第4号 2009 年 12 月 15 日発行 こころとからだ 半蔵門心療クリニックたより こころとからだ 2009 年 12 月 第4号 http://www.hanzomon-m-clinic.jp/index.html <ごあいさつ> このところ暖かい冬が続いておりますが、今年の冬は冬らしい木枯らし の吹き付ける日々となりましょうか。それとも暖かな小春日和がいつまでも続くような日々で しょうか。ニュースなどをみていると、いつの日か「冬らしさ」に似合う底冷えは過去のもの になっていくのかも知れない、そんな気すらします。いずれにしましても、私たちのからだも、 そしてこころも、このところの気候の変化にまだ戸惑いを感じているのではないでしょうか。 めまぐるしく変化する気候やはては社会のただなかで、私達一人ひとりが、いかに「自分らし さ」を保っていくかが大切のようにも思います。師走のあわただしい季節です。どうぞご自愛 ください。 「人生は短し」とは言うものの 医師 平澤 伸一 「 人 生 は短し 、さ れど芸 術 は長 し」と は 有名な 言 葉 です 。ま た「 人間五 十 年 、下天 の 内を くら ぶ れ ば夢 幻の ご とく なり 」とも 謡わ れ てい ます 。 い ま や平 均寿 命 は 80 歳 を 越え 、時 間 で測 るヒ ト の 一生 の長 さ は、これ ら の言 句が 吐 かれ た時 代よりおそらく倍近くのびているかもしれま せ ん 。し かし 外 から 測定 す る寿 命の 長 さに よっ ては人の一生の中味を推し量ることなどとう て い でき ない で しょ う。生 命現 象が リ ズム 的で あるということをくり返し強調してきました 図 1 人 間 と 類 人 猿 の 体 重 増 加 曲 線 が 、ヒト の一 生 も人 類の 世 代交 代と い うリ ズム ( A.Portmann 1951) で す 。そ の一 生 の中 にも ま たリ ズム が あり ます 。 今回は人生を単純に長さで測定できないもの 1 ) 胎児 はは じ めの 10 ヶ 月 間を母 胎 の中 で過 に し てい るリ ズ ムを 見て み まし ょう 。 ご す が 、生み 出 され たと き はま だ「 無 能 」な状 ポルトマンというスイスの比較動物学者に 態 で ある (生 理 的早 産 )。 「 人 間 は ど こ ま で 動 物 か 」( 岩 波 新 書 ) と い う 2 )そ の後約 1 年 間は社 会 的子 宮( 家 庭 )の中 名 著 があ りま す 。そ こで は 人間 の成 長 には 他の で ゆ っく りと 育 まれ る。 大 型 哺乳 類と 異 なる いく つ かの 特徴 が あり 、人 3 )そ の間に 直 立姿 勢・言 葉・洞察 力 の基 本的 間は生物学的にも独特の存在であることが示 能 力 が身 につ け られ る。 さ れ てい ます 。その 特徴 は およ そ次 の 4 点にま 4 )更 年期後 に 長い 向老 期 があ り、非常 に長寿 と め られ ます 。 で あ る。 1 この指摘にもとづき私見を添えながらヒト の 一 生を たど っ てみ まし ょ う。 人間の初期発達の特徴 「 生 理的 早産 」と いう言 葉 はポ ルト マ ンの 代 生殖期年齢 ほぼ完成 名 詞 にな るく ら い有 名に な った もの で す。大型 10数年に及ぶ緩徐な発達 内面的豊かさと 能力の基礎形成 哺乳類の仔は生まれおちると間もなく自力で 立 ち 歩き 母の 乳 房を 探し 出 せま す。し かし 人間 の新生児は立つどころか首もすわっていませ 生後1年の 急速な発達 ん 。単独 歩行 ま でに さら に 1 年近い 時 間が 必要 で す 。そ れで い て生 下時 の 脳は 他の 動 物よ り大 き い ので す。こ の大 きい 脳 のた めに 長 く母 胎内 誕生 思春期 に と どま るこ と がで きず 、自然 は早 産 させ る道 1y 図2 を 選 びま した 。大き い脳 は まだ その 力 を外 に示 青年期 12~13y 人間の 初 期の 発達 の 特徴 し て いま せん 。人間 と類 人 猿の 生後 約 1 年間の と こ ろで 12 年 目 と いう の はい わゆ る 思春 期 体 重 増加 曲線 を 見る と、人 間の 体重 は はじ めの 約 1 年間 どの 類 人猿 より も 急な 上昇 曲 線を 描き 、 の は じま りで あ り第 二次 性 徴期 です 。人間 の成 2 年 目以 降あ き らか にブ レ ーキ がか か った よう 長はここからふたたび外部へ飛躍していくか に 上 昇率 が下 が りま す。 そ して 12 年 後 ふたた のように体重増加曲線が上方屈曲し始めるの び 急 激な 上昇 が はじ まり ま す。これ に 対し て他 で す 。そ れと と もに 生活 世 界は ます ま す社 会へ の類人猿の上昇曲線にはこのような屈曲は見 と 開 かれ 、さ ま ざま な精 神 的肉 体的 欲 望が 旺盛 ら れ ず、体重 は 一直 線に 成 年ま で上 昇 して ゆき に な り、人格 の 核と なる 自 己意 識が 覚 醒し ます 。 ま す 。人 間の こ の二 つの 屈 曲を もっ た 体重 増加 こうして人格的存在と呼ぶにふさわしい人間 曲線からどんなことが考えられるでしょうか。 が 生 まれ るの で す。しば し ば第 二の 誕 生と 言わ 生 後 1 年間の 急 上昇 は脳 の 重量 増加 が 関係 し れ る ゆえ んで す 。 て い るそ うで す 。し かし も っと 注目 し たい こと 最 後 に第 4の 特 徴で す。生 物 学的に は 生殖 期 は人間には自力歩行のような能動的運動が優 と 言 うべ き 40 年 間 を 経る と 、人 間は い わゆ る 勢になるまでに長い揺籃期があるという事実 更 年 期に さし か かり ます 。大型 哺乳 類 だけ でな で す 。移 動の た めに 運ん で もら わな け れば なら く多くの動物では生殖能力を失うことはその ない時期がこれほど長く続く動物は他にいま 一 生 が終 わる こ とを 意味 し ます 。こ れ らの 動物 せ ん 。そ のお か げで 人間 の 幼子 は受 動 的運 動体 では更年期以後数年間生きたとしても生殖期 験 に たっ ぷり 浸 るこ とが で きる ので す 。受 動的 に比べれば生活の質の低下ははっきりしてい 運 動 体験 は運 動 の想 像力 を 育て 、ひ い ては 想像 ます。 力そのものを育てる源になると言われていま す 。人間 の心 の 本質 はこ こ にい なが ら 遠く にい る こ とが でき る とい う、遠 さと いう も のを 体験 す る 力に ある の です 。 2 年 目 以降に 体 重上 昇が ゆ るや かに な ると い う 事 実は 、発 達 の重 点が 内 面に 置か れ てい るこ と を 意味 して い るの では な いか と思 い ます 。こ の 10 年 間人 間 の子 供は 言 葉の 世界 に 根を おろ し 、推 理洞察 の 理性 的力 を 研ぎ、意 志 の力 を鍛 え ま す。こう し て肉 体的 成 長が ゆっ く りと 進む 図3 中 で 、来 るべ き 内面 的豊 か さと 能力 の ため の基 からだ の 加齢 とこ こ ろの 成熟 礎 が 形成 され て ゆく ので す 。 しかし人間には生殖能力を失った後さらに 数 十 年間 の人 生 が用 意さ れ てい るの で す。いわ 2 ゆ る 更年 期障 害 とは 、生 殖 とい う類 の ため の機 い 方 法で ある と、実感し ま した ので 、方 法を簡 能が捨て去られその後個体として生きてゆく 単 に 紹介 させ て いた だき ま す。 ための新体制づくりにともなう心身の不安定 ち ょ っと 疲れ て るな 、と 気 づい たら 、予 定 を 状 態 のこ とで す 。更 年期 後 のい わゆ る 向老 期で 早 め に切 り上 げ て、ゆっ く り休 息を と るこ とな は青壮年期の肉体的力強さはしだいに下降し ど が 自在 にで き るよ うに な った ら、上 級者 と言 て ゆ きま す。そ れに 遅れ て 自律 機能 系 の脱 リズ え る ので はな い でし ょう か 。寒 くて 体 が縮 こま ム と いう 現象 が 起こ りま す 。体 内時 計 が刻 むリ り 、風邪 を引 き やす くな る 季節 にな り ます ので 、 ズムは地球のリズムに同調しているのですが、 気 づ く 力 を発 揮 し 、予 防 にお 役 だて 頂 ける と幸 徐々にこの同調がむずかしくなってくるので い で す。( 三上 英子 ) す 。その 現れ が 更年 期以 後 の世 代に 増 加す る不 眠 現 象で す。70 歳 前 後にな る と不 眠や 過 眠で 悩 む 人 々の 数が 半 数に 迫る ほ どで す。こ のよ うに 人間の動物性機能や植物性機能には更年期以 < ミニ座禅の手順> 後 か げり が見 え 始め ます 。しか し逆 に ある 可能 性 が 増大 して き ます 。そ れ はこ ころ の 成熟 であ ① 椅 子 に浅 く腰 を かけ て、太 もも が床 と 平行 り 、人格 的成 熟 とい う向 老 期を 特徴 づ ける 人生 に な るよ うに し て背 筋を 伸 ばし ます 。 課 題 のう ちに 広 がっ てい る 可能 性で す 。た とえ ばインド社会で行われていた四住期という考 ② 腰から上の部分だけをゆっくり右に倒し え方にも似た思想がうかがわれます。学生期、 ていきましょう。今度は左に倒して、右、 家 住 期、林住 期 そし て遊 行 期の 人生 の 四段 階で 左 ・・・と 段 々揺 れ を小 さく し て、真ん 中 に来 す 。説 明は次 回 に回 しま す が、この よ うな 人格 た ら 止め て下 さ い。 的 成 熟を 期す る ため には 、私た ちに と って 人生 は決して短くはないと言うべきかもしれませ ③ ん。 手は、おへその下あたりに持っていきま す。左の手の平を上に向け、その上に右手 を 載 せて 軽く 親 指を 合わ せ て下 さい 。 ④ 「ミニ座禅」のすすめ ~自分の体と心に気づく~ おへその下がふらむようにゆっくり息を 吸い込んで、ゆっくり息を吐き出します。 ゆっくり吸って、ゆっくり吐いて、目は閉 じないで、1 メートル先くらいの床を見て 自 分 を振 り返 る 時間 を確 保 する こと は 、な か 下 さ い。 な か に難 しい こ とで はな い でし ょう か ?特 に 忙 し い時 は、ス ケジ ュー ル をこ なす こ とに 精一 ⑤ 杯 で 、自 分の体 や ここ ろの 状 自分の体や心がどんなことを感じるの か 、 味わ って 見 て下 さい 。 態 を 見過 ごし て しま い、気 が つ い た時 には 、相当 な無理 を < 身 体面 >・ 肩 がこ って い ます か 重 ね てし まい 、疲労 からの 回 ・ 力 が抜 けて い ます か ・・・ 復に相当の時間を要することはありがちなこ < 感 情面 >・ ゆ った りし て いま すか と と 思わ れま す 。 ・ い らい らし て いま すか ・・・ 当院では、今年度より、復職支援のために、 リ・ワ ークプ ロ グラ ムを 開 始し まし た。その中 ⑥ で 、ミ ニ座禅 を 取り 入れ て みま した と ころ、簡 感じ たこ と 、発見し た こと を良 く 味わ い 、 紙 な どに 書き ま しょ う。 単 に 実施 でき て 、そ れで い てち ょっ と いつ もと は 違 う自 分の 感 覚を 持つ こ とが でき 、自分 の体 *森憲治 やこころの状態を見つめ直すのになかなか良 3 ショートエクササイズ集 (株 )図 書 文 化 認知行動療法のお知らせ 当クリニックでは、集団認知行動療法を行っています。うつ病などの心身の不調により、 社会復帰をする一歩が踏み出しにくいと感じている方、人とうまく話せない、コミュニケー ションがうまくできず自信が持てないという方などを対象に、8 名以内でのグループで計 10 回のセッションを行っています。火曜日は女性グループ、水曜日は男性グループです。 グループで行うことで、参加者同士がお互いに共通する経験を分かち合い、安心感を得る 体験ができます。最終的な目標は、参加者それぞれがセルフコントロール力を高め、自分自 身の社会生活上の問題改善や課題の解決をはかっていくことです。 費用は、各種保険及び、自立支援制度が適用になります。担当は臨床心理士と看護師が中 心となり、精神科医師と連携を取りながら進めていきます。ご興味のある方は、まず主治医 に参加についてのご相談をした上で、受付にお話し下さい。(粟野浩子) ○受付よりご案内○ <編集後記> 第 4 号 を 迎 え 、ク リ ニ ッ ク 便 り の 創 刊 か ら 1 年 を 迎 <保険証提示のお願い> えることができました。みなさまにとって、この 1 年 * 毎 月 最 初 の診 察 時 には、保 険 証 の確 認 をし はどんな年でしたでしょうか。振り返ってことばにし ておりますので、ご提 示 下 さい。保 険 証 の変 更 てみると意外な発見があるかもしれません。投稿を随 や転 居 により、住 所 、電 話 番 号 が変 わった場 時受け付けておりますので、どうぞお気軽に、ご投稿 合 は、お早 めに受 け付 けまで、お申 し出 下 さ 下さい。 い。 < 編 集委 員> <自立支援受給者証をお持ちの方へ> 平 澤 伸一 * 自立 支 援受 給者 証 は、1 年ごとの更新となり 粟 野 浩子 (看 護 師) 戸 田 麻里 ( 医 師) ます。お手 元 の受 給 者 証 の有 効 期 限 を確 認 岡 野 美也 子 大 内 名津 の 上 、 更 新 手 続 きを お 願 い い たし ま す ( 有 効 古 田 雅明 下 平 憲 子 市 川里 美 三 上 英子 期限の 3 ヶ月前より手 続 きが出来ます)。 (事 務 ) (臨床心理士) 尚、平成 22 年 4 月より、更新の際 の診断書 の取り扱いが変わります。申請 書は 1 年ごとに 提出し、医師 の診断書 は 2 年ごとに提 出となり ました。 ご不 明 な点 は、受 給 者 証 を発 行 している機 関へお問 い合わせ下さい。 * 受 診 の際 は必 ず受 給 者 表 と管 理 表 をお持 ち 下さい。 4
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