修士論文 梗概 ル・コルビュジエの「輝く農場・輝く村落」に関する研究 建 築学専 攻 序 田路貴 浩研究 室 川 吉里季 0-3 既往研究 0-1 背景および目的 ル・コルビュジエが手掛けた都市計画の詳細を探る研究や 建築家ル・コルビュジエ(Le Corbusier, 1887-1965)は,建築設計 都市思想・建築思想を探る研究はおおく,枚挙に暇が無い。 分野のみならず,芸術分野や都市計画分野など多肢に渡って 本研究での研究対象である「輝く農場・輝く村落」も,かれ 活動し,都市計画分野では「300万人の現代都市( Ville の都市計画を記述した『輝く都市』において「実例」として contemporaine de trios millions d’habitants) 」と,その後の「輝く都市(Ville 掲載されている以上,かれの都市計画のひとつとして捉えら Radieuse) 」で広く知られている。 れよう。しかし,国内の論文では「輝く農場・輝く村落」を 「輝く農場・輝く村落(Ferme Radieuse, Village Radieux)」は,19 主題とした研究は見当たらない。海外の論文では, Mary 37年に「住居と余暇」と題してパリで行われた第5回CI Caroline McLeod 女史が博士論文中にて「輝く農場・輝く村落」 AM会議にて発表された農村計画であり,フランスのサルト を取り上げているが,地域サンディカリスムが色濃かった時 県ピアセ村で農業従事者として働いていたノルベール・ベザ 代背景に着目をした考察がなされてはいるものの,計画内容 1 ール(Norbert Bézard)からの投書が計画の発端とされている 。 「輝 に言及する内容とはなっていない6。 く農場・輝く村落」は1938年までに計画段階で終了を迎 第1章『輝く都市』における「輝く農場・輝く村落」 え、実施には至っていない2。 「輝く農場・輝く村落」は,ル・コルビュジエが1935 ル・コルビュジエの著書の中で,初めて「輝く農場・輝く 年に著した“La Ville Radieuse”だけでなく,それ以後の『四 村落」の内容について触れたのは『輝く都市』であり,同書 つの交通路』 ,『人間の家』,『三つの人間機構』,『都市計画の の「第7章 考え方』3などでも述べられており,かれの都市計画概念にお 述内容が収められている。 『輝く都市』は現在のところ邦訳出 いて重要な役割を持っていたことは間違いない。 版されていない。ここでは同章の内容について読解および解 また,当時の時流を確認するため,20世紀初頭の一般的 なフランスの農村に目を向けると, 「とどまるところを知らぬ 『農村人口の減尐』は,深刻な労働不足をもたらし,農業経 田園の再編成」に経緯や計画に関する多くの記 説をおこなう。 1-1 資料情報 『輝く都市』の「第7章 田園の再編成」は, 「1.私の村」 営の安定を非常に妨げて」おり, 「都市~農村人口比が逆転し 「2.『輝く農場』」 「3.農民への回答」に分かれている。 た」時期であった4。また,エンジンを取り付けた農業機械の 1-2 概要 工業化成功や,フランス政府による農村電化事業の開始も, 1-2-1 「1.私の村」 冒頭で,ベザールがル・コルビュジエに宛てた手紙が掲載 時期をほぼ同じにしている5。 19世紀後半~20世紀前半における田園都市構想では, される。ベザールは,前半ではピアセ村の立地環境や荒廃し エベネザー・ハワードの「田園都市(Garden City)」,クランス・ た様子と過酷で危険な住環境を説明し,近代的な手法で村の ペリーの「近隣住区(neighborhood unit)」,フランク・ロイド・ラ 再建を図る必要性を訴える。後半ではベザール自身によるピ イトの「ブロードエーカーシティ(Broadacre City) 」などが挙げ アセ村復興案(素案)の提示がなされる。素案では,1)道 られるが,ル・コルビュジエの「輝く農場・輝く村落」が挙 路交通網の整備,2)新しい形式の住宅の建設,3)巨大中 げられることは無い。都市問題と農村問題を同時に扱うこと 央街区(学校,共同中央施設,協同組合,機械工場,自動車 が示された「輝く農場・輝く村落」は,21世紀を迎えた現 整備工場,金属加工場)の導入(共同中央施設には議会場, 代において再考されるべきではないか。 郵便局,ラジオ放送局,集会室,映画館および図書館を収容), 本研究は,これまでほとんど扱われてこなかった,ル・コ 4)既存の教会の使用を維持,という4つの提案がおこなわ ルビュジエの「輝く農場・輝く村落」の計画内容および構想 れる。また,近代的農場の整備の必要性も訴える。 過程を明らかにするのが目的である。 1-2-2 「2.『輝く農場・輝く村落』1933-1944」 冒頭は,ベザールがル・コルビュジエに宛てた別の手紙の 0-2 方法および構成 引用からはじまる。ベザールはル・コルビュジエの「輝く都 本研究では,以下を一次資料とする。 “La Ville Radieuse”, 1935(以下,『輝く都市』 ) 市」を高く評価する一方,田舎へ目を向けないその態度を批 “Œuvre Complète 1923-34” Vol.2, 1934(以下, 『作品集第2巻』) 判する。彼は「輝く農場」と「輝く村落」の創出をル・コル “Œuvre Complète 1934-38” Vol.3, 1938(以下, 『作品集第3巻』) “The Le Corbusier archive - Buildings and projects, 1937-1942”, 1983(以下, 『アーカイブ』) ビュジエに要求する。 “Le Corbusier plans”, 2005, DVD(以下,『プランズ』) く村落もしくは組合村,6)他の新しい村落との比較,とい 上記の資料のうち, 『輝く都市』は理論編(第1章~第4章) , 計画編(第5章~第7章),結論(第8章)で構成され,本研 究の第一章では同書の計画編「第7章 田園の再編成 (réorganisation rurale)」の読解をおこなう。 本節の続きは,1)田園再興の必要性と可能性,2)田園 の再編成,3)農場の特徴と近代化,4)輝く農場,5)輝 う6つの話題に区切ることができる。 1)田園再興の必要性と可能性 ル・コルビュジエは数年に渡る田舎の調査を経て2つの結 論に確信を得る。1つは,都会に棲みつく田舎出身者を元へ 続く,本研究の第二章では, 『作品集』, 『アーカイブ』およ 戻せば都市の人口密集問題が解決されること。もう1つは, び『プランズ』に掲載される「輝く農場・輝く村落」に関す 高速道路の発達が田園再興の契機となり,都市居住者と田園 る図版資料の内容を読み取り,構想過程に迫る。 居住者とが新しい関係を築くようになること。 2)田園の再編成 に は花畑と菜園と ル・コルビュジエは耕作地の地割が不整形で無数に細分化 鶏小屋が見える。春 されていることに気づく。その様子を前にかれは「(近代的な 季,夏季,秋季には 機械を導入しても)奇跡的な将来性は発揮されなくなる」と ピロティで生活の 嘆き,農村の改編には土地の再分配が必要であるとする。 大半が送られ,冬季 ベザールは都市居住で得られるものを,自由,暖房器具, は 田舎の伝統的な 長窓,清潔および健康だと述べ,それらが田園にももたらさ 空間構成が踏襲さ れることを望む。フランスの気候風土も参照して,ル・コル れ た住戸内で過ご ビュジエはその要望を,再分配した土地の核に据えられる「家 す。住戸内には近代 族農場」と土地同士を連結する農民社会の心臓部としての「組 的な設備が揃って 合村」と読み替え,これらの設計が要望への返答となる。 おり,夫婦の部屋, 3)農場の特徴と近代化 息子たちの部屋,娘 ル・コルビュジエにとって,農場とは自然破壊に終始する たちの部屋 が別々 「建築上のフォリー」ではなく, 「自然の産物と見まがう物で に準備される。重労 あり,地球そのものの人間的側面とさえ言え」,「木や丘のよ 働に勤しむ農民た うにランドスケープと密接に結びついており,それでいて, ちが「よく洗い流 家具や機械のようにわれわれ人間の存在があらわれている, す」ために,風呂は ある種の幾何学的な植物」である。 「農場は非常に深く大地と 男女別々に用意されている。リビングルームから東西南北の 結び付いているため,農場がランドスケープを表現するし, 敷地が見渡せることを,ル・コルビュジエは「心理学上大変 農場自体がランドスケープ」である。然るに, 「農場はその土 重要だ」という。このような「審美的かつ倫理的な要因に支 地における自然物」であり, 「ここには一切,人工の物が無い」 配」されているこの住戸に住む「農夫は,活動的になりたい とかれの目には映る。農場と自然との間では「すべて,実際 という願望を進んで抱かなければならない」とル・コルビュ に起こっている事実の複合体が調和の取れた表現」を成した ジエは最後に付け加える。 図1 「輝く農場」 ( 『輝く都市』 ) 状態が「自然と人間」が一体となった農場の本質だとする。 続いて,農場について。コンクリート製の広場(中庭)を よって, 「輝く農場」を計画するにあたり,自然の「昨日の 介して,右手側には器材,車両置き場と機械の修理作業場が 真実」に合わせた形式や機能を模倣するだけでは,日々姿を 並ぶ。左手側には種類ごとに区切られた家畜小屋が並び,そ 変える自然とは相容れることは出来ないと戒められる。 の裏手にはそれぞれ専用の小牧場がある。正面突き当たりに その上で,近代化により「新しい真実」があらわれる。 「技 術的な」存在である機械を農場に導入することで, 「敷地,建 は高い柱で持ち上げられた4枚のヴォールト屋根で構成され る納屋がある。 物,空間,輸送,寸法,合理的な配置,これらの間に見事な 物品の取り扱いシステムとしてレールが天井に張り巡らさ 調和が暗示され」ており, 「機械的な装置と建築的な装置には れ,コロ付きフックがレールに沿って走り, 「肉体的労作は零 非の打ち所が無い」ものとなる。 「精神的な」存在である農民 にまで抑えられる」ことから,ル・コルビュジエは「農業開 は「自然と永続的に付き合っている人々の中にしか見出せな 発は本質的に貯蔵,物品の取り扱い,輸送の問題」だとする。 い,特別で尊い価値観を持って思考する存在」である。自然 農場は「精密な機能的道具」である。 の要素とは,太陽と空と季節,もしくは植物相と動物相,こ 5)輝く村落もしくは組合村 れは自然の法則の基底である。 組合村もまた,貯蔵,物品の取り扱い,輸送の問題に関す 「技術的」存在と「精神的」存在が組み合わさることで恩 る機能が基礎となる。重い荷を積んだトラックを想定し,村 恵が得られる。個々の農民は自動車や鉄道,新聞,ラジオな 落の立地において「平坦な土地は効果的輸送の第一条件だ」 どを手に入れることで,農地以外にも目を向け, 「自分の居場 とする。村内には,金属加工場,車庫,修理工場,機械工場, 所を感じる。彼は世界の営みに参加できる」ようになる。就 給油所が軒を並べる。経済シミュレーションの結果から,給 労の場においては,新たな共同体が組織され,共同所有され 油所は高速道路の脇ではなく,村内に置かれる。日用雑貨店, る諸施設や機械を用いて,農民たちは結束を広げるとともに パン屋,食料品店,魚屋,肉屋,衣料品,靴修理屋などは別 経済的安定を得る。ここで,共同体に置かれる重要な生活施 の区画に固めて配置される。建物形状は軽トラックでの積み 設は,共同サイロとクラブである。 下ろし作業が意識されている。その他に郵便局と学校。また 4)輝く農場 別の区画には40戸で構成される共同住宅(高層建築物)が 農業改革は,農場計画を起点とする。フランスの農場の多 建っており、 「近代科学の進歩による全ての利益を新しい村の くは大家族による運営が長年続きフランスの多彩な環境に適 住人に提供する」のが目的である。村落の生活に新しく登場 した知的体系を有しているので, 「輝く農場」においても個々 した要素は「クラブ」である。そこに収容される図書館や講 の家族が農地単位を構成する。家族という言葉からは家屋が 演・演劇・弁論大会のための講堂により「村の生活は,より 暗示され,何よりも住戸の提供が急務となる。 激しく,より活発に」になり, 「村民は再び国の活発な力とな 農場住戸は衛生的かつ陽気で光に溢れており,所有者が喜 んで正しく整備する設備機器がある。「(新しい)住戸は農場 る」とル・コルビュジエは考えた。 6)他の新しい村落との比較 の外側にあるのだが,農場とそこへ続く道の両方を見渡せる 1931年の記述からの転載。ローマ郊外の沼沢地を開拓 独立住戸単位」であり, 「住戸は敷地の要」となって三者が同 して新設された2つの村落に批判を加えている。ル・コルビ 一軸線上に並ぶ。住戸はピロティで持ち上げられ,四方に別々 ュジエは標準化部材の大量生産によってのみ, 「美と機能がひ の景色を備える。上記2方向以外に,一方には果樹園,他方 とつになった」近代的村落の整備が可能だと主張している。 1-2-3 「3.農民への回答」 本節では「輝く農場・輝く村落」の設計内容が合計13点 の図版によって示される。「輝く農場」に関する図版10点, 「輝く村落」に関する図版2点,その他の図版1点。 図4 「輝く村落」<完成期>( 『作品集第3巻』) 2-2 『輝く都市』以降の著作 2-2-1 『四つの交通路』(1941) 「輝く農場・輝く村落」は「陸路のふるさと」として説明 図2 「輝く農場」( 『輝く都市』 ) 第2章 『輝く都市』以降の「輝く農場・輝く村落」 2-1 『作品集』 2-1-1 『作品集第2巻』(1934) 『作品集第2巻』では「農業の再編(réorganization agraire, 1934)」 と題され, 「輝く農場」に関する図版15点と「輝く村落」に 関する図版1点,計16点が掲載されている。 2-1-2 『作品集第3巻』(1938) 『作品集第3巻』では「農業の再組織(La réorganization agraire)」 と題され,「輝く農場」の図版は無く,「輝く村落」で建設さ れる各施設(アトリエ,購買組合,学校,郵便局,共同住宅, クラブ,村役場)の平面図,立面図,断面図など,合計26 点が掲載されている。共同サイロに関する図面は無い。ここ で掲載された資料は1937年に開催されたパリ万国博覧会 の新時代館で農業改革の部にて展示されたものの一部である。 2-1-3 『輝く都市』との比較 『輝く都市』と『作品集第2巻』に掲載された合計29点 の図版の内,重複したものは9組18点。残り11点も考慮 し,2冊に掲載された計画案は同一のものだとわかった。 『輝 く都市』は「輝く農場」の機能および平面構成を重点的に説 明し, 『作品集第2巻』は「輝く農場」の佇まいを模型写真で 補完的に説明する意図で編纂されていると結論付けられた。 『作品集第3巻』に掲載された図版の内, 『輝く都市』およ び『作品集第2巻』に掲載された図版と重複するものは皆無。 図版の内容から『輝く都市』の「輝く村落」と『作品集第3 巻』の「輝く村落」は,異なる案だとわかった。 以上より, 『輝く都市』出版時に「輝く農場」は完成し, 「輝 く村落」は<構想期>であった。また,1937年のパリ万 国博覧会への出品時点で「輝く村落」は<完成期>を迎えた。 される。 「農村の都市計画化」で導入すべき機械技術の重要性 が語られる。1939年のドレスデン農業国際会議報告をま とめたものであり, 「輝く農場」と「輝く村落」が共に紹介さ れる。ここでの「輝く村落」は<完成期>の案である。 2-2-2 『人間の家』(1942) 本文中に「輝く農場・輝く村落」の計画内容を説明する記 述は無いが, 「輝く村落」のみが含まれるイラスト3点の掲載 が確認できる。その中で「輝く村落」は,それぞれ異なる捉 え方がされている。1) 「危機に瀕した三つの村落」を「一つ にまとめる」役割。2)工業地帯で成り立つ衛星都市の集団 娯楽施設。3)旧農村に再び活力を与える共同中央施設。こ の「輝く村落」は<完成期>の案である。 2-2-3 『三つの人間機構』(1946) 「輝く農場・輝く村落」は, 「農業経営単位」という食料生 産の道具を構成する要素として扱われる。その中に「輝く農 場・輝く村落」が描かれる田舎のダイアグラムスケッチが2 点あるが,ここでの「輝く農場」は農場棟を有していること は示されるが,独立住戸等に関する説明は無い。 「輝く村落」 は<完成期>の案である。 2-2-4 『都市計画の考え方』(1946) 『輝く都市』の解説書である,と訳者である坂倉準三は本 書を位置づけたが7,その内容は人間の生活活動の根源を丁寧 に説明したものであり,各都市計画の内容に詳しくない。 「輝 く農場・輝く村落」の部でも,原始的農業の発展史を解説し, 食料摂取の重要さに言及し,「技術的」「精神的」な事柄の論 が展開されるが「輝く農場・輝く村落」の計画内容を説明す る箇所はない。田舎のスケッチダイアグラム2点は『三つの 人間機構』のと同じである。 2-2-5 『輝く都市』との比較 『輝く都市』以降の著作の「輝く村落」はすべて<完成期 >案である。 「輝く農場・輝く村落」に関して詳細計画に触れ るのではなく,都市との連関に焦点が当てられるようになる。 第3章 『プランズ』における「輝く農場・輝く村落」 『プランズ』は,ル・コルビュジエの図版データを収録し たDVDで,プロジェクトごとに分けられ「輝く農場・輝く 村落」は,「1934 –– 輝く農場と農村(農地再編成)敷地未確 定」に収録される。収録図版点数は441点である。 3-1 図版内容読み取り 図3 「輝く村落」<構想期>( 『輝く都市』) 上記441点の中から「輝く農場・輝く村落」の全体計画を扱っ 図5 「輝く農場・輝く村落」全体計画 左から順に<同心円型>,<地形型>,<グリッド型>( 『プランズ』 ) たと判断できる習作スケッチ,習作図面等33点を抽出し,その記 結 載内容についての読み取り作業をおこなった。 『輝く都市』を読み込むことで「輝く農場・輝く村落」の (読み取り内容、記述略) コンセプトは,田舎に適切に機械技術を持ち込むことで農民 3-2 考察 ひとりひとりを文化的にも経済的にも恵まれた近代人に仕立 3-1 より, 「輝く農場・輝く村落」の全体計画は,<同心円 てることだと分かった。また,40戸の「輝く農場」を構成す 型><グリッド型><地形型>の3案に分類できる。 る独立住戸や農場棟についても詳細を明らかにすることが出 3-2-1 <同心円型> 来た。 『作品集』からは「輝く村落」を構成する協同サイロ,修 ダイアグラム図面1点,全域を扱った計画図面2点,一部 区画を扱った図面1点。 理工場,購買組合,学校,郵便局,住居棟(40戸) ,クラブ, 運動場・プール,村役場の詳細について明らかに出来た。 ダイアグラム図では, 「輝く村落」と都市が幹線道路を介し 最終的に発表された「輝く農場・輝く村落」には全体計画 て繋がり, 「輝く農場」は「輝く村落」から伸びる枝道に沿っ が存在しなかったが, 『プランズ』を読み解くことで,<同心 て「輝く村落」の周囲に配置されている。 円型><地形型><グリッド型>という3案が考えられ,都 同心円の中心にある「輝く村落」の外側に二重の環がある。 市の生成原理を応用した<同心円型>が他2類型の基盤とな 内環・外環ともに, 「輝く農場」を含む48戸もしくは50戸 っていたこと,また,既存農道を含む自然条件との刷り合わ の農地単位が割り振られ,3種の配置計画が試される。<同 せがスタディの要であったことを明らかにした。 心円型>を<グリッド型>に置換するスケッチも描かれる。 3-2-2 <地形型> 今後の課題は,本計画と他の都市計画との連関,本計画がその後 のル・コルビュジエにどのような影響を与えたかを探ることである。 狭い範囲の区画計画図2点,広い範囲での区画計画図2点。 同心円状の区画割線を既存地形に重ねることからスタディ は始まっている。つづいて既存農道を均等に分割するスタデ ィが行われ,その後,農地単位の基本構成が維持されるよう にスタディは重ねられていく。 3-2-3 <グリッド型> 農地単位と組合村のメモ書きとスケッチ1点,全体計画ス ケッチ1点,全体計画図面1点,ピアセ村鳥瞰パース1点。 農地単位は,20エーカーの「輝く農場」の周りに10ヘ クタールの牧草地が広がり,4種類の作付け作物の作付け場 所が決められた10ヘクタールの耕作地が牧草地と隣接する, 農家一戸あたりが所有する農地のことである。 <グリッド型>では,農地単位は東西南北を向くグリッド 参考文献 1) Le Corbusier, “Précisions sur un état présent de l’architecture et de l’urbanisme”, Paris: Crès, 1930. 2) Le Corbusier & P. Jeanneret, “Œuvre Complète 1929-34” Vol.2, Zurich ; introduction et textes par Le Corbusier, 1934. 3) Le Corbusier, “La ville radieuse”, Boulogne: Architecture d’Aujourd’hui, 1935. 4) Le Corbusier & P. Jeanneret, “Œuvre Complète 1934-38” Vol.3, Zurich ; introduction et textes par Le Corbusier, 1938. 5) Le Corbusier, “Sur les quatre routes”, Paris: Gallimard, 1941. 6) Le Corbusier et François de Pierrefeu, “La maison des homes”, Paris: Plon, 1942. 7) Le Corbusier, “Les trios établissements humains”, Paris: Denoël, 1945. 8) Le Corbusier, “Manière de penser l’urbanisme”, Boulogne: Architecture d’Aujourd’hui, 1946. 9) Fondation Le Corbusier, “The Le Corbusier archive - Buildings and projects, 1937-1942”, New York: Garland, 1983. 10) Fondation Le Corbusier, “Le Corbusier plans”, Tokyo: maruzen, 2005. – DVD. で規定され, 「輝く村落」はピアセ村を北北西から南南東にま っすぐ走る幹線道路と平行もしくは垂直に作られる。 注 1 グリッド状の区画境界線上に道路網を走らせるプランと, 区画境界線とは別の自由曲線による道路網整備プランのスタ ディが見られる。曲がりくねる既存農道を微地形や河川と同 様に自然環境の一部と捉えようとする態度が見受けられる。 2 3-2-4 小結 <同心円型>は, 『プレシジョン』で示された伝統的都市の 3 8 生成原理と同じ概念を有していたことがわかる 。スタディ内 容を読み解くことで,<地形型>と<グリッド型>はともに <同心円型>を発想の起点としていたことが分かった。 <地形型>と<グリッド型>は最終的に既存農道を使用す るなどの点で共通性が見られ,広域を<グリッド型>で計画 し,詳細を<地形型>で計画した可能性が考えられるが,証 拠が不足しており筆者による創造の域を出ない。 4 5 6 7 8 本会議では、機能的都市の「応用例」として Szymon Syrkus(ポーランドの 建築家)の「機能的ワルシャワ」,Rudolf Steiger(スイスの建築家であり都 市計画家)の「チューリッヒにおける労働者階級区域の選択的都市クリアラ ンス,その状況分析と計画」,そして,ル・コルビュジエの「輝く農場・輝 く村落」,すくなくとも合計3つの具体的計画が提出されたことが分かって いる。 (Eric Mumford, “The CIAM discourse on urbanism, 1928-1960” TIM press, 2000, pp.112-113.) スタニスラウス・フォン・モース著,住野天平訳 『ル・コルビュジエの生 涯:建築とその神話』 彰国社,1981,pp.341-342. “Manière de penser l’urbanisme”(Architecture d’Aujourd’hui, 1946)は『輝く都 市』(坂倉準三訳,鹿島出版会,1968)という邦題で出版されているが,本 稿では“La ville radieuse”(Architecture d’Aujourd’hui, 1935)との区別のため, 『都市計画の考え方』と表記する。 谷本武雄 『フランスの農村』 古今書院,1966,pp.296-297. 同上,pp.332-335. Mary. C. McLeod, “Urbanism and Utopia: Le Corbusier from Regional Syndicalism to Vichy”, Ph. D. Diss., Princeton University, 1985, pp.273-332. 坂倉準三訳 『輝く都市』 鹿島出版会,1968,p.270. ル・コルビュジエは都市の生成原理について同心円図を用いて,小集落,町, 都と徐々に円を拡大して都市へと成長していく様を説明している。中心には いずれ駅ができ,それを中心に円環状もしくは放射状に走る道路によって都 市は維持される,としている。 (『プレシジョン(下)』 鹿島出版会 pp.34-49.)
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