グローバル知的財産ニューズレター vol.1 Issue 2

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グローバル知的財産ニュースレター
April 2013
Volume 1 Issue 2
商標
【オーストラリア】高裁、スポンサーリンクの表示をめぐる誤導的または詐欺
的行為はグーグルの責任に帰属しないと判断: 2013 年 2 月 6 日、オーストラ
リア連邦高等裁判所は、グーグルが同社のクリック課金広告サービス AdWords
において、人を惑わすまたは欺くようなスポンサーリンク(広告)を表示する
ことにより、誤導的または詐欺的行為を行ったとしたオーストラリア連邦控訴
裁判所の判決を破棄した。高裁は、かかるスポンサーリンクに対する責任は
グーグルではなく広告主に帰属するとし、グーグルに好意的な判断を下した。
高裁は、グーグルについて、広告主から提供された情報をシステムに取り込み、
検索エンジンのユーザーを対象とした広告として表示する技術を提供したに
すぎないとしている。注目すべき点は、グーグルの検索エンジンの一般ユー
ザーは、スポンサーリンクを構成する情報は広告主によって提供されており、
それらの情報はグーグルによる取捨選択あるいは承認を経ていないことを認
識しているとの見解を高裁が示したことである。
特許
【米国】米国特許商標庁、発明者先願主義に関する施行規則と審査ガイドライ
ンを公表: 2013 年 2 月 13 日、米国特許商標庁は、米国特許改革法(リーヒ・
スミス米国発明法、The Leahy-Smith America Invents Act(AIA)、以下「改革
法」)に導入される「発明者先願主義」(First Inventor-to-File)に関する施行
規則を公表した。「発明者先願主義」は、2013 年 3 月 16 日より施行されてい
る。以前米国は、「先発明主義」を採用する唯一の法的管轄区域であった。今
回の改革は、諸外国と足並みをそろえることを目的に実施されている。
米国特許商標庁はさらに、特許審査官が使用する審査ガイドラインを公表した。
本ガイドラインでは、特に「発明者先願主義」が及ぼす発明の新規性および自
明性の判断基準への影響について明確に記載している。また、改革法が先行技
術の範囲に及ぼす影響について記しており、さらに新たに設けられた一年間の
グレースピリオド(発明の公表から特許出願までに認められる猶予期間)につ
いても詳しく説明している。改革法のもとでは、以下を証明できれば、発明の
有効出願日より過去 1 年以内に先行技術が公開されていたとしても、当該発明
の出願が認められる場合がある。
•
第三者が当該発明者から主題を得た上で、それを公開した場合
•
当該発明者または共同発明者が第三者より前に主題を公開した場
合1
外国出願日も有効出願日とみなされることに注意が必要である。つまり、先行
して外国で出願している場合、1 年間のグレースピリオドは外国出願日を起点
に定められる。米国特許商標庁は、小規模な個人発明者の助成のため、かかる
発明者を対象として特許出願費用の 75%割引きを実施している。
【欧州連合】統一特許裁判所協定の締結(欧州単一効特許に関する最新情報):
2013 年 2 月 19 日、EU 加盟国のうち 24 か国の代表が、統一特許裁判所協定に
署名した。後日、さらにブルガリアの代表が署名を行っている。ただし、本協
定は、フランス、ドイツ、英国を含む 13 か国以上の国々が批准することによっ
てのみ発効する。EU 加盟国 27 か国のうち、スペインおよびポーランドはいま
だ署名していない。スペインは協定への参加を拒否し、協定の法的根拠につい
て、異議を申し立てている。ポーランドは現在の協定の内容には満足していな
いが、後日参加する可能性があることを表明している。
本協定の締結により、統一特許裁判所設立への地盤が整ったこととなる。統一
特許裁判所は(移行期間を経た後に)、欧州特許条約に基づいてヨーロッパ特
許庁が付与した特許の侵害事件において一審管轄権および上訴管轄権を有す
ることとなる。さらに同庁が将来的に付与することとなる欧州単一効特許(以
下「単一特許」)も取り扱う。イタリアは本協定への署名を行ったが、現在の
ところ単一特許を付与するシステムには参加しないことを表明している。
統一特許裁判所の設立は、複数の法的管轄区域に影響を及ぼす単一特許につい
て、その権利行使手段を提供することを目的としている。また同裁判所は、既
存の欧州特許の権利行使および関連する問題における管轄権を有する。ただし、
既存の欧州特許については、移行期間中、特許権所有者の申請により、統一特
許裁判所の管轄権の適用除外対象とすることができる。これにより、それぞれ
に管轄権を有する複数の機関が一つの欧州特許について判断を下す場合に生
じる差異を回避することができる。統一特許裁判所は第一審裁判所(Court of
First Instance、地方支局、地域支局および中央部を通じてその役割を果たす(専
門分野によってパリ本部、ロンドンおよびミュンヘン支部のいずれかが対応))、
控訴裁判所(Court of Appeal、ルクセンブルク)、登記部(Registry)で構成さ
れている。このシステムは、早くて 2014 年の 1 月 1 日、あるいは 2015~2016
年の間に開始される可能性が高い。
著作権
【米国】合衆国最高裁判所、ファースト・セール・ドクトリンを米国外で作成
された商品に適用: 2013 年 3 月 19 日、合衆国最高裁判所は、Kirtsaeng v. John
Wiley & Sons 裁判において、米国で著作権を付与された著作物の複製が米国外
で合法的に作成され、その後著作権所有者の許可なく米国に輸入された場合に
も、米国著作権法のファースト・セール・ドクトリン(一度合法的に譲渡が行
われると特定の権利が消尽するいう規定、詳細は後述)が適用されるという判
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原文は以下のとおり。
「The inventor or a deriver disclosed the subject matter before the date of the prior art
disclosure」
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決を下した。本件は、米国で教科書を出版し、それらの教科書の米国における
著作権を所有する John Wiley & Sons, Inc.(以下「John Wiley 社」)が、タイ人
学生 Supap Kirtsaeng(以下「Kirtsaeng」)を相手取って起こした訴訟である。
Kirtsaeng の家族は、タイで販売されている John Wiley 社の教科書を購入し、
米国に送付、その後 Kirtsaeng がそれらの教科書を米国内で転売しており、こ
れが問題となった。John Wiley 社側は、法の下で与えられた同社の独占販売権
を侵害したとして Kirtsaeng を訴え、一方で Kirtsaeng 側は、教科書は合法的に
入手したものであり、転売はファースト・セール・ドクトリンに鑑みて著作権
の侵害にあたらないと主張した。
米国のファースト・セール・ドクトリンにおいては、著作権物の複製を合法的
に入手した者は、著作権者の許可または承認なく販売、廃棄する権利を有する
ことが定められている。ただし、初回の販売が著作権者の承認を得ていない場
合は、ファースト・セール・ドクトリンは適用されないことに留意が必要であ
る。
連邦地方裁判所と合衆国控訴裁判所は、ファースト・セール・ドクトリンは米
国内で合法的に作成された複製にのみ適用されるとし、John Wiley 社に好意的
な判決を下した。しかし、合衆国最高裁判所は、米国の著作物の複製が合法的
に作成された場合、作成された場所が世界のどこであるかを問わず、それらす
べてにファースト・セール・ドクトリンが適用されるとし、この判決を破棄し
た。これは、米国で著作権を付与された教科書およびその他の商品の複製が米
国外で合法的に作成され、販売された場合、それらを転売、貸出、譲渡あるい
は廃棄しても、米国の著作権法に触れることはないということを意味する。
正規品のインターネット上における転売や並行輸入を行う業者および個人は、
この判決を好ましいものとして受け止めている。一方で、この判決を踏まえる
と、市場を地域ごとに分けることで得られる著作権所有者の利益は限定される
こととなり、著作権所有者は国際市場における商品販売戦略を再度検討する必
要がある。
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いずれかの法律事務所のオフィスを指します。
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