デジタルメコンの風 - JBAH ホーチミン日本商工会

季 刊 Digital Report「Digi Meko」
2014年10~12月号
ホーチミン市人民委員会とのラウンドテーブルで発言する坂上副会長兼事業環境委員長
デジタルメコンの風
目次
ロンアン省人民委員会表敬訪問&意見交換会
P2
中小企業・裾野産業支援委員会学習会『 「転ばぬ先の杖」
ベトナム経営で起こったトラブルとその対応』開催
金融・税制委員会 「ベトナム税制セミナー法人税編」
開催
P3
教育・医療・安全委員会「ベトナム安全セミナー」
開催
労働・雇用委員会セミナー開催(12/03)
P6
日越共同イニシアティブ第五フェーズ最終評価会合 P7
人材育成委員会「JBAH奨学金授与式」開催
第13回 「海外赴任者支援セミナー」開催
金融・税制委員会 「ベトナム税制セミナー付加
価値税・外国契約者税編」開催
JBAH部会対抗ザ・ゴルフトーナメント決勝戦
P4
2014年度「ホーチミン市人民委員会とのラウンドテーブ
ル」開催
JBAHミャンマー視察団 P5
P8
金融・税制委員会 「ベトナム税制セミナー個人所得税
編」
中小企業・裾野産業支援委員会総括学習会(12/26)P9
メコンの風 1号・2号による ベトナムM&Aの本当の実務
P10 ホーチミン日本商工会(JBAH)/広報委員会発行
※本誌の内容を無断で複写・複製・転載することを禁じます。
掲載の内容についてのご質問などはJBAH事務局までお問い合せください。
Digital Report
デジタルメコンの風
ロンアン省人民委員会表敬訪問&意見交換会
(2014年10月14日)
ホーチミン日本商工会は2014年10月14日、ロンアン省人民委員会庁舎にて、ロンアン省人民
委員会との意見交換を開催いたしました。ロンアン省 人民委員会側からはRanh副委員長はじ
め各部局の局長クラスが、日本側からはJBAH百石会長、山口副会長、安栖副会長、金﨑委
員長、大林事務局長、ロンアン地域連絡会メンバーが出席しました。ロンアン省での交通・運
輸・インフラ、公共サービス、電力、税務、治安、労働力などの項目について一つづつ活発な
意見交換を行い、さっそく成果が見られるなど有意義な意見交換会となりました。また、意見
交換会後には懇親会も開催、大いに盛り上がりました。
中小企業・裾野産業支援委員会学習会『 「転ばぬ先の杖」 ベトナム経営
で起こったトラブルとその対応』開催 (2014年10月24日)
ホーチミン日本商工会 中小企業・裾野産業支援委員会(委員長=渡邉豊・TOWA
INDUSTRIAL VIETNAM)は、10月22日、パレスホテルにて、学習会『「転ばぬ先の杖」 ベ
トナム経営で起こったトラブルとその対応』を開催しました。当日は、 日系企業において実際
に起こった日常的なトラブル事例を事業経験豊富な経営者や弁護士、会計士の方々にご登壇い
ただくとともに、渡邉委員長のコーディネートのもと、山本第三工業部会長を特別ゲストに、
これらトラブルをどう対処すべきかについて座談会方式でディスカッションが行われました。
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2014年10~12月号
金融・税制委員会 「ベトナム税制セミナー法人税編」開催
(2014年10月29日)
ホーチミン日本商工会 金融・税制委員会(委員長=大橋傑・みずほ銀行)は、10月28日、パ
レスホテルサイゴンにて、今年度第二回目となる「ベトナム税制セミナー」法人税編を開催し
ました。セミナーでは、Deloitte Vietnam シニアマネージャー日系サービスグループ担当・樋
口純平氏より、税法上の基本ルール、計算の仕組み、損金不算入項目、課税所得など法人税の
基本について詳細に解説いただくとともに、税務調査対応についてもアドバイスをいただきま
した。
第13回 「海外赴任者支援セミナー」開催
(2014年11月06日)
ホーチミン日本商工会は海外職業訓練協会と共催で、11月6日、JETROホーチミン事務所会議
室にて、第13回 「海外赴任者支援セミナー」を開催しました。三木 康史弁護士(VILAF法律
事務所)を講師としてお招きし、「ベトナム労働法基礎」と題 してベトナムで事業を行うにあ
たって最低限おさえておきたい労働法の基本事項についてご講演いただきました。
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Digital Report
デジタルメコンの風
金融・税制委員会 「ベトナム税制セミナー付加価値税・外国契約者税
編」開催 (2014年11月20日)
ホーチミン日本商工会 金融・税制委員会(委員長=大橋傑・みずほ銀行)は、11月19日、パ
レスホテルサイゴンにて、今年度第三回目となる「ベトナム税制セミナー」付加価値税・外国
契約者税編を開催しました。セミナーでは、KPMG Global Japanese Practice Manager ・金
岡 秀浩氏より、付加価値税の税率、ベトナムのVATの特徴、申告・納税・還付、外国契約
者税の概要、留意点、注意すべき取引事例など付加価値税・外国契約者税の基本について詳細
に解説いただきました。
2014年度「ホーチミン市人民委員会とのラウンドテーブル」開催
(2014年11月28日)
ホーチミン日本商工会は11月28日(金)、ホテル日航サイゴンにて、ビジネスや生活環境改善
についてのホーチミン市人民委員会との話し合いの場である「ラウンドテーブル」を開催しま
した。
ベ トナム側 からはHa人民委員会副委員長、Phuong ITPCセンター長の他、計画投資局、労働
局、商工局、税務局、税関局、輸出加工区・工業団地管理委員会などの各部局幹部約30名、日
本側からは在ホーチミン日本国総事館中嶋総領事、JBAH百石会長、坂上副会長兼事業環境
委員長をはじめとした執行委員、事業環境委員会委員ならびにJBAH会員企業約50名が出席
しました。
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2014年10~12月号
今年度はJBAH会員企業に本ラウンドテーブルに向けて要望を募りましたところ、186項目の要
望が集まりました。その後、事業環境委員会委員と事務局ならびに弁護士、会計士といった専
門家も交えて、186項目の要望を40項目に絞り込み、ホーチミン市側に当該40項目の要望書を
提出しました。8月中旬に事業環境委員会(法務労務チーム、税務通関チーム、安全対策交通運
輸インフラチーム)がホーチミン市側とプレラウンドテーブルを開催し、具体的な改善策を提
示しました。プレラウンドテーブル後、40項目の要望についての評価を実施、ホーチミン市側
に評価コメントを提出し、様々な改善が確認できました。ラウンドテーブル本番では、9項目に
絞って、議論、提案を行い、具体的な解決策を求めました。ホーチミン市側からはこれまで以
上に各担当部局の代表が真摯な態度で回答いただき、閉幕時には、中嶋総領事がまとめとして
意見を述べられ、それに呼応し、ホーチミン市人民委員会Ha副委員長も総括意見を述べられま
した。
JBAHミャンマー視察団
(2014年11月30日)
ホーチミン日本商工会事業環境委員会(委員長=坂上勉・丸紅ベトナム)は、11月30日から12
月2日までミャンマー視察団を派遣いたしました。
本視察団には、32名が参加、現在、注目されている投資先ミャンマーのティラワ工業団地、ミ
ンガラドン工業団地、ミャンマー最大手企業を訪問する他、在ミャンマー日本国大使館、ヤン
ゴン日本人商工会議所、JETROヤンゴン事務所、現地進出日系企業等を訪問し、現地事情や交
通インフラ、地域的特色などを視察いたしました。参加者の満足度は非常に高く、「来年も参
加したい」という声が聞かれました。
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デジタルメコンの風
教育・医療・安全委員会「ベトナム安全セミナー」開催
(2014年12月04日)
ホーチミン日本商工会 教育・医療・安全委員会(委員長=佐野渉・豊田通商ベトナム)は、12
月4日(木)に Bong Sen Hotel にて、ベトナム安全セミナーを開催しました。
本セミナーは年末、テトに向けて増加する犯罪予防にあたり、会員及びそのご家族を対象とし
午前中に開催、総領事館・甲斐崎領事より「最近の治安情勢及び各種被害対策について」につ
いて、そして、セコムベトナム・吉田氏より「ベトナムでの盗難につきまして Ver.3」と題し
てご講演をいただきました。
労働・雇用委員会セミナー開催(12/03)(2014年12月05日)
ホーチミン日本商工会労働・雇用委員会(委員長=本橋弘治・ベトナム味の素)は、12月3日
(水)にRoyal Hotel Saigonにて「労働雇用委員会セミナー」を開催しました。本セミナー
は同委員会が9月に実施した普通ワーカー賃金調査に回答いただいた会員企業を参加対象に開
催したものです。当日は労働・雇用委員会より、実施した普通ワーカー賃金調査結果の解説、
ならびに、事前に参加者からいただいた賃金に関する質問の回答を行った。また、同委員会が
開催した労働法セミナー同様に、渡邊中小企業・裾野産業支援委員長(TOWA INDUSTRIAL
VIETNAM))、本橋労働・雇用委員長(ベトナム味の素)、第三工業部会山本部会長(大成美
術印刷ベトナム)、第五工業部会今村部会長(マブチモー ターベトナム)にもご登壇いただ
き、実務に基づいたパネルディスカッションも行いました。
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2014年10~12月号
日越共同イニシアティブ第五フェーズ最終評価会合
(2014年12月10日)
2014年12月9日(火)にInternationl Convention Centerにて日越共同イニシアティブ第五フ
ェーズ最終評価会合が開催されました。ベトナム側は計画投資省ヴィン大臣、各省庁、日本側
は深田大使をはじめ、JBAHからは百石会長、坂上副会長兼事業環境委員長、大林事務局長、そ
して各WTリーダーが出席し、「サービス産業」、「ノンバンク」、「小売り流通・不動産」、
「食品輸出」など13WT計104項目において、それぞれの進展状況を協議し、最終評価を
実施しました。また、次年度以降、第六フェーズが開催されることも確認されました。
人材育成委員会「JBAH奨学金授与式」開催
(2014年12月10日)
ホーチミン日本商工会 人材育成委員会(委員長=平野善三・三菱東京UFJ銀行)は12月12日
(金)にロッテレジェンドホテルにてJBAH奨学金授与式を開催いたしました。当日は在ホーチ
ミン日本国総領事館中嶋総領事、JBAHからは百石会長、坂上副会長、平野人材育成委員長、大
林事務局長が出席しました。奨学金は例年対比で金額が倍増され、ホーチミン工科大学とホー
チミン人文社会大学の学生20名ずつ、合計40名の学生に授与されました。
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JBAH部会対抗ザ・ゴルフトーナメント決勝戦
(2014年12月17日)
第2回JBAH部会対抗ザ・ゴルフトーナメントは7月20日(日)に開幕し、5ヶ月にわたる予選、
決勝トーナメントを経て、決勝戦を迎えました。第五工業部会対第四工業部会と工業部会対決
となった決勝戦は、2014年12月12日(日)にベトナムゴルフカントリーにて行われ、第五工
業部会が第四工業部会に勝利、この結果、第2回JBAH部会対抗ザ・ゴルフトーナメントは第五
工業部会がチャンピオンに輝きました。
表彰式は1月9日(日)のJBAH新年会にて行われ、優勝チームには記念品が授与されます。
金融・税制委員会 「ベトナム税制セミナー個人所得税編」
(2014年12月19日)
ホーチミン日本商工会 金融・税制委員会(委員長=大橋傑・みずほ銀行)は12月19日(金)
に、パレスホテルサイゴンにて、「ベトナム税制セミナー~個人所得税編~」を開催しまし
た。セミナー当日は2つのパートに分けて開催、パート1はベトナム個人所得税の基礎について
Grant Thornton Vietnamの則岡Directorにご講演いただき、パート2はベトナムの税財政事情
について在ベトナム日本国大使館加藤一等書記官にご講演いただきました。
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2014年10~12月号
中小企業・裾野産業支援委員会総括学習会(12/26)
(2014年12月26日)
ホーチミン日本商工会 中小企業・裾野産業支援委員会(委員長=渡邉豊・TOWA
INDUSTRIAL VIETNAM)は、12月26日、パレスホテルにて、総括学習会を開催しました。
当日は、 第一部と第二部に分けて行いました。第一部では、新年以降、変更となる(なりそう
な)法律・制度についてのダイジェストを長島・大野・常松法律事務所の中川弁護士とI-Glocal
の實原氏にご解説いただきました。第二部では、企業、個人としてテト前に行うべき総点検や
準備についてマブチモーターベトナムの今村社長(第五工業部会長)よりプレゼンいただき、
情報交換を行いました。
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デジタルメコンの風
文責:メコン1号・2号
【プロフィール】
メコン1号 職業:弁護士
性別:男、年齢:30代、昼飯:25,000ドン、趣味:勉強
メコン2号 職業:コンサルタント
性別:男、年齢:30代、昼飯:ほっと一息できるもの、趣味:スポーツ観戦
<メコン1号> ベトナムM&Aの本当の実務その3
今回も、メコン1号がベトナムで実際に体験した案件を元に、ベトナムM&Aの
実態をお伝えしたいと思います。前回の続きです。
<主な登場人物>
Sさん:ベトナム企業の買収を計画する日系企業の担当者
Kさん:日系企業の担当役員
Mさん:買収対象のベトナム企業のオーナー
T会計士:日系企業側の会計士(日本人)
L弁護士:日系企業側の弁護士(ベトナム人)
私(メコン1号):日系企業側の弁護士(日本人)
極めて非効率なハノイ出張(滞在時間24時間:交渉時間1分)を終え、私は帰
路につきました。
しかし、気分は悪くありません。何しろ、こちらの提案した買収条件をMさん
がOKしてくれたのです。
振り返れば、長い道のりでした。
足掛け1年、ホーチミン⇔ハノイ往復20回、ベトナム航空のメンバーシップも
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2014年10~12月号
ゴールドになりました。
Mさんには散々振り回されましたが、それも今となっては良い思い出です。
この後は、①基本条件に関する覚書を締結→②株式売買契約を締結→③代金支
払と株式の譲渡、という流れです。
基本条件は合意済みなので、後は、淡々と書類を準備するのみです。
翌日は、朝からオフィスで覚書のドラフトです。
合意済みの内容なので、筆の進みも速いものです。午前中にSさんに送付完了
です。
ランチを食べ、食後のコーヒーを飲んでいると、Sさんから電話です。
「メコン1号さん、ドラフトありがとうございました。これで問題ないので、
来週、締結しましょう。本社からKさんが来てサインします。」
1週間後、私は、再びホアンキエム湖近くのホテルで昼食を食べていまし
た。Kさん、Sさん、T会計士、L弁護士も一緒です。
前回と違い、みな一様にリラックスモードです。
なにしろ、今回は、MさんとKさんが覚書にサインするだけなのです。
デザートを食べながら、T会計士がMさんに確認の電話を入れます。「もしも
し、Mさん。午後3時の会議ですが、これからオフィスに伺いますね。えっ?
はぁ、そうですか?承知しました。」
T会計士の表情がみるみる曇っていきます。電話を終えたT会計士が言いまし
た。「Mさんの家のジャグジーが調子悪いそうです。会議は午後5時にして欲
しいそうです。」
いつもならば、「それ、関係あるのん?」とT会計士を詰めるところですが、
今日のわれわれは一味違います。われわれの心は、ハロン湾のように穏やかで
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デジタルメコンの風
した。
Kさんが答えます。「まぁ、いいじゃん。ジャグジーはしょうがないよ~。」
私とSさんも答えます。「そうですよね~、やっぱジャグジーですよね~。」
おかわりコーヒーで乾杯です。
Mさんのオフィスまでは、車で40分の道のりです。
午後4時にホテルを出発したのに、帰宅ラッシュに巻き込まれてしまいまし
た。
到着したのは、午後5時5分。少し遅刻です。
会議室に到着すると、Mさんの秘書が待っていました。「申し訳ありませ
ん。Mは待ちきれなくて、マッサージに行ってしまいました。」
いつもならば、「お前、いっつも待たせるくせに!」とT会計士を詰めるとこ
ろですが、今日のわれわれは一味違います。われわれの心は、ハロン湾のよう
に穏やかでした。
Kさんが答えます。「まぁ、いいじゃん。マッサージはしょうがないよ~。」
私とSさんも答えます。「そうですよね~、やっぱマッサージですよね~。」
出されたお茶で乾杯です。
いつものいらいらした感じはありません。恋人を待っているようなウキウキし
た感じです。
2時間ほどしてMさんがやってきました。「お~、来てたのか。待った?」
Kさんが答えます。「だいじょうぶ、今きたとこ☆」
Mさんは、部屋の端の巨大な黒檀の椅子に腰掛けます。われわれが、いつも「
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玉座」と呼んでいる椅子です。
玉座の上には、「公明正大」と書かれた掛け軸が飾られています。
役者が揃ったところで、Kさんが切り出します。「Mさん、今日はお時間頂戴
し、ありがとうございます。事前に送ってあると思いますが、念のため、まず
は覚書の読み合わせをしましょう。」
L弁護士が覚書を逐条で説明して行きます。
L弁護士
「買取株数は発行済株数の80%です」
Mさん
「Ừ」※ベトナム語の「うん」
L弁護士
「買取金額は80億円です」
Mさん
「Ừ」
L弁護士「DDで見つかった問題点は、売主がクロージングまでに是正する責
任を負います」
Mさん
「Ừ」
L弁護士「隠れた債務が判明した場合は、売主が責任を持ち、対象会社/買主
に損害が発生した場合は、売主が損害を補償します」
Mさん
「Ừ」
L弁護士「その他、詳細については、株式売買契約で最終的に定めることにな
ります」
Mさん
「Ừ」
L弁護士
「覚書の内容については、以上です。」
Kさんが最後に確認をします。「Mさん、これからお互いにサインをします
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デジタルメコンの風
が、何かありますか?」
Mさんが答えます。「いや、大丈夫だ。それじゃあ、調印式を始めよう。」
言い終わると、Mさんは、手を2回「ぱんぱん」と叩きます。
従業員がぞろぞろ入ってきます。手に手に赤いネクタイやら絨毯やら持ってい
ます。
われわれ全員、赤いネクタイに交換です。
床には赤い絨毯が敷かれ、黒檀の机には赤いカバーがかけられ、日越両国の国
旗が掲げられます。
赤地に黄色の★、ベトナムの国旗です。
緑地に赤色の●、日本の国旗、、、ですか??
Sさんが言いました。「Mさん、この国旗は、、、。」
Mさんが笑顔で答えます。「俺の故郷では、緑は縁起がいいんだぞ。」
いつもならば「知らんがな!」とT会計士を詰めるところですが、今日のわれ
われは一味違います。われわれの心は、ハロン湾のように穏やかでした。
Kさんが答えます。「まぁ、いいじゃん。縁起いいじゃん。」
私とSさんも答えます。「そうですよね~、やっぱバングラですよね~。」
KさんとMさんが黒檀の机に並んで座り、われわれ一同は、その後ろに並びま
す。
従業員が、高そうなカメラで写真撮影します。
KさんとMさんが覚書に署名し、各ページの末尾にイニシャルを記載していき
ます。
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ところで、日本では、重要な契約には割印を行うのが一般的ですが、ベトナ
ムでは『各当事者が全ページの末尾にイニシャルを記入する方法』が一般的で
す。
差し替えや変造を防止するとともに、『各当事者が全ページを確認の上で契約
締結したこと』の証拠になるのです。
場合によっては、「契約が全部で300ページ、当事者が20名」といったケ
ースもあり、総ページ数は、英語版とベトナム語版あわせて12,000ページ
(300×20×2)にも及びます。
イニシャルとはいえ、12,000回サインするというのは苦行ですね。
閑話休題、サインを終えたKさんとMさんは立ち上がり、がっちりと握手を交
わします。
シャッターチャンスです。従業員のカメラからフラッシュが光ります。
ベトナムとバングラディシュの国旗がたなびきます。
一同起立で、両国の国家斉唱です。
スピーカーからベトナムの国家が勢いよく流れます。
「ĐoànquânViệt Nam đichunglòngcứuquốc...」
さすがはベトナムの進軍歌、気持ちが高揚してくるのを感じます。
つづいて、日本の国家が流れます。
「目を閉じて 何も見えず 哀しくて目を開ければ 荒野に向かう道より 他
に見えるものはなし・・・」
なんだか懐かしい気持ちになってきます。
Sさんが言いました。「Mさん、この歌は、、、、。」
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Mさんが笑顔で答えます。「この歌、好きなんだ。」
いつもならば「知らんがな!」とT会計士を詰めるところですが、今日のわれ
われは一味違います。われわれの心は、ハロン湾のように穏やかでした。
Kさんが答えます。「まぁ、いいじゃん。俺も好きだよ。」
私とSさんも答えます。「そうですよね~、やっぱ谷村新司ですよね~。」
さて、昴を歌い終わり、つつがなく調印式を終えたわれわれは、Mさんの経営
するレストランへと向かいます。
レストランの大テーブルには、海の幸、山の幸が所狭しと並んでいます。
Mさんの家族や対象会社の従業員も集まっています。
このレストランの宴会には、しょっちゅう参加させられているわけですが、こ
んなに晴れやかな気持ちで参加するのは初めてです。
Mさんの「モッ、ハイ、バー、ヨー!」の掛け声で宴会スタートです。
<中略>Mさんとの宴会の様子については、前号および前々号からご想像くだ
さい
時刻は午後11時、そろそろ、帰りたくなる時間です。
KさんがSさんに目配せをし、Sさんが切り出しました。
「Mさん、今日はお疲れ様でした。楽しい会をありがとうございました。」
Mさん
「おう、こちらこそありがとう。これからもよろしく頼むぞ。
」
Sさん
「今日はそろそろ失礼します。何しろ80億円の案件なので、明日、早
速本社に報告しなくてはなりません。」
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Mさん
「80億円なんて言ってない。100億円だ。」
~次号に続く~
<メコン2号>
(これまでのあらすじ:日系企業X社のベトナム法人代表のAさんは、同業の
現地企業であるVN社への出資交渉に取り組んでいた。VN社のタン社長との
初回面談を終えたものの、日本との勝手の違いに手こずっているAさんであっ
た。)
―VN社会議室(2度目の面談)―
AさんたちがVN社の会議室に入ると、既にタン社長が席に着いているのが目
に入った。Aさんは少し焦った様子で深いお辞儀をした。通訳のチャムから
は、「Aさんは、ベトナムでは社長なんですから、堂々とした方が交渉がうま
くいきますよ」と事前にアドバイスされていたのだが、いざとなると反射的に
日本での振舞いが出てしまう。気を引き締めなおしたAさんは、いつもより少
し胸を張ってタン社長に歩み寄り握手をした。
すると、タン社長の横から、タイトめのノースリーブのワンピースに体を押
し込んだようなミセスが、厚化粧にヒビが入りそうなほどの満面の笑みをた
たえて手を差し出してきた。ざっくり開いた胸元にAさんの目がいく。単身赴
任の身になると、このような状況でも、このような女性の胸元にも目がいくの
かと、Aさんは心の中で苦笑した。Aさんは、握手に応えて、名刺を差し出し
た。ミセスが差し出した名刺にはExecutive Vice Presidentと書かれていた。
副社長。Aさんは、改めてミセスに微笑んで、自分の席に着いた。通訳のチャ
ムがAさんの耳元に顔を寄せてきて伝えてきた。
「フーンさんは、タン社長の奥さんです。ちょっと、怖そうな顔しています
ね」
チャムは、いたずらっぽい顔をAさんに向けてきた。
チャムの様子が、前回の極度緊張した様子とは違って、場慣れしてきたの
か、リラックスした様子であることに、Aさんは少し驚いた。Aさんがミセス
に目を向けると、先ほどの満面の笑みは消え、机上の一点を見つめ何か真剣に
考えている様子であった。Aさんの目が向いていることに気付くと、フーン副
社長はAさんに微笑んだ。Aさんは、ベトナムの家庭では女性が強いという話
を思い出した。日本人駐在員が集まる飲み会で、ベトナム人の妻を持つ日本人
は妻に頭が上がらない、というエピソードを何度か聞いたことがあった。目の
前のタン社長もフーン副社長の尻に敷かれているのだろうか。
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Digital Report
デジタルメコンの風
今回の件で、X社側のアドバイザーを務めているZZZ証券のナムが口を開い
た。X社側から資本提携に関する提案をするという主旨のことを伝えているよ
うである。一通り話し終えると、ナムはAさんに目を向け発言を促した。ナム
に頷いたAさんは、提案内容を纏めた資料をタン社長とフーン副社長の前に置
いた。今回の資料は、通訳のチャムがベトナム語に翻訳したものである。前回
の面談では英語の会社紹介資料を渡していたが、タン社長の反応を見るに、英
語の資料では理解にストレスがある様子であったので、今回はベトナム語の資
料を準備していた。タン社長は、渡された資料をざっと捲って確認し、一瞬不
満げな顔を覗かせた後、Aさんのプレゼンテーションを促した。
「本日は、貴重な御時間を頂きまして有難うございます。前回の面談での議論
を受けまして、X社としての資本提携に関する御提案を準備致しました。」
今回の面談に先立っては、プレゼンテーションの内容と、その中で登場する専
門用語のインプットを通訳のナムに十分していた。そのため、通訳にバトンを
渡すまでの発言の纏まりが大きくなり、スムーズなプレゼンテーションが出来
ていた。また、十分な準備をしたがゆえに、Aさんもチャムも、前回の面談よ
りも自分の声に張りがあることを実感していた。
「X社は、日本市場での長い歴史を通じて、原材料の加工方法や、商品開発と
マーケティングの手法など様々な技術やノウハウを蓄積して参りました。
一方で、VN社は、ベトナム全国での流通網を持ち、また、ベトナム市場に適
した商品開発のノウハウをお持ちでいらっしゃる。
我々2社が協力することによって、ともにベトナム市場で発展することが出来
ると考えています。
前向きな御検討を宜しく御願い申し上げます。」
15分ほどに亘るプレゼンテーションを終えたAさんは、一息つき水を口に含
んだ。
フーン副社長が話し始めてから10分ほどが経過した。その間、一度もチャム
に通訳する隙を与えずに、強い語調で何かを話している。最初の方こそ穏やか
な話しぶりであったが、時折、机を叩いたり、Aさんの方を人差し指で指した
りしている。内容は分からずとも、ハードネゴシエーターを絵に描いたような
姿である。タン社長とフーン副社長の家庭での様子が目に浮かぶ。しばらくす
ると、フーン副社長は一息つき、チャムに通訳を促した。Aさんは、チャムの
方を向き、チャムの発言を待った。チャムはフーン社長の発言内容をまとめよ
うと、メモを確認している。
「フーン副社長は、VN社にも原材料の加工技術はあるし、商品開発やマー
ケティングのノウハウはある、と言っています。VN社は、ベトナムの市場を
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創ってきた長い歴史があって、技術とノウハウには誇りを持っている、と言っ
ています。
X社にも技術とノウハウがあると言うが、実際に見たことが無いので、よく
分からない、とも言っています。フーン副社長は、このことを何回も言ってい
ました。
あと、X社と戦略パートナーになると、VN社がどれくらい成長できるの
か、具体的に示して欲しい、とも言っています。
要するに、今回のAさんの提案だけだと、何も判断できない、ということを言
っているみたいです。
フーンさんは、怖い人ですね…」
Aさんは、どのような回答をするべきか、しばらく思案した後、日本での商品
開発とマーケティングの事例を紹介し始めた。数年前にターゲットを女子高生
に絞り、一大ブームを起こした製品である。商品開発の現場にも当時の人気若
手女優と女子高生を参加させ、その進捗をウェブサイト上で紹介した。テレビ
や雑誌でも取り上げられるようになり、発売直後は品薄状態続いた。食べた感
想をSNS上で呟く仕掛けも作り、東京中心に盛り上がった流行を全国へと広
げることができた。X社内ではセグメント攻略の成功事例とされていたので、
この商品を担当していなかったAさんでもスムーズに事例を紹介することが出
来た。Aさんの話を聞いていたチャムは、とても興味深そうに話を聞き頷きな
がらメモを取っていた。Aさんは、チャムが抱いた興味の熱がタン社長とフー
ン副社長に伝われば良いと思いながら、通訳の様子を見守った。
タン社長は、チャムの話を聞きながら、時々頷きメモを取っていた。興味を持
ってもらっているようだ。Aさんは手ごたえを感じていた。
しかし、発言をしたのはフーン副社長であった。
フーン副社長の独演会は5分ほど続いた。
「フーン副社長は、Aさんが紹介した事例はベトナムではうまくいかない、と
言っています。
女子高生だけに向けて商品を作れば、子どもや大人からの人気が無くなってし
まうし、マーケティングに手間をかければ商品の値段が上がってしまって売れ
なくなってしまう、と言っています。
それから、結局、X社と協力すると、どれだけ売上が上がるのか、全然分から
ない、と言っています」
Aさんは、フーン副社長の的確な指摘に唸った。ベトナムの菓子市場は、大き
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デジタルメコンの風
く成長している状況であるため、日本のような成熟した市場での手法が必ずし
もフィットしない。Aさんが紹介した事例がフーン副社長に好印象を与えられ
なかったのは残念だが、一方で、フーン副社長の経営者としてのセンスを垣間
見ることができた点は評価できることであった。VN社の商品を見れば、そこ
には技術的な改善余地が大いにあることは明らかであり、X社の技術とノウハ
ウがVN社に貢献できるという結論について、Aさんは十分に自信を持ってい
た。ただ一方で、その貢献が売上で言えば、どの程度なのか、また、その反映
とも言える妥当な出資金額がどの程度なのかは、まだ見えていないところであ
った。その要因の1つは、VN社側からの情報提供の少なさにあった。
「タン社長、私どもは、X社の技術とノウハウがVN社の飛躍的な発展に大い
に貢献できるものと信じております。
しかしながら、X社の貢献が、どの程度の業績向上に繋がるのかは、VN社の
将来計画次第であるとも思っています。すなわち、どのような事業や商品群を
展開したいと思い、どのような投資をし、どのような売上と利益を出していく
のか。そういったVN社様の計画がベースとしてあった上で、我々の貢献の在
り方が議論できるものだと考えております。
タン社長、貴社の中期事業計画を提供頂けませんでしょうか?」
タン社長は、チャムの通訳を聞きながら、やや表情を曇らせた。
「タン社長は、X社を戦略パートナーと決めたわけでもないので、計画を出す
ことは出来ない、と言っています」
すかさず、証券会社のナムが口を開いた。我々の援護射撃をしている様子であ
る。これまでのやり取りの中で、VN社側からの情報提供なくしては、X社側
での意思決定が進まないことを理解し始めているらしい。
「Aさん、タン社長が、詳細な情報は出せないが、売上と利益の計画と投資計
画は、共有する、と言ってくれています」
Aさんは、タン社長に微笑を以って頷いた。
今回の面談は、一歩前進、あるいは、一勝一敗、といったところか。それか
ら、フーン副社長という新たな強敵の出現は、心に留めておく必要がありそう
だ。
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