国土文化研究所年次報告 - 株式会社建設技術研究所

VOL.8 Nov. ’10
国土文化研究所年次報告
ANNUAL REPORT OF RESCO
Research Center for Sustainable Communities
はじめに
国土文化研究所
所長
原田邦彦
国土文化研究所は、ご案内の通り、「従来の建設コンサルタントの枠に捉われることなく、『文
化をはぐくむ豊かな空間』つくりを目指し、工学はもとより歴史、文化、景観、環境等の幅広い
領域にも目を向け、広範な技術を磨くと共に、社会・経済や行政等の社会システムの在り方につ
いても情報発信する」ことを目的として、設立されました。
関係する皆様のお陰をもちまして、国土文化研究所の活動も、10年になろうとしています。
設立当初は、建設コンサルタントの業務分野に比較的近いところの研究を中心に進めてまいりま
したが、最近は、行政の在り方や社会システムの改善のような、総合的な研究活動にも取り組み
始めています。
設立の目的にはまだまだ至っておりませんが、当社のヴィジョンに示されておりますCTIグ
ループのシンクタンク機能を担う研究所になるよう、今後とも社内外を繋ぐ活動に積極的に取り
組む所存です。
今回報告する「年次報告VOL.8」には、平成 21 年度の当研究所の自主研究と共同研究か
ら、主な研究成果の概要を取りまとめ、掲載しております。是非、ご高覧頂き、何らかの参考に
して頂けましたなら、幸いです。
最後に、調査・研究にご協力頂いた皆様方に感謝申し上げますと共に、今後とも忌憚のないご
意見と暖かいご支援を賜りますようお願い申し上げます。
国土文化研究所年次報告 VOL.8
目
はじめに
Nov.’10
次
国土文化研究所所長
原田
邦彦
1
《研究報告要旨》
《研究概要》
道路将来政策研究
Study on a road future Policy
東京本社 道路・交通部
〃
〃
〃
〃
〃
〃
東京本社 都市部
〃
東京本社 社会システム部
地域マネジメント室
〃
中部支社 総合技術部
国土文化研究所 企画室
〃
技術顧問
前田 信幸
今井 敬一
野見山尚志
土屋三智久
山田 敏之
鈴村 雅彦
海老原寛人
小原 裕博
田中 文夫
牛来
司
4
長南 政宏
江守 昌弘
金子
学
今西 由美
国久荘太郎
国土文化研究所 企画室
水政策に関する国際的課題と動向の研究
The study of the international issue and trend about the water
policy
伊藤
一正
10
公共事業民営化研究
― 土木インフラ分野への民間活力導入局面におけるビジ
ネスモデルに関する研究 ―
Research on privatization of public works
技術本部
東京本社 都市システム部
PFI・PPP 室
〃
東京本社 水システム部
下水道室
〃
山下 幸弘
渡会 英明
16
国土文化研究所 企画室
〃
〃
〃
東京本社 都市システム部
〃
〃
〃
〃
〃
自治体シンクタンク研究
地域課題の発掘と解決に関する自治体との実証的研究
Corroborative research with Local Governments on exhumation
and resolution of Regional issues
千葉
今井
雄一
一彦
戸邉
巌
原田
岡村
金子
大堀
伊藤
牛来
中島
長南
飯田
水本
邦彦
幸二
学
勝正
義之
司
裕之
政宏
哲徳
崇
26
医療福祉支援システム開発・活用研究
心理社会情報の開発と活用に関する疫学的研究
Epidemiological study on the development and utilization of
Psycho-Societal Information based on the SAT Theory
国土文化研究所 企画室
金子
学
35
CHALLENGES IN DESIGN OF MODERN UNDERGROUND
国土文化研究所 企画室
木戸
エバ
48
東京本社 社会システム部
防災室
〃
〃
前川 裕介
米山
賢
花原 英徳
星野
渉
65
国際人材ネットワーク基盤研究
Study on Development of International Human Resources
Network
国土文化研究所 企画室
和田
彰
72
価値形成基礎研究
合意形成および景観形成に関する研究
Basic Study on Value creation from view point of Consensus
building and landscape Design
東京本社 都市システム部
〃
〃
東北支社 総合技術部
国土文化研究所 企画室
牛来
伊藤
鵜野
松本
岡村
司
義之
勝巳
健一
幸二
82
天然ガス輸送パイプライン及びガス発電の事業化研究
Feasibility Study on the Tohoku Natural-Gas-Pipeline and
Distributed Gas-power-plant
東京本社 社会システム部
環境システム室
国土文化研究所 企画室
松崎
浩憲
87
志田
忠一
他省庁系の地域振興政策に関連する事業展開の開発研究
国土文化研究所特命研究員
森山
弘一
95
日本橋地域再生研究
国土文化研究所 企画室
〃
〃
〃
原田 邦彦
伊藤 一正
今西 由美
塚原奈津代
102
RAPID TRANSIT STATIONS IN JAPAN AND EUROPE
公共施設の計画・維持管理にかかる
防犯環境設計の研究開発
Research and development of CPTED ( Crime Prevention
Through Environmental Design) for planning, operation and
maintenance of communal facilities
Research for Nihombashi Area Restoration
注)所属は、平成22年12月現在のものです。
研究報告要旨
道路将来政策研究
Study on a road future Policy
急速な少子高齢化の進行、中国の経済的台頭などによる世界的な経済枠組みの変化等を背景とし、国内の各分野の
政策が転換点を迎えつつある中で、地方財政改革などの推進により、行政組織、手法自体も変貌する可能性が高い。こ
れらを踏まえると当社が、将来に渡り安定した技術力と生産性を保持し、より信頼させるコンサルタントとして地位を確保し
てゆくためには、公共政策の動向を的確に把握し適宜必要な技術を習得してゆくことが不可欠である。本研究では、これ
らを踏まえ、記の背景の元、「交通経済」、「物流」、「観光」、「地域経営」というキーワードに着目し、それぞれの研究会を
通して知識と技術の移植を図るとともに、当社の商品技術として育成することとした。
水政策研究
Research report of a world water policy
日本は水に関する高い技術を有していると言われているが、それらを、将来どのように利用すべきか、どう国際的に活用
できるか、世界水フォーラムにおける日本の発信、水の安全保障戦略機構における官民の取り組みなどが要点と言われて
いる。本研究は、水ビジネスなどへの日本の取り組み方、特に建設コンサルタントとしての取組み方法などについて国内外
の有識者へのインタビューと議論を通して、新しい水分野のビジネス展開の可能性を研究したもので、当社の将来の事業
展開に資するものである。
公共事業民営化研究
― 土木インフラ分野への民間活力導入局面におけるビジネスモデルに関する研究
Research on privatization of public works
―
本研究において、道路分野及び下水道分野のインフラを対象とした民間活力導入の動向を把握するとともに道路事業
においては、具体の事例を通して、事業の組み立て、民間事業者が実施する維持管理業務の留意点、リスク分担の定量
化を試みた。リスク分析においては、モンテカルロシミュレーションによる計量分析を行い、この結果、被害の量的な把握が
なされることとなり、定性分析ではできない意志決定情報が提供できることを確認することができた。
地域課題の発掘と解決に関する自治体との実証的研究
Corroborative research with Local Governments on exhumation and resolution of Regional issues
これまで根拠としていた常識や慣習が揺らぐ変化の時代において,それまでの価値観を転換して新たな価値の形成を
図ろうとする時,多様な状況の経験と失敗が必要となり,それらを経た中から、その時代に適合した価値観が生まれてくる.
この研究は,これまでの“与えられたテーマに対するコンサルティング手法”を転換し,“日常の中からの問題の発掘と解決
策の提示”といった“無形的な業務(シンクタンク業務)”に価値が形成されるか,また,それによって成功報酬を受けるよう
な新たな事業モデルは構築可能なのかについて模索するものである.本年は,研究条件に適合し,かつ研究合意の取れ
た①兵庫県篠山市における財政再建を背景とする将来まちづくり,②広島県福山市鞆の浦における道路景観・環境・地
域活性化に関わる紛争処理,③神奈川県横須賀市における市街化区域内限界集落と積極的活用策,その実施概要を報
告する。
医療福祉支援システム開発・活用研究
心理社会情報の開発と活用に関する疫学的研究
Epidemiological study on the development and utilization of Psycho-Societal Information based on the SAT Theory
市民の生活実感を客観的に評価し活力ある地域づくりを進めていくことは、財政難の中にあって行政施策の効果を高
めて持続可能な社会を構築するうえにおいて極めて重要である。筆者はこれまでに、カウンセリング理論であるSAT法(宗
像 1997)を援用し,個々人が想起するエピソードと背後にある健康心理に関する情報の収集・分析システムを考案し,個
人・集団の両面から心理をモニタリングする手法を開発してきた。本稿は,従前の研究成果をふまえ、疫学的方法を用い
-1-
て手法の実効性についての裏付けを行うと共に,それらの根拠から適合する社会調査法・評価法について検討した。また,
自治体への実際に適用し,実用化への知見を得た。
CHALLENGES IN DESIGN OF MODERN UNDERGROUND RAPID TRANSIT STATIONS IN JAPAN AND EUROPE
Subways have almost 150 years tradition in Europe and a little bit more than 80 years in Japan. They are one of the most
popular and most efficient means of urban transportation. Connected with other railways and extending out from the inner
city, they are basic infrastructure of the rapid transit. Like railway stations above the ground, underground subway stations
are important elements of the urbanscape that are determining the image of the city. Therefore already in the past, aesthetic
design of subway stations has been recognized at historical European stations. However, only recently subway station design
has been getting more challenging and totally-oriented.
Station form depends on several aesthetic visual and image-based factors. These factors include space, light, color, scale,
and details, as well as image-based elements related to design context, landmarks features, representation of the image of
subways, of a brand of train operators, inclusion of artistic elements, relation of station design to commercial function and
advertisements.
Nowadays, subway stations are being renovated and also new stations are being built. This paper examines current trends
in design of subway stations in Japan and Europe on the example of Tokyo, Paris, London and Berlin. The conclusion is that
design depends very much on the circumstances such as natural conditions, organization and funding of subways, design
process, tradition and culture. While in Japan subway stations tend to be economical with only some design elements, in
Europe design is more holistic and involves world famous architects. Many stations in Japan have been renovated and design
has improved but there is still need to develop a total approach to station architecture and design.
公共施設の計画・維持管理にかかる防犯環境設計の研究開発
Research and development of CPTED(Crime Prevention Through Environmental Design) for planning,
operation and maintenance of communal facilities
近年、犯罪発生の抑止と犯罪発生への不安感を低減していくことが、重要な課題となっている。ここでは、防犯環境設
計に係る研究開発として、公共施設における利用実態に係る情報と犯罪発生への不安感について分析し、周囲からの見
守り状況、地域内の情報、公共施設周りの土地利用現況が、利用実態や不安感発生に繋がる要因となることを明らかにし
た。
国際人材ネットワーク基盤研究
Study on Development of International Human Resources Network
本研究は、河川再生分野の人・情報循環を核としたアジアネットワークの運営をケーススタディと位置付け、建設コンサ
ルタント企業としての新業態の展開や社会貢献活動などを視野に、本ネットワークの安定基盤構築と持続的発展のあり方
を検討し、今後のネットワーク事業展開像を示した。
価値形成基礎研究合意形成および景観形成に関する研究
Basic Study on Value creation from view point of Consensus building and landscape Design
社会資本整備のあり方が問われている今日、公共事業の構想段階における計画策定プロセスガイドライン(2008年)等が
制定され、合意形成技術は事業者、コンサルタントが備えるべき必須の技術になっている。また、国民の価値観が多様化
している中、道路、河川、都市事業などにおける景観形成ガイドラインが制定され、景観デザインの重要性は高まってい
る。
こうした価値形成にかかわる計画立案手法の確立が強く求められているものの、体系的な技術として確立されていると
は言い難い状況にある。当社の技術部門においても、『合意形成(PI)』『景観形成(景観デザイン)』など価値形成にかか
わる技術について、横断的な展開が重要視されている。こうした、価値形成に係わる計画立案技術を横断的な共通の技
術として体系的に取りまとめるとともに、他分野との技術ツールの統合などに取り組むことで、技術の向上とイメージ形成に
よるビジネスチャンスの拡大を目指す。
天然ガス輸送パイプライン及びガス発電の事業化研究
Feasibility Study on the Tohoku Natural-Gas-Pipeline and Distributed Gas-power-plant
本研究は、東北地区における天然ガス幹線パイプライン及び分散型ガス発電事業構築に係わる事業化研究である。本
論文では、東北地区におけるガスパイプライン事業化可能性調査と、天然ガスパイプライン事業立上のためのコンソーシ
-2-
アム組織化に関する検討、分散型ガス発電事業については沖縄地区をケーススタディとして取り上げ事業化可能性の検
討調査の検討状況を記述した。
他省庁系の地域振興政策に関連する事業展開の開発研究
本研究では、CTIにおける新規顧客開拓の一環として、これまで当社が手つかずであった産業分野を中心に業務獲得
のための知見・ノウハウ等の蓄積、及び、業務獲得の試行等を3年間にわたって実施することにより、他省庁系業務開拓の
可能性や展開戦略等を明らかにするものである。本報告は、研究開始から1年9ヶ月を終えての第2回中間報告であり、こ
れまでの取組内容や問題点、今後の進め方等を整理したものである。今年はJVによる業務営業やモデル地域での民間と
のパートナーシップによる事業開発の準備等を進め、来年はモデル地域において他地域への横展開が可能な事業モデ
ルの構築を行うこととした。
日本橋再生研究
Research for Nihombashi Area Restoration
日本橋地域は江戸時代から続く東京の賑わいの街で、日本の行政・商業・文化の中心である。この日本橋地域の賑わ
いの再生は地域全体の要望である。本研究は、地域の一員として日本橋地域再生案の議論に参加し、河川再生や舟運
計画の案を研究した結果と、日本橋地域をはじめ、港区、千代田区を含む広域の観光資源開発に取組んだ結果を示した
ものである。
-3-
道路将来政策研究
Study on a road future Policy
前田信幸*1 岩崎順一*1 野見山尚志*1 山田敏之*1 鈴村雅彦*1 海老原寛人*1 小原裕博*2 田中文夫*2
牛来司*3 長南政宏*3 江守昌弘*4 土屋三智久*4 金子学*5 今西由美*5 国久荘太郎*6
Nobuyuki MAEDA, Jyunichi IWASAKII,Hisashi NOMIYAMA, Toshiyuki YAMADA, Masahiko SU
ZUMURA,Hiroto EBIHARA,Yasuhiro OBARA,Fumio TANAKA, Tukasa GORAI, Masahiro CHOONAN, Masahiro
EMORI,Michihisa TUCHIYA, Manabu KANEKO, Yumi IMANISHI, Soutarou KUNIHISA
急速な少子高齢化の進行、中国の経済的台頭などによる世界的な経済枠組みの変化等を背景とし、国内の
各分野の政策が転換点を迎えつつある中で、地方財政改革などの推進により、行政組織、手法自体も変貌す
る可能性が高い。これらを踏まえると当社が、将来に渡り安定した技術力と生産性を保持し、より信頼させ
るコンサルタントとして地位を確保してゆくためには、公共政策の動向を的確に把握し適宜必要な技術を習
得してゆくことが不可欠である。本研究では、これらを踏まえ、記の背景の元、
「交通経済」
、
「物流」、
「観光」
、
「地域経営」というキーワードに着目し、それぞれの研究会を通して知識と技術の移植を図るとともに、当
社の商品技術として育成することとした。
キーワード: 交通経済、物流、観光、地域経営、産業構造
1. 背景と目的、ねらい
本研究は、急速に変化する今日の社会環境下において、
当社顧客への高い付加価値・満足の提供、当社の社会的
地位向上などを最終目標に据え、これらの実現に必要な
知識や技術の習得を行うものである。中でも特に「交通
経済」
、
「物流」
、
「観光」
、
「地域経営」というキーワード
に着目し、社内外の4つの研究会で、それぞれ研究を行
った。各研究会の狙いと主な研究テーマは以下の通りで
ある。
2. 研究体制
各研究会の実施体制は以下の通りである。
<応用経済分析研究会>
<講師>
国久荘太郎 技術顧問
<参加者>
東京本社道路・交通部(3名)
オブザーバー(適宜)
項目
交通経済
物流
観光
地域経営
*1
*2
*3
*4
*5
*6
表-1 実施研究会とその狙い
主な研究会
狙い
実業務で通用する交
応用経済分析研究会
通経済技術の習得
物流に関する知識を
蓄積するとともに早
日本交通政策研究会
急に核となる技術を
習得
新たな道路計画手法
道路計画研究会
への構築
「国土形成計画法が
国土マネジメント研
求める計画立案手
究会
法」に関する研究
<日本交通政策研究会>
所 属
主査
氏 名
専修大学商学部 准教授
岩尾 詠一郎
東京海洋大学海洋工学部 教授
苦瀬 博仁
早稲田大学商学学術院 教授
杉山 雅洋
宇都宮大学工学部 准教授
森本 章倫
物流評論家
富樫 道廣
日通総合研究所 経済研究部
渡部 幹
三菱総合研究所 社会システム本部 政策マネジメント研究グループ
光英システム(株)
野澤 良彬
財団法人 日本海事センター 企画研究部
東京海洋大学
大学院海洋科学技術研究科
スティクス専攻
東京海洋大学 海洋工学部 流通情報工学科
古明地 哲夫
李 志明
博士前期課程
海運ロジ
延東 晃
水野 律
国土交通省道路局企画課道路経済調査室
田中 完秀
国土交通省道路局企画課道路経済調査室
市川 智秀
建設技術研究所 技術顧問
国久荘太郎
建設技術研究所 東京本社 道路・交通部
野見山 尚志
建設技術研究所 東京本社 道路・交通部
山口 大輔
東京本社・道路・交通部 Road & Transportation Engineering Division ,Tokyo office
東京本社・都市システム部 Urban Planning Division ,Tokyo office
東京本社・社会システム部 地域マネジメント室 Community Affairs – Research Analysis Division , Public Outreach & Awareness
Section ,Tokyo office
中部支社・総合技術部 Engineering Division , Chubu office
本社機構・国土文化研究所・企画室 Research Center for Sustainable Communities, Research Planning Section ,Head office
本社機構・技術顧問 Technical advisor, Head office
-4-
<道路計画研究会>
流通科学大学
教授
西井和夫
山梨大学
准教授 佐々木
邦明
CTIメンバー
・ 中部支社総合技術部 江守
昌宏
・ 東京本社道路交通部 野見山
・
同上
土屋
尚志
三智久
・ 中部支社総合技術部 香月
寛之
・ 東京本社道路交通部 山田
敏之
・
同上
海老原
寛人
<国土マネジメント研究会>
所
座
長
属
氏 名
政策研究大学院大学 教授
森地
茂
建設省道路局長/現・東京電力(株)顧問
山根
孟
東京工業大学大学院 総合理工学研究科 人間環境システム専攻
屋井 鉄雄
国土交通省近畿地方整備局企画部長
塚田 幸広
財団法人計量計画研究所
杉田
浩
財団法人計量計画研究所
森尾
淳
建設技術研究所
技術顧問
建設技術研究所
東京本社 道路・交通部
建設技術研究所
東京本社 道路・交通部
建設技術研究所
東京本社 道路・交通部
■社内ワーキングチーム
東京本社道路・交通部
東京本社都市部
東京本社地域マネジメント室
中部支社総合技術部
国土文化研究所
技術顧問
国久荘太郎
前田 信幸
野見山
尚志
山田 敏之
:前田信幸、岩崎順一、野見山尚志、山田敏之
鈴村雅彦、海老原寛人
:小原裕博、田中文夫
:牛来司、長南政宏
:江守昌弘、土屋三智久、香月寛之
:金子学、今西由美
:国久荘太郎(アドバイザ)
■財団法人 計量計画研究所(IBS ワーキングチーム)
3. 研究実施状況
各研究会は、以下の日程で開催した。
表-2 研究会実施状況とその内容
研究会名
実施回数
計 11 回
応用経済分析
研究会
(講義形式)
計4 回
日本交通政策
研究会
計3 回
道路計画研究会
計5 回
国土マネジメント
研究会
主な内容
・マクロ経済モデル構築の
ための周辺理論
・日本経済の動向把握
・マクロ経済モデルの入力
データの取得方法
・産業構造の変化による流
通チャネルの変遷と交通
ネットワークのあり方の
考え方
・港湾統計と貿易統計によ
る品目別の輸出入額の経
年変化の分析
・圏央道埼玉区間に着目し
た東京都市圏の物流動向
について
・周遊型観光交通モデルの
構築検討
・イベント型観光交通モデ
ルの構築検討
・イベント型観光交通の特
性把握調査計画
・地域間産業構造分析
・県別産業構造分析や最新
の経済状況を考慮した地
域間産業間の影響分析
・企業立地に関する研究
-5-
4. 研究結果の概要
各研究会での結果概要を以降に示す。
4-1.応用経済分析研究会
応用経済分析研究会では、以下の内容について講義を
行った。
①マクロ経済モデル構築のための周辺理論
以下の内容について講義を行った。
・ケインズモデルとニューケインジアンモデル
・総需要曲線・総供給曲線
・IS-LM 分析における不均衡と不均衡からの調整過
程
・投資関数
・地域間格差と国土管理
②日本経済の動向把握
平成 21 年度版経済財政白書(内閣府)を元に、こ
れまでの変遷や今後の動向について講義を行った。
③入力データの取得方法の把握
マクロ経済モデルを構築する際に必要な入力データ
の取得方法について、講義を行った。
4-2.日本交通政策研究会
日本交通政策研究会において、当社では交通施設(道
路ネットワーク)の整備が物流システムに与えた影響の
考え方というテーマについて研究を行った。結果概要は
以下の通りである。
①全国の物流動向
■物流量の推移
・全国的に貨物流動量は減少傾向にあるが、関東に
おける落ち込みは全国より小さい。
・東京都市圏においても、貨物流動量は減少傾向に
あるが、茨城関連の物流量が増大しており、特に埼
玉~茨城の物流量の増加が顕著である。
茨城県
埼玉県
東京都
凡 例
千葉県
流動量
(トン)
神奈川
県
流動の伸び
(H12=100)
9万トン/日
75未満
75以上125未満
125以上150未満
150以上175未満
175以上200未満
200以上
図-1 東京都市圏の物流動向
■自動車輸送の推移
・関東~中部、東北、近畿、補区立信越の順で流動
量が多い。
北陸信越を除いて九州などの遠方を含め
て全国的に増加している。
・埼玉~東京、神奈川、千葉の流動が多い。増減で
は、茨城(1.4 倍)
、東京(1.4 倍)
、神奈川(1.3 倍)
への流動が増加。また、流動量は少ないが、山梨へ
の流動が 1.8 倍と大幅に増加(H17/H12)
。
港湾への移入が減少。
東京都市圏への集中傾向が見
られる。
・港湾別では、10 年間で埼玉~横浜港が 20%→29%
に増加したほか、
茨城県内の港湾
(日立港、
大洗港、
常陸那珂港;開港)との流動が増加している。
東京港
横浜港
川崎港
千葉港
横須賀港
木更津港
日立港
常陸那珂港
鹿島港
大洗港
茨城県
埼玉県
34%
平成5年
20%
31%
平成10年
17%
16%
29%
8%
1%
0%
38%
4%0%2%0%
東京都
28%
平成15年
千葉県
神奈川
県
0%
10%
29%
20%
30%
40%
7%
50%
60%
28%
70%
80%
0%2% 3%0%
2%
90%
100%
凡 例
7万トン/日
流動量
(トン)
75未満
75以上125未満
125以上150未満
150以上175未満
175以上200未満
200以上
流動の伸び
(H12=100)
図-2 自動車輸送動向
②東京都市圏の物流動向
■港湾・空港貨物動向
・各港湾の重量シェアは、千葉港(37%)
、横浜港
(19%)
、木更津港(13%)の割合が高く、増加し
ている。
重厚長大型産業が多く立地する千葉のシェ
アが高く、
シェアは港湾の取り扱い貨物の種別に影
響されている。
・羽田空港の航空貨物取扱量(移出入)は全国空港
の 7 割を占め、伸び率も 1.4 倍と全国の 1.2 倍と比
較して高い(H19/H7)
東京港
横浜港
川崎港
千葉港
横須賀港
木更津港
日立港
常陸那珂港
鹿島港
図-5 埼玉県発着の港湾物流施設の構成
■東京湾からの大型車のルート
・東京湾から沿線市町に発着する大型車のルートを
見ると、
車両の規格が大きいほど高速道路利用率が
高まる。
湾岸からは首都高速~外環など~放射道路
というルートを取る。
・10t 以上貨物車において鶴ヶ島 JCT~入間 IC ま
で圏央道を利用する車両を確認。
4-3.道路計画研究会
道路計画研究会では、現在の道路交通分野の技術的
な問題点などの整理を行った上で、特に最近注目され
ている観光に着目した交通行動モデル構築に向けた基
礎的研究を行った。
①これまでの研究経緯と今後の取り組み
■これまでの研究テーマ
大洗港
①交通量予測手法の研究
10.8%
平成5年
17%
8.5%
平成10年
15.4%
18.5%
0.6%
2% 10.4%
9.8% 0%
0%
30.9%
17.7%
1.1%
1.6%8.4%
12% 0%
0%
35.3%
→プローブ調査の有効活用方策の検討(データの取得方法等の更なる研究へ)
→動的シミュレーションの導入検討(多様な交通特性の把握方法に課題)
②交通行動に関するデータの収集方法・活用方法の研究
→交通データの収集方法や収集内容(特に、プローブパーソン)
平成15年
6.5%
19%
0%
9.8%
20%
1% 12.7% 0.7% 12.4% 0.3%
0.8%
36.8%
40%
60%
80%
100%
→交通データの組合せ等による新たな切り口での分析可能性
③観光地における効率的な交通運用方策に関する研究
→観光地における観光客の交通行動や交通ニーズや交通行動特性の把握方法
④道路政策・施策に対する評価方法の研究
図-3 各港湾のシェア推移
移出入量
(万トン)
伸び率
(H7=100)
95.2
100.0
90.0
80.0
78.8
84.8
88.4
83.6
70.0
60.0
50.0
→観光地における観光客の交通行動や交通ニーズや交通行動特性の把握方法
49.6
53.8
57.8
56.2
86.1
59.4
89.0
64.6
■富士北麓地域での観光行動特性モデル・観光振興に資する道路交通政策の研究
1.富士北麓地域の地域特性・課題整理
160
141 140
121 120
70.2
100
80
40.0
60
30.0
40
20.0
富士北麓地域における地域特性・課題を、観光面を中心に整理を行う
(富士吉田市、富士河口湖町、忍野村、山中湖村 等)。
⇒各市町村マスタープランを活用、各種アンケート調査
全国空港の
移出入量
2.モデル構築のためのシナリオ検討(アウトプットを描く)
羽田空港の
移出入量
全国空港の
移出入量の伸び
羽田空港の
移出入量の伸び
20
10.0
0.0
3.調査実施方針の検討
0
H7
H9
H11
H13
H15
H17
1.の整理より、課題を発生させる要因と想定される要素について分析。
その結果を踏まえ、富士北麓地域における観光行動モデル構築のため
のシナリオ検討。
⇒対象:周遊交通
要因:交通手段、交通状況、観光資源の魅力、情報提供、サービス
施策:ソフト施策、ハード施策(→地域住民の意向も踏まえつつ)
調査概要について検討
⇒調査時期、調査箇所、調査方法、調査内容、サンプリング数 等
H19
図-4 空港貨物の動向
■埼玉県発着貨物
・埼玉県~東京都市圏近郊の主要 10 港湾間の自動車
による物流量は 10 年間で 6%増加している。
・移輸出入の状況では、港湾からの移出が増加し、
【研究上の課題】
・モデル構築のためのサンプルデータが収集困難
・交通政策実施困難、施策評価困難
■鈴鹿地域の交通円滑化に関する研究(三重河川国道業務と連携)
・鈴鹿サーキット F1 開催時の交通行動モデル構築
・交通行動モデルによる交通円滑化施策の評価
図-6 これまでの研究経緯と今後の取り組み
-6-
②鈴鹿地区を対象とした観光モデル構築の方針につい
て観光モデルの構築の基本方針について検討した。
■全体方針
・10/4 に開催される F1 日本グランプリ(於;鈴鹿サ
ーキット)開催時における鈴鹿地域の交通流動をモ
デル化し、次年度以降の交通円滑化方策を検討する
うえでの基礎データとする。
■今年度の目標
・今回の F1 開催時の交通流動を明らかにする(プロ
ーブカー、プローブパーソン等)
。
・アンケート調査を実施し、今回実施した施策の評価
を行う(例;情報提供に対する認知率・行動率など)
。
また、その結果をもとに、次年度以降の交通円滑化
方策を検討する。
■目的
・鈴鹿地区における F1 などの大規模イベント開催
時の交通円滑化のためにどんな方策が有効かを
事前に予測するため、観光行動モデルを構築する。
・副次的には、イベント系(花火大会など)や特定
の季節に需要が集中する観光地(桜・紅葉ものな
ど)における効果的な交通円滑化方策が検討可能
なものにすることを念頭に置く。
※今回実施する交通円滑化方策の評価は、モデルで
はなく、実証データにより評価する予定。
■問題意識
・観光行動モデルの構築に当たり、以下の事項に着
目している。
●情報提供の有効性
・情報提供により交通平準化が可能か?(空間的・
時間的に)
→「経路選択モデル」を構築し、分析・評価
●効果的な交通需要の平準化方策
・イベント等の実施により帰宅時の出発時間をずら
せるか?
→「経路選択モデル」の中で扱う発生集中量の設
定方法の検討
※評価・検討のタームを 1 日単位とするか、ピーク
時間帯とするか等の整理が必要
●公共交通の利用拡大
・どんなインセンティブを与えれば公共交通への利
用転換を促進できるか?
→「交通機関選択モデル」を構築し、分析・評価
③観光モデルの概要(案)
■基本的な考え方
・本研究会では、鈴鹿地区におけるイベント開催時
に想定される交通特性や、次回大規模イベント開
催時の適切な交通円滑化方策を提案することを
目的とする。
-7-
→ダミー変数を設定するなどして交通円滑化方策
による効果を推定できるモデルを構築し、施策の
効果を評価する。
・上記の目的に鑑み、以下のモデルを構築する。
■モデルの概要
●交通機関選択モデル
・多段階選択モデル;Nested Logit モデルを想定し、
来場者の交通機関選択状況をモデル化。
→第 1 段階;自動車×マストラの選択、第 2 段階;
利用駐車場(自動車)
、利用駅(マストラ)
※マストラの場合、鉄道がその代表的な移動手段
となるため、鉄道を主体として考える。
●自動車経路選択モデル
・一般的に交通量推計にて用いられている「最短時
間経路探索」を基本とし、自動車の経路選択状況
をモデル化。
→道路の混雑状況や推奨ルート、駐車場などにつ
いての情報提供により、どの程度混雑緩和が図
られるかを予測し、効果的・効率的な交通円滑
化方策を提案する。
鈴鹿サーキット
①交通機関選択モデル
自動車
マストラ
駐車場 1 駐車場 2 駐車場 3
経路 1
経路 2
経路 3
駅1
駅2
駅3
②自動車経路選択モデル
図-7 観光モデル体系
④アンケート調査
本研究は、三重河川国道業務と連携して実施している。
47 期では、交通円滑化方策を検討する上での基礎データ
となるアンケート調査を実施した。
4-4.国土マネジメント研究会
国土マネジメント研究会では、
「地域間産業構造分
析」
、
「県別産業構造分析や最新の経済状況を考慮した
地域間産業間の影響分析」
、
「企業立地に関する研究」
というテーマに基づき、研究を行った。
①地域間産業構造分析
(1)地域別移輸出および移輸入に関する分析
・地域間産業構造を①地域間国際間分業型、②移輸
出型、③自給型、④移輸入型に分類
・北海道は加工組立型製造業のみが地域間国際間分
業型。それ以外の製造業は移輸入依存型
・東北、中部、近畿、中国は製造業と商業が地域間
国際間分業型。それ以外は自給型
・関東は加工組立型製造業のみが地域間国際間分業
型。それ以外は自給型
・四国は製造業と商業が地域間国際間分業型。農林
水産業は移輸出型
・九州は加工組立型製造業のみが地域間国際間分業
型。基礎素材型は移輸入依存型
・沖縄は製造業と農林水産業は移輸入依存型
(2)地域間経済構造分析
・1人あたり生産額の高い県ほど1人あたりの県民
所得は高い傾向を示す。
・県民所得の高い県では、移輸出や移輸入の割合が
高く、生産誘発も移輸出の割合が高い。
・県民所得の低い県では、県内最終需要の占める割
合が高く、生産誘発は民間消費が多い。
・地域別スカイライン図では、大都市圏では製造業
の移輸出が高いが、地方では農林水産業や食料品、
運輸の移輸出が高い。
(3)近年の日本の内需、外需の推移と国内生産額の推移
・近年外需拡大を背景に内需(設備投資や民間消費)
が拡大。
・リーマンショックで輸出が35兆円減少し、設備
投資の落ち込みが顕著
(4)最終需要項目別 地域間産業構造分析
・民間消費は関東と中部で購入より販売の生産誘発
が高い。
・政府消費は関東と中部と近畿で購入より販売の生
産誘発が高い。
・公的投資は関東と中部と近畿で購入より販売の生
産誘発が高い。
・民間投資は関東と中部と近畿と中国で購入より販
売の生産誘発が高い。
②県別産業構造分析や最新の経済状況を考慮した地域
間産業間の影響分析
(1)1人あたり県民所得の格差に関する分析
・2001 年から 2006 年で1人あたり県民所得は東京
都の増加率がもっとも高く、北海道、高知県、徳
島県、島根県で減少率が高い。
・全産業の成長率と製造業の寄与度の相関は高い傾
向にある。
・2005 年から 2006 年では、青森県、岡山県、三重
県で特にその傾向が高い。
(2)県別産業連関表によるスカイライン分析
・中部では、愛知県、岐阜県、三重県で輸送機械の
純移輸出が顕著。三重県では移輸入率も高く、部
品等の取引も多い。
・九州では、福岡県以外の県で、農林水産業の移輸
出が超過。大分県では電気機械の移輸出が顕著。
・大都市圏では、商業や対事業所サービスなどの第
3次産業で純移輸出が大きい。
・地方圏では、県内需要に占める建設の割合が高い。
(3)地域間産業連関表を用いた輸出減少による影響分析
-8-
・輸出減少による影響は、電気機械、輸送機械、サ
ービス、一般機械の順に大きい。
・消費減少による影響は、サービス、金融・保険・
不動産、商業、食料品の順に大きい。
③企業立地に関する研究
(1)10年間の新設・廃業事業所の動向
・サービス業は、10年間で事業所数が減少してい
るものの、従業員数については増加傾向。
・建設業、製造業、卸売り・小売り・飲食業は、事
業所数、従業員数共に減少。
・運輸・通信業の新設事業所の活発度は、他業種と
比較して非常に大きい
(2)経済成長県と非成長県の動向
・人口増加県で、県成長力および人口一人あたりの
成長力が共に増加しているのは、東京都、静岡県、
三重県、沖縄県である。
・人口減少県で、県成長力および人口一人あたりの
成長力が共に増加しているのは、徳島県、広島県、
大分県、鹿児島県である。
(3)産業別の総生産寄与度と新設・廃業事業所(従
業員)について
・サービス業の総生産寄与度が高いと、経済成長率
がプラスになっている県が多く、マイナスだと経
済成長がマイナスとなっている。
・経済成長がマイナスである県において、ある産業
が大幅な増加を見せ、経済成長率がプラスになる
と、同時にサービス業の総生産寄与度が大幅に増
加する傾向が見られる。
・建設業の総生産寄与度が高い県では、経済成長率
が低い。
・卸売・小売業・飲食店は、経済成長率がプラスに
なると、廃業事業所・従業員の寄与度が新規事業
所・従業員より大きい
(4)産業別新設・廃業事業所(従業員)の変動について
・輸送機械の事業所は、県内総生産の寄与度がプラ
スが大きい広島県、静岡県では、新設、廃業共に
マイナスが大きく、変動が小さい。
・運輸、通信業では、県内総生産がプラスの沖縄は
事業所、従業員共に変動が小さく、東京は、従業
員の変動が少ない
(5)新設・廃業事業所規模について
・
電気機械は、三重県の新設事業所規模と廃業
事業所規模の差が最も大きい。
・輸送用機械は、県内総生産の増加が大きい静岡、
三重、広島は、新設事業規模が 30(人/所)弱、
廃業事業所規模 20(人/所)前後に固まっている。
・サービス業は、すべてが新設事業規模の方が大き
く、特に東京都の事業規模が大きいことが特徴で
ある。
5.
今後の課題
本研究では、様々な研究テーマを持って、取り組みを
行ってきた。
応用経済分析研究会では、社会資本整備に関する経済
分析技術を身につけることを目的として、経済学に関す
る基礎的な勉強を11回の勉強会を通じて行った。今後
は、これらの知識を活かし、業務での活用の他、学会等
への投稿も視野に入れた実践での取り組みに傾注してい
くことが必要である。
日本交通政策研究会では、
「産業構造の変化による物
流システムの変遷と交通施設のあり方」というテーマの
基、当社は、全国および東京都市圏の物流動向について
研究を行った。また、日通総研や三菱総研、物流コンサ
ルタントなど、これまで当社との繋がりが弱かった業界
の方々の研究発表を通じて、物流に関する様々な現況や
課題について把握することが出来た。今後は、これらの
情報や人脈を通じて、新たな分野開拓を行っていくこと
が求められる。
道路計画研究会では、46 期で着目した観光に関する研
究をさらに具体的に進めた。当初、山梨県の富士北麓地
域を対象とした、観光モデル構築を考えていたが、既往
のアンケート調査データでは、データ数およびデータ内
容などから分析が困難であること、また三重河川国道業
務において、同種業務をプロポーザルで獲得できたこと
から、研究対象を鈴鹿地区へ変更した。今期は、観光モ
デルの構築およびアンケート調査までを実施した。観光
モデルは、当社において初めての試みとなる研究である
ため、新たな技術分野となるよう、効果の他、課題の整
理なども整理していくことが重要と考える。
国土マネジメント研究会では、国土形成計画の立案手
法を目的とし、その最も基礎となる地域や都市について
分析を行うとともに、一方で、今後のわが国における都
市と産業の健全な発展をもたらすような政策提言に向け
た基礎研究について実施した。
今後は、本研究により得られた知見などをもとに、よ
り計画論もしくは手法論に展開していくことが必要であ
る。
本研究分野は極めて裾野が広く、適用される分析手法
も多岐に及ぶ。また、行政施策や産業動向などに関する
知識や見識、洞察力なども必要であり研究は容易ではな
いが、今後も着実に進めていくべきだと考えている。
また、これまでの成果を書籍として取りまとめていく
よう、進めていきたい。
最後に、本研究は、日本交通政策研究会、流通科学大
西井教授、山梨大佐々木准教授、国土マネジメント研究
会、財団法人計量計画研究所のご支援の賜物であり謝意
を表す。
-9-
水政策に関する国際的課題と動向の研究
The study of the international issue and trend about the water policy
伊藤 一正*1
Kazumasa ITO
日本は水に関する高い技術を有していると言われているが、それらを、将来どのように利用すべきか、
どう国際的に活用できるか、世界水フォーラムにおける日本の発信、水の安全保障戦略機構における官民
の取り組みなどが要点と言われている。本研究は、水ビジネスなどへの日本の取り組み方、特に建設コン
サルタントとしての取組み方法などについて国内外の有識者へのインタビューと議論を通して、新しい水
分野のビジネス展開の可能性を研究したもので、当社の将来の事業展開に資するものである。
キーワード:水資源配分、食料、エネルギー,水ビジネス、ロビー活動
1.はじめに
昨今、水危機、食料危機、エネルギー危機など、
様々な危機が喧伝されている。地球温暖化を背景と
して洪水や干ばつの頻発による水危機が言われ、こ
の水危機とアジア地域での人口増大を背景に食料危
機が議論される。はたして、水は不足し、食料は不
足し、また、エネルギーも不足するのか?
本研究は日本を始め世界各国が将来の水にかかわ
る政策で、どのような方向を目指しているのか、ま
た、その中で日本は、これまでに培った水にかかわ
る技術を、どのように提供できるのか、各界の識者
との議論をもとにとりまとめたものである。特に建
設コンサルタントの立場で将来の水政策にどのよう
に関われるか、あるいは提案できるのか、政治機構、
行政機構が変化してきている中での機能を提案する。
確保することと、良質な水を得られるように衛生を
確保することに集約される。
このような認識のもと、1992 年の国連環境開発会
議(UNCED)においてアジェンダ 21 が採択され、淡
水に関する七つの行動プログラムが提案され、水管
理の実践開始が始まった。そして、2000 年国連サミ
ットで 2015 年に向けた貧困・教育・健康に注目した
ミレニアム開発目標が設定され、もっとも基本的な
資源とは水およびエネルギーであることを国連は認
識した。
(2)世界水発展報告書
世界水発展報告書は、世界の水資源の全体像を把
握するために国連環境計画や国連人間居住委員会な
ど 23 の国連機関と、国連条約事務局が作成した報告
書であり、第 3 回世界水フォーラムに合わせて 2003
年 3 月に発表された。
世界水発展報告書では「生命と福祉」「管理上の課
題」を 2 大テーマとし、11 の課題について現状と解
決策などを紹介している。
①生命と福祉に関する課題について
課題 1 基本的ニーズと健康に対する権利
課題 2 人類および地球のための生態系の保護
課題 3 都市 ̶ 都市環境において競合するニーズ
課題 4 増大する世界人口に対する食糧確保
課題 5 すべての人の便益のため、よりクリーン
な工業の奨励
課題 6 開発需要に見合うエネルギーの開発
②管理上の課題 ̶ 管理と統治について
課題 7 リスクの軽減および不確実性への対処
課題 8 水の分配 ̶ 共通の利益の明確化
課題 9 水の多面性の認識および価値評価
課題 10 知識ベースの確立 ̶ 共同責任
課題 11 持続可能な開発のための賢明な水管理
報告書では、水危機が人類の生存および地球環境
2.世界各機関の水政策
昨年度の研究成果より、世界各機関の水政策は以
下に整理できる。
(1)世界の認識
1970 年代後半から、経済の成長が地球の環境に
様々な影響を与える事が認識され始め、経済の成長
と社会の発展の調和をいかにもたらすかが議論され
始めた。そのような中で、1987 年に、国連が後援し
たブルントラント委員会(環境と開発に関する世界
委員会)の報告書「地球の未来を守るために」にお
いて、
「将来世代の欲求を満たしつつ、現代世代の欲
求をも満たすような発展」として、初めて「持続可
能な開発」が定義された。
この、地球の持続可能な開発のための最優先目標
は貧困の撲滅であり、もっとも本質的な要件であり、
適切に管理された水を貧困層が容易に得られれば、
貧困の撲滅に大きく寄与することができる事が認識
されるようになった。具体的には、地球の持続的発
展に水管理が不可欠であること、それには飲料水を
*1
国土文化研究所 Research Center for Sustainable Communities
- 10 -
の存続の核心である事を示している。
そして、2002 年の持続可能な開発に関する世界首脳
会議(WSSD)でコフィ・アナン国連事務総長は持続
可能な開発のための首尾一貫した国際的取組みとし
て WEHAB(上下水道設備、エネルギー、健康、農業、
生物多様性)を提起した。各分野を成功に導くには、
水が不可欠で、この世界首脳会議(WSSD)で、下水
道設備を利用できない人の割合を 2015 年までに半
減させるという目標が追加された。
(3)欧州連合水政策枠組指令(Water Framework
Directive、欧州内法律)
欧州連合は「共同体の水政策の行動に関する枠組
を定める指令」(Directive 2000/60/EC)として、欧
州連合圏内の水資源(表流水、河口水、沿岸水、地
下水)を保全するために統一的な水管理を行うこと
を目的に 2000 年 10 月に採択施行され、加盟国に以
下を課している。
■2003 年に河川を中心とした集水域管理区を設定し,
管理区ごとに管理所管組織を指定する。
■2004 年に集水域管理区内の水質状況や汚染原因の
把握と経済分析に着手する。
■2006 年にモニタリングネットワークを設置し,遅
くとも 2006 年中に関係情報と見解を開示して住民
を含む関係者の意見を求める。
■2008 年に集水域管理区ごとに管理プラン案を策定
し,2009 年に管理プランを確定する。
■経済分析と汚染者負担原則を踏まえて,水質浄
化・維持に要するコストを回収できる水利用価格を
2010 年までに導入する。
■遅くとも 2012 年までに 2021 年までの第 1 期対策
プログラムを実施する。この中で表流水については
2015 年までに目標を達成する。
■目標が達成できない場合には,2027 年を最終達成
期限とする第 2 期対策プログラムを実施する。
欧州連合は 1973 年以降、水質保全のために様々な
規制やルールが設けられたが、政策が細分化されす
ぎて実効が伴わないという反省から、本指令にて全
体的、統一的アプローチで管理するという方式に改
められた。このため、地表水と地下水を対象として、
河川を行政的、政治的境界で区切らず流域を管理対
象にしているなどの特徴があり、すべての水系を
2015 年までに良好な水質状態にするとの目標を掲げ
ている。
3.日本の水問題と国際化
水に関わる日本のあり方を、以下の3点に集約し、
現状と課題とともに分析した。
(1)日本の水ビジネスの現状
水ビジネスとして注目を集めているのは、上下水
道の運営管理にかかわる分野である。
水ビジネスでは、英仏が世界のシェアを大きくリ
ードしており、フランスのヴェオリア、スエズ、さ
らには英国のテムズウォーター(テムズウォーター
オーソリティが民営化されテムズウォーターユーテ
ィリティ株式会社となったが、2006 年 12 月に英国
のケンブルウォーターKemble Water Ltd に売却さ
れ、さらに、2007 年 11 月にオーストラリアの投資
会 社 マ ク ア イ ア ー グ ル ー プ Macquarie Group
Limited に売却)がある。
これら、各社の現状と、日本の動向を対比すると
以下のとおりである。
フランスは公共が財産権を保有し、運営を民に任
せる風土がある。160 年前、フランスは 3,600 の地
方に分割され自治が進められ水道事業が進められて
いた。ヴェオリアやスエズはその個々ついて水道事
業運営支援を営業し今日の基礎を構築してきた。結
果、1980 年にはフランス国内の水道事業をヴェオリ
ア、スエズ、サールの3社で80%のシェアを超過
するまでになった。各社は、ここで確立した技術を
背景に国際展開を開始したのである。
一方、日本の水道事業は主に公共が担当し、1 億 2
千万人に 32,000 億円の料金収入により運営されて
いる。これは、表-1 のスエズの給水規模に匹敵し、
直接の比較は必ずしも適当ではないが、15,000 億円
で運営されていることと比べると約 2 倍の経費が投
入されているとも言える。
表-1 水企業規模
企業
水部門売 水関連
上億円
従業員
15,000
72,000
1.スエズ(仏)
16,000
78,000
2.ヴェオリア
(仏)
6,000 15,000
3.テムズ・ウォター(英)
給水人口
百万人
125
108
70
また、2009 年 3 月のトルコ・イスタンブールでの
第 5 回世界水フォーラムにおいて、IBMは新たな
ビジネス分野として水管理を提案し、水とエネルギ
ー、交通で 11 兆円の事業展開の計画を発表した。
IBM は既に、日本の国土交通省河川局にも事業提案
を実施済みとのことで、その内容はデジタルセンサ
ーを水資源関連施設に配置しリアルタイムでのデー
タ収集と予測を基にしたストリーム管理を展開する
計画である。ストリーム管理とはリアルタイムデー
タを80%受信した段階で予測情報20%を加味し
て管理情報をアウトプットするというものであり、
モニタリングを行い、この20%部分の正誤を評価
し次ステップの管理情報を構築するもので、いわゆ
- 11 -
るフィードフォワード方式の管理モデルである。I
BMのビジネスモデルは、センサー、予測モデル、
衛星通信、
装置配置等を地域会社の EPC コントラク
ター(engineering procurement and construction、
エンジニアリング・資機材調達・建設工事など)と
ライセンス契約を結ぶもので IBM はマネジメント
と基幹技術開発を推進する事業展開である。
一方、日本の上下水道分野のビジネスを概観する
と以下のとおりである。
日本は、防錆管路開発、水道管ネットワークの IT
監視、漏水防止、配水運転管理、料金徴収システム、
高度浄化システムなど国際的に優れた固有技術を有
している。しかし、全体をシステムとして統合し、
水源から集落一軒一軒に対する安定して安全な給水
を司り、排水を収集処理して放流するまでの総合マ
ネジメント技術は、主に公共側に集約されており、
公共主体の事業モデルとして確立されている。そし
て、事業計画全体を立案し装置仕様を計画設計する
業務は発注者のパートナーとしてのコンサルタント
業務として分離され、それぞれの持ち分は固定化さ
れ、国際展開に向けるには困難なビジネス形態とな
っている。この形態を元国連環境審議官でグローバ
ルウオータージャパン代表の吉村和就氏はガラパゴ
ス化と揶揄している。それは、国内の市場規模に準
じた技術開発と提供、公共の計画に対応した事業規
模を確保する事により外敵(海外からの参入など)
と競合すると言うリスクを軽減し、特異な産業構造
(公共、コンサルタント、電気メーカ、建設企業等
でのシェア配分)を形成してきた事を指すものであ
る。しかし、昨今の人口構造変化、社会構造変化な
どに基づく水需要の変化は、この構造の維持に大き
く影響するとともに、特にアジアを中心とする国際
的なマーケット拡大への対応に、日本だけが乗り遅
れる原因となりつつある。つまり、要素技術(高度
な膜処理技術、運転技術、設計技術等)には対応可
能であるが、全体の計画立案と設備提供や運営管理
等の事業収入として最も大きな分野への参入がフラ
ンス企業等に対抗できず課題となるものである。水
ビジネスは将来110兆円が見込まれており、その
99%はマネジメントや運営管理であり、要素技術
に見込まれているものは1兆円にも満たないとされ
ている。事業の中心には日本のすぐれた技術が適用
されているにも関わらずである。今後は、公共とも
に官民一体となって国際展開する事が求められ、そ
のためのコンサルタントの出番が求められる。
2)国際化への課題と解決方法
では、日本が国際的なビジネス展開を進めるため
には、過去のガラパゴス化したビジネス手法にのみ
課題があったのか?
決してそうではなく、日本的論理によるビジネ
スマナーの改善、国際感覚の醸成、産官学による国
際意識の発揚、産官学での戦略的な対応など、日本
全体での取り組みが必須である。
1)日本の国際感覚
国際舞台でのビジネスに不可欠な要素は英語によ
る論理と PR 等による自己表現技術の両面があると
元国連や世銀の専門家で東京大学大学院新領域創成
科学研究科の中山幹康教授や韓国インチョン大学発
展本部長で環境工学の Choi Gey Woon 教授、さらに
は、IWRA の前会長で 2006 年のストックホルム水
大賞受賞者、第三世界水資源管理センター(Third
World Centre for Water Management)
の代表、Asit
K. Biswas 氏が指摘する。
英語による論理とは、ビジネスの展開マナー、国
際的な意思表現において YES/NO の明確な対立点
を明らかにしたコミュニケーションで代表され、日
本語に含まれる曖昧性を加味した論理とは大きく異
なり、日本語による教育を背景とする日本人にとっ
ては新たに習得の求められるマナーでもある。Choi
Gey Woon 教授はこの点を国際的なマインドとして、
2009 年 8 月のインチョン市における世界都市水フ
ォーラムにおいて開催された水ディベートの感想と
して、日本からの参加高校生の振る舞いを基に以下
のように述べた。
「日本の生徒は非常に几帳面で、資
料の準備とか事前打合せとかをまじめにやっている
が、なかなか、前に進まない、結論が出ない、時間
がかかるという問題がある。逆に欧州の学生は話を
すると、必ずしも内容、決定権は整理できていない
が、それぞれが考えて提案をするという形をとって
いるので、進み具合が早い」という特徴を上げてい
る。これなどは、まさに国際感覚の違いである。で
は、このような国際感覚をいかにして確保するか?
中山教授は、自分の領域に近い優れた英語の論文読
むことで感覚が身につき、多くは改善できるとして
いる。
PR に関しても各氏は指摘している。どんなに優
れたプロジェクトでも国際的に PR 出来ていないと、
広がりようがない。Asit K. Biswas 氏は、日本が昭
和 30 年代から 40 年代にかけて経験した首都圏東京
の水資源不足を克服する水計画は、現在の東南アジ
アにおける水資源計画に大変参考になる事例である
と指摘する。しかし、この事業結果は英語で PR さ
れていないことから、世界に全く行き渡っていない。
さらに、JICA のプロジェクトで実施されたプノン
ペンの水供給計画なども、優れた成果が得られてい
るが、国際的な PR が行われていない。プノンペン
の水供給計画は他の都市への適用を図るべきと
- 12 -
JICA に提案をしたが、ソフト展開よりもハード整
備に JICA 予算の重点が置かれていたことから実現
しなかった事も指摘された。PR は事業やプロジェ
クトの透明性を確保するとともに、優れた事例とし
て記録されてゆくという効果が得られる。日本のプ
ロジェクトを英語で PR する事は、国内から海外に
進展させるきっかけを得るものとなる。
2)戦略的な産官学連携
国際化において、世界各国の動向で最も優れた戦
略を有するのがオランダである。オランダは古くか
ら、大学教育という手段を用いて途上国はもちろん
のこと EU 近隣諸国からも留学生を受け入れて、教
育を通じてオランダ理解者を育成している。中山教
授の経験でも国際機関で活躍するコンサルタントの
多くがオランダ人であるケースが目につくという。
これは、オランダ政府の戦略そのもので、オランダ
での大学教育はすべ英語で行い、世界に開放る事に
より、国際的な大学となった結果である。また、韓
国では、同じく英語教育の進展、あるいは韓国イン
チョンの自由経済区域設定による国際企業の誘致に
伴い、韓国人材が国際的な環境の中でビジネスを推
進する事となり、結果、おのずと国際感覚が身につ
いてくるなどの効果が言われている。日本の場合は、
留学生が増大しているにもかかわらず、日本語での
授業を中心にする事により、日本人学生の国際化で
はなく、留学生の日本化が進展する結果となる。企
業の国際化を図るためには、大学も連携して国際化
に向けた教育が必要な理由である。
3)東アジアにおける日本の水問題での役割と貢献
水問題は食糧問題でありエネルギー問題である。
仮想水議論でも明らかなように、日本で大量に輸入
している牛肉、トウモロコシ、小麦などの生産には、
水の確保と密接に関連し、国際的な水問題そのもの
である。エネルギーの面でもグリーンニューディー
ル政策などによりバイオ燃料の開発、実用化が進め
られ、ブラジルや米国では大規模にトウモロコシを
原産とするバイオ・エタノール燃料が拡大し、これ
も、農地と水の問題でもある。
日本はカロリーベースで食糧自給率が40%であ
り、残り60%は輸入である。日本の水需要量は年
間約900億トンで、そのうち600億トンが農業
用水、150億トンが都市用水、並びに工業用水で
ある。さらに、輸入食料の生産にかかわる水は仮想
水として、およそ1000億トンが推計され、日本
では年間1900億トンの水が利用されている。そ
のうち、農業用水は国内外あわせて1600億トン
で、全体水需要量1900億トンの84%である。
柴田によれば、世界の穀物供給構造は、商業生産
されているのが150種類、44億トンで、そのう
ちの約半分はコメ、トウモロコシ、大豆、小麦であ
ると言う。そして、穀物の貿易量は年間およそ2億
トンで4.5%である。各穀物生産量の特色は次の
とおりである。
トウモロコシは世界全量の40%がアメリカで生
産され、その40%はエタノール生産の原料に利用
され、将来はさらに増強する計画である。さらに、
全世界の輸出量の70%はアメリカ生産からである。
大豆は生産も輸出もアメリカとブラジルとアルゼ
ンチンでほぼ100%を占める。そして、中国がそ
の50%を輸入している。
小麦は世界でたくさんの国が生産して輸出出来て
いるので比較的安定である。
日本は食料の60%を輸入しており、それは世界
の全生産量44億トンの4.5%しかない貿易対象
量2億トンの中からであり、いかに自国での生産量
が少ないかがわかる。
このような中、中国は年間5億3千万トン位の穀
物生産量である。その一方、日本はコメが800万
トン、小麦で80万トン程度の生産量で、多く見積
もっても年間1000万トンの穀物生産量である。
中国は人口で日本の10倍であるが、穀物生産は5
0倍あることがわかる。しかし、それでも中国は将
来の穀物不足を懸念している(ちなみに穀物生産量
5億トンで養える人口は30~35億人)
。
世界の44億トンの穀物生産量からすれば、穀物
1トンで年間6~7人が養えることから、原理的に
は260~300億人が養える。100億人を養う
のには15億トン程度で可能となる。従って、食料
問題は配分の問題である事がわかる。
日本は、生産量が1000万トンであることから5
~6千万人程度を養える環境である。このため、い
かにして輸入するかが課題である。日本の中での閉
じた食糧問題の環境から、アジアに目を開き、中国
や韓国とともにコメ文化の中で将来の食糧確保のた
めの共同備蓄、共同生産等の体制整備に努力を図る
べき時代であろう。すでに、韓国政府がモンゴルで、
日本がブラジルと共同実験を始めている農地開拓と
生産の実験を中国も含めて取り組むべきときであろ
う。
4.日本のコンサルタントの役割
日本では、まだ職種として存在していないが、こ
れから大事になると思われる職種がある。それは、
ロビーストである。
これまでは、行政が計画を立案し、それをコンサ
ルタントが技術的に支えるという体制であった。し
かし、日本も政権が交代し、本来の体制で議員が立
法を担当し、そのための情報調査や計画が不可欠と
- 13 -
なる。しかし、議員やそのスタッフだけでは調査や
企画の力量が十分ではない。そのための職種がロビ
ーストである。ロビーストの役割は、議員が立法に
必要な情報、これをインフォメーションと言う、を
提供するとともにロビーストが持ち込みたい案件、
それをアジェンダと言う、を提供する。従って、議
員にとって、案件を立法したいときは、ロビースト
を呼び込んで、彼らにとってのアジェンダは何か、
共通するインフォメーションは何かを仕分けする事
となる。現在は、行政(役所)が情報を持っていて、
アジェンダも、行政(役所)が立案している。その
仕組みが変わりつつある。ロビーストがいて、正し
い情報とアジェンダを提案していれば、もっと積極
的な結果が得られている事が想定できる。コンサル
タント会社の次の展開に、このロビースト活動があ
げられる。米国やヨーロッパにおいても、ロビース
トの多くはコンサルタント会社の業務であり、高度
な専門家や研究者の一部が担当している。
また、コンサルタントが国際的に活躍するには、
コンサルタントの人材が国際的な会議で基調講演を
担当したり、招待論文を発表したりが不可欠である。
特に欧米では、数多く見られる。日本のコンサルタ
ントでそれをやる人は少ないが、結果は事業に大き
く影響する。日本の資金を背景としていない事業で、
新しいフレームワークをそういう場で提案するとか、
議論をリードする役割を与えられるようなコネクシ
ョンを開拓するとかが可能となるからである。その
結果、会議参加者から、あそこの基調講演で、こう
いう事が提案された、それは、我が国に有効である、
と言うネットワークが広がり、新ビジネスにつなが
ることとなる。そういう所で活躍できる人を育てて、
積極的にそういう場に人を送り込むことが結果的に
は極めてコスト効率の高い事業展開方法となる。
色々なレベルで、様々な人が機会を得て発信してゆ
くという事が必要で、そういう結果が参加している
途上国の方々と繋がる機会に発展してくる。
さらに、水のビジネスには3つが考えられる。ひ
とつは上下水道、2番目は節水とかリサイクルと言
う水の高度利用のコンサルティング。そして、3番
目が貧困層向けのビジネスである。いわゆるベース
オブピラミッドを対象としたビジネスである。世界
全体では、まだ50億人位が貧困層で、ここを底上
げするようなビジネスが将来につながる。それは、
大規模と言うより、マイクロファイナンスであった
り、地域ごとの小さな発電であったりする。水ビジ
ネスでも小規模の貧困層狙いのビジネスが、あり得
る。年間所得が200ドルとか300ドルとかの絶
対貧困の地域でも、それを底上げするようなビジネ
スは社会貢献にもなるし、発展させれば、経済自体
のパイが大きくなってくる。
一方、水ビジネスの本流では、日本発の国際標準化
を目指すような、国際的なコンセプトを打上げるポ
リティカルな動き、そういうものを推進する事が必
要である。そして、水源の確保から汚泥処理まで一
貫して、事業として提案するような、総合的なマネ
ジメント事業が求められる。さらに、日本が、その
事業の中でトレーニングセンターをつくって5年間
ぐらい訓練して、事業の効率化まで提供する。水ビ
ジネスだからと言って、水だけではなく、エネルギ
ーと食糧と水、三位一体で進める事が今後の方針と
なる。国民の理解を得るためにも、工学やエンジニ
アリングは何をするとかという事を、一般の教育や
大学教育、社会への発信の中で実施されなければな
らない。コンサルタントの事業の一つである。
5.まとめ
昨今、水資源、水管理等の分野の事業・政策とも
大きく変化してきた。水資源の配分に関わる危機が
言われ、上下水道に関わる給排水事業、農業生産・
エネルギー獲得に関わる水資源確保に向け、国内外
での水政策の重要性が認識されてきている。
本研究では、既存の水政策に関わる国際的な動向
を既存の国際機関の報告や国際会議報告、書籍など
から整理するとともに、当該分野の著名人との意見
交換をとおして把握し、今後の方向をまとめた。そ
の結果、今後の水分野におけるコンサルタントのビ
ジネス展開の可能性、国際的展開の課題が明らかと
なった。
(1)国際化への対応
国際化が言われて長い年月を経過するが、今でも、
この課題が取り上げられるのは何故か?これまでは、
日本と言う地理的特徴、地政的特徴により、特に水
に関わる事業では、豊かな水資源と恵まれた国内市
場を背景に世界のリーダーたる地位を確保でき、ま
た関連する技術でも世界のトップを確保してきてい
た。しかしながら、それらは日本と言う特異な領域
での社会風土に基づくもので、背景にあった高コス
ト管理(例えば1億2千万人への給水事業が、スエ
ズは1兆5千億円で提供するのに対し、国内の水道
事業収入では3兆2千億円と2倍の高コスト)
、外資
参入の障壁ともなる規制の存在などが影響していた
ことは確実である。
今、世界各国の人口構成、経済活力、市場規模な
どが大きく変化し、日本も国内から海外に拡大して
産業を育成する時代となった。既に川崎市は民間企
業と連携してブリスベーン市の水道拡張事業に参入
し、大阪市がベトナムで事業開発を行うなど、官民
連携の新しいビジネスが立ちあがってきている。こ
- 14 -
れまでの企業単独での国際化ではなく官民あげて、
国際化に対応してゆく時代になり、この変化に対応
する事が官民双方の存続のポイントともなっている。
そのためには、教育システムに始まり、国際マイン
ドの獲得の仕組み作り、外資の誘致と協働による日
本の意識改革など早急の対応が求められる。
(2)新しいコンサルタントビジネス
日本の政治と行政の仕組みが変わり、官民連携で
の国際進出の一方で、かつて行政が主体となってい
た立法の機能が政治主導に変化しつつあり、ここに、
新たにロビーストとしてのコンサルタントのビジネ
スが求められる。新しい制度を創設するには、現状
の把握分析とデザインが不可欠で、それを専門家集
団としてのコンサルタントが、行政に提案するので
はなく、立法である議員に提案するビジネスの確立
である。欧米では当然のように議会に登録したロビ
ーストがロビー活動を通じて立法材料を議員に提供
している。日本でも、そのような制度を設けること
により、専門性が高く、国民の理解の得られやすい
法体系の整備が可能となる。このビジネスに対応す
るには、高度に専門性が高い事と広い見識が求めら
れ、コンサルタントの業界の中でも新たな取り組み
として見識を高める体制作りが必須である。
(3)今後に向けて
平成20年度、21年度と実施してきた水政策研
究も、今年度の有識者インタビューにより次世代に
向けた国際化並びにコンサルタントのビジネス等が
整理されつつある。その中には、新しい知見や提案
も含まれており、今後のコンサルタントの在りよう
に関わる事も含まれる。22年度には、これらを取
りまとめ、国土文化研究所の「政策アイディア」と
して、出版し、社会に意見を問うてみる試みにつな
げたい。
参考資料
1) 柴田明夫インタビュー抄録,2009 年 6 月,11 月
2) 吉村就インタビュー抄録,2009 年 7 月
3) 中山幹康インタビュー抄録,2009 年 7 月、11 月
4) Gey Woon Choi インタビュー抄録,2009 年 11 月
5) Asit K Biswas インタビュー抄録,2009 年 12 月
6) 吉村和就著,水ビジネス,角川書店,2009.11
7) 柴田明夫著,水戦争,角川書店,2007.11
8) Asit K Biswas 著,水のリスクマネージメント,
国連大学出版会,2002.7
- 15 -
―
公共事業民営化研究
土木インフラ分野への民間活力導入局面におけるビジ
ネスモデルに関する研究 ―
Research on privatization of public works
山下 幸弘*1
渡会 英明*2
千葉 雄一*2
今井 一彦*3
戸邉
巌*3
Yukihiro YAMASHITA,Hideaki,WATARAI,Yuichi,CHIBA,Kazuhiko IMAI,Iwao TOBE
本研究において、道路分野及び下水道分野のインフラを対象とした民間活力導入の動向を把握するととも
に道路事業においては、具体の事例を通して、事業の組み立て、民間事業者が実施する維持管理業務の留意
点、リスク分担の定量化を試みた。リスク分析においては、モンテカルロシミュレーションによる計量分析
を行い、この結果、被害の量的な把握がなされることとなり、定性分析ではできない意志決定情報が提供で
きることを確認することができた。
■キーワード:民営化、PPP、PFI、道路、下水道、リスク分析
1.はじめに
公共事業への民間活力導入の取組は、これまで様々な
事業を対象として実施され、その手法も指定管理者制度、
PFI、PPP など多岐に渡る。PFI は、平成 11 年年に法制
化され、
平成22 年6 月時点で336 件の事業をつみ重ね、
着実にその件数は増加している。
しかし、この事業の中身を見ると、学校や庁舎・宿舎
など建築箱物がほとんどであり、道路や上下水道など、
いわゆるインフラ分野での事例は、10 件に満たないのが
現状である。
一方、国土交通省が今年5月発表した「成長戦略」に
おいて、
「国土交通省関連の PPP/PFI 事業費について
2020 年までの合計で新たに 2 兆円実施する。
」としてい
る。
本論では、今後、急激に展開が予想されるインフラ分
野の民間活力導入手法について、最近の動向や今後の動
きを踏まえ、具体事例を通じた方策の研究を行い、想定
される事業構築を検討することを目的としている。さら
に、事業実施の際の当社のスタンスについて明らかにす
ることを目的として実施する。
2.インフラ分野への民活導入局面での当社の優位性
インフラ PPP/PFI 事業に対する当社の関与形態とし
ては、①行政側の支援として、民間活力導入のスキーム
検討などのコンサルティング業務を受託する形態や②民
間側の設計を受託する形態③民間側の事業主体に参画
(SPC への出資)する形態など想定される。
上記の形態における業務は、当社の従来の業務形態と
異なり、新たなマーケットにおけるショッピングリスト
の追加となるものと捉えることができる。
*1
この新たなマーケットに参画する業種としては、
「建
設コンサルタント」、「シンクタンク」
、「大手会計事務
所」などが想定される。このなかで当社が、インフラの
調査、計画、設計分野における技術力を有していること
は、当社の強みとなることは、間違いない。
本研究においては、インフラ分野において、民間活力
の導入が今後、近い将来進展する可能性が高い分野と考
えられる。
「道路分野」と「下水道分野」にターゲットを
絞って研究を行っている。
3.道路事業
土木インフラ分野のうち、道路事業を対象として具体
事例を通してその可能性について、検討を行った。
(1)具体案件の抽出
本研究において対象とする道路として、ミッシングリ
ンクといわれる。
全国高速道路網に
おいて、未整備と
なっている区間を
対象として研究を
行う。
出典:県知事会議資料(2010.5.)
このミッシング
リンクは、第一次
図 3-1 第一次高速道路のミッ
的高速道路ネット
シングリンク箇所
ワークの欠落箇所
と定義されるが、全国でのミッシングリンク箇所を図
3-1に示す。
この全国のミッシングリンクの中でも関西圏を見ると
図 3-2 の 箇 所 が 欠 落 箇 所 と さ れ て い る 。
技術本部 Headquarters Engineering Department
*2
東京本社都市システム部 PFI・PPP 室 Urban Planning Division, PFI・PPP Section, Tokyo Office
*3
東京本社水システム部下水道室 Water Management & Research Division, Sewerage & Wastewater Section, Tokyo Office
- 16 -
と想定。
④ 建設期間:10年、維持管理期間:30年
⑤ 大阪湾岸道路西伸部(8・9期)のネットワー
ク完成を前提。
(2)要求水準・性能規定の検討
インフラ事業を民間に実施させる場合においては、そ
の要求水準を明確に規定する必要がある。
以下に道路維持管理における業務規定のあり方につい
ての考察を加える。
出典:関西経済連合会
図 3-2 関西エリアにおけるミッシングリンク箇所
検討区間
本研究においては、
比較的距離が短く、
接続することによる
効果が大きいと見ら
れる「名神湾岸連絡
線」を対象として検
討を実施した(図
図 3-3 検討対象区間
3-3参照)
。
本事業は、主要幹線道路を対象としてPFI方式によ
り整備する手法で整備するものであり、今回想定した事
業の前提条件を表 3-1にまとめるが、主な条件としては、
以下のとおりである。
表 3-1 検討前提条件一覧
想定事業
の対象道路

名神湾岸連絡線
想定事業費




設計・建設事業費:約 400 億円(共通経費含む)
維持・管理費
:約 60 億円
マネジメント費
:約 6 億円(設計協議、用地補償等の CM 業務)
用地買収費は PFI 事業から除外(公共直接払い)

厳しい財政状況の中で道路インフラを早期に整備するためには、公的財政負担
の縮減するための新たな手法が求められる。
大阪湾岸道路西伸部(8・9 期)のネットワーク完成を前提に、名神湾岸連絡線
をモデルケースとして、PFI 方式による整備手法の適用を検討したもの。
当該路線は、物流機能の向上と既存道路へ集中する交通の分散効果で環境改善
が図れるなど、早期整備が望まれている。
想定される
事業の目的


(約 3.5 ㎞のうち、単路部の 2 ㎞を PFI 事業の対象)


設計・建設の期間:10 年間
維持・管理、運営の期間:30 年間


設計、建設、CM 業務、維持・管理を事業対象。
ただし、用地買収については、全体事業に与える影響が大きいため公共側の実
施。

サービス購入型 + 独立採算型
※サービス購入型のみで整備する手法も想定される。

BTO 方式 〔Build-Transfer-Operate〕
※民間事業者が建設し、完成直後に所有権を公共に移転し、民間事業者が維
持・管理を行う事業方式
道路規格等


延長:2km、幅員:18.5m、車線数:4 車線、
設計速度:80km/h
想定交通量

19,000 台/日
通行料金
の設定

普通車:100 円
想定される
事業の期間
民間事業者
の事業範囲
PFI 方式の
事業類型
事業の方式
大型車:200 円
① PFI方式の事業類型は、「独立採算型+サー
ビス購入型」でBTO方式を想定
② 建設は民間資金により実施。有料道路料金とし
1)道路維持管理業務の官民役割分担の考え方
道路管理は、道路の機能維持(点検、補修、日常管理、
雪寒対策)
、機能向上(環境対策、防震災対策)
、耐久性
向上(長寿命化対策)など、様々な業務で成り立ってお
り、利用者の安全・安心を確保するためには、どれも欠
くことのできない業務である。
これらの道路の維持管理業務は、民間事業者に事実上
の行為を委ねる事ができ、実際に多くの業務を民間事業
者に委託している。しかしながら、PFI 法により選定さ
れた民間事業者(以下ここでは SPC と呼ぶ)は、より
道路管理者の立場に近い立場で維持管理業務を行うこと
が期待される。そのため、本来道路管理者と SPC の間
での業務の官民役割分担について整理をしておく必要性
がある。
まず、道路計画策定などの「行政判断」を伴うもの、
占用許可、通行規制などの「行政権の行使」を伴うもの
については、本来道路管理者の権限と責任の下で行うべ
きである。
これに対し、SPC が行うことができる業務としては、
これら本来道路管理者が行政判断や行政権の行使を行う
にあたり必要となる管理者への「報告」
「立案」
「提案」
および行政判断や行政権行使の「要請」と位置づけるこ
とが考えられる。
本来道路管理者の行政判断や行政権行使に至る段階に
おいて、管理者の確認行為を経ている場合には、SPC が
関係機関(警察、自治体等)との実質的な協議・調整を
行うことは、事実上の行為に当てはまると考えられるた
め、直接行っても差し支えないと考えられる。
また、本来道路管理者の行政判断や行政権行使が法令
や運用基準などによって機械的に行うことができる内容
については、SPC が事実上の行政判断や行政権行使に係
る領域に踏み込むことも可能であると考えられる。
て徴収する収入から算定する投資限度額の範囲に
ついては「独立採算型」として維持管理費を賄い
つつ借入金の返済を行う。
③ 投資限度額を超える部分については「サービス
購入型」として、工事完成後に公共側の割賦払い
- 17 -
2)業務規定方針
道路の管理水準を性能規定で求めるのであれば、その
実施方法や頻度は、民間事業者がその道路特性などを総
合的に勘案して実際の業務を提案していく方が本来の姿
である。
3)大規模修繕
土木構造物の補修等については、民間事業者が行う補
修範囲を明確にする必要性がある。少なくとも、
「構造物
本体におよぶ大規模補修や取替えが必要となる場合は別
途協議事項とする」などといった規定が必要と思われる。
4)道路交通管制業務・緊急作業
高速道路や自動車専用道路では、自然災害や交通事故
等により通行止めとなった場合、道路利用者が閉塞され
た空間に足止めされてしまうことになる。このような事
態を想定した場合、速やかな通行止め解除に向けた作業
は道路管理者が直接行うのか、または道路管理者の指揮
の下で民間事業者が業務を行うのか、あるいは民間事業
者の独自判断に基づいて業務を行うのか慎重に検討を行
う必要性がある。
独立採算部分
(3)資金調達
従来方式では公共側が資金調達を行うが、PFI 方式で
は民間事業者が資金調達を行う。
民間事業者の資金調達はプロジェクト・ファイナンス
金利設定
が主であり、調達金利は
資金調達内訳
(スプレッド)
資本
事業のリスクに応じて
+8.5%
(5 億)
資本金
スプレッドが加算され
(30 億)
株主劣後
ローン
ることに加え、
民間の与
+3.5%
(25 億)
信力は一般的に公共に
+1.5
メザニンローン
劣ることから、
従来方式
~2.0%
(40 億)
に比べて高くなる。
優先ローン
+0.5%
本事業において想定
(317 億)
される資金調達の概念
図 3-4 資金調達内訳概要図
を図 3-4に示す。
サービス購入部分
(4)リスク分析
1)従来事業でのリスクへの対応
リスク分析は、 PFI 事業に限ったものではなく、従来
型公共事業においても、事業を推進する上で重要な要素
である。しかしながら、これまでの道路事業をはじめと
するインフラ事業においては、インハウスエンジニアが
それぞれの判断に基づいてリスクを予見し、それに対し
てマネジメントを行ってきたといえる。それは、個別の
案件に対して十分な効果発揮してきた側面もあるが、一
方では、体系的に実施されてこなかったことに起因する
問題も少なからずあったと思われる。これまでの道路事
業においては、その問題は、公共事業部門枠の中で費用
を明示しない形で吸収されてきたという見方も一方では
存在する。
2)民間活力導入事業におけるリスクへの対応
道路事業を PFI 事業等の民間活力を導入する方式で
行うとするならば、リスクの顕在化は場合によっては、
事業の継続性を大きく左右することともなりかねない。
- 18 -
これまでの PFI 事業においても、リスク分析の甘さが
指摘されてはきているが、その多くは箱物事業であった
ため、その影響は限定的であった。
道路事業においてはリスクの生起もたらす影響が箱物
事業と比べて桁が異なることもあり得る。このとから、
リスク分析の必要性がより重要となる。特に事業の成否
を考える上では定性的な分析には限界があり、どのよう
なリスクがどの程度発生し、生起した場合にはどの程度
のインパクトがあるのかを量的に把握するための計量分
析が不可欠である。しかしながら、我が国においては、
一般の公共事業においてはもちろん、PFI 事業において
も、リスクの計量分析を実際に実施した例はほとんどな
いと言える。
そこで、本研究では、名神湾岸延伸線に適用した場合
に想定されるリスクの特定化と定量化、さらにはモンテ
カルロシミュレーションを実施した。
3)道路事業におけるリスクの基本的捉え方
「リスク」の概念はそれぞれの分野において異なって
おり、共通した定義は存在しない。ここでは、社会資本
整備におけるリスクを総体的に捉え「目標の達成を阻
害し、結果として社会的損失を発生させるような変動
要因」と定義する。
リスクは①複数の潜在的な要因から一つの事象が発
生する、あるいは②一つの潜在的な要因から複数の事
象が発生するといった場合や、③ある事象が発生した
ことにより別の事象が発生するというように様々な要
素が相互に関連しあっていると考えられる。このリス
ク間の因果関係を明確に捉えるため、本研究ではリス
クを「要因」
、
「イベント」
、
「影響」の3要素から構成
されるものとして考える。
「要因」は、目標達成を阻害する潜在的原因となる事
象であり、経済的変化、自然災害、交通量変化などが例
としてあげられる。そして、この要因に起因して、一定
の確率で目標達成を阻害する直接的原因である「イベン
ト」が発生する。具体的には、用地交渉の難航や復旧工
事や維持管理業務の増大などである。そして、それによ
る結果としての「影響」が発生する。
4)事業段階とリスクの分類
土木学会の研究ではこれらの既存の分類を参考にし、
表 3-2に示す分類に基づき調査を行っている。事業の段
階を「測量・設計」
、
「設計協議」
、
「用地買収」
、
「工事段
階」
、
「供用後」の5段階に分けそれぞれの段階において、
「社会的」
、
「経済的」
、
「行政的」
、
「自然的」
、
「技術的」
、
「合意形成」の6つに分類される要因によって各イベン
トが発生していると捉える。前述のように、ある段階で
発生したイベントが他の段階において要因となるといっ
た相互の関係も、このように分類することにより明確に
把握することが可能となる。
以下に、要因とイベントの関係についてまとめたもの
を表 3-2に示す。
表 3-2 イベントと要因の関係(土木学会調査)
周辺地域への対応
予期せぬ地質条件変化への対応
地価埋蔵物への対応
近隣構造物への対応
Ⅳ
事故への対応
工事 自然災害への対応
関係機関への対応
予算措置変更への対応
法令等変更への対応
社会状況の変化
交通量の需要予測の差異
供用に伴う地域への影響による補填
Ⅴ
関連機関との調整による改修
管理中 自然災害による復旧作業
法令変更等への対応
構造物の劣化進行
○ ○ ○
○ ○ ○
○ ○
○ ○
○ ○
○ ○
用地交渉
Ⅲ
用地
買収
環境対策に関する協議
ルート・構造に関する地元協議
関係機関との調整
新たな開発計画に関する協議
自然環境に関する協議
埋蔵文化財に関する協議
用地交渉の難航
予算措置の変更
社会経済状況の変化
○
○ ○
事業目的等への反対
Ⅱ
設計
協議
ルート変更による作業のやり直し
構造変更による作業のやり直し
法令変更への対応
地下埋設物
・
設計
合意形成
大気・水質汚染、騒音問題
技術革新
Ⅰ
測量
工事による周辺地域への影響
イベント
技術的
事故への対応
地盤状況
自然景観・環境
自然的
自然災害への対応
上位計画の変更
他の民間主体との協議
他の公共主体との協議
社会経済状況変化
予算措置変更
行政的
関係法令の変更
地域分断
周辺開発
要 因
埋蔵文化財
社会・経済的
○
○
○
○ ○
○
○
○
○ ○
○ ○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○ ○
○
○
○
○
○
○
○
○
○ ○
果と 2 回の模擬リスクワークショップの結果を初期値と
し、高速道路含む担当者のこれまでの経験に基づいて修
正を行ったものである。この内容に関しても数度にわた
る点検を行った。その検討結果の一部を表 3-4 に示す。
表 3-3に示す。
②リスクの定量化
前節で抽出されたリスクに対して発生確率と影響度を
検討した。基本的は土木学会におけるアンケート調査結
果と 2 回の模擬リスクワークショップの結果を初期値と
し、高速道路含む担当者のこれまでの経験に基づいて修
正を行ったものである。この内容に関しても数度にわた
る点検を行った。その検討結果の一部を表 3-4に示す。
表 3-3 モデル路線におけるリスクの特定化(例)
○
○
リスク項目
○
○
○ ○
○
発生段階
要因(目標達成を阻害する原因)
イベント(何が発生するのか?)
他ネットワークの構築
採算性、計画交通量の見直し
協議・道路設計
地域分断に対する反対
機能復旧協議の遅延(行政不満、過
協議・道路設計
(機能復旧協議)
大・不当要求対応)
環境監視体制への要望
過大な設備設置の要求
○ ○
○
○
○
5)モンテカルロシミュレーションによるリスクの定量
化
道路事業には多くのリスクが存在するが、ここでは、
各リスクが設定された工程計画のもとでモンテカルロシ
ミュレーションにより分析し、事業全体での事業期間、
事業費用の定量化を行う。
リスク定量評価は期待値など分布の代表値によって定
量評価する方法と、モンテカルロシミュレーションなど
のシミュレーションによる方法があるが、複数のコスト
要素が複数の離散値や連続値を取る場合、確率分布の期
待値の計算は煩雑になり計算できない場合が多い。シミ
ュレーションではこれらの問題も比較的容易に扱うこと
ができ、また、リスク間の依存関係や相関関係を考慮し
た分析が可能である。モンテカルロシミュレーションで
はモデルに含まれている各々の確率分布から標本を無作
為に抽出することにより数百あるいは数千ものシナリオ
を生成する。各確率分布からは、分布形が再現されるよ
うに標本の無作為抽出が行われ算出されたモデルのアウ
トプット値の分布には、生起しうる値の確率が反映され
ていることになる。道路リスク分析においては先に述べ
たように各リスク項目の確率分布を与えた上で各工程の
期間、費用に反映させることにより事業全体の期間や費
用を定量的に求める。
6)モデル事業(名神湾岸延伸線)における適用
①リスクの特定化
本研究では先に述べた手順に従って、モデル事業であ
る名神湾岸延伸線を対象に、まず、リスクの特定化を行
った。リスクの特定に際しては、高速道路含む担当者と
の複数回にわたる綿密な事前打ち合わせにより原案を作
成し、それをもとにリスクワークショップを開催して抽
出した。その結果を整理したもの②リスクの定量化
前節で抽出されたリスクに対して発生確率と影響度を
検討した。基本的は土木学会におけるアンケート調査結
- 19 -
協議・道路設計
(常監局の設置)
他の公共事業(ネットワーク道路) 交通量の需要予測の差異
維持・管理
の計画変更⇒1割ダウン
物価の上昇(維持管理費5%UP) 社会経済状況の変化への対応
維持・管理
or 下落
施設設備の改造・技術革新
関係機関との調整による改修
維持・管理
(機械・電気・情報通信・システ
ム)
表 3-4 モデル路線のリスク発生確率と影響度(例)
リスク項目
イベント
事前リスク評価
発生確
影響度
影響度 ランキング
ランキング
率
(費用)
(期間)
(費用)
(期間)
①
②
③
④=①*
①*③
②*事業
(年)
費(百万
円)
他ネットワークの構築
0.05
0.1
1.0
13.5
0.05
地域分断に対する反対
0.25
0.06
1.0
40.5
0.25
0.15
0.1
0.6
40.5
0.09
0.25
0.1
―
150
0
0.25
0.02
―
30
0
0.25
0.1
―
150
0
(機能復旧協議)
環境監視体制への要望
(常監局の設置)
他の公共事業(ネットワーク
道路)の計画変更⇒1割ダウ
ン
物価の上昇(維持管理費5%
UP) or 下落
施 設 設 備 の 改 造・ 技 術革 新
(機械・電気・情報通信・シ
ステム)
③モンテカルロシミュレーション
(建設期間と費用変動)
上記のリスクの抽出とその基本数値の設定を踏まえて、
建設期間と総費用に関するモンテカルロシミュレーショ
ンを実施した。今回のシミュレーションは 1000 回実施し
ている。これは、同じプロジェクトを 1000 回実施したと
した場合の建設期間と総費用の分布を示すこととなる。
それぞれの場合において各リスクは設定された発生確率
のもとで乱数により生起が決まり、生起した場合の期間
超過や費用に関しては与えられた分布にしたがってこれ
も乱数で決定されることとなる。なお、当初設定した基
本数値を変化させることによりその感度についても比較
検討を行っている。
④建設期間変動分析
リスクによる総超過期間の確率設定及び影響度の分布
設定の感度を見るため、それぞれのパラメーターを変化
させてシミュレーションを実施した。その結果の分布図
の比較の為に重ねた分布図を図 3-5に示す。
青:基本ケース
赤:発生確率 25%のもののみ 20%
緑:発生確率 15%のもののみ 10%
図 3-5 建設期間の超過分布(発生確率変化の比較)
⑤総費用変動分析
リスクによる総費用額のシミュレーションを行った。
その際設定した発生確率と発生した場合の被害額の平均
値を表 3-5 に示す。モンテカルロシミュレーション結果
の確率設定及び影響度の分布設定の感度を見るため、建
設期間と同様にそれぞれのパラメーターを変化させてシ
ミュレーションを実施した。その結果の比較のため重ね
た分布図を図 3-6 に示す。
表 3-5 発生確率及び発生時の平均被害額(例)
要因
発生確率
リスク被害額
リスクの計量分析の一方でリスクマネジメント方策に
ついても検討をしている。より具体的なプロジェクトス
テージのもとで、個々のリスクイベントに対してのマネ
ジメント方策に関してさらなる具体化と実行可能性の検
討が必要である。
現段階におけるリスク対応策について表 3-6に示して
いる。また、官民のリスク分担に関しても研究会におい
て検討を行った。その結果を表 3-7に示す。なおこの表
の数値は、リスクイベントが生起した場合の被害額の平
均値に対しての分担金と言う形で示している。官民のリ
スク分担比率は数値の比となる。さらに、事業者の構成
員間の分担に関しても検討を行い、その結果を表 3-8に
示す。この表においても、数値は、リスクイベントが生
起した場合の被害額の平均値に対しての分担金と言う形
で示している。これらはあくまでも現段階での案に過ぎ
ないが、具体的な事業形成の初期設定として使える段階
にまで達していると判断される。
本研究では、道路事業におけるリスク分析に着目し、
モデル事業として名神湾岸延伸線をとりあげ、リスクワ
ークショップによるリスクの特定化に始まり、その定量
分析のための生起確率や影響度分の設定を実施した。
表 3-6 リスクイベントとその対応策(例)
リスク項目
対応策
イベント
周辺住民の事業反対
・了解を得られた箇所から順次着手し、未了範囲の絞
(現地立入り拒否)
り込みを行う。
・協議相手の確認。
(登記簿調査の実施)
・地区の対策協議会の設置
・発注者側が PI をしっかり行う。
自然景観、生態系への配
・パース等を作成し説明
慮の不備
・専門家へ意見聴取
物価の上昇 or 下落
・スライド条項の適用確認
(単品・物価スライド)
(百万円)
5%
270.0
地域分断に対する反対(機能復旧協議)
25%
162.0
環境監視体制への要望 (常監局の設置)
15%
270.0
他の公共事業(ネットワーク道路)の計画変
25%
600.0
他ネットワークの構築
表 3-7 官民のリスク分担(リスクが発生した場合の平
均被害額に対する分担金)(例)
リスク項目
更⇒1割ダウン
物価の上昇(維持管理費5%UP) or 下落
官・民のリスク分担(リスク分担率)
イベント
25%
120.0
金利の変動(4%⇒6%へ+2%UP)
25%
600.0
地域分断に対する反対
施 設 設 備 の 改 造 ・ 技 術 革 新
25%
600.0
(機能復旧協議)
官
民
(発注者)
(SPC)
10
30
分担の基本的考え方
・国の提示条件に関する計画の変更
リスクは、国
・公共支援リスクを設定
(機械・電気・情報通信・システム)
地下埋設物の変更
28
84
・付与条件として明示していない地
中障害物の処理によるリスクは、国
・公共支援リスクを設定
安 全 対 策 の 不 備
―
112
保険
(工事中事故、公衆事故
災害、供用道路への資機
材落下)
表 3-8事業者間リスク分担案(リスクが発生した場合の
平均被害額に対する分担金)(例)
青:発生確率 15%→10%、赤:発生確率 25%→20%、
緑:基本ケース
図 3-6 総費用の超過分布超過分布(影響度の標準偏差
の変化による比較)
⑥リスクマネジメント
- 20 -
リスク項目
イベント
民側の内部(構成員)リスク分担
SPC
PM
及 設計
建 設 工 維 持修繕
び 用 地 (コンサ 事
買収
他の公共主体との協議
ル)
(ゼネコン)
料金徴
作業・工
収・交通
事 (メン
管理
テ会社)
(会社)
―
22.8
7.6
―
―
―
―
―
―
111.9
―
―
―
62.9
21.0
―
―
―
―
125.9
62.9
62.9
―
―
―
―
―
111.9
―
―
(交差、機能復旧構造)
工事資機材盗難、放火な
ど
他の公共主体との協議
(法令に基づく手続き)
他の公共主体との協議
(受委託協定締結)
安 全 対 策 の 不 備
(ライフラインの損傷
事故)
そして、そのデータを用いてのモンテカルロシミュレ
ーションによる総費用及び建設期間の超過分析を行った。
その際、確率及び影響度分布のパラメーターの感度分析
も実施している。その結果、計量分析をすることにより、
被害の量的な把握がなされることとなり、定性分析では
できない意志決定情報が提供できることを確認すること
ができた。
一方、収入(下水道使用料単価)は相対的に小さくなる
傾向にある。
下水道事業をめぐる経済的環境について全国の大勢を
総括すれば、概ね次のとおりである。
・1990 年代を中心に積極的な建設投資を続けてきたた
め、汚水処理費用に占める起債元利償還費の割合が非
常に高くなっている。
・自治体の財政難により、一般会計繰出金、とりわけ
基準外繰出金の削減圧力が高まっている。
・下水道使用料は公共料金として税金の色彩を帯びる
ため、これを原価に見合うレベルまで引き上げること
は容易ではない。
4.下水道事業
下水道のわが国の普及率は、平成 20 年度末で 72.7%と
なり、建設の時代から維持管理の時代となってきている。
下水道は、人々の日常生活や社会経済活動を根底から支
える社会基盤であり、一日たりとも機能停止の許される
ものではない。したがって、維持管理の質を確保しつつ
そのコストを縮減し、効率的に維持管理を行うことは、
地方公共団体の厳しい財政状況に鑑みても、現下の緊急
課題の一つであり、管理の適正化と経営の安定化への取
り組みが必要とされている。
下水処理場の維持管理等においては、従来から民間委
託が行われてきている。下水道の維持管理コストの主要
部分を占める下水処理場の維持管理は、件数で約 9 割以
上が民間事業者に委託されているが、あらかじめ定めら
れた仕様に基づき委託がなされているため、業務の効率
化・コスト縮減が図りにくい状況にある。
こうした状況を改善することが喫緊の課題とされてお
り、その一方策として、性能発注を基本とした包括的民
間委託方式の導入による維持管理業務の効率化・コスト
縮減が期待されている。
(1)下水道事業の現状と包括的民間委託の状況
平成 15 年度末における下水道事業債の借入残高は 33
兆円である。これは、公営企業債の借入残高全体の約 5
割にあたる。また、雨水分と汚水分を合わせた下水道管
理費のうち、起債元利償還費が約 7 割を占めている。
中小市町村においては供用開始後間もない団体も多く、
経営的に安定していない面(普及率や接続率)も考慮に
入れる必要があるが、人口規模が小さくなるにつれて、
相対的に支出(汚水処理原価)が大きくなる傾向にある
- 21 -
図 4-1 地方公共団体の借入金残高の推移
図 4-2 下水道管理費に占める起債元利償還費の割合の
推移
図 4-3 汚水処理原価と下水道使用料金
上記のような非常に厳しい財政状況により、性能発注
を基本とした包括的民間委託方式の導入による維持管理
業務の効率化・コスト縮減が期待されている。
包括的民間委託に関しては、国土交通省では平成 13 年
4 月に
「性能発注の考え方に基づく民間委託のためのガイ
ドライン」を公表している。また、平成 15 年 3 月 28 日
には、
「規制改革推進 3 か年計画(再改定)」において、こ
れを推進する旨の閣議決定がなされている。これらを踏
まえ、国土交通省では、平成 16 年 3 月 30 日付けで「下
水処理場等の維持管理における包括的民間委託の推進に
ついて」
(国都下管第 10 号、下水道管理指導室長通知)
を通知し、包括的民間委託の実施上の留意点等を周知す
るとともに、包括的民間委託の積極的な推進を要請して
いる。
平成 19 年度末現在における包括的民間委託の導入済
は、103 自治体、134 処理場である。
図 4-4 包括的民間委託を導入した自治体
- 22 -
また、平成 15 年 6 月 13 日に公布された「地方自治法
の一部を改正する法律」において、これを民間事業者一
般に容認し、公の施設の管理に民間の能力を活用しつつ、
住民サービスの向上を図るとともに、経費の節減等を図
ることを目的とした“指定管理者制度”が創設され、同
年 9 月 2 日に施行されている。
これを踏まえ、国土交通省では、平成 16 年 3 月 30 日
付けで「指定管理者制度による下水道の管理について」
(国都下企第 71 号、下水道企画課長通知)を通知し、下
水道においては、排水区域内の下水道の利用義務付け、
悪質下水の排除規制等の下水道管理者が行うべき公権力
の行使に係る事務等については、指定管理者制度は適用
できないが、下水処理場等の運転、保守点検等の事実行
為については、指定管理者制度を活用することなく業務
委託を行うことが従前どおり可能であるほか、委託する
管理の内容に応じ指定管理者制度によることも可能であ
ることを周知している。
PFI事業では、国庫補助金を受けることや、公共側
の起債が低利であることから、現在のところ、BTO、
DBO、DBに限られている。
当初、政令市での案件に限られていたが、改築更新工
事のDB、DBOを中心に一般市にも広がっている。
表 4-1 今後包括的民間委託を実施又は予定している
自治体の例
都道府県名
都市名
予定年度
備考
北海 道
北海 道
北海 道
青森 県
岩手 県
宮城 県
山形 県
茨城 県
茨城 県
群馬 県
埼玉 県
千葉 県
千葉 県
千葉 県
帯広市
美幌町
洞爺湖町
八戸市
花巻市
栗原市
寒河江市
古河市
結城市
館林市
飯能市
(江戸川第二 )
茂原市
習志野市
H2 3
未定
未定
H2 1
未定
H2 2
未定
未定
H2 1
未定
H2 1
未定
H2 3
H2 1
H20~H22 複数 年契 約を試行
検討する
検討中
委託約 40 件の半数 程度をレベルⅢで
導入検討中
農集を含めて予定
性能発注の検討 中
指定管理者とし て実施予定
H21 実施を目指す
研究中
神奈 川県
鎌倉市
H2 2 以降
神奈 川県
逗子市
未定
庁内検討中
長野 県
(千曲上・下流、犀
川安曇野)
H2 1
H18 から県公社で試行 中、H21 から諏訪
湖を含め本格実施
民活によ る管理を研究中
江戸川第一 STP 供用後に一括
目途
現契約(H1 8 締 結) の解約協議成立次第
長野 県
上田市
未定
静岡 県
島田市
H2 1
静岡 県
焼津市
H2 1?
当初 H20 予定
三重 県
四日市市
H2 4
日永 STP 第 4 系の稼動以降
兵庫 県
洲本市
H2 1、H23
H21 に一 部、H23 に全面実施
岡山 県
倉敷市
未定
将来的な包 括委 託移行を視野に入れて
組織を見直し
導入検討を将来的 に実施
岡山 県
玉野市
未定
広島 県
呉市
H2 1
広島 県
大竹市
H2 2?
H22 まで に完全民間 委託
山口 県
周南市
未定
民間的経営手法 について調 査研究
愛媛 県
宇和島市
H2 1
福岡 県
大牟田市
未定
熊本 県
益城町
H2 1
宮崎 県
都城市
未定
鹿児 島県
日置市
H2 2
民間的経営手法 の導入 に向け検討
H22 から開始されるよう努める
計 32 団 体、H 21 導 入予定 10 団体
表 4-2 下水道事業の契約方式の例
自治体
東京都
事業名
森ヶ崎水処理センター常用発電
方式
BTO
期間
H14~H36
東部スラッジプラント汚泥炭化
DBO
H17~H38
清瀬水再生センター汚泥ガス化炉
DBO
H20~H41
芝浦水再生センター再構築に係る上部利用
BOO
H21~H51
合築ビルに係る土地
賃貸借
横浜市
改良土プラント増設・運営
BTO
北部汚泥資源化センター消化ガス発電設備整 BTO
備
H15~H25
H20~H41
大阪市
津守下水処理場消化ガス発電
BTO
H18~H38
戸田市
新曽ポンプ場更新
DB
H19~H22
福井市
佐佳枝ポンプ場更新
DB
H20~H22
志木市
志木中継ポンプ場設備機器等更新
DBO
黒部市
下水道バイオマスエネルギー利活用施設整備 BTO
運営
大牟田
市
千葉市
北部浄化センター改築更新
DB
中央雨水ポンプ場上部利用
BOO
H21~H26
H21~H38
H21~H22
H21 より 30~50 年間
(提案による)
合築ビルの区分所有に
係る定期借地権を設定
広島市
西部水資源再生センター下水汚泥燃料化
DBO
H21~H43
(2)下水道事業の課題と今後のシナリオ
下水道事業の民営化には次の課題があると考えられる。
・現行の下水道法
現行の下水道法は、第 3 条(管理)
、第 20 条(使用料)
、
第 34 条(補助金)の規制により、主たる下水道の管理は
「地方自治体」に委ねられている。また、事業の財源の
一部である「下水道使用料の設定・回収」も「地方自治体」
に委ねられている。さらに、補助金投入の観点からも、
その施設の民間への譲渡等は平等性の観点から困難であ
ると考えられる。
- 23 -
・下水道事業の財政状況
他の地方公営企業に比べて、事業規模は多く、外部委
託は進んでいるが、その実、多くの財源を一般会計から
の繰入金で賄っている現状がある。下水道は社会インフ
ラとして重要ではあるが、「非常に金が掛かる事業」であ
り、また、その「料金回収は困難」であり、相当に効率
的な事業運営を行う必要があると想定でき、民営化に参
画する企業に対してそのアピール効果が少ないと考えら
れる。
・地方自治体管理者の性質
下水道事業に関わる地方自治体の管理者の中には、民
営化を「官の領域が民に奪われる」というネガティブな
視点で見る人もいるという話も聞いており、このような
性質が民営化事業への転換を遅らせている一要因である
と考えられる。
・民営化の契約、その基準等
日本企業は維持管理技術では水メジャーに劣らない技
術をもっているものの、契約などのノウハウの面では遅
れている側面がある。
また、民営化の契約や、サービス内容の水準において
も、充分に整理されていない状況である。
・民営化に対応できる企業数
民営化に対応できる企業は、その実績や企業規模から、
その数は少ない状況である。
下水道における民間化は、その事業の特性、下水道法
の規制やその収益性から、海外の水メジャーのような多
彩なノウハウをもつ日本の企業が育つまで、相当な時間
を要するものと考えられる。特に、終末処理場における
水処理系統の管理は、地方ごとの特性があり、サービス
対象者や公共用水域に多大な影響を及ぼすことが想定さ
れることから、さらなる時間を要するものと考えられる。
よって、民営化できる事業は、現時点では(短期的に
は)下水道事業の中の部分的な項目となると想定される。
特に、近年、下水道バイオマスの利活用は電力・ガス業
界から注目されており、その民営化が加速するものと考
えられる。今後、短期的に下水道事業の中で民営化がで
きると考えられえる事業は次のものが考えられる。
・下水道管網の維持管理事業
・終末処理場の一部維持管理事業
・ヒートポンプ事業
・処理水の再利用事業
・バイオマス事業
・し尿・浄化槽等廃棄物処理との共同処理 等
長期的には、全国的な財政事業の悪化から、欧米にお
ける民営化の進展状況を踏まえると下水道施設、設備の
改築・更新などを契機として、維持管理業務の民間委託
の拡大・長期化、民間委託範囲の拡大、広域化・統合化
などの包括的な民間委託が導入される可能性が考えられ
る。
1. 全国の下水道普及率は 72.7%(H20 末)となって
いるものの、人口 5 万人未満の都市の普及率は
43.8%である。今後、新設は小規模施設が中心と
なり、技術力もなく、財政規模も小さいことから、
広域化、共同化な効率的な事業運営が求められ
る。
国、地方自治体の財政の悪化
2. 1970 年の第 64 回国会(いわゆる公害国会)を契
機に、急ピッチに下水道整備が推進され 40 年を
経過しようとしている。大都市を中心に改築・更
新が増大し、効率化、省力化、さらには高齢化な
どに対応する施設へと変化していく。
下水道事業の効率化
3. 汚泥の広域化が進み、さらにし尿・浄化槽廃棄物、
ゴミ焼却など環境関連の類似施設の共同化、一体
化の管理が求められる。
4. 高度処理と処理水の再利用が図られると共に、処
理施設の有効利用化が進み、これら施設・設備の
建設や従来の維持管理に加えてその領域が拡大
する。
ライフサイクルコストの観点
からのコスト縮減
5. 改築や更新などを契機に、直営施設の民間委託へ
の移行が進む。
6. 省エネルギー化、省力化など効率的な施設へ移行
していく。これら施設の計画、設計、建設、維持
管理も多角的な幅広い、高度な技術が求められ
る。
民間活力の活用
図 4-5 考えられる民営化のシナリオ
(3)民営化業務に向けての今後の対応
下水道事業では、先に示したシナリオにより、今後は
「民間委託(アウトソーシング)の拡大」として、従来の
発注より、さらにその範囲、規模を拡大して民間企業に
アウトソーシングされることが想定される。厳密には民
営化とは言えないが、地方自治体は従来の人工ベースの
清算主義の発注に代えて、コンサルタントやメーカー、
建設及び維持管理業者のコスト縮減等の提案や手法を民
間の責任で許容していく必要があると考えられる。建設
コンサルタントの業務としては、図 4-6 に示すものが考
えられ、今後、事業展開を睨みながらに表 4-3 示す対応
を行っていく。
ション契約及びこの形態に近い形で多数の業務が発注さ
れる可能性が高いと考えられる。
下水処理の根幹をなす事業(根幹の水処理、汚泥処理
施設等の建設・運営)は、下水道法の改正が必要となる
ことや、民間委託へのリスク管理の議論を深める必要が
あることから、数年以内に実施されることはないと考え
られる。
ただし、ヒートポンプや処理水の再利用事業、バイオ
マス事業等については、地球温暖化への対応、省エネル
ギー対策への対応として、事業自体の実績や研究は進ん
でいる側面があり、今後、コンセッション契約のみなら
ず、PFI事業化へ発展する可能性は非常に高いと考え
られる。
これら下水道事業がPFIとして事業化された場合に
は、建設コンサルタントは「アドバイザー」としての発注
支援、又はSPC(Special Purpose Company:事業を
行うために設立される事業会社)下の設計会社の役割が
考えられる。
表 4-3 民営化業務に向けての判断基準と対応の方針
項目
全般
計画
判断基準
対応方針
顧問技術士
□対象となる自治体における過去の計画から設計の諸元及
□全国的に実例が少ない(な
びその経緯を把握しているか。
い)ことから、暫くはその動向を
□下水道業務全般(海外の情報、政策も含む)における知
探る。様子を見る。
識、経験が必要
流総計画
□対象流域の知見はあるか
□下水道計画全般に精通しているか
□発注先の資料(整理)の状況が把握できるか
□業務実績は少ない
□慎重に対応する
基本構想
特になし
□問題なし
全体計画
特になし
□問題なし
認可計画
特になし
□問題なし
基本設計
特になし
□問題なし
詳細設計
設計
□対象となる施設の規模が把握できるか
処理場 □発注先の計画及び設計諸元の資料の状況が把握できる
か
□業務実績は少ない
□慎重に対応する
ポンプ場 特になし
□問題なし
管きょ
特になし
□問題なし
工事管理
特になし
□問題なし
台帳整理
特になし
□問題なし
現状評価
□発注先の現状及び計画の資料の状況が把握できるか
□発注先の財政的な資料の整理状況が把握できるか
□ある程度の方針が定まっているか
□財務関係に詳しい技術者を確保できるか
□発注者の資料の整理状況、
要望を事前に的確に捉える必
要あり
□知見が少ない
□暫くは様子を見る。
施設統合計画
□計画範囲は明確か
□ある程度の方針が決まっているか
□下水道施設の現状及び計画の資料は整理されているか □対象自治体の動向、情報を
□【農集、漁集との統合の場合】現況及び計画の資料が整 収集することができる
理されているか
□積極的に対応する
□【汚泥処理の統合の場合】汚泥処理性状等のデータが整
理されているか
使用料の検討
□現在の回収率が把握できるか
□使用量算定のための、新たな知見があるか
□ある程度の方針が定まっているか
□知見及び参考文献が少な
い。
□暫くは様子を見る。
中長期経営計
画
□上記資料は整理されているのか
□ある程度の方針が定まっているのか
現状評価
□現状の維持管理方法、体制が確認できるか
□過去及び現状の維持管理費用が把握できるか
□ある程度の方針が定まっているのか
【維持管理】
維持管理計画
□業務範囲が明確に定まっているのか
□上記資料の収集が可能か。整理されているか。
□資料が確実に手に入るのな
ら対応は可能
□発注者の資料の整理状況、
要望を事前に的確に捉える必
要あり
□知見が少ない
□資料が確実に手に入るのな
ら対応は可能
現状評価
民営化計画(可
能性の検討)
□対象施設又は業務範囲が明確に定まっているか。
□現状及び計画の資料を収集することができるか。
□民営化に詳しい技術者(PFI・PPP室)を確保できるか
□先進的な情報を収集すること
ができる
□積極的に対応する
コンセッション
契約導入の検
討
□海外及び国内の先進事例を収集することができるか
□民営化に詳しい技術者(PFI・PPP室)を確保できるか
□慎重に対応する
アドバイザー
□業務範囲は明確か
□建築(一級建築士)、財務(税理士等)、法務(弁護士)、学
□業務規模、社外人員、社内人
術(学術経験者)の人員の確保は可能か
員の確保等の確認が必要
□可能性調査の資料の収集は可能か
□慎重に対応する
□事例及び参考となる資料の収集は可能か
□民営化に詳しい技術者(PFI・PPP室)を確保できるか
設計会社
□業務範囲は明確か。施設規模は明確か。
□可能性調査の資料の収集は可能か
□事例及び参考となる資料の収集は可能か
□民営化に詳しい技術者(PFI・PPP室)を確保できるか
外部委託の拡大
顧問技術士
【計
画】
【設
計】
流総計画
基本設計
基本構想
詳細設計
経営
全体計画
処理場
ポンプ場
管きょ
民営化計画
(可能性の検討)
調
査
解
析
実
験
処理水再利用、
汚泥有効利用施設等
工事管理
台帳の整理
認可計画
【経
維持
管理
営】
現状評価
維持管理計画
経営改善計画
施設統合計画
コンセッション
契約導入の検討
民営化
【民営化】
使用料の検討
中長期経営計画
アドバイザー
凡
例
従来業務の見直し
設計会社
新たな業務
図 4-6 新たな業務フロー
また、処理場、ポンプ場、管渠の維持管理については、
膨大な施設量を年々減少する地方自治体の職員数だけで
は管理することができない現状があり、今後、コンセッ
- 24 -
□業務規模、社内人員の確保
等の確認が必要
□慎重に対応する
5.まとめ
本研究において、道路分野及び下水道分野のインフラ
を対象とした民間活力導入の動向を把握するとともに道
路事業においては、具体の事例を通して、事業の組み立
て、民間事業者が実施する維持管理業務の留意点、リス
ク分担の定量化を試みた。
道路事業におけるリスク分析においては、モデル事業
として名神湾岸延伸線をとりあげ、リスクワークショッ
プによるリスクの特定化に始まり、その定量分析のため
の生起確率や影響度の設定を実施した。そして、そのデ
ータを用いてのモンテカルロシミュレーションによる総
費用及び建設期間の超過分析を行った。
その結果、計量分析をすることにより、被害の量的な
把握がなされることとなり、定性分析ではできない意志
決定情報が提供できることを確認することができた。こ
の道路分野を対象としたリスクの検討、定量化などの考
え方は、下水道や港湾などその他のインフラ関連事業へ
応用が可能である。
本研究は、昨年度より実施し、関連する知見の蓄積を
図ってきたところである。これらの活動の成果として、
国土交通省が募集していた「PPP・PFI 事業に対する提
案」を高速道路会社より提出することができ、さらに「横
浜市下水道事業への民間活力導入検討業務」や国土交通
省道路局において実施している
「道路PPP検討関連業務」
を受注するなどの成果に結びつけることができた。
今後、地方自治体の財政状況、職員数の減少等から民
間活力の活用は行政の喫緊の課題であることは変わりな
く、事業の効率化を図るため、民間委託(アウトソーシ
ング)を含めた民間活力導入の拡大が想定される。
我々、建設コンサルタントは従来業務で培った技術力
を基礎に、拡大される業務範囲と顧客ニーズを的確に
捉え、その応用力を発揮することが求められるとの認
識をもち、本研究については、
「事業化投資」分野の研
究開発投資の「PFI・PPP事業主体」に移行し更
に発展させて行く予定である。
- 25 -
地域課題の発掘と解決に関する自治体との実証的研究
Corroborative research with Local Governments on exhumation and resolution of Regional issues
伊藤義之*2
Yoshiyuki ITO Tsukasa GORAI
原田邦彦*1 岡村幸二*1 金子 学*1 大堀勝正*1
牛来司*2 中島裕之*2 長南政宏*2 飯田哲徳*2 水本崇*2
Kunihiko HARADA Kouji OKAMURA Manabu KANEKO Katsumasa OHORI
Hiroyuki NAKASHIMA Masahiro CHONAN Tetunori IIDA Takashi MIZUMOTO
これまで根拠としていた常識や慣習が揺らぐ変化の時代において,それまでの価値観を転換して新たな価
値の形成を図ろうとする時,多様な状況の経験と失敗が必要となり,それらを経た中から、その時代に適合
した価値観が生まれてくる.この研究は,これまでの“与えられたテーマに対するコンサルティング手法”
を転換し,“日常の中からの問題の発掘と解決策の提示”といった“無形的な業務(シンクタンク業務)”に
価値が形成されるか,また,それによって成功報酬を受けるような新たな事業モデルは構築可能なのかにつ
いて模索するものである.本年は,研究条件に適合し,かつ研究合意の取れた①兵庫県篠山市における財政
再建を背景とする将来まちづくり,②広島県福山市鞆の浦における道路景観・環境・地域活性化に関わる紛
争処理,③神奈川県横須賀市における市街化区域内限界集落と積極的活用策,その実施概要を報告する。
キーワード;新たな公, 縮退のまちづくり, 紛争解決, 住機能, 住み替え
1.研究背景
1.1 問題意識
持続可能な地域づくりに向け,自治体経営は大きな岐
路に立たされている.財源不足に加え,今後は大きな税
収の伸びも期待できない.その一方で,公共サービスの
質は確保しなければならないという状況にある.人員の
削減や事務事業等の合理化,一般市民の参画促進等,様々
な取り組みに一層注力するだけでなく,合理的かつ実体
的な市民サービスの実現に向けた解決策やアイデアの提
案が今後益々必要になっている.
これらの問題は,単にある分野の問題だけを取り出し
て考えられるものではない.行政経営全体や市民,外部
組織との取り組み方を考え,何を行うことが解決の近道
となるか総合的に考える必要がある.場合によっては,
問題解決に取り組む職員の育成や質的向上といった人材
育成の視点から対策を行うことが近道となるかもしれな
い.それは,今後求められる問題解決が,社会全体の動
き(マクロ)⇔人間個々人の状況や心のあり方(ミクロ)
の間,そして既に確立している諸分野の間で,柔軟かつ
横断的な思考とコミュニケーションを必要とする問題だ
からである.持続可能社会形成にとっての問題の核心は,
長く社会に滞留する“閉塞感という個々人の心のあり方”
や“本当の生活の満足”といった価値観にあるのかもし
れない.そう考えると,地域政策の総合的な評価は,地
域住民個々人の心の中にある“希望や期待”感が醸成さ
れたか否かといった心を評価軸とする必要がある.
したがって,前出のような個別具体的な課題が(適切
に)処理されたとしても,地域社会全体が元気にならな
ければ,真に効用を持った施策とは言えないということ
でもある.人間個々人の幸福と社会全体の幸福の調和を
意識した政策立案を行うことが重要になる.
一般的な受託業務形式は,委託者自身の動機付けに基
づいた「焦点化された問題の整理」と「解決策の検討」
等を行うコンサルティング法である.焦点化された問題
*1
*2
が確実に処理されるという利点はあるが,マクロな問題
解決の視点から見れば解決策が既成分野に硬直化し,結
果として隙間(だが,核心という場合もある)の問題は
取り残される可能性が指摘されている.また,合意形成
の重要性が認識されるに従って,個別のテーマ(自治体
からの提示テーマ)内で,類似した検討形態は認められ
るが,あくまでも受託形式が前提であり,これを前提と
しない形で自治体組織に直に参画するような事業例は見
当たらない.
1.2 研究の狙い
そこで,本研究では,
“与えられたテーマに対するコン
サルティング手法”から転換し,自治体の問題解決組織
(プロジェクト)に参画するプロセスを通じて,技術的
なノウハウだけでなく,第 3 者として全体的な視点から
提案を行うことにより,真の課題発見(潜在的)や解決
策模索を導き,結果として政策評価を高め成功時報酬を
受けるような事業を考えてみたい.
事業化の視点の 1 つは,
“過程を含めた複合的な解決
策”の提案である.ある交通システムを検討しようとす
る場合,当該問題を担当する部門のみで対応しようとす
ると,特殊な条件があったとしても,システム内に全て
収納しようとするため,対応するための費用負担により
採算が成立しないといった問題が生じる.中山間地域に
おける交通改善では,高齢者等の生活基盤改善の問題と
共通する箇所があり,これを解決するためには基本シス
テムの他に,条件外のケース(例えば,遠隔僻地・高齢
者など)を,福祉施策や官民協同組織等に対応させる方
法が考えられる.このように,複数の部門にわたる複数
の問題を並行的に検討することで,簡便で経済的な解決
策を導き,支援していく.
これらの過程で最も難しいのは,クローズアップされ
た問題から解決方法を考えることではなく,様々な分野
を俯瞰した上で,地域抱える真の問題を発見することで
ある.また,解決策も当事者が納得するものでなければな
国土文化研究所 Research Center for Sustainable Communities
東京本社 都市システム部 Urban Planning Division,Tokyo office
- 26 -
らない.そこで,2 つ目の視点として,自治体職員と共同
である事業(作業)を行うことにより,日常的なコミュ
ニケーションを取りながら,潜在する問題を発掘し,当
事者が納得する解決策を共に考える過程づくりが必要に
なる.
これらのことを一連の事業としてできるかを検討し,
そこから得られる知見を活かして,将来の(質的に高度
化した)コンサルティング像を検討することが本研究の
狙いである.
2.本年の研究目的
以上の考え方を踏まえて,研究初年の本年は,共同研
究相手となる自治体(主に市町村)との信頼関係づくり
を進める.そして,当該自治体が直面(表面化)する問
題の解決に向けて共同作業を実施していくことにより,
表面化した問題の根底にある真の問題を発掘して,総合
的な解決策を進める上での足場を作ることによって,事
業化の前提となっている“無形的な業務(シンクタンク
業務)
”についての価値観の共有を進める過程づくりが第
1 の目的である.そして,それらの事業化に向けて自治体
の事業運営等に密着することで,研究従事者自身の視点
で問題発掘や解決策模索を行うスキルを OJT によって身
につけていくことも第 2 の目的とした.
3. 研究方法
研究の実施は,以下の段階を経て選定した各プロジェ
クトを個別的に進行させる方法を採った.
・現実に直面する問題があって,専従職員に共同研究
へ参画する(幹部からの)同意が得られる自治体(主
に市町村)の発掘.
・専従職員との議論を通じた“無形的な業務(シンク
タンク業務)
”についての価値共有の促進.
・研究推進のための共同研究締結や研究会創設,推進
方法の確認(議会説明対策を含む)
.
その結果,初年度は 3 つの自治体から同意が得られた
ことから,次のプロジェクトを進めることとした.
①兵庫県篠山市における財政再建を背景とする将来ま
ちづくりに関わる研究(総合計画策定事業支援)
②広島県福山市鞆の浦における道路景観・環境・地域
活性化に関わる紛争処理に関する研究
③神奈川県横須賀市における都市限界集落問題に関す
る研究
各プロジェクトとも当該自治体との定期協議を通じた
参加者の意識や理解の状況を踏まえて,検討を次のよう
な段階で経時的に実施する.
①実務の観察 :作業を通じた職員の考えの観察
②課題の発見 :①を通じた問題の抽出
③解決策の提示:②の分析に応じた解決策の提示
④考察・評価 :①~③を通じた反応の評価→①へ
4.プロジェクトの実施
4.1 研究プロジェクトⅠ:兵庫県篠山市における総合計
画策定事業支援
- 27 -
(1)プロジェクトの背景と課題
1)財政再建の中のまちづくり(自治体の現状)
共同研究相手の篠山市は,人口約 4.3 万人の丹波地方
の都市である.いわゆる“平成の大合併”の第 1 号とし
て全国に名を馳せ,一時的には視察数が 300 件/年を超え
るようなモデル自治体として評されていた.しかし,
「合
併特例債」を多用したハコモノ建設に加え,甘い人口増
見通しによる事業計画を進めた結果,地方交付税削減の
影響をまともに受け,償還時期を迎えた莫大な借金が市
財政を急速に圧迫している.篠山市の標準財政規模は 150
億円程度だが,実質公債比率が 1/3 を占め,2007 年の発
表では,近い将来(2013 年)に財政再建団体に転落する
可能性が示唆されている.現市政となってから,市職員
数の削減と給与の平均 2 割カットを実施.2008 年には篠
山市再生計画を策定し,財政建て直しの緒についたとこ
ろである.この時期に第 2 次総合計画の策定を迎え,財
政建て直しを前提としながら市民満足を保持(向上)さ
せるまちづくりのあり方が模索されていた.この状況で,
①同市職員自身による総合計画の策定を前提としていた
こと,②財政再建が緒についたばかりであり市職員と市
民の間に意識のズレがあることが推測されること,③総
合計画を契機とした意識の転換と価値観の共有を進めた
いといった同市上層部の考え方があり,当社との共同研
究を行うことになった.
2)
“新たな公”を踏まえた計画の策定
同市の状況のように,財政出動を節約しながら,なお
も市民生活の満足度を維持・向上させていくには,単に
事業費を節減していくのではなく,これまで慣例化して
きた公共サービスの価値観を改めて問い直し,事業の取
捨と創設を同時に行う必要がある.そのためには,
“この
公共サービスは本当に必要か”と同時に“本当に望むま
ちになるために必要なことは何か”についての議論を積
極的に行っていくことが必要である.
そこで,本研究では,総合計画策定作業を通じて,職
員自身の動機が“新たな公”を自ら考え,計画や実態業
務に反映させるような方法について検討したい.
3)行政評価の実体的な導入
同市は行政評価に関し,事務事業評価を 2007 年より実
施している.しかし,評価結果は次の事業立案サイクルに
反映されていない.そのため,同市では総合計画策定を
契機として実態を持った行政・事務事業評価の導入を図
ることを課題としていた.そこで,これらの仕組みを踏
まえた総合計画の内容を考える必要がある.
4) 総合計画の枠組みの再考(総花計画の抑止)
一般的な総合計画は,冒頭に将来都市像,次いで施策
大綱,必要に応じてリーディングプラン,あるいは,重
点プロジェクトで構成されたものを基本構想としている.
しかし,経験的にこれまでの市町村のものを見渡すと,
基本計画は旋策や重点事業の並べやすさに重きが置かれ
都市整備,教育,福祉,産業,行財政運営といった分野
毎に施策大綱が組まれ,なぜ行政分野毎の施策大綱にな
るのか説明ができないし.その地域が本当に到達したい
目標像と(誰が,どう動く等の)行動するための脚本イ
メージが抽象的にならざるを得ない問題がある.将来像
を具体イメージ化できないことは,投資の集中に関する
議論ができなくなるということであり.限られた財源で
効果的な投資を行うには,致命的な問題がある.
そこで,本研究ではこの部分に光を当てて計画策定作
業過程で盛り込むことによって,これらの問題が解決で
きるのか考える.
(2)プロジェクトの狙いと仮説
上記の課題の背後に共通するのは,関わる人々全ての
メンタリティが大きく関与していることが予想される.
しかし,どのようなプログラムでアプローチすることが,
本当の価値観を変えることに寄与するのかは,その地
域・組織の習慣や文化によって異なる.そこで,本プロ
ジェクトでは,課題を踏まえた中で,一つ一つの課題を
方法的に解決するのではなく,根源にある問題を考え,
その問題についての解決策を提案し,その反応によって
再度次の展開を考える段階化によって,要素還元的な対
策としての即効性は小さくとも,自治体あるいは行政の
資源性全体が高まるような方法を検討していくことを目
的としている.
最も重要なことは,参加職員が自らの納得を導くよう
な議論を実施していくことによって,状況が異なっても
今回の知見やスキルが今後に生かせるような意識付けを
行い、結果的に地域全体が変化することが狙いであり,
決して定型的な方法や手段,モデル等,作業的なレベル
で納得に落とす事業ではないと言うことである.最終的
には,地域の問題は地域が,行政の問題は行政が考えて
いかねばならない.その意味で,概略的な手順化は検討
するものの,会議の実体的な推進や計画書の作成は,同
市専従職員により進めてもらうこととした.
総合計画 WG
ワーキングへの期待(副市長)/
ワーキング趣旨説明(市担当)
第1回
2009年6月
オープニング講演(CTI 国文研所長)
行政評価の導入と活
用の考え方(市担当)
平成 20 年度事務事
業評価結果の報告
(市担当)
まちづくりの現状と課
題について全体的な
ディスカッション①
まちづくりの現状と課
題について全体的な
ディスカッション②
第2回
2009年7月
第3回
2009年8月
問題点抽出
行政評価ワークショ
ップ(関西学院大学
稲沢教授)
(3)実施方法
1)実施体制
市政策部企画課の専従職員 2 名を事務局(リーダー)
として,各部 2 名選出の若手職員(計 17 名)で構成する
「総合計画検討ワーキング(以下 WG とする)
」に,直接
参加して進める.当社からは、国文研 2 名、事業部から 2
名程度が常時 WG に参画する体制を取った.WG の運営は,
基本的にリーダー職員が進めてもらった.
2)実施内容とスケジュール
4 月に共同研究契約を締結し,6 月より検討 WG を 1 ヶ
月に 1 回のペースで実施し,その過程で同市の参加職員
の理解満足(納得)の度合いから,運営上出現する問題
を検出してから,我々が抱いた意識がリーダー職員から
見てどう感じるか協議を行って状況の評価を行い,真の
動機づけにつながる継続プログラムについて適宜修正を
加えた.
(4)結果と考察
1)主な結果
- 28 -
第4回
修正プログラム
2009年9月
事業仕分けの真の役割と総合計
画との関係
これから作成する総合計画の概
観について解説(CTI 国文研所長)
第5回
2009年10月
①地域づくりの総合的な問題
②業務上の問題とありたい組織
①,②から見た地域,組織改善
方策のとりまとめ
将来像づくりの柱のとりまとめ
第6回
2009年11月
問題点抽出
将来像の検討と柱の構成理由の
仮まとめ
将来像から見た柱の構成を検討
第7回
2010年12月
修正プログラム
新たな公の概念共有
ケーススタディ①
新たな公の概念共有
ケーススタディ②
第8回
2010年1月
(予定)
概念共有ケーススタディ③
新たな公の概念共有概念づくり
第9回
2010年2月
(予定)
新たな公を踏まえた将来像の
まとめと柱の構成理由の検証
第10回
2010年3月
(予定)
図-1 総合計画検討ワークフロー(経過と結果)
WG を開始してからの動きについての経過と結果は,図
-1 のようである.6 月から 12 月までの間に,表-1 のよ
うに 2 度の大きな転機があり,その都度プログラム修正
を行った.
表-1 WG での主な転機と対策
10
月
12
月
転機(課題の発掘)
WG では,行政評価の狭義
の役割について取り上げら
れ,行政評価の手続き(作業)
の導入に重点が置かれたプ
ログラムが先行した.その結
果,参加職員の中にネガティ
ブな義務感が生じ志気低下
が感じられた.
また,まちづくりに関する
ディスカッションも,予定調
和的な回答が多く,創造的な
議論が進まない現状が見受
けられた.
WG で上記のプログラムを
実施したところ,1つ1つの
課題解決の具体的な策につ
いては討議は進んだが,それ
らを統合し,将来なりたい地
域像や解決策(大綱案)のレ
ベルになると,具体性が低下
して既成の教科書的な地域
像にまとめられるようにな
ってきた.また,大綱や旋策
が,従来の縦割り分野ごとの
まとめとなる等,認知変容が
進んでいない状況が顕著に
なった.
いからではないだろうか.目的に共感できない,重複や
無駄が多い,批判されることが多いなど色々と考えられ
る.第二に,仕事のマニュアル化が進み,自ら考え,行
動し,自己実現していく喜びが感じられないからではな
いだろうか.第三として,組織の問題も当然ある.減点
主義の人事評価は,ミスをしないことが最も優先される.
マニュアルどおりに仕事を遂行すれば,結果として失敗
しても減点されることはないが,工夫や改善を行わない
組織は,内発的な成長はなく,属する職員から自己実現
という満足感を奪うのではないか.しかし,主役(行政
職員)に感情がなければ,それを見ている観客(市民)
は退屈なだけである.
ただ,この地域の真の課題解決が人材育成だとする
と,時間はかかるかもしれないが,この共同研究による
総合計画づくりを通じた行政職員の成長過程づくりは,
自治体にとっては,将来に大きな資源を残すことにつな
がると考えている.試行錯誤の連続であり,形式的な成
果を出すことが難しい状況であるが,紙や記号としての
計画ではない総合計画を作るためには,その総計を推進
する立場の人々がどのように内容を自分のものにするこ
とが出来るか注意深く観察して行きたい.
対策(プログラム修正)
そこで,参加職員の発想や創
造性が生かされるプログラム
を軌道修正した.
具体的には,国土文化研究
の別テーマである医療研究で
開発した心理情報調査法を使
って,参加者に「今の地域生
活」
「今の仕事・職場」から想
起されるエピソードを抽出
し,ネガティブな話題につい
て地域全体や組織で解決でき
ることがあるのか自由討議を
進めてもらい,2つの繋がり
から,地域のまちづくりに必
要な物語りを顕在化させ,行
動脚本が想起されるような将
来像づくりを期待した.
ある意味で,発案の創造性
に期待ができない状況となっ
たことから,逆転的に現実の
事業の評価から,真に地域づ
くりに直結する事業イメージ
を明確化するため,担当者の
報告と全員でのディスカッシ
ョンによる事業仕分けをプロ
グラムとして実施する.ただ
し,この仕分けは事業取捨で
はなく,
“新たな公”を踏まえ
た役割を位置づける作業とさ
せた.
“新たな公”を踏まえて
課題となっている将来像のリ
アリティについて確認するプ
ログラムを提案した.(実施
中)
2)考察
以上のようにプログラムの修正を逐次実施してきたが,
全体の根底にある問題として,人材や意識の問題が大き
く関わっていることが読み取れてくる.しかし,この問
題は若手個人の能力の問題ではない.真の問題は,若手
職員自体が既成事業と慣習の中で,業務訓練を受けてき
た流れがあり,その中で効率的にパフォーマンスを発揮
するようになっていて,事業自体の意味や役割について
地域像とつなげて思考する機会がないことや、真にチャ
レンジングする経験が少ないために、そうなったのでは
ないかと思われる.その1つの表れとして,中間段階で
行った想起されたエピソードの背後感情や自己イメージ
はマイナスイメージが多かった.自分らしくない自分を
少し感じていながら,我慢する(諦める)ことによって
組織に受け入れられようとする日本人らしい物語りがあ
るのかもしれない.しかし,そのために市民生活に直結
した行動脚本を示せないことにつながっているように感
じられる.
総合計画は,自治体が策定する全ての計画の基本とな
る計画であり,全ての事務事業は総合計画に沿って行わ
れる.事務事業を掌る行政職員に活力がなければ地域は
本当には活性化しない.なぜ,総合計画の主役となる職
員に活力を感じていないのだろうか.考えると,第一に,
自らの仕事(事務事業)に意味を見出せても満足感がな
- 29 -
(5)今後の方向性
総合計画策定は,次年度も継続する作業であり,図-1
のように 1 月以降も“新たな公”についての概念共有作
業が続く.現在までのムーブメントの結果,ようやく既
存事業の役割や諸事業の枠組みについて,少しずつ見直
す(したい)意識が醸成されつつある.この意識をもっ
て途中となっていた将来像及び大綱,施策のラフイメー
ジを再度確認することによって,根本的なイメージ修正
を図れることを期待している.リーダー職員からは,研
究の趣旨について完全に共有してもらえているため,研
究継続についての不安要因は今のところない.次年度も
引き続き検討を進める予定である.
4.2 研究プロジェクトⅡ:広島県福山市鞆地区における道
路整備に係る紛争解決支援
(1)プロジェクト概要
1)実施目的
自治体と地域住民の間にかかえている紛争は,地域の
疲弊を招き,訴訟に発展すれば,将来,地域住民・自治
体の間に大きな禍根を残す恐れがある.それでも,互い
に歩み寄ることができず,自力で問題解決へ向かうプロ
セスを歩むことができた地域は少ない.そこで,第三者
の立場としてコンサルタントが参画し,技術的なノウハ
ウの提供だけでなく,総合的視点から本質的な課題発見
や問題解決のプロセスへの提案を行うことができれば,
一つのビジネスモデルとして構築できる可能性を秘めて
いる.
このプロジェクトでは,鞆港道路港湾整備事業により
自治体・地域住民が対立を深めている広島県福山市鞆町
を対象に,初期段階として,紛争解決のプロセスを提案
し,実践することを目的とする.
2)実施内容
広島県福山市鞆地区は,1990 年代に全国的に広がった
町並み保存運動の影響を受ける中で,鞆市街地の交通条
件の改善や港湾施設の改善を目的とした広島県・福山市
の事業計画について,地元地権者や町並み保存関係者と
の間で意見の食い違いが拡大し,県や市の住民説明が行
われたにもかかわらず,原告団の結成,裁判問題へと発
展し,現在においても双方が歩み寄り意見交換をしてい
くことが困難になっているという問題を抱えている.
このように,地域住民・自治体が対立する関係にある
場合には,まず,冷静に話し合いができる合意形成の場
づくりが必要となる.そのきっかけづくりとして,第 3
者のできるかぎり公平な視点で,地域調査を実施し,地
域の現状・課題の整理を行なった.その上で,合意形成
の方向性を検討し,様々な立場の人が地域の現状・課題
を認識し,建設的な話し合いを行なうことができる環境
づくりに資する映像制作を行なうこととした.
3)鞆地区の位置
研究対象とする鞆地区は,たくさんの島々や半島が連
なる瀬戸内海のほぼ中央,福山市中心部から南へ 14km,
沼隈半島の南東に位置する.
対象地
瀬戸内海
図-2 福山市鞆の位置図
(2)鞆地区の合意形成の方向性
1)鞆地区をめぐる近年の動向
鞆の浦では,これまでに県と市は地域の活性化を目的
に,地域の安全・安心を確保するための道路港湾整備を
進めることで,地元との十分なコンセンサスが得られる
前に事業を進めようとした.しかし,マスコミなど全国
的な後押しを背景に埋立事業に反対の住民側が埋立免許
の差し止め訴訟に至り,2009 年 10 月,広島地裁で差し止
め命令が下った.現在,広島県は広島高裁へ控訴中であ
る.
2)合意形成の方向性
合意形成に向けては、以下の方向性が考えられるが、
まずは第 3 案のように、鞆の現状を再認識して、対立す
る双方の共有点(共感点)を見出すような課題の整理と
映像化を行なうこととした.
第1案:現状を再認識する事実関係のみを整理
第2案:埋立ての必要性を整理し現計画の部分改良案を
検討する.
- 30 -
第3案:対立点ではなく、共有点からスタートする.
表-2 鞆地区をめぐる近年の動向
時期
1983.12
1995.3
1996.2
2000.2
2000.9
2004.12
2005.6
2006.11
2006.11
2007.3
2007.4
2007.5
2007.7
2009.47
2009.8
2009.10
2009.10
動き
福山港港湾計画の改訂
港湾計画を変更(埋立面積約 2.3ha)
鞆地区まちづくりマスタープラン策定
港湾計画を変更
福山市伝統的建造物保存群保存地区保存条例を制定
広島県知事と福山市長が会談,事業推進を要望
鞆町まちづくり意見交換会を開催
推進派 4 団体が福山市長へ要望書,提案書を提出
鞆地区道路港湾整備事業のフォトモンタージュによるパ
ンフレットを作成
映画監督大林宣彦氏らが呼びかけ,計画反対の全国組織
を立ち上げ
反対派住民 163 人が県知事を相手に埋立て免許の差止め
を求める訴訟を広島地裁に提出
広島県及び福山市が公有水面埋立免許申請を出願
埋立免許差止訴訟原告団が仮の差し止めを申出 (2008
年 2 月 29 日却下)
福山市鞆地区まちづくり推進調整会議
(全4回開催)
鞆地区まちづくり整備方針(素案)の公表
広島地裁で埋立て免許差し止め命令
広島県が控訴
これまでの経緯を見ても、港湾計画が変更された 1995
年から 15 年もたっており、県への訴訟が起こさてから2
年半が経過している。もしこのまま時間が過ぎると地域
にとっては様々なマイナスの問題が現れると考えられる。
特に大きな問題は地域の輪やまとまりが失われることで、
一層の地域活力の低下、ひいては人口減につながるもの
と判断される。
(3)鞆地区の調査
鞆地区における問題の解決法を探るため,鞆地区に関
わる資料の整理,現地調査による現状と課題の把握を行
った.
①鞆港湾道路整備事業に関する資料収集 1)2)
②訴訟に関する原告団の陳述書等の収集
③現地調査(複数回)と現場写真撮影
④鞆に関する基礎調査(町並み,港湾施設,生活文化,
観光,産業)3)4)5)6)
1)鞆港湾道路整備事業
鞆地区の歴史的な町並みの保存のために,県道鞆松永
線(都市計画道路関江の浦線)の代替ルートによる幹線
道路整備と港湾の整備を一体的に進めることにより,鞆
地区が抱える様々な課題へ対応することを目的としてい
る.
2)鞆の資源
①伝統的建造物群保存地区
江戸期から昭和の戦前にかけて建てられた歴史的な価
値の高い建造物と情緒あふれる町並み景観を保全するた
め,鞆町伝統的建造物群保存地区(8.6ha)が,福山市によ
り 2008 年に都市計画決定され,現在,国による重要伝統
的建造物群保存地区の選定に向け取り組まれている.
②港湾施設
鞆港にある江戸期からの港湾施設は,常夜灯,雁木,
船番所,波止,焚場といわゆる歴史的港湾施設の 5 点セ
ットが現存している唯一の港である.
1)映像制作の方針
鞆地区の生活・文化・歴史の良きも悪きも,中立の立
場で説明することに留意し,静止画とナレーションのみ
で表現することとした.また,映像 DVD は,関心を持っ
て事業反対の立場で活動する外部への働きかけにも対処
する目的で,鞆の現状をよく知らない多くの人をも対象
としているため,ナレーションや字幕は,わかりやすい
表現となるよう工夫している.
2)映像シナリオ作成
①全体構成
5~6 分の長さとし,鞆の生活・産業・交通の実情を簡
潔に描くようにする.また,鞆の生活文化と日常の快適
さを求めていくにはどのようにしたらよいかという問題
提起する内容とする.
表-3 シナリオ構成
図-3 整備イメージ図 1)
構成
1.オープニング
2.鞆の紹介
3.鞆の課題
常夜灯と雁木(がんぎ)
波止(はと)
写真-1 江戸期からの港湾施設
③社寺
沼隈神社や医王寺など(鞆にある)多くの社寺は,山裾
に位置しており,その境内や参道からは海を見通すこと
ができ,地域の暮らしと結びついた身近な存在として親
しまれている.
④祭
鞆地区の歴史的資産とそこに暮らす住民の生活とのか
かわりの中で,お弓神事やお手火神事をはじめとした多
彩な伝統行事が生み出され,守り,育まれている.近年,
若者世代の町外への流出等により担い手が減少し,伝統
文化の継承が危ぶまれている.
⑤生活文化
町中の小さな社の前は,椅子や机を持ち寄り,地元の
憩いの場として賑わっている.鞆港付近の道端では,今
朝とれたばかりの新鮮な魚を売る風景や,サヨリなどを
日干しする姿が見られ,鞆ならではの風物詩となってい
る.
4.問題提起
項目
地勢的な状況
鞆地区の紹介
鞆の浦
鞆港
町中の紹介
地に着いた生活文化
観光客
古い町並みの崩壊
時代への対応の遅れ
人口減少
就業の場の劣化
観光の視点
問題提起
②画像について
鞆の生活や文化はできるだけ現地密着した取材を行う
こととし,歴史的な資料については文献や HP などから資
料収集する.これまでに行政側や原告側が使用した写真
や資料の使用は出来るだけ避ける.画像はスチル写真(静
止画)として,場の状況が 100%伝わるように配慮する.
③ナレーションについて
各画像にほぼ対応する形で,専門アナウンサーにより,
わかりやすく明るい雰囲気で朗読を行うこととする.DVD
には BGM として鞆の浦にちなんだ音楽を選定した.
(5)映像シナリオ作成に対する評価
1) 映像シナリオ作成の時期
紛争解決の役に立つタイミングとして,紛争初期の段
階を早めに察知する必要がある.特に,裁判に入ってか
らでは遅すぎると思われる.
2) 映像シナリオ内容の評価
映像作成後に関係者に視聴いただき,意見・要望を受
けて,改善作業に取り組むべきだったが,単年度のスケ
ジュールのため難しかった.所内の担当者以外の者が映
像を見た印象としては,
「時間が長い」
「話している用語
がわかりにくい」などの意見が出され,改良を加えて最
終とりまとめた.過去の古い写真や資料の収集などが不
十分であったため,的確な映像表現が十分に行うことが
写真-2 医王寺からの眺め写真-3 鞆港前で魚を売る風景
(4)合意形成ツールの作成
- 31 -
できなかった.
以上のような若干の限界はあったものの、2009 年夏に
福山市が作成した広報用の映像ビデオと比較しても、ス
トーリーのわかりやすさ、短い映像時間、写真の的確さ、
ナレーションの具体性のいずれにおいても今回作成した
映像シナリオ及び DVD の質・内容は,当初の目的すなわ
ち、地域の問題を関係者が冷静に考えるきっかけ作りと
同時に,問題となっている地域外への発信を十分達成で
きる資料が作成できた。
4.3 研究プロジェクトⅢ:神奈川県横須賀市における将
来都市構造検討支援
(1)プロジェクトの背景と課題
1)研究対象としての横須賀市
社会経済情勢の大転換期を迎える中,今後安定的な自
治体経営を営むためには,厳しい人口争奪戦に打ち勝つ
ことが必須条件になるものと予想している.首都圏近傍
に位置する中核市でありながら,全国より一足早い 1990
年より人口減少が始まっている横須賀市は,様々な都市
問題を内包している.特異な歴史的背景から大正期には
今の形で市街地が形成され,高い高齢化率と深刻な空き
家問題を抱えている地域もある.こうした問題に対し,
そこに暮らす人々が豊かさを実感することができれば,
現在言われている様々な都市問題を解決することができ
るのではないかという当社の考えに賛意を示した横須賀
市との間で共同研究を行うことになった.
2)特異な歴史的背景
横須賀市の歴史を見てみると,日本の近代化とともに
成長してきたという歴史的背景を有している.しかし,そ
の特異性から他都市と異なる様相が見て取れる.
明治 17 年 12 月,東海鎮守府が横須賀に移り,横須賀
鎮守府と改称され,軍都横須賀が誕生した.第一次大戦
が始まると市内の景気は一段の活況を見せた.昭和期に
入ると軍部の政治干渉が増大し,大横須賀建設に向う.
昭和 8 年 2 月,衣笠村との合併を皮切りに,昭和 18 年 4
月までに田浦町,久里浜村,浦賀町,北下浦町,長井町,
武山村,大楠町,逗子町との合併が進められ,昭和 25 年
7 月,逗子が分離独立して現在の横須賀市が形成された.
第二次世界大戦後の横須賀は,軍都から平和産業都市
への転換が進められた.昭和 20 年 8 月 30 日に連合国軍
が上陸し,80 年に及ぶ帝国海軍の歴史は終息した.平和
産業都市への転換過程を産業面から見てみると,海軍の
発展と逆行的な運命をたどった漁業は,戦後,遠洋漁業
基地,南氷洋捕鯨基地として新たな姿を見せるようにな
った.戦前,海軍工廠を除くと基幹産業といわれるもの
がなかった横須賀は,旧海軍施設を転換利用しながら工
業を発展させた.商業は,戦前は海軍に,戦後は米軍基
地に依存した点に特徴がある.
3)谷戸部を這うように形成された市街地
横須賀市の市街地は,前述した特異な歴史的経緯を背
景に形成されている.戦前においては,本庁・逸見・田
浦地区を中心とした内浦を中心に,工廠と軍港に依存し
- 32 -
て発展した.市街地は,軍港に接続した海岸低地から埋
立地へ,そして上町丘陵へと広がる一方,軍施設が長浦
海岸へと伸びるにつれ北上している.平地が少ないとい
う自然条件から,住宅地は山間や谷間を這うように形成
された.これらの市街地は発展を妨げる原因と言われる
一方,不便さはあるが,緑の深い自然や人情の温かさは
「組曲横須賀」の中でうたわれている.
こうした市街地の形成過程を都市計画の変遷から見て
みる.昭和 4 年 6 月に横須賀市,田浦町,衣笠村,浦賀
町,久里浜村を都市計画区域(5,381ha)に指定した.市
町村合併が進むとともに都市計画区域も拡大し,昭和 18
年 4 月には 10,950ha にまで都市計画区域を拡げている.
以後,逗子の分離独立や公有水面埋立てがあり,現在は
行政区域 10,068ha 全域を都市計画区域としている.その
内訳は,市街化区域 6,619ha,市街化調整区域 3,449ha
となっている.用途地域は,昭和 45 年 6 月の当初線引き
時点にほぼ現在の姿となり,住居系用途地域 4,619ha
(70.2%)
,商業系用途地域 340ha(5.1%)
,工業系用途地
域 1,630ha(24.6%)となっている.
(2)調査概要と調査仮説の視点
1)調査概要
研究着手にあたり,統計資料を整理した後に現地調査
を行った.この段階では,都市問題解決という漠然とし
たテーマから始めたため,急峻な地形や狭隘道路といっ
た不便な生活環境を原因に人口が流出し,経済力の乏し
い高齢者は滞留する.結果として,高齢化が進み新陳代
謝が進まないという表面的な課題にしか目が向いていな
かった.しかし,その課題を具体的に解決していくには
どうすればよいか議論を進めた結果,①魅力を感じて流
入している人たちは何に魅力を感じたのか,②そうした
情報を求めている人に確実に届けることができれば流入
人口の増加に結びつくのではないか,③僅かな整備を加
えることで魅力を高めることができれば新陳代謝が進む
のではないかという考えに至った.しかし,研究体制の
不備により共同研究先の横須賀市と十分な議論を行えな
かったため,文献等による調査仮説の設定にとどまった.
なお,研究フローを図-1 に示す.
2)調査仮説の視点
実感できる暮らしの豊かさを考える場合,その基本に
なっている衣食住のうち住機能に着目した.
「衣」と「食」
については,質・量とも相当程度の豊かさを実感できて
いるのではないだろうか.しかし,
「住」については,量
的な問題は満たされたものの,質的な問題は解決されて
いないと考える.長い間,住宅を資産として保有するこ
とが目的化されてきたことにより,求める住機能に対し
て過不足が生じても我慢して生活を続けているのが実態
ではないだろうか.このことが,豊かな暮らしを実感で
きない一因になっていると考える.一般的ではあるが,
共働きの家庭では,子供の保育・教育環境が充実し,家
事育児しやすい住機能を求める.老親を抱える家庭では,
老親との同居や介護しやすい住機能を求める.独居高齢
世帯は,公共交通や公共公益サービスへのアクセス性が
高く,自活しやすい住機能を求める.
ライフステージに適合した住宅に容易に住み替えるこ
とができれば,豊かな暮らしを実感できる市民を確実に
増やすことができる.求める住機能の実現に着目した住
み替えを容易にしていくためには,①生活の質から見た
定量的な評価方法,②住み替えの実現に向けた公的機関
による与信事例,③新陳代謝が進まない地域を環境改善
することにより新たな活力を生み出した事例について調
査することにした.
研究の流れ
考え方の変化
研究計画
・生活利便性の高い東部や南部地域より北部地域は高齢化や空き
家が目立ち,都市機能低下とスラム化の恐れ
・高度成長期に造成された丘陵部のニュータウンでもオールドタ
ウン化が見られる
・都市の高齢化は孤独死といった都市問題発生の恐れ
→中核市でありながら,都市の新陳代謝が進まないのは,社会的
ニーズの変化に対応できていないと想定
統計整理
現地調査
論点の整理
文献調査
まとめ
・急峻な地形や狭隘道路の改善には多大な労苦を要する
・魅力を感じて流入している人は少なからずいる
→ライフスタイルに即した住機能の提供による改善
・QoL に着目した定量的な評価 →流動化の条件
・ライフスタイルに着目した情報提供 →マッチング
・保全修復型整備による魅力の向上 →変化への対応
図-4 研究フロー(47 期)
(3)調査を踏まえた考察
1)生活の質に着目した定量的評価
市街地の形成過程を歴史的に見ると,海軍工廠などで
働く若い職工たちが谷戸市街地に住宅を求めて住み始め
たといわれている.想像でしかないが,職場に近く比較
的安価で手に入れることができたのではないだろうか.
また,戦後の高度成長期に造成された丘陵部のニュータ
ウンを購入した人たちも基本的には同様であったと想像
する.男は家庭より仕事,所帯と家を持って一人前とい
うライフスタイルに疑問を抱くことすらなかった当時は,
職場に通いやすく比較的安価な住宅を手に入れることで
ライフスタイルを実現していたと考える.こうした人た
ちが退職した場合,急峻な地形や狭隘道路は暮らしの障
害でしかなく,転出するか我慢して暮らすかの二者択一
となる.我慢することを選択せざるを得ない人にとって
は,これ以上不幸なことはない.一方,急峻な地形や狭
隘道路はあるものの,東京湾を眺望することができ,緑
豊かで静かな環境で暮らしたい人にとっては,絶好のロ
ケーションを有する谷戸市街地や丘陵部のニュータウン
での生活機会が奪われるという潜在的不幸が発生してい
ることになる.
こうした生活の質に着目し,定量的な評価結果に基づ
いて潜在的な不幸を解消することができれば,住宅が流
動化するきっかけになると考える.近年,QoL(Quality of
Life)に着目した評価方法が提案されている 1)~3).最終
帰着先となる市民の価値観を反映した,個人の住機能の
充足度から暮らしの場を評価し,両者をマッチングする
ことができれば,地域内住み替えシステムの可能性は高
- 33 -
まるものと考えている.
2)住機能に着目した情報提供
個人の住機能への充足度から暮らしの場を評価するこ
とができても,住み替えたいと考える人たちをマッチン
グさせる仕組みはないに等しい.過疎地域における UI タ
ーンに関する定住施策の一環として,空き家活用制度が
ある.空き家活用のタイプを大きく分類すると,①市町
村が個人の空き家を借り上げ,建物を改修し,一般の賃
貸住宅と同様な形で賃貸する借り上げ+助成金制度型,
②改修費に助成金が支給される助成金制度型,③市町村
は情報提供と紹介のみ行い,改修費は貸主または借主が
負担する情報提供型に分類される.
公的機関が空き家情報を収集整理し,貸主と借主双方
に対して信用を供与できれば,住宅の流動化が起こると
考える.単に仲介サービスを提供するということではな
く,生活の質の向上を実感できる市民を増やす施策の一
環として,住機能に着目した情報提供を行うことにより
新たな価値を生み出すことができる.住機能の向上に着
目して公的機関が介在した事例として山口県豊田町の事
例がある.1989 年より過疎化対策として情報提供型空き
家活用事業を始め,都市部で活動してきた芸術家,工芸
家らに注目されたことにより,
「とよた工芸村」を形成す
るまでになっている 5).
3)保全・修復型整備による魅力の向上
個人のライフサイクルの変化に即してリフォームする
という現象は,もはや珍しいものではなくなった.既存
オフィスビルを都心型住居にコンバージョンする,中古
マンションを購入してリフォームするといった現象は,
ライフスタイルの実現という社会的ニーズの高まりを背
景にしているものと考える.
高齢化が進み新陳代謝が進まない市街地をリニューア
ルすることで新たな価値を与えることができれば,生活
に支障を来たしている高齢者の暮らしの質の向上だけで
なく,新たな人口流入による活性化が期待できる.福岡
県山田市内の百々谷地区では,公営住宅と炭鉱住宅の一
体的な整備を計画し,公営住宅を更新して炭鉱住宅の高
齢者を受け入れる.同時に老朽化した炭鉱住宅を建て替
えて一般世帯向け住戸を供給した.こうした一体的な保
全・修復型整備により,高齢者は,生活の場を大きく動
かすことなく,生活の質の向上が図れ,一般世帯住民が
増加したことにより新たな活力が生まれるといった効果
が生まれている 4).
(5)今後の課題
1)公的支援による住み替えシステムのイメージ
本研究における公的支援による住み替えシステムとは,
豊かな暮らしの実現に必要な住機能を公的支援により提
供し,必要に応じて容易に住み替えできるシステムと定
義する.公的支援による住み替えシステムの構築には,
①生活の質に着目した定量的評価,②住機能に着目した
情報提供,③保全・修復型整備による魅力の向上の 3 つ
を柱に研究を進める必要がある.
-要因を+要因に
代え新たな価値を
提供
急な坂道、階段など
ライフスタイルの
実現に支障
ライフスタイルを
実現できる場所へ
移転
市外から呼び込め
れば社会増
両者をマッチング
させる仕組み
市内で移動できれ
ば人口維持
①生活の質に着目した定量的評価
②ライフスタイルに着目した情報提供
③保全・修復型整備による魅力の向上
図-5 公的支援による住み替えシステムの模式図
2)公的支援による住み替えシステムの構築に向けて
今期の文献研究の成果として,公的支援による住み替
えシステムについて仮説を整理した.来期の研究は,①
生活の質に着目した定量的評価方法では,詳細な現地調
査や居住者ヒアリングを行いながら評価方法を検討する.
②住機能に着目した情報提供手法の検討では,住み替え
を必要とする人に対して情報を提供できるシステムを検
討する.③保全・修復型整備による魅力の向上では,モ
デル地区を設定し,整備手法の検討とその効果をケース
スタディする.こうした調査研究により,今期整理した
仮説を証明していく.当然,公的支援による住み替えシ
ステムだけで全ての都市問題を解決することはできない.
公的支援による住み替えシステムの検討を進めるにあた
っては,既存の制度や枠組みにとらわれることなく,公
による信用供与の範囲や民によるサービスの提供範囲,
組織や合意形成上の課題にまで巾を広げながら柔軟に進
めていく.
5.全体考察
当初の想定通り,自治体の基幹的課題に対するシンク
タンクサービスを実施するためには,自治体職員との共
同作業が不可欠であり,この共同作業には,自治体の高
いレベルでの支持が重要である.
今季の研究でも,篠山市とは安定的な協力関係のもと,
調査を進めることができた.一方,横須賀市においては,
当方の研究体制の不備により十分な検討が行えず,当初
計画より大幅な遅れが生じてしまった.
また,広島県においては,積極的な意識を持つ担当部
長の移動により,県の担当チームの熱意,横への広がり
が減じ,当方中心の作業となってしまったが,その後の
知事選の結果により,再度,論議が再開されたが,共同
作業という点では,遅きに失した感がある.
- 34 -
6.今後の課題
対象となる事案が根幹的なものである程,行政上層部
との意思疎通,相互理解に基づく支持が必要であるが,
そのような関係を築く方策,築ける評判を今後どのよう
に構築していくかが大きな課題といえる.しかし,これ
は,一朝一夕にできるものではなく,着実な結果の積み
重ねでしか得られないと思われる.このため,当方の技
術力を高め,広く見識を養い,説明,説得力を身につけ
る必要がある.
今年度の共同研究において関係する事業部の人的支援
に不十分な点が見受けられた。真にシンクタンクを目指
して活動するためには,それにふさわしい人材を集め,
時間をかけて適確な発信を続けることができるかどうか
が鍵である.
参考文献
[篠山研究]
1)篠山市:篠山再生計画(行政改革編), 2008 年
2)篠山市:篠山再生計画(まちづくり編), 2009 年
3)篠山市:篠山市総合計画,2001 年
4)稲沢克祐:行政評価の導入と活用,2008 年
[鞆の浦研究]
1)鞆まちづくり整備方針(素案),福山市,H21.9
2)鞆地区道路港湾整備事業~期待される整備効果~,広島県・福
山市
3)鞆の浦の自然と歴史,福山市鞆の浦歴史民俗資料館,H9.6.1
4)鞆の町並と商家の賑わい,福山市鞆の浦歴史民俗資料館,
H19.10.12
5)歴史的港湾都市「鞆の浦」文化遺産保全に関わる調査研究報告
書(第1 次報告),
日本イコモス国内委員会 第6 小委員会,
H19.8
6)福山市 HP http://www.city.fukuyama.hiroshima.jp/
tomo-machidukuri/machinamihozon-f.html
[横須賀研究]
1)林,土井,杉山:生活の質の定量化に基づく社会資本整備の評
価に関する研究,2004 年
2)中西,土井,柴田,杉山,寺部:イギリスの政策評価における
QoL インディケータの役割と我が国への示唆,2004 年
3)土井,中西,杉山,新発田:QoL 概念に基づく都市インフラ整
備の多元的評価手法の開発,2005 年
4)瀬戸口,出口,今野,椿谷,内田,石山,中村:北海道空知地
域と九州筑豊地域における公共住宅および炭鉱住宅の更新に
よる市街地再編の比較考察,1997 年.
5)中園,山本,大内:農村地域における定住促進のための空き家
活用制度の事例分析,2003 年
医療福祉支援システム開発・活用研究
心理社会情報の開発と活用に関する疫学的研究
Epidemiological study on the development and utilization of Psycho-Societal Information based on the SAT Theory
金子 学*1
Manabu KANEKO
市民の生活実感を客観的に評価し活力ある地域づくりを進めていくことは、財政難の中にあって行政施策
の効果を高めて持続可能な社会を構築するうえにおいて極めて重要である。筆者はこれまでに、カウンセリ
ング理論であるSAT法(宗像 1997)を援用し,個々人が想起するエピソードと背後にある健康心理に関す
る情報の収集・分析システムを考案し,個人・集団の両面から心理をモニタリングする手法を開発してきた。
本稿は,従前の研究成果をふまえ、疫学的方法を用いて手法の実効性についての裏付けを行うと共に,それ
らの根拠から適合する社会調査法・評価法について検討した。また,自治体への実際に適用し,実用化への
知見を得た。
キーワード:イメージスクリプト,原因帰属,SAT 法,疫学,ROC 解析
I. 研究の取り組み
のである。更に,こういった「個人」の孤独が,多数の
孤立の連鎖を生み,全体の孤立を深め,社会のまとまり
や信頼感を低下させ,全体的な活力を低減させて地域内
の信頼感を総じて低下する動きに連動してしまうものと
思われる。
このような個人の物語りの行動になっていく源には,
これまでの体験(記憶)で培われたスクリプト(脚本)
が有り,類似状況に応じた行動になる仕組みがあると考
えられている。
(R.Schank and R. Abelson,1977)また,
そのスクリプトは,単なる事実情報の記憶ではなく,そ
の状況の時に自分が望む対応ができた(出来なかった)
自己イメージ情報(感情や心情の情報)が付帯している
と考えられ,それがその人の精神健康(メンタルヘルス
)資源となっている(宗像,2006)
、とされている。
1.研究動機と背景
1.1「社会」の変化と「個人」の心の問題
近年,グローバル化の拡大とともに経済や産業構造が
大きく変化したことに起因して国内の所得格差が増大し,
貧困層が増えていることが大きな社会問題になっている。
また,所得格差が教育格差を生み,それによって貧困が
再生産され悪循環が生まれているとの指摘がある。
市田ら(2008)による高齢者を対象にした調査1)では,
地域内での所得格差(ジニ係数)と主観的健康感(自分
が健康と感じているかどうか)と密接な関連性があるこ
と,また他人への信頼感を肯定的に示す人が多い地域ほ
ど所得格差が小さい傾向があること、などが報告されて
いる。このことは,サバイバルな社会環境は個人のスト
1.2「個人」の心と健康問題
レスを高めてメンタルヘルスを増悪させる要因となって
上述のような状況に置かれた人は、自己の存在イメー
おり,
“社会に守られる”ことが個人の健康や健全な社会
ジが悪い上に,原因を自分に帰属させるという方法で現
の形成にとって如何に重要かを示している。
状を受け止めているため,ストレスが身体化し易く,自
しかし一方で,自己心理の視点からは,所得格差とい
分が健康だという感覚も低くなる。個人の主体的健康感
う外部環境のストレスは「個人」の思考や心理に影響を
と死亡率との間には密接な関係のあることが社会疫学調
与え,結果としてサバイバルな心理状況にならざるを得
査でも報告されている。また,ここまでサバイバルな状
ない個人の心の葛藤(物語り)が読み取れる。ストレス
況におかれた人でなくとも,一般の人々の間にも,職域
を理解するためのストレス関数理論(宗像,1996)に拠
における精神疾患を理由とした休職や労災件数の増加,
れば,ストレスは要求(期待)
・見通し(感)
・支援(感
10 年連続自殺者数年間 3 万人超(OECD 中最高水準)等,
)の 3 つの関連で説明されるとしているが,この理論を
社会全体の病理問題として顕在化している。この背景に
援用して上記の物語りを考えてみると,所得の低さ(雇
は家族・仕事や職場・組織等の人間関係が原因となる心
用の不安定さ)は将来への見通しの無さを生み,それに
理社会的ストレスが大きく影響していることが多くの研
よって自分の真の要求(将来的希望感)を諦めやすくな
究によって示されている。5) 6)
る無力感を増強させる。また,そうなってしまう無力感
更には,精神疾患に限らず,認知症,ガン等の自己免
が支援を受けられない価値の自分イメージを作ることに
疫疾患,あるいは糖尿病等の生活習慣病が,ストレスを
よって支援感(他者からの支援期待感)を低下させ,積
受けやすい記憶(認知)様式やストレスを貯めやすい行
極的な人との関係を結びづらくして孤独感を強化し,更
動様式に由来するとする心理社会的ストレスとの関連性
に将来への見通しが持てなくなるという学習性無力感
も明らかにされ,現代病といわれる身体疾患でも心の問
(Abramson et. al., 1978) を生むネガティブなスパイラ
題を通じて)作られている面があることを示している7)
ルの物語り(悲しみのメリーゴーランド)を形成させる
*1
国土文化研究所 企画室
Research Center for Sustainable Communities, Research Planning Section
- 35 -
8)
。加えて,薬物やアルコール,各種行動依存症等,止
めるべきなのに止められない(嗜癖)ことも心理社会ス
トレスとの関連が指摘されている。
また,このような状況の積分がセーフティネットや医
療の体制,あるいは結果として医療費問題にも関連して
いくことから,個人の心の問題は根源的に社会に大きく
関わっている。すなわち、日本のメンタルヘルスの問題
は,決して特定の階層や「個人」の資質の問題ではなく,
日本人,日本の「社会」全体の課題になっているといえ
よう。
1.3 これからの地域づくりと「個人」の心の問題
このように個人の心のあり様と地域社会の関心の持ち
方とは決して無関係ではない。特に,様々な面で格差が拡
大している社会において、
共同体社会を創り出すことは至
難であり、
国民合意の下での然るべきセイフティネットの
構築と、自発的参画を基本とした,人材力や行動力をいか
に育て,確保していくかということが求められている。し
かしながら、近年進められている市民参画が,
“お金を浮
かす”
ための市民の労働供出という機能の側面だけで進め
られれば,それらの動きは持続可能とはならない。むしろ
,それらの背後に信念や郷土愛(慈愛心)等のメンタリテ
ィ等の質的視座を持つことによって,労働供出(余計な事
)を楽しみや奉仕(意味のある事)といった動機化・有意
味化されることが求められているといえる。
つまり人材力
や行動力を育成することは,心のあり方(心理)や健康の
問題と不可分であり,行動する(あるいは,しない)個人
を対象にした心理学や行動科学からアプローチするよう
な都市研究が今後の地域づくりにとっても 1 つの鍵にな
ると考えられる。
1.4「個人」への社会的支援のあり方
「社会」が「個人」を守るための個別対策や社会シス
テムの改善,いわゆるセーフティネットの強化といった
社会的支援の重要性は当然であるが、本研究では,個人
の心理や物語りに視点を当て,これまでとは別な方向か
らの社会的支援策について考えてみる。
「社会」が「個人」のある面を規定していると同時に
,一方では「個人」の心理の集合が間違いなく「社会」
を作っていることも事実である。そう考えると,病気を
治すといったネガティブな視点からのメンタルヘルス
の強化ではなく,むしろ,そのような状況の人々の物事
の捉え方(認知特性)を知り,どのようにすればこれま
での自己イメージを改善して,心的エネルギーを喚起し
て経済活動を含めたより良いパフォーマンス出力がで
きるのか,そのことの解明がこれからの活力ある日本像
を創ることにつながっているのではないだろうか。その
意味において,これからの社会支援の新たな柱は,これ
までの物質的条件的支援策に加えて,心理的情緒的支援
策を確立していくことが必要だと考えられる。
2.研究の視点
それでは,どのような心理情緒的支援策が考えられる
- 36 -
のだろうか。本研究では,個人と社会の2つの側面から
論考することにした。
2.1「個人」への適用
心の問題は基本的に「個人」の問題ではあるが,うつ
病等の病気になったかならないか-つまり保健医療領域
として「社会」から救済するといった“自助(自己責任
)
”事項を対象とする従来型ではなく,日常生活の中で
沸き起こる疑問に問い掛けが出来たり,どのような自分
なのか自己確認する等,自分(自分の行動)に興味を持
って自己イメージを変えていく努力ができるようなア
ンインテンショナリーに支援できるような「個人」対策
の提供が想起される。ただし,この分野は人対人対応が
基本の分野であり,広く日常的に,かつ社会全般で展開
するには制約も多く,限界がある。そこで,誰もがいつ
でも使えるようなウェブ等を活用することによって,一
般の人々に広く,時間や場所,状況を選ばないで出来る
ような「個人」支援方策の技術確立と科学的エビデンス
について検討する。それらの結果から,このシステムを
用いたビジネス化の可能性について考察することにす
る。
2.2「社会」への適用
個人への適用を進めるためには、それらの心理物語り
情報の価値と有用性に対して,社会全体で共有意識を高
める必要がある。しかし,心理について言えば各々の専
門分野において各種調査は行われていても,これまで社
会経済指標として心理を直接的に表現する指標を設定
し,継続的に調べているものはない。この問題に類似・
関連した具体例として,自治体の旋策評価がある。各自
治体では,昨今の財政難から,より効果的なまちづくり
を推進するため,旋策評価(事務事業評価等)及び PDCA
サイクルの確立が求められている。しかし,実際には医
療であれば増床数だったり,道路であれば渋滞率が指標
であったりして,市民個人の“真の幸福感”に直結する
ような指標が見出されていない。
そこで,これまで述べてきたような個人の心理に関係
する情報化(指標化)を行って,社会の共有意識を醸成
し,そのことによって,地域社会全体での質的な成長や
満足(納得)の変化の状況を計測し、まちづくりへの活
用法等について検討する。それらの結果から,
「個人」
の物語り情報を「社会」に活かすような仕組みづくりを
考える。
3.研究目的と手段
そこで,本研究では,人間の健康に関わる心理学や行動
科学等の人間科学諸理論を応用して,上述のような「個人
」
「社会」両面からの支援策について検討することを目的
とする。具体的には,次の 3 段階を経て検討した。
① 上記の研究分野より得られた知見や理論を収集し,視
点に沿った「個人」の自己心理の情報化に関する原理
を研究する。
② その原理に基づく仕組みが有効に作用するのか,また
,それらを用いたシステムの構造化の確立と科学的根
拠等についての検証を行い,実用化の可能性について
検討する。
③ 上記の原理を用いて人間心理の社会情報化について
の調査方法,分析・評価方法について検討する。また
,この方法を自治体をフィールドとして適用し,活用
方法等について検討する。
II.研究の成果
- 37 -
自己要求傾向
自分らしくない自分
7
愛されている自分
思い通りの自分
自分らしくいる自分
6
4
5
3
2
1
0
思い通りでない自分
人に期待する自分
愛されていない自分
問題の外在化
自己肯定感の減少
(依存心増大)
内省化・内在化
自立感・自己肯定感
の増大
自己イメージ(+)
(2)開発技術と原理
これまでのカウンセリングや心理療法に関する理論か
ら,専門家がクライアントのどういった心理情報を 1 つ
の鍵として,その人に適したカウンセリングや心理療法
の手段を選定しているかについて文献および専門家への
聞取り調査を行った。その過程において筆者は、専門家
が「エピソードに対する原因帰属の傾向」
(ある出来事が
起こった時,その原因を自己/他者のどちらに自分の要求
を帰属させる傾向があるかについての情報)(Abramson
et.al.,1978 )と 「自己イメージスクリプト」
(ある出来
事や行動の背後にある状況に接している自分のイメージ
情報)(宗像, 2006)5)」をベースに、経験則で判断してい
る実態に注目した。
そこで,この2つの因子を軸とした心理モニタリング
法が考案できるとの仮説を立てた。具体的には,2 つの因
子によって4つの“情動”に関する象限―1)自立(自己
肯定)感増大,2)自己嫌悪・自己否定感増大,3)自己
肯定感減少(見捨てられ感増大)
,4)依存心増大-で構
内省化・内在化
自己否定/嫌悪感
の増大
自己イメージ(-)
1.「個人」への適用に関する研究
1.1 過年度までの研究進捗
(1)実施概要
この研究では,前述の「個人」への支援に関する課題
解決を図るため,
「ウェブを介し,①ユーザの日常のエピ
ソードに対する“思い”をいつでも述懐でき,②述懐に
よる自己カウンセリングが可能で,③蓄積された述懐情
報の変化などに応じてユーザの心理状態の変化を観測し,
④変化に応じてメンタルヘルスの推定を行い,⑤その推
定が閾値を超えた(ケア域に入った)場合には,個別の
心理療法プログラムが作動したり,⑥医療機関や対面カ
ウンセリングの専門機関の受診案内が作動するといった
形で総合的なメンタルケアを行う」ような、個人のエピ
ソード情報の入力から、心理療法等に基づく一連の診断
機序を経て、自然な形でメンタルケアが行える個人支援
システムを開発することにした。なお、開発に際しては
以下の検討を行った。
① 自己カウンセリング機能を持つエピソード入力シ
ステムに基づく個人エピソード情報収集
② ①から得られるデータに基づいた心理変化のモニ
タリング機能の検証
③ ②の結果と考察に基づいたケア分岐機序・言語解析
を有するアルゴリズムとシステム具体化
成される座標平面(図 1)に基づいて情報をプロット(Y
軸:自己要求(+1),他者要求(-1),両方(+-0),X軸:
良い自己イメージ(+1),悪い自己イメージ(-1)
)する
ことによって、心理変化を観測する方法である。図 1 に
示したように1つのエピソードに対する“要求”と“自
己イメージ”を情報としてプロットすると,0→4 ベクト
ルでは“自己否定感・嫌悪感増大”成分を示したのに対
して,その後 4→7 では“自立感自己肯定感増大”方向に
転じ,0→7 間では“自己要求増大”方向が示されると読
むことができる。図 1 での付帯表現は,理論上考えられ
る心理・心情的な意味を持つものといえる。
他者要求傾向
問題の外在化
(依存心の増大)
図 1 座標平面上のベクトルに付与される意味とベクト
ルの計算方法
そこで,カウンセリング理論の 1 つである構造化連想
法(SAT 法 宗像,1997)の自己イメージ法を用いた一連
の問い掛け【人間個々人の日常的出来事やエピソードと,
それに付随する気持ち(感情と背後の要求)
,背後の自己
イメージ,想起される行動】に基づいてユーザが自由想
起するエピソードと背後情報の収集を行うウェブコンテ
ンツを作成し,それを用いて以下のようなモニタリング
システム検証のための調査と,それに基づいた目的のシ
ステムの概念化とアルゴリズムの検討を行った。
(3)検証調査の結果と考察
1)調査概要
まず,教材として上記のエピソード情報収集用コンテ
ンツを制作し,2 名の被験者を対象に長期に亘るエピソー
ド入力の追跡調査を実施した。収集されたエピソード情
報データを上記の心理モニタリング法に基づいて座標平
面上にプロットし,その挙動が実際の被験者の心理の挙
動と一致することを研究仮説とし,1)時系列情報の挙動
と,実際の心理の変化が一致する(データ間の変化を見
る(差分処理)
)
,2)蓄積されたテキスト情報と,被験者
の物語とが質的に一致する(データの集合結果を見る(積
分処理)
)の 2 点を作業仮説とした。具体には,心理情報
の取り扱いに承諾を得た被験者 A(40 代,
女性,
5 ヶ月間)
,
被験者 B(20 代,女性,6 ヶ月間)を対象として、比較介
入調査を実施した。
2)分析結果および考察
①カウンセリングの効果と限界
両被験者とも入力調査開始から自己要求傾向が観測さ
れ,自己カウンセリング効果が一時的には得られたが,
きっかけとなる出来事の後には、自己肯定感減少方向へ
の変化が認められた。しかしながら、深度の深い心理療
法で途中介入を行った被験者のベクトルは上向いたが,
非介入の被験者のベクトルに大きな変化は起こらなかっ
た。したがって,より実践的なシステムとするには,記
述式で行う自己カウンセリングの限界を判定し,対人支
援や心理療法プログラムへ誘導するような機序を備える
必要があると考えられる。
図 2 被験者のベクトル変化(例)
②心理変化モニタリング機能の検証
差分処理,積分処理ともに被験者の情報と座標平面で
分析される情報が一致していたことから,用いた座標平
面の心理モニタリングは機能していると考えられる。
③構築すべきシステムの機序
以上の結果から,より実践的なメンタルヘルスマネジ
メント支援システムは,図 3 のような診断機序等を備え
たシステム構築を行う要性が示唆された。
バ上においてシステム開発を行った。
1.2 本年の研究目的
上記のように,個人の心理情報を比較介入調査するこ
とによって,仮説の心理モニタリング法の実証性,引い
ては用いている2 つの因子の有効性を示すことができた。
しかし,これはあくまでも「個人」に対する調査であり,
マス情報としても同様の結果を示せるのか,また本研究
で前提としている調査方法で取り出す“自己イメージ”
情報や“原因帰属”情報が,抑うつ尺度等の心理テスト
と本当に関連するかは,示せていなかった。
そこで,本年はⅡ2.で開発した心理社会情報調査法を
援用して,集団に対する調査と疫学的分析を行い,心理
モニタリング法のエビデンスを獲得すると同時に,メン
タルヘルスマネジメント支援システムのアルゴリズムに
おける診断プログラムと閾値を得ることを目的とした。
そのための具体的な仮説は,次の 3 項目である。
① 集団において自己イメージスクリプト,原因帰属の
各因子の有効性が認められるか?
② 認められる場合,検査方法としてスクリーニング精
度の有用性が認められるか?
③ スクリーニング精度が認められる場合,どのような
心理テストとの組み合わせによる検査プログラム化
が適切なのか?
1.3 研究方法
(1)調査方法
Ⅱ2.1(2)において述べるような SAT 法による指示的
質問法による非指示的回答法を用いた調査用紙を使って,
出題テーマに対する想起情報を,被験者全員が同時に同
じ質問に回答する方法で記述してもらった。同時に,各
種属性と,自己像やメンタルヘルスに関係する予想され
る以下の心理尺度について記入してもらった。調査概要
は表 1 のようである。分析には,Microsoft Excel 2003,
PASW Statistics 18(2) を使用し,各種分析を行った。
表 1 調査実施概要
調査名
S 大学(大阪府)
調査対象
経営情報学部 学部生
実施日
対面式。受講生全員が同時に同じ質問に回答。
心理テストを並行的に実施
2009 年 12 月 8 日(火)
被験者
主に一年生(19~20 歳) 統計学講義受講者
実施方法
自己カウンセリング効
果あり
差分的モニタリング
時系列情報のチェック
情報
入力
心理測定
計
蓄積データの
解析
積分的モニタリング
自己カウンセリング効果
なし
特定のエピソード群
情報チェック
個別コンピュータセ
ラピープログラム
対面カウンセリ
ング等の専門
機関への案内
図 3 システムの全体機序の概念
(4)システム開発
以上の知見に基づいて,別添資料のようにアルゴリズ
ムを検討し,以後の臨床調査を想定して構成されたサー
- 38 -
大学生の日常意識に関する調査
実施場所
80 名(男 68 女 12 無効 2)
(2)使用した心理尺度および概念
検討のために使用した心理尺度は,
次の8項目である。
本研究ではその目的上,表面的なストレスではなく,ス
トレスの高まりやすさを招く個人のメンタルヘルス資源
の質的な評価とイメージスクリプト検査法の検査精度の
測定が焦点となることから,メンタルヘルスの資源性や
状態測定の尺度を適用した。また,表面的なストレスと
関係の深い認知・行動特性から関連する尺度を比較対象
として合わせて用いた。
1)メンタルヘルス資源となる心理を測定する尺度
【自己価値感(Rosenberg,宗像訳,1996)
】自分が価値や
意味のある存在と思える心理の程度。メンタルヘルス向
上資源の測定。0~10 点で評価。
【自己否定感(宗像,1998)
】自己を否定し,認めない気
持ちの程度。メンタルヘルス悪化資源の測定。
【PTSS(Post-Traumatic Stress Syndrome)
(宗像,1998)
】
心的外傷後ストレス症候群の程度(本来望んでいる自分
になる(行動する)ことを妨げる過去のストレス記憶の
強さ)メンタルヘルス悪化資源の測定。0~20 点で評価。
2)状態的な心理測定を行う尺度
【抑うつ(宗像,吉羽,1997)
】顕在的なうつ傾向,心理の
増悪の程度を測定する尺度。20~80 点で評価。
【カウンセリング必要尺度(宗像,橋本,1999)
】カウンセ
リングを受診する必要性判断のための尺度。精神症状の
他に,身体症状(不定愁訴)
,行動症状(依存行動)をチ
ェックする項目が含まれていて,必要性を総合的判断す
る。0~20 点で評価。
3)認知・行動特性に関する尺度
【不安傾向(宗像,吉羽,1997)
】性格的・特性的な不安感
の抱きやすさ。将来を見通す場合に,脅威や無力感等の
恐れを持ちやすいため,抑うつ尺度とも関連性がある。
20~80 点で評価。
【問題解決行動特性(宗像,1997)
】直面する問題を認知
し,それらを積極的に解決していこうとする行動傾向。
自律的自己要求的に問題解決を図ろうとする場合に高く
なる。逆に問題回避的な傾向では低得点になる。0~20
点で評価。
【自己憐憫(宗像,1998)】自分を自分が哀れみ慰めようと
する思考傾向の強さ。庇護されなかった経験や強迫的自
立を求められた成育歴を持つ場合に強く現れる。0~20
点で評価。
高い。また,そのことからカウンセリングの必要性が高
図 4 自己イメージ各群での心理尺度の比較・関連性
図 5 原因帰属各群での心理尺度の比較・関連性(1)
1.4分析結果および考察-1:自己イメージ及び原因帰属と
心理テストとの関連性
(1)分析方法と結果
回答票から得られた自己イメージと原因帰属に関する
情報と心理テスト得点の関連性について検証した。自己
イメージの検証は,述懐エピソード背後の自己イメージ
が良い(+)と答えた群と悪い(-)と答えた群に分け,
心理テスト(平均)得点の比較(t-検定および Wilcoxon
の符号付き順位検定,平均値の区間推定)を行った。原
因帰属については,述懐エピソード背後の要求が,自己
要求のみ・自己他者両方・他者要求のみの 3 群に分類し,
同様に比較を行った。結果は,図 4~図 6 のようである。
(2)考察
自己イメージスクリプトの(+)群と(-)群では,問
題解決型行動特性および自己憐憫尺度以外の尺度につい
て有意差が認められた。具体的には,
(-)群が(+)群に
対して自己価値感が低く,自己否定感や不安,抑うつが
- 39 -
図 6 原因帰属各群での心理尺度の比較・関連性(2)
く,心傷体験の記憶情報が多いことが示された。従って,
あるテーマに沿って偶然的に取り出した 1 回のエピソー
ド述懐であっても,エピソード背後の自己イメージに関
する情報は,メンタルヘルスの状況を正確に表している
と言える。区間推定値を詳しく見ると,
(-)群と比較し
て(+)群の区間が概して狭い。このことから陽性検出よ
り陰性検出の精度が高い可能性が示唆された。
原因帰属情報の違いについては,他者要求群にのみ自
己要求群および自己・他者要求群と明確な得点差が認め
られた。具体的には,抑うつが低く,現時点でのストレ
スは低いが,自己価値感が著しく低く,メンタルヘルス
資源に問題を抱えていることが推察された。しかし,80
票中 3 票とサンプルサイズが小さく,この調査だけでは
確かなことは言えない。ただし,少数とはいえ,無作為
に取り出した情報であることから、
「偶然」として簡単に
片付けることもできない。この点に関しては今後,サン
プル数を増やして同様の調査を実施し,再度有効性を検
証したいと思っている。
他の属性(性別,サークル所属有無,アルバイト有無
等)に関しても同様の比較を行ったが,有意な差は得ら
れなかった。
1.5 分析結果および考察-2:検査としてのイメージスクリ
プトの識別能の検証
(1)検証方法
前項での検討から,自己イメージと心理テストには,
関係があることが認められた。そこで,自己イメージス
クリプト情報が検査方法として有用性があるのか,スク
リーニング精度についての検証を行う。手順は,次の疫
学研究法を用いて行う。
① メンタルヘルスの予防的観点を踏まえた集団の段階
的(操作的)有病率を設定する。
② それらの有病率区分における検査方法としての自己
イメージ情報の識別能や識別特性を検証する。
③ 分析は,ベイズ統計学を援用したスクリーニング精
度の分析法を用いる。
(2)検証のための操作準備
1)予防的有病率(P)の設定
身体疾患であれば,原因を特定することが容易(明確)
であるため,広汎な疫学調査によって精度の高い有病率
を求めることもできる。また,現代医療が治療から予防
にシフトしていることを考えると,いわゆる「病」を特
定するには,前提となる「病」状態(未病状態)の定義
と測定方法を新たに決める必要がある。例として言えば,
メタボリック症候群は,そのような予防の観点から,予
防対象となる“有病者”を設定するための操作的病名の
例である。
翻って精神症状(疾患)を考えると,心の問題はもと
もと原因別の診断が難しいため,症状別の診断名を操作
的につけたものであり,真の「病」判断自体も難しい面
がある。その中で,中心となっている診断基準が,DSM-
Ⅳ(全米精神医学会診断基準第四版)や ICD-10(国際疾
- 40 -
病分類第十版)であるが,医師による問診が必要なため,
集団調査に適用できない。また,これは「病気(ハイリ
スク)
」を診断するものであって予防的要素は含んでいな
い。
しかし,本研究で開発を目指しているシステムはポピ
ュレーションアプローチを前提としたシステムであるた
め,検査時点で抑うつ度が高値である等のハイリスク検
出も重要だが,検査時点ではストレスと無縁であっても
潜在的にメンタルヘルス資源に問題が推定され,環境の
変化等によって今後の悪化の可能性が考えられる被験者
についても対象とする必要がある。しかし,前述の理由
から精神症状でそのような診断基準がオーソライズされ
たものはない。
そこで,本研究では,前項において自己イメージスク
リプトに有意差が認められた心理尺度を用いて,本研究
用の予防概念も含んだ有病率を操作的に設定することで,
有病率の程度とシステムに用いる各検査のスクリーニン
グ精度を横断的に分析検証することとした。
2)重症度レベルの設定
有病率を設定するにあたり,以下の 2 つの精神的重症
度レベルを設定する。
①顕在的重症度
集団を対象とした研究では,抑うつ状態の測定に心理
尺度がテストとして用いられている。そこで,顕在的に
高いストレス状態にあるか否かを弁別する軸として,前
掲の抑うつ尺度(宗像,吉羽,1997)を使用する。抑うつ
尺度の基準は既往臨床研究(ヘルスカウンセリング学会)
が示している診断基準を使用した。表 2 のように合計が
尺度値 69 点以上(重篤,苦痛を感じている)に 2 点,49
~68 点(かなり強い)に 1 点,48 点以下(普通か感じて
いない)に 0 点を加点し,区分する。
表 2 重症度の得点算定根拠
尺度名
自己価値感
不安傾向
抑うつ
カウンセリン
グ必要
自己否定感
PTSS
15)
既往臨床研究
おける
基準値と評価
0~5
低
6~10
中~高
20~41
弱~中
42~80
強
20~48
なし~軽
49~68
強
69~80
重篤
0~10
弱~中
11~20
強
0~4
5~20
0~3
4~10
弱~中
強
弱~中
強
潜在的重症
度の配点
1
0
0
1
0
1
2
0
1
0
1
0
1
②潜在的重症度
一方で,環境が良い等の状況で,顕在的に心が悪くな
い(抑うつ尺度が低い)場合でも,過去に心傷が有った
り,自分が自分を認める感覚(自己肯定感)が低い等,
潜在的にメンタルヘルスが悪い要素を抱えている場合も
ある。本研究で開発するシステムは,基本的にポピュレ
ーションアプローチを前提としているため,このような
潜在的にメンタルヘルスが悪くなる要因を抱えている人
に対しても予防的にケアプログラムを起動させることを
考えている。そのため,前掲の自己イメージ(+)(-)と
有意差のあった 6 尺度が,表 2 のように(ヘルスカウン
セリング学会診断基準に沿って)高値を記録した場合に 1
点,そうでない場合に 0 点を加点し,合計得点を潜在的
重症度とする。ただし,抑うつ尺度の得点も加味するこ
とによって顕在的重症度の影響が大きくなるように調整
する。
3)操作的有病率と有病者分布
以上のような方法で操作的に区分すると,調査集団の
有病者分布は,表 3 のようになる。実際の精神疾患が想
定される重症度レベル 7 は 2 人(2/78=2.56%)となっ
た。
先行研究による“うつ病”の有病率は,1.0~4.9%,
平均 2.8%程度とされている。また,2002 年に厚生労働
省研究班が岡山,長崎,鹿児島の 1600 人の一般人口を対
象に行った面接調査では,うつ病の 12 ヶ月有病率は
2.2%(生涯有病率 6.5%)であった。その意味から,こ
の調査集団は学生を対象とした調査ではあるが,一般的
な集団として捉えることもでき,ある程度の妥当性を満
たしていると考えられる。
その値から,ROC(Receiver Operating Characteristic
Curve 受信者操作曲線(図 9 参照)
)解析を用いて行う。
具体的には,感度と疑陽性率(1-特異度)でプロットさ
れるカットオフ点が(1,0)に最も近づくか,あるいは曲
線で囲まれる面積が 1.0 により近くなる検査が,原因(病
気)に対する識別能が最も高いことを示す。
この方法を用いて,高い潜在的重症度レベルから区分
される累積有病率を状態変数,自己イメージスクリプト
を検定変数として検査の識別能を検証した。
2)分析結果
その結果,重症度別カットオフ値は図 8 のように分布
した。重症度レベル 3 を境界として,重症度レベルが下
がると感度は一定のまま疑陽性率が著しく低下した。ま
た,重症度レベルが高まると感度と疑陽性率ともに一定
の割合で上昇した。
表 3 操作的有病率と有病者分布
顕在的重症度(抑うつ)
潜在的重症度(総得点)
7
2
2
1
0
0
0
2
累積有病
率(%)
2.56
6
5
0
0
9
8
0
7
9
15
14.10
33.33
図 8 イメージスクリプト検査に関する重症度別カット
オフ点
4
0
7
6
13
50.00
3
2
1
0
0
0
0
0
2
2
2
0
0
28
9
10
11
5
48
12
12
11
6
78
64.10
79.49
93.59
100.00
(4)考察
まず,識別能=0 となる Y=X の線分より上側に値がプ
ロットされたことによって,検査としての自己イメージ
スクリプト情報は識別能があることが確認された。
識別特性としては,
重症度レベル 3 以上
(有病率 64.1%
以下)では,感度が上がり陰性予測も高くなるが,疑陽
性率も上昇するため陽性予測は低下することから識別能
は一定を保ったまま変化しない識別特性を持っている。
逆に,レベル 3 以下になると,高い陰性予測精度を保っ
たまま,陽性予測も高くなり,識別能が高くなることを
示している。これは,重症度が高まるような顕在的な症
状に対する識別には最適とは言えないが,重症度が低い
潜在症状の識別には適していると言うことであり,自己
イメージスクリプトによる検査が,広く一般の人を対象
とした一次検査,あるいは入り口検査としての性格を有
していることを示している。
一方,メンタルヘルスに関して予防的な観点からの有
病率に関する先行調査を,現在のところ見つけられなか
ったため,どの程度の有病率を設定すべきか定まらず,
イメージスクリプト検査の尤度比や予測値を特定できな
小計
小計
※カットオフ値の凡例 左→右:重症度 1→重症度 7
重症度 4 で区分とした場合の
操作的有病率(例)
(3)スクリーニング精度の検証
1)分析・評価方法
分析は,図 7 に示したように検査と実際の病気の有無
から,4相に区分される。
病気(状態変数)
有り
検査
( 検
定 変
数)
陽性
陰性
感度:Se = a/(a+c)
無し
a
b
真陽性
疑陽性
c
d
疑陰性
真陰性
疑陰性率:1-Se = c/(a+c)
特異度:Sp = d/(b+d) 疑陽性率:1-Sp = b/(b+d)
図 7 スクリーニング評価方法
- 41 -
い状況である。定める方法については,今後更に研究を
進める必要がある。
1.6 分析結果および考察-3:ケアシステムの検査プログラ
ムの検証
(1)検証方法
これまでの検証から,自己イメージスクリプトを一次
検査として各心理テスト識別能の精度検証を行い,ケア
システムの検査プログラムを確定する。
① まず,自己イメージ(-)群を対象に,各心理テス
トの識別能をⅡ1.5 と同様に ROC 解析し,イメージス
クリプト検査と合わせて精度検証を行う検査プログ
ラムのケースを検討する。
② 次に,これらの検討ケースの識別能と識別特性(有
病率に対して)を ROC 解析で検証し,開発システム
に適した検査プログラムを選定する。
(2)検査プログラムに適した心理テストの選定
1)分析結果
結果は図 9 及び表 4 のようである。
尺度である。また,RTSS 尺度は重症度が高くなると識別
能が高まっている。これは,重度な症状を示す人ほど得
点が高いためである。また,カウンセリング必要尺度も
一定はしないが,高い識別能を発揮している。そこで,
この 3 つの尺度を選定する。
(3)検査プログラムの比較検討
1)検証した検査プログラム
システムのユーザビリティを考慮すると,検査プログ
ラム全体の質問数は,できるだけ少ない方が良い。それ
を考慮して,機軸となる心理テストを自己否定感尺度に
した。その上で,他の 3 つの尺度との組み合わせ方を,
連続と平行に行う 2 つの方法によって,計 6 ケース(表 5
及び図 10)の検査プログラムを作成し,精度の検証と比
較を行った。
表 5 検査プログラムの精度検証ケース
ストラテジー
検査処理の種類
連続検査
並行検査
自己否定感尺度と抑う
つ尺度
自己否定感と PTSS 尺度
システム(1)
システム(2)
システム(3)
システム(4)
自己否定感とカウンセ
リング必要尺度
システム(5)
システム(6)
感度
イメージスクリプト検査
(-)
No
一次除外群
Yes
自己否定感尺度
≧5
1-特異度
No
二次除外群
Yes
図 9 ROC 解析例(状態変数:識別能,重症度 4)
PTSS 尺度
表 4 自己イメージ(-)群における各尺度の識別能
検定
変数
質問
数
重症度レベル(状態変数)
≧4
2
3
4
5
6
自己価値感
10
.578
.505
.578
.603
.695
不安傾向
20
.831
.847
.831
.773
.835
抑うつ
20
.883
.838
.883
.809
.876
カウンセリング
10
.785
.849
.785
.799
.892
自己否定感
10
.873
.825
.873
.799
.827
PTSS
10
.787
.796
.787
.870
.859
No
三次除外群
Yes
ケア対象群
図 10 検査システム構成例(④:連続検査)
2)分析結果
結果は,図 11 のようになった。
※1 黒字は,識別能0(面積=0.5)に対して1%確率で有意差のある値
※2 各面積の区間推定値は,別添の資料を参照
2)心理テストの選定
その結果,どの重症度にわたって抑うつ尺度の識別能
が強いが,有病率設定の際に抑うつに重み付けを行って
いる関係上,当然の結果であった。この抑うつ尺度と同
等の安定した識別能を持っているテストは,自己否定感
- 42 -
(4)考察
心理テストの特徴がよく現れた結果となった。連続検
査では,抑うつ尺度およびカウンセリング必要尺度を組
み合わせた場合,重症度 6 以上ではカットオフ値の精度
が高くなるのに比べ,重症度 5 以下では感度が著しく低
下し,陰性予測が上がらない結果となった。それに対し
て PTSS 尺度を組み合わせた場合は重症度5 で最適化して
いた。また,並行検査では,どの尺度とも似通った最適
値を取っており,大きな差は見られなかった。
以上のことから,ユーザビリティも考慮すると,選定
する検査プログラムは,重症度 6 以上の本当の重症者を
対象とする場合は,
【自己否定感尺度→カウンセリング
必要尺度】の連続検査,重症度 5 で潜在的重症者も一定
量考慮する場合には,
【自己否定感尺度→PTSS 尺度】の連
続検査,更に対象を広げて重症度 4 の場合には,
【自己否
定感尺度→カウンセリング必要尺度】の並行検査が適合
すると考えられる。ただし,いずれにしても予防的有病
率の想定がプログラム決定に影響するため,今後の検討
が必要である。
図 11 各システム構成による重症度別カットオフ点
※ カットオフ値の凡例 左→右:重症度 1→重症度 7
※ 白抜きマルは,カットオフ値が最適となる重症度ケース
1.7 得られた知見
これまで広く簡易に行うことのできるメンタル検査は
なかった。健康主義(ヘルシズム)を生む可能性から,
むやみに検査を増やすべきではない(生活習慣病の腹囲
のように)が,予防を行う観点からは“入り口”調査的
な検査方法は必要ではないだろうか。その意味で,自己
イメージスクリプトは重要な検査であると言える。
また,広く一般を対象とすることを想定すると,陽性
予測の精度よりも陰性予測の精度が高い事から,心理社
会情報として,これを用いた社会情報指標に活用できる
可能性がある。今後,検討を進める。
2.「社会」への適用に関する研究
2.1 過年度までの研究進捗
- 43 -
(1)実施概要
この研究では,社会調査や社会指標等,
「社会」におけ
る心理情報の価値共有を高めるための方策とエビデンス
を獲得し,自治体調査等の現場への適用を目指している。
そこで,これまでの研究では個人心理に関連する諸理論
やⅡ1.で検討した「個人」研究での成果を用いて,人間
心理の社会情報化についての調査方法,分析・評価方法,
分析用システムについての検討を行った。
(2)心理情報を収集するための手法の開発
1)開発の視点
広範な市民の意向等の社会情報を把握する調査手法と
しては,一般的にアンケート調査法が昔から良く知られ
ており,情報技術の進展した現代社会においてもマーケ
ティングの基本手法となっている。しかし,近年人間の
脳や認知の仕組みなどが明らかになるにつれ,こういっ
た指示的調査法の問題点が指摘されている。
(Zaltman,
27)
2003)
指示的調査法には,質問が予め調査者によって決めら
れている,という特徴がある。これは調査者あるいは調
査票設計者が調査前に問題に対する概念(予見)を持ち,
調査は問題検証するために実施する形態となっている。
このような調査の回答形式の多くは選択式(以下選択法)
となっており,回答が容易で,回答者を選ばないことか
ら A or B といった判断を伴うような調査には有効性が高
い。しかし,回答者の自由発想による答えではないため,
調査者の概念の外側にある情報を収集することは期待で
きない。しかし,Zaltman によれば,その指示的な質問以
前にテーマに対する回答者の潜在的なイメージ情報は,
既に過去経験として形成されている。例えば「赤い車」
に関するは質問の前に,既に回答者の脳内に「赤い車」
に対する情動情報を含んだエピソードやイメージ情報が
形成されているのであって,それらの質的な情報は調査
者が想定する質問では取り出すことが出来ないものであ
る。特にブランド等の価値観やイメージについての情報
収集において,これらの情報を問題探査的に引き出すこ
とによって,これまでに無かった製品づくりや事業づく
り等,新しいアイデアや発想を生かすための調査として
活用することの重要性が指摘されている。しかし,一方
で,上記の問題を解消するような非指示的調査法として
のこれまで単なる自由回答式調査(以下 FA 法)では,解
答欄に書くための回答者の言語能力や心理的労力の程度
に回答の質が左右され,更に白紙回答になって情報収集
ができないリスクが大きい。
2)心理情報の集団調査法
「個人」を対象とした質問法では,
「個人」が日常的に
使うことを想定して,想起されるエピソードを自由に記
述する方法を取ったが,集団調査を実施して集団として
の心理情報を表したり,それらの結果を検証したりする
場合,聞き取るテーマを統一する必要がある。
Q6.要求を整理するとどうなる
か
Q7.そういう自分はどういう自分
か
Q8.いい自分・悪い自分
Q9.そのことを踏まえると何す
るか
Q10.エピソードの要約
ストレス(前を 100 として)
入力例
愛されている自分
思い通りの自分
自分らしくいる自分
自分らしくない自分
度数 3
度数 2
度数 2
問題の外在化
自己肯定感の減少
(依存心増大)
うすい灰色
悲しみ・寂しさ
内省化・内在化
自立感・自己肯定感
の増大
度数 3
0
度数 1
度数 2
自己イメージ(+)
質問項目
自己要求傾向
思い通りでない自分
人に期待する自分
愛されていない自分
表 6 本研究で用いた調査法による情報入力例
Q1.“今の大学生活”を色に例
えると
Q2.Q1 での色は感情に置き換
えると
Q3.その感情は心の声では
Q4.Q3 の心の声で,Q2 の感
情の今の大学生活に関係
するエピソード
Q5.本当はどうだったらよかっ
たか
内省化・内在化
自己否定/嫌悪感
の増大
自己イメージ(-)
また,例えば「大人としてこんなことを言っていいも
のかな」等の本当に書きたいことの背後に無力感や脅威
などの感情(恐れ)が含まれている場合には脳機序によ
って心的防衛機制が掛り,通常の質問方法では,本当の
要求を直感的に書くことが難しい。そこで,SAT 法(構造
化連想法 宗像, 1997)で用いられているトラウマ(心傷
記憶)回避のためのイメージ法を用いて感情やイメージ
からテーマとの関係エピソードを抽出して,自己イメー
ジ法の質問手順を使って,反転的にエピソードに対する
要求等を発しやすくするような心的防衛機制のハードル
を下げるための構造化した質問手順による専用の質問紙
および回答用紙を作成した。
他者要求傾向
問題の外在化
(依存心の増大)
図 12座標平面上の位置に付与される意味
と分布形の例
自信がない
自分自身の学力のなさとふがいな
い自分にあきれる自分
(自己要求)あきらめそうになるが,
自分の問題なので自力で解決する
ことに全力でいく。
(他者要求)なし
ゼミの課題を提出したことで何か反
応がもらえるかと思ったが,先生が
これではダメだと言ったことに自信
をなくし悲しくなった。
早く終わらせようと急いでいて,しっ
かりとした実力が出せないでいる。
悪いイメージの自分
指摘された部分を直し,じっくりとこ
れでよいのか考える
学力の無さに対する苦労
82
具体的には,[①イメージ想起トレーニングの実施 ②
主題(
“今の大学生活”
)の提示 ③主題の背後に想起され
る感情 ④感情から想起される出来事・エピソード ⑤エ
ピソード背後の要求 ⑥要求背後の自己イメージ ⑦想起
される今後の行動 ⑧記述エピソードの要約化]の一連の
指示的な質問(問い掛け)と,これに対し専用の構造化
された回答用紙を用いて,自由発想による非指示的情報
を収集する構造となっている。
3)心理社会情報の分析と評価法
上記の方法で収集した情報の心理的評価の分析方法は,
Ⅱ1.1(2)で述べた「個人」の心理モニタリング法を援
用して,エピソードに対する原因帰属の傾向“要求の傾
向(自己/他者)(Abramson et al., 1978)”と “自己イ
メージスクリプト(宗像, 2006)”の2つの因子を軸とし
て4つの“情動”に関する象限―1)自立(自己肯定)感
増大,2)自己嫌悪・自己否定感増大,3)自己肯定感減
少(見捨てられ感増大)
,4)依存心増大-で構成される
座標平面上に,それぞれのサンプル情報が適合する位置
- 44 -
にプロット(Y軸:自己要求(+1),他者要求(-1),両
方(+-0),X軸:良い自己イメージ(+1),悪い自己イメ
ージ(-1)
)し,各軸の累積値ベクトルとし,対象とする
集団における分布形を,その集団の心理特性として表現
する方法で,その集団の総合的なメンタルヘルスをモニ
ターし,時間変化や集団間の比較等を行えるようにした
ものである(図 12)
。
(3)検証調査の実施
1)調査方法と実施結果
このような両手法を使って,①集団調査が円滑に行え
るか,また②分析手法から何が読み取れるか,そして結
果が,これまでの調査研究と比較して妥当なのかについ
て検討した。
調査は,2008 年 6 月および 12 月に S 大学(大阪府)
の経営情報学部の学生計 121 名(男 93 女 24 不明 2 無
効 2)を対象に実施した。収集した心理情報は表 6 の例
のように記述されている
2)分析方法
まず,調査法の妥当性について検討した。すると,①FA
法本来の記述自由がありながら無効票が約 3%程度であ
ることから,手法が狙った記述率を高めるような“自由想
起”の促進がなされていた 。②述懐情報は記述量に関わ
らず,回答形式が構造化されているため,論理化して読み
取り可能であった。更に③エピソードのレベルが 38 種類
あり,多様性が確保されていたことから,妥当性があった
と考えられる。
その後,次の処理と分析を行った。①収集したエピソー
ド情報についてのラベル化を行った。内容が必ずしも1つ
の事柄を示していないエピソードもあるため,最大3つま
でのラベル化を行った。②そして,ラベル,原因帰属,自
己イメージの各情報の出現頻度を算出した。ラベル得点は,
一人を 1.0 とし,ラベルの個数で除した数をラベル各々に
累積する方法を取った。③その上で,1つの調査ごとに標
準得点化を行い,グラフ上での分布形を比較した。
3)分析結果と考察
①対象となった大学生の心理特性
この集団の心理情報の分布形は図 14 のように,自己要
求が強く,やや自己イメージが悪く自己否定感等の内省化
傾向が強い集団であることを示した。この分布形を,合わ
せて調査した属性(志望順,クラブ,アルバイト,居住形
態,携帯通信頻度等)による比較を行ったところ,志望順
位やクラブおよびアルバイト所属に,そうでない群と僅か
に差異(自立感高い)が見られたが,内省化傾向の強さに
違いはなかった。
次に,エピソードラベルの出現頻度を,様々な属性の違
いで群比較を行ったところ,学年や性別等での人間関係や
恋愛等のエピソード出現頻度に違いが見られた。そこで,
自己イメージ(+)
(-)各群の比較を行った(図 13)
。
②質量統合化調査の可能性
これら調査と分析の方法からの心理情報の違う群の出
現ラベルの違い等から,状況改善のための支援策を考える
質量統合の分析方法が考えられる。例えば,上記の自己イ
メージのラベルの違いから,認知変容を促すための要因を
探し出す等の方法が考案される。
(4)分析システムの検討
Ⅱ1.1(4)において開発している「個人」システムから
,情報をこれまで述べてきたような情報の集合化を行うプ
ログラムを検討した。また,LSA(Latent Semantic Analysis
潜在意味解析)等の言語解析法を使って,ラベル化の自動
化が出来ないか検討したが,言語解析自体が言語統計量を
もとにしており,新聞記事数年分等のテキスト量があって
初めて分析可能な水準にあることから,即興的に想起され
るテキスト量である現時点では,完全に自動化することは
難しい結果となった。ただし,人間が分類する手間を省力
化する程度に援用するには,有効であると考えられた。
2.2 本年の研究目的
これまでの調査結果を踏まえ,本年は以下の 2 項につい
て検討した。
① 昨年と同様の方法による調査を実施して,経時的な変
化があるのか,あるいは,出現する心理情報やエピソ
ードに偶然性がないか等,集団情報の確度について昨
年との比較検討を行った。
② 本調査分析方法の実用化に向けて,協力の得られた市
町村等の自治体への導入や調査結果の利用について
実施し,今後の活用方法を検討した。
2.3 研究方法
(1)大学での継続調査
Ⅱ1.3 で示したような概要で調査を実施した。ここで得
られた情報をⅡ2.1(3)2)と同様の方法を用いて分析を
行い,違いや傾向等について検証した。
図 13 過年度調査自己イメージ別エピソードラベル分布
(+)群が部活動や友達,将来,目標,希望等の他者や見
通しに関するエピソードが(-)群より多かったのに対し,
(-)群は心,性格,学歴,能力,資格,就職等の自分の
能力に関連するラベルが多かった。
以上の結果から,単年調査の結果だが,現代の大学生が
極めて諸事の原因を自分の能力に帰属させる傾向が強く,
ストレス耐性が低いことが推察された.
- 45 -
(2)自治体における調査の実施
自治体シンクタンク研究において,共同研究の同意を受
け,かつ自治体の検討課題上この調査分析方法の適用が適
当と考えられた兵庫県篠山市の計 20 名の行政職員による
将来都市像検討ワーキング(WG)に参画し,調査を導入実
施した。具体的には,WG 途中段階で,グループを 2 つに分
け,
「今の仕事(業務)
」
,
「今の生活(地域)
」をテーマと
して調査を実施するとともに,得られた結果(問題や悩み
の記述)を WG の議論(個人に責任を帰属させないで,組
織として問題解決するにはどうしたらよいか等)に反映さ
せて,参加者の反応や WG 経過から効果的な利用方法を検
討した。
(詳細はシンクタンク研究を参照)
2.4 結果および考察
(1)大学での継続調査結果
なかった。また,エピソードの出現頻度も特定のラベルを
除いて大きな違いは見られなかった。
この調査方法に対する反論として,出現するエピソードや
心理特性値が偶然ではないかとの意見がある。しかし,人
物が異なっても,ある集団での特性は大きな変化がない結
果が示された。したがって,本調査で得られる結果は,偶
然では無く,何か各々に対して自己イメージスクリプトを
変更する等,認知(記憶)変容を促進しない限り,全体情
報としては大きくは変化しないことが推察された。
(2)自治体における調査
アンケート調査として収集整理した結果は,図 16 のよ
うである。
「今の仕事(業務)
」グループでは,自分の不安
や不満が述懐されており,大学調査と同様に自己否定感の
強い傾向を示したが,
「今の生活(地域)
」グループでは,
総じてこの地域がのんびりと緩やかな場所として,他のグ
ループと反対の(自己)肯定感の強い分布形を示した。こ
の研究では,当初の仮説として両グループにある課題があ
ることを前提として,
「行政をどう変えると,地域が変わ
るか」あるいは「地域を変えるには,行政はどうなるとよ
いか」という根本的な論理療法プログラムを実施する事に
よって,参加者の認知変容がもたらされるか意図したモノ
であるが,結果は関連しない分布形となった。
図 14 調査年別原因帰属・自己イメージ分布
図 16 テーマ別原因帰属・自己イメージ分布
図 15 調査回別エピソードラベル分布
結果は,図 14 および図 15 のようである。人物は異なる
が,心理特性が示す傾向は,昨年とほとんど違いが見られ
- 46 -
これは,2 つのテーマが実際のイメージ上でつながって
いないことを示している。述懐エピソードにも関連性がみ
られなかった。持続可能性獲得に向けて地域が変わってい
くに様々な人々の努力が必要であり,本来関連するべきも
のと考えられる。持続可能な地域運営を目指すための資源
として人材は,根本的なインフラとなる。今後の WG 運営
では,この点を解決して参加者の思考変容を促す努力が必
要になっていく。
III.
総合考察
本研究では,まず「個人」を対象にした研究から,自己
イメージスクリプトが心理評価の1 つの検査法になること
を示した。そして,この方法を用いたメンタルヘルスケア
システムを考案した。また,この自己イメージ検査法が,
より広く市民を対象にした場合の陰性予測が高い特徴を
持っていることが確かめられた。次に「社会」を対象にし
た研究では,心理モニタリングの分布形およびエピソード
ラベル出現率が,同質の集団では経時的(1 年)に大きな
変化を表さなかったことが確かめられた。以上から,次の
ことが考えられる。
自己イメージスクリプト検査を,
「地域診断」用の指標
として用いることが考えられる。昨今の地域経営では,市
民満足(幸福)を高めることを真に目指した旋策が必要と
なっている。また一方では,財源不足から,より効果的な
旋策を行う必要性が増している。その点から,地域の旋策
を「個人の幸福」という観点から評価するような適切な指
標の検討や提案が様々な機関でなされているが,決定打は
今のところ見つかっていない。これまでの指標では,満足
度調査のように主観的な主観情報が調査されることが多
いが,これらの調査では市民生活の表層的な感情(受身的
な満足・不満足等)を捉えるだけで,真に市民の幸福度を
捉えたものではないと考える。
本研究が提案する方法とシステムは,この点で役割を担
えるのではないだろうか。
「個人」研究結果から,自己イ
メージ検査が“自己イメージ(-)量”
(病かどうかの診断)
より,
“自己イメージ(+)の割合の変化”
(健常かどうか
の診断)を測定する精度が高いことがわかっているので,
これを活用して一般市民の客観的な主観情報の測定を行
うと同時に,行政の人々が収集された背後のエピソード情
報から“市民等への働きかけ方のアイデア”としての情報
を抽出して,活用することが考えられる。
ここで取り上げる自己イメージに関する行動脚本は,表
層的な働きかけでは変化しないことが知られている。指標
値を本当に変えるには,心(愛情)のレベルでの交流や働
きかけが必要であろう。その意味で,簡単には変化しない
ことが,逆の意味で地域が本当に変われたかどうかを測定
するのには,適した指標だと思われる。今後,様々な集団
に様々な働きかけを行い,実用性を確認していきたい。ま
た,健康との関連から,心理テストだけでなく,バイオマ
ーカーでも合わせて検証し,地域活動のあり方と健康との
因果を検討して行きたい。
【参考文献】
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CHALLENGES IN DESIGN OF MODERN UNDERGROUND RAPID
TRANSIT STATIONS IN JAPAN AND EUROPE
木戸エバ*1
Ewa Maria Kido
Subways have almost 150 years tradition in Europe and a little bit more than 80 years in Japan.
They are one of the most popular and most efficient means of urban transportation. Connected with
other railways and extending out from the inner city, they are basic infrastructure of the rapid transit.
Like railway stations above the ground, underground subway stations are important elements of the
urbanscape that are determining the image of the city. Therefore already in the past, aesthetic design
of subway stations has been recognized at historical European stations. However, only recently
subway station design has been getting more challenging and totally-oriented.
Station form depends on several aesthetic visual and image-based factors. These factors include
space, light, color, scale, and details, as well as image-based elements related to design context,
landmarks features, representation of the image of subways, of a brand of train operators, inclusion of
artistic elements, relation of station design to commercial function and advertisements.
Nowadays, subway stations are being renovated and also new stations are being built. This paper
examines current trends in design of subway stations in Japan and Europe on the example of Tokyo,
Paris, London and Berlin. The conclusion is that design depends very much on the circumstances such
as natural conditions, organization and funding of subways, design process, tradition and culture.
While in Japan subway stations tend to be economical with only some design elements, in Europe
design is more holistic and involves world famous architects. Many stations in Japan have been
renovated and design has improved but there is still need to develop a total approach to station
architecture and design.
1.
BACKGROUND
Underground rapid transit system is usually called “metro”, although in English speaking
countries the terms subway and underground are used. The rapid transit system varies greatly
between cities but has usually common feature that in larger metropolitan areas the underground
system extend only to the limits of the inner city, or to its inner ring of suburbs with trains making
frequent station stops. The outer suburbs may then be reached by a separate commuter rail network,
where more widely spaced stations allow higher speeds. Rapid transit systems are often supplemented
by other systems, either buses, trams including LRT (Light Rail System) or commuter rail.
Underground stations are part of the infrastructure that allow passengers to board and
disembark from trains. They need to be functional – well accessible and easy to understand – and at
the same time – comfortable and aesthetical – reflecting the heritage and modernity of engineering
and architecture.
Subway stations have had the tradition of good design in the past, and at the present railway
companies are trying to renovate historical stations and to design splendid new ones. This paper
analyzes trends and compares aesthetic design of Japanese and European subway stations.
1.1 DEVELOPMENT OF SUBWAYS
Rapid transit evolved from railways during the late 19th century. First underground railway
lines were constructed in Britain. The introduction of subways was seen as a big achievement; some
*1
国土文化研究所
企画室
Research Center for Sustainable Communities, Research Planning Section
- 48 -
called it a great engineering triumph of the day. The first underground railway in London, opened in
1863 by the Metropolitan Underground Railway, was the Metropolitan Line, which ran on the distance
of 6 km from Paddington to Farrington. The four contemporary London’s lines have developed from
Metropolitan and District Lines, which were built using the “cut and cover” tunnels. Later, since 1890,
lines were built deeper in circular tunnels. First deep lines were built for the City (1890) and South
London Railway (1890).
The second oldest underground after Britain (London and Glasgow) in the world was the
Budapest Metro, which is a metro system in the Hungarian capital. Its Line 1 was built in 1894-1896.
The technology swiftly spread to other European cities, and then to the United States, where a
number of elevated systems were built, starting in New York in 1868.
In France, underground railways in Paris were intended to improve public transport,
particularly on the eve of Great Exhibition, which was to be held in 1900. The work, for which mostly
responsible was French engineer Fugence Bienvenüe, began in 1898 on Line 1 that ran from Ponte de
Vicennes to Port Maillot on east-west axis through the city. Unfortunately Paris Métro (Chemin de fer
Métropolitane), at that time known as Metropolitan, did not open before the exposition but few
months later in 1900. In the early years the tunnels were excavated using the flying arch method and
crossings through the River Seine were on viaducts. Later the network was extended using
conventional methods and tunnels were built under the river. Paris Métro was fifth in the world,
having followed London, Glasgow, Budapest, and Boston.
Berlin has got its first U-Bahn line mostly elevated in 1902. Subsequent development was in
1923-30, when Berlin received basic subway network of 76 km.
In Japan, the history of subways began in Tokyo in 1927, when a 2.2 km stretch of line was
opened between Asakusa and Ueno (current Ginza Line). Tokyo Metro (Tōkyō Metoro) was launched in
2004 after the privatization of the Teito Rapid Transit Authority (TRTA, Eidan chikatetsu)
established in 1941, as a descendant of
that was
private operator - Tokyo Underground Railway Company
(1920). Tokyo Metro is operating and managing underground railways in Tokyo and it is also profiting
from other activities, such as real estate, commerce at the stations and media businesses.
1.2 AESTHETIC CONSIDERATIONS IN THE PAST
Subways in Britain were from the beginning designed with aesthetic thoughts. The architect of
London’s stations - Charles Holden (1875-1960) - was the master of traditional classical forms. He has
an excellent knowledge of new constructions and materials. Instead of superficial decoration, he was
concerned with functional problems. Therefore the design for London’s underground stations features
simple and functional Modernist forms. The aesthetics that reflected this consciously modern design
was the Art Deco (Fig.1.2/1, Fig. 1.2/2).
Paris Métro was always considered the most elegant, particularly because of its Art Deco
entrances designed by architect Hector Guimard (1867-1942), who was influenced by Art Nouveau
architecture and developed his own style significant for fluid, curvilinear lines, called the “Style
Guimard”, which was in opposition to ruling taste of French Neo-Classical architecture. His entrance
gates of 1899-1905 were made of iron cast into elegant, flower-like forms with hooded light fittings and
glazed canopies (Fig.1.2/3). Paris Metro had established its distinguished style using white tiles for
the walls, white letters for station names on blue background, fixed size for advertisement panels and
designed lamps, luminaries and other detail (Fig.2.1/4).
In Berlin, Swedish architect Alfred Grenander has designed between 1902 and 1930 more than
seventy underground and elevated stations. His style evolved from decorative to modernist. Another
- 49 -
architect, Peter Behrens, designed the Moritzplatz Station. The buildings designed by well-known
architects were perfectly functional from a technical and transportation points of view and at the same
time featured architectural designs which in all their formal reductionism represented outstanding
examples of so-called “Neues Bauen” (the new style of building). In design terms some of the stations
have been very simple extended rectangles while others, for example Hermannplatz, had lofty halls
with imposing stairways. The Alexanderplatz Station has been a model for the organization of a
number crossing lines. The first part of the station was opened in 1913 along with an extension of
today's U2 line. In the 1920s Alexanderplatz itself was completely redesigned, both above and below
ground. The U-Bahn station was expanded to provide access to the new D (today's U8) and E (today's
U5) lines, then under construction. The result was a station with a restrained blue-grey tiled
color-scheme and Berlin's first underground shopping facilities, designed by Alfred Grenander
(Fig.4.1/3).
Fig.1.2/1 Baker Street Station, Circle Line, 1865, London
London
Fig.1.2/2 Charing Cross Station, Bakerloo Line,
Fig.1.2/3 Abbesses Station, 1900, Paris, arch. Hector Guimard
Fig.1.2/4 Pyramides Station, Line 7, Paris
London, arch. Sir Norman Foster
Fig.2/1 Canary Wharf Station, Jubilee Line Extension
1999,
Fig.2/2 Bibliotheque Station, Line 14, 1998, Paris
In Japan, first subway stations were designed as utilitarian structures without much thought
about appearance. Their distinctive features were station-front shopping districts - shōtengai, which
developed around the railway tracks and also at the intersections of railways and subways, like for
example, Nishiki Shōtengai in Kyoto.
2.
AESTHETIC FACTORS OF SUBWAY STATION DESIGN
“Aesthetics of Railways” refers to aesthetics of railway stations and railway facilities. It includes
station buildings, which are the entrance and departure points, as well as the circulation areas –
concourses, railway tracks, platforms, and other functional spaces, containing retail, hotels, etc. It
also refers to railway lines, station plazas and train cars.
“Aesthetics of Railways”, like aesthetics of other built forms, can be defined, as the balance
between building architecture, engineering structure and transportation function - in consideration of
planning, layout, details and design context (Holgate 1992, Kido 1995, Kido 1997). Aesthetics requires
that also other station functions need to be sensitively distributed and clearly distinguished from
- 50 -
those purely transportation. Aesthetic station has to be clear, easy approachable and easy to
understand, but at the same time it needs to provide rich environment.
Aesthetic factors of station design include: space, light, color, scale, and details. There are also
image-based elements related to design context, landmarks features, representation of the image of
subways, as well as the representation of a brand of train operators and inclusion of artistic elements.
Aesthetic factors are also related to distribution of commercial role of the station and treatment of
advertisements.

Space is an essential factor for a station because it must provide a room for many people using it
every day. Station space serves to move through it, to wait, to purchase tickets, to prepare before
embarking for a travel and after arriving at the destination. Appropriate and well-designed space
provides security and well-being. Recently glass is often used in architecture. Glass elevators decrease
the feeling of confinement, and as a part of universal design provide convenient access for physically
challenged passengers. Transparency of glass creates station more spacious and understandable.
Well-designed barrier-free space provides feelings of spaciousness, lightness, security and well-being.
Particularly important is provision of spacious underground concourses at subway stations. They
are necessary for mental well-being of passengers and also for their safety. It has been efficiently
accomplished at the Canary Wharf (1999) and other stations on Jubilee Line Extension (JLE) in
London (Fig.2/1, Fig.2/7, Fig.4.4/1, Fig. 4.2/1, Fig. 4.2/2). Large interiors improve the clarity of
underground space. When the escalators are visible, the passenger flow can be naturally directed.

Light is also essential for a station to perform its function. At large stations, where the role of
architecture and structure is paramount, the admission of daylight can increase the expression of
structure which can even become a landmark. Daylight in daytime is preferable; therefore a provision
of glazing increases the possibility of natural light’s penetration inside the station (Bibliotheque
Station, 1998; Fig.2/2). Visual connection between platforms and concourses increases the amount of a
daylight passed on the platforms. Admission of daylight through the sophisticated subway entrances
highlights their architectural expression. It also improves the clarity of station layout because
passengers can easily notice distinguished by light entrances and exits (e.g. Canary Wharf Station;
Fig.2/1).
Fig.2/3 Magenta Station, 1999, Paris, arch. Jean-Marie Duthilleul
Yokohama, arch. Kunihiko Hakayawa
Fig.2/4 Minato Mirai Station, 2004,
Fig.2/5 Heron Quays, DLR, 2002, London, arch. Alsop Architects Ltd.
Artificial lighting is functional as well, and can increase visual expression of the station. Top
lights create secure environment and enhance architectural features of the interior. Lighting has also
informative function – properly lit signs, information posters, stations names, etc., enable passengers
to move in right direction easily and safely. Successful lighting depends on combination of lighting
levels and types of lighting fixtures. Design of lighting may create desirable atmosphere. Attractive
luminaries applied at the Magenta Station (1999; Fig.2/3) in Paris, reduce the impression of
underground enclosure and greatly enrich interior space. SNCF design was based on fundamental
components: form and scale, structure, light, materials and colors. With most railway stations, the
combination of architecture, light and space can be achieved but it is more difficult to realize
- 51 -
interesting reflection of light on architecture at the underground stations without daylight. At some
stations, daylight has been deflected down by using glass walls or reflective shafts of translucent
materials. Sometimes an opening in the ceiling or tunnel has been used to provide daylight coming
down from higher levels.

Color can be created by using colorful materials and colorful artificial lighting. Bright colors
visually increase space; warm colors increase the feelings of safety. Colors are also used to express the
design concept such as blue to create image of sea (Fig.2/4). Colors can be also used as a guiding or
safety tool – for example by emphasizing railings or elevators by particular color. Colors combined
with light can be used for aesthetic and functional arrangement at the station, to underline particular
functional elements or show directions (Fig.2/5, Fig.2/6).
Fig.2/6 Iidabashi Station, Ōedo Line, 2000,arch. Makoto Watanabe
arch. JLE Team

Fig.2/7 Waterloo Station, JLE, 1999, London,
Fig.2/8 Akihabara Station, Tsukuba Express, 2005, Tokyo
The factor of scale depends on the size of the station and on how many passengers use it. The
scale of station building determinates also the meaning the station. In case of railways, large
European railway terminals, like London’s St. Pancras or Paddington, were designed not only to
provide adequate space for passengers but also to impress. Such stations like Gothic cathedrals had
many meanings – political, social and urban. Smaller stations were designed more in relation to
human scale. Large underground stations like in Moscow reflected the power of their builders. The
light contributes to the perception of scale – even if the station is small, good lighting design can make
station visually more spacious (Fig.2/7). Large scale of recent European stations is accompanied by
human-scale elements. These stations respond to different objectives than in the past; they have been
built with spacious spaces designated for various functions connected with a chain of a “seamless
journey”.

Details should be designed with particular purpose in mind – to provide direction, information,
guidance, barrier-free access and to fulfill numerous other station functions. Such well coordinated
and recognizable details should be integrated with the structure, space and light, and distinguished by
colors and materials (Fig.2/8). Also, all the information and details should be readable for visually
impaired people and understood by domestic and foreign travelers. The quality of design at such
stations as Heron Quays on the Docklands Light Rail (DRL) has a big impact on well-being of
passengers and their safety (Fig.2/5). The aesthetic design at the station helps also to control flow of
passengers – by employing guiding lights at platforms and concourses. If elements like elevators are
colorful and modern, they can be attractive as well (Fig.2/9). Thus aesthetic design based on the
concept involving of elements, improves the efficiency of station – passengers can leave the platform
more quickly and in more comfortable way, if they are provided with attractive and clear guiding
information, escalators and elevators.

Stations are perceived as landmarks, if their image-based elements are strongly related to their
urban, historical, cultural, and social context and if they are harmonized with urban surrounding.
- 52 -
Image-based elements give the station the value of an urban landmark. Historically, main railway
stations in Europe were distinguished by their large form and by a prominent location, since they
were often facing the main street and had a plaza in front of the main entrance. Subway stations with
impressive forms can be also conceived as urban gateways and landmarks through interesting
frontages, entrances and open frontal spaces (Fig. 2/10).
Fig.2/9 Minato Mirai Station, 2004, Yokohama Underground entrance, arch. Kunihiko Hayakawa
3-Chome Station, 2002,Tokyo, arch. Hidetoshi Ono
Fig.2/12 Omotesandō Station, 2005, Tokyo
Fig.2/10 Hongo
Fig.2/11 London
Fig.2/13 Louvre-Rivoli Station, Paris
Fig.2/14 Tuileries Station,
Paris

How the station represents rail companies is reflected in aesthetic design that contains a
particular image of railways. Image-based elements include design expressing the image the subways
or the image of train operators. Image of subways has been for example created through marking
station entrances with original Hector Guimard’s Art Deco design at the Metropolitan entrances at
Abbesses and at many other locations in Pari (Fig. 1.2/3). Also London’s Underground’s roundel is the
most widely recognized transportation “brand”; LUL entrances have been always streetscape
landmarks, along with double-deck buses (Fig.2/11. The company logo, which is a part of a corporate
design concept, has been redefined by many European operators. Similar metamorphosis has
undergone in Japan the logo of Tokyo Metro. The company, after transforming itself in 2004 from the
Teito Rapid Transit Authority – has changed former logo into a blue “M” sign, which has more direct
association with company’s name and is easier to comprehend by Japanese and foreign passengers.
New subway entrances emphasize the subway’s trademark sign (Fig.2/12).

Public art plays a significant role in enhancing image of railways. Railway companies
understand the importance of introducing a design and culture into the stations. Art has become a
part of cultural value of the rail brand design. It has been acknowledged that customers’ satisfaction
increases with better designed stations, with comfortable waiting areas, with clear information signs,
and additionally – with public artworks, cultural and community events and with other activities that
can enrich the modern concept of the experience of travel. In Europe, some transport agencies have
introduced a “percent for the art” policy, based on a fixed percentage (from 0.5% to about 1%) of all
budgets for new developments allocated to the purposes of art. The issue of the art and design at
- 53 -
public transportation has been discussed for the first time at the International Union of Public
Transport (Union Internationale des Transport Publics - UITP) Congress in 2001. At that congress
John Meagher of Nexus, the Newcastle-upon-Tyne Metropolitan Transport Authority said, that the
quality of the environment of public transport can be well reflected by its relationship with public art
(Allen 2001). In Newcastle, the initiative of introducing public art in transportation came from the
arts sector. In the effect of collaboration, the city developed a “percent for art” policy which gives up to
1% of their annual capital construction program on arts projects. In the course of the program which
has been running for 26 years, at the beginning mostly permanent art works were installed at the
stations but later more often temporary works such as lighting installations and live art events were
installed and organized. Art works were also part of renovation projects of Paris Metro and London
Underground. At Paris, RATP design applying arts has been described as “in favor sensitivity”, where
the transportation network is a theater for the “scenarios” creating urban culture (Kaminagai 2001).
Such cultural stages have been created at subway stations in form of “station–galleries”, such as
Louvre-Rivoli in Paris (Fig.2/13) displaying an art from the Louvre Museum, and in form of “thematic
stations”, such as Tuileries showing the theme of “Heritage” (Fig.2/14). There are also live artistic
events and live music, which have already become part of Paris and London underground environment.
Public art can also serve practical purposes, such as helping passengers to identify the place where
they are; e.g. the murals at the Victoria Station or at the Baker Street Station featuring Sherlock
Holmes. In Europe, public art projects are often financed by government; for example the art program
run in Brussels is financed by a government body set up in 1990 by the Public Works Ministry and it
is related to artworks at all transit facilities.
Art has been also applied at Japanese stations – e.g. wall sculptures at TMG Ōedo Line, Tokyo
Metro and Minato Mirai Line. At Kinshichō Station (2003; Fig.2/15), murals featuring replica of
famous ukiyō-e have been installed in front of automatic gate. Exposition of public art in Japan has
been supported by municipality and private organizations – for example Tokyo Metro received 100%
subsidies for public art. The art has been installed at Ginza Station’s space for entertainment events.
TM received also donations from Japanese and American artists for an “art station” at the
Tameike-Sannō on the Ginza Line (1997, Fig.2/16). At the Tameike-Sannō on the Namboku Line
(2000) there are artworks on the walls behind the safety doors. At some stations, such as
Kiyosumi-Shirakawa on Hanzōmon Line, art has been accommodated into station walls at the
platform level. At the Bashamichi Station on the Minato Mirai Line (2004, Fig.2/17), artistic mural by
Junpei Nakamura from old building of the Bank of Yokohama has been exposed as a one of the works
of art.

Distribution of commercial function at the stations and clear arrangement of station space in
regard to its function is the factor of relation between form and function. Along with the process of
evolution of railway stations, more functions have been added, such as retail, hotels, restaurants,
leisure, etc. Ross (2000) has listed forms of retails that include: small shops, small size walk-in units,
kiosks often located at the platforms, trade stands, vending machines, public telephones, auto-teller
machines (ATMs), promotional activities and internet facilities. Intermodal stations became
interchanges providing access for air, other rails, bus, underground and LRT services, and a part of a
new urban and commercial center accommodating businesses, hotels, and shopping centers. Shopping
malls and convenience stores have been often installed around stations concourses. Stations including
subways have become transportation nodes offering many attractions and experiences as a part of
efforts of changing railway companies trying to improve their products to reflect their corporate
prestige. The development of many functions at railway and subway stations caused problems with
their proper arrangement. In Japan, more functions has led to confusion at some stations, where the
- 54 -
priority was put on commercial facilities over rail travel activities. Retail is important but secondary
function at the railway stations. It attracts passengers and makes station multifunctional but it also
needs to be properly distributed to prevent the station to become a “department store” or a maze
through which passengers can not easy find their ways. The problem of separation of transportation
and commercial function and at the same time making commercial facilities easily available is very
difficult, particularly at historical stations, which need to be modernized to nowadays standards.
Fig.2/15 Kinshichō Station, Tokyo Metro Hanzōmon Line, 2003
Ginza Line, 1997
Fig.2/16 Tameike-Sannō Station, Tokyo Metro
Fig.2/17 Bashamichi Station, Minato Mirai Line,2004, Yokohama
Commercial developments can be designed as “concentrated shopping malls” integrated with
public areas of the station and distinguished from other services for passengers or as “lines of shops”
usually developed in the form of corridors of retail surrounding the main operation areas. If a separate
mall approach is impossible, shops line in the areas bordering the platforms. In Japan at large
stations, retail is often located in the main operational areas (e.g. Ikebukuro Station) filling the
station spaces as much as possible. The piecemeal approach is incoherent, resulting in adverse affect
of commercialization of stations. These adverse effects of retail that may occur at any ill-conceived
stations include clutter and congestion, clashing with architectural style and interior design, and
obstruction in passenger operation. When installed at the main concourse, the retail has to be
balanced and include many kinds of services, such as small shops and restaurants. A new approach is
to design separate commercial facilities with easy access from subway stations. The newest
commercial facility by Tokyo Metro - “Esola Ikebukuro” (2009) – is a 10-storey (with basement)
building, featuring restaurants, cafes and various shops. The concept is to connect subway users from
the underground with the space under the sky.

Treatment of advertisement reflects approach to aesthetics in public spaces. Currently a wide
range of advertising media is available, such as different kinds of posters – traditional, illuminated,
back-lit posters in illuminated casing which are often applied at the subway platforms, moving
displays, TV and plasma displays, messages at the stair cases and along escalators, on the train
bodies, inside the trains, branding the entire stations to one advertiser, various sales and campaigns
installations.
The advertisement can be a part of aesthetic design, if it is a part of the design concept. In such
design, it is important to maintain the balance between the size of the station and the amount and
sizes of advertisements. At Paris Metro, advertisements are incorporated into design of the station
walls at the platforms (Fig.2/18). Advertisements should be associated, if possible, with the context of
the station environment, may have a reference to healthy lifestyle products, culture, etc. – to enhance
the value of the station image (e.g. Embankment Station, Fig.2/19). Particularly sensitively should be
handled the advertisements at historical stations, where they should be well integrated with station
architecture.
- 55 -
Fig.2/18 Sèvres Babylone Station, Paris Fig.2/19 Embankment Station, London Fig.2/20 Shibuya Station,2003,
Tokyo arch. Kengo Kuma
In Japan the trend to place many advertisements is stronger than in Europe. It is maybe because
the recognition of aesthetics of public facilities has been weak here since the post-war economic
development, followed by the destruction of landscape since 1970s, when stations displayed lack of
architecture, and “despite their public character, station buildings are literally covered with so much
commercial advertising that it is often difficult to tell whether they are station facilities or commercial
buildings” (Ashihara 1998). Railway stations have been often virtually covered by advertisements.
Even modernized elevation of Shibuya Station, designed by arch. Kengo Kuma (2003, is always being
covered with advertisements (Fig.2/20).
3.
RENOVATED AND NEW SUBWAY STATIONS IN JAPAN
3.1 REVITALIZING OF TOKYO METRO STATIONS
Tokyo Metro has been operating nine lines: Ginza, Marunouchi, Hibiya, Tōzai, Chiyoda,
Yūrakuchō, Hanzōmon, Namboku and a new line completed in 2008 - Fukutoshin. Tokyo Metro has
203.4 km, 168 stations and average number of passengers is 5.59 million per day. Currently, together
with four lines of the Transportation Bureau of the Tokyo Metropolitan Government (TBTMG) there is
a network in the capital consisting of thirteen subway lines. Through services with private railways
started in 1962 with the Tōbu-Isesaki Line and expanded with many other lines.
Tokyo Metro has been completely renovating its stations after 40 years in use. Partial renovations
are carried out more often. Some stations have been refurbished as “thematic stations” – e.g.
Kōrakuen Station on Marunouchi Line (Fig.3.1/1) and Myōgadani. Toilets have been improved at
many stations and installed facilities for physically challenged persons, including elevators (Fig.3.1/2).
In April 2004, two pilot stations at Ginza and Ōtemachi have been furnished with new information
designs based on two colors – yellow and blue (Fig.3.1/3, Fig.3.1/4). Now these new signs and new
information boards are also at other stations. Also, to improve information, each station on each line
in Tokyo network received a number, for example “G 09” is a Ginza Station on Ginza Line. Safety has
been improving through the installation platform doors not only at the new stations (Fig.3.1/5) but
also at the stations previously without guarding doors, e.g. on the Marunouchi Line. Although function
and engineering soundness seem to be the priorities of station design at the Tokyo Metro, there is also
attention put on aesthetic design. Four stations have been chosen as “Top 100 stations in Kantō Area:
Asakusa Station on Ginza Line, Tameike-Sannō Station on the Ginza (Fig.2/16) and Namboku Lines
(Fig.3.1/4), Kōrakuen Station on Marunouchi (Fig.3.1/2 and Namboku Lines and Ginza Station on the
Ginza, Marunouchi (Fig.3.1/3) and Hibiya Lines.
Tokyo Metro has been expanding its non-operational businesses, such as retailing and station building.
As a part of revitalization, new retailing spaces have been arranged at the stations. “Metropia”
convenience stores have been installed at the stations since 1988. Small kiosks “Metro’s”Coffee shops
- 56 -
and other small shops have been also installed at many platforms and concourses (Fig.3.1/2).
Commercial business on the larger scale is developing at the station buildings, which are designed to
attract people. Among newest ones are: “Shibuya Mark City” (2000) at Shibuya Station, “M’av
Myōden” (2000) at the Myōden Station on Tōzai Line, and “M’av Ayase Lieta” (2002) at Ayase Station.
“Shibuya Mark City” consists of east and a west high-rise building located next to JR Shibuya Station
and contains a wide range of stores and restaurants, the Shibuya Excel Hotel Tokyū, office space, a
bus terminal and the terminal station of the Keiō-Inokashira Line. Another form of getting customers
is design of attractive underground shopping malls. In 2005, a new shopping mall was opened at
Omotesandō Station – “Marche de Metro”, with 26 shops and total floor space of about 1,300 m2, as a
part of new Echika complex (Fig.3.1/6). Design details, such as white tiles and French shops resemble
Paris Métro; symbolic columns had a map of Paris Métro. Along with commercial developments,
Omotesandō Station was refurbished in 2006; the surface of the platforms, walls and columns was
renovated and made more attractive, new furniture was installed (Fig.3.1/7). Following the success of
Omotesandō, another - Echika Ikebukuro was opened in 2009 (Fig.3.1/8). These places have been
designed as a quality spaces with high quality foods and designed products.
Fig.3.1/1 Kōrakuen Station, Tokyo
Fig.3.1/2 Kayabachō Station, Tokyo
Fig.3.1/3 Ginza Station, Marunouchi
Line, Tokyo
Fig.3.1/4 Ōtemachi Station, Tokyo
Fig.3.1/5 Tameike-Sannō Station, Namboku Line, 2006
Fig.3.1/6 Echika
Omotesandō, 2005
Fig.3.1/7 Omotesandō Station platform, 2006
Fig.3.1/8 Echika Ikebukuro, 2009
Fig.3.1/9 Mitsukoshi-mae
Station, 2003
Revitalization efforts include also development and renewal of underground corridors, which have
been renovated and widened at many places, for example at the Mitsukoshi-mae Station, in
collaboration with Mitsukoshi department store (Fig.3.1/9), and at the Shinjuku san-chōme Station, in
- 57 -
collaboration with Isetan department store. Underground corridors have been made wider and more
elegant, reflecting upscale fashion character of the stores. Also concourses near new urban
development such as Tokyo Midtown (2007) have been also extended and designed with a good sense of
style harmonized with architecture (Fig.3.1/10).
Although there have been many efforts to improve existing stations, there are still matters that
should be improved, for example arrangement of the walls (Fig.3.1/11), sizes of advertising panels
along the platforms, and better design of various details.
In Tokyo, there are many subway entrances to each station. Very often the entrances lead
through an office or commercial buildings or through a separate staircases with canopies that are
located on the sidewalks. Most of such entrances are typical. Only several entrances in Tokyo have
original design in form of a separate building or a glass canopy (Fig.3.1/12). Also only a handful of
entrances have a plaza in front of them. New trends in design have been reflected also at the subway
entrances, among which some have undergone complete makeover. At the Omotesandō, entrances have
been designed in glass, reflecting trends in modern architecture (Fig.2/12).
Fig.3.1/10 Corridor between Roppongi Station and Tokyo Midtown (2007)
Ginza Line
Fig. 3.1/11Mitsukoshi-mae Staion,
Fig.3.1/12 Yūrakuchō Station entrance, 1996, Tokyo, arch. Rafael Vinoly
3.2 NEW STATIONS OF TOKYO METRO
While many older stations are lacking aesthetic concept, better and nicer stations are on
relatively newer lines or their extensions, such as Namboku (2000) or Hanzōmon (2003). Completely
new Tokyo Metro stations are on the Fukutoshin Line (2008).

Namboku Line (2000)
On Namboku Line, Komagome-Akabane-Iwabuchi section was opened in 1991 with platform
doors at all stations. In 2000 was completed the Meguro – Tameiko-Sannō section and the connection
from Meguro to Akabane-Iwabuchi. In the same year began reciprocal service with Tōkyū Meguro Line
(to Musashi-Kosugi). In 2001 started a reciprocal through-service on the north, with Saitama Kōsoku
Line to Urawa-Misono Station. Namboku Line no.7 was designed according to the concept of “high
quality, amenity and totality”. Automatic doors have been adopted at the platform. The doors are
painted in each station in different color – the theme color according to station design concept
(Fig.3.2/1, Fig.3.1/4). Each platform design was intended to express station identity through the use of
motifs on the walls, combination of colors with one dominating “station color” (six colors have been
applied in sequence), design motif at the “media wall”, and the ”art wall”. For example red color was
selected for Azabu-Jūban Station and therefore doors and benches have been designed in red
(Fig.3.2/1). The pictures on the walls have been designed as the art gallery with different motifs at
different stations (Fig.3.1/4). Such “art walls” were sponsored by various companies, for example wall
with “Sport” motif was sponsored by JT and Nikkei Shimbun. Each station has a basic concept; an
architect Kengo Kuma was consulted in regard to architectural design. Other concepts for attractive
new stations at include media walls – panels indicating local characteristics, symbolic columns at the
- 58 -
entrances and lights (Fig.3.2/2), “fureai corners” – featuring art and symbolic elements. The designers
attempted to achieve a total design by a combination of station color with signs and graphic design,
through coordination with product design (doors, arrangement of ticket vending machines and ceiling
above the entrance), with furniture design, and with station environment. Some sense of design has
been achieved but rather through the decoration and finishes and not through the total engineering
design.
Fig.3.2/1 Azabu-Jūban Station, Namboku Line, 2000
2000

Fig.3.2/2 Shirokane-Takanawa Station on Namboku Line,
Fig.3.2/3 Kinshichō Station on Hanzōmon Line, 2003
Hanzōmon Line (2003)
On Hanzōmon Line, new stations were opened in 2003 on the section of from Suitengumae to
Oshiage, providing direct connection between Shibuya and Oshiage. On the other end Hanzōmon Line,
the through services have been provided since 1978 with Tōkyū– Shin-Tamagawa Line to
Futako-Tamagawa and extended to Chūō-Rinkan via Tōkyū-Den-en-Toshi Line. Stations on
Den-en-Toshi Line have been modernized; some have been newly constructed underground, such as
Meguro and Den-en-Toshi stations. In 2003 started reciprocal through-service with the Tōbu-Isezaki
and Nikkō Lines (to Minami-Kurihashi). One of the stations, Kinshichō, has been located on the
stretch of line completed in 2003. The walls at the station platforms (Fig.3.2/3) and in front of the
automatic entrance gates (kaisatsu-guchi) have the panels with Japanese traditional wood-block
prints (ukiyō-e). Stations on this line also show design rather on the surface, than a symbiotic
architectural-engineering design.

Fukutoshin Line (2008)
The newest line of the Tokyo subway network, was opened in stages between 1994 and 2008.
It
consists of an older 3.2 km segment from Kotake-Mukaihara to Ikebukuro, running parallel to the
Yūrakuchō Line on separate tracks that began operation in 1994. This segment was initially known as
the Yūrakuchō New Line. The newest segment connecting Shinjuku and Shibuya via Zōshigaya,
Sendagaya and Meiji-jingū-mae, opened for service in 2008, officially completing the Fukutoshin Line.
Service to the Senkawa and Kanamechō stations, which had been bypassed by the Yūrakuchō New
Line, also has also started. The entire Fukutoshin Line runs 20.2 km between Shibuya and Wakoshi in
Saitama Prefecture.
Through services to Kawagoe-shi station on the Tōbu Tōjō Line and Hannō
station on the Seibu Ikebukuro Line are offered.
Design of each of eight new stations – Ikebukuro, Zōshigaya, Nishi-Waseda, Higashi-Shinjuku,
Shinjuku San-chōme, Kita-Sandō, Meiji-jingūmae and Shibuya on the newest line - has been by no
means also economically-oriented, but aesthetic considerations have been taken into account as well.
The space has been restricted for a new line in the center of congested Tokyo but still some larger
spaces at the concourses and higher ceilings above the escalator have been constructed. At some
stations, like for example Meiji Jingū-mae, larger space have been achieved through the rising of the
height at some points at the platform (Fig.3.2/4). Shibuya Station has also been creating a buzz when
it comes to design. The station is actually operated by Tokyu Co. and called Tokyu Toyoko Line-Tokyo
- 59 -
Metro Fukutoshin Line Shibuya Station. Part of the new Shibuya Station is designed by renowned
architect Tadao Ando with an oval-shaped "underground spaceship" that lies beneath the site of the
now-razed Tokyu Bunka Kaikan building (Fig.3.2/5). The oval space stretches 80 meters and is about
24 meters wide. The middle is an open oval space between the third to fifth underground levels. The
escalator has also original design – the ceiling has been raised and shaped in waves to make
passengers descending to the trains less confined (Fig.3.2/6). The station is part of Tokyu's
development plan for the surrounding area. Shibuya is the world‘s first large underground station to
have natural ventilation. The sides of the oval walls are vaulted and let air flow in and out from the
outside. The station also features cooling tubes containing water that run along the ceiling and under
the floor. Aside from saving energy, the station is innovative in sense of architectural design. New
technological features blend with architecture giving the station sophisticated modern image.
Other features on Fukutoshin stations design are color coordination for each station, design
theme and art walls installed near the automatic gates, and transparent modern platform furniture.
Modern stations have been constructed on the Minato Mirai Line in Yokohama but in Tokyo so far,
Shibuya is the most modern looking subway station that can be compared with European and
American stations.
Fig.3.2/5 Shibuya Station, 2008, arch. Tadao Ando
Fig.3.2/6 Shibuya Station
Fig.3.2/4 Meiji Jingū-mae Station,
2008
Fig.4.1/1 London Bridge Station, 1991, London
4.
Fig.4.1/2 Europe Station, 2001, Paris
RENOVATED AND NEW SUBWAY STATIONS IN EUROPE
4.1 REVITALIZING OF EUROPEAN METRO STATIONS
Along with railway stations, which required renewal of worn-out facilities and upgrading, also
European subway networks, which have been more than one hundred years old, were in a need for
modernization and refurbishment. London Underground and Paris Métro had reputation for design
excellence and recent past have seen renaissance of station architecture on its new stations and
renovation of old ones. Berlin’s U-Bahn has been more restrained in design but distinguished by
features derived directly from its structure, such of 1920s iron-work of columns and beams.
Renewal of subway stations focused on enhancement of cultural values and on brand design of
particular subway operators. Design features tended to link stations with local communities through
- 60 -
collaboration with local residents, promotion of cultural activities - organizing various events, concerts
and through design competitions, and linking current stations with rich historical heritage. For
example, London Bridge Station, which was first opened in 1836, has been renovated (Fig.4.1/1). New
design features old brick vaults, interesting lights, partitions made of glass, clear and aesthetic
information signs and nice public spaces and shops. In London, starting with Hillingdon and
Hammersmith, rebuilding of which were completed in 1994, the renewal found its extraordinary
means of expression in the new stations built on the Jubilee Line Extension at the end of 1990s.
London and Paris subway design has been harmonized through the network by maintaining
consistent design rules in general (e.g. position of fittings, schedules, size of advertising panels, etc.)
since long time ago. As a part of revitalizations, the designed code has been maintenained and
developed, with individual design for particular stations. For example, the main public transport
operator in Paris RATP (Régie Autonome des Transports Parisiens) has introduced thematic stations
with design featuring particular themes (e.g. Europe, Sport, Pasteur, etc.). For example, at the Europe
Station – the theme “Europe” has been reflected in display of daily life in the EU countries – in video
images, posters and sound and colorscape (Fig.4.1/2). Another type of the stations included
“stations-galleries”, which display the art from famous museums, such as Louvre-Rivoli Station with
the exposition from the Louvre Museum (Fig.2/13).
In Berlin, historical stations have got renovated after unification and adjustment of subway
system in Berlin (Fig.4.1/3; Fig.4.1/4). Structural elements have been painted in various colors, old
furniture revalorized but in some cases architectural elements have been lost due to negligence or lack
of respect. One of renovated stations has been Alexanderplatz Station (Fig.4.1/3). Historical blue-grey
tiles have been maintained, and station with painted structural elements in red has received a new
fresh look.
4.2 NEW EUROPEAN SUBWAY STATIONS
Subway networks in big European cities have been still developing because very often some parts
of cities - “transport islands” - were not connected well with city centers. In Paris subways have been
developing outward to connect more distant locations with the city center. In London the Jubilee Line
Extension was connected with the development of waterfront at the Docklands. In Berlin after
unifications, the urban development has been parallel with the transportation development, including
new railway stations and subway stations on new lines.

Jubilee Line Extension (1991)
London’s Underground has been very progressive since first “Tube” line opened in 1863 but still
some parts of London (e.g. south London and East End) were not linked well. The need for subway
extension was particularly visible in late 1980s and 1990s, after the redevelopment projects changed
neglected dockland areas in London into sophisticated business and residential centers. The
development of Canary Wharf stimulated eastward extension of existing (completed in 1977) Jubilee
Line, linking Charing Cross with Stanmore in the northwest suburbs. The project included renovation
of six stations, maintenance depot and a control center and construction of five new stations on the
Jubilee Line Extension (JLE) in 1999. The new extension with the total length of 12.2 km begins at
Green Park Station and runs out to Stratford in the east. Italian architect Roland Paleotti who was
commissioned for the JLE project, assigned well-know architects for the design of each nine stations
with two stations handled by his own JLE design team. Newly designed stations included:
Westminster (arch. Sir Michael Hopkins), Waterloo (arch. JLE Team), Southwark (arch. MacCormac
Jamieson Pritchard), London Bridge (arch. Weston Williamson), Bermondsey (arch. Ian Ritchie; Fig.),
- 61 -
Canada Water (arch. JLE Team), Canary Wharf (arch. Sir Norman Foster), North Greenwich (arch.
Alsop, Lyall and Stomer), Canning Town (arch. John McAslan), West Ham (arch. Van Heyningen &
Haward), and Stratford (arch. Chris Wilkinson). As a result, each station displays high architectural
and structural qualities.
The common feature of station on JLE is elegance reflecting tradition of London’s subway design
led in the 1930s by Charles Holden, and nowadays high technology. Even though each station designed
by different architect is different, all of them have large interior spaces, concrete finish, metal details,
and original lighting. Each space is defined and the need for signs is reduced to minimum. Total
design considers stations from their entrances at the ground level, through the large escalators
grouped in sets of at least three, and concourses - down to the deep platform level (Fig.4.2/1; Fig.4.2/2).
The project achieved the symbiosis of architecture and engineering – with daylight used as a
structuring and directional device. The design priorities were to provide generous and easily to
understand space, clear passenger routing, comfortable access by escalators and elevator.
Fig.4.1/3 Alexanderplatz Station, 2007, Berlin
Fig.4.1/4 Zinnowitzer Station, Berlin
Fig.4.2/1 Canary Wharf
Station, 1991, London, arch. Sir Norman Foster
Fig.4.2/2
Canary Wharf Station
Fig.4.2/3 Biblioteque-François-Mitterrand Station, 1998, Paris Fig.4.2/4 Berlin
Hauptbahnhof, 2009, Berlin

Line 14 in Paris (2003)
Similarly, in Paris there was a need to connect East Paris with West Paris by a subway. New subway
line – Line 14 (M 14) completed in 1998 crosses the center of Paris and runs from Madeleine to
St-Lazare (extended in 2003) and in opposite direction - to Biblioteque François Mitterrand via
Pyramides, Châtelet, Gare de Lyon, Bercy and Cour St-Émilion. The line called “Météor” (acronym of
Métro Est-Quest Rapide) was the first automated line of Paris Métro. Météor Line 14 (M14) was
designed in a unique fashion, with elegant and modern materials and landing doors on the platforms
preventing passengers falling onto tracks (Fig.4.2/3). Regarding its architecture, the stations are
brightly lit, spacious and uplifting. Instead of circulation paths, like at old Métro stations, there are
mezzanines from which people can look down on the platform before descending to them. The Météor
Line is unique in that its stations are not merely decorated spaces but rather they present a holistic
architecture of great visual quality.

Berlin Line U5 (2009)
In Berlin station design ranges from 1960s Minimalist style and colorful 1970s Pop Art design to
- 62 -
Postmodernism. In Post-Modern style has been designed Rathaus Spandau Station (1984) by architect
Rainer G. Rümmler. In 2009, Berlin's U-Bahn opened its newest segment of subway, a 1.4 km
three-station line connecting the main rail station Berlin Hauptbahnhof to the Brandenburger Tor
(Brandeburg Gate). It's temporarily called the U55, but it will ultimately become part of the
expanded U5. From the Gate, the line will continue east under Unter den Linden, Berlin's main
processional boulevard, to Alexanderplatz, the former East Berlin downtown and one of Berlin's most
important hubs. Berlin Hauptbahnhof is a spacious station with white walls and historical pictures on
the walls showing Berlin famous stations (Fig.4.2/4; Fig.4.2/5). Another station, Brandenburger Tor,
has been designed also as a “station-gallery” with a series of lighted panels describing the whole
history of the gate from the time of Napoleon (Fig.4.2/6). While descending from the platform, one is
greeted with a series of quotations from historical events surrounding the Berlin Wall (Fig.4.2/7).
Fig.4.2/5 Berlin Hauptbahnhof
Fig.4.2/6 Brandenburger Tor Station, 2009, Berlin
Fig.4.2/7 Brandenburger Tor
Station
5.
CONCLUSION
Rapid transit stations in Japan have shorter history than stations in Europe. Although relatively
young, in last 80 years subway networks in Japan have been developed extensively. Comparing with
Europe, in Japan first subway stations had less aesthetic appeal. In Europe there has been a long
tradition of architects’ involvement in station design. In Japan subway companies have been
developing their in-house designs.
Currently both in Japan and in Europe, the implementation of aesthetics is being realized by
railway companies - through their policies, amenity improvement programs, by focus on their
corporate design, by involvement of architects (particularly in Europe), and appointment of design
committees (in Japan). Japanese stations are distinguished by their cleanness, accessibility, good
toilets, bilingual information signs and safety. However, comparing with European, Japanese stations
are less spacious and there is less space for waiting. Aesthetic design has been often realized mainly
as a decoration. At key places there are designed spaces with special lights, works of art, etc. At the
Ōedo Line, a care has been taken to make stations visually interesting but there is not a total design
consistent from the station entrance to the platform. However the Ōedo Line project have been seen as
a milestone linking the concepts of design with large-scale government development projects.
In Europe, aesthetic design has been more comprehensive and totally applied, starting from the
arrangement of the space and structure and ending on the finishes, furniture, materials and colors.
For example, stations on the Jubilee Line Extension display a cutting-edge design which is
characterized by the symbiosis of architecture and engineering – that is difficult to achieve in Japan.
In Europe stations are often designed by well-known architects. Collaboration between architects and
structural engineers has been very successful, resulting in splendid new stations, which beauty relies
on innovative structures and well-designed details. Canary Wharf Station is a model station showing
the unity of architecture and engineering at its best. Shibuya Station has only one “moment” of
- 63 -
architectural beauty – an opening in the ceiling at the end of the platform and otherwise it is very
typical and functionally-oriented station. In London, daylight and artificial lighting are used as
structuring and directional devices. The design priorities are to provide generous and easily to
understand space, clear passenger routing, comfortable access by escalators and elevator. In Japan,
the access by escalators and elevators has been greatly improved but the routes are often complicated
and sizes less generous.
There is a trend in Japan to improve aesthetic design and overall there have been a lot of
achievements in station renewal and design of new stations. The newest Fukutoshin Line in Tokyo
shows that Tokyo Metro has aesthetic concern but the resources are limited. Subways in metropolitan
area are facing also strong constrains due to lack of space and large number of users. New designs
show that the designers try to increase the station space but due to limitations, it has been achieved
only at some designed places.
In Japan railway companies are responsible for design while in Europe design process is different
and there is a stronger influence of government, local communities and public. One of attempts of
private company to relate to public is Tokyo Metro’s "Power to make Tokyo run" – idea of a group
involved in station design and producing together a station design guideline. The realization of
aesthetics in transportation is more likely to advance in the case of public operators owned by the
municipality, when railway authorities and urban planners work together on planning and design of
railways; such is the case of RATP – public operator of subways, buses and LRT in Paris.
The aesthetics of subway stations in Japan and Europe in future depends on philosophy of railway
corporations, on their attitude towards how to achieve a proper balance between aesthetics and cost,
and above all – on the spreading of popular perception of railways as public realm - that should
provide public with amenities and rich environment. The future belongs also to more active than
before involvement of public in planning and design process.
REFERENCES
Allen, H. (2001) Design and culture, Public Transport International Magazine, No.4. Union
Internationale des Transports Publics (UITP), UITP Publications, Brussels.
Ashihara, Y. (1998) The Aesthetics of Tokyo: Chaos and Order. Ichigaya Publishing, Tokyo.
Holgate, A. (1992) Aesthetics of Built Form. Oxford University Press, New York.
Kaminagai, Y. (2001) Design in Favor of Sensivity, RATP Savoir-Faire, No. 37, 28-33.
Kido, E.M. (1995) Aesthetics and philosophy of structural design in the context of Japanese bridges.
PhD Thesis, University of Tokyo, Tokyo.
Kido, E.M. (1997) Aesthetics in Japanese bridge design, Journal of Architectural Engineering, No. 3(1).
American Society of Civil Engineers (ASCE), 42-53.
Ross, J. (2000) Railway Stations: Planning, Design and Management. Architectural Press, Oxford,
Auckland, Boston, Johannesburg, Melbourne, New Delhi.
- 64 -
公共施設の計画・維持管理にかかる
防犯環境設計の研究開発
Research and development of CPTED(Crime Prevention Through Environmental Design) for planning,
operation and maintenance of communal facilities
前川裕介 *1
Yusuke MAEKAWA
Ken YONEYAMA
米山賢 *1
花原英徳 *1 星野渉 *1
Hidenori HANAHARA
Wataru HOSHINO
近年、犯罪発生の抑止と犯罪発生への不安感を低減していくことが、重要な課題となっている。
ここでは、防犯環境設計に係る研究開発として、公共施設における利用実態に係る情報と犯罪発生
への不安感について分析し、周囲からの見守り状況、地域内の情報、公共施設周りの土地利用現況
が、利用実態や不安感発生に繋がる要因となることを明らかにした。
キーワード:防犯環境設計、犯罪発生への不安感、公共施設、周囲からの見守り状況、土地利用
1.研究の背景
近年、道路や公園といった身近な公共施設におけ
る犯罪発生が多発していることや防犯上の不安感の
増加が課題となっている。不安感の増加には、犯罪
発生の実態だけではなく、徒歩等による外出機会の
減少、整備維持管理にかかる公共負担枠の減少、公
共施設周辺における民間開発等の経済状況の悪化が
さらなる影響を与えている。
これに対し、我が国において、いわゆる「防犯ま
ちづくり」の取り組みが本格的に進められるように
なったのは、旧建設省・警察庁による「安全安心ま
ちづくり実践手法調査」以降である。特に市街地整
備に関しては、全国都市再生の緊急措置の一環とし
て「防犯まちづくり関係省庁協議会」にて検討した
「安全で安心なまちづくり~防犯まちづくりの推進
~」が、現在の 防犯まちづくりの大枠を示してい
る。その後、「犯罪から子供を守るための対策に関
する関係省庁連絡会議」より「犯罪から子どもを守
るための対策」も示されている。
各自治体では、防犯まちづくりに係る計画を策定
し、小学校区単位を中心とした防犯まちづくりの取
り組みが積極的に進められており、今後も防犯環境
設計に係る整備・維持管理を積極的に進めていくこ
とが必要である。
被害対象の強化・回避
2.研究の目的
本研究開発では、新たな計画・再整備時、維持管
理時において、公共施設管理者による防犯環境設計
の積極的な採用と維持管理にかかる地域協働体制の
構築を目的とし、公共施設単位の現状把握と分析整
理、防犯環境設計にかかる業務の展開手法の検討が
必要となる。
そこで本研究開発では、公園や道路に代表される
身近な公共施設の利用実態、犯罪情報、不安感・安
心感の要因などを詳細に分析整理した。
また、具体的な公共施設の維持管理にかかる運
営体制として、どのようなビジネスモデルが考えら
れるかについて、セキュリティ会社とのワークショ
ップを通じて、考察を行った。
3.平成21年度の研究内容
平成21年度の研究テーマは以下の4点とした。
①公共施設の利用・犯罪情報・不安感等に係る
実態把握
②不安感・安心感に寄与する要因分析
③今後のトレンドに係る調査分析
④具体的なビジネスモデルの考察
①では、街区公園規模を中心とした公園や主要生
活道路を中心とした道路を対象とし、現状を把握す
るための住民アンケートを実施した。②では、アン
ケートデータを基に、不安感・安心感とその要因の
関係について分析・整理を行った。③では、今後の
防犯分野のトレンド検証として、近年の全国の公園
における犯罪発生を例とし、新聞記事の収集整理を
行い、記載された犯罪の特徴を分析・整理した。④
では、セキュリティ会社や不動産開発事業者・学識
経験者との意見交換・ワークショップを行った。
①~④の研究を通じて得られた知見から、今後の
研究開発や業務への反映について、提案事項を整理
した。
接近の制御
犯罪企図者
被害対象者
・対象物
監視性の確保
領域性の強化
地域住民等
(目撃者)
図-1 防犯環境設計の4原則
*1
東京本社 社会システム部 防災室 Community Affairs - Research & Analysis Division,Disaster management Division, Tokyo Office
- 65 -
わかりやすいアンケート設計と学校経由の配布回収
により、回収率は、83%(693世帯)に達し、地域の生
の声を把握できた。
3.公共施設の利用・犯罪情報・不安感に係る実
態把握・分析・・・①
・公園における利用実態・犯罪情報・不安感
に係るアンケート調査(松戸市)
・道路における利用実態・犯罪情報・不安感
に係るアンケート調査(小山市)
4.不安感・安心感に寄与する要因整理
・・・②
防犯上の不安感・安心感にかかる考察
(3)調査票の構成と分析
アンケート調査票は配布対象とした世帯を単位と
6.具体的なビジ
する個票であり、公園の特性を分析するために、公
ネスモデルの考
園単位の回答数を集計した。
察・・・④
表-1 アンケート調査票の構成
CSP、森ビル、
東大との意見交
換・ワークショ
設問項目
1.利用
状況
内 容
・よく利用する、あまり利用しない、利用しない
ップの開催
2.防犯上
の評価
5.公共空間犯罪のトレンド分析・・・③
※5カ所
まで記載
全国の公園における犯罪記事の収集分析
2.1 安心できる
2.2 危険情報がある
2.3 不安を感じる
2.4 子どもだけで
利用させない
→①安心できる理由※
→②危険な情報内容※
→③不安を感じる・
利用させない理由※
・自宅に近接、徒歩 5 分未
満、徒歩15 分未満、徒歩
15 分以上
・自由記載
※①~③で回答した
公園までの距離
3.防犯に係る要望
「危険な情報内容」については、認知犯罪だけで
なく、未遂からヒヤリハット情報も積極的に対象と
し、潜在的な犯罪発生情報と公園利用状況、住民の
安心感・不安感等との関連性について多角的に分析
した。
7.今後の研究開発や業務への反映についての提案
図-2 研究のフロー
4.公共施設の利用・犯罪情報・不安感に係る実態
把握
4-1 公園における利用実態・犯罪情報・不安感に係
るアンケート調査(松戸市)
(1)調査対象公園
新旧の住宅地や商工業地が混在する千葉県松戸市
内の10小学校周辺地区内の124箇所(プレ調査校:1
校・18箇所、本調査校:9校・106箇所)の公園等※
を対象にアンケート調査を行った。(※街区公園を
中心とする)
警察認知データ
学校安全指導に
係る情報
認知犯罪
・未遂
今回の調査
で得た情報
潜在的な犯罪発生情報
潜在的な犯罪発生
潜在的な犯罪発生情報と公園利用状況、
住民の安心感・不安感等との関連性に
ついて多角的に分析
図-4 今回の調査で得た犯罪情報
(4)公園に対する防犯上の評価
「おおむね安心」
・
「不安を感じる」の評価がなさ
れている公園が9割以上(
)、
「防犯上の理由で、
子どもだけでは利用させない」が7割以上( )、ま
た、
「危険情報がある」
が6割以上( )となっている。
表-2 公園に対する防犯上の評価
回答項目
図-3 松戸市内 10 小学校周辺地区における
調査対象公園(124 箇所<本調査 106 箇所>)
(2)アンケート調査の実施
アンケート調査は、幅広い犯罪情報、公園利用状
況、住民の安心感・不安感等の実態を詳細に把握す
るため、児童のいる833世帯へアンケートを実施した。
- 66 -
■防犯上安心
できる
■危険情報が
ある
■防犯上不安
を感じる
■防犯上の理由
で、子どもだ
けでは利用さ
せない
公園単位の回答数
本調査:106 箇所
参考:のべ回答者数
本調査:2,954 人
100 箇所/94.3%
1,336 人/45.2%
66 箇所/62.3%
385 人/13.0%
96 箇所/90.6%
836 人/28.3%
79 箇所/74.5%
397 人/13.4%
(5)
「危険な情報内容」の内容
危険な情報内容については、
「露出・わいせつ行為」
情報がある公園が約4割(
)、
「声かけ・追いかけ」
情報がある公園が約3割( )となっている。
「その他」の情報は、
『少年・大人のい集』や『未
成年の喫煙』
、
『不審者・ホームレス』
、
『見通しの悪
い箇所』が中心となっている。
表-3 危険な情報の内容
回答項目
①暴行やけんか
②大人による恐喝
③子どもや少年に
よる恐喝
④ひったくり・置
引き
⑤自転車盗
⑥声かけ・追いか
け
⑦露出・わいせつ
行為
⑧その他
公園単位の回答数
本調査:106 箇所
表-4 危険な情報の内容
参考:のべ回答者数
本調査:391 人
9 箇所/8.5%
8 箇所/7.5%
11 人/2.8%
10 人/2.6%
10 箇所/9.4%
18 人/4.6%
8 箇所/7.5%
13 人/3.3%
5 箇所/4.7%
6 人/1.5%
31 箇所/29.2%
111 人/28.4%
39 箇所/36.8%
100 人/25.6%
43 箇所/40.6%
122 人/31.2%
不安を感じる・
子どもだけでは
利用させない理由
公園単位の回答数
公園単位の回答数
回答項目
本調査:106 箇所
本調査:106 箇所
■公園にたどりつくまで~公園の周囲について
75 箇所
1)公園にたどり着くまでの通
59 箇所
り道の安全性
/55.7%
/70.8%
66 箇所
2)公園の周りで犯罪・不審者な
46 箇所
/62.3%
どの情報の有無
/43.4%
57 箇所
3)公園の周りの路上駐車等の
53 箇所
/53.8%
有無
/50.0%
81 箇所
4)公園の周りの建物等からの
59 箇所
/76.4%
人目の有無
/55.7%
77 箇所
61 箇所
5)公園の周りの人通りの有無
/72.6%
/57.5%
81 箇所
6)公園の周りから公園内への
55 箇所
/51.9%
/76.4%
見通し
■公園内について
67 箇所
7)公園内の犯罪・不審者などの
42 箇所
/63.2%
情報の有無
/39.6%
75 箇所
8)公園内へバイク等の進入の
36 箇所
/70.8%
可否
/34.0%
83 箇所
49 箇所
9)公園内での見通し
/78.3%
/46.2%
33 箇所
55 箇所
10)公園内の照明により夜間の
/31.1%
明暗
/51.9%
72 箇所
49 箇所
11)公園内の昼間の暗がりの有
無
/67.9%
/46.2%
安心できる理由
(6)
「安心できる理由」と「不安を感じる
・子どもだけで利用させない理由」
本アンケートでは、
「安心できる理由」と「不安を
感じる・子どもだけで利用させない理由」について、
22項目の選択肢(要因)を設定し、結果を整理した
(表4参照)
。
なお、22項目の選択肢は、以下3つの視点を踏ま
え、設定を行った。
25 箇所
/23.6%
12)公園内のトイレや倉庫等の
位置やデザイン
46 箇所
13)公園内の遊具などの位置や
/43.4%
デザイン
59 箇所
14)公園内の樹木や植栽の位置
/55.7%
や高さ
■その他、公園の利用や維持管理の状況などについて
70 箇所
15)公園の利用者数
/66.0%
66 箇所
16)公園利用者の知り合い有無
/62.3%
17)公園内のトイレ・倉庫・遊
47 箇所
具などの補修などの手入れの
/44.3%
状況
63 箇所
18)公園内の樹木や植栽などの
手入れの状況
/59.4%
69 箇所
19)公園の施設に落書きや破壊
/65.1%
行為、ゴミの投棄の有無
20)地域住民による清掃や花壇
47 箇所
の管理等の自主的な活動の有
/44.3%
無
44 箇所
21)地域住民による防犯パトロ
/41.5%
ール活動の有無
43 箇所
22)その他
/40.6%
■ 公園までのアクセス(自宅~公園周囲)
■ 防犯環境設計の4原則(図 1 参照)
■ 公園の利用や維持管理状況
「安心できる理由」
・
「不安を感じる・子どもだけ
では利用させない理由」に共通して「周囲の建物か
らの人の目」
、
「公園の周りから中への見通し」
、
「公
園内での見通し」
、
「利用者数」
、
「夜間の暗がり」と
いった『監視性の確保』に係る要因が多い(
)。
一方、
「公園内のトイレや倉庫の位置・デザイン」
、
「公園内の遊具の位置・デザイン」と『デザイン』
に係る要因は少ない( )。
また、
「公園内施設の補修・手入れ」
、
「清掃・美化
活動」
、
「防犯パトロール活動」等の『維持管理状況』
が他の項目に比べ要因として、少ない( )ことが明
らかになった。
松戸市では、街区公園の仕様(遊具・トイレ・樹
木植栽の設置)が概ね統一されており、自由度の少
ない空間構成となっている。
一方、子どもの遊び場は、時限的な遊び場である
ため、特別な設えがなく、規模や仕様も統一される
ことなく、球技等の広場として積極的に暫定利用さ
れている。
34 箇所
/32.1%
26 箇所
/24.5%
48 箇所
/45.3%
55 箇所
/51.9%
45 箇所
/42.5%
32 箇所
/30.2%
33 箇所
/31.1%
39 箇所
/36.8%
27 箇所
/25.5%
42 箇所
/39.6%
46 箇所
/43.4%
(7) 具体例にみる防犯環境設計上の課題
①「露出・わいせつ行為」の情報が多い公園
図-5の公園は、調査対象小学校において、回答者
の4割が「利用する」とし、公園内及び周囲からの見
通しもよい公園であるが、
「露出・わいせつ行為」の
情報が多く寄せられた。
- 67 -
(2)アンケート調査の実施
アンケート調査は、子ども一人での外出の許容や
道路の利用実態、安心感・不安感とその要因を詳細
に把握するため、小学校3年生児童のいる255帯へ、
アンケートを実施した。松戸市の調査同様、わかり
やすいアンケート設計と学校経由の配布回収により、
回収率は、85%(217世帯)に達し、地域の生の声を把
握できた。
表-5 露出・わいせつ行為の情報が多い公園
内 容
■男の子、女の子が腕を捕まれた
■女の子がつれこまれそうになった
■小学生が大人に声をかけられた
■女の子が写真を撮られた
場 所
公園内、植え
込みの近く
②「声かけ・追いかけ等」情報が多い公園
図-5の公園は、調査対象小学校において、回答者
の8割が「利用する」とし、公園内及び周囲からの見
通しもよい公園であるが、
「声かけ・追いかけ等」
、
「子どもによる恐喝」の情報が多く寄せられた。
(3)調査票の構成と分析
設問項目には、子どもの外出に関する許容、外出
の行動範囲、防犯上の評価(不安感・安心感)とそ
の理由を設定した(表7参照)
。
表-7 アンケート調査票の構成
設問項目
1.保護者の
考え方
2.利用状況
図-5 声かけ・追いかけの情報が多い Y 公園
3.防犯上
の評価
4-2 道路における利用実態・犯罪情報・不安感に係
るアンケート調査(小山市)
(1)調査対象道路
新旧の住宅地を含む栃木県小山市内の2小学校周
辺地区内の道路等(表6・図6参照)を対象とした。
表6 対象地区の特性
・子どもの外出に関する保護者の許容度
・帰宅後子どもが外出する目的・圏域(250m
区分)
・安心できる・不安 →①安心できる理由、
を感じる道路
②不安を感じる理由
(4)子どもの外出にかかる保護者の許容度
前提条件として、保護者の考え方・指導が子ども
の外出に影響を及ぼすと考えられるため、保護者の
属性として、5段階の評価を行った。
「行き先によっては、一人だけ(又は複数人数で
あれば子どもたちだけでも)でも外出してもかまわ
ない」と回答が、88%となっている。
言い換えれば、目的地や到達距離・経路によって
は、子ども(たち)の外出を許容する機会が増える
ことが十分見込まれることが明らかとなった。
小学校区
土地利用・主要生活道路等の特徴
・新たな戸建住宅開発が進む区画整
小山市小山城 理事業区域
南小学校区
・コミュニティ道路、歩行者専用道
路が整備済み
・老朽建物を含み開発年次の古い住
小山市旭小学
宅地
校区
・歩者分離箇所は幹線道路沿いのみ
内 容
■男性の下半身露出
■男性の小便行為
内 容
[207件]
場 所
砂場、滑り台周辺、公園中央、
トイレ以外の場所
12件, 6%
3件, 1%
子ども一人だけで外出しても良い
行き先によっては、子ども一人だけで
外出しても良い
69件, 33%
複数人数であれば、子どもだちだけで
外出しても良い
%
112件, 55%
旭小学校
11件, 5%
行き先によっては、複数人数であれ
ば、子どもだちだけで外出しても良い
子ども(一人でも・複数でも)だけでは
外出させない(大人が一緒でなければ
外出させない)
図-7 子どもの外出に関する保護者の許容
[択一回答]
(5)子どもの外出圏域について
外出の目的地は、校区内を中心とした店舗や公園
が多く、校区外等、遠方への外出については、回答
がなかった。
[のべ回答294件]
小山城南小学校
図-6 小山市内調査対象小学校区(2 校)と土地利用現況
- 68 -
学校区・周辺の店舗、公園等
学校区・周辺の友人宅等
学校区・周辺の習い事
放課後の学校(校庭・体育館)
その他
学校区外・遠方
0
20
40
60
80
100
120
140
160
図-8 子どもの外出の目的 [複数回答]
外出圏域は、250m未満が約半数を占めており、自
宅近傍の限定的な範囲であることが明らかになった。
26件, 7%10件, 3%
250m未満
52件, 13%
175件, 43%
250m以上
500m未満
500m以上
750m未満
750m以上 1km未満
1km以上
図-11 防犯上の道路評価<城南小>
②不安感・安心感につながる主な要因
「防犯上危険な情報や経験の有無」については、
不審者情報の要因が不安感に寄与している。
「見守り状況」については、通行量が少ないこと
や車のスピードが速いことが不安感につながり、通
行料が多ければ、安心感にもつながる。また、地域
の大人がよく利用していることが安心感に寄与して
いる。
「視線をさえぎるものの有無」については、直線の
道路線形が安心感に寄与している。「見知らぬ人の
存在」については、見知らぬ人の通行料が不安感に
寄与している。「車と子どもの接近」については、
歩車道の分離が安心感につながっており、分離され
ていない場合は、不安感につながる。
「管理の状態」については、見通しにかかる植栽の
手入れ等の維持管理が安心感につながっている。
136件, 34%
図-9 子どもの外出圏域 [複数回答]
(6)道路空間における不安感・安心感の評価と要因
①防犯上「安心できる道路」
「不安な道路」の評価
道路における防犯上の評価を、子ども一人での外
出の可否に基づき「防犯上安心できる道路」、「防
犯上不安な道路」として評価した。
また、2つの小学校区については、建物の築年数や
道路等の基盤整備状況、通過交通が異なることから、
校区別に集計を行い地図上にプロットし、評価の分
布から、以下の評価特性が明らかとなった。
□ 安心感は学校からの距離に依存せず、通過交
通の実態に寄与する
□ 鉄道敷沿いや主要幹線沿いは、不安感が高い
□ 同じ道路構造でも、沿道の土地利用(土地・
建物の用途、配置、外構等)により評価が異
なる
図-10 防犯上の道路評価<旭小>
[赤線=不安、青線=安心]
[赤線=不安、青線=安心]
- 69 -
5.不安感・安心感に寄与する要因整理
身近な公園及び道路空間における不安感や安心感
に寄与する要因を、防犯環境設計の視点から、以下
に整理した。
(1)「接近の制御」
公園では、バイク等の侵入抑止策の有無が安心感
や不安感に寄与しないが、道路空間においては、歩
車分離の有無が安心感・不安感に寄与する。
(2)「監視性の確保」
公園では、公園内の見通しでなく、周囲からの監
視性が安心感・不安感に大きく寄与する。また、建
物からや道路の人通りによる見守りは、公園、道路
ともに寄与する要因となっている。
(3)「領域性の強化」
公共空間の駐車については、公園、道路空間とも
に大きく寄与しておらず、維持管理活動についても
寄与が少ない結果となった
表-8 道路空間の安心感・不安感につながる要因
安心を感じる理由
回答数
不安を感じる理由
回答項目
■防犯上危険な情報や経験の有無
1)不審者が出たなどの危険な
情報がある
2)危なさそうな人がいる
■見守状況
32 件/14.7% 3)通行量
35 件/16.1%
回答数
29 件/13.4%
17 件/7.8%
47 件/21.7%
4)地域の大人の存在の有無
16 件/7.4%
4 件/1.8%
5)車の速さ(遅い←→速い)
59 件/27.2%
20 件/9.2%
6)沿道の建物の人気の有無
13 件/6.0%
7)その他(→空地がある)
8)その他(←パトロールの人が
6 件/2.8%
いる)
■視線をさえぎる物の有無
11 件/5.1%
9)路上駐車の有無
5 件/2.3%
6 件/2.8%
0 件/0.0%
10)植栽の手入れ状況
20 件/9.2%
3 件/1.4%
11)塀の有無
7 件/3.2%
27 件/12.4% 12)道路の線形(←直線)
■見知らぬ人の存在
13)通行量
14)アパートの有無
■車と子どもの接近状況
40 件/18.4%
0 件/0.0%
■管理の状態
3 件/1.4%
1 件/0.5%
1 件/0.5%
6 件/2.8%
検索において、対象犯罪は刑法犯・特別法犯にわけ
て、以下のキーワードで検索を行った。(検索条件
は、対象期間「2004.10.1~2009.10.1」・地域版「す
べて」・分類「すべて」とした)
□ 刑法犯
(2745件 → 記事の重複により、2285件に統合)
公園 AND ( 殺人 OR 強盗 OR 放火 OR 強姦 OR 暴行
OR 傷害 OR 脅迫 OR 恐喝 OR 凶器準備集合 OR 窃盗
OR 詐欺 OR 横領 OR 偽造 OR 汚職 OR 背任 OR 賭博
OR わいせつ OR 公務執行妨害 OR 住居侵入 OR 逮
捕・監禁 OR 器物損壊 )
□ 特別法犯(8件)
公園 AND (道路交通法違反 OR 覚せい剤取締法違反
OR 軽犯罪法違反 OR 廃棄物処理法違反 OR 入管法違
反 OR 保管場所法違反OR 銃刀法違反 OR 自動車損害
賠償法違反 OR 風営適正化法違反 OR 大麻取締法違
反)
(2)検索結果に見る公園での犯罪情報の特徴
検索により、明らかに「非該当」となる記事以外
にも、「公園に関連する記事」や「公園周辺におけ
る犯罪発生記事」が検索された。
特に、「公園に関連する記事」については、以下5
種類の記事があげられた。
①犯罪は別の場所で起きたが、犯罪者の検挙や検挙に
つながる証拠物の発見は公園だった記事
②複数の犯罪者が公園で意気投合して事件を公園外
で行ったケース(公園内では犯罪を行っていないが、
犯罪者が公園で蝟集していたことは事実となる)
③犯罪者が普段公園で寝泊りしていた、居場所にして
いた等公園にいたケース(公園で犯罪者が蝟集して
いたことは事実となる)
④実際は別の場所で犯罪を行ったが、事前に公園でも
しようとしていた又は公園で犯罪のきっかけが生
じたケース
⑤犯罪者からの逃げ込み先が公園だったケース
これらの記事は、公園内の犯罪情報ではないが、
公園が犯罪発生過程の一部となっていることを示し
記事として取り扱うことができる。
表-9 公園における記事の分類
15)歩道と車道の分離状況
7 件/3.2%
28 件/12.9%
11 件/5.1%
26 件/12.0%
16)大きな駐車場の有無
3 件/1.4%
17)清掃状況
5 件/2.3%
18)建物や外構の新しさなど
19)公園や空地に花が植えられ
ている
20)その他
1 件/0.5%
23 件/10.6%
(4)「対象者(物)の強化」
公園や道路空間はオープンスペースであり、特定
の防犯設備等の設置や利用制限を行わない限り、公
共施設に対する対象者(物)の強化とならず、対象
者の防犯ブザーの携帯などに限定される。しかし、
保護者等の同伴や友人等との集団行動を対象者の強
化と捉えれば、保護者や子どもの利用頻度の高い公
園や道路空間も評価の対象となりうる。
6.公共空間犯罪のトレンド分析
本研究では、特定の自治体・地域を対象とした調
査を行うことにより、公園や道路の特徴を踏まえた
防犯上の課題を整理した。
ここでは、公園に代表される公共空間犯罪の全国
的な犯罪発生情報を把握することで、公園に関連す
る犯罪の特徴や、罪種、内容等を近年の新聞記事を
検索し、トレンドを分析した。
(1)対象記事と検索手法
一定量の様々な犯罪情報等を把握するために、地
域版の記事を含み、検索方法においても、より多く
の記事が網羅できる「読売新聞社 ヨミダス文書館」
の検索サービスデータを用いることとした。
区分集計
記事区分
*公園内
該当
非該当
- 70 -
①
②
③
公園関連
④
⑤
TOTAL
公園周辺
該当TOTAL
非該当
非該当TOTAL
TOTAL
データ原本
(刑法犯)
1,144
62
3
30
23
4
122
72
1,338
947
947
2,285
データ原本
(特別法犯)
TOTAL
7
0
0
0
0
0
0
0
7
1
1
8
1,151
62
3
30
23
4
122
72
1,345
948
948
2,293
(3)発生箇所や犯罪種別の特徴
新聞記事には、具体的な公園内の発生箇所が記載
されており、その特徴をつかむことができる。
警察庁の統計データは異なり、新聞記事への掲載
は社会的な関心度にかかる指標として扱うことがで
きる。
記事では、駐車場やトイレ等の個別施設、周辺道
路や通路等の空間において、傷害・窃盗・器物破損
といった犯罪が社会的な関心を集めており、これら
の犯罪に対する防犯環境設計のあり方や指針を示す
こともトレンドに沿った研究開発のテーマといえる。
12件, 3.3%
4件, 1.1%
1件, 0.3%
14件, 3.8%
90件, 24.4%
18件, 4.9%
30件, 8.1%
34件, 9.2%
37件, 10.0%
89件, 24.1%
駐車場
個別設備
道路空間
建物施設(周辺含む)
個別施設
その他
遊具・遊び場
出入口
水辺空間
広場空間
水辺空間、道路空間
8.今後の研究開発や業務への反映
本研究では、防犯分野の中でも、①犯罪弱者である
子どもを対象とした犯罪、②基礎自治体が管理する
身近な公共施設である街区公園や主要生活道路、③
犯罪情報と不安感による評価を中心に基礎的な調
査・分析を行った。
今後は、研究対象施設の枠組みを広げ、手法開発
についても、社会的なニーズとの整合を計るため、
以下の視点から研究開発を進め、既往の計画設計業
務への応用や防災・防犯・危機管理分野のプロポー
ザル等の提案事項に反映できることを目指す必要が
ある。
□ 河川管理者や道路管理者をターゲットとし
たCTI独自の計画設計・整備・維持管理指
針の作成
□ 都市整備分野における上位計画策定時の新
たな視点の導入
□ 施設整備や地区レベルの整備課題に対応し
た防災防犯分野に共通する分析ソリューシ
ョンツール開発
□ 民間事業者との連携による都市分野での合
意ツールの開発
40件, 10.8%
図-12 公園内の場所分類(刑法犯:369件)
傷害
窃盗
器物損壊
わいせつ
強盗
その他(盗難)
その他(法条例違反)
その他
その他(不審火)
殺人
その他(公園周辺の犯罪)
強盗,傷害
その他(放火)
暴行
その他(犯人検挙)
その他(公園で寝泊り)
恐喝
傷害(業務上過失)
暴行,傷害
詐欺
その他(死体遺棄)
その他(破壊)
ているが、防犯分野の環境評価ツールとしても応用
することが可能である。
(2)防犯・防災に共通する業務分野開拓
(民間警備会社:セントラル警備保障株式会社)
非住宅・、住宅をターゲットとした防火管理や防
災対策のサービス提供を行い、警備サービスとのパ
ッケージを図ることで契約継続を図る必要がある。
(3)土地利用の制限・誘導の指標の提言
(研究機関:東京大学大学院明石研究室)
都市施設の計画設計や市街地の土地利用の誘導等、
都市計画分野において、防犯環境設計の視点から、
設計ガイドラインの作成や既往のまちづくりにかか
る制度(地区計画等)へ定量的な提案を行うことが
可能である。
156
150
128
107
72
71
63
57
52
50
40
38
36
35
33
28
19
13
12
10
8
8
図-13 犯罪種別(刑法犯:上位20位まで)
7.具体的なビジネスモデルの考察
本研究では、防犯分野における業務開発や具体的
なビジネスモデルの考察を行うため、下記関連事業
者・研究機関との意見交換やワークショップを実施
した。
研究開発から業務までの展開について、各主体の
考え方は以下の通りである。
(1)都市開発事業の合意ツールへの応用
(民間都市開発事業者:森ビル株式会社)
再開発等の合意ツールとして、VRの開発を行っ
- 71 -
国際人材ネットワーク基盤研究
Study on Development of International Human Resources Network
和田
彰 *1
Akira WADA
本研究は、河川再生分野の人・情報循環を核としたアジアネットワークの運営をケーススタディと位
置付け、建設コンサルタント企業としての新業態の展開や社会貢献活動などを視野に、本ネットワーク
の安定基盤構築と持続的発展のあり方を検討し、今後のネットワーク事業展開像を示した。
キーワード:
1.
ARRN、国際ネットワーク、河川再生、CSR、ソーシャルビジネス
研究背景
2.
社会基盤整備に関わる国内外環境が激動する中
で、官民の役割の変化や新たな事業主体の登場な
ど公共部門の再構築が進み、持続可能な社会実現
の為の新たな社会システムのあり方とその実現シ
ナリオが強く求められている。
インフラ整備に関わる課題例を挙げると、
○地域主体・自立型社会へのシフトが叫ばれる中、
従来の中央組織に代わる全国横断的な情報・人
材連携の仕組みが未構築である。
○行政や企業セクターと並び、市民セクター活躍
の機会と支援体制が醸成されていない。
○物質的豊かさから精神的豊かさへの国民ニーズ
を具現化し、かつ公共サービスへ反映する社会
システムが欠如している。
○日中韓を軸とする東アジア共同活動が期待され
る中、実際に協働する活動基盤に乏しい。
○国内で蓄積した技術や知見をアジアで活用・展
開する機会や道筋が見出せない。
これら諸課題の解決に向けては、公共がすべて
を担い得るという従来の考えから、多様な主体が
連携して対応するというパラダイムシフトが必要
であり、これを可能とする産学官民の人的資源の
連携・循環基盤が期待される。1),2)
本研究は、河川再生分野の国際ネットワークで
ある「アジア河川・流域再生ネットワーク(ARRN)」
及びその日本窓口組織である「日本河川・流域再
生ネットワーク(JRRN)」の運営支援をケーススタ
ディと位置づけ、アジア地域における人と情報・
知識の循環を核とした新たな連携基盤の構築を通
じ、今後の社会システムにおける新たな公の担い
手としての建設コンサルタントの社会貢献のあり
方を示すものである。
*1
ARRN 及び JRRN の概要
「第 4 回世界水フォーラム」(2006 年 3 月・メ
キシコ)において、日本・韓国・中国が中心とな
り、アジアの河川環境再生を目的とした分科会が
開催され、この分科会での提言が契機となり、2006
年 11 月に「アジア河川・流域再生ネットワーク
(ARRN)」が設立された。設立後から現在まで、財
団法人リバーフロント整備センターが事務局を担
い、以下の二つを ARRN の活動の柱としている。3),4)
<ARRN の活動目的>
①アジア地域をはじめ世界各国の河川・水辺の再
生に関する事例・情報・技術・経験などを、技
術者・研究者・生態学者・行政担当者、そして
市民で交換・共有する仕組みを構築する。
②アジアモンスーン地域で利用できる『河川再生
ガイドライン』を構築し、ネットワーク参加者
の知識・技術の向上を図る。
図-1
ネットワークの組織図
国土文化研究所 企画室 Research Center for Sustainable Communities, Research Planning Section
- 72 -
人リバーフロント整備センターとの共同研究とし
て両事務局運営を支援している。5)
ARRN は、参加各国・地域内のローカルネットワ
ークである RRN(River Restoration Network:河
川再生ネットワーク)メンバー、及びローカルネ
ットワークを形成していない Non-RRN(個別組織
会員)メンバーで構成され、2009 年 12 月現在、
JRRN(日本)
・KRRN(韓国)
・CRRN(中国)の3RRN
組織、及び Non-RRN メンバーとしてタイ国天然資
源環境省水資源局とパキスタン国連邦洪水委員会
の2組織が参加している。ARRN の組織図を図-1
に示す。
国土文化研究所
による社会貢献活動
(財)リバーフロント整備センター
による水辺空間の広報・普及啓発
及び国際協力活動
共同研究として ARRN/JRRN 運営支援
(公益活動として)
図-2
4.
一方の JRRN は、ARRN の日本支部組織として 2006
年 11 月に設立され、現在約 400 名の個人会員及び
13 の組織会員(2009 年 12 月現在)で構成され、
以下の二つを主な目的として活動している。
研究実施体制のイメージ図
ネットワークの活動基盤構築
(1)ネットワーク基盤構築に向けた取組み
河川再生に関わる国内外の人・情報・技術の循
環を核とした連携基盤を新たに構築する上で、
ARRN 及び JRRN の運営当初より次のような解決す
べき課題が存在している。(表-1)
<JRRN の目的>
①国内外の河川再生に関わる技術・事例・経験・
活動・人材などを交換・共有することを通じ、
日本国内の各地域に相応しい水辺再生の技術や
仕組みづくりの発展に寄与する。
②日本の優れた河川再生の技術・知見をアジアに
向け発信し、同時にアジアや欧米諸国の適用可
能な取組みを日本国内に還元する。
表-1
ネットワーク基盤構築上の課題
ネットワーク活動基盤構築上の課題
情報循環面
情報循環を促進する媒体(ウェブサイト、
ニュースレター等)が不十分
アジア内情報循環に際しての言語の障害
循環・共有する情報(素材)の未整備
国・地域・立場で異なるニーズ
ARRN 及び JRRN の詳細については、JRRN ホーム
ページを参照されたい。
(JRRN: http://www.a-rr.net/jp/)
3.
本
研
究
技術・事例蓄積面
知的財産となるオリジナル素材の欠如
言語の障害
国・地域・立場で異なる技術的ニーズ
本研究の目的及び実施体制
ネットワーク拡大面(知名度向上と会員増加)
ネットワークのビジョンや戦略が不明確
会員メリットに乏しい
PR戦略( 顧客、テーマ、手段等 )とPR活動不足
他国や欧米組織との連携不足
(1)研究目的
本研究は、次の二つを目的とする。
① 河川再生に関わる国内外の人・情報・技術の
循環を核とした連携基盤を構築する。
② この連携基盤の持続的発展のあり方を検討し、
今後の事業展開像を示す。
(2)研究経緯及び実施体制
本研究は、国土文化研究所の研究活動として
2007 年に「国際連携に関する研究」として始まり、
2008 年に「国際人材ネットワーク基盤研究」に改
称し、本年で研究着手から 3 年目となる。
研究当初より ARRN 及び JRRN 事務局運営に人的
支援という形態で関与する機会を得ており、2009
年度からは、ARRN 及び JRRN 事務局を担う財団法
- 73 -
組織運営面(事務局運営、資金源確保等)
中国・ 韓国や国内会員との協働の機会不足
政治問題(中台問題等)による障害
活動資金及び事務局マンパワーの不足
これらの課題を克服するため、以下の取組みを
優先的に行いながら、ネットワークの安定した基
盤構築を図った。
②河川整備基金助成事業等から外部資金を獲得
して活動を実施。(2007 年、2008 年)
③先行組織(ECRR 等)との運営面情報を交換。
(2009 年 3 月~)
表-2
課題克服に向けた取組み(3年間)
本研究着手時(2007 年 1 月)から現在(2009
年 12 月)までの ARRN/JRRN の主要な活動実績を表
-3に総括する。
■情報循環面の課題克服の取組み
①ARRN/JRRN ウェブサイトを情報共有基盤の要
と位置づけ、ウェブサイトの再構築を実施。
→JRRN サイト日本語版再構築(2007 年 8 月)
→JRRN サイト英語版再構築(2008 年 3 月)
→ARRN サイト英語版部分改良(2008 年 12 月)
②JRRN 日本語ウェブサイトを週二回の頻度で
更新(水関連行事、ニュース、書籍、会員情
報等を継続的に追加更新)(2007 年 8 月~)
③ARRN/JRRN 英語版ウェブサイトを更新し ARRN
活動や新規情報を継続追加(2008 年 3 月~)
④不定期配信であった日本国内向け「JRRN ニュ
ースレター」を毎月配信へ(2008 年 1 月~)
⑤週 1 回配信の日本国内向け「JRRN ニューズメ
ール」を週二回配信へ(2007 年 8 月~)
⑥海外向け「ARRN ニュースレター」を年 2~3
回配信(2008 年 7 月~)
⑦海外向け「ARRN ニューズメール」を不定期配
信(2009 年 6 月~)
(2)ネットワーク基盤構築状況の評価
■技術・事例蓄積面の課題克服の取組み
JRRN を通じたネットワークの情報循環活動の
効果を図る一つの指標として、JRRN ウェブサイト
への月別アクセス総数を図-3に示す。(※調査
を開始した 2009 年のみ、9 月欠測)
本ネットワークが順調に発展しているか、また
ネットワーク設立目的に合致した社会貢献活動を
担えているかの自己評価は難しい。しかしながら、
運営主体側の一方的活動に陥らないためには、活
動そのものの客観評価を継続して行うことも重要
となる。
そこで、ARRN/JRRN に関わる国内外活動につい
て、JRRN ウェブサイトへのアクセス数、ARRN 事務
局に対する海外からのコンタクト数、また JRRN
会員数の推移等の定量指標の整理を行い、ネット
ワーク活動に対する社会の応答の観点から基盤構
築状況の評価を試みた。
①JRRN ウェブサイトへのアクセス数の推移
①日中韓で構成される「ARRN 技術委員会」を設
置(2008 年 7 月)し、年1回の委員会開催。
②技術委員会監督の下で「アジアに適応した河
川環境再生の手引き」編集着手。(2008 年 9
月~)初版を発刊(2009 年 3 月)し、現在も
第2版作成作業を継続中。(市民を対象)
③日本国内の河川・水辺再生約 200 事例を収集
整理し JRRN ホームページ(日本語・英語版)
に掲載。(2009 年 10 月)
■ネットワーク拡大面の課題克服の取組み
①JRRN 及び ARRN のチラシや年次報告書を作成
し、国内外関連行事で配布。(2007 年 9 月~)
②河川再生に関連する国際会議において ARRN
紹介目的の講演、論文発表。(年 2 回程度)
③ARRN 設立時よりアジア向けに国際フォーラ
ムを毎年開催。また国内向けに、会員交流と
知識向上を目的に JRRN 講演会をシリーズ化
して開催。(2008 年 7 月~)
④海外関連組織との意見交換、技術研修支援、
情報交換活動(ECRR:ヨーロッパ河川再生セン
ター等)を継続的に実施。また一部海外関係
者 交 流 行 事 を JRRN 国 内 会 員 向 け に 公 開 。
(2009 年 7 月~)
図-3
JRRN ウェブサイトの月別アクセス数(横
軸:月、縦軸:月別総アクセス数)
月毎のバラツキはあるものの、2009 年 1 月に約
28,000 アクセス(日平均で約 930 件)なのに対し、
11 月時点では約 45,000 アクセス(日平均で約
1,500 件)に達し、2009 年内だけで約 1.6 倍のア
クセス増となっていることが分かる。
これは、イベント情報や河川再生事例情報等の
ウェブコンテンツの継続的な追加や、ネットワー
ク自体の知名度向上の効果と思われる。
■組織運営面の課題克服の取組み
①運営会議と委員会開催により、年二回以上の
日中韓交流の機会を設置。(2008 年 9 月~)
- 74 -
表-3
目的
情報発信
本研究着手時(2007 年 1 月)から現在(2009 年 12 月)までの主な ARRN/JRRN 活動実績
アジア河川・流域再生ネットワーク(ARRN)
日本河川・流域再生ネットワーク(JRRN)
・ARRNホームページ部分改良(2008.11)
http://www.a-rr.net/
・ARRNニュースレター発刊
(2008.7, 2008.12, 2009.7, 2009.12)
・ARRN年次報告書発刊 2007, 2008, 2009 ※予定
・JRRNホームページ日本語版 設計、公開(2007.8)
http://www.a-rr.net/jp/
・JRRNホームページ英語版 設計、公開(2008.8)
・JRRNホームページ運営管理・更新( 日本語 ・英語 )(週2 回)
・JRRNメールマガジン発行(週2回)
2009年末時点: 第6号~第261号
・JRRNニュースレター発刊(月1回)
2009年末時点: 第3号~第30号
・第4 回 ARR N水 辺・ 流域 再生 にかか わる 国際 フォ ーラ ム( 東京 ・
2007.11)
・ 第1 回 アジ ア 太 平 洋水 フ ォ ー ラム 特 別 セ ッシ ョ ン ( 大分 ・
2007.12)
・ARR N河 川 環境 講演 会「 海 外に おけ る 環境 水工 学の 最 新の 研究 紹
介」(東京・2008.9)
・第5 回 ARR N水 辺・ 流域 再生 にかか わる 国際 フォ ーラ ム( 北京 ・
2008.11)
・ 第 6 回 ARRN水 辺 ・ 流 域 再 生に か か わ る 国際 フ ォ ー ラ ム (ソウ
ル・2009.9)
・台湾「愛河」ワークショップ(東 京・2007.10)
・中国河川再生ワークショップ(東 京・2008.1)
・第1回 河川環境ミニ講座「環境流況 」(東 京・2008.7)
・第2 回 河川環 境ミ ニ講 座「韓 国安 養川 等の都 市河 川再 生」( 東京 ・
2008.12)
・第3 回 河 川環 境ミ ニ講 座「 環境 流量 から みえ るア ジア の風 土性 」( 東京 ・
2009.5)
・アジアに適応した河川環境再生の 手引き ver.1発刊
(2009.3)
・水関連の国内外イベント普及(JRRN-web上 ) 250行事
・河川に関わる書籍・活動・見学先 等普及 (JRRN-web上) 200情報
・国 内 水辺 再 生 事例 ( 約200 事例 ) 収集 及 びJRRN-web 公 開( 日 本 語・ 英
語)掲載
及び
共有基盤
整備
人材交流
機会提供
(イベント)
情報・技術
蓄積
ネットワーク拡大
及び
運営基盤
確立
パートナーシップ
構築
及び
技術研修支援
及び
広報活動
・手引きver.2更新作業中(2010.9発刊予定)
・第2回 ARRN運営会議(東京・2007.12)
・第1回ARRN情報・技術委員会(北 京・2008.9)
・第3回 ARRN運営会議(北京・2008.11)
・第2回ARRN情報・技術委員会(仁 川・2009.8)
・第4回 ARRN運営会議(ソウル・2009.9)
・JRRN事務局定例会議(週一回)
・会員入会・問い合わせ対応
・国内外関連組織との情報交換
・国際会議・学会等参加(9回)
河川再生技術交流ワークショップ( 台湾・2007.6 )、ア ジア土 木工学 会(台 湾・2007.6)
第3回東南アジア水フォーラム(マレ イシア ・2007.10)、 第1回ア ジア太 平洋水 フォー ラム( 大分・2007.12 )
第3回NARBO総会(インドネシア・2008.2) 、第4回 APHW 国際会 議(中 国・2008.11)、第5回 世界水 フォー ラム( トルコ ・2009.3)
世界都市水フォーラム(韓国・2009.8)、 第5回韓 国KICT 河川環 境ワー クショ ップ( 韓国・2009.9 )
・国内外関係機関へのPR活動・意見 交換
(韓 国 )異 常 気象 調 査 団(2007. 4) ・ 水資 源 学会 (2007.5, 2008.8 ) 、 韓国 水 生態 復 元事 業 団(2008. 5) ・ 韓国 河 川 協会 視 察団 来 日支 援
( 2008.6, 2009.6 ) ・ 健 や か な道 林 川 を つ く る市 民 の 会 ( 2008.7 ) ・ 韓 国 建設 技 術 研 究 院( 2008.9 ・ 2008.11 ・ 2009.8 ・
2009.9・2009.12)等
(中国) 中国水 利水電 科学研 究院(2007.8, 2007.12, 2008.9・2008.11) ・南京 水利研 究所(2007.7 )・河 海大学 (2007.7)・ 北京市 水
利規則 設計 研究院 (2007.8) ・武 漢市 水務局 (2007.8) ・上 海市 蘇州河 改良 事業 団(2007.8 )・清 華大 学(2007.9 )・香 港特 別
行政区土木開発部(2009.2)・湖北省水利 庁(2009.22) ・大連 理工大 学水環 境研究 所(2009.11)
(台湾)高雄市、台湾逢甲大学(2008.10) ・台湾 環境保 護署(2008.11 )・台 湾水利 規則試 験所(2008.12 )
台湾経済署水利部(2009.7)
(その他)タイ水資源局(2007.12, 2009.8)・イギリス河川再生センター(2007.12)・ヨーロッパ河川再生センターECRR(2009.3)
パキスタン連邦洪水委員会(2009.5) etc.
・会員勧誘活動、関連機関誌等への 記事投 稿
- 75 -
②ARRN 事務局への海外からアクセス数(Email)
本来は ARRN 会員数を評価指標とすべきだが、現
在は ARRN の海外における知名度向上(普及活動)、
及びネットワーク主要メンバーである日中韓それ
ぞれの国内ネットワーク拡大を優先課題としてい
るため、ARRN 会員数による評価はできない。
そこで、ARRN 活動の拡がりの一指標として、
2008 年及び 2009 年の海外から ARRN 事務局に対す
るコンタクト数(来日視察調整、各種問合せ、事
務局間調整等)を整理した。アジア内での交流頻
度は大差がない一方で、2009 年より欧州との交流
が増加していることが分かる。(図-4)
その他 7.7%
学会・ネットワーク
0.2%
NPO法人 2.0%
地域団体・市民団体
5.2%
研究所・大学 14.2%
公益法人 9.0%
民間企業 51.1%
行政機関 10.5%
200
150
欧米その他
アジア諸国
中国・韓国事務局
図-6
JRRN 個人会員の所属組織内訳
100
50
0
2008年
図-4
2009年
海外から ARRN 事務局への受信 Email 総
数
③JRRN 個人会員数の推移
過去 3 年間の JRRN 個人会員の新規入会者数では、
2007 年に 145 名、2008 年に 73 名、また 2009 年に
110 名とほぼ一定の割合で増加している。(図-
5)また会員構成の内訳では、約半数が民間企業
に属する実務者、公共機関関係者が 20%、研究者
(学生含む)が 15%、また個人を含む市民団体関
係者が 15%となっている。
450
400
新規登録者数
350
既登録者数
300
250
200
150
100
50
0
11121 2 3 4 5 6 7 8 91011121 2 3 4 5 6 7 8 91011121 2 3 4 5 6 7 8 9101112
2006
2007
図-5
2008
2009
JRRN 個人会員数の推移
- 76 -
こうした定量指標の他にも、2009 年度より各種
メディアでのネットワークの紹介など、社会的認
知度向上の兆しが基盤構築の成果として現れつつ
ある。しかしながら、上記で整理した指標の評価
(投資効果)については、中期的な本ネットワー
ク運営に関わる設定目標との比較を通して初めて
可能となるため、組織発展の評価については今後
の課題で改めて論じる。
5.
ネットワークの持続的発展に向けた検討
JRRN では、使命として「水辺の価値が社会に認
識され、人々と水辺が結びつき水辺を通じ心が豊
かになる社会を実現する。」を掲げている。
我が国のひっ迫した財政状況下において、また
時代と共に社会の水辺に対するニーズが変わるこ
と等を考慮すると、日本を含むアジアの水辺環境
再生に寄与するという ARRN 及び JRRN の目的達成
には多大な時間を要し、それ故に持続発展的な活
動が求められる。
こうした中では、産官学民の力を結集した国内
外ネットワークの安定基盤を構築することに加え、
この基盤をビジネスとして長期に渡り継続してい
く仕組みづくりが両ネットワークの目的達成には
必要となる。1)
そこで、本章では、国内外の類似団体の組織運
営面についての特徴を分析した上で、ARRN 及び
JRRN が目指すべき事業展開像を示し、両ネットワ
ークが持続的に発展していくための道筋について
検討を行った。
表-4
河川再生分野の海外非営利組織の特徴(組織運営面)
団体名
国名
River Restoration
Centre(英国河川再生
センター)
イギリス
1998 年設立
既存河川再生事業団体
の後継団体として誕生
European Centre for
River Restoration
(欧州河川再生センター)
International
Riverfoundation
(豪州国際河川財団)
現事務局(イタリア)
1999 年設立
デンマーク政府資金援助
で 22 カ国合意で誕生
オーストラリア
設立経緯
2003 年設立
国際的河川再生コンペ
の運営、資金調達団体
として誕生
目的
河川の再生、強化及び 欧州の河川再生と適正な 世界の河川流域の保護
持続可能な河川管理の 河川管理を推進するため 及び再生の提言
ための英国内情報諮問 の情報・人材共有ネットワ
センター
ーク。
(ECRR の英国窓口)
組織形態
非営利を目的とした有 設立後 3 年デンマーク、4 財団法人として運営
限責任会社として設立 年オランダ、3 年イタリア
基
し、理事会が管轄。
が事務局を担い、2010 年
本
よりオランダへ移行。各国
情
内ネットワークの統合ネ
報
ットワークの位置づけ。
活動内容
事業への助言、1000 以 河川再生に関わる関連情 国 際 的 な 河 川 行 事
上の事業事例紹介、研 報の整備(ウェブサイト)、 「Thiess River Prize」
修やワークショップ開 研修やワークショップ開 運営、河川シンポジウ
ム支援、書籍出版、視
催、、現地視察支援、関 催、EU への政策提言等
連情報発信
察支援等
ス タ ッ フ 常勤スタッフ 7 名、理 詳細不明
常勤スタッフ 4 名
数
事会 10 名(半数コンサ
ルタント、半数が研究
者)、諮問委員会 7 名
(準政府機関関係者)
約 1,000 万円
約 7,500 万円
財 年 間 事 業 約 5,500 万円
人件費、行事開催、技 行事開催、情報整備、出版 行事開催、活動助成、
源 費と内訳
術支援、その他管理費 等
人件費
に
※人件費、管理費含まず
関
す 財源、仕組 会費(1/4)、政府助成金 (現在事務局を担う)イタ 州政府や市、民間企業、
る み等
(1/4)、受託業務(1/4)、 リア政府支援金
個人の寄付金
情
イベント参加費等
報
(1/4)
http://www.therrc.co.uk/
http://www.ecrr.org/
http://www.riverfoundation.
詳細情報(URL)
org.au/
社会基盤整備分野での非営利団体運営面の詳細調
査結果 6)7)を参考に、上記海外組織の整理結果と合
わせ、国内外非営利団体の持続的な組織運営面の
分析を行った。
非営利活動に対する海外と国内の歴史や市場環
境が大きく異なるために単純比較はできないが、
活動内容、組織体制、財源等について次のような
特徴が得られた。
活動内容では、海外組織が高度な専門性を備え
たサービス提供や行政への政策提言など独自の権
(1)類似団体の特徴分析
ネットワークの持続的発展に向けた方向性と手
順を見出すことを目的として、河川再生分野で成
功を収めている国外 3 組織について、公開情報(ウ
ェブサイトや年次報告等)や電話、Email、また国
際会議での面会によるヒアリング等により特徴の
整理を行った。(表-4)
また、国内組織については、社団法人土木学会
「教育企画・人材育成委員会」により実施された
- 77 -
限と活動内容のバランスを持つのに対し、国内組
織は市民とのコミュニケーションを中心とした草
の根的社会啓発活動が多いのが特徴と言える。
組織体制においては、運営スタッフに行政・研
究者・実務者等が均等に、かつ少人数で関わり、
異なるセクターの横断的連携を可能とする組織が
海外の特徴として見受けられた。
また財源面では、RRC に代表される様に、会費、
助成金、寄付金、自主事業などをバランスよく財
源としている団体の存在が特徴的である一方で、
国内団体の多くは行政からの受託業務を主財源と
している傾向が顕著であった。8)
その生活が改善される人々=市民)と資金をは
じめとする活動支援者としての顧客(活動を担う
ことよって満足を得る人々=会員、資金提供者、
業務委託者、運営主体)のメリットを区別した中
で、既存組織では担えない専門性に根ざしたサー
ビス提供を軸とする事業の展開が求められる。10)
同時に、ビジネスの視点から収益性・継続性・マ
ネジメント体制の充実化を図ることが活動資金や
人材の調達を可能とする。
(2)ネットワークの展開像
本ネットワークが、日本を含むアジア地域の河
川再生に寄与する仕組みの構築という国・地域を
超えた課題を対象分野としている点(社会性)、ま
た既存の組織やサービスで担えない新たな活動で
あること(革新性)、更にはこうした活動を持続的
に遂行する(事業性)上での国内外類似団体分析
結果等より判断すると、多様化・複雑化する社会
的課題について事業性を確保しつつ解決する「ソ
ーシャルビジネス」としてのネットワーク展開が
有効と思われる。9)
国内ソーシャルビジネス事業者の事業展開上の
3つの課題として、「認知度向上」「資金調達」
「人材育成」が挙げられている。8)9)
ネットワークの認知度向上に向けては、本ネッ
トワークの目標を社会に明確に示すとともに、サ
ービスの対象としての顧客(組織の活動によって
ARRN賛同者
・国際機関
・政府、大学
・財団
・個人
図-7 ソーシャルビジネスのポジショニング
(ソーシャルビジネス研究会報告書 9)より引
用)
こうした観点から、ネットワークの持続的発展
に向けては、ARRN としてアジアにおける関連情
報・技術が流れる仕組みを構築する中で、この仕
組みの発展に寄与する国内人材・情報源として
JRRN を位置づけ、ARRN 活動と機動的に連動させた
国内活動基盤である JRRN のソーシャルビジネス
展開が望まれる。(図-8)
情報提供
人材提供
(寄付)
(助成)
ARRN事業
資金提供
(寄付) JRRN賛同者
(助成) ・企業
(補助) ・行政
JRRN事業
情報・人
の循環
水辺地域再生に関る
・情報提供・技術支援
(サービス料)・イベント開催
・出版(ガイドライン等)
サービス受益者
・政策提言 etc.
事業
情報・人の循環
水辺を軸とした地域再生に関わる
・国内外情報発信 & 普及
・イベント & セミナー開催
・人材 & 組織仲介(ビジネスマッチング)
・視察 & 研修支援
・出版(技術指針・教材等)
・政策提言 etc.
・各種財団
・個人(遺贈等)
自主事業
サービス受益者
(サービス料)
成果
発注者
・企業
・行政
・公益法人
・市民団体
(業務委託)
アジアの
水辺環境
再生(ARRN
目的)
KRRN
CRRN
XRRN
韓国
…
…
…
…
…
中国
…
…
…
…
…
XXX
…
…
…
…
…
情報・人材
(サービス料)
情報・機会
提供
情報・人の循環
JRRN会員による各種活動
【会員構成(個人・団体)】
市民、市民団体、行政、企業、研究者
【会員メリット】
・活動の効率的、効果的な遂行
・活動の幅の拡がり
・活動の国内外PR
JRRN活動
ARRN活動
心が豊かになる
水辺空間創造。
(JRRN目的)
日本国内
アジア地域
図-8
ネットワークの事業展開像(ソーシャルビジネス展開)
(3)ネットワークの持続発展プロセス
- 78 -
ネットワークの持続的な発展の手順を定めるに
際し、ARRN のモデル組織であり、設立から本年
で 10 年を迎えたヨーロッパ河川再生センター
(ECRR)の経験が参考となる。2009 年 3 月にトル
コで開催された第 5 回世界フォーラムでの「越
境の水管理・河川管理に関する特別セション」
において、欧州の河川再生分野の政策提言組織
として定着した ECRR の活動実績・経験に基づく
国際連携基盤発展のあり方に関する講演が
ECRR 会長より行われ、以下に示す組織成長シナ
リオが示された。
<ステップ I> 情報・人材の交流基盤整備
は、特にウェブサイト充実化とイベント開催を軸
とした情報・人材共有基盤の構築を重点的に行い、
その結果は前章に示した通りである。
ECRR を参考に、設立 10 年後に日本国内および
アジアにおける河川再生分野の政策提言集団の地
位を築くことを目標に、今後約 3 年間の組織発展
のプロセスを以下に示す。
①組織固有の知的財産蓄積、及び成果の社会還元
を通じたネットワークのブランドイメージ確立
(2010 年までに)
テーマに関連する情報や知識、及びその供給源を整
備(=情報・活動参加者・共有できる仕組み)
国内外における本ネットワークのブランドイメ
ージを更に高め、「河川再生分野の問題解決なら
ARRN/JRRN」と社会に認知される状態になることを
最優先に活動する。
このプロセスでは、ネットワーク活動を通じた
情報・技術の蓄積と人材ネットワーク構築(交流
の機会創出)を継続して進め、それら活動成果を
速やかに、かつ分りやすく社会に還元することが
求められる。
ただし、このブランド構築を目的とした活動期
間が長すぎると、活動資金の枯渇、また事業者の
モチベーション衰退にも繋がるため、目標期限と
投資規模を定め、投資の効果が成果として発現す
る活動予算の配分を行う。
<ステップ II> 組織固有の知的財産の蓄積
上記①に付加価値をつけた専門的な情報・技術・知
見を蓄積(ガイドライン等のオリジナル知財)
<ステップ III> 安定と信頼ある組織基盤確立
組織力の強化(収益性・継続性・マネジメント体制)
<ステップ IV> 政策提言能力の保有
政策提言集団へと発展(様々な活動主体に提言でき
るレベルの信用を備える)
<ステップ V> 新規社会価値創造集団への成長
新たな制度や法令、秩序を生み出す組織体へ発展
この発展シナリオを JRRN に適用した持続的発
展プロセスを図-9に示す。
②ネットワークの資金・人的支援者の獲得、及び
組織化(2011 年までに)
新秩序創出
2007~2009
研究期間
社会貢献度
政策提言
国内外でのブランド定着後は、社会に支持され
た持続的活動を目標に、ネットワークを支援する
ことが支援者のメリットとなる活動を特に積極的
に展開することで、資金及び人材面の協力者(支
援者)を募り、財政面での自立に向けた組織運営
環境を整える。
この支援者獲得プロセスにおいては、現状の組
織形態(任意団体)で制約(収益性・資金調達・
人材確保など)が生じる場合には、外部組織化(新
たな法人格の取得)を検討し、事業に相応しい開
かれた組織としての組織形態を新たに選択し実行
する。
組織基盤確立
知的財産蓄積
情報・交流
基盤整備
2006.11
(設立)
2009
(3年目)
2012
(6年目)
ネットワークの
発展プロセス
2016
(10年目)
2026
(20年目)
会 員数
個人
500
3000
1万人
3万人
団体
50
300
1000
3000
社 会価値創造
社会
的課
題の
認知
ステイ
クホル
ダーと
の協働
関係
図-9
社会事業の
開発・提供
市場社
会から
の支持
社会関
係や制
度の変
化
社会的
価値の
広がり
③財務的に自立したネットワーク運営(2012 年ま
でに)
本ネットワークの発展プロセス
欧州の類似団体の運営手法やこれまでの歩みを
参考に、また国内の非営利活動の市場動向等を先
読みしながら、外部資金としての助成金、寄付金、
2006 年 11 月に ARRN 及び JRRN が設立されてか
ら約 3 年が経過した。ネットワーク設立後 3 年間
- 79 -
また受託業務や自主事業等のバランスよい資金を
財源に自立した JRRN 事業運営を 2012 年までに目
指す。また ARRN を軸とした国際活動については、
共同運営者である中国や韓国などの ARRN メンバ
ーからの資金調達、また 2012 年に開催される第 6
回世界水フォーラムを照準にドナー機関からの活
動資金の支援を目指す。(表-5)
表-5
(5)アジア版河川再生ガイドラインを始めとする
オリジナル素材を整備する。具体的には、蓄積
した既存情報に対し、ネットワーク活動を通じ
ニーズに応じた付加価値をつけ、ARRN 及び JRRN
オリジナルの素材の蓄積と国内外への普及を図
る。
2012 年のネットワーク事業計画(案)
事業内容
情報整備・共有
基盤整備
情報交換・人材
交流行事開催
事業費
技術支援活動
200 万
300 万
500 万
知 的 財 産 蓄
積・発信(出版 500 万
等)
組織運営(管
500 万
理)
合 計
2,000 万
6.
の集約(蓄積)、及びそれらがスムーズに社会に
循環する仕組みの継続的な改善に取り組む。
資金源
助成金(100%)
(6)会員交流の機会を増やす。ネットワーク化の基
本は「信用と信頼」であり、不定期の顔を合わ
せた相互の信頼関係構築を通じパートナーシッ
プの構築を図る。
参加者会費(50%)
助成金(50%)
サ ー ビ ス 料
(50%)・受託業務
(50%)
(7)ネットワーク参加者(会員)へのメリットを明
示したネットワーク運営を行う。活動成果を社
会に還元する際には、社会一般向けサービスと
会員向けサービスの差別化を図り、会員がネッ
トワーク活動に関与するメリットを明確に意識
し、主体的に参加できる仕組みを構築する。
助成金(70%)・販
売料(30%)
会費・寄付金・自
己資金
(8)多様な活動を行いながらも、すべてが統合され
た活動となるように取り組む。すなわち、散発
的に様々な活動に取り組むのではなく、全体計
画に基づき個々の活動がリンクし体系立てられ
ていることが重要である。
今後の課題
前章で示した本ネットワークの持続発展シナリ
オを具現化する上での今後の課題を、3 年間の本
研究を通じたネットワーク運営の教訓として以下
に列挙する。
(9)ネットワーク運営主体者間の調整を密に行い、
ネットワークの持続的発展が、国内外の事業運
営者に直接・間接的にメリットを及ぼす活動を
見出し、展開する。
(1)国内及び世界的な動向とズレないテーマ設定
とそれらに沿った活動を展開する。例えば「統
合水資源管理」「気候変動への適応」との明確な
関連付けを行いながらネットワーク活動の目標
設定を行う。
今後は上記の課題克服を念頭に、常に変化する
社会の動向を把握しつつ、新たな仕組みと価値
を社会に創造し続ける好循環のネットワーク活
動を展開する必要がある。
(2)ネットワークの段階的な発展目標を明確に設
定し、かつ関係者で共有する。特に「資金」及
び「人材」の投資規模を定め、どの状態になる
まで資本投下を行い、どこから外部資金を得て
運営するかのスケジュール設定を行う。また設
定目標と実績との比較を通じ事業運営の評価と
必要な軌道修正を行う。
(3)類似組織との差異(オリジナリティ)を明確に
した上で、ネットワーク活動の方向性(テーマ・
活動内容・顧客等)を定める。
7.
おわりに
今から約 40 年前(1971 年)に開催された土木
学会学術講演会での「都市河川の機能について」
と題する論文において、「治水」「利水」と並ぶ河
川の重要な機能として「親水」という概念が、当
社現会長を含む二名の河川技術者により社会に提
起された。11)この「親水」機能には、水との親し
みのみならず、生態系や景観の保全など現在で言
(4)活動の資本となる河川再生に関わる情報・技術
- 80 -
トワークの構築に関する研究」
6)社団法人土木学会 教育企画・人材育成委員
会:成熟したシビルエンジニア活性化小委員
会 平成 20 年度報告書, 2009 年 3 月
7) 社団法人土木学会:シンポジウム「”NPO 活
動“その多様な展開 -シビルエンジニアに
期待されること-」講演資料集, 2009 年 5 月
8) 田中弥生:NPO 新時代,明石書店,2008.12
9) 経済産業省地域経済産業グループ:ソーシャ
ルビジネス研究会報告書, 2008 年 4 月
10) P.F.ドラッカー: 非営利組織の成果重視マ
ネジメント, ダイヤモンド社, 2000 年 12 月
11)山本弥四郎・石井弓夫:都市河川の機能につ
いて,土木学会年次講演会講演集,1971 年 8 月
12)吉川勝秀:流域都市論~自然と共生する流域
圏・都市の再生, 鹿島出版会, 2008 年 3 月
13)日本建築学会:水辺のまちづくり~住民参加
の親水デザイン, 技報堂出版, 2008 年 9 月
14) 吉川勝秀・伊藤一正:都市と河川~世界の
「川からの都市再生」, 技法堂出版, 2008 年
10 月
う「環境」の概念までが含まれ、1997 年の河川法
改正のルーツとも言える当時としては画期的な出
来事であった。
日本を含むアジアの特徴として特に挙げられる
のは、湿潤気候と高い人口密度、中でもこの人口
に起因する「都市化」の問題は、アジアの河川再
生を考える際に密接に関わる。12) このため、最近
は水の流路としての河川のみならず、都市を構成
する重要な要素として河川や水辺を捉え、水辺を
軸として都市・地域再生を図る取り組みが全国で
注目されている。13) 14)
本研究では、ネットワークの持続的発展に向け
明確な「目標設定」の重要性を論じたが、本ネッ
トワークのテーマとする「河川再生」についても、
この「都市」によりフォーカスした活動を展開し、
河川再生は地域住民の生活を変え、地域イメージ
の改善・活性化につながること、すなわち市民の
利益になるという価値観を、国内外の具体事例の
共有を通じ社会に醸成するネットワーク活動を目
指していきたい。
最後に、国土文化研究所の設立趣意では、①心
豊かな空間創造を目指す、②成果を国民に還元す
る、③公共機関や一般に提案する、④社員が社会
での役割を実感することに貢献する、の 4 点を研
究所の役割として述べている。国内外の河川再生
ネットワークの運営支援を通じ、日本を含むアジ
ア地域の豊かな水辺を再生し、「心の豊かさ」を醸
成できる空間創出に貢献することで、国土文化研
究所の設立趣意に掲げた役割を果たしていければ
と思う。
8. 参考文献
1)社団法人土木学会:特集「地方”新”時代を
切り拓く土木の戦略」, 土木学会誌 Vol.94
No.11 2009 年 11 月
2)社団法人日本河川協会:特集「良好な水辺環
境の創出~住民と連携した取り組み~」,河川
65 巻 第 7 号 2009 年 7 月
3)伊藤将文・和田彰・佐合純造・伊藤一正・丹
内道哉:アジアにおける河川環境再生の動向
と国際ネットワーク構築の取組み, リバーフ
ロント研究所報告第 19 号, 2008.9
4)和田彰 他:Trend in Asian River Restoration
and Development of International Network
for Technical Information Exchange, 4th
APHW Conference, 2008 年 11 月
5)共同研究名称「河川環境の国際的な情報ネッ
- 81 -
価値形成基礎研究
合意形成および景観形成に関する研究
Basic Study on Value creation from view point of Consensus building and landscape Design
牛来司*1 岡村幸二*2 松本健一*1 伊藤義之*1 鵜野勝巳*1
Tsukasa GORAI, Koji OKAMURA, Kenichi MATSUMOTO, Yoshiyuki ITO, Katsumi UNO
社会資本整備のあり方が問われている今日、公共事業の構想段階における計画策定プロセスガイドライン(2008 年)
等が制定され、合意形成技術は事業者、コンサルタントが備えるべき必須の技術になっている。また、国民の価値観が
多様化している中、道路、河川、都市事業などにおける景観形成ガイドラインが制定され、景観デザインの重要性は高
まっている。
こうした価値形成にかかわる計画立案手法の確立が強く求められているものの、体系的な技術として確立されている
とは言い難い状況にある。当社の技術部門においても、
『合意形成(PI)
』
『景観形成(景観デザイン)
』など価値形成に
かかわる技術について、横断的な展開が重要視されている。こうした、価値形成に係わる計画立案技術を横断的な共通
の技術として体系的に取りまとめるとともに、他分野との技術ツールの統合などに取り組むことで、技術の向上とイメ
ージ形成によるビジネスチャンスの拡大を目指す。
キーワード;合意形成, 景観形成, 価値観の多様化, 価値形成
1 研究の背景と目的
従来、価値形成の対象としてそれぞれ別の技術として
対応してきた『合意形成』
『景観形成』などは、基礎的な
考え方や対応技術がかなり共通している。また、今後、
当社の技術部門においてひとつの中心的な部門だけでは
なく、横断的な展開が重要視される技術である。
本研究では『合意形成(PI)
』
『景観形成(景観デザイ
ン)
』に先行して着手している都市部門を中心とし、価値
形成に係わる技術を横断的な共通の技術として体系的に
取りまとめるとともに、他分野との技術ツールの統合な
どに取り組んで行くことを目的とする。
2 研究の方法
本研究は、実施体制に示した当社関連セクションであ
る東京都市システム部を主体に進めた。なお、研究過程
においては各分野へのヒアリングを実施し、連携体制の
基礎を構築していくこととした。
3 検討内容
*2
高質化型
効率化
必
需
戦略
3.1 景観形成をめぐるこれまでの経緯
震災復興期の隅田川橋梁群に見られる構造美や代表的
な行政官庁建築、美術館・音楽ホールなどの文化施設は、
まちの景観形成にも寄与してきた。戦後の高度成長期以
後の都市の発展において、美しさや景観を考慮しない公
共事業や狭小敷地に戸建て住宅の建設を進める住宅政策
により、まちは急激に統一感や美しさを失っていった。
こうしたことを背景に、1990 年代には公共性、環境性、
永続性に配慮するために“シビックデザイン”という運
動が進められた。しかし、景観をよくするためにはお金
が余計にかかるという現実からは脱却できなかった。そ
の後、
美しい国づくり大綱
(2003 年)
、
景観法の制定
(2004
*1
年)により、景観をつくる担い手は地方自治体と市民、
事業者であることが再認識された。
このような社会的潮流の中でも、日本では“景観”は
まだプラスアルファーの世界であり、特に土木において
は「構造」と「意匠」が別々の動きをしているのが現実
である。
一方、成熟社会のインフラストラクチャーを考えたと
きに、時代の変遷とともに、シビル・ミニマム的な「必
需型」から地域の生活の質の向上を目指した「戦略型」
、
そして国家的な大型プロジェクトの「効率型」へと発展
し、さらには生活の質の向上や豊かな品格づくりが求め
られる「高質化型」の公共投資が必須となってきている。
東京本社・都市システム部 Urban Planning Division ,Tokyo office
国土文化研究所 Research Center for Sustainable Communities
- 82 -
図-1 高質化型への転換
3.2 合意形成をめぐるこれまでの経緯
日本の合意形成の歴史を意外と古く、1990 年代に大き
く変化している。1980 年頃までは、専門家が構想を策定
し、事業者が計画を立案し、その妥当性を住民に周知し
意見を聞くという時代が長く続いた。都市計画決定の過
程に縦覧手続きを導入(1968 年)
、環境影響評価の実施
についての閣議決定(1969 年)などがある。成田空港は
1966 年に計画決定しながら反対闘争が激しく、1978 年
の開港後 30 年が経過した現在も全体計画は完成してい
ない。こうした事実は、事業者が計画を立案し、その妥
当性を住民に周知し意見を聞くというスタイルの限界を
示している。1990 年以降、まちづくりに関する意識が高
まる中、構想段階から住民が参画する時代になる。大き
な変化は、専門家が住民ニーズを踏まえて構想を策定す
るようになったことである。2000 年以降は、住民や行政、
事業者等のまちづくり関係者間における情報や意識、プ
ロセスの共有や合意形成の重要性が浸透し、Win-Win の
関係構築を目指す動きが見られるようになってきた。
しかしながら、30 年前と変わらない風景をまま見るこ
とがある。典型的な例として、住民側から「○○してい
ただくことを当局に要望する」といった意見が出され、
「ご指摘ごもっともで、可能な限り善処したい」いう回
答が繰り返されている。これでは、構想や計画策定プロ
セスに住民を参加させることを目的化していて、プロセ
スの共有や合意形成といった真の目的が忘れ去られてい
ると言わざるを得ない。こうした問題を解決するために
は、①Outcome(到達点や成果)
、②Agenda(進め方)
、
③Role(参加者の役割分担)
、④Rule(参加の場のルール
や成果の取り扱いなど)を明確にすることが重要である。
公共事業の構想段階における計画策定プロセスガイドラ
インでも、①計画検討手順の明確化、②住民参画促進、
③コミュニケーション手法の選択、④技術・専門的検討
と評価と同様のことを示している。
公平な利用
空間特性
(地域らしさ、場の条件)
フレキシブルな使用
わかりやすさ
(明解性)
わかりやすい情報
フレキシブル
(柔軟性)
使い手に応じた情報提供
ゆとり・安心
(安全性)
間違いの許容
容易・やさしさ
(快適性)
少ない身体的負担
美しさ・親しみ
(デザイン性)
動作とスペースにゆとり
図-2 景観デザインによる価値向上
3.4 計画・設計の現場における現状
8 月から 11 月まで、河川計画系、構造系、道路系、都
市系などのメンバーで、実際の業務の中で、
「価値形成」
が生まれるような取り組みを実施できているかどうかを
調査してみた。
各分野と価値形成との関わりは図-3 のとおりである。
(1) 環境系
多自然護岸の検討や環境に配慮した河川整備計画など
の業務は対応しているが、それ以外では取り組みは少な
い。
(2) 構造系
阪神・淡路大震災以後、橋梁などの構造物に対しては、
構造上の耐震性が厳しくなり、構造物のカタチは必然的
に桁が厚くなり、なかなか「美しさ・親しみ」を同等に
重視するようにはなっていない。発注額が厳しくなって
いる現在、以前にも増して景観への取り組みは少なくな
っている。
施設景観
河川景観・道路景観
(土木施設景観)
都市
シンボル
景観
景観
自然的
- 83 -
景観デザインにおける
ユニバーサルデザインの原則
7つの原則
人工的
3.3 価値形成の基準設定
「価値形成」の目標や基準を定めることは、まさに時
代の求めるところであり、また同時にこれまでのストッ
クである公共施設の維持補修・改善も大きなテーマとな
っている。
ここでは、価値形成の基準としては、次の 6 つの基準
を挙げることとする。
①地域と場の条件を満たし、地域の声を反映している
こと
②わかりやすく利用者にやさしいこと
③柔軟性・フレキシブルであること
④ゆとり・安全性があること
⑤やさしさ・快適性があること
⑥美しさ・親しみがあること
これらは、
「高質化型」インフラ整備において欠かせな
い重要な視点となる。①~②はユーザーが求める機能(潜
在的なものを含めて)を十分に引き出す必要がある部分、
③~④はユーザーと技術者が価値観を共有する部分、⑤
~⑥は技術者が専門的知識を生かして価値形成していく
部分と言える。
アメリカから始まったユニバーサルデザインの考え方
(左の列の七つの原則)は、
「空間特性」
「美しさ・親し
み」が明確化されていない。西欧社会では「意匠」と「構
造」の両面について検討することが常識であり、あえて
項目を独立して示していない。日本は高度成長期以降に
「効率化」
、
「標準化」
、
「画一化」が推進されてきた。地
域らしさや場の条件を尊重する「空間条件」と意匠性を
重視する「美しさ・親しみ」といった価値形成の部分を
常に意識して計画・設計にあたる必要がある。
歴史的
景観
田園
風景
自然的景
風景景観
図-3 施設景観⇔風景景観と人工的⇔自然的に分類
(3) 道路系
通常の道路設計業務が大半を占めるため、景観を踏ま
えた道路検討はほとんどなされていない。過去において、
業務を分割するカタチで「景観」を検討することはあっ
た。
4 事例から見る価値形成のポイント
4.1 事例から見る景観形成
(1) 伊香保温泉再生事業関所周辺整備
伊香保温泉の玄関口にあたる伊香保関所周辺(面積
16000m2)をまちづくりの事業で再整備を行うことを目
的に、温泉街の中心軸である石段街を延長して、観光客
の第一印象を形づくる広場、石段、駐車場、建築群、観
山荘跡地の緑地などを全体配置計画し、新しいおもてな
しの空間を構築した。
(2009.8.17)
基本計画及び設計は建築のデザイン、歩行者動線計画、
照明計画、植栽計画などを、石段及び広場部分は造成、
擁壁、階段構造などは実施設計を行い、図面、数量、工
事費概算を算出した。また開発許可申請書及び関係図書
を作成した。
①石段街の軸線を重視して建築群の並びをランダムに
して目線を誘導する見上げの眺望景観を設定して、
石段街を知らない来訪者にも一目でその魅力が伝わ
るようにすることで、伊香保温泉の魅力を倍増させ
ることを念頭に置いた。
②崖地の自然緑地をできるだけ残すことを前提に、造
成地の立体的把握を重視して、計画段階に簡易模型
を作成して、事業者に造成プランの景観形成価値を
理解しやすいように工夫した。
③伊香保温泉の魅力となっている“黄金の湯”を流し
て見せる湯樋をデザインして石段から落水する構造
により演出した。
<伊香保温泉整備イメージ>
・榛名山系の麓にあたり、比較的急な斜面地にあ
ること。
・敷地内には県施設が存在していたため、基礎な
どが残った状態であること。
・既存地形、植生は、極力活用すること。
【業務実施体制上の課題等】
・広範囲な敷地の計画・設計であるため、土木・建築・
造園など幅広く専門性を必要としたこと。
- 84 -
(2) 都市水路整備事例
<都市水路の新しい視点>
国土交通省都市・地域整備局下水道部及び河川局では、
都市における水路のもつ役割を再評価し、その活用及び
水量の確保に向けての現行制度の課題と今後のあり方に
ついての検討を開始し、その一環として、
「都市水路検討
会」を開催し、計5回にわたる議論を提言「懐かしい未
来へ~都市をうるおす水のみち~」としてとりまとめて
いる(2005.2.10)。
国土交通省では、都市水路計画策定モデル地域の公募
を実施し、以下の7地域を都市水路計画策定モデル地域
として決定した。
その後、モデル地区における検討結果を踏まえ、都市
水路整備のためのガイドライン「都市の水辺整備ガイド
ブック」としてとりまとめ、公表している(2009.2)
。
表-1 都市水路モデル地区一覧
自治体名
担当課
計画名(対象地区)
建設局 下水道部
船橋市
葛飾川
河川整備係
環境創造局 総合企
横浜市
港北区 小机町
画部 環境政策課
都市整備部
中心市街地都市水
厚木市 まちづくり計画課
路構築計画(本厚
木駅周辺)
建設部 河川課
大津市
大津長等地区
水循環推進係
上下水道局 下水道
仁徳陵水ネットワ
堺 市 部
ーク計画
下水道計画課
建設局 下水道河川 神戸市中央区(三
神戸市 部
宮・元町・ポート
計画課 計画係
アイランド)地区
建設局 下水道河川
幸神地区田良原都
北九州市 部
市水路計画
下水道河川課
<堺市都市水路計画における動き>
都市水路整備の目的(水路再生の意義)
ため池貯水池、下水再生水等を水源に、河川、下水道
雨水渠、農業用水路、雨水貯留施設、ため池及び新設水
路による従来の水路、水面ネットワークを復活・構築す
る。
・用水路網は先人からの貴重な文化遺産
・仁徳陵古墳群の水環境を維持してきた資産
・堺市における歴史的象徴
・将来に残すべき貴重な水辺
・沿川の生活・自然環境の保全機能をもつ
・都市域に残された数少ない貴重な水辺空間
ことになり、河川・水路整備における価値形成のモデル
になるものと考えられる。このプロジェクトを成功させ
るため体制としては、以下のような専門分野の技術者が
関わることが望ましい。
図-4 堺市都市水路計画概要図
芦ヶ池ルートの先行事例
芦ヶ池水路は、向陵東町3丁目にある向陵公園から仁
徳陵に至る、延長 1.4km ほどの農業用の水路で、かつて
は狭山池から水を引き、仁徳陵の堀につながり、そして
環濠集落堺の堀(内川・土居川)から、大阪湾に注ぐと
いう水の循環を形成していた。
芦ヶ池と仁徳陵をつなぐ「芦ヶ池水路」の再生を、
「貴
重な歴史的財産のひとつ」として住民、工業高校と堺市
による、そのあり方や未来の姿を検討する「芦ヶ池水路
ワークショップ」が平成 16 年 8 月から平成 18 年 11 月
の時点までで 8 回開催されている。
芦ヶ池水路の整備とその効果
2007 年 6 月 10 日に芦ヶ池水路の完成を記念して、周
辺住民参加による通水試験を実施した。試験の内、アン
ケートでは水路改修の具体的な効果として、「景観がよく
なった」、「心の安らぎが感じられる」が多く、水路整備の
効果を高めるためには「水がきれいになること」、「魚など
の生きものがすむこと」が多くなっている。
46
A心のやすらぎが感じられる
16
B水に触れてみたくなった 21
C魚や昆虫がすめるようになった
48
D景観が良くなった
4.2 事例から見る合意形成
(1) 東京都青梅市総合長期計画後期基本計画
青梅市総合長期計画後期基本計画の策定にあたり、公
募市民で構成する市民会議を運企画営した他、市民会議
の成果を広く周知するためのシンポジウムを企画運営し
た。
市民会議の目標成果は、施策体系に則して「市民認識
(課題)
」
、
「5 年後の望むべき姿
(目標)
」
、
「そのために必
要なこと(手段)
」に整理し、青梅市長に手交することに
した。会議の進め方と役割分担では、市民会議は「市民
認識(課題)
」と「5 年後の望むべき姿(目標)
」に時間を
かけることとし、
「そのために必要なこと(手段)
」は、
行政側が法的・技術的側面から検討しながら後期基本計
画に取りまとめることとした。
価値形成の側面から見た成果は、
5 年後の望むべき姿は、
「□□していくために、△△が解消されている」という
形を強く意識し、市民認識を「△△によりこのように困
っている」という形に常にフィードバックさせて整理し
たことである。このことにより、行政や専門家は、市民
意見の背景にある課題を正しく理解することができ、市
民ニーズに即した最適な解決手段を検討することが可能
となった。市民認識を整理する過程では、
「○○が必要で
ある」という形で課題と手段が何度も混同し、従来型の
当局への要望が繰り返されるなど混乱もした。しかし、
当初に定めた役割分担により、
「○○が最適な手段か否
かは、行政的・技術的判断を加えて後期基本計画にとり
まとめるという役割分担を再認識し、そのために必要な
こととして整理した。このように、△△を課題、□□を
目標、○○を手段という形に整理することで、参加者も
事務局も満足できる提言を市長に手交することができた。
副次的な効果として、参加者全員から、行政と目標が共
有できたので、市民として行動すべきことが明確になっ
たという意見を頂いた。こうした意見は、可能な限り市
民から言われたとおり作る(という合意)ので、後から
不平不満を出さないで欲しいという形の合意形成とは一
線を画すものと考える
17
E水遊びができるようになった
14
F草花が生えるようになった
16
G住民のふれあいの場になる
10
F歴史的価値が感じられる
21
I天皇陵に通じる水路にふさわしくなった
1
Jその他
8
無回答
0
10
20
30
40
50
60
(人)
図-5 水路改修の具体的な効果
このように、都市水路を再生すること自体が、河川の
もつ治水、利水機能に加えて環境機能を新たに付加する
- 85 -
(2) 群馬県土整備ビジョン地域プラン
少子高齢化の進展や厳しい財政状況下において、地域
住民が日々の暮らしの中で感じる社会資本整備に関する
ニーズや不満について分析し、浮かび上がった課題に対
して最適な施策や事業を選択し、今後 10 年間に行う群馬
県の社会資本整備に関する事業計画の策定を行った。策
定に当たっては、多種多様な県民ニーズに対応した計画
となるよう、ワークショップやオープンハウスなど、様々
な県民参加手法を組み合わせて進めた。
従来型の県民参加は、行政側が計画案を用意したあと
に、計画案に対する意見を住民から募るケースが多く、
計画案に意見を反映できずに、行政側のアリバイづくり
との批判が絶えなかった。こうした反省に立ち、計画づ
くりの初期段階から県民に参加してもらうことで、策定
プロセスが浸透し、公共事業の透明性や客観性が高まる
とともに、地域の課題や現状などが的確に把握され、地
域の課題に立脚した社会資本整備計画を立案することが
可能になった。
群馬県土整備ビジョン地域プランの事例は、東京都青
梅市総合長期計画後期基本計画と概ね類似している。大
きく異なる点は、青梅市の場合は、市民参加の成果(提
言)を専門家や行政が受け、プランを策定するという形
をとったのに対し、群馬県の場合は、県民と行政が互い
にコミュニケーションしながら一つのプランを策定した
点にある。
従来型
行政内部
で意思決定
STEP1:地域の課題と現状把握
STEP2:課題解決に必要な事業を抽出
STEP3:地域プラン案を作成
パブリックコ
メント実施
取入れた手法
十分な県民参
画の実施
パブリックコ
メント実施
STEP4:地域プランを決定
図-6 県民と行政のコミュニケーションの流れ
(3) 合意形成に価値を生み出すためには
東京都青梅市の事例では、場合によっては、提言と出
来上がるプランの間にズレが生じ、こんなはずではなか
ったということになりかねない。しかし、市民や専門家、
行政の役割分担がきちんと認識され、その職責の範囲に
おいて第三者(ファシリテーター)が到達目標に向って
フレキシブルに対応することが可能となる。群馬県の事
例では、こんなはずではなかったという問題が生じる可
能性は少ないが、進め方自体が大きなルールとなり、ス
タート時点にかかるストレスが非常に大きく、また、ス
テップごとに合意を積み重ねていかなければならないた
め合意形成に多大な時間を要する。
両者ともに一長一短があるため、適宜使い分けていく
必要がある。前者は、入口と出口の方向を合意するもの
であるため、場合によっては、出口から出てきたものに
ついて、再度合意形成する問題が生じることを認識する
必要がある。後者は、出口から出てくるものを合意する
ものであるため、再度合意形成する必要はないが、合成
- 86 -
の誤謬が発生する可能性が高いことを認識する必要があ
る。
5 まとめ
価値形成検討を「景観形成」と「合意形成」の両面か
ら見てきたが、関係者がみな納得して「後世の評価に耐
え得るすばらしい成果をつくる」ためには、どのような
ことに留意するべきか整理してみた。
<景観形成>
これまで「景観形成」の検討において共通する問題点
としては、次の3点があげられる。
①「対象物をトータルで考える」視点の欠落。
②ハード整備偏重の傾向が強い。
③画一的な整備(標準設計)一辺倒である。
これらの問題点を乗り越えた上で、多様性のある発想
豊かな「景観形成」を行って行くには、とくに以下の 3
つの内容に留意することが望ましいと考える。
(1)計画・設計を実施するときに、できるだけ早い段階
で、
「場の条件(空間特性)
」と「美しさ・親しみ」を含
めた検討を行うこと。
(2)各技術の専門部門だけでなく、幅広く環境や景観の
複数の専門家も加わって対応すること。
(3)作業や費用の分担とならずとも、いわゆる「相談ご
と」の段階だけでもお互いに声をかけ合うこと。
<合意形成>
次に「合意形成」に関する改善点であるが、
ここでは2つに提案を強調しておきたい。
(1)通常の合意形成では、入口と出口の方向を合意する
ものであるため、いったん入り口での合意形成を首尾よ
く通過した段階で、参加者の意見により当初の方向性に
違ったベクトルが働くことで、最終的に出口から出てき
たものについて、再度合意形成する問題が生じることを
認識する必要がある。
(2)出口から出てくるものを合意するものであるため、
再度合意形成する必要はないが、合成の誤謬が発生する
可能性が高いことを認識する必要がある。
(3)まとめとして次の4点に十分留意することが大切で
あると考える。
「価値を生み出す合意形成は、①Outcome:到達
点を明らかにする、②Agenda:進め方を関係者が共
有する、③Role:関係者の役割分担を明確にする、
④Rule:ルールを大切にするといった 4 つの基本に
整理することができる。
」
天然ガス輸送パイプライン及びガス発電の事業化研究
Feasibility Study on the Tohoku Natural-Gas-Pipeline and Distributed Gas-power-plant
松崎浩憲*1 志田忠一*2
Hironori MATSUZAKI, Tadakazu SHIDA
本研究は、東北地区における天然ガス幹線パイプライン及び分散型ガス発電事業構築に係わる事業化研
究である。本論文では、東北地区におけるガスパイプライン事業化可能性調査と、天然ガスパイプライン
事業立上のためのコンソーシアム組織化に関する検討、分散型ガス発電事業については沖縄地区をケース
スタディとして取り上げ事業化可能性の検討調査の検討状況を記述した。
キーワード:温室効果ガス、電熱併給、パイプライン敷設新工法
1.調査研究の背景と目的
地球温暖化対策及びエネルギーセキュリティ確保への対
応として、天然ガスの導入拡大が喫緊の課題である。
政府は平成 21 年秋、2020 年までに温室効果ガスを 1990
年比 25%削減すると表明した。この実現のためには再生
可能エネルギーの活用とともに燃料の天然ガス転換を推
進することが必要である。なぜなら、同一熱量であれば、
天然ガスは石油類よりも温室効果ガス排出量は約25%も少
ないからである。
この天然ガスシフトを支えるインフラとして、我国の天
然ガスパイプラインは諸外国に遅れを取っており、天然ガ
スの広域供給パイプライン敷設は重要な課題である。
また、天然ガスを活用した分散電源の導入は再生可能エ
ネルギーと連携したシステムとして、世界各国で取組まれ
ているスマートグリッド化に相当するものであり、我国の
環境・エネルギーの観点から、その整備・取組が強く求めら
れている事業といえる。
以上から本調査研究は図 1 に示すように、広域天然ガス
パイプラインによるガス輸送事業、天然ガスによる分散型
図1
*1
*2
発電事業等の天然ガス活用関連事業の具体的な立ち上げ
とともに、建設技術研究所の新規分野開拓を目的とする。
2.平成 21 年調査研究フレームと展開
平成21 年の調査研究のフレームと今後の方針を俯瞰した
ものを図 2 に示す。
3. 天然ガス輸送パイプライン事業研究
3.1 実施手順・内容
天然ガス輸送パイプライン事業実現に向けての本年の調
査研究実施手順・内容を以下に記述する(図3参照)。
(1)天然ガス広域パイプライン整備需要顕在化可能性調査
の実施(H20/8~H21/3)
・東北(岩手・宮城)のパイプライン事業 F/S。
・補助金額 922 万円(半額補助)を活用し、岩手県庁・宮
城県庁及び地元企業(東北天然ガス(株)等)の協力を得
て実施。
・パイプライン敷設工法検討、設定パイプラインの沿線の
産業用ガス需要の推定を踏まえ建設コストに基づく事業
性検討を実施。
調査研究の背景と目的
東京本社環境システム室 Environmental System Section ,Tokyo office
国土文化研究所 企画室 Research Center For Sustainable Communities, Research Planning Section
- 87 -
08/4 ~ 09/3
10/4
~
09/4 ~ 10/3
天然ガス輸送パイプライン事業研究
●集計結果分析中
・ガス活用ニーズ強
(出資可とする所有)
・検討会実施要望
事業化
「天然ガス広域パイプライン需要顕在化可能性
調査事業」
2008年8月~09年3月
補助額:9,223千円 (1/2補助)
・対象地域:東北
・岩手・宮城の両県の協力を得実施
●検討会開催
・要望集約
・実現条件整備
・コンソーシアム
運営方式検討
・組織化準備
・岩手分科会
・宮城分科会
●事業所向けアン
ケート調査実施
(11月配布回収)
・岩手・宮城300弱事
業所(回収率3割弱)
●コンソーシ
アム実現に向
けた
体制検討・協議
の実施
・自治体:
岩手県
宮城県
・関連機関
(資源エネルギー庁)
コンソーシアムの設立
天 然ガス関連補助事業実施
•
・コンソーシアム立上げ関連活動 企業、関連機関意向調査
・事業化に向けた調査活動・
ガス発電事業研究
●新たな付加価値を増加させた
システムによる事業の検討
○PV等との連携による自律分散
型システム―>スマートグリッド化
ガス発電+PV (その他再生可能
エネルギーシステム)組み合わせ
対象地区
における
「産学官連携
組織構築」
・沖縄水溶性天然ガス活用自律分散型発電システム
(NEDO委託: 09年6月~10年2月、 550万円)
実証試験・事業化を目指したFS実施中
事業化を目指した
適用地区
・技術検討を踏
まえ、適用場所
選択・適用シス
テムの付加価値
増大が必要(再
開発地区、高速
道路等、未着手
地への展開)
適 用 システム
ガス発電事業検討
・対象地区:
長岡地区
・システム構成
価格の検討
・事業性検討
方式検討
ガス・電力価格に
大きく依存
実証試験実施
・発電事業化に向けた活動
・ガス発電技術・事業性検討
図 2 調査研究のフレームと展開
(2)事業化関連訪問調査
関連機関・企業に対し問調査を実施
ⅰ)官庁関連訪問調査
資源エネルギー庁、環境省等
ⅱ)民間企業訪問調査(H21/3 訪問)
・岩手県:岩手東芝エレクトロニクス㈱、明治製菓
㈱北上工場、塩野義製薬㈱金ヶ崎工場、関東自動
車㈱岩手工場、日本ウエーブロック㈱一関工場
・宮城県:伊藤ハムデイリー㈱、明治乳業㈱東北工
場、ラサ工業㈱三本木工場、OKIセミコンダク
タ宮城㈱、YKK AP㈱東北事業所
(3)コンソーシアム立上に向けた手順検討
経済環境状況を踏まえ、関連機関・企業とコンソ
ーシアム立上に向けた手順検討。この検討のもと以
下(4)
、(5)の実施を決定した。
(4)地域内需要家に対するアンケート調査
コンソーシアム立上に先立ち、地域需要家の天然
ガス転換・パイプライン事業に関する意向調査(約
300 事業所対象)
分析アンケート結果の分析を実施し、現在、解析
中である。
(5)検討会立上準備
アンケート調査の結果を踏まえ、コンソーシアム
の前段として検討会立上準備に入る予定である。
1.広域パイプライン整備需
2.事業化関
3.1 コ ン ソ
3.2 地域内需要家
3.3
要顕在化可能性調査
連訪問調査
ーシアム立
に対するアンケート
討会立
・需要推定・建設コスト推定に
・官公庁
上に向けた
調査/分析
上準備
基づく事業性検討
・事業所
手順の検討
検
図 3 輸送型パイプライン事業の調査研究実施フロー
3.2 調査研究結果
3.2.1 天然ガス広域パイプライン整備需要顕在化
可能性調査
資源エネルギー庁の本補助事業の実施は、本研究
と関連する分野で公的支援を受けることにより、本
研究遂行上その位置づけと事業化に向けてのコンソ
ーシアムの意義強調・参加 PR 効果が期待でき、岩
手・宮城両県の協力のもとで調査実施を行うことが
できた。本年の調査研究の概要を以下に記述する。
- 88 -
(1)パイプライン建設コスト
東北の調査対象地区は、宮城県仙台港から岩手県
北上に至る、約 130 ㎞である。この区間を表 1 のよ
うに 3 つの建設区間に区分し検討した。
第一建設区間の工事費が高いのは、高速道路沿い
にパイプラインを敷設するとした場合、そのロケー
ションが都市部であり道路自体が高架であることか
ら、昨年検討した工事費用を安く仕上げることので
きる「開削高速工法」の適用区間が短くなるためで
ある。工事費用は総額 300 億円から 400 億円の幅が
あるのは適用工法の選定によって異なるからであり、
建設の具体的検討に当たっては、ルート選定後その
ルート上の敷地(道路)の状況分析することが必要
となる。
パイプライン建設において、第一建設区間は、LNG
基地との接合地点でありこの区間無しにはパイプラ
インに天然ガスを送り込むことはできず、必要不可
欠の区間である。
(2)事業性検討
前述の広域パイプラインの建設委コストに対して、
天然ガス需要の推定(H20 年の調査研究を踏まえ)
に基づくガス輸送収入・運営費用等の推定を行い、
事業性の検討を行った。
表 1 広域パイプラインの建設コスト
推定需要※
(百万m3)
距離
(km)
概算工事費
(百万円)
250.5
42.7
12,659
~16,700
279.3
45.2
6,685~
10,977
第 3 区間(一関~北上)
長距離特殊部:
・一関、平泉区間はトンネン
・和賀川の横断
392.5
44.4
8,616~
12,223
全区間
922.3
132.3
27,960
~39,900
区
間
第 1 区間(仙台(港湾)~古川)
長距離特殊部:仙台北部・三
陸自動車道路部
第 2 区間(古川~一関)県境を
またぐ
特記事項
○工事費の最小値:土工部
工法については、「路肩・開
削高速工法」で、特殊部工法
については「迂回配管推進工
法」
○工事費の最大値:土工部
工法については、「のり面コ
ンクリートボックス内埋設配
管工法」で、特殊部工法につ
いては、「迂回配管推進工法」
なお、長距離特殊部:管周
混合を採用
注)※10 年度目の需要
検討結果を表 2 に記載した。事業性評価は以下に集
様々な公的支援を取り付けることが望ましいと考え
約できる。
られる。
① 全区間を対象とした事業は、建設コストを安く抑え ③ 需要家となる産業分野の事業所のパイプライン実
られる工法を採用した場合、事業性がある(12 ヶ年
現要望(次項 3.2.2 参照)を、需要家の事業参画型
で投資回収)。
とし、上記公的支援を取り付けることに結び付ける
展開が一案と考えられ、事業化に向けた活動を展
② 東北地域は需要密度が低い場でのインフラ事業で
あることから、投資回収が短期で可能な事業でなく、
開することとした。
表 2 東北広域天然ガスパイプラインの事業性評価
区間
第 1 区間(仙台港)~古川)
第 2 区間(古川~一関)
第 3 区間(一関~北上)
全区間
投資回収年
距離
〔km〕
推定需要
(10 年度目)
〔百万 m3〕
概算工事費
〔百万円〕
投資回収できず
14~投資回収できず
12~15 年
12~投資回収できず
42.7
45.2
44.4
132.3
250.5
279.3
392.5
922.3
12,659~16,700
6,685~10,977
8,616~12,223
27,960~39,900
3.2.2 関連機関・企業訪問調査
パイプライン事業の事業性検討の一環として、地
域内の代表的事業所・関連機関のヒアリング・意見
交換を実施した。
(1)企業訪問調査
企業訪問調査は、岩手・宮城両県庁の支援を受け、
各県前述の 5 事業所(計 10 事業所)への訪問インタ
ヴューを行った。
企業のパイプライン事業に対する調査結果を表 3
- 89 -
に示すが、パイプラインによる天然ガス供給に関し
てはその実現を応援する企業が大半であり、燃料費
問題と共に、環境問題(地球温暖化 CO2 に関連して
CO2 削減)の観点から天然ガスへの燃料転換(重油等
より)本調査を含めた取り組みに関して、期待する
意見が寄せられた。
(2)自治体等関連機関調査
官庁関連への訪問意見交換において、地元両県は
工場誘致にパイプラインがプラスの効果をもたらす
ものであり、特に岩手では商工会議所メンバーから
パイプライン実現の要望もが出ている状況にある。
国は天然ガスパイプラインによる天然ガス転換が
CO2 排出作下の有力な手段の一つとの考えを持つも
のではあるが、財政面から国が資金的に全面支援は
あり得ないとしてもできる限り支援を行うとの考え
は示された。
表 3 企業訪問調査結果
エネルギー需要区分
エネルギー
今後の
管理指定
熱需要
工場
レベル※
特に
高位
1種
高位
業種
事業所数
輸送用機械
半導体
1 事業所
1 事業所
医薬品
食品
建設用材料
電子材料
2 事業所
1 事業所
1 事業所
1 事業所
天然ガス利用
/利用検討等
状況
天然ガスを利用
LNG サテライト設置、
ローリー輸送
天然ガス転換の意向
あり
(検討予定もしくは
検討後現在様子見)
パイプライン整備に
向けた活動への対
応・考え等
パイプラインの実現
活動を応援する
具体的活動に関する
意見・要望集約に協
力する
食品
1 事業所
導入検討様子見
集積回路
1 事業所
導入見送り
状況を見守りたい
2種
プラスチック製品 1 事業所
未検討
注)※:特に高位; 12,000kl/年以上、高位:3,000kl/年以上、中位:1,500kl/年以上(kl/年
は熱需要原油換算)
に対してアンケート票送付・郵送回収方式で「天然
3.2.3 コンソーシアム立上に向けた活動
ガスの利用・導入に関するアンケート」を実施した。
(1)コンソーシアム立上に向けた手順検討
71 事業所より回答回収(回収率約 25%)を得て、
前項 3.2.1 記述の事業性検討により、当該地域の
事業は取組方式を工夫することによって実現可能と 現在その分析を実施中である。
今後多角的な分析を実施予定であるが、現時点で
考えられることから、次のステップとして事業化に
向けたコンソーシアム立上に向け活動を開始した。 注目できる集計結果を図 4 に示す。
図 4 は、パイプライン建設に対して需要家自らも
その第一歩として、前述の調査事業実施の過程で
訪問した企業及び岩手・宮城両県庁、経済産業省と、 出資・投資をする考えがあるかとの設問に対する回
「広域パイプライン整備需要顕在化可能性調査」の 答である。この回答結果から、出資に関する「額」
結果に関する意見交換と、コンソーシアムの設立に 「条件」が現時点で提示していないため半数の企業
向けた意向の聞き取りを行った。その結果、現在の は「わからない」との回答であるが、何らかのメリ
経済環境下では、すぐに資金を集めた活動に着手す ットがあれば出資すると回答した企業が 1/3 を占め
るより、目標とする時期(LNG 基地の竣工が 2016 年) ることが明らかになった。宮城県の企業が出資に対
に合わせ事前の準備を進めることが現実的であり、 して消極的な結果が出ていることは、アンケート対
コンソーシアムに向けた「検討会」の実施、そこで 象企業がすでに天然ガス供給を受けている(主とし
の検討内容・素材を明確にするためアンケート調査 て、仙台市ガス局の供給エリア内に位置)も含まれ
ていることが一因と考えられる。この集計結果から、
を行うこととした。
当該地域においてパイプラインを活用した企業の天
(2)アンケート調査
岩手県・宮城県のエネルギー管理指定工場及び、 然ガス利用に対する希望が強く、事業化に関して企
両県庁提供の情報をもとに、対象企業の 300 事業所 業からの支援が期待できるものと考えられる。
中位
- 90 -
0%
10%
20%
30%
40%
50%
60%
3.3%
出資に応じた配当があれば出資する
7.5%
燃料調達費が割引になるのであれば出資する
20.0%
36.7%
6.7%
出資はしない
17.5%
46.7%
わからない
50.0%
3.3%
5.0%
その他
岩手県
宮城県
無回答
3.3%
0.0%
図 4 天然ガスパイプライン敷設費用出資についてのアンケート回答
(3)検討会設立準備
現在行っているアンケート調査の結果分析を踏ま
えパイプラインコンソーシアム設立の準備活動とし
て、実施したアンケート対象の当該地域の主として
製造業分野の事業者と共に、「商社」
、「金融」などを
地域外の企業も含めた「検討会」設立の準備を進め
ている。
「検討会」は、以下の目的・活動内容で実施すべ
く準備を行っている。
① 目的
「天然ガス東北広域パイプライン」は当該地域事
業者等の参加によって実現・運用する従来に無い形
態のパイプライン事業を想定していることから、そ
の建設実現・事業化に向け関係者の意見集約・諸検
討・準備を行うことを目的とする。
② 活動内容
(ア)天然ガスパイプライン及びその事業化の方式
等に関する意見の集約
(イ)事業実現に関連した活動計画に関する意見交
換・集約
(ウ)事業実現に向け必要な検討・準備作業の絞込
み
(エ)コンソーシアム運営方法の検討と運営に関す
る意見集約・合意形成
3.3 考察と今後の課題・方針
(1)考察(東北広域パイプライン事業)
仙台~北上に至る約 130kmの輸送型天然ガスパ
イプライン事業は、対象エリアに位置する需要家の
立地密度が低いことから、東海地域に比べて事業性
が低いことが定量的に示された。しかし、まったく
事業性がないわけではなく、様々な工夫により事業
性確保は可能と考えられる。当該地域の企業を対象
にした調査結果を見ると、多くの企業が自らの出資
に対して前向きであることが判明した。東海地域は
その事業性の高さから地域のガス事業者(連合)で
パイプライン敷設が可能であるが、東北地域ではこ
の方式による建設は期待できないことは東北のガス
事業者との意見交換の場でも繰りし出ている。すな
わち、本研究に基づくパイプライン事業化を目指し
- 91 -
た組織化を行う活動が東北地区では必要であり、地
域企業のみならず自治体もその活動に期待を持って
いるのが現状である。
このような状況を背景に、パイプライン事業化に
ついては、地域企業等との連携・協力の下での「検
討会」から「事業化のためのコンソーシアム」への
展開が現実的な路線と考えられる。
また、本研究は、パイプライン事業化を目指した
活動の中(また事業化が行われた後、その関連分野)
で建設技術研究所の新たな事業分野を開拓する目標
を持ち活動している。この観点から、東北地域の関
連機関・企業との連携構築はパイプライン事業分野
だけでなく新規分野開拓においても有効に活用でき
るものと考えられる。
(2)今後の課題・方針
東北広域パイプラインは、前項に記述のとおり、
地元事業所・自治体ともその実現を希求するもので
ある。この事業の事業性はあるものの投資額が大き
いこともあり、地元のガス事業者のみでこれを実現
することは困難であり、事業化へ向けた推進・調整
を行う役割を担うものが必要である。
本事業化研究を通し、当該地域に天然ガスパイプ
ラインを実現するために取組む現実的な方法は、地
元企業群を中核とする「検討会」から「パイプライ
ン建設に向けたコンソーシアム」の立上を行い、各
関連機関等の「協力」、「資金調達」を現実のものに
することと考えられる。上記の組織化を、事業化研
究の中で筋道をつけ軌道に乗せることが地元を中心
に期待されている状況である。
以上のことから、地元企業・自治体等との連携・
後押しにより「検討会」から「コンソーシアム立上」
に向けた活動を行うことがパイプライン事業に関す
る現在の課題であり、その実現が本研究の成果と考
える。
4.天然ガス発電の事業研究
天然ガス発電事業の導入に関する調査研究は、昨
年度の検討結果として、以下が明らかになった。
・天然ガス発電は、ガスの需要に結びつくものであ
り、天然ガスパイプライン事業と連携する事業と
この検討の中で、米国のグリーン・ニュー・ディ
位置付けられる。
・天然ガス発電は有力な分散型エネルギー供給シス ール/世界的なスマートグリッドに対する取組みに
テムであり、需要地(近隣)に位置することが、 注目し、ガス発電と再生可能エネルギーとの連携に
遠距離の送電を行うことなく電力供給ができるた よるモデルに着目した。
すなわち、CO2 フリーなエネルギー供給システムで
め、有効な取組みである。
・需要地に隣接する発電システムでは、単に「電気」 ある太陽光発電や風力発電システムは、お天気任せ
だけではなく「熱」の供給も合わせた複合エネル であるという弱点を拭い去れない。このため、安定
ギー供給システム CHP(Combined Heat and Power) 的なエネルギー(電力)供給システムであるガス発
が有効である。
電との連携によるエネルギー供給グリッド構築が今
・以上から、天然ガス発電事業は、単なるガス発電 後の、スマートグリッドの構成要素として重要にな
事業として電力を売る事業にとどまるのではなく、 ると考えられる。
周辺需要家との連携によるより付加価値が増す事
この観点から、ケーススタディ対象地区として以
業を検討することが必要である
下の 2 候補について調査研究の具体的実施方法を検
・付加価値のつく発電事業を組み立てるためには、 討した。
その適用する「場」の選択が重要であり、道路の
・高速道路のサービスエリア/パーキングエリア
サービスエリア/パーキングエリアなどをはじめ
での調査研究
「地産地消」型の事業モデルの組み立てがポイン
・マイクログリッド(スマートグリッド的)の実
トとなる。
証試験が行いやすい地域として離島地域を対
上記を踏まえ、本年度の事業研究内容を検討し実
象とした調査研究
施した。この検討に際し、世界的なエネルギー関連
この両者について、調査研究の具体的な場を検討
の取組である「スマートグリッド」の考え方を取入 し、本年度研究として後者の離島がらみのマイクロ
れ、天然ガス発電と再生可能エネルギーとの連携に グリッドを検討対象とすることとした。
よる付加価値像を狙った事業化の研究が有効と判断
前者に関しては、天然ガス供給による発電を含む
した。
グリッドを構築可能なサービスエリア/パーキング
4.1 実施手順
エリアでの実証試験を行う上で、対象となる「場」
天然ガス発電事業の導入に関する本年度調査研究 の管理者との調整に時間がかかることから、時間を
の実施手順・内容を図 5 に記述する。図 5 における かけて取り組むこととした。
フローの中で、破線の枠は本年度の調査研究に基づ
後者に関しては、ケーススタディとして沖縄を候
き、来年度以降の展開目標として(本年度の調査研 補とした。これは、沖縄にある「水溶性天然ガス」
究が単に「報告書」作成にためのものではなく具体 が前述の構想に合致していると考えられるためであ
的「事業」への展開を目指すものであることを示す る。
ため)考えている計画項目である。
天然ガスを活用した発電を核とし再生可能エネル
(1)調査研究事業の方向性検討
ギーと連携し、これをマイクログリッドとして運用
前述の様に本調査研究で天然ガス発電事業の導入 することに対して大きな抵抗・摩擦を生じない「場」
を行うには発電単独事業でなく「地産地消」の枠組 として沖縄の離島が最適と考えられる。
みで事業に付加価値を増強する方法を検討した。
1.調査研究事業の方向性検討
・天然ガス発電を核とした分散
型エネルギー供給システムの
付加価値増加手法
2.調査研究事業ケーススタディ実施「沖
縄水溶性ガスを活用した地域自律分散型
電力システムの研究」
・NEDO事業の受託
・本年度FS実施・実証試験に向け
3.「地域自律分散型システム
-沖縄連絡会-」
・沖縄地元機関を核とした
「産学官」連携組織の立上
・ガス活用の
地域自律分散
システムの実
証試験実施
・事業化につ
ながるシステ
ムパッケージ
化
図 5 ガス発電事業の調査研究実施フロー
(2)調査研究事業ケーススタディ実施
本年度の「天然ガス発電事業」研究実施に際し、
国の補助を受けることにより本研究の位置づけの
PR 効果などの波及効果が大きいと考え、NEDO の「エ
- 92 -
コイノベーション推進事業」を活用することとした。
すなわち、平成 21 年度エコイノベーション事業公
募に下記件名で応募し採択を受け現在委託事業とし
て実施中である。
降目論んでいる。
4.3 沖縄での発電事業の体制と今後の対応
(1)体制
沖縄をケーススタディ地区とした、地域自律分散
型電力システムの研究は、H21 年度の F/S を踏まえ、
琉球大学でプレ実証試験、離島などにおける現場実
証試験への展開を通し、核となる制御システムのパ
ッケージ化を目指すものである。このため、下記「沖
縄連絡会」を組織した。
すなわち地元沖縄の「産学官」連携会合を H21 年
10 月立上げ、今後の展開に向け活動を開始した。
「産学官」連携会合のメンバーは以下のとおりであ
る。
・産:沖縄電力、沖縄ガス、南城ユインチ鉱山(水
溶性天然ガス)
・学:琉球大学、早稲田大学
・官:沖縄総合事務局、沖縄県、糸満市
「沖縄連絡会」会合の第1回はH21 年 10 月 23 日
に開催し、第2回はH22 年 2 月 18・19 日に開催予
定である。第2回で今後の具体的な事業内容を確認
する予定であり、分野別の分科会を通し現在調整を
図っている。
(2)今後の対応
①国内外の研究・開発事例の調査
H21 年度の研究(NEDO の委託研究を活用)を踏ま
スマートグリッド等、同種類似事例
え、前述の「沖縄連絡会」の活動として今後下記の
展開実施を計画している。
②ケーススタディ地区の調査
本研究は、CO2 削減に対する具体的アクションとし
実証試験の実施に向けた対象候補地区の状況等調査
て、地元沖縄から期待され、パッケージ化による汎
用システム化に向けた取組である H22・23 年度の展
③シミュレーションによる分析
開により事業化につながると考えている(図 8 参照)
。
ケーススタディ対象地区情報を踏まえたモデルに基づく分析
5.おわりに(次年度以降の継続研究について)
スマートグリッド等、同種類似事例
エネルギー関連の事業化研究に基づく具体的な事
業化に向けた本研究活動は、その実現時期などに関
④地域自律分散型電力網の評価
して、社会・経済環境に大きく左右される(景気面
類似事例等との比較評価、実証試験に向け課題抽出
でマイナス、環境面でプラスなど)。これまでの研究
を通し、検討した事業に関し、これを展開する地元
の希望・意向を組織化し、合理的な計画の下でそれ
⑤報告書とりまとめ 「第2回連絡会」にて報告
らを実現することが求められて入ることが明らかに
図 6 調査研究の流れ
なった。本研究はその端緒を作り出したものであり、
(2)ケーススタディの全体イメージ
沖縄水溶性ガスを活用した地域自律分散型電力 次へのステップへの展開が求められていると考えて
システムにおいて検討対象とするモデルのイメー いる。
(1)輸送型東北天然ガスパイプライン事業化
ジを図7に示す。
平成 22 年の上半期には、天然ガス需要家(アンケ
すなわち、水溶性天然ガスと共に、再生可能エネ
ルギーを活用し、これに蓄電池を加え、グリッド内 ートで投資可能と回答した企業約 20 社)や地元商社、
のエネルギー供給を円滑に制御するモデルである。 金融機関等、ガス事業者である東北天然ガス(株)、
また離島を念頭に置くことから、海水淡水化等の 仙台市ガス局を会員に、地元自治体、東北経済産業
エネルギー需要を加味し、このモデルの海外展開を 局、資源エネルギー庁をオブザーバーに「検討会」
を立ち上げる予定である。この会員企業が、マルチ
もにらんでいる。
今年度はシミュレーションにより制御モデルの クライアント方式によって、当社に事業化に向けた
評価を行い、これをパッケージ化することを来年以 詳細の委託調査を発注予定である。このための準備
を現在、大口ユーザー企業と東北天然ガス(株)と行
NEDO 委託件名:「沖縄水溶性ガスを活用した地域
自律分散型電力システムの研究」
この研究は、早稲田大学環境総合研究センターの
横山隆一教授チームと共同申請を行い、共同して委
託研究を行っているものである。(委託期間:H21
年 6 月 15 日~H22 年 2 月 28 日)
(3)地域自律分散型システム-沖縄連絡会
「沖縄水溶性ガスを活用した地域自律分散型電力
システムの研究」を単なる調査報告書の作成に終わ
らせることなく、本特命研究の目的である事業化に
結びつける研究とするため、ケーススタディ対象地
区である沖縄に「産学官」連携の「地域自律分散型
システム-沖縄連絡会」を組織した。
この連絡会は、相互の情報の交換及び来年度以降
の実証試験、事業化に向けたマイクログリッド管
理・運営システムのパッケージ作成への取組を推進
するための準備会的位置づけのものである。
4.2調査研究内容
(1)本年度研究項目
「沖縄水溶性ガスを活用した地域自律分散型電
力システムの研究」に関する研究の流れを図 6 に示
す。
- 93 -
っているところである。
複数の出資者が建設し所有するとういガスパイプ
ラインは、日本初であり、ガスの輸送を生業とする
事業方式も初めての試みである。このため、現行の
ガス事業法では認知されていない事業形態であるた
め、監督官庁である資源エネルギー庁には事前に相
談を行ないつつ、組織化についてもアドバイスを受
けている。資源エネルギー庁からは、大臣もしくは
局長通達で対応できる事業形態であるという見解を
もらっている。
東北天然ガス(株)が当社の取組について大きな関
心を寄せ、連絡会の組織化についても相互に協力し
ている点については、監督官庁や地元自治体、地元
経済界が注目している。なぜなら、東北天然ガス(株)
は東北電力(株)が 55%を出資する関連会社(石油資
源開発(株)が 45%を出資)であり、東北電力(株)
が、ガス事業に対して本気で取り組むという姿勢が
明確になりつつあるからである。
東北電力(株)としては、火力発電に用いる LNG を
輸入するにはスケールメリットがあった方がバーゲ
ニングパワーを発揮できるので、メリットを享受で
きる。これまで電気事業者は、ガス事業者と一線を
画してきたが、東北地方では、両者が雌雄同体のよ
うな形態で存在していることから、かえって他地域
に比べて、輸送型天然ガスパイプライン事業化が円
滑に進むと考えられる。
(2)ガス発電事業とスマートグリッド
世界的にスマートグリッドへの投資、研究開発が
盛んである。我が国では電気事業連合会の猛反対で、
他国のような形態では普及しないと考えられる。し
かし、経済産業省は多額の予算を用意していること
もあわせて考えると、今後、爆発的に普及する太陽
光発電や他の再生可能エネルギーとのグリッドの核
としてのガス発電とそれらを自律的に双方向に制御
するスマートグリッドの形態、地域、離島で普及す
ると想定される。
当社の取組は沖縄の離島発のモデルであり、地元
の産学官の前向な対応、中央官庁の強い関心から、
実証実験が成立する確率が非常に高いと言える。
以上を総合的に考慮すれば、本特命研究の2つの
取り組みとも引き続き、事業部での継続的な事業化
への取り組みが必要といえる。
図 7 域自律分散型電力システムの検討対象モデルのイメージ
H21 年度
FS(現在実施中)
H22 年度
琉球大学でのプレ実証試験
システムパッケージ化
H23 年度
証試験、事業化の第一歩へ
図 8 地域自律分散型電力システムの今後の展開
- 94 -
離島等での現場実
他省庁系の地域振興政策に関連する
事業展開の開発研究
森山
弘一*1
本研究では、CTIにおける新規顧客開拓の一環として、これまで当社が手つかずであった産業分野を中
心に業務獲得のための知見・ノウハウ等の蓄積、及び、業務獲得の試行等を3年間にわたって実施すること
により、他省庁系業務開拓の可能性や展開戦略等を明らかにするものである。本報告は、研究開始から1年
9ヶ月を終えての第2回中間報告であり、これまでの取組内容や問題点、今後の進め方等を整理したもので
ある。今年はJVによる業務営業やモデル地域での民間とのパートナーシップによる事業開発の準備等を進
め、来年はモデル地域において他地域への横展開が可能な事業モデルの構築を行うこととした。
キーワード: 産業振興、企業立地、地域資源活用、農商工連携、観光振興
1.目的
本研究では下記の目的を達成するため、他省庁系事業
におけるビジネスモデルの開発を目指す。
【■:主たる目
的、□:副次的な目的】
■地域振興支援を通じた新規顧客開拓(経産省、農水
省、観光庁等)
□地域振興支援をきっかけとするインフラ整備関連
業務の獲得
□総合コンサル化に向けての新たな知見・ノウハウ等
の蓄積
□地方(地域振興分野)での社名PR
2.研究内容
1)対象事業(地域振興政策関連事業)
上記の他省庁系事業とは、地域振興の各段階(
「Plan」
、
「Do」
、
「Check」
・
「Action」
)における①~④を指し、こ
のうち①、②、④は当社がこれまで
図1
対象事業の範囲、構成
PLAN
実態調査・分析
計画策定
DO
CHECK・ACTION
事業の実施・管理
評価・改善
①・②
委託業務
事業開発
土木分野で経験してきた、行政あるいは民間からの
「委託業務」
、③は当社がある地域の団体とパートナー
シップを組みながら地域の新事業(ソフト中心)を興し
ていく「事業開発」である。
なお、後者は、これまでに当社が経験したことのない
産業系特有のものであり、従来のような“委託”でなく、
第三者からの支援金により実施していく新しいスタイル
のものである。
他省庁系事業の具体的な分野としては以下を想定して
いる。
・地域資源活用促進
・新連携、農商工連携促進
・企業立誘致、産業クラスターの促進
・中小企業、商店街等の活性化
・地域産業振興全般の調査・プランニング
・地域ブランドの構築
等々
③
④
取 組 事 項
形 態
① 産業振興・観光振興に係る調査・分析
業務受託方式
② 産業振興・観光振興計画の策定(ビジョン、戦略、プラン等)
(公募型プロポ等)
③ 産業振興・観光振興計画・事業の評価・改善
共同事業方式
④ 産業振興・観光振興に係る事業の実施・管理
(民間、行政等との共同)
※資金は助成金や民間資金等
2)
「事業開発」に関する取組スタンス
以上のような事業メニューのうち、
「事業開発」につい
ては当社の管轄外といったイメージが社内外では強く、
土木分野の発注者からもそうした依頼はほとんどなく、
*1
国土文化研究所 Research Center for Sustainable Communities
- 95 -
Plan 等のおまけとして(準備レベル)発注されていたた
め、経験やノウハウに乏しい状況である。しかしながら、
「事業開発」は経産省や農水省、観光庁等の王道的位置
づけのもの(同省庁の予算のほとんどを占めるもの)で
あり、下記のような国内の現状や動向等を踏まえると、
他省庁系の開拓においては必須と考えられる。
・地方分権の進展等により、他省庁では従来のような
国から地方へトップダウン的な計画策定(大物の
Plan 業務)は減っており、地方での成功事例(モデ
ル)の横展開、といった地方重視・実績重視の政策
が展開されている
・行財政の悪化により、ハード整備からソフト整備へ
転換してきている
・ソフト整備においても“目に見える成果”を重視さ
れている(計画よりも、目に見える“成果”や次年
度につながる“実践”を重視)
・国では省庁横断的な予算連携・統合の動きが活発化
しており、新たな分野(都市農山漁村交流促進、地
域資源活用促進、農商工連携等)の予算が増加して
いる
・住民参加の高まり(計画段階の参加から、実施段階
への参加へステップアップ)や住民による公共的問
題の解決(社会起業等)が盛んになっており、国か
ら地方の住民団体等に対する直接補助等の動きが増
加している
・国は地域振興の担い手育成の支援が盛んである(カ
リスマ、マネジャー、アドバイザー、コーディネー
ター、マイスター、プロデューサー、伝道師等)
・デフレ・金融危機等による企業の業績悪化に伴う産
業振興政策の変化(
「産業誘致型(外発)
」→「産業
再生型(内発)
」
)
・民間企業の地域貢献活動の増大、国産材見直しの動
き等により、事業開発には民間資金も豊富に流入し
ている(CSR、CO2 削減、人材育成、国産原料の
比率アップ等)
そこで、本研究では、以下を基本スタンスに、
“埼玉県
比企郡小川町”を研究モデル地域として「事業開発」に
関する事業モデルづくりを進めることとした。
 行政以外の顧客の可能性を探るべく、地方のポテ
ンシャルや意識の高い民間企業や住民との豊富
なネットワークを構築する(民間団体へのコンサ
ルティング等へ)
 ハード整備よりもソフト整備を重視したドータ
ンクとしてのスキルを習得する(ソフト整備の際
にハード整備の機会を探る)
 当社独自のフィールドあるいはホームグラウン
ドを地方に築き、実績づくりや真のスキル磨き
(机上の空論や総論ではなく、実際の地域で“本
当に使えるスキル”の習得)に活用する
※ フィールドでの実績を、
「雑誌等への記事
掲載、論文の投稿」
、
「他地域での講演」
、
「行政関連の委員会等への参加」
、
「国のモ
デルとしての全国へ普及」等へ繋げていく。
- 96 -
3)今年のポイント
(1)昨年の経験に学ぶ点
昨年は、委託業務としては自治体を顧客とする「産
業振興ビジョン策定」
、
「中小企業の活性化策の検討」
など、また、事業開発としては自治体との共同による
「地方の元気再生事業」などにチャレンジし、
「中業
企業(商店街)の活性化策の検討」について1件を受
託したが、その一方で2年目以降に改善すべき多数の
問題(下記)を認識した。
○業務受託方式の事業について
新分野業務(産業振興計画、中小企業・商店街の活
性化計画等の策定等)の公募型プロポへ参加し、以下
の問題が生じた。
・実績不足のために応募要件を満たさず参加できな
かったものがあった
・新分野関連の実績を持つ実務者や会社としての実
績、関連ノウハウ等の不足により、プロポで敗退し
た
・他社が参入済みの案件(あるいは他社の企画案件)
のプロポに参加してしまい、
当然の敗退となった
【発
注者ニーズ及び提案書作成時間の不足等】
・当社の積算形態が新分野業務の価格帯と合わない
(当社の技術経費率、諸経費率等では当該分野の競
合に勝ち目がない)
○共同事業方式の事業について
自治体との共同により助成金獲得を目指したが、以
下の問題が生じた。
・以前、受発注関係にあった自治体と共同したが、
助成金の受け皿は自治体であるため、当社の立場は
弱く、事業等に対する当社の意見は採用されづらか
った
・自治体と共同で助成金を申請したが非特定となっ
てしまい、それとともに共同の取組も頓挫した
・助成金を獲得していたとしても、事業の主導権は
自治体が握っていたため、従来業務とあまり変わら
ず、新分野におけるビジネスモデルの開発等の思い
切った取組はできなかったと想定される
(2)今年の実施ポイント
上記(1)の問題点を踏まえ、今年は以下の点を重点
的に取り組むこととした。
A.委託業務にかかる展開
○JV(共同体)方式による営業展開(共同者の
実績及び既存顧客の活用)
B.事業開発にかかる展開
○研究モデル地域(特に民間)との共同による事
業の掘り起こし、成功事例づくり
○民間企業とのネットワークづくり
(3)今年の具体的な取組
A.委託業務にかかる展開(JV方式)
ⅰ)調査・分析
業務名
産業立地促進コン
テンツ作成事業
(緊急雇用)
埼玉県観光実態調
査(緊急雇用)
発注者
愛知県
形態
プロポ
共同者
(株)産業立地研
究所との JV
金額
約 1,600 万円
結果
特定
埼玉県
プロポ
-
約 1,300 万円
結果待ち
発注者
みどり市
形態
プロポ
金額
約 200 万円
特定
埼玉県
プロポ
共同提案者
(株)産業立地研
究所との JV
-
約 1,300 万円
結果待ち
猪苗代町
指名
競争
プロポ
(株)産業立地研
究所との JV
ともえ産業情報
約 150 万円
途中辞退
約300万円
不参加
ⅱ)計画の策定
業務名
動物産業誘致に係
る調査研究
埼玉県観光実態調
査(緊急雇用)
結果
※再掲
企業誘致受皿整備
策定業務
青山地区商店街変
身計画作成業務
東京都
港区
このうち、受託した2件の「動物産業誘致に係る調査
研究」及び「産業立地促進コンテンツ作成事業(緊急雇
用)
」の概要は参考資料1に示すとおりである。
ⅲ)営業ツールの作成
これらの営業展開の中で、共同者の産業立地研究所
とともに、JV方式での営業展開の際のツールを作成
した(参考資料2を参照)
。
B.事業開発にかかる展開
前述のとおり、本研究では事業開発に向け、モデル地
域である小川町で、地域資源(特にヒト)の掘り起こし
から、次年度以降具体的に実施していく事業や体制等の
整理を実施した。以下、その概要を示す。
ⅰ)事業テーマ
デフレの加速や失業率・貧困率の上昇等が昨今特に
問題となっている中で、地方の衰退はますます進む一
方であるが、自給自足等により最低限の生活は守られ
ている場合が多いと考えられる。しかしながら、消費
に大きく依存した都市的生活を送る都市住民たちは
それらの影響をもろに受け、ヒトの活力まで低下して
しまっている住民は少なくないと考える。これらの状
況を打破すべく、地方のライフスタイルの豊かさを都
市住民へ提供することで、都市住民の癒しによる活力
向上等を図っていくことが必要となっている。
そこで、本研究では、都市と地方の資源循環の促進
による、都市と地方の WIN・WIN 関係を構築すること
とした。なお、この「都市と地方の資源循環の促進」
というテーマは、前述の対象事業にはすべて欠かせな
い、経産省・農水省・観光庁等の共通課題と考えられ、
このテーマに関わる実績を有しておけば幅広い営業
展開が今後可能になると考えられる。なお、ここでの
資源とは、ヒト・モノ・コト・カネ等の地域経営資源
を指す。
日本経済の低成長化
地方
都市
地方経済の衰退
社会全体の目標喪失、個人所得減少
地方内資源の不足
都市生活への不安・ストレス増大
地方における都市資源活用
都市住民の癒し、新たな価値観形成
の必要性
の必要性
都市住民への地方の豊かなライフスタイル
のお裾分け【都市と地方の資源循環の促進】
図2 事業テーマの設定
ⅱ)事業モデルの要件
- 97 -
事業開発の実績づくりに向けて欠かせない事業
モデルの要件は以下のとおりである。
 都市と地方の資源循環
地方の地域資源を活用した制作した商品を都
市で味わってもらう(同時に、地方の魅力を知
ってもらう)だけに留めず、都市住民が地方に
来訪する仕掛け
(体験プログラム等)
をつくり、
都市と地方の住民どうしの交流による癒し、価
値観の転換等が不可欠である。
 出口ありきの身の丈商品開発
都市と地方の資源循環を円滑化するうえでは
「出口(都市側の買い手)を先に押さえた商品
開発・提供」が、また、循環を持続化させるう
えでは「身の丈の商品開発」がそれぞれ重要と
なる。
・都市のニーズの正確な把握
・ニーズを踏まえたターゲットの絞り込み
・ターゲットのニーズを反映した商品等の開発
・ターゲットに向けた商品等の効果的なPR・
販売
・地方側(地域資源量)にとって無理のない商
品等の提供
 取組の自立化
持続的な資源循環を志向するためには、地方
側が商品等の収益や都市の人材等、商品等の提
供等で獲得した資源はすべて活用して取組を持
続させていくことが最も重要である。やむを得
ず、とっかかりで助成金等の第三者からの支援
を受けたとしても、助成期間中に自立(採算確
保等)の目処を立てる必要がある。
 地域資源活用の包括的コーディネート
地方では、地域内でバラバラに興っている動
きを、都市へ発信したり売り出したりする役割
が欠けており、具体的には、都市のニーズにあ
った資源のセット化(プログラム化)や資源の
新たな価値・機能の発掘、都市への一括情報発
信、ワンストップ窓口の設置等を行う必要があ
る。
ⅲ)必要なスキル(地域ビジネスコーチング)
 ヒト、事業の掘り起こし
(ヒトのアイデア・意欲の引き出し、ヒトの第三
者評価の把握、ヒトどうしの関係整理、地域の
中立的意見の収集、地域の危機感探し、事業の
パートナー探し、資源価値・機能の見直し等)
大都市への地方資源の提供のための事業化支援
(大都市ニーズの把握、大都市による商品開発へ
の参画、地方資源への付加価値付与、実施体制
づくり、事業採算性の確保、獲得した大都市資
- 98 -
源の活用、情報発信ツールの制作等)
 事業運営のマネジメント、客観的な評価
(※運営主体及び主観評価等はパートナーであ
る地元で実施)
 事業の持続性担保
(メンバー間の情報共有・その他手続のシステム
化、収益・ファン等の獲得資源活用の仕掛け等)
ⅳ)フィーの獲得方法
 国のモデル事業(当社成功事例)の全国普及の
ための事務局業務の受託
 都市部企業のCSR、BCP、新規事業開発の
サポートによる民間マネジメントフィーの獲
得(モデル地域の資源を活用した、職員の食料
確保、原料の自社生産、CO2 削減、農業への新
規参入等)
 官民の事業化助成(コンサルティングフィー)
の獲得
※今年度、有機農産物関連の農産物直売所・レ
ストラン&カフェの立ち上げに当たり、以下
の農林水産省助成金(当社のコンサルティングフィーを
含む)を申請した。実際の申請書は参考資料
3に示すとおりである。
・事業名 :農林水産省「H21 地域流通モデル
構築支援事業(事業化助成)
」
・助成金額:約 1,000 万円(100%助成)
・申請主体:小川町有機農産物加工・販売を行
うNPO
・申請時期:H21 年 8 月中旬
・当社の立場 :事業の長期計画の作成支援、
事業運営検討会の運営支援、事業
効果の計測等
・申請結果 :非特定
ⅴ)具体的な事業メニュー
事業モデル構築中又は構築後の狙い目としては
以下の事業に類似するものが考えられる。
■農業活性化関連
○事業A
・事業名:三菱地所「空と土プロジェクト」
:
数億円程度
・内容:
三菱地所の職員がCSRの一環として、山
梨の過疎地域において「開墾」や「農業体験」
等を実施
○事業B
・事業名:農水省助成事業「田舎で働き隊」
:
1億円程度
・内容:
新聞広告(募集、報告)
、実際の働く人の
雇用、WEB サイト制作費、報告書作成、報告
会実施など(広告費、雇用の報酬・旅費、会
場費、報告書作成費、事務局の人件費・交通
費等)
C.民間企業とのネットワークづくり
ⅰ)農商工連携ファシリテータへの登録
(財)中小企業異業種交流財団が認定する「農商
工連携ファシリテータ」に登録し、同財団主催
(2009 年 11 月 19 日)のマッチングフェアにて、
農商工連携促進法の助成事業ネタの発掘・組成の
ためファシリテーション及びマッチングコーディ
ネートを実施した。
【→このフェアで知り合った
業者と共に、後述の小川町で有機農産物関連の新
商品開発を行っている。
】
○事業C
※今後3年間継続予定
・事業名:経産省助成事業「えがおの学校」
:
ⅱ)農商工連携関連の研修会、交流会への参加
1千万程度
上記ⅰ)の経産省主催セミナーのほか、
「ニッポ
・内容:
ンのムラ力向上プロジェクト」や「農商工連携マ
全国4か所で合計約 60 人の受講者の募集、
ネージメントコーディネート研修」等の農水省関
各6回(1 か所のみ9回)の講座の実施、WEB
連の研修会・交流会への参加し、農商工連携に積
サイトでの進捗報告、報告会実施、テキスト
極的な企業や団体等との人脈を形成した。
【→こ
作成、報告書作成など(参加者および事務局
の人脈を活用して、後述の小川町での体験プログ
の旅費、
会場費、
資料作成費、
外部講師謝金、
ラムを企画した。
】
報告会実施費、報告書作成費)
■農商工連携関連
農水省 H21 予算:約 180 億、
経産省 H21 予算:155.3 4)まとめ
昨年の取組結果も含め、他省庁系事業のうちどこを
億(H20 予算:102.5 億)
、具体的には、
「平成 21
狙っていくことが営業上最も適切であるか、費用や事
年度農商工等連携対策支援事業」
(経済産業局)
:
業ボリューム、受託・遂行のリスク、当社の優位性等
3,000 万円以内/1件)
、
「H21 地域流通モデル構築
の観点から検討を行った。結論的には『事業の実施』
支援事業」
(農林水産省)
:1,000 万円程度/1件な
(DO)が総合的に見て最も魅力的と考えられ、次年
ど
度以降はここにターゲットを絞った研究を進めてい
■都市農村交流関連
くこととする。検討の詳細は参考資料4に示すとおり
農水省 H21 予算(農山漁村活性化プロジェクト支
である。
援交付金:約 350 億、子ども農山漁村交流プロジ
ェクト対策事業:約 6.4 億、広域連携共生・対流
等対策交付金:約 6.4 億)
、具体的には「H21 グリ 3.成果のイメージ
モデル地域(埼玉県比企郡小川町)において図3に
ーンツーリズム促進等緊急対策事業」
(農林水産
示すような「都市地方ビジネスの組織体」を組成する
省)
:1,000 万円以内/1件、
「H21 都市と農村の協
ノウハウ及び実績等を、第三者の資金で構築したり、
働に関する調査委託」
(交流を促進するコーディ
その成功モデルを他地域へ売っていくビジネスモデ
ネーターのあり方検討)
:農林水産省 など
ル(国の事業の事務局業務等)を開発したりする。同
■地域資源活用・中小企業活性化関連
組織体は、これまで個別に提供されてきた地域資源を、
「H21 新事業活動促進支援補助金」
(中小企業
大都市へマーケティングする機能(資源価値の見直し、
庁)
:2,500 万円以内/1件、
「H21 地域資源活用新
資源のプログラム化等)を担いつつ、そこで得た地域
事業展開支援事業費補助金」
(中小企業庁)
:3,000
で共有すべき資源(ヒトやカネ等)の管理・育成、地
万円以内/1件、
「H21 地域商店街活性化事業」
域内循環等を担う。
(中小企業庁)
:上限 2 億円・下限 100 万円/1計
画)など
■ニューツーリズム関連
観光庁 H21 予算:0.6 億(H20 予算:0.77)
■地方振興関連
国交省都市地方整備局地方振興課「平成 21 年度
地域再生を担う人づくり支援調査業務」
:2,700 万
円
(各地の取組への助成金200万円×8団体を含む)
など
- 99 -
都市地方交流ビジネス
の組織体
事業の企画・調整・
人材育成
獲得資源
人材など
事業の運営・管理
ビジネス 1
ビジネス 2
拠点・エリア
ビジネス 3
等の整備
ビジネス 4
大都市の資源
(ヒト、カネ等の団体
が持つ資源を含む)
官民の助成金
資源(ヒト・カネ)
の提供
ライフス
タイル等
の提供
獲得資源
の還元
(課題解決
への活用)
必要最小限の
ハード整備の
計画・設計
(ヒト、モノ等)
自治体、商工会等
大都市
(大企業、会員
組織等の団体)
具現化・自立化
のための
地域コーチング
地
地元の資源
の業務委託
(農商工連携、
地域資源活用)
・・・・・
自治体等からの委託
方
行政マネジメント
(行政コスト削減分の
○%をフィーとして)
(地場企業、住民等)
※地域課題解決のアイデア・取組・意欲
図3 都市地方交流ビジネス開発モデルのイメージ
1)商品開発
①小川町有機農産物関連
農商工連携ファシリテータ活動の中で付き合いの
ある食品卸業者((株)アライなど)と共同し、都内及
び埼玉県内の飲食業者(数百社)に対して、小川町で
収穫された有機農産物(小ロット)を活用してもらう
ための身の丈の持続的な仕組み(適量生産・適量消費
のマッチングモデル)をつくる。
【当面の作業事項】
・近々に収穫される農産物(種類、量)のリストア
ップ
・リストアップした農産物に関する飲食店のニーズ
把握・整理
- 100 -
・小川町でのマッチングフェア(試食会あり)の開
催
・商品化の計画づくり、課題整理
・商品化支援(助成金による開発資金の調達等)
・商品化までの手続等のシステム化(携帯電話等に
よるニーズ・シーズの受発信)
②楮・和紙の新たな需要開拓
楮・和紙の栄養分や機能性を分析し、新たな商品
開発等を行う。
【当面の作業事項】
・特殊成分以外の成分・機能(抗菌性等)に関する
社内試験
・特殊成分の再計測(夏場に採取、分析)
・計測結果に関する情報発信(日経新聞・日経グロ
ーカル等)
・生産拡大、安定供給のための改善(ボランティア開墾、
生産性向上のためのシルバー雇用等)
等)
・都市住民によるプログラムの企画(ロハス関連H
Pで企画員を募集)
・モニター調査(30名程度)
・プログラムの改善、プログラムへの意見聴取(ロ
ハス関連HP等でのアンケート調査、
地元へのヒア
リング等)
・プログラムの募集・PR(マップの配布を含む)
・年間を通じたプログラムの実施(年間5~6回程
度)
・各回の満足度調査(参加者へのアンケート調査、
主催者側へのヒアリング等)
・各回の実施結果の速報(ロハス関連HPでの定期
発信)
・プログラムの見直し
・同HPにおける参加者募集
※上記マップは参考資料6に示すとおりである。
※来年の夏場の成分計測まで休止
2)プログラム開発
小川町の『有機農業』
、
『和紙』
、
『エコライフ』等の体
験を通じ、30歳前後の都市住民へ癒しや安心な都市生
活のための知恵・ライフスタイルを提供する体験プログ
ラムを実施する。プログラムの詳細は参考資料5に示す
とおりである。
【当面の予定】
・プログラムに関する都市ニーズの把握(ロハス関
連HP等にて)
・地元での調整・準備(実施体制づくり、役割分担
ロハスビジネスアライアンス
大和田 順子 氏
(ロハスを日本で普
及させた1人)
・資源活用のマーケ
ティングアドバイス
地元有機農家
(金子氏ら 31軒)
吉田家住宅
(国の有形文化財)
体験、ライフスタイル
収穫された農産物の販売依頼、
収穫予定の農産物情報の提供等
、新たな価値観等
の提供
生活工房「つばさ・游」
ハーストーリー
(30 代を中心とする主婦層の会
員 10 万人を保有)
(べりカフェ
・小川の地域資源及びプロ
グラムに対するニーズ調
査、モニター調査
・農産物の種類、量の把握
・農産物の引き取り
・農産物の直売、調理 等
体験・
サービス等
農産物の
パッケージ、
飾りの
製作委託
耐水・衛生
処理の委託
(株)アライ
・埼玉県・東京都内の飲食業者
と農家のマッチング支援
・商品開発のための加工・物流
の委託
・マッチング商品の販売
加工品の販売
販売
体験プログラムの提供
都市部消費者
当面の事業モデルスキーム
- 101 -
地元消費者
農産物の
運搬
農産物の
加工委託
加工業者
加工品
の引渡
農産物に関する
加工・消費ニーズ
都市部の
商業・飲食業者
図4
販売
飲食店の
農産物ニーズ
生産情報
温泉、飲食店、
酒造等の
地元事業者
地元和紙
組合等
つばさ・游)
日本橋地域再生研究
Research for Nihombashi Area Restoration
原田邦彦 *1
伊藤一正 *1
今西由美 *1
塚原奈津代 *1
Kunihiko Harada,Kazumasa ITO, Yumi Imanishi, Natsuyo Tsukahara
日本橋地域は江戸時代から続く東京の賑わいの街で、日本の行政・商業・文化の中心である。この日
本橋地域の賑わいの再生は地域全体の要望である。本研究は、地域の一員として日本橋地域再生案の議
論に参加し、河川再生や舟運計画の案を研究した結果と、日本橋地域をはじめ、港区、千代田区を含む
広域の観光資源開発に取組んだ結果を示したものである。
キーワード:地域貢献、河川管理、河川再生、都市計画、水質改善、舟運、船着場、日本橋、協議会、
観光開発、集客事業、コンソーシアム
1.はじめに
2001 年 3 月 14 日、扇千景国土交通大臣の 「日
本橋は首都・東京の顔であり、国として取り組むべ
き課題で、首都高の高架に覆われた日本橋の景観
を一新する」との発言により、4 月には、学識経
験者による「東京都心における首都高速道路のあ
り方委員会」が設立され、2003 年 8 月「日本橋み
ちと景観を考える懇談会」が中村英夫座長により
設けられた。2005 年 12 月には、当時の小泉首相
により「日本橋の検討」が指示され、2006 年 9 月
15 日に、「日本橋川に空を取り戻す会」が日本橋
地域から始まる新たなまちづくりに向けてと題し
た提言が提案された。
その後 9 月 27 日に「日本橋再生推進協議会」(会
長:井上和夫、事務局:中央区)が、日本橋地域
のまちづくりを検討協議する地元組織として設立
され、今日に至っている。
当社では 2002 年(平成 14 年)4月に設立した
国土文化研究所の活動の一つとして、地域貢献を
とりあげ、その具体的な活動の対象として日本橋
地域再生研究に取組んできた。その第1歩が国土
交通省関東地方整備局東京国道事務所より情報を
得て、地域において最も開放的で活動的な、上記
日本橋再生推進協議会を実質的にリードする、
「日本橋地域ルネッサンス 100 年計画委員会(略
称:日本橋ルネッサンス委員会)」(平成 11 年に設
立)の活動に参加を開始した。
現在、参加協力している日本橋地域活動は以下
のとおりである。
A)日本橋ルネッサンス委員会
① OLクラブ幹事会
B)NPO 法人東京中央ネット
①日本橋美人博覧会
②江戸日本橋観光めぐり事務局
③江戸東京再発見コンソーシアム
*1
国土文化研究所
C)日本橋再生推進協議会
① 水辺再生研究会委員
② 観光再生部会(平成 22 年 1 月より)
以下に、平成 21 年の各活動結果を示す。
2.日本橋ルネッサンス委員会
ルネッサンス委員会には観光部会、都市再生部
会、情報部会、イベント部会、河川再生・空間創
造部会と OL クラブ(WPNR 部会:Woman’s Project
of Nihonbashi Renaissance)とがあり、現在最も
活発に活動している OL クラブに参画している。
OL クラブは日本橋地域 22 社により構成され、
OL クラブ部会(以後部会)の会議は毎月第3火曜
日に開催され各企業の事業 PR による相互理解と
部会で取組む事業が検討される。現在、部会が取
り組んでいる事業は都市観光マップ作成事業を柱
に、別途 NPO 東京中央ネットが進める日本橋美人
推進協議会の美人博覧会事業と当社が担当する江
戸日本橋観光めぐり事業、美人商品開発事業等の
支援を実施している。表-1 は部会活動の記録であ
る。
都市観光マップ作成事業で進める「日本橋都市
観光マップ」は日本橋地域の再生を目指した活性
化のツールとしてOLクラブが主体となって作成
している、地域の観光スポット、史跡、名所、お
店を、観光ルートごとに紹介する地図である。こ
の地図は、印刷物とウェブサイトで約 4 万部を配
布しており、今では日本橋地域の観光案内的役割
を担っている。
都市観光マップには、現在(2009 年 12 月)172
軒のレストラン、60 件の商店、24 件の史跡や観光
名所が記載されている。いずれも取材が行われ精
確な情報が掲載されるとともに、日本橋地域のイ
ベント情報、地域活動の紹介などにより構成され
ている。
Research Center for Sustainable Communities
- 102 -
図-1日本橋都市観光マップ
表-1
OL クラブ部会開催結果
回
日時
議事
95
96
97
98
99
100
101
102
103
104
105
106
1.20
2.27
3.17
4.21
5.19
6.16
7.14
8.18
9.08
10.27
11.17
12.08
10周年事業
博覧会、観光めぐり
博覧会、観光めぐり
博覧会、観光めぐり
博覧会、観光めぐり
企画委員会報告
博覧会、観光めぐり
博覧会、ボランティアガイド
博覧会、観光めぐり
博覧会、観光めぐり
博覧会、地図システム
博覧会報告
3.NPO 法人東京中央ネット
(1) 日本橋美人博覧会事業
日本橋美人博覧会とは、日本橋地域のブランデ
ィング事業の一環として、企業、老舗、名店、ホ
テルなどが協力して開催する、パビリオンのない
博覧会である。街ぐるみで「江戸で彩る日本橋
“Japan Beauty from Edo-Tokyo”第 2 回 日本橋
美人博覧会」を開催することで、国内外から日本
橋地域に訪れた方々に固有の文化と日本橋美人商
品の魅力を一層深く感じてもらう取り組みである。
ロイヤルパークホテルが博覧会事務局となり、
2009年10月23日(金)から11月10日
(火)までの19日間にわたり主要 4 会場(ロイ
ヤルパークホテル、千疋屋総本店、八重洲地下街
メインアベニュー、DIC カラースクエア)にて伝
統工芸、写真展、老舗資料展などが開催された。
当社は「江戸日本橋観光めぐり」事務局として「日
本橋美人博覧会 特別コース」を設定し、ガイド付
きで各会場をめぐり、集客参加した。
(2) 江戸日本橋観光めぐり事業
江戸日本橋観光めぐりは、日本橋に本社を置く
企業や老舗、名店が協力して、お客様を日本橋地
域に案内し、史跡、老舗、文化をお話ししながら
街をめぐる企画で、日本橋の奥深さや魅力を伝え
- 103 -
る活動である。この活動を推進するために、NPO
東京中央ネットからの依頼で「江戸日本橋観光め
ぐり事務局」を 2007 年 8 月に国土文化研究所の中
に設け、代表は建設技術研究所社長があたり、幹
事に国土分化研究所長、事務局長に国土文化研究
所企画室長が任命された。
街めぐり企画は、江戸日本橋観光めぐりコース、
日本橋美人博覧会の会期に合わせた人形町コース、
室町コース、八重洲コース、日本橋コースがある。
めぐりはいずれも、地域の共同企業との連携し、
訪問先は東京中央ネットの協力参加企業を中心に
選択し、各企業と共同して訪問客を案内するコー
スで構成している。
① 江戸日本橋観光めぐりコース
三井タワー1 階ロビー集合→千疋屋総本店→山
本海苔店→日本橋→榮太樓總本鋪→日本銀行→常
盤橋門跡 →貨幣博物館を 2 時間 30 分でめぐる。
② 人形町コース
ロイヤルパークホテル集合→東京エアシティター
ミナル→水天宮→谷崎潤一郎生誕地→人形町亀井
堂→浜町緑道で 2 時間 30 分のコースである。
③ 室町コース
三井タワー→千疋屋総本店→山本海苔店→福
徳塾→伊場仙で 2 時間半のコースである。
④ 八重洲コース
日本橋高島屋→日本橋プラザ→DIC 株式会社
→ヤン・ヨーステン記念碑と平和の鐘→八重
洲地下街で 2 時間半のコースである。
⑤ 日本橋コース
三井タワー→疋屋総本店→日本橋→榮太樓總
本鋪→COREDO 日本橋で 2 時間半のコースであ
る。
(3)美人商品開発事業
日本橋地区では官民が一体となった地域再生プ
ロジェクトの1つとして、2005年の10月に東京中央
ネットが中心となって立ちあげた『日本橋美人』と
いうプロジェクトがある。
この『日本橋美人』とは、伝統を重んじて、身近な
環境により培われる教養や品格を備えた、心身とも
に美しい女性を総称するブランド名で、心優しく感
性が豊かで粋(クール)な気質と位置付けている。
この『日本橋美人』プロジェクトで最初に取組んだ
のが、美人商品の開発および商品化である。
『日本橋美人商品』には、「粋」江戸っ子の美意
識、「優」洗練された仕草、「知」先人からの叡智、
「創」伝統が培った技の4つの美意識に支えられて
おり、商品には、これらの美が受け継がれていると
定義している。商品の例には、割烹料亭や高級レス
トランでの“美人ランチ”、お菓子やエステ、きも
の講座などがあり、楽しみながら心身の“美”を育
むことができるものとしている。
町おこしや地域活性化プロジェクトで大切なのは、
その地域の特色やロケーション、優位点などを活か
した独自性があるかどうかであり、その面では、文
化や商業の中心とされてきた日本橋のエリアで、
“美”をテーマに人の心をより豊かにし、人心が潤
うことで、元気な街をつくろうとする試みで、十分
に可能性を秘めていると言える。
当社は、OLクラブの幹事会社として「江戸日本橋
観光めぐり」を知の創造として日本橋美人商品の一
つに提供している。
景観を描き出そうとしている。その中心として、
歴史的にも地域の生活にも密着してきた日本橋川
を取り上げ、日本橋川を再生し、日本橋川を中心
とした地域再生イメージを描いている。
具体
の検討は河川再生等専門性が高いことから、専門
の研究会として「水辺再生研究会」を設け、水質
改善から都市空間の設計、賑わいの創造に関わる
検討を進めている。以下に、平成 21 年度の主とし
て研究会での検討結果を示す。
(1)日本橋再生推進協議会
日本橋再生推進協議会は毎年1~2回の審議を
継続してきており、今年度は8回目が開催され、
船着場の設置が提案されている。
第5回日本橋再生推進協議会(2007 年 11 月 30
日)において、水辺再生研究会が提案され設置が
承認され、当社からも国土文化研究所企画室長が
委員として参画し、水環境再生等の技術提案を検
討している。
再生推進協議会では 2008 年 12 月に「日本橋地
域における水辺空間を活かした街づくり」に向け
た提言を作成し、将来の構想を発表している。
提言書の中では、日本橋地域の特徴を江戸から続
く歴史文化、水辺の街として、これらを軸に新し
い町を創造するとして、
「創るもの、蘇らせるもの、
残すもの」を街づくりの基本とする案を提案して
いる。
特に水辺からの再生に関しては、観光と防災に
有効な舟運ネットワークの整備の重要性を提案し
ている。
4.日本橋再生推進協議会
日本橋再生推進協議会は平成18年9月27日に日本
橋地域のまちづくりを検討協議する地元組織とし
て設立された。設立の趣旨を趣意書から抜粋すると、
「日本橋上空にかかる首都高速道路の移設と日本
橋川の再生は、日本橋地域はもとより中央区にとっ
て解決すべき長年の課題である。この課題を、実現
していくためには、日本橋地域全体としてどのよう
なまちづくりを進めていくのか、地元の意思を明ら
かにし、共有していく必要がある。と同時に、この
課題への取り組みは、美しい日本の都市景観を再生
していく象徴的な取り組みであり、地元の力でまち
を革新する新たなまちづくりの可能性を全国に示
すことができるものである。」と定めている。
このような背景のもと、再生推進協議会では将
来の日本橋地域を、どのように創造すべきかと、
地域が一体となって議論を進めている。
日本橋再生推進協議会は高速道路を地下化した
後の日本橋地域の都市
表-2 日本橋再生推進協議会審議内
発足会 2006 年 9 月 27 日
第1回 2006 年 11 月 21 日
第2回 2007 年 4 月 24 日
第3回 2007 年 8 月 20 日
第 4 回 2007 年 10 月 25 日
第 5 回 2007 年 11 月 30 日
第 6 回 2008 年 12 月 3 日
第 7 回 2009 年 3 月 6 日
第 8 回 2009 年 11 月 28 日
設置規約の承認、日本橋再生推進協議会のメンバー承認
日本橋地区のまちづくり動向、室町東地区プロジェクト概要
日本橋・東京駅前地区計画の変更報告、室町東地区プロジェクト報告
日本橋室町東地区プロジェクトの進捗状況、
『(仮)水辺再生研究会』と『(仮)まち再生研究
会』の設置
「地区計画」、「日本橋・東京駅前地区計画」及び「東京都景観計画に基づく景観規制」報告、
水辺再生研究会とまち再生研究会の専門部会設置報告
仮)水辺再生研究会(会長 : 山本 泰人)の設置
水辺再生研究会より「日本橋地域における水辺空間を活かした街づくり」に向けた提言(案)
について報告承認、 “船着場”と“舟運”の整備について検討指示
日本橋川再生に向けたまちづくり手法として検討している「容積移転型都市再生事業研究会」
の内容について報告、
船着場計画と舟運整備の案を報告
- 104 -
図-5
文化を伝える再生構想
図-2日本橋街づくり提言書
図-6
歴史を残す再生構想
図-3日本橋地域将来イメージ
図-4
図-7 舟運ネットワーク整備構想
(2)水辺再生研究会
①水辺研究会の概要
水辺再生研究会は「日本橋地域における水辺空
間を活かした街づくり」を元に、舟運ネットワー
クの具体化の検討を実施し、その基本となる構想
として日本橋橋詰に船着き場の整備を提案した。
日本橋川は元来常磐橋門から江戸城に至る江戸
時代の物流拠点で、日本橋川の右岸側が武家屋敷
で左岸側が商人屋敷という立地にあり、日本橋は
各街道の拠点と定められ、今日に至っている。か
つて、日本橋の橋の周辺には魚河岸があり、橋詰
は船着き場としての機能も有していたものであり、
それを再生し、日本橋の賑わい拠点を再生するも
のである。
水辺再生研究会は平成20年12月の提言案承
水辺からの再生構想
- 105 -
認を受けて以後は、船着場整備の検討を主に進め、
5回の審議を経て基本案がまとめられ、第8回の
日本橋再生推進協議会に諮られた。
さが船の運航限界高さとなる。日本橋川では豊海
橋が桁下高 Ap+4.29m で、最高満潮位 Ap+2.15m と
の差は 2.14m である。船の安全から 30cm の余裕を
確保すると 1.84m の高さとなる。
このため、運航可能な船舶は 50 人乗り以下の中
型船舶か 13 人乗り以下の小型船舶が対象となる。
これらを受けて、水辺再生研究会での検討結果
として、当面は 13 人乗り以下での不定期航路事業
者を対象とした船着場利用を想定し、将来的には
50 人規模の特別新造船をも対象とする船着場を
計画する事とした。
図-8日本橋周辺船着場
表-3検討会審議事項
開催年月
審 議 事 項
H21.1.21 現況把握(既存事業、法律)
H21.2.19 課題抽出(制約条件等)
H21.3.30 計画(計画案、舟の条件等)
H21.6.17 推進方法(体制、活動方針)
H21.8.31 管理・活用(管理方法、地域連
携)
回
1
2
3
4
5
図-9船着場完成予想図
② 船着場整備に関わる課題と対策
船着場完成後には利用船舶に対する運用管理が
必要となり、そのために管理規定の制定と管理方
式と管理者の選定が必須となる。管理方式は、1)
設置者である中央区が直接管理する方式(運営管
理の一部を区が業務委託)、2)指定管理者制度に
よる管理、3)使用許可を得た団体による管理等
がある。
現在、検討を進めている途上ではあるが、地域
での活性化につながるような地域が利用しやすく、
かつ、安全で有効となる管理方式が望まれる。
日本橋川
②船着場検討
表-4 日本橋の橋脚と桁下高
河川 橋梁名
桁下(Apm) Ap2.15m 差
日本橋
4.89
2.74
江戸橋
4.88
2.73
江戸橋 JCT
9.21
7.06
鎧橋
4.54
2.39
茅場橋
4.48
2.33
首都高 9 号
19.13
16.98
湊橋
4.81
2.66
豊海橋
4.29
2.14
霊岸橋
4.30
1.95
新亀島橋
4.93
2.78
亀島橋
4.68
2.53
高橋
4.09
1.83
南高橋
4.25
2.10
亀島川水門
5.50
3.35
亀島川
日本橋船着場は、日本橋川の特性もあり発着可
能な船舶に大きな制約がある。日本橋川は東京湾
の感潮河川で-0.26m~+2.15m(H19 実績)の変動
があり、河床高は日本橋で-2.5m、茅場橋で-2.0m
である。また、日本橋から下流には隅田川までに
7 橋、支川亀島川に 5 橋があり、この橋の桁下高
図-10 日本橋船着場管理方式比較
5.江戸東京再発見コンソーシアム
江戸東京再発見コンソーシアムは東京中央ネッ
トが主体となって組織し、経済産業省の広域連携
観光集客事業を担当するコンソーシアムである。
- 106 -
経済産業省の広域連携観光集客事業は平成 19
年度から開始された事業で、「国際競争力ある観
光・集客サービス産業を構築する事を目的とする
事業で、広域的に幅広い関係者の参画を得て、差
別化を可能とする独自の戦略を構築し、地域・業
種横断的な総合的取組みを推進し、地域経済の活
性化に貢献する事業」である。江戸東京再発見コ
ンソーシアムは平成 20 年度に最長 3 カ年として採
択された。平成 19 年度は 15 件が採択され、平成
20 年度が 3 件の採択で 18 件が事業を実施してい
る。
コンソーシアムは東京中央ネットが代表団体と
なり、参加組織は
① 広域連携を実現する都心水辺舟めぐり事業:
株式会社 建設技術研究所
② 各地域の特色を活かした江戸東京再発見街め
ぐり事業:株式会社 建設技術研究所
③ 江戸野菜の周知拡大のための地盤作り事業:
株式会社 ロイヤルパークホテル、学校法人
日本橋女学館中学校・高等学校、江戸野菜生
産者(個人)
④ 伝統工芸を次世代に継承する事業:株式会社
建設技術研究所
⑤ 江戸東京観光情報発信:株式会社 ヤマダク
リエイティブ、近畿日本ツーリスト株式会社、
株式会社 KNT ツーリスト
⑥ 江戸東京再発見にかかわるシンポジウムをと
おした観光集客広報事業:株式会社 建設技
術研究所
⑦ 人材育成事業:NPO 法人 先端教育情報研究所
の 7 事業 8 団体(7 社、1個人)である。
当社が担当する舟めぐり、街めぐり、伝統工芸、
シンポジウム各事業について以下に示す。
(1)舟めぐり
舟めぐり事業は中央区が管理する常磐橋防災船
着き場を拠点に日本橋川を遊覧する 1 時間コース
を運航する事業を実施。
運航は米国の Duffy 社が開発した電気ボート
(12 人乗り)を利用し、不特定航路事業者登録(運
航委託先の NPO「みんなでまちづくり」が登録)
を 8 月に完了し、9 月から1名 2500 円の有料運航
を実施した。
表-5 舟めぐり運航計画
月
運行回数
申込者数
乗船数(人)
(人)
9
10
99
75
10
22
228
183
11
31
147
130
12
18
124
124
合計
81
598
512
- 107 -
乗船者にはアンケートを実施しており、アンケー
トの回答は以下の通りであった。
① 年齢
年齢
人数
%
年齢
人数
%
~10
2
0.9
50 代
53
23.3
10 代
1
0.4
60 代
70
30.8
20 代
9
4.0
70 代
35
15.4
30 代
21
9.3
無答
2
0.9
40 代
34
15.0
計
227
100
② 性別
男:91(40.1%)、 女:127(55.9%)、無回答 9
(4.0%)
③ 職業
職業
人数
%
職業
人数
%
児童
2
0.9
専業主
98
43.2
婦
学生
8
3.5
その他
64
28.2
会社員
97
44.3
無回答
4
1.8
自営業
34
41.4
公務員
5
2.2
計
227
100
舟めぐり全体での参加者の意見は、船着場の環
境や利便性については 119 名が大変満足し、141
名が満足、普通と答えた方が 41 名、不満は 1 名、
非常に不満が 1 名と多くが満足している事がわか
る。また、舟そのものへの関心度は、非常に満足
が 144 名、満足が 148 名、普通が 28 名で不満を示
す参加者は0であった。さらに、ガイドに対する
評価が高く、非常に満足と答えた方が 202 名、満
足が 111 名、普通が 12 名で不満は 2 名のみであっ
た。
総合的な評価では、非常に満足が 137 で満足が 137、
普通が 23、不満1と有料で運行しているにもかか
わらず高い評価を得られている。
(2)街めぐり
街めぐりは、中央区(日本橋コース)、千代田区
コース(水道橋・お茶の水コース)、港区コース(三
田コース)の 3 コースを運営し、9 月から 11 月末
までで延べ 36 回実施した。他に、街めぐりと舟め
ぐりを合わせたコースを企画し 3 回実施している。
各コースともランチ付きでガイドが説明を行う仕
組みで、参加費を 3,800 円としている。舟街めぐ
りは 5,800 円である。
1)中央区コース:12 回実施、84 名参加
コースは、山本海苔店(海苔)
・榮太楼総本鋪(和
菓子)
・日本橋はいばら(和紙)
・谷屋(呉服商)・
伊場仙(扇子)
・千疋屋総本店(フルーツ)をめぐ
るもので、ガイドが案内すると共に各老舗店が自
ら店舗紹介(沿革・歴史・由来・商品説明など)
を行う。
2)千代田区コース:12 回実施、54 名参加
コースは、豊島家本店(江戸の名酒・白酒)
・天野
屋(甘酒)、明治大学博物館、山の上ホテルでガイ
ドが案内すると共に各老舗店が自ら店舗紹介(沿
革・歴史・由来・商品説明など)を行う。
3)港区コース:12 回実施、102 名参加
コースは大坂家(和菓子)
・きく岡(琴と三味線) 、
港区立港郷土資料館、セレスティンホテルなどに
加え慶応義塾大学や春日神社を回り、ガイドが案
内すると共に各老舗店が自ら店舗紹介(沿革・歴
史・由来・商品説明など)を行う。
4)舟街めぐり:3 回実施、22 名参加。
コースは、三菱倉庫江戸橋倉庫ビル→野村證券本
社ビル→日本橋 榮太樓總本鋪→一石橋→常磐橋
→常盤橋防災船着場→舟めぐり乗船→日本橋→隅
田川→亀島川→日本橋→常盤橋防災船着場で、ガ
イドが案内するとともに、榮太樓總本鋪では店長
から店の沿革・歴史・由来・商品説明がある。さ
らに、このコースでは、日本橋地域の各老舗が共
同して製作した特製日本橋のり弁当(山本海苔店
謹製)が提供される。
以上全体で、39 回実施し、262 名が参加した。
これら、参加者からも、アンケートを実施してお
り、その結果は以下のとおりである。
① 中央区コース
参加者84名にアンケートを行い訪問して良か
った場所、今後訪問したい場所など以下の結果を
得た。
② 千代田区コース
千代田区コースは54名が参加され、訪問してよ
かった場所、今後訪問したい場所について以下の
結果が得られた。
図-13
訪問して良かった場所(千代田区コース)
図-14
今後訪問したい場所(千代田区コース)
③
図-11
港区コース
港区コースは 102 名が参加し訪問してよかった
場所、今後訪問したい場所について次の結果とな
った。
訪問して良かった場所(中央区コース)
図-15
図-12
今後訪問したい場所(中央区コース)
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訪問して良かった場所(港区コース)
義を受け、製作体験。講義 30 名、体験 20 名を
募集し、参加費用は 3,000 円、5,000 円である)
平成 21 年 12 月時点で 1)~3)が実施され、4)~
5)は平成 22 年 1 月~3 月に実施計画である。
(4)シンポジウム事業
広域観光集客事業を広く広報するために、事業
に関わるシンポジウムを 11 月に予定した。内容は
江戸野菜に関わる講演や体験を中心とした企画と
したが、2009 年度の新型インフルエンザの問題が
あり、集客事業は中止とした。
図-16
今後訪問したい場所(港区コース)
伝統工芸事業では、江戸時代から続く文化・工
芸に着目し、日本の風土の中で培ってきた知恵と
技術の体験を、次の5コース企画して実施した。
1)「和菓子に感じる江戸の粋」(榮太楼総本鋪にて
講義と製作を体験。参加費 7,000 円)
2)「江戸紅型の技術」(ころも屋にて講義 1 回、製
作 2 回で構成し、30 名を募集。参加費は講義
3,000 円、製作 18,000 円)
3) 「琵琶造りの技」(セレスティンホテルにて講
義と演奏会で開催。講義 30 名、演奏会には 60
名を募集。参加費は 3,000 円と 8,000 円で設定)
4) 「和紙と包む文化」(日本橋榛原にて開催。榛
原のコレクションの説明を聞き、造形作家とと
もに懐紙活用を体験。各 20 名を募集。参加費
は講義 3,000 円、体験 4,500 円である)
5) 「発酵食品から見る江戸の暮らし」(神田明神
にて天野屋の味噌つくりを 6 代目当主から講
- 109 -
6.まとめ
日本橋地域各団体との連携を通した地域再生・
活性化の研究は、当社の努力が徐々に浸透し、地
域での知名度も高くなりつつある。
日本橋再生推進協議会では川からの地域再生計
画が提案され、重点事業として船着場整備が進捗
しはじめた。あわせて中央区は、区の計画として
の水辺計画、船着場計画の取組みとして「河川・
運河を活用した舟運等に関する調査」を計画し、
当社に委託が行われ、地域活動の成果が具体化し
てきた。
さらに、地域と連携した観光事業開発である江
戸東京再発見コンソーシアム活動が2年目に入り、
舟めぐり、街めぐり、伝統工芸を伝える事業等が
着実な進捗を遂げている。今年度、有料集客であ
るにも関わらず、舟めぐりでは 2,500 円/人で 512
名の参加があり、1,160 千円の売り上げとなった。
また、街めぐりも 3,800 円/人で 262 名の参加を
得、1,051 千円の売り上げとなった。事業開発費
用は、その数倍あり、必ずしも事業として成立す
るわけではないが、経済産業省の助成も受けなが
ら、次年度に向けて、この分野の事業性が確実に
高まってきている。
国土文化研究所年次報告 VOL.8
平成 23 年 4 月 28 日
発
Nov.’10
行
編集 国土文化研究所 企画室 /発行 株式会社建設技術研究所 国土文化研究所
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