韓国モバイル産業の開発・生産体制 宋 娘沃(中国短期大学) 1

韓国モバイル産業の開発・生産体制
宋 娘沃(中国短期大学)
1.はじめに
近年アジア ICT 産業の成長が著しい中、とくにテレビ、液晶パネルなどの家電、半導体、
携帯電話、スマートフォンを含む通信部門の競争が一段と高まってきている。韓国の場合、
ほぼこうした分野において高い競争力を持つに至っている。
近年のスマートフォンの急速な普及に伴い、世界の携帯電話端末産業はその周辺の関連
産業にも大きな影響を及ぼしており、ICT 産業をめぐる競争構造を一変させている。通信
装置、携帯電話端末製造の側面からみると、現在グローバル携帯端末市場は、①ノキア、
三星電子、LG 電子、モトローラ、ソニ-エリクソンのグローバルベンダー、②アップル、
RIM、HTC などはスマートフォン中心の製造企業、③ZTE、華為技術、TCL(Alcatel)な
ど中国系企業、その他ローカル製造企業がそれぞれの市場で競争している。これら①②③
企業すべてはスマートフォンの競争を軸に、それぞれ開発に集中している。2012 年の携帯
端末市場の営業利益の 116%をアップルと三星電子が占めており、各社の営業利益率はアッ
プルが 79%、三星電子が 37%、HTC3%、LG 電子 0%、ノキア-5%、RIM-3%、モト
ローラ-2%、ソニーモバイルコミュニケーションが 1%であった。この営業利益率からみ
ると、三星電子とアップル 2 社の寡占体制となっている。そこで韓国のモバイル企業はど
のようにして競争優位を獲得しているのかが問われねばならない。
本稿の課題は、2000 年代以降の韓国モバイル産業における開発・生産・部品調達の体制
を明らかにすることである。まず 1 つは、韓国企業がどのようにして携帯電話を含むスマ
ートフォンの開発しているのかを検討し、2つ目には、世界市場との競争において韓国企
業がどのようにして生産体制を構築しているのかを考察する。3つ目には、韓国企業が携
帯電話端末の部品をどのように調達しているのかを考察する。
2.韓国モバイル産業の開発・生産体制
(1)携帯電話端末の開発体制
三星電子の場合、90 年代初の携帯端末の開発においても、半導体の開発のときと同様、
社内のいくつかの開発を同時に行うことによって競争システムを構築し、社内競争を競わ
せた。具体的には、①自社内の携帯電話の開発チーム、半導体事業部チームが一緒に開発、
②社内の開発チームと外部の開発チームの並行開発、③同じ建物の中にチップ、携帯電話
端末、基地局、ソフトウェアチームが集まって開発、④3 世代、4 世代の技術の場合、無線
LAN、放送、インターネット、コンピュータ技術など多様な技術が要求され、外部のソフ
トウェア、部品業界、国内ベンチャーなどとの共同開発を推進して行った。三星電子は新
機種の開発の際には、複数の開発チームを設け競わせて、性能とコストの面でもっとも優
れたチームの開発を市場に投入している。
1
年代半ば以降、第 2 世代のデジタル方式の CDMA 技術開発を遂行している中、携帯
電話端末の小型化、軽量化能力の獲得が先進国との競争において差別化できる戦略だと判
断し、三星電子、LG 電子も小型化、軽量化に力を注ぎ、Flip up の形から LCD を搭載し
た Dual folder を開発、出荷し、製品の差別化に成功した。
三星電子の 2000 年代半ば以降の開発は、スマートフォンの普及による新たな開発体制へ
の強化である。それはハードウェア部門とソフトウェア部門の開発であった。
1 つ目は、携帯電話端末のハードウェア部門における強化である。それはプラットフォー
ム構築と部品のモジュール化である。また、2009 年以降、三星電子の無線事業部は中核的
な協力部品企業を中心に部品のモジュール化やファームウェアをパッケージにして供給す
る方式を取る。それに、アプリケーションプロセッサ(AP)のハードウェアプラットフォ
ーム基盤にディスプレ-、カメラモジュールなど部品構成を変えればハイエンドから中低
価までの多様なモデルを素早く出荷できる。それにより開発の時間短縮と完成品のリード
タイムを 20%以上早めるというメリットは競争力に直結するものである。
アプリケーションプロセッサの開発は三星電子のシステム LSI 事業を軌道に乗せ、2012
年三星電子のシステム半導体事業の売上高の 60%を占めるに至っている。このアプリケー
ションプロセッサ開発は三星電子の半導体事業部での微細化やチップサイズ縮小の開発力
が大いに貢献していることを意味している。
2 つ目には、ソフトウェアの開発の強化である。三星電子が重点的に行ったことは次の 3
つである。その 1 は、2008 年に組織改編を行い「モバイルソールションセンター」=MSC
を新設し、コンテンツ開発チームとモバイル用コンテンツサイトチームを構成したことで
ある。MSC は外部のアプリケーション業者を取り入れるための解放型プラットフォームを
作り、外部の開発者との連携を構築し、開発を進めた。さらに外部のソフトウェアハウス、
デザインハウスを積極的に活用したのである。
その 2 は、自社開発のスマートフォン OS を開発したことである。MSC は三星電子がソ
フトウェアの競争力強化のために設立したもので、この MSC を通じて 2009 年に自社開発
の OS であるバダ(Bada=海)を出荷することになったのである。ここで注目すべき点は、
三星電子がこれまでのハードウェア製造に強みを持っていたが、自社内の OS 開発のため、
MSC と無線事業部の二元体制を確立し、系列会社の三星 SDS を通じた国内最大規模のソ
フトウェア企業であるティメックスを買収したことである。
Bada の OS は、主にヨーロッパと新興国のローエンド市場をターゲットにして 7 つのモ
デルに搭載された。ヨーロッパ市場では、2010 年第 2 四半期から 2011 年第 3 四半期は 800
万台程度の販売で、グローバル市場ではシェアは少なかった。
その 3 には、ソフトウェアの開発においてマルチ OS 戦略で対応した点である。アンドロ
イド OS を基軸としながら同時にマイクロソフトの OS Windows Phone の利用も試みるこ
とで柔軟に対応している。このように三星電子はこれまでのハートウェアの競争力を軸に
ソフトウェアの開発にも尽力したのである。
90
2
2 携帯電話端末の生産体制
韓国携帯電話端末産業において一つの転機になったのが、韓国政府が第 2 世代の北米の
CDMA 方式の技術を商用化することを決めたことであった。当時 CDMA 方式はいくつか
のメリットを持っているが、商用化できていない状態であった。もし、CDMA の技術開発
に成功すれば、韓国が通信市場の主導的な役割を果たせるという思惑があった。三星電子
は、クアルコムと技術移転契約を結び、政府研究機関である電子通信研究院(ETRI)を中
心に 1989 年から 1996 年までの 7 年間 543 億ウォンを投入し、民間企業である三星電子、
LG 情報通信、現代電子、マクソン電子などは 453 億ウォンを投入して、総 996 億ウォン
の研究費と 1,000 人の研究員を投じて共同研究開発事業を行ったのである。この共同研究
開発は 90 年代以降、政府が通信産業の高度化に対する国家的重要性を認識し、通信供給と
技術確保を主導したこととなった。CDMA の技術開発の成功は国内移動通信市場を活性化
させ、さらにグローバル市場に展開させる契機となった。
三星電子は 2000 年に入り、海外市場ではプレミアム製品で勝負しようと思い、世界最初
の外部 LCD を装着したデュアルフォン、内臓型カメラフォン、カラーVOD フォンなどを
他社製品より 10~50%以上高い価格を設定し市場に出荷した。主にヨーロッパ、中国、ロ
シア市場でブランドイメージを構築することになった。2003 年の TFT-LCD を装着した
SGH-T100 は世界のテンミリオンセラーになるなど、既存の三星電子のイメージを大きく
変化させた。こうした変化は次のようなことをもたらした。第 2.5 世代から第 3 世代の携帯
電話端末製品はデジタル融合でグループ内の電子製品事業と携帯電話端末事業のシナジー
効果をもたらし、一層三星電子の成長に拍車をかけることになったのである。
2000 年代半ば以降、携帯電話端末は先進国市場では新規・交代の需要が次第に減少して
いる一方、新興国市場での爆発的に新規需要が増加している。新興国市場での新規需要は
三星電子の開発体制を新たに構築することを意味していた。新興国市場に適合した低価格
の携帯電話端末を生産する上、原価削減が最も大きなボトルネックであった。その対応策
として一つは、工場を新興国に設置することで賃金、物流などの間接費を減らすことであ
り、もう一つは、プラットフォームの共通化であった。プラットフォームの共通化によっ
て、部品調達費用、在庫減らし、1 製品あたりの R&D 費用が削減されることになる。2006
年下半期から三星電子は携帯電話端末のプラットフォーム共通化を実施することによって、
2005 年初ノキアと約 35 ドルの差があった ASP を 2007 末には 6 ドルに減らすことで役割
を果たした。
三星電子の場合、 年代までは自社生産を行っていたが、携帯電話の需要が高まるにつ
れて 年以降、海外に工場を新設し、海外生産シフトを加速化させている。海外生産は
年に中国の天津、 年に中国の深圳、 年にブラジル、 年に恵州、
年、 年にベトナムへと生産拠点を設けている。ベトナムが輸出基地として浮上したの
は、中国のように現地企業と合弁を結ぶ必要もなく、三星電子が 100%出資した現地法人で
あり、自由な意思決定と多様な生産戦略が駆使できるメリットがあったからである。
(
)
90
2001
2001
2003
2004
2012
3
2007
2009
このように、韓国の携帯電話端末企業は 2000 年以降グローバル競争が展開されるにつれ
て海外生産を本格化させている点である。海外生産の主な目的は、新興市場の拡大、中低
価製品市場の攻略という面で不可欠なものであった。三星電子の場合、2005 年以降はこれ
までのプレミアム製品とともに中低価製品のローエンド市場を同時に攻略する Two-Track
戦略をとった点にある。こうした海外生産により携帯電話端末の市場拡大が加速化し、製
造費用の削減が大きなメリットであった。
3.携帯電話端末の部品調達体制
携帯電話端末の部品調達は、自社内を含む系列企業、国内中小部品企業、海外の部品企
業の 3 ルートである。国内携帯電話端末の部品の調達体制をみると、まず1つは、能動部
品であるベースバンドチップは海外のクアルコム、TI などから全量を調達している。2つ
目は、メインボード、サブボード、ディスプレーモジュール、カメラモジュールなどは三
星電機、三星 SDI、三星 corning、三星テクイン、LG イノテックなどの国内携帯電話端末
企業の系列会社から調達している。3つ目は、受動部品である抵抗器、コンデンサー、フ
ィルタや振動モータ、RF 部品、PCB、メモリーチップ、ディスプレーモジュールやカメラ
モジュールは国内の中小部品企業によって調達されている。機構部品もほぼ国内中小部品
企業から調達している。
三星電子の場合、スマートフォンに使う主要部品は社内で調達するものと他社から調達
するものになっている。主にアプリケーションプロセッサやメモリー、ディスプレーなど
を自社内あるいは系列の子会社から内製化している。現在、三星電子は、半導体メモリー、
システム LSI の開発、製造のコアコンピタンスを活かして、モバイル部品を統合設計し、
チップセットの軽量サイズの最適化を実現している。その例として、メモリー部門におい
ては 2002 年から一貫して DRAM の競争力を維持し、フラッシュメモリーにおいても 2006
年から世界トップレベルで競争力を維持し、スマートフォンに使われている NAND 型フラ
ッシュメモリーは自社内で部品を調達している。
アプリケーションプロセッサの開発は、三星電子のシステム LSI 事業を軌道に乗せ、2012
年三星電子のシステム半導体事業の売上高の 60%を占めるに至っている。また、ディスプ
レー、タッチ・パネル分野においても三星電子は圧倒的な投資能力を持っており、莫大な
数量の部品を確実に供給する体制を構築し、大口顧客であるアップル社に納入している点
も大きな競争力になっている。このように三星電子は強い外部の顧客と自社の確実な機器
部門を持つことで部品調達の高い競争力を保っているのである。
こうした部品調達の高い内製化率は、三星電子や LG 電子など携帯電話端末企業に、製造
におけるリードタイムの短縮化、原価競争力の確保、スーピディな部品調達、製品完成度
の高さをもたらし、携帯電話端末企業の競争力の源泉になっていることを、実は意味して
いるのである。つまり、携帯電話端末部品の内製化による携帯電話端末部門と半導体部門、
系列の部品部門とのリンゲージによるシナジー効果を充分に発揮しているのである。
4