カーシェアリング付分譲マンションの検討 都市研究センター 研究員 秋元 泉 1. はじめに 2001年の首都圏分譲マンションの年間供 給戸数をみると9万戸弱もあり、ここ数年大量 供給が続いている。しかしながら、少子高齢化、 さ)等を求める、DINKSやシングル・ユーザー えきちか が多い。特に都心5区の駅近 物件のようなマ ンションでは、その傾向はより強まる。 これらの購入者層は、交通手段に困らなく 先行き不安感やライフスタイルの多様化(賃 なるため、自家用車を持たない人が多い。自 貸志向等)等により今後も分譲マンションの供 動車を趣味的に保有したい人は当然別だが、 給数が維持できるのかといったことには不安 自動車を単に移動手段、荷物運搬手段としか が過ぎる。であるならば、供給数を調整すれ 考えていない人には、高い駐車場代を払って ばよいではないかということになる。まさしくそ まで都心部において自動車を保有する意思は の通りなのだが、我が国のデベロッパー(不動 薄いようである。加えて、これらの顧客は、仕 産会社)の中にはマンション分譲業に依存して 事を重視している傾向が強いので、余暇で自 いる会社が少なくない。そこでデベロッパー各 動車を使う時間が大幅に制限されているし、 社は、分譲する商品(マンション)に何がしか 通勤で自動車を使うにしても、所要時間が渋 の付加価値を与えて、市場の限られた顧客を 滞等により電車の方が大幅に短かったりもす 獲得していかなくてはならない。今回はその1 る。しかしながら、彼らが自動車を全く必要とし つのメニューとして、カーシェアリング(自家用 ない訳ではない。週末の近場への小旅行、ロ 車の共同所有)方式がマンション購入時に予 ードサイド店への買い物、荷物の運搬、緊急 め導入されている商品を検討してみた。 時等々がそれにあたる。したがって、彼らは都 また、カーシェアリングの効用として、全国 合よく必要な時にはすぐ使用できるが、自動 的に普及した場合には、交通渋滞の緩和、二 車にコストはかけたくということが実現できれ 酸化炭素排出量の削減等の環境面での貢献 ばよいということになる。 も期待できるかもしれない。 マンション分譲デベロッパーとして、マンショ ンを計画する上で、自動車の駐車場スペース 2. 背景 現在の分譲マンションの動向としては、地 の確保は頭を悩ませる1つである。仮にマンシ ョン内の全世帯がカーシェアリングをしていれ 価下落、企業のリストラ策による寮・社宅用地 ば、10世帯程度に対して1台の駐車場でたり、 の売却、不良債権処理等によって、都心回帰 通常の分譲マンションでは世帯数の50%〜9 が進んでいる。 0%必要なことを考えるとかなりの軽減となり これらの物件の購入者層は、緑や閑静さを 建物自体の設計自由度が増す。 求めるのではなく、交通手段(電車・バス)の すなわちカーシェアリングは、購入者側、供 充実、周辺施設の充実、勤務地との距離(近 給者側双方にとって、メリットがあると考えられ る。 家庭内に限った二酸化炭素の排出割合で乗 用車の利用が約4割を占めていると言われて 3. カーシェアリングの概要 遅ればせながらカーシェアリングとは何か について説明する。 おり、この乗用車の利用を減らしていくため、 路面電車の復活、レーン規制、パーク・アン ド・ライドなど様々な方策が議論され始めてお 一般的なカーシェアリングとは、公共手段の り、パーク・アンド・ライドの実験や路面電車に 整った都市において、自分の車を持たずに必 おいての超低床車両の導入を進めている都 要なときに使用目的にあった車を自家用車と 市もある。こういった状況下において、カーシ 同じように手軽に共同利用する会員制のシス ェアリングも寄与できる可能性を持っている。 テムである。1980年代後半に交通問題の解 消と環境保全運動の一環としてスイスで考案 され、1990年代に入ってから欧州において 4. モデルの検討 それでは、新築分譲マンションにおけるカー 急速に普及してきている。現在では、スイス及 シェアリング導入を検討する。 びドイツ全域のほか、オランダやオーストリア (1)前提となるしくみ などの主要都市で実施されていて、欧州の このしくみの前提は、新築分譲マンションの 450以上の都市で15万人が利用している。 購入者全員がカーシェアリングを利用するこ また、英国、イタリア、スウェーデンなどでも展 ととなり、全ての費用は管理費によって賄わ 開の兆しが見られ、欧州以外でも米国、カナ れる。また、利用規則等は管理規約に謳われ ダ、シンガポールなどで試験的なものも含め る。よって、管理組合発足後に管理規約を変 て実施されている。自動車普及率が欧米並み 更しない限りは、脱退できない。自家用車を の日本でも横浜市で実証実験が実施されたり、 保有するのはもちろん自由だが、購入した建 交通エコロジー・モビリティ財団が、北区王子 物の敷地内にマイカー用の駐車場はない。 の民間分譲マンションや三鷹市の公団賃貸団 地において社会実験をおこなっている。 新築分譲マンションでなければならない理 由としては、中古のマンションにおいても理論 欧州における一般的なしくみとしては、レン 上、導入可能ではあるが、既住民の意思統 タカーとほぼ同じであるが、車が配備されてい 一の難しさによる管理規約変更の不可、敷地 るステーションが近くにあり(注:ステーション 内の既存駐車場台数とのアンバランス化等 の近くに住む人が会員になっている。)、24時 により、現実的には難しいといわざるを得な 間いつでも利用でき、手続きが簡単といった い。 特徴がある。所有形態は、民間企業が車を保 (2)契約の主体 有し、利用者は会員となって利用する方式と 契約主体は購入者へ引渡し後に発足され なっている。今回の検討は、このしくみをマン る[マンション管理組]が妥当と考えられる。購 ション一棟または一団地の管理組合を1つの 入者自身が(自動車所有の)主体となると[個 単位としてカーシェアリングを導入することを 人]が自動車を所有することになり、マンション 考えてみた。次章にて報告する。 の所有権が移転したり、賃貸借をした場合等、 また、地球温暖化防止の観点から言えば、 極めて煩雑となってしまうので、現実的ではな い。 しかしながら、法律行為をするのであるか 合わせ販売拘束 一般指定 10 号)となる可能 性が高いため、慎重におこなう必要がある。 ら、管理組合は法人化しておく必要がある。 その際、管理組合が法人化するには区分 所有者が最低30人いなければならないこと に注意が必要である。(緩和の方向にて法改 正が検討されている。) 購入 VS リース 比較 対象車:トヨタ・プリウス 約260万円(諸費用込) (3)自動車の所有形態 /1 台当たり カーシェアリングの自動車の所有形態は、 購入とリースの2通りが考えられる。 、購入の場合、イニシャルコスト(車体購入 月々支払い 購 入 リース 5年ローン (4%/年) 期間 3 年 94,000 円 65,000 円 費)が発生する。その場合、購入者はマンショ ンの購入費に加えて更なる負担を強いなけれ 上記の費用を10世帯でシェアすると ばならなくなり、現時的ではない。したがって、 購 入で 9,400 円/月・世帯 購入の場合、管理組合がローンを組んで購入 リースで 6,500 円/月・世帯 することになるが、連帯保証人が必要というこ の管理費による費用負担となる。 とになるとやはり煩雑になってしまう。リースの 場合には、イニシャルコストは発生せず、管理 組合がリース契約を結ぶが、連帯保証を求め (4)利用方法 られる可能性は比較して低い。何故ならば、 24時間インターネット(i−mode、EZ−we デフォルトした時点でリース対象物(自動車) b等を含む)による申込みとする。申込みをす を没収すれば済むからである。リースはもとも ると暗証番号が配布され、その番号にて、エ と3年後のリース対象物の残存価値を予め差 ントランス内側に設置のキーボックスが開き、 し引いてリース料を算出しているが、それに対 キーを手に入れる。キーボックスが開いたと してローンの場合、支払いペースと残存価値 きから利用時間の計測が始まる。 がリンクしていない。 費用的には、長く乗れば乗るほど購入した 方が生涯コストは安くなるが、リースなら3年 (5)諸条件 ① 対象車種 毎に新車に変えられるし、その際、管理組合 特に限定するものではないが、環境を において好みの車を選択することもできる。共 考慮したハイブリッド・カーが良いのではな 同利用という前提を考えるとあまり古くなった かろうか。 車を利用するのはあまり好ましくないかもしれ ② 利用料金 ない。 加えて、購入の場合には、マンションとの抱 き合わせ販売(独占禁止法2条9項2号抱き [1時間200円+20円/km]程度。 ③ 所有台数 10世帯に1台。 50世帯のマンションで5台所有を想定。 おり、駐車場が駅より遠い場所にあるた 注 以上はエコモ財団の社会実験を参考に ○ め、車を利用するといった選択は最後の した。(http://www.ecomo.or.jp/) (6)問題点 ① ニーズの集中 手段となり、ほとんど乗らなくなってしまっ た。 こんな筆者が「カーシェアリングが導入 自動車の利用希望日時は大抵は集 されたマンションがあればいいなあ。」と思 中する。特に集中するのが、年末年始、 ったのが、今回の検討の動機である。こ 夏休み(お盆)、年末年始、ゴールデン のように思うのは筆者だけではないと思う ウィークだろう。対応策としては、この時 のだが、いかがなものだろうか。 期は抽選とし、外れた人が次回以降優 先権があるようにする方法がある。 加えて、外れた人のためにレンタカーを 用意する。その費用は管理組合が前も ってプールしておく必要がある。 ② 破損等の確認 大きな事故などの場合は明白だが、 小さな凹みや傷、内装の汚れ等は、加 害者が自己申告せず、次の利用者が気 付かずにいると、誰が加害者かわから なくなってしまう。加害者本人が気付い てない場合もあると思われる。これにつ いては、お互いを信頼しあって善管注意 義務を怠らずに利用するしかないと思う。 利用前、利用後に点検する習慣を徹底 させるのも一つの方法かもしれない。 5. 最後に 筆者自身、学生時代には毎日、車を乗 り回し(1000km/月程度)ていたが、社 会人となることによって乗る時間が減って 入ったが、それでも、当初は実家に住んで いて、駐車場が家にあり、最寄駅までや や遠かったので、通勤以外の外出はすべ て車だった。ところが最近、23区内の最 寄駅徒歩4分程度のマンションに住んで 以上
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