第 1 章 福山市の観光を取り巻く現状と課題

福山市観光振興ビジョン
第 1 章
福山市の観光の現状……………………………………… 6
2
福山市の観光資源の特性…………………………………11
3
福山市の観光振興の課題…………………………………20
5
福山市の観光を取り巻く現状と課題
1
第1章
福山市の観光を取り巻く現状と課題
第 1 章
福山市の観光を取り巻く現状と課題
第 1 章
福山市の観光を取り巻く現状と課題
1
福山市の観光の現状
本市は,鞆の浦や福山城など歴史的・文化的に多様な観光資源に恵まれており,
「ばらのまち福山」として,ばらを基調にすえたイベントやまちづくりに取り組
んできました。また,近年の合併により新たな魅力ある地域資源も加わり,観光
振興の礎が出来上がってきている状況です。
総観光客数の推移は,1999 年(平成 11 年)の西瀬戸自動車道開通時の 636
万人を最高に,その後は減少傾向を示し,2004 年(平成 16 年)には 585 万
人となりましたが,2005 年(平成 17 年)には 617 万人と最高値に近い数値
第1章
まで回復いたしました。
※いりこみ
入 込 観光客数も同様に,1999 年(平成 11 年)の 405 万人を最高に,そ
の後は減少傾向にありましたが,2005 年(平成 17 年)には 395 万人と最高
福山市の観光を取り巻く現状と課題
値に次ぐ観光客数となりました。これは,本市が観光客数の増加を図るため,広
島県大型観光キャンペーンの実施や,尾道市,倉敷市などと県内外で広域的に連
携を図ってきた効果と考えられます。
近年の観光を取り巻くニーズは,団体で観光名所を巡るといった物見遊山・金
銭消費型から自分の好みのテーマに合わせた体験型・時間消費型へと変化してい
ます。今後とも県外に積極的に誘客活動を実施するとともに,市民にも十分楽し
んでもらうことができる新たな観光魅力を創出することが重要です。そのために
は,伝統工芸や農漁業などにふれあう体験観光や,一部の企業ですでに行われて
※
いる「ものづくり」の心にふれあう産業観光 ,さらに,土産品・特産品の開発な
どにも一層力を入れていく必要があります。
6
福山市観光振興ビジョン
( 1) 観 光 客 及 び 観 光 消 費 額 の 推 移
広島県は,前年に引き続き 2005 年(平成 17 年)も大型観光キャンペーン
を実施し,総観光客数は,1999 年(平成 11 年)西瀬戸自動車道開通時の総観
光客数を上回る過去最高を記録しました。
本市は,過去最高には達しなかったものの,西瀬戸自動車道開通時に次ぐ総
観光客数となりました。しかし,全県が対前年比約 9%の伸びであったのに対し,
第1章
本市は 5%の伸びに留まりました。
■ 福山市及び広島県の観光客数の推移 ■
585 万人
万人
700
(前年比5%増)
600
600
500
405 万人
367 万人
400
300
300
200
200
100
100
0
2001年
2002年
入込観光客数
総観光客数
2003年
2004年
6,000
5,000
5,000
4,344 万人
4,138 万人
3,936 万人
4,000
3,000
3,000
2,000
2,000
1,000
1,000
0
0
2000年
万人
5,098 万人
4,000
400
1999年
(前年比 9% 増)
6,000
500
395 万人
5,098 万人
万人
0
1999年
2005年
2000年
2001年
2002年
入込観光客数
総観光客数
総観光客数
【福山市】
2003年
2004年
2005年
総観光客数
【広島県】
出典:2005 年(平成 17 年)広島県入込観光客の動向
また,県内の主要都市の総観光
客数の対前年比を比較すると,広
島市が微増程度だったのに対し,
呉 市 は 40 % 程 度 , 尾 道 市 が
19%程度と,共に大幅な伸率と
万人
■ 県内主要都市の総観光客数の推移 ■
1,200
1,100
1,000
900
800
700
600
なりました。
近隣他都市とさらに連携を図
500
400
300
っていくことが重要です。
200
1999年
2000年
福山市
2001年
広島市
2002年
呉市
2003年
2004年
2005年
尾道市
出典:2005 年(平成 17 年)広島県入込観光客の動向
7
福山市の観光を取り巻く現状と課題
5,556 万人
617 万人
636 万人
万人
700
第 1 章
福山市の観光を取り巻く現状と課題
※
観光消費額 では,2005 年(平成 17 年)全県・本市とも過去最高額となりま
したが,1 人当りの観光消費額は全県で 5,084 円と前年より上昇したのに対し,
本市は 4,684 円と前年より低下しました。これは,日帰り観光客の増加により
1 人当りの観光消費額が減少したものと考えられます。
観光消費額を増やすためには,宿泊観光客を増加させるとともに特産品の開発
第1章
など観光施策を推進することが必要です。
■
福山市及び広島県の観光消費額の推移
福山市の観光を取り巻く現状と課題
(百万円)
(円)
■
(百万円)
(円)
400,000
40,000
5,000
35,000
30,000
4,000
5,000
350,000
300,000
4,000
250,000
25,000
3,000
20,000
15,000
2,000
10,000
3,000
200,000
150,000
2,000
100,000
1,000
5,000
1,000
50,000
0
0
1999年
2000年
2001年
総額
2002年
2003年
2004年
一人当たりの観光消費額
【福山市】
2005年
0
0
1999年
2000年
総額
2001年
2002年
2003年
2004年
2005年
一人当たりの観光消費額
【広島県】
出典:2005 年(平成 17 年)広島県入込観光客の動向
8
福山市観光振興ビジョン
( 2) 月 別 ・ 目 的 別 入 込 観 光 客 数 の 状 況
本市の 2005 年(平成 17 年)の入込観光客数は,8 月の 82 万人が最も多く,
次いで 5 月の 80 万人,7 月の 35 万 8 千人の順となっています。7 月・8 月
は夏休みで,5 月は大型連休で客数が増加するほか,8 月の「福山夏まつり」・
海水浴,5 月の「福山ばら祭」
・
「観光鯛網」などイベントによる影響で客数が伸
■ 月別入込観光客数 ■
びている状況にあります。
福山市
広島県
祭り・行事により本市の観光の
12月
10月
ますが,温暖で雨量が少なく,晴
8月
第1章
11月
イメージづくりが図られており
9月
7月
6月
天の多い瀬戸内海式気候である
5月
利点を活かすことにより,年間を
3月
2月
万人
通しての観光客数の増加を図る
800
-800
100
ことが必要です。
万人
1月
1,000
-1000
80
600
-600
60
400
-400
200
-200
40
20
0
0
0
00
100
1,00 2,000
2,00 3,000
3,00 4,000
4,00
5,00 6,000
6,00 7,000
7,00
1,000
5,000
200
300
400
500
600
700
出典:2005 年(平成 17 年)広島県入込観光客の動向
※
目的別入込観光客数の状況は,
「都市観光 」が 36.5%と最も高く,次いで「祭
然 探 勝 」 16.0% の 順 と な
っており,全県と比較して
35
「祭り・行事」の比率が際
25
立って高くなっています。
15
20
10
5
た「産業観光」への入込客
他
ツ
の
そ
ポ
ー
等
の
他
ス
そ
狩
り
ス
・
松
茸
み
か
ん
グ
キ
ン
福山市
キ
ー
、
温
登
泉
山
、
キャ
ンフ
゚
仏
閣
光
業
観
神
社
・
浴
産
、
勝
釣
、
潮
干
狩
事
行
然
探
自
都
市
観
光
0
ハ
イ
勝」や本市の強みを活かし
■
30
海
水
る資源を活用した「自然探
目的別入込観光客数の状況
40
「祭り・行事」以外にも,
町並みや自然など魅力あ
■
%
45
祭
・
り・行事」の 21.8%,
「自
広島県
出典:2005 年(平成 17 年)広島県入込観光客の動向
の増加を図ることが重要
です。
9
福山市の観光を取り巻く現状と課題
4月
第 1 章
福山市の観光を取り巻く現状と課題
(3)観光客層の状況
観光関連事業者からの聞き取り調査では,観光客層の内訳として,鞆の浦エリ
アでの宿泊観光客はツアー客,日帰り観光客は家族連れが多く,また,全市的に
は,若者や家族連れ,ビジネス帰りの観光客と推測されます。外国人観光客数は,
2005 年(平成 17 年)の市内ホテルなどからのアンケート調査では,毎年増加
傾向にあり,国別では韓国,米国,中国からの来訪者が多い状況です。
第1章
本市の発地別観光客数は市内客,市内を除く県内客,県外客とほぼ同率ですが,
全県と比較すると本市の方が市内客の割合が高く,県外客の割合が低い状況にあ
ります。県外客へのアピールが重要です。
福山市の観光を取り巻く現状と課題
■ 発地別観光客の割合 ■
県外
31%
市内
36%
県外
42%
地元・市町
22%
地元・市町を
市内を
除く県内
36%
除く県内
33%
【福山市】
【広島県】
また,本市の県外客の発地別の状況について,全県と比較してみると山陽地方
が圧倒的に多く,関東地方など遠隔地からの観光客が少ない状況です。全国的な
知名度不足がうかがえます。
■ 福山市への県外観光客の発地別割合 ■
広島県
福山市
0%
10%
20%
山陽
30%
山陰
四国
40%
九州
50%
近畿
中部
60%
関東
東北
70%
北海道
80%
90%
100%
外国
出典:2005 年(平成 17 年)広島県入込観光客の動向
10
福山市観光振興ビジョン
2
福山市の観光資源の特性
本市は,四季を通して温暖・少雨であり,台風などによる自然災害もきわめて
少ない気候風土に恵まれ,総じて過ごしやすい地域です。
山陽自動車道や 1999 年(平成 11 年)に全橋開通した西瀬戸自動車道など
の高速自動車道が整備されるとともに,2003 年(平成 15 年)にJR山陽新幹
線の福山駅にのぞみ号が停車するようになり,また広島空港・岡山空港とのアク
セスもよいことから,交通結節点としての拠点性が,近年飛躍的に高まっていま
す。
第1章
福山市の観光を取り巻く現状と課題
降水量(mm)
平均気温(℃)
日照時間(h)
■ 福山市の気候 ■
11
第 1 章
福山市の観光を取り巻く現状と課題
また,市内の各地域には,豊かな自然や歴史・文化のかおる観光資源が豊富に
あります。このような特性を活かしながら,豊かな自然や観光資源を活用した観
光振興策が必要となっています。
次ページ以降に,本市の主な観光資源の概要をエリアごとに示します。
第1章
福山市の観光を取り巻く現状と課題
施工中の有料道路
中国縦断自動車道尾道松江線
■ 福山市の位置・交通網 ■
12
福山市観光振興ビジョン
( 1) 潮 風 が 季 節 を は こ ん で く る ま ち 「 鞆 の 浦 」
全国で最初に指定された瀬戸内海国立公園にある景勝
とも の う ら
地・
『鞆 の 浦 』は,万葉の昔から「潮待ちの港」として国
内外との交易で栄えた港です。朝鮮通信使が対潮楼から
の眺めを「日東第一形勝」と賞賛したという鞆の景色は,
ゆうぜん
季節ごとにその趣を変えつつも,時代を超えて悠然 とそ
鞆の浦
ふうこう め い び
※きたまえぶね
特に江戸時代には, 北 前 船 が往来し,鞆は商人の町として栄え,今も歴史に
名高い旧跡や名所,古寺など数多く点在するなか,さまざまな商家の遺構を垣間
ほう めい しゅ
この時代から,鞆に伝わる健康のための薬味酒として有名な『保 命 酒 』は,現
在,町内に 4 軒の醸造元があり,合わせて多種多様な保命酒徳利は,芸術作品
としても優れており,鑑賞しても楽しいものです。
ぬ な く ま じんじゃ のう ぶ た い
国の重要文化財である『沼 名前 神社 能 舞台 』や,『保命酒』の製造販売を行っ
ていた商家『太田家住宅』は,人気の観光スポットの一つで,これらの数多い文
化財めぐりは,観光客でにぎわっています。また,神社や仏閣が多いという港町
の要素を持つこの地は,庶民的行事や宗教行事も多彩です。
瀬戸内の早春を彩る『鞆・町並ひな祭』や 370 年の歴史を誇る伝統漁法を今
かんこう たいあみ
べんてん じま は な び たいかい
に伝える海上絵巻『観光 鯛網 』に加え,5 月の最終土曜日には『弁天 島 花火 大会 』
が催され,夏の訪れを告げます。近年では歴史的な行事も復活するなど,『鞆の
浦』は港町の歴史と情緒を肌で感じる観光地として,訪れる観光客に好評を博し
ています。
あ し だ がわ おおはし
2003 年(平成 15 年)に芦田 川 大橋 が完成し,高速道路からのアクセスが便利
になり,近年は温泉地としても知られるようになりました。観光客のための宿泊
施設などでは,設備の充実ととも
※
に ホスピタリティー あ ふ れ る 接
客に努めており,リピーターも確
実に増えています。
対潮楼
観光鯛網
13
福山市の観光を取り巻く現状と課題
見ることができます。
第1章
の風光 明媚 な姿を穏やかに横たえ,万葉からの物語を語りかけてくれます。
第 1 章
福山市の観光を取り巻く現状と課題
( 2) ば ら 香 る 歴 史 と 文 化 の 中 央 エ リ ア
本市のまちづくりの原点は,戦災で荒廃した街
の復興を願って,現在のばら公園に住民がばらを
植えたことに始まります。
市をあげて「100 万本のばらのまち」をめざし
ており,家庭,地域,職場を問わず,市内各所で
ばらを楽しむことができます。福山生まれのばら
第1章
みどりまちこうえん
ばら公園
も数多くお目見えし,『ばら公園』と『 緑 町 公園 』
いや
は訪れる人の心をばらの香りで癒 します。毎年 5 月に開催される『福山ばら祭』
は市民の力を結集した観光イベントとして定着し,ばらを愛する心~
福山市の観光を取り巻く現状と課題
※
ローズマインド ~は,福山のまちづくりを支える文化となっています。
また,本市には数々のミュージアムが集積しています。特に福山城周辺の文化
ゾーンには『福山城博物館』『ふくやま美術館』『ふくやま文学館』『ふくやま書
道美術館』『広島県立歴史博物館』などがあり,
特長ある展示活動は,周辺の緑とあいまって,癒
しの空間として,訪れた人をなごませてくれます。
福山城は戦後に再建されたものですが,戦災を
ふ し み やぐら
すじ がね ご も ん
免れた『伏見 櫓 』や『筋 鉄 御門 』は豊臣秀吉ゆ
かりの国の重要文化財として歴史的価値があり
福山城公園
ます。
みょうおういん
くさ ど せんげんちょう い せ き
あつ
国宝の『 明 王院 』は『草 戸 千 軒 町 遺跡 』を門前町とし,歴代藩主が篤 い信仰
から建物修繕などの手厚い保護をしたことによ
り,現存では国内で五番目に古い五重塔や本堂が
その重厚な姿を現在まで残しています。
市内中心部には宿泊施設が充実しており,多く
の観光客にも対応が可能で,市内観光地へのアク
セスも便利です。
明王院
14
福山市観光振興ビジョン
( 3) 藍 と 学 び の 芦 品 ・ 加 茂 エ リ ア
しんいち
び ん ご がすり
かん なべ
新市 エリアは日本三大絣『備後 絣 』の産地です。江戸時代中期に,宿場町神 辺
や鞆の津という販売経路の交通基盤が整備されていたことに支えられ,その生産
あい
力と技術を高めてきました。現在では,その藍 染の技術などを受け継ぎ,ジーン
き
び
つ じんじゃ
ズや繊維産業が盛んです。また,国の重要文化財である『吉備津 神社 』は,本殿
こまいぬ
く
に加え,大英博物館でも展示された木造狛犬 3躯 を所蔵しており,毎年多くの観
光客が訪れます。
第1章
福山市立動物園のゾウ
芦田エリアには,大型遊具を整備した公園に隣接して市立動物園があり,家族
連れやグループでにぎわっています。
ふ た ご づか こ ふ ん
駅家エリアでは,古墳時代後期の古墳で県内最大の『二子 塚 古墳 』から全国的
そうりゅうかんとうつかがしら
にも例のないデザインの『 双 龍 環 頭 柄 頭 』が最近出土し話題を呼んでいます。
ふるさとの踊りを伝承する夏まつり『サッサカ』や『ほたる祭』など,地域の人
材を最大限に活用したまちづくりイベントは,この地域の観光交流資源です。
また,山野エリアには県立自然公園に指定
やまのきょう
りゅうず
されている『山野峡 』があり,
『龍頭 の滝』
『も
みじ橋』などの観光スポットのほか,キャン
プ場設備も備えており,自然に親しみ,自然
から学ぶレクリエーションゾーンとして世
代を超えて人気があります。
山野峡 もみじ橋
15
福山市の観光を取り巻く現状と課題
吉備津神社と木造狛犬
第 1 章
福山市の観光を取り巻く現状と課題
( 4) 下 駄 と 漁 業 と 造 船 の ま ち 松 永 ・ 内 海 ・ 沼 隈 エ リ ア
下駄の産地として日本一のシェアを誇る松
永エリアでは,毎年 9 月に下駄をテーマに『ゲ
タリンピック』が開催されます。工夫をこらし
た各種競技は参加型イベントとなっており,
年々参加者が増えています。また,全国で唯一
の『日本はきもの博物館』もあります。
第1章
うつみ
瀬戸内の小魚・海産珍味が楽しめる内海 エリ
ゲタリンピック(巨大ゲタさばり)
そこ びき あみ
アでは,定置網・底 曳 網 などの体験型観光行事が春先から 10 月まで実施されて
います。
福山市の観光を取り巻く現状と課題
ぬまくま
沼隈 エリアには,温泉や宿泊施設なども兼ね備えた中国・四国地方最大級のテ
ーマパーク『みろくの里』があり,瀬戸内屈指の造船所では進水式を産業観光と
するなどの取組が進められています。また,この地域には平家ゆかりの伝説や,
の
と はら
練り歩くとんどとして全国的にも珍しい『能登 原 とんど』が伝統行事として継承
されています。
あ
ぶ
と かんのん
沼隈半島の南端・阿伏兎岬には国の重要文化財である,朱塗りの『阿伏 兎 観音
ばん だ い じ
は
(磐 台寺 観音堂)』があり,室町時代にはすでに航海安全の祈願所として名を馳 せ,
江戸時代には朝鮮通信使の間にも知れ渡っていました。
また,瀬戸内海を眺望しながらドライブを楽しむことができる『グリーンライ
ン』が整備されています。
能登原とんど
阿伏兎観音
16
福山市観光振興ビジョン
( 5) 文 化 の ふ る さ と 神 辺 エ リ ア
かんなべ
神辺 エリアは,福山藩の初代藩主・水野勝成が福山城築城前に神辺に城を構え
ていたこともあり,政治・経済に加えて文化情報の発信基地でした。
参勤交代のあった江戸時代の宿場町として栄えたこの地域には,西国街道とも
かんなべ ほんじん
れん じゅく
かん ちゃざん
呼ばれる旧山陽道沿いに『神辺 本陣 』や『廉 塾 ,菅 茶山 の旧宅』があり,当時
しの
の風情を偲 ばせています。
第1章
廉塾,管茶山の旧宅
くずはらこう とう
幕末から明治にかけて活躍した琴奏者・葛原勾 当 は,この地で弟子の育成に取
そうきょく
り組みました。 筝 曲 「春の海」の作者・宮城道雄とも交遊があった童謡作詞家
で代表作「夕日」を作詞した葛原しげるは勾当の孫にあたります。本市は,全国
一のシェアを誇る琴の産地ですが,これは,琴の名手がこの地から数多く輩出さ
れた歴史に機縁しています。
うち わ
また,福山の夏の風物詩である『二上りおどり』は,江戸時代に発祥し,団扇
を手に踊られていましたが,昭和初期には現在の四ツ竹が使われるようになりま
した。しかし,神辺では従来のスタイルが継承されています。
二上りおどり
17
福山市の観光を取り巻く現状と課題
神辺本陣
第 1 章
福山市の観光を取り巻く現状と課題
第1章
<主な観光資源絵図>
福山市の観光を取り巻く現状と課題
18
福山市観光振興ビジョン
第1章
福山市の観光を取り巻く現状と課題
19
第 1 章
3
福山市の観光を取り巻く現状と課題
福山市の観光振興の課題
広島県全体の入込観光客数は,1999 年(平
成 11 年)の西瀬戸自動車道開通時の 4,138
万人をピークに減少傾向にありましたが,
2005 年(平成 17 年)は,広島県大型観光キ
ャンペーンの実施効果や,映画「男たちの大和」
のロケセットが人気を博したことなどにより
■広島県大型観光キャンペーンロゴ■
4,344 万人を数え,前年と比べて 408 万人,
第1章
10.4%増加し,過去最高の入込観光客数となりました。
本市の入込観光客数は,1999 年(平成 11 年)の 405 万人をピークに減少
していましたが,2005 年(平成 17 年)は 395 万人となり,前年と比べて
福山市の観光を取り巻く現状と課題
28 万人,7.6%増加しました。これは,県の大型観光キャンペーンなどの効果
によるものと考えられますが,ピーク時の人数までは回復していません。
このような入込観光客数の伸び悩みなど,本市の観光を取り巻く現状をふま
え,課題を整理すると次の事項があげられます。
■対潮楼での筝曲演奏及び沼名前神社能舞台での演能(キャンペーンイベント)■
20
福山市観光振興ビジョン
( 1) 福 山 ブ ラ ン ド ( 福 山 ら し さ ) の 創 出
※
現在,福山という都市ブランド は全国に十分に周知されているとはいえない状
況にあり,観光振興ビジョン策定に先立って実施したアンケート調査の自由記入
欄(宿泊客)には,
「福山という街の印象があまりなく,
『これ』といった名所・
名物も頭に浮かばない」といった内容が複数書かれていました。
本市には,全国で最初に指定された瀬戸内海国立公園内にある「鞆の浦」や「仙
城」など数多くの観光資源があるにもかかわらず,それらが「福山ならではのも
の」として輝きを放つまでには至らず,福山市自体の都市イメージが希薄になっ
福山市の観光を取り巻く現状と課題
ている状況がうかがえます。
第1章
酔島」など,瀬戸内海を代表する景勝地,また,駅構内から間近に見える「福山
■ 福山城 ■
■ 弁天島 ■
今後は,「観光交流のまち」として福山の魅力を高めていくため,市内に数多
くある地域資源の中から他の地域にはないものを見つけ出し,地域資源を歴史的
視点から整理,「物語化」するなど,福山独自の個性を磨き光らせていく「福山
ブランド」の創出が必要です。
■ 鞆の浦の全景、夜景 ■
21
第 1 章
福山市の観光を取り巻く現状と課題
( 2) 効 果 的 情 報 の 発 信 ( 福 山 の 魅 力 の 発 信 )
福山市の知名度や観光都市としてのイメージの低さの一因として,情報提供機
能の弱さがあげられます。今日までの本市の観光情報発信の取組は,市広報やホ
ームページ,チラシ・パンフレット,観光ガイド,他都市での都市宣伝などによ
り実施してきましたが,「旬の情報」をダイレクトに観光客や市民に提供してき
たとはいえません。
本市の多様な観光資源の魅力を効果的・効率的に発信するため,ターゲット別
第1章
に,より効果の高い媒体で情報発信する工夫が必要となります。とりわけ,IT
社会のなかで,福山ブランドを全国に発信するためには,インターネットの効果
的活用が必須条件となります。
福山市の観光を取り巻く現状と課題
■ 福山市観光案内ホームページ ■
また,観光情報の発信のためには,情報の受け手のニーズに沿ったものとする
必要があり,行政のみならず観光協会,観光関連団体,観光関連事業者,市民と
の協働によるネットワークの構築が重要となります。
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福山市観光振興ビジョン
( 3) 地 域 資 源 を 活 か し た に ぎ わ い の 創 出
観光振興は,宿泊,交通,飲食関係のみならず幅広い経済波及効果をもたらし,
まちのにぎわいや雇用創出に結びつく極めて重要なものであり,国・県も積極的
に推進しています。本市には,鞆の浦をはじめ,山野峡県立自然公園,ばら公園,
文化ゾーン(福山城・博物館・美術館・人権平和資料館・文学館),神辺本陣,
阿伏兎観音,クレセントビーチ,吉備津神社など数多くの観光資源があり,福山
ばら祭や福山夏まつりなど大規模なイベントも実施していますが,福山市の知名
アンケート調査からも,
「駅周辺に活気が感じられない」
(宿泊者),
「観光の魅
第1章
度や観光地としてのイメージは低い状況にあります。
力が中途半端でマンネリ化しているものが多い」(観光関連事業者)などの意見
今後は,ばらのあふれる都市景観づくりなど,個性的で魅力あふれる快適な環
境の形成を推進するとともに,既存の観光資源やイベントのネットワーク化を図
るなど,年間を通して人々がふれあい,にぎわい楽しむことができるような取組
が必要です。
■ 山野峡 ■
■ 波きらめく鞆の浦 ■
■ ふくやま美術館 ■
■ クレセントビーチ ■
■ 福山ばら祭 ■
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福山市の観光を取り巻く現状と課題
が寄せられました。
第 1 章
福山市の観光を取り巻く現状と課題
( 4) 観 光 ま ち づ く り を 担 う 人 材 ・ 団 体 の 育 成 と 連 携
観光振興の取組を円滑に推進するため,観光関連団体や観光ボランティアなど
との連携は欠かせないものです。現在,市内には合併により,福山市観光協会を
はじめ,内海町,新市町,沼隈町及び神辺町の 5 つの観光協会の組織があり,
統一した活動は行われていません。また,それぞれの観光協会の情報交換も不足
しており,福山市を積極的に宣伝していく体制が整っていません。
観光は都市間競争の側面もあり,5 つの観光協会が統一的な活動をすることに
第1章
より,全国へ向けてより積極的な都市宣伝を行っていく必要があります。
また,来訪者の受け入れには,観光ボランティアガイドの果たす役割も大きい
ものがあります。市内各地には,全国に発信できる観光資源がありますが,ボラ
福山市の観光を取り巻く現状と課題
ンティアの人材が不足しており,それぞれの地域でのボランティアの充実拡大が
課題となっています。
今後は,福山商工会議所や観光に携わる団体と連携しあえるネットワークづく
りを行うとともに,観光に熱意と情熱を持つ人材の発掘・育成が必要です。
■ 観光ボランティアガイド ■
鞆の浦史跡めぐりガイド
無料ガイド(土・日・祝日のみ),少人数向き,団体向きがあります。
標準ガイド料金2,000円 2時間以内
福山城ボランティアガイド
総合受付窓口・・・鞆の浦観光情報センター
福山城の観光をご案内します。30分コース,1時間コースの2コースがあります。
問い合せ
720-0201
福山市鞆町鞆 416 TEL・FAX 084-982-3200
●申し込み・お問合せ先
(社)福山市観光協会
次のグループへの直接お申込みも承ります。
奥様ガイド・・・・・・・・・・・TEL・FAX 084-982-2183
鞆の浦シルバーガイド・・TEL・FAX 084-982-2851
問い合せ
TEL 084-926-2649
原則として予約制となります。前日までにお電話でお申し込みください。
●料金
ガイド料金は無料
鞆の浦観光ガイド・・・・・TEL・FAX 084-982-2232
ただし,福山城入館料200円は実費ご負担ください。
■ 観光ボランティアガイド案内メニュー ■
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福山市観光振興ビジョン
( 5) 市 民 あ げ て の も て な し の 心 の 醸 成
観光客が一度訪れた観光地を再来訪したいと思う大きな要因は,地元の人との
心温まるふれあいにあると思われます。本市が,「観光交流のまち」としてこれ
から成熟していくためには,市民あげて来訪者をもてなす心(ホスピタリティー)
じょうせい
の 醸 成 が重要な鍵となります。本市には,ボランティアガイドなど地域で熱心
な活動をされている方もおられますが,市民全体のホスピタリティー意識は高い
とはいえない状態です。
もらおうという意欲が弱い。良い観光資源があるにもかかわらず,活かしきれて
第1章
アンケート調査(観光関連事業者)にも,「来訪者への心遣いや,観光をして
いない」という厳しい内容のものがみられました。
としたホスピタリティー醸成の啓発や研修の実施など,受入体制づくりが求めら
れます。
■ ホスピタリティー研修会 ■
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福山市の観光を取り巻く現状と課題
今後は,観光客と市民の交流の場づくりや,市民・観光関連事業者などを対象
第 1 章
福山市の観光を取り巻く現状と課題
( 6) 来 訪 者 に や さ し い 観 光 基 盤 の 整 備
戦後,観光産業は国民の「余暇を有効に過ごしたい」という期待とニーズに応
えながら大きく発展してきました。その結果,2000 年(平成 12 年)には国内
宿泊旅行者は,3 億 3,126 万人を数え,観光は国民の余暇活動として定着し,
「21 世紀は観光の世紀」と言われるまでになりました。しかも,旅行ニーズも
目的や同行者の違いなどによって,求められるサービスも楽しみ方も全く異なっ
てくる時代になってきました。
第1章
これから「観光交流のまち」を目指す本市としては,外国人を含む来訪者のさ
まざまなニーズに応えるかたちで「だれもが気軽に楽しめる観光」を提供してい
かなければなりません。
福山市の観光を取り巻く現状と課題
そのため,本市はこれまでに合併
エリアを含めた新たなパンフレット
の作成や案内板の設置,観光客誘致
のための広域連携事業などの取組を
行ってきました。しかし,アンケー
ト調査(宿泊者・観光施設関係者)
からは,
「観光地への公共交通機関が
少ない」「大型バスの駐車場がない」
「駐車場を確保・整備してほしい」
「案内板の表示が少ない」
「観光ガイ
ドマップを多言語で作成してほし
い」
「お土産品が少ない」などの意見
が寄せられています。
※
今後は,ユニバーサルデザイン に
配慮した観光エリアのサイン表示や
パンフレット・ガイドマップの作成
をはじめ,特色ある土産物や特産品
の開発,駐車場の整備など観光基盤
の整備が求められます。
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■ 福山市観光パンフレット ■