見逃されやすい不安症 社交不安症を診る ※ 監修:独立行政法人 国立精神・神経医療研究センター 理事長・総長 2014年7月作成 ALL-P-60(1) 樋口 輝彦 先生 ※「社会不安障害」は日本精神神経学会において2008年に「社交不安障害」に名称が変更され、2014年にDSM-5の翻訳にあたり「社交不安症」に名称が変更されました。 日本精神神経学会 監修. DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル. 医学書院, 2014. 社交不安症とはどのような疾患か 頻度と、どのような経過を辿るか 社交不安症は社交場面や対人場面で 強い恐怖を感じる病気 社交不安症の12カ月有病率は 0.8%と高い 社交不安症(SAD:Social Anxiety Disorder)は、社交場面や対人場面の状況下に置かれたとき、あるいはその わが国の地域住民を対象とした精神疾患の有病率を検討したコホート疫学研究によれば、社交不安症の12カ月有 場で何らかのパフォーマンスをしなければならないときに強い恐怖を感じ、その恐怖を回避しようとするために社 病率は0.8%と報告されています。 会生活に障害が生じる疾患です。恐怖を感じたときに現れる身体症状としては、顔面の紅潮、動悸、振戦、声の震 え、発汗、胃腸の不快感、下痢などのほか、ときにパニック発作を伴うことがあります。 わが国一般人口における精神疾患の12カ月有病率 0 社交不安症にはさまざまなタイプがある 会議など人前で話すことに不安や恐怖を感じる 双極性障害 対人緊張 人と接することが苦手で、強い緊張を感じる パニック症 視線恐怖 後ろめたいことがないのに他者の視線を怖く感じる 全般不安症 緊張から顔が赤くなったり、汗をかいたりすることを極度に恐れる 限局性恐怖症 0.7 0.1 0.5 1.2 2.7 0.8 社交不安症 会食恐怖 人前で食事したり、会食の場で不安や恐怖を覚える 書痙 人前で字を書くときに緊張して手が震える 広場恐怖症 振戦恐怖 お茶などを出すときに緊張してコップをもつ手が震える PTSD 電話恐怖 電話をかけたり、受けたりするのが苦手でひどく緊張する アルコール乱用・依存 腹鳴恐怖 自分のお腹が鳴ってしまうことに羞恥心や恐怖心を抱く 排尿・排便恐怖 公共のトイレで用を足すことが苦手で強い不安を覚える 社交不安症の12カ月有病率は0.8%と けっして低くありません。 0.3 0.4 1.6 Kawakami N, et al. Psychiatry Clin Neurosci 59: 441-452, 2005より作成 患 者 は 社 会 的・ 経 済 的 な 不 利 益 を 被 り 、 QOLは著しく低下する 社交不安症は対人恐怖症の概念のうち 「緊張型対人恐怖」に該当する 従来の「対人恐怖症」という概念は、他者から注目されることに不安・恐怖を感じる「緊張型対人恐怖」と,他者を 不快にさせることに不安・恐怖を感じる「確信型対人恐怖」の2つに分類されます。「緊張型対人恐怖」は社交不安 症に該当し,「確信型対人恐怖」は妄想性障害や身体醜形恐怖症に該当します。 6(%) 2.9 持続性抑うつ障害 スピーチ恐怖 発汗恐怖 4 うつ病 社交不安症には、下表に示すようにさまざまなタイプがあります。 赤面恐怖 2 社交不安症患者は、不安・恐怖の症状や回避的行動により社会的、職業的な能力を十分に発揮することができず に、社会的・経済的な不利益を被ります。自己評価も著しく低く、QOLはうつ病患者並に低いという報告もあり ます。 社交不安症患者の予後を調べてみると・・・ 他者から注目されることに 不安・恐怖を感じる 緊張型対人恐怖 社交不安症 対人恐怖症 他者を不快にさせることに 不安・恐怖を感じる 確信型対人恐怖 妄想性障害 身体醜形恐怖症 学校の中退率が高く、 学歴が低い2, 3) QOLはうつ病患者並に低く5)、 自殺リスクが高い6) 1) Kawakami N, et al. Psychiatry Clin Neurosci 59: 441-452, 2005. 2) Stein MB, et al. Am J Psychiatry 157: 1606-1613, 2000. 3) Katzelnick DJ, et al. J Clin Psychiatry 62(Suppl1): 11-15, 2001. 就職率が低く、 所得も低い4) 他の不安症やうつ病などを 合併しやすい7) 4) Patel A, et al. J Affect Disord 68: 221-233, 2002. 5) Wittchen HU, et al. Int Clin Psychopharmacol 11(Suppl3): 15-23, 1996. 6) Keller MB. Acta Psychiatr Scand Suppl 417: 85-94, 2003. 7) Grant BF, et al. J Clin Psychiatry 66: 1351-1361, 2005. 1 2 社交不安症はどのように発症するのか 扁 桃 体 の 過 剰 な 興 奮 が 恐 怖・ 不 安 を 引き起こす 気質的脆弱性から生まれる否定的な認知は 不 安・ 恐 怖 体 験 を 経 る ご と に 増 幅 さ れ る 扁桃体は、恐怖と認知と不安の表出の神経回路のなかでも特に重要な役割を果たしています。恐怖により扁桃体が 遺伝的要因や環境的要因により社交不安症患者は不安・恐怖に対する気質的な脆弱性を有していると考えられ、 興奮すると視床下部や脳幹を介して交感神経を亢進させて、心拍数や呼吸数の増加など身体的反応を引き起こしま 「社交場面・対人場面は苦手」といった不安を喚起する思考、信念、解釈が形成されています。不安・恐怖場面に す。また、前頭前皮質は恐怖心を抑制する働きをもつと考えられますが、扁桃体の興奮が持続すると前頭前皮質の 遭遇すると身体的反応が現れ、それがさらに不安・恐怖体験を増幅させ、失敗体験は負の学習効果として不安を喚 機能が低下して、恐怖・不安が増強すると推察されています。 起する思考、信念、解釈をさらに強化してしまいます。 失敗体験は不安・恐怖場面に対する 前頭前皮質の機能低下 苦手意識をさらに増幅させます。 前頭前皮質は恐怖心を 抑制する働きをもつ 気質的脆弱性 環境的要因 社交不安症の病態では扁桃体が 重要なカギを握っています。 扁桃体の興奮 恐怖の認知と不安の表出を司る 扁桃体を中心とした神経回路において セロトニンなどの神経伝達物質の 機能異常をきたす 社交不安症患者を対象とした神経脳画像研究からは、扁桃体を中心とした神経回路においてセロトニンやドパミン 強化 不安を喚起する 思考、信念、解釈 やっぱり緊張は 抑えられなかった きっと緊張は 抑えられない 遺伝的要因 扁桃体を中心とした 神経回路の機能異常 社交場面・対人場面 は苦手だ 強化 やっぱり失敗して しまった 予期不安 増幅 また失敗するん じゃないか といった神経伝達物質の機能異常が報告されています(下表)。 身体的反応 社交不安症患者を対象にした神経脳画像研究から得られた所見 緊張するんじゃ ないか PET局所脳血流測定 PET/SPECT 受容体濃度計測 健常対象群に比べてパブリックスピーキング時における扁桃体の脳 血流量が増加1) 扁桃体、前帯状領域および島におけるセロトニン1A(5-HT1A) 不安・恐怖体験 増幅 受容体結合能の低下2)、線条体におけるドパミン再取り込み能 およびD2受容体結合能の低下3) 身体的反応 fMRI-BOLD測定 3 健常対象群に比べて不快な表情や怒りの表情をみたときの扁桃体 および海馬傍回の脳活動が増加4) 1) Tillfors M, et al. Am J Psychiatry 158: 1220-1226, 2001. 3) Tiihonen J, et al. Am J Psychiatry 154: 239-242, 1997. 2) Lanzenberger RR, et al. Biol Psychiatry 61: 1081-1089, 2007. 4) Stein MB, et al. Arch Gen Psychiatry 59: 1027-1034, 2002. 回避行動 緊張してしまった 4 社交不安症をどう診断するか 社交不安症の評価スケール(LSAS-J:Liebowitz Social Anxiety Scale 日本語版) 評価スケールを用いると診断と 評価の目安(総得点:0∼144点) 重症度の評価に役立ちます。 評価スケールによりスクリーニングし、 DSM-5の診断基準に照らして診断する 社交不安症の診断は、DSM-5の診断基準に基づいて行います(下表)。診断に際しては、①1つ以上の社交場面に対 する著しい恐怖または不安が存在する、②自分の振る舞いが否定的な評価を受けることを恐れる、③その恐怖や不 安を耐え忍んでいる、④その恐怖や不安は社会文化的背景に釣り合わない、⑤その恐怖や不安により臨床的な苦痛 30点 境界域 50∼70点 中等度の社交不安症 70∼90点 さらに症状が著しい。通常、仕事や社交面に支障があらわれる 90点以上 重度の社交不安症。通常、仕事や社会活動に大きな支障があらわれる や社会的・職業的な機能障害が引き起こされている、といった点に照らして判断します。 恐怖感/不安感 具体的には、右表の社交不安症の評価スケールを用いると診断および重症度の評価に有用です。 回 避 DSM-5における社交不安症の診断基準 0 : まったく感じない 1 : 少しは感じる 2 : はっきりと感じる 3 : 非常に強く感じる 0 : まったく回避しない 1 : 回避する(確率1/3以下) 2 : 回避する(確率1/2程度) 3 : 回避する(確率2/3以上または100%) 恐怖感/不安感 1 人前で電話をかける (P) 0 1 2 3 0 1 2 3 2 小人数のグループ活動に参加する (P) 0 1 2 3 0 1 2 3 3 公共の場所で食事をする (P) 0 1 2 3 0 1 2 3 4 人と一緒に公共の場所でお酒(飲み物)を飲む(P) 0 1 2 3 0 1 2 3 5 権威ある人と話しをする (S) 0 1 2 3 0 1 2 3 6 観衆の前で何か行為をしたり話しをする (P) 0 1 2 3 0 1 2 3 7 パーティーに行く (S) 0 1 2 3 0 1 2 3 8 人に姿を見られながら仕事(勉強)する (P) 0 1 2 3 0 1 2 3 9 人に見られながら字を書く (P) 0 1 2 3 0 1 2 3 10 あまりよく知らない人に電話をする (S) 0 1 2 3 0 1 2 3 で、その恐怖または不安が表現されることがある。 11 あまりよく知らない人達と話し合う (S) 0 1 2 3 0 1 2 3 D その社交的状況は回避され、または、強い恐怖または不安を感じながら耐え忍ばれる。 12 まったく初対面の人と会う (S) 0 1 2 3 0 1 2 3 E その恐怖または不安は、その社交的状況がもたらす現実の危険や、その社会文化的背景に釣り 合わない。 13 公衆トイレで用を足す(P) 0 1 2 3 0 1 2 3 14 他の人達が着席して待っている部屋に入って行く (P) 0 1 2 3 0 1 2 3 15 人々の注目を浴びる (S) 0 1 2 3 0 1 2 3 16 会議で意見を言う (P) 0 1 2 3 0 1 2 3 17 試験を受ける (P) 0 1 2 3 0 1 2 3 DSM-5の診断基準で青色で示した 部分が診断のポイントです。 A 他者の注視を浴びる可能性のある1つ以上の社交場面に対する、著しい恐怖または不安、例として、 社交的なやりとり(例:雑談すること、よく知らない人にあうこと)、見られること(例:食べたり 飲んだりすること)、他者の前でなんらかの動作をすること(例:談話をすること)が含まれる。 注:子どもの場合、その不安は成人との交流だけでなく、仲間達との状況でも起きるものでなければならない。 B C その人は、ある振る舞いをするか、または不安症状を見せることが、否定的な評価を受けることにな ると恐れている(すなわち、恥をかいたり恥ずかしい思いをするだろう、拒絶されたり、他者の迷惑 になるだろう)。 その社交的状況はほとんど常に恐怖または不安を誘発する。 注:子どもの場合、泣く、かんしゃく、凍りつく、まといつく、縮みあがる、または、社交的状況で話せないという形 F その恐怖、不安、または回避は持続的であり、典型的に6ヵ月以上続く。 G その恐怖、不安、または回避は、臨床的に意味のある苦痛、または社会的、職業的、または他の重要 な領域における機能の障害を引き起こしている。 H その恐怖、不安、または回避は、物質(例:乱用薬物、医薬品)または他の医学的疾患の生理学的作 用によるものではない。 18 あまりよく知らない人に不賛成であると言う (S) 0 1 2 3 0 1 2 3 19 あまりよく知らない人と目を合わせる (S) 0 1 2 3 0 1 2 3 I その恐怖、不安、または回避は、パニック症、醜形恐怖症、自閉スペクトラム症といった他の精神疾 患の症状では、うまく説明されない。 20 仲間の前で報告をする (P) 0 1 2 3 0 1 2 3 21 誰かを誘おうとする (P) 0 1 2 3 0 1 2 3 J 他の医学的疾患(例:パーキンソン病,肥満,熱傷や負傷による醜形)が存在している場合、その恐 怖、不安、または回避は、明らかに医学的疾患とは無関係または過剰である。 22 店に品物を返品する (S) 0 1 2 3 0 1 2 3 23 パーティを主催する (S) 0 1 2 3 0 1 2 3 24 強引なセールスマンの誘いに抵抗する (S) 0 1 2 3 0 1 2 3 該当すれば特定せよ パフォーマンス限局型:その恐怖が公衆の面前で話したり動作をしたりすることに限定されている場合 日本精神神経学会 監修. DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル. 医学書院, 2014. 5 回 避 P: Performance(行為状況)、S: Social Interaction(社交状況) 6 社交不安症をどのように治療するか 治療に用いられる薬剤や認知行動療法は それぞれ社交不安症の病態に対する 作用点が異なります。 社交不安症の治療は薬物療法と 認知行動療法の併用が基本 社交不安症に対する薬物療法と認知行動療法の作用機序 社交不安症の治療には薬物療法と認知行動療法が有効です。 薬物療法では、機能が低下したセロトニンの神経伝達を高めて異常となった神経回路の機能を回復させるSSRI、不 安や恐怖を軽減させて神経をリラックスさせる抗不安薬が用いられます。 認知行動療法では、不安を喚起する否定的なものの考え方(思考、信念、解釈)のパターンに気づき修正をする認 気質的脆弱性 SSRI 扁桃体を中心とした 神経回路の機能異常 認知療法 知療法、不安や恐怖を覚える社交場面に曝露して成功体験を積み重ねることで自信を深める行動療法(曝露療法) が行われます。 強化 不安を喚起する 思考、信念、解釈 薬物療法のそれぞれの薬剤、および認知行動療法の各アプローチは、社交不安症の病態に対する作用点が異なり、 強化 これらをうまく併用することで症状の改善を図ります(右図)。 社交不安症に対する薬物療法と 認知行動療法の有効性は高い 抗不安薬 増幅 社交不安症治療における薬物療法と認知行動療法の有効性はさまざまな臨床研究により確認されています。それぞ 身体的反応 れの治療法の有効性を報告した臨床研究をメタ解析した結果によれば、医師による臨床評価により判定した治療効 果の大きさを示す効果量(Cohen’ s d*)は、薬物療法が2.18、認知行動療法が1.90と報告されており1)、いずれ も高い有効性を示すことがわかります。 増幅 *一般的にCohen’ s dの効果量の目安は、0.2:効果量小 0.5:効果量中、0.8:効果量大、とされる。 認知療法 予期不安 不安・恐怖体験 行動療法 抗不安薬 身体的反応 社交不安症の治療効果の大きさ 社交不安症に対する薬物療法と 薬物療法 認知行動療法はメタ解析の結果から 高い有効性を有していることが 確認されています。 効果量 2.18 薬物療法 1.90 認知行動療法 (効果判定は医師による臨床評価,効果量はCohen's d) 回避行動 認知 行動療法 SSRI(第一選択薬) 認知療法 機能が低下したセロトニンの神経伝達を 高めて、異常となった神経回路の機能を 回復させる 不安を喚起する否定的なものの考え方の パターンに気づき、修正する 抗不安薬(短期併用、または頓服) 行動療法(曝露療法) 不安や恐怖を軽減させて、神経をリラッ クスるさせる 不安や恐怖を覚える社交場面に曝露して成 功体験を積み重ねることで自信を深める 1) Bandelow B, et al. World J Biol Psychiatry 8: 175-187, 2007. 7 8 社交不安症に対する薬物療法を どのように行うか 社交不安症に対する認知行動療法を どのように行うか 社交不安症の薬物療法では SSRIが第一選択薬 認知再構成法、曝露療法、ソーシャル スキルトレーニングなどが行われる 現在、社交不安症に対する薬物療法の第一選択薬は、その効果と副作用の少なさからSSRIとされています1, 2)。 社交不安症に対する認知行動療法では、①不安や恐怖を喚起する社交場面の状況に対する歪んだ思考や信念、解 実際、社交不安症に対するSSRIの有効性はさまざまな臨床研究およびメタ解析の結果から報告されています3-5)。必 釈に気づき修正する認知再構成法、②不安や恐怖を感じる社交場面に直接向き合って対処法を学ぶ曝露療法、③ 要に応じて、不安が強い場合には抗不安薬を用います。 社交場面における患者のパフォーマンスを向上させて曝露療法の効果を高めるソーシャルスキルトレーニング、 などが行われます。各治療法の具体的な治療アプローチを表に示します。 患者のアドヒアランスに配慮した 社交不安症に対する認知行動療法の治療アプローチ 処方アプローチが大切です。 治療法 社交不安症患者に対するSSRIおよび抗不安薬の処方の実際 1 ■不安や恐怖は社交場面の状況だけで引き起こされるのではなく、それらの出来事についての患者の SSRI 歪んだ思考や信念、解釈から引き起こされることを理解させる 少量(通常1日1錠)から開始し、症状の経過をみながら1∼2週間ごとに1錠ずつ、至適用 量に至るまで増量する。 2 副作用(吐き気、下痢など)は服薬開始直後から生じ、通常は服用1週間程度で軽減してい 認知療法 ■社交場面について不安・恐怖を感じるときの患者の思考を「思考記録表」に記入して、自己および (認知再構成法) 他者についての否定的な思考に気づかせる ■社交場面において自分自身に対する過剰な否定的意識を検証しながら、非現実的で大げさな思考・ くが、忍容性に影響するため十分留意する。 3 信念を現実的な思考・信念に置き換えていく 社交不安症に対するSSRIの効果はうつ病よりも時間がかかるとされ、1剤の効果判定には 8∼10週間程度要する 抗不安薬 具体的な治療アプローチ ■不安や恐怖を喚起する状況や思考、感覚に直接向き合って、恐れていたことは実際に起こらない、 1 抗不安薬は、不安が強い場合に頓服またはSSRIに併用して用いる。 2 SSRIに併用する場合には、耐性・依存に十分注意しながらSSRIの効果が発現しはじめる 投与開始1ヵ月の短期間投与にとどめる。 行動療法 (曝露療法) または予測していたものよりは対処可能であることを経験することで不安・恐怖を低減させる ■日常生活のなかで恐れている社交場面、あるいはそのような場面を再現したロールプレイングを行 い、不安や恐怖をコントロールし対処できるようになるまで訓練する ■曝露療法はやり方によっては恐怖や不安をより増幅させる場合があることから、一般的には不安階 層表を作成してやさしい場面から開始し、徐々に不安の強い場面へと曝露させる 再発予防のため SSRIによる維持治療を 少なくとも1年以上継続することが望ましい 社交不安症は症状の再燃・再発をきたしやすいため、SSRIによる長 SSRIの再発予防効果(6カ月) 期の薬物療法が必要です。実際、社交不安症患者を対象にSSRIによ 再発率が4∼14%に抑制されることが報告されています6-8)。 治療が奏効し2年間の維持治療を受けた社交不安症患者の約9割が治 療の中止により症状が再発したという報告もありますので9)、寛解後 も少なくとも1年以上は維持治療を継続することが重要です。 再発率 ラセボ群の再発率が36∼39%と高かった一方で、SSRI 継続群では ソーシャル スキル トレーニング 果,心配した結果が起こる可能性を低下させて自信をつけることに役立つ ■ソーシャルスキルトレーニングでは、会話術やプレゼンテーションスキルなどの言語的コミュニ ケーション、アイコンタクトや社交的振る舞いなど非言語的コミュニケーションを学ぶ ■ソーシャルスキルトレーニングは模擬的ロールプレイングにおいてリハーサルされ、曝露療法と併 36∼39% る6カ月(24週間)の再発予防効果を検討した臨床試験の結果、プ ■ソーシャルスキルトレーニングは、社交場面における患者のパフォーマンスを向上させ、その結 用されることが多い 4∼14% バーチャルリアリティを用いた曝露療法 Column プラセボ群 SSRI群 バーチャルリアリティ技術を曝露療法に応用する試みが海外を中心に行われています。ヘッドマウント と呼ばれる装置を装着すると360°見渡せる仮想映像によりあたかも実際の社交場面にいるかのような 1) Blanco C, et al. Biol Psychiatry 51: 109-120, 2002. 6) Stein DJ, et al. Arch Gen Psychiatry 59: 1111-1118, 2002. 2) Swinson RP, et al. Can J Psychiatry 51(Suppl2): S1-91, 2006. 7) Montgomery SA, et al. J Clin Psychiatry 66: 1270-1278, 2005. 3) Fedoroff IC, et al. J Clin Psychopharmacol 21: 311-324, 2001. 8) Walker JR, et al. J Clin Psychopharmacol 20: 636-644, 2000. 4) van der Linden GJ, et al. Int Clin Psychopharmacol 15(Suppl2): S15-23, 2000. 9) Versiani M, et al. Int Clin Psychopharmacol 12: 239-254, 1997. 環境を作り出すことができ、スピーチ場面など臨場感溢れる状況下で曝露療法を行うことができます。 5) Heimberg RG, et al. Psychol Med 29: 199-212, 1999. 9 10
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