「アンチエイジング」

高齢化社会の食生活
「アンチエイジング」
いつまでも若々しく健康であり続けることは万人の願
いですが、高齢になっても健康で自立した生活を送っ
ていくことは、社会的にも重要な課題となっています。
そのためには、毎日の食事にどんな食品を選び、どん
な食生活を送るかが鍵になります。
世界各国の平均寿命(2003年)
80歳以上
75歳∼80歳未満
70歳∼75歳未満
世界が高齢社会へ
65歳∼70歳未満
60歳∼65歳未満
55歳∼60歳未満
21世紀に入り、高齢化問題は世界共通のテーマとなって
50歳∼55歳未満
います。一般に65歳以上の人口割合(高齢化率)が7%を超
45歳∼50歳未満
40歳∼45歳未満
えた社会を「高齢化社会」
、14%を超えると「高齢社会」と
40歳未満
呼んでいますが、先進地域では平均高齢化率が15.3%
(2005年現在)とすでに「高齢社会」に突入しています。い
まはまだ高齢化率が比較的低い開発途上の国々も、今後、
日本は世界一の長寿国。欧米諸国もすべて平均寿命は70∼80歳代となっている。
資料:WHO「World health report 2005」
高齢者人口の急増が予想されています(図表1)
。いまだか
って人類が経験したことのない高齢社会が、地球規模で到
来しようとしているのです。
日本は平均寿命82歳で世界一の長寿国ですが、欧米諸国
の平均寿命もすべて70∼80歳代となっています(図表2)。
元気で活動的に暮らせる期間「健康寿命」も日本は75歳で
世界一。しかしそれは、平均寿命との7年の間、介護が必要
であることを意味します。人生80年が一般の人々にとって
あたりまえとなった現代、単に寿命を延ばすだけでなく、健
康寿命を延ばして、高齢者の生活の質(QOL)をいかに高
く維持するかは人類共通の重要な問題となっています。
そこで登場してきたのがアンチエイジングです。
●図表1
世界の高齢化率の推移
%
イタリア
35
スペイン
日本
30
ドイツ
フランス
オーストラリア
イギリス
25
スウェーデン
20
アメリカ
15
10
先進地域
開発途上国
5
0
'50
'60
'70
'80
'90
'10
2000
'30
'20
'40
'50年
内閣府「平成17年版 高齢社会白書」
●図表2
86
84
82
80
78
76
74
先進国の平均寿命の推移
歳
日本
女性
スウェーデン
イタリア
イギリス
アメリカ
フランス
日本
72
70
68
66
64
62
60
58
フランス
イタリア
スウェーデン
イギリス
アメリカ
男性
'50
'55
'60
'65
'70
'75
'80
社会実情データ図録(http://www2.ttcn.ne.jp/~honkawa/1610.html)
'85
'90
'95
'00
'04
高齢化社会の食生活
「アンチエイジング」
抗加齢医学の登場
●図表3
抗加齢医学とその周辺領域
ストレス
アンチエイジングとは、日本語で言えば「抗加齢」
「抗老
サプリメントなど
解消
化」
。もともと医学のフィールドから生まれた言葉です。
人は生まれると、成長とともに運動能力、心肺機能、免
生活習慣病予防 ≒
疫機能などを向上させていきますが、ある時に成長は止ま
主として
一次・二次予防
主な手段
生活習慣の改善
≒
老年病医療
≒
再生医療
抗加齢医療
り、その後、身体の機能は下降線をたどります。筋力や記
憶力は20歳前後にピークを迎え、それを過ぎると体力や脳
(代替医療)
食事・運動
予防+治療
人体の一部の治療
の働きに衰えを感じるようになります。人によって変化の
程度は異なり、組織や臓器によっても進み具合は異なりま
すが、シミやしわ、老眼などは、加齢とともに誰にでも生
生活習慣改善
免疫力アップ・ 酸化ストレス低減
ホルモン補充療法
じてきます。
かつて「人生50年」時代には老後とは余生であり、生物
である人間にとってさまざまな衰えが生じることは自然現象
で、仕方ないものと考えられてきました。ところが、医学
の進歩などによって人間の寿命がどんどん延びてくると、つ
いには「加齢、老化をもひとつの疾患と見なして治療でき
ないものか」と考えるようになってきたのです。
抗加齢医学は、20世紀末に生まれたばかりの新しい医学
です。当初は不老不死とか、若返りを実現させるようなイ
メージが先行しましたが、その医学的な本質は、健康な身
体を保ち、質の高い長生きをすること。つまり、健康長寿
を目ざす医学です。
従来から老年内科、加齢医学といった診療科目はありま
すが、対象とするのは高齢者でした。抗加齢医学の対象は
すべての年齢であり、どんな年齢のステージにおいても人
体として最良の状態を保ち、さらに、その年齢よりも若く
ベストな心身を作ることを目標としています。
日本抗加齢医学会の設立は2003年。先行して1992年に抗
加齢医学会が結成されたアメリカでは、抗加齢医学はすで
にポピュラーになっており、正しい食生活の指導、運動療
法、サプリメントによる治療、ホルモン補充療法などを施
しています(図表3)
。
水島裕「アンチエイジングとその周辺領域」
『医学のあゆみ』Vol.214 No.2 2005.7.9
薬物療法
細胞・組織移植
高齢化社会の食生活
「アンチエイジング」
老化は機能の低下
アンチエイジングを実現するためには、老化とは何か、そ
の原因は何かを知る必要があります。
老化はからだ全体で徐々に進行していく現象ですが、細胞
のレベルでは、加齢にともない細胞の数が減少し、細胞の機
能が低下していきます。
具体的には、筋肉量が減り、脳細胞も減り続けます。骨密
度が減り骨がもろくなります。主要臓器の重量は減少し、心
臓や腎臓、血管などの機能が低下します。ホルモン分泌のバ
ランスが悪くなり、免疫系の働きも十分でなくなります。
機械と違って生物には、自分で自分をメンテナンスできる
自己修復能力があります。怪我をしてもやがて元に戻るのは、
細胞が分裂して再生するからです。歳を取ると、この細胞の
分裂も若いときほど活発ではなくなります。老化はメンテナ
ンス能力の衰えということもできます。
老化自体は病気ではありませんが、身体のさまざまな面で
の機能低下は、病気のリスクを高めることになります。血管
が硬くなる動脈硬化、骨がもろくなる骨粗鬆症、眼の水晶体
が濁ってものが見えにくくなる白内障などは、多くの高齢者
に現れます。こうした年齢にともなって顕著に増加する慢性
疾患は老年病といいます。
高齢化社会の食生活
「アンチエイジング」
活性酸素が老化を加速
そもそも、なぜ老化が起きるのか、その原因については多く
●図表4
主な老化学説
老化プログラム仮説
の仮説があります。大きくは、老化や寿命はあらかじめ遺伝子
によって決められているという「老化プログラム仮説」と、歳
とともに体内で異常や損傷が蓄積されていくという「誤り蓄積
活性酸素説
強い酸化作用があるフリーラジカル・
活性酸素による傷害が積み重なって老
化が進む。
架橋結合説
コラーゲンなどのたんぱく質の分子と
分子の間に、架け橋が異常に増加し、
細胞や組織の働きを低下させる。
DNA損傷説
DNAが複製をくり返しているうちに、
放射線などによって損傷を受け正常な
物質を合成できなくなる。
自己免疫説
免疫機能の低下、自分の身体を抗原と
見なして攻撃してしまう自己免疫が出
現し、老化を促進する。
体細胞
突然変異説
DNAの損傷が完全に修復されない
か、間違って修復されたために正しい
遺伝情報が伝わらず、細胞が突然変異
を起こし老化につながる
ホルモン説
若さを保つために必要な内分泌ホルモ
ンが低下し老化が進む。
仮説」に分類されます(図表4)
。
複数の老化仮説があるのは、生体のどの部分にスポットを当
てるか、老化をどのレベルでとらえるかの違いに由来します。
それら諸説のほとんどに共通して深く関与しているのが、活性
酸素の存在です。
活性酸素は、呼吸された酸素が体内で有害なフリーラジカル
に変化したもの。活性酸素は、侵入してきた細菌などを強い酸
化作用で殺し免疫機能に貢献する一方、酸素が鉄をさびさせる
ように体内で脂質やたんぱく質、DNAなどに傷害を与えてしま
う存在です。その傷害が積み重なって老化が進みます。動脈硬
化、アルツハイマー病、白内障など、数多くの老年病に活性酸
誤
り
蓄
積
仮
説
老化や寿命がプログラムされている遺
伝子が、ある時期になると働きだし、
老化を進める。
板倉弘重「頭の老化に効く食品 体の老化を止める食品」青春出版社 2001
ほかより作成
●図表5
SOD活性と最大潜在寿命
素が関与しているといわれます。
自己修復能力として、人体には活性酸素を取り除く抗酸化機
(U/mg/比代謝率)
ィスムターゼ)は、強力な抗酸化作用で活性酸素から身体を守
っていますが、加齢とともに減少し、活性酸素の攻撃を防ぎき
れなくなって老化が進行します。
1.2
S
O
ハツカネズミ
D
活0.8
シカネズミ
性
SODの活性の度合いを動物ごとに調べると、SODの活性と寿
命とは見事に比例しています(図表5)
。食品中のビタミンEや
0.4
ビタミンCなどにも抗酸化作用がありますが、血中や組織中に
存在するこれら抗酸化物質の量と寿命の間にも同様に相関が認
められています。活性酸素が老化に深く影響し、抗酸化物質が
老化の予防に重要な役割を果たしていることがうかがわれます。
ヒト
※図縦軸の比代謝率とは、体
重あたりの1日の消費カロリ
ーで、数値が高いほど活性酸
素も多く発生する。
能も備わっています。体内の酵素のSOD(スーパーオキシドデ
0
ゴリラ
チンパンジー
ヒヒ
ミドリザル
アカゲザル
ギャラゴ キツネザル
シシザル
リスザル
ツバイ
20
40
60
80
最大潜在寿命(年)
100
吉川敏一・市川寛「アンチエイジングのための食生活の重要性」現代のエス
プリNo430、至文堂 2003
高齢化社会の食生活
「アンチエイジング」
アンチエイジング食品
健康長寿のためには、老化の進行を抑える一方、病気にか
からないことがなにより大事です。日本人の三大死因は、が
ん、心筋梗塞、脳梗塞で、これだけで死因の60%を占めてい
ます。どれも生活習慣が深く関わることから、生活習慣病と
呼ばれています。
同じように進んだ医療の恩恵を受けながら、先進国の中で
も日本が最も長寿国なのは、食事が大きな要因となっていま
す。日本の中でも特に長寿なのが沖縄ですが、調査によって
沖縄伝統の食習慣が長寿に貢献していることが報告されてい
ます。
アンチエイジングの基本は、バランスのとれた食生活と適
度な運動。これは生活習慣病の予防とも共通しています。
アンチエイジングを実現する食生活には、脳や免疫系など
を含めた「身体の機能低下という老化」をいかに遅らせるか、
「加齢による老年病の発病」をいかに予防するか、「老化を促
す活性酸素」からどうやってわが身を守るか、が課題になり
ます。それぞれ、どのような食品をとるといいのでしょうか。
高齢化社会の食生活
「アンチエイジング」
〈脳の老化を防ぐ食品〉
●図表6
骨密度とエストロゲン分泌量
DHAは脳や神経系に対する薬理作用を持ち、老人性痴ほう
症やアルツハイマーを改善する効果を秘めています。EPAは、
脳の血行をよくして痴ほう症などを予防するのに役立ちます。
そのほか、ビタミンB群(B6、B12、葉酸)、レシチン、コ
リン、トリプトファンなどが、脳内での神経伝達物質の生成
や神経系の働きを正常に保つのに必要となります。
エ
ス
ト
ロ
ゲ
ン
分
泌
量
骨
密
度
〈免疫力を高める食品〉
免疫組織を強化する栄養素には、ビタミンA・E・C・B群、
特にパントテン酸、ビタミンB12、葉酸、ミネラルの亜鉛な
どがあげられます。
バナナは白血球を増強させる免疫力増強作用があることが
分かっています。茶色い斑点の出た熟れたものほど高い免疫
活性があります。野菜ではニンニク、シソ、ショウガ、キャ
ベツなどが強い白血球増加作用を示します。
〈骨量を増やす食品〉
若いときにカルシウムを多く摂り、骨量を多く保っておく
日本産婦人科協会資料、米井嘉一「老化と寿命のしくみ」日本実業出版社より作成
●図表7
抗酸化食品
ビタミンC
レモン、イチゴ、キウイフルーツなどの
果物、ジャガイモ、野菜
ビタミンE
ナッツ類、緑黄色野菜、果物、オリーブ
油、マグロ、サバ
CoQ10
イワシ
アリシン
ニンニク、ネギ
ショウガオール
ショウガ
カロチノイド
カボチャ、ニンジン、トマト(リコピン)
、
ホウレンソウ(ルティン)など緑黄色野菜
アスタキサンチン
サケの赤身、イクラ、カニ、エビの殻、
タイの皮
ことが重要です。リン、たんぱく質、ビタミンD・Kも骨量に
関係しています。納豆に多く含まれるビタミンK2は、骨代謝
に必須の栄養素です。タマネギに含まれるケルセチンには、
骨密度減少を抑制する働きがあります。
女性の場合、50歳以降になると急激に骨量が減ってきます。
女性ホルモンのエストロゲンが閉経後に減少することによる
影響です(図表6)。大豆イソフラボンは、不足したエストロ
ゲンの代わりに補助的に働くと考えられ、ファイトエストロ
ゲンとも呼ばれて注目を集めています。
〈さびない身体を作る食品〉
活性酸素対策には、活性酸素を増やさないこと、体内に抗
酸化物質を取り込んで活性酸素を除去すること、免疫力を高
めて活性酸素の害を修復すること、の三つがあげられます。
紫外線、激しい運動、たばこ、過度の飲食、放射線(レン
トゲン)、ストレスなど、さまざまな要素が活性酸素を増大・
発生させます。
抗酸化物質には大きく分けると酵素、ビタミン、第7の栄養
素といわれるファイトケミカルの3種類があります。
抗酸化酵素にはSOD、グルタチオンペルオキシターゼ、カ
タラーゼがあり、体内で合成されますが、その際に成分であ
るミネラルのマンガン、銅、亜鉛、鉄、セレンなどが必要で
す。ビタミンではビタミンA・E・C・B2に抗酸化能力があり
ます。
ファイトケミカルは、植物が紫外線の害や虫などから自ら
を守るために作り出した物質で、緑茶のカテキンなどのポリ
フェノールが有名。そのほか、トマトのリコピン、ホウレン
ソウに多く含まれるルティンなどのカロチノイド、ごまに含
まれるセサモリン、セサミンなどが、抗酸化作用を発揮しま
す(図表7)
。
含まれる食品
成分
フラボノイド
ポ
リ
フ カテキン
ェ
ノ イソフラボン
ー
ル セサミン
クルクミン
ブドウ、ナス、柑橘系果実、タマネギ、
赤ワイン、ブロッコリー
日本茶、ココア、チョコレート
大豆、味噌、醤油
ごま
ウコン
クエン酸
黒酢、梅干
フィチン酸
発芽玄米などの穀類
メラノイジン
味噌、醤油、ビール、コーヒー、パン
板倉弘重「頭の老化に効く食品 体の老化を止める食品」青春出版社 2001、五明
紀春「活性酸素に負けない食事と生活」
『栄養と料理』2002.11 女子栄養大学出版
部ほかより作成
高齢化社会の食生活
「アンチエイジング」
食事を補うサプリメント
●図表8
加齢とともに減少する体内のCoQ10量
%
100
100
日常の食生活で不足する栄養素を補い、健康を維持・増進
する役割をするものにサプリメントがあります。
肝臓
95.3
80
アメリカでは健康維持のため、幅広い人々にサプリメント
60
が利用されています。最近アメリカで人気なのは、アンチエ
40
83.0
72.6
肺
68.2
腎臓
65.3
51.7
42.9
心臓
イジングの「CoQ10」や「ビタミンA・C・E」、「ピクノジェ
ノール」、「αリポ酸」、穀物などをまるごと凍結乾燥した
「ホールフーズ」と呼ばれるサプリメントなどです。
人が活動するためのエネルギーは、細胞内のミトコンドリ
アで生み出されています。このエネルギーを作るのに深く関
わっている補酵素がCoQ10です。CoQ10は抗酸化作用もあり
ますが、20代をピークに体内から減っていきます(図表8)。
ミトコンドリアがパワー不足だと細胞自体の機能も低下し、
老化の原因となります。CoQ10は日本でも1991年に食品とし
ての使用が認可され、食品で大量に摂ることが難しいのでサ
プリメントが注目されています。
また、ミトコンドリアが生み出すエネルギーの主原料は、
糖分と脂肪。αリポ酸は糖を効率よくエネルギーに使いやす
い形に変える働きをします。脂肪をミトコンドリアに運ぶ役
割をするL‐カルニチンも、脂肪の燃焼を助けると人気です。
ピクノジェノールは、フランスのボルドー地方の松の樹皮か
らの抽出物で、強い抗酸化作用があります。
ほとんどのサプリメントは、食事中か食後すぐに摂ること
が望ましいとされています。脂溶性ビタミンは油と一緒に摂
らなければ吸収されにくく、ミネラル類は元来吸収されにく
いもので、たんぱく質などの食べ物と一緒に摂ることで吸収
率は上がります。サプリメントはあくまで栄養素を追加・補
充するものです。きちんと食事を摂らずにサプリメント類だ
けを摂っても、あまり吸収されません。
※サプリメントの正しい情報の入手先として、独立行政法人国立健康・栄養研究
所が「『健康食品』の安全性・有効性情報」(http:// hfnet.nih.go.jp/)を、厚生
労働省が「食品安全情報」
(http://www.mhlw.go.jp/ topics/bukyoku/iyaku/syokuanzen/index.html)というウェブサイトを開設しています。
10
20
30 40 50
年齢(歳)
齋藤一郎「不老は口から」光文社 2005
60
70
80
高齢化社会の食生活
「アンチエイジング」
使って鍛える
体力と思考力を維持するのは、個人のライフスタイルによる
ところが大です。
何もせずに筋肉を鍛えないでいると筋肉量はどんどん減少し
ます。40歳を過ぎると1年で1%減少します。筋肉量が減ると疲
れやすくなり、代謝エネルギーが減少し、太りやすくなります。
肥満は生活習慣病につながります。
8020運動、80歳になっても20本の歯を保とうという運動があ
るように、好きなものをおいしく食べるためには20本の歯が必
要といわれています。しかし、実際には70歳で平均8本の歯しか
残っていません。
そうすると、噛む力が弱いために、軟らかい食べ物を選んで
食べるようになり、ますます噛む力が弱くなり、老化が進むと
いう悪循環になってしまいます。筋肉を鍛えるという意味で、
噛みごたえのある食べ物を、しっかり噛むことが大切です。何
を食べるかと同時に、どのように食べるかも重要なのです。
噛むことは、脳の刺激にもなります。マウスを使った実験で、
成分が等しい硬いえさと軟らかいえさを与えた群を比較したと
ころ、よく咀嚼をした群は学習能力が向上し、脳の老化の遅延
に効果がありました。
脳も、使わなければそれだけ老化が早まり、逆に、考える訓
練をくり返すことで活性化され若い状態を保てます。しかし、
便利なIT機器に囲まれて暮らしている現代社会は、脳に楽をさ
せています。意識して脳を鍛える必要があります。顔の筋肉を
動かすこと、声を出すこと、手先を使うことは、大脳の細胞を
刺激します。段取りと手間を要し、積極的に手指を動かす料理
でも、脳は鍛えられます。
従来、健康は「守る」ものでしたが、いまは「つくる」もの
です。老いを予防し、アクティブに歳を重ねたいものです。
参考資料:水島裕「アンチエイジングとその周辺領域」
『医学のあゆみ』Vol.214 No.2 2005.7.9、齋藤
一郎「不老は口から」光文社 2005、吉川敏一・市川寛「アンチエイジングのための食生活の重要
性」現代のエスプリNo430、至文堂 2003、米井嘉一「老化と寿命のしくみ」日本実業出版社2003、
板倉弘重「頭の老化に効く食品 体の老化を止める食品」青春出版社 2001、S・N・オースタッド「老
化はなぜ起こるか」草思社 1999、五明紀春「活性酸素に負けない食事と生活」
『栄養と料理』2002.11
女子栄養大学出版部