(特別講演)感染症と妊婦 Auth

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(特別講演)感染症と妊婦
大内, 宏子
東京女子医科大学雑誌, 53(2):71-78, 1983
http://hdl.handle.net/10470/4973
Twinkle:Tokyo Women's Medical University - Information & Knowledge Database.
http://ir.twmu.ac.jp/dspace/
号
)
(東女医大 J
;
'
c 第 山 第2
貞7l ~78
昭 和5
8年 2月
〔特別講演〕
感染症と妊娠
東;
;Uc[B兵科大学
産財人科学教本(主任・ノ1(1
付広子教綬)
教 授 大 内 広
(受付
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また新生児感染は羊水・経産道感染によるサイト
はじめに
産科領域において感染症を併発すると母体の障
メガロウイルス, HBウイルス,大腸菌,真菌など
害のほかに胎児感染を起こし,流・早産,先天異
がみられる.
常児の出生,また新生児感染症の発生をみること
これら胎児感染症の成因に関してはなお不明な
がある. 1965年に沖縄に風疹の大流行をきたした
点もあるが,大きな原因の一つに妊娠時期と感染
さいに 400人ちかし、先天性風疹症候群児が生まれ,
発生時期の関係がある.妊娠の初期,すなわち胎
産科医,妊婦に大きな関心と不安をきたしている.
芽・胎児の臨界期に強力なウイルス感染,
胎児感染は風疹ウイルスによって起こるが,その
プラズマ感染をみるときは胎児感染をみ,流産か
他のウイルス,
先天異常児の成立が考えられる.
とくにサイトメガロウイルス,単
トキソ
純ヘルペスウイルス,帯状ヘルペスウイルス,イ
当教室ではすでに胎児感染についていくつかの
ンフルエンザウイルス, HBウイルス,またトキソ
研究業積を発表している.今回はこれらの成積を
プラズマ原虫などによる経胎盤感染によるもの,
紹介し,胎児,新生児感染について二,三の問題
7
1
2
のごとく昭和田年 1月 -57
年 6月の闘で 5
6年 6月
点について述べる.
7年 4月が最も多く,検査数 1,
2
9
7件中抗体価陽
と5
I 風疹ウイルス
性8x豆は 9
5
6で73.7%,陰性8X>は3
4
1,26.3%
1
9
4
1年にオーストラリアの Gregg (眼科医〉に
で、あった(図 2)
.
より妊婦が風疹に擢患すると先天異常児の出生を
1)感染経路
みることがはじめて報告され,その後流行時に先
飛沫感染で,潜伏期は 2- 3週で平均 1
8日であ
天性風疹症候群児の出生が多くみられることが発
表され,妊振時の風疹感染は大きな問題をなげか
る.症状は発疹,
リンパ節腫脹,発熱などが出現
け,注目されている現在である.
し
, 13日はしか」といわれ,症状のある期聞は短
風疹の流行はここ数年,毎年のごとく春先から,
い,しかしこのような顕性感染は 70-80%で,不
そのきざしがみられるため,風疹に対する不安が
顕性感染が 20-30%あるので,風疹擢患の有無は
つのり,当外来に風疹検査を希望するものが多数
血清抗体を検査してはじめて判明することがあ
来院している.外来で、検査を行なった例数は図 1
る.
2
) 感染時期と妊娠月数の関係
風疹ウイルスに柾娠が擢患すると,妊娠初期で
あったときは表 1にしめすごとく,先天風疹症候
2
70 1
6
表 1 妊娠中風疹感染の時期と先天異常の症状との
系
関4
(
c
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rによる〉
風疹 I
C
羅磨、した妊娠月数
1
3
0
第 1月
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心疾患
2月
3月
月以降
4月 5
3
4
6
2
1
7
2
(
2
9
.
3
) (
5
3,5
) 04.7) (1
.
7
) (
0
.
9
)
6
3
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3
1
(
4
4
.
8
) (
4
6
.
3
) (9
.
0
)
聴力障害
5
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7
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5
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1
(
2
4
.
8
) (
3
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.
6
) (
2
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.
2
) 00.
4
)
V八
剛山本且
発達障害
3
4
6
3
2
0
1
1
(神経系障害) (
2
6
.
6
) (
4
9
.
2
) (
.
6
)
15
.
6
) (8
新生時期
風
と
紫斑病
1
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苦
汁
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川検
問体
献抗
山川疹
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4
刊品新
以来
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×
﹀産
抗体悩飢
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。
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自(緑)内陣
7
1
4
4
3
2
(212) (
6
5
.1) 00.6) (3
.
0
)
( )内数字はパーセント
群児の出生をみる.妊娠第 1カ月と第 2カ月は異
常の出現率は高く,第 3カ月,第 4カ月と順に異
常出現度は減少し,第 4カ月では聴力障害と神経
1
2
0
1
1
0
1
0
0
9
0
8
0
7
0
6
0
5
0
4
0
3
0
2
0
1
0
0
障害が 1割弱に出現し,第 5カ月以降ではごくわ
ずかに異常児の出生をみる.
3
) 診断
O
新患数
A
風疹検査数
風疹血清抗体の検出,
きに,風疹感染と診断する.
・ 抗 体 価 8X孟
風疹ウイルス躍患時の血清抗体の測定は赤血球
凝集抑制試験 (
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5
6年
5
7年
図
ウイノレスの検出をみたと
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2 風疹抗体価分布
7
2
3
表 2 風疹Hl抗体価と判断のめやす(1)
やむをえず 1回の採
血による場合
2回以上の採血による場合
感染機会が
あった場合
風疹を疑う
症状のあっ
た場合
その他の場
メ
E3
X
半
I
j
採即時期
採血時期
定
判定
第 l回 感 染 機 会 後 2週 第 l回抗体価よりも第 2回(以 感染機会のあ
間以内
降〕の抗体価が 4倍以上上昇し った後 4遊間
第 2回 第 l回の採血後 た場合は初感染(発症または不 以上を経た時
2週間以降
顕性)または再感染による抗体 期
第 l回 発 症 後 4日(第 の再上昇(追加免疫効果)と考 風疹を疑う症
4病日)以内
えられる。再感染の場合ζ
iは妊 状のあった時
第 2回 第 7病日以降
婦でも胎児ζ
l対する影響はない から 2週間以
(
3
表
と考える。
上経た時期
正確な判断のためには上
l回の採血による場合に準じ
成人婦人につ
参
記条件による検査が望ま
て判断する。
いては妊娠前
照
しいが,上記の条件にあ
c3表参照)
の検査が望ま
し
し
、
。
わない場合も抗体価の確
)
認のため 1週間以上の間
隔をおいた 2回以上の検
査が望ましい。
表 3 風 疹 H l 抗 体 価 と 判 断 の め や す (2)
HI抗体価
妊婦についての注意事項
一般的な注意事項
風疹 I
[対する免疫がない
8倍未満
なるべく風疹患者と接触しないように
と棲息するおそれがあるので つとめること,特に妊娠 5カ月までは
今後風疹 i
婦人においては妊娠前 K ワクチン接種 注意を要する.
を受けておく乙とが望ましい.
l
乙採血して検査を行い,感染
無を確かめる乙とが望ましい
乙対する免疫がある
風疹 l
l年以上前 I
[感染して得た免疫である
1年以上前 1
[,多くは小児期に感染し
司能性が高い.ただし 8倍という抗体 て得た免疫である可能性が高いが,抗
価を必ずしも確実に免疫があるといえ 体価の確認のため,
8-128倍
ないこともありうるので,若い女性の
場合はワクチン接種を受けておくのも
りである可能性も考えられるの
よい.
場合は再感染により抗体価の
1-2週以後に再度抗体価を検査する
ことが望ましい.
をみる場合がある.
風疹 I
[対する免疫がある.
最近の 2年以内に初感染を受けたか,
疾患にかかっていれば,それが風疹で
再感染によって抗体価の再上昇をみた
あった可能性が強い.ただし風疹様症
最近,発疹やリンパ節腫脹を伴う熱性
状が認められない場合は,感染時期が
可能性がある.
最近発疹やリンパ節の腫脹を伴う熱性 妊娠前か妊娠後であるかの判定を行な
2
5
6倍以上
疾患にかかっていれば,それが風疹で う乙とは困難である.そのため周聞の
あった可能性が強い.
流行状況,患者との接触の有無などを
参考として判断する程度の乙としかで
きない.
症状がなくても 5
1
2倍以上の抗体価が
認められた場合はごく最近(3カ月以
[初感染があった可能性が高
内程度) I
いが,再検査が望ましい.
(厚生省研究班による),
7
3
十
4
NT),蛍光抗体法 (
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tAntibodyTech-
トを形成している状態に妊娠が起こると,増殖し
n
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e,FA),酵素抗体法 (EL1SA) があるが,実
た繊毛が感染部位に達すると炎症が再燃して,チ
際に用いられているのは HI試験と CF試験であ
スト内の原虫が遊離して胎児血行に移行し,一部
る
は羊水中に入り,経口的に胎児感染が起こるとい
急性期(発疹期〉と回復期以後の血清を同時に
う. WHOの専門家会議 (
1
9
6
8
)では,先天性ト症
測定し HI抗体で 4倍以上の抗体価の上昇があっ
児の発生は妊娠中に母親がト症に初感染のものの
HI抗体は 3~ 4病日か
ら 出 現 し , 急 上 昇 し , 7~10病日は最高価
512~2 , 048倍となり, 1~ 2カ月最高値を維持,
その後徐々に下降し, 2~ 3 年以内は 128~512倍
を維持する. 5~10年では 64~256倍, 1
0
年以上
みに起こりうると結論づけている.
たとき,風疹と診断する
先天性ト症児は脳水腫,網脈絡膜炎,脳内石灰
化,精神発達遅延などをみることが多い.また奇
形との関連性も強 L、といわれている.
ト症は ToxoplasmaG
o
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i
iが病原原虫で,人
たったものが 16~32倍とさがり,終生維持する.
蓄共通の伝染病で,人から検出されたのは脳水腫
3
2倍以下のときは, ときに再感染をうけ,追加免
の児からである.
疫効果のため,抗体価は上昇するが,
ト症診断にはト原虫の検出が確実であるが,実
ウイルス血
際に虫体を証明することは稀であるため,
症を起こさず,臨床症状もでない.
妊娠に風疹 HI検査をおこない,抗体価の成績
によって厚生省風疹研究班は表 2, 3を判断のめ
ト感染
の有無を知るには血清試験による抗体の存在をみ
ることである.
5
6倍以上のとき,とくに
やすとしている.抗体価 2
1
) 抗体保有率
5
1
2倍以上のときはごく近い時期(3カ月以内〉の
妊婦における教室の新しい調査は表 1のごとく
感染が考えられるので,妊娠時期と感染時期との
赤血球凝集反応〔以下 HAと略す〉で,
卜抗体価
関連を考慮し, HI再検査, lgM抗体などの検査を
行ない,妊娠時の初感染かどうかを判断する必要
トキソプラズ 7 抗体価検査成績
表4
がある.
(赤血球凝集反応〉
3
) 風疹ワクチン
妊娠の可能性のある婦人は,風疹抗体検査で8X
1
,
3
7
6
(
3
3%)
512X~I , 024
1
.
12
6
(
2
7%)
2
5
6x
1
,
6
6
6
(
4
0%)
陽性
以下であれば妊娠前に風疹ワクチンの接種を受け
るとよい.妊娠していないことをたしかめ,月経
終了後直ちにワクチンを接種し
2
,
0
4
8x以上
1
8
.1
2
2
(
2
3%)
2カ月聞は避妊
陰性
することを指導する.
1
3,
9
6
1
(
7
7%)
I
I トキソプラズマ
妊娠とトキソプラズマ症(以下ト症と略す〉の
2
5
6x以上のものが 23%で、あった.竹中らは沖縄県
合併は流・早産,死産また先天異常児出生の原因
.1%,
で妊婦の抗体価陽性率は 22.8%鹿児島県 41
の一つにあげられている.妊娠がト症併発してい
宮崎県 26.2%という.年齢別では高年齢層になる
るときは胎内感染の可能性がつよく,経胎盤感染
0歳台末満で数%, 1
0歳
につれて高率をしめし, 1
である.経胎盤感染には二つの説があり,一つは
0歳台は 20%前後, 3
0歳台では 30%前
台は 10%, 2
Sabin,F
r
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n
k
e
lらの説で,妊娠中に初感染をう
後といわれる.
け,母血中にパラジデミーが起こり,この原虫が
2
) 検査方法
血行を介して胎盤の繊毛管腔に達し,紘毛細胞を
直接原虫を証明する方法と間接にトキソプラズ
通過して胎児血行に入るとしづ説で,もう一つの
マを調べる方法(生体に産生されたト抗体を調べ
説は Weimanや Remingtonらのとなえる説で,
る〉があるが,通常後者が一般に用いられる.日
すでに慢性ト症にかかり子宮内膜や筋層内にシス
本では血清学的試験方法の間接赤血球凝集反応
- 74-
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) が多く利用さ
表 5 垂直感染発現頻度
Dyet
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)が
れている.アメリカでは色素試験 (
1 垂直感染発現頻度
妊娠中期初感染群
主に用いられている.
妊娠前 3週感染群
H A陽 性 例 に 胎 児 感 染 の 有 無 を 知 る 方 法 と し
15/17
16/33
(
8
8
.
2%)
(
4
8
.
5%)
ている. IgGは胎盤を通過するが, IgMは胎盤を
2 慢性不顕性感染における垂直感染
母マウス
4/7 (
5
7
.
1%)
仔 7 ウス
9/44 (
2
0
.
5%)
通過しないので,妊娠中のトキソー IgM検出は原虫
3 Tp-lgM検出
て,トキソプラズマに特異な IgMの検出を行なっ
の存在が考えられ,胎足感染の可能性,危険性を
母
7
ウス
仔
7
ウス
13/14 →垂直感染認む
4/14 →垂直感染認む
示唆し,また新生児血中から検出したときはト症
の感染が考えられる.
3
) 感染経路
に近い時期にト症に感染したものは垂直感染の危
胎盤を介しての先天性感染と食肉などにいるシ
険性がつよいことを証明した.野上がオーシスト
スト,および感染ネコの糞中から排出されるオー
をマウスに経口投与をおこない,垂直感染の発現
シストの経口感染が主要経路である. トキソプラ
頻度をみた成績を表 5にしめす.妊娠中期の初感
ズマには二つの発育型があり,栄養型とシストで
染症の垂直感染が最も多いが,慢性不顕性感染症
あり,広く自然界に分布されている.そのほかに,
のものから 57.1%と高く,トキソプラズマ IgM検
1
9
6
5年 Hutchinsonなどによってトキソプラズマ
出から 93%に垂直感染がみられ,オーシストによ
の終末宿主が猫とわかり,猫の消化管内で有性繁
る感染力の強さがうかがし、しれた実験成績であっ
殖が行なわれ,オーシストが形成,ネコの糞とと
た.
もに外界へ排世され,
3~ 5日を経ると内部に 4
4
) ト症の診断
個ずつのスポロツオイトを含む 2個のスポロシス
ヒトがト症に擢患するのは後天性感染と先天性
トを形成して,感染力をもっ成熟オーシスとなる
感染である.後天性感染は大部分が他動物からの
ことが明らかになった. ヒトへのトキソプラズマ
交叉感染で,多くは無症状に経過する不顕性感染
の感染様式はこのオーシストの宜接感染と,人蓄
である.時にリンパ腺炎,後部ブドウ膜炎,肺炎
に寄生している栄養型,シストによるものとがあ
型,肝炎型,発熱,発疹をみる顕性感染もあるが
る.後天性のヒトへの感染は主として他動物の食
少ない.
この不顕性感染はトキソプラズマの検査を施行
品として撰取した場合が多い.
感染時期と姓娠の関係:妊娠時ト症に擢患す
して,はじめて抗体保有を知ることができる. ト
る,すなわち初感染をうけると胎児にトキソプラ
キソプラズマ抗体価の高い場合に胎児感染の危険
ズマの感染が成立するが,妊娠前に母親がト症に
性を考えトキソプラズマ田 IgM,IgG
,IgAの検索を
なり抗体価が高くとも,胎児感染は成立しないと
6年 1月から 5
7年 7月まで,免疫
行なう.表 6は5
いう説が多く,慢性ト症の妊婦から先天性ト症児
の出生はあるという説は少ない,しかし実際に診
表6
療してみると,明らかに慢性ト症の母親から先天
トキソプラズマ抗体価と免疫グロフリン
〔
昭5
6
. l~ 昭 57. 7
)
性ト症児の出生が考えられることもある.教室の
抗体価
佐藤は基礎実験から,弱毒力の B
e
v
e
r
l
e
y株で,妊
2
5
6x
5
1
2x
1
0
2
4x
2
0
4
8x
娠前感染群,妊娠直後感染群妊娠 3日目の感染群
からの垂直感染の有無を調査した.妊娠前 2
0日前
に感染させた母マウス 8匹から出産したもの 7匹
で
4
0
9
6x
8192x
1
6
3
8
4x
5匹から仔マウスにシストが存在してし、た.
すなわち妊娠成立以前においても比較的妊娠成立
7
5
数
IgG
IgM
IgA
2
6
2
9
3
0
5
1
2
4
3
0
4
0
0
8
0
0
1
6
0
0
3
2
0
0
6
4
0
0
8
1
9
2
(-)
(-)
(←)
(-)
(-)
(
ー
)
〔
ー
)
(←)
(-)
(ー)
(
ー
)
6
表 7-1 症例 1(1)佐 O木O子
既往症:特記すべき
ζ
となし
結婚 1
9才
3
0才
主婦
家畜飼育なし
妊 娠 歴 :2
0才. 2
1才. 3カ月 I
Cて人工妊娠中絶
3
.1
.10.-7日間
最終月経:昭和 4
1
9
2(H.A
.) 9週. 2
3
週. 3
6
週
トキソプラズ 7 1:8
妊娠経過:侮毒反応陰性,
分
3.1
0
.
6(
3
8
週)早期破水,骨緩位,外子宮口強靭にて帝王切開
娩・昭和 4
3030g O Apgars
c
.
8 燐帯血トキ 1プラズ 71:2048
術後経過.白股腫を併発.4
2日目軽快退院
pistotonus生後5
4日目死亡
児の経過:分娩翌日より緊張性痩筆 O
倹査成綾:胸部・頭蓋レ線,眼底所見
エコーグラムで異常なし
血液,鎚液のマウス継代培養トキソ(一勝血球凝集反応
勝手帯血
7日目
2
0
4
8
1 ・2
0
4
8
5
2日目
5
1
2
剖検所見:大脳基底 t
裏付近.脳橋,小脳ζ
l トキ ソプラズ 7 の Cyste型存在,初期
石灰沈着
表 7-2 症例 1(
2)佐 O木 O子
妊娠歴
3
3才
主婦
2年 5カ月前ζ先天性トキソプラズ
i
7 児出産
最終月経:昭和 4
6年 l月 5日-10日間
妊娠経過・妊娠 3カ月 (
9週)切迫流産,黄体ホ ノレモン投与
4週
妊娠 1
トキソプラズ 71
3
4週
分
5
1
2
1
2
8
娩:昭和 4
6
年1
0月 1
2日(
4
0
週) (
第 H前方後頭位にて分娩,早期破水,微弱
陣痛 I
Cてオキシトシン点滴注射をお ζ なう) 古 3
140g Apgar SC. 6
トキソ プラズ 7母親 1・2
5
6.児 1:2
5
6
産祷経過 :順調 1
2日目退院
r
.
.
.
.
<
<
< 2日一一 4日¥
児の経過:体温 3
7.
5
"C ¥
(生後
) ゼオベン 2
00m
巨
7日一一 8日.
1
uVvu
,
,
,x2
生後 7日目 胸部 XP 頭 部 XP 異常なし
生後 1
2日日
体重 3
500gI
Cて退院
示唆している .
症例(表 7-1,2)は第 l回の妊娠時に高抗体価
をしめしたト症併発例で,出生児は出生後けいれ
んをつづけ(
写真 1)
,5
4日目に死亡,剖検で脳内
にトキソプラズマチストが存在していた.その後
2年 5カ月後に妊娠したが,
ト抗体価は下降し,
経睦分娩で,健康男子を出生し,母児ともに異常
をみなかった.先天ト症の出生は,母親のト症併
発と妊娠時期との関係が密接に影響していること
写 真 l 佐 O木ベビー
出 生 第 1日より opi
s
t
o
t
o
n
u
s
を示す.
を立証した価値ある症例であった.
1
1
1 サイトメガロウイルス
(
C
y
t
o
m
e
g
a
l
o
v
i
r
u
s,CMV)
グロプリンの教室の調査したもので,異常値をみ
CMVは風疹ウイルスと同じに妊婦に感染が生
IgMの検出は胎児感染の可能性を
ずると胎内感染が起こり先天性巨細胞封入体症
なかった.高い
- 7
6ー
7
(
c
o
n
g
e
n
i
t
a
lcytomegalici
nc
1u
s
i
o
nd
i
s
e
a
s
e,CID)
生 後 数 カ 月 か ら 1歳 ま で に 50-60%の 乳 児 が
の出生をみる.胎内感染をうけた児はほとんど無
CMVの抗体を保有するようになる.
CMVの 感 染 に よ る 典 型 的 な CIDの 出 生 は 日
症 状 ( 不 顕 性 感 染 〉 と い わ れ る が , そ の 3-10%
に異常症状を呈するものが現われるといわれる
本では少ないが, CMVは経胎盤感染のみでなく,
(顕性感染).肝牌腫,黄痘,血小板減少症,脈絡
産道感染が考えられる感染症であるため,その点
網膜炎,精神発育遅延,小頭症,脳内石灰化像な
に留意して,分娩時の予防的注意を十分に行なう
どがみられる.
必要がある.
おわりに
1
) 胎内感染と妊娠時期
先天性異常児の出生の可能性がある風疹,
風疹と同様,妊娠初期に母体が初感染であると
トキ
き,顕性感染の可能性がある.初感染でない場合
ソプラズマ,サイトメガロウイルスについて教室
は,母体は IgG抗体を持っているため,経胎盤に
のデーターを紹介し,また妊娠時期と感染時期の
より胎児に移行し,胎内感染がおきても全身的影
問題を基礎実験で確認したことを述べ,胎内感染
響は少ないと考えられる.
と産道感染の危険性,病態などについて,産科面
日本では CMV抗 体 を 妊 娠 の 95%が保有してい
から概説した.未だ胎内感染による先天異常児出
るが,欧米では CMV抗 体 保 有 率 は 30-40%で
,
生に対する本格的予防法,治療法が確立していな
妊 娠 中 に CMV初感染率が高く, CID出生のリス
いので,一日も早く,解決され,先天性障害児の
クが高い .CMVは体内に潜伏感染し,免疫抑制状
出生を食止めたいと願っている.
態などで再活性化されるが,妊娠によっても再活
最後に特別講演の機会をお与え下さいました本学会
性化され,子宮頚管内や尿中に排世されることが
会長吉岡博入学長に厚くお礼を申しあげます.なお座
知られている.教室の篠崎は妊娠経過中の妊婦
長の労をおとりいただき有難うございました.また特
CMV-CF抗 体 価 の 上 昇 率 を 表 8~こしめしており,
別に停年退職前にこの機会を得ることができたことに
妊 娠 陽 転 19.0%にみとめ,また 4X以上の CMV抗
体 価 陽 性 例 73.7%で、あった.また妊娠時期による
尿,頚管分泌物からの, CMV分離率は,表 9にみ
るごとく,妊娠後期に尿から 28.2%,頚管分泌物
つき, とくに佐藤イクヨ名誉教授学会幹事の先生方の
御厚情に感謝いたします.
(本論文は昭和 5
7年 9月2
5日東京女子医科大学学会
第4
8回総会において発表した.)
教室業績
から 9 %に分離し,産道感染の危険性を示唆して
1)大内広子・元山清子 トキソプラスマの検査,特
に赤血球凝集反応法を中心に.産婦治療 2
3
19
7
1
)
3
3
6(
2
) 黄 麗珠・元山清子・大内広子・白坂龍噴・大須
賀 道 代 当大学病院におけるトキソプラズマの赤
血球凝集反応検査成績,特に妊産婦の赤血球凝集
反応について.東女医大誌 4
27
3
8(
19
7
2
)
3
) 黄麗珠・白坂龍噴・大内広子 マウスの実験的
トキソプラスマ症に対する薬剤の治療効果につい
て.東女医大誌 4
26
8
4(
19
7
2
)
4
) 大内広子・松峯寿美 妊婦とウイノレス感染症.産
11
5
3(
19
7
5
)
婦治療 3
5
) 大内広子:産婦人科臨床の最近の知識 T
o
x
o
34
5
1(
19
7
6
)
p
l
a
s
m
o
s
i
s
. 診断と治療 4
6
) 大内広子・吉田茂子・斉藤洋子.不妊症および流・
.
r 産婦治療 3
4519(
19
7
7
)
早産とマイコプラズ 7)大内広子 トキソプラズマ・風疹の検査とその読
み方.産婦治療 3
53
6
8(
19
7
7
)
8
)大内広子:T
o
x
o
p
l
a
s
m
a症の検査法抗体価の問
55
1
0(
19
7
8
)
題を含めて一.産と婦 4
いる.
新生児が出生時産道感染により感染するため,
表 8 妊娠経過中の妊婦 CMV-CF抗体価の上昇率
妊娠前期
例数!
5
7
妊娠後期
:
1
5
(2
6
.3%) I有意上昇 o
CFよ4
(
0~ぢ)
CF<4:42(73.7%) I
抗体陽転 8 (
19.0%)
表 9 妊娠時期による尿および頚管分泌物からの
CMV分離率
妊娠後期
尿
頚管分泌物
28.2%(
11
/
3
9
)
9%(3
/
3
3
)
7
7ー
8
9
) 大内広子
1
5
)岩本絹子母児感染における新生児大腸菌感染症
胎児感染による流・早産,産婦人科シ
リーズ. N
o.21 流 産 の す べ て . 南 江 堂 東 京
7
8
)
(
19
1
0
)大内広子・先天性トキソプラズマ症.妊婦・胎児・
新生児の感染症.日本周産期医学研究会
の発現機序に関する細菌学的研究.東女医大誌
4
73
6
0 (19
7
7
)
1
6
)斉藤洋子園生殖に関するマイコプラズマの研究.
73
7
6 (19
7
7
)
東女医大誌 4
5
8
(
19
7
8
)科 学 評 論 社 東 京
11)瀬木和子・小宮山節子・元山清子ー先天性トキソプ
17)野上敬子 ToxoplasmaO
ocystの感染,母体と
97
3
3
胎仔に関する実験的研究.日産婦会誌 2
(
19
7
7
)
1
8
)篠崎百合子:妊婦尿から分離されたサイトメガロ
ラズマ症の l剖検例.東女医大誌 3
9
8
8
8(19
6
9
)
1
2
)佐藤和子新生マウスへの経胎盤トキソプラズマ
感染および生存抗体価の検討.東女医大誌 4
4
(1
)
8
6(19
7
4
)
1
3
)佐藤和子園トキソプラズマ先天感染および非感染
仔マウスの抗体価の比較.東女医大誌 4
4
(
1
)
1
2
1(
1
9
7
4
)
1
4
) 高橋文子:妊産婦の尿路感染. 日産婦誌東京地方
42
3(19
7
6
)
部会会報 2
ウイノレスの ELISA(
enzymel
i
k
e
di
n
m
u
n
o
s
a
r
52株と
b
e
n
ta
s
s
a
y
) 法による抗原構造の検討 U
代表株 AD1
6
9株の比較検討一.東女医大誌 5
2
(
10・11) 1
3
4
6
1
3
5
4 (19
8
2
)
1
9
)篠崎百合子:産科領域におけるサイトメガロ感染
症.東女医大誌
~
7
8ー
5
200・1
1
)1
3
5
5
1
3
6
2(
1
9
8
2
)