日本摂食障害学会 平成 24 年 2 月 17 日, Version 2.0 日本摂食障害学会からの提言 1)自殺総合対策大綱への要望 自殺は様々な因子が複雑に絡み合って生じてくるので、対策も全般的領域にわたり、相加 的になりやすいと思われる。そこで、自殺対策が、我が国のメンタルヘルスの中心と考え ると、そこから重点項目が取り出せるのではないかと考えました。 2)我が国で必要な科学的根拠に基づく自殺予防活動 目標:摂食障害の自殺予防対策として、摂食障害を治療できる精神科医・心療内科医と医 療機関を質量ともに充実し、我が国における摂食障害の予防、治療体制を確立する。 根拠:若い女性における摂食障害(拒食症、過食症)の有病率は高く、若年女性の2~3% に存在していると推定され(文献 1) 、若年女性における最も重大な精神疾患・心身症であ る。摂食障害の死亡率は高く、若い女性の一般死亡率の 12 倍であり、自殺率は一般女性 の 200 倍で、精神疾患を持つ女性の 2 倍と報告されている(文献 2-5) 。 しかし、摂食障害の治療は、特効薬もなく、専門的な知識に基づいても治療は難渋するた めに、現在の保険医療体制ではペイしない疾患であり、精神科医も敬遠する疾患である。 このため、摂食障害を積極的に治療している医師は少なく、専門家養成も不十分で、入院 できる病院も少ないので、摂食障害による自殺を治療によって防げない現状がある。 現在の政策的背景:摂食障害の治療は、治療が難渋するケースが多く、外来でも入院でも 人と時間がかかるので、敬遠されているという実態は広く知られている。そこで、平成 22 年度の医療費改訂で、摂食障害入院医療管理加算という点数が新設され、初めて保険点数 からの支援が始まっている。 しかし、摂食障害に対する、予防、相談窓口、専門医療機関、アフターケア、さらに、治 療の専門家養成と新しい治療技術開発のためのセンター病院、などの疾患への対策は遅れ ている。摂食障害の原因の一つである、行き過ぎたダイエットブームに対して警鐘を鳴ら す機関が存在しておらず、予防体制が存在していない。 鍵となる活動領域 ①予防、治療技術の開発、専門家養成、などの目的で、摂食障害治療センターを作る。 ②現在、公的な相談窓口が存在していないので、相談窓口を作る。 ③入院治療ができる病院を増やし、外来でも、摂食障害がペイできる体制を作る。 ④地域で、患者と家族をサポートする地域支援体制を作る必要がある。 今後必要な政策 ①摂食障害センター病院を作る。 ②摂食障害の入院治療、外来診療への点数加算。 ③相談窓口として、精神保健福祉センターの機能に位置付ける。 ④地域支援センターへの財政的処置。 文献リスト 1) 中井義勝:疫学と予後. (石川 編 摂食障害の診断と治療、ガイドライン 2005) pp1-4, マイライフ社, 東京, 2005. 2) Keel, et al.: Predictors of mortality in eating disorders. Arch Gen Psychiatry 60: 179-183, 2003. 3) Sullivan: Mortality in anorexia nervosa. Am J Psychiatry 152: 1073-1074, 1995. 4) 中井義勝 ほか:摂食障害の転帰調査. 精神医学 46: 481-486, 2004. 5) 鈴木健二:摂食障害と自殺. 精神科治療学 25: 187-192, 2010.
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