『覚醒・咀嚼機能向上を目指した食事動作への介入』

25-第8-J④-2 一般演題
7 月25日
(木)
17:00~18:00 第 8 会場 金沢市アートホール ホール
食事(栄養)
ケア④ [座長]矢野 辰志 (天草社会保険介護老人保健施設さわやかランド)
第 1 群:101 入所
第 2 群:202 症例・事例による貴重な意見
第 3 群:J3342 食事(栄養)ケア 経口摂取・嚥下障害
『覚醒・咀嚼機能向上を目指した食事動作への介入』
~「飲み込みが悪い」の背景にあるもの~
介護老人保健施設 プライムケア桃花林
菅野 伊織
老健施設などの慢性期によくみられる長期臥床や認知機能低下によって起こる摂食・嚥下障害に対して、「覚醒」及び「咀
嚼機能」に着目し、食事動作へ介入を行なった。その経過や今後の課題について報告し考察する。
【はじめに】
当施設において、各フロアよりSTへの食事評価依頼は数多く寄せられるが、その多くは「飲み込みが悪いから評価して
ほしい」という内容である。しかし当施設の入所者の中には重症度の高い認知症や長期臥床により覚醒レベルが低下して
いる例が多く、「直接的嚥下訓練」に代表される口腔期・咽頭期に対する限局的なアプローチが、全般的認知機能障害症
例に果たして有効なのだろうか。という疑問を日々感じていた。今回は摂食・嚥下機能とヒトの生理的機能の諸相を照ら
し合わせ、利用者、セラピストが共に認識しやすく、末梢器官の動作を得られやすい「咀嚼機能」に着目しアプローチを
行った。しかし、著しく覚醒レベルが低下している症例に対して何の工夫もせずに咀嚼動作を促すことは難しい。そのた
め、目的とする咀嚼動作の誘発に先行して、口部・顔面領域に対する外的感覚刺激や口唇・舌といった各口腔器官の他動
的筋活動を促した。
本研究では上記アプローチから実際の食事場面、今後の継続的な介入の推奨までを一部考察を交えてここに報告する。
【導入】
摂食・嚥下機能障害に陥る要因としては以下のように様々なことが考えられる。
■全身状態:脱水、栄養状態、廃用による感覚低下
■口腔内の状態:乾燥、義歯の適合、口臭、逆流
■既往歴:服薬(傾眠、食欲減退などの要因)
このように目には見えない様々な要因が複合的に影響することで、障害像がより複雑化し、「飲み込みが悪い」という抽
象的な捉え方になってしまう。
【仮説】摂食・嚥下機能をヒトの生理的機能と照らし合わせると、より随意的~より自立(反射的)。あるいは、より認識
的~より身体的というように分類される。
◎摂食・嚥下機能の各期に対するアプローチを考えると
〈認知期〉
⇒機能低下によって利用者本人の「気づき」が得られないと治療効果はほとんど得られないため、アプローチしにくい 〈準備期・口腔準備期〉
⇒器官に直接触れることができ、動作コントロールしやすい上に状態の 波に左右されず、リスクも少ないため、比較的
アプローチしやすい
〈口腔期・咽頭期〉
⇒反射的動作に対するアプローチであるため、コントロール困難であり、本人の状態にも左右されるため、アプローチし
にくい ◎キーワード 「咀嚼機能」に着目した。咀嚼運動の基本パターンは、脳幹に存在する中枢性パターン発生器(CPG)によって形成さ
れていると考えられている。我々はこのCPGが機能していることで、食事中特に意識しなくても、食材に合わせたリズミ
カルな咀嚼運動を行うことができている。CPGは障害によって、食事動作の随意性が著しく低下している場合であっても、
末梢感覚受容器からの感覚・運動情報によって起動することができる
≪すなわち、咀嚼機能の向上によって、先行する認知機能、後に続く嚥下機能にも良い影響を与えるのではないかと考え
た。≫
【介入の実施内容】
◎認知機能(覚醒)に対する刺激
★皮膚への温度覚刺激(フェイスタオル使用)
・刺激の種類: 冷⇔熱 ・刺激の強度: 弱⇔強(弱=さする程度、強=マッサージ)
◎咀嚼機能に対する刺激
★口腔器官への味覚刺激 ・味覚の種類: 甘味・酸味 ※甘味・酸味は高齢期でも維持されやすい ・刺激の強度: 弱⇔強(刺激物の大きさ、弱=小、強=大) ・形状:ゼリー状⇔固形(シャーベット状)
〈介入期間 2week〉
※対象:・現在経口摂取(咀嚼食~嚥下食)している ・覚醒状態安定せず、摂食動作が非円滑的 ※ 実施条件:入力刺激は極力不快感を与えないもの
≪実施内容≫
1.食前に冷水あるいは温水で濡らした状態のフェイスタオルを使用し、口部・顔面のマッサージを行ない、覚醒を促す。
2.顔面及び口腔器官に対して言語療法的治療を加え、円滑な動作を促す
3.甘味・酸味のゼリー・固体(氷)を口腔内に含み、咀嚼を促す
【介入結果】
:1.実施によって一時的に意識レベルの向上が図ることができた。 :1.を実施したことによって2.実施時により自動的な末梢器官の動作を促すことが出来た :3.実施時においてはゼリーよりもシャーベットの方がよりダイナミックな咀嚼動作を喚起することができた :3.ではシャーベットの大きさによっては咀嚼動作喚起されない場合や動作の阻害を受ける場合があり、大きさの調整が
必要であった。 :咀嚼後の嚥下動作では甘味よりも酸味の方がより嚥下反射が円滑に惹起されていた ※一般的には酸味覚が最も後期まで維持されやすいとされている
【考察】★味覚刺激となる物体の大きさが咀嚼動作喚起には重要なポイントとなる ⇒小さすぎると:刺激が弱くCPGの起動に至らない ⇒大きすぎると:顎や舌の動作の妨げになる
★味覚・体性感覚・温覚といった感覚的情報はより強い(はっきりした)ほうが動作喚起を得られやすい
★ただし刺激強度が強すぎると不快刺激となり、摂食意欲の低下につながるため、要注意
★食事に先行して介入を行なうことが大事
★咀嚼動作を促す上で、口部正面から刺激入力すると、吸綴動作など目的と異なる動作が起こるため、奥歯で咀嚼を促す
必要がある。
【課題】★リハビリの介入によって一時的に機能改善が図れたとしても、実際の食事場面で機能の般化が行なえていない
状態である為、どのように目的とする動作を促していけるかが問題である。また、機能の維持を図る為、意図的かつ継続
的な介入が必要である。
★推奨するフロアでの介入方法 1 )温タオル(夏季であれば、冷タオル)での口部・顔面の刺激 2 )アイス棒(アイ
スキャンディーでも可)での口腔内冷却刺