2. 携帯電話 中国の携帯電話加入者数は既に 2 億を超え、加入者数としては世界 1 位である。ただし、 人口 100 人あたりの普及率(約 16%)からみるとまだまだ今後の伸びが大いに期待されて いるのが中国である。最近ではショートメッセージサービス(SMS)を代表とする非音声 系のサービスの人気も急激に高まりつつある。最近はまた、カメラ付きのかなり高級な携 帯電話機も出現してきている。一方携帯電話による多彩なサービスを提供するために、現 在の移動通信のネットワーク(第二世代と言う。中国では主に GSM、他 CDMA)から次 の世代である第三世代への実現化に向けても様々な通信産業界が活発に動いているところ である。上述のように、①携帯電話の普及率は今後さらに伸びていく可能性がある ②携 帯電話によるモバイルインターネット等多彩なサービス提供による競争 ③加入者増加及 び多彩なサービス提供のため、新たな周波数確保等による第二世代方式から第三世代への 移行検討時期に突入していることなどから、これらを取り巻く国内外の産業界は中国の移 動通信に熱いまなざしを当てている。 (1)市場動向 中国の携帯電話市場は急激な成長を遂げている。携帯電話加入者数は 2001 年 3 月に 1 億 加入を突破、 同年 7 月にはついに米国を抜いて世界最大の携帯電話大国となった。 また 2002 年 11 月に 2 億加入を突破した。一方固定電話(同時期 2.1 億余)は増加してはいるものの 携帯電話の伸びからみると影に隠れた存在となっており、携帯電話の加入数が固定電話加 入数を超えるのは時間の問題である。(図 1 参照) 参) 日本 2003 年 3 月携帯電話 7351 百万、固定電話 5060 百万 モバイルインターネッ 6024 百万、固定インターネット 2915 万(総務省統計データ) 159 このように携帯電話加入数は成長しているものの、広大な中国においては大都市部を除 いてまだまだ普及率は低い(図 2 参照)。全国平均でも約 16%で携帯先進国が概ね 50%以 上の普及率からみてもまだまだ中国の携帯市場が勢いよく成長していくことは間違いない であろう。情報産業部予測によると 2005 年には 2.9 億加入に達すると予測しているが、現 状からみて、この予測を超える加入数になってもおかしくない勢いである。また、現在携 帯電話加入者の多くはプリペイドより購入している(図 3 参照)。 (2)通信事業者競争環境 現在、中国においては中国移動通信と中国聯合通信の 2 社が携帯電話サービスを提供、 欧州全域やアジア地域など 160 ヶ国以上で普及している GSM を採用している。また中国聯 合通信は GSM 以外に、北米や中南米、アジアなど約 30 ヶ国で普及している CDMA も採用 している。これらは日本の独自方式である PDC 同様に第 2 世代(2G:2nd Generation)の 160 携帯電話と呼ばれる。 中国移動通信と中国連合通信の市場シェア(加入者数ベース)は現在それぞれ 2/3、1/3 (2001 年 11 月末現在ではそれぞれ 72%、28%)であり、加入数ベースのシェアは中国連 合通信が相当に伸ばしている。昨年からは中国移動通信が GPRS によるデータ系サービス の開始、中国連合通信は CDMA ONE という新たなネットワークによるサービスの開始 などにより、両者はさらなる競争に拍車をかけている。 今後は音声系サービスによる競争とあわせて非音声系(モバイルインターネット、SMS 等)の分野での競争による加入者獲得に向かっていくと思われる。 (3)モバイルデータ通信 2003 年 1 月末の中国携帯電話加入者数がすでに 2.12 億加入になった。固定電話加入者 数(2.18 億加入)とは僅か 6 百万加入の差しかなく、予測によると、03 年の半ばには、携 帯電話の加入者数が固定の加入者数を上回ることになる。しかし、急速に携帯加入者数が 伸びても、実際には事業者収益がそんなに伸びていないのが現状である。 中国移動 中国移動を例にとれば、2002 年の 1 年間で加 入者数は約 4000 万加入(対前年 40%近く)増 え た が 、収益で は 前年度売上の 14%がしか伸 びていない。これは、新規加入者の大半がロー エンドユーザであり、ユーザの利用価額が下 が っ た こ と に よ っ て 、全体の ARPU(月・単位 ユーザの平均利用額)が低下している(図 4 参 照)。新 た な 事 業 収益の成長ポ イ ン ト と し て 、 モバイルデータ通信の分野が注目されている。 中 国 移 動 は モバイルデータ通信として、 2000 年 3 月頃 に WAP(Wireless Application Protocol)を導入し始めた。その後、2000 年 11 月頃にドコモの i-mode サービスを真似て、「移 動 夢 網 (MonterNet) 」事業を導入した。 「移動 夢網(MonterNet)」事 業 と いうの は シ ョート メッセージ(SMS)と WAP 等のモバイルデータ通信の綜合的なプラットフォーム、或いはモ バイルデータサービスのブランド名である。手軽に使えることと、低料金(0.1 元/1 メッ 161 セージ、参考:携帯電話料金 0.4 元/分)であるため、SMS の利用本 数 は 急 激 に伸 び 続 けている(図 5 参照) 。また 2003 年 3 月から、中国移動は 15∼25 歳の若者を対象とした新 サービス「動感地帯」(M-Zone)を開始した。同サービスの最大のセールスポイントは ショートメッセージである(毎月 20 元で 300 本、30 元で 500 本までメッセージを送ること ができる) 。これによって、ショートメッセージ利用の増加を狙っている。 しかし、WAP 事業ではあまり成功しなかった。その要因はコンテンツが少なかったこと と、回線交換のデータ通信環境での接続により利用の不便さなどがあげられている。そこ で、中国移動は 2002 年 5 月に GPRS(General Packet Radio Service)のシステムを全国ベー スで導入した。但し、GPRS 上での WAP 事業でも、GPRS 端末(図 6 写真)の値段が高か いこと(一部ユーザがしか利用できない)、コンテンツがまだ豊富ではない(2002 年末現 在、約 200 社)などの要因で、事業収入は音声の場合とはまだ比べものにはなっていない が、今後の動向を注目していきたい。 2002 年 10 月、中国移動はハイエンドユーザを対象に、MMS(Multimedia Messaging Service)サービスを導入した(料金、0.9 元/1 メッセージ。実質的には 0.6 元) 。画像など のハイレベルのコンテンツ(静止画、着メローなど)を利用できるが、端末価額(1 台 約 6,000 元、日本円で換算 10 万円近い)が高く、サービス開始後 3 ヶ月で 100 万通を突破した との発表(03 年 2 月中旬頃)から見て、普及はこれからという状況にある。(図 7) 聯通 中国聯通は中国移動と同様に、2000 年 5 月から WAP サービスを開始し、さらに「移動 夢網(MonterNet)」と類似な「聯通在線」(UNI-INFO)というブランドでのサービスも展 開している。加入者数は中国移動の 1/3 であり、聯通のショートメッセージ(SMS)の利 用本数は中国移動の 1/5 程度である。聯通のユーザはローエンド加入者が多く、ハイエン 162 ドユーザ対象のデータ通信は顕著には伸びていないが、CDMA ONE, CDMA 1 x などの新 たなネットワークの構築により巻き返しを狙っている。 このため、外資系との提携を通して、モバイルデータアプリケーション、Java(プログラ ムダウロードが可能)などによるモバイルデータサービス展開の準備を整備している。 (4)次世代移動電話(3G: 3rd Generation) 中国の次世代移動電話(第三世代移動通信:3G)のライセンスがいつ頃出るのかという 見通しについて、信息産業部等政府からの公式な見解は現時点(2002 年 3 月)出されてい ないが、昨年 10 月には 3G 用の無線周波数割当決定(無線基地局から携帯電話機間の無線 周波数)を政府が発表したことから、関係業界筋によると 2003 年乃至 2004 年にライセン スが発行されるのではないとみている。中国では次世代移動電話の方式として以下に説明 する 3 つの方式が注目されている。中国の通信事業者は恐らくこれら 3 方式のどれかを採 用することになるであろう。 ●W-CDMA 方式:欧州、日本(NTT ドコモ、J フォン)、米国の一部等が採用/決定 ●cdma2000 ●TD-SCDMA :米国、日本(KDDI(au) )等が採用/決定 :中国が採用予定(中国が提案して世界標準となった) 現状 2 社のうち中国移動通信が W-CDMA、中国聯合通信が cdma 2000 を選択すると有力 視されている(現時点公式見解はない)。更に固定電話系の通信会社である中国電信、網通 等が移動通事業の参入を希望しており、これらの会社も 3G ライセンスを取得することが 予想され、各通信事業会社がどの方式を採用するかによって、新ネットワーク設備、携帯 端末等が決定されることから、国内外の関連業界としては中国の各通信事業会社がどの方 式を採用するかに注目している。中国が 3G のサービスを開始することになれば、身近な 日中間(無論欧米等含めたグローバル空間で)においてもより便利に同じ携帯電話を使っ てのモバイルマルチメディアサービス時代が今後到来してくるだろう。 (5)WTO 加盟 2001 年 12 月 11 日、中国が世界貿易機関(WTO)の 143 番目のメンバとして正式加盟を 果たした。 中国はこれまで日本、米国、EU などとのニ国間交渉の中で、電気通信分野については 加盟後から 5∼6 年かけて階段的に外資の参入を認めると約束しており、公正な市場競争 を促進するよう国内の諸制度(外商投資電信企業管理規定など)を整備してきた。ただし、 まだ具体的情報通信規定を定める電信法は公布されていない。市場開放により外国から豊 富な資本と技術、ノウハウを中国の事業者にもたらし、インフラの発展とサービスの向上 163 が期待されている。一方で厳しい競争にさらされるため中国の電気通信事業者は抜本的な 体質改善を迫られることになる。 NTT ドコモやKDDI(au)、J-フォンなどの日本の電気通信事業者では戦略的な提携を模 索し始め、日本の通信機器メーカーやコンテンツプロバイダー(CP)も合弁会社・工場を 設立するなど、中国の携帯電話市場への資本・技術の側面からの取り組みを開始している。 WTO 加盟や 3G 導入を契機として日本勢の今後の活躍に期待したい。 164
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