支援のヒントシート

巡回相談で見られた
ひとりひとりを大切にした
先生方のよい支援
H22年度
発達教育センター
長期研修員(巡回相談担当)
目
次
1 巡回相談が考える「学級づくり」に必要な支援
―
1
2 学級づくりのためのチェックリスト
―
2
①落ち着ける環境
―
3
②わかりやすい規律やルール
―
6
③違いを認め合い、助け合う雰囲気
―
9
④見通しを持たせる支援
― 13
⑤わかりやすく伝える支援
― 15
⑥意欲を持たせる支援
― 17
3 支援のヒントシート
学級づくりのためのチェックリスト
※できそうな所、必要な項目から
取り組んでみましょう!!
チェックの仕方(できている…○,取り組めそう…△)
①
落ち着ける
環境
安
心
で
き
る
居
心
地
よ
い
学
級
・教室前面は必要なものだけ,掲示している(余分な刺激を無くしている)
・不要な物を置かないなど教室内の整理整頓をしている
・時間割,当番表など,見てわかりやすい掲示に心掛けている
・支援の必要に応じて座席の配置を工夫している
②
・学級の目標を分かりやすく掲示しており,クラスみんなが共通理解して
わかりやすい
いる(目標に向かって行動しようとする体制ができている)
規律やルール
・学級内のルールを目に見える形で示し,みんなに説明している
・ルールが守れている児童を多様な方法で取り上げ賞賛している
・話し方の指導(丁寧な言葉使い,場に応じた話し方,肯定的な話し方)をしている
・聞き方の指導(話し手を見て最後まで話を聞く)をしている
③
・子どもの個性や長所を生かした学級全体で取り組む活動を設定している
違いを認め合
・個に応じた支援を行っていることについて,学級のメンバーが納得できている
い,助け合う
・子ども達との間に信頼関係を作ることができている
雰囲気
・担任が頑張っている子どもの行動を積極的に取り上げ,進んで賞賛や拍
手を送る雰囲気を作っている
・結果より努力したことを具体的に取り上げ,評価している
・学級内に頑張っている友だちを言葉や態度で応援する雰囲気がある
④
・1 時間のねらいと学習の流れをみんなにわかるように伝えている
見通しを
・学習の流れを大まかにパターン化している
持たせる支援
・作業など行う時に何をいつまでにすればよいか,見てわかるように伝え
ている(タイマーなど利用しながら)
・板書やプリントを見ると学習の流れがわかるような工夫をしている
わ
か
り
や
す
い
授
業
づ
く
り
⑤
・ ゆっくり,短い言葉で,具体的に話をしている
わかりやすく
・ 一つの指示で一つの活動ができるようにしている
伝える支援
・大事な言葉がわかりやすいような視覚的な工夫をしている(板書の工夫,
色,マグネットなどの活用)
・子どもの注目を集める声かけや視覚的な工夫をしている
⑥
・ 子どもの集中時間に応じて,授業を複数の活動に分けて進めている
意欲を
(活動のバリエーションを工夫している)
持たせる
・子どもの力に応じて個に応じた教材を使用している
支援
(複数の課題や量の調整,支援教材の準備など)
・子どもの実態に応じて,学習活動の調整や休憩などを取り入れた柔軟な対応をしてい
る(みんなと一緒にしなければならないということに捉われていない)
・子どもの頑張りを認め,褒める支援に心がけている
・間違っていても,気持ちや態度を受け止め,プラスの声かけをしている
・ 援助の求め方を教え,使うことができるように指導している
-
2 -
チェック
安心できる居心地よい学級をつくるために
①落ち着ける環境をつくる支援
○なぜ,環境が大事なの??
平成 20 年,中央教育審議会は,特別支援教育の教育課程において「国際生活機能分類,ICF
の考え方を踏まえた取組の必要性」を述べました。ICFでは,障がいのある子どもの特性だけ
でなく,家庭や学校,学級といった「環境因子」の重要性が大きくクローズアップされており,
環境により,その子の困難さが大きく変化し,活動や参加の状況も変わってくると述べています。
学級全体が落ち着かず,支援を要する子どものみに,いくら個別の配慮をしてもなかなかうま
くいかないといった事例は,巡回相談でも見られます。反対に,学級全体が落ち着くと,支援を
要する子どもの学習への参加度も上がったという事例も見られます。
これらのことからも,環境,学校では特にその子が生活する学級の状態により,その子の困難
さは大きく左右されるといえるのではないかと思います。
黒板の周りにあるいろいろなものに目を奪われてしまう,気になるも
のがあるとそこから注意を移せない,周りが気になって集中できないな
どの様子が見られる子どもがいます。聴覚過敏の子どもたちは普通は気
にならない音や声でも苦痛に感じることがあります。その他にも暑さ,
寒さ,痛さ,臭覚,味覚などさまざまな感覚が過敏なため,苦しい思い
をしている子どももいます。不要な刺激は,可能な限り取り除き,必要
な情報はわかりやすく伝えていくことが支援の第一歩です。
チェックしてみよう
落ち着ける環境をつくるために…
・教室前面は必要なものだけ,掲示している
(余分な刺激を無くしている)
・不要な物を置かないなど教室内の整理整頓をしている
・時間割・当番表など,見てわかりやすい掲示に心掛けている
・支援の必要に応じて座席の配置を工夫している
- 3 -
落ち着ける環境をつくるための支援のてだて
→刺激を減らし、すっきりした教室環境にする工夫
提出物ごとに分け,
箱にはタイトルをつけます
○置き場所を見える形で
提出物などは箱などを使って,入れる場所を決
め,見てわかるように書いておくと先生もひと
つひとつ指示を出さなくて済みます。置き場所
や使う箱はできれば学期初めに準備し,変更せ
ずに継続して使っていくことが大切です。初め
は一人で片づけるのが難しい子どもでも繰り返
すことで,自分でやれるようになったという学
級もありました。
また整理や片付けが苦手な子どもも,引き出し
や棚の中の物を,イラストで表示して貼ってお
引き出しの中の物を
文字と絵で示しています
くと,迷わずにできるようになります。
○目隠しをする
テレビや先生の机の上など,目
に付くと気になるものは,布な
どで隠すだけで落ち着いて過ご
すことができる場合もありま
す。棚もカーテンで中が見えな
いように工夫している学級もあ
りました。
○情報は一つにまとめて
情報コーナー
教室の壁面のあちこちに掲示物があると
刺激に気を取られがちな子どもにとっては
ここを
学習に集中できない要因のひとつになりま
見れば、
す。ひとつにまとめた情報コーナーに献立
何でも
表,今週の時間割,月行事,お便りなどを掲
わかり
示することによって必要な情報が取りやす
ます
くなる子どももいます。
- 4 -
○耳からの刺激を減らす工夫
他の子どもは気にならない特定の音が苦手な子どももいます。
ある学級では,その子がどんな音や声が苦手なのかを教師,子ど
も達みんなで共通理解し,廊下側の窓は閉める,大きな声を出さ
ない,叱る声に気をつけるなど学級みんなで対応していました。
気になる音を遮るための工夫
テニスボールを机や椅子の脚につけることでガタガタ音を遮断で
きます。必要な指示や音を聞きとることが苦手な子どもにとって
不要な音をできるだけなくす工夫は,有効な支援になります。
○座席の工夫
子どもの特性に合わせて座席を変えることも有効な支援の 1 つです。
・人の様子や様々な物が気になって活動に集中できない子どもは,座席を前列にすると,学習に集中しやす
くなり,また個別指示も受けやすくなります。(下記
図中①)
・ひとつひとつ,することの確認が必要な子どもにとっては,教師の指示が出しやすい前列の教卓の近くの
席が有効です。
(②)
・授業中,教室から出て気分転換をすることが必要な子どもにとっては,さりげなく教室から出やすいドア
の近くの席がよい場合もあります。
(③)
・長い時間,学習に集中できず,授業中,離席してしまう子どもには,教師机の周囲を休憩スペースとして
利用しやすい前の席(④)が有効な場合があります。
・指示の聞き取りが苦手な子どもは,周りのよいモデルが見えるとすることが分かりやすくなります。(⑤)
・担任と決めた課題をした後は好きな活動に取り組んでよいと約束している子どもは,他の子どもの視界に
入りにくい後ろの席(⑥)にする方がよい場合もあります。
落ち着ける環境をつくるための支援のてだて
-
5 -
安心できる居心地よい学級をつくるために
②わかりやすい規律やルール
○「わかっているでしょ」ではわからない
きまりを守らず一人だけ違う行動をとり,
「何度言ってもわからない」子どもがい
ます。「わかっているのにわざと違うことをする」ように見える子どもがいます。
でも本当にわざと…なのでしょうか?
注意している方は当然,
「こんなことはわかっているはず」「○○することは当た
り前」と思って話をしていますが,その意味が本当に通じているのか,もう一度振
り返ってみることも大切だと思います。先生の言っている言葉の意味がわかってい
ない,言われたことを覚えられない,暗黙の了解がわからない等々,その子の特性
によっては,当然が当然でないことも…そうだとしたら,その子にわかるようにル
ールを伝えていく工夫が必要ですよね。
チェックしてみよう
学級内の規律やルールは…
・学級の目標を分かりやすく掲示しており,クラスみんなが共通理解して
いる(目標に向かって行動しようとする体制ができている)
・学級内のルールを目に見える形で示し,みんなに説明している
・ルールが守れている児童を多様な方法で取り上げ賞賛している
・話し方の指導(丁寧な言葉使い、場に応じた話し方、肯定的な話し方)
をしている
・聞き方の指導(話し手を見て最後まで話を聞く)をしている
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6 -
規律やルールを作るための支援のてだて
→行動目標を具体的に伝える
今日のはなまる
○具体的な行動目標を示した学級目標
具体的な行動を目標とすることで,抽象的な
ことが理解しにくい子どもにとっては,何を
がんばればよいか,何をすればよいかが分か
りやすくなります。
生活がんばり表
「チャイム席を守ろう」「食器をまとめて
時間内に片付けよう」
など具体的な目標
が書いてあり,みんなができた日に,頑張
った項目の色をカレンダーに塗ります。
班員それぞれがリーダーになることで,意
欲の高まりが見られました。
→見て分かりやすい絵や図を用いる
○声のものさし
声の大きさとふさわしい場面を具体的な
言葉や絵で掲示したものです。見えないも
のがイメージしにくい子にとって,場面を
見える形で示す方が言葉だけの説明より
理解しやすくなります。
○聞き方話し方の分かりやすい提示
いろいろな教室で,話し方や聞き方の
基本的なルールの掲示を見ることがあり
ます。
この掲示は色遣いや語呂合わせで見や
すく覚えやすいものになっています。小
さな字でたくさん書いてあるものより,
一目で分かる掲示の方が効果的です。
-
7 -
学級の目標が達成できたら
花がつきます
○ノートを使うときの約束
ノートの使い方についてパターン化し,掲示
をしたものです。何から書いていいか,どこ
から書き始めればいいか迷ってしまう子ども
にとってはスムーズに取りかかれる有効な支
援になります。
→みんなが過ごしやすくなるルール作り
○トラブルを予防する手だて「注意は先生がします」
高学年になれば,お互いの行動について相手を思いやり
ながら注意やアドバイスをすることは,お互いの関わりと
して大切になってきます。しかし,友だちの言葉を取り違
えたり,注意されることに敏感で大きく混乱する子どもに
とっては,時によって大きなトラブルになることがありま
す。その場合,
「注意は先生がします」
「友だちのことで困
ったことがあったらまず先生に言います」といった学級ル
ールを前もって決めておき,教師が間に入ることでトラブ
ルが減り,友だち関係が円滑になったケースもあります。
「注意は先生がします」
学級のルール
学習面
生活面
○「暗黙のルール」から「見えるルール」へ
・先生が 当て てか ら ・「おはよう」と言われ
人との付き合いの中で、「当たり前のこと」「暗黙
答えよう
のルール」というものがあります。場の状況を読み
・人が発言する時は おう
取ることが苦手な子ども達にとって、具体的に明示
口を閉じて聞こう
されないルールは非常に分かりにくいものです。
・席の移動や立ち歩 は「いいよ」と言われ
「暗黙のルール」でも掲示することで、どうすべき
きはしない
たら「おはよう」と言
・人の物を借りるとき
てから借りよう
かを確認できるようになり、子どもが行動しやすく
・人の顔、体について
なることがあります。
言うのはやめよう
・
お
ち
ゃ
の
み
・
お
し
ゃ
べ
り
・
ど
く
し
ょ
・
じ
ゆ
う
ち
ょ
う
・
え
ん
ぴ
つ
け
ず
り
・
・ ・
ト 短 お と
イ い ち し
レ
ょ
休 ゃ
の か
み み ん
時
間
・
じ
ゆ
う
ち
ょ
う
・
外
で
遊
ぶ
・
え
ん
ぴ
つ
け
ず
り
・
ト 長
イ い
レ
休
み
時
間
- 8 -
休み時間の過ごし方
休み時間にできることを
具体的に示すことで,
することがわからない子は
過ごしやすくなります
安心できる居心地よい学級をつくるために
③違いを認め合い,助け合う雰囲気
教師の関わり方が子どもたちのモデル
教室の中で,教師は子どものお手本,モデルです。教師の言動ひとつで学級の雰囲気が
変わります。教師がひとりひとりの違いを認め,その子なりの進歩や成長を認め誉める声
かけや支援をしていると,それを見ている他の子ども達も,自然とお互いの違いを認め合
い,お互いの成長を喜び合う学級になっていくようです。
○か×かではなく,△もありの発想
巡回相談で出会う子どもたちの中には,ものごとを○か×で判断し,できないことはだめ
だ!と思い込んでいる子がたくさんいます。その結果,勝負で負けると我慢できない,一番
にならないと気が済まないという様子が出てきます。また,自信がないことには取り組もう
としない様子も見られます。
その子たちに対しては,結果だけを見るのでなく,がんばっている過程を認めていく支援
が大切になってくると思います。また,
「全部でなく途中まででもOK」,「完璧にできなくて
もOK」
,
「出来ないことがあっても大丈夫」というメッセージをいつも伝えていき,安心感
を与えるとともに,さまざまな価値観があることを教えていくことが必要だと思います。
チェックしてみよう
違いを認め合い、助け合う雰囲気
・子どもの個性や長所を生かした学級全体で取り組む活動を設定している
・個に応じた支援を行っている事について,学級のメンバーが納得できている
・子ども達との間に信頼関係を作ることができている
・学級内に,頑張っている子どもの行動を積極的に取り上げ,進んで賞賛や
拍手を送る雰囲気を作っている
・結果より努力したことを具体的に取り上げ,評価している
・学級内に頑張っている友だちを言葉や態度で応援する雰囲気がある
-
9 -
違いを認め合い、助け合う雰囲気を作るための支援のてだて
たくさんの木の実
→お互いのよさを見える形で
貼られた木の実にはお互いのよさやがん
ばっている姿が書いてあります。
○子どもの良さをお互いに認め合う手だて
担任の先生も書くとよいモデルになりま
叱られ体験の多い子どもや学習が苦手な子ど
す。
もなど,自尊感情が下がっている子にとって,
学級の友だちから認められることはとても自信
になります。子ども達がお互いの良さやがんば
っている姿などを,メッセージカードに書いて
背面に貼ってある学級を見かけます。掃除を一
生懸命にする姿を掲示され,それをきっかけに
他の活動にも意欲的に取り組み始めた子どもも
いました。
言葉だけでなく,その子の良さを見える形で
伝えることは有効な支援です。注目されにくい
子ども達の良さを積極的に見つけ,伝え合う学
「○○君,掃除時間にいつも廊下を
級にしたいものです。
きれいに拭いていてすごいです!」
△△より
○学級みんなの個性やよさを紹介する学級便り
学級みんなの良さや得意とすること,がんばっている姿を積極的に学級便りで紹介している
学級がありました。紹介されることで周りの子からの評価が上がります。自尊感情が低下し
ている子に自信を持たせる手段として有効です。それがきっかけで学習や活動に取り組める
ようになった子もいました。
○言葉を見える形で整理する
や
っ
た
ね
「悪口を言いません」と言われても,悪口が
どんな言葉なのか,イメージしにくい子ども
がいます。その場合,言葉を具体的に分類す
が
ん
ば
っ
て
ド
ン
マ
イ
ご
め
ん
ね
だ
い
じ
ょ
う
ぶ
あ
り
が
と
う
ることで,理解しやすく,振り返りやすくな
ります。
ふ
わ
ふ
わ
こ
と
ば
言われてうれしい「ふわふわ言葉」を掲示し
てある学級をよく見かけます。人の気持ちを
察することや,見えないものをイメージする
ことが苦手な子にとっては,はっきり掲示し
て見えるようにする支援はとても有効です。
掲示は「ふわふわ言葉」だけに
「ちくちく言葉」を掲示すると,その言
葉が強く印象づけられ,使ってしまう子
もいます。そんな場合は「ふわふわ言葉」
のみにした方がいい場合もあります。
- 10 -
→その子のがんばりを具体的なことばで伝える
○子どものがんばりを具体的な言葉で伝える
「○○君!歌の口の開け方が1回目より大きくてよくなった!」「背筋が伸びて聞く姿勢がいい
ね!」
「発表の声の大きさがちょうどよかったよ!」など,がんばりやよいところを,具体的に分
かりやすく誉める声かけは,その子に,いい行動や姿を知らせる有効な手だてになります。
その結果,その子に対する周りの評価が上がり,自信につながります。また他の子ども達にと
っても何がよい行動なのかが具体的に分かります。
→お互いを助け合う工夫
○「お互いのお助けタイム」
授業中,得意な教科で課題が早く終わった子が席を離れ,
困っている友だちにアドバイスをする時間を設定している
学級がありました。その中で個別支援が子ども同士で行われ
ています。
アドバイスする子は
→活躍できて自尊感情アップ
助けてもらった子は
→疑問点解決で学習理解アップ
- 11 -
memo
-
12 -
すべての子にわかりやすい授業づくりを行うために
④見通しを持たせる支援
○見通しとは…
時間の概念の把握や,状況の推測が難しい子どもにとっ
て,先のスケジュールが分からないことは,通常では想像も
つかないほど大きな不安になることがあります。不安のあま
り混乱したり,落ち着かなくなることもあります。
そのようなことを防ぐためには,「見通しが立つように分
かりやすく提示する」ことがとても重要になります。
見通しを持たせるためには,いつ(時間),どこで(場所),
なにを(すること・内容),どのくらい(活動の量)するのかに
ついて,必要な情報を子どもに応じた方法で示すことが大切
です。
チェックしてみよう
見通しを持たせるために…
・1 時間のねらいと学習の流れをみんなにわかるように伝えている
・学習の流れを大まかにパターン化している
・作業など行う時に何をいつまでにすればよいか,見てわかるように
伝えている(タイマーなど利用しながら)
・板書やプリントを見ると学習の流れがわかるような工夫をしている
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見通しを持たせるための支援のてだて
○学習の流れの見通し
言葉だけの指示では理解しづらくても,学習の流れが目で見え
る形で示されると理解でき,落ち着いて取り組める子どももい
ます。伝え方は子どもの実態により色々ありますが,ある学級
では,活動の順番を番号で示し,シンプルな言葉で板書されて
いました。絵や図・写真を使っている学級もありました。学級
全体に示すことで,他の子どもの理解の助けにもなります。
時間を明示することも大切です
○流れのパターン化
見通しを持ちづらく,集中が途切れがちな子どもには,
「パターン化」すると学習の流れを理解し
やすくなり,落ち着いて活動に取り組みやすくなります。
授業の流れのパターン化
黒板の使い方
「最初に音読,最後に漢字スキ
めあてやまとめの場所・チョーク
ル」「最初に読み聞かせ,最後に
の色を統一すると分かりやすくな
漢字ゲーム」等,時間の始まりと
ります。書字が苦手な子どもに「赤
終わりをいつも同じ活動にして
で囲んでいる所だけは書く」等と
いる学級がありました。
いう約束にも使えます。
○時間の見通し
時間の見通しがたたないことで,不安を感じる子どもも,何をいつまでに
するのか分かることで,安心して学習に集中できることがあります。この
ときに「いつまで」を見える形で伝えることが大切です。子どもの状況に
より,伝え方や機器を工夫する方法があります。
・時間の概念がある⇒黒板に「○時○分まで」と書く
・時間の概念が未習得⇒時間を「音」や「量」で伝える
○キッチンタイマー(音で通知)
○タイムタイマー(残り時間が見て分かる)
(参考)Cozyx24
タイムタイマー
残り時間が赤く示
キッチンタイマー
されます。
大きいデジタル表示が,より良い
アラーム付。
です。¥100~
¥5000~
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左に24時間が電光で示さ
れ,右にスケジュールカード
を設置できる。「今何をする
時間か」が目で見て分かりや
すい。¥35000
すべての子にわかりやすい授業づくりを行うために
⑤わかりやすく伝える支援
○わかりやすく伝えるためには…
私たちは通常,目から70%,耳から20%,その他(触角,
嗅覚など)から10%くらいの割合で外界からの情報を得て,
それを瞬時に統合して物事を認知しているといわれています。
見ることは人間にとって最も有効な情報源です。指示やするこ
とを「見せて伝える」ことは,聞くことが苦手な子どもだけで
なく,全ての子どもにとって有効な支援であるといえます。
長い文章で指示を受けると,言葉の最後の方だけ受け止めて
しまう子どもがいます。指示を出すときは,「1つの指示で1
つの活動を」,それも「ゆっくり短く具体的に」言う事で伝わ
りやすくなります。
チェックしてみよう
わかりやすく伝えるために…
・ゆっくり,短い言葉で,具体的に話をしている
・一つの指示で一つの活動ができるようにしている
・大事な言葉がわかりやすいような視覚的な工夫をしている
(板書の工夫、色、マグネットなどの活用)
・子どもの注目を集める声かけや視覚的な工夫をしている
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わかりやすく伝えるための支援のてだて
○わかりやすい指示の出し方
子どもによっては複数のことを一度に言われると,混乱してしまうことがあります。
「一つの活動を一つの指示で」「具体的に」指示を出すことが大切です。以下のように実践してある
学級がありました。
「一つの活動を一つの指示で」
一度のたくさんの指示を出すと,伝わりにくい上に,最後の言葉だけを受けて行動してしまう子ども
もいます。シンプルな言葉で一つずつ指示すると分かりやすくなります。指示を出した後,確実に行
動できるまで待ち,次の指示を出すとさらに有効です。
「具体的に」
全体に前を向いてほしいときに,
「前を向きましょう」よりも,具体的に,することを表現した
「へそを黒板に向けましょう」等の言い方の方が伝わりやすいことがあります。
○視覚的に伝える工夫
聞くだけでは理解しにくい子どもに対しては,話の内容が分かりやすいように,見える形で伝える
ことが有効です。
しゃべりませんカード
「今,話しません」ということを伝えたいときに,言葉よりも絵カー
ドの方が伝わりやすいことがあります。カードを貼っておくことで,
するべきことがわかり,教師が何度も注意しなくてもいいという効果
も見られました。
ここに向かって歌いましょう
音楽の唱歌の場面で,「歌いましょう」だけではどうし
ていいか分からない子どもに,長い筒を用意し,「ここ
に向かって歌いましょう」と指示すると歌うことがで
きた,という事例もありました。目の前に具体物があ
ること,目的がはっきりしていることが有効だったよ
うです。
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すべての子にわかりやすい授業づくりを行うために
⑥意欲を持たせる支援
ほめる・認める支援を基本に
失敗体験や,注意される体験が繰り返されると,子どもは「どうせ自分はできない」「何を
やっても叱られる」といった気持ちを持つようになり,自尊感情が低下し,その結果,不登
校や問題行動などの二次障がいにおちいっているケースもたくさんあります。
二次障がいを防ぐためには,その子の頑張りやよいところをほめる・認める支援を意識
的に重ねることが大切だと思います。
褒める・認められるように活動を仕組む工夫
問題行動ばかりが気になり,なかなかほめられないという話を聞くことがあります。
褒めるためには,その子の得意なことやよいところを支援する側が把握し,それを生
かす活動や役割を意図的につくることは大切です。子どもの「良い所」に目を向ける
ことに大きな意味があるのです。
チェックしてみよう
意欲を持たせるために…
・ 子どもの集中時間に応じて,授業を複数の活動に分けて進めている
(活動のバリエーションを工夫している)
・子どもの力に応じて個に応じた教材を使用している
(複数の課題や量の調整、支援教材の準備など)
・子どもの実態に応じて,学習活動の調整や休憩などを取り入れた柔軟な対応
をしている(みんなと一緒にしなければならないということに捉われていない)
・子どもの頑張りを認め,褒める支援に心がけている
・間違っていても,気持ちや態度を受け止め,プラスの声かけをしている
・援助の求め方を教え,使うことができるように指導している
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意欲を持たせるための支援のてだて
○活動のバリエーションの工夫
子どもの集中時間に応じて,活動の量や内容を工夫することは,学習の参加度を上げるよい方法です。
「いろいろな活動を
組み合わせる」
「動く場面をつくる」
学習活動の中に離席していい内容を入れ
書く,操作する,考える,作業する,
たり,話し合いの時間を設けたり,プリン
教え合うなどさまざまな活動を組み
ト配り・カーテンの開け閉めなどの,動き
合わせて,1時間の授業を組み立て
のある役割を必要に応じて与えることに
ることで,集中時間の短い子どもも
よって,気分転換ができます。その結果,
学習に参加しやすくなります。
学習へ集中にも効果があったようです。
○「できる」「ほめられる」状況づくり
子どもに,
「できる」経験を重ねることで,学習の意欲を高めることは大切なことです。さらに,で
きたことをほめられると,意欲が高まります。そこで,
「ほめることができるように仕組む」工夫が
有効です。プリントがすべてできなくても「ここだけできたらマル」ということを決めておく事や,
間違っていても一生懸命取り組んでいる姿やがんばった気持ちを認める支援も有効でした。
「役割をつくる」
「がんばり表」
CDのスイッチを押す係や黒板
目標が達成できたら,表にシールをはり
に授業の掲示物を貼る手伝いを
ます。この表を,他の先生に見てもらい,
する係など、その子の得意なこ
ほめてもらう機会を作っている学級もあ
と,興 味があること に着目し ,
りました。できたこと,頑張ったことが
「役割」として位置付けている学
見てわかり,また賞賛の機会を作る方法
級がありました。
として有効であったようです。
自信がない子どもも挙手できる工夫
挙手の約束を決めている学級がありました。こうすることで,
自信がない子どもも学習に参加でき,意思表示ができます。
○さりげない注意
いつも注意されると「自分ばかり」と思ってしまう
子どももいます。子どもに注意をする必要があると
きには,さりげなく目立たない方法を工夫している
学級がありました。
「えんぴつを置いていないのは
あと○人です」等の言い方で,個人を名指しにしな
い方法や,言葉にせずに近づいて,することを指差
して示したり,身体に軽くふれて伝える方法です。
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