日本の大学におけるアラビア語教育の 現状とその問題

日本の大学におけるアラビア語教育の
現状とその問題
―アラビア語教育の歴史とアンケート調査の結果から―
Arabic Language Education at Japanese Universities
‒
Current Situation and Issues‒
門屋 由紀
KADOYA Yuki
─1─
Ⅰ.はじめに
本稿では、日本の大学において実施されているアラビア語教育の現状
とその問題について論じている。その際に、アラブ イスラーム学院東京
分校によって 2005年12月から翌年2月まで実施された、「日本の大学にお
けるアラビア語教育の現状」調査の結果を反映したい。
1925年に大阪外国語専門学校(現大阪外国語大学。以下、大阪外語と略)
でアラビア語教育が始められてから、約80年が経過した。昭和の初め頃
にはこの大阪外語で学ぶか独学や外交官となって現地に留学するしか方
法がなかったアラビア語も、2004年には 48大学で勉強することができる
ようになっている。昨今の中東事情を鑑みると、今後、アラビア語学習
熱はより一層高まっていくであろう。
この 80年の間に、残念ながらアラビア語教育に関する実地調査が行わ
れた気配はない。もちろん、大学などが学内で小規模なアンケートを実
施することはあるだろう。言うまでもないが、それらは公表・共有され
ることはなかった。つまり、このような調査の不在は、既存のアラビア
語教育の内容について検討し、それを改善する機会がなかったというこ
とを意味している。そこで、今後のアラビア語教育に資するため、当学
院は大学とアラビア語講師を対象として「日本の大学におけるアラビア
語教育の現状」調査を行った。本稿では、過去に行われたアラビア語教
育については文献から、現在行われている教育についてはこの調査の結
果を用いて、日本におけるアラビア語教育の現状とその問題を明らかに
したい。
先行研究の整理をしておく。管見の限り、日本のアラビア語教育に関
する論考の多くは、指導の実践報告などである。まず、大阪外語の名誉
教授である池田修氏の報告がある。この報告の中で、池田氏は日本にお
けるアラビア語教育の歴史を簡単に紹介した後で、報告当時にアラビア
語講座を設置していた教育機関を 3種類に区分している[ 2 ]。そして、中
学校や高等学校ではアラビア語教育が行われないので[ 3 ]、すべての学生
は大学入学後に初めて学習するということを述べている。大阪外語のカ
リキュラムを紹介し、最終的に、「現在のアラビア語教育の問題点は、中
─2─
日本の大学におけるアラビア語教育の現状とその問題
東研究に携わる人は皆まず最初にアラビア語習得に非常な時間と努力を
[4]
しいられることであろう」
と結論付けている。アラビア語教育の対象
を一般的な語学の学習者ではなく、「中東研究に携わる人」と表現してい
るのが注目に値するだろう。アラビア書道家の本田孝一氏[ 5 ]は、日本の
アラビア語教育の問題は「文法重視」であると指摘している。また、現実
的に初心者が数ヶ月程度文法を勉強しても古典などの購読は難しいと考
えている点で、池田氏の言う「中東研究に携わる人」のみを対象とした教
育を、必ずしも念頭においていないことがわかる。榮谷温子氏[ 6 ]は、正
則アラビア語(フスハー)の学習および指導の際に生ずる問題について、
外国語教授法が全体的にはコミュニカティブな方向へ流れていると述べ
た上で、主にアラビア語文法の面から考察している。大阪外語や天理大
学などで講師を務める河井知子氏[ 7 ]は、初級レベルにおける指導に限定
して、その工夫などを紹介している。その際、「学習者の動機や目的、学
習者の望む到達レベルを想定」し、それによって教育内容を変えている
点は、特筆すべきことであろう。以上から、従来、アラビア語教育は主
にアラブ・イスラームの研究者などを対象としたものであった。当然、
研究に必要とされるのは主に文法と訳読であり、それを中心とした指導
がなされてきたのであろう。しかし、徐々に研究者志望以外の多様な学
習者にも向けた教育が行われるようになっているのが明らかである。た
だし、この傾向は個々のアラビア語講師の経験から得られたものであり、
これらのみで日本の大学における同教育の現状を説明できるとは考えら
れない。
本稿の章構成は以下の通りである。
Ⅰ.はじめに
Ⅱ.日本におけるアラビア語教育の歴史
Ⅲ.アラビア語教育を行っている大学
Ⅳ.アラビア語教育の現場
Ⅴ.おわりに
─3─
本稿の構成を簡単に説明しておく。まず、Ⅱでは日本におけるアラビ
ア語教育の歴史を概観する。その際に、日本で最初に同語教育が始めら
れた大阪外語のアラビア語教育の歴史と、アラブ・イスラーム研究の流
れを機軸とする。続いてⅢでは、大学を対象とした調査の結果や講義要
項から得られた情報を基に、その教育体制を明らかにする。Ⅳでは、講
師に向けた調査の結果と、前章と同様に講義要項の情報も適宜利用して、
アラビア語教育の現場について考察する。終章では、すべての考察から
得られた結果を踏まえて、大学におけるアラビア語教育の問題とそれを
解決するための提案を行いたい。
〈凡例〉
・ 大学でアラビア語の指導を行う者を、その職位に関わらず、
「講師」
と統一する。
・ アラビア語を必修科目としている学部・学科などを、
引用を除いて「ア
ラビア語学科」に統一する。
Ⅱ.日本におけるアラビア語教育の歴史
本章では、大阪外語のアラビア語学科と中東・イスラーム研究を中心
にして、アラビア語教育の歴史について概観する。大阪外語を中心に据
えたのは、日本において最初にアラビア語教育を開始し、最も経験豊か
な大学ということだからである。その際、①日本における中東・イスラー
ム研究の転換期となった 1945年以前、②1945年からアラビア語教育に影
響を与えた 1973年の石油危機まで、そして、③石油危機以降に分けて記
述する。
1.1945年以前
最初に、大阪外語においてアラビア語科目が開設されるまでの経緯に
ついて、簡単に触れておこう。まず、アラビア語科目の設置については、
1921年に同校が設立された時点で決まっていた。それは、初代学長であ
─4─
日本の大学におけるアラビア語教育の現状とその問題
る中目覺の影響があるといわれている。彼は西洋史を専門としていたが、
東洋史にも造詣が深く、その言語に関心を持っていたからである。アラ
ビア語講師としては、松本重彦[ 8 ]に白羽の矢が当たった。なぜならば、
彼は東京帝国大学文学部国史科を卒業していたが、西南アジアにも関心
を持っていたからである。文部省(当時。以下同じ)からの指示を受けて、
1922年に彼はドイツへ渡って、ベルリンで 2年間アラビア語を学んだ[ 9 ]。
こうして 1925年、インド語部・マレー語部の選択第2語学としてアラ
ビア語科目が設置された。当然、日本語で書かれた文法書や辞典などは
存在せず、学生たちはドイツ語や英語で書かれた教本を用いて勉強に励
んだ[ 10 ]。当時の学生にとって、外国語で書かれた本でアラビア語を勉強
することに、さほど苦労はなかったと思われる。なぜならば、日本の伝
統的な外国語教育は書物の訳読を中心としており、概して彼らはすぐれ
た読解力を持っていたからである。また、このような伝統はアラビア語
教育においても当てはまっていたであろう。つまり、当時のアラビア語
教育も訳読を中心としていたと推測できる。
1929年に松本が京城帝国大学へ栄転した後、大阪外語では数年の間ア
ラビア語科目が中断された[ 11 ]。しかし、これは同語教育が不要となった
ことを意味しない。というのは、1931年の満州事変を経て、その翌年に
は満州国が建国された。それから間もなくして五・一五事件で犬養毅首
相が暗殺され、政党内閣制が終焉を迎えたのである。つまり、軍部の台
頭によって日本は大陸への関心を強めていた時期であった。これを受け
て、東洋史の研究対象が中国よりさらに西へ、つまり中東地域へと広がっ
ていったのである。1937年頃には、回教圏研究所や大日本回教協会など、
主な中東・イスラーム研究機関が設立された。このような時代を背景に、
1940年、大阪外語でアラビア語学科が誕生したのである[ 12 ]。その定員は
15名であったのに対し、49名の応募があった。また、当時は毎年募集さ
れていたのである。
2.1945年から 1973年の石油危機まで
1945年の敗戦を境に、日本のアラブ・イスラームに関する研究成果は
─5─
すべて失われた。なぜならば、貴重な研究資料は焼失または散逸し、前
嶋信次や日本におけるイスラーム研究の基礎を築いたといえる井筒俊彦
といった一部の例外を除いて、ほぼすべての研究者がこの分野から離れ
てしまったからである[ 13 ]。このような事情はアラビア語教育にも影響を
及ぼしたといえるだろう。なぜならば、大阪外語も大学に昇格したものの、
アラビア語学科は 1949年頃には隔年募集となってしまったからである。
しかし、パレスチナ問題に端を発する中東での一連の戦争を契機とし
て、アラブ諸国が国際社会の関心を集めるようになったのである。また、
この頃は日本の経済成長のため、石油の確保が必須となっていた。その
ため、経済界がアラビア語教育を必要とし始めたのである。1960年に大
阪外語のアラビア語学科が再び毎年募集できるようになったのも、この
ような事情があったからと考えられる。また、その翌年には東京外語で
もようやくアラビア語学科が開設された。さらに、戦前からの歴史を持
つ私立大学などでもアラビア語教育が始められた[ 14 ]。特に、拓殖大学か
らはエジプトのアズハル大学などへ留学してアラビア語やイスラームを
学び、後に石油系企業などで活躍する者も出てきた。松本と同時期にイ
ンド語部で教壇に立っていた澤英三は「アラビア語は、今や就職界にお
[ 15 ]
と指摘している。
ける寵児にのし上がってしまった」
3.石油危機以降
以上のように、パレスチナ問題や 1960年代の日本の高度経済成長は、
アラビア語教育事情に大きな影響を与えた。その決定打となったのが、
1973年の石油危機である。「オイル・ショックを境として、アラビア語の
クラスが一度に増えたし、その前後から、アラビア研究の若い世代の層
[ 16 ]
がやや厚くもなった」
という記述から、アラビア語の学習熱の高まり
がわかるだろう。大阪外語でも、アラビア語学科の定員が 15名から 25名
へと増やされたのである[ 17 ]。
さて、石油危機の時期、経済発展がアラビア語を必要としていたとい
うのであれば、それは会話などを中心とした「実用的な」語学であったと
考えられる。それでは、当時の大阪外語で実施されていたアラビア語教
─6─
日本の大学におけるアラビア語教育の現状とその問題
育の内容を見てみよう。
この頃には既に、追手門学院大学の磯崎定基が非常勤としてコーランやハ
ディースを中心とする講義を担当していた。つまり、語学教育を基本としつつ
も、それを基礎に森本の歴史学、磯崎のイスラーム学、竹田の地理学や文化論
などの講義が、伴の古典文学とセム語学、池田の現代文学と文法学、福原のア
ラビア語 / セム語学と、それぞれの専門に追った講義内容へと発展していった
のである。[ 18 ]
石油危機の頃、「語学教育を基本とし」ながらも、「それぞれの専門に
追った」授業が行われていた。その「専門」から分かるのは、アラブ・イ
スラームの歴史や文化などを理解するための一方向的な研究が行われて
おり、コミュニケーションに資するような研究はほとんど行われていな
かったということである。これは当時に限ったことではなく、「いまだに
包括的な日本語によるアラビア語の辞書がないという状況を考えるとき、
アラビア語と日本語の対照研究を含めた研究がもっとなされるべきであ
[ 19 ]
ろう」
という西尾氏の指摘からも明らかであろう。つまり、講師たち
がまずしなければならなかったのは、研究者として、戦後の混乱で失わ
れたアラブ・イスラーム研究の蓄積を回復することであった。その結果
として、当時の経済界が必要とした「実用的な」アラビア語教育を実施す
るに至らなかったと言えよう[ 20 ]。このような状況では、時代にあったア
ラビア語の教育内容について、十分に議論する余裕はなかったと推測さ
れる。
1980年頃の大阪外語のカリキュラムについて、池田氏は「講義は主に
言語、古典文学、イスラームの文化と社会制度の外観に集中しており、
それに対して、アラブ世界における現代の動向についての講義はない。[中
略 ] それは、大阪エリアにおいて専門家が不足しているためである。事実、
[ 21 ]
アラブ世界の現代の動向について学びたい数多くの学生がいる」
と述
べている。また、池田氏は、続けて「このような状況は、現代アラブ世
界の動向の専門家がいる東京エリアの状況と大きく異なっている」と述
─7─
べている。その「東京エリア」におけるアラビア語教育の中心である東京
外語の創設以来の教育方針は、以下のようになっている。
そして、とりわけ、学生の教育と教官の研究について、我々は根本的に次の
ように考えた。本学では世界の諸言語と、その背景をなす地域の政治、経済、
国際関係、社会、歴史、文化などについて教育・研究する場合、現代に力点を
かけ、また、どちらかといえば、実践的知識を重視する。アラビア科も本学の
一学科として、基本的にはもちろん、この線に沿うのであるが、他方では、単
なる時局的情報の追求や現状の表層の分析に終始するのではなく、さらに深く
掘り下げて、例えばアラビアの政治・経済・国際関係などの領域での動きを深
層から規定している根本的動因、世界観、価値観を、考え抜かれた可能な限り
厳密な方法を駆使して探究し解明していくことを目指す。そしてアラブ世界を
その根底から支えている世界観、価値観の解明のためには、何をおいてもまず
イスラームという宗教についての根本的理解が絶対必要なのである。[ 22 ]
東京外語のアラビア語教育は、「現代に力点をかけ、また、どちらかとい
えば、実践的知識を重視」しているものの、その根幹には「イスラームと
いう宗教についての根本的理解」が存在している。つまり、同校におい
ても、アラビア語は語学としてのみならず、その背景にあるイスラーム
を理解するための手段として教えられてきたと言えよう。以上のように、
日本におけるアラビア語教育の 2大拠点は、ほぼ同じような方向性を持っ
ていたのである。
さて、大阪外語のアラビア語教育に新しい要素が入ってきた。それは
現地への留学である。石油危機の後、同校では文部省の奨学金によるア
ラビア語圏への留学制度を整え始め、1979年には、この制度を利用して
カイロ大学で学ぶ学生が登場した[ 23 ]。
1980年代の終わり頃には、「西尾哲夫、竹田真理、森高久美子等有能な
[ 24 ]
若手の力を借りて学生の世代感覚にあった教育が」
できるようになっ
た。残念ながら、この「学生の世代感覚にあった教育」の具体的な内容は
書かれていない。しかし、前述の通り 1980年代初頭には「アラブ世界に
─8─
日本の大学におけるアラビア語教育の現状とその問題
おける現代の動向」について学ぶ講座がなかったということなので、こ
のような教育にも対応できるようになったと考えられる。
1990年代半ばにようやく中東情勢が安定し、アラブ諸国に在住する邦
人も徐々に増えていった[ 25 ]。推測に過ぎないが、この中には現地の教育
機関でアラビア語を学ぶ学生も、少なからず含まれていただろう。なぜ
ならば、現在でも多くの留学生が滞在するエジプトやシリア、ヨルダン
といった国々は、日本と比べて物価が安い。また、インフラも過去に比
べれば大幅に改善されていた。その上政情が安定すれば、大学での勉強
に飽き足らなくなった学生が、現地への留学を考えてそれを実行に移す
ようになるのは無理もない。このように、比較的容易に留学できるよう
になったことは、大阪外語のアラビア語教育の方針にも影響を与えたと
考えられる。すなわち、大学では文法や訳読を中心に教育し、会話など
のコミュニカティブな分野については、留学に期待するようになっていっ
たのではないかと推測する[ 26 ]。
Ⅲ.アラビア語教育を行っている大学
本章では、アラビア語が学習できる大学とその教育体制について、調
査の結果や講義要項の内容を基にして考察する。アンケートについては、
合計31 カ所[ 27 ]の大学または学部から回答を得た。
1.大学の背景
(A)アラビア語科目が設置された年
アンケートに回答した大学または学部において、アラビア語科目が設
置された年を尋ねた。その結果をまとめたのが図0-A である。今回の調
査は、2005年11月以前に同語科目を廃止した大学は考慮されていない。
そのため、その数は純増しているとは決して言えない。しかし、アラビ
ア語科目が設置されている大学または学部の数自体は増えていることが
わかるだろう。
(B)所在地
─9─
回答のあった大学の所在地をまとめたのが、図1-A である。この図か
ら明らかなのは、アラビア語を学習できる大学は、やはり東京・大阪(そ
れぞれ 14大学と 8大学)などの大都市に集中していることである。また、
回答がなかった大学を加えれば、さらに関東の割合が増えると思われる。
前述の通り、同語を学ぶことができる大学は年々増えているといって
もよいだろう。もちろん、大学は大都市に集中しているものであり、ア
ラビア語科目を有する大学が地方より多くなるのは当然である。しかし、
地方では民間の語学学習機関もあまり見当たらない[ 28 ]ため、都会と比
較して学習の機会が少なくなるだろう。
2.アラビア語科目の概要
(A)科目の位置付け
回答のあった 31 カ所の大学または学部のうち、3 カ所( 3大学)ではア
ラビア語が必修科目とされている学科を有している(以下、
「区分A」と
する)
。残りの合計28 の大学または学部では、アラビア語科目を選択す
ることができる(以下、「区分B」とする)
。アラビア語科目は、①必修科
目、②全学部間の共通科目、③学部の選択科目、④学部の「選択必修」科
目に分けられる。
区分Aの大学は当然として、区分Bの大半の大学または学部で、アラ
ビア語科目の単位は卒業単位として必ず認められるか、一定の条件で認
められる[ 29 ]。
次に、区分Aを除いて、初級・中級・上級レベルの講座が設置されて
いる大学または学部の数は、表5.2-A の通りである。初級レベルがほぼす
べての大学または学部に設置されていても、中級レベルとなればその半
数の 16 カ所( 57.1%)となる。上級レベルに至っては 6 カ所( 21.4%)で
学べるに過ぎない。また、前述の地理的な分布から見れば、中・上級ク
ラスを設置しているのは東京・大阪の一部の大学または学部にしか過ぎ
ず[ 30 ]、それ以外の地域で中・上級レベルのアラビア語を学ぶのは難しい
であろう。
1 クラスあたりの受講生数の平均は、初級で 36.4人、中級で 17人、上級
─ 10 ─
日本の大学におけるアラビア語教育の現状とその問題
で 5.7人である。講師としては 1 クラス 20人程度が好ましい[ 31 ]という意
見もあり、初級クラスの受講生数については若干多く感じられる。なお、
初級レベルの中には、100名前後の受講生を有するクラスも見受けられた。
(B)科目が設置された理由
アラビア語科目が設置された理由について尋ねたところ、最も多く選
[ 32 ]
ばれていたのは、
「 1. 大学の特色を出すため」
と「 3. 国際化に対応する
ため」
(それぞれ 18 カ所、62.1%)という理由である。興味深いのは、こ
れらの選択肢を選んでいたのが、アラビア語を「全学部間の共通科目」と
している大学のみならず、選択科目または選択必修科目としている学部
も、決して少なくなかったことである。調査前には、学部はアラビア語
科目をイスラーム研究や西アジア地域研究などに資する目的で設置して
いると考えていた。しかし、実際には「 7. その他」を選択した 7 カ所のう
ち 4 カ所[ 33 ]がこのような研究の手段としてアラビア語科目を設置したと
回答するのみであった。
(C)アラビア語クラスの授業時間数
アメリカ国務省 Foreign Service Institute によると、アラビア語学習に
は 2,760時間( 92週)を必要とすると考えられている[ 34 ]。しかし、日本の
大学で卒業するまでに学習できる時間数は区分Aの大学においては年間
300時間以上[ 35 ]であるが、実際には 1,000時間前後にとどまっていると考
えられる。区分Bの大学に至っては卒業するまでに平均約130時間――多
い大学で約360時間、少ない大学で約45時間[ 36 ]とかなりの差がある――
で、4分の 1 にも満たない。限られた時間数でどのような内容の教育を行
うのが適切か、よく検討しなければならないということであろう。
3.講師の構成
区分Aでは、当然ながら教授・助教授・常勤講師などの専任教員がア
ラビア語を教えている。一方で、区分Bの大学または学部では、講義要
項で確認できた 26 カ所のうち 11 カ所( 42.3%)のみで専任教員が担当し
ているにすぎない。それ以外は、非常勤講師のみ[37]で授業を行っている。
ネイティブ講師の在籍についても調べてみた。概して、実用的な語学
─ 11 ─
を身に付けるために、彼らの存在は欠かせない[ 38 ]。しかし、実際にアラ
ビア語のネイティブ講師が所属しているのは、区分Aの大学を含めても
10 カ所( 34.5%)程度である[ 39 ]。
残念ながら、この段階では、専任教員が少ないともネイティブ講師が
少ないとも断定できない。なぜならば、アラビア語以外の語学科目につ
いても、同じような状況かもしれない。また、大学や講師が「十分である」
と考えるならば、それは充足していることを意味するからである。もっ
とも、非常勤講師が複数いる場合は、しっかりとした連絡体制がなければ、
授業の連携をとるのが難しいであろう。
Ⅳ.アラビア語教育の現場
本章では、講師に向けた調査票Bの回答や講義要項を基にして、アラ
ビア語教育の現場を考察する[ 40 ]。
1.講師について
まず、回答のあった講師の数は区分Aから 10名、区分Bからは 14名で
ある。ネイティブ講師については、区分Aで 1名(助教授・女性)、区分
Bで 1名(非常勤講師・男性)のみである(表0-B )。講師の平均年齢は、
区分Aの講師で 52.6歳、区分Bの講師で 48歳となり、全体では 54歳となる。
特に区分Aの講師についていえば、1960年代末から 1970年代にかけて学
生時代を送った講師が多い。つまり、池田氏の言う「中東研究に携わる人」
として、アラビア語を勉強していた世代といえよう。
次に、講師の専門分野を見てみよう(表14-B )。Ⅰで考察した通り、日
本においてアラビア語はアラブ・イスラームを理解する手段として学ば
れてきたと考えていたので、同語それ自体を専門としている講師は少な
いと予想していた。その結果は、歴史学や地理学など、アラビア語を研
究の手段とする分野を専門とした講師が過半数を占めており、やはり予
想していた通りであった。区分Aでは、いわゆる「アラビア語学」を専門
としているのは、1名のみである。そして、6名が言語学や文学など、ア
─ 12 ─
日本の大学におけるアラビア語教育の現状とその問題
ラビア語それ自体と比較的深く関わる学問を専門としている。一方で、
区分Bの講師9名は歴史学や地理学など、どちらかといえばアラビア語を
研究の手段として用いる分野を専門としている。また、アラビア語を学
んだ契機が「専攻(例えば中東の歴史など)がアラビア語を必要としてい
たから」と認識している講師は、やはり全体で 13名である。
講師の専門分野は、必ずといってよいほど授業方針に影響すると考え
られる。もちろん、文法を中心としている初学者レベルのクラスではあ
まり関係ない。しかし、基礎事項を一応終えた中・上級レベルの授業では、
利用するテキストの内容などに少なからず反映されるだろう。
2.指導内容について
(A)指導の際に重視している分野
アラビア語の授業を具体的にみていこう。講師が「発音・文法・会話・
ライティング・リーディング・アラブやイスラームに関する知識」の中
で重視している学習の内容を、学年・レベル別に 2 つずつ選択してもらっ
た。それをまとめたのが、表3.1-B と表3.2-B である。
この結果によると、まず、区分A・区分Bの講師に共通する特徴は、
①「文法」を 2年間で教える、②学年・レベルが高くなると「リーディング」
を重視する、③「会話」と「ライティング」については、高学年または中・
上級クラスではほとんど重視していないということである。やはり、
文法・
訳読を中心とした従来の指導とあまり変わらないということがわかる
[ 41 ]
。また、講師は文法の指導に 2年程度必要と考えて指導しているが、
特に区分Bについていえば、アラビア語科目に 1年しか割り当てていな
い大学または学部もある。その場合、講師が文法を中心に教えると、中
途半端な結果に終わってしまうのではないかと思われる[ 42 ]。
(B)テキスト・副教材
授業で使われているテキストについては、表7-B の通りである。まず、
全講師が「 1. 大学が独自に開発したもの」を選んでいるのは、区分Aの中
で も 1大 学 の み で あ る。 ま た、 別 の 大 学 に は、 ケ ン ブ リ ッ ジ 大 学 の
Elementary Modern Standard Arabic など、海外で発行されている文法
─ 13 ─
書を挙げている講師がいた。区分Bの講師は、主に自分で作成する場合と、
他のアラビア語講師による教本を利用する場合にわかれる。そこで、シ
ラバスを確認したところ、比較的多く利用されているテキストは、『現代
[ 43 ]
[ 44 ]
アラビア語入門』
と『新版アラビア語入門』
であった。双方の教本
とも文法説明を中心としており、やはり、会話についてはやや手薄であ
る[ 45 ]。
補助プリントなどの副教材については、18名( 75.0%)の講師が作成す
ると答えている(表8-B )。その際、参考にする文献を学年別・レベル別
に分けて尋ねたのをまとめたのが、表8.1-B と表8.2-B である。
区分Aの講師が参考とする文献は、3年生で古典( 5名、71.4%)、4年生
で学術論文( 5名、71.4%)が圧倒的である。この内容からすれば、これ
らの副教材は主にリーディングに利用されると考えられる。一方で、区
分Bにおいては、初級と中級レベルで絵本や小学生向けの本などが参考
にされている。また、中級クラスの一部では、新聞や古典も用いられる。
アラブ・イスラームの歴史や文化の理解という点において、古典を訳
読するのは必要である。しかし、研究者にならない限り、古典の知識を
活かすのは難しいといえよう。また、学術論文についても、内容が読む
のにふさわしいか十分に検討する必要があるだろう。前述の通り、上級
生のクラスでアラブ・イスラームに関する知識が重視されているならば、
それを得るために学術論文を訳読していると考えられる。しかし、最近
は日本語によるアラブ・イスラーム研究論文も増えているので、アラビ
ア語文献から知識を得る必要がない場合もあると考えられるからである。
(C)ランゲージ・ラボラトリーと視聴覚教材の利用
ランゲージ・ラボラトリー(以下、LL教室)の利用について尋ねてみ
た。なぜならば、講師がアラビア語を母語としない限り、正確な発音の
教授は難しいので、たいていの講師は視聴覚教材に頼ることになるから
である。その結果が表5-B である。回答を寄せた講師の大半は日本語を母
語としていることもあり、LL教室の利用が比較的多いと考えていた。
しかし、実際には 24名のうち区分Aで 1名(ネイティブ講師 )、区分Bで 2
名(両名とも日本人講師)がLL教室を使用しているにすぎなかった。
─ 14 ─
日本の大学におけるアラビア語教育の現状とその問題
しかし、この利用が少ないという結果は、視聴覚教材を軽んじている
ことにはならない。なぜならば、授業における工夫を尋ねたところ、
「 2. ア
ラビア語の映画を見る」と「 3. アラビア語のニュースを見る」を、それぞ
れ 6名( 35.5% )が選択していた。さらに、
「 5. その他」には、
「アラビア語
の歌をきかせる」や「アラビア語のニュース録音テープを利用」、
「アラブ
地域に関するビデオを見る」といった回答も見られた[ 46 ]。つまり、多く
の講師はLL教室を利用していなくても、視聴覚教材について注意を払っ
ている様子がわかる。
ただし、初級・中級レベルが大半を占める区分Bの大学に限っていえば、
ニュースや映画[ 47 ]、歌などの視聴覚教材を利用することについては、若
干の疑問が残る。なぜならば、義務教育で勉強する英語でさえ、ニュー
スや映画を聞き取れるようになるまでには相当の習熟度を要するからで
ある。このような教材に至るまでに、それよりも簡単な教材をいくらか
経験しなければならないはずである。そのため、このような視聴覚教材
の利用は、リスニング力を鍛えるというよりも、アラビア語の発音それ
自体に慣れたり、アラブ世界の映像を見ることによって視覚的なイメー
ジを掴むためと考えられる。
3.講師の意見
勤務している大学のアラビア語教育カリキュラムについて、満足して
いるかどうかを尋ねてみたところ、9名( 40.9%)が「満足している」と回
答し、13名( 59.1%)の講師が「不満である」としている(表10-B )。
その不満の内容について具体的に答えてもらったところ、13名のうち
9名が「時間不足」と回答していた。その内訳は、区分Aで 3名( 50.0%)
、
区分Bに至っては 6名( 85.7%)である。アラビア語学科の講師でさえ時
間不足と感じているので、選択科目で教えている講師がそのように思う
のも無理はないだろう。
「時間不足」以外に、区分Aからは「アラビア語教授法、日本人向けア
ラビア語教材が十分確立していない」や、「初級文法書が英語で書かれて
いるものを使用しているため、日本人所学者に対しては不向きだと思う」
─ 15 ─
といった回答が寄せられている[ 48 ]。これは、アラビア語学科の講師でも、
同語のカリキュラムが確立してないことを認めている講師がいることの
証拠であろう。区分Bの講師からは、
「専門教育者の不足」という回答が
見られた。また、大学のカリキュラム全体に関連する不満もある。例えば、
「教養でアラビア語を履修しても、それを生かせる専門科目が少ない(存
在しない)」
「地域研究の一環としての位置づけがよい」といった意見であ
る。
Ⅴ.おわりに
以上、
「日本の大学におけるアラビア語教育の現状とその問題」につい
て、同教育の歴史とアンケート調査の結果から考察を加えてきた。その
結果として、以下の問題点があると考えられる。
まず、日本におけるアラビア語教育の歴史から明らかになった問題は、
現在の同教育が時代の要請に対応しきれなくなっているということであ
る。つまり、従来のアラビア語教育は、文献の購読を通してアラブ・イ
スラームの文化や歴史などを研究するためのものであった。しかし、日
本が高度成長を迎えた 1960年代頃から、実用的なアラビア語も必要とす
る状況になっているのである。残念ながら、その変化には対応できてい
ないといえるだろう。
次に、大学を対象とした調査の結果からは、主に以下の問題がある。
まず、アラビア語科目を有する大学は増加しているものの、その多くが
大都市に所在しているため、民間教育機関も多くない地方では、同語を
学ぶ機会が少ないということである。それに関連して、上級レベルの講
座が設置されている大学は大都市に集まっているため、地方では上級レ
ベルのアラビア語を学習する機会がやはり少ない。次に、
大学によっては、
アラビア語科目は一般教養的に解釈されているので、目的に沿った学習
をするのは難しいこともある。授業時間数も、アメリカの事例などに照
らし合わせてみると、決して多いとはいえない。
講師を対象とした調査の結果からは、主に以下の問題がある。まず、
─ 16 ─
日本の大学におけるアラビア語教育の現状とその問題
講師のほとんどがアラビア語それ自体を専門としていない。次に、指導
にあたって文法やリーディングを重視しており、やはり、従来のアラビ
ア語教育と変化が見られない。これらはカリキュラム内容の問題のみで
はなく、授業時間が十分にとられていないことが、過半数の講師が「時
間不足」と感じていることからも推察される。
以上のような問題を解決するために、いくつかの提案をしておこう。
最初に、時代に即したカリキュラムが確立されていないことに対しては、
すべての問題の根幹にあるといっても過言ではない。まずは、従来のア
ラビア語教育を評価して、その良い部分を明らかにする。例えば、古典
や学術論文などの訳読も、その内容如何では会話――日常用のみならず、
自己主張のための会話――に応用できると考えられる。その上で、会話
やライティングも満遍なく学べるようなカリキュラム案を考えなくては
ならないだろう。そのためにも、地道な基礎研究は必要である。例えば、
西尾・中道の両氏が指摘しているような、日本語とアラビア語の対照研
究である。なお、今回の調査でアラビア語を専門としていない講師も、
指導について様々なアイデアや意見を持っているのが明らかになった。
それらを共有するために、講師による定期的な会合があればよいと思わ
れる。
次に、都会と地方のアラビア語教育の距離を縮める方法としては、や
はりIT技術が欠かせない。そこで、既存のオンライン教材[ 49 ]をより
一層充実させるのは当然として、新たな教材の開発も考えられるだろう。
なぜならば、既存のオンライン教材は、一部を除いてその多くがエジプ
トやシリア、モロッコ方言で作られているからである。私見ではあるが、
文法を中心に学習する傾向にある日本の大学では、汎用性の高いフスハー
(正則アラビア語)による会話を学習したほうが効率的であろう。もっと
も、それにはカリキュラムの開発が前提となるのは、言うまでもない。
もちろん、アラビア語教育を充実させるために、大学も様々な試みを
行っている。それらの中からいくつかを紹介しよう。まず、文部科学省
の支援を受けて、「アラビア語のレベルチェックテスト」を開発する研究
に着手した大学があるのは、特筆すべきことである。この研究が完成さ
─ 17 ─
れれば、統一的な学習目標が確定されるだろう。また、東京外語では、
「モ
ジュール制」というカリキュラムが平成16年度入学の学生から実施され
ている。このカリキュラムにおいては、履修すべき学習内容が 6 つ――
文法、作文、読解、聴解、コミュニケーション、方言――に分けられて
いる。そして、学生はそれぞれの学習内容の初級レベルを必ず学ばなく
てはならないが、高いレベルのものは選択的に学ぶことができる[ 50 ]。つ
まり、
「現地の人々と会話することを第一に考える人は、コミュニケーショ
ンや方言の比重を高くし、新聞、雑誌から情報収集をしたいという人は
[ 51 ]
読解の割合を大きくするというように、自分の目的にあわせて学習」
することができるのである。このカリキュラムは、目的に合わせた語学
学習ができる[ 52 ]という点で、画期的であろう[ 53 ]。ただし、このカリキュ
ラムは実施されてからまだ間もないので、その効果は明らかになっては
いない。また、東京外語全体のカリキュラム改革の一環なので、アラビ
ア語教育に適したものかもわからない。外国語大学以外では、早稲田大
学のオープン教育センターのカリキュラムが興味深い。同センターでは、
文法説明を中心としたクラスに加えて、「コミュニカティブアラビア語入
門・初級」という講座が設置されている[ 54 ]。それぞれ 1 セメスターずつ、
授業時間は週2 コマである。その名の通り、会話などコミュニケーショ
ンに重点が置かれ、6名から 15名程度の少人数クラスである。また、会
話のみならず、エッセイの作成などライティングにも力を入れている。
日本人教員[ 55 ]のアドバイスのもと、ネイティブ講師が実際の授業を担
当しているのが斬新である。
カリキュラムの一例として、当アラブ イスラーム学院の例も挙げてお
く。当学院では、
「アラビア語をアラビア語で教える」という教育方針か
ら、まず講師陣がすべてアラブ人である。概して、ネイティブ講師は会
話などコミュニケーションを重視した授業を期待されている。しかしな
がら、当学院の講師は、会話のみならず文法やリーディング、ライティ
ングも教えている。さらに、日本語・英語を交えることなしに、フスハー
(正則アラビア語)で授業を行っている。授業時間は 4 セメスター(約2年
間)で 1,200時間であり、現地に留学でもしない限り、このような環境は
─ 18 ─
日本の大学におけるアラビア語教育の現状とその問題
得られないだろう。ただし、当学院のカリキュラムをそのまま大学生に
適用することについては、疑問の余地がある。なぜならば、当学院が対
象としているのは「アラブ・イスラーム文化に興味を抱く人たち」だから
である。また、
彼らの年齢は20歳代前半から80歳代後半まで分かれており、
その学習目的も「趣味としての語学学習」から「アラビア語留学」まで多
岐に及んでいるため、特定の世代や目的に合わせた指導――例えば、大
学院入試のための学術的な論文の購読といった内容――には、現在のと
ころ十分に対応できていない。
最後に、本稿およびその基礎となる「日本の大学におけるアラビア語
教育の現状」調査自体の問題点についてふれておこう。最初に挙げられ
るのは、調査票の回収率が高くない点であろう。これは、当調査を開始
したのが 2005年末であり、大学の休講期間を挟んだためである。また、
時間的な制約のため、調査票の内容を十分に検討できなかったことも問
題である。例えば、調査票Aのアラブ イスラーム学院に関する質問は、
大学のアラビア語教育と直接的な関係はないのだから、「参考質問」とす
べきであった。また、当学院について尋ねるならば、その背景や活動に
ついて若干の説明を加えるべきであった[ 56 ]。調査票 B については、同じ
講師が複数の大学で教えているということを十分に考慮していない内容
となってしまった。さらに、最も残念であるのが、ネイティブ講師のた
めにアラビア語の調査票を作成しなかったことである。このような不備
の目立つ調査を基に本稿を作成するのは、まさに薄氷を踏む思いであっ
た。しかしながら、アラビア語教育の現状や講師の意見を、目に見える
形で示すことができた。それに今回の調査と本稿の意義があると考えた
い。
謝辞
本研究を行う機会を与えてくれた方々や、アンケートに協力して頂い
た各大学、および諸先生方に厚く御礼を申し上げて、本稿の結びとさせ
て頂きたい。
─ 19 ─
注釈
[ 1 ]文部科学省高等教育局大学振興課「大学における教育内容等の改革状況について」調査
より。平成18年6月6日(平成16年度の内容)
http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/1
8/06/06060504/001.pdf. その内訳は、国立9大学、公立4大学、私立35大学である。なお、
平成15年度の同調査では、42大学(内訳は国立9大学、公立2大学、私立31大学)であっ
た。それぞれ、2006年7月20日に採取。
[ 2 ]すなわち、①学生が 4年間アラビア語を専攻する学科を持つ大学、つまり大阪外語や東
京外語、②主に 1950年代に設立された、中東研究に関連し、アラビア語が選択科目や
随意科目として行われている様々な学科を持つ大学、③主に 1973年の石油危機以降に
増えた、一般向けにアラビア語を教える多くの施設やセンターなどである。Osamu
ARAB ― JAPANESE RELATIONS Tokyo
Ikeda (1981)“ Arabic Teaching in Japan,”
Symposium, Tokyo:Japan National Committee for the Study of Arab-Japanese
Relations,pp. 79-80.
[ 3 ]2005年11月段階で、慶應義塾大学附属志木高など 2校のみではあるが、高校でもアラビ
ア語教育が行われている。なお、中学校は未確認である。
[ 4 ]Ikeda、前掲、p. 157。和文の要旨を引用。
[ 5 ]本田孝一( 1989 )
「日本人のためのアラビア語教育方法の改善および多様化のためのい
くつかの試み」
『日本中東学会』4:2、p. 271。
[ 6 ]榮谷温子( 1998 )
「アラビア語と外国語教授法」
『地域文化研究』3月号、pp.85-95。東京 ,
東京外国語大学大学院地域文化研究会
[ 7 ]河井知子( 2005 )
「初級レベルにおけるアラビア語指導について」
『外国語教育―理論と
実践』29、pp. 47-54。
[ 8 ]Ikeda、前掲、p. 77。大阪外語において、松本はアラビア語のみならず、ドイツ語と日
本史も教えていた。なお、戦後は中央大学に移り、同大におけるアラブ・イスラーム
研究の伝統を作った。
[ 9 ]日本を出国した 2 ヵ月後、松本は大阪外語の教授に任命された。なお、この研修の間
にシリアとエジプトに立ち寄っている。同上、p. 77。
[ 10 ]Ikeda、前掲、p. 77。
[ 11 ]大阪外国語大学70年史編集委員会編( 1992 )
『大阪外国語大学70年史』大阪外国語大学、
p. 326。
[ 12 ]このアラビア語部の設置について、伴氏は「当時はかなり戦争の色が濃くなっていま
したし、軍部や外務省の指示なんかもあったように聞いています」と述べている。伴、
前掲、p .3。
[ 13 ]満鉄の東亜経済調査局が所有していたモーリツ文庫など、貴重なイスラーム研究資料
がGHQによってアメリカに持ち去られた。板垣雄三( 1981 )
『イスラーム文明と日本
文明―相互理解を目指して―』国際交流基金、pp. 161-164。
[ 14 ]大学以外でも、アラビア語教育を行う教育機関が登場し始めた。例えば、1962年に設
立されたアジア・アフリカ語学院などがある。
[ 15 ]澤英三( 1961 )
「定年退職に当りて」
『アーリア学会会報』37、ページ数不詳。大阪外国
語大学70年史編集委員会編、前掲、p. 326 より再引用。
─ 20 ─
日本の大学におけるアラビア語教育の現状とその問題
[ 16 ]板垣雄三( 1980 )
「日本のアラブ研究」
『月間言語』
9:8、p. 59。
[ 17 ]大阪外国語大学70年史編集委員会編、前掲、p. 331。
[ 18 ]同上、p. 331。
[ 19 ]西尾哲夫・中道静香( 2000 )「 日本におけるアラビア語研究文献目録 」『国立民族学博
物館研究報告』26:3、p. 513。
[ 20 ]石油危機の当時、ネイティブ講師は在籍していたものの、非常勤のみであった。1979
年に、ようやく客員教授をカイロ大学から招聘した。同上、pp. 330-331。
[ 21 ]Ikeda、前掲、p. 80。
[ 22 ]東京外国語大学史編纂委員会編( 1991 )
『東京外国語大学史』東京外国語大学、p.
1102。
[ 23 ]大阪外国語大学70年史編集委員会編、前掲、p.332。なお、板垣雄三氏によれば、ほ
ぼ同時期のカイロは「何百という企業派遣アラビア語研修生がたむろしていて、その
大半が高い授業料で有名なカイロ・アメリカン大学の語学コースでひしめいている」
という状況であった。板垣雄三( 1980 )
「日本のアラブ研究」
『月間言語』9:8、pp. 61。
[ 24 ]大阪外国語大学70年史編集委員会編、前掲、p. 333。
[ 25 ]平成4年には 4,672人であった中東地域における在外邦人が、平成12年と 13年に前年度
比マイナスとなったものの、17年には 7,062人まで増えている。外務省ホームページ
平成4 ∼ 8年のデータは「海外在留邦人数統計」
( 1997年度版)
、http://www.mofa.go.jp/
mofaj/toko/tokei/hojin/97/index.html
平成9 ∼ 13年のデータは「平成13年の海外在留邦人数調査統計」、http://www.mofa.
go.jp/mofaj/toko/tokei/hojin/02/1_3.html
平成14 ∼ 17年のデータは「平成17年度海外在留邦人数調査」、http://www.mofa.go.jp/
mofaj/toko/tokei/hojin/06/pdfs/1.pdf
を参照。それぞれ、2006年7月20日に採取。
[ 26 ]
「日本の大学におけるアラビア語教育の現状」調査において、調査票 B の設問9 でアラ
ビア語講師に「受講生にアラビア語留学を奨めますか?」と尋ねたところ、区分Aの
全10講師が「はい」と回答し、その理由として「 4.アーンミーヤの勉強になるため」
を選択していた。添付資料、pp. 41-42 を参照。
[ 27 ]大学でいえば、合計26大学の協力があった。
[ 28 ]インターネットで調べてみたところ、東京・大阪は当然として、名古屋など大都市に
集中しているようである。
[ 29 ]必ず認められるのは 23 カ所、一定の条件下で認められるのは 4 カ所で、1 カ所のみ「認
められない」と回答していた。この「認められない」を選んだ大学の講義要項を確認
したところ、アラビア語科目が「手話」と同じカテゴリに含まれていた。
[ 30 ]関東と関西以外では、2 カ所のみである。
[ 31 ]河井、前掲、p. 52。
[ 32 ]推測に過ぎないが、1991年の「大学設置基準の大綱化」による影響もあるだろう。つ
まり、少子化で激しい競争にさらされることになった大学は、学生の確保のために入
試改革や個性的なカリキュラム作りを行った。アラビア語科目の設置は、受験生に向
けたアピールの 1 つであったかもしれない。
─ 21 ─
[ 33 ]参考回答とした 1 カ所も含めるならば、計5 カ所となる。
[ 34 ]河井、前掲、p. 49 より再引用。このデータは古い上に、アメリカ人学習者を対象とし
ているので、日本人にそのまま当てはめられるかどうかはわからない。しかし、アラ
ビア語は双方にとって外国語であるから、その点では比較の対象となろう。
[ 35 ]河井、前掲、p. 48。なお、1年で 300時間以上ということから、単純に 4年間で 1200時
間以上とはならない。なぜならば、4年生は就職活動などで忙しく、十分な時間がと
れないからである。
[ 36 ]大学によっては、ある学部では週1 コマでも、他学部の聴講を認めている。この時間
数は、そのような例を除いたものである。
[ 37 ]講義要項を確認すると、非常勤講師は 2大学以上で教えている場合が多い。ネイティ
ブ講師も同様である。
[ 38 ]調査票Aの設問13 で、「アラブ イスラーム学院は、日本におけるアラビア語教育の促
進に貢献したいと考えています。もし貴校が当学院と提携できるとして、特に関心の
あることは?」と質問したところ、7 カ所( 46.7% )が「ネイティブ講師の紹介」を選択
している。添付資料、p. 34 を参照。また、2006年度から新たにネイティブ講師による
科目を設置した大学もあった。
[ 39 ]回答のあった大学の講義要項を確認したところ、区分A・B合わせて約11 カ所である。
[ 40 ]調査票の回収率は決して高くないと思われる。そこで、各大学のアラビア語科目シラ
バスもできる限り収集し、本稿に反映している。
[ 41 ]ネイティブ講師の意見がもう少しあれば、結果は変わっていたと思われる。なぜなら
ば、講義要項に掲載されている学習目標が、ネイティブ講師の場合、コミュニケーショ
ンを中心としているものが多く見られるからである。
[ 42 ]河井氏は、1年間で 37時間程度の授業の場合、「学習者がアラブ諸国へ旅行した時に、
遭遇すると予想される場面での最低限の会話がこなせること、始めて出会う現地の人
と簡単なコミュニケーションを交わせること、アラビア文字を正確に読めること」に
限定している。河井、前掲、p. 49。
[ 43 ]黒柳恒男・飯森嘉助( 1999 )
『現代アラビア語入門』大学書林。
[ 44 ]佐々木淑子( 2005 )
『新版アラビア語入門』翔文社。
[ 45 ]収集したすべての講義要項を確認したところ、主にネイティブ講師が会話中心の教本
を利用している。
[ 46 ]この他に見られた工夫として、
「アラビア語の作文集を作成。アラビア語などのスピー
チコンテスト」というものがあった。現時点ではアラビア語能力検定制度がないので、
学習意欲の維持または向上のためにも、これらのような試みは貴重であろう。
[ 47 ]概して、アラビア語の映画は方言によるものが多い。この点においても、初学者に適
した教材であるかは疑問である。
[ 48 ]調査票Aの設問13 で、8 カ所が「アラビア語教材の共同開発」を選んでいる。私見で
あるが、多かれ少なかれ、大学も講師も教材には不備があると感じているのであろう。
添付資料、p. 34 を参照。
[ 49 ]東京外国語大学のモジュールがその代表であろう。このインターネット教材には、同
大学大学院の 21世紀 COE プログラム「言語運用を基盤とする言語情報学拠点」の成果
─ 22 ─
日本の大学におけるアラビア語教育の現状とその問題
が利用されている。音声のみならず動画もあり、様々な場面に即したアラビア語会話
について勉強できる。ただし、これらはエジプト方言・シリア方言のみであり、フス
ハーの教材がない。
[ 50 ]東 京 外 国 語 大 学「 ア ラ ビ ア 語 専 攻 」、http://www.tufs.ac.jp/common/fs-pg/portal/
senko/ara.html. 2006年7月20日に採取。
[ 51 ]同上。
[ 52 ]目的に合わせたアラビア語教育を目指すならば、同語科目について大学間で単位互換
制度を設けるといったことが、現実的には可能であろう。
[ 53 ]英語教育では、すでに 1960年代から The English Specific Purposes(通称ES P )の概
念がある。すなわち、「特定の目的のための英語」である。また、そのための言語研
究や言語教育も意味している。
[ 54 ]早稲田大学オープン教育センター語学科目ホームページ「コミュニカティブアラビア
語入門・初級」、http://www.wui.co.jp/support/course/arabia.html. 2006年7月20日に
採取。
[ 55 ]ただし、講義要項に挙げられていた教員はアラビア語講師ではない。
[ 56 ]例えば、当学院の学内イベントで、アラビア語の習字やコンピュータ操作のスキルを
競い合う「アラビア語オリンピック」の説明がなされていない。
著者略歴
門屋由紀
KADOYA Yuki
早稲田大学教育学部在学中の 1999年、クウェート政府奨学
生としてクウェート大学ランゲージセンターでアラビア語を
学ぶ。早稲田大学卒業後、2001年に早稲田大学大学院アジ
ア太平洋研究科国際関係学専攻へ入学し、修士論文のテーマ
として「大川周明のイスラーム研究」を選んだ。2003年に大
学院を修了し、一般企業勤務を経て、2005年11月よりアラ
ブ イスラーム学院「日本・サウジアラビア国交樹立50周年
特別プロジェクト」研究員を務め、現在に至る。
─ 23 ─
添付資料「日本の大学におけるアラビア語教育の現状」調査報告書
目次
Ⅰ.調査の概要
Ⅱ.調査票Aの設問および集計結果
Ⅲ.調査票Bの設問および集計結果
Ⅰ.調査の概要
( 1 )目的
日本の大学におけるアラビア語教育の現状について知るため。
( 2 )調査の期間
2005年12月から 2006年2月まで。
( 3 )調査の内容
①調査の対象
ⅰ)2005年11月時点で、アラビア語科目が設置されている大学または学
部である。ただし、アラビア語史料読解など、語学学習以外を主な
目的とした科目のみがある学部は除いている。
ⅱ)2005年11月時点で、大学において常勤・非常勤を問わずアラビア語
を教えている講師である。
②調査方法
ⅰ)
「日本の大学におけるアラビア語教育の現状について」調査票Aを
日本語で作成し、上記の大学または学部に配布した。
ⅱ)
「日本の大学におけるアラビア語教育の現状について」調査票 B を
日本語と英語で作成し、それぞれ日本人講師とネイティブ講師に配
布した。
─ 24 ─
日本の大学におけるアラビア語教育の現状とその問題
( 4 )回答数
ⅰ)合計31 カ所から回答を得た。なお、2005年度のアラビア語科目を
休講としていた 1大学から回答があった。内容は 2004年度を踏まえ
ているため、「参考回答」として計上していない。
ⅱ)合計24名の講師から回答を得た。
( 5 )回答の分類
ⅰ)調査票Aの設問4 において、「 1. アラビア語を必修科目として設置
している」を選択した大学を「区分A」、
「 2. アラビア語を主に選択
科目として設置している」を選択した大学または学部を「区分B」
と分類する。
ⅱ)調査票Bの設問1 において「 1.アラビア語は必修科目である」を選
択した講師を区分A、
「 2.アラビア語は選択科目である」を選択し
た講師を区分Bに分類する
( 6 )有効回答数
( 4 )と( 5 )から、それぞれの区分の有効回答数は以下の通りである。
全体
区分A
区分B
調査票A
31
3
28
調査票B
24
10
14
なお、上記に満たないものについては、別途に有効回答数を記入している。
( 7 )備考
・今回の調査は、通常の 4年制大学のみを対象としており、防衛大学校
と放送大学は含まれていない。 ・調査票の設問は、誤字の修正と番号の振り方変更のみ行っている。
・表の最上段の数字は、選択肢を表している。
・表中の数字は回答数を示している。またカッコ内は有効回答数中に
おける各回答の比率である。
─ 25 ─
Ⅱ.調査票Aの設問および集計結果
最初に、回答のあった大学の所在地をまとめた。アラビア語科目が設
置されている大学は、やはり東京や大阪といった大都市に集中している。
東北 1
関西 8
関東 14
東海 2
九州 1
図0-A
1.アラビア語講座が開講されたのはいつですか?(記述式)
アラビア語科目が設置された年を以下の図にまとめた。この調査は
2005年11月時点の状況を基準に回答してもらっており、それ以前に同科
目が廃止された大学・学部を考慮していない。そのため、純増している
とは限らない。しかし、アラビア語科目が設置されている大学または学
部の数自体は、増加していることがわかる。
図1-A
─ 26 ─
日本の大学におけるアラビア語教育の現状とその問題
2.アラビア語クラスを設置した理由は何ですか?
(複数選択可)
1.大学の特色を出すため 2.大学関係者から要望があったため
3.国際化に対応するため 4.学生のスキルアップのため
5.アラブ人の留学生が増えたため 6.周辺地域でアラブ人の住民が増えているから
7.その他( )
表2-A
全体
区分A
区分B
1
18(62.1)
2 (66.7)
16(61.5)
2
9(31.0)
1(33.3)
8(30.8)
全体
区分A
区分B
7
有効回答数
7(24.1)
29
1(33.3)
3
6(23.1)
26
3
18(62.1)
3 (100)
15(57.7)
4
6(20.7)
0 (0)
6(23.1)
5
0(0)
0(0)
0(0)
6
0(0)
0(0)
0(0)
「7. その他」を選択した 7 カ所のうち 4 カ所は、そのすべてが学部であり、
東洋史研究や神学研究に対応するために、アラビア語科目を設置したと
回答している。
3.設置に関しての主な提唱者と、その提唱者の経歴を簡単にご記入く
ださい(記述式)
残念ながら、当設問は多くの大学または学部が未記入であった。ただし、
数少ない回答の中には、著名な財界人やアラブ・イスラーム研究者の名
前が散見している。これらの情報は大学が特定できるため、不掲載とする。
4.貴校でアラビア語講座はどのように位置付けられていますか?(選択式)
1.アラビア語を必修科目として設置している
(外国語大学のアラビア語科などはこちらを選んでください。)
2.アラビア語を主に選択科目として設置している
前述の通り、アラビア語を必修科目としているのは 3 カ所、選択科目
としているのが 28 カ所である。科目の属性によってさらに細かく分類し
─ 27 ─
たのが、以下の表である。
表4-A
区分A
区分B
合計
アラビア語科目
の位置付け
必修科目
全学部間の
共通科目
学部の
選択科目
学部の
「選択必修」
科目
―
回答のあった
大学または学部
3大学
14大学
12学部
2学部
31大学
または学部
5.2005年現在、どのような講座がいくつ設置されていますか?
(記述式)
区分Aの大学については記述があったものの、その講義要項を確認し
たところ、アラビア語科目以外の科目が混在している可能性があるため、
分類するのを断念した。以下は区分Bの大学または学部のみを集計した
ものである。
表5.1- A
区分B
初級
中級
上級
1以下
2
11(64.7) 2(11.8)
5 (29.4) 1 (5.9)
2 (11.8) 1 (5.9)
3
3(17.6)
2(11.8)
1 (5.9)
4
0(0)
0(0)
0(0)
5以上
0(0)
0(0)
0(0)
※学期制を採用している大学または学部のみである。有効回答数17
表5.2- A
区分B
初級
中級
上級
1以下
2(16.7)
2(16.7)
1 (8.3)
2
5(41.7)
5(41.7)
2(16.7)
3
2(16.7)
0 (0)
1 (8.3)
4
1(8.3)
1(8.3)
0 (0)
5以上
1(8.3)
1(8.3)
0 (0)
※セメスター制を採用している大学または学部のみである。有効回答数12
なお、初級・中級・上級レベルの科目をそれぞれ設置している大学ま
たは学部の数は、以下の通りである。
─ 28 ─
日本の大学におけるアラビア語教育の現状とその問題
表5.3-A
初級
27(96.4)
区分B
中級
16(57.1)
上級
6(21.4)
表から明らかなように、半数強の大学または学部が、初級のみならず
中級レベルのクラスも設置している。しかし、上級クラスになると 2割
程度となる。
6.アラビア語講座をどのように開講していますか?(複数選択可)
1.前期・後期(1年間で1クラス) 2.セメスター(半年で1クラス)
3.冬休みや夏休み中(集中講義で1クラス) 4.その他( )
表6-A
全体
区分A
区分B
1
19(61.3)
2(66.7)
17(60.7)
2
15(48.4)
2(66.7)
13(46.4)
3
2(6.5)
0(0)
2(7.1)
4
0(0)
0(0)
0(0)
7.1コマの授業時間は何分ですか?また一学期の総コマ数は?(記述式)
一部に例外が見られるものの、1 コマにつき 90分である。また、1週間
に 1 コマ程度あると考えて、学期制をとっている大学では 1学年につき 26
コマから 30 コマ程度、セメスター制をとっている大学または学部では 1
セメスター(約半年間)につき 12 コマから 20 コマ程度の授業が行われる。
ここで、設問5 から本設問までの回答を用いて、区分Bの大学または
学部のみ、卒業までにアラビア語を学習できるおよその時間を算出した
(表7-A )
。卒業するまでに学習できる時間数は、平均129.3時間である。
ただし、多い大学で約360時間、少ない大学で約45時間とかなりの差があ
る。
表7-A
区分B
59時間以下 60∼99
4(18.2) 9(40.9)
100∼199
5(22.7)
200∼299
1(4.5)
300以上 有効回答数
3(13.6)
22
8.2005年現在、受講生数を記入ください。
(記述式)
─ 29 ─
区分Bの大学についてのみ、報告しておく。設問5 で得られた設置講
座数と受講生数を用いて、1講座あたりの受講生人数を算出した。それぞ
れ最も多いクラスで、初級が 36.4名、中級が 16名、上級が 5.7名であった。
なお、私立大学の中には、100名近い受講生数を持つ科目も見受けられた。
9.アラビア語講座の受講料は、大学の授業料の中に含まれていますか?
(複数回答可)
すべての大学・学部が「 1. 含まれている」を選択している。ただし、そ
の中で 1 カ所のみ受講料が別途必要な科目も有する大学がある。その科
目は「ネイティブ講師による少人数指導」を特徴としており、1 セメスター
内に週2 コマの授業が行われるという内容である。
表9-A
全体
区分A
区分B
1.含まれている 31(100)
3 (100)
28(100)
2.含まれていない
1(3.2)
0 (0)
1(3.6)
10.アラビア語講座の単位は、大学の卒業単位として認められますか?
(選択式)
1.認められる 2.認められない 3.
一定の条件下で認められる
表10-A
全体
区分A
区分B
1
26(83.9)
3 (100)
23(82.1)
2
1(3.2)
0 (0)
1(3.6)
3
4(12.9)
0 (0)
4(14.3)
区分Aの機関は、卒業単位として認められるのは当然として、区分B
では、1 カ所が「 2. 認められない」を、残り 27 カ所が「 1. 認められる」ま
たは「 3. 一定の条件下で認められる」を選択している。
11.アラビア語留学の手段として、
各種奨学金があるのはご存じですか?
─ 30 ─
日本の大学におけるアラビア語教育の現状とその問題
(選択式)
表11-A
全体
区分A
区分B
1.知っている
15(50.0)
3 (100)
12(44.4)
2.知らなかった
15(50.0)
0 (0)
15(55.6)
有効回答数
30
3
27
以上の奨学金に限定したのは、年齢や学歴など一部に制限があるもの
の、大学におけるアラビア語学習者ならば、ほぼ全員が申請できるから
である。
区分Aの大学はほぼすべての奨学金の存在について認知している一方
で、区分Bの大学は「 2. 知らなかった」
( 15 カ所、44.4% )が「 1. 知っている」
( 12 カ所、55.6% )を若干上回っている。この「 1. 知っている」と回答した
15 カ所に 11.1-2 を質問した。
11.1 次の中でご存じのものを選んでください(複数回答可)
。
1.エジプト政府奨学金 2.クウェイト政府奨学金 3.チュニジア政府奨学金 4.文部科学省の奨学金 5.その他( )
表11.1-A
全体
区分A
区分B
1
13(86.7)
3 (100)
10(83.3)
2
7(46.7)
2(66.7)
5(41.7)
3
6(40.0)
2(66.7)
4(33.3)
4
12(80.0)
3 (100)
9 (75.0)
5
1 (6.7)
1(33.3)
0 (0)
有効回答数
15
3
12
「 1. エジプト政府奨学金」
( 13 カ所、86.7%)の割合が高い理由は、この
政府奨学金がかなり古くからあり、募集人数が約20名と多いことが考え
られる。
11.2 これらの奨学金の広報はしていますか?
(複数選択可)
─ 31 ─
1.これらの奨学金で留学した学生にレポートを作成してもらい、そ
れを閲覧できるようにしている
2.これらの奨学金を得た受講生の人数を把握している
3.募集が出れば、必ず掲示板などに貼っている
4.受講生から問い合わせがあれば、対応している
5.特に広報はしていない 6.その他( )
表11.2-A
全体
区分A
区分B
1
2
3
4
5
1 (6.7) 2(13.3) 8(53.3) 6(40.0) 4(26.7)
1(33.3) 1(33.3) 2(66.7) 1(33.3) 1(33.3)
0 (0) 1 (8.3) 6(50.0) 5(41.7) 3(25.0)
6
1(6.7)
0 (0)
1(8.3)
有効回答数
15
3
12
これらの奨学金の扱いについては、
「 3. 募集が出れば、必ず掲示板など
に貼っている」
( 8 カ所、53.3%)や、「4. 受講生から問い合わせがあれば、
対応している 」( 6 カ所、40.0%)という程度である。また、「 5. 特に広報
はしていない」
( 4 カ所、26.7%)という回答も見られた。ただし、この調
査票を回答した部署が奨学金の広報を担当していないことも考えられる
ので、一概に奨学金の広報について積極的でないと言えないだろう。
なお、当設問で「文部科学省の奨学金」という漠然とした選択肢を設け
た。同省の奨学金といっても様々あり、不適切な選択肢であったことを
お詫びしておく。
12.アラブ イスラーム学院はサウジアラビアの国立イマーム大学の東京
分校です。当学院についてはご存じでしたか?
表12-A
全体
区分A
区分B
知っている
11(36.7)
2 (66.7)
9 (33.3)
知らなかった
19(63.3)
1 (33.3)
18(66.7)
有効回答数
30
3
27
残念ながら、当学院の認知度は決して高くない。なお、関東以外の地
─ 32 ─
日本の大学におけるアラビア語教育の現状とその問題
域では、4 カ所が知るのみであった。なお、本設問と 13 は、当アラブ イ
スラーム学院に関する質問である。当学院の存在自体は大学のアラビア
語教育に直接関係がないので、これらの設問は「参考設問」という位置付
けにすべきであった。
「 1. 知っている」と回答した 11 カ所に、12.1 を質問した。
12.1 どのようにして知りましたか?
1.アラブ イスラーム学院ホームページ
2.アラブ イスラーム学院のパンフレット
3.NHK アラビア語講座テキスト 4.各種シンポジウム
5.口コミ 6.その他( )
表12.1-A
全体
区分A
区分B
1
2
3
4
5
6
2(18.2) 4(36.4) 2(18.2) 1 (9.1) 4(36.4) 3(27.3)
0 (0) 1(50.0) 0 (0) 0 (0) 0 (0) 2(100)
2(22.2) 3(33.3) 2(22.2) 1(11.1) 4(44.4) 1(11.1)
有効回答数
11
2
9
予想していたよりも少なかったのが、「 1. ホームページで知った」
(2カ
所、18.2%)である。なぜならば、主なサーチエンジンで「アラビア語」
を検索すると、当学院のページが比較的上位に表示されるからである。
この結果から、当学院ホームページには学習者が参考にするようなコン
テンツは有しているが、大学またはアラビア語教育関係者が参考とする
ようなものはあまりない、ということが言えるだろう。
13.アラブ イスラーム学院は、日本におけるアラビア語教育の促進に貢
献したいと考えています。もし貴校が当学院と提携できるとして、
特に関心のあることは?(複数回答可)
1.アラビア語ネイティブ講師の紹介・派遣
2.アラビア語教材の共同開発
─ 33 ─
3.貴校の卒業単位に認定できるようなアラビア語の集中講義の開講
4.アラビア語翻訳講座の開講 5.アラビア語の PC スキル講座(タイピングなど)の開講 6.アラブやイスラームの文化講座の開講
7.アラビア語を利用したインターンシップの実施
8.アラビア語オリンピックの開催
9.アラブ イスラーム学院への訪問
10.その他( )
表13-A
全体
区分A
区分B
全体
区分A
区分B
1
2
3
4
5
6
7
7(46.7) 7(46.7) 3(20.0) 2(13.3) 2(13.3) 8(53.3) 5(33.3)
1(50.0) 2(100) 0 (0) 1(50.0) 0 (0) 2(50.0) 1(50.0)
6(46.2) 5(38.5) 3(23.1) 1 (7.7) 2(15.4) 6(46.2) 4(30.8)
8
0(0)
0(0)
0(0)
9
10
有効回答数
3(20.0) 4(26.7) 15
1(50.0) 0 (0) 2
2(15.4) 4(30.8) 13
本設問については有効回答数が合計で 15 と少なかったものの、その結
果は興味深い。
まず、アラビア語教育自体に関するものとして、
「 1. アラビア語ネイティ
ブ講師の紹介・派遣」
( 7 カ所、46.7%)がある。ネイティブ講師を必要と
するのは、実用的なアラビア語教育のためと考えられる。また、
「 2. アラ
ビア語教材の共同開発」
( 7 カ所、46.7%)を選んだ大学または学部は、適
切なアラビア語教材が見当たらないことを認識しているといえよう。
大学のアラビア語カリキュラムに関連するものとして、
「 6. アラブやイ
スラームの文化講座の開講」
( 8 カ所、53.3%)があった。調査の前に、ア
ラビア語講師は同語を専門としていない講師が多いのではないかと推測
していた。つまり、このようなアラブ・イスラーム文化に関する講義は、
充足していると考えていたのである。しかしながら、結果の通り、実際
のニーズは少なくない。この理由はとして考えられるのは、①アラビア
─ 34 ─
日本の大学におけるアラビア語教育の現状とその問題
語科目の時間数は十分ではなく、言葉の背景にある歴史や文化などを交
えた講義ができないこと、または、②アラビア語を語学ではなく、これ
らの知識を得るための手段として認識していること、であろう。
「7. アラビア語を利用したインターンシップの実施」
( 5 カ所、
33.3%)は、
アラビア語を学んでも活用する場所がないことの現れと思われる。
Ⅲ.調査票Bの設問および集計結果
調査票Bには、合計24名の講師から有効回答が得られた。アラビア語
科目を有している大学のシラバスを確認したところ、全体で約60 ∼ 80名
の講師がいると推定される。そのために回収率は高いと言えず、この調
査の精度はあまり高くないといえよう。しかしながら、少ない回答の中
には非常に興味深い意見が見られた。
最初に、講師の平均年齢と男女比、職位の比率をまとめて表にした。
ネイティブ講師は、区分Aに 1名(助教授・女性)、区分Bに 1名(非常勤
講師・男性)と計2名含まれている。
表0-B
平均年齢
全 体
区分A
区分B
50
52.6
48
教授
男 女
8
1
4
1
4
0
助教授 講師(常) 講師(非)
男 女 男 女 男 女
3
2
1
0
6
3
2
2
1
0
0
0
1
0
0
0
6
3
全体
24
10
14
合計
男 女
18
6
7
3
11
3
1.勤務している大学で、アラビア語講座はどのように位置付けられて
いますか?(選択式)
1.アラビア語は必修科目である。
2.アラビア語は選択科目である。
1.1 担当しているクラスのレベルは?
(複数選択可)
─ 35 ─
(該当するものの番号をすべて○印で囲んでください。
)
1.1年生 2.2年生 3.3年生 4.4年生
表1.1-B
区分A
1年
9
2年
9
3年
7
4年
8
1.2 担当しているクラスのレベルは?(複数選択可)
(該当するものの番号をすべて○印で囲んでください。
)
1.初級 2.中級 3.上級 4.その他( )
表1.2-B
区分B
初級
12
中級
7
上級
2
その他
0
2.授業で主に用いている言語は?(複数選択可)
1.アラビア語 2.日本語 3.英語 4.アラビア語と日本語
5.アラビア語と英語 6.その他( )
表2-B
選択肢
全体
区分A
区分B
1
1 (4.2)
1(10.0)
0 (0)
2
14(58.3)
4 (40.0)
10(71.4)
3
1 (4.2)
1(10.0)
0 (0)
4
11(45.8)
7 (70.0)
4 (28.6)
5
0(0)
0(0)
0(0)
6
0(0)
0(0)
0(0)
全体的に見れば、「日本語」または 「 アラビア語と日本語」を用いてい
る講師が圧倒的である。もちろん、これは科目の学習内容に関係する。
3.次の項目のうち、担当されているレベルでは特に何に重点を置いて
指導していますか?( 2項目選択式)
①発音 ②文法 ③会話 ④ライティング ⑤リーディング
⑥アラブやイスラームに関する知識
表3.1- B
─ 36 ─
日本の大学におけるアラビア語教育の現状とその問題
区分A
1年
2年
3年
4年
①
6
2
1
1
②
7
5
1
1
③
0
1
1
0
④
0
0
0
0
⑤
2
4
5
3
⑥
1
2
5
5
①
4
0
0
②
8
6
1
③
5
2
0
④
3
1
0
⑤
1
4
1
⑥
1
0
0
表3.2- B
区分B
初級
中級
上級
2項目選択を指定したのは、科目毎に設定されている学習目標以外に、
どのような学習内容を重視しているかを知るためである。
この結果によると、まず、区分A・区分Bの講師に共通する特徴は、
①「文法」を 2年間で教える、②学年・レベルが高くなると「リーディング」
を重視する、③「会話」と「ライティング」については、高学年または中・
上級クラスではほとんど重視していないということである。区分Aに特
徴的に見られるのは、「 6. アラブやイスラームに関する知識」が進級する
につれて増加していることである。これは、前述の「リーディング」を重
視する傾向と関係があるだろう。
─ 37 ─
4.最近の受講生のアラビア語スキルについて、以前と比べてどのよう
な印象を持っていますか? 5段階評価でお答えください
3.4
3.2
3.7
3.0
2.9
3.2
3.3
3.3
3.2
3.0
2.9
3.1
3.1
3.1
3.1
3.4
3.3
3.4
アラブやイスラー
ムに関する知識
図4-B ※図4-B は、それぞれの評価の度合いを加重平均値として表したものである。
指導において比較的重視されていない「①発音」
( 3.4 )と「③会話」
( 3.3 )
の評価が若干高めである。それとは反対に、重視されている「②文法」
(3.0)
と「⑤リーディング」
( 3.1 )の評価は厳しい。つまり、講師はこれらに時
間をかけている割に十分な効果が出ていないと感じているのだろう。「⑥
アラブやイスラームに関する知識の豊富さ」の評価が 3.4 とやや高めなの
は、過去に比べて研究書も多くなり、また、インターネットの普及で得
られる情報が飛躍的に増えているからと考えられる。
5.アラビア語の授業でLL教室(視聴覚教室)を利用していますか?
表5-B
全体
区分A
区分B
1.はい
3(12.5)
1(10.0)
2(14.3)
2.いいえ
21(87.5)
9 (90.0)
12(85.7)
─ 38 ─
日本の大学におけるアラビア語教育の現状とその問題
本アンケート調査では、日本人講師から回答が多く寄せられたため、
LL教室の利用の割合は高いと考えていた。なぜならば、非ネイティブ
講師にとって視聴覚教材は必要不可欠だからである。しかし、予測に反
して、LL教室を利用している講師は 3名( 12.5%)のみであった。なお、
区分Aの 1名はネイティブ講師で、区分Bは両方とも日本人講師である。
6.講義ではどのような工夫をしていますか?
(複数選択可)
1.アラブ人のネイティブスピーカーをゲストに招く
2.アラビア語の映画を見る 3.アラビア語のニュースを見る
4.生徒とアラビア語圏に旅行する
5.その他 ( )
表6-B
全体
区分A
区分B
1
5(29.4)
3(42.9)
2(20.0)
2
6(35.3)
1(14.3)
5(50.0)
3
6(35.5)
3(42.9)
3(30.0)
4
1 (5.9)
0 (0.0)
1(10.0)
5
有効回答数
9(52.9)
17
2(28.6)
7
7(70.0)
10
前設問では、多くの講師がLL教室を利用していないことが明らかに
なった。しかしながら、本設問で「 2. アラビア語の映画を見る」と「 3. ア
ラビア語のニュースを見る」を、それぞれ 6名( 35.5%)が選択していた。
さらに、「 5. その他」には、
「アラビア語の歌をきかせる」や「アラビア語
のニュース録音テープを利用します」
、
「アラブ地域に関するビデオを見
る」といった回答も見られた。つまり、LL教室を利用していなくても、
視聴覚教材について多くの講師が注意を払っている様子がわかる。
なお、
「 5. その他」には、上記の他に「暗記ものはリズムにのせたり、ジェ
スチャーをつけたりして、楽しく覚えられるようにしています」といっ
たユニークな回答が寄せられている。また、
「アラビア語の作文集を作成。
アラビア語などのスピーチコンテスト」といった試みも興味深い。なぜ
ならば、アラビア語については検定制度もなく、学習意欲の維持が難し
─ 39 ─
いと考えられるからである。
7.授業のテキストはどのようなものを使用していますか?
(複数選択可)
1.大学が独自に開発したもの 2.自分で作成したもの
3.他のアラビア語講師が作成したもの
4.NHKアラビア語講座テキスト(ラジオ用)
5.NHKアラビア語講座テキスト(テレビ用)
6.その他( )
表7-B
全体
区分A
区分B
1
5(20.8)
5(50.0)
0 (0)
2
13(54.2)
5(50.0)
8(57.1)
3
12(50.0)
4(40.0)
8(57.1)
4
1(4.2)
0 (0)
1(7.1)
5
3(12.5)
0 (0)
3(21.4)
6
2 (8.3)
2(20.0)
0 (0)
区分Aにおいて、すべての講師が「 1. 大学が独自に開発したもの」を選
んでいるのは、1大学のみである。また、別の大学には、ケンブリッジ大
学の Elementary Modern Standard Arabic など、海外で発行されている
文法書を挙げている講師がいた。区分Bの講師は、「 2. 自分で作成したも
の」と「 3. 他のアラビア語講師が作成したもの」に分かれる。
8.アラビア語学習用の補助プリントをご自分で作りますか?
表8-B
全体
区分A
区分B
1.作る
18(75.0)
8 (80.0)
10(71.4)
2.作らない
6(25.0)
2(20.0)
6(28.6)
「 1. 作る」と回答した 16名の講師に、8.1 を質問した。
8.1 参考にするアラビア語文献は?
(複数回答可。該当するものがない場合、記述する。
)
①絵本 ②小学生向けの本 ③中高生向けの本 ④小説 ⑤新聞 ⑥雑誌 ⑦学術論文 ⑧古典
─ 40 ─
日本の大学におけるアラビア語教育の現状とその問題
表8.1-B
区分A
1年
2年
3年
4年
①
1(20.0)
0 (0)
0 (0)
0 (0)
②
0(0)
0(0)
0(0)
0(0)
③
0 (0)
0 (0)
0 (0)
1(14.3)
④
1(20.0)
1(20.0)
3(50.0)
2(28.6)
1年
2年
3年
4年
⑥
1(20.0)
2(40.0)
2(33.3)
1(14.3)
⑦
1(20.0)
1(20.0)
0 (0)
5(71.4)
⑧
2(40.0)
3(60.0)
5(83.3)
5(71.4)
有効回答数
5
5
6
7
⑤
2(40.0)
3(60.0)
4(66.7)
3(42.9)
区分Aの講師で特徴的なのは、3年生の「⑧古典」
、4年生の「⑦学術論文」
である。この内容から判断すると、これらの副教材は主にリーディング
に活用されると考えられる。
表8.2-B
区分B
初級
中級
上級
①
4(66.7)
3(60.0)
0 (0)
②
3(50.0)
3(60.0)
0 (0)
③
0(0)
0(0)
0(0)
④
0(0)
0(0)
0(0)
初級
中級
上級
⑥
1(16.7)
0 (0)
0 (0)
⑦
0(0)
0(0)
0(0)
⑧
0 (0)
2(40.0)
1(100)
有効回答数
6
5
1
9.受講生にアラビア語留学を奨めますか?
表9-B
全体
区分A
区分B
1.勧める
16(72.7)
8 (100)
8 (57.1)
2.勧めない
6(27.3)
0 (0)
6(42.9)
有効回答数
22
8
14
「勧める」と回答した 16名の講師に、9.1 を尋ねた。
─ 41 ─
⑤
2(33.3)
4(80.0)
1(100)
9.1 その理由は?(複数回答可)
1.発音が良くなるため 2.文法力がつくため
3.アラブ人の友達ができるため 4.アーンミーヤの勉強になるため
5.アラブの文化や風習に慣れるため 6.就職がよくなるため
7.その他( )
表9.1-B
全体
区分A
区分B
1
10(62.5)
5 (62.5)
5 (62.5)
2
2(12.5)
1(12.5)
1(12.5)
3
7(68.8)
5(62.5)
2(25.0)
全体
区分A
区分B
6
1 (6.3)
0 (0.0)
1(12.5)
7
1 (6.3)
1(12.5)
0 (0.0)
有効回答数
16
8
8
4
11(68.8)
8(100.0)
3 (37.5)
5
16(100.0)
8(100.0)
8(100.0)
まず、学習面については、10名( 62.5%)の講師が「 1. 発音がよくなる
ため」を選択している。その一方で、
「2. 文法力がつくため」を選んだのは、
2名( 12.5%)のみである。つまり、現地に留学することによって発音の
練習はできても、文法を学ぶことはできないと講師は考えているという
ことである。また、区分Aの全講師が選択していたのは、
「 4. アーンミー
ヤ(方言)の勉強になるため」である。方言の勉強は、現地で行ったほう
が効果的・効率的と考えるからであろう。このように学習効果を期待す
る一方で、「 3. アラブ人の友達ができるため」
( 7名、68.8%)や「 5. アラブ
の文化や風習に慣れるため」
( 16名、100%)といった学習意欲の向上に関
する期待も高い。
以上から明らかなように、現地で効率よく勉強できるような発音や方
言といった学習内容については期待しているが、日本でも十分学ぶこと
ができる文法には、ほとんど期待していない。そして、学習への効果と
同じ程度に、学習意欲の維持や向上に期待している。
なお、区分Aに「 6. 就職がよくなるため」を選んだ講師がまったく見ら
れなかったのは、予想外であった。なぜならば、区分 B の大学はともか
─ 42 ─
日本の大学におけるアラビア語教育の現状とその問題
くとして、区分Aの大学では、石油企業やアラブ諸国に進出している商
社などに就職する学生も少なくはないと考えたからである。推測ではあ
るが、このような結果の理由として、区分Aの講師は①1、2年程度の留
学では、就職活動でアピールできるようなアラビア語が身に付かない、
または、②学生のアラビア語スキルに関わらず、企業はそのスキルを評
価しないと認識しているといったことが考えられよう。
続いて、「 2. 勧めない」と回答した 6名の講師に 9.2 を尋ねた。
9.2 その理由は?簡潔にご記入ください。
(記述式)
6名ほぼすべての講師が、「選択科目としてアラビア語を学んでいるの
だから、留学は必要ない」といった内容の回答をしている。ただし、私
見ではあるが、学生がアラビア語科目を「選択科目」として認識している
のかについては疑問が残る。というのは、アラビア語は難しいというの
は周知であり、「選択科目であるから」といった理由で受講するとは考え
られないからである。そのため、受講生は何らかの目的を持ってアラビ
ア語を学習している――受講後も学習を続けるかどうかは別として――
と考えるからでる。なお、「専門分野によるが、アラビア語習時(文語)
にはあまり留学しても意味がない」という回答があった。
10.ご自分の勤務している大学のアラビア語教育カリキュラムに満足し
ていますか?
表10-B
全体
区分A
区分B
1.満足している
9(40.9)
3(33.3)
6(46.2)
2.満足していない
13(59.1)
6 (66.7)
7 (53.8)
有効回答数
22
9
13
半数強の 13名が「 2. 満足していない」と回答している。これらの講師に
10.1-2 を質問した。
─ 43 ─
10.1 その理由を簡潔にご記入ください。
当設問は非常に重要であるため、できる限り詳しく紹介したい。まず、
全体的に見て、①大学のカリキュラム全体に関わる不満、②アラビア語
教育それ自体に関わる不満に分けられる。まず、①の中で見られたのは
「時間が足りない」ということである。これは、9名(区分Aで 3名、区分
Bで 6名)である。また、区分Bの講師1名から「教養でアラビア語を履
修しても、それを生かせる専門科目が少ない(存在しない)
」という回答
が寄せられている。②の「カリキュラムの未確立」は、
「アラビア語教授法、
日本人向けアラビア語教材が十分確立していない」
、「初級文法書が英語
で書かれているものを使用しているため、日本人所学者に対しては不向
きだと思う」との回答があった。これらは、区分Aのそれぞれ別の大学
の講師が回答している。
10.2 ご不満の点を改善するアイデア等をお持ちでしたら、簡潔にご記
入ください。
残念ながら、本設問の回答は少なかった。
「時間不足」や「適切な教授法・
教材の不在」といった不満は、大学全体のカリキュラムに関わっている。
そのため、講師は改善策を講じづらいと考えているのだろう。その数少
ない回答には、
「大学間での単位互換をアラビア語について促進する」
、
「ア
ラブ史、現代政治等の専門科目との関連付けを行う」という回答があっ
た。
11.アラビア語教育に携わって何年ですか?
(記述式)
表11-B
区分A
区分B
平均教授年数
22.0
15.7
11.2
区分Aと区分Bの講師で 10年近い差が見られるのは、前者は教授・助
教授など職位の高い講師が 9名も含まれているからと考えられる。
─ 44 ─
日本の大学におけるアラビア語教育の現状とその問題
12.アラビア語が母語ですか?
表12-B
1.はい
2 (8.3)
1(10.0)
1 (7.1)
全体
区分A
区分B
2.いいえ
22(91.7)
9 (90.0)
12(92.9)
有効回答数
22
9
13
アラビア語を母語としない 22講師( 91.7%)の背景を知るため、12.1-4
の質問をした。
12.1 母語は何ですか?
1.日本語 2.英語 3.仏語 4.その他( )
表12.1-B
全体
区分A
区分B
1
21(95.5)
8 (88.9)
13(100)
2
1 (4.5)
1(11.1)
0 (0)
3
0(0)
0(0)
0(0)
4
0(0)
0(0)
0(0)
有効回答数
22
9
13
12.2 なぜアラビア語を勉強し始めましたか?
(複数選択可)
1.アラビア語に惹かれたから
2.アラブ人と話したいと思ったから
3.専攻(例えば中東の歴史など)がアラビア語を必要としていたから
4.アラビア語圏に住んでいたから
5.イスラームに興味があったから
6.ムスリムになったから 7.アラブ人と結婚したから
8.その他( )
─ 45 ─
表12.2-B
全体
区分A
区分B
1
9(42.9)
3(37.5)
6(46.2)
2
1 (4.8)
1(12.5)
0 (0)
3
13(61.9)
5 (62.5)
8 (61.5)
4
0(0)
0(0)
0(0)
全体
区分A
区分B
6
0(0)
0(0)
0(0)
7
0(0)
0(0)
0(0)
8
1 (4.8)
1(12.5)
0 (0)
有効回答数
21
8
13
5
1(4.8)
0 (0)
1(7.7)
全体「 3. 専攻(例えば中東の歴史など)がアラビア語を必要としていた
から」
( 13名、61.9%)が過半数を占めている。「 1. アラビア語に惹かれた
から」
( 9名、42.9%)というのも、学習者によく見られる理由であろう。
12.3 アラビア語を初めて学んだ場所は?
(記述式)
表12.3-B
全体
区分A
区分B
外国語大学
9(42.9)
6(66.7)
3(25.0)
外国語大学以外
12(57.1)
3 (33.3)
9(75.0)
有効回答数
21
9
12
外国語大学の内訳は、大阪外語が 6名、東京外語が 3名である。外語卒
が 5割近くを占めるその理由は、全体で 50歳という講師の平均年齢から
明らかであろう。すなわち、彼らが学生であった 30年ほど前は、アラビ
ア語を学べる機関が外国語大学や、長い歴史を持つ一部の国公立・私立
大学に限られていたからである。なお、大学以外では、やはり東京大学
や京都大学などの旧帝国大学や、アジア・アフリカ語学院など老舗の教
育機関が見られた。
─ 46 ─
日本の大学におけるアラビア語教育の現状とその問題
12.4 アラビア語圏にアラビア語習得のために長期滞在( 1年以上)した
ことはありますか?
表12.4-B
全体
区分A
区分B
はい
16(72.7)
8 (88.9)
8 (61.5)
いいえ
6(27.3)
1(11.1)
5(38.5)
有効回答数
22
9
13
13.信仰している宗教は?(選択式)
1.仏教 2.ユダヤ教 3.カトリック 4.プロテスタント
5.イスラーム 6.その他( )
表13-B
全体
区分A
区分B
1
8(40.0)
3(50.0)
5(35.7)
2
0(0)
0(0)
0(0)
3
1 (5.0)
1(16.7)
0 (0)
4
0(0)
0(0)
0(0)
5
6
有効回答数
5(25.0) 6(30.0) 20
1(16.7) 1(16.7) 6
4(28.6) 5(35.7) 14
昨今はイスラームに入信する日本人が増えており、アラビア語講師は
どのような状況にあるか関心を持っていたので、
尋ねてみた。結果として、
ムスリムの講師は、ネイティブ講師2名と日本人講師3名の計5名( 25.0%)
のみであった。なお、「 6. その他」で「なし」と答えた講師が 2名いたり、
未回答の講師が 4名いたりするのもまた、現代の世相を反映しているよ
うに思われる。
このイスラームを信仰している講師で、当初は別の宗教を信仰してい
た講師に 13.1 で入信した年を質問したが、この質問は回答した講を特定
できる可能性があるため、割愛する。
14.専門としている分野は?
(記述式)
記述されていた分野を分類して、表にした。
1.言語学 2.歴史学 3.地理学 4.イスラーム学 5.文学
─ 47 ─
6.アラビア語学 7.人類学 8.文献学 9.地域研究
表14-B
全体
区分A
区分B
1
2
3
4
5
6
6(27.3) 8(36.4) 2 (9.1) 2 (9.1) 1 (4.5) 1 (4.5)
4(50.0) 1(12.5) 1(12.5) 0 (0.0) 1(12.5) 1(12.5)
2(15.4) 6(46.2) 1 (7.7) 2(15.4) 0 (0.0) 0 (0.0)
全体
区分A
区分B
8
9
有効回答数
1(4.5) 1(4.5) 22
1(12.5) 0(0.0) 9
0(0.0) 1(7.7) 13
7
1(4.5)
0(0.0)
1(7.7)
区分Aには、言語学や文学、イスラーム学など、アラビア語に深く関
係した分野を専門とした講師が多い。一方で、区分Bの講師は、その半
数が歴史学や地理学などを専門としており、アラビア語は研究の手段と
していると考えてもよいだろう。全体的に見れば「アラビア語」それ自体
を専門と考えている講師が 1名いるのみである。
15.日本以外の国の大学や教育機関でアラビア語を教えたことはありま
すか?ある方はその国名もお答えください。
表145-B
全体
区分A
区分B
はい
1(4.3)
0(0.0)
1(7.7)
いいえ
22 (95.7)
10(100.0)
12 (92.3)
有効回答数
23
10
13
回答のあった講師は 1名のみで、教えたことがあるのは「中国」として
いた。なお、本設問は、主にネイティブ講師から見た日本のアラビア語
学習者に対する意見を期待していたものである。しかし、ネイティブ講
師自体の回答が少なかったこともあり、残念ながら本設問は活かされな
かったといえよう。
─ 48 ─
日本の大学におけるアラビア語教育の現状とその問題
15.1 外国人学生と比較して、日本人学生を教える際に注意しているこ
とはありますか?(記述式)
回答のあった講師は「日本人は動詞の活用が苦手」と記している。
─ 49 ─