ヨーロッパにおけるがん患者の生存率

厚生省がん研究助成金「地域がん登録」研究班
「がん患者の生存率協同調査研究」サブグループ用資料
平成8年7月 15 日
ヨーロッパにおけるがん患者の生存率
EUROCARE study (IARC Scientific Publications No. 132)
−「第1部
イントロダクションと方法」の抄訳−
味木和喜子、大島
明
(大阪府立成人病センター)
第1章
がん患者の生存率の評価および比較における基本的事項........................................................ - 1 -
疾患の性質と診断基準........................................................................................................................... - 2 患者の SELECTION .................................................................................................................................. - 3 早期診断、スクリーニング ................................................................................................................... - 4 治療法 .................................................................................................................................................... - 4 生存率統計の解釈の進歩 ....................................................................................................................... - 5 EUROCARE モノグラフ ...................................................................................................................... - 5 第2章
EUROCARE データベース ..................................................................................................... - 6 -
参加登録、対象期間、対象に含めるための基準................................................................................... - 6 データの質のチェック........................................................................................................................... - 8 第3章
解析方法................................................................................................................................. - 10 -
イントロ............................................................................................................................................... - 10 相対生存率の計算方法......................................................................................................................... - 10 EUROPEAN POOL の理由と定義 ........................................................................................................... - 11 年齢調整生存率.................................................................................................................................... - 11 第4章
死亡率とそれが生存率の計算に与える影響 ........................................................................... - 12 -
イントロ............................................................................................................................................... - 12 EUROCARE における、死亡率の推計方法 ....................................................................................... - 12 死亡率の差 ........................................................................................................................................... - 12 がん患者の生存率に対する他死因死亡の影響 .................................................................................... - 12 死亡率推計のエラーによる相対生存率のエラー................................................................................. - 12 -
第1章
がん患者の生存率の評価および比較における基本的事項
がん制圧の取り組みの成果は、究極的には、がん死亡率の減少として示されるが、がん予防の効果とが
ん治療の効果とを分けて検討することも重要である。がん予防の効果は、がん罹患率で測定できるのに対
して、がん治療の効果は、一般的にがん患者の生存率で測定できるとされる。しかし、がん患者の生存率
は、治療の効果をそのままストレートに示す簡単な指標ではない。生存期間は、診断日から死亡日までの
期間と定義されるが、診断日が前に動いても、死亡日が後に動いても、生存期間は長くなる(図1)。
生存率を、地域間、年次間で、比較するための留意点
(1)疾患の性質と診断基準
(2)患者の selection
(3)早期診断、スクリーニング
(4)治療法
(5)年齢分布(3章、4章参照)
(6)他死因(3章、4章参照)
その他の留意点
(1)診断日(生存期間を計測するための開始点)の定義
(2)追跡方法
(3)統計手法
発病
症状
発見可能
診断
死亡
生存期間
発見可能な前臨床期
疾患の自然史
Lead
スクリーニング
臨床的早期診断
疾患の定義
治療の効果
症例の選択
他死因による死亡
図1.慢性疾患の自然史と生存時間の主要な決定要因
-1-
疾患の性質と診断基準
上皮内がんの取り扱い
•
通常は、生存率計算の対象に含めない。但し、上皮内がんと浸潤がんとの区別が簡単でなく、取
り扱いが困難な場合がある。
例1)尿路の移行上皮癌
•
浸潤がんと上皮内がんとの区別が難しい。
•
5大陸第6巻で、膀胱がんに占める上皮内がんの割合は、2〜50%とばらつきが大きい。従って、
膀胱がんの生存率の比較は困難。
例2)多発性骨髄腫
•
診断基準が曖昧で、診断日を明確に定義できない。
(前駆期状態と多発性骨髄種との区別が難しい)
例3)前立腺がん
•
前立腺肥大の手術による偶然発見例の存在のため、厳格な基準がなければ、比較は無意味となる。
スクリーニングによる過剰診断
•
発見しなければ、発病しなかったかもしれない腫瘍をも、見つける可能性がある。
例)Mayo Lung Project
•
非がんをがんと誤診する可能性がある。
例)Breast Cancer Detection Demonstration Project
-2-
患者の selection
地域登録の利点: 年齢、疾患の状態、社会経済状態等による患者の偏りがない。
但し、登録精度が高くない場合は、別の偏りが生じる。
DCO(死亡情報のみで登録された症例)の扱い
•
通常、罹患統計には含め、生存率計測からは除外する。
•
DCO 症例は、症状が重すぎて、入院しなかったり、生検を受けなかったような、予後不良の症例
である可能性があるが、一方、DCO が存在するということは、長期生存患者の登録漏れがあるこ
とも示唆するため、DCO 割合が多いと、それを生存率計測より除外することにより、生存率が過
大評価されるか、過小評価されるか、推測できない(表 1.1)。
•
なお、DCO は、罹患データの質の指標であるのに対して、 DCI(死亡情報によって始めて登録
室が把握した症例)は、情報源の timeliness と完全性の指標であり、両者を区別する必要がある。
表1.1.死亡票で初めて登録された患者(DCI)と
死亡票のみで登録された患者(DCO)と
罹患率、生存率の信頼性との理論的関係
DCI 症例 DCO%
罹患率への影響 生存率への影響
多い
多い
低い
高い
低い
低い
過小評価
過小評価
正確
予測できない偏り
過小評価
正確
DCO の生存期間が、Trace back できた DCI と同じと仮定した調整生存率と、DCO を除外した通常の生
存率との比較(表 1.2 より抜粋)
表 1.2 は、UK の Thames Cancer Registry がおこなった特別の調査の結果である。その結果による
と、
•
通常の生存率と調整生存率との絶対差は、予後のよい部位ほど大きい。
•
相対差(減少率)は、DCO%とほぼ同じ。
Thames Cancer Registry では、DCO%が高すぎる。しかし、DCO%が低い場合でも、通常の生存率
の過大評価の程度は、小さいとはいえない。
一般に、DCO%が低いのは、(1)DCI 症例が少ない場合(この場合は、生存率の偏りは小)と、(2)DCI
症例は多いが、trace back ができた場合(この場合は、生存率は過小評価される)と、2つの場合がある。
表1.2.通常の生存率と調整生存率との比較(抜粋)
通常の生存率 調整生存率
部位 DCO%
減少率
(DCOを除く) (DCOを含む)
乳房
11.8
60.1%
54.1%
10%
肺
25.5
6.4%
4.8%
25%
-3-
早期診断、スクリーニング
スクリーニングが生存率に与える影響
(1)発見可能な前臨床期の長さ、(2)スクリーニング検査の感度、(3)スクリーニング検査の頻度、による。
がん登録の中には、発見の動機/紹介元などとして、集検/健診由来のものの情報を集めているとこ
ろもあるが、組織化されたがん検診のプログラム(Organized screening programmes)がない場合、こ
の情報は、信頼できない。この場合、上皮内がんの割合は、スクリーニング活動の間接的な指標となる(但
し、上皮内がんは、生存率計測から除外する)。
スクリーニング発見がんにおける偏り
•
リードタイム:
•
進行速度の遅いがんを発見しやすい。
•
スクリーニングの導入当初は、進行速度の遅いがんを多く発見するため、生存率が見掛け上、高
くなり、その後、進行速度の遅いがんが先取りされたため、生存率が見掛け上、低くなる。
リードタイムだけ生存期間はのびるが、死亡の時点はそのままという場
合もある。
早期に発見されるがんは、スクリーニングなしでも増加している。
•
症状発現と診断までの期間が短くなっている。
進行度の定義は、人により、場所により、異なる。
•
登録間の進行度別生存率の比較は、解釈が難しい。
治療法
治療法別の生存率は、解釈が難しい。
•
治療を受ける、受けないということに影響する要因として、年齢、疾病の重篤度、患者の拒否、
合併症、文化、等がある。
異なる集団間で、治療法を補正すると、誤った結果を導く可能性がある。
•
より進行した症例にも有効な治療法ができた場合、患者全体の生存率が向上しても、治療法別生
存率は、治療群、非治療群、いずれでも減少することがある。
•
治療群には、以前より進行したがんが含まれることと、非治療群には、以前より進行したがんの
み残ることによる。
治療に関する情報の不確かさ
実施の有無:外来での治療は、把握もれしやすい。
効果の有無:治療した医師が、治癒的、保存的、などを評価しており、その確からしさは評価しがたい。
専門施設では、他施設に比べ、生存率が高いという報告に関して
•
施設間で、患者の分布が異なる可能性がある。
•
進行度を補正したとしても、進行度の評価方法が、施設により異なる可能性がある。
-4-
生存率統計の解釈の進歩
進行度別生存率、進行度調整生存率の比較は、誤った結論を導きだす可能性がある。
•
診断技術が進歩すると、stage migration が生じる。
•
「以前の検査法では、浸潤、転移が発見できなかったために限局性と診断されていた患者」が除
かれるため、「限局性」の生存率は、高くなる。
•
「進行がん」には、「以前の検査法では、浸潤、転移が発見できなかったために限局性と診断さ
れていた患者」が含まれるようになるので、生存率が高くなる。
•
従って、診断技術が進歩するほど、進行度別生存率は、見掛け上、高くなる。
これらを調整する方法
(1)進行度を同じ基準で定義する。
(2)進行度のみでなく、進行度を決定する要因を解析に含める。
乳がんのリンパ節検索数、結腸がんの肝画像診断の有無
など
•
EUROCARE2 で試行中、しかし、これらの補正要因の情報を収集するためにも、標準化が必要。
•
これらの情報を、定期的に、収集し、解析できるようになれば、がん対策を監視するがん登録の
価値がさらにあがるが、そのために、人員がさらに必要となる。
EUROCARE モノグラフ
EUROCARE - 1 (1991-1993) : 今回のモノグラフ
EUROCARE - 2 (1994-1996) : 生存率比較の偏りを、量的に評価し、補正できるような情報を、いく
つかの部位で、収集する。
今回のモノグラフでの決定事項
(1)
同じ国の異なる登録室のデータを pool した。
国と国との違いより、国内の違いの方が、小さいだろう。
(2)
利用できる登録室のデータを、全国のデータと仮定して、重み付けをしたヨーロッパ平均生存率
を計測した。
(3)
対象年を全部満たしていない登録のデータも、pool して用いたため、年次推移に動きには、その
期間に含まれる登録の違いによる影響がある可能性がある。
(4)
ICD-9 の3桁部位別に計測した。詳細部位による罹患率や予後の違いが pool されている。
頭頚部、結腸、腎(腎盂、尿管などが含まれる)
(5)
など
組織型の違いを考慮していない。
予後の異なる特定の組織型を含んだまま計算した。がん登録の組織情報は、国際比較には、不十分
である。
-5-
第2章
EUROCARE データベース
地域がん登録の利点
・対象集団におけるヘルスケアの包括的効果の指標となる。
・他の集団と比較できる。
・罹患率、生存率、その他の指標の年次変動を明らかにする。
参加登録、対象期間、対象に含めるための基準
1)登録
•
30 登録室、がん患者数約 80 万人。
•
いくつかの特定部位の登録室を含む。
2)集計対象部位
•
ICD-9 の3桁部位の大部分について、集計した。
•
診断基準、分類方法、登録範囲が、十分に標準化されていない部位を除く。
非ホジキンリンパ腫
診断基準と分類方法がこの 20 年間で大きく変わった。
多発性骨髄腫
onset の基準が不明確
膀胱
乳頭腫や、非浸潤性移行上皮癌を、登録対象に含めるか、否かの
基準が標準化されていない。
前立腺
無症状の前立腺がんを検索することによって、罹患率も生存率も
高くなる。
悪性黒色腫とその他の皮膚 罹患データが不十分である可能性がある。
肝、胆のう
原発性と続発性との区別の信頼性が、地域により異なる。
3)対象期間
•
1978-84 年を中心としたが、登録室によりやや異なる。
4)コホートの定義
(1)全症例(入院の有無、顕微鏡的診断の有無、を問わない)
(2)悪性のみ(良性、良悪不詳、上皮内を除く)
(3)剖検発見例は、除外
(4)DCO(死亡票のみで登録された患者)も除外
(5)多重がんでは、異時性は、第1がんのみ、同時性は、進行度の進んだ方のみを対象に含めた。
(異時、同時の定義については、記載なし)
-6-
5)データベースの項目
(1)性別
(2)生年月日(年月のみ)
個人同定できないように、日は除外
(3)診断日(年月のみ)
但し、小児がんは例外
(4)死亡日あるいは最終生存確認日(年月のみ)
(5)生死状況
(6)ICD-9
(7)顕微鏡的診断の有無
(8)ICD-O
(9)進行度
(10)追加の日付
6)腫瘍の部位
•
ICD-9 の4桁。他の分類方法は、ICD-9 に変換した(表 2.1, 2.2:3桁、表 2.3-2.5:詳細部位)。
7)顕微鏡的診断の有無
•
細胞診と組織診をあわせる。(細胞診と組織診とを区別していない登録があるため)
•
0-64 歳と 65 歳以降とに分けて計算した(表 2.6)。
8)腫瘍の組織
•
肉腫、がん腫、のように大きく分類し、部位と組織との関連チェックに用いた。
•
組織に関するデータの信頼性や、観察者内、観察者間の組織診断の再現性については、調査して
いない。
9)腫瘍の進行度
•
進行度別には、解析していない。
•
データの質のチェックに用いるために収集した(遠隔転移がある長期生存者、など)。
10)その他の日付
•
診断日の定義には、以下の3種が用いられていた。
(1)入院日
(2)診断確定日
(3)治療開始日
•
診断日に用いる日付の定義の違いによる生存率の差を比較した。
短期生存では
(1)>(2)、(3)
3年目以降では、生存率に大差なかった(表 2.7)。
-7-
11)罹患データなど各がん登録の比較可能性
(表 2.8)
•
症例の収集方法(出張採録、自主届出)
•
診断日(入院日、診断確定日、治療開始日)
•
追跡方法(能動的、受動的、両者の併用)
•
DCO%(<65 歳、≧65 歳)
•
全国人口カバー率(%)
データの質のチェック
1)一般的な妥当性のチェック
•
この目的で開発したコンピュータプログラムを用い、中央でチェックし、各登録室で確認した。
•
エラーの残ったデータは、解析から除外した(95ー100%が解析対象となった)。
チェック項目(表 2.9)
性別
1:男、2:女
日付の月
1−12
生年
1985 年以降
最終生存確認年
1991 年以前
生死状況
1−2(コードの内容については記載なし)
ICD-9
1400-2399
ICD-O
8000/0-9940/0
顕微鏡的診断の有無
1:あり、2:なし
年齢
0-100 歳
観察期間
0-15 年
部位と性別との関連
部位と組織との関連
チェックの結果(表 2.10)
-8-
2)生死状況の把握の妥当性
•
受動的追跡(死亡情報との照合のみ)では、死亡情報との照合が不十分であると、生存率を過大
評価する可能性がある。
•
受動的追跡方法の信頼性の確認調査を実施した。
方法:
診断から5年経過して、生存と登録されている肺がん患者をサンプルとし、その生死状
況を、5つの登録室において、確認した。肺がんのように致死率の高いがんを選んだの
は、エラー率を推定するのに必要なサンプルサイズが小さくてすむためである。
その成績を用いた補正生存率の計算方法(表 2.11 参照)
A:サンプル数(生存と登録されている数)
B:追跡の結果、予後が把握できなかった患者数
C:死亡が確認された患者数
D:生存が確認された患者数
E:生存と登録されていたが実は死亡していたエラーの割合(%)
C/(C+D)×100
F:実測5年生存率
G:補正5年生存率
F−(F×E/100)
H:死亡者のうち生存と登録されていたエラーの割合(%)
(F−G)×100/(100ーG)
死亡者のうち生存と登録されているエラーの割合が、全ての部位で同じと仮定すると、
他の部位のがん患者の補正5年生存率=(実測生存率−H)×100/(100−H)
調査の結果
•
•
受動的追跡では、ある程度の生死確認状況の把握漏れは、避けがたい。
•
肺がんのように、致死率の高い腫瘍では、エラー率が低くても(表 2.11 ではH=
1.4%)、生存率への影響が大きい(実測生存率 7.2%、補正生存率 5.9%、22%の
過大評価)。
•
致死率の低い腫瘍では、この程度のエラー率であれば、生存率への影響が小さく、
ほとんどの場合は、受容範囲である。但し、肺がん患者のエラー率が、致死率の低
い腫瘍のエラー率と、異なる可能性はある。
•
表 2-11 は、追跡できた患者に限っている。追跡の完全性を改善するためには、さ
らに調査が必要である。
他国へ出国した患者の追跡は、ほとんどの場合、不可能であり、出国時点で censor とすることに
なる。これは、外人の多い国では大きな問題となりうる(自国で死にたいかもしれない)。
-9-
第3章
解析方法
イントロ
•
生存時間は、一般的に、死因に係らず、死亡することによって、決定される。
•
他死因による死亡が、実測生存率に、影響を与える可能性がある。
•
他死因死亡による影響を取り除くために、相対生存率の概念が導入されてきた。
•
相対生存率は、実測生存率と期待生存率との比であり、期待生存率には、その疾患がないことを
除いて、生存率に影響しうる全ての要因が、観察期間の開始時に、患者群と似ている集団におけ
る期待生存率を用いる。性別、年齢、暦年、地域、などを考慮する。
•
相対生存率は、対象疾患が、唯一の死因である場合の生存率を示す。即ち、一般健常人と比較し
て、がん患者が余剰に死亡するリスクを説明する。従って、必ずしも0−1でなく、1より大き
いこともある。
•
長期生存患者では、一般集団と同じ、あるいは、それよりも低いレベルまで、死亡リスクが減少
する可能性がある。従って、相対生存率曲線を描くと、観察開始から数年後に、生存率が上昇す
ることがある。
•
これは、がん患者が、一般集団と生存率の決定要因が異なっている集団から抽出された標本であ
るからである。
•
従って、適当な統計モデルを用いて、均質なサブグループについて解析し、この影響を補正する
必要がある。
相対生存率の計算方法
•
Hakulinen & Abeywickrana (1985)の相対生存率計算ソフトを用いた。
•
10 年以上の生存率を計算する場合に重要となる selection bias による影響を補正できる。
•
観察可能期間を考慮にいれ、期待生存率が、患者がその疾患により死亡する致死率に左右されな
いようにする。Hakulinen (1977), Hakulinen (1982) の論文を参照のこと。
•
この方法より簡単な方法もあるが、得られる相対生存率が偏る。
•
計算式については、本文参照のこと。
- 10 -
European Pool の理由と定義
理由
・個々の地域、登録室からの結果を補足する。
・他の成績(SEER など)と比較するための基盤を提供する。
・個々の地域と比較するための基準値となる。
・まれな部位のがんの標準的な生存率を計測する。
プールした生存率とその標準誤差の計算方法(計算式については、本文参照のこと)
•
追跡期間別、年齢階級別、対象集団別の、相対生存率に、後述する重みを掛け合わして、総和し
た。
重み1
•
各国の毎年の性別、部位別罹患数を重みとして用いる。年齢階級別の重みには、全年齢の重みを
用いる。各国の患者数は、(1)全国登録の場合は、今回の成績、(2)その他の場合は、参考文献より、
(3)参考文献がない場合は、今回の成績を全国の成績と仮定して、計算した。
•
個々の登録室の相対生存率が、その国の代表値と仮定する。
•
全参加国で診断された全ての症例の相対生存率を推計した値と考え得る。
•
対象人口の小さな複数の登録室から成り立つ国では、個々の登録の標準誤差の大きさに、影響を
受ける。
•
発生頻度の高い部位のがんに用いた。
重み2
•
年齢階級別、登録室別の、追跡開始時の患者数を重みとして用いる。
•
国を区別せず、全例を解析した値と同じ。
•
英国の値に引きずられるが、SE が小さくて済む。
•
発生頻度の低い部位のがんに用いた。
年齢調整生存率
•
年齢によって生存率が異なる影響は、相対生存率にもありうる。従って、異なる集団で、相対生
存率を比較するためには、年齢階級別に検討する、あるいは年齢を調整する必要がある。
•
直接法により年齢を調整し、全症例の年齢階級別がん患者数を標準人口として用いた。(式は本
文参照)
•
地域差のみでなく、性差をも比較できるように、男女別の集計でも、標準人口には、男女計の値
を用いた。
•
罹患率と同様に、人口構成の異なる集団で比較する場合には、年齢階級別生存率を比較する方が
望ましい。
- 11 -
第4章
死亡率とそれが生存率の計算に与える影響
イントロ
•
参加集団で、年齢調整死亡率は、700-1,000 / 100,000、約 1.6 倍の格差があった。
EUROCARE における、死亡率の推計方法
•
それぞれの地域別に、性、年齢(0-99)、年次別の生命表が得られるように、死亡率を推計した。
•
詳細は、本文参照のこと(5歳階級の場合は、各年齢別に内挿
など)
死亡率の差
•
地域による死亡率の差は、男より女の方が大きかった。
•
死亡率の減少率は、国により異なった。
がん患者の生存率に対する他死因死亡の影響
•
実測生存率と相対生存率との差は、若年で小さく、高齢者で高かった。
•
実測生存率と相対生存率との差は、女で小さく、男で高かった。
•
死亡リスクの変動は、実測生存率と相対生存率との差に影響する。死亡リスクが小さくなる程、
実測生存率と相対生存率との差も小さくなる。
死亡率推計のエラーによる相対生存率のエラー
•
イタリアにおける大腸がんの6年生存率での検討(図 4-2)によると、暦年別の死亡率でなく、中
間年の死亡率を用いたために生じる相対生存率のエラーは、最大でも4%である。
•
なお、イタリアでは、1978-90 年の期間、全死因による死亡率は、毎年3%ずつ減少していた。
- 12 -