モンスターと対称性 - iMetrics.co.jp

モンスターと対称性
ムーンシャイン
S. Kusafusa
有限単純群
有限単純群にはいくつかの無限系列と26個の例外があり,例外中で最大の
ものがモンスターである.
References
Symmetry and Monster; One of Greatest Quests of
Mathematica, by Mark Ronan
モンスター数
千葉大にあるモニュメント
人類が到達した最大数
モンスター数は,およそ8.08×10^53個,正確には246・320・59・76・
112・133・17・19・23・29・31・41・47・59・71=
808017424794512875886459904961710757005754368000000000個の元
からなる巨大な群である.
ちなみにアボガドロ定数はおよそ6.02 ×10^23である。モンスターは豊か
な構造をもつ興味深い研究対象である.
群と位数
群は図形や空間の対称性を記述する数学的構造である。位数すなわち元の
個数が有限であるものを有限群という.
たとえば,正三角形には120度回転すると元の位置に重なるという対称性
がある.
何もしない操作や裏返しも含め,位数6の群が得られる.
この群は位数2の群を回転のなす位数3の群で拡大したものと解釈できる一
般に,有限群は有限単純群の拡大の繰り返しでできている.
Moonshine
ムーンシャイン
1970年代前半に有限単純群の分類の試みの中でモンスターが発見された
後,1970年代後半になってムーンシャインとよばれる不思議な現象が見出
された. モジュラー関数の級数展開とモンスターの表現の指標に関係があ
るというのである. これを追及する中で,理論物理学(弦理論)との関係も示
唆されつつ、1980年代前半にムーンシャイン加群とよばれる無限次元の代
数系が構成された. これを用いてムーンシャインは解明され、関連する一連
の研究はボーチャーズ(R. E. Borcherds)のフィールズ賞受賞につながる
重要な研究となった.
History
モンストラス・ムーンシャイン、もしくはムーシャイン理論は、1979年にジョン・
コンウェイ(John Conway)とシモン・ノートン(Simon Norton)により名づけられ、モ
ンスター群 M とモジュラー函数、特に j-不変量との間の予期せぬ関係を記述するこ
とに使われた.
今日では、背後にあるモンストラス・ムーンシャインが、対称性としてモンスター群
を持つある共形場理論であることが知られている.
コンウェイとノートンによって考案された予想は、リチャード・ボーチャーズ
(Richard Borcherds)により1992年に弦理論や頂点作用素代数(vertex operator
algebra)の理論や一般カッツ・ムーディ代数から証明された.
1978年、ジョン・マッカイ(John McKay)は、j (τ) のフーリエ展開の最初のいくつ
かの項に注目した.
= 1, 196883, 21296876, 842609326, 18538750076, 19360062527, 293553734298, ...
半周期比率(half-period ratio) τ は、小さな非負の係数を持つモンスター群 M の既約
表現の次元の線型結合の項として表すことができる.
一般化されたムーンシャイン
種数 0 のモジュラー曲線は、まったくまれにしか存在しないが、モンストラス・ムーン
シャイン予想との関係で非常に重要.
モジュラー曲線の Hauptmoduln を q-展開した係数の最初のいくつかが、19世紀に既に
計算されていたが、最も大きな単純散在モンスター群の表現空間の次元と同じになって
いることが、非常に衝撃的だった.
この関係は非常に深く、リチャード・ボーチャーズ(Richard Borcherds)により示され
たように、一般カッツ・ムーディリー代数とも深く関係する.
この分野の仕事は、至るところで正則でカスプを持つモジュラー形式に対し、有理型
でありカスプで極を持つことのできるモジュラー函数の重要性を示している.
これらの仕事は、20世紀の重要な研究の対象になった.
双曲平面
オッグは、数論に出てくるモジュラー群を研究していた. 整数の対を他の対に変化さ
せる作用からなる群である. このモジュラー群は、双曲平面に作用し、巻き込んで球
面にする. オッグは各素数に対応して存在するモジュラー群の部分群を探した. これら
の部分群は、全体のモジュラー群よりは緩やかに双曲平面を巻き上げて、球面やそれ
以外のいろいろな曲面を作り出す.
オッグはその曲面がちょうど球面になるのは、素数が2, 3, 5, 7, 11, 13, 17, 19, 23,
29, 31, 41, 47, 59, 71のときだけとした.
オッグ素数
SL(2, R) の Γ0(p) の正規化因子(normalizer) Γ0(p)+ と対応するモジュラー曲線が種数
0 であることと、p が 2, 3, 5, 7, 11, 13, 17, 19, 23, 29, 31, 41, 47, 59 あるいは、71 で
あることと同値である
これらが正確にモンスター群の位数の素因子となっている。この Γ0(p)+ についての
結果は、ジャン=ピエール・セール(Jean-Pierre Serre), アンドレ・オッグ(Andrew
Ogg)とジョン・トンプソン(John G. Thompson)が1970年代に発見し、モジュラー群
とモンスター群の関係を発見したオッグは、この事実を説明したものには、ジャック
ダニエルのウイスキーのボトルを進呈すると論文に記載した
そしてそれよりさらに優れているのが対称性という幻だ。
対称性は深く、優美で、一般的であり、幾何学の概念でもある。
つまり幾何学者である「神」は、実は、対称性の神なんだ。
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宇宙が数学的でなければ、進化によって数学する脳は生まれない。
神が幾何学者だからこそ、「神」という幾何学者が存在できると勘違い
できる脳を作れるのだ。
その意味で神は数学者であり、しかもわたしたちよりはるかに優秀だ。
そして彼女は、わたしたちにもしばしばその肩越しに秘密をかいま見せ
てくれるんだ。
イアン・スチュワート
Thank you