エイズウイルス免疫制御を担う新たなヒトゲノム因子の探索

エイズウイルス免疫制御を担う新たなヒトゲノム因子の探索
熊本大学
エイズ学研究センター
上野貴将
エイズは、これまでに世界中で多くの死をもたらしてきた。サブサハラアフリ
カ地域では、現在でも 10 代後半の女性の感染者が半数に近い地域があるなど、
エイズ感染制御への道のりは未だ遠い。既存の戦術に基づいたワクチンの臨床
開発では十分な効果を出すに至っていない。エイズ制御を担うヒト免疫システ
ムの基礎的な理解と、科学的根拠に基づいた新しいアプローチが求められてい
る。
スイスの研究チームは、エイズ感染制御と関連するヒトゲノム解析(GWAS)
を行い、ヒト6番染色体の HLA クラス I 領域にのみ、統計的に有意な関連性を
報告した。主要な多型が HLA クラス I 分子のペプチド結合領域に集中していた
ことから、HLA 拘束性の免疫応答の重要性が再認識された。このとき、この考
え方で説明できない多型も同じ領域に見つかっていたが、マイナーなものとし
て見過ごされてきた。
一方、近年の広汎で詳細なコホート研
感染者によって病気の進行が著しく異なる
血漿ウイルス量
(vRNA copy/ml)
エイズ
急性期
慢性期
究の成果から、極めて稀であるが(全
後天性免疫不全症候群
数週~数か月
数年~10年以上
感染者の 1%未満)自身の免疫系でウ
病態進行者
イルス増殖を制御し、エイズ発症に至
95%以上
らない感染者(エリートコントローラ
長期未発症者
ーと呼ばれる)の存在が明らかとなっ
5%未満
Time
た。我々はハーバード大学との共同研
感染・伝搬
エリートコントローラー
1%未満
究で、エリートコントローラーの検体
を集め、急性および慢性感染期の両方で、免疫制御が HIV-1 の病原性因子であ
る Nef の機能低下に強く関わることを明らかとしてきた。Nef は HLA クラス I
分子の細胞内ドメインと結合することから、GWAS で明らかにされた多型の一
部は、ウイルス蛋白質との相互作用を介して、免疫制御に影響するものと考え
た。
本研究では、これまで見過ごされてきた HLA クラス I 分子の細胞内ドメインの
多型と、エイズウイルス蛋白質との相互作用に着目して、エイズウイルスの感
染制御における新しい機序を明らかにしようとするものである。具体的には、
これまでに集めた貴重なエリートコントローラー検体(53 名)を用いて、ウイ
ルス蛋白質と、ヒト蛋白質との相互作用および、ヒト遺伝子多型が及ぼす影響
をヒト感染者由来の細胞を用いて解析するとともに、蛋白質構造に基づいた分
子機序の理解を目指す。