景観写真で読み解く 武蔵野 1.グループ名:「文化地理ゼミ」 学部1年生から大学院2年生、学科はA・B類社会科、F類文化財など幅広いメンバー17人 で活動。 2.本活動の目的・意義 本プロジェクトでは、地域や場所の特徴を理解するうえで、最も有効な題材の一つである「景 観/ランドスケープ」に着目した。 景観は自然環境・風土や、経済・社会・文化活動など、さまざまな人間の生活や暮らし、さら には地域の歴史や記憶などが相互に関連しつつ形成されるものである。一般に、日本社会は、欧 米に比べ、景観に対する関心や意識が低いと評されることが多い。しかし近年では、2004 年に「景 観法」が施行されるなど、日本においても景観に関する議論が盛んになりつつある。 しかし一方で、私たちを日常的にとりまく景観は、その日常性のあまりに、ほとんど意識され ることなく存在する。景観の意味や特徴をあらためて認識することはほとんどない。普段見慣れ た景観から何をどのように読み取るのか、そうした景観の解読は非常に難しい作業である。 景観写真を教材や資料に用いることは、学校教育においてよく行われているが、複合的要素か らなる景観から何をどう読み取るのかを具体的に提示する試みは、地理学や地理教育においてさ え、従来、あまり行われてこなかった。 また、景観は、都市化や交通条件の変化など、さまざまな影響を受けつつ常に変化していく。 武蔵野は、近代以降、都市化の波の中で大きく変貌してきた。近年では、駅前再開発やマンショ ン建設などによる景観変化が著しい。その意味では、ある時点での景観を、地域や暮らしを語る 材料として記録し、資料として残していくことも重要であろう。 いつのまにか身近な風景が失われたり、遠くの山が見えなくなったりして落胆することも多い。 「故郷」や「居場所」が、人間の心の安定やよりどころとして大きな意味をもつのと同様に、景 観は実は私たちの精神やアイデンティティと深く結びついているのではないだろうか。 このような景観を表現し、読み解く手段として今回我々は「景観写真」を用いた。景観写真と は一般に撮影される風景写真とは異なり、地域における調査をもとに、景観に意味を見出した上 で撮影される写真である。これまでの地理学における研究では様々な景観写真が地図と一緒に提 示されてきたが、具体的な解読方法については十分に吟味されてこなかった。 石材店 花も売っているカフェ 花屋 多磨霊園南門へ 写真 景観写真の例 多磨霊園南門の様子(2月9日撮影) よって本プロジェクトでは、中学生以上(学生、教員、地域住民など)を対象に、景観写真を用 いた景観の解読方法や意味を知っていただき、また景観写真を通して地域や場所の個性、履歴、 記録を提示することにより、地域認識・理解を深めてもらうことを目的とする。 3.主な活動内容と活動スケジュール 7 月~ 今回、景観写真の撮影にあたっては現代GPの「多摩川エコモーション」というテーマから研 究対象地域を武蔵野に設定した。ゼミ員個人、もしくはグループで武蔵野の中から研究対象地域 とテーマを決定し、それぞれ現地調査をおこなった。対象地域とテーマについては以下の表の通 りである。 表 対象地域とテーマ 学年 氏名 対象地域 テーマ 院2 阿部 日野市多摩平 団地のある風景 院2 南 西東京市東伏見駅南側 都市の中の伝統と娯楽 4年 青柳 吉祥寺駅北口周辺 都市における歴史性と地域文化 4年 天内 三鷹駅南口周辺 再開発と文学の町 4・3 年 黒川・丹野 練馬区大泉学園周辺 都市と農地の調和 4年 沼田・杉本 玉川上水駅 残る自然と都市化 3年 飯田 多摩市永山地区 多摩ニュータウンの衰退と 再生への取り組み 3年 打越 石神井公園周辺 開発と残る自然 3年 落合 新座市・野火止緑道 水・緑とともに暮らす 3年 立野 多磨霊園 先祖祭祀空間と葬儀産業の融合 3年 古川 青梅市 昭和の景観とまちづくり 3年 原薗 小金井市貫井南町 多摩川が作った河岸段丘 3年 福井 国分寺街道 様々な表情を見せる一本の道路 2年 田村 多摩湖線沿線 西武多摩湖線沿線の風景 1年 堀井 国立市谷保 水が育む豊かな町 11 月~ 調査内容にもとづき、景観写真と写真が意味するもの、そしてそこから読み取れることの考察 を各自でおこなった。文化地理ゼミでは、後期の毎週月曜日の昼にランチミーティングをおこな い、調査内容、写真、考察の発表をおこなった。ランチミーティングでは調査の発表と、議論を おこなうことで、景観写真の解読をより深めることができた。 写真 ランチミーティングの様子(12 月 17 日撮影) 2月 調査結果を地域に発信するために、地域の公民館、図書館などの公共機関へ配布するスタディ ー・ガイドにまとめた。読んだ人が実際にその地域を訪れた時に、いつもとは違った視点で地域 を眺めてもらい、新たな発見をしてもらうことが目的である。 3月 スタディー・ガイドの内容や今回の我々の活動を、より多くの人に知ってもらうために文化地 理ゼミのホームページ(http://www.geocities.jp/gakugeiculturalgeo2007/)で公開し、情報の発 信をおこなう予定である。他にも、学内への発信として、プロジェクトの成果の一部として展示 物を作成し、3月18日から 1 ヵ月の間、本学附属図書館の1Fエントランスに掲示をすること になっている。 4.まとめ 今回のプロジェクトによって、普段何気なく見てきた武蔵野の風景に対して、景観写真を撮る という目的から、新たな意味を見出すことができた。普段、地図や統計データから地域的特徴を 見てきた我々にとって、景観写真によって地域的特徴を見出すという今回のプロジェクトは新た な試みであり、大変よい経験であった。そして、ランチミーティング等で発表や議論を行なうこ とで、武蔵野の景観をさらに様々な視点から見つめることができた。 また、この結果をスタディー・ガイドの製作、配布によって大学という限られた場における関 心や情報を、地域へと発信し、その評価を問うことが可能になると思われる。ただ、卒業論文等 の提出などにより、スタディー・ガイド作成が2月にならざるを得ず、完成、配布することはで きたものの、配布地域におけるスタディー・ガイドについての反応を、現時点では得ることがで きなかった。同様に、学校図書館での展示についても遅れてしまい、学内におけるこのプロジェ クトに対する反応も得ることができなかった。よって次年度以降に向けて、プロジェクトの活動 スケジュールを見直していくと共に、今後得られるスタディー・ガイドや図書館展示に対する反 応をもとにプロジェクトの内容についても改善していきたい。また、今回は日程の関係から見送 られたが、スタディー・ガイドにもとづく武蔵野のスタディー・ツアーの実施についても、この プロジェクトそのものや景観の持つ意味が、地域住民や学校、子どもたちに認識されるためには 有効と思われるので、次年度以降何らかの形で実施していきたいと思う。 今回、現代GPの一環としてこのプロジェクトをすることで、スタディー・ガイドの印刷、郵 送を始めとする、様々な資金面でのサポートや、活動における相談、アドバイスを受けることが できました。このようなサポートによって、私たちのプロジェクトの成果を形にすることができ ました。ゼミ員一同、心より感謝申し上げます。 写真 完成したスタディー・ガイド(2 月 28 日撮影)
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