二泊三日の薬師岳登山における大学生の体脂肪率減少

国際教養学部紀要 VOL.1(2005.3)
二泊三日の薬師岳登山における大学生の体脂肪率減少の可能性
Decrease in Body Fat of Undergraduates as a Result of Climbing Yakushi Mountain
大
門
信
吾
DAIMON Shingo
鶴
山
博
之
TURUYAMA Hiroyuki
Ⅰ.はじめに
平松
5 ) は、1996
年度の登山者が 588 万人に上り、その中心は中・高年齢者で、58 歳の登山人口が最も多い
とする文部科学省の報告や近年の登山教室の希望者が多数に上ることから、歩行・登山が中・高年者の代表的
スポーツ種目となり、生涯スポーツへと変容したと述べている。またその理由として、現代社会では自然環境
から乖離した社会生活からの回帰や身体活動による健康づくりの高まり、人と人との関わりや結びつきなどが
求められていると分析している。この分析からすると、今後歩行・登山は、生涯スポーツや健康・体力づくり
の手段として、より一層重要な役割を担うものと考えられる。一方山地
8 ) は、近年、中・高年者の高所でのス
ポーツ活動(スキー、ハイキング、登山等)の事故が後を絶たないことから、登山と気圧など生理学的応答に
関する情報は、標高 3、500m 以下の情報が必要と指摘し、現状では期待に応える情報が少ないとしている。
一般に、登山の単位時間あたりの運動強度はそれほど大きくないが、トータルのエネルギー消費量は莫大にな
るとされる。国際山岳連盟の医療委員会は、成人が登山をするときの消費エネルギーを試算し、空身の場合は
1時間、体重1kg あたり6kcal、20kg の荷物を背負ったときは 9kcal になるとしている。たとえば、体重 60kg
の人が空身で 8 時間の登山をすれば、消費エネルギーは 6×60×8=2,880kcal となり、この値はマラソンの消
費エネルギー(2,000-2,500kcal)を上回るとしている
6 )。また山地 9) は、ベテラン登山家や初心者を対象に登
山中の心拍数を検討し、登山中の心拍数は種々の環境条件によって異なるものの、おおむね、上りは 125∼170
拍/分、下りは 110∼150 拍/分に相当するとしている。これらのことに加え、登山は運動時間が長時間にわたる
ことから、脱水量も大きくなる。日本登山医学研究会
6) によると、登山の内容、気象条件、体質にもよるが、1
時間、体重 1kg あたりで約 5ml の脱水が起こる。たとえば、体重 60kg の人が 8 時間の登山をすれば、脱水量
は 5×60×8=2、400ml(2.4L)となるとしている。このように登山は、運動量や脱水量の他、山行以外の時
間においても低温、低圧(低酸素)の環境下での生活が余儀なくされ、身体に与える影響は平地と比べると、
かなり大きいことが予測される。従って、安全で快適、効果的な登山を実施するためには、実際の登山におけ
る諸条件の中での様々な研究や指導情報の蓄積が、今後益々重要になると思われる。富山国際大学における登
山は、大学の立地条件や環境からして、身近に生涯スポーツに結びつく種目と位置付けられる。このことから
本学では、開学以来薬師岳登山を健康スポーツ教育の一環として、夏期休暇を利用し、毎年実施している。こ
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国際教養学部紀要 VOL.1(2005.3)
の授業は、登山に必要な服装、用具、所持品、マナーなどの基本的知識を身に付けるとともに、登山を体験す
ることにより、山での歩き方およびペース配分などを身に付けるものであり、それによって生涯スポーツにつ
ながることを願って実施しているものである。また、平成 11 年度からは、登山の身体への影響を考えさせる
材料として、学生に登山前後の体重、皮下脂肪量の測定を課している。その結果、多くの学生から登山後体脂
肪が減少したとの報告を受けており、このような経験を検証する必要があると思われる。また一般に、定期的
な身体活動(運動処方)によって、有酸素運動では体脂肪量の減少、筋力トレーニングでは除脂肪量の増加と
脂肪量の減少につながることを明らかにした研究
1),,2),7),10) は多いが、二泊三日の登山など、短期間での体組成
の変化ついて報告した例はあまりみられない。そこで本研究では、二泊三日の薬師岳登山における大学生の体
重、体脂肪の変化を測定評価し、登山の体力学的効果の一端を報告することとする。
Ⅱ.方
法
1. 調査期間と被験者
平成 15 年度から 11 年度の 5 年間、健康スポーツ(薬師岳登山)に参加した富山国際大学学生で、登山前
後の測定記録が確認できる 105 名(男子 72 名、女子 33 名)を被験者とした。なお、個別の標本を確保する観
点から、2 回以上参加した学生については最近の記録を採用し、1 回目の記録は対象標本数から除外した。
2.測定項目と測定方法
測定項目は身長、体重、インピーダンス、脂肪率、脂肪量、除脂肪量、体水分量、BMI、肥満度の 9 項目と
し、身長を除く 8 項目は、登山前後に(株)タニタ製の体内脂肪計 TBF-102 を用い測定した。また、全ての
項目の測定は富山国際大学健康管理センターに依頼した。
3.薬師岳登山(測定手順)日程の概略
調査期間中の薬師岳登山日程の概略は、以下の通りであった。
・1 日目
大学健康管理センターで 9 項目の測定後、バスにて折立登山口へ向かう。
折立登山口から約 5 時間の登山後、太郎平小屋(宿泊)。
・2日目
太郎平小屋から約 3 時間で薬師岳山頂(休憩)、約 2 時間で太郎平小屋(宿泊)。
・3日目
太郎平小屋から約 3 時間で折立登山口。バスで大学へ向かう。
大学健康管理センターで8項目の測定。
4.測定項目の分析方法
各測定項目についての有意差検定は、対応のある 2 標本t−検定により行った。なお、男女とも体重が減少
したグループと他のグループとの体重の有意差は、対応のない 2 標本平均値の差の検定を行った。また、有意
水準は危険率 5%未満とした。
Ⅲ.結果と考察
(株)タニタ製の体内脂肪計 TBF-102 の測定手順は、着衣の重さ、体型モード(子ども、成人、アスリー
ト)、性別、身長を事前に入力し、その後体重とインピーダンスを同時に測定することにより、残りの測定項目
が表示される仕組みになっている。小宮
3) によると、インピーダンス法は、人体に無痛の弱い交流電流を流し
た時の生体電気抵抗値であるインピーダンスを総体水分量の測定に応用したものであり、ヒトのからだを脂肪
組織と除脂肪組織に二分して、たんぱく質を含み実質的には水分と電解質から構成されている除脂肪量が、脂
肪量に比較して電流が流れやすいという原理を利用した測定方法であるとしている。従って、この測定は体重
とインピーダンスから性別、身長別に脂肪量と除脂肪量(体水分量)を割り出していることになり、常に体重
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=脂肪量+除脂肪量の関係が成り立っている。また、体脂肪率は体重に対する脂肪量を百分率で示した数値で
あり、BMI は「体重÷身長の 2 乗」で計算された数値で、罹患率が低いことから「22」が望ましいとされる数値
である。肥満度は「(体重−標準体重)÷標準体重×100」で表され、標準体重は理想的な BMI 値から「身長
の 2 乗×22」を基準として示している。これらの数値はいずれも人の健康を考える上で重要な指標と言えるが、
本研究の主旨からして、体重の変化及び脂肪量、除脂肪量の変化を中心に分析を行うこことする。学生の登山
後の体重変化を男女別に示すと、表 1 の通りであった。登山後男子では体重が減少した者が 42 名、体重 が増
加した者は 25 名、体重に増減のなかった者が 5 名であった。女子では各々、13 名、18 名、2 名であった。
表 1.学生の登山後の体重変化(男女別)
体重減少
体重増加
体重増減なし
計
男子
42名
25名
5名
72名
女子
13名
18名
2名
33名
1. 性別、体重増減別の分析結果について
(1) 体重が減少した男子学生 42 名の分析結果について
男子 72 名中、登山後体重が減少した 42 名の有意差検定結果を示すと、表 2 の 1 の通りであった。42 名の
登山後の体重が平均で 0.86kg 減少(1%水準で有意)したことは、脂肪量の平均 1.48kg の減少(1%水準で有
意)と除脂肪量(体水分量)の平均 0.61kg(0.45kg)の増加(1%水準で有意)の結果によるものであり、こ
のグループは、除脂肪量(体水分量)が増加しているのに関わらず、体重が減少していることから、脂肪量減
少の影響が大きく体重に現れていると考えられた。このグループの体重減少は、登山による消費エネルギーと
登山期間中の食事から摂取するエネルギーが普段の生活より抑制された結果と考えられるが、このグループは
後 述 す る 体 重 が 増 加 し た 男 子 グ ル ー プ と 比 較 し て、 登 山前の 体重 が 有意(1%水 準)に 大き い ことも 影響 して
いると考えられた。これは、体重変化の主たる予測因子はトレーニング前の体重(体脂肪率)レベルと運動に
よる消費エネルギーであり、体重の大きい者はやせた人より除脂肪量の減少を起こさないで、体重減少を維持
できるとする小宮
2) と一致するものであった。表
2 の 2 に脂肪量、除脂肪量の増減に該当する人数と、男子被
験者全員の 72 名に対する百分率を示した。体重が減少した男子 42 名は男子被験者全員(72 名)の 58.3%に
相当し、42 名中、除脂肪量が増加し、脂肪量が減少した結果体重が減少した者が 30 名(41.7%)、また、除脂
肪量に増減がなく、脂肪量の減少が体重に影響した者が 1 名(1.4%)、脂肪量、除脂肪量双方の減少が体重に
影響した者が 5 名(6.9%)見られ、合計 36 名(50.0%)に脂肪量の減少が認められた。しかし、42 名の中には、
脂肪量が増加した 4 名(5.6%)と脂肪量が増減なしの 2 名(2.8%)が見られ、この 6 名の体重減少は、除脂
肪量(体水分量)の減少によることから、脂肪量の減少が体重に影響するというグループの全体傾向とは逆傾
向を示していた。
表 2 の 1.体重が減少した男子学生 42 名の有意差検定結果
体重
脂肪量
登山前
登山後
平均値の差
t値
0.86減
7.511**
1.48減
7.230**
平均値
70.33
69.47
標準偏差
13.68
13.24
平均値
15.27
13.79
標準偏差
8.1
7.26
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国際教養学部紀要 VOL.1(2005.3)
除脂肪量
体水分量
平均値
55.06
55.67
標準偏差
6.55
7.07
平均値
40.3
40.75
標準偏差
4.8
5.18
0.61増
3.151**
0.45増
3.151**
*5% 水 準 で 有 意
**1% 水 準 で 有 意
表 2 の 2.脂肪量、除脂肪量増減に該当する人数と男子比率
除脂肪量増加
除脂肪量増減なし
除脂肪量減少
計
脂肪量減少
30名(41.7%)
1名(1.4%)
5名(6.9%)
36名(50.0%)
脂肪量増減なし
0
0
2名(2.8%)
2名(2.8%)
脂肪量増加
0
0
4名(5.6%)
4名(5.6%)
計
30名(41.7%)
1名(1.4%)
11名(15.3%)
42名(58.3%)
(2) 体重が増加した男子学生 25 名の分析結果について
男子 72 名中、登山後体重が増加した 25 名の有意差検定結果を示すと、表 3 の 1 の通りであった。25 名の
登山後の体重が平均で 0.63kg 増加(1%水準で有意)したことは、脂肪量の平均 0.61kg の減少(1%水準で有
意)と除脂肪量(体水分量)の平均 1.24kg(0.92kg)の増加(1%水準で有意)の結果によるものであり、こ
のグループは、脂肪量が減少しているのに関わらず、体重が増加していることから、除脂肪量(体水分量)増
加の影響が大きく体重に現れていると考えられた。このグループの体重増加は、登山期間中の飲食による摂取
エネルギーが充分満たされていたか、あるいは過剰であったことを示すものであり、体重増加に影響するもの
として、測定直前の多量の水分摂取や登山期間中の排便が無いなどの要因が考えられた。また、除脂肪量増加
に影響する要因は、二泊三日の薬師岳登山が短期間であることから、筋肉量や骨、内臓の増量とは考えにくく、
主に体水分量の変化によるもであると考えられる。いずれにしてもこれらのことが体重増加に影響したが、登
山による効果として、脂肪量の減少も認められたといえよう。表 3 の 2 に脂肪量、除脂肪量の増減に該当する
人数と男子被験者全員の 72 名に対する百分率を示した。体重が増加した男子 25 名は男子被験者全員(72 名)
の 34.7%に相当し、脂肪量が減少したのに除脂肪量が増加した結果、体重が増加した者が 20 名(27.8%)認
められた。また、脂肪量、除脂肪量とも増加し、体重が増えた者が 4 名(5.6%)いたが、全体とは逆傾向の脂
肪量が増加し、除脂肪量が減少して体重増加となった者が 1 名(1.4%)見られた。
表 3 の 1.体重が増加した男子学生 25 名の有意差検定結果
体重
脂肪量
除脂肪量
登山前
登山後
平均値の差
t値
0.63増
7.745**
0.61減
4.210**
1.24増
7.183**
平均値
57.91
58.54
標準偏差
8.43
8.47
平均値
9.36
8.75
標準偏差
3.44
3.56
平均値
48.55
49.79
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国際教養学部紀要 VOL.1(2005.3)
体水分量
標準偏差
5.47
5.45
平均値
35.53
36.45
標準偏差
4
4
0.92増
7.196**
* 5% 水 準 で 有 意
* * 1% 水 準 で 有 意
表 3 の 2.脂肪量、除脂肪量増減に該当する人数と男子比率
除脂肪量増加
除脂肪量増減なし
除脂肪量減少
計
脂肪量減少
20名(27.8%)
0
0
20名(27.8%)
脂肪量増減なし
0
0
0
0名(0%)
脂肪量増加
4名(5.6%)
0
1名(1.4%)
5名(6.9%)
計
24名(33.3%)
0名(0%)
1名(1.4%)
25名(34.7%)
(3) 体重に増減のない男子学生 5 名及び 4 名の場合の分析結果について
男子 72 名中、登山後体重に増減がなかった者は 5 名(6.9%)であり、この 5 名は登山中の飲食による体重
への影響は殆どなかったものと考えられた。表 4 の 2 に脂肪量、除脂肪量の増減に該当する人数と男子被験者
全員の 72 名に対する百分率を示した。脂肪量が増加し、除脂肪量は減少する傾向を示す者は 1 名(1.4%)の
みであり、残りの 4 名(5.6%)は、これまでの傾向である脂肪量が減少し、除脂肪量が増加していた。そこで
表 4 の1には逆傾向を示した 1 名を含めた5名の場合と、含めない4名の場合の有意差検定結果を併記した。
5 名の場合は、登山後の脂肪量が平均で 0.64kg の減少、除脂肪量(体水分量)が平均で 0.64kg(0.48kg)の
増加であるが、いずれも有意差は認められなかった。しかし、4 名の場合は脂肪量が平均で 1.05kg 減少、除脂
肪量(体水分量)が平均で 1.05kg(0.78kg)の増加となり、この場合はいずれも 1%水準で有意差が認められ
た。4 名と 5 名の検定結果の違いは、標本数が少ないためと考えられるが、1 名を除いた 4 名は、全体に準ず
る傾向にあると言えよう。
表 4 の 1.体重に増減のない男子学生 5 名及び 4 名の場合の有意差検定結果
体重(5名)
体重(4名)
脂肪量(5名)
脂肪量(4名)
除脂肪量(5名)
除脂肪量(4名)
体水分量(5名)
体水分量(4名)
平均値
標準偏差
平均値
標準偏差
平均値
標準偏差
平均値
標準偏差
平均値
標準偏差
平均値
標準偏差
平均値
標準偏差
平均値
標準偏差
登山前
登山後
平均値の差
t値
57.62
2.39
58.3
2.2
9.04
0.96
9.25
0.96
48.58
1.56
49.05
1.39
35.56
1.12
35.9
1
57.62
2.39
58.3
2.2
8.4
0.74
8.2
0.7
49.22
2.22
50.1
1.52
36.04
1.61
36.68
1.1
ー
ー
ー
ー
0.64減
ー
ー
ー
ー
1.458
1.05減
5.198**
0.64増
1.458
1.05減
5.198**
0.48増
1.53
0.78増
5.628**
* 5% 水 準 で 有 意
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* * 1% 水 準 で 有 意
国際教養学部紀要 VOL.1(2005.3)
表 4 の 2.脂肪量、除脂肪量増減に該当する人数と男子比率
除脂肪量増加
除脂肪量増減なし
除脂肪量減少
計
脂肪量減少
4名(5.6%)
0
0
4名(5.6%)
脂肪量増減なし
0
0
0
0名(0%)
脂肪量増加
0
0
1名(1.4%)
1名(1.4%)
計
4名(5.6%)
0名(0%)
1名(1.4%)
5名(6.9%)
(4)体重が減少した女子学生 13 名及び 12 名の場合の分析結果について
表 5 の 2 に脂肪量、除脂肪量の増減に該当する人数と、女子被験者全員の 33 名に対する百分率を示した。
体重が減少した女子学生 13 名(39.4%)中、脂肪量が増加し除脂肪量は減少した結果、体重減少を示す者 が 1
名(3.0%)いたが、残りの 12 名(36.4%)は脂肪量が減少し、除脂肪量が増加し、体重が減少していた。そ
こで表 5 の1には逆傾向を示した 1 名を含めた 13 名の場合と、含めない 12 名の場合の有意差検定結果を併記
した。12 名の場合は、登山後の体重が平均で 0.40kg 減少(1%水準で有意)したことは、除脂肪量(体水分量)
の平均 0.99kg(0.75kg)の増加(5%水準で有意)にも関わらず、脂肪量の平均 1.40kg の減少(1%水準で有
意)が体重に大きく影響したことによるものと考えられる。このグループの体重減少は体重減少した男子と同
様、登山による消費エネルギーと登山期間中の食事から摂取するエネルギーが普段の生活より抑制された結果
と考えられるが、このグループは後述する体重が増加した女子グループと比較して、登山前の体重が有意( 1%
水準)に大きいことも影響していると考えられた。この傾向は男子学生で体重減少を示した 42 名の分析結果
と類似していた。13 名の場合は、登山後の体重が平均で 0.42kg 減少(1%水準で有意)しているが、除脂肪量
(体水分量)の平均 0.81kg(0.61kg)の増加には統計的有意差は認められず、体重減少は脂肪量の平均 1.23kg
の減少(5%水準で有意)による影響のみとなり、全体と逆傾向の 1 名を含めるか否かによって多少結果に違
いが生じることとなった。これは体重に増減がなかった男子学生の場合と同様、標本数が少ないことに起因す
るものと考えられるが、いずれにしてもこのグループの体重減少は、脂肪量減少の影響が大きいことが伺えた。
表 5 の 1.体重が減少した女子学生 13 名及び 12 名の場合の有意差検定結果
体重(13名)
体重(12名)
脂肪量(13名)
脂肪量(12名)
除脂肪量(13名)
除脂肪量(12名)
体水分量(13名)
登山前
登山後
平均値の差
t値
0.42減
4.558**
0.4減
3.902**
1.23減
2.812*
1.4減
3.194**
0.81増
1.897
0.99増
2.360*
0.61増
1.969
平均値
58.44
58.02
標準偏差
11.05
10.92
平均値
58.28
57.88
標準偏差
11.49
11.35
平均値
17.33
16.1
標準偏差
6.56
5.87
平均値
17.13
15.73
標準偏差
6.79
5.95
平均値
41.11
41.92
標準偏差
4.76
5.57
平均値
41.16
42.15
標準偏差
4.96
5.74
平均値
30.1
30.71
標準偏差
3.48
4.04
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国際教養学部紀要 VOL.1(2005.3)
体水分量(12名)
平均値
30.13
30.88
標準偏差
3.62
4.16
0.75増
2.481*
* 5% 水 準 で 有 意
* * 1% 水 準 で 有 意
表 5 の 2.脂肪量、除脂肪量増減に該当する人数と女子比率
除脂肪量増加
除脂肪量増減なし
除脂肪量減少
計
脂肪量減少
12名(36.4%)
0
0
12名(36.4%)
脂肪量増減なし
0
0
0
0名(0%)
脂肪量増加
0
0
1名(3.0%)
1名(3.0%)
計
12名(36.4%)
0名(0%)
1名(3.0%)
13名(39.4%)
(5) 体重が増加した女子学生 18 名の分析結果について
女子 33 名中、登山後体重が増加した 18 名の有意差検定結果を示すと、表 6 の 1 の通りであった。18 名の
登山後の体重が平均で 0.57kg 増加(1%水準で有意)したことは、脂肪量の平均 0.61kg の減少(1%水準で有
意)と、除脂肪量(体水分量)の平均 1.18kg(0.85kg)の増加(1%水準で有意)の結果によるものであり、
このグループは、脂肪量が減少しているにも関わらず、体重が増加していることから、除脂肪量(体水分量)
増加の影響が大きく体重に現れていることが伺えた。この傾向は、体重が増加した男子のグループと一致する
ものであった。脂肪量、除脂肪量の増減に該当する人数と女子被験者全員の 33 名に対する百分率(表 6−2)
では、18 名(54.5%)中、脂肪量が増加した者が2名(6.1%)、増減のなかった者が 1 名(3.0%)いたが、
残りの 15 名(45.5%)は減少した。また、18 名中、除脂肪量(体水分量)が増加した者は 18 名全員であり、
脂肪量が増加した 2 名と増減のなかった 1 名の合計 3 名においても除脂肪量(体水分量)は増加していた。
表 6 の 1.体重が増加した女子学生 18 名の有意差検定結果
登山前
登山後
平均値の差
t値
体重
平均値
標準偏差
49.69
8.52
50.26
8.43
0.57増
6.077**
脂肪量
平均値
標準偏差
13.12
5.33
12.51
4.92
0.61減
3.592**
除脂肪量
平均値
標準偏差
36.58
3.81
37.76
4.17
1.18増
9.752**
体水分量
平均値
標準偏差
26.78
2.79
27.63
3.05
0.85増
9.527**
* 5% 水 準 で 有 意
* * 1% 水 準 で 有 意
表 6 の 2.脂肪量、除脂肪量増減に該当する人数と女子比率
除脂肪量増加
除脂肪量増減なし
除脂肪量減少
計
脂肪量減少
15名(45.5%)
0
0
15名(45.5%)
脂肪量増減なし
1名(3.0%)
0
0
1名(3.0%)
脂肪量増加
2名(6.1%)
0
0
2名(6.1%)
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国際教養学部紀要 VOL.1(2005.3)
計
18名(54.5%)
0名(0%)
0名(0%)
18名(54.5%)
(6)体重に増減のない女子学生 2 名の測定結果について
女子 33 名中、登山後体重に増減がなかった者は 2 名(6.1%)であった。この 2 名は男子と同様、登山中の
飲食による体重への影響は殆どなかったものと考えられた。表 7 に該当する 2 名の測定結果を示した。登山後
被験者 A は、脂肪量が 0.7kg 減少し、除脂肪量が 0.7kg 増加した結果、体重に増減がなかった。これは全体の
傾向と一致する結果であった。しかし、被験者 B は脂肪量が 0.3kg 増加し、除脂肪量が 0.3kg 減少した結果、
体重に増減がないという結果であり、被験者 A とは逆傾向を示していた。
表 7.体重に増減のない女子学生 2 名の測定結果
体重
脂肪量
除脂肪量
体水分量
登山前
登山後
登山前
登山後
登山前
登山後
登山前
登山後
被験者A
48.9
48.9
10.8
10.1
38.1
38.8
27.9
28.4
被験者B
53.8
53.8
11.6
11.9
42.2
41.9
30.9
30.7
2.学生(男女別)の登山前後の分析結果について
学生の登山前後の有意差検定結果を男女別に示すと、表 8 の 1 の通りであった。男子 72 名は登山後、 体重
が平均で 0.29kg 減少し、5%水準で有意差が認められた。また、体重の有意な減少に伴って、BMI は平均で
0.08 の減少、肥満度も平均で 0.4%の減少と、5%水準で有意に低下した。男子の体重の有意な減少は、脂肪量
の平均 1.12kg の減少と除脂肪量(体水分量)の平均 0.83kg(0.61kg)の増加によるものであり、脂肪量の減
少、除脂肪量(体水分量)の増加はいずれも 1%水準で有意差が認められた。また、体重に対する脂肪量を百
分率で示した体脂肪率も 1.51%の減少と 1%水準で有意に低下した。女子 33 名は登山後、体重が平均で 0.14kg
増加していたが、有意差は認められなかった。また、BMI は平均 0.24 の減少、肥満度は平均 0.31%増加を示
したが、いずれも有意差は認められなかった。しかし、脂肪量は平均で 0.83kg の減少、除脂肪量(体水分量)
は平均で 0.97kg(0.72kg)の増加を示し、いずれも 1%水準で有意差が認められた。また、体脂肪率も 1.49%
の減少と 1%水準で有意に低下した。以上より全体の傾向は男女とも共通して、体重の増減に関係なく 1%水
準で脂肪量の減少と除脂肪量(体水分量)の増加が認められ、それに伴って、体脂肪率も 1%水準で減少した
といえる。
表 8 の 1.学生の登山前後の有意差検定結果(男女別)
男
身長
体重
インピーダンス
脂肪率
脂肪量
子
(N=72)
女
子
(N=33)
登山前
登山後
平均値の差
t値
登山前
登山後
平均値の差
t値
平均値
172.58
ー
ー
ー
157.88
ー
ー
ー
標準偏差
5.48
ー
ー
5.76
ー
ー
―
平均値
65.14
64.85
0.29減
53.24
53.38
0.14増
1.362
標準偏差
13.12
12.55
10.29
10
平均値
470.89
449
38.42減
6.902**
標準偏差
60.33
51.29
平均値
18.6
17.09
1.49減
5.204**
標準偏差
5.944
5.621
平均値
12.79
11.67
0.83減
4.119**
21.89減
1.51減
1.12減
- 100 -
2.565*
6.463** 529.15
490.73
62.64
59.26
9.256** 26.54
25.05
5.83
5.41
8.513** 14.66
13.83
国際教養学部紀要 VOL.1(2005.3)
標準偏差
7.15
6.44
平均値
52.35
53.18
標準偏差
6.78
6.97
平均値
38.32
38.93
標準偏差
4.96
5.1
除脂肪量
体水分量
BMI
平均値
21.81
21.73
標準偏差
3.92
3.74
平均値
-0.85
-1.25
標準偏差
17.83
17.02
肥満度
6.11
0.83増
0.61増
0.08減
6.169** 38.58
39.55
4.69
5.09
6.415** 28.25
28.96
3.43
3.71
2.316*
0.4減
5.5
2.426*
21.54
21.3
3.26
3.02
-3.22
-2.91
13.96
13.55
0.97増
5.243**
0.72増
5.376**
0.24減
1.4
0.31増
1.648
* 5% 水 準 で 有 意
* * 1% 水 準 で 有 意
表 8 の 2.男子学生 72 名の体重、脂肪量、除脂肪量の増減に該当する人数と比率
A-1
A-2
A-3
B-1
B-2
B-3
脂肪量減少
脂肪量減少
脂肪量減少 脂肪量増減なし 脂肪量増加
脂肪量増加
除脂肪量増加 除脂肪量増減なし 除脂肪量減少 除脂肪量減少 除脂肪量増加 除脂肪量減少
体重減少
30名
1名
5名
2名
0名
4名
42%
1.40%
6.90%
2.80%
5.60%
体重増減なし
4名
0名
0名
0名
0名
1名
5.60%
0%
0%
0%
0%
1.40%
体重増加
20名
0名
0名
0名
4名
1名
27.80%
0%
0%
5.60%
1.40%
計
54名
1名
5名
2名
4名
6名
75.00%
1.40%
6.90%
2.80%
5.60%
8.30%
計
42名
58.30%
5名
6.90%
25名
34.70%
72名
100%
表 8 の 3.女子学生 33 名の体重、脂肪量、除脂肪量の増減に該当する人数と比率
体重減少
体重増減なし
体重増加
計
A-1
脂肪量減少
除脂肪量増加
12名
36%
1名
3.00%
15名
45.50%
28名
84.80%
A-4
脂肪量増減なし
除脂肪量増加
0名
0%
0名
0%
1名
3.00%
1名
3.00%
B-2
脂肪量増加
除脂肪量増加
0名
0%
0名
0%
2名
6.10%
2名
6.10%
B-3
脂肪量増加
除脂肪量減少
1名
3.00%
1名
3.00%
0名
0%
2名
6.10%
計
13名
39.40%
2名
6.10%
18名
54.50%
33名
100%
表 8 の 2 には男子学生 72 名の、表 8 の 3 には女子学生 33 名の体重、脂肪量、除脂肪量の増減において生じ
た7 通 り の分 類に 該 当 する 人数 と 比 率を 示し た。7 通りの分類の内、A−1は体重の増減に関係なく脂肪量 が
減少し、除脂肪量が増加した者、A−2 は体重が減少した者で脂肪量が減少し、除脂肪量に変化がなかった者、
A−3 は体重が減少した者で脂肪量が減少し、除脂肪量も減少した者、A−4 は体重が増加した者で脂肪量に変
化がなく、除脂肪量が増加した者を示している。また、A−1∼4 の者は全て体脂肪率が減少した個人であり、
二 泊 三 日 の 薬 師 岳 登 山 の 成 果 と し て 体 組 成 が 変化したと評価できる分類である。 B−1は体重が減少した者で
脂肪 量 に 変化 がなく 、 除脂 肪量 が 減 少し た者 、B−2 は体重が増加した者で脂肪量が増加し、除脂肪量 も増 加
した者、B−3 は体重の増減に関係なく脂肪量が増加し、除脂肪量が減少した者を示している。この B−1∼3
の者は全て体脂肪率が増加した個人であり、登山の成果が体組成の変化に反映されなかったと評価できる分類
である。男子 72 名の 7 分類に該当する内訳は、A−1が 54 名(75%)、A−2 が 1 名(1.4%)、A−3 が 5 名
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国際教養学部紀要 VOL.1(2005.3)
(6.9%)、B−1 が 2 名(2.8%)、B−2 が 4 名(5.6%)、B−3 が 6 名(8.3%)であった。女子 33 名の内訳は、
A−1 が 28 名(84.8%)、A−4が 1 名(3.0%)、B−2 が 2 名(6.1%)、B−3 が 2 名(6.1%)であった。A−
1∼4 に該当する人数は、男子で 60 名(83.3%)、女子で 29 名(87.9%)であり、B−1∼3には、男子 12
名(16.7%)、女子 4 名(12.1%)が該当した。これらを学生全員の 105 名の比率で示すと、登山後の成 果と
して評価できる A−1∼4 に該当する者は、89 名(84.8%)、成果が反映されなかった B−1∼3には 16 名
(15.2%)が該当する結果であった。このことは、二泊三日の薬師岳登山は短期間であるため、一過性の体組
成の変化と捉えられるが、男女とも大部分の学生の体脂肪率が減少したことを示すものであった。本学の薬師
岳登山は、一般的には一泊二日でも可能なスケジュールといえるが、安全性を優先し、体力に自信がない学生
でも充分にスケジュールが消化できるよう配慮しているため、余裕を持った行程を採用している。しかし、通
常の歩行と違い実際の登山は、荷物を背負い、昇り下りの連続歩行となり、気象条件の変化や平地と違って、
低温、低気圧の環境での歩行となり、総消費エネルギーはかなり多くなると推定でき、これらのことが多くの
学生の体脂肪率減少に影響したものと考えられた。また、登山の成果が体組成に反映されなかった 16 名につ
いては、本研究の調査項目が登山前後の体重と体組成に関する項目のみであったため、他の要因(日常や登山
期間中の飲食物摂取状況、排泄物の有無、体力状況、睡眠時間を含めた生活リズムなど)や登山前の体重、体
脂肪レベル、測定精度との関連から考察する必要があり、これらについては、今後の課題としたい。
Ⅳ.まとめ
実際の登山における諸条件の中での研究の必要性やこれまで薬師岳登山を経験した学生の報告を検証する
ため、平成 15 年度から 11 年度の 5 年間、薬師岳登山に参加した富山国際大学学生で、登山前後の測定の記録
が確認できる 105 名(男子 72 名、女 子 33 名)を被験者として、二泊三日の薬師岳登山における大学生の体重、
体脂肪の変化を検討し、以下の結果を得た。
1. 男子 72 名は登山後、体重が平均で 0.29kg 減少し、5%水準で有意差が認められた。また、体重の有意な
減少に伴って、BMI は平均で 0.08 の減少、肥満度も平均で 0.4%の減少と、5%水準で有意に低下した。
男子の体重の有意な減少は、脂肪量の平均 1.12kg の減少と除脂肪量(体水分量)の平均 0.83kg(0.61kg)
の増加によるものであり、脂肪量の減少、除脂肪量(体水分量)の増加はいずれも 1%水準で有意差 が認
められた。また、体重に対する脂肪量を百分率で示した体脂肪率も 1.51%の減少と 1%水準で有意に低下
した。
2. 女子 33 名は登山後、体重が平均で 0.14kg 増加していたが、有意差は認められなかった。また、BMI は
平均 0.24 の減少、肥満度は平均 0.31%増加を示したが、いずれも有意差は認められなかった。しかし、
脂肪量は平均で 0.83kg の減少、除脂肪量(体水分量)は平均で 0.97kg(0.72kg)の増加を示し、いずれ
も 1%水準で有意差が認められた。また、体脂肪率も 1.49%の減少と 1%水準で有意に低下した。
3. 男子 72 名の 7 分類に該当する内訳は、A−1が 54 名(75%)、A−2 が 1 名(1.4%)、A−3 が 5 名(6.9%)、
B−1 が 2 名(2.8%)、B−2 が 4 名(5.6%)、B−3 が 6 名(8.3%)であった。女子 33 名の内訳は、A−
1 が 28 名(84.8%)、A−4が 1 名(3.0%)、B−2 が 2 名(6.1%)、B−3 が 2 名(6.1%)であった。A
−1∼4 に該当する人数は、男子で 60 名(83.3%)、女子で 29 名(87.9%)であり、B−1∼3には、男
子 12 名(16.7%)、女子 4 名(12.1%)が該当した。これらを学生全員の 105 名の比率で示すと、登山後
の成果として評価できる A−1∼4 に該当する者は、89 名(84.8%)、成果が反映されなかった B−1∼
3には 16 名(15.2%)が該当する結果であった。このことは、二泊三日の薬師岳登山は短期間であるた
め、一過性の体組成の変化と捉えられるが、男女とも大部分の学生の体脂肪率が減少したことを示す もの
であった。
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国際教養学部紀要 VOL.1(2005.3)
謝
辞
本研究を進める際、富山国際大学健康管理センター保健師高木茂子さん、退職された山田美恵さんにご協力
を得た。ここに記して深謝いたします。
文
献
1)安部孝・福永哲夫(1998 年)日本人の体脂肪と筋肉分布.杏林書院:東京,pp28-30.
2)小宮秀一(1998 年)身体組成の科学.不昧堂出版:東京 pp108-110.
3)小宮秀一(1998 年)からだにたまる脂肪の不思議.不昧堂出版:東京 pp33-35.
4)出村慎一(1996 年)健康・スポーツ科学のための統計学.大修館書店:東京.
5)平松携(1999 年)歩行と登山の科学.道和書院:東京,pp2-10.
6)日本登山医学研究会編(2002 年)登山の医学ハンドブック.杏林書院:東京,pp177-181.
7)鈴木慎次郎他(1976 年)肥満治療のための運動と栄養の処方に関する研究.体育科学 4:pp31-38.
8)山 地 啓 司 (2004 年 )減 圧 環 境 下 の 階 段 式 ト レ ッ ド ミ ル 歩 行 に み ら れ る 生 理 学 的 応 答 .北 陸 体 育 学 会 紀 要 第 40
号:pp1-8.
9)山地啓司(1981)運動処方のための心拍数の科学.大修館書店:東京,pp110-113.
10)山里哲史(2003 年)女子学生の年間の体組成変化について.日本体育学会 54 回大会号.pp596.
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