マスコミ論② ジャーナリズムの特徴

2010 年 10 月4日
マスコミ論②
ジャーナリズムの特徴
1. ジャーナリズムとは何か
(1) マスコミとジャーナリズムの違い
① マスコミ:大量にコピーしたものを不特定多数に伝える行為。そういう行為を
するのがマス・メディア
② ジャーナリズム:マスコミのうち伝える内容が時事的、時局的なもの
③ ジャーナリズムの語源
ラテン語のディウルヌス(diurnus)
「1日の」→「毎日つける記録」→18 世紀「日刊新聞」
(2) テレビの放映活動はジャーナリズムか?
テレビの主体:ドラマ、歌謡番組など娯楽性が強い
ニュース、ドキュメンタリーは一部→ジャーナリズムかどうかは疑問視する声
(3) ジャーナリズムの必要条件(和田洋一)
① 伝達される内容がその日その日の出来事に関連していること
② その日の出来事が翌日、1週間後、1 ヵ月後に多数の人々に伝達されること
→ジャーナリズムはニュース性のあるものをいち早く伝える
いち早く伝えてもニュース性のないものはジャーナリズムとは呼ばない
→テレビは娯楽性が強いが、ニュース報道もあるので広い意味のジャーナリズム
(4) 送り手の視点
① マスコミュニケーションとのニュアンスの違い
ジャーナリズムには送り手の報道姿勢が問われる
② 送り手の主観、視点を前面に出す報道
■ 明治の自由民権報道
福地源一郎の「東京日日新聞」:民選議院斬新論
藤田茂吉の「郵便報知」、成島柳北の「朝野新聞」
:民選議院即時開設論
明治 23 年「国会開設の詔勅」→政党づくりが活発化
板垣退助の「自由党」、大隈重信「改進党」
、福地源一郎「帝政党」
→新聞は政党の機関紙に
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■ 米国
1776 年:独立宣言→国の形態を巡る議論が発生
初代大統領の財務長官、ハミルトンを中心とした「フェデラリスト」
連邦政府の強い国づくりを主張、有産階級の権益保護
第3代大統領ジェファーソン:反フェデラリスト
個人の自由と権利の強化を主張、独立農場主を擁護
■ 米国の政党機関紙
フェデラリスト「ガゼット・オブ・ザ・ユナイテッド・ステイツ」
(1789)
反フェデラリスト「ナショナル・ガゼット」(1791 年)
2. ジャーナリストの使命
ジャーナリズム:時局的なものを定期的に多くの人に伝える
→新聞、テレビ、ラジオ、雑誌などマス・メディアを通じて伝える
(1) 日本の新聞
日本の日刊新聞:110 紙
① 全国紙:朝日、毎日、読売、産経、日経の5紙
② ブロック紙:北海道新聞、河北新報、中日新聞、西日本新聞の4紙
③ 地方紙、ローカル紙、県紙
■ 読売新聞
全国3本社→約 60 総局・支社→支局(都道府県庁所地、県内第2都市など)
→300 以上の通信部
(2) 支局記者の仕事
新人記者:研修後、地方支局に配属
→県はひとつのミニ国家:政治、経済、文化がひと通りそろっている
(3) 記者の特性
① 聞き上手になれ
② 情報アンテナを張る
③ 分析能力
④ ニュースセンスがある
「ジャーナリストは何でも疑ってかかれ」
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(4) 本社記者の仕事
① 数年で支局から本社に異動
地方版の整理:他人の原稿を見て見出しをつける
② 整理の段取り
原稿集まる→レイアウトを決める→校了→製版→印刷
③ 地方版整理後、編集各部に配属
専門分野を訓練
政治部、経済部、社会部、国際部(外報部、外信部)、科学部、生活情報部、
運動部、地方部、英字部、日曜版編集部など
④ 解説部の充実
速報性ではテレビにかなわない
解説や記録などの機能を重視→専門記者の養成
⑤ 40 代で第 1 戦を離れる
ライン:デスク→部長→局長
スタッフ:デスク→編集委員→論説委員
(5) 社員ジャーナリストとフリーランス
日本の新聞:社員ジャーナリスト:定年まで1つの会社に勤める
欧米の新聞:フリーランスを多く使う→原稿の出来高払い
→最近は戦争取材でフリーランスを活用
3. アカデミズムとジャーナリズム
(1) 学問の心理と物事の真実
① アカデミズム:事象に切り込んでその切片を分析
② ジャーナリズム:事象の全体像をつかもうと努力する
(2) アカデミズムの視点
学問をする場合は1つの固定した視点が必要
■ 笠信太郎(朝日新聞論説主幹)
「笠新太郎全集」
「学問というものは、なんといっても非常に限定した領域における、限定された
方法によってとらえられた知識なんですから、それが学問的真理(ワールハイト)
といわれる場合は、その限定された平面の上でのことであって、ちょっとほかの
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平面に触れたり、交わったりしている場合はぐあいが悪いのです」
「この平面に関する限りそれは“真理”であるということを発見するのが学問で、
またそういうふうな方法をやらない限りは学問的真理は発見できない、というの
が現在の学問の立場だろうと思うのです」
(3) ジャーナリズムの視点
学問:ある視点、条件の下で切った、面だけを見ればいい
ジャーナリズム:試験管の中で起きることが現実の世界では起きない
リンゴの平面ではなく、球体全部をみる
「学問は“真理”を教えるが、われわれには“真実”が仕事の対象です」
(笠信太郎全集)
(4) 相互補完作用
アカデミズムとジャーナリズムは対照的
① 方法論
アカデミズム:方法論に厳しい:実験室の中の環境は一定でなければならない
ジャーナリズム:社会の一般現象は変数が多すぎて厳密な条件づけが不可能
② 相互補完の必要性
学問の分岐化によって研究者が大きな問題に気づかないことも
4. ニュースの特性
(1) ニュースの構成
<ニュースを構成する3要素>
「出来事」
「報道」
「受け手」
① 出来事がなければニュースにならない
② 出来事を報じる行為(報道)
③ 受け手:受け手がいなければニュースにならない
(2) ニュースの定義
① 定義は時代とともに変化
② 関一雄の定義
「ニュースとは、もっとも新しき、もしくは現在に関連せる古きあらゆる事物
の存在・変化・減失・発展・進展・現象の事実を、多数の人々に興味と知識を
与えんがために印刷せる報道である」(1933 年「新聞ニュース研究」)
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(3) ニュースの概念
ニュース:時代によって変化すると同時に、送り手によっても変化
送り手の価値観によってニュースの形は異なる
① ニュース加工論:「ニュースは加工品」
② シュラム(Wilbur Schramm、米コミュニケーション研究家)の分類
「即時報酬(immediate reward)
」
「遅延報酬(delayed
reward)
」
■ 即時報酬:すぐに報酬が跳ね返ってくるニュース
■ 遅延報酬:報酬がもたらすのが遅い
→不況、増税、外国の政情不安など
(4) ニュースの価値基準
関一雄の6つの価値基準
① 時間的近接性:同じ規模の事件なら新しいほうに引きつけられる
② 距離的近接性:あまり知らない遠い国の出来事よりも身近なできごとに関心
③ 著名性:同じ交通事故でも首相、芸能人など著名な人はニュースになる
④ 異常性:異常性が高いほど関心を引かれる→窃盗事件より殺人事件
⑤ 進展性:1回で終わらず、次々と新しい局面が展開
⑥ 情操性:人間の感情に訴える。人間は人間に関心
(5) ニュースの価値基準の変化
① 時間的近接性:最近の新聞は記録性を重視:少し遅れても国会審議を全面掲載
② 距離的近接性:遠い中東の石油ショックなど市民生活に影響
③ 著名性:有名人のほか、公害、災害の被害者がニュースの焦点に
→オウム真理教:松本サリン事件、坂本弁護士殺害
④ 進展性:1つの事件の進展よりも、社会全体への波及効果を重視
⑤ 求められる新しい価値基準→環境問題:事故が起きてから報道しても遅い
5. ジャーナリズムの受け手
ジャーナリズム:送り手と受け手から成り立つ
→日本のジャーナリズムの質向上には送り手のほか受け手側も努力する必要
(1) ジャーナリズムに対する批判
①日常性の視点の軽視②意見の多様性が十分反映されていない③定型的ニュース
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から脱皮していない④情報過多で全体像や核心がつかみにくい報道がある⑤公権
力への批判が不足している
(2) 調査報道
① 調査報道
専従の記者おき、地域の汚職などを長期間調査・報道
② 調査報道記者協会(IRE)
調査報道記事に年間優秀賞を出して、調査報道を普及
③ 調査報道が増える理由
・ 社会の複雑化:ひとつの事件が社会のさまざまな側面とつながる
・ 社会構造の分析まで手を伸ばさないと事件の核心が分からない
(3) シビック・ジャーナリズム(パブリック・ジャーナリズム)
調査報道と同じように米国で普及
① 一般市民の日常生活をもっと報道する
家庭崩壊、未成年者の麻薬の蔓延、銃のはびこる社会、人種差別問題など
② 「待ちのジャーナリズム」から「仕掛けるジャーナリズム」へ
ニュース:社会の表面上の出来事だけでなく、構造的なところに焦点を当てる
(4) 受け手の主体性と報道倫理
ジャーナリズムの議論:受け手のあり方が抜け落ちがち
① 受け手の勉強が必要
② メディアへの苦情処理機関
英国「報道評議会」(Press Councel)、スウェーデン「報道オンブズマン」
1997 年放送界:
「放送による人権侵害を救済する委員会組織」(BPO放送人
権委員会)
③ メディアへの倫理批判
・豊田商事会長刺殺事件の傍観者的記者の姿勢(1985 年)
・朝日新聞「サンゴ傷つけ事件」(1989 年)
・松本サリン事件(1994 年)
・オウム真理教幹部に未放映のインタビュービデオを見せた事件(1989 年)
・NHK記者の放火事件
→ジャーナリスト自覚が必要に
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