第67回 中国の自動車事情について

第六十七回:
第六十七回
中国の自動 車事情について
常陽銀行上海駐在員事務所
上海では、毎日大勢の市民が、地下鉄や路線バスなどの公共機関を利用して移動する姿をよく見かけ
ますが、最近では自動車で移動する人が増えてきているようです。
2014年の中国における新車販売台数は約2,349万台と、6年連続で世界の販売首位となっており(2位
のアメリカは1,652万台)
、中国において自動車は富裕層だけではなく一般市民にも普及しつつあります。
今回は、中国の最近の自動車事情についてご紹介します。
中国の新車販売動向
はじめに、2008年以降の中国の自動車販売の動向を見てみます。
中国の自動車販売台数は、2009年から10年にかけて急激に増加しました。背景には、中国政府が、
2008年に起こったリーマンショック後の国内景気刺激策の一環として、自動車購入に関する優遇施策を
導入したことが挙げられます。
中国政府が、1,600㏄以下の乗用車を対象に購入税を従来の10%から5%に引き下げるとともに、農村
部の住民に対して購入費用の一部を補助するといった優遇政策を実施したことで、一般市民の自動車保
有率が急速に高まりました。
優遇施策が終了した2011年から2012年にかけては、この反動により伸び率が鈍化したものの、2013年
には2,198万台(前年比13.9%増)と年間2千万台の大台を超え、2014年には過去最高となる2,349万台(同
6.8%増)を記録しました。
中国の自動車市場は、いまや全世界の1/4を占める規模にまで拡大し、自動車販売業界は中国の経済成
長を牽引する存在となっています。
自動車販売が好調な背景として、中
国人の所得増加や旺盛な消費意欲があ
ることは、周知のことかと思います。
中国の自動車販売台数推移
(万台)
2,500
2,349
2,198
2,000
1,806
1,851
1,931
中国では依然として自動車を保有して
いない中・低所得者層が大半を占めて
おり、中国の自動車市場は更に成長し
1,364
1,500
1,000
938
続ける可能性を秘めています。
500
0
2008年 2009年 2010年 2011年 2012年 2013年 2014年
(出典:亜州IR)
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交通渋滞と自動車購入規制
自動車の購入者が増加する中で、問題となってくるのが都市の交通渋滞です。
上海市では、午前7時から9時頃までと、午後5時から7時頃までの時間帯は、通勤・帰宅ラッシュ
のため、市内のあちこちで渋滞している様子が見られます。
一部の地域では、この時間帯に車で移動する場合、10キロ程度の道程でも1時間以上かかるため、地
下鉄で移動した方が早く目的地に到着することができます。
交通渋滞を緩和させるためには、新たな道路建設などのインフラ対策を講じる必要があります。しかし、
建設用地の確保の問題などから、上海市のような都市部で新たな道路を建設することは容易ではありま
せん。
【路上駐車の様子】
上海市内では路上駐車が多い
ことも、交通渋滞を深刻化さ
せる要因となっている。写真
は『向かい合わせ』で路上駐
車をしている様子を撮影。
【早朝の交通渋滞】
通勤ラッシュ時の交通渋滞。次
の交差点まで渋滞が続いていま
す。写真は渋滞ピークの 8 時頃
に撮影。
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そこで、上海市や北京市などでは、渋
地域
発給方法
上海市
オ ー ク シ ョ ン に よ る 競 売 制 度。 乗 用 車 を 対 象 に
1994 年導入。
北京市
抽選制度 2011 年から実施。
貴陽市
抽選制度。2011 年 7 月から実施。
ます。2015年9月に行われた入札では、
広州市
抽選制度。2012 年 7 月から実施。
発給枚数8,700余りに対して16万人を超え
天津市
抽選・オークション制度。2013 年 12 月から実施。
杭州市
抽選・オークション制度。2014 年 3 月から実施。
その他
ナンバープレート発給に制限なし。ナンバープレー
ト番号による走行規制有。
滞緩和を目的にナンバープレートの発給
を制限することで、自動車の購入を抑制
しています。上海市の場合、1994年から、
ナンバープレートの発給について、毎月
オークションでの競売入札を実施してい
る応募があり、市民がナンバープレート
を手に入れるには相当な苦労が必要な状
況です。
ナンバープレート無しに走行した場合
(出典:各種新聞・報道より)
は当然違反となりますが、稀にナンバー
プレート無しで走行している車を見かけることがあります。慢性的な交通渋滞を緩和したい一方で、自
動車を購入したい市民との折り合いを付けなければならない事情が、中国各地でうかがえます。
自動車購入のハードルは高いが、「自動車」が欲しい理由
皆さんは、中国において車の取得費用が実は日本よりも高いことをご存知でしょうか。
中国での外資系ブランド車の新車販売価格は、モデルによって異なりますが、最も低いモデルでも10
万元前後(日本円換算で約188万円)となっています。
先ほどのナンバープレートの平均落札価格が2015年9月の実績値で、約8万2千元(日本円換算で約
154万円)となっていることや、車両購入税(車両購入代金+付帯費用の10%)を含めると、現在の自
動車の取得費用は350万円超という高額な買い物になります。
自動車の購入者が増加している背景として、中国人の所得が増加していることが挙げられますが、こ
の取得費用は所得が増加したからといって簡単に払える金額ではありません。
購入者が増加している本当の理由は、
「自動車が欲しい」という消費意欲の高さなのではないかと思い
ます。苦労して購入する自動車だからこそ、念願の自家用車を手に入れた人は一種のステータスを感じ
るのでしょう。私が車で通勤している中国人女性に「地下鉄の方が交通渋滞も無くて楽じゃないの」と
聞いたところ、彼女は「車よりも人が渋滞しているのにイライラする」と話していました。彼女もまた、
車内で自分専用の空間を維持しながら通勤できることを一種のステータスと感じているのかもしれませ
ん。
上海モーターショー
中国の自動車業界を代表するイベントの1つに、上海モーターショーがあります。
上海モーターショーは、北京モーターショーと隔年で開催されている中国最大級の自動車展示会です。
展示会では、毎年多くの一般来場者が各自動車メーカーの展示ブースを視察し、最新の展示車を撮影す
るなど、大変な賑わいを見せています。
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【展示ブースの様子①】
上海モーターショー 2015 の様子。総入場者数は約 93
万人となり成功裏に幕を閉じた(写真は 2015 年主催団
体撮影)
【展示ブースの様子②】
各社のブースに花を添えるモーターショー。恒例であっ
た女性コンパニオンは 2015 年から廃止になった(写真
は 2013 年撮影)
今年の上海モーターショーは、4月22日から29日にかけて、世界最大の展示場である「国家会展中心」
で開催されました。期間中は、世界18か国・約2,000社の内外企業が出展し、合計1,343台の自動車が展
示されました。
今年は、SUV車に加え、電気自動車(EV)などのエコカーが数多く展示されていました。中国では
環境意識の高まりから燃費性能の良い車が注目されており、各メーカーが次世代の戦略車としてこれら
のパフォーマンスに優れた車を前面に押し出している様子が窺えました。中国でも、今後、環境面に配
慮したエコカーが自動車業界を牽引していくことが期待されているようです。
今後の自動車業界の展望
中 国 公 安 部 の 交 通 管 理 局 の 発 表 に よ り ま す と、2014年11月 時 点 で の 中 国 の 自 動 車 保 有 台 数 は
1億5千4百万台で、アメリカに次いで世界第2位となったとのことです。
近い将来、中国は自動車保有台数でも世界一となることが予想されます。中国経済が落ち込むことで
新車販売など消費への影響を懸念する報道もありますが、長期的に考えれば自動車を保有していない中
低所得層のニーズは根強く、今後も中国の自動車業界は全体として堅調に推移するのではないかと思わ
れます。
[参考文献]
1.亜州IR 中国産業データ&リポート http://www.ashu-chinastatistics.com/
2.第十六届上海国際汽車工業展覧会 http://www.autoshanghai.org/
3.上海国 商品拍 有限公司HP ナンバープレート落札結果 http://www.alltobid.com/guopai/index.html
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