中国株式市場に関するレポート

中国株式市場
中国株式市場に関するレポート
株式市場に関するレポート
01-24601 山崎 剛
目的
私は投資に非常に興味があり、中国に行ったのも、中国経済と不動産市場の現況をこ
の目で確かめたかったためである。
以下は中国の株式市場に関するレポートであり、中国株式市場の現状や、特に日本に
見られない中国独特の株式制度に対して言及してある。中国株式投資に興味のある方は
ぜひ参考されたい。
上場企業数と時価総額の推移
アジア経済は90年代に入ってドルペッグ制による安易な資金調達のおかげで急成
長を遂げたが、アメリカの再度のドル高政策によりドルペッグ制に限界がきた結果、短
期資本が一気に流出し、ヘッジファンドの通貨の投機売りを浴び、多くのアジア諸国の
通貨が暴落し、バブルが崩壊した。その中でも中国だけはその閉鎖的な市場のおかげで
海外資本をほとんど取り入れていなかったため、アジア通貨危機の影響はほとんど受け
なかった。その結果が、【図1】に見てとることができる。他のアジア諸国は90年代
中頃に海外の資本が一気に逃避したことにより、時価総額が暴落し、未だ、ピーク時に
至らない状態であるが、中国はその中で唯一成長を続けた。
【図1】 アジアの市場時価総額の推移
最近ではインドを始め、アメリカの機関投資家もアジアの投資にやっと積極的になって
きたが、時価総額が低いため、特に大きな資本を運用しているファンドにとってはポー
トフォリオに組み入れにくいといった理由もあるため、未だ上昇は限定的であろうか。
またアジア諸国の上場企業数の推移も以下に示した。
【図2】アジア諸国の上場企業数の推移
市場概況
前述したが、中国は海外に対してかなり閉鎖的な市場制度をとってきたため、アジア
通貨危機の影響もほとんどなく成長することができた。WTOに加盟したため、最近で
は海外投資家にも市場が開かれてきてはいるが、依然として国内投資家と海外投資家の
垣根は高く、会計制度の信憑性の低さ、人民元の変動相場制への移行等、市場開放に向
けて課題は多く残されている。
中国はもともと社会主義国家のため、国有企業が非常に多く、全発行株式数のうち、
約60%は国が保有しているため、市場で流通している株が少ないのが特徴である。
しかし、高年齢化に伴う年金や社会保障のための資金や、景気対策のための財源確保の
ために、今後どうやっても国有株を放出せざるを得ない状況に立たされている。政府は
この国有株の放出をA株の市場のみで15年という期間に渡って実施していくことを
発表したが、それでも市場への影響は大きくなりそうである。
中国株の分類
中国には上海市場、香港市場の3つの市場があり、うち上海、深セン市場には国内投
資家向けの元建てで取引されるA株、海外投資家向けの米ドル建て(深セン市場は香港
ドル)で取引されるB株とがある。香港市場も含めた各市場の詳細は以下の通りである。
【図3】中国株の分類
市場
種類
上場企業
時価総額
数
(億円)
億円)
特徴
中国国内投資家専用、人民元建ての市
A株
757社
402,000
場。
上海証券取引所
国外投資家向け、米ドル建ての市場。
B株
54社
9,456
2001 年 2 月に国内個人投資家にも開放。
中国国内投資家専用、人民元建ての市
A株
487社
255,000
場。
深セン証券取引所
国外投資家向け、香港ドル建ての市場。
B株
57社
8,185
2001 年 2 月に国内個人投資家にも開放。
中国本土企業が香港市場に上場したもの。
H株
83社
15,578
大型国有企業が多数。
中国本土企業が、香港に持ち株会社を設
レッドチップ
71社
25,472
立するなどして香港市場に上場したもの。
香港証券取引所
香港市場上場の香港企業。優良銘柄が多
ハンセン
33社
457,600
数。
新興企業向け市場。日本のナスダック、マ
ザーズに相当。
GEM
180社
8,411
ハイテク企業が多数。
A株、B株
上海、深セン市場では、2001年まで、国内投資家のB株の売買、海外投資家のA
株の売買を禁止していたが、2001年2月に国内投資家向けにB株市場が開放され、
外貨建てではあるが、国内投資家は両方の市場で売買することが可能になった。
また、現在は QFII と呼ばれる制度があり、当局より認可を受けた海外企業はA株の
売買をすることができ、これが法的に許されている唯一の人民元建てでの資本取引であ
る。しかしこの QFII も認可を受けるには非常に厳しい条件をクリアしている必要があ
り、これが可能なのは実質各国を代表する超大手機関投資家のみである。
他に CDR と QDII と呼ばれる制度もあり、実施を検討されている。
QDII とは当局から認可を受けた国内機関投資家が海外の企業に投資をできるように
なる制度であり、要するに QFII の逆である。
CDR とは、中国預託証券のことをさす。これは機能的にアメリカにおける米国預託
証券(ADR) と同じである。海外企業が中国の金融機関と預託機関契約を結び、金融機
関は企業から株式の預託を受け、その委託された株式に見合った額の預託証券を発行す
ることで、海外企業の中国における間接的な市場、資金調達が可能になる制度である。
この制度は今後中国経済が持続的に成長していく様であれば、海外企業にとって新たな
資金調達の場として有意義なものになると考えられる。
以上の2つは資本の海外流出につながり、政府が慎重な姿勢をとっているため、実施
はまだ先になりそうだ。
A株とB株の価格差
B株に上場されている銘柄は全てA株にも上場されている。いわば、日本のトヨタが
東証1部にも大証1部にも名証1部にも上場されているのと同じことだ。しかし、日本
と違い、A株とB株で転売することができない。そのため、A株とB株では価格差が生
じていて、A株の方が2倍高い状態が続いていた。国内投資家のB株市場開放や、QFII
の実施により、この差は縮まってきてはいるが、依然として価格差は残っている。しか
し国内投資家は、いまやA株でもB株でも売買することができ、海外投資家も認可を受
けた企業も両方に投資できるようになったため、もはや市場を分ける意味合いがなくな
ってきている。いずれは市場統合を目処に政府も準備していくものと思われる。
ST銘柄
中国の株は値幅制限が±10%であるが、2年連続で赤字が続いた企業はST銘柄と
して指定され、銘柄名の前にSTという文字がつく。この銘柄は値幅制限が±5%にな
る。さらに赤字が続くようだと上場廃止の措置をとられる。また、銘柄の前に※STが
ついている銘柄はSTよりもさらに上場廃止に近いことを指し示す。しかし、上場廃止
という社会の信用を完全に欠落させるようなことは、政府としても国有企業改革に矛盾
することになるので、資本注入などの救急措置をとることが多いため、投機的な売買の
対象になることが多い。
最後に
最後に中国の株式投資に対しての評価であるが、中国株への投資はとにかく慎重にな
るべきである。というのも中国の市場はまず政治リスクが大きく(中国の政策変更等に
大きく影響を受ける)、企業の情報開示や、IR(投資家向けの宣伝)の積極性の低さから
会計数字に信頼できず、企業のバリューを算出しにくいため正確な投資判断が下せない
のである。去年から政府が持続的な成長を狙って実施している金融引き締め政策も今の
ところうまくいっていると言えるが、いまだハードランディングの可能性も高い。また
人民元が切り上げされるとなると、中国の国際競争力は相対的に低下する。また今まで
安価として使われてきた設備コストや、ヒューマンリソースが人民元の切り上げでもは
や魅力的ではなくなり、自国へ還流していく結果、失業が増え、それに伴って中国経済
の成長は中期的に止まる。そういった面ではタイやインド等のような比較的政治リスク
が低く、国際会計基準をしっかり取り入れていて、低PER、PBRで安値放置されて
いる銘柄を買った方がよっぽど無難なのである。しかし長期的展望に立った時の市場の
潜在成長力では、中国は世界でインドの次に位置付けられている国なので、ビジネスチ
ャンスとしては多くの可能性があると考えている。私は今後中国企業に直接投資するか、
もしくは自ら中国でビジネスをするか、または中国でビジネスをしようと試みる連中
(組織)に投資をするかは分からないが、やはり長期的展望に立って見た時にこの国は大
きなビジネスチャンスを秘めているということが今回の短期留学を通してうかがい知
ることができたのは非常に有益な経験であった。