大成建設技術センター報 第 45 号(2012) 工事船舶運航支援システム「船ナビ」の開発 羽角 華奈子*1・伊藤 一教*1・織田 幸伸*1・清水 正巳*2 Keywords : shipping scheduling,weather routing, optimal path finding, barge, refuge port 運航管理,ウェザールーティング,最適経路探索,工事船舶,避泊地 はじめに 1. そこで,安全性確保と効率化の両立を目指し,ウェ ザールーティングを工事船舶に適用し,工事船舶向け 海運分野では,安全性確保および燃料削減とそれに 伴う CO2 排出量削減を目的に,最適航路を探索するウ の 2 つの技術①工事船舶運航シミュレーション技術 ②工事船舶運行支援システム 3) 2) , を開発した。①の工事 ェザールーティングと呼ばれる技術が開発されている。 船舶運航シミュレーション技術は,施工計画時に,工 ウェザールーティングでは,大洋を横断するような長 事区域を対象として,過去の衛星データを用いた気 距離航海において,海流の経路を予測し,海流を利用 象・海象場を解析し,その結果を用いて船舶の運航シ して運航効率を向上させたり,気象・海象予報データ ミュレーションを行う技術である。この技術によって, を用いて,気象・海象の悪化領域を避けて運航するこ 稼働率の季節変動を考慮した工程の組立てが可能とな とで安全性を確保したりすることが可能となる。ウェ る。また,船団のパターンを変化させたシミュレーシ ザールーティングは 1950 年代に初歩的なサービスが開 ョンを実施することで,高効率な船団を検討すること 始された。当初は気象・海象の予測精度が不十分であ が可能となる。②の工事船舶運行支援システムは,推 ったが,その後の国際規模の観測,衛星データの利用, 奨ルートを配信するシステムである。気象・海象予報 コンピュータ技術の急速な発展に伴い,効果的なウェ を利用し,船舶の現在位置情報を GPS により取得した ザールーティングが可能となってきた。現在では海運 上で,次に進路をとるべき港を探索し,推奨ルートを 業の高効率化・安全性の向上に役立っており,国内の 各船舶に配信する。従来は,各船舶の船長が経験的判 コンテナ船についてはほとんどがウェザールーティン 断により運航を計画しており,判断のばらつきが大き グサービスを活用している 1) 。また近年では,陸運と く,工程管理が難しいという課題があった。本技術に 合わせた上で,最も燃料効率の高い経路を探索し推奨 より,一定の基準による判断が可能となり,安全性を 経路を配信する等,様々な改良がなされている。 確保した上で運航の効率化を図ることが可能となる。 海洋工事においても,離島や海外に着目すれば,工 これら二つの技術は,効率化を図るために,気象・海 事用資材を現地調達できず,船舶による長距離・大量 象悪化時の避泊地を設定することとした。避泊地を利 運搬が必要となる場合があり,このウェザールーティ 用すれば,気象・海象の良好な時間が短期間でも,そ ングを活用できる。これまでは,運航管理を各船舶の の間に可能な限り前進することが可能となり,効率化 船長の判断に任せることになり見通しを立てるのが難 を達成できると考えられる。 しく,また,工事状況により運航調整が必要なため, 次章より,これらの新たな技術を報告し,また,ケ 運航管理が難しかった.さらに,施工計画の段階にお ーススタディによって本技術の有用性を評価した結果 いても,工事船舶の傭船数,各船舶の運搬能力,積 を示す。 込・積下設備の数等の設定方法が実務上の課題となっ 工事船舶運航シミュレーション技術 ていた。 2. *1 *2 2.1 技術の概要 技術センター 土木技術研究所 水域・環境研究室 土木本部 土木技術部 ここでは,施工計画等に利用する工事船舶運行シミ 62-1 大成建設技術センター報 第 45 号(2012) ュレーション技術について概要を示す。既存の海運分 を想定し,過去の気象衛星データを用いた気象・海象 野のウェザールーティングは,大洋を横断する航路で 解析を実施した。解析には第 5 世代 NCAR/Penn State 避泊地を考慮していないが,今回は海洋工事を対象と メ ソ ス ケ ー ル モ デ ル MM54) と 沿 岸 波 浪 推 算 モ デ ル するため,積込港と積下港の途中に島等があり,気 SWAN5)を用いた。ここで得られた気象・海象条件をも 象・海象悪化時には避泊できるケースを考える。途中 とに,各船舶の最適経路の探索を行う。 に避難地を設け,気象・海象の変化を考慮しながら船 最適経路は図-1 に示すフローに従って探索する。気 舶を可能な限り前進させることで,より短い期間で大 象・海象予報データを入力し,まず,1 番目の船舶に 量の資材運搬が達成できると考えられる。施工計画時 対し,データベースにある全ての経路パターンについ には,重要なパラメータである船舶数,各船舶の運搬 て,所要時間を計算する。この際,避泊地数が増える 量,船速,航行可能限界波高,避泊地(避難港),積 につれ積込港から積下港までの選択可能な経路パター 込・積下の作業時間および作業の開始・終了時刻を考 ン数 m は次式のように階乗で増加する。 慮した上で,出港可否判断を含めた最適経路を探索し, 各船舶の運航を工事予定地域でシミュレーションする m 1 ことで,運航計画の最適化が可能となる。 i n n! ( n i )! i 1 (1) ここでは,観測データのない地域を対象とした場合 ただし,n:港および避泊地の数の総和とする。 例えば,避泊地が 10 ある場合,積込港,積下港と合 Start わせて n=12 となるから,m=9864101 通りとなり,この 気象・海象 データ 経路パターンの全てについて,各船舶の気象・海象悪 化による待機時間も含めた所要時間を計算すると,計 経路探索する船舶を選択 算負荷が非常に大きく,計算終了までの時間が膨大に なる。一方で,実際にはこの経路パターンの中には, データベースから所要時間 を計算する経路を選択 目的港と逆方向に進む非現実的な経路も含まれる。そ こで,各経路パターンの総延長をもとに,事前に,非 1時間毎に船舶の 位置とその場の海 象・気象を確認 現実的な経路パターンを取り除き,現実的な経路パタ 停泊地で1時間待機 ーンをデータベース化することで,経路探索時間の短 不良 縮した。 良好 次の避泊地での船 舶の混雑度を確認 各経路の所要時間は,船速や積載量を考慮し,効率 のよい船舶から順に計算する。途中,気象・海象悪化 空きなし で航行できない時は,気象・海象が良好になり次の避 泊地に到達できるまで避泊地で待機させる。そして, 空きあり 待機時間を考慮した上で,最短時間で積込港/積下港に 所要時間を決定 到達できる経路を最適経路とする。次に,2 番目に効 率の良い船舶に対しても,同様に所要時間を計算する No 全ての経路の所要 時間計算が終了 が,その際には,各避泊地について他の船舶との重複 (避泊地の混雑度)を確認し,避泊地の停泊可能隻数 Yes を超える場合は,空きが出るまで前の避泊地で待機さ 最適経路を決定 せる。全ての待機時間を考慮した上で最短となった経 No 路を最適経路とする。以降の船舶に対しても同様の探 全ての船舶につい ての探索が終了 索を繰り返すことで,各船舶の最適経路を探索できる。 以上のようにして,各船舶に積込港から積下港まで Yes End Fig.1 の往路/復路毎に最適経路を探索し,工期中の工事区 図-1 最適経路探索のフロー図 Process flow diagram of searching optimal route for carrying barges 域におけるシミュレーションを行う。本技術を用いて, 稼働率の算定や,船団の最適な組み合わせ,最適な避 泊地の配置等を検討することが可能となる。 62-2 大成建設技術センター報 第 45 号(2012) 2.2 工事船舶運航シミュレーション技術を適用したケ 表-1 ーススタディ 船舶の諸元 Table 1 Specifications of carring barges 2.2.1 ケーススタディの設定 (1) ケーススタディ 1-1~費用対効果の高い傭船数~ 今回開発した工事船舶運航シミュレーション技術を 用いて土砂運搬を対象とした 1 年間のシミュレーショ ンを実施した。本技術は主に長距離運搬を対象として いるため,一般的な海洋工事よりも資材の積込港と積 下港が遠方にある場合を想定する。そこで図-2 に示す ような積込港と積下港が 571km 離れており,避泊地は 13 港とした。また各避泊地に停泊できる船舶数は 3 隻 とし,積込港および積下港の待機場所では,すべての 船舶が停泊できるとした。また,仮想的な気象・海象 船速(往路) 船速(復路) 積載量[m3] 作業時間 航行可能限界波高[m] 航行可能限界風速[m/s] 作業可能時間 7 ノット 9 ノット 2000 3 時間 2.0 15 8:00-18:00 条件を作成するため,任意の領域における過去の NCEP データを用いた気象・海象解析を実施したとこ ろ,領域全体の有義波高を標本としたときに図-3 に示 す頻度分布となった。また,図-2 に△で示す地点の波 高および風速の時系列を図-4 に示した。春季から夏季 571km は気象・海象が良好であったが,8 月から台風が来襲 し,また,冬季は北西の季節風が卓越している。 今回の設定の下で,費用対効果が高い傭船数を調べ るため,傭船数のみを変化させ,1 年間の総運搬量の ○:積み込み港 ●:積み下ろし港 ■:避泊地 変化を調べた。船舶の船速等の諸元は表-1 に示す通り とし,1 年間の運航シミュレーションを実施した。こ 図-2 避泊地の位置設定 Schematic of the configuration of ports and refuge ports Fig.2 こで,「作業時間」とは,積み込み作業及び積み下ろし 作業に要する時間であり,また,「作業可能時間」とは, 風速階級 [ m/s ] 10.0 15.0 5.0 15.0 積み込み・積み下ろし作業を実施可能な時間帯とし, 20.0 25.0以上 (2) ケーススタディ 1-2~経験的運航方法との比較~ 頻度(%) 波高 10.0 深夜・早朝は作業を停止し,待機するものとした。 本技術の有効性を確認するため,各船舶の船長の判 風速(上軸) 断で運航した場合と本技術を用いた場合の運搬量を比 較した。ここで,船長が判断する従来の手法をモデル 5.0 化するため,複数の船長にヒアリングを行った。その 結果,次のことが分かった。 0.0 Fig.3 1.0 2.0 3.0 波高階級 [ m ] 4.0 5.0以上 ・出港可否判断および進路,船速等の運航管理は船長 が行う。 図-3 風と波の頻度分布 Histogram of wave height and wind velocity ・海上でも気象・海象予報情報取得可能。 ・天気予報(気象,波浪)により,出港後,目的港ま での全海域の天気が良好でなければ出港しない。 有義波高 [ m ] 10 7.5 5.0 2.5 0 30 15 0 -15 -30 01/01 1/1 ・安全を優先し,出港後に海況悪化のため,帰港する 場合もある。 以上を「経験的運航方法」としてモデル化した。各 風速 [ m/s ] (a) 有義波高 船長の経験的判断をモデル化することは非常に困難で 日付 あるため,今回のモデル化は複数の船長の共通した項 目のみに限り,船長の個々の経験的判断基準は各船舶 3/1 03/01 4/30 04/30 6/29 日付 06/29 8/28 08/28 10/27 10/27 12/26 12/26 なした。 (b) 風速(―東西風速,―南北風速) Fig.4 の航行限界波高,航行限界風速の設定に含むものとみ 本ケーススタディでは,基本船団として 6 隻の船舶 図-4 気象・海象条件時系列 Time series of wave height and of wind velocity を表-1 に示す諸元で設定し,積載量のみ 1100m3 が 2 隻, 62-3 大成建設技術センター報 第 45 号(2012) 2000m3 が 2 隻,3000m3 で 2 隻とした。港は図-2 に示し よって,今回開発したシミュレーション技術の適用に たケーススタディ 1-1 と同じ位置に設定し,気象・海 よる効率化の度合いは運搬距離が長い程大きくなると 象条件についてもケーススタディ 1-1 と同一の領域に 考えられる。そこで,運搬距離と本技術による効率化 ついて過去の NCEP データを用いた解析を行い,領域 との関係を調べるため,図-7 に示すように,積込港を 全体として図-5 に示す頻度分布を持ち,△で示す位置 ①~⑤に設置し,運搬距離を 571km,468km,366km, の波高・風速時系列が図-6 のようになる気象・海象条 264km,172km の 5 通りについて,1 年間の運航シミュ 件を与え,1 年間の運航シミュレーションを実施した。 レーションを行った。ここで,避泊地は,積込港①~ (3) ケーススタディ 1-3~運搬距離と効率化~ ⑤と積下港の間にある港とし,運搬距離が 571km では 運搬距離が長い程,船舶が海上にいる時間が長期化 13 港,468km,366km,264km では 6 港,172km では 4 するため,気象・海象の影響が増大すると考えられる。 港とした。気象・海象条件は図-3,4 に示したケースス タディ 1-1 と同一の条件とした。船舶の諸元はケース スタディ 1-1 と同じ表-1 に示すものとし,経験的運航 風速階級 [ m/s ] 5.0 10.0 方法を適用した場合の運搬量との比較を行い,運航シ 20.0 25.0以上 15.0 ミュレーション技術を適用した場合の効率化の度合い 10.0 波高 が運搬距離によってどう変化するかを調べた。 風速(上軸) 2.2.2 ケーススタディの結果 船舶の隻数を増加させ,1 年間の総運搬量の変化を 調べた。その結果を図-8 に示した。図より,傭船数を 0.0 1.0 2.0 3.0 波高階級 [ m ] 4.0 増やしても年間総運搬量は頭打ちになることがわかる。 5.0以上 これは,単純に傭船数を増加しても,積み込み及び積 図-5 風波の頻度分布 Histogram of wave height and of wind velocity used in case-study No.1-2 み下ろし設備の数は限られており,待機船舶が増すだ けで効率的な運搬ができないことを示す。このことか ら,費用対効果の最も高い傭船数を検討するため,待 機時間がゼロの場合に 1 隻の船舶が 1 年間に往復出来 有義波高 [ m ] 10 7.5 5.0 2.5 0 30 15 0 -15 -30 01/01 1/1 る回数に対し,50%以上の運搬回数を確保できた船舶 の数(効率的に稼働している船舶の割合)を調べた結 果を図-8 に示す。 風速 [ m/s ] (a) 有義波高 効率的に稼働している船舶の割合に着目すれば,傭 日付 船数が約 16 隻以上から低下しており,傭船数 16 隻の 03/01 3/1 04/30 4/30 06/29 6/29 日付 08/28 8/28 10/27 10/27 12/26 12/26 (b) 風速(―東西風速,―南北風速) Fig.6 図-6 気象・海象条件時系列 Time series of wave height and of wind velocity used in case-study No.1-2 ③ ② ① 100 2,250,000 90 2,000,000 80 1,750,000 70 1,500,000 60 1,250,000 50 1,000,000 40 750,000 30 500,000 20 総運搬量(左軸) 有効に稼働している船舶の割合(右軸) 250,000 10 0 172km ⑤ ④ 264km 366km 468km 0 0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 傭船数 図-8 傭船数と 1 年間の総運搬量および有効に稼働している 船舶の割合 Fig.8 Relationship between the number of barges and one-year total load (blue squares) and between the number of barges and the rate of barges effetictively opperated (red squares) 571km Fig.7 2,500,000 有効に稼働している船舶の割合[%] Fig.5 ケーススタディ 1-1~費用対効果の高い傭船数~ (1) 5.0 1年間の総運搬量 [ m3 ] 頻度(%) 15.0 図-7 積込港と避泊地の位置 Schematic of the configurations of loading ports 62-4 大成建設技術センター報 第 45 号(2012) 場合に待機船数が低く費用対効果が最適化されること 1,500,000 1,500,000 30 30 1,300,000 1,300,000 25 25 1,100,000 1,100,000 20 20 とがわかる。 ケーススタディ 1-2~経験的運航方法との比較~ (2) 現実的な船団および作業条件(表-1)の下, 1 年間の 土砂運搬量について,経験的運航方法を適用した場合 と本技術による最適経路を採用した場合を比較し,そ の結果をを図-9 に示す。経験的運航方法の場合,年間 総運搬量 [ m3 ] 費用対効果を施工計画の段階で定量的に評価できるこ 15 15 900,000 900,000 総運搬量(本技術) 総運搬量(経験的運航) 運搬増量%(右軸) 700,000 700,000 5 5 500,000 500,000 300,000 300,000 総運搬量が 460,000m3 に対し,本技術を適用した場合 0 100 100 なくなり,このケースでは約 29%運搬量が増加した。 気象・海象条件を別の年のデータから作成し,気象・ 海象条件を変えた 7 ケースを実施したところ,平均で 200 200 300 300 400 400 500 500 00 600 600 運搬距離 [ km ] は,594,800m3 であった。この結果より,本技術を適用 することで経験的運航可否判断に含まれる不確実さが 10 10 運搬増量 [ % ] がわかった。この結果より,本技術を用いることで, 図-11 運搬距離と総運搬量及び稼働率の関係 Fig.11 Relationship between transport distance and total load ( red:this technique, blue:empirical), and operating rate を図-10 に示した。稼働率には大きな季節変化があり, 21%の増量を確保でき,本技術の有効性が確認された。 今回仮想的に用いた気象・海象条件では冬に季節風が また,気象・海象を考慮しない場合と気象・海象を考 強いため 12 月の稼働率が最も低く,23%であった。一 慮した場合の運搬量の比を稼働率とし,その季節変化 方で,稼働率の最も高い 5 月は 80%を超えており,年 間を通しての平均稼働率は 53%であった。このことか 700,000 700,000 経験的運航方法 本技術を用いた場合 総運搬量 [m3] 600,000 600,000 ら,施工計画の際には工事区域の季節特性の把握が重 要であることがわかった。 500,000 500,000 (3) ケーススタディ 1-3 ~運搬距離と効率化~ 400,000 400,000 運搬距離の影響を検討するため,ケーススタディ 1-2 300,000 300,000 と同一の現実的な船団および作業条件(表-1)の下, 200,000 200,000 異なる 5 ケースの運搬距離 571km,468km,366km, 100,000 100,000 264km,172km を設定し,1 年間の運航シミュレーショ 00 1 2 3 4 5 6 7 8 9 ンを行った。その結果,年間総運搬量は図-11 に示す通 10 11 12 月 りになった。図-11 によると,本シミュレーション技術 図-9 本技術を用いた場合と経験的運航方法を用いた場合に よる 1 年間の運搬量の比較 Fig.9 Comparison of one-year total load between using this teshnique and using the empirical method を用いた場合の運搬量は全て経験的運航方法を適用し た場合を上回っており,本技術を適用することで運搬 増量が確保できることがわかった。 160,000 160,000 0.9 0.9 366km の場合を除き,運搬距離が増加するのに伴い増 140,000 140,000 0.8 0.8 加しており,172 ㎞では 4%であったのに対し,571 ㎞ 120,000 120,000 0.7 0.7 で は 27 %の運 搬 効 率 化を 見 積 も るこ と が で きた 。 100,000 100,000 0.6 0.6 366km では 264km に比べ効率化が減少しているが,こ 80,000 80,000 0.5 0.5 60,000 60,000 0.4 0.4 40,000 40,000 気象・海象を考慮 1年を通して気象・海象が良好 稼働率 20,000 20,000 00 11 22 33 44 55 66 77 88 99 稼働率 月別運搬量 [m3] 本技術による効率化の度合いをみると,運搬距離が れは今回の設定では避泊地数は運搬距離と比例せず, また避泊地の位置も同一であったため,単純に効率化 の度合いと距離の関係が単調増加ではなかったと考え 0.3 0.3 られる。 0.2 0.2 2.2.3 結果のまとめ 0.1 0.1 10 11 11 12 12 10 本技術を用い,3 つのケーススタディを実施し,次 月 のことが確認された。 図-10 月別運搬量と稼働率の季節変化 Fig.10 Seasonal variation of total load and operating rate ・本技術は最も効率的な船団構成の検討に用いること ができる。 62-5 大成建設技術センター報 第 45 号(2012) ・稼働率は気象・海象の影響を強く受け,大きな季節 Start 変動があるが,本技術を用いることで,施工計画時 気象・海象データ読み込み にこれを考慮した計画が可能となる。 ・これまでの船長による経験的運航方法をモデル化し, 船舶位置情報データ読み込み 本技術を適用した場合とを比較したところ,1 年間 船舶を分類 で 20%の運搬増量を確保できることがわかり,本技 ①現在海上にいる,かつ,避泊地候補なし ②現在海上にいる,かつ,避泊地候補1つ ③現在海上にいる,かつ,避泊地候補複数 ④現在港にいる,かつ,避泊地候補なし ⑤現在港にいる,かつ,避泊地候補1つ ⑥現在港にいる,かつ,避泊地候補複数 術の有効性が確認された。 ・運搬距離の長距離化に伴い,気象・海象の影響も強 くなり,概ね運搬距離が長くなるにつれ,本技術に よる効率化の度合いも増加する。 以上のことから,本技術の有効性が確認され,また ①リスク最小の避泊地を推奨 本技術の利用可能性が示された。 ②避泊地候補を推奨 3. ④現在いる港で待機 工事船舶運航支援システム ⑤ 避泊地候補の混雑度を調べ 限度内なら推奨,オーバーなら, 現在いる港で待機 3.1 技術の概要 本システムは,図-12 に示すように GPS 等で各船舶 危 険 度 ③⑥ 次の条件で優先順位を決め その順番で避泊地を決定。 条件1:海上にいる船舶 条件2:復路にいる船舶 条件3:積載量の大きい船舶 条件4:船速の大きい船舶 の位置情報を毎正時受信し,それを基に,気象・海象 情報,船舶数,運搬量,船速,航行可能限界波高,避 泊地,積込・積下の作業時間および作業の開始・終了 時刻を考慮した上で,出港可否判断,待機時間を含め, 次に目指すべき最適な避泊港を探索し,その結果を推 End 奨避泊地として各船舶に配信することを目的としてい る。なお,ここでは 72 時間予報を用いるものとした。 最適避泊地は,安全性を重視した図-13 に示すフローに Fig.13 図-13 推奨目的港決定のフロー図 Peocess flow diagram of searching optimal refuge port for carrying barges 基づき決定する。 まず,気象情報サービス事業者の気象・海象予報と 1.0 舶を危険度に応じて 6 パターンに分類し,危険度の高 い船舶から優先的に推奨目的港を決定する。位置情報 を受信した時点で,既に船舶が気象・海象が悪化して いる海上にいる場合は,図-13 の①に分類されるもの とする。①に分類された場合,図-14 に示すリスク関 リスク R 船舶から送信される位置情報を読み込む。そして,船 0.8 0.6 0.4 0.2 0.0 H1 H2 有義波高 [ m ] 図-14 リスク関数の一例 Fig.14 An example of risk function 数を導入し,経路上で時間積分したリスク関数値が最 小となる港を避泊地として推奨することとした。次に, 図-13 の②に分類された船舶には唯一の避泊地候補を 推奨する。現在港内にいて,気象・海象を考慮すると 予報時間内にどの避泊地にも到達できない④の場合は, 気象庁 website より そのまま待機するとした。そして,⑤に分類された船 舶については,避泊地候補の停泊可能隻数を確認し, Fig.12 停泊船舶数が限度内であれば,避泊地候補を推奨し, 図-12 運航システム模式図 Schematic of the carring barges operating system 避泊地候補が他の船舶でふさがっている場合は,その 62-6 大成建設技術センター報 第 45 号(2012) まま現在いる避泊地にて待機させる。最後に,③と⑥ 増加するとした。過大評価時の効率低下を評価するた に分類された船舶は条件 1 から 4 の順に避泊地選定の め,ここでは,想定誤差として,波高の誤差は 72 時間 優先順位を決定した。まず,安全面から,海上にいる 後に+1m,風速は+5m/s とした。 船舶について優先的に避泊地を選定し,次に効率化の 4.0 4.0 ため,条件 2 から 4 の順に優先順位を決定した。 各船舶について,目的地及び避泊地のうち,安全に到 達し得る中で最も目的地に近い場所を避泊地として推 奨することで,可能な限り前進させるものとしている。 波高 [ m ] このように,本システムでは,効率化を図るため, 2.0 2.0 1.0 1.0 0.0 0.0 その他にも,次の点を考慮し,システムを開発した。 誤差の増加 3.0 3.0 6時間毎に予報更新 00 50 50 ・避泊地に停泊中の船舶は,気象・海象が良好になる までの待機時間も考慮した上で次に向かう避泊地候 補を探索する。よって,従来は各船長が経験的に出 Fig.15 真の値 100 150 100 150 時間 [ hour ] 予報値 200 200 250 250 図-15 誤差の設定の模式図 Schematic of the setting of forecast error 港の可否判断を行っていたが,本システムにより, (2) ケーススタディ 2-2~経験的運航方法との比較~ 機械的に判断出来る。 ・各避泊地の最大停泊可能隻数を設定し,各港の混雑 本システムの有効性を確認するため,従来通りに各 船舶の船長の判断で運航した場合と本システムを用い 度を考慮した上で,利用可否を判定する。 ・積込港および積下港では,同時に作業可能な船舶数 た場合の運搬量を比較した。ここで,船長が判断する を任意に設定できるようにし,それ以外の船舶は積 従来の手法は,ケーススタディ 1-2 と同一のモデルを 込港および積下港で待機する。 用いた。また,船舶の諸元についてもケーススタディ ・作業可能時間帯を決め,それ以外の時間帯は作業港 港・積下港,及び避泊地を設定し,新たに作成した平 で待機する。 3.2 1-2 と同一の条件とした。ケーススタディ 1 と同じ積込 工事船舶運航支援システムを適用したケーススタ 年並みの気象・海象条件を与え,1 年間の運航シミュ レーションを実施した。 ディ 3.2.2 ケーススタディの結果 3.2.1 ケーススタディの設定 今回開発した工事船舶運航システムを用いて土砂運 搬を対象とした 1 年間のシミュレーションを実施した。 (1) ケーススタディ 2-1~予報誤差の影響評価~ 予報誤差の影響を調べた結果,月別運搬回数は図-16 積込港と積下港については,ケーススタディ 1-1 と同 のように変化した。波の高い冬には誤差による運搬回 一の図-4 に示す位置に設定した。積込港及び積下港で 数への影響は小さいが夏季には影響が大きくなること は,1 隻のみが作業できるとし,他の船舶は待機させ がわかる。最終的に 1 年間の総運搬量を比較した結果 る。また,各避泊地の停泊可能隻数の上限は 3 隻とし, を表-2 に示す。ここには,予報が正確だった場合に対 し,予報が過大だった場合の運行回数の年間低減率を 積込港および積下港の待機場所では,停泊隻数は上限 なしとした。船舶の船速等の諸元は表-1 に示す通りで 示した。風速よりも波浪場の方が誤差による影響が大 きく,経路決定に支配的であることが分かる。ケース (1) ケーススタディ2-1~予報誤差の影響評価~ 本システムにおいて,気象・海象予報は重要な役割 を果たす。今回は気象・海象予報の代わりに,ケース スタディ 1-1(ケース1とする)及びケーススタディ 12(ケース 2 とする)と同一気象・海象条件を設定し,時 系列を与えた。船舶を 6 隻とし,全ての船舶が本シス テムの推奨通りの運航を行った場合の 1 年間のシミュ レーションを実施した。図-15 に示すように気象・海象 40 月別運搬回数 [ 回 ] ある。 35 0.0m 30 誤差+1.0m 25 20 15 10 5 0 1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月 11月 12月 予報は 6 時間毎に 72 時間分配信されるとし,6 時間毎 の解析開始時刻からの経過時間に比例して予報誤差が 62-7 Fig.16 図-16 月別運搬回数(ケース 1) Monthly total number of transporting of case study No.1 (red: no error, blue: wave height has up to 1m error) 大成建設技術センター報 第 45 号(2012) 表-2 予測誤差の影響 Table 2 The effect of forecast errors 波浪 1m 過大評価 -10.7 % -14.7 % ケース 1 2 性を確保した上で,気象・海象悪化時には避泊地を利 用し,可能な限り前進させることで,効率化を図る。 また,ケーススタディを通し,本技術について,次 風速 5m/s 過大評価 -2.9 % -0.6 % の事項を評価・確認した。 ・波浪と風速では,波浪場の方が本システムに与え る影響が大きい。今回のケーススタディでは,解析 72 時間後の予報誤差 1m とした場合,1 年間の運搬 700,000 700,000 回数が約 15%減少した。 総運搬量 [m3] 600,000 600,000 ・従来の経験的運航方法をモデル化し,本システムを 500,000 500,000 適用した場合と比較したところ,今回の設定では本 400,000 400,000 システムを用いることで 22%の運搬量増加が確保で 300,000 300,000 きた。上述の予報誤差を考慮しても,7%の運搬量増 200,000 200,000 経験的運航 運航システムを用いた場合 100,000 100,000 00 11 22 33 44 55 66 月 77 88 99 10 10 11 11 加を確保できることがわかった。 12 12 4. まとめ 図-17 本技術を用いた場合と経験的運航方法を用いた場合 Fig.17 による 1 年間の運搬量の比較 Comparison of one-year total loads using this operating system and using the empirical method 今回,安全性確保と費用を含めた効率化の両立を目 指し,ウェザールーティングを工事船舶に適用し,工 事船舶向けの 2 つの技術「工事船舶運航シミュレーシ 1,2 を比較すると,ケース 2 の方が波浪場の影響を大 ョン技術」と「工事船舶運行支援システム」を開発し きく受けている.図-3 と図-5 を比較すると,ケース 2 た。これらの技術によって,施工計画時に,季節変動, の方が波高 1~2m の頻度が高いことが分かる.今回, 局所的な気象条件,船団の最適化等のより詳細な施工 予報誤差を最大 1m で一定としたため,波高が小さい 計画の立案が可能となり,稼働率過大評価による損失 程,誤差の影響を受け易く,運航回数の減少率が大き の防止に役立つ。また,実際の施工時には,より安全 くなったと考えられる。このケーススタディより,今 かつ効率の高い運航が可能となるだけでなく,管理も 回の設定では,誤差による運搬量の変化は大きくても 容易となり,次の計画が立て易くなると思われる。さ 15%程度であることがわかった。 らに,エネルギー削減が求められる昨今,高効率化は (2) ケーススタディ 2-2~経験的運航方法との比較~ 利益の確保だけでなく,CO2 排出量の削減も同時に達 本システムを用いた場合と経験的な出港可否判断を 適用した場合の 1 年間のシミュレーション結果を図-17 成される。今後は,環境配慮の視点も含め,さらなる 改良を行っていく予定である。 に示した。本システムの適用により経験的運航方法と 比べ,22%の運搬増量を確保できていることが分かる。 また,ケーススタディ 2-1 と合わせて考えると,誤差 参考文献 1) (財)シップ・アンド・オーシャン財団:平成 11 年度 船舶 から発生する CO2 の抑制に関する 調査研究報告書, pp. 44-95, 1999. ば,7%の運搬増量を確保できることがわかる。よって, 2) 横田華奈子,伊藤一教,織田幸伸 (2012): 気象・海象予 本システムの有効性を確認することができた。 測を用いた工事船舶運航シミュレーション技術の開発, 3.2.3 結果のまとめ 土木学会論文集 B3(海洋開発), Vol.68, No.2, I_953-I_958. 3) 羽角華奈子,伊藤一教,織田幸伸 (2012): 気象・海象予 本研究では,既存のウェザールーティングを工事船 測を用いた工事船舶運航支援システムの開発とその有効 舶に適用した運航システムを開発した。本システムは, 性の評価,土木学会論文集 B2(海岸工学), Vol.68, No.2, 各船舶位置情報を GPS により毎時受信し,それを基に, I_921-I_925. 4) Booij, N., R.C. Ris and L.H. Holthuijsen : A third-generation 気象・海象予報,船舶数,運搬量,船速,航行可能限 wave model for coastal regions, Part I, Model description and 界波高,避泊地,積み込み・積み下ろしの作業時間お validation, J. Geophys. Res. C4, 104, pp.7649-7666, 1999. よび作業の開始・終了時刻を考慮した上で,出港可否 5) Grell, G.A., J. Dudhia, and D.R.Stauffer: A description of the fifth-generation Penn State-NCAR Mesoscale Model (MM5), 判断を含め,各船舶の推奨目的港を探索し,その結果 NCAR Tech. Note NCAR/TN-398+STR, NCAR, 128p., 1991. を各船舶に配信するものである。経路探索の際,安全 影響の-15%を差し引いても,本運航システムを用いれ 62-8
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