちろん、使用者自身も注意する必要があろう。
◆電子秘書〔1994 年版
OA革命〕
秘書の代わりに、ディクテーティング、スケジューリング、ファイリング、電子電話帳、交際リスト登録、情報の検索サービス、会計処理などを果たしてくれ
る電子秘書システムが出現しつつある。したがって、次第にこの種の女性の役割は減少するかと心配されているが、人間関係は人間的接触が必要で、完全な秘
書交替は不可能であろう。ワークステーションなどで提供されるこの種のソフトを電子秘書と称することがある。
◆ディクテーティング(dictating)〔1994 年版
OA革命〕
口述筆記のこと。ディクテーティング・マシンやワープロを用いると、能率的な文書化作業が可能となり、マネージャーやエンジニアなどの知的作業の効率が
あがる。著述家で活用する人が多い。電話で要点を受けて、サービスする遠隔ディクテーティングもある。口述したあとの文章のケバ(まちがい)取りや文章
の添削など高度な技能が必要で、重点だけを記録しておいて、その要点から原文を再現(反訳)する。そこが速記とは異なる。
◆ディクテーティング・マシン(dictating machine)〔1994 年版
OA革命〕
フット・コントロール(足踏みペダル)つきのテープレコーダー。ワープロで口述記録するときは、両手はキータッチに専念させ、イヤホーンで記録音声を聞
きキータッチする。そのとき音声の再生を足で止めたり戻したり、ゆっくりと回転させたりし、確実に聞き取ることができる。会議の後で会議録作成に使用さ
れることが多い。
◆在宅勤務〔1994 年版
OA革命〕
自宅にいながらオフィスワークをする勤務形態をいう。これまでの内職も在宅勤務のようだが、その内容が違う。そのような個別作業ばかりでなく、ワープロ、
パソコン、ファクシミリなどの端末を家庭に設置することにより、企業内や社外との連携を適時とりながら組織的な勤務活動が可能となる。トフラーの『第三
の波』にも指摘されており、このような勤務形態が社会的に広がると、地域コミュニティが活性化されるなど社会構造を変化させるという。しかし、これまで
の感覚からすると、主婦などには好まれず、普及は遅い。
なお、アメリカでは、在宅勤務者は一〇〇〇万人に及ぶと推定されている。
◆電子伝票〔1994 年版
OA革命〕
従来の経理システムでは、紙の伝票が常識だった。だが、OAではコンピュータ端末に表示された伝票のフォーム(スプレーテッド・シート)にデータを記録
し、電子的に伝票を発行する方法になる。内容の記載、決済、伝票の電子的な保存など、いっさいOAシステムで処理される。すでにかなりの数の企業で実施
している。EDI(電子データ交換)では異企業間の取引が電子伝票で果たされる。
◆ハイテクカード〔1994 年版
OA革命〕
ICカードや光カードなどで、多目的な機能、高度な機能、セキュリティの機能を持たせたものをハイテクカードと呼び、流行しつつある。ICカードには、
大量のメモリーとCPU機能を搭載し、それに記録された個人情報を元にして、銀行取引、ショッピング、カルテとして診療所の受診などができ、しかも暗号
回路などを組み込み極めて安全である。
なかには本人の音声に反応して信号を発し、部屋のカギを自動的に開く機能を持つものも出てきている。ハイテクカードは、一つのOAのセキュリティ要素技
術として普及するであろう。
◆ICカード〔1994 年版
OA革命〕
ICメモリーとマイクロプロセッサーを組み込んだメモリーカードである。メモリーばかりでなくインテリジェント機能を組み込むことにより、高度な処理機
能や機密性が増し、銀行の通帳などにまず使われだした。記憶容量は数万字に達する。銀行や商店が共同で運用し、カード保持者は、ICカードの中の残高数
値や多面的情報と利用者のキーワードなどにより信用が証明され、自動振込みで、買い物などをしたり、タクシーに乗車できる。ショッピング、証券売買、保
険支払いなどに利用される。医療ではカルテを入れて、診療のシステム化をすることが始まっている。全国銀行協会連合会(全銀協)とNTTデータ通信が統
一仕様の制定に踏みきった。
◆多機能ICカード〔1994 年版
OA革命〕
これまでの磁気カードに対して一〇〇倍以上の記憶容量を持ち、データの書き込み、データ処理などをカードに組み込んだCPU(Central Processing Unit
中央処理装置)で行うので、そのインテリジェント機能を利用することにより一枚で様々な用途に使える。多機能ICカードを前提としたOA機器やシステム
が出現している。
◆キーパッド(keypad)〔1994 年版
OA革命〕
端末がコンパクトで薄形になって、キーボードだけのノート状で、CATVなどに付属する入力装置。CATVなどでキーパッドを用いてショッピングをした
り、アンケートに答えたりする。
◆遠隔会議〔1994 年版
OA革命〕
ターミナルなど単なる通信では、やりとりのある会話はなかなか成立しない。どうしても遠隔地の人が集合して会議をするということが必要で、OAが進展す
るほど人の移動の非効率やコストが問題となる。これを通信回線を使って、ディスプレイ上に動画と音声を入れた遠隔会議システムで解決しようとするもの。
かなり臨場感のあるシステムの開発が進んでいる。ISO(国際標準化機構)でアナログ・デジタルの変換方式の標準化が進められ、近いうちに異機種間でも
会議ができるようになる見込みである。NTTやKDDはこのためにテレコンファレンスシステム・サービスを提供しており、メーカーからも電話会議システ
ムが販売されている。
▲OAニュー・ビジネス〔1994 年版
OA革命〕
OA化の目標は、経営の効率化とともに、体質を活性化し、新規事業や製品を創造することにもある。
通信販売、無人化店舗、インテリジェント化商品の開発、ネットワークを用いた広域の事業や国際交流、異業種交流による製品の共通化や共同開発、ソフトサ
ービス、データバンクやシンクタンクなど情報サービス、マルチメディア化による新しい報道出版など限りなくある。OA環境の進展により、異質のビジネス
の展開が開けるにつれ、戦略的な研究や対策がますます重要となる。
◆ノンストア・リテイリング(non store retailing)〔1994 年版
OA革命〕
ホームショッピングと対をなすもの。客が自宅にいて買物ができれば、店に品物を陳列する必要はない。客にカタログを配布するか、CATVの画像で商品情
報を提供し、コンピュータで集計し、最寄りの配送センターから配送する。あるいは客の望む品物を産地から仕入れて届ける、通信販売の発展したもの。商品
情報の提供、信用情報確保、発注処理、代金決済、品物の配送などについて、コンピュータ情報管理に基づくスピードを必要とする。デパートも展示スペース
が不要で、むしろ遊びの場に転換するかもしれない。アメリカやカナダで実用化されたCATVでは、ゲームやショーなどでひきつけたり、商品の注文はCA
TVキーパッドでインプットさせる。わが国ではまだ一部のCATVサービス地域で行われているにすぎないが、将来ISDNが発達すれば、次第に増加する
であろう。
◆エレクトロ・バンキング(EB)(electronic banking)〔1994 年版
OA革命〕
INSやVANの開放により銀行と企業との電子取引が可能となった。全国銀行データ通信システムが発足して一四年を経過し、全国二万店が加盟している。
また郵便貯金システムも全国ネットワークとなった。
為替決済は急速に増加し、書類の配送がなくなり、金融機関での事務手数は激減した。ユーザーからみると、どこの金融機関からでも即日送金が可能というこ
とで、資金の運用も楽になる。親から子供への送金、公共料金の振込み、電話、電力料金自動引落しなどの事務が減少した。
以前の磁気テープ転送に対して実に楽になった。このシステムはさらに参加金融機関も増加し、信用情報の蓄積と照会が加わりつつある。
◆カプセル店舗/カプセル・オフィス〔1994 年版
OA革命〕
OAシステムや自動化機器を活用して、コンパクトな店またはオフィスをつくり、地域展開をする考えである。標準化された単位店をカプセル店舗という。従
来マーケットが小さくて、店舗展開のできなかった地域でも事業が成り立つので、研究されている。こうなると古い店は圧迫を受ける。カプセル店舗(カプセ
ル・オフィス)は、どこでも適用でき標準的な店に向くのであり、むしろ標準的であることがセールスポイントで、セブンイレブンの店舗はこの例である。
◆無人化店舗〔1994 年版
OA革命〕
大手都市銀行を中心に、無人化店舗が急増している。CD、ATMなど自動機で、預貯金、振替え、支払いなどが行える。一店舗の設置費は、ほぼ四〇〇〇万
円程度であるとされる。
◆EDI/電子データ交換(electronic data interchange)〔1994 年版
OA革命〕
国際的な通信環境の進展に伴い、企業間の商取引をコンピュータ同士の直接のデータ交換で行うもので、これにより伝票作成や郵送などの手間と時間とコスト
を省き、広域かつ正確にリアルタイムに取引や精算が可能となり、また企業間の密接な連携活動が可能となった。国際的なEDIの進展に沿って、国際規格と
して、ISO(国際標準化機構)ではビジネスプロトコルEDIFACTをすでに承認しており、わが国もこれに合わせて標準化を図っており、EIAJとし
て制定された。
◆EL/電子図書館(Electric Library)〔1994 年版
OA革命〕
光ファイルなど電子画像ファイル装置の発展により、電子図書館サービスが、一九八八(昭和六三)年度から始まった。パソコン通信でELに接続し、メニュ
ーから必要な情報を調べ、望む資料を要求すると、パソコンに接続された出力装置(ファクシミリなど)に直ちに画像の状態で送られてくる仕組みである。新
聞や雑誌などのコピーを検索し、そのままの状態で有料で得ることができる。
◆レコード・マネジメント・コンサルタント(record management consultant)〔1994 年版
OA革命〕
OA時代にふさわしいファイリング・システムを中心としたレコード・マネジメント・システムの設計支援、データや情報の取り扱いの指導、管理の請負いを
する事業である。電子ファイルの普及により、新しい型のレコード・マネジメント・サービスが出はじめている。
◆テクノレディ(TL)(techno‐lady)〔1994 年版
OA革命〕
ワープロによる文書作成サービスやインストラクターなどOA関連の女性の新しい職場が増加している。オフィスで働く女性は一般にOLと称していたが、新
しいビジネスの中心となるビジネス・レディ(BL)、技術的な能力をもって働くテクノレディ(TL)、コンピュータレディ(CL)ともいえる。ワープロ、
パソコンも女性に向く仕事である。文章を自分で立案する自主性を持ったBLが増加するだろう。男女雇用均等法の施行により女性が男性に肩を並べて活動す
ることが望まれているが、OAは女性の地位を高めるツール(道具・手段)となる。
◆テクニカルコミュニケーター(technical communicator)〔1994 年版
OA革命〕
ワープロ、パソコン、ファクシミリ、DTPなどを駆使して、テクニカルライティング(technical writing)と称するマニュアルなど文献製作活動をするグル
ープを指す。OA機器の普及によりグループの活動はネットワークによって広がりを持つようになった。
◆マイコン・ソフト・ハウス(micro computer software house)〔1994 年版
OA革命〕
マイコン・ソフトウェアはきわめて専門的分野となりつつあり、マイクロ・プロセッサを応用した製品やソフトを開発したり、ユーザーやメーカーを退職して
会社を創建したりする者が増加している。また、企業の情報部門を独立させて設立する傾向もある。だが、参入する者が増加するにつれ系列化、グループ化、
専門化も進んでいるが、ユニークなソフトを開発するような独立ソフトハウスも増加しており、一個の産業として発展しつつある。
▲OAと通信〔1994 年版
OA革命〕
通信はOAの重要なキーテクノロジーであり、OAが広域化するばかりでなく、組織の構成原理も変革される。
光通信、衛星通信、デジタル通信、マルチメディア通信などにより、通信の容量、スピード、信頼性、通信の多様化が格段に進み、コストも低下した。
それにつれて社会一般に広く普及し、社会的なインフラストラクチュアを形成し、企業では統合分散による組織の編成が可能となり、社会的には、地域格差の
是正、情報流通の一般化がもたらされる。
◆開かれたOA/閉じられたOA〔1994 年版
OA革命〕
閉じられたOAというのは企業内のみでOA化を進める方式で、事業所間はNTTから特定通信回線を借りて企業独自で運用する方式。現在のOAはほとんど
この方式で実施され、その進んだ通信方式がLANである。この方式では、コストもかかり関連企業の間の情報の交換は直接の連絡、郵便電話や磁気テープな
どの限られた交換手段しかなかった。ところが通信回線が開放され、VANさらにはINSの進展によってその高度なサービスを利用して外部との広域情報流
通を取り入れ、異業種交流を図りながらのOA化も盛んになった。これを開かれたOAまたは広域OAシステムという。
◆電気通信事業登録制度〔1994 年版
OA革命〕
一九八五(昭和六〇)年四月、電気通信事業法および関係政令が施行され、日本電信電話株式会社(NTT)が発足し、電気通信事業に競争原理が導入された。
電気通信回線を設置する事業者を第一種事業者とし、その設立は許可制となっており、現在は、長距離系として、第二電電(株)、日本テレコム(株)、日本高
速通信網(株)の三社、地域系および衛星系として、それぞれ数社がある。第一種事業者から通信回線を借りて通信事業を行う者を第二種事業者(VAN)と
称する。
第二種は特別第二種と一般がある。特別第二種は、一二〇〇ボー回線(一秒間一二〇〇ビットの伝送量)を単位回線として、五〇〇単位を超える業者をいい、
登録制である。これ以外は一般二種で届出制である。このほか無線による携帯電話サービスも急速に普及している。
◆IP(information provider)〔1994 年版
OA革命〕
情報提供者である。キャプテンやCATVでは、放送側から必要かつ魅力的な情報を提供することが必要である。IPが充実していないと、ユーザーは利用し
ない。CAPTAINやCATV、パソコン通信の普及によって、急速に増加の傾向にある。なおユーザー自体をIPとして巻き込むことも行われている。
◆システムインテグレーター(system integrator)〔1994 年版
OA革命〕
コンピュータ処理システムを含め、ネットワーク、職場のOA化、オフィス環境など、総合的配慮をしながら経営システムを開発構築する作業を、システムイ
ンテグレーションと称し、このような開発サービスをする業者をシステムインテグレーターと特に称する。通産省は業者を育成するため、事業者認定登録制度
や統合システム保守準備制度などを設けている。
◆LAN(local area network)〔1994 年版
OA革命〕
企業内統合通信網。従来の電話交換やコンピュータ・ネットワークを包含し、音声、文書、画像、データなど多面的な情報をひとつの通信網で処理する。LA
Nを通じて電子メール、データ処理、電子ファイル、印刷処理、データバンクなどを効率的にサービスすることが可能。OAの多面的な情報通信路をになう。
パソコン・クラスの小規模なもの、電子交換機によるもの、分散処理コンピュータによるもの、大型コンピュータによるものの各種の方式がある。
通信伝送路としては、従来の金属ワイヤーでは、伝送容量が不足するので、同軸ケーブルが用いられ、主幹線では光ファイバーが使用されることが多い。
なお、小規模LANでは電灯線を用いる簡易な方式(電灯線LAN)。無線による方式がある。
これらの回線のネットワーク手法で、回線が輪の状態になっているのをリング型、回線が棒になっているのをバス型、回線が星状になっているのをクラスタ型
と称する。また、これらの型を全部包含するものもある。各社各様のLANが提唱されているが、概念はほぼ同じである。
通常、LANを通じて文書ファイル、印刷、データ・バンクなど各種のサービスシステムが提供される。これをサーバーと称する。
◆WAN(wide area network)〔1994 年版
OA革命〕
LANを広域に結合するものを、WANと称する。これも含めて、LANと称する場合が多い。これが発展していって全国に展開されたものが、INSである
といえる。
◆コンピュータ・プラットフォーム(computer platform)〔1994 年版
OA革命〕
異なったコンピュータ同士が相互に連携して、使用者に対して、一つのコンピュータとして使えるようにする標準的な環境を称する。これによってOAシステ
ムの構築が容易になり、システムの中に様々なコンピュータやワークステーションが混在していても、特定のコンピュータの指定などする必要なく、自由にコ
ンピュータ環境を利用できる。
◆MAP/TOP(Manufacturing Automation Protocol/Technical and Office Protocol)〔1994 年版
OA革命〕
MAPはゼネラルモーターズ社で、TOPはボーイング社で提唱された標準プロトコル(通信規約)。FAとOAにまたがるOSIに準拠した制御機器、OA
機器などの標準プロトコルであり、国際的な標準化が進行中である。わが国ではOSI推進協議会が、この実装規約の標準化を推進している。このプロトコル
に対応することにより、異なったメーカー製品間、異なった企業間でも、相互に機器を接続することができ、マルチベンダー環境が実現する。
このような動きは、当面は製造関係から始まったが、事務関係にも次第に影響を及ぼしていくと予想されており、OAのネットワークの標準化を促進する動き
として注目されている。MAP/TOPに参加するユーザーは、世界的に増加の傾向を示している。MAPのOSIプロトコルはトークン・リング方式をとり、
TOPはCSMA方式のプロトコルを採用している。
◆特許電子出願〔1994 年版
OA革命〕
特許庁では、特許事務全体の電子化を図るため、ペーパーレス・システム計画を推進し、一九八九(平成一)年六月に公開し、九〇年一〇月から実施に入った。
特許情報がすべて電子ファイル化され、検索、審査、広報などの業務を効率化し、一般へのサービス業務を強化しようというもの。これによると特許、登録な
どの出願は、オンライン端末あるいはワープロのフロッピーで提出してもよい。電子記録された特許出願書類の審査の多くが自動的に行われ、審査のスピード
アップが図られる。このためにファイル構造はOSIおよびファイル共通交換仕様に沿い、それに特許仕様プロトコルを付加して規格が定められた。これはO
SIに準拠している。なお、特許用オンライン端末が発売されている。
◆ODA(open document architecture)〔1994 年版
OA革命〕
OSIで国際的な標準化が検討されている。電子的な文書を相互に流通するときに、相互にこの標準文書構造を守るか、これとの相互変換を可能とすれば、異
機種相互の文書の交流ができる。JIS規格のファイル交換仕様はこれと密接な関係がある。
◆ゲートウェイ(gateway)〔1994 年版
OA革命〕
LAN回線OA機器を接続する分岐装置をいう。NTT回線に分岐する場合もゲートウェイを通じて分岐する。
◆音声メール/VMX(ボイスメールボックス)(voice mail)〔1994 年版
OA革命〕
電話を相手にかけるときに、相手がいなくても相手のメールボックスに、音声のデジタル情報を記録して伝達する。声の電子メールである。遠隔地との交信や、
勤務時間の異なる人と人のコミニュケーションなどができる。NTTで実用化をめざし実験中であるが、まだ実現していない。
◆電子ファイル/電子ファイル・キャビネット(electronic filling cabinet)〔1994 年版
OA革命〕
オフィスは紙情報の氾濫である。情報を重複保存したり、必要な情報が取り出せなかったり情報が消滅したりする。紙めくり、書類運搬の時間も多くなる。フ
ァイリング・キャビネットのスペースも大きい。この紙による制約を情報の電子的なファイリングと管理によって解決する。ファイリングの方法にはマイクロ
フィルム、マイクロ・フィッシュなどが利用されているが、伝送困難で検索スピード、ランニングコストなどに問題がある。コンピュータの大量記録装置も利
用されているが、コストが高くつく。そのため大量に記録でき、伝送によって、遠隔場所からでも検索したりファイルできるものとして、光ディスク方式の電
子ファイル・システムが普及しはじめた。これによって、オフィスにおけるペーパーレスは急速に進行しそうである。だが、紙への親和性も捨てがたく、紙を
上手に管理するOAファイリングも重要である。
◆光ディスク(OMD)(optical memory disc)〔1994 年版
OA革命〕
アクリルなどのレコード状円盤にテルルなどの気体金属や有機材料やアモルファス金属の被膜を張ってある。この円盤に、原情報を走査して得た画像情報を、
ごく微細な穴を明けたり変形させたりして、記録する方式である。レーザ光による画像の走査によって画像を極微細な点に分解し、点の集団をデジタル化して、
その数値を記録する。記録情報を読むときは、この数値を読み、画像に再生する。記録にあたり画像圧縮などの方法が取られ、コンパクトに記録できる。写真
と同様のイメージ記録であるが、二次情報の管理により、情報の検索、分類記録が容易である。再生専用(追記型)のものと書き換え可能(イレーザブル型)
のものとがある。
一枚の光ディスクで、A4判文書、六万枚から二〇万枚の記録が可能であり、検索は三秒から五秒程度である。記録されたイメージは、伝送が可能で、遠隔の
端末からも検索できる。目下五インチディスクの標準規格(ISOおよびJIS)が検討されている。
◆光カード/レーザー・カード(laser card)〔1994 年版
OA革命〕
光記録方式によって、カード媒体にデータや文書を記録するもので、一枚のカードで、数十メガの大量の記録ができるので、ワープロやパソコンの大量記録媒
体として使用されるようになると、期待されている。読み書きができるようになれば、フロッピーがこれに置き代わることも予想される。実験的に使われてい
る例として、医学用のカルテがある。本人が、カルテを名刺のように常に持ち歩き、どこでも診察を受けられるようになる。
◆電子パッド(pad)〔1994 年版
OA革命〕
携帯端末や簡易ファクシミリで、外出先の電話機とオフィスを接続し、その場で仕事を処理する。営業マンは出先から受注のインプット、銀行員は預金者宅を
訪問して預金の受け払い、医者は患者の情報や血圧、体温、脈拍など直接センターに記録して、異常を検知する。もちろんこれで自宅でプログラムの作成やデ
ータの検索などもできる。銀行員端末などはすでに使われている。このように、出先でのオフィスワークをOA化することを「アウトドアOA」と称する。携
帯端末は、重さ一∼三キログラム程度。
◆マウス(mouse)〔1994 年版
OA革命〕
ディスプレイの中の入力点(カーソルの位置)の位置決め手段である。同種のものにデジタイザ、ジョイスティックなどがある。ケーブルを鼠の尾、指示選択
ボタンを鼠の目、全体を鼠の形と見立てマウスと称している。机上のマウスの位置によって、画面での入力位置を決めたり、メニューを選択したりする。マウ
ス・ボタンには一コ、二コ、三コのものがある。パソコンやエンジニアリング・ワークステーションでは画面の自在な操作を行うのに、重要な装置になってい
る。
◆アイコン(icon)〔1994 年版
OA革命〕
ディスプレイの画面の中に、目で見てそれと分かる絵を示し、それを指定することによりその絵に相当する処理をさせる方式。たとえば、時間を知りたいとき
は、時計の形をした絵をマウスで指定する。通産省ではアイコンのJIS規格の制定を進めているが続々と新しいアイコンが考察され、標準化は進んでいない。
もっとも基本となるものとして、キャビネット、フォルダー、フロッピーディスク、ゴミ箱などのアイコンのほか、ジョブアイコン、ファイルアイコンなどの
種類だけは常識として憶えておきたい。ジョブアイコンは実に多様で、機種によって異なる。キャビネットはこの中にフォルダーを収容する。フォルダーには、
フォルダーやジョブやファイルを収容することができる。フォルダーは多重的に階層構造で収容できる。ゴミ箱は、ここにジョブやフォルダーやファイルを投
げ込むと、それらが廃棄される。それを拾いあげると回復もする。
◆エンド・ユーザー・ユーティリティ(end users utility)〔1994 年版
OA革命〕
OAの進展で、専門家を介在せず一般ユーザーがOAシステムの機能を十分に引き出せるようにしたソフト。メニュー方式による端末操作など各種のOA支援
機能が提供される。メニュー方式では、メニューを選択するだけで、目的のグラフやレポートをプログラミングせずに作成できる。漢字マルチプラン、ROT
US123、EXCELなどがそれである。
◆デシジョン・ルーム(decision room)〔1994 年版
OA革命〕
経営会議において、必要な情報が適時適切に提供され、会議参加者全員が視聴覚機器などを利用しながら効果的なプレゼンテーションができるシステム。テレ
ビ会議で遠隔地からも参加できる。部屋としての物理的構造も必要であるが、これをサポートする、データベースを主とした、OA情報システムの構築が肝心
である。
◆スタンドアローン(stand‐alone)〔1994 年版
OA革命〕
独立型の機器をいう。現在のワープロはほとんどスタンドアローンである。これに対してワークステーションなどオンライン型がある。どんなにOAが進んで
もPPC複写機のようにスタンドアローン機器は残る。
▲OAキーテクノロジー〔1994 年版
OA革命〕
コンピュータなどの情報装置においてマイクロプロセッサの発達によるダウンサイジングの潮流がキーとなっている。通信ネットワークでは、光通信およびデ
ジタル通信技術がキーとなる。人間との接点、つまりマンマシンインターフェースでは、音声・画像・テキストなどによるマルチメディア表現が当面の重要な
キーとなっている。人工知能も翻訳やパターン情報処理など、実用化の段階にさしかかり、重要なキーとなりつつある。これらのキーテクノロジーを統合的に
活用する手法もキーテクノロジーである。
◆汎用ワークステーション/OAワークステーション(workstation)〔1994 年版
OA革命〕
端末が多用されるのがOAの特徴のひとつ。ひとつの端末でデータ処理、文書作成、電子メール、ファイリング、プログラム開発など多様な機能を持ち、統合
ワークステーションなどと称する。またこれに使用するソフトウェアを統合ソフトと称する。フラットパネルにより将来は机と一体となる傾向が予想される。
専用でオンラインでない装置(スタンドアローン)も使用される。これらも含めワークステーションとはターミナルだけでなく、作業をする場所を指すという
見方もある。キーボードではカナなどのキーボードのほかにワンタッチ・キーボードやマウスも有効に活用されよう。また入力の場合も統合ソフトで容易な入
力手段が提供される。OAパソコンも、ワークステーションとして用いられる。
◆ノートブック型パソコン〔1994 年版
OA革命〕
携帯型ワークステーションでは、膝載せ型としてラップトップ(lap‐top)が流行しているが、それをさらに小型軽量にして、本のような形の携帯型が流行を
みている。形はA4判∼A5判、厚めの本(二センチ前後)の程度であり、重量は三キログラム以下で、充電式電池で、どこにでも持ち運び使用できる。デー
タ処理はもちろんワープロ機能や表計算などの作業もでき、通信機能を用いて、ホストコンピュータとも接続でき、移動式OA活動が可能となる。オフィスで
はそれぞれの机に備え、統合ワークステーションとしての標準的な機器となりつつある。
ラップトップの時代を過ぎて、主流はブック型になりつつある。
◆日本語ワードプロセッサ(俗称
ワープロ)〔1994 年版
OA革命〕
わが国では、漢字があるため英文タイプライターに相当するものはなかった。和文タイプライター〔一九一五(大正四)年〕では、スピードで満足できず、カ
ナタイプライター(二三年)は、普及まで至らなかった。
ところがコンピュータさらにLSIの発展により、仮名漢字変換方式による日本語ワードプロセッサが、七八年秋に東芝の森健一工学博士以下によって開発さ
れ、欧文タイプライターに匹敵するタッチメソッドによる漢字仮名交じり文の文書作成ならびに文書ファイル装置が出現し、以後急速に普及した。
仮名漢字自動変換では、平仮名のキータッチ文を仮名漢字変換ソフトならびに用語辞書の助けを借りて仮名漢字交じり文の文章に自動的に変換するものである。
最近は全文一括変換方式なども提供されるようになり、入力はますます容易になった。またワープロは、単に文章の作成の機能ばかりでなく、文章のファイル、
データ検索、印刷、グラフの作成、イメージの入力と処理、通信、電子メール、DTP機能、自動翻訳機能、表計算機能など、多面的な機能を持つようになっ
た。仮名漢字変換では漢字指定方式、文節入力方式、全文変換方式などがある。
「じゆうは/しなず/」と切るのが文節方式であるが、全文一括変換方式では切らないで入力する。
ワープロは、これまで手書きが主だったオフィスをタイプライター化したが、このOAにおける意味は、文書事務の効率化だけでなく、電子メディアに対する
基本的な手段(OAリテラシィ)を提供することにある。年間三〇〇万台近い出荷であり、OAだけでなく、国民生活、とくに国語教育に及ぼす影響が大きい。
◆パソコンのワープロ機能〔1994 年版
OA革命〕
パソコンが持つワープロ機能のことであり、ソフトハウスによって開発されたソフトで、ほとんどのパソコンに適用可能である。ファイル方式は、主にMS/
DOSファイルであり、ファイルの互換性が相互にあり、ワープロ間の互換を取るのに、パソコン経由で行われていることも多い。パソコンの用途のうちの七
〇%がワープロ機能であるとされており、機能の向上が著しく、ワープロとの機能の差があまりなくなっている。
◆EWS(engineering work‐station)〔1994 年版
OA革命〕
CADなど設計の自動化を行うためのコンピュータ・ワークステーションである。精密な図面を高速に描くための処理、精密ディスプレイなどを装備し、パソ
コンや汎用コンピュータと別の独自の領域を形成している。EWSでは、命令を縮小してLSIに組み込み、高速演算を行うRISCアーキテクチャー方式の
マイクロ・プロセッサーが主流になっている。EWSの普及により、設計部門のOAも急速に進展中であり、図面を手で引くことはほとんどなくなり、また図
面を検索したり、表示したりもできる。
◆DTP(デスクトップ・パブリッシング)(Desktop publishing)〔1994 年版
OA革命〕
パソコンや電子写真プリンターを用いて、文字、写真、図形などを取り込み電子編集をするシステムであり、本格出版に近いところまで精密に組み版をするこ
とができる。DTPが普及することにより、企業内出版(インハウス・パブリッシング・システム)も普及するし、著述者は編集行為までも自分でこなせるよ
うになる。コンピュータのダウンサイジングとプリンターの発達により、DTPがますます本格出版に近づく。また、カラー化も進む。
◆携帯電子ノート〔1994 年版
OA革命〕
一九八八(昭和六三)年から急に普及が始まった電卓形のワープロで、電卓機能などをもつものである。電子手帳、電子ノート、ノート・ワープロなどと称し
て、電話帳、スケジュール、住所録、メモなどを記録し、これらをワープロに吸収したりできる。形を小さくするためにキーボードを簡易型にするか、手書き
認識方式にするものが出ている。この種のものをパームトップと称することがある。
◆ワープロ・パソコン通信〔1994 年版
OA革命〕
ワープロには日本語テレテックス通信機能もあるが、公衆電話回線を用いた軽便なパソコン通信方式の利用もできる。これにより電子掲示板、電子会議、電子
メール、情報提供などがなされる。このほかチャットと称する利用者同士のおしゃべりサービスもできるが、これは電子掲示板の応用である。パソコン通信を
利用するには、ワープロにモデムを付属し、ネット局と契約することが必要である。パソコン通信のためにいま各地にホスト局ないしキー局の設置が急速に進
んでいる。
◆無線LAN〔1994 年版
OA革命〕
無線で統合通信網を作る方式であり、実現すれば配線が不要で、柔軟な機器の配置ができ、移動デジタル通信ができる。おそらくこれまでのLANとの併用と
なるだろう。郵政省や大手電機通信メーカーが共同開発を行い、わが国でも実施が始まった。
なお、アメリカでは、モトローラ社がアルディアというシステムを発売している。一八ギガヘルツという高い専用周波数で、イーサネット同軸ケーブルを無線
に置き換え、携帯電話の一〇〇〇倍の伝送能力を持つ。これが実現したオフィスはさしずめコードレス・オフィスということになる。
◆ワープロ・ファクシミリ〔1994 年版
OA革命〕
ワープロを公衆通信回線に接続して、相手のファクシミリに出力をしたり、相手のワープロやファクシミリの出力も受けられるようなワープロである。
◆アウトライン・フォント(outline font)〔1994 年版
OA革命〕
ワープロなどの文字は、これまでは点の集合で文字を構成した。たとえば二四ドット文字では、五七六個の点で文字を表現した。この方式では、ドットでなく
文字の輪郭情報を持ち、印刷するときに輪郭情報で文字を構成する。拡大文字のときにも、滑らかな線で表現できるし、文字を変形することも容易であり、高
品質文字の印刷が可能である。ファイルされた文書を、後でアウトライン・フォント方式で加工したり、編集したりするプロセスをポスト・スクリプト(post
‐script)と称し、DTP(デスク・トップ・パブリッシング)では、この方式がよく用いられる。
◆ワープロ技能検定〔1994 年版
OA革命〕
日本商工会議所が、ソロバンや和文タイプの検定と並び、文書処理能力とワープロ操作能力の検定制度を一九八五(昭和六〇)年五月から開始した。クラスは
一級から四級まである。検定の項目には、文書一般常識、国語読解力、ワープロ技能(技巧とスピード)があるが、スピードについては、一〇分当たり、一級
九〇〇字、二級六〇〇字、三級四〇〇字、四級三〇〇字以上(いずれも誤字余字一〇字以内)となっている。労働省職業訓練所や日本ワープロ検定協会もワー
プロ検定を定期的に実施している。
◆ワープロ標準化〔1994 年版
OA革命〕
日本事務機械工業会や電子工業振興協会を中心として検討されている。その要点は、ワープロで使用される用語の呼称と定義の統一、フロッピーディスクの互
換性の確保、標準化、キーボードの標準化などで、キーボードは標準化されたが、その普及が課題となっている。
なお、キーボードの機能キーの標準化も現在すすめられている。互換性をとるための、フロッピーの共通仕様、二四ドット漢字字形はJIS化された。フロッ
ピーの互換性確保が課題となっている。が、実現の目途は立っておらず、MS‐DOSファイル経由の互換による方法が一般化している。
◆ブラインドタッチ入力(blind touch input)〔1994 年版
OA革命〕
キーボードを見ないでタッチする操作方法のことである。この方法を習得するとき、キーボードの一定位置を起点(ホームポジション
home position)にし
て、どこのキーをタッチしても、そのポジションに戻るという基本操作をまず身につける。
キーボードを見ない操作により、注意を画面と入力内容に絞り、入力ストレスを少なくし、スピードも上げられる。仮名キーボードでは、JIS
の方式とJIS
X
X
6002
6004(新JIS方式)があるが、後者のほうが、ブラインドタッチはしやすい。
◆パソコン通信翻訳サービス〔1994 年版
OA革命〕
パソコン通信を利用した翻訳サービスであり、国際化時代を反映して、利用者が増えている。原文(英文または和文)を送り、局の翻訳支援システムから翻訳
文の返信を受ける。翻訳の実情から正確さはないものの、翻訳の質は年々向上しており、利用者が増えている。
NIFTYやPC‐VANで行っている。
◆日本語文書ファイル交換仕様〔1994 年版
OA革命〕
ワープロの文書ファイルは、メーカーごとにまちまちで、メーカー間のフロッピーディスクの互換性がない。これを解決するために、ファイル交換標準仕様を
JIS化し、各メーカーがそれに対する互換性プログラムを提供することによって、メーカー間の変換が容易となった。図形を含む標準仕様(ミックスモード)
も検討が進み一九八八(昭和六三)年に一部JIS化されたが、あまり利用されていない。特許電子出願システムは、この方式を採用している。MS/DOS
ファイルによって交換する方法も互換は不完全ではあるが、一般的に広く行われている。
◆パターン情報認識〔1994 年版
OA革命〕
計算や論理的判断、推論などは、人間よりもコンピュータのほうがはるかにまさるが、知覚能力ではコンピュータは人間よりもはるかに劣る。コンピュータで
知覚処理を自動化するのが、パターン情報処理である。視覚、聴覚、触覚、味覚、臭覚などである。この中で視覚と触覚と聴覚の開発に力が入れられている。
ここで有力な手法としてAI(人工知能
◆音声認識および手書き認識〔1994 年版
artificial intelligence)の適用が始まっている。
OA革命〕
OAシステムと人間とのインターフェースとして、在来から人間が慣れ親しんでいる方法をOAサイドで消化するように研究が進んでいる。シートやブック型
のハンディOA機器で、キーボードの代用として、手書き認識が活用され始めた。キーボードほどの迅速入力はできないものの、キーボードを好まない人への
用途や特定用途には十分に効果的に使われている。
◆音声応答〔1994 年版
OA革命〕
金融機関で、残高や入金の照会は、機械的な定形的応答だというので、音声応答で自動化がされている。顧客へのメッセージを音声で出し顧客からの応答はプ
ッシュボタンや簡単な応答、たとえば「ハイ、イイエ、ドウゾ」や数字などでする。この応答レパートリーも増加の傾向である。システムの回答もコンピュー
タ・データを音声合成して自動的に応答する。NTTは、音声応答の機能をもつ「流通ANSER」をDRESSと連動させて一般に提供している。これによ
って、会員コード、商品コードデータを声で入れて、与信チェックや商品チェックをし、受発注処理を自動的に行える。
◆パーコール方式(PARCOR)(partial auto co‐relation)〔1994 年版
OA革命〕
音声の特徴要素を偏自己相関係数などを用いて、デジタル情報に変換して音素として蓄積し、出力時には、デジタル情報によって音素(音声パラメータ)を合
成して、発音させる方式。音素は、発音のよい人の文章を読む音声から抽出し、作成する。最近は、音素を記録してあるLSIも発売され、いろいろな機器に
応用されている。
◆漢字OCR〔1994 年版
OA革命〕
漢字仮名混じり文の印刷文字を頁単位で読み取り、テキストデータとしてファイルする装置である。パターン情報処理とAIの進歩によって、ようやく可能と
なり、普及が始まった。書籍や新聞、すでに印刷されている文献をファイルに記録し、内容を検査したり、翻訳したりすることができるので、OA化の大きな
穴は、これで解決可能となる。なお、もし読めない文字は、リジェクト(空白に)するか、人間が補足して埋めることになる。
◆OAパソコン〔1994 年版
OA革命〕
八ビットパソコンはゲームが中心であるが、一六ビットおよび三二ビットパソコンでは、本来のビジネス用途のパソコンおよびソフトウェアが確実に伸びてい
る。インテグレーテッド・ソフト、業務パッケージ、グラフィック・プログラム、通信機能、日本語ワープロ機能などを装備して、多様な展開があり、OAパ
ソコンと称し広く普及している。
◆パームトップ(palm top)〔1994 年版
OA革命〕
片手で持って操作できる方式の機器をパームトップと称し、流行をみつつある。ハンドヘルド・パソコンや電子手帳のようなワープロなどもこの部類である。
片手で持ち、他の手で操作するとなると、キーボードは片手操作が可能なことが必要となり、手書き文字認識方式や片手操作キーボードなどが重要になってく
る。片手キーボードの標準化の研究が始まっている。
◆ハンドヘルド/ポケコン(handheld/pocketable computer)〔1994 年版
OA革命〕
パーソナル・コンピュータのコンパクト化によって、より機能が強化され、手に持って歩け、電池で作動するパソコンが出現し、今後発展の方向である。IC
メモリー、磁気バブルメモリー、熱転写プリンタなどのコンパクト化技術が一段と進めば、いよいよ進展し、アウトドアOAの有力ツールとなる。この種のパ
ソコンをパームトップと称することがある。
◆スクロール(scrolling)〔1994 年版
OA革命〕
VDTディスプレイ一画面で表現できる範囲は、せいぜいA4サイズ程度である。一頁の情報がこの画面よりも広いとき、VDT画面をウインドウとみなして、
ウインドウを上下左右に動かして、頁の必要なところを見る操作をスクロールと称する。
◆ウインドウ操作(window operation)〔1994 年版
OA革命〕
パソコン、ワークステーション、ワープロ、DTPなどにおけるVDTのウインドウ画面の操作は、もはや常識である。画面の上段にメニューバーがあり、幾
つかのメニューからマウスのポインター(矢印)を動かして、そのうちのオブジェクトを選ぶと、その下にプルダウンメニュー(詳細なメニュー)が出てきて、
作業内容を細かく選択できる。ジョブ(作業項目)のアイコンの中から、特定のジョブを選ぶと、そのジョブに関するウインドウ(そのジョブに限られた画面)
が表示される。
ウインドウは、複数枚を重ね合わせたり、その順番を変えたり、横に並べたりでき、その中から特定のウインドウを選んで目的の仕事を実行する。それぞれ特
定のウインドウは主画面と枠があり、枠には、タイトルバー(メッセージやジョブのタイトルが表示される)やスクロールバーがあり、この中にはクローズド
ボックスが必ずある。このボックスをマウスでクリックすると、そのウインドウに関するジョブが終了になる。画面にあるウインドウやアイコンの位置は、マ
ウスでドラッグ(drag 引っぱる)して画面の中の自由な位置に移動できる。アイコンやファイルなどをドラッグして、ゴミ箱アイコンに重ねるとそのオブジェ
クトは廃棄される。
◆電子黒板〔1994 年版
OA革命〕
黒板ないし白板に書き込んだ文字や絵をデジタル的に認識し、その情報をファイルしたり、印刷したり、伝送したりする装置。画面を操作する分解能力が問題
であるが、画素が二ミリ程度のものまで出ている。会議を行うとき、この黒板に書いたメモがそのまま出力できるので、会議参加者はメモを取る必要がない。
◆デジタルPPC複写機〔1994 年版
これまでのPPC(plain paper copy
OA革命〕
普通の紙でコピーできる機械)がアナログ方式だったのに対し、デジタル式に画像をとらえて記録し印刷する。倍率を
自由に変えたり、部分的に切り出して複写したり、合成したり自在に操作できる。この処理をコンピュータで行うことから、これをインテリジェント複写機と
も称する。LANにも接続でき、ワープロなどOA機器の出力装置としても利用できる。キヤノンが一九八四(昭和五九)年に先陣を切った。
●最新キーワード〔1994 年版
OA革命〕
●SIS/SIN〔1994 年版
OA革命〕
戦略情報システムSIS(strategic information systems)は、経営戦略の策定に役立つ情報を収集蓄積し、それを利用して的確な意思決定を行い、競争にお
いて、有利な体制を築こうという手法であり、OAのトップマネージメントへの適用の一つである。
戦略的情報ネットワークシステムSIN(strategic information network systems)は、企業などが相互に結び付いて、ネットワーク関係を形成し、共存共栄
(共生)を計ろうというシステムである。EDI(電子データ交換インターフェース)など通信インターフェースの標準化も進み、SIN結合が容易になり、
企業の変革の要素となっている。SISは差別的な戦略をとる傾向があるが、SINは結合する企業同士の結び付きによる相互流通の合理化、製品の標準化な
どを行ったり、事業のパイを大きくするという傾向がある。情報化の進展において、これらの戦略は、経営においてますます重要になる。
●ペーパーレス〔1994 年版
OA革命〕
オフィスでのペーパー洪水はまだまだなくならず、複写機の普及などで安易に複写したり、コンピュータ出力の増大によって、むしろペーパーが増加したとい
う説もある。ペーパーは、一枚のコストは安く、手軽さ、便利さ、読みやすさ、親しみやすさなどの面で、これからも使われていくだろうが、森林資源の枯渇、
地球環境の破壊などの面から、これをできるだけ減少させることが望ましい。OAでは、ペーパーの制約を超えて、より高度なオフィスシステムを作り出し、
ペーパーに頼らず、電子メディアを多用するペーパーレス・システムを目標とする。電子伝票、ICカード、電子ファイリング、ネットワークシステム、デー
タバンクなどすべてペーパーレスである。
人々がキーボードなどに親しむこともペーパーレスの進展に役立つが、さらにファイルの電子化に親しむことが重要なポイントになっている。
●リストラクチャリング(再構成)(restructuring)〔1994 年版
OA革命〕
既存のシステムを再構成すること。OAは、これまでの非電子メディアを主体とする方式によって構成されていたオフィス構造を、電子メディアを主体とする
方式によって、再構成するという特徴を持っている。
現代社会は、東西対立から南北調和の構図へと変革の中にあり、資源は無限だとする考えから、資源は有限であり、地球は飽和状態に向かうという考えが支配
的になっている。企業ばかりでなく、社会の多くのシステムがいま「共生・調和・永続」という展望にたって、再構成の時期に当面しているといえよう。
円高を克服するためのリストラクチャリングに、OAは有力な方法でもあるが、OAシステム自体も、ダウンサイジング、ネットワーク環境対応で、リストラ
クチャリングの対象となっている。
●統合・分散〔1994 年版
OA革命〕
OAにおいて統合とは、単位システムによって全体のシステムが統合的に構成され、運営されることをいう。
単位となる下位のシステムがそれぞれ自律的システムとして成り立ち、共通システムを共有し、各システムがそれぞれ情報を交換しあいながら運営され、結果
として全体のシステムが構成される。
単なるデータの集中や命令系統の統一というような集中システムとは異なり、システムが分散され、それぞの分散システムが独立していることが特徴である。
人間は一つ意思により有機的に構成されている。その手足や体の各部が離されて存在し、それぞれに頭脳があり、独立して動き、その各部が頭脳によって、ゆ
るやかに指揮されていると想像すればよく、人体とは異なる組織原理である。このメカニズムは、インフォメーションテクノロジーの進展により、初めて可能
となってきたものである。
●電子化データ〔1994 年版
OA革命〕
ペーパーによる情報に対比して、磁気記録あるいはデジタル記録された情報をいい、ペーパーレスが叫ばれている今日、重要な意味を持ちつつある。電子化デ
ータは、ペーパーとちがい、直接に見たり読んだりはできず、キーボードやディスプレイなど装置を操作して見るという不便があるが、いくらでもコピー、電
送、加除修正、再利用ができ、大量かつコンパクトにファイルして、瞬時に検索することも可能である。また、瞬時に消去することもできる。
電子化データ相互の互換性(インターオペラビリティ)の保持が最大の問題点で、標準化の推進が課題となっている。データの不正使用防止や安全(セキュリ
ティ)も問題で、その防止のために電子印鑑なども研究開発されている。
電子化データ活用の例では、DBはもちろん、ファイルのワープロ化、マニュアルや重要情報のフロッピーやCD‐ROMによる配布、教科書のフロッピーに
よる配布(教科書のデータを活用できる)、盲人用の電子図書館、図面などの光ファイル化、地図や名刺などの電子化手帳などの例がある。電子化データは、
文章(テキスト)、画像、写真、そのカラー化ばかりでなく、音声、動画までも含め、マルチメディア化ないしハイパーメディア化する方向にあり、未来の図
書館は、電子化データ図書館に変身するであろう。
●オフィス・アメニティ(office amenity)〔1994 年版
OA革命〕
オフィスの快適性を追求する概念をオフィス・アメニティと称する。アメリカとわが国のオフィスでは、オフィス文化の違いがあるが、わが国のオフィスでは、
スペースの効率的な活用と要員の収容、業務効率中心のレイアウト、書類によるファイルなど、ビジネス効率を主とする伝統的な概念がある。こうした在来の
オフィス概念も、電子メディア環境、ビル環境のインテリジェント化、照明技術などの新しい技術を駆使すれば、一段とゆとりと機能性のあるオフィスを創造
できるはずである。この新しいオフィスを構想する概念の根底にあるのが人間中心の考えであり、人間の自律性、創造性、協調性を高めることに重きを置いて、
トータルにオフィスを構想することが大切である。なお、環境を重視した省資源型であることも要件となっている。
[株式会社自由国民社
現代用語の基礎知識 1991∼2000 年版]
▽執筆者〔1994 年版
ニューメディア〕
前野
和久
1939 年神奈川県生まれ。東京教育大学文学部卒業。「情報社会・これからこうなる」で,テレコム社会科学賞受賞者。著書は『INSのことのわかる本』『大
予測 10 年後の日本』『技術商社・メイテック』など。
◎解説の角度〔1994 年版
ニューメディア〕
●ニューメディアへの関心が高まってきた。アメリカ政府が情報スーパーハイウェー構想を発表したのに喚起されて,わが国でも次世代通信網の建設計画が,
通産省,郵政省,NTTから提起されてかしましい。農・工業社会では,道路が公共施設と考えられ,税金で建設されるのなら,情報社会の情報通信であるニ
ューメディアも,インフラストラクチュアとして考えて,政府が手当てするべきだという議論である。
●B(広帯域)‐ISDNを中心に,オフトーク通信,ビデオテックス,携帯電話などニューメディアが重要視されるようになった。ニューメディアがブーム
になったのは,ざっと 10 年前だが,この歳月の間に,その成果は徐々に定着してきたようである。
●なかでも情報社会の主力メディアになる移動化通信,データ通信,画像通信の分野で,次々とニューメディアが出現して,情報社会を構築する機器となって
きている。
●地域開発にニューメディアを,活用する地方自治体も出現しており,ニューメディアが有効に使われ出している。ニューメディアは,産業・社会,生活様式
を徐々に変革しており, 第二の産業革命
★1994年のキーワード〔1994 年版
★光ソリトン〔1994 年版
が密かに進行中である。
ニューメディア〕
ニューメディア〕
光ファイバー・ケーブルを使って情報を送信する時は、光源としてレーザー光を使って、光信号のまま増幅していたが、次々世代では、この光ソリトン光源を
使う。長い距離を送っても、波形が崩れにくいから、情報を正確(雑音なし)に送信できるという。これまでは1と0を表すパルスが、長距離伝送では、弱く
なり、判別できなくなってしまうが、ソリトンパルスでは、強弱のメリハリがはっきりしているので、雑音が入る恐れがない。
★光海底ケーブル〔1994 年版
ニューメディア〕
海底ケーブルは、主に銅線を使った同軸ケーブルであったが、最近は、光ファイバーケーブルを用いる例が増加している。国際間の通信方法には、通信衛星を
使う手もあるが、これだと往復で約四・五秒のズレが生じるので、コンピュータ通信には不具合が生ずるケースが多い。そこで中継器が少なくて、さらにテレ
ビ画像など多量の情報を送信できる光海底ケーブルを使うケースが多い。
★電子メール〔1994 年版
ニューメディア〕
ワープロやパソコンで打った電子的な情報(手紙)を、パソコン通信を通じてやり取りする仕組み。
発信者は電話回線を介して、ホストコンピュータのなかに設置してあるメールボックス(情報蓄積箱)に送り込んで、記憶させておき、受信者側は、それを同
じように取り出して読む。
国内のパソコン通信サービスの最大手「PC‐VAN」と「ニフティサーブ」の両ネットの間で、一九九三(平成五)年四月から電子メールの交換サービスが
可能となった。
★クリアボード〔1994 年版
ニューメディア〕
NTTが開発したニューメディア。ハーフミラーを使っており、裏側に話し相手のビデオ画像を投射するので、あたかも相手がミラーの向こう側にいるように
見られる。サインペンで数式や文章を書くとそのまま相手側ボードにも映るので、それを見ながら議論できる。
これをテレビ電話に使えば、相手と視線を交わしながら、お互いに作業ができるので親近感がわくという。
★ベルポイント〔1994 年版
ニューメディア〕
オービット・コム(東京都新宿区舟町)が、ポケベルと公衆電話を使って直接会話ができるようにしたテレコム・サービス。用事のある人が「♯9010」に電話
をかけて、音声ガイダンスに従って呼びたいポケベルの番号をプッシュボタンして、つながるのを待つ。
鳴らされた人はその番号に電話をかけて、自分のポケベルの番号を同様に入力すると、オービット・コムは双方の番号を照合してつなぐ。
★MAC(システムムービング・ポイント・オート・チェンジング・システム)(Moving‐point Auto Changing system)〔1994 年版
ニューメディア〕
冠婚葬祭業の大手、サンレーグループ(北九州市)が、九州工業大学などと共同開発した、電波を利用して個人の位置を確認するシステム。タバコ箱大の端末
から電波を発信してアンテナでキャッチし、センター局のコンピュータが位置を算出するというもの。徘徊老人を探したり、逆に外出中の老人が急病になった
とき、発信して救急車を呼べるからお年寄りの安全確保に役立つ。
▲インフラ系のニューメディア〔1994 年版
ニューメディア〕
農・工業社会で、商品を運ぶのが道路とするならば、やってくる情報社会では、情報通信網がそれに相当する。つまり情報社会のインフラストラクチュアは、
電気通信網である。B(広帯域)‐ISDNや移動体通信 が、重要な社会基盤となり、打てば響くような素早い反応ができる社会になるだろう。
◆光通信(Optical Communication)〔1994 年版
ニューメディア〕
情報(信号)を、光の点滅によって伝える通信。レーザー光を発したとき「1」、消したとき「0」というように決めておき、情報をこの数によって送信する
のでデジタル(数値化)通信という。ふつう、レーザー光を髪の毛ほどの細さのガラス繊維(光ファイバーケーブル)のなかを通して送る。一秒間に四億回点
滅する光を使うので、一本の光ファイバーで、電話回線に換算するなら約六〇〇〇本分の情報量を送受信することが可能である。NTTが一九八八(昭和六三)
年春始めたINS計画や、KDDが八九年四月から使用を開始した第三太平洋海底ケーブルでは、この光通信方式を利用。光通信は、レーザー光なので、近く
に高圧電線などがあってもその磁界に左右されない、光ファイバーは軽い素材なので、架線する電柱間の距離を長くできるなどが特色。
◆通信処理(Communication Processing)〔1994 年版
ニューメディア〕
電話のように、話したとおりに聞こえて出てくるものを、基本通信という。つまり入力と出力が同じ情報になるのをいう。また、コンピュータに1+2と入力
すると、3と計算されて出力するのを、情報処理という。これに対して通信処理は、この双方の中間にある。通信処理としては、通信手順を整えて他のコンピ
ュータと情報を交換する「プロトコル変換」、同じ情報を同時に多くの相手に伝える「同報通信」、書式を統一して通信する「フォーマット交換」、一定の単位
に情報(信号)を区切り回線の空いているときに送信する「パケット交換」、音声を文字などに変える「メディア交換」、情報を一時的に蓄積し後でゆっくり読
む「メールボックス」などがある。コンピュータが交換機の働きと情報処理の機能をもっているのでこのような処理が可能となった。VANは、このコンピュ
ータの通信処理の能力を利用して作った通信網である。
◆VAN(Value Added Network)〔1994 年版
ニューメディア〕
付加価値通信網と訳される。NTTなど第一種電気通信事業者から、借りた回線を利用して、ホストコンピュータを交換機として使い、付加価値のついたより
高度な通信サービスを提供する業務で、第二種電気通信事業ともいう。付加価値通信としては、メディア交換やパケット通信、フォーマット交換などの通信処
理が行える。現在のコンピュータは、メーカーにより、また同一メーカーでも機種によりプロトコル(通信手順)が異なり、ネットワークを構築して通信する
ことはできない。そこでホストコンピュータを入れて、これらのプロトコル変換を行って、通信網を構築できるようにするもの。コンピュータ間の仲人役。
◆総合知的通信網(UICN)(universal intelligent communication network)〔1994 年版
ニューメディア〕
UICNは現在の総合デジタル通信網(ISDN)の次の世代の、知的処理と情報通信が高度に融合した通信網。一本の通信線で電話やデータ網(高速ISD
N)、放送網(広帯域ISDN)に加え、自動翻訳電話、立体テレビが利用できるようになる。郵政省は、二一世紀にはUICNが本格化すると予測、すでに
民間への委託研究も進めている。NTTの「VI&P」に似た構想。
◆ファクシミリ(網)/ファクス(Facsimile)〔1994 年版
ニューメディア〕
文字や絵を小さな点(画素)に分解したものを、電気信号に変えて送信し、受け手は、再び元の文字や絵にして紙の上に戻すテレコム。文字は白黒の画素に、
写真は、中間色の画素に分解して送信する。前者を模写電送、後者を写真電送という。最近ではカラー・ファクシミリもある。オフィス間の文書の交換や新聞
社の写真電送など用途は広い。わが国は漢字を使うので、ファクシミリは便利なため、テレックスに頼っている欧米よりずっと発展し続けている。放送波を使
って行うファクシミリ放送も一九八九(平成一)年に免許受付けを開始した。
◆高性能デジタルPBX(構内交換機)システム〔1994 年版
ニューメディア〕
PBX(Private Branch exchange)は、従来は、外部からかかってきた電話(音声)を構内の内線電話につなぐ働きをしていたが、高性能デジタルPBXシ
ステムは、ファクシミリやテレビ電話、データ通信まで交換してしまう、構(企業)内通信の中核となるもの。中継線がデジタル網になっていることが不可欠
で、通信回線の近代化の象徴。
◆ビデオテックス(videotex)〔1994 年版
ニューメディア〕
電話回線を使って、情報センターにある大型コンピュータに記憶してある情報を引き出して、事務所などのテレビ受像機のブラウン管の上に、文字と図形によ
って映し出すシステム。文字図形情報ネットワークという。各国でいろいろなシステムのビデオテックスが開発されている。口火を切ったのは、一九七九年か
らのイギリスでプレステル、八四(昭和五九)年から実用化の日本のキャプテン、その他にカナダのテリドン、フランスのテルテルなどがあり、アメリカは余
り熱心ではない。
◆ミニテル(Mini Tel)〔1994 年版
ニューメディア〕
フランスのビデオテックスであるテルテルのなかで、簡易型の端末をミニテルという。フランス政府が、一九八四年から、全国の家庭に四〇〇万台を無料で配
布し、普及をはかっているニューメディア。これを利用して、電話番号を検索したり、旅行や健康などの情報を引き出せる。キャプテンに似たところがあるが、
パソコン通信の一種で、チャッティング(雑談)やBBS(共同伝言板)などに使える、メッセージを書き込んで他の人と情報交換ができるなど、コンピュー
タの通信機能をフルに利用し、世界で最も発展したビデオテックスとなった。しかし売春情報などの交換をする利用者が出現し、社会問題化している。
◆キャプテン・システム〔1994 年版
ニューメディア〕
ビデオテックスの日本での呼称。Character And Pattern Telephone Access Information Network System
を縮めたもので、漢字図形電話検索網という。前
もってつけられた情報の番号を、キーパッドのボタンを使って押すとブラウン管の上に、その情報が映し出される仕組みで、NTTが中心となり「キャプテン
サービス会社」を東京に設立、一九八四(昭和五九)年一一月から実用化され、全国の市制都市で利用可能。加入料金が必要で、通信料は全国一律三分三〇円、
情報によっては有料。
使い方には、会員のみが利用できるCUG(Closed Users Group Service)などもあり、CUGは経済や専門情報を、契約した特定の会員にだけ提供できる。
たとえば、ラジオで中学生が問題を聴き、キャプテンで回答したり、競馬のオッズを出すなど。この双方向性を使い視聴者に、アンケートに答えてもらうポー
リング(調査)会社も札幌に登場、多様な使い方になりだした。
◆ハイキャプテン〔1994 年版
ニューメディア〕
従来のキャプテンの文字・図形情報に加えて、カラー写真などの自然画に音声を加えた情報が、総合デジタル通信網(ISDN)の「INSネット 64」を利用
することで提供できるシステムのこと。NTTが開発したもので、企業の販売促進や集客のほか、情報更新の手軽さによる広告、宣伝などに利用されている。
例えば、三菱自動車工業では、中古車販売に、このシステムを使用、車を選ぶ決め手は、外観からだから、鮮明な画像を提供できるハイキャプテンシステムは
有効である。ホテルオークラ神戸は、これを導入したことで、レストランなどの案内には、パンフレットのようなかさばる物を、客室に置かずに済むようにな
った。ハイキャプテンシステムは、デジタル伝送路を使用するので、従来のキャプテンに比べて、通信速度は格段に速い。そのため、これを利用した、花王の
消費者相談支援の「エコーシステム」は、年間四万件の相談に乗るが、ここから情報を引き出し、五分で回答できる。
◆無線パソコン〔1994 年版
ニューメディア〕
屋外のどこからでも無線でデータをやり取りできるニューメディアで、一九九一(平成三)年三月に日本IBMが発売。まず、NTTの自動車電話とパソコン
を結び、連絡できるようにする。九二年内には、公衆向け無線データ通信会社を経由して、自動車以外の屋外からも通信できるようにする。どこからでも、い
つでもビジネスに必要なデータを送受信でき、セールスなどのビジネスマンには有力な武器となる。アメリカでも無線パソコンは普及しておらず、日本が世界
の先駆けとなる。
◆未来型通信〔1994 年版
ニューメディア〕
将来の通信機器は、B‐ISDNなど多量の情報を高速で送受信できるようになるので、画像情報(テレビ)も利用できるようになる。そこでカメラでオフィ
スを映す「在席管理システム」、画面に特殊なペンで書いた文字をファックスとして送れる「公衆利用型多機能ターミナル」、データ・ベース化したカラー画像
を探す「イメージ情報高速検索システム」などが登場するとNTTはいう。
◆移動(体)通信(Mobile Communication)〔1994 年版
ニューメディア〕
自動車や列車など動いている対象との無線通信をいう。移動中の人と連絡を取りたいというニーズは、社会の発展とともに増加しており、今後伸びる通信の分
野の一つ。すでに文字や音声を送って連絡するポケットベルに始まって、自動車、船舶、列車、航空機の各電話が実用化されている。移動体通信用の電波は足
りなくなっているので、宅配トラックなどの業務無線は、MCA方式を導入している。ポケットベルはわが国では、一九六八(昭和四三)年から電電公社(現
NTT)が運用を開始、需要は多く新規参入会社が続出。自動車電話も、七九年からサービスが始まり、電電民営化後は、新規参入が相次ぎ、発展性のある市
場である。この電話をNTTは、小型化した携帯電話として八七年から発売し、今や歩きながら電話のかけられる時代となった。
船舶電話は七八年から、国内用の航空機電話は八六年から実用化されている。国際線の航空機電話は、八七年秋からKDDなどが太平洋線で実験を開始、八八
年六月には首相専用機と交信でき、近年中にも実用化の予定。
◆パーソナル通信(personal communication)〔1994 年版
ニューメディア〕
NTT(日本電信電話)が新たに開発した新電話サービス。現在の電話は、電話機一台一台に、付与した番号で通話しているのに対し、新方式では、利用者一
人ひとりに銀行の口座番号のように個別のID(認識)番号を割り当て、国民総背番号のように、個人がそれぞれの電話番号をもつ。利用者は外出先で、電話
機に腕時計大のID登録装置をセットし、NTTの通信網を制御するコンピュータ(電子交換機)に「居場所登録」すれば、自分にかかってくるすべての通話
を外出先の電話機に集めることができる(追いかけ電話)。ID登録は加入電話のほか、自動車、携帯電話からも可能。事業化には郵政省の認可が必要だが、
NTTでは一九九二(平成四)年をめどに実用化したい考え。
◆移動体衛星通信〔1994 年版
ニューメディア〕
郵政省の通信総合研究所は、日本の技術試験衛星(ETS5号)を使い、航空機と地上局を結ぶ移動体通信に一九八九(平成一)年五月成功した。移動体通信
の中継器に衛星を利用するのを、移動体衛星通信という。航空機を対象にするのは、専用アンテナの開発など技術的に困難な点が多かったが、通総研はその開
発に成功、成田‐アンカレッジ間を飛ぶ日航機を使いこのテストに世界で初めて成功した。一方、NTTは九二年に打上げ予定のETS6号で行うマルチビー
ム方式による移動体衛星通信に搭載するトランスポンダ(中継器)などの開発に八九年五月成功した。これは同衛星から一三本の電波のビームを出して日本列
島全域をカバー、このビームのなかに入った自動車や船舶などの移動体と電話などで交信できる。現在は、地上にアンテナを立て、そこから発射する電波がカ
バーするエリア内の移動体と交信しているが、それが宇宙の衛星からカバーできるようにする。
◆ETS‐V〔1994 年版
ニューメディア〕
技術試験衛星五号のこと。通信技術など各種のテストを実施しているが、郵政省は、一九九二(平成四)年三月に衛星から、デジタル方式により自動車など移
動体にカラー動画を送信するテストを実施、成功を収めた。
◆携帯電話(portable telephone)〔1994 年版
ニューメディア〕
携帯電話は無線の「動く電話」である。電話機から電波を発受信、中継基地を通して相手先の電話ケーブルに送る仕組み。一九八七(昭和六二)年からNTT
(日本電信電話)が重さ六四〇グラム(電池の重さを含む)の機器を実用化。現在NTTが全国ネットで、また日本高速通信系のIDO(日本移動通信)が首
都圏と中部地方で、第二電電系の関西セルラーが関西、中国、九州でサービスしている。九一年三月現在、日本中で約四二万台ある。
どういう電話機を使うかで、日米通信摩擦問題にもなった。セルラー系はアメリカ・モトローラ社製品(重さ三一〇グラムと三五〇グラム)を採用。NTTは
九一年春、重さ二三〇グラム程度の新製品「Mova(ムーバ)」を出した。
◆パーソナルハンディホン〔1994 年版
ニューメディア〕
新世代コードレス電話という。略称はPHP。家庭にあるコードレス電話の子機を、屋外に持ち出すと、そのまま携帯電話として使えるシステム。親機と子機
の通信を共通規格化して、別の親機とも話せるようにしたもの。ただ、実際の通話には街角などに共用の親機が必要になるため、その普及いかんに掛かってく
る。また、現行のコードレス電話はアナログ伝送方式だが、盗聴されにくいデジタル伝送方式に切り替えて、屋外でも業務用に使えるようにしようという第二
世代コードレス電話など、現行の携帯電話に限りなく近づけたシステムも考えられ始めている。
◆FPLMTS〔1994 年版
ニューメディア〕
「将来の公衆陸上移動体通信システム」の略。わが国で買った携帯電話でもアメリカで使えるように、使用する電波と電話機の構造を、世界各国で共通にした、
新世代携帯電話システム。国際無線通信諮問委員会(CCIR)では、このシステムの構築を提案しているが、各国の電波事情が一致せず、足並は乱れがち。
◆イリジウム計画〔1994 年版
ニューメディア〕
アメリカの通信機器メーカーのモトローラ社が発表したもので、地球の周りに七七個の人工衛星を打ち上げて、携帯電話などのアンテナにしようという計画。
イリジウム原子は七七個の電子が原子核の周りを回っているので、こう命名された。重さ三九〇キログラムの小型衛星を高さ七八〇キロメートルの七本の極軌
道に一一個ずつ配置する。
衛星は秒速七・四キロ、一時間四〇分で地球を一周するから、次々と変わる衛星を引き継ぎながら、宇宙のアンテナとして通信を行う。衛星一個一個が地球の
一定のエリアをカバーするので、携帯電話などパーソナルな移動体通信に利用でき、サハラ砂漠でも太平洋のまんなかでもカバーできるという。京セラ系の第
二電電が、法人をつくり参加した。
◆ICカード電話〔1994 年版
ニューメディア〕
ICカードと電話を組み合わせたもの。ICカードは、メモリーとマイクロプロセッサーを組み込んだカードなので、高度な情報処理が可能であり、銀行の通
帳などに使用できる。そこでこれを電話に組み込むと、自宅で買物をするホームショッピングなどのときに、その代金を、自動的に振り込めるホームバンキン
グなどができる。話して聞くだけの電話から、日常生活の消費・決済機能を果たすメディアに数年内には発展しよう。
◆オフトーク通信〔1994 年版
ニューメディア〕
電話回線が使われていない空き時間を使って、情報を提供するサービス。一九八八(昭和六三)年八月にNTTが始めた。情報提供センターは全国に一四五カ
所あり、加入約二〇万世帯に地域ニュース、防災情報、音楽などを有線放送のように送り、電話がかかると自動的に中断する。受信するには、既設の電話回線
に受信装置とスピーカーを取り付ける。
設置費用は二万∼四万円。利用料は、NTTに月額五〇〇円を支払う。
◆F&Cネットワーク〔1994 年版
ニューメディア〕
ファクシミリとコンピュータとを結んだ通信網をいう。文書情報を、デジタル・ファクシミリで、コンピュータに入力、逆に必要な時に、同ファクシミリで出
力するシステム。キーボードで、コンピュータに入力する手間を省いたニューメディアで、日本IBMとリコーが共同開発。
◆動画像テレビ電話機〔1994 年版
ニューメディア〕
テレビ放送のようにカラーで、動く画像が映るテレビ電話のこと。現在あるテレビ電話が、一枚の写真のように動かない画像なのに対して、情報としていちだ
んとリアリティが増した。
一九九一(平成三)年五月に日立製作所が発売したのは、従来の製品の五分の一ほど(幅二七・五、奥行二六・五、高さ三〇各センチ)で世界最小という。動
画を送信するには大量の情報量を必要とするが、帯域圧縮技術で少なくしてあり、一秒間に最大一五コマ送信できるので、ほぼ実際と同じ動きになる。
◆マイクロセル〔1994 年版
ニューメディア〕
自動車電話や携帯電話など移動体通信の電波の伝達方式。これらの移動体通信では、
「セル(細胞)」と呼ぶゾーンをつくり、そのなかで電波の交信を行い、自
動車が次のセルに移動すると、そのセルにバトンタッチされて、送受信できるシステム。
加入者が急増し、同じセルのなかで使える電波が少なくなるので、そのセルを直径三〇〇∼六〇〇メートルに狭くして、離れたセルで同じ電波を繰り返して使
うという考え方。多くの自動車電話を、一つのセルに加入させられるが東京都内でも万単位のセルが必要になるなどコストに問題がある。しかし加入増に応え
るためには不可欠だろう。
▲機器系のニューメディア〔1994 年版
ニューメディア〕
新聞、放送などがマスメディアなのに対して、情報社会ではCATVなどミディアムな、さらにはパーソナルなメディアが、重要視されるようになる。したが
って情報機器としてニューメディアの数々が誕生している。大衆社会をつくるのがマスメディアなら、ミニメディアは個人社会をつくるだろう。
◆PCM放送(Pulse Code Modulation)〔1994 年版
ニューメディア〕
パルス符号変調方式という。PCMデジタル音声放送と同じ。情報(信号)を、それぞれ特定の符号を表すパルスによって送る方式。雑音が少なく、美しい音
質の放送が可能。
◆パソコン放送(Personal Computer Broadcasting)〔1994 年版
ニューメディア〕
放送と通信がミックスする時代を象徴するようなメディアである。パソコンネットをもつ会社「アスキー」と民間の衛星通信会社の「日本通信衛星」が一九八
九(平成一)年春に打ち上げた通信衛星のトランスポンダ(電波中継器)一本を借りて、八九年秋から、世界で初めて行っているデータ伝送。
アスキー社の屋上に設けた送受信局から、パソコンによる趣味や娯楽などの情報を、データで同時に特定多数の会員に向けて送信し、会員たちは、超小型受信
機でキャッチ、パソコンを使って、その情報を読むというシステム。パソコン通信は、これまでは電話回線を使って、ほぼ特定の者同士でデータの変換をして
いたが、通信衛星を介して、同報形式で一対N(多数)の関係で、データを放送のように送るので、この名前がついた。通信料が安く、一斉に利用してもパン
クしないなどが特色。
◆テレックス(Teletypewriter Exchange)〔1994 年版
ニューメディア〕
加入電信の意味。相手のテレックス番号を呼び出し、テレタイプのキーをたたいて、アルファベットなどの文字や数字を送信するテレコムの一つ。文字多重放
送はテレテキスト、通信機能のあるワープロはテレテックスという。
◆スケッチホン(scatchphon)〔1994 年版
ニューメディア〕
テレライティングとか描画通信ともいう。電話などの通信回線を使って、手書きの文字や図形などを送受信するもので、ボードの上を動くペンの位置を電気的
に探し出して送り、それをブラウン管の上に描き出す。NTTではスケッチホンという。INS計画の実現により可能となる。
◆静止画テレビ電話機〔1994 年版
ニューメディア〕
情報の高度化ということは、音声より画像情報というように、より多くの情報(信号)を伝えることである。そこで話して聞く(音声)電話よりも、見て話し、
かつ聞くテレビ(画像)電話の出現が待たれていた。しかしテレビ(動画)のように動く情報だとより多くの信号を使うので、まずは静止画テレビ電話が、一
九八七(昭和六二)年秋から売り出されたが、信号の伝送方式がメーカーごとに異なるので、同じ社の電話でないと通話ができない不便さがあった。
そこでソニーなど国内五社はTTC(電信電話技術委員会)が定めた標準規格の同機を、八八年五月から発売した。価格は五万円前後。
内蔵した小型カメラで、話し手の顔を映して普通の電話回線で聞き手に送信すると、ディスプレイに映って、静止画だが、相手の表情を見ながら話しができる
便利さがある。
◆カラーテレビ電話〔1994 年版
ニューメディア〕
米国電話電信会社が、一九九二年五月から始めた「ビデオフォン 2500」のこと。現在の電話線を使用できる点が特色。通話者は内蔵カメラが液晶のカラー画
面に映す、毎秒一〇コマの画像を、お互いに見ながら話す仕組み。
◆次世代携帯電話(portable telephone for coming generation)〔1994 年版
ニューメディア〕
家庭内や事務所内の親電話を経由しなければ利用できない現在のコードレス電話を発展させたもので、親電話なしで屋内外や地上、地下を問わず基地局経由で
「いつでも、どこへでも、誰にでも」電話がかけられる新しい通信形態。
郵政省の報告によると、一九九一、九二(平成三、四)年をメドにコードレス電話の発展型「第二世代コードレス電話」を提供、さらに携帯電話の最終段階で
ある「新世代マイクロセル型携帯電話」の導入を目標としている。「第二世代コードレス電話」は、個人用の携帯電話で、街角などに設置された基地局を通じ
て一般電話と通話のできるシステム。「新世代マイクロセル型携帯電話」は、これをさらに進めた本格的な携帯電話で、端末機も小型バッテリーを利用し背広
の内ポケットにも入るほどの小型化を想定している。
移動通信は二〇〇〇年には一五〇〇万∼三〇〇〇万台の需要が見込まれている。
◆デジタル公衆電話〔1994 年版
ニューメディア〕
NTTのISDN回線を、街角からも利用できる公衆電話。話す電話として使うだけでなく、ノートワープロに打ち込んだ文章を、この公衆電話から、相手の
パソコンに送信したり、営業マンが出先から、本社のデータベース(コンピュータ)に入力してあるデータ情報を、この電話を介して、自分の電子手帳に送っ
てもらえる。一九九〇(平成二)年三月から、NTTは実用化している。
◆広域ポケットベル〔1994 年版
ニューメディア〕
移動している人を、無線で呼び出すポケットベルのサービス・エリアは、当初は一つの都道府県内に限っていた。しかし、首都圏など広い地域をサービス・エ
リアにするのが、これ。七年前に広域ポケットベルがサービス・インしてから、遠距離通勤・通学者の増加に伴い、料金は割高でも増加する一方。
◆ボイスパック〔1994 年版
ニューメディア〕
郵便局に設置した録音機に、メッセージを吹き込んだあと、専用のICカードに入力(録音)して、郵便物として出す。受取人が、そのカードの一部を押すと、
再生されたメッセージが流れ出す。郵政省は一九九二(平成四)年二月からボイスパックサービスとして全国の主要局で営業を開始している。
◆テレメータリング(telemetering)〔1994 年版
ニューメディア〕
NTTでは、ノーソンキングサービスという。通信回線を介して、遠くや危険な所にあるメーターの数量を読み取る技術。電話回線を使って下水道のメーター
の読取りをNTTは始めているが、検針員がメーターを見なくてもすむ。
気象庁は、全国各地に雨量計など気象観測機器を無人で設置しておき、電話回線を使ってそれらを結び、東京の本庁で集計して、天気予報のデータとして利用
している。
◆双方向TV〔1994 年版
ニューメディア〕
アメリカのTVアンサー社が開発した電話的なテレビ。テレビ専用のチューナーをつけ、各地の中継局に電波を飛ばす。各家庭では、これを使って、放送局と
対話したり、テレビショッピングをする。中継局に集まった、これらの要素は、通信衛星経由で、同本部に送られ、関係のスーパーや放送局に転送される。そ
の答えは逆のコースで、各家庭のテレビへ戻る。米連邦通信委員会は、これに電波を割り当て、数年後には実現させたいとしている。
◆HIT(ホーム・インフォメーション・ターミナル)(Home Information Terminal)〔1994 年版
ニューメディア〕
NTTが計画している家庭で使う情報端末の略称。ファミコンなど家庭用テレビゲーム機は、とどまるところを知らないくらいに普及しだしているので、それ
をネットワーク化しようという構想。別名、ファミコン通信。野村証券などは、ファミコンを使って家庭で株式の売買(ホームトレード)をすでに行い、銀行
はホームバンキングを、百貨店はホームショッピングを行う構想がある。しかし各業界、各企業で作ったネットワークは、その通信方式などが異なり、他の業
界や他の企業と通信ができない不便さがある。
そこでNTTが、これらの異なるファミコンネットワークを、お互いに通信が可能な通信網に作り、ネットワークを拡大しようという計画で、いわば ファミ
コンVAN 。これができると一台のファミコンを自宅におき、株の売買も、航空機のチケットの予約も、馬券の購入もできよう。
◆INS(高度情報通信システム)(Information Network System(和製英語))〔1994 年版
ニューメディア〕
NTTが行うISDN計画のことで、二〇〇〇年をめどに、NTTの電気通信網を、現在のアナログ方式からデジタル方式に切り換えて、改善する遠大な計画。
一九八一(昭和五六)年八月に発表し、総事業費は三〇兆円に達するという。北海道の旭川から九州の鹿児島まで、日本列島三四〇〇キロメートルに達する大
容量光ケーブルによる基幹網は八五年までに完成し、現在、この大幹線と県庁所在地級の都市からニーズのある市町村を結ぶ光ケーブルを敷設中であり、交換
機もデジタル交換機に変えている。INSが完成すると書いた文字を送信できるスケッチホンや相手の顔を見ながら話せるテレビ電話も利用でき、現在の話し
て聞くという電話が、書いて読んだり、見ることも可能な電話となる。つまり五感全部を使える電話になるもので、これは「日本列島電気通信網改造計画」と
いえよう。
NTTは、八四年から東京の三鷹地区で、INSの技術実験を実施したが、期待が大きすぎて不評をかった。しかしニューメディア時代の基盤となる通信網だ
けに、その実験結果から、同計画の価値をあなどるわけにはいかない。
NTTでは、八八年四月から「INSネット 64」という、このサービスを始め、利用料(月額)は五四〇〇円(企業用)で、通信料は現行の電話回線と同じ。
これで、ファックスと電話を同時に送信できる。またヤマハと共同で、離れた地点をこの回線で結び双方向同時演奏システムを開発。
八九年七月からINSの本格的運用第二弾として「INSネット 1500」がスタートした。これは「ネット 64」にくらべ二〇倍以上の大容量の情報を伝送でき
るようになり動画像や超高速のデータ通信が可能となった。
◆CS4/マルチビーム衛星アンテナ(multi beam satellite antenna)〔1994 年版
ニューメディア〕
一九九五(平成七)年に打ち上げが予定される次期通信衛星CS4にのせるため、NTT(日本電信電話)が自社開発したのが「マルチビーム衛星アンテナ」。
これを利用し、自動車電話・携帯電話サービスを全国に広げようというもの。
地上のアンテナ設備を用いた現在の自動車・携帯電話サービスでは、設備投資に膨大な費用がかかるため、NTTなどは対象地域を需要の見込める都市部、主
要高速道路、国道沿いに限定している。
NTTは従来の三〇倍の電波強度をもつ「マルチビーム衛星」を開発、これに高周波数帯を利用した世界で最初のSバンド(二〇五ギガヘルツ‐二〇六ギガヘ
ルツ帯)用の電波中継器(トランスポンダー)、電波増幅器なども開発して搭載を計画している。
これらの機器ののった衛星を使えば、山間僻地を含めた全国のどこからでも移動体通信が可能となる。
◆発信者ID(身元証明)システム〔1994 年版
ニューメディア〕
鳴った電話の受話器を取る前に、かけてきた相手の電話番号が表示される新装置。ニューヨーク市のナイネックス電話会社などが、一九九〇年初から実用化の
計画。プライバシーを重んじるアメリカでは留守番電話をつけて、かかってくる電話の選別をしている人が多いだけに、そのニーズに応えて開発されたもの。
また警察などへの救急の電話では発信者を敏速に追跡できいやがらせ電話の防止にもなる。日本でもINS計画が実現すると可能になる。
◆ニュー・アンサー(New Anser)〔1994 年版
ニューメディア〕
アンサーというのは、NTTデータ通信が提供している電話を使って、ホームバンキングやホームトレード(株式の売買)、新幹線などの座席予約ができる通
信網。現在のバラバラに構成されているものを統合して、百貨店やクレジット会社なども加入させ、ICカード電話を端末として、クレジット・カードの照会
やホームショッピングをした代金の銀行口座からの引落しなどを可能にしてしまおうというものである。
◆電波カード〔1994 年版
ニューメディア〕
駅の改札などに設置したカードリーダーが電波を発信し、利用者がその方向にカードを向けると、カードに埋め込まれたICが、記憶されているデータを送り
返す仕組み。一部ではすでに入退館管理などに使われているが、郵政省は、定期券や高速道路の利用者に使おうと、研究会を開いて検討中である。
▲ニューメディアの利用面〔1994 年版
ニューメディア〕
テレコム(電気通信)は、距離と時間を克服するメディアであるから、地域開発に活用しない手はない。これに気づいたか、最近では、気のきいた地方自治体
では企画部が中心になり、いろいろな開発計画が打ち出されるようになった。テレコムタウン構想、ニューメディアコミュニティ構想など目白押しである。
◆地域の情報通信化〔1994 年版
ニューメディア〕
郵政省の最重要テーマ。同省は、通信政策局のなかに、一九八八(昭和六三)年六月に初めて、地域通信振興課を発足させた。地方自治体にも、情報通信担当
の部課の開設を求め地域の情報通信の発展実施のため窓口を同課においた。
具体的には、キャプテンなどのニューメディアを使って、地域の開発を行うテレトピア計画のほか、民活法の対象となるCATVセンターと通信の共同施設で
あるテレコムプラザ、研究開発のための共同施設であるテレコムリサーチパーク、地域局などを建設して、テレコムにより都市開発を行うテレポート、さらに
は、放送と通信が共同で使える電波塔ともいえるマルチメディアタワー、新たに造成した住宅地などに、光ケーブルを引く特定電気通信基盤施設などがある。
これらの多くはいずれも民活の対象施設であり、無利子で融資が受けられるほか、開銀などの政府の投融資枠から出資や融資が得られる、一般会計から建設の
ための補助金が受けられる、さらには国税や地方税が施設の態様により一定の限度で減税される、など種々の恩典があり、さらに進展しよう。
◆テレトピア計画(Teletopia Project)〔1994 年版
ニューメディア〕
郵政省が、一九八五(昭和六〇)年から展開している「未来型コミュニケーションモデル都市」の通称で、キャプテンや双方向CATVなどニューメディアの
普及をはかり、地方都市の情報通信機能を高めて地域振興に役立てようという計画。仙台市など七〇地域が、この計画の指定を受け「水道の遠隔自動検針シス
テム」
(長野県諏訪地区)、
「総合医療情報システム」
(静岡市)などがある。また一方、通産省は「ニューメディア・コミュニティ構想」を打ち出し、地域の医
療や防災システムに、CATVを中心としてテレコムを利用した地域開発を行って対立している。
◆テレコムタウン〔1994 年版
ニューメディア〕
郵政省はテレコムタウンのモデル都市として、仙台、厚木(神奈川県)、広島、福岡の四市を指定したが、そのなかで同構想を調査、研究していた「情報通信
基盤開発推進協議会」(会長・斎藤英四郎経団連会長)が、初めて厚木市の場合についての、最終報告書をまとめた。それによると、対象地域は東名高速道路
の厚木インター周辺約五〇ヘクタールでここに大容量のデータや画像伝送ができる光ファイバー網を張りめぐらせ、中核施設として高層インテリジェントビル
を建設する。共同利用型の大型コンピュータを設置、情報の受発信機能を高めることにしている。また、データベースや情報を管理するテレコムセンターの導
入を提言。さらに、通信センターや事務所・貸しビル群を配置、整備する。二〇〇〇年までの事業完了を目指すが、事業主体、事業費などは未決定。
◆地域系新電電〔1994 年版
ニューメディア〕
NTTの市内電話網に相当するように、特定の地域をサービスエリアとして、家庭や企業まで自前の通信網を構築している通信事業者。東京通信ネットワーク
(TTNet)や大阪メディアポート(OMP)などがある。日本テレコムなど長距離系が東京‐大阪間などニーズの多い大幹線網を敷設しているのに対し、地域
系新電電は関東地方など狭いエリアをきめ細かくサービスする。これまでNTT網に接続できなかったが一九九一(平成三)年春から可能になった。
◆テレポート(Teleport)〔1994 年版
ニューメディア〕
電気通信という船の港のような役目を果たす出入り口という意味。電波障害の少ない港湾地区に、通信衛星と交信できるような地上局を建設、テレポートを含
む周辺には、大量の情報通信を利用するオフィスパークなどを造成して地域開発を行う計画。ニューヨーク市の南、スタッテン島に、通信衛星との送受信局を
一二局つくり、同市との間は光ファイバーで結び、同市内の通信機能を改善する計画。オランダやロンドンでも建設中。
わが国でも、東京都は「東京湾の 13 号埋立地」、横浜市は「みなとみらい 21 地区」、大阪市は大阪南港地区に、テレポートの建設計画を進めている。
「東京テレポート」は、構想検討委員会が一九八七(昭和六二)年三月に最終報告を作った。それによると東京湾 13 号埋立地にパラボラアンテナ八基の地上
局を建設し、電気通信中枢センターやオフィスパークで構成し、事業費約一三〇〇億円でマスタープランを完成し、一部の事業は八九年に着手の予定であった
が、現在見直し中。
「みなとみらい 21 テレポート」は、横浜港の造船所跡地に作る造成地に、光ファイバーネットワークを構築し、データベース、映像情報、都市管理などがで
きる情報都市を建設する。総工費五〇億円、八七年度着工で八九年度から一部使用開始。
「大阪テレポート」は、テクノポート大阪計画の中核プロジェクトで、都心部と地下鉄、高速道路ルートを経て光ケーブルで結び、総合デジタルネットワーク
を構築する。パラボラ局四基をつくり、テクノポート大阪推進協議会で検討、八七年五月から大阪テレポート利用研究会をつくり、ユーザーサイドの研究も始
めており、八八年一月着工で八九年秋使用を開始、と最も進んでいる。
●最新キーワード〔1994 年版
ニューメディア〕
●広帯域ISDN(B‐ISDN)〔1994 年版
ニューメディア〕
テレビのように動く画像を、カラーで送受信できる総合サービスデジタル通信網(ISDN)をいう。現在のISDNであるNTTのINS1500 ではカラー
の静止画像までしか送信できないが、B‐ISDNは、二〇〇〇倍から一万倍の大量の情報(信号)量を高速で送信できるので、カラービデオをテレビのよう
に映せる。さらに、高精細度テレビ(HDTV)も可能。人間の五感に近いメディアを可能とする最先端のネットワークだ。現行のISDNであるINSが毎
秒六四キロから一・五メガビットの伝送速度なのに対し、B‐ISDNは、同一五六メガと六二〇メガビットと圧倒的に高速。そこで、ATM(非同期転送モ
ード)交換機を使って送受信する。この結果、カラーテレビ電話やCAD/CAM(コンピュータ援用設計・製造)、テレビ会議など動画を有効に活用できる
ようになる。
●次世代通信〔1994 年版
ニューメディア〕
西暦二〇一五年ごろからスタートする電気通信網をいう。音声やデータだけでなく動画なども大量に、かつ高速で送受信できるネットワーク。現在はN(狭帯
域)ISDNだが、すべての回線を光ファイバーによるB(広帯域)ISDNに改善しようというものである。NTTは二〇一五年までに、加入者回線の光フ
ァイバー化、交換機など通信機器のデジタル化、新たなサービスを提供するのに必要なソフトウェアの開発、研究開発費などで、この二二年間に毎年二兆円ず
つ計四五兆円が必要と見込んでいる。これによりマルチメディア通信となり、電子図書館や電子新聞、双方向テレビが可能になるという。アメリカは、ゴア副
大統領の提唱で、この上をいくギガビット・ネットワークという通信網を全国に新設する計画で、スーパー光情報ハイウェーと呼んでいる。アメリカ経済の回
復をきっかけにしようと、精力的に取り組んでいる。
●ISDN(Integrated Service Digital Network)〔1994 年版
ニューメディア〕
総合デジタル通信網という。世界的にテレコム回線は電話、テレックス、ファクシミリ、コンピュータ(データ)通信など、メディア別にばらばらに敷設され
ている。それではコストが高く不経済だという考えから、これらの回線を統合して一本化し、画像などより広帯域の情報(信号)を高速で送受信できる回線網
が求められるようになった。
最近のハイテクがそれを可能にした。信号を数値化して送受信するデジタル伝送方式と、光ファイバーケーブルを使う光通信技術の開発によって、このISD
Nができるようになった。ISDNの日本版が、NTTが実施しているINS計画。世界各国では、このISDNによる通信網作りが進んでいる。ISDNの
標準伝送容量は、六四+六四+一六の合計一四四キロビット/秒。これは、CCITT(国際電信電話諮問委員会)が定めたもので、NTTのINS計画もこ
の世界標準に準拠した。ISDN化は、イギリスでは一九八五年からロンドンで、アメリカではイリノイ・ベルが、フランスではラニオン市などで、ドイツで
はシュツットガルト市などで八六年から実験を開始。NTTは、八八(昭和六三)年四月からINSを開始、いま需要のある市町村への拡大敷設中である。
●インターネット(INTERNET)〔1994 年版
ニューメディア〕
一九七〇年代に軍関係の研究機関を結ぶアーパネットをもとにできた高速デジタル通信回線で、八〇年代にはNSF(全米科学財団)の資金を得て、大学や研
究機関を中心にコンピュータ・サイエンス・ネットが生まれた。さらに超高速コンピュータを結ぶNSFネットの完成を中心として、民間企業の研究所・図書
館を結ぶこのネットワークができた。これをベースにアメリカ政府は、新情報網をつくろうとしている。
●ギガビット・ネットワーク(Giga‐bit network)〔1994 年版
ニューメディア〕
アメリカのゴア副大統領の提唱で始まった大学、政府研究機関、企業研究所のスーパー・コンピュータを光ファイバーやアメリカの打ち上げた先端通信衛星(A
CTS)で結ぶ通信網。一秒間に一ギガビット、つまり約六〇〇〇万文字という超大量の情報をやりとりできるネットワーク。テレビ画像の二〇〇倍近い画像
情報を瞬時に送れるから、遠隔地の医療診断やマルチメディア・テレビ会議、科学技術データの解析などが、この通信網を介して可能となる。
▽執筆者〔1994 年版
志賀
放送映像〕
信夫
1929 年福島県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。早稲田大学文学部講師を経て,現在,放送批評懇談会理事長。著書は『テレビ媒体論』『放送』『いまニュ
ーメディアの時代』など。メディア・ワークショップ代表理事。
◎解説の角度〔1994 年版
放送映像〕
●わが国の情報供給量は 10 年間で 2.22 倍に増えたと 93 年の通信白書はまとめた。とりわけテレビなどの映像タイプの影響力は大きく,これからもさらに伸
びるという。茶の間や街にあふれる映像の多彩さ,CG,ホログラフィー,バーチャルリアリティーなど,新しい表現手段があらゆる場所に広がり,「映像新
時代」の幕開けとなった。
●今後の情報社会は,マルチメディアを軸にして,次世代通信ネットワークづくりが行われる。マルチメディアとは,テレビ,パソコン,電話などの情報媒体
(メディア)をコンピュータを使って多機能化することである。わが国ではいま景気浮揚策として,情報インフラをハイテク型に構築することだといわれてい
る。この新社会資本構想は乗りやすいが,この構想の理想と現実は大きくずれることが多い。便利にするために,複雑化,使用料の多額化が起こることがない
ようにすべきだろう。
●衛星放送の重要性は今後ますます高まるだろう。しかも越境電波は周辺各国に届き,日本はアジア・太平洋地域内でのリーダー役を引き受けざるを得ない。
そのマイナス面を最小限におさえ,海外の質の高い番組を活用し,各国の番組向上に役立ててほしい。
■越境する衛星放送〔1994 年版
放送映像〕
香港のスターTVが一九九一年八月から三八カ国・二七億人をカバーする越境テレビを放送して以来、アジア各国は新たな衛星を使った放送をつぎつぎに計画、
越境するテレビ電波が急増することになった。そこで越境する衛星放送の在り方がアジア・太平洋地域での国際問題となり、何らかのルール作りをしようと協
議を重ねだした。
NHKの衛星放送も、韓国、台湾、中国などで広く受信され、一時、韓国から「電波による文化の侵略」との批判が出たが、ビーム(方向指示電波)をしぼっ
てスピルオーバー(電波の漏れ)を少なくすると、日本のテレビ番組を視聴したいとの声が逆に盛り上がった。
アジアの衛星利用の先進国はインドネシアであり、衛星電波銀座の赤道が真上に位置し、インド洋、太平洋、南シナ海に囲まれた大小一万余の群島国として、
七六年七月国内通信衛星パラパをいち早く打ち上げた。この衛星を通じて地域別のテレビ局に配信し、全国ネットに向けていく一方、タイ、フィリピンなどの
周辺国に余剰チャンネルを貸し出し、越境電波の受信を容認している。
「アジア・フリー・スカイ・ルール」を提唱しているのは、このインドネシアだけであり、香港政庁はスターTVをかかえて、「受信規制はなるべく緩やかに
したいが、基準は必要」としている。九三(平成五)年六月、日本政府は初の国際協議「アジア・サテライト・コミュニケーションズ・フォーラム」を東京で
開き、七カ国が参加、秩序作りへ前向きの話し合いを行った。
郵政省の「放送分野の国際化に関する調査研究会」(座長・大河原良雄経団連特別顧問)は、九三年三月、海外の放送会社が衛星を使って流しているテレビ放
送を日本でも受信、再放送できるよう、国内の制度を整備すべきだ、とする報告書をまとめた。
すでに香港のスターTVを日本でも共同受信しているケースも出ており、郵政省では「電波法違反」としてきたが、受信を追認するため、早ければ関連法の改
正案を九四年の通常国会に提出する予定である。他国発の受信解禁の方向に大きく動き出したわけであり、日本国内の放送基準に合っていれば、再送信なども
認めるべきだとの提言が出て、国内法を整備しながら関係国との協議に入っている。
日本からの越境テレビの発信についても、検討が加えられており、目下関係各国との調整に非公式な交渉を進めている。日本発アジア向けテレビばかりか、世
界向けテレビをも実現すべきだという積極派、国内向け衛星放送さえ経営不振なのに、海外向けはまだ早いとする時期尚早派とに別れている。
フジテレビはシンガポール、インドネシア、マレーシアの三国と共同制作、スター発掘番組「アジア
バグーズ」を放送、三井物産は米三大ネットワークの一
つNBC、英ピアソン社、香港スターTVと共同で、アジア全域をカバーする衛星放送、ビジネスニュースチャンネルの企業化調査を進めた。スターTVは世
界のメディア王マードックに買収され、アジア衛星市場は華僑資本だけでなく、世界のマスコミ資本も導入された。
★1994年のキーワード〔1994 年版
放送映像〕
★BS(放送衛星)‐4電監審答申〔1994 年版
放送映像〕
一九九七(平成九)年に打ち上げ予定の次期放送衛星が、「BS‐4」であり、日本に割り当てられた合計八チャンネルのテレビ放送をすべて利用することに
なる。
NHK第一・第二衛星テレビ、JSB(日本衛星放送=WOWOW)、ハイビジョン試験放送の計四チャンネルの衛星を調達する企業はすでに発足しており、
残りの四チャンネルをどう使うかについて、電波監理審議会(電監審)は、九三年の五月に、「放送衛星3号後継機の段階における衛星の在り方」と題する答
申を出した。
この答申では、
「地上放送を培ってきた経営資源を有効に活用する」との表現で、集中排除の原則を緩和する方向性を示し、後発機の四チャンネルについては、
「(先発機の打ち上げから)三年以内に所定の措置を講じる」として、二〇〇〇年には民放を中心に割り当てられる公算が大きい。
WOWOWなど民間の放送事業者がスクランブルをかけて行う有料放送に関しては、有料放送時間の比率を緩和し、その緩和によって無料放送が増えていけば、
未契約者が見る機会が広がってCMも導入しやすくなり、経営財源の確保に役立ってくるだろうとしている。
NHKについては、引き続き二チャンネルの衛星放送を実施する必要性を認め、ハイビジョン放送普及の先導的な役割を果たすうえで、NHKがハイビジョン
普及チャンネルを利用することは適当としているものの、NHKの適正規模、保有メディア全体の在り方の観点から、少なくともNHKのハイビジョン放送は
現行二チャンネルの中で実施することとしている。
放送大学学園については、生涯学習の時代に即応し、大学教育を受ける機会を得たいという広範な国民の要請に応えるためにも、BS‐3後継機の段階におけ
る衛星放送の事業体として適当と考えると答申している。
また、「文化的関心の一層の高まり、地域からの情報発信による地域の活性化・多極分散型国土形成と東京一極集中化の是正に関する要請の増大、国際化の進
展など」の文面から推察して、関西財界衛星放送にも認可が降ろされる可能性が出てきた。
BS‐3後継機の段階における衛星放送の目的、理念は、つぎの三つだという。
(1)基幹的放送のメディアの一つとしての機能の発揮
(2)放送の一層の多様性の実現
(3)衛星放送の優れた特性を活かした放送サービスの提供をあげている。
★FM新5局JFLを組織〔1994 年版
放送映像〕
J‐WAVE(東京)やFM 802(大阪)など、FM界の新勢力五局が協力体制を組み、JFL(ジャパン・エフエム・リーグ)を組織した。
このFM界の
Jリーグ
JFLに所属するのは、一九九三(平成五)年八月から一二月に開局するノースウェーブ(北海道)、FM九州(福岡)、ZIP‐F
M(愛知)の三局で、計五局体制が年内に固まる。
先発のFM東京、FM大阪などでは、計三二局が参加するネットワークJFN(全国FM放送協議会)を強化していく方針であり、αステーション(京都)の
ようないずれにも属さないFM局はタッグを組む仲間を模索中である。
従来のネーミングの「ネットワーク」と呼ばず、JFLが「リーグ」という呼称を使ったのは、各局のポリシーを尊重し、地域色を生かした番組編成をしたい
からだといわれている。
同一番組をオンエアするのを避けて、音源素材の共同購入などを中心にしていく。
★個人視聴率〔1994 年版
放送映像〕
視聴率は世帯単位から個人に変えるほうがいいと広告主が主張、民放テレビ局は慎重に導入すべきだと抵抗し、その綱引き合戦を展開しながら、双方のコンセ
ンサス作りが行われている。
具体的な新しい動きを見てみると、三井造船系のデータアクセス社が開発した個人視聴率測定機「Vライン」の登場と、外資系大手の日本エー・シー・ニール
セン社がアメリカで開発した「パッシブ・ピープルメーター」の公開とがあげられる。
前者は魚群探知機のノウハウを利用して、家庭内の各個人の視聴時間を測定しようという方法であり、試験テストを行ったところ、朝や日中の個人視聴率は世
帯視聴率の約三分の一、ゴールデンアワーのそれは約五・六割にパーセンテージの数が減少することがわかった。
後者は、完全自動式個人視聴率測定の内見会を、九三年六月に東京で行い、視聴する人が機械のボタンを押さなくても、見ている人を画像で自動的に判別する
「パッシブ・ピープルメーター」を紹介した。一九九四(平成六)年四月からフィールドワークを始め、その後、市場に進出させたいと語っていた。
料金を払ってCMを流す企業は、世帯視聴率がいくら高くても、ねらった層の消費者が見てくれなければ意味がなく、また個人視聴率は市場調査にも役に立つ。
テレビ局は視聴率の低下による収入の減少を懸念しているが、個人視聴率の導入は時間の問題になってきた。
▲放送事業〔1994 年版
放送映像〕
日本の放送事業は、公共放送のNHK、商業放送の民放、教育放送の放送大学の三つに分けられていたが、これら地上波系放送に対し、新たにつぎのような衛
星系放送が加わった。
一九八九(平成一)年衛星放送がNHKにおいて二波本放送を開始して有料化となり、九一年民間のJSB(日本衛星放送・愛称WOWOW)も業務を始めた。
同年放送法が改正されて、従来のBS(放送衛星)のほかに、CS(通信衛星)による放送も認められ、九二年からCSテレビとCSによるPCM音声放送が
各々六社の有料放送を開始した。
◆NHK(日本放送協会)(Nippon Hoso Kyokai)〔1994 年版
放送映像〕
東京都渋谷区神南に本部をおき、NHKの電波を直接各家庭に届けるため、全国に設置している無線局数は、一九九三(平成五)年三月末現在、テレビ総合が
三四九一局、テレビ教育が三四一四局、ラジオ第一が二〇二局、同第二が一〇四局、FMが五一二局、テレビ音声多重が六九〇五局、文字放送は総合テレビと
同数、衛星放送(テレビ音声多重を含む)が四局、ほかに再送信局(テレビ音声多重を含む)が一二局になっている。全国に向けて放送する特殊法人であり、
運営は受信料(九三年度は収入は五五三六億円で全収入の九五・六%)でまかなわれている。国際放送は二二言語、一日延べ六〇時間行っている。放送法によ
って、
(1)視聴者の要望に応えて報道・教育・教養・娯楽の各分野にわたって放送すること、
(2)放送サービスが全国のすみずみまでゆきわたるように放送
局を建設し、あわせて、地域社会に必要なローカルサービスをすること、
(3)放送の進歩発展に必要な研究や調査をすること、
(4)国際放送をすること、な
どが決められており、事業計画・収支決算は国会の審議を経ることも定められている。なお運営の基本計画は、全国から選ばれた小林庄一郎、中村紀伊、草柳
大蔵ら一二名の学識経験者からなる経営委員会で決める。
経営状況は以下のとおり。
受信料によって成り立つ公共放送事業体として、公正で質の高い放送サービスを行うとともに、組織・業務体制をより能率的なものにしようとしている。「創
造性」と「能率性」を目標に全面的な体質改善を進め、一九九三(平成五)年度は、
(1)視聴者の期待と要望にこたえる地上放送の充実、
(2)衛星放送の充
実と普及拡大、
(3)ハイビジョンソフト開発の推進、
(4)国際放送の拡充、
(5)積極的・効果的な営業活動の展開、
(6)放送の発展を図るための調査研究
の推進、
(7)業務運営の効率的な推進による要員・経費の削減(要員純減三三〇人)、
(8)次期放送衛星を調達する法人への出資などを図ることにしている。
関連団体は、NHKエンタープライズなどの放送番組の企画・製作、販売分野が九社、NHKきんきメディアプランなど地域開発会社が六社、NHK総合ビジ
ネスなど業務支援分野が六社、NHKサービスセンターなど公益サービス分野が七社、福利厚生団体が二社、ニューメディア事業分野が三社となっており、形
態も株式会社、財団法人、社会福祉法人などさまざまである。NHKは関連団体と連携をとりつつ良質なソフトのより廉価で安定的な確保、多角的なメディア
ミックス事業、国際的な情報発信や交換、ハイビジョンなどニューメディア事業の推進などを目標にして、公共放送に寄与する関連事業を積極的に行い、公共
放送事業の円滑な遂行にあてる。
九三年六月末受信契約総数は三四四六万五六三四件であり、その内訳は、地上契約が二九二八万二三一八件、衛星契約が五一八万三三一六となっている。大型
企画番組は、「アジアハイウェー」「テクノパワー」など多彩な番組を積極的に編成している。
◆民放(民間放送)〔1994 年版
放送映像〕
放送番組をスポンサー(広告主)が支払う広告料金(電波料、製作費、ネット費)でまかなう商業放送および契約者から視聴料金をとる有料放送。一九九三(平
成五)年八月一日現在、
〔地上系〕音声放送八九社(中波四七社、短波一社、FM四一社)、テレビ放送一一七社、文字放送二四社(うち第三者一〇社)、
〔衛星
系〕音声放送三社(BS一社、CS二社)、テレビ放送七社(BS一社、CS六社)である。五一(昭和二六)年九月一日、名古屋の中部日本放送と大阪の新
日本放送(現・毎日放送)がそれぞれラジオ放送を開始。テレビは五三年八月二八日、東京の日本テレビが放送を開始した。これら地上系に対し、衛星系はJ
SB(日本衛星放送)が九一年四月一日、JSBの設備を利用したPCM音声放送(テレビジョン音声多重放送)セント・ギガは九一年九月一日、CS(通信
衛星)によるテレビ放送は日本ケーブルテレビジョン、スター・チャンネル、ミュージックチャンネルの三社が九二年五月一日からそれぞれ有料放送を開始し
た。
民放一六九社(衛星系民放除く)の一九九二年度決算は、新規開局六社を除く一六三社の営業収入が二兆一四五五億九九〇〇万円であり、前年度比一・九%減
と全社ペースの営業収入の総額としては開局以来初の減収決算となった。
◆民放連(NAB)(The National Association of Commercial Broadcasters in Japan)〔1994 年版
放送映像〕
日本民間放送連盟の略称。民放各社の共同の利益を守り親睦を図る目的で、民放誕生の年〔一九五一(昭和二六)年〕、初の免許を受けた一六社によって設立
され、九三年八月現在の会員社計は一七五社である。その内訳は、ラジオ単営五七社(うち衛星系BS一社、CS四社)、テレビ単営八二社(うち衛星系BS
一社)、ラ・テ兼営三六社となっている。事務所の所在地は東京都千代田区の文芸春秋ビル。
◆放送法〔1994 年版
放送映像〕
国民生活に大きな影響力を持つ放送が、健全な発達をとげることができるようにする目的で、放送番組、放送運営の全般を規律するもの。一九五〇(昭和二五)
年春の国会で制定され、国民的基盤に立つ公共的な放送機関としてのNHKの設立、運営、財政、番組、監督について定め、また、電波法による放送局の免許
というかたちで、放送事業者としての地位を得た民放について、番組の編成、広告放送の実施などについて、規定している。
まだ民放テレビが生まれていなかった五〇年に制定された放送法なので、何回か小幅な改正がなされてきたが、八九年の改正は通信衛星による放送を認めた点
で、注目に値する。この改正は同年一〇月一日から実施されたが、つぎの四点が主なものである。
(1)日本放送協会(NHK)は、協会が定める基準に従って、業務等の一部を委託することができる。監事は、その職務を行うため必要があるときは、子会
社に対し、営業の報告を求めることができる。
(2)受託放送事業者は、委託放送事業者からその放送番組の放送の委託の申込みを受けたときは、正当な理由がなければ、これを拒んではならない。
(3)委託放送業務を行おうとする者は、郵政大臣の認定を受けなければならない。
(4)郵政大臣は、放送の健全な発達を図ることを目的として設立された公益法人であって、放送番組を収集し、保管し、及び公衆に視聴させること等の業務
を適正かつ確実に行うことができると認められるものを、全国に一を限って、放送番組センターとして指定することができる。
この(2)と(3)は、通信衛星による新しい放送事業および業務の規定であり、技術革新によって放送と通信の領域が重なりあってきたことを示す。
◆ネットワーク(network)〔1994 年版
放送映像〕
回線網、また放送網、つまり相互に関係のある放送局がどの放送局も同じ番組を同時に放送できるようになっていること。ラジオの場合には、各放送局は一般
に有線でつながれるが、テレビの場合には特殊同軸ケーブル、またはマイクロ波中継、衛星などによって各放送局をつなぐのが普通である。現在では放送網の
意味を拡大して録音テープや録画フィルムの配布を受けて、これによって同一番組を放送するような特別の関係にある放送局をも、ネットワークの局としてい
う場合がある。
◆国際放送(overseas broadcasting)〔1994 年版
放送映像〕
外国において受信されることを目的とする海外向け放送のこと。日本では定期的放送は一九三五(昭和一〇)年六月に始めている。現在、国際放送は放送法に
基づいてNHKに交付金が支出され、これとNHK自体の経費で「ラジオ・ジャパン」の名で、一八放送地域、二二言語、一日六〇時間の放送を短波で行って
いる。九三(平成五)年度よりインドシナ半島に向けて新たにシンガポールの中継局から送信を開始したほか、カナダの中継局から北米の中部・西部に向けて
も送信している。また茨城県の八俣送信所からはアジア地域や極東ロシアの受信改善のために増設された三〇〇KW送信機三台を含む合わせて一一台の送信機
で全世界へ向けて直接送信している。一般に国際放送は、国際親善と自国の宣伝・ニュースの伝達という二面性をもつ。また、海外で日本語放送を行っている
のは、中国、韓国、朝鮮民主主義人民共和国、台湾、タイ、ベトナム、バチカン王国、グァム、インドネシア、モンゴル、ロシア、アルゼンチン、エクアドル、
ドイツなど一五カ国、一六の放送機関である。
◆国際テレビ中継〔1994 年版
放送映像〕
異なった国々の主として放送局の間で行われているテレビの映像や音声の中継システム。各種の通信衛星や地上のマイクロ回線を複雑に組み合わせて行われて
おり、湾岸戦争などの巨大な事件や、オリンピックなどでは、世界中に映像が瞬時に伝わる、と話題になった。
通信衛星を利用して国際間でテレビの映像を最初に送ったのは一九六二年七月、通信衛星テルスター1号による米欧間の中継である。現在はインテルサット(国
際電気通信衛星機構)の衛星やアメリカの私企業のパンナムサット(大西洋)のPAS‐1号衛星、旧ソ連や東欧、アジアの社会主義諸国を結ぶインタースプ
ートニク衛星、アラブ諸国のアラブサット、ヨーロッパのユーテルサットなどを組み合わせて行われている。ヨーロッパなどでは各放送局の連合体のヨーロッ
パ放送連合(EBU)がユーロビジョンというニュース映像の交換網をつくっており、衛星や地上の回線を組み合わせて映像交換に利用している。ソ連圏の崩
壊で東欧諸国の放送連合(OIRT)は九三年一月EBUに吸収された。アジアではアジア放送連合(ABU)が衛星を利用したニュース素材の交換網(アジ
アビジョン)をつくっている。
◆インテルサット(INTELSAT)(International Telecommunications Satellite Organization)〔1994 年版
放送映像〕
アメリカの主唱で設立された国際衛星通信機構。事務局ワシントン。一九六四年に日本を含む一九の西側諸国によって暫定制度として発足、その後七三年に恒
久制度へ移行し、法人格の国際機関となった。日本の出資額は現在アメリカ、イギリスに次いで第三位である。
九三年八月現在、大西洋上に一〇基、太平洋上に四基、インド洋上に四基、太平洋とインド洋の中間に一基、計一九基の通信衛星を配置し、インテルサット非
加盟国を含む全ての地域に対して商業ベースで通信サービスを提供している。インテルサットのサービスには、テレビ局向け映像伝送のほかに電話や企業向け
データ通信などがある。テレビ中継のためにインテルサット衛星を使うのは、オリンピックやワールドカップサッカーなど世界的スポーツイベントの中継、日々
行われているニュース素材や番組の国際的配信などであり、その量は年々増加してきている。ヨーロッパやアフリカ・東南アジアの諸国との中継は主に山口地
上局‐インド洋衛星経由で、アメリカ・オーストラリア・韓国・フィリピンなどとの中継は主に茨城地上局‐太平洋衛星経由でそれぞれ行っている。
◆インタースプートニク(Intersputnik)〔1994 年版
放送映像〕
旧ソ連を中心とする東側諸国の国際衛星通信機構。一九七二年に九カ国をもって発足。本部モスクワ。西側インテルサットに対抗するシステムだったが冷戦構
造の終焉にともないインテルサットとの協力、融合の方向にあり、ロシアや東欧諸国はインテルサットに加盟を始めている。通称ゴリゾンと呼ばれる旧ソ連の
通信衛星スタチオナールの一部のトランスポンダをリース使用している。CNNなど西側放送機関もインテルサットを補完するため積極的に利用している。従
来はベトナム、カンボジア、アフガニスタンなどインタースプートニク用の地球局しかない国からの中継は、いったんモスクワに送り、そこからウクライナま
で地上回線でリレー、そこからインテルサットのインド洋衛星で日本まで送るルートが主だった。しかし、現在では日本でもインタースプートニクの衛星を直
接受信するケースが増えつつある。
◆コムサット(COMSAT)(Communications Satellite Corporation)〔1994 年版
放送映像〕
アメリカの対インテルサット・インマルサット署名当事者(指定事業体)。一九六三年に米国通信衛星法に基づき特殊会社として設立され、当初はインテルサ
ットの管理者としての位置付けにあったが、現在は他のインテルサット加盟国の指定通信事業体と同じ地位にある。一方で組織上特殊な点がいくつか残ってお
り、取締役会構成員のうち三人は大統領が任命、また、資金調達にはFCC(連邦通信委員会)の認可が必要となっている。七二年、FCCの指針により、米
国内衛星市場の複数参入政策(Open Skies Policy)が確立、以降コムサット以外の衛星通信業者の自由競争により、アメリカの国内衛星通信システムは急速な
発展をとげた。
◆インマルサット(国際海事衛星機構
INMARSAT)〔1994 年版
放送映像〕
短波に依存していた海事通信を衛星技術の導入によって改善することを目的に設立された海事衛星運用のための国際機構。事務局ロンドン。一九七九年に二八
カ国をもって法人格の国際機関として発足、八二年にアメリカのマリサット既存システムを引き継ぎインマルサットとしての運用を開始した。インマルサット
は、主に船舶と海岸地球局を衛星でつなぎ、電話、高速データ伝送等のサービスを提供しているが、最近では、放送局や通信社・新聞社が僻地等からの取材活
動で陸送用可動型地球局を利用するケースも増えてきている。また、テレビ映像をデジタル・インマルサットで伝送する技術も開発されており、放送局の関心
を引いている。
◆非インテルサット衛星〔1994 年版
放送映像〕
従来、国際間の衛星通信を独占的に扱ってきた国際コンソーシアム「インテルサット」の衛星以外の通信衛星で、国際的な通信サービスを行うものをいう。民
間企業として、世界で初めて欧米間、南北アメリカ間の衛星通信サービスを開始したパンナムサット1(米アルファリラコム社)や欧州のアストラ(ルクセン
ブルクのSES社)、アジア地域をカバーするアジアサット(香港アジアサット社)などがこれにあたる。
インテルサットは、従来、多国間にまたがる通信サービスを行う衛星の参入には、技術上、経済上、インテルサットに損害を与えないことを前提に、事前の調
整を義務づけてきた。しかし、一九九二年に、専用線サービスについては即時、公衆回線に接続する衛星回線についても九六年をめどに、非インテルサット衛
星の参入を事実上自由化することを決定し、独占政策を自ら放棄した。この背景には、八〇年代以降、ユーテルサットやアラブサットなど、インテルサットほ
ど広範囲ではないものの近隣諸国への伝送を可能にするいわゆる「域外衛星」が次々と出現し、この調整の件数が飛躍的に増大したことに加え、インテルサッ
トの最大の出資国アメリカがオープンスカイポリシー(規制緩和政策)をとり、国内民間企業から非インテルサット衛星打上げ・運用の免許申請が多く出され
たことや、米国がインテルサットへの巨額の出資を賄いきれなくなったという経済的な要因もあった、といわれる。非インテルサット衛星のサービスは、電話
やデータ伝送といった通信サービスよりも、国境を越えるテレビ放送など映像伝送サービスや企業の専用線サービスが高い比重を占めている。
◆衛星放送〔1994 年版
放送映像〕
赤道上空三万六〇〇〇キロの静止軌道上に浮かぶ放送衛星(BS)および通信衛星(CS)から日本全国の家庭に直接電波を届ける放送。
一九八四(昭和五九)年一月に放送衛星2号 a、八六年二月に同2号 b が打ち上げられたが、この放送衛星のテレビ中継器から電波を発射、この電波は上空か
ら届くので途中さえぎるものがなく、ゴースト(多重像)のない、きれいな映像が得られる。またその音声は、PCM方式による高品質のデジタルサウンドの
ため、低い音から高い音まで、弱い音から強い音まで、きれいに忠実に再現される。NHK放送衛星はテレビの難視聴解消を主目的として打ち上げられたが、
それを目的とした放送は一チャンネルに集められ、これまでの地上放送では実現が困難とされてきたハイビジョン放送などの新しい放送に対応する番組、独自
編成による「モア・サービス」に振り向けることとなった。
「衛星放送の普及」に沿って「二四時間放送」が八七年にスタートし、八九(平成一)年六月には、八月から衛星放送の受信料をもらうため、二波による本格
的な二四時間放送を開始した。なお、衛星放送を受信するには、衛星受信用のパラボラアンテナ(お椀型や、平面型がある)とチューナーが必要である。
八九年六月から、第一チャンネルはワールドニュースとスポーツを中心に、一〇〇%独自放送、第二チャンネルは難視聴解消のための地上放送の編成と同時に、
定時編成で衛星放送を四〇%近く放送している。
ワールドニュースは世界主要国の主なニュース番組をそのまま放送、世界の動きを二四時間伝えており、週末には世界の人気テレビ番組やスポーツ中継を集中
編成している。
第二チャンネルでは、「映画・ドラマ」「音楽」「スペシャル・イベント」を中心に、世界第一級の映像ソフトを集中的に編成しており、DATなみの高音質を
楽しめるBモード放送に象徴されるように、高音質・高画質の放送が特徴となっている。
放送衛星BS‐3は九〇年打上げ、九一年から現行の二チャンネルが三チャンネルとなった。それは、民放初の日本衛星放送(JSB=愛称WOWOW)が九
一年四月、衛星放送を開始したからである。JSBは昼は広告放送、夜は有料放送とし、本放送開始時には一四万人が加入した。放送衛星を利用した初のデジ
タル音声放送局、衛星デジタル音楽放送(SDAB=愛称セント・ギガ)は、九一年三月三〇日、本放送を開始した。そして、九二年からCS(通信衛星)放
送が開始され、多メディア・多チャンネル時代に入った。
◆衛星デジタル音楽放送〔1994 年版
放送映像〕
わが国初のPCM音楽放送として誕生したのが衛星デジタル音楽放送(セント・ギガ/St・GIGA)であり、従来なかった特色ある音声放送として注目され
ている。同じ放送衛星(BS)を利用する衛星テレビ番組と違い、 音の潮流
を主に放送する。
本放送は一九九一(平成三)年三月末からで、有料放送は同年九月から、月額六〇〇円。九三年七月末に加入者四〇四万件。別に、CATV四八局・加入者約
一一万にもサービスしている。九二年度決算では六六億円の赤字を出した。契約加入者の数が想定していたよりも極端に少ないのが、主な理由である。
◆CS放送/通信衛星放送(Communication Satellite)〔1994 年版
BS(Broadcasting Satellite
放送映像〕
放送衛星)を使った放送のほかに、一九九二(平成四)年からCS(通信衛星)を使った新しい放送が生まれた。また八九年一
〇月から実施された新しい放送法・電波法によって、衛星放送事業が二種に分離された。衛星を使って番組を送信するハードウェア専門の受託放送事業者と、
そのための番組を製作するソフトウェア専門の委託放送事業者である。受託放送事業者は現在日本サテライトシステムズと宇宙通信(SCC)の二社であり、
九二年にCSテレビ六社とCSラジオ四社一二チャンネルのCS放送が開始された。
◆二四時間テレビ放送〔1994 年版
放送映像〕
二四時間ぶっ続けのテレビ放送。定時放送はNHKの衛星第一放送が最初で、
「ワールドニュース」
「衛星スペシャル」
「スポーツミッドナイト」などが主な柱。
溶鉱炉と同じで、衛星は火を消さないほうが効率がいいからで、一九八七(昭和六二)年七月から放送開始した。また民放では、NTVが開局二五年記念番組
として、七八年八月二六日から二七日まで「二四時間テレビ」を放送、現在まで毎年続けている。フジテレビとTBSテレビは地上波としては世界初の本格的
二四時間放送を八七年一〇月から実施した。NTVとテレビ朝日は、八八年一〇月から開始した。NTV系のチャリティー番組「二四時間テレビ
愛は地球を
救う」は九三年で一六回目となった。
◆テレビ音声多重放送〔1994 年版
放送映像〕
現在使っている電波のすき間を利用してステレオ、二カ国語放送、第二音声放送を出すこと。一九八一(昭和五六)年、郵政省はNHKと民放三八社に対し、
テレビ音声多重放送の補完的利用の拡大を許可した。これまでの音声多重放送は「ステレオ」か「二カ国語」放送の二つに限られていたが、利用方法の拡大が
認められ、今後の多重放送は、
(1)主番組に関連のある放送なら第二音声でどんな放送でも流すことができる。
(2)災害情報なら、主番組とは無関係に出せ
ることになり、多重ニュースやプロ野球中継のやじうま放送、歌舞伎の解説放送などもできる。
◆静止画放送(still picture broadcasting)〔1994 年版
放送映像〕
通常のテレビのような動画ではなく、一こま一こまの静止画像(文字、イラスト、スチール写真など)と音声によって構成される番組をテレビの電波で送る放
送。わが国で開発されているのは、テレビ電波一チャンネル分の専用波を使って、同時に約五〇種類の音声つきカラー静止画番組を送ることができる方式。視
聴者はテレビ受像機にアダプターをつけることにより、希望する時間に必要な静止画番組を選んで見ることができるのが特徴で、生活情報や学習・教養番組、
趣味の番組など利用範囲は広い。なお、ハイビジョンの静止画は、岐阜美術館などにおいて、ハイビジョンギャラリーとして利用され、話題を呼んでいる。
◆文字放送〔1994 年版
放送映像〕
テレビ画面の映像を構成する順次走査の下から上に戻る時間的すき間「垂直帰線消去期間」を利用し、現行の空中波で文字や図形を送信するシステム。現行テ
レビのNTSC基準では五二五本の走査線があるが、「垂直帰線消去期間」は二一本あり、そのうち四本が使用可能となっている。利用者は、文字放送用アダ
プターが必要。事業者は広告を主要財源とし、無料でニュース、天気予報、交通情報などを提供する。NHKや民放事業者によって文字放送サービスは、現在
大部分の都府県で実施されている。
◆ナローキャスティング(narrowcasting)〔1994 年版
放送映像〕
文字どおりブロードキャスティング(broadcasting=放送)の対語で、地域的、階層的に、限定された視聴者を対象とするテレビ放送を意味することばで、ケ
ーブルテレビがもたらした新しい概念。
ケーブルテレビが、限られた地域を対象としていることや、非常に多くのチャンネルを収容するケーブルの特性を利用して、一つ一つのチャンネルのサービス
内容を細分化し、たとえばニュース、映画、スポーツなどの専門チャンネルとして使っていることなどからいわれ始めた言葉。
◆CATV(cable television,
community antenna television)〔1994 年版
放送映像〕
ケーブルテレビ、有線テレビ。CATVは大別すると都市型と農村型とに分けられ、農村型CATVの地域密着情報システムに対し、都市型CATVの最大の
特徴は多チャンネル娯楽情報タイプといえる。郵政省が一九九三(平成五)年三月末にまとめたところによると、CATV局数五万六四三七施設で、加入世帯
数は約八三四万四〇〇〇世帯。この一年間で約二八〇〇局、約九一万世帯増加した。景気後退によって、加入者獲得は厳しさを増している。
一九五五(昭和三〇)年四月にテレビ難視聴対策施設として、群馬県伊香保温泉で誕生したわが国のCATVは、BS・CS放送といったメディアの台頭など、
ソフト面のプラス要素もあって、これからが本格的な発展への重要な段階を迎えるといえそうだ。
◆都市型CATV〔1994 年版
放送映像〕
都市型CATVの定義は、
(1)端子数(加入が可能な世帯数とほぼ同じ意味)一万以上、
(2)自主放送(民放やNHKの再送信ではない放送)が五チャンネ
ル以上、(3)双方向機能があることなどである。
多チャンネルといっても現実には十数チャンネルから三十数チャンネルが日本の現状で、アメリカのように一五〇チャンネルのものはない。三〇チャンネル程
度の局では、再送信が一二チャンネル、番組供給業者からの提供番組が残りの大半、地域に根ざした自主制作は一チャンネルにすぎない状況である。
加入時の費用は、契約料五万円前後とケーブルを家庭に引き込む工事費などがかかる。利用料は基本が月額三〇〇〇円前後、映画のチャンネルは別料金で二〇
〇〇円から二五〇〇円、アメリカのニュース専門番組のCNNは一〇〇〇円程度の別建てにしている局もある。日本初の本格的ペイ・パー・ビュー(視聴ごと
に料金を支払う)方式を、日本ヘラルド映画は通信衛星を使って、一九九〇(平成二)年七月から自社配給洋画の配信を始めた。
このように民間通信衛星の利用が広がって、日本の都市型CATVは、やっと本格的な多チャンネル時代に入ろうとしており、番組供給業者は現在約四〇社あ
るが、衛星による番組送信はCATVやホテル、マンションまでで、各家庭の配信は放送事業と同様になると規制されている。九三(平成五)年三月末現在、
施設数一四九、加入者数一〇七万世帯となった。放送内容も多様化し、加入のメリットも認識されるようになってきた。
◆スペース・ケーブルネット(space cablenet)〔1994 年版
放送映像〕
通信衛星を利用して、全国のCATV局に番組を配給するシステム。CATVの発展を一段とスピードアップするため、郵政省はこのシステムを推進している。
CATVを発展させる最大のポイントは、なによりも番組の充実、地上系放送局に負けない番組を編成することだろう。そのためには通信衛星によって良い画
質や音質をもった番組を流していかなければならない。
アメリカでは一九七五年九月、大手番組供給会社HBOが国内通信衛星を利用してCATV局に有料サービスを開始、これによりアメリカのCATV加入者は
飛躍的に増加した。この成功でアトランタの地方局WTBSは、七六年スーパーステーションの名称で同様のサービスを行い、CNNを誕生させた。
わが国では八九(平成一)年一〇月からスペース・ケーブルネットのデモンストレーションを行い、多チャンネルCATVの普及につとめている。また、ソフ
ト面では、ペイサービスの展開、ハイビジョンの取込み、双方向サービスの実用化などの発展シナリオが描かれている。
◆ペイテレビ(pay television)〔1994 年版
放送映像〕
特定の契約者に有料で特別の番組を提供するテレビシステム。その方法は主としてケーブルシステム(ペイケーブル)で行われている。ペイケーブルは、有料
テレビ用の番組提供会社が国内衛星を使って新しい劇映画やスポーツのビッグイベント、有名ステージショーなど魅力ある番組を、このCATVに分配するこ
とで急速に伸びた。
◆スーパー・ステーション(super‐station)〔1994 年版
放送映像〕
ローカルの独立テレビ局の番組やイベント中継を衛星を経由して各地のケーブル(有線)テレビ会社に送る方式。アメリカで始まったこのサービスは、国内通
信衛星とケーブルテレビを結ぶことで、加入者は遠く離れたテレビ局の番組を楽しむことができる。ケーブルテレビの経営を圧迫するのは経費のかかる自主番
組の制作だが、ネットワークテレビに対抗するには、CATV局は自主番組がどうしても欲しい。これを克服するのがスーパーステーション化であり、衛星を
利用して、ローカル独立局の自主番組や買取り番組を他のケーブルに送ることで経営改善をはかりうる。これまでネットワークテレビに握られてきたビッグイ
ベントの独占中継権も、これによってケーブル各社が共同購入することができる。
◆有線放送〔1994 年版
放送映像〕
ケーブルを通じて音楽や情報を放送する業種。これまでは夜の盛り場のバーや飲食店などに、演歌などのレコードを流していたが、最近は一般家庭向けに方向
を変えだしている。現在、家庭への普及を計っている業者は約一〇社、加入者は一〇万世帯を上回っているという。業界の最大手の大阪有線放送社(大阪ゆう
せん)は、日本最大の四四〇チャンネルを有しており、従来の飲食店向けの営業方針を大きく転換、一般家庭への進出をねらっており、九三年BBCインター
ナショナルの放送も流した。業界第二位のキャンシステム株式会社も一九八八(昭和六三)年から家庭への売り込みに力をいれている。なぜ、そうなったかと
いうと、有線放送と衛星放送を導入した高級マンションが好評で、よく売れたからだ。音楽ばかりでなく、リスナー同士が有線放送を通じて情報を交換したり、
淋しいときに話相手を求めたり、ラジオの人生相談まがいの使い方まで出てきてAMに今後影響を与えそうである。
◆電波利用料制度〔1994 年版
放送映像〕
これまで無料で使われてきた電波を有料化する構想が、郵政省から提出され、一九九三(平成五)年度から利用料の徴収を実施した新制度。
わが国の電波利用は飛躍的に拡大し、九〇年末で六二五万局の無線局が、二〇〇一年には現在の加入電話数に匹敵する五〇〇〇万局になると予想され、電波利
用関係産業は数十兆円の規模に達するため、電波行政の高率化・高度化(コンピュータ・システムの導入)、電波管理システムの整備充実の費用として、先進
諸外国の例にならい、「電波利用料制度」を創設した。
利用料は免許人から広く徴収し、その全額を電波行政費に充てる特定財源とする。徴収範囲は国や地方自治体も含め、免許を要するすべての無線局からとし、
その額は空中線電力、占有周波数帯幅など電波の利用程度に応じたものとする。総額は半年度ベースで一五〇億∼二〇〇億円程度。なお、放送局の場合はテレ
ビではキー局が一局が一億円、地方局で同一〇〇万∼三〇〇〇万円、ラジオは東京でも一局一〇〇万円以上と推定されている。
また、一〇〇万局もあるといわれる「不法無線局」の締め出し対策も行い、無免許の局あるいは周波数の乱用による混信や電波障害を防ぐ。
九二年五月末に国会で成立、従来無料だった電波に九三年四月から料金が課せられたが、CS(通信衛星)利用の一形態として期待されていた超小型地球局(V
SAT)は電波利用料があまりにも高く、伸び悩むことになりそうだ。
◆放送大学(University of Air)〔1994 年版
放送映像〕
テレビ・ラジオの放送で学ぶ大学として一九八三(昭和五八)年四月発足、八五年開校された。教養学部のみの単科大学で三コースと六専攻がある。九二年ビ
デオ学習センターが全国で一四カ所となった。受講者は全科、専科、科目の各履修生にわかれる。全科履修生は四年以上在学し、一二四単位を取得すると「学
士(教養)」の学位が得られる。他は卒業を目的とせず、自分の学習したい科目を約三〇〇の科目から選択し、講義をうける受講者。九三年度の受講生数は約
四万六五〇〇名。講義はリポート提出のほか、関東地区九つの学習センターでスクーリング(面接授業)も実施される。卒業生は九三年度まで三五一四名。放
送大学の単位をそのまま認める大学・短大は四六となった。懸案の衛星放送化のため、全国放送を実現、二〇万∼三〇万の在学生に定員を巨大化する計画を発
表した。
▲電波と放送技術〔1994 年版
放送映像〕
電波は、これまでの地上波に比べて、衛星からの電波の利用が目立って増えてきた。地上波とは地上から電波を発射しているものなので、高層建築物や高いタ
ワーなどが建設され、電波障害が多くなってきた。通信衛星や放送衛星は三万六〇〇〇キロメートル上空から電波が降っており、各家庭や事業所に直射される。
しかも地上波に比して、衛星からの通信・放送は数分の一と安い経費で済む。また、衛星利用による圧縮電送技術も革新され、従来にみられなかった新送信技
術が登場したことになる。
◆チャンネル(channel)〔1994 年版
放送映像〕
水泳のプールに一定の幅があり、またそのコース一本分にも幅があるように、ラジオやテレビジョンの放送電波にも幅があり、これを周波数帯という。また、
プールにつくれるコースの数は、何本と決まってしまうのと同じように、テレビに使う周波数帯にも、制限がある。現状は、六メガヘルツずつ区切って、第一、
第二
と番号をつけており、これがチャンネル番号である。
チャンネルとは、溝とか通路(通信路)の意味で、周波数帯(ラジオは中心周波数の前後五キロヘルツずつ、つまり一〇キロヘルツ、わが国やアメリカのテレ
ビは映像と音声の双方を含めて六メガヘルツの幅をもつ)を指す。チャンネルの数は限られ、さらに外国からくる電波の混信を受けて使いものにならないもの
もあるほか、同じところで、すぐ隣り合わせたチャンネルを使うと、相互の「混信」が起こってしまう。チャンネルは、需要にくらべれば極度に数が少ない。
どのような強さの電力で、どのような周波数を、どの場所で、どのような目的で、どのような事業者に使わせるか、放送用の電波の使用には国の監理統制は不
可欠のものである。
電波法では放送局を含む無線局を開設しようとする者は郵政大臣の「免許」を受けなければならない(第四条)としている。また個々のテレビジョン放送局や
ラジオ放送局に対して使用チャンネルを振り当てることを、チャンネル割当という。
◆ミニFM局〔1994 年版
放送映像〕
せいぜい数百メートルしか届かない微弱電波のFM局で、都市の若者を中心に広まっている。日本では、電波放送には電波法のきびしい規制があって、FMは
東京でも二局だけしかない。が、同法と同法施行規則では「発信地点から一〇〇メートルの地点で一五マイクロボルト以下の微弱な電波は規制を受けない」と
決めている。そこでこの範囲の大学内ミニFM局などが開局し独自の番組を作っている。マスメディアの特徴が遠心的な情報伝達機能とすればミニFM局は情
報をもとにその送り手と受け手、あるいは受け手同士を結ぶ広場づくりだという。
◆SNG(Satellite News Gathering)〔1994 年版
放送映像〕
サテライト・ニュース・ギャザリングは、通信衛星を利用し、テレビニュースの取材機能、機動性と配信力を高める送受信システム。現在の主なテレビ・ニュ
ースは、ENG(Electric News Gathering)で取材しており、遠隔等で取材したものを局に送信する場合FPU(Field Pick‐up Unit)でマイクロ伝送して
いるが、離島や遠隔の山間部からの送信にはやはり困難があった。それを改善すべくSNGシステムが開発された。アメリカでは早くから実用化され、コーナ
スというSNG専門のテレビ・ニュース配信会社が設立された。加盟六八社にパラボラと車載局を配置、取材したニュースを一日四∼五回ネットしている。日
本では一九八九(平成一)年春から実施され、ニュース以外のスポーツ中継、ワイドショーなどの素材送りにも利用すべく、テレビ各社は湾岸戦争以降競って
準備を進め、態勢を固めた。
◆ビデオ・ジャーナリスト(VJ)(Video Journalist)〔1994 年版
放送映像〕
ENGからSNGへとニュース取材の技術的進歩により出現したテレビ新報道人。ビデオカメラを持ち、一人でどんな所へも密着・同行取材をし、三脚の上の
カメラに向かって自分でコメントをして録画する。それを衛星を通じて世界各地から映像・音声ともども直送する。カメラを持つ新聞記者ともいえるが、湾岸
戦争あたりからCNNなどでもみられるようになってきた。一九九三年のニューヨーク貿易センタービル爆破事件が起こったとき、たまたまニューヨーク市長
の来日に同行していた「ニューズ1」のビデオ・ジャーナリストのポール・セーガンが日本の反応を取材し、いち早くニューヨークへ送った。ローカル・ニュ
ースはこのVJの出現でますます活発になるばかりか、一般視聴者もVJのようにニュースの発信者に変質してゆけるだろう。
◆IDTV/画面改善型テレビ(Improved Definition Television)〔1994 年版
放送映像〕
現行のNTSC方式を変更せず、テレビ受像機を改善し画面の向上を図ったテレビ。
◆デジタル・テレビ(digital television)〔1994 年版
放送映像〕
テレビ受像機の内部回路をデジタル化して、画質の改善や高度な自動調整を行い、多機能化を達成した受像機。テレビジョン信号をアナログからデジタルにす
れば、高品質化が可能なことはわかっていたが、必要な周波数帯域が広がるので、実現するのが難しかった。デジタル化により従来のテレビ受像機よりも画質
を改善したり調整個所を減少させたり、静止画表示、多画面表示など、これまでにない機能の実現が期待できるようになった。
一九八五(昭和六〇)年、シャープは九局の放送全部を同時に視聴できるデジタルテレビを発売、話題となった。これにはそのほか、映像を連続コマ送り再生
する九コマストロボ機能を持つばかりか、内部の記憶回路によって、VTRに近い能力まで持たせた。放送電波をいったんデジタル信号に変えてしまい、内部
でいわばコンピュータ処理してから、改めて目に見える画像として、再生するというデジタルテレビを用いているからである。その後、デジタル・テレビの開
発は進み、画質の改善、調整個所の減少、静止画や多画面の表示などの新機能を持たせた。
◆ハイビジョン/HDTV/横長TV(High Definition Television)〔1994 年版
放送映像〕
次世代テレビ と期待されているハイビジョンは、実用化への第一歩として、横長TVを発表し、一九九二(平成四)年のバルセロナ五輪前からミューズ式
本格受像機を一〇〇万円前後でメーカー各社が発売した。
七〇(昭和四五)年初めからNHKが中心になって開発してきたハイビジョンは、現行TVに比べて走査線が約二倍の一一二五本、画面の横縦比が一六対九で
あり、情報量も約五倍、ミューズ式コンバーターを含めた受像機で試験放送、二〇〇七年までにはデジタル方式の実用化を図る。
日本のハイビジョン方式は、九〇年五月デュッセルドルフでの国際無線通信諮問委員会(CCIR)総会で国際規格として認められ、九一年一一月から放送衛
星BS‐3b の使用による一日八時間放送に延長され、九二年のバルセロナオリンピックや第四七回全国高校野球選手権大会の中継では番組放送が拡大された
が、いずれは欧米の目指すデジタル方式に移行される予定。
高品位で高精細な映像を持つハイビジョンは、放送以外の分野(美術館、博物館、映画、医療、教育など)には利用されだしたが、広範な産業応用への期待が
もたれている。全国の多くの美術館や地方自治体などのホールではハイビジョン機器をすでに設置し、部分拡大や資料交換などに活用し始めた。
◆壁掛けテレビ〔1994 年版
放送映像〕
フラットTV(Flat TV)ともいわれる。これは現在のブラウン管の代わりに、薄型になるディスプレイ素子(液晶、プラズマ・ディスプレイ、発光ダイオー
ド)を画素表示に用いて、パネルのように壁に掛けられるテレビ受像機。すでに液晶を利用したポケット型テレビは市販されているが、一般家庭用のものは試
作品段階で、目下その大型画面の開発が関係メーカーにより鋭意すすめられており、近い将来新製品が発売される予定である。
◆液晶テレビ〔1994 年版
放送映像〕
電卓、腕時計などの文字表示用に使われている液晶を画像表示に利用したテレビ。一般にはポケット・テレビや腕時計テレビなどに使用されているが、大型表
示の可能性もあり、薄型の壁掛けテレビにも用いられている。すでに一部のメーカーではメートル級の大型液晶テレビを試作しており、松下電器は科学万博
85 の液晶アストロビジョンの大型映像システムで縦三メートル
横一二メートルという巨大化に成功した。
液晶は低電圧、低消費電力であるのが特徴であり、そのため文字表示素子として広く利用されている。初期の液晶は応答速度が遅く、コントラスト比が低く、
画素の高集積化が困難だったことなどから、テレビ画像の表示に適していなかった。だが、しだいに改良を加え、テレビ画像表示に使われるようにし、白黒の
腕時計型やポケット型のテレビの実用化に成功した。
◆立体テレビ(stereoscopic television)〔1994 年版
放送映像〕
テレビ画像を三次元的に再現する方式。撮影するときに二眼で撮影する二眼式と多眼で撮影する多眼式との二つに大別され、それぞれにいくつか方式がある。
どの方式にもいまだに問題が多く、放送での実用化は難しい状態にあり、医学用、工業用、教育用などの専門分野の利用への開発を進めている。
日本では、
「オズの魔法使い」
〔日本テレビ一九七四(昭和四九)年・人形劇〕、
「家なき子」
(日本テレビ七七年・アニメーション)、
「ゴリラの復讐」
(テレビ東
京八三年・怪獣もの)などが立体テレビとして放送されたが、いずれも特殊な眼鏡をかけないと、立体的に見えなかった。こうした特別な眼鏡をつけなくても
立体的に見える立体テレビを松下電器が科学万博 85 に出展した。この試作品は、左の目と右の目に、それぞれ異なる方向から画像が入るように工夫、眼鏡な
しの立体画像を可能にした。NHKは 89「技研公開」において、世界初のハイビジョン立体テレビを展示したが、これまた眼鏡を使用していた。なお、NH
Kは 90「技研公開」で液晶投射型メガネなし立体テレビを一般公開、注目を集めた。また、イギリスのデルタ・グループは「ディープ・ビジョン」という受
像機に特殊スクリーンを装着する眼鏡不要の新方式立体テレビを開発した。さらにホログラフィー映像をコンピュータで次々につくり出す立体テレビ「ホロテ
レビ」もアメリカのMITで開発された。
▲放送番組関連〔1994 年版
放送映像〕
放送番組は視聴され方がさまざまに変わり、使われ方も変わった。一般にコンピュータを活用して自動的に送り出され、一過性のものもあるが、録画し、何回
もリピートされるものもある。さらに、録画してカセットテープとして発売されており、ラジオはテープ、テレビはビデオテープ化され、書店やレコード店、
ビデオ専門店などで販売されている。また、放送番組の保存に関する関心は強く、放送番組センターは放送ライブラリーを設置、番組や資料を集積・保存・活
用している。
◆視聴率〔1994 年版
放送映像〕
ある番組が国民の何パーセントの人々に見られているかという比率。ラジオの場合は聴取率。現在、視聴率調査には個人面接法と調査機を用いる方法の二つが
ある。個人面接法は、層化、無作為、多段階抽出法で選んだ数千の視聴者を、調査員が一人ひとり訪ねて、どの番組を見たかを答えてもらうもの。調査機によ
る方法は、テレビ受像機にメーターをとりつけて、いつ、何時間、どのチャンネルを見ていたかを記録するもの。ビデオ・リサーチとニールセンの二つの調査
会社がこの方法によって、東京・大阪・名古屋などの地区で調査している。個人面接法と調査機を用いる方法では、前者が個人単位、後者が世帯単位であるが、
広告主は世界的な傾向からみても、個人視聴率に切り換えたほうがいいと主張している。家族がそろってテレビを見る家庭は少なく、各部屋で個人がそれぞれ
視聴しているからである。
なお全国視聴率一%当たり推定視聴者人数は一一〇万人である。視聴率を、放送開始から終了までの「全日」、午後七時から一〇時までの「ゴールデンタイム」、
同七時から一一時の「プライムタイム」の三分類してそれぞれ出し、それらで比較。この三つともトップとなるのを視聴率三冠王と俗称する。
◆セッツ・イン・ユース(sets in use)〔1994 年版
放送映像〕
受像機の台数に対して、実際にスイッチを入れて視聴しているテレビの割合がどのくらいかを示すもの。視聴率調査のさい用いる。夜のゴールデン・アワーな
らば、セッツ・イン・ユースは八〇%前後、午前一一時台には二〇%台、夕方の五時から六時には五〇%∼六〇%というように、時間帯によってセッツ・イン・
ユースは刻々変化する。視聴率をセッツ・イン・ユースで割ったものを番組占拠率といって、番組効果の測定に用いられる。
◆NHK視聴率調査〔1994 年版
放送映像〕
全国の市町村を、地方、人口、産業構成などによってグループ別に分け、それらをランダム・サンプリング(無作為抽出)法で選び、面接員が直接相手に会っ
てたずねる方法をとっている。最近の調査によると、日本人のテレビ視聴時間は、夏はざっと三時間、冬は約三時間半といったところである。
◆ニールセン調査(Nielsen research)〔1994 年版
放送映像〕
アメリカのニールセン視聴率調査会社の調査。調査の方法は日本では、東京、大阪などに一定のサンプル(標本)の家庭を選び、そこの受像機にオーディオ・
メーターをとりつけ、視聴状況を集積し、パーセンテージとして表す。
◆ビデオ・リサーチ〔1994 年版
放送映像〕
民放二〇社、東芝、電通、博報堂、大広の出資による日本最大手の総合調査会社。テレビ視聴率調査はミノル・メーターにより関東地区(標本数三〇〇世帯)、
関西地区(同二五〇)。ビデオ・S・メーターにより名古屋地区(同二五〇)、北部九州地区(同二〇〇)、札幌地区(同二〇〇)、仙台地区(同二〇〇)、広島
地区(同二〇〇)、静岡地区(同二〇〇)。日記式により長野地区(同四〇〇)の九地区について定期的に調査を実施している。
▲映像とビデオ〔1994 年版
放送映像〕
放送に使われている映像は、映画のフィルム、ビデオのテープ、コンピュータ・グラフィックスの画像などが主であり、現在の主役の映像はビデオだ、といえ
る。ビデオ映像は撮影して直ちに放送できるので、速報性に富み、編集も簡単なので、番組化しやすい。 撮る映像
といわれており、 創る映像
◆映像文化〔1994 年版
に次いで出現してくるのは、 創る映像
の主役は、アニメーションにとってかわって、コンピュータ・グラフィックスになるだろうといわれている。
放送映像〕
映画、テレビなどの映像媒体の発達によって、映像は現代社会に氾濫するようになり、活字文化中心社会から映像文化を主体とする時代に移りつつある。すな
わち、動く映像によって芸術や大衆文化が創造され、それが社会に大きな影響を与えるようになった。さらに、ニューメディア時代は 映像新時代 と呼ばれ
ているように、多様な映像を使ったコミュニケーションが用いられるようになり、それがまた新しい文化を形成するだろうとみられている。電話はテレビ電話、
レコードはビデオディスク、有線放送は有線テレビへ、さらにビデオテックス、ハイビジョンなどの登場によって、映像を用いたコミュニケーション活動は一
段と活発化するに違いない。そうなると、映像が持っている単一・具象表現は、大きな社会問題となってくる。それは、人間の想像力を退化させることになり
かねないからである。しかし同時に、映像そのものは外部撮影のものばかりでなく、CG(コンピュータ・グラフィックス)のように、人間や物体の内部に視
点を設定した映像を創ることが可能になり、映像文化の範囲や考え方を大きく変えるだろう。CGの発達は、人間の絵を描く手法を変革、映像の概念を根本的
に変えかねない。
◆3D映像(立体映像)(3‐dimension scenography)〔1994 年版
放送映像〕
映像を三次元的に再現する方式。二台のカメラで撮影し、二台の映写機で写すステレオスペース方式によるもの、一台の撮影機、映写機ですべてまかなう 70
ミリ立体映画、コンピュータ・グラフィックスを使って画像をつくったものなど、さまざまな立体映像がある。立体的に見える原理は、画像を見る両目の視角
を変えることである。そこで、立体視するためには、右目で見た画像と左目で見た画像をスクリーンに投影、左右の目にそれぞれの画像だけを送りこまなくて
はならない。そのために赤・青の色眼鏡で区別をするか、光の振動方式で区別する偏光フィルターの眼鏡が必要になる。二色焼付けした立体写真のアナグリフ
式はカラー画像ではできない。しかし、観客にとって左右一八〇度、前後には一二五度の範囲がすべて立体映像で占められるので、完全に画像の中に入りこん
だ感じになる。ステレオスペース方式はポラロイド方式でカラー映像が可能。大型画面にするため 70 ミリフィルムを二本使うシステム。また眼鏡なしでも立
体映像を体験できるようになった。
◆CG〔1994 年版
放送映像〕
コンピュータ・グラフィックス(Computer Graphics)の略称。コンピュータを用いて、図形や画像をつくること。統計グラフの作成、自動車や飛行機の設計、
建築や都市計画の設計、衣服のデザイン、CF(コマーシャル・フィルム)やアニーメションの制作など、さまざまの分野で広く実用化されている。それらの
図面はそのままハードコピーとして取り出せるのはもちろん、映像ディスプレイも簡便で説得力がある。CGの基本的な技法は、図形を数値データに置き換え
てコンピュータに記憶させ、そのデータの一部を変えることによって、原図を自由に変形させ、望みの図形を描き出そうというものである。データ入力は、キ
ーボード操作であったが、最近は、ライトペンを使っている。また、デジタイザーやスキャナーを手描きの絵にあてるだけで、コンピュータに読み込ませるこ
ともある。図形を出力させるとき、筆の太さや色彩の選択の幅も広がっており、ぼかし、図形の拡大・縮小、上下・左右への移動などもいまは自由に行えるよ
うに発達している。このテクニックをアニメーションに応用したのが、コンピュータ・アニメーションである。パソコンを使ったCGが開発されており、一般
の利用が急速に進みつつある。
◆SFX(Special Effects)〔1994 年版
放送映像〕
特殊視覚効果のことをいう。「effects」と発音すると、「エフェックス(FX)」と聞こえるので、この表記となった。怪獣、空想科学、科学戦争、冒険劇、恐
怖劇(ホラー・ムービー、スプラッター・ムービー)などのジャンルに多用され、特撮という言葉にかわって、SFXという言葉が広く使われだした。それは、
特撮という言葉が似つかわしくないほど、新しいテクノロジーを駆使したものが多くなったからである。SFXとは、ニューサイエンス時代にふさわしいハイ
テク感覚を持ったメタリックな特殊視覚効果を指すといえよう。
◆レンタル・ビデオ(rental video)〔1994 年版
放送映像〕
賃貸料金をとって貸し出すビデオカセット。劇映画ソフトをビデオ化したものが圧倒的に多く、レンタル・レコードがかつて流行したように、レンタル・ビデ
オ屋が街に進出しており、アメリカでは激しい商戦を展開している。映画は映画館に行って観るか、テレビの放映時間に合わせて観るしかなかったが、レンタ
ル・ビデオを借りれば、いつでも観られるわけであり、自宅で自由に新作映画まで楽しめるようになり、映画の見方を大きく変えている。レンタル・ビデオの
大型店舗があちこちにでき、何千本ものソフトを備えているところがある。一九九三(平成五)年八月一日現在、全国の日本ビデオ協会レンタルシステム加盟
店数は一万二二一三店といわれる。またチェーン化も進み、スーパー、駅前商店街、大型団地、コンビニエンス・ストア、オフィスビル、郊外店などに店舗が
広がっている。無店舗営業も行われ、DP屋などで、カタログをみて決めるとビデオテープが送られる方法もあり、レンタル・ビデオ業界は目下大型・整理化
している。同時に、著作権を無視した海賊版ビデオも登場しており、その取り締まりに懸命である。九二年中の標準料金は一泊二日新作四五一円、旧作三七四
円という料金になっていると、九三年三月に日本ビデオ協会は発表している。
◆ビデオ・ライブラリー(video library)〔1994 年版
放送映像〕
テレビ番組やビデオアートなどのビデオ作品を蒐集し、一般に公開する映像図書館。テレビ放送開始三〇周年の記念番組を制作しようとして、草創期のビデオ
番組がほとんど残っていないのに気づき、一九八二(昭和五七)年九月「放送文化財保存問題研究会」が発足した。同研究会は八三年から「テレビ番組を開か
れた文化財とする運動」(略称ビデオ・プール
video‐pool)を展開し、八四年国会議員と懇談したり、シンポジウムを開いたりした。八五年には、放送文化
基金助成を得て「草創期テレビ保存番組リスト∼昭和四五年までの公的記録保存資料から∼」を作製した。
NHKは一九五六年に放送博物館を東京・愛宕山に創立、放送に関する歴史資料の収集、調査、保管を始め、八一年には放送済みの番組を組織的継続的に保存・
公開する「放送番組ライブラリー」を設置した。民放関係では、大阪の毎日放送が七九年に「放送文化館」を、同年東京では、財団法人「日本映像カルチャー
センター」ができ、八二年には「広島市映像文化ライブラリー」が開館した。総合的なビデオ映像のライブラリーを出現させようと、郵政省が法的にただ一つ
指定した放送番組センターが横浜に新設された。文部省が教材としてビデオを認可してから、ビデオをライブラリー化していろいろなところで利用する傾向が
高まり、東京・青山の「子どもの城」でもビデオ図書館を開いた。
◆ビデオ・ソフト(video soft)〔1994 年版
放送映像〕
ビデオカセットやビデオディスクなどに収録されているソフト(テレビ番組、映画、その他の映像情報)。ポニーが最新のビデオソフト一七作品を発表したの
が一九七〇(昭和四五)年七月。そのときはすべてオーブンリール型VTR用の三〇分ソフト、価格は三万円だった。映画、テレビに続く第三の映像を目指し、
「ビデオソフト五〇〇〇億円産業説」が唱えられたが、笛吹けど踊らず、昭和五〇年代まで低迷、昭和六〇年代に入って急激に成長して、ビデオ関連市場の総
売上高は映画興行収入を上回るようになった。それはビデオカセット・レンタルを主にホームビデオの需要が急上昇したからであり、国際映像ソフトウエア推
進協議会(AVA)の八九(平成一)年のホームビデオ全体の産業規模は四五一六億円となり、劇映画の一六六七億円の三倍近くになった。
ビデオゲームの伸びも著しく、ゲーム専用機、パソコンゲーム、アーケードゲームを合わせると、六六五〇億円となってしまい、ホームビデオと業務用ビデオ
を合計したビデオ全体の五四六三億円を上回った。
九三年日本ビデオ協会は、前年(一月∼一二月)の統計調査した報告書を発表した。それによると、販売用(個人向け)のビデオカセット(1/2インチ)の
売上金額は五五五億六六〇〇万円、同カセット(八ミリ)が一億四五〇〇万円の計五五七億円であり、レンタル店用(個人向け)のビデオカセット(1/2イ
ンチ)が九四〇億円と売上金額の六割以上のシェアを占めた。業務用では八ミリ・カセットが急伸、前年の六倍も売り上げた。ビデオディスク(LD・VHD)
は、販売用(個人向け)が五七三億三九〇〇万円、業務用その他が五九六億五三〇〇万円であり、ビデオシングルディスク(VSD)の販売用(個人向け)は
一八億七九〇〇万円と前年度より三割増しとなった。しかし、ビデオソフト全体としては、販売用、レンタル店用、業務用すべてにおいて、一割前後落ち込ん
だ。同協会は倫理委員会を設置しており、また成人娯楽映画会社側でもビデオ倫理委員会をおいているが、審査とメーカー間の親ぼくが一緒になされている体
質に問題が残されている。
◆ビデオ・アート(video art)〔1994 年版
放送映像〕
ビデオというメディアの特性を生かした芸術。音楽、出版、放送、ファッション、写真、コンピュータ・グラフィックスなどと結び付いて多様なひろがりをみ
せており、最近では、パフォーマンスと一緒になったビデオアートも生まれている。一九八五(昭和六〇)年三月、第一回東京国際ビデオビエンナーレが開か
れ、日本のビデオアートも国際的な視点に立った活動を深めだした。海外では、ロバート・ウィルソン、ビル・ヴィオラらのアーチストが著名であり、日本で
はコンピュータとビデオを結び付け、ビデオ独自の映像の世界を追求している松本俊夫、組織体として内外に活躍しているビデオギャラリーSCANなど、多
彩な動きをみせている。市販されたビデオアートでは、カメラマンの稲越功一の「マンハッタン」などが好評であり、現代芸術の新しいジャンルとして、ビデ
オアートは美術館や画廊にも展示され、 動く電子絵画
●最新キーワード〔1994 年版
といわれ、静かなブームとなっている。
放送映像〕
●アジアサットとスターTV〔1994 年版
放送映像〕
アジアサット衛星の免許は、香港政庁から付与されており、香港政庁は国際間の技術的な調整をしたうえで、固定通信衛星業務用として認定した。スペースシ
ャトルで回収した衛星をアジア向けに再生した中古品であり、一九九〇年四月に打ち上げられたアジアサット1号機は九七年に寿命がくる。そこで、香港のア
ジア・サテライト・コミュニケーションズ社は、第二世代通信衛星アジアサット2号機として、米GE(ゼネラル・エレクトロニック)社に新衛星の製造を発
注した。打ち上げは1号機同様、中国・四川省から行われる。
この通信衛星アジアサット1号機を使って、アジア全地域に電波を発信しているのが、スターTVであり、東は日本、西はイスラエル、北はモンゴル、南はパ
プア・ニューギニアと、アジア三八カ国、人口二七億人をカバーするアジア初の国際衛星放送である。九一年八月にスポーツ専門チャンネルの「プライム・ス
ポーツ」を開設し、同年九月に続いて音楽チャンネル「MTV」を始め、さらに同年一〇月にBBCワールド・サービスTVのニュースなどによる「ニュース
とインフォメーション・チャンネル」を追加、さらに「中国語チャンネル」と娯楽放送の「プラス・チャンネル」を増やして、現在五チャンネルで二四時間放
送を行っており、日本でも三メートル級の大型パラボラアンテナを着けると、受信できる。香港最大の華僑財閥李嘉誠のハッチビジョン社だったが、九三年八
月世界のマスコミ王ルパート・マードックが支配するニュース・コープ社が五億二五〇〇万USドルで買収した。そのため、李嘉誠はわずか二年間で資本投下
の六倍の利益をあげたといわれている。
●日本サテライトシステムズ〔1994 年版
放送映像〕
日本通信衛星(JCSAT、中山嘉英社長)とサテライトジャパン(SAJAC、吉元礼一社長)が一九九三(平成五)年八月に合併、新会社日本サテライト
システムズが生まれた。これによって、日本の民間通信衛星会社は、従来の三社体制が崩れ、宇宙通信(SCC)との二社体制になった。過当競争やトランス
ポンダ(中継器)の供給過剰が、これによって一応回避され、大手商社、郵政省などのメンツがつぶれずに済んだといわれているが、これですべて落着したと
は誰もみていない。むしろ、CS(通信衛星)業界全体のリストラ(事業の再構築)の始まりといえる。CSの「国際利用」の解禁は、そう遠くはないと見ら
れ、九五年打上げ予定の三号機には、「Cバンド」と呼ばれる、雨に強く国際的に普及しているトランスポンダを何本か新たに搭載する計画である。国際市場
に出れば、郵政省の庇護下にあった国内市場だけの時と違い、海外の事業者とも内外で戦わなければならず、料金体系をどう設定するかなど課題は多い。
●第二世代クリアビジョン〔1994 年版
放送映像〕
民放テレビを見ていると、画面の隅に「クリアビジョン」というテロップが入ることが多くなった。NHKの「ハイビジョン」に対抗して、民放連が打ち出し
た高画質テレビが「クリアビジョン」という愛称で呼ばれているEDTV(エンハンスト・ディフィニションTV)であり、従来のテレビと両立させて使うこ
とができ、ゴーストのないのが特徴である。
(1)放送局と受像機の双方で高画質化する方法を採用し、(2)色妨害が起きないよう改善し、(3)ゴーストキャンセラーが付き、(4)アダプターを必要
としないことが、技術上の特色であり、一九八九(平成一)年八月に本放送を開始した。
さらに性能のよい第二世代クリアビジョンの開発が進められ、画面の縦横比はハイビジョンと同じ九対一六のワイドになるが、走査線の数は従来どおりで、現
在の受像機でも受信できる。その場合、画面の上下に黒い帯が入るだけで、画質は在来と変わらない。
実用化は九五年を予定しており、第二世代クリアビジョンを放送するには、カメラや関連装置の更新など、テレビ局側にも設備投資が必要であり、
「補償信号」
という情報を電波に乗せて送る。現在のクリアビジョン対応受像機は、普通のテレビより一〇万円ほど高くつくため、約八〇〇〇台しか普及していない。その
点で、一般視聴者にどれほど歓迎されるかどうか一抹の不安が残る。
●北米の日本語衛星放送二局へ〔1994 年版
放送映像〕
北米ではNHKの系列会社が「TVジャパン」という日本語テレビ放送を一九九〇年から衛星を使って毎日一一時間放映しているが、九三年になって二番目の
日本語衛星テレビ「JTV」が北米全域をカバーするニュース専門放送を開始した。JTVグループ・アンド・コーポレーションの本社はロサンゼルスにある
が、日本国内でニュース専門の衛星放送を行っている「衛星チャンネル」と契約、ヒューズ・コミュニケーションズの所有する放送衛星「SSB‐6」(KU
バンド)を使い、毎日午後八時(米西海岸時間)から二、三時間放送する。
小型のパラボラ・アンテナをたてるだけで無料で視聴できる。現在SSB‐6を使って、「ザ・アジア・ネットワーク」が午後五時から三時間韓国語放送を行
っており、
「衛星チャンネル」のニュース番組はそのあとの時間帯を使う。
「TVジャパン」は現在有料TVとして運営しているが、契約者が思ったよりも伸び
ず、赤字経営になっているので、この無料テレビ日本語衛星放送の出現によって、さらに経営が苦しくなるのではないかとみられている。
●東京メトロポリタンTVへ予備免許〔1994 年版
放送映像〕
東京都を放送対象地域とする六番目の民放テレビ局である「東京メトロポリタンテレビジョン」へ、郵政相の諮問機関・電波監理審議会(電監審)は、一九九
三(平成五)年三月末予備免許交付を答申した。開局は九五年秋の予定だが、番組編成面や経営面において課題はかなり多い。
東京メトロポリタンTVは、東京都に残されたUHFの電波を使った新テレビ局であり、東京都のほかに、鹿島建設、東急電鉄、ソニーなどの企業、それに大
手新聞社などのマスコミが出資している。昭和六〇年鈴木俊一都知事が中曽根康弘首相(当時)に要望書を出したのがきっかけ、「東京のテレビ局はキー局ば
かりで、地元に密着したローカル情報が伝わってこない」が開設の理由だった。
これに対し、民放連は東京にはテレビ局が飽和状態、放送界の秩序と混乱を招くと反対を表明したが、免許申請者数は一五九に及び、その調整に手間どり、資
本金一五〇億円、社員約一五〇人の大枠にようやく落ち着いた。
系列局がないため、番組はすべて自前で調達、都民向けの独自のローカル番組編成を要求され、視聴率主体の営業を続けることは極めて難しいとみられている。
しかも都に配分された株はわずか四・一%、都の発言力にも限界があり、経営面での不安が残っている。
●ザッピング・テレビ(Zapping TV)〔1994 年版
放送映像〕
二つのテレビ局をスイッチングしながら見ることができるテレビ放送で、これによってドラマの進行がよりドラマティックに、心理サスペンスとしてもより効
果を生み出すように制作されたテレビ作品である。最初の一〇分ほどはどちらのテレビ局も同じ内容を放送、それ以降ザッピング・テレビが始まる。このザッ
ピング・テレビは、一九八五年ドイツのARDとZDFの二人のプロデューサーが発想したもので、放送の実現までには六年もかかったが、一九九一年一二月
一五日に放送されて、大成功を収めた。
日本で初めてのザッピング・テレビの公開は、九三(平成五)年二月一八・一九日、TBSとフジテレビで深夜一時一五分から二時間にわたって行われた。ド
イツで放送された「殺意」を日本語に吹き替え、同時進行していく別のストーリーの映像をスイッチングを繰り返しながら楽しんだ。
このドイツ版放映後、日本の番組制作にも影響して、フジテレビの「if もしも」という一時間連続テレビドラマでは、ストーリーが二つに分かれて進む新形式
がとられた。
●ブロックネット(block‐network(和製語))〔1994 年版
放送映像〕
民放テレビは県域放送局による四系列の全国ネットワーク体制をとってきたが、バブル崩壊後は、それが実現できにくくなり、行政機構による道州制の導入を
との声が高まった。全国一律でもなく、県域だけでもない、北海道地区、東北地区、九州地区とか
というブロックネットが、テレビ界の道州制であり、地元
の電力会社やJR九州などの地域の大手企業がスポンサーになっているケースが多い。
衛星放送時代がくれば、関西経済界が打ち上げる地域衛星放送によるブロックネットも当然起こってくるわけであり、それに備えてのプロトタイプをつくろう
という計算も見込まれているようだ。
例えば、東北地方のテレビ朝日系列局が、本格的なブロックネット番組を始めたのは、一九九二(平成四)年一〇月からであり、それまでの東北の同系列は宮
城県の東日本放送と福島放送だけだった。九一年に青森朝日放送、九二年に秋田朝日放送、さらにフジテレビ系列の山形テレビがテレビ朝日系列に移り、一挙
に六県中五県に広がった。残る岩手県にも同系列開局のめどがたち、東北全県に同じ番組を流せる条件が整った。こうして最後発の朝日系も態勢ができ、ブロ
ックネットは本格化する時代に入った。
●GRP(延べ視聴率)とCMタレント〔1994 年版
放送映像〕
テレビCMに出演しているタレントの中で、視聴者にもっともよく見られているのは誰なのかが、はっきり判るようになった。それは、CMの放送回数の多さ
によるだけでなく、GRP(グロス・レイティング・ポイント
gross rating point=延べ視聴率)を初めて公表したからであり、タレントが出演している全テ
レビCMについて、各放送時点での視聴率をすべて合計した数字によって明らかになった。GRPはスポンサーが何百%と視聴率の統計数字で、スポットCM
をまとめて買うときに用いられており、その総数からCMタレントの
見られ度
が測定できることになったわけである。
一九八九(平成一)年四月一日から九二年三月末までの三年間のGRPベスト 10 は、
(1)小泉今日子、
(2)東山紀之、
(3)三田佳子、
(4)とんねるず、
(5)
岸本加世子、(6)宮沢りえ、(7)後藤久美子、(8)所ジョージ、(9)浅野温子、(10)工藤夕貴の順。九二年八月一日から九三年一月までの半年間のデー
タでは、ベスト 10 の顔ぶれが次のように変わった。
(1)小林稔侍、
(2)西田ひかる、
(3)安達祐美、
(4)三田佳子、
(5)所ジョージ、
(6)高島政伸、
(7)
工藤夕貴、(8)織田裕二、(9)宮沢りえ、(10)篠ひろ子である。
この変化の主な理由は、不景気になったため、ギャラが高くなり過ぎたスターのCM出演が減り、中堅層の安い出演料のタレントの出演が多くなったからだと
いわれている。
●バイザートロン(visortron)〔1994 年版
放送映像〕
スキーのゴーグルのような眼鏡に、小型の液晶ディスプレー(LCD)を二枚組み込んで、それを頭に装置して、映像を楽しむ眼鏡型テレビを「バイザートロ
ン」と呼ぶ。ヘッドホンステレオや携帯用CDプレーヤーのように使ってもらおうという発想から生まれた新商品。ウォークマンを開発したソニーの新製品で
あり、これまではこのスタイルの機器はすべて聴覚だけしか用いなかったが、これからは視覚にも参加してもらおうというねらいで開発した。
マッチ箱のような小さな画面をのぞき込むという従来型の携帯用液晶テレビとまったく違い、感覚的にいうと、33 型テレビ並みの大画面の迫力でテレビが楽し
めるのが最大の特徴である。もちろん、普通の箱型のテレビのように、何人もで見られるというわけにはいかない。その眼鏡をかけた特定の個人しか使用でき
ないというまったくのパーソナル・テレビである。精密な映像を再現するため、0.7 型、一〇万三〇〇〇画素という高密度液晶ディスプレーを使用、独自のプ
ラスチック成型技術によって小型で高倍率の非球面レンズを開発した。液晶ディスプレーに映し出された右目、左目の映像は、人間の視覚機能「融像作用」に
よって、脳の中で一つに重ね合わされる。つまり右目、左目から別々に入った情報が、脳で一緒になる機能を利用、大型テレビ並みの映像が感覚として受けと
られる。
だが、このバイザートロンは、医学的にみて、人間の生理機能にどんな影響を与えるかという心配があり、脳や生理に及ぼす影響も目下研究中である。そこで、
まずは将来の飛行機の機内モニターやゲーム機などが考えられ、一般に販売されるのはその後になるだろうという。
●CSメディアの苦悶〔1994 年版
放送映像〕
CS(通信衛星)を放送メディアとして使うようになり、CSテレビとCSラジオが用いられているが、双方とも経営がすこぶる苦しく、放送事業から撤退す
る業者が出てきた。免許・認可事業である放送業界では、電波免許=利権と思われてきたので、史上初のマイナス面への転機が訪れたことになった。
CSテレビは新しく六波の認可枠を用意していたが、一九九三(平成五)年五月二八日の期限まで四波の申請しかなく、テレビ業界初の定数割れ申請となった。
また、九三年六月三〇日には、日本テレビ系のCS‐PCM放送局・PCMジャパンが放送事業から撤退し、同日中部日本放送系のPCMセントラルが放送中
止を決めた。そして後者は秋には事業を撤退する。
衛星からの電波を自動車や携帯ラジオなど移動体で受信できる「DAB」(PCMより高い周波数帯域と高い出力の電波を使い、一〇センチ程度の超小口径ア
ンテナや棒状のロッド・アンテナで受信できる衛星ラジオシステム・九六年頃実用化を予定)の
当て馬
として、CS‐PCMの認可を受けたが、それまで
待機できなくなったために、撤退したという声も出た。契約加入者が非常に少なく、CSメディアは苦悶している。
[株式会社自由国民社
現代用語の基礎知識 1991∼2000 年版]
ジャーナリズム
▽執筆者〔1994 年版
新井
ジャーナリズム〕
直之
1929 年岩手県生まれ。東京大学文学部卒業。共同通信社科学部長,編集委員,調査部長を経て,現在,東京女子大学教授。著書は『新聞戦後史』
『ジャーナリ
ズム』『メディアの昭和史』など。
◎解説の角度〔1994 年版
ジャーナリズム〕
●1992 年8月 22 日付の『朝日新聞』朝刊は,「金丸信・自民党副総裁に,東京佐川急便の渡辺元社長が5億円を贈っていた」と1面トップで報じた。これは
見事なスクープだった。金丸氏は副総裁と竹下派会長を,次いで国会議員をも辞任しなければならなかった。やがて巨額の脱税が明らかになって,逮捕された。
これは自民党崩壊へとつながるきっかけとなった。
●しかし一方で,政治部記者たちからは「佐川問題」などの情報がほとんど伝えられなかった。社会部や写真部の記者たちが月余にわたって金丸邸を包囲して
いるとき,「金丸番」や「竹下派担当」の政治部記者たちは自由に邸内に入って行ったが,情報は何ももたらされなかった。金丸氏の副総裁辞職のときの記者
会見,議員辞任のときの番記者との懇談では,鋭い質問は一つも出なかった。明治以来の政治取材のあり方は,改革を迫られている。
●皇太子の結婚報道は,35 年前の当時の皇太子結婚の報道と,本質的に何も変わらなかった。時勢も,そして皇室自身さえもが変わってきているのに,古風な,
各社横並びの内容だった。そこに現在のジャーナリズムの問題が,象徴的に表れている。
★1994年のキーワード〔1994 年版
★やらせ〔1994 年版
ジャーナリズム〕
ジャーナリズム〕
狭義では、フィルム・ドキュメンタリーで、ありもしない事実を演出したり、事実を再現するために演技をさせることを言う。広義では、ドキュメンタリーば
かりではなく、クイズからスポーツに至るまでの八百長までを含む。
NHKが一九九二(平成四)年九月三〇日と一〇月一日とに放送した(一二月三一日再放送)スペシャル番組「奥ヒマラヤ禁断の王国・ムスタン」が、元気な
スタッフに高山病にかかった演技をさせたり、岩を揺すって「流砂」現象を起こしたり、少年に金を払って雨乞いの祈りをさせたり、数々のやらせをしていた
ことが暴露され、大きな問題になった。九三年二月、NHKは調査報告書を発表するとともに、川口会長は番組に出て、自らを含む七人の処分を視聴者に知ら
せ、詫びた。
やらせは、やらせであることを視聴者に明示すれば、やらせでなくなる。しかし報道やドキュメンタリーの現場には、再現や演出なしにドキュメンタリーは制
作できないという意見が根強くあり、論議の決着は付いていない。
「ムスタン」問題を機に、NHKと日本民間放送連盟とが合同で設置した「NHK・民放番組倫理委員会」は、九二年六月「放送番組の倫理の向上について」
と題する提言をまとめた。ここでは人物、旅、歴史、美術などを扱うフィーチャー・ドキュメンタリー、あるいはドラマに近いノンフィクションでは、視聴者
の理解を深めるため、あるいは制作者のメッセージを的確に伝えるために、ある程度の再現は認められるが、ニュース・ドキュメンタリーは事実を積み重ねて
構成するものであって、原則として再現手法は許されないとしている。
★記者クラブの海外開放〔1994 年版
ジャーナリズム〕
記者クラブのほとんどすべては、入会資格を「日本新聞協会加盟社」に限ってきたため、これまで外国報道機関は入会することができなかった。
外務省の記者クラブ「霞クラブ」は、アメリカのAP通信社から加盟申請があったのを機に、加入資格に「外国の報道業務を営んでいる社の記者で、外務省発
行の〈外国記者証〉を有するもの」を加えることを決め、一九九二(平成四)年一一月からAPとイギリスのロイター・ジャパンの加盟を認めた。
また日本新聞協会は九三年六月、
(1)外務省発行の「外国記者証」を持つ、
(2)新聞協会加盟社と同様、またはそれに準ずる報道業務を営む報道機関、の二
条件を満たせば、すべての記者クラブで「原則として正会員の資格で加入を認めるべきだ」との見解をまとめた。外国メディアからの入会申請は、東京証券取
引所、大蔵省、宮内庁、防衛庁、関西の金融、証券クラブなど、二〇クラブに及んでおり、今後さらに拡大する可能性がある。
★懇談/記者懇談〔1994 年版
ジャーナリズム〕
記者会見と異なり、カメラマンを入れず、記者はメモをとらず、通常は取材対象の氏名を伏せて報道する形式。記者はその官庁あるいは派閥を担当して、その
取材対象と日常的に接触している記者に限られるので、記者会見より一歩踏み込んだ取材をすることができる。しかし一九九二(平成四)年一〇月一四日、金
丸信・前自民党副総裁が東京佐川急便から五億円受け取っていたことが明らかになって国会議員を辞職したとき、写真を撮られることを嫌って記者会見ではな
く、竹下派担当記者だけによる懇談を強行した。だが金丸氏は「所感」を読み上げさせただけで、十分な質疑を行わないまま退席した。このように「懇談」は
ニュース・ソース側の情報操作に利用される危険性が高い。
★首脳〔1994 年版
ジャーナリズム〕
政党や政府のトップクラスが匿名を条件に、見解や問題の背景説明を定期の記者懇談で行った場合、
「自民党首脳」
「外務省首脳」などの発言として報道される。
「首脳」とは、自民党では党三役、派閥のトップ、野党では委員長、書記長を、政府では大臣、事務次官を指す。
一九九三(平成五)年二月二日「社会党首脳」がコメ問題にからみ、「必要な補償措置を講ずれば理解されるのではないか」と述べたことが報じられた。これ
はコメの関税化容認ととられ、関税化絶対反対の党方針に反するとして問題になった。このため赤松書記長が翌日の代議士会などで釈明、「首脳」が書記長で
あったことが明らかになった。
しかしこれは異例で、通常は「首脳」が誰であるか推定できても、匿名にしてある以上あえて責任を追及しないことが暗黙の了解となっている。
★ブラ下がり〔1994 年版
ジャーナリズム〕
首脳、大臣など有力政治家が首相官邸や国会内の廊下を歩くとき、それを政治部記者たちが取り囲んで一緒に歩きながら、片言隻語を取材しようとすること。
★スポーツ紙〔1994 年版
ジャーナリズム〕
もともとはプロ野球、相撲、ボクシングなどのプロ・スポーツを中心に、ギャンブル、レジャー、芸能関係の記事を掲載する新聞だった。しかし朝刊スポーツ
紙は、ロッキード事件のころから重要ニュースを載せるようになり、やがて一般ニュースを掲載するページを設けるようになり、一九八九(平成一)年の天安
門事件、九〇年の総選挙、九一年の湾岸戦争、東欧の崩壊などの重要事件は一面トップに載るようになった。つまりそれまでのスポーツ・レジャー紙は、いま
では欧米の大衆紙の役割をになうようになった。
この結果、一般紙は九一(平成三)年から総発行部数が減っているのに、スポーツ紙は八七年以来ずっと増勢を続けている。朝刊スポーツ紙は、宅配が六割か
ら八割を占めるが、残りの即売のうち、三分の一はコンビニで売られ、しかもその割合が年々増える傾向にある。
★FAX新聞〔1994 年版
ジャーナリズム〕
ファクスを使って、一般読者向けに電送する新聞。
日本の新聞社では朝日新聞社が一九九一(平成三)年七月一日から、航海中の船舶を主な対象とした『マリン朝日』を創刊したのが最初。海事衛星機構のイン
マルサット太平洋、インマルサット・インド洋両衛星の電話回線を使って送信した。九二年七月末で休刊した『東京タイムズ』は、代わって八月一日から『東
タイ日刊FAX新聞』を創刊した。毎日午後九時に、その日起きたできごとの解説、その日の主なできごとの要約、スポーツ・ニュースの三枚を定期購読者に
送る仕組み。
九三年六月七日からは、毎日新聞社が『FAX毎日夕刊版』を創刊した。日本テレコムの通信衛星を利用して、その日の『毎日』本紙夕刊の主要記事を三枚に
まとめ、夕刊配達地域外に送信するもの。利用者は午後二時半以降、翌日の午前一〇時までの間、いつでも取り出すことができる。
しかしファクス新聞は普通の新聞に比べて、情報量が圧倒的に少なく、また速報性が要求されるのに、新聞の発行スタイルをとっていることなどから、いずれ
も需要が伸び悩んでいる。
★夕刊廃止論〔1994 年版
ジャーナリズム〕
夕刊とは、毎日夕刻に発行される新聞。日本では一八八五(明治一八)年一月、『東京日日新聞』(現『毎日新聞』)が朝刊を乙号、夕刊を甲号として発行した
のが最初。その後一九〇六(明治三九)年『報知新聞』も朝夕刊制にしたが、どちらも成功せず、長続きしなかった。
いまの朝夕刊制が始まったのは、一九一五(大正四)年一〇月一〇日(紙面の日付は一一日付)。第一次世界大戦のさなかで号外発行による速報競争で配達に
悩んでいたのと、一カ月後に大正天皇の即位の式典が行われることになっていて、紙面がさらに狭隘になることが予想されたために、
『朝日新聞』
(大阪)と『大
阪毎日新聞』とが協議して、朝刊と翌日の朝刊との間に一回、それまで入ったニュースをまとめて、新聞を発行することにしたのだった。
日本の朝夕刊制は、このように朝刊・夕刊両方を購読して、はじめてニュースの流れがわかる仕組みで、そのためワン・セット制(one‐set system=朝夕刊
で一組)と呼ばれる。これは外国にはない。
しかし一九八〇年代半ば以降、新聞購読料の値上げとともに、夕刊購読を謝絶して、そのかわり購読料を値引きしてもらう「夕刊離れ」の読者が次第に増えて
きた。全国紙についてみると、九二(平成四)年下期、東京では『日本経済』はセット率九六・七%で高いが、『産経』は七四・一%でしかない。地方紙では
『愛媛新聞』が九二年三月で、『長崎新聞』が九三年五月で、それぞれ夕刊を休刊、夕刊紙『大阪日日新聞』が九三年七月から土曜日の発行を休刊することに
なった。外電以外のニュースが乏しく、企画記事でかろうじて紙面を埋めている夕刊は、もはや使命を終えたのではないか、廃止するほうが定価も安くなり、
新聞労働者の労働時間短縮にも役立つのではないか、という声が次第に強まってきている。
★『金曜日』〔1994 年版
ジャーナリズム〕
「一切のタブーを排した新しい週刊誌」を目指して、本多勝一氏(ジャーナリスト)を中心に、久野収(哲学者)、石牟礼道子、井上ひさし(作家)、筑紫哲也
(ジャーナリスト)の各氏が発刊を目指しているクォリティ・マガジン。原則として予約購読制の郵送で、広告収入に依存せず、しかし原稿料はできるだけ高
額にしフリーのライターやカメラマン、一般市民にも誌面を開放する。文化や市民運動を重視し、その動向や情報を伝えるとしている。『金曜日』は、一九三
五年、フランスでロマン・ロランなど四〇人以上の作家、科学者、知識人などによって発行され、知識人に絶大な影響力を持っていた反ファシズムの週刊誌『ヴ
ァンドルディ』(金曜日)を模範にしている。
予約者が三万五〇〇〇人に達したところで発刊を決めるとしていたが、九三(平成五)年四月に目標に達したので、九三年秋五万部の発行部数で創刊すると発
表した。
★紅包(ホンバァオ)〔1994 年版
ジャーナリズム〕
中国で、取材に来た新聞記者・放送記者に企業や機関が贈る謝礼。「紅」には「利益を分ける」という意味がある。
中国は市場経済導入により新しいプロジェクトや新製品を発表する記者会見が多くなり、その多くが食事付きで、謝礼の品や現金の土産がつくことも少なくな
い。企業にとっては、数十万元(一元は約二〇円)を費やして会見しても、ニュースとして報道されれば数億元の広告費に匹敵するという計算がある。国務院
新聞出版署はこの悪風を止めさせるため、記者会見を開くときは地元の新聞出版部門の事前の許可を必要とするように改める方針と伝えられる。
▲ジャーナリズム一般〔1994 年版
ジャーナリズム〕
現代は「高度情報化社会」と言われる。これは、さまざまなメディアを通じて、情報が大量に送り届けられる社会のことだ。いままでのマス・メディアばかり
ではなく、多様なニュー・メディアも誕生して、「マルチ・メディアの時代」とも呼ばれる。ジャーナリズムは、それら数多くのマス・メディア、ニュー・メ
ディアとどう違い、どのような任務や機能をになっているのだろうか。
◆ジャーナリズム(journalism)〔1994 年版
ジャーナリズム〕
時事的な事実や問題の報道・論評の社会的伝達活動。もともとは、ラテン語の「ディウルナ」
(diurna)、つまり日刊の官報を意味し、そこから英語に転化して
「日々の記録」を意味するようになった。
これまでジャーナリズムとはニュースを収集し、選択し、解説し、そして継続的・定期的に伝達する行為、というのが一般的に承認されてきた定義であった。
ジャーナリズムは、無数に生起した出来事の中から、民衆の次の行動決定のために必要な事実をピック・アップして、できるだけ早く、できるだけ広く伝える
ことが要求される。また、民衆が自らの置かれている状況を十分かつ的確に認識できる条件が、国民全員に与えられている必要がある。この点からジャーナリ
ズムは権力の言動を常に厳しく監視することが第一の責務であり、その行使を行う者がジャーナリストと言い得る。
そこで言い換えるならば、ジャーナリズムとは民衆のために「いま伝えねばならないこと、いま言わねばならないことを、いま、一刻も早く広めること」とい
うことができる。
◆ジャーナリスト(journalist)〔1994 年版
ジャーナリズム〕
主体的・積極的に現実を把握し、解釈し、表現することを任務としてジャーナリズム活動を行う者。一般的に、ジャーナリズム活動を、日々行い続けるものが、
職業(専門)的なジャーナリストといわれるが、それはペンを持つ人間だけを指すわけではなく、カメラを持っても、マイクを握っても、みなジャーナリスト
たり得る。また職業的ジャーナリストが持っている権利(記者クラブなど、ニュース・ソースへの接近など)は、民衆一人ひとりが持っている権利(「知る権
利」など)と、まったく同等なのであって、それ以上でもなければ、それ以下でもない。
ジャーナリストは、多くの場合マス・メディア企業に所属し、組織化されている。その企業の要求と、あくまで自らの主体性を守り通そうとする矛盾対立にジ
ャーナリストは直面せざるを得なくなる。その状況の中で、民衆に奉仕する責務を持つジャーナリストの強い意志が要求される。
◆マス・コミュニケーション(mass communication)〔1994 年版
ジャーナリズム〕
不特定多数の受け手を対象にマス・メディアを通じて、大量に情報を伝達するコミュニケーション過程のこと。マス・コミュニケーションの特徴としては、次
のようなことがあげられる。(1)送り手は通常大規模に組織された集団である、(2)機械的・技術的手段で情報を大量に複製する、(3)これを、分散した
不特定多数の受け手に伝達する、
(4)受け手が、送り手になれる機会は少なく、送り手と受け手の役割分化がはっきりしている、
(5)受け手から送り手への
フィードバックがむずかしい。つまり、情報の流れは、送り手から受け手へ、一方的である。
マス・コミュニケーションが社会に対して行う活動は、次の諸点があげられる。(1)出来事についての情報を収集し、伝達する活動(報道活動)、(2)その
出来事について評価し、解説し、論評して、受け手の行動を指示する活動(論評活動)、
(3)社会の価値を後世に伝達する活動(教育活動)、
(4)受け手に娯
楽を提供する活動(娯楽活動)。そのほか、(5)広告を伝達する活動(広告媒体としての活動)もある。
◆マス・メディア(mass media)〔1994 年版
ジャーナリズム〕
マス・コミュニケーションの過程で、送り手と受け手を結ぶ媒体。新聞、雑誌、書籍、テレビ、ラジオ、映画、ビデオやオーディオのテープなどが上げられる。
日本語の「マスコミ」とは、通常このマス・メディアを指すことが多い。
なお、メディアとは複数形であって、単数形ではミーディアム(medium)である。
◆知る権利(right to know)〔1994 年版
ジャーナリズム〕
(1)マス・コミュニケーションにおける送り手の活動の自由を要求するものであり、(2)民衆一人ひとりが国政に関する情報を請求する権利。
一九四五年一月、アメリカのAP通信社専務理事ケント・クーパーが「知る権利」を提唱する講演をしたことでこの言葉が生まれた。クーパーが合衆国憲法修
正第一条のプレスの自由にかわって、新しく「知る権利」を提唱したのは、第二次大戦中の政府によるニュース操作と公的宣伝のために民衆が真実から遠ざけ
られ各国間に反目と憎悪を激化させた反省から、国家権力に対抗する新しい民衆の権利概念を対置させる必要を感じたからであった。
この考えは五五年頃までにはジャーナリストたちの間に定着し、六六年に「情報自由法」(Freedom of Information Act)が制定される運動にも発展した。
◆新世界情報コミュニケーション秩序(a New World Information and Communication Order)〔1994 年版
ジャーナリズム〕
これまでの先進国→第三世界ばかりでなく、第三世界→全世界という情報の流れを求め、情報やマス・メディアへの国家の介入を認めさせようという、第三世
界による先進国への対抗原理。
「新世界情報秩序」ともいう。一九七三年九月、アルジェで開かれた第四回非同盟首脳会議に集まった七五カ国は、
「帝国主義の
活動は単に政治的、経済的分野に限らず、文化的、社会的分野にまで及んでいる」という公式声明を発表し、「植民地時代の過去から受け継がれた」コミュニ
ケーションの経路を再編成すること、「植民地時代の有害な遺産を除去」するために国家メディアを強化することで合意。さらに七六年、コロンボでの非同盟
首脳会議は「情報とマス・メディアの問題に関する新世界情報秩序は、新世界経済秩序と同じくらい重要である」という公式宣言を発表し、ここから「新世界
情報コミュニケーション秩序」のことばが生まれた。
◆コミュニケートする権利(right to communicate)〔1994 年版
ジャーナリズム〕
(1)単にいわゆるコミュニケーションばかりでなく、非常に広範な意味でコミュニケーションをとらえ、(2)個人の権利だけでなく、集団(社会)の権利
と認め、(3)従来とかく垂直的ないしは、上から下へのコミュニケーションの流れだったものを、水平的で相互作用的な交換の流れを特徴とする権利。民衆
自身がマス・コミュニケーションの手段(アメリカのシティズンズ・バンド・ラジオやフランスで一九七七年から七八年にかけての「自由ラジオ運動」など)
を所有し利用することもその権利である。この概念を最初に提唱したのは、ジャン・ダルシー(六九年の提唱当時、国連広報局放送・視覚情報部長)だった。
その後、七七年一二月、ユネスコに設けられた「コミュニケーション問題研究国際委員会」(マクブライド委員会)が八〇年八月に出した報告書『多くの声、
一つの世界』では、この権利の構成要素として、(イ)集会の権利、討論の権利、参加の権利、および関連する結社の諸権利、(ロ)調査する権利、知る権利、
知らせる権利、および関連する情報の諸権利、(ハ)文化に対する権利、選択する権利、プライバシーの権利、および関連する人間の発達の諸権利、を紹介し
ている。
◆コミュニケーション政策(communication policy)〔1994 年版
ジャーナリズム〕
一般的な定義はない。狭い意味では、電気通信政策・電波政策を指すが、広い意味では、最近における次の二つの動きを含み、情報・コミュニケーションに対
する助成・規制の国家政策すべてを指す。二つの動きとは、(1)一九六〇年代後半から北欧三国を中心に、新聞の経営が極度に悪化したとき、これを言論・
情報の多元性崩壊の危機として、政府が各種の助成措置を講じ、これが各国に取り入れられたこと、(2)七〇年代、第三世界から「新世界情報コミュニケー
ション秩序」が提唱され、コミュニケーション経路の再編成や国家メディアの強化など、コミュニケーション過程に対する国家政策の必要が主張されたこと、
である。
このような国家によるコミュニケーション過程への助成・規制は、言論・報道への国家の介入に道を開くとして、先進資本主義国の間には批判的な意見が強い。
◆情報公開制度〔1994 年版
ジャーナリズム〕
政府・行政機関が所有する公文書(文字・絵画的表現・読み・書きその他の技術的補助手段で理解できる記録)情報を民衆が請求した場合、すべての個人にた
いして請求情報を公開しなければならないとする制度。
スウェーデンではすでに一七六六年「出版自由法」によって言論出版の自由と公文書公開原則ができ、アメリカでも「情報自由法」が制定されている。日本で
情報公開法の制定を求める声が高まってきたのは、一九七九(昭和五四)年からであって、同年七月、自由人権協会が「情報公開法要綱」を発表、議論を広め
る運動を開始した。自治体では、八二年四月、山形県最上郡金山町が「公文書公開条例」を日本で初めて定めて実施したのをはじめ、全国約一六〇の自治体で
制度化された。しかし、国の情報公開はほとんど考えられていないどころか国家秘密法案を計画するなど、むしろ逆行の傾向にある。
◆検閲(censorship)〔1994 年版
ジャーナリズム〕
言論・表現を事前に抑制し、情報の伝達を阻害すること。日本国憲法二一条二項は検閲を「絶対的」に禁止することを規定している。歴史的に、検閲の禁止が
言論の自由の基礎をなしてきた。一六九五年、イギリスは出版許可法(The Licensing Act)を廃止し、アメリカでも憲法修正第一条によって言論の自由を確立
する法理となった。日本国憲法の検閲禁止規定はそれ以上の意義を有している。
しかし、日本の裁判所は検閲の禁止に対する例外として、(1)公安条例などによる集会・示威行進の事前抑制、(2)教科書検定における内容の規制、(3)
税関検査による輸入表現物の取り締まり、
(4)受刑者への通信の規制、
(5)仮処分による表現の事前差し止め、を認めてきた。検閲の被害者は検閲によって
その情報を受け取ることができない国民である。これらの例外規定は民主主義社会とジャーナリズムにおいて少なからぬ問題を有していることが指摘されてい
る。
◆報道素材の押収〔1994 年版
ジャーナリズム〕
警察、検察などの捜査当局あるいは裁判所などが、捜査または公判の証拠として、写真、フィルム、ビデオテープ、メモなどを差押令状によって押収すること。
TBS系テレビが一九九〇(平成二)年三月二〇日に放映した「ギミア・ぶれいく」で、暴力団が暴行を働いて借金返済を迫る場面があり、警視庁は五月一六
日、未放映の部分を含むビデオテープを押収した。TBSは同二一日、押収処分の取り消しを求める準抗告を申し立てた。が、最高裁第二小法廷は七月九日、
これを棄却する決定を下した。
六八年一月に起きた博多駅事件で、福岡地裁は福岡県警機動隊員らによる学生たちへの凌辱、職権乱用の証拠として、テレビ四社にテレビ・フィルムの提出を
求める命令を発した。これに対し四社は、「取材目的以外にフィルムが使われることは、報道・取材の自由を損ねる」として抗告を申し立てたが、最高裁は六
九年一一月、
「取材の自由」と「公正な裁判」とを比較衡量して、証拠として極めて重要な価値を持つ場合は、押収のほうが勝る、という決定を下した。以後、
これが判例となっている。最近では、八八年、リクルート事件についての国会質問を和らげてもらおうと、リクルートコスモス社の社長室長が、野党の衆院議
員に贈賄しようとした現場を、日本テレビが隠し撮りしたビデオテープを東京地検が証拠として押収したことについて、最高裁は八九年一月、全く同様の決定
を下した。
◆編集権〔1994 年版
ジャーナリズム〕
一九四八(昭和二三)年三月、日本新聞協会が発表した「新聞編集権の確保に関する声明」に基づく政治的概念。同声明によると、「編集権とは
新聞編集
に必要な一切の管理を行う権能」であり「編集権を行使するものは経営管理者およびその委託を受けた編集管理者に限られる」「定められた編集方針に従わぬ
ものは何人といえども編集権を侵害したものとしてこれを排除する。編集内容を理由として印刷・配布を妨害する行為は編集権の侵害である」。この「編集権」
概念は新聞ばかりでなく出版にも持ち込まれ、放送でも「編成権」という言葉になって現に使われている。
「編集・編成権」は法に基づく概念ではなく、占領軍の権力を光背として戦後の日本で生み出されてきた独特の概念であり、諸外国にはない。今日なお新聞各
社の労働協約・就業規則のほとんどには「編集権」が経営者側にあることを明記している。このことは、「編集権」の名のもとに経営管理者のみが一切の権能
をもつとして行われている事前規制が「思想の表明の自由」
「事実の報道の自由」をそこなうものであり、
「国民の知る権利」を侵害するという問題も示してい
る。マス・メディア企業が「自主規制」を行うとき、この「編集・編成権」を持ち出して、現場に強いることが多い。
◆プライバシーの権利〔1994 年版
ジャーナリズム〕
(1)私生活をみだりに「知られない権利」としてだけでなく、(2)個人一人ひとりが公的機関および企業(生命保険、小売業、不動産業、金融機関など)
が保有する自分のデータについて「知る権利」を持ち、(3)そのデータが誤っていれば訂正・修正させる権利を持つという積極的・能動的な権利。
日本では、プライバシーの権利はもっぱら私生活を他人に「知られたくない権利」(right to be let alone)としてのみ理解され、このことから「知る権利」と
対立する概念のようにとらえられている。しかしこれではプライバシーとは保護されるもの、侵害されてはならないものという守勢的・受動的な権利でしかな
い。アメリカでは一九七四年プライバシー法 (Privacy Act)が制定され、プライバシーの積極的・能動的権利を確立させた。日本では国の行政機関がコンピ
ュータに入れている個人情報を、本人が明らかにするように求め(開示請求権)、それが間違っていれば訂正を申し出ることなどを規定した「行政機関の保有
する電子計算機処理に係る個人情報の保護に係る法律」(個人情報保護法)が、一九八八(昭和六三)年一二月公布施行された。しかしこの法律では、手書き
の情報が除かれていることや、開示を拒否できる規定が多いことなどから、学者たちの間には不備とする意見が強い。
▲報道・編集〔1994 年版
ジャーナリズム〕
NHKのドキュメンタリーの「やらせ」が問題になった。だが考えてみると、私たちしろうとも、結構「やらせ」をやっている。カメラを構えて「はい、チー
ズ」と笑顔を要求し、写される側もVサインをしてみせたりする。どうやら映像というものには、文章とは違って、最初から「演出」とか「効果」とかが存在
するものらしい。
しかし、それが行き過ぎると、「情報の娯楽化」になる。「インフォテインメント」「瞬間主義」などというテレビ・ジャーナリズムの新語は、そのことを示し
ている。
◆アクセス権(right of access to mass media)〔1994 年版
ジャーナリズム〕
民衆の言論の自由を実現化するためにマス・メディアを開かれたものにし、人びとがそれに参入し利用する権利。アクセス権は、(1)批判・抗議・要求・苦
情、(2)意見広告、(3)反論、(4)紙面・番組参加、(5)運営参加に分類できる。
一九六七年、アメリカの法律学者ジェローム・バロンが提唱。その背景には、六〇年代にアメリカで人種差別撤廃、公害反対、消費者権の確立、ベトナム戦争
反対などをめぐって広範な激しい市民運動が展開されたが、彼らの意見はマス・メディアから排斥されることが多かった。
この提唱は、一方には民衆の「アクセス権」を承認するべきであるという主張があるのに対し、もう一方には「アクセス権」はマス・メディア自身の「プレス
の自由」を損なうという批判がある。
◆新聞評議会(Press Council)〔1994 年版
ジャーナリズム〕
(1)プレスの自由の擁護、(2)倫理綱領の遵守に対する監視、(3)読者からの取材・記事に対する苦情処理、(4)新聞間、新聞とニュース・ソース間の
問題の処理、を目的とする活動を行う評議会。
一九一六年スウェーデンで設けられ、次いで第二次大戦前にすでにフィンランド、ノルウェーにも置かれていたが、五三年イギリスで設置されてから急速に世
界各国で作られるようになった。
イギリスの新聞評議会は、一九四九年「新聞に関する王立委員会」(Royal Commission on the Press)の勧告によって発足し、(1)新聞の自由の維持、(2)
新聞界の水準の維持、(3)新聞に対する苦情の審理、(4)情報を制限するおそれのある事実の調査、(5)新聞界の集中・独占化の傾向の公表、などを目的
とする。六二年、第二次王立委員会の勧告は、新聞評議会の強化と、新聞界以外から評議会委員に参加を求めるべきことなどを含み、六四年から新定款に基づ
く新聞評議会が活動を開始した。
日本には日本新聞協会があるが、読者からの苦情処理の活動を欠くことから、日本新聞協会は新聞界の自主規制機関とはいえても、各国なみの新聞評議会とは
いえない。そのため、日本にも新聞評議会を設立すべきだという意見が、学者、弁護士、報道被害者などの間に強まってきている。
◆新聞オンブズマン(Press ombudsman for the general public)〔1994 年版
ジャーナリズム〕
オンブズマンとは一八〇九年スウェーデンで創設され、多くの国々で採用されている一種の議会行政監察官のこと。
スウェーデンは、一九六九年新聞評議会制度改革の一つとして、このプレス・オンブズマンを設けた。新聞・雑誌に対する苦情はすべてプレス・オンブズマン
に寄せられ、プレス・オンブズマンはその苦情に基づいて、あるいは自らの発意によって調査し、苦情が正当であると判断したときは、当の新聞・雑誌に自発
的な訂正か反論の掲載を求める。そのような自発的解決が得られなかった場合は、プレス・オンブズマンは自らの判断と編集者の弁明とを添えて新聞評議会に
回付する。新聞評議会による裁決は全文一字の削除もなく、遅滞なく、当の新聞、雑誌が掲載しなければならない。
このようなプレス・オンブズマン制度は、その後デンマークなど数カ国で実施されている。アメリカでは全国的レベルではなく、いくつかの新聞社が個別に、
独自に置いている。とくに『ワシントン・ポスト』社の制度は徹底していることでよく知られている。
◆新聞信頼度調査〔1994 年版
ジャーナリズム〕
日本新聞協会研究所が一九七九(昭和五四)年以来行っている読者に対する全国調査。新聞の「正確性」
「社会性」
「日常性」
「公平性」
「反映性」
「品位性」
「信
頼性」のほか、八三年から加えられた「人権への配慮」の計八項目が問われる。
九一年五月に実施された第九回調査では、八九年の第八回調査で「公平性」を除いて、各項目とも調査開始以来最低の評価を記録したのに対し、「信頼性」の
肯定評価が過去最高の八〇・九%に達したのをはじめ、八項目すべてにわたって過去最高を記録した。これは湾岸戦争報道でテレビが注目された反面、解説や
詳報での新聞の機能が認識されたためと考えられている。
◆自主規制〔1994 年版
ジャーナリズム〕
(1)法令に基づく言論規制としてではなく、
(2)マス・メディア企業またはその連合体の意志、またはマス・メディア労働者個人の心理によって、
(3)情
報が受け手に与えるであろう効果を予測し、その効果を消滅もしくは減殺させる目的で、(4)その情報を破棄したり改変する行為。自主規制には「明示され
た規制」と「明示されない規制」との二種類が存在する。自主規制が問題になる場合、日本の現状では「明示された規制」(「倫理綱領」など)よりも、「明示
されない規制」(マス・メディア企業自身の事前規制)のほうがはるかに日常的であり、問題も大きく、多い。この明示されない自主規制は、マス・メディア
の外からの権力・財力・暴力など、なんらかの「力」に屈したことによって起きる。
◆新聞倫理綱領〔1994 年版
ジャーナリズム〕
一九四六(昭和二一)年七月二三日、全国日刊紙の代表が集まって採択した倫理綱領。日本新聞協会の発足のきっかけとなった。新聞協会定款第五条は会員資
格の第一として「本協会制定の新聞倫理綱領を恪守することを約束せる日刊新聞社」をあげている。つまり新聞協会とは、倫理綱領維持を目的の第一とする団
体にほかならない。新聞協会には、NHKをはじめ民間放送の多くも加盟しており、新聞倫理綱領は現在、新聞・放送を通じての自主規制コードとなっている。
また、四九年四月一四日に発足した映画倫理規定管理委員会(のち五六年一二月に映倫管理委員会と改名、組織変更)も、映画における同様の考えに基づいて
いる。
◆公正の原則(fairnessdoctrine)〔1994 年版
ジャーナリズム〕
マス・メディアの伝える情報・思想など、争点に関して提起された対立見解に異論を持つ視聴者(読者)に、そのマス・メディアを利用して反論を述べる機会
を与えること。特に放送事業において適用される。日本では、放送法第三条の二に「政治的に公平であること」「意見が対立している問題についてはできるだ
け多くの角度から論点を明らかにすること」と定められている。
アメリカでは早くから「放送番組は公正でなければならない」という考えがあり、一九五九年連邦通信法(Federal Communication Act)改正で明文化され、
重大な公の争点が存在する問題について一方の意見が放送された場合には、相反する意見のためにも適当な機会を提供することが放送局に義務づけられた。だ
が放送各社は、この原則は言論の自由を保障した憲法に反すると廃止を要求し続けてきた。これに対してアメリカ議会は八七年六月、公平の原則を強化した「一
九八七年放送公平法」を成立させたが、レーガン大統領が憲法違反だとして拒否権を発動したため葬り去られた。連邦通信委員会(FCC)は同年八月公正原
則規定の廃止を決めた。廃止の理由として、FCCは(1)この原則は政府に検閲権を与え、また憲法に違反する、(2)多くのテレビ・ラジオ局が活動する
今日では不必要になった、をあげている。しかし市民運動団体や議会にはこの決定に反発する空気が強く、大統領が拒否権を発動できない法律の修正条項とし
て再提案する動きがある。
◆言論に対する襲撃・暴力〔1994 年版
ジャーナリズム〕
一九八七(昭和六二)年五月三日夜八時一五分頃、兵庫県西宮市にある朝日新聞社阪神支局二階の編集室で何者かによって記者が撃たれた。うち一人は死亡、
一人は重傷を負った。九月には同名古屋本社社員寮を襲い(死傷ゼロ)、東京本社でも側壁から銃弾が発見された。八八年三月には、静岡支局の駐車場に時限
発火装置のついた爆弾が発見された。これらの事件直後にはいずれも「赤報隊」名の犯行声明が共同・時事両通信あてに送られてきており、
「反日分子を処刑」
「五〇年前にもどれ」という内容である。また、市議会で「天皇に戦争責任はある」と発言した本島等・長崎市長が、九〇年一月一八日、右翼にピストルで撃
たれて重傷、さらに政教分離の立場から、他のキリスト教系三大学長とともに大嘗祭を批判した弓削達・フェリス女学院大学長の自宅に、四月二二日銃弾が撃
ち込まれる事件も起きた。また九一年二月二八日夜から三月一日朝にかけて長崎新聞社と長崎地裁に短銃弾が撃ち込まれた。本島長崎市長狙撃事件の被告が所
属する右翼団体が長崎新聞社に広告掲載を求めた訴訟で、長崎地裁が二月二五日棄却の判決を言い渡したためと見られている。
ジャーナリズムないしジャーナリストへの偶発的でない襲撃は、一九一八(大正七)年「白虹貫日事件」で村山龍平・朝日新聞社長が右翼に暴行を受けたのが
始まりとされる。皇室を題材にした小説の掲載を理由に、六一年二月一日、嶋中鵬二・中央公論社長邸が右翼の少年に襲われ、家人二人が殺傷された。また六
〇年四月二日、『毎日新聞』が暴力団に対するキャンペーンで松葉会会員二三人によって東京本社を襲撃され、輪転機に砂をまかれた事件などがある。
このような言論に対する襲撃にジャーナリズムの対処として(1)侵害された側が、自由に対する侵害があった事実を、できるだけ素早く、多くの人に伝える
こと、(2)「言論の自由」の原則(言論に対して言論で応答するという原則)において屈しないこと、(3)相手に隙を与えないこと、報道にいささかもキズ
を作らぬ細心の注意が求められよう。
◆発表ジャーナリズム〔1994 年版
ジャーナリズム〕
官庁や民間企業などのニュース・ソース側が記者クラブなどを通じて積極的に発表・提供する情報を、そのまま右から左に報道するジャーナリズム。そのよう
な情報を「玄関ダネ」といい、またそのような報道をアメリカでは「ステノグラフィック・リポーティング(stenographic reporting
速記報道)」という。広
報が活発になるにつれ、情報操作に利用される危険が強まったこと、ニュースの大部分がこの発表もので占められ、独自取材が少なくなったことなど、発表ジ
ャーナリズムに対する批判はかねてからあった。だが、原寿雄・共同通信前編集主幹が、とりわけ日本では「客観報道主義」がそれを支えているとして「客観
報道を問い直す」
〔『新聞研究』一九八六(昭和六一)年一〇月号〕ことを提唱してから、改めて活発に議論されるようになり、同誌が賛否の論文を連載し、日
本新聞学会も八七年五月の研究発表会シンポジウムで論議した。
◆インベスティゲイティブ・レポーティング(Investigative Reporting)〔1994 年版
ジャーナリズム〕
調査報道。警察にたよらず、ジャーナリズムが意識的主体的に、政治の腐敗、税金の浪費、組織化された犯罪を対象とし、また権力が国民に隠そうとする問題
を独自取材・調査し、あばくこと。このインベスティゲイティブ・レポーティングは、『ワシントン・ポスト』によるウォーターゲート事件が代表的だが、こ
の調査の範囲を、われわれの日常生活に影響の大きい銀行、企業、工場などの内部の腐敗も対象にすべきだという批判もある。つまり本来、調査報道の対象と
なるのは公的な問題であって、日本における「ロス疑惑」報道のようなものは「調査報道」とはいえない。しかし一九八八(昭和六三)年、神奈川県警が途中
で捜査を放棄した川崎市助役に対するリクルートコスモス社からの贈賄事件を、朝日新聞横浜・川崎両支局が独自に取材を続け、ついに政界・官界にわたる「リ
クルート疑惑」をあばき出したことは、最近特筆すべき調査報道だった。
◆センセーショナリズム(sensationalism)〔1994 年版
ジャーナリズム〕
大衆の原始的本能を刺激し、好奇心に訴え、興味本位の報道をすること。
特ダネ意識‐‐「特ダネを抜いて同僚をアッと言わせたい」
「特ダネで同業他社をアッと言わせたい」
「特ダネで世間をアッと言わせたい」‐‐のようなジャー
ナリストの心理もセンセーショナリズムと結びついている。このセンセーショナリズムは、マス・メディアの商業主義から発している。資本主義社会のマス・
メディアは、NHKのような数少ない例外を除けば、営利企業として成り立っており、センセーショナリズムは、大衆獲得のためのきわめて有効な手段である。
センセーショナリズムに報道したほうが売れるし、視聴率が上がる。つまり販売競争がセンセーショナリズムを生むといえる。
◆玄関ジャーナリズム〔1994 年版
ジャーナリズム〕
テレビのワイドショーや週刊誌のリポーターといわれる人たちが、タレントの玄関でインタホンを押して声を聞いたり、事件現場の家の門前や警察署の前など
からリポートを放送することをからかって作られた言葉。
突っ込んだ深い取材をせず表面的な報告だけに終わっていることを批判する意味がこめられている。
◆パック・ジャーナリズム(pack journalism)〔1994 年版
ジャーナリズム〕
一九八五(昭六〇)年六月一九日、豊田商事会長刺殺事件がおきた。約五〇人の報道人の目の前での殺人であった。九月一一日深夜、「ロス疑惑」の中心人物
である元輸入雑貨販売会社社長が殺人未遂容疑で逮捕された。その現場へ、各新聞やテレビ、週刊誌などの取材記者、カメラマンが詰めかけた。また、日航ジ
ャンボ機墜落事故で奇蹟的に助かった少女をめぐって過熱した報道が行われた。
このような日本のジャーナリズム情況を『ニューヨーク・タイムズ』が「殺人を防ぐ努力をせず、同一歩調を取り、好奇心をあおる」「パック・ジャーナリズ
ム」(寄合報道・報道軍団)と指摘した。
これらの過熱報道の背景には、視聴率・販売競争の過熱、写真週刊誌の流行とテレビのワイドショー番組における「報道の芸能化」などが指摘されている。
◆キーホール・ジャーナリズム(keyhole journalism)〔1994 年版
ジャーナリズム〕
かぎ穴からのぞくように、しつこく内情をさぐり回るジャーナリズム。アメリカの有力紙『マイアミ・ヘラルド』一九八七年五月三日付は、民主党の有力大統
領候補ゲーリー・ハート上院議員が、夫人の留守中に、若い女性と自宅で過ごしていたことを大きく報じ、ハート氏を出馬辞退に追い込んだ。このとき、記者・
カメラマン五人が三〇時間にわたって同氏の自宅を張り込んだことが、このキーホール・ジャーナリズムにあたるとして、ハート氏の品行とは別に、同紙の取
材態度も論争の的となった。
◆イエロー・ジャーナリズム(yellow journalism)〔1994 年版
ジャーナリズム〕
(1)大見出し主義、(2)センセーショナリズム、(3)感情に訴える(わいせつな表現など)、(3)ニュースを自分で作る(デッチあげ)、などの傾向をも
つジャーナリズム。
一九世紀末、ジョセフ・ピューリッツァーの『ニューヨーク・ワールド』紙に連載中だった「イエロー・キッド」(続き漫画の主人公である中国人の子どもの
名前。黄色のインクで印刷されていた)の書き手をウィリアム・ランドルフ・ハーストの『ニューヨーク・モーニング・ジャーナル』紙が買収して新聞に載せ
たことに始まる。イエロー・ペーパーともいう。
◆書き得(どく)報道〔1994 年版
ジャーナリズム〕
「書き得」というのは、真相がはっきりしない事件で、しかもどのように書き立てようとも、どこからも文句を言われるおそれがなく、したがって面白くセン
セーショナルに書いたほうが得、という場合をいうジャーナリズム内部の用語。
たとえば、一九八八年大韓航空機事件の
◆新聞裁判(press trial)〔1994 年版
犯人 「真由美」の教育係だったという日本人女性「恩恵」についてあれこれ書き立てた報道。
ジャーナリズム〕
裁判以前に、ジャーナリズムが被疑者を悪者扱いに裁くこと。マスコミによる裁判。
「重要参考人」も、
「被疑者」も、
「犯人」ではない。法的には、有罪確定までは無罪と推定されるのであって、ハイジャック事件とか大阪での三菱銀行北畠支
店人質事件のように、衆人監視の中で明らかに犯人だとわかった特別な場合を除けば、
「犯人」扱いするのは誤りである。しかし日本のジャーナリズムは、
「被
疑者」となったところから「犯人」扱いをする傾向がある。そして被疑者の過去、私生活、性格などをあばき、読者・視聴者の憎しみをかき立てるような報道
のしかたをする。この点で、日本のジャーナリズムが人権の擁護という点において、配慮の不足があることを指摘されている。
◆匿名報道の原則〔1994 年版
ジャーナリズム〕
共同通信記者・浅野健一がスウェーデンの犯罪報道における人権重視について報告した(『犯罪報道の犯罪』一九八四年)ことがきっかけで起こった犯罪報道
の匿名主義。犯罪報道において実名を出すことによる人権侵害を減らすため、書かれる側の不利益を意識し、プライバシーを侵害しないように被疑者・被告の
「実名主義」をやめ、匿名を原則とすること。
北欧諸国ではすでに先例がある。スウェーデンでは七四年報道倫理綱領に匿名報道主義の原則を定め、フィンランドでも「掲載するに値する公共の利益がない
場合には伝えてはならない」ことを定めている。また、アメリカでは近年、タブロイド紙などを除いて大・中新聞の多くは、ハイジャックを含む人質事件、連
続殺人事件などの特殊な犯罪は別として、日常的な犯罪は報道しなくなっており、犯罪報道そのものが減少しているという。
日本の新聞・放送は「実名報道主義」をとっている。しかしこれはいわば慣習によってそれが原則だとされてきただけであり、実名報道の理論的根拠は、ほと
んど明確にされていない。
◆被疑者の呼び捨て廃止〔1994 年版
ジャーナリズム〕
毎日新聞社は一九八九(平成一)年一一月一日付から同社の発行するすべての新聞・出版物で、犯罪報道のときそれまで呼び捨てにしてきた被疑者の氏名の後
ろに、
「容疑者」の呼称をつけることにした。
(1)逮捕された段階では呼び捨てなのに、起訴され、裁判の階段になると「被告」の呼称をつけてきたのには矛
盾がある、(2)法的には、有罪判決確定までは無罪と推定される、などの理由による。
続いてTBS系列が一一月二七日から「容疑者」呼称に移り、さらに一二月一日からは残りのほとんどすべての新聞社、通信社、放送局が同様の措置をとるこ
とになった。なおNHK、フジテレビ系列は、すでに八四年四月からこの措置をとってきた。
被疑者の呼び捨て廃止は、書かれる立場の人権を守るうえでは一歩の前進かもしれないが、取材・報道による人権侵害に対する基本的な防護措置とはいえない。
◆少年犯罪の実名報道〔1994 年版
ジャーナリズム〕
少年法六一条は、満一九歳以下の「少年」の犯罪の報道にあたっては、「氏名、年齢、職業、住居、容ぼう等によりその者が当該事件の本人であることを推知
することができるような記事又は写真を掲載してはならない」と規定している。だが、これには罰則はない。埼玉県の女子高校生が、東京の少年グループに監
禁されたうえリンチを受けて死亡し、その死体を少年たちが、ドラム罐にコンクリート詰めにして放置した事件で、『週刊文春』一九八九(平成一)年四月二
〇日号は、逮捕された少年四人を実名で報道した。実名報道した理由を、同誌編集長は「野獣に人権はない」と述べた。その賛否をめぐって議論が起きた。
日本新聞協会は五八(昭和三三)年一二月、「(1)逃走中で、放火、殺人など凶悪な累犯が明白に予想される場合、(2)指名手配中の犯人捜査に協力する場
合など、少年保護よりも社会的利益の擁護が強く優先する特殊な場合」を除き、匿名報道にする「方針」を決めている。だが六〇年浅沼社会党委員長が一七歳
の少年に刺殺されたとき、翌六一年嶋中中央公論社長邸に一七歳の少年が押し入り、家人二人を殺傷したとき、七二年いわゆる連合赤軍が浅間山荘に人質と閉
じこもったときなどは、この「社会的利益が優先する場合」だとして実名報道をした社と、匿名報道に徹した社とに、大きく割れた。だがこの女子高校生事件
では、少年たちを実名で報道した新聞社は一社もなかった。
◆接見取材〔1994 年版
ジャーナリズム〕
「接見」とは監獄に収容されている受刑者または被告人に面会すること。「在監者ニ接見ヲ請フ者アルトキハ之ヲ許ス」(監獄法四五条)。
しかし、取材のため、死刑判決を受けて上告中の被告への面会を申し込んだところ、名古屋拘置所から接見不許可にされた雑誌編集者とその被告とが、不許可
処分の取消しと損害賠償を請求した裁判で、東京地裁は一九九二(平成四)年四月一七日、訴えを却下する判決を言い渡した。
判決は、「被告の名誉、プライバシーを守るための接見制限で、適法」とした。だがこのケースでは、被告自身が「誤った報道を正してもらうためには、ジャ
ーナリストの直接取材が必要」と接見を望んでいたもので、実態と離れた判断といえる。
◆死者の人格権〔1994 年版
ジャーナリズム〕
一九八七(昭和六二)年一月に死亡した女性エイズ患者の遺影を掲載して、「主に外国人船員相手の売春バーに勤めた」(『フォーカス』八七年一月三〇日号、
新潮社発行)、
「不特定の男性相手に売春」
(『フラッシュ』八七年二月一〇日号、光文社発行)と報じた両誌の取材記者と両社を相手に、女性の両親が損害賠償
を求めた裁判で、大阪地裁は八九年一二月二七日、両社がそれぞれ慰謝料を支払うことを命ずる判決を下した。
これまでの判例は、「人格権は、死亡により消滅する」というもの。この判決もその判例を踏襲したものの、記事の売春に触れた部分は「虚偽」と断定したう
えで、「亡き娘に対する敬愛追慕の情という両親の人格権を著しく侵害した」として、遺族の人格権侵害という形で、間接的に死者の人格権の保護を認めた初
の判断を示した。
◆契約記者/契約カメラマン〔1994 年版
ジャーナリズム〕
ある媒体と契約して、取材・報道にあたっている、正規の社員ではない記者・カメラマンのこと。拘束料として月々一定の手当が支給されるもの、出来高払い
として原稿料の形で支払われるもの、その複合型など、契約の内容は一定でない。週刊誌が多数発行され、テレビのワイドショーが盛んになるなどと共に、自
社の記者・カメラマンの不足を、安い人件費で補う方法として、この契約方式が採用されるようになった。だが、写真週刊誌の契約記者やテレビの契約リポー
ター・契約カメラマンの取材方法のモラルの低さがしばしば指摘されるなど、正規の社員に比べて著しく劣悪な労働条件とともに、ジャーナリスト教育の不足
が問題にされている。
◆誤報〔1994 年版
ジャーナリズム〕
報道の時点において真実であると信じて書いたものが結果として誤りであった新聞・放送における「報道の嘘」。このほか(1)
「虚報」、
(2)事実を歪めて報
道する「歪報」なども、総体的に「誤報」の範囲に含まれる。
誤報の生じる要因は、取材競争による特ダネ・速報主義、センセーショナリズム、不確認情報の採用などがある。
最近の有名な誤報には「三億円事件の容疑者誤認」、「三井物産マニラ支店長誘拐事件」の「無事救出」の誤報騒ぎがある。
誤報には(1)犯罪事件報道における人権の問題、
(2)一部の誤報をとらえて、全体をも虚報化してしまおうとする問題、
(3)権力が政治的意識的に情報を
操作し、統制する(例えば「日航ジャンボ機墜落事件」における政府の対応などの)問題、(4)事件・出来事を伝えない「無報・不報」の問題などがある。
◆虚報〔1994 年版
ジャーナリズム〕
全くありもしない事実を、そういうことがあったかのように伝えること。
一九八九(平成一)年は三大全国紙が相次いで虚報し、取材のありかた、社内のチェック体制などがあらためて問題とされた。
『朝日新聞』八九年四月二〇日付夕刊は、一面に、沖縄・西表島の海底のサンゴが、大きく「KY」と傷つけられたカラー写真を掲げ、「サンゴを汚したK・
Yってだれだ」という見出しの記事を載せた。だが地元ダイバー組合の調査で、サンゴにはもともと傷がなく、撮影したカメラマン二人が写真の効果をねらっ
て自ら傷をつけたことがわかった。朝日は傷をつけたカメラマンを退社、もう一人のカメラマンを停職処分にしたほか、東京本社編集局長、写真部長の更迭な
どの処分を行い、一柳社長も、この責任を負って辞任した。
『毎日新聞』六月一日付夕刊は、一面トップ「グリコ事件犯人取り調べ」という大見出しの記事を載せ、また社会面にも関連記事を掲載した。この記事は犯人
逮捕の完全スクープのように見えたが、警察庁は記者会見してそのような事実はないと否定、虚報であったことがわかった。
『読売新聞』八月一七日付夕刊は、幼女連続誘拐殺人事件に関連して、被疑者の青年のアジトの山小屋が発見され、警察は多くの物証を押収し、殺された幼女
一人の遺体放置場所と断定した、という記事を一面トップで報じた。警察は事実を否定、同紙も翌一八日付朝刊に「おわび」を出して訂正した。
これらの虚報は、他紙や自社の同僚たちとの激しい競争の中で、なんとかスクープをしたいという意識や、そのため断片的な情報だけをもとに、よく確認しな
いまま報道しようとした不正確な取材から起きている。
◆修正報道〔1994 年版
ジャーナリズム〕
はっきりと「訂正」と明示して誤報を正すのではなく、記事の中でそれとなく過去の報道を修正するやり方のこと。
◆記者クラブ〔1994 年版
ジャーナリズム〕
各省庁、都道府県庁、市役所、警察署、団体など、主要なニュース・ソースの記者室に置かれている取材のための機関。記者クラブの第一号は、一八九〇(明
治二三)年、第一回帝国議会の新聞記者取材禁止の方針に対して『時事新報』記者が、在京各社の議会担当に呼びかけ、「議会出入記者団」を結成し、当局に
取材許可を要求した。一〇月には、これに全国の新聞社が合流し、名を「共同新聞記者倶楽部」と改めたことによる。戦前の記者クラブは記者たちの連帯の拠
点ともなったが、一九四一(昭和一六)年五月、新聞統制機関「日本新聞連盟」の発足に伴い、記者クラブの数が三分の一に減らされ、クラブ協定を結ぶこと
が禁止されクラブの自治が禁じられた。戦後の四九年一〇月二六日、日本新聞協会は「記者クラブに関する方針」を作成して、記者クラブを「各公共機関に配
属された記者の有志が相集まり親睦社交を目的として組織するものとし取材上の問題には一切関与せぬこと」と規定した。しかし実際上は親睦社交機関ではな
く、取材のための機関である。記者側では発表や記者会見など取材の便宜が受けられ、ニュース・ソース側では公表したいことを公表でき、また一括して発表
できるという便利さがある。現在、記者クラブは(1)その閉鎖性・排他性、
(2)ニュース・ソース側の広報下請け機関化の傾向、の問題が提起されている。
◆インナー・サークル(inner circle)〔1994 年版
ジャーナリズム〕
ふつうは権力の中枢の取り巻きグループのこと。アメリカのマス・メディアでは、ホワイトハウスや官庁の高官から特別の背景説明を受けたり、食事に招かれ
たり、ニュースをリークされたりするエリート・メディアをさす。三大テレビ・ネットワーク、新聞は『ニューヨーク・タイムズ』
『ワシントン・ポスト』
『ロ
サンゼルス・タイムズ』『ウォールストリート・ジャーナル』の四紙、それに『ニューズウィーク』『タイム』の二週刊誌の計九社をいう。
日本の記者クラブは閉鎖的であることで批判されるが、そのかわりいったん入会してしまえば、社によって差別されることはなく、平等に扱われる。アメリカ
では記者クラブがないが、エリート・メディアの記者であるかないかで、取材に差別されるわけだ。
◆報道協定〔1994 年版
ジャーナリズム〕
「誘拐事件のうち、報道されることによって被害者の生命に危険が及ぶおそれがあるものについて」結ぶ協定。一九六〇(昭和三五)年東京で起きた「雅樹ち
ゃん事件」が引き金となり、同年六月、日本新聞協会編集委員会が「誘拐報道の取り扱い方針」を定めた。この方針はその後何回も改定され、七〇年、「人命
に危険のおよぶおそれのある誘拐事件、またはこれに準ずる事件(恐喝、不法監禁等で、被害者の生命に危険が予想される事件)」と改められた。
報道協定は、取材の自由・報道の自由を、ジャーナリスト自身が一時放棄することである。また、報道協定は、警察の要請によって結ばれるものではあるが、
警察側と報道側との間で締結するものではなく、取材・報道を自粛する措置として、報道側内部で結ばれるものである。したがって解除するときも報道側で一
致すれば自主的に解除できる。八四年の「グリコ・森永事件」での報道協定は、犯人逮捕失敗後も協定解除が一カ月も続いたことで、報道機関が人命尊重より
も捜査協力に性格を変えた、とする問題を浮かび上がらせた。
◆コンバット・プール(combat pool)〔1994 年版
ジャーナリズム〕
戦争取材プール。プール取材とは、ある出来事の取材に大勢の報道陣が参加して、めいめいが記事や写真を送稿することが困難な場合、代表だけが取材し、残
りのメンバーはその素材を利用させてもらう方法。
湾岸戦争では、米国防総省が事前にこの戦争の取材はプールに限定することを明らかにし、プールの代表は腕立て伏せ、腹筋運動、一マイル半のランニングな
どの体力テストに合格することを義務付けた。米国防総省は、
(1)取材要求が多すぎて、対応し切れないこと、
(2)戦闘訓練を受けていないものが、多人数
で戦場を行動する危険をコンバット・プール制にする理由としてあげたが、ベトナム戦争のとき戦場取材を自由にした結果、戦争のすさまじい現実が報道され
て、そのため国内にベトナム戦争反対の世論が高まったことへの反省が根本にあると見られている。
米英の報道陣は、新聞社、通信社、テレビ局などメディアごとにコンバット・プールを組み、それぞれの代表を前線に送り出したが、他のヨーロッパ諸国が組
んだ「国際プール」、日本の報道陣が組織した「ジャパン・プール」からは、米軍はついに一度も代表を前線に送ることを認めなかった。取材は米英両国に限
るという米軍の報道管制が徹底して行われたわけである。
戦後、米主要新聞・テレビ一七社は米国防総省に戦場での報道の自由を求める一〇項目の要求を提出した。その結果一九九二年五月、プール制度を取材の標準
的手段とせず、プールを設ける場合でも作戦開始から二四∼三六時間以内で解消することになった。
◆法廷内写真取材〔1994 年版
ジャーナリズム〕
最高裁大法廷が開廷前三分間に限って写真取材を認めているなど、ごく少数の例外を除いて、日本では法廷での写真取材を禁止してきた。それが一九八七(昭
和六二)年一二月一五日からスチール・カメラ、ビデオ・カメラ各一、開廷前二分間だけ、という条件つきながら、全国の裁判所で取材が認められることにな
った。
敗戦直後は法廷での写真取材はかなり自由だった。ところが四九年一月、刑事訴訟規則が施行されて、「公判廷における写真の撮影、録音又は放送は、裁判所
の許可を得なければ、これをすることができない」と定められたこと、このころから公安・労働事件で
荒れる法廷
が続出したことなどから、撮影を認める
裁判所が急速に減少した。さらに最高裁は六八年六月、「裁判所の庁舎等の管理に関する規程」を制定し、公判廷はおろか、裁判所構内すら写真取材がむずか
しくなった。
八一年一〇月、富山地裁が行った連続誘拐殺人事件の現場検証のさい、法廷の外でありながら、テレビ・カメラの撮影が禁止されたことから、日本新聞協会は
再三にわたって法廷での写真取材を解禁するよう最高裁に要求してきた。ようやくそれが認められたわけである。
◆ティップ・オフ(tip off)〔1994 年版
ジャーナリズム〕
民衆にとって不利益な行為が行われようとしているとき、それを内部告発的に暴露することで民衆に警告を発する行動。ティップ・オフとは、自分の勤務先や
上司に対する忠誠よりも、民衆や社会に対する忠誠を上位と考えることから生まれる。民主主義が脅かされそうになったとき、民衆や社会が不当な影響を蒙ろ
うとしているとき、勤務先や企業への忠誠を捨てて、民衆や社会に奉仕しようとする行為である。日本ではこのことがまだほとんど行われない。
◆ニュー・ジャーナリズム(new journalism)〔1994 年版
ジャーナリズム〕
事件や関係者などの取材対象(特定の人物)に密着取材し、文学的表現を用いて表現されるルポルタージュの一種。
この「ニュー・ジャーナリズム」ということばは、ウォルター・リップマンも使っていたが、現在の意味とは異なる。現在の意味で使われるようになったのは、
トルーマン・カポーティの『冷血』(一九六六年)以来、トム・ウルフらアメリカのジャーナリストが主張してからである。ゲイ・タリーズやノーマン・メイ
ラーの作品にその影響も見られる。
日本では朝日新聞記者による『木村王国の崩壊』が、その手法を取り入れたものである。
◆取材源の秘密〔1994 年版
ジャーナリズム〕
「ニュース源の秘匿」ともいう。情報やニュースの出所・提供者名を、本人の承諾なしに外部に漏らさないこと。ジャーナリストや報道機関が守るべき基本的
な倫理(モラル)の一つ。報道・論評の自由を果たすためには、自由にニュース・ソースに接近し、取材できなければならない。そしてそのためには、取材源
が安心して情報を提供できる必要がある。取材源が外部にすぐ漏れるようでは、取材源は、安心して情報を提供することはできない。
ウォーターゲート事件を追及した『ワシントン・ポスト』の二人の記者には、政権内部でティップ・オフしてくれた重要な情報源があったが、それは「ディー
プ・スロート」という匿名のままで、いまだに氏名は公表されていない。
日本では、取材源の秘匿は法的に規定されてはいないが、一九七九(昭和五四)年、札幌地裁、同高裁で、八〇年に最高裁で、記者が取材源を明らかにしない
「証言拒否権」が、民事上、保護されるべき「職業上の秘密」として認知された。
しかし八七年五月、北京駐在の共同通信特派員は、中国の機密文書を入手して報道したことで、中国政府から入手経路を明らかにするように求められたのを拒
否し、中国から退去させられた。
◆オフ・ザ・レコード(off the record)〔1994 年版
ジャーナリズム〕
略して「オフレコ」ともいう。ニュース・ソース側がメモをとらないこと、状況の理解を深めてもらいたいために、しかし外部に公表されては都合が悪いので、
報道しないことを条件にして行う情報提供。記者会見やブリーフィングなどのときによく行われる。いったんオフレコの約束をした以上は、それを守るべきだ
が、乱用されると、報道規制、あるいは逆に情報操作に使われるおそれがある。
◆DoD 規制(DoD regulations)〔1994 年版
ジャーナリズム〕
DoD とは米国防総省(Department of Defense)の略。湾岸戦争開始の直前、米国防総省が湾岸戦争の報道にあたって、公式発表以外に報道することを禁止し
た一二項目の規制。
(1)部隊、航空機、兵器の数、
(2)中止となったものも含め、計画、作戦の詳細、
(3)戦闘の詳細、
(4)人的損害、撃墜・撃沈された
航空機・艦船について、などの報道が禁じられている。つまり湾岸戦争では、公式発表以外の一切が報道できなかった。これも前記の報道管制の方法の一つで
あることはいうまでもない。
◆戦争報道の 10 原則〔1994 年版
ジャーナリズム〕
湾岸戦争で米国防総省の報道規制があまりにも厳しすぎたため、
『ニューヨーク・タイムズ』
『ワシントン・ポスト』などの主要新聞、CNNを含む四大テレビ・
ネットワーク、AP通信社など、マスコミ一七社の代表は、一九九一年四月末、湾岸戦争での検閲や報道の自由に関する報告書を公表し、そのなかで戦争報道
についての一〇原則を提唱し、国防長官に報道規制の再考を促す要望書を提出した。
この一〇原則の中には、(1)独立報道が基本原則である、(2)プール取材は、作戦開始から二四ないし三六時間以内に限られるべきである、(3)軍の広報
は連絡役に徹し、取材に干渉しない、(4)すべての主力部隊への取材を認める、などの項目が含まれている。
◆ブラック・アウト(black out)〔1994 年版
ジャーナリズム〕
もともとは空襲に備えての灯火管制のこと。それから転じて、軍、警察などによる報道管制を指す。湾岸戦争で地上戦が始まった一九九一年二月二三日夜(米
東部時間)から二五日まで、米中東軍シュワルツコフ司令官は、「作戦成功と将兵の安全のために」情報の完全ブラック・アウトを命令した。このためアメリ
カのマスコミは湾岸戦争について全く沈黙しなければならなかった。
◆テレプロマシー(teleplomacy)〔1994 年版
ジャーナリズム〕
テレビジョン(television)と外交(diplomacy)とを組み合わせた、欧米で使われるようになった新造語。まわりくどい外交ルートを経由せずに、テレビを利
用することでより早く、直接的に、相手国に自国の主張や意向を伝えようとすること。
一九九〇年八月から始まった湾岸危機で、イラク政府はアメリカのCNNテレビを徹底的に利用した。
たとえば、フセイン大統領の演説の二、三時間前にバクダッド駐在のCNNクルーに予告し、翻訳その他の準備をさせた後に演説を始めるのを常とした。八月
二二日と二八日にフセイン大統領は外国人人質と「会見」し、軟禁中の身で、何も発言できない人質を相手に自分の正当性を長々と述べ、それを全世界に生中
継させた。
また逆に、ブッシュ米大統領は、九月一二日、イラクの国民に向けたテレビ演説を行い、アラビア語字幕入りのビデオテープを、イラク側に送った。このテー
プは無修正のまま五日以内に放送することが求められていたが、イラク政府は結局、無視して放送しなかった。
◆インフォテインメント(info‐tainment)〔1994 年版
ジャーナリズム〕
情報(information)と娯楽(entertainment)とを組み合わせた造語。報道、とくにテレビ報道が、情報の重要さよりも娯楽性を重視するようになってきてい
ることを表す。ニュースが娯楽番組的に視聴され、またそれを意識して制作されるようになっている状況である。
◆瞬間主義〔1994 年版
ジャーナリズム〕
一九八一年一一月から二年半、アメリカのCBSニュース社長を務めたヴァン・ゴードン・ソーターの主張。テレビ・ニュースは視聴者の心を打ったり感じた
りする場面(それを彼は「瞬間」と呼んだ)を持っていなければならないとする。しかしこのような「瞬間主義」は、視聴者に考えさせる内容、政治や経済の
問題のように、重要だが抽象的な内容を報道することをやめ、ニュースへ娯楽色を導入する口実となった。ラジオ時代からニュース番組に定評と権威とを持っ
てきたCBSの伝統を崩壊させ、視聴率も三大ネットワークの最下位に落とす結果となった。
九〇年に邦訳・出版されたピーター・ボイヤー著、鈴木恭訳『ニュース帝国の苦悩‐CBSに何が起こったか』(TBSブリタニカ刊)で紹介され、インフォ
テインメントの一例として注目を集めた。
◆ブリーフィング(briefing)〔1994 年版
ジャーナリズム〕
ニュース・ソース側がジャーナリストに対して行う状況説明。もともとはアメリカ軍の「戦況要約」のことで、それからアメリカ軍報道官が従軍記者にする戦
況説明のことになり、さらに一般化して使われるようになった。レクチャー(lecture)ともいう。一九八七年六月四日、トウ小平中国共産党中央顧問委主任が
厳しい日本批判をしたことに対し、同日、柳谷外務事務次官が記者団に「トウ氏は雲の上の人」と反発して発言し、日中間をさらに悪化させた。この結果、柳
谷次官は一八日辞意を表明した。これも「懇談」という名の一種のブリーフィングの席上行われたもので、ニュース・ソースを秘匿することが条件となってお
り、そのため各社は「外務省首脳」「外務省高官」として報じ、氏名・職名を伏せた。
◆プレス・リマークス(press remarks)〔1994 年版
ジャーナリズム〕
記者団に対し、手短にコメントすること、またその文書。記者会見(press conference)と違って、通常は質問を許さない。
◆パブリシティ(publicity)〔1994 年版
ジャーナリズム〕
広い意味では広告を含めた宣伝のことをいうが、狭い意味では、広告としてではなく、企業が宣伝的な情報をジャーナリズムに提供し、一般的な記事の形で紙
面や番組に報道してもらうこと。広告が広告費と交換で載るのに対し、パブリシティは無料で載るところに違いがある。それだけに内容にニュース性が要求さ
れることになる。
◆スクープ(scoop)〔1994 年版
ジャーナリズム〕
(1)ニュース・ソース側(大部分は、政治権力や資本など)が隠したり歪めたりしている「事実」の正確な貌をあばきだすこと。(2)ニュース・ソース側
が、いずれ発表しようとしている事柄を、何日か早く入手して出すこと。(3)公知の事実であって、みんなが重視していない事柄に新しい問題性を見つけ、
照明をあて直すことにより、その事実の持つ意味を新たに明らかにしてみせること。一般的には特ダネ・出し抜くこと、を意味する。
◆キャンペーン(campaign,press campaign)〔1994 年版
ジャーナリズム〕
ある特定の世論を喚起させるために新聞の紙面やマス・メディアを一定期間動員することによって、継続的集中的に行う言論・報道活動。
キャンペーンは、もともと「平原」を意味し、そこで繰り広げられる「戦闘」が転化し、「一定の場における行動、特別の目的をもった組織的活動」の意味を
有するようになった。
一八九〇年代の『万朝報』
(黒岩涙香)が行った行動は、その典型であるが、一九〇一(明治三四)年から『毎日新聞』
(島田三郎・現在の『毎日』とは異なる)
が行った「足尾鉱毒反対キャンペーン」は現在の環境問題のキャンペーンの原点をなすものである。最近では東京放送のベビー・ホテルのひどさをあばいたキ
ャンペーン〔一九八一(昭和五六)年度日本新聞協会賞〕、
『河北新報』のスパイクタイヤ追放キャンペーン〔八三(昭和五八)年度日本新聞協会賞受賞〕など
が代表的。
◆降版協定〔1994 年版
ジャーナリズム〕
新聞の紙型取りの時刻を定めそれ以降のニュースは翌日回しとする各新聞社間の協定。時刻は地域によって異なる。
◆取材の安全マニュアル〔1994 年版
ジャーナリズム〕
一九九一(平成三)年六月に起きた長崎県雲仙の火砕流事故の教訓から、テレビ・キー局はそれぞれに取材の安全マニュアルを作った。
九一年九月、民放で最初に『取材と安全の基準』を作ったテレビ朝日では、「人命第一の原則は報道の世界のみならず、世の中に確立された絶対的な価値観で
ある」と人命優先を説き、「安全のために他社と比較しない」と取材競争にも反省がこめられている。日本テレビがニュース系列NNNとして九二年三月に作
った『安全な取材・放送活動のために』は、世界各国の新聞社・放送局の基準を参考にしながら、しかし「いざというときに生命を守ってくれるのは、日頃の
勉強や事前の調査」としている。
TBSが九二年四月に作った『取材の安全のために』も、
「どんなに重要な報道であっても、取材者の命に優先するものはない」
「危険な取材は強要されてはな
らない。本人の選択により、不利な扱いをされてはならない」などを決めている。
◆ピュリッツァー賞(Pulitzer Prize)〔1994 年版
ジャーナリズム〕
毎年、ジャーナリズム・文学・音楽などで功績のあったアメリカ市民に授与される賞。とくに新聞ジャーナリズムで最高の賞とされている。
ハンガリー生まれのアメリカ人ジャーナリストで新聞経営者だったジョセフ・ピュリッツァー(Joseph Pulitzer
一八四七∼一九一一)の遺志で、その遺産を
もとに一九一七年に創設された。
新聞ジャーナリズムに関しては、国際報道、国内報道、調査報道、フィーチュアー、解説、論説などの部門がある。
◆世界報道写真賞〔1994 年版
ジャーナリズム〕
ピュリッツァー賞とともに、世界で最も権威ある写真賞の一つ。一九五五年に創設され、オランダ皇太子が後援する財団が運営。毎年世界のプロカメラマンが
撮影した作品を、ニュース、スポーツ、芸術など八分野に分け、その中の一点を最優秀賞として選ぶ。
日本人受賞者には、浅沼社会党委員長刺殺事件を撮影した毎日新聞の長尾靖氏、ベトナム戦争中、川を渡って逃げようとする母子を撮ったUPI通信の澤田教
一氏、成田闘争で火炎びんの炎に包まれる反対派を撮ったAP通信の三上貞幸氏らがいる。
▲ジャーナリズムの類型〔1994 年版
ジャーナリズム〕
新しい技術の開発によって、「FAX新聞」「国際衛星版」などの新しい媒体が生み出されるとともに、「スポーツ紙」が事実上「大衆紙」に内容を変えたり、
一般紙の「夕刊廃止論」が台頭するなど、既成のジャーナリズムにも変化が求められてきている。
このような類型の変化が、それぞれのジャーナリズムの報道を、どう変えていくことになるのか、それを私たちは見きわめていかなければならない。
◆クオリティー・ペーパー(quality paper)〔1994 年版
ジャーナリズム〕
高級紙。教養ある知的な読者、エリート階級を対象とする新聞。センセーショナリズムを排し、重要な事項についての詳細な記録、高度な論評を内容とする。
特にヨーロッパでは、高級紙と大衆紙(popular paper)とが、厳然と分かれている。イギリスの『ザ・タイムズ』、フランスの『ル・モンド』などが代表的。
日本では自称しているものはあるが、実質的に高級紙にあたるものはない。
◆フリー・ペーパー(free paper)〔1994 年版
ジャーナリズム〕
無料紙。広告収入だけで製作され、読者に無料で配布される新聞。日本では、一九六〇年代の初め、団地向けに始まり、七〇年代に入ってサンケイ新聞社が『サ
ンケイリビング』を発行したのをきっかけに、各新聞社が競って発行するようになった。配布地域を細分化して限定しているため、本紙には向かない地域の小
規模広告主を吸収でき、広告収入を上げられることが新聞社にとってはメリットであり、読者にとっては地域の広告を見ることができ、また付随して生活情報
が掲載されているのが役に立つというメリットがある。
◆クーポン付き広告〔1994 年版
ジャーナリズム〕
広告の一部が切り取り切符(クーポン)になっており、これを切り取って、広告主へ持参したり送付したりすると、商品の価格が割引されたり商品見本をもら
えたりする広告。アメリカでは広く実施されている。
日本では『サンケイリビング』が先鞭をつけたが、公正取引委員会が、クーポン付き広告を新聞や雑誌の販売拡張に利用してはならないとしているところから、
一般紙はこれまで自粛してきた。しかし最近、新聞広告がテレビに押されたり、他の広告媒体が伸びてきたために、印刷媒体にしかできないクーポン広告を解
禁すべきだという声が高まった。新聞各社の販売局長クラスで構成する新聞公正取引協議委員会は一九九〇(平成二)年一〇月一日から新聞本紙上でのクーポ
ン広告掲載解禁に踏みきった。
これによると、商品またはサービスを最高五〇%まで割引きする「割引券」、三〇〇円程度の見本を請求できる「見本等請求券」、商品などの資料を請求できる
「資料請求券」の三種を認め、ただしこれが新聞の販売拡張に利用されるのを防ぐため、広告が掲載された新聞を必要以上に印刷・配布してはならず、違反し
た場合は、違約金を支払うこと、としている。また九一年四月一日からは折り込み広告にもクーポン広告掲載を認めた。
◆タブロイド判(tabloid paper)〔1994 年版
ジャーナリズム〕
ふつうの新聞の大きさをブランケット判(blanket sheet)というが、その半分の大きさの新聞。特にサイズの規定があるわけではない。一九一九年、アメリカ
のシカゴ・トリビューンが『イラストレイテッド・デイリー・ニュース』をタブロイド判で出したのが始まりといわれる。一般紙が扱う記事は要約し、代わり
にセンセーショナルな記事・写真を満載しているのが特徴。日本では一九六九(昭和四四)年、サンケイ新聞社が『夕刊フジ』を創刊して以来、『日刊ゲンダ
イ』など大都市圏の夕刊紙にこのタブロイド判で発行されるものが出てきた。
◆国際衛星版〔1994 年版
ジャーナリズム〕
『読売新聞』は一九七七(昭和五二)年から東京本社の紙面の清刷りをニューヨークに空輸して、そこで印刷・発行し、在住日本人の家庭に戸別配達もしてき
た。しかし空輸のため、どうしてもニュースが遅くなった。これに対し『朝日新聞』は八六年一月から東京本社で編集した紙面をインド洋衛星を経由してロン
ドンへ送り、そこで印刷・発行を始め、欧州、中東、アフリカ各国に空輸して発売し始めた。さらに一〇月からはこの紙面を大西洋衛星でニューヨークへも送
り、同様に印刷・発行し始めた。このため『読売』も対抗上一一月から衛星利用に切り替え、またロサンゼルスでも発行することにした。『朝日』の国際衛星
版は、八七年からニューヨーク印刷のものを中南米一三カ国に空輸、ロサンゼルスでも印刷・発行、八八年にはそのロサンゼルス印刷のものをハワイに空輸な
ど、次々と範囲を拡大した。『日経』も八七年からロサンゼルスとニューヨークで、同じように国際衛星版の印刷・発行を始めた。海外で読まれている日本の
新聞の総数は、八五年現在五万部強にすぎず(日本新聞協会調べ)、国際衛星版を発行してもこれが大きく変わるとは考えられない。国際衛星版発行の流行は、
コストを度外視した大手全国紙のプレステージ維持のためと見られている。
◆分散印刷〔1994 年版
ジャーナリズム〕
新聞社が本社で印刷・発行するだけでなく、各地で地元新聞社と提携し、あるいは自ら印刷工場を設置して印刷・発行すること。
◆新聞博物館〔1994 年版
ジャーナリズム〕
日本新聞協会のNIE(教育に新聞を)計画の一環として、設立が計画されている新聞専門の博物館。
CTS(コンピュータ利用の印刷)の進展にともなって、新聞社の印刷工場からは在来の活字を使った工程が姿を消しつつあり、そのため日本の新聞発生いら
いの機材、重要紙面などを保存して総合的新聞博物館を作り、公開しようというもの。熊本日日新聞社は一九八七(昭和六二)年一一月、独自に新聞博物館を
オープンしているが、業界あげて建設するのは、世界でも例がない。設立の場所としては、日本の日刊新聞発祥の地・横浜市が考えられているが、具体的な場
所、時期などは決まっていない。
◆フォト・ジャーナリズム(Photo‐journalism)〔1994 年版
ジャーナリズム〕
対象となる事実・時事的な問題を、写真技術を用いて表現し報道するもの。
写真技術の発達により、それまで新聞に描かれていた「絵」が写真に替わることで、よりリアリスティックに表現できるようになった。一九二〇年代、ドイツ
で『ミュンヒナー・イルストリールテ・プレッセ』『ベルリナー・イルストリールテ・ツァイトゥンク』のフォトジャーナリズム雑誌が創刊されたのをはじめ
として、アメリカでは三六年『ライフ』が創刊され、その六週間後『ルック』が創刊された。日本では一九二三(大正一二)年『アサヒグラフ』が創刊された。
◆写真週刊誌〔1994 年版
ジャーナリズム〕
一九八一(昭和五六)年一〇月二三日に創刊された『フォーカス』(新潮社)をはじめとする、セックスや犯罪、プライバシーなどののぞき写真で構成される
スキャンダリズム雑誌。はじめのころは有名なカメラマンの写真も多く載せたが、のぞき写真がほとんどになってしまった。その後、八四年一一月『フライデ
ー』
(講談社)の創刊により「FF現象」という言葉が生まれ、さらに『エンマ』
(文芸春秋社)、
『タッチ』
(小学館)、
『フラッシュ』
(光文社)が創刊され、五
誌の頭文字をとって「三FET」といわれる時代を迎えた。
写真週刊誌をめぐる人権侵害の問題は増加しており、対外的には撮られる側の人権を無視した行為の問題、内部的にはカメラマンの撮影した写真に、カメラマ
ンではない者が作為的にキャプション(解説文)をつける(写真の意味が変わってしまう)など興味本位のあり方に対する批判が高まっている。特に、八六年
に起きた「たけし事件」はその氷山の一角である。
この事件以後、写真週刊誌へ批判が高まって売れ行きが落ち、八七年五月には『エンマ』が、八九年三月には『タッチ』がそれぞれ廃刊し、「三F」時代にな
った。
◆通信社(news agency)〔1994 年版
ジャーナリズム〕
(1)ニュースまたはフィーチャーを収集し、
(2)それを顧客に配信する組織。通信社の活動には、
(1)外国の通信社から、ニュースを購入すること(incoming)
と、(2)自社が収集したニュースを外国の通信社に売却すること(outgoing)との二つがある。
世界各国には数百におよぶ通信社がある。ユネスコは、通信社を、
(1)ニュース収集領域が全世界的規模に広がるものを世界的(ワールド)通信社、
(2)収
集領域が一国内に止まるものを国家的(ナショナル)通信社、
(3)ニュースの内容が特定の部門に限られるものを専門(スペシャライズド)通信社と分類し、
世界的通信社としてAP、UPI(以上アメリカ)、ロイター(イギリス)、AFP(フランス)、タス(ソ連
現・イタル・タス=ロシア)の五社をあげてい
る。しかし今日では、世界的通信社をこの五社とすることは適切ではない。
日本では第二次大戦中の国策通信社である同盟通信社が敗戦によって一九四五(昭和二〇)年一〇月末自発的に解散し、社団法人・共同通信社と株式会社・時
事通信社とが誕生し、全国の新聞社・放送局、海外の新聞・通信社・放送局に配・送信している。このほか日本には、数多くの専門通信社がある。
◆編集プロダクション〔1994 年版
ジャーナリズム〕
雑誌・書籍の編集作業を請け負うグループ。個人営業から、二、三〇人の社員を抱える会社まで、規模はさまざま。正確な数も不明で、五〇〇社とも一〇〇〇
社ともいわれる。一九六〇年代後半からの全集・百科事典ブームで生み出された。全集・事典の編集には多くの人手を要するが、発行を終えればその人数は不
要となる。そのため出版社は、編集を外部に発注するようになり、プロダクションが生まれた。
現在は、出版社が立てた企画にのっとって編集作業をする場合と、プロダクションが企画を立てて、出版社に持ち込む場合とがある。新刊書の三割から四割は
プロダクションが作っていると言われる状況にある。
●最新キーワード〔1994 年版
●メディア選挙〔1994 年版
ジャーナリズム〕
ジャーナリズム〕
マス・メディアに取り上げられるようなスローガンやキャンペーンを繰り広げることによって、間接的に有権者に働きかける選挙方法。候補者が直接有権者に
働きかけるのではなく、まずマス・メディアを対象とした選挙戦略であることに特色がある。アメリカでは、徹底した世論調査とコンピュータ・シミュレーシ
ョンによって綿密な作戦計画を立て、それに基づいてメディアのプロを動員したメディア選挙が行われている。中心となるのは、
(1)テレビ討論、
(2)全国
党大会のテレビ中継、(3)テレビ・コマーシャルで、そのためテレビ選挙ともいわれる。
日本では一九九〇(平成二)年二月の総選挙で、(1)五党党首討論会のテレビ中継、(2)各党のテレビ・コマーシャル、(3)テレビによる開票速報競争が
行われたため、メディア選挙元年といわれるが、まだアメリカほどには至っていない。
●選挙予測報道〔1994 年版
ジャーナリズム〕
自民党は一九九二(平成四)年五月の与野党政治改革協議会の実務者会議で、新聞または雑誌(政党その他の政治団体が発行するものを除く)で、投票日の前
の一定期間、選挙の予測報道を禁止する案を野党側に提示した。投票日間近の情勢報道・当落予測報道によって、
「『圏内に入った』と書かれると票が減り、逆
に『あと一歩』と書かれると票が増えるアナウンス効果がある」ことを理由としている。
しかし新聞協会、民間放送連盟などが直ちに強い反対を表明し、野党の賛成も得られなかったことから、当面、国会への法案提出は見送られた。フランスでは
七七年に「選挙に関する世論調査の出版及び放送に関する法律」が成立し、投票日の前一週間の世論調査結果の報道を禁じている。しかし事前予測報道による
アナウンスメント効果については、さまざまな論があり、定説があるわけではない。
●プレスの内部的自由(Innere Pressefreiheit(独))〔1994 年版
ジャーナリズム〕
マス・メディアで働く労働者たちの、そのマス・メディアに対するアクセス権。ジャーナリストが雇用主に対して、妨げられることなく、良心に基づいて行動
し、書き、話す自由。ドイツでは一九六八年以来「プレス基本法」を設けて、その中にプレスの内部的自由を盛り込もうとしてきたが、経営者側の抵抗にあっ
て成案を得られないでいる。しかし、七六年ハンブルクの『ハンブルガー・モルゲンポスト』紙とボンの『フォアヴェルツ』紙は労組と協約を締結し、編集長
や編集管理職の任命、記者・カメラマンの雇用・配転・解雇については、編集局員の間から選ばれた編集委員会と協議したうえで決定しなければならないこと
とした。この編集委員会には全従業員の代表組織である経営協議会からも代表の参加が認められているので、ジャーナリスト以外の従業員も含めて、編集方針
にかかわる人事についての共同決定権を得た。また放送でも、ノルトライン・ウェストファーレン州が八五年「西ドイツ放送協会法」を定めて、編集者代表が
番組に関する問題を協会側と協議する権利を認めた。
日本では、七七(昭和五二)年に新会社となった『毎日新聞』の「編集綱領」に、外に対してばかりでなく、内に対しても「開かれた新聞」の方針をとったが、
この綱領が十分に生かされているとは言い難い。八八年九月に昭和天皇の容体が悪化して以後、新聞労連、民放労連、出版労連や、傘下の各労組は、経営者側
に過剰報道にならないこと、Xデーには「崩御」を使わないこと、アナウンサーやキャスターに喪服・喪章を強制しないことなどを申し入れた。しかし多くの
社でこの申し入れは認められなかった。このためプレスの内部的自由を確立する必要性があらためて認識されはじめている。
●皇太子妃候補報道差し控えの申し合わせ〔1994 年版
ジャーナリズム〕
新聞協会編集委員会は一九九二(平成四)年二月一三日から三カ月間「皇太子妃の候補者に関する報道を差し控える」ことを申し合わせた「皇太子妃報道に関
する申し合わせ」を決め、協会加盟社間協定とした。
これは九一年七月の編集委員会に出席した藤森宮内庁長官と宮尾次長が、「激しい取材競争の結果、人権、プライバシーの侵害も見られる。報道に特段の配慮
を」と要請、新聞側が対応を協議した結果、「良識ある対応を図る」ことになったもの。
五八(昭和三三)年七月、現天皇の皇太子時代、同じように「皇太子妃の報道は正式発表まで行わない」と申し合わせたことがある。
日本民間放送連盟、日本雑誌協会も同じような申し合わせを決めた。「申し合わせ」はその後、五月、八月と延長されたが、一一月の期限切れにあたっては、
自粛期間が長期にわたることから、九三年一月末をもって「申し合わせ」を打ち切り、その後の延長はしないことに決めた。
しかし九二年一二月末から皇太子妃候補に小和田雅子さんが内定したことをマスコミ各社が知り、小和田邸前に記者やカメラマンが張り付くようになった。こ
のことを米紙『ワシントン・ポスト』が報じたのを機に、この「申し合わせ」は九三年一月六日午後八時四五分をもって解除された。この「申し合わせ」につ
いては、皇太子妃候補者のプライバシーを守るためにやむを得なかったとする説と、自ら報道を規制する協定は結ぶべきではなかったとする説とがある。
●読売新聞対TBS訴訟〔1994 年版
ジャーナリズム〕
TBSは一九九二(平成四)年二月二〇日放送の「ニュースの森」「ニュース 23」で、読売新聞社がJR新大阪駅近くに持っていた土地を時価より高い値段で
佐川急便に売却した、背後には大物政治家の影もちらついている、とスクープとして報じた。
読売は「重大な事実の誤りで名誉と信用とを傷つけられた」としてTBSに訂正・取り消しと謝罪を求めたが、TBSは拒否、そのため東京地裁に名誉棄損と
一億円の損害賠償を求めて提訴した。また朝刊で一ページをつぶして反論記事を掲載、その中でTBSを激しく攻撃した。このためTBSは「この記事によっ
て名誉を傷つけられた」として訂正記事と一億円の損害賠償を求める訴えを起こした。大手マスコミ同士の訴訟合戦は珍しい。
●アナウンス効果(announcement effect)〔1994 年版
ジャーナリズム〕
アナウンスメント効果ともいう。候補者や政党が現在置かれている状況についての情勢報道が、有権者の投票意図や投票行動に、なんらかの変化をもたらすこ
と。たとえば、選挙の予測報道で、優勢と報じられた候補者にさらに票が集まる「勝ち馬効果」や、逆に苦戦と伝えられた候補者に判官びいきで票が集まる「負
け犬効果」などが考えられている。しかし、アナウンス効果は存在しないとする説もあり、学者の見解は必ずしも一致していない。
むしろ、一九九〇(平成二)年二月の総選挙では、各報道機関の事前予測調査の結果を手に入れた政党が、弱いとされた候補者に強力なテコ入れを図るなど、
有権者に直接影響を与えるよりも、まず政党に影響を与え、その結果有権者の投票行動を変化させるという、間接的なアナウンス効果を作り出した、とする見
方がある。
●メディア欄〔1994 年版
ジャーナリズム〕
『朝日新聞』東京本社発行朝刊の第三社会面に、一九九一(平成三)年六月四日付から始まった欄。火曜日から土曜日まで毎日、マス・メディアを中心として、
メディアの仕組み、情報の作られ方、メディアの世界で何が、どのように起きているか、社会・人間にどのように影響を及ぼしているか、を広く取り上げるこ
とをねらいとしている。
続いて『東京新聞』が同じようなねらいで「特報」面に不定期に、
『毎日新聞』は主としてニュー・メディアを扱う欄として、
『産経新聞』も広くメディア事情
を扱う欄として始めた。