今月はプジョー205カブリオレの話です。GTIが人気の的でした から、そのスポーティなイメ−ジにあやかって、日本仕様にはCTIと いうネームがつけられていたはずです。ベースの205からして、ピニ ンファリーナ・デザインのスタイリングも走行感覚も、素晴らしいも のでした。 カブリオレという幌型のオ−プンカ−は、純粋なスポーツカーと は違い、避暑地の並木道を恋人なんかと話ながらのんびり流すと か、晩秋の木漏れ日を浴びて落ち葉を踏みしめながら歩むとか、そ んなゆっくりとした走行で雰囲気を楽しむイメ−ジがあります。 現代のカブリオレは、安全性の見地からも強固 なボディが常識ですが、当時はルーフを切り取った あと、多少の補強は加えられたにせよ、実情はユル ユルな状況でした。しかしポルシェ911のカブリオレにしても、後 22 方から追尾して走ると、S字カーブなどではボディが捻れるのが判 るほどでしたから、CTIだけがヤワなわけではありませんでした。 中間にロールバー風の幌骨が残されていても、フロアの剛性に はさして貢献せず、フルブレーキングとか、ラフな路面でのハードコ ーナリングには不安もありました。幌が見えるとスポーツカーと勘 違いする人もいたようで、シャコタンスポーティカーから挑戦を受け ることもありました。煽られても動じず道を譲るしかなかったのです が、GTIだったら挑発に応じるどころかカモってやれるのに……と、 当時は思ったものです。 ボディ剛性はともかく、スタイリングというか雰囲気は魅力的で、 中古を見つけて自分でボディ補強して乗ってみたいと思うこともあ りました。今のようにSEVをベタベタ貼るというような補強方法は ありませんでしたし、溶接すれば重くなるし……と、挫折した思い 出です。 低く平たくて長いのが優雅に見える時代に、全長は短くスクリ ーンも立っており、ズングリしてはいたのですが、幌を畳んだ姿は 端正にして落ちついたたたずまいがありました。特に気に入ったの は、丸く処理されたテールの可愛らしさです。FFゆえに前傾姿勢 をとり、ロードクリアランスも高めで、真後ろからみると細いタイア がスーッと伸びているあたりは、ミニスカートと美脚の関係のようで もありました。 同時代の代表作である、フェラーリ・テスタロッサとのディテール の類似も楽しめる箇所です。テールランプ回りは、CTIでは単なる 樹脂型の横線でしかありませんが、可愛らしい中にもプジョーのイ メ−ジが確立された強い印象を与えます。よく見ればまったく違う のですが、雰囲気はテスタロッサとよく似ています。安い小さい車 だからと言って、デザインの手抜きをしなかったことが、今もって優 美にみえる理由でもあるのでしょう。そこをケチらないプジョーとし ての良心に感心します。寿命の長いデザインは、長く付き合って も飽きることがありません。205の後の306にカブリオレが登場し ても、どちらも違った個性として両方共に受け入れられるわけです。 笹目二朗 自動車メーカーでテストドライバーとして車両開発に携わった後、カーグラフィック編 集部に加わる。チ−フテスタ−として数々のスーパースポーツのフルテストを担当。 現在はフリーランスのモータージャーナリストとして活躍中である。 photo : CG library 017
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