Title Author(s) Citation Issue Date URL Publisher Rights コンタクト・ワークプログラムに関する一考察( fulltext ) 秋葉, 尋子 東京学芸大学紀要. 芸術・スポーツ科学系, 57: 157-162 2005-10-00 http://hdl.handle.net/2309/818 東京学芸大学紀要出版委員会 紀要57集-15秋葉 05.10.17 13:49 ページ 157 東京学芸大学紀要芸術・スポーツ科学系 57 pp.157∼162,2005 コンタクト・ワークプログラムに関する一考察 秋 葉 尋 子 舞 踊* (2005年6月30日受理) はじめに プログラムの背景 ダンス界において,コンタクト・インプロビゼーションの主張がなされてから久しい。現代に生きる人々に とって,コミュニケーションの有無は重要な課題である。うまくさまざまな伝達ができる人とできない人では, 雲泥の相違がある。他の人と自然にコンタクトできる人とできない人では,同様なことがいえる。コンピュー ター社会になって,誰もが避けられない状況になり,その対応に追われ疲労感が耐えないのが実情である。生 活の中にテレビやコンピューターをなくすには,田舎生活をするに限るが,そのような地域に生活するには, 車が必要となり,カーナビ等,メカに強くないと生活していけないというのが実情である。電気やガスのない ところにわざわざ出かけてからだをいやすということが人間にとって必要不可欠のこととなっている。長期の 生活ということになると,かなりの覚悟がいるのでなかなか飛び込めないのが普通である。仕事を持ち収入の ために都会で生活しなければならない人にとって田舎生活は夢のまた夢である。せめてスポーツクラブ等でス パやマッサージをして,身体を癒す以外にストレスを発散する方法が見当たらない。うまく世渡りができない 場合,過労死や自殺をするということになる。 このような状況の中で生きるだけの人々のために,さまざまな処方がとられているのであるが,いまだに解 決の方法が見当たらない。ダンス界においてもいろいろな試みがなされてはいるが,これだという解決の糸口 が見出されたとはいえない。そのような中で,コンタクト・インプロビゼーションにおけるコンタクト・ワー クプログラムは,ひとつの有効な方法として認識されている。ダンス界では,ポストモダンダンスの活動から コンタクト・インプロビゼーションについては,関心並びに具体的な訓練の方法が認識されてきている。その ような中からコンタクト・ワークプログラムが考えられていき,さらに一般的になり,ダンサーやパフォーマ ーだけでなく,身体が不自由な人にも適用できるように考えられている。普段からこのような訓練をやってい ると,自身の身になにが起こっても大丈夫という身体になってくる。高齢化社会になり,車椅子の生活が特殊 ではなく一般的になってくる時代を迎える準備であるともいえよう。 1,<像>としての身体 現代人の<像>としての身体は,およそ次のように分類される。 A,心身一体的身体(1)成長するものとしての身体,(2)住まうものとしての身体,(3)人に示すもの としての身体,(4)直接眺められた身体(クレー的身体),(5)鏡像身体(左右逆,短足など) B,図式(シェーマ的)身体(6)解剖学的身体(地図としての身体),(7)生理学的身体(論理的身体), (8)絶対図式的身体(離人,幽体離脱の際に典型的),C,トポロジカルな身体(9)内外の境界としての身 * 東京学芸大学(184-8501 小金井市貫井北町4-1-1) ― 157 ― 紀要57集-15秋葉 05.10.17 13:49 ページ 158 東 京 学 芸 大 学 紀 要 芸術・スポーツ科学系 第57集(2005) 体(「袋としての身体」),(10),快楽・苦痛・疼痛を感じる身体,(11)兆候空間的身体,(12)他者のまなざ しによる兆候空間的身体 D,デカルト的・ボーア的身体(13)主体の延長としての身体,(14)客体の延長としての身体 E,社会的身体(15)奴隷的道具としての身体,(16)慣習の受肉体としての身体(マルセル・モース),(17) スキルの実現に奉仕する身体,(18)「車幅感覚」的身体(ホールのプロセミックス,安永のファントム空間) (19)表現する身体(舞踊,身体言語), (20)表現のトポスとしての身体(ミミクリー,化粧,タトゥーなど), (21)歴史としての身体(記憶の索引としての身体),(22)競争の媒体としての身体(スポーツを含む),(23) 他者と相互作用し,しばしば同期する身体(手をつなぐ,接吻する,などなど) F,生命感覚的身体(24)エロス的に即触する身体(プロトベーシックな身体),(25)図式触覚的(エピクリ ティカルな身体),(26)嗅覚・味覚・運動感覚・内臓感覚・平衡感覚的身体,(27)生命感覚湧き口としての 身体(その欠如態が「生命飢餓感」(岸本英夫)),(28)死の予兆としての身体(老いゆく身体−自由度減少を 自覚する身体)があげられる。 以上の中でダンス的に注目できる点としては,以下のことがあげられる。E,社会的身体としてあげられて いることに着目したい。(19),(20),(22),(23)で述べられていることが大切であり,さらにF,生命感覚 的身体としてあげられている(28)死の予兆としての身体(老いゆく身体−自由度現象を自覚する身体)であ る。 人間の老いるという感覚は,不安との闘いといってもいいような心理的にも肉体的にも厳しいことであると いえる。20歳を過ぎると老化の一途であるということを,普段意識して生活している人はそう多くはいないで あろう。ほとんどの人が,ある日突然足が動かなくなったり,目が見えなくなったりして,まさかという瞬間 を迎えなければならないということである。自分が,車椅子の生活を送るとは考えていなかったという人がほ とんどである。バリアフリーという言葉が一般的になってはいるが,実際にバリアフリーの環境になるには, 住居から道路の横断歩道まですべて高齢者向きになっていないところだらけである。スウェーデンのような福 祉国家ならいざしらず,わが国においてはまさにこれからというところである。癌などの成人病の恐ろしさを 乗り越えることは,誰にもできることではない。厳しい手術に耐え,やっと生き残ったと思ったら,手術の恐 ろしさに声が出なくなってしまうこともあるのである。 死の予兆としての身体という<像>については,癌を例をとって考えてみると,両親や兄弟が癌にかかり, いよいよ自分の番であると,迫り来る恐怖にかられる場合に,死を予兆することになる。どのように死の瞬間 を迎えたらよいのか。考えれば考えるほど,深みにはまってしまうものである。癌と聞いた瞬間に,食物を食 べずに癌とともに死んでいくことがベストな方法であると考え,自然死の道を選ぶ人もいる。医療に携わる 人々は,あきらめずに癌と闘おうとしてくださいと呼びかけているのであるが,周りの人々の延命の苦しみを 見続けていると,自然死が一番いいのではないかと思われてくる。ただし,これにはかなりの勇気がいるので, 一般的にはどういう状況であろうと食べられる間は食べずにはいられないのである。どのように自殺すればよ いのかと悩むのであるが,ほとんどの人は,考えるだけで家族を含めた周囲の人のことも考えてできないのが 実態である。このような時代には,自分だけは大丈夫という感覚をなくして,普段からその準備をしておく以 外にないといえよう。社会の責任でもあるし,自分自身の責任でもある。 2,身体のクライシス 「健康なからだ」「スリムな身体」「ボディ・コンシャス」。ダイエット,フィットネス,ピアシング,整体, ボディ・メイキング。摂食障害,清潔症候群,接触恐怖,自傷,性同一性障害,免疫異常,アレルギー,薬害。 脳死,臓器移植,再生医療,遺伝子治療,出生前診断,安楽死。これらの言葉を考えるにあたって,像として の身体への観念の侵食がいかに烈しく親交してきたかについてうかがうことができる。何も知らないほうが幸 せであったといえる。マスメディアの蔓延によって,自身に関係ないのではというときにも,情報としてかか わらなければならないので,不安になり,もしかしたら自身の身にも起こるかもしれないと思うからである。 自己の身体に熱中し,「プライベートな身体」へ封じ込められている状態である。 現代社会の身体は,そのような過程で不可能になった身体間交通を超個人的なシステムが代行するような身 体政治,たとえば健康管理や臓器移植,介護保険制度,などに見られるような身体の擬似公有化という二つの ― 158 ― 紀要57集-15秋葉 05.10.17 13:49 ページ 159 秋葉:コンタクト・ワークプログラムに関する一考察 ベクトルに引き裂かれてきたのである。プライベートな身体は,ますます「幻影」=モデルに引き回され,擬 似公的な身体は生と死の無記名な医療テクノロジーの空間にいよいよ深く吸い込まれていくといえる。自他共 に多くの人々の身体を全体で考えていかなければ成り立たない状態に常に置かれているのが現代人であるとも いえよう。両極に引き裂かれ接触する何者もなく,ばらばらの状況の中で生活しているので,ひとつ間違える と精神的にまいってしまうということになるのである。この引き裂かれた身体を縫合しなければ大変なことに なると反省する能力よりも,亀裂のほうが現在は表面的に緊迫しているという現状である。 これらのことを考えると解決の方途は見えにくい。社会の責任と自己の責任のどちらも相容れることがない のであるから,裂け続ける身体があるのみとなる。解決の道がないことが残念であるし,もどかしい思いがす る。このようなときには頭を空にして何も考えないほうがよいということになってしまう。切り裂ける身体と いう言葉が表しているように,身体が叫びをあげているのである。これは,本当に由々しき事態なのである。 3,コンタクト・ワークプログラム 1から18の項目からなくコンタクト・ワークプログラムが,実際の介護の場面において役立つものであるか, 検討してみた。1から18による項目は,以下のようである。 1, Warm-up 2, Shaking (Floor Sitting position): Head & Arms 3, Shoulder (Push Hug) 4, Back 1 (Arms up Spiral hold Sleeping position) 5, Back 2 (Lean) 6, Airial Lean 7, Back 3 (Lean Tree) 8, Hand contact 9, Counter balance (Back) 10, Counter balance (Head) 11, Counter balance (Arms 1) 12, Counter balance (Arms 2 Hip rolling) 13, Floor rolling 14, Rolling (shoulder rolling Logs work) 15, Position change 1 16, Position change 2 17, Parrallel waking 18, Combination work コンタクト・ワークプログラムは,人との相互理解や自己のからだへの認識を深める方法として作成され, 人や物への身体接触,すなわち,からだの共有感覚を得やすい接触を基本としているものである。 4,障害を持った人々におけるプログラムの適用 このプログラムは,コンタクト・インプロビゼーションにおける基本的な要素を基にしていることから,身 体表現活動に携わっている人はもちろんのこと,身体表現活動に従事していない人々や障害を持った人々にも, プログラム内容の組み合わせや変化をつけることが,容易になされるようになっているとのことであるが,果 たしてそうであろうか。障害を持った人について,検証してみると,おおよそ次のようになると思われる。 1,のWarm up については,自分の前や横にいる人の肩・背中・首をさすったり,軽く叩いたりしながら, からだで作れる音やリズムを用いコミュニケーションをとり,全身を揺らし丁寧にほぐしていくワークであり, 数人で可能である。 ― 159 ― 紀要57集-15秋葉 05.10.17 13:49 ページ 160 東 京 学 芸 大 学 紀 要 芸術・スポーツ科学系 第57集(2005) この中で適用できる部分は,ベッドで寝ている要介護者に介護者が全身のマッサージを施す時に必要とされる。 2,のShakingについては,2人組で1人はフロアーに寝て,もう一人が相手の頭をすくいあげるように床か ら持ち上げ,他方からもう片方へ,末端から中心へと連動させるワークである。 要介護者はベッドに寝て,介護者が要介護者の頭をすくうようにベッドから持ち上げ,抱き起こすときに適 用できる。他方からもう片方へ末端から中心へと連動させながら,抱き上げることが大切である。ちょうど赤 ちゃんを揺らしながらやさしく抱きかかえるような感じではないだろうか。 要介護者が成人であっても,ベッドに寝ているときは,身を介護者にゆだねる場合は,やさしく扱ってもら うことが望ましい。揺れるという行為は,精神的にも安定感が増してくる。頭をすくうときに,介護者と要介 護者の顔と顔を向かい合わせるときに目と目があわされ,互いの信頼関係が増してくる。この時間を大切にし て,決して急がず,ゆっくりと介護者の納得の上で行なうことが重要である。 3,Shoulder については,2人組で両肩をリフトアップし,上半身を抱きしめたりするワークである。要介 護者をベッドから車椅子に移動させるときに,上半身を抱きしめて移動させる方法をとるときに適用される。 抱きしめるというと特殊な感があるが,これは,結果的に安定した状態になるということである。介護者と要 介護者との心の交流が自然になされる。 両肩がリフトアップされるというのは,要介護者の両脇の下に介護者の両腕を通すと,自然に要介護者の両 肩が引き上げられる状態になる。 4,Back 1 (Arms up Spiral hold Sleeping position) については,2人組で背をあわせ,身体をひねり相手の 背を抱える。そのまま解けて脱力し,相手の大腿部に寝て,相手の呼吸や体温を感じゆっくり解けて元に戻る というワークである。 要介護者を車椅子からベッドに寝かせる時の動きに適用される。車椅子から要介護者がベッドに移る際に, 腕を上げ伸ばしてベッドの手すりにつかまり,腰をベッドに座らせるときに,ひねりが入ってからベッドに横 になるというときに適用される。この時は,要介護者も介助しながら,向かい合って同様の動きをする。 この際には,要介護者のリハビリによる回復のレベルによるので,常にこれらの動きがなされるとは限らな いが介護者のタイミングにより自然に行なえるようになる。あくまでも車椅子による危険も伴うので,要介護 者一人によって行なうことについては注意しなければならず,介護者は終始見守りながら,どんなささいな動 きもみのがさず,適切な介助をする必要がある。 5,Back 2 (Lean)については,2人組で,相手の背にもたれた後,のりあがり身体を開いて,リラックスする ワークである。 この動きは,ベッドから車椅子へ,また車椅子からベッドへと移動するときの双方で適用できる。ワークのと きは,2人の背と背をもたれあうという動きであるが,介護の時には要介護者が介護者を負ぶうという行為に より生じる動きの中で応用される。 負ぶうという行為によって,要介護者は介護者と一体化し,比較的自由な動きができる。主体が要介護者に なるので,介護者に対するいらいらがなくなり,スキンシップも十分になされる。要介護者も安心して身を任 せることができる。介護者に背負ってもらうことによって要介護者としては,全身がリラックスできる瞬間で ある。 6,Airial Lean については,2人組で行い,相手の両手足の上に自分の背を乗せ,空中で身体を開いてリラ ックスするワークであり,下にいる人の頭のさらに上部へとやり,上に乗った人が着地することも延長上のワ ークとして可能である。このことについては,空中に抱き上げて要介護者にリラックスしてもらうときに重要 となる。浮遊するような感覚は,身体にとって必要なことであり,要介護者の精神的にも充実した瞬間でもあ る。空中でよりかかると身体的に大変楽になるので,なるべく力のかからない方法でやることが望ましい。 ― 160 ― 紀要57集-15秋葉 05.10.17 13:49 ページ 161 秋葉:コンタクト・ワークプログラムに関する一考察 7,Back 3 (Lean → Tree)は,2人組で,相手の背にもたれながら,互いに身体を立ち上がらせる。その後, 木にもたれるようにして背中から,腰,腕,脚などさまざまな方向で他者と接触をもつワークについては,要 介護者がベッドから車椅子に移動する段階から,実際に立ち上がる段階において実施することができる。要介 護者が立ち上がるには,大変なエネルギーを必要とする。介護者の背を借りると多くの力を使うことなく立ち 上がることができる。介護者が木の役割を果たすということである。介護者がほっそりしている人よりも少し 太めでどっしりしている人のほうがそのような感じがする。 8,Hand contactについては,前向きになり,互いに手を合わせて目を閉じ,触覚と聴覚を敏感にしながら, 相手と言語を介さず,手だけでコミュニケーションをとりながら,スローモーションで踊るような感じで手か らの接触感覚で相手を読みとって動くワークについては,要介護者がベッドに寝ているときよりも,車いすに 座って介護者や他の要介護者と手でコミュニケーションをとるときに適用される。言葉をかわすことなく,手 の動きをお互いに感じてコミュニケーションすることができる。 9,Counter balance (Back)については,背中でカウンターバランスをとりながら,ゆっくりと立ち上がった り,座ったりし,頭から背,腰までローリングしつつ,動きを止めずバランスをとり続けるワークについては, 車椅子から立ち上がるときに必要となる。また立ち上がってから再び車椅子に座るときに適用される。健常者 と異なりすぐに立ったり,座ったりすることはできないので頭から背中や腰までのローリングは自然と生じ, 柔らかな動きと精神的な安心を得ることができる。 10,Counter balance (Head) については,頭でカウンターバランスをとりながら,背からおでこと移動し,か らだのさまざまな部位でバランスを取り続けるワークである。要介護者の頭を利用して,介護者の背や横腹, おでこやからだを利用して動きの拡大をしていくために適用される。この場合には,要介護者が,だいぶ動け るようになっているときになされるが,四苦八苦して動いているときにも適用される。介護者は,要介護者が どのようにしてきても受け入れられるように柔軟に対処できるようにする。 11,Counter balance (Arms 1) については,片手で相手と手をつなぎ,カウンターバランスをとり,その後立 っている場所をカウンターバランスからの引き上げによってチェンジし続ける連続的なワークである。これは, 要介護者がリハビリ等で介護者に手をつないでもらって歩くときに活用される。介護者(歩行訓練の場合は, 理学療法士であることもある。)にフォローされながらバランスをとって連続した歩行を目的地まで行うとい うときに適用できる。 12,Counter balance (Arms 2 → Hip rolling)については,2人でカウンターバランスをとりつつたっている場 所を移動させながら,片方の人が床で駒のような回転を一回いれ,すぐにバランスをとっておきさらに繰り返 す連続的なワークである。この動きは,リハビリの歩行訓練のときに要介護者が,目的に場所まで介護者に手 をつないでもらって歩き,目的の場所においてあるいす(車椅子の場合や普通のいす)にすわり,方向を変え て再び歩行を続ける場合に適用される。一回転できるようないすがあればよいが,かなり回復している場合は, 自身で回転し方向を変えて歩行することもできるようになる。介護者が要介護者に合わせてバランスをとって あげると目標を高めることができる。 13,Floor rolling については,床でTの字になりながら,背と腹を使い,パートナーとローリングを続けるワ ークである。これは,要介護者がベッドに寝ているときに,介護者がベッドサイドにたって介護しているとき に自然に行われている姿勢といえる。おむつを取り替えるときにも身体をローリングしながらしなやかに行う と要介護者に苦痛を与えることなく取り替えることができる。 14,Rolling (sholder rolling → Logs work)については,肩を入れるローリングから,丸太ころがしのような6 人から10人くらいの集団リフトから10人くらいの集団リフトへつなげていく集団のワーク。6人以上が行いや ― 161 ― 紀要57集-15秋葉 05.10.17 13:49 ページ 162 東 京 学 芸 大 学 紀 要 芸術・スポーツ科学系 第57集(2005) すい。集団のトレーニングについては要介護者にとってはできないことであるが,ベッドでの床ずれを予防す るときに活用できる。要介護者は,時計のように2時間おきに向きを変える必要がある。そうすることによっ て床ずれを防ぐことができるのである。肩を入れるとローリングしやすいし,要介護者にとっては,丸太ころ がしのような感じがするのではないかと思われる。 15,Position change 1については,2人組で,もう一人がその上に座り,ローリングしながら背のほうに降 りるワークである。要介護者と介護者の関係において,しばしばなされる動きである。要介護者は,回復が進 むと自身の背中をしっかりと伸ばし揺らがなくなってくる。そのような時期になるとベッドの横に足をたらし て座ることができるようになる。その状態から介護者の背にもたれて立たせてもらうこともできる。反対に介 護者の背中からローリングしながらベッドに横たわることもできるようになってくる。 16,Position change 2については,一人が馬になり,もう一人がその横に同じように馬になった状態から, パートナーの横腹を使ってゆっくりローリングするワークである。要介護者がベッドから介護者の馬にローリ ングしながら乗ることにより馬から降り立つときに立つことができるようになる。逆に馬に乗った状態からベ ッドにローリングしながら寝ることもできる。馬を車イスと考えることもできる。 17,Parrallel walkingについては,相手と共有する180度の視界をもち,視界を広げ敏感にしてみるワークで ある。要介護者がベッドに寝ているときに窓の外を眺めているのと同じ方向を介護者が眺めることによって, 要介護者の見えないところまで拡大することによって動けない人が動ける人の範囲まで視界が広がって豊かな 気持ちになることができる。また,リハビリのときに介護者が要介護者の歩行を助け,目標までの視界を広げ 行き詰まりがちな気持ちを和らげて余裕を持って目標まで歩くことができるようになる。 18,Combination workについては,上記1から17のワークを組み合わせ,2から6人くらいの群を作り,そ の世界で即興的に空間に対応し身体表現を行う総合的なワーク。適宜,音楽曲を用いてもよい。群の問題はさ ておいて,1から17までの総合的な活用をすることによって,要介護者のさらなる回復が望める。 おわりに ポストモダンダンス,コンタクト・インプロビゼーション,コンタクトワーク等の知識については,今まで 研究してきたが,あくまでもダンスの専門としての知識であり,高齢者や身体の不自由な人に関する適用につ いて,真剣に考えることがなかった。しかし,著者の近親者に身体の不自由な人が多くなり,特殊なものとし てではなく,一般的なこととして考える必要があることに気がついた。老人福祉施設のボランティアをしたり する機会があり,介護者として実際に携わった際に,さまざまな体験をした。これほどダンスの役割があると 実際に感ずる機会がなかったので,筆者にとっては,感動の連続であった。精神的,肉体的な苦しみや悩みを 超えて要介護者が立ち上がっていく過程は感動と感激のなにものでもなかった。コンタクトワークのプログラ ムの実証をすることが結果的にできたのである。ダンスで主張していることが,適用できることが確かとなっ たことは,今後の筆者の研究の行方を示すものとなった。 参考文献 鷲田清一;身体のクライシス,大航海,特集 身体論の地平 No,53,p.40-45,新書館,2005,1 清水智恵;コンタクト・ワーク体験を通した「自尊感情」と「ボディ・イメージの変化とその関係」,舞踊教 育学研究,創刊号,p.13-30 日本教育大学協会全国保健体育・保健研究部門,舞踊研究会,1998, 12 ― 162 ―
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