321 最新塗料講座(第 XII 講) J. Jpn. Soc. Colour Mater., 84〔9〕,321 – 328(2011) 塗料・塗装に関する法規制の概要 吉 川 裕 *,† * 関西ペイント㈱品質・環境本部第 2 部 神奈川県平塚市東八幡 4-17-1(〒 254-8562) †Corresponding Author, E-mail: [email protected] (2010 年 12 月 1 日受付; 2011 年 5 月 6 日受理) 要 旨 化学物質管理に関連する法令は多くあり,溶剤,顔料などの化学製品から作られる塗料もその規制を受ける。化学物質に関する法 令の中から,塗料・塗装に携わるものが少なくとも知っておくべき法令について,その概要を紹介する。 キーワード:化学物質管理,法令 法令について,その概要を紹介する。 1.はじめに 2.国内法令 塗料は,物体(被塗物)の表面を覆うことにより,その物体 この 2 章では,環境保護,環境汚染,安全衛生,化学物質管 を保護したり,物体に美観を与えたりすることをおもな機能と し,この機能を求めるために使用され続けている。自動車の車 理に関連する国内法令について紹介する。 環境保護,環境汚染に対する法律 体の色,景観にあった建物の色,橋梁の錆からの保護などはこ 2.1 の機能を活かしたもので,塗料を用いることで快適さや便利さ 2.1.1 を得ている。 大気汚染,水質汚濁,土壌汚染,騒音,振動,地盤沈下,悪 環境基本法 しかし,その反面,塗料の設計から塗装,使用,廃棄までの 臭の「典型 7 公害」について,公害対策基本法でこれらの防止 ライフサイクルを通じて,有機溶剤による火災,塗料製造時, に対応してきた。しかし,都市型公害や廃棄物の問題や地球規 塗装時の有機溶剤排出による大気汚染や塗料製造者・使用者の 模の環境問題が大きく取り上げられるようになったことから, 健康障害などといった塗料を取り扱ううえでの危なさも含んで これまでの公害の防止措置に加え,社会経済活動や国民の生活 いる。 様式のあり方まで踏み込んだ環境保全に関する施策を総合的か 化学物質から,人の健康・安全や環境を守ることを目的に, つ計画的に推進する法的枠組みが必要となった。このような背 化学製品の製造,使用,販売,貯蔵,廃棄を通して,化学物質 景から,環境保全について基本理念を定め,国,地方自治体, に関する法令が多くあり,有機溶剤,顔料,樹脂などの化学物 事業者および国民の責務を明確にして,環境保全に関する施策 質から作られている塗料もこれら化学物質に関する法令の規制 を推進することによって,健康で文化的な生活を確保するとと を受けている。 もに人類福祉に貢献することを目的に,環境基本法が制定さ また,人の健康と環境にもたらす悪影響を最小化する方法で れ,1993 年 11 月に施行された。 化学物質を使用,生産するように,日本での化学物質管理促進 環境基本法では,政府が,環境の保全に関する基本的な計画 法,化学物質審査規制法の改正や EU での REACH 規則の制定 (環境基本計画),大気の汚染,水質の汚濁,土壌の汚染および など,化学物質管理に関する整備が世界的に進められている。 騒音について人の健康の保護および生活環境の保全をするうえ このような背景から,塗料の設計,製造,使用,貯蔵など, で維持されることが望ましい基準(環境基準)を策定すること 塗料を取り扱う者は,化学物質に関する法令などの内容を理解 としている。また,事業者の責務として,事業活動によって生 し,適切に対応することが要求される。ここでは,塗料の研 じる公害を防止し自然環境を適正に保全するために必要な措 究・開発,製造,販売に携わる者が少なくとも知っておくべき 置,事業活動にかかわる製品その他の物が廃棄物となった場合 に適正な処理が図られるようにする措置が事業者の責務として 〔氏名〕 よしかわ ゆたか 〔現職〕 関西ペイント㈱品質・環境本部第 2 部 部長 〔趣味〕 読書 〔経歴〕 1988 年 4 月関西ペイント㈱入社。レジスト 材の研究・開発に従事。2002 年より現職。 定められている。 2.1.2 第三次基本計画 2006 年 4 月に「第三次環境基本計画(サブテーマ:環境から 拓く新たなゆたかさへの道) 」が,環境基本法第 15 条に基づき, 閣議決定され,告示された。 この環境基本計画では,環境基本法の基本理念「①環境の恵 沢の享受と継承,②環境への負荷の少ない持続的発展が可能な − 19 −
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