論文(PDF: 260K) - JaSSTソフトウェアテストシンポジウム

ソフトウェアテストシンポジウム 2004
JaSST’04: Japan Symposium on Software Testing 2004
テスト構造化ツール「テストツリー」による効率的なレビューの実践
竹内 祐介†
†TIS株式会社 〒105-8624 東京都港区海岸 1-14-5TIS竹芝ビル
E-mail: †[email protected]
あらまし テストケースの設計において、どのようなテストケースを作成するかはテスト設計者に依存する。し
かしテスト設計者には、経験の少ないエンジニアがアサインされるケースが多い。よって念入りなレ
ビューが必須となるが、テストケースは大量になりがちであり、レビューアにとって時間的に大きな
負担となる。そこでレビューを通してテスト設計者のスキルを向上させることで、指摘事項を減らし、
レビュー時間の短縮を図るために「テストツリー」を適用した。その結果、レビュー時間を従来に比
べて約30%削減することができた。
キーワード レビュー, テスト, スキルアップ
Efficient Review with the Test Structuring Tool “Test Tree”
Yusuke Takeuchi†
†TIS Inc. TIS Takeshiba Bldg.,14-5, Kaigan 1-chome,Minato-ku, Tokyo 105-8624, Japan
E-mail: †[email protected]
Abstract When designing the test cases, it depends on the test designer to make what the test cases to be. In most cases,
we have no choice but to assign the engineer who has few experiences, so careful reviewing is required. But, the
test cases’ volume often results in be large, it’s very heavy work for the reviewer in terms of time. Therefore, to
improve the test designer’s skill through the review, reduce the number of pointing out, and shorten the review
time, I applied the “Test Tree”. With the result that, I could make the review time about 30 % shorter than
before I applied this.
Keyword Review, Test, Skill Up
1. は じ め に
3 を レ ビ ュ ー に 割 く よ う な 状 況 が 続 い た )。
xUnit の 普 及 等 に よ り テ ス ト の 自 動 化 が 進 ん で い る
そこでレビューを通してテスト設計者のスキルを
が、どのようなテストケースを作成するのかはテスト
向上させることで指摘事項を減らし、レビュー時間の
設計者に依存している。しかしテスト設計者には、経
短縮を図ることを試みた。
験の少ないエンジニアがアサインされるケースが多い。
よって綿密なレビューによるテストケースの品質の確
保が必須である。
3. 方 策
レビューにおける主な指摘事項を、以下に示す。
以下、テストケース・レビューの方法を工夫し、経
・テストの観点がずれている
験の少ないプロジェクトメンバーが作成するテストケ
・テストケースに漏れがある
ースの品質を向上させることで、レビューの効率化を
実現したプロジェクト事例について示す。
レビューを重ねるうち、主な原因はテスト設計者が
テストケースを洗い出す際の考え方がわからないこと
にあるとわかった。
2. プ ロ ジ ェ ク ト の 課 題
本プロジェクトは平均月1回のペースで、リリース
を繰り返す、保守プロジェクトであった。よってテス
トケースを作成する頻度が高く、またテスト設計者に
経験を積んだテスト設計者は、テスト技法と自身の
経験からテストの構造を考えて、良いテストケースを
組み立てる手段を習得している。
そこで経験者がテストケースを作成するための思
は、経験の浅いエンジニアがアサインされたため、テ
考 過 程 を 中 間 成 果 物「 テ ス ト ツ リ ー 」と し て 定 義 し た 。
ストケースのレビューを念入りに行う必要があった。
これにより、テストケース設計者が経験者の設計手順
しかしテストケースは大量になりがちであるため、
レビューは時間的に大きな負荷となる(1日の約1/
をトレースできるようなり、同時にテストツリーをレ
ビューすることで、保守対象システムやテスト技法に
ついてのノウハウを伝達し、テスト設計者のテストケ
ース作成スキルを向上させることができた。
図 1 .テ ス ト ケ ー ス 作 成 ス キ ル 向 上 の 方 策
図 3 .テ ス ト ツ リ ー の 例
4. テ ス ト ツ リ ー の 紹 介
4.1. テストツリーとは何 か
4.2. テストツリーを利 用 したテストケース作 成 手 順
テストツリーを利用したテストケース作成までの
テストツリーとはテストケースの全体構造をロジ
ックツリーの形式で表現したものである。ロジックツ
流れを以下に示す。
リーを採用したのは、全体像を見るのに適し、見落と
①
しを減少させる効果があるためである。
テストツリーは、テストケースを階層構造で表現す
るため、テスト設計者・レビューア双方にとって理解
テストツリーを作成する。
テストの目的と全体構造をトップダウンで検討・作
成する。
②
テストツリーをレビューする。
テスト全体を俯瞰して、テストケースに漏れがない
しやすいというメリットがある。またテスト設計者は
全体構造を把握しながら設計を進めることができるた
かどうかを確認する。
め、テストケースの漏れを防ぐことができる。
③
テストツリーからテストケースを作成する。
レビュー済のテストツリーをもとにテストケース
例 え ば 図 2 は「 ア ク セ ス 権 限 な し 、必 須 項 目 未 入 力 、
未承認状態」の場合のテストケースが漏れているが、
を作成する。
こ れ を 検 出 す る こ と は 難 し い 。一 方 、テ ス ト ツ リ ー( 図
④
3)を利用した場合には、前述のテストケース漏れを
簡単に検出できる。
テストケースをレビューする。
テストツリーを参照しながら、テストケースのレビ
ューを行う。この段階で欠陥が見つかることはほとん
どなかった。テストケースをいくつかピックアップし
てレビューを実施すれば充分である。
4.3. テストツリーの導 入 効 果
テストツリーを中心としたレビューを繰り返すこ
とで、レビュー時間を従来120分から、80分にま
で 削 減 す る こ と が で き た ( 約 3 0 % 削 減 )。
レビュー時間の削減に寄与した主な原因を以下に
示す。
・ 経験の少ないテスト設計者のテストケース作成
スキルが向上した。これによりテストケース自
体の品質が向上し、指摘事項が減った。
図 2 .階 層 構 造 を 利 用 し な い テ ス ト ケ ー ス の 例
・ レビューアがテストケースの漏れを判断しやす
くなったため、すばやく全体像を捉えて的確な
指摘を行えるようになった。
5. 結 論
テストツリーとして設計過程をテストケースの中
間成果物とすることは、経験の少ないテスト設計者に
対する教育的な見地からも非常に有効であった。レビ
ューは欠陥を検出する場であるが、経験者のノウハウ
を伝えることができるというOJTの場としても、も
っと有効に活用していくべきであると考える。
文
献
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か ら 学 ぶ ソ フ ト ウ ェ ア テ ス ト ”,日 経 BP 社 ,2001.
[2] Cem Kaner ,James Bach , Bret Rettichord , ”ソ フ ト
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[3] Barbara Minto,”考 え る 技 術・書 く 技 術 ― 問 題 解 決
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1999.
[4] グ ロ ー ビ ス マ ネ ジ メ ン ト イ ン ス テ ィ テ ュ ー ト ,”
MBA ク リ テ ィ カ ル ・ シ ン キ ン グ ”, ダ イ ヤ モ ン ド
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