PowerPoint プレゼンテーション - Journal of Clinical Psychiatry

症状と回路 その 2
不安障害
Stephen M. Stahl,M.D., Ph.D.
論点:多くの不安障害には、重複症状や、多数の不安障害の相互合併
症が頻繁に見られるため、共通の異常神経回路が存在すると考
えられます。
現在、精神疾患の生物学的原
理の概念、すなわち「症状と回
路」の概念におけるパラダイム
シフトが進んでいます1,2。精神
科的症候群は、それぞれの症状
へと分類された後、予測異常神
経回路との適合が行われます。
これらの神経回路は、症状発生
源の根拠となるだけでなく、症
状を軽減させる治療薬の対象と
もなります。前号では、この概
念と大うつ病 ( MDD ) との関連
性について触れたので3、今回は
現在の不安障害形成における、
症状と回路の関連性について見
ていきましょう (表 1)。次号で
は、統合失調症における、症状
と回路の関連性について取り上
げます。
重複症状と
重複回路
これまで、多くのさまざまな
不安障害のサブタイプは、特異
的な症状の特徴に基づき、個別
の診断型として定義されてきま
した 4 。このため、複数の不安
BRAINSTORMS は、臨床精神科医に関
連する神経科学の新知識の最新情報を提
供する The Journal of Clinical Psychiatry
の月刊誌です。
本記事は、カリフォルニア州 Carlsbad
の Neuroscience Education Institute および
University of California, San Diego 校、精
神医学科の提供によります。
本資料の転載に関するお問合せは、
Stephen M. Stahl, M.D., Ph.D., Editor,
BRAINSTORMS, Neuroscience Education
Institute, 5857 Owens Street, Ste. 102,
Carlsbad, CA 92009 まで
障害間における診断では、現在
の症状のすべてを確認した上で
特定の診断基準を満たした場合
にのみ、一定の診断が下されて
きました。最近では日常診療経
験と生物学的研究の両方の観点
において、このアプローチの実
用性に疑問がもたれています。
これは、多くの患者が時間の経
過と共に異なる症状を発症する
ことにより、障害種類の変化、
初期の不安障害とは別の不安障
害の発症、大うつ病の発症が、
症状の進行に伴って見られるた
めです1,2,5,6。また、各種不安障
害の治療方法は同様であること
が多く、多くの不安障害に見ら
れる恐怖感や不安感などの症状
には、同一の異常回路が関係し
ていると考えられます5-9。以上
のことからここでのポイントは
不安障害をそれぞれ個別の症状
に分類することにあると言える
でしょう7,9,10。
不安障害の種類が異なると、
恐怖の種類も異なる?
恐怖を感じると不安障害を抱
える患者においてだけでなく、
通常の反応として常に扁桃体が
作用します5,7。これは、恐怖が
通常の感情であり、適応行動へ
と結び付く場合は有益とも言え
るため、驚くべきことではあり
ません。これに対し、常に恐怖
を感じる場合、恐怖が予測不可
能な場合、不適切なタイミング
で発生する場合は、異常な状態
であり、恐怖によって人間の通
常機能に支障が生じます。この
ような恐怖の変化は、通常の恐
怖感に影響を与える回路と、不
安障害の異常な恐怖感に影響を
与える回路が同じであることを
示唆しています。しかし、不安
障害では、不適切な時に恐怖回
路が反応していると考えられま
す。たとえば、扁桃体からの壊
滅的な出力が、パニック障害の
予測不可能なパニック発作、状
況が要因となる社会不安障害の
パニック発作、感情や感覚的記
憶が要因となる外傷後ストレス
障害 (PTSD) の再発症などに影
響することが挙げられます。扁
桃体からの慢性的な過作用出力
は、全般性不安障害の不安、情
動不安、過敏、緊張感、焦燥感
などの持続的症状に影響を与え
ます。
各種不安障害における
不安感に違いはあるのか?
精神的苦痛について考えること
が、適切な場合もあります。特に、
それが是正行動へと結び付く場合
は有益な行動となるため、不安感
が役立つことも多くあるのです。
しかし、それが度を越す場合や、
不適切な場合には、通常機能を妨
げることとなり、不安障害の症状
として発現します。眼窩前頭皮質、
線条体、視床、前頭前野皮質へと
続く反射回路は、不安感や脅迫概
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概念などの症状と同様に、計画や組
織化などの思考能力に影響を与えま
す 10,11。この回路の過作用は、全般
性不安障害の不安感や、脅迫障害の
強迫概念に加え、パニック障害、社
会不安障害、PTSD 患者の症状増加
に関する不安を説明するものと考え
られます。
◆ 扁桃体中枢回路の異常は、多くの不安障害における恐怖関連
の症状に共通の神経生物学的基質と考えられます。
神経伝達物質、回路、
新しい治療方針
◆ これらの回路は、さまざまな異常反応を活性化させる要因と
なりうるため、多くの不安障害において、恐怖や不安に関連
する各種症状を引き起こす可能性があります。
臨床医学者は、治療薬への反応が
思わしくない患者に対する治療オプ
ションの発見に常に関心を抱いてい
ます。また、症状と回路の概念は、
残余症状の要因とされる任意の回路
に対し、独立して作用する薬剤を組
み合わせた治療法の論理的根拠を示
唆しています。たとえば、セロトニ
ン性薬剤とGABA性薬剤との混合は、
多数の不安障害における症状の改善
に役立つことが、既に広く認知され
ています9。将来的に、このセロトニ
ン性薬剤と GABA性薬剤に、新しい
作用機序を持つ薬剤を加えることに
より、症状の改善をいっそう促進さ
せることができるかもしれません。
不安症における症状と回路の概念は
不安障害における症状の生物学的原
理に密接に関係しています。また、
臨床医学者は、この概念に基づいて
既存の薬剤や今後開発される薬剤を
選択・混合することにより、全症状
の寛解と患者の転帰向上を目標とし
た治療方針を構築できるようになる
でしょう。
Take-Home Points – キーポイント
◆ 皮質、線条体、視床、皮質へと続く回路における異常は、多
くの不安障害における「不安感による精神的苦痛」や、不安
に関連する症状に共通の神経生物学的基質と考えられます。
◆ 症状の寛解を目標とした神経生物学的情報に基づく治療方針
の実現と、さまざまな不安障害を抱える患者の転帰を向上さ
せるには、異常神経回路を調節する神経伝達物質と受容体に
焦点を絞ることが求められます。この異常神経回路とは、各
患者が抱える症状群に影響を与えると考えられる回路を指し
ます。
表 1. 不安障害の主要な症状と回路の推測関連性
回路
症状
恐怖 (パニック、恐怖症) 一時的ではあるが、扁桃体からの壊滅的な出力、
および内側前頭前野皮質、帯状回前皮質、
眼窩前頭皮質における投射
不安 (不安感による
眼窩前頭における線条体、視床、前頭前野皮質へ
精神的苦痛、懸念感、 と続く持続的な過投射作用
強迫概念)
扁桃体を経由し、壊滅的な感情出力を引き起こす
再発症
海馬記憶
扁桃体の投射、および内側前頭前野皮質、帯状回
情動不安 (緊張感、
前皮質、眼窩前頭皮質の投射における、高度基礎
焦燥感、覚醒増加、
作用による増加出力の急増
過敏)
中脳中心灰白質と運動出力
不安性回避
皮質線状体系の出力
切迫感
筋肉の緊張
脊髄への運動出力
身体的疲労:線条体、小脳、脊髄
疲労
精神的疲労:背側部前頭前野
視床下部の睡眠覚醒機序、脳幹睡眠中枢
睡眠障害
集中力の低下
背側部前頭前野
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