産褥期風疹ワクチン接種の効果 次の妊娠時における抗体保有率の検討

【はじめに】
現在「風疹流行および先天性風疹症候群の発生抑制に関する緊急提言」により、風疹HI抗体陰性または16倍以下の低抗体価であった妊婦に対し、
産褥期早期に風疹ワクチン接種が勧められている1)。
抗体陰性者へのワクチン接種効果(抗体獲得率)は、ほぼ100%であるが、HI抗体価が16倍以下である妊婦への産褥期風疹ワクチン接種では、次回
妊娠時までに抗体価がほぼ元のレベルまで復する例が指摘されており、産褥期風疹ワクチン接種が有効かについては今後の課題とされている2)。
そこで今回我々は、産褥期風疹ワクチンの接種効果を調査検討したので報告する。
【研究目的】
妊娠初期検査において風疹HI抗体価が16倍以下であった妊婦への産褥早期における風疹ワクチン接種効果について、次回妊娠時、風疹HI抗体価
保有状況を調査検討した。
【研究方法】
(研究対象)
東海地区産科診療所2施設において2010年1月~2011年12月までに分娩した女性3405名のうち、妊娠初期に風疹抗体価16倍以下のため希望
のあった785名に産褥期(産褥1日~37日)に風疹ワクチンを接種した。そのうちその後の妊娠により再度抗体価を測定した163名を対象とした。
(データ収集分析方法)
■ 収集時期 2011年1月から2012年2月
■ 収集方法 後方視野的に診療録より調査分析を行った。
■ 抗体価測定 風疹HI法を使用した。
■ データ分析方法 結果は、全ての統計学解析は統計解析ソフトRを用いて計算した。接種前抗体価、接種時年齢、接種後期間による接種後抗
体価の分布はカイ二乗検定(χ2検定)で分析した。
【研究結果】
256
n=15
n=21
n=5
n=7
n=7
n=1
n=3
n=63
n=31
n=10
128
H
I
抗
体
価
(
倍
)
64
32
16
16
8
8
接種前
100%
90%
80%
70%
60%
50%
40%
30%
20%
10%
0%
1.8
12.5
9.4
12.5
29.0
抗体価 128
抗体価 64
37.5
抗体価 32
58.9
抗体価 16
抗体価 8
26.8
接種前HI抗体価≤8
接種後
抗体価 256
8.9
2.8
接種前HI抗体価=16
図1.妊婦における風疹ワクチン接種後抗体の保有状況
図1は、妊婦における風疹ワクチン接種後抗体の保有状況を表した。
接種後抗体32倍以上への上昇がみられたのは、接種前抗体8倍以下で20名(36%)、16倍で41名(38%)であった。接種後の抗体価分布は接
種前抗体価の状況により差が得られた。(p<0.0001)
表1.妊婦における風疹ワクチン接種前後の状況
接種前抗体検査時出産歴
接種前風疹HI抗体価
接種時年齢
接種時産褥日数
接種後抗体再検期間 (月数)
初産婦 (n, %) 経産婦 (n, %) 平均 (標準偏差) 範囲 (中央値) 平均 (標準偏差)範囲 (中央値) 平均 (標準偏差) 範囲 (中央値)
≤8 (n=56)
50 (89.3)
6 (10.7)
27.2 (5.5)
19-42 (27.5)
3.5 (5.7)
1-37 (2)
18.8 (7.1)
4-33 (18)
=16 (n=107)
94 (87.9)
13 (12.1)
28.2 (4.3)
19-41 (28)
3.2 (5.2)
1-34 (2)
18.4 (6.3)
5-37 (18)
全体 (n=163)
144 (88.3)
19 (11.7)
27.8 (4.7)
19-42 (28)
3.3 (5.4)
1-37 (2)
18.5 (6.5)
4-37 (18)
表1は、妊婦における風疹ワクチン接種前後の状況を示した。
研究対象者は、初産婦 が88.3%で、平均年齢28.7、産褥早期(産褥日数:平均3.3日)の接種が行われた。
前回妊娠初期(接種前)に風疹HI抗体価8倍未満と16倍の妊婦の間に、抗体検査時出産歴、接種時年齢、接種時産褥日数、次回の妊娠初診ま
での期間の分布には差が見られなかった。
表2.接種後期間別接種後風疹抗体価
表3. 接種後の抗体価変化に関わる要因の検討
接種後風疹HI抗体価 (倍)
接種後期間(月数)
≤18 (n=87)
≻18 (n=76)
全体 (n=163)
≤8
8
(9.2)
10
(13.2)
18
(11.0)
16
32
44
18
(50.6) (20.7)
40
18
(52.6) (23.7)
84
36
(51.5) (22.1)
P値
64
128
256
11
(12.6)
6
(7.9)
17
(10.4 )
5
(5.7)
2
(2.6)
7
(4.3)
1
(1.2)
0
(0.0)
1
(0.6)
≤16 (陰性 n=102)
0.6
(n,%)
表2は、接種後から次回妊娠時検査期間を18ヶ月で分けて接種後抗体の分
布差が見られなかった。
【考察】
接種後風疹HI抗体価
>32 (陽性 n=61)
P value
接種前風疹
HI抗体価(倍)
年齢(年)
≤8
16
≤35
>35
36
(35.3)
20
(32.8)
66
(64.7)
41
(67.2)
95
(93.1)
57
(93.4)
7
(6.9)
4
(6.6)
0.88
0.80
接種後期間 (月数)
≤12
12-24
>24
14
69
19
(13.7) (67.6) (18.6)
10
41
10
(16.4) (67.2) (16.4)
0.86
(n,%)
表3は、産褥早期風疹ワクチン接種の効果に影響を与える要因を検討したが、
接種後抗体を16倍以下と32倍以上で比較したところ、接種前抗体価、接種時
年齢、接種後期間との間に今回関連は得られなかった。
今回の調査では、妊娠初期検査において23%の抗体陰性または低抗体価の妊婦がみられた。これは、他の研究結果と同様の結果であった。
産褥早期風疹ワクチン接種後次回の妊娠初期検査において抗体価が32倍以上へ上昇がみられたのは、接種前抗体8倍以下で20名(36%)、16
倍で41名(38%)であった。この結果は、抗体陰性または抵抗体価への産褥早期ワクチン接種効果が幼児、成人を対象とした結果より、低いことが
示された。
【まとめ】
今回の調査により、産褥早期における風疹ワクチン接種効果が、その後の妊娠時初期検査において低いことが示された。今後、原因の究明と接種
時期等の検討が必要と考える。しかしながらワクチンの接種により37%が32倍以上の抗体価上昇がみられ、接種の効果がなかったとは言えない。風疹
の流行が問題となっている現状においては、対策の一環として必要である。さらに、現在流行の主流である20代から40代男性への予防接種推奨と2
回接種法の効果が期待される。
【引用文献】
1) 厚生労働省科学研究費補助金新興・再興感染症研究事業分担研究班:風疹流行及び先天性風疹症候群の発生抑制に関する緊急提言.
(http://idsc.nih.go.jp/disease/rubella/rec200408rev3.pdf) (アクセス:2012年11月2日)
2) CQ605.妊婦における風疹罹患の診断と対応は?.日本産婦人科学会/日本産婦人科医会編集・監修.産婦人科診療ガイドライン産科編2011、東京、日本産
科婦人科学会、2011,246-249.