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平成 26 年度九州地区母子保健事業研修会(復命)
日時:平成 26 年 10 月 24 日(金)
場所:福岡県吉塚合同庁舎
参加者:小国町
後藤 藍
●行政説明「最近の母子保健を取り巻く状況」
厚生労働省雇用均等・児童家庭局母子保健課
母子保健対策の体系の中で今回主に説明があったのは、
「妊娠・出産包括支援事業の展開」
と「小児慢性特定疾病医療費」についてであった。
「妊娠・出産包括支援事業」
出産、育児の不安や負担、妊産婦を支える地域の力が弱くなってきていることから、地域
において妊娠期から出産、子育て期へと切れ目のない支援の強化として予算化される。
<事業概要>
①母子保健相談支援事業:母子保健コーディネーターの配置
②産前産後サポート事業:助産師等による相談支援やシニア世代が話し相手となるなど
の支援により、妊産婦の孤立感の解消を図る。
③産後ケア事業:心身のケアや育児サポート等きめ細かい支援を行う。
今年度はモデル事業として全国 28 市町村が実施をしているところ。(九州では宮崎市が
実施している。
)平成 27 年度は 150 市町村で実施予定。
「小児慢性特定疾病医療費」
児童福祉法の改正により、
平成 27 年 1 月 1 日から施行される。内容は以下の通りとなる。
<医療費助成制度>
・実施主体:都道府県、指定都市、中核市
・医療費助成に要する費用は都道府県等の支弁とし、国はその 1/2 を負担。
・医療費助成の対象疾患の拡大 →
・自己負担割合の変更 →
現 514 疾病から 705 疾病へ拡大
現 3 割から 2 割へ(所得に応じて上限あり)
<小児慢性特定疾病児童自立支援事業>
・実施主体:都道府県、指定都市、中核市
・医療費助成に要する費用は都道府県等の支弁とし、国はその 1/2 を負担。
・慢性的な疾病を抱える児童及びその家族の負担軽減及び長期療養をしている児童の自立や
成長支援について、地位の社会資源を活用するとともに、利用者の環境等に応じた支援を
行う事業(法定事業)
・必須事業と任意事業に分けられる。
●講演「母子保健と感染症」
~もし知っていたら、教えてくれていたら…をなくそう~
長崎大学院医歯薬学総合研修科 教授 森内
浩幸
氏
妊娠中に注意すべき母子感染症
TORCH compiex(トーチ症候群)
T:トキソプラズマ
O:梅毒
R:風疹ウイルス
C:サイトメガロウイルス
H:単純ヘルペスウイルス
このトーチ症候群の臨床像は共通点が多いが、それぞれに対応が必要である。
しかし、この中でも報告として多い現状にあるにも関わらず、
「トキソプラズマ」
「サイトメ
ガロウイルス」については対策がまだしっかり出来ていない。
「トキソプラズマ」
容易に診断される先天性トキソプラズマ症はごく一部で、妊娠週数が後の方になるにつれ
て遅発性の症状により診断が困難となる。そのため、見逃されることが多い。
特に眼病変は出生時点では見つからなかったとしても、その後に病変が出てくることが多い。
(「進行性」であり、
「遅発性」であるため妊娠中にわかった場合はずっと経過をみていく必
要がある。
)早期に発見し治療介入することで病変の進行を食い止められる。
感染状況は、アジアは世界からすると少ないが、年々増えてきている。特に多いのはフラ
ンス、ほかにサッカー強豪国にみられる。
・先天性感染:自閉症や小児精神病の一因?
後天性感染:統合失調症の一因?
とも言われている…
<感染経路>
・ネコ(終宿主)の糞便にまじるため、公園の砂場遊びや畑仕事などで感染
・牛、豚、馬、鹿の筋肉や脳などにとどまり、加熱不十分の肉を人間が食べる
ことで感染(馬刺し、鹿肉を食べるところは多いといわれている) ※一番のリスク因子
・胎盤感染以外は人から人への感染はない
※食肉を扱う人やペットを飼っている人は感染が多い
<妊婦の生活上の注意>
・基本妊婦はネコを飼わない
・ネコの糞便を扱わない、毎日捨てる(1 日経つとウイルスが増殖する・飼い猫は屋内で)
・食肉は十分加熱する
・畑仕事をするときは手袋を着用する
など
<予防>
・妊婦スクリーニングにより感染の有無を見つけるだけでなく、初期感染を見つけることが
重要。(産科では 40%くらいが実施をしているとのこと)
・胎児感染防止⇒スピラマイシンの投与により胎児感染を 60%減らすことが出来ると考え
られている。保険の適応ではないが、安価で安全であるため勧められている。
・胎児治療⇒抗原虫薬ピリメタミン+スルファジアジン(+葉酸)の投与により児の予後は
改善すると考えられる。早期に投与開始することが重要。ただし、日本では抗原虫薬の発売
がされていない。
(熱帯病を研究している病院には常備しているので依頼して取り寄せるこ
とはできる。23 か所ほどあり長崎大学あり)
「サイトメガロウイルス」(CMV)
妊婦の約 3 割が未感染妊婦であり、妊娠中に初めて感染した方が妊娠前に感染していた時
よりも胎内感染を起こしやすく、症候性感染や長期後遺症を起こす確率が高くなっている。
アメリカでは長期後遺症や死亡の人数はダウン症よりも多いということがわかっている。
日本は年間 50 例の報告があっているが、実際は年間 1000 例の症例があると推定される。
このことから、感染症としては重視するもののひとつとして考えられる。
原因不明の高度難聴や水頭症、自閉症についても後方視的診断の結果、先天性 CMV 感染に
よるものであると判明している。
<感染経路>
保育園等での
職業感染
既感染母親
胎内感染
未感染妊婦
胎児
(尿・唾液)
母子感染
子から母への感染
(尿・唾液)
子ども
子ども
保育園等での
水平感染
(尿・唾液)
保育園、幼稚園では多くの子どもが尿や唾液に CMV を排泄するため、保育園等で感染す
ることが多い。数か月や数年単位でウイルスを出し続けているとのこと。保育園や小児科で
勤務している女性は妊娠前半期には接触に注意する必要がある。
<生活上の注意>
・おむつ交換後や子どもへの食事後、子どものよだれや鼻汁を拭いた後などには
よく手洗いをする。
・子どもと飲食物や食器を共有しない。
・子どもの尿や唾液で汚染されたものや場所はきれいにする。
難しいことではないけれど、実際には完璧にはできない…
<治療>
現在、出生前の治療薬やワクチンの目途が立っていない。出生後に感染児に予後を改善さ
せる抗ウイルス薬はあるが保険適応ではない。
○先天性 CMV 感染による健康被害を最小限に留めるためにできることとして…
・妊婦:妊娠初期に血清学的スクリーニングをし、抗体陰性であれば生活上の注意を
伝える啓発を行う。
・新生児:できれば全新生児に CMV-DNA マススクリーニングを行い、感染者には特殊
教育などの早期介入や抗ウイルス薬による治療を開始することが改善につなが
る。
児予後改善のための母体 CMV 抗体スクリーニング検査を実施し、早期介入が出来るよう
にした方が長期予後(特に聴力)の改善につながる。
●まとめ…
これまでは、見たときに明らかに障害があるとわかるケースだけが症例として上がってき
ていたが、後天的に表れるケースも多く、潜在的に隠れている症例が多いことを知った。情
報として知られていない感染症でもあり、未然に情報があれば予防できるため、母子手帳発
行時にしっかり情報を伝えていくことが必要であると感じた。
厚生労働省のパンフレットの中には、トキソプラズマや CMV についての記載がない状態
であり、妊婦健診でも検査の項目はまだない。患者会(トーチの会)では資料を作成し、だ
れでもダウンロードできるようにしている。
今後妊娠前も含めて感染症予防啓発に努めていきたい。