9 紙風船の歌 - ミュージカル研究所

 第2稿2004年11月17日
ミュージカルコメディー「紙風船の歌」2004
作 白川惠介
【キャスト】
白鳥一子 (12歳)五つ子次女 村上梨乃
白鳥二重 (12歳)五つ子三女 石川香織
白鳥三郎 (12歳)五つ子長男 渕上竜太朗
白鳥四乃 (12歳)五つ子四女 川口彩菜
白鳥五美 (12歳)五つ子五女 冨田早紀
白鳥梨恵 (19歳)圭介の長女 山野陽子
白鳥圭介 (24歳~44歳)売れない演歌歌手 白川惠介
白鳥冬子 (20歳~34歳)圭介の妻 森本祐子
春 (60歳)世話焼きお祖母さん 日下裕紀子
渡辺健司 (23歳)梨恵の恋人 有岡康介
渡辺豪造 (65歳)高名な音楽プロダクション社長 亀井達男
山崎アミ (24歳)売れっ子アイドル歌手 齊藤仁美
アヤカ先生(25歳)ダンススタジオの先生 安倍さや香
ユッコ (18歳)バックダンサー 日下裕紀子
ベッキー (17歳)バックダンサー 安倍加純
ハヤト (16歳)バックダンサー 太田隼人
美音先生 (28歳)五つ子の音楽の先生 川西美佳
川東 けん(12歳)合唱団員 川西健仁
坂本ひとみ(11歳)合唱団員 塚本 聖
山中えりこ(11歳)合唱団員 中山恵里香
小倉みさき(10歳)合唱団員 朝倉理咲
上島えな (10歳)合唱団員・梨恵(子役) 上池恵里奈
久米なつみ(10歳)合唱団員 久保奈津子
三山ちぐさ(10歳)合唱団員 三宅千尋
高島てまり(9歳) 合唱団員 高杉 華
大塚あつし(9歳) 合唱団員 塚本彩人
中江めぐみ(9歳) 合唱団員 中山加奈子
遠山ちか (9歳) 合唱団員 山近未来
池下ひろこ(8歳) 合唱団員 上池華菜子
真田リン (10歳)ダンススタジオ生徒 眞鍋璃々子
鴨井ナナ (10歳)ダンススタジオ生徒 蓮井菜生
玉田信子 (26歳)テレビ司会者・レポーター 玉野伸江
和田 泰 (36歳)番組ディレクター 木村泰典
プロダクション社員 太田隼人・木村泰典
安部さや香
AD 安倍加純
マスター (48歳)スナック「ルビアン」のマスター 長町吉剛
ママ (43歳)スナック「ルビアン」のママ 黒田知子
スナック客 武下・冨田・日下・朝倉・川口・塚本・眞
鍋・山近 CDショップ客
1
ダンススタジオ生徒 橋本佐緒里
カメラマン 中川正貴
テレビ局大道具スタッフ 中川正貴
《構成》
起
【エピソード1】白鳥家の朝の様子
(1)なかなか起きない五つ子「お日様ゆっくりめざめてよ」
(2)白鳥家を放送局が取材
(3)朝御飯はいつも同じメニュー「カレーとコロッケのフラメンコ」
(4)出かける家族
承
【エピソード2】圭介の仕事と宿題
(1)ゲームが欲しくて嘘をつく三郎
(2)学校の宿題「家の仕事」 (3)演歌歌手をバカにされる。「かっこ悪いぞド演歌は」
(4)仕事場を見にいくことを相談「おとうさんの仕事」
【エピソード3】スナック
(1)豪造と喧嘩する圭介,それを見ている兄弟「紙風船の歌」 (2)スナックに来た梨恵と健司,豪造に結婚を反対される
【エピソード4】圭介の改造計画
(1)圭介改造計画相談「パパの大改造計画」
(2)歌のレッスンと友達の協力「歌のレッスン」
(3)ダンス「歌って踊れる歌手」
(4)梨恵と健司の気持ち「君の夢とぼくの夢」
【エピソード5】冬子と圭介
(1)冬子の貯金通帳と紙風船
(2)回想、出会い、生活「二人の紙風船」
(3)CD販売とキャンペーン「CAMPAIGN」
【エピソード6】ミュージックヒット
(1)スタジオ裏でのやりとり「GOOD EVENING」
(2)ミュージックヒットの失敗「SOLID LOVE」「PAPER BALLOON」
(3)帰り道「帰り道」
転
【エピソード7】
(1)圭介の就職の話。
(2)ラジオで思わずヒットする。
(3)レコード会社から契約の申し込み殺到。圭介は断る。
結
2
【エピソード8】
(1)相変わらず,演歌を歌っている圭介。「かっこいいぞド演歌は」
(2)梨恵と健司の婚約パーティー「からかい」「ENDING」
ミュージカル「紙風船の歌」
1幕1場
○白鳥家の居間(朝)
舞台中央に古めかしい木造二階だての白鳥家。下手側に小さな玄関、その奥にはトイレがあ
る。そこを上がると座卓のある居間、その上手側奥には仏壇。長女梨恵が上手側の台所から登
場し、5つ子を起こす。
梨恵「いつまで寝てんの! お日さまはとっくに起きてるよ」
反応がない。梨恵は台所に入ってまた出てくる。
梨恵「朝ご飯は先着4名様」
5つ子が二階からドタドタと降りてくる。一子、二重、三郎、五美の順。
梨恵「1・2・3・4後ひとり、また四乃」
後でゆっくりと四乃。
四乃「おねえちゃん、もっと寝させてよ」
梨恵「何いってんの」
梨恵と5つ子、外を歩く登校中の子供たち、学生、通勤途中のOL等の歌とダンス。
歌「お日さまゆっくりめざめてよ」
(りえ)
人はお日さまと一緒に目覚めて お日さまと一緒に寝るのが一番
(全員)
ぬくぬくベッドを抜け出して レースのカーテン開け放ち
朝日のシャワーを浴びながら ぐんと背伸びをしよう
今日も元気だ牛乳うまい 夜空の星に別れを告げて飛び出そう!
GOOD MORNING GOOD MORNING いい日だよ
GOOD MORNING GOOD MORNING まだねむい
GOOD MORNING GOOD MORNING 夢の中
ムニャムニャムニャムニャムニャムニャムニャムニャ
お日さまゆっくりめざめてよ
ワクワク夢を振り切って ガバッと布団をはねのけて
へこんだ枕をけっとばして パジャマを一気に脱ごう
今日は天気だ洗濯干すぞ 早起き鳥におはよう告げてかけだそう
GOOD MORNING GOOD MORNING いい日だよ
GOOD MORNING GOOD MORNING まだねむい
GOOD MORNING GOOD MORNING 夢の中
ムニャムニャムニャムニャムニャムニャムニャムニャ
お日さまゆっくりめざめてよ
GOOD MORNING GOOD MORNING いい日だよ
GOOD MORNING GOOD MORNING まだねむい
3
GOOD MORNING GOOD MORNING 夢の中
ムニャムニャムニャムニャムニャムニャムニャムニャ
お日さまゆっくりめざめてよ
5つ子は食卓に付く。圭介はトイレから出てくる。
圭介「お! 今日はみんな起きてるな」
一子「四乃はまだ夢の中」
四乃「ここはどこ? 私はだあれ?」
二重「起きろ!」
四乃はしゃきっと姿勢を正す。
五つ子は学校の用意をしたり、新聞を読んだりしている。
五美「おねえちゃん、今日の朝ご飯もカレーじゃないでしょうね」
梨恵、カレー皿を持って台所から顔を出す。
梨恵「あたり!」
五美「昨日の昼も、昨日の夜も、今日の給食もカレーなのよ。給食の献立ちゃんと見てよ」
二重「朝からカレーなんて胸やけがするわ。ウッ」
三郎「おれは一生カレーでもいいよ」
梨恵「カレーは一晩置いたほうがおいしいのよ。文句があるんだったらあんたが作りなさい」
二重「栄養の偏りが気になるお年頃なの・・あ!」
一子「二重!」
一子は二重の口をふさぐ。5つ子青ざめる。圭介は台所から青汁を持ってくる。
圭介「栄養? 二重いいところに気が付いたな。そうだな。カレーだけじゃビタミンが足りないよな。そ
れじゃ飲んでもらおうか。はい青汁」
5つ子「おえー」
五美「余計なこというな」
5つ子苦しみながら青汁を飲む。
服の着替えに四乃と一子は二階へ上がる。
春が縁側から入ってくる。
春「あんたたちまたカレーでしょう。コロッケならあるわよ」
二重・三郎・五美「コロッケ!」
二重、三郎、五美は春の持ったコロッケを奪い合って、かぶりつく。
二重・五美「何これ、カレーコロッケじゃないの」
三郎「うまい! いらないんだったら全部もらうよ」
五美「どうぞ」
三郎はコロッケを持って服の着替えに二階へあがる。
春は台所へ入る。
下手から、テレビ局のカメラマンとレポーターが登場する。
レポーター「お早ようございます。今日の朝ご飯万歳は高津町にお住まいの白鳥さんのお宅におじゃま
いたします。白鳥さんのお宅は7人家族、なんとあの有名な5つ子ちゃんのお宅です。あの可愛かっ
た5つ子ちゃんも小学6年生になりました。仲良く暮らす大家族の朝の様子をお届けいたします」
玄関に入り、トイレに入る順番で大げんかをしている二重と五美を見て、レポーターは唖然と
して立ちすくむ。
五美「昨日もあんたが先だったじゃないの」
二重「何いってんの。先に入った方の勝ちよ」
五美「あんたが入ると長いのよ」
二重「そんなこと私の勝手でしょ」
4
一子が二階から降りてくる。
五美はトイレの柱にぶら下げたノート見ながら
五美「昨日は10分、一昨日は12分」
二重「こんなものノートにつけてんの。信じられないわあんたの性格」
一子「お先に」
二重・五美「一子!」
一子はトイレに入る。二重はトイレのドアをたたいて、
二重「ずるい」
五美「あんたのせいよ。次は私だからね」
二重「何言ってんの末っ子のくせに。三女の私が先」
梨恵はカレーを食卓に並べているが、それに気付き、けんかを止めさせる。
梨恵「毎朝毎朝いいかげんにしなさい。もう」
レポーターは少し気を取り戻して、
レポーター「お早ようございます。とても元気のいい5つ子ちゃんですね」
梨恵「ええ、とても元気がいいんです。それから仲良しで・・・」
後ろでまだけんかしている。
二重「だれ、このおばさん?」
レポーター「おばさん?」
梨恵「どうぞどうぞ」
レポーター「おじゃまいたします」
一子が出て、五美はトイレに入る。
二重「こら五美!」
一子はカレーを食べる。三郎と四乃が降りてきてカレーを食べる。
二重はトイレに入るのをあきらめて、服の着替えに二階へあがる。
レポーターは家の中を見ている。洗濯かごを持って奥から出てきた春に話しかける。
レポーター「おはようございます」
春「どちら様?」
レポーター「テレビ局からまいりました」
春「テレビ局? ちょうどよかった。うちのテレビの調子が悪いのよ。一昨日まではちゃんと映ってた
んだけどさ。今日冬のカナタがあるのよ。ちょっとうち来てみてよ」
レポーター「すみません。私、テレビを直すのが仕事ではないんで・・・・」
春「テレビ局なのに? テレビ局がテレビ直せないでどうするのよ。それとも何。あたしからヨン様を
取り上げようっていうの。へえ、そういうことなの。ほー」
レポーター「わ、わ、わかりました。必ず後でお伺いしますから」
春「それでこそテレビ局だわ。見直した。梨恵ちゃん、洗い物持って帰るわよ」
梨恵「私、仕事帰ってからやりますから」
春「忙しんだろ。あたしが洗っとくよ」
圭介はお皿を拭きながら出てくる。
圭介「いつもすみません」
春は上手に帰る。五美がトイレから出てきて二階に上がる。二重は降りてトイレに入る。圭介
は梨恵に事情を聞く。
圭介「おい、これどういうことだ」
梨恵「一昨日、電話があったのよ。取材させてくれって」
圭介「テレビ局の取材はもう懲りてるだろう。おまえ忘れたのか。毎日毎日5つ子ちゃんがご飯を食べ
ました。5つ子ちゃんがお風呂に入りました。5つ子ちゃんが笑いました。泣きましたって、家の中が
ごちゃごちゃになったのを」
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梨恵「ギャラがいいのよ」
五美降りてくる。
圭介「ギャラって、おまえ・・・」
梨恵「おとうさん、今月の家計の状態知ってる? 私の給料日まであと10日、お金はこれだけ。あの食
べ盛りの妹弟を食べさせるのに苦労してる私の気持ち分かる?特に三郎はよく食べるのよ」
圭介は青汁を片づける。
三郎「おかわり」
三郎はお皿を出す。梨恵はカレー皿にご飯をよそう。レポーターが話に割り入ってくる。
レポーター「今日の朝ご飯のメニューは?」
梨恵「カレーです」
トイレから出てきた二重は怒って、はっきりと
二重「3回連続カレーです」
歌「カレーとコロッケのフラメンコ」
日曜日カレー、月曜日カレー、火曜日はコロッケ 水曜日コロッケ
木曜日は時々変わるけれど、カレー 夢にも出てくる
金曜、土曜は逆戻り カレーカレーカレー
一年365日。毎日カレーの繰り返し カレー、コロッケ
コロコロコロコロカレーカレーカレーカレー
夢にも出てくるカレーとコロッケ 体が茶色になっちゃうよ
給食にカレーが出た時は カレー
クラスのみんな喜ぶけれど いやー
給食にコロッケが出たときは コロッケ
余ったコロッケ取り合いさ けんかするなら私の食べて
一年365日。毎日カレーの繰り返し カレー、コロッケ
コロコロコロコロカレーカレーカレーカレー
夢にも出てくるカレーとコロッケ 体にころもがついちゃうよ
二重はトイレに入る。一子と遅れて四乃は二階へ上がる。
梨恵「この子たちはカレーが好きなんです。栄養満点ですし・・・ねえ三郎」
三郎はもりもり食べながら
三郎「ウンウン、一生カレーでもいいよ」 レポーター「ぼく、そんなにカレーが好きなの。でも飽きない?」
三郎「飽きないよ。だって昨日はココレカレーだったし、一昨日はビンカレーだからね」
レポーター「お父さまにお伺いいたします。お母さまがなくなって6年、お子さまをお育てになるのは
大変だったんじゃありませんか」
家族全員、その話を聞いて、ストップモーション(一子二階ベランダ、二重トイレのドア、三郎
食卓の下手、四乃階段の真ん中、五美食卓の上手)でレポーターをにらむ。五美はわざとらし
く、
五美「おかあさんの話はしないで!」
三郎はお鈴を鳴らす。一子、二重、四乃、五美はうそ泣きをする。
レポーターはどうしようもなくその状況から抜けだすように
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レポーター「スタジオの山下さん! 今日は明るく楽しい5つ子ちゃんのお宅にお邪魔しました。マイ
クをスタジオにお返しします」
レポーターはギャラの袋を梨恵に渡して
レポーター「今日はありがとうございました。またね。じゃあね。元気でね」
春が手招きしている。
春「こっちこっち」
レポーターとカメラマンはあわてて退散する。
レポーターたちが下手に消えると五つ子は急に元気を出して
二重「いくら入ってるの?」
五美「わたし、デジカメ欲しい」
一子「わたし、ドールハウス」
四乃「目覚まし時計買って!」
梨恵「ダメよ。これはお米を買うんだから」
三郎「みんな持ってるんだよ。アドバンスゲーム」
二重「三郎、だいたいあんたが食べすぎるのよ」
三郎はスプーンを落とし、泣きながら二階に上がる。
五美「あ~あ、二重が泣かした。三郎に食べるなっていうことは、死ねということと同じなんだから」
梨恵「三郎、気にしなくていいのよ」
友達が誘いに来る。
みさき「おはよう」
一子「おはよう」
ひとみ「宿題やった?」
えりこ「計算ドリル5ページは、出しすぎよね」
二重「うちはいいの。ひとり1ページずつやって、後で見せっこすれば」
えな「それいいわね」
五美「うそよ。二重に任すと間違いだらけだから、ほとんど私と一子がやってるの」
一子「四乃置いていくわよ」
四乃「ちょっと待ってよ」
一子、二重、四乃、五美は学校へ行く。エプロン姿の圭介は声をかける。
圭介「いってらっしゃい」
梨恵も会社にでかける。
梨恵「おとうさん私、今日遅くなるから」
圭介「わかった。晩ご飯は?」
梨恵「食べてくる。それから・・・」
圭介「何んだ?」
梨恵「帰ってから話す」
圭介「そうか」
圭介は三郎の肩をたたく。
圭介「いってらっしゃい」
三郎「いってきます」
三郎は学校へ行く。圭介は新聞を読んでいる。
あつし「三郎のおとうさん、今日休みか」
けん「そういえば、いつ行ってもおとうさん家にいるなあ。仕事してないのか」
三郎「してるよ。仕事は行くよ。後で」
♪「テーマ曲」♪で舞台転換1
7
2場
〇道(夕方)
下手から三郎と友達が学校から帰っている。新しく出たゲームの話をしている。
ちぐさ「とうとう買ったのよ。ミニミニモンスター2」
てまり「あれ買ったの? なかなか売ってないんでしょ」
なつみ「新しいモンスターがいっぱいでてくるんだって」
めぐみ「今日ちぐさんち行くわ」
ひろこ「私もいく」
ちぐさ「いいわよ、三郎くんは?」
みさき「三郎くん、ゲーム持ってなかったよね」
ちか「持ってないんじゃだめよ。行こう」
ちぐさ「ごめんね」
ちぐさ・てまり・なつみ・めぐみ・ひろこ・みさき・さやか・あつし・けんは上手に帰ろう
とする。
三郎「・・持ってるよ」
あつし「え、買ったのか。ソフト何持ってんだ」
三郎「ええと・・ストリートボンバー・・・」
えな「ええ、ストリートボンバー持ってるの?」
みさき「あれまだ発売されてないよ」
ちか「どこで買ったの?」
三郎「・・おとうさんが買ってきたから分からない」
けん「本当だろうな。見せてみろ」
三郎「・・別にいいけど・・・」
圭介が、上手から登場。友達のスナックへ営業に向かっている。
三郎「あ、おとうさん」
圭介「三郎、何やってんだ。今日はお前が夕食当番だろう」
三郎「分かってる。すぐ帰るよ」
圭介「春さんからもらった玉葱が台所の野菜籠の中。それと・・・」
めぐみ「おじさん、ストリートボンバーどこで買ったの?」
圭介「なんだそれ?」
なつみ「ゲームのソフト」
圭介「ゲーム?」
三郎「おとうさん、早くしないと仕事遅れるよ」
圭介は三郎の顔を見る。
圭介「あ~あ~あ~思い出した。あのゲームか。帰ったらまたいっしょにやるか」
三郎「・・・うん」
ひとみ「私、やっぱり帰る。宿題あるし」
けん「そうだな。あしたにしないか。あしたミニミニモンスター持って三郎ち行くよ」
三郎、圭介の顔を見てから、
三郎「・・・いいよ」
圭介「帰ってからゲームのことを聞かせてもらうぞ」
三郎「ううん」
圭介下手に去る。一子、二重、四乃、五美、ダンススタジオに行くリン、ナナがやってくる。
なつみ「最近宿題多くなあい?」
8
ちか「宿題のない世界にいきたーい」
えな「三郎君ところはいいわね。いつも5人で分担してるんでしょ」
二重「今日のは無理よ。作文だもん」
えりこ「うちの人の仕事についてまとめ、400字づめ原稿用紙4枚以上書きなさい!」
めぐみ「4枚以上! あー今日もテレビ見られない」
てまり「うちの仕事かぁ」
歌「うちの仕事」
(えりこ)
うちのパパは銀行員 スーツ姿バシッときめて
毎日お金を数えている その事以外は知らないよ
不良債券抱えてね 帰ってくるのは遅いんだ
うちに帰るとバタンキュウ 大人ってたいへんだ
(けん)
うちは代々大工さん ねじり鉢巻きキュッとしめて
のこぎり一本腕ひとつ かんな使えば日本一
時々現場に付いていき かなづち使って遊ぶんだ
指をたたいてイテテテテ 大人ってたいへんだ
(全員)
おとうさんの仕事 おかあさんの仕事 私はどんな仕事をするんだろう
八百屋魚屋散髪屋 スポーツ選手に運転手
(みさき・なつみ・ちぐさ)
うちのかあさん近所のスーパーマーケットのレジ係
いらっしゃいませ繰り返し 時給750円
立ってる時間が長いから 足がむくむと竹ふみや
マッサージ、お灸をしているよ 大人ってたいへんだ
(ひとみ)
うちのママはデザイナー 巻き尺首に巻き付けて
頭抱えて考える 今年は何が流行るかな?
春物終われば夏物で 冬には早くも水着ショウ
春夏秋冬休みなし 大人ってたいへんだ
(全員)
おとうさんの仕事 おかあさんの仕事 私はどんな仕事をするんだろう。
工員事務員公務員 特殊法人天下り
(あつし)
ぼくの家は病院だ その上長男後継ぎさ
医者になれってかあさんが ガンガンプレッシャーをかけてくる
だけど本当はフランスで コックになりたい夢がある
うちの仕事 ぼくの仕事 子供って大変だ
(全員)
おとうさんの仕事 おかあさんの仕事 私はどんな仕事をするんだろう。
ホームヘルパーフリーター 出版通販裁判官
ひとみ「三郎くんとこのおとうさん、何やってんの?」
三郎はみんなの顔を見回して言いにくそうに、
三郎「歌手」
9
えりこ「歌手! かっこいいじゃない」
ナナ「ミュージックヒットなんかのテレビにも出たことあるの?」
三郎「いや、テレビには出ないんだ」
えな「テレビには出ない歌手っているんだって、その人の主張というか・ ・・」
あつし「ちがうちがう。三郎とこのおとうさんは、歌手は歌手でも売れない演歌歌手だって、うちのママ
がいってたぞ」
ナナ「なーんだ。歌手といったら、山崎アミみたいな歌手かと思っちゃった」
リン「私とナナ,今度山崎アミのバックダンサーのオーディション受けるんだよ」
リン・ナナ「ねー」
けん「受かればテレビに出られるのか」
リン「もちろん」
えりこ「すごいじゃない。それに比べて,三郎君とこのお父さんは」
なつみ「演歌歌手。かっこ悪い」
一子、二重、四乃、五美がその話を聞いていて、話に入ってくる。
一子「演歌だって、歌手には違いないじゃないの」
五美「カセットだって出してんだから」
リン「カセットだって、時代遅れ、今はCDよ」
ナナ「そのカセット聞いてみたいものだわ。どうして売れないかはっきりするもの」
二重「ようし聞かせてあげるわ。耳の穴かっぽじってよーく聞きなさいよ」
みさき「じょうだんよ。演歌なんか聞けないわ」
歌「かっこ悪いぞド演歌は」
中年おやじの歌う演歌が一番かっこ悪い
同じような歌詞ばかり 同じような節ばかり
酒か涙か連絡船 男度胸で女は弱い あーかっこ悪いド演歌は
友達は笑いながら上手に去る。
五美「くやしいわね」
一子「でも考えてみれば、私たちおとうさんの歌っているところ見たことないんじゃない?」
二重「あんたある?」
四乃「ない」
一子「宿題の取材で、おとうさんの仕事を見にいこう!」
二重「かっこよく歌ってる姿を見に行こうじゃないの」
一子・四乃・五美「賛成!」
歌「おとうさんの仕事」
うちのおとうさん演歌の歌手 マイク握る手 力を込めて
自慢ののどを聴かせてる その事以外は知らないよ
とても人気があるらしく 帰ってくるのは遅いんだ
うちに帰ってカレーを作る 大人ってたいへんだ
おとうさんの仕事 おとうさんの仕事 私はどんな仕事をするんだろう
一子「三郎もいくんでしょ」
三郎「ああ」
10
一子・二重・四乃・五美は下手に走っていく。三郎はひとり気が重く歩いていく。
♪「紙風船の歌1」の前奏♪マスターの司会中に舞台転換2
3場
〇スナック(夜)
下手に入り口のドア。ボックス席に数人の客、カウンター席には音楽プロダクション社長の豪
造が座っている。カウンターの中にはマスターの奥さん。マスターは司会をする。
マスター「歌は世につれ世は歌につれ、人生喜び悲しみを、これほどまでに 歌い込む歌手がどこにい
るでしょう。ご存じ越中おわらぶし、立山連峰吹き下ろす、東の風に歌を乗せ、胡弓の調べの哀愁が、
心の襞を震わせる。21世紀に残したい演歌の傑作。ご紹介します。高津町がうんだ心の演歌歌手、白
鳥圭介、『紙風船の歌』」
客の掛け声,拍手。
歌「紙風船の歌」
来たる春風 氷が溶ける
紙風船の中にあなたの夢を吹き込もう 小さな夢の風をそっと吹き込もう
しぼんでくしゃくしゃになった心が 少しずつ少しずつ膨らむように
紙風船の中にあなたの愛を吹き込もう
5つ子がドアをそっと開け、スナックに忍び込む。
豪造「やめろやめろ」
音楽が止まる。
豪造「こっちがいい気持ちで飲んでんのに、きょうざめだ」
マスター「お客さん、他のお客さまもいらっしゃいますので・・・」
豪造「わしを誰だと思っておるんだ。渡辺豪造といや業界ではちっとは名の通った・・・」
客1「渡辺豪造? 渡辺豪造と言えば、あの山崎アミを育てた音楽プロダクション社長だ」
客2「へえ、あの山崎アミの」
豪造「わしの名前を知っている客がこんな汚い店にもいたんだな」
圭介「汚い店!」 豪造「ああ汚い店だ。その上くだらない歌を聴かされたんじゃたまらないよ」
圭介「おれの歌のことだけなら許せるが、マスターの店にケチ付けられたんじゃ我慢できない。とっと
と出ていってもらおうか」
圭介は豪造につかみかかる。
マスター「けいちゃん止めなよ。いいから・・・」
客2「マスター。こんなやつに遠慮することないぜ。おれたちはマスターの店でけいちゃんの歌を聴く
のが楽しみなんだから。けいちゃんは日本一の 歌手よ」
豪造「歌手? 歌手は売れていくらなんだよ。こんなスナックで流してる歌手なんか歌手と言えるか」
客3「山崎アミかなんか知らんが、けいちゃんの歌の分からないやつはでていけ」
豪造「音楽業界から葬ってやる」
客4「何!」
店のなかは取っ組み合いで騒然となる。見ていた5つ子もけんかに加わる。そこへ梨恵が恋人
健司と店に入ってくる。
梨恵「おとうさん!」
11
健司「パパ!」
一子「おねえちゃん!」
圭介「梨恵に、一子、二重、三郎、四乃、五美までなんでこんなところに」
健司「パパ、紹介するよ。白鳥梨恵さん」
豪造「健司、お前の紹介したい人っていうのはこの娘さんか」
健司「そうだよ。なんかあったの?」
豪造「あんたちょっとお聞きするが、この男とあんたの関係は?」
梨恵「私の父です」
豪造「健司、帰るぞ」
健司「パパ、どうしたの?」
豪造「何も言うことはない。言語道断だ」
豪造は下手に帰る。それを追う健司。
健司「パパ、どうしたの。」
店に戻って
健司「梨恵ちゃん、また後で電話する」
健司は下手に消える。
圭介「三郎、どうして嘘ついた。ゲームを持ってるなんて」
三郎「おとうさんが売れない演歌歌手だからだよ!」
三郎は走って下手に帰る。
梨恵「三郎」
♪「BRIDGE1」♪で舞台転換3
4場
〇学校からの帰り道(昼)
三郎が下校している。下手から出来てきたけんが三郎の肩をたたく。
けん「よう、売れない演歌歌手の息子!」
あつし「ストリートボンバー持ってるなんてうそだろう」
けん「売れない演歌歌手にゲームなんか買えるか」
けんとあつしは上手に消える。
一子・二重・四乃・五美が下手から出てくる。
一子「三郎、元気出しなさいよ」
二重「現実はあんなもんじゃないの」
四乃「でも私も三郎のショックが分からないでもない」
五美「ねえ、みんなでおとうさんを改造しない?」
四乃「改造?」
五美「まずは歌よ、あの歌い方をどうにか・・・」
みんなが相談している時に音楽の教師美音が通りかかる。
美音「いつも仲いいわね五つ子」
五美「先生! ちょうどいいところに来た」
美音「何?」
五美「先生、合唱部の練習に参加してもいいですか?」
美音「合唱部?」
四乃「五美何言ってんの」
一子「なるほどそういうことか。先生、私たち全員参加します。あしたからでもいいですか」
12
四乃「何それ」
美音「いいけど・・・」
二重「あともうひとつお願いがあるんです」
美音「何よ。なんかもったいぶっちゃって」
二重「おとうさんも一緒に行きます」
美音「おとうさん? ああ参観したいってわけ」
二重「参観というわけじゃないんですけど・・・」
一子「参観みたいなものです。参観です部活動参観」
美音「そうね。おうちの方に一度練習を見ていただいておいた方がいいわね。それじゃ明日の放課後
待ってるわ」
三郎・四乃以外の5つ子「ありがとうございます」
美音は上手に帰る。
五美「よっしゃ! これでひとつ解決」
四乃「なーんだ。そういうことか」
二重「反応にぶすぎ。やっぱり目覚まし買った方がいいわ」
四乃「でもこんなこと勝手に決めちゃっていいの?」
一子「四乃、あなただっておとうさんにいつまでも売れない演歌歌手やらせたくないでしょう」
四乃「それはそうだけど・・・」
五美「歌だけじゃなくってダンスも必要じゃない。やっぱり歌って踊れなきゃ」
上手から健司と梨恵がけんかしながら出てくる。
健司「梨恵ちゃん!」
梨恵「もうだめだわ私たち」
五つ子「おねえちゃん!」
健司「パパを説得するから・・」
梨恵「無理よ」
梨恵は、何もしゃべらない。健司は取りつく島もなく困っている。
一子「もうあきらめた方がいいわよ。梨恵ねえちゃんはこう見えてもなかなか頑固だから」
四乃「それにカレーしか作れないのよ」
二重「あのパパならこちらからお断りだわ」
健司「すみません」
五美「そんなことよりダンスの先生を探しましょう」
健司「ダンス? ダンスの先生探してるの?」
五美「そうだけど・・・」
健司「ダンスの先生なら僕何人か知ってるよ」
二重「梨恵ねえちゃんに気に入られようとしても無駄よ」
健司「山崎アミの振り付けしている先生知ってるんだ」
一子・二重・四乃・五美「山崎アミ!」
四乃「うそ!」
健司「信じてくれよ」
一子「まんざら嘘でもないかもね。音楽プロダクション社長の渡辺豪造の息子だからね」
四乃「レッスン代高いんでしょう」
健司「高いよ」
二重「ただにしなさい」
健司「ただ?」
五美「文句あるの?」
五美は梨恵を指差す。健司は梨恵の方をちらっと見て、
13
健司「ただでいいよ」
五美「ようしこれで決まった!」
四乃「おとうさんの改造計画ね」
五美「ちょっと待って。イメージが悪いわ。呼び方から変えましょう。今日からお父さんじゃなくって、
パパと呼びましょう」
二重「パパ? ちょっと気持ち悪い」
四乃「パパか」
一子「ようしパパの大改造計画のスタートよ!」 歌「パパの大改造計画」
町を歩けば人もうらやむようなかっこいいパパになってほしい
子どもはそう思うわ
昨日のパパととあしたのパパ 何かがどこかが違うでしょう
HOW WONDERFUL! SO WONDERFUL! 私のBEST FATHER これが私のパパよ
HOW WONDERFUL! SO WONDERFUL! 私のONLY ONE 私の自慢のパパよ
HOW WONDERFUL! SO WONDERFUL! パパの大改造 何たって私のパパだから
きっと成功させるわ
四乃「ねえ、どんなパパに改造すればいいのかしら?」
二重「やっぱり山崎アミみたいに、みんながキャーって叫ぶぐらい人気のある歌手よ」
四乃「できる?」
一子「大丈夫。私たちのパパだもの」
スタジオの裏口サインねだってくるかっこいいパパになってほしい
子どもはそう思うわ
集まる人混みかき分けて私は言うのよ「これが私のパパよ!」
HOW WONDERFUL! SO WONDERFUL! 私のBEST FATHER これが私のパパよ
HOW WONDERFUL! SO WONDERFUL! 私のONLY ONE 私の自慢のパパよ
HOW WONDERFUL! SO WONDERFUL! パパの大改造 何たって私のパパだから
きっと成功させるわ
♪「パパの大改造計画」♪の後奏で舞台転換4
5場
○音楽室
美音の指導で小学校の合唱部が練習している。
歌「歌のレッスン1」
さあ始めましょう 歌のレッスンラララララーラー
きれいな歌声ラララララララララーラララー
小鳥のさえずり 梢わたる風 砂を洗う波のように
あなたの心にやさしく語りかけてくるでしょう
14
さあ始めましょう 歌のレッスンラララララーラー
きれいな歌声ラララララララララーラララー
小鳥のさえずり 梢わたる風 砂を洗う波のように
チチチチチチチチススススススススサササササ波のように
あなたの心にやさしく語りかけてくるでしょう
やさしく語りかけてくるでしょう
さあ始めましょう 歌のレッスンラララララーラー
ドレミファソラシド ドシラソファミレド声と心を合わせて
声と心を合わせましょう
さあ歌いましょう さあ始めましょう
下手から5つ子が圭介を連れてくる。
一子「先生! パパを連れてきました」
圭介「パパ?」
美音「こんにちは」
合唱団「こんにちは。合唱部へようこそ」
圭介「あ、いつも子供がお世話になっています」
美音「今日はお仕事お休みですか」
圭介「ええまあ」
美音「それでは早速レッスンしましょう」
二重「パパも一緒に歌おう。いいでしょ先生」
圭介「パパなんて止めてくれ。何か気持ち悪いな。どうしたんだ急に、おとうさんと呼べ」
四乃「パパ、こっちこっち」
圭介「おとうさんはいいよ」
美音「いいですよ。どうぞ練習を体験してみて下さい」
5つ子は合唱部の中に圭介を並ばせ、自分たちも入る。
美音「それではもう一度」
美音はピアノを弾き始める。
歌「歌のレッスン2」
さあ始めましょう歌のレッスンラララララーラー
きれいな歌声ラララララララララーラララー
マーマママママママ ママママママママ ママママママママ マーマーマー
美音「ちょっと変な声が交じってるわね。もう一度」
美音はピアノを任せて、歌声を聴いている。
マーマママママママ ママママママママ ママママママママ マーマーマー
圭介のところで止まり
美音「おとうさん。ちょっと歌ってみてください」
圭介「はい」
15
マーマママママママ ママママママママ ママママママママ マーマーマー
えりこ「先生、こぶしが入ってます」
合唱部笑う。
美音「ちょっと訛っている感じね。もう一度やってみます?」
圭介「はい」
マーマママママママ ママママママママ ママママママママ マーマーマー
めぐみ「何度やっても同じ」
えな「一度演歌歌手をやれば歌い方は治らないわ」
合唱部笑う。
美音「静かに。それじゃ、みんなでもう一度」
圭介「先生、もう一度お願いします」
美音「おとうさん、どうぞあちらに座って参観しててください」
圭介「お願いします」
美音「すみません、私子供たちにレッスンしなければならないんです」
圭介「もう一度」
美音はピアノを弾く。
マーマママママママ マママママ・・・・
四乃「やめて」
合唱部笑う。
圭介「もう一度」
ママママママママ・・・・
数人の合唱部笑う。
三郎「もういいよ」
圭介「もう一度」
ママママママママ・・・・
けんが笑う。他の合唱部のメンバーがけんをにらむ。
マーマママママママ ママママママママ
美音「そうです。おとうさん。今の歌い方です」
ちぐさが拍手をする。その拍手の輪が広がっていく。
美音「さあ、おとうさんに続いてみんな歌いましょう」
合唱部のみんなは圭介の回りに集まってくる。
歌「歌のレッスン3」
さあ始めましょう 歌のレッスンラララララーラー
16
きれいな歌声ラララララララララーラララー
小鳥のさえずり 梢わたる風 砂を洗う波のように
チチチチチチチチススススススススサササササ波のように
あなたの心にやさしく語りかけてくるでしょう
やさしく語りかけてくるでしょう
※さあ始めましょう 歌のレッスンラララララーラー
ドレミファソラシド ドシラソファミレド声を心を合わせて
声と心を合わせましょう
さあ歌いましょう さあ始めましょう
♪「歌のレッスン3」の2コーラス目※から舞台転換5
〇ダンススタジオ 学校の音楽室は、ダンススタジオに変わっている。
アヤカ「1234!」
ダンスのレッスンをしている。
歌「歌って踊れる歌手」
町を歩けば人が振り向くようなかっこいい歌手になってみたいな
だれだってそう思うわ
昔の歌手は歌うだけ これからの歌手は踊れなくっちゃ
LET'S SING AND DANCE SO WONDERFUL 歌って踊れる歌手
LET'S SING AND DANCE SO WONDERFUL アイドルに欠かせない
LET'S SING AND DANCE SO WONDERFUL 歌手の大改造
きっと成功させるわ
五つ子は圭介の手を引っ張って下手から出てくる。
圭介「なんで踊らなくっちゃならないんだ。歌手はいい歌を歌えばいいんだよ」
二重「かっこいいからよ」
五美「今は歌って踊れる歌手の時代よ」
四乃「踊れなくっちゃ売れないわ」
三郎「おとうさんだって売れないより、売れた方がいいだろう」
一子「私たちが自慢できるおとうさんになってよ」
圭介「分かった」
スタジオの裏口サインねだってくるかっこいい歌手になってみたいな
だれだってそう思うわ
新人歌手の記者会見
リン「どんな歌手になりたいですか?」
ナナ「もちろん歌って踊れる歌手でーす」
17
LET'S SING AND DANCE SO WONDERFUL 歌って踊れる歌手
LET'S SING AND DANCE SO WONDERFUL アイドルに欠かせない
LET'S SING AND DANCE SO WONDERFUL パパの大改造
きっと成功させるわ
一段落したところで、合唱部のみんなが下手から入ってくる。
四乃「あれ? どうしたの」
ひとみ「私たち、おじさんの応援に来たのよ」
えりこ「私おじさんの歌う姿見て、感動しちゃった」
一子「みんな、ありがとう。でも本人はあそこでバテてるけど」
ひろこ「一緒に踊ってもいい?」
二重「もちろんよ」
ちぐさとみさきは圭介を起こしにいく。
ちぐさ「おじさん、がんばってください」
圭介「君、合唱部の人だね」
みさき「私たちは、おじさんのファンクラブの第一号」
圭介「ファンクラブか、照れるな」
アヤカ「それではもう一回はじめからいくわよ。並んで1234!」
クラスの友達、5つ子、圭介、途中から健司に促されて梨恵も踊りに加わる。
町を歩けば人が振り向くようなかっこいい歌手になってみたいな
だれだってそう思うわ
昔の歌手は歌うだけ これからの歌手は踊れなくっちゃ
LET'S SING AND DANCE SO WONDERFUL 歌って踊れる歌手
LET'S SING AND DANCE SO WONDERFUL アイドルに欠かせない
LET'S SING AND DANCE SO WONDERFUL 歌手の大改造
きっと成功させるわ
さあ始めましょう 歌のレッスンラララララーラー
きれいな歌声ラララララララララーラララー
小鳥のさえずり 梢わたる風 砂を洗う波のように
チチチチチチチチススススススススサササササ波のように
あなたの心にやさしく語りかけてくるでしょう
やさしく語りかけてくるでしょう
さあ始めましょう 歌のレッスンラララララーラー
ドレミファソラシド ドシラソファミレド声を心を合わせて
声と心を合わせましょう
さあ歌いましょう さあ始めましょう
アヤカ「お疲れさま」
合唱部・ダンススタジオのメンバーは退出。
アヤカ「だいぶん動きについてこれるようになりましたね」
圭介「先生、あした立てれないんじゃないかと思います」
アヤカ「慣れてくればどってことないですよ」
圭介「いや、もう年ですからね。着替えて来ます」
18
圭介は上手に入る。
健司「先生ありがとうございます。次回はどんなレッスンになりますか」
アヤカ「そうね、あまり時間がないから、歌に合わせる振りを覚えてもらいましょうか。私、アミちゃん
の新曲の振り付けがあるから失礼するわ。あとはベッキーにお願いしてありますから。頼んだわよ」
ベッキー「はい」
アヤカは上手に入る。
五つ子「お願いします」
ベッキー「CDか何かあるかしら?」
梨恵「この間お渡ししたカセットはだめですか」
ベッキー「あのカセットね。あれじゃ、リズムがはっきりしないしアレンジが古いわ。この際だから新し
くCDを作ったらどう?」
五美「作ろう!」
四乃「売れるかな」
なつみ「CDができたら私買います」
てまり「私友達にいっぱい売ります」
なつみ、てまりは下手に入る。
四乃「いくらぐらいかかるの」
健司「そうだなあ、1000枚で60万ぐらいかな」
一子「60万! だめだめ」
五美「うちに60万もあるはずないじゃない」
二重「どこかに落ちてないかな?」
梨恵「60万」
圭介が上手から出てくる。
圭介「何の話してるんだ?」
二重「パパ、60万あれば・・・」
梨恵「二重!」
圭介「60万?」
梨恵「なんでもない」
圭介は梨恵の顔をじっと見る。
梨恵「なんでもないって。おとうさんそれよりもう夕飯の準備しなくっちゃ」
圭介「そうだな。今日はシーフードカレーだな」
五つ子「えーまたカレー」
圭介「日曜日」
五つ子「カレー!」
圭介「ほらカレーじゃないか」
三郎「やった」
他の五つ子は文句を言う。
圭介「シーフードカレーだから梨恵のカレーとはちょっと違うだろう」
圭介と五つ子は夕飯のことを話しながら下手に帰る。ベッキーは上手に帰る。
健司「梨恵ちゃん。きっとうまく行くよ。60万のことはぼくが何とかするから」
梨恵「あなたにそんなことまで、お願いできないわ。それだけは止めて。私、あてがあるの」
健司「そう、じゃあ早速手配しよう」
健司は下手に行こうとする。
梨恵「おとうさんは、私たちがやってること喜んでるのかしら」
健司「喜んでくれるに決まってるじゃないか。それがおとうさんの夢なんだから」
19
歌「君の夢とぼくの夢」
君は何も悩むことはないのさ ぼくに任せて
君の夢とぼくの夢をつなげる結び目に
君のパパの歌の夢は欠かせないのさ
風の紡ぐ白いリボンを飾ろう二人の夢が離れないように
君の夢とぼくの夢をつなげる結び目に
私の夢とあなたの夢をつなげる結び目に
君のパパの歌の夢が流れてる
おとうさんの歌の夢が流れてる
私の夢とあなたの夢をつなげる結び目に
おとうさんの歌の夢は欠かせないのね
※
君の夢とぼくの夢をつなげる結び目に
私の夢とあなたの夢をつなげる結び目に
君のパパの歌の夢が流れてる
おとうさんの歌の夢が流れてる
ぼくと私の夢
♪「君の夢とぼくの夢」の間奏※♪で舞台転換6
6場
○白鳥家の居間
春がコロッケを持って上手からやってくる。
春「こんにちは。こんにちは。だれかいるのかい? コロッケ持ってきたよ。梨恵ちゃん」
だれも返事がない。春は居間に上がる。
春「不用心だね。鍵もかけないで」
梨恵が箱を持って二階の部屋から出てくる。
春「コロッケ持ってきたよ」
梨恵「春さん。すみません」
春「この間のカレーコロッケは不評だったからね。今日はコーンコロッケ」
春は梨恵の持っている箱に気づく。
春「あ、その箱、懐かしいねえ。冬ちゃんの内職の箱だよ」
梨恵「ええ」
梨恵は箱から貯金通帳を出し預金高を見る。
春「何に使うんだい。おめでたいことかい」
梨恵「・・・・」
梨恵は春の顔を見て何も言えない。春は箱の中の紙風船に気付いて取り出す。
春「あら、これあんたのおとうさんとおかあさんを結びつけた紙風船だよ。もう20年になるね」
梨恵は紙風船を受け取って膨らませる。
20
♪「bridge2」♪
○20年前の白鳥家の玄関
行李を担いだ20年前の圭介が下手からやってくる。
圭介「こんにちは」
誰も返事をしない。
圭介「こんにちは」
台所から20年前の冬子が出てくる。
冬子「はい」
圭介「こんにちは、富山の薬屋です」
圭介は行李をおろし、薬を出す。
圭介「最近評判がいいんですよこれ。この風邪薬はアスピリンカフェインが入ってましてね。急な発熱
なんかによく効きます。それからこちらは虫さされ、かゆみ止めの薬。これを擦り込んでいただきま
すと毛穴に浸透してすーっと・・・」
冬子「すみません。あいにく父も母もおりませんので」
圭介「いえ、すぐに買っていただくというのではありません。置き薬といいましてね。薬を置かせていた
だいて、使った分だけ集金させていただくんです。これもいい薬なんですよ。頭痛はありませんか
・・・」
冬子「とにかく、困ります」
圭介「置かしていただくだけですから、きっとお役に立てると思いますよ」
冬子はきっぱりと
冬子「だめです」
圭介「だめですか。それじゃ歌を一曲歌わせてください。私、本当は薬屋よりも歌手になりたかったんで
す。富山の民謡。越中おわらぶし」
圭介は歌い始める。
冬子「それもいりません」
圭介「これはお代をいただきませんから。この歌を聴けば風邪もひきませんよ」
圭介はまた歌い始める。
冬子「もう結構です。訪問販売はお断りしてるんです」
圭介「そうですか。またお願いします」
冬子は圭介を外に追いやる。子供たちが集まってくる。
ひろこ「おじさん、紙風船」
めぐみ「私にも紙風船ちょうだい」
圭介「いいよ。はい、上手に膨らむかな。君は?」
てまり「ちかちゃんはさっきもらったのよ」
ちか「私、もらったんだけど さけちゃったの」
圭介「もうひとつあげるよ。今度は大切にね」
ちか「ありがとう」
圭介は子供たちに紙風船を渡す。
あつし「おじさん」
圭介「お,大塚さんちのつよしか。一年見ないと大きくなるなあ。ねしょんべん直ったか」
あつし「もうしないよぉ」
圭介「そうかそうか。はい,紙風船」
あつし「ありがとう。来年も来てくれる?」
圭介「二百十日の大風が吹く頃にな」
21
あつし「待ってるよ」
冬子「あのー,これ」
冬子は忘れていた帽子を渡す。
圭介「あ,ありがとうございます。よく忘れるんです。一年たって,これ忘れてましたよなんてことも
ありましてね」
冬子「紙風船配ってらっしゃるんですか」
圭介「富山の薬売りといえば紙風船。一年に一度これを楽しみしてくれる子供たちがいるのがうれし
くってね。私たちはね、薬売りを商売だと思ってないんですよ。まず薬を使っていただいてお客様の
お役にたつこと。これが一番なんです。お客さまの健康を自分の親や子供のように案じ、病気が治っ
たことを心から喜び、次にお会いする時までお元気でとお別れする。これが富山の薬売りの心です。
あなたも一つどうです」
冬子に紙風船を渡す。子供たちは膨らませて、はしゃぎながらつき始める。冬子は思いきり息を
吹き入れるが、うまく膨らまない。圭介はその紙風船を受け取る。
圭介「温かい息でそーっと膨らませるんですよ。ほら」
圭介は膨らませ、ついて冬子に渡す。冬子はそれを手で受け取り、ついてみる。
圭介「ゆっくり落ちてくるでしょう。紙風船は真心で膨らんでいるからですよ。みてください。どんなに
やんちゃな子供でもそっとついているでしょ。遊べば遊ぶほどやさしくなれる。紙風船はそんなおも
ちゃなんです。また来年来ます。それまでお元気で」
圭介は下手に消える。冬子はついてみる。
♪「bridge3」♪
○11年前の白鳥家
赤ん坊の泣き声がする。冬子は二階から降りてきて,紙風船を作る内職をしている。
春ナレーション「冬ちゃんは病弱だったんだけどね。圭ちゃんの薬で本当に元気になったんだよ。次の
次の年だよ、あんたが生まれたのは。そして圭ちゃんは薬売り、冬ちゃんはお土産の紙風船を作る内
職を始めた。やがて一ちゃんたちが生まれただろう。それからは大変なんてもんじゃなかった。冬
ちゃんだけじゃ6人の子どもを育てられないからね。結局圭ちゃんは,家にいられない薬売りをや
めてね。近所のスナックを回る流しの演歌歌手になったんだよ。もともと薬を売った先でも歌ってい
たからね。またその歌が評判よかったんだよ。でもね・・・」
冬子は座卓で紙風船をつくる内職をしている。圭介が下手から帰ってくる。
圭介「ただいま」
冬子「おかえりなさい」
圭介、家の中に入り、座卓に座る。
冬子「お食事は」
圭介「マスターのところでごちそうになった。子どもたちは?」
冬子「二階で寝てる」
11年前の子梨恵が二階から降りてくる。
子梨恵「おとうさん、私、お人形が欲しいの。みんなもってるの」
圭介「お人形持ってないと遊んでくれないのか」
子梨恵「そう」
冬子「梨恵、無理をいっちゃいけません」
子梨恵「だって欲しいもの。お人形欲しい」
冬子は作っている紙風船を梨恵に渡す。
22
冬子「これをお友だちにあげて一緒に遊びなさい」
子梨恵「梨恵の欲しいのはこれじゃないもの」
子梨恵は紙風船を投げつけ、泣きながら二階にあがる。圭介は追いかけて二階へ上がる。
圭介「おれもう歌手止めるよ」
冬子「何いってるんですか。歌手はあなたの夢でしょう」
圭介「子供に人形を買ってやれないのに自分の夢もないだろう」
冬子「薬売りの心はどこへいったの?」
圭介「薬売りはもうやめた」
冬子「あなたはこう言ったわ。薬売りは商売じゃない。使っていただいてお客様のお役にたつことが一
番。お客さまを自分の親や子供のように案じ、病気が治ったことを心から喜び、次にお会いする時ま
でお元気でとお別れする。これが富山の薬売りの心ですってね。薬売りはやめてもあなたの歌は薬と
同じなの。あなたは薬を置くかわりに人の心の中に歌を置いているのよ。苦しい時,悲しい時,口ず
さめば心が癒されていく。あなたの歌はそんな歌なの。梨恵は分かってくれます。紙風船の中にはど
んなに温かい息が詰まっているか。あなたがどんなに温かい息で歌を歌っているか。一子も二重も三
郎も四乃も五美もきっと。日本中の人がいつかきっと」
冬子は歌いながら階段を上ってくる。
歌「二人の紙風船」
紙風船の中にあなたの夢を吹き込もう 小さな夢の風をそっと吹き込もう
しぼんでくしゃくしゃになった心が 少しずつ少しずつ膨らむように
冬子「あなた・・・」
小さな夢の風をそっと吹き込もう
ポケットに手を入れて歩いた街が さわやかに鮮やかに動きだすように
温かいさくら色の春風吹き込もう
あなたの歌は飛んでゆくの 風にのって
○白鳥家の居間
梨恵と春が居間に座っている。梨恵は貯金通帳を眺めている。
春「あれから体を壊して亡くなるまでの6年間、働いて働いて、その貯金をしてたんだよ。梨恵ちゃんの
花嫁姿を見るまでがんばるってね。他人のあたしがとやかくいうことじゃないけどさ。あんたが本当
に大切なことに使うんだったらおかあさんは喜んでいるんじゃないの」
梨恵「おかあさん」
五美と四乃、ちぐさとてまりが下手から出てくる。
五美「おねえちゃん。お金用意できた?」
梨恵「だいじょうぶ」
四乃「ほらCD。できたのよ」
ちぐさ「高津電気の前でキャンペーンやるのよ」
てまり「早く来てね」
梨恵「分かった」
五美「目指すはCD完売よ」
四乃・五美・ちぐさ・てまり「がんばろう」
五美と四乃、ちぐさとてまりは下手に帰る。
23
♪「bridge4]♪で舞台転換7
7場
○道(夕方)
子供たちがCDの街頭販売をしている。サクラの子供たちが並んでいる。上手にいる五美と二
重。
五美「これは人間の心理をうまくついた販売方法よ。まずその1、人が並んでいるところを見れば自分
も並んでみたくなる。その2、人は限定という言葉に弱い。その3、おまけがつくと得した気分にな
る。その4、人の噂は気になる」
二重「私全然気にならないけど」
五美「まあ見てて」
えりこ「本日発売、白鳥圭介の『ペーパーバルーン』」
けん「今や白鳥圭介の時代、ポスト山崎アミはこれだ!」
一子「CD初回プレスのみ、1000枚限定。1000枚限定。特別にサイン色紙プレゼント」
客がよってきてサクラの子どもたちに話しかける。
客1「これって有名な歌手なの」
みさき「え! 白鳥圭介を知らないの。時代遅れ」
客2「これ、なんの列?」
客1「人気絶頂の白鳥圭介のCDの限定発売らしい。サインもついてるんだって」
客2「白鳥圭介だって、人気あるんだってよ」
客3「このCD、なかなか手には入らないそうよ」
二重「まいどあり。五美あんた頭いいわね」
五美「見直した?」
二重「こういうことだけには頭の回転が速いんだから」
ひとみ「さあ並んで並んで、あとわずかになりました。お急ぎ下さい」
客が押し寄せる。三郎は下手横に座っている。
一子「三郎、忙しいんだからあんたも手伝いなさいよ」
三郎「うん」
三郎は気が乗らず手伝う。
四乃は合唱団、ダンススタジオの仲間を連れて、下手からやってくる。
四乃「ばっちり練習してきたわよ」
一子「みなさん。お待たせしました。白鳥圭介ファンクラブによりますSONG AND DANCE!」
歌「キャンペーン」
(A)
町を歩けば人が振り向くようなかっこいい歌手になってみたいな
だれだってそう思うわ
昔の歌手は歌うだけ これからの歌手は「踊れなくっちゃね」
LET'S SING AND DANCE SO WONDERFUL 歌って踊れる歌手
LET'S SING AND DANCE SO WONDERFUL アイドルに欠かせない
LET'S SING AND DANCE SO WONDERFUL 歌手の大改造
きっと成功させるわ
(B)
24
さあ始めましょう 歌のレッスンラララララーラー
きれいな歌声ラララララララララーラララー
小鳥のさえずり 梢わたる風 砂を洗う波のように
チチチチチチチチススススススススサササササ波のように
あなたの心にやさしく語りかけてくるでしょう
やさしく語りかけてくるでしょう
さあ始めましょう 歌のレッスンラララララーラー
ドレミファソラシド ドシラソファミレド声を心を合わせて
声と心を合わせましょう
さあ歌いましょう さあ始めましょう
(C)
風の紡ぐ白いリボンを飾ろう二人の夢が離れないように
君の夢とぼくの夢をつなげる結び目に
私の夢とあなたの夢をつなげる結び目に
君のパパの歌の夢が流れてる
おとうさんの歌の夢が流れてる
(D)
これが私のパパよ 私のじまんのパパよ
なんたって私のパパだから きっと成功させるわ
(E)
紙風船の中にあなたの夢を吹き込もう
小さな夢の風をそっと吹き込もう
1番 A+D 2番 B+C+D
梨恵と健司は二番になると下手から登場し、歌いながら上手に歩く。
アヤカ「みんなうまくなったわね。もうテレビにも出演できるぐらいよ」
一子「先生のおかげです」
ちぐさ「あとわずか、あとわずかになりました。お早めにお買い求め下さい」
3番 A+B+C+D+E
♪「キャンペーン」の後奏♪で舞台転換8
8場
〇ミュージックヒットの楽屋裏(夜)
ADは観客に対して、拍手の練習をさせている。
AD「行きますよ。私がこう手を回したら拍手をしてください。はい」
観客は拍手をする。
AD「結構です。それでは本番お願いいたします」
ADは下手に入る。
テレビ局の大道具スタッフが働いている。
健司は番組プロデューサー和田を説得しながら上手からでてくる。
5つ子は道具の傍らで見ている。
健司「ほんのちょっとの時間でいいんだよ。出演させてよ。いい歌手なんだ」
25
和田「ナベさんにはいつも世話になってるから、健ちゃんの願いはかなえてあげたいんだけど、わかる
だろう。タイムスケジュールで動いてるんだよ。今日は時間ないよ」
健司「そこをなんとか。お願いします。そこに来てるんです」
和田「そう言われてもね。忙しいからかんべんしてよ」
ADが下手から駆け込んでくる。
AD「和田さん、今日出演予定の新人、大塚アヤが盲腸で緊急入院しました」
和田「え! 弱ったな。今からじゃ代役は間に合わないし」
健司は和田の肩をたたく。
健司「ご安心ください」
和田「ちょっと待てよ。それとこれとは話が別だろう」
AD「何です?」
健司「いい新人歌手がいるんです」
AD「どこに」
健司「ロビーに待たせております」
AD「和田さん、ちょうどいいじゃありませんか。それで行きましょうそれで」
和田「まあちょっと待てよ」
健司「お願いします」
三郎が飛び出してくる。
三郎「お願いします。おとうさんをテレビに出してください」
一子、二重、四乃、五美も飛び出してくる。
一子・二重・四乃・五美「お願いします」
和田「なに?君たち」
健司「ぼくが紹介する歌手というのは、この子たちの父親です」
AD「君たち、ひょっとしてこの間、朝の番組に出ていた5つ子?」
二重「そうです。私たちがあの有名な5つ子です」
AD「和田さんいいじゃありませんか。父を思う5つ子、絵になりますよ。君たちも出演してくれるよ
ね」
5つ子「ええ!私たち?」
健司「もちろん大丈夫です」
四乃「そんなあ」
健司「みんなお父さんと一緒に歌もダンスもレッスンしてきたじゃないか」
二重「いっちょやってやるか」
一子「私たちの出演OKです」
AD「和田さん」
健司「和田さん」
五つ子「お願いします」
和田「よし分かった。今すぐスタジオに入ってくれ」
5つ子「やったー」
歌「GOOD EVENING」
売れない歌手よ さようなら かっこいいスターに変身だ
スポットライトを浴びながら マイク片手に歌おう
今日の運気は赤丸上昇 あしたの朝のみんなの声が楽しみだ
GOOD EVENING GOOD EVENING いい日だよ
GOOD EVENING GOOD EVENING 眠れない
26
GOOD EVENING GOOD EVENING 夢みたい
お目目はぱっちり 心はウキウキ お日様早く目覚めてよ
一子「三郎、クラスのみんなに電話して。おとうさんのかっこいいところを見せて、見返してやるのよ」
三郎「わかった」
三郎は健司の携帯電話を借りて電話する。
三郎「もしもしあつし、三郎だ。クラスのみんなに伝えてくれ。今日18:00からミュージックヒット
の公開生放送があるんだ。スタジオに来れる人は集まってくれ。来られない人は、テレビで見てくれ。
え、もちろんおとうさんが出るんだよ。ぼくも出演するんだ。頼んだよ」
三郎Vサインを出す。
♪「goodevening」の後奏♪で舞台転換9
〇ミュージックヒット番組スタジオ
司会者「山崎アミ&MIX、SOLID LOVE!」
山崎アミ&MIXが歌っている。
歌「SOLID LOVE」
見知らぬ町の片隅で 私はひとり泣いている
弾け飛んだ夢のかけらをその手に握りしめて
生きるってこと考えればジグソーパズルと同じね
ひとつ欠ければ意味がない 全部ひっくりかえっちまえ
SOLID LOVE 柔な優しさはいらないから
SOLID LOVE 私の欲しいのはナイフのようなあなたの愛
触れてみても確かなものなどない架空の町並み
信じられるものなど何もない人影も見えない
何もかも偽物ばかり虚ろに過ぎていく気持ち
ひとつ間違えること怖れて何もできない
SOLID LOVE 傷口なめ合うことはきらい
SOLID LOVE 私の欲しいのはナイフのようなあなたの愛
傷つけ合いたくないから 少し離れて暮らしたい
偽りの仮面かぶって 今この瞬間を生きる
愛や夢なんか信じない 時々自分も信じられない
堅く強く鋭く冷たい I WANNA GET YOUR SOLID LOVE.
生きるってこと考えればジグソーパズルと同じね
ひとつ欠ければ意味がない 全部ひっくりかえっちまえ
SOLID LOVE 柔な優しさはいらないから
SOLID LOVE 私の欲しいのはナイフのようなあなたの愛
山崎アミ&MIXは席に着く。
司会者「新曲もヒットチャートいきなり一位にランクされました山崎アミさんでした」
みさき「やっぱり山崎アミはかっこいいね」
27
なつみ「ねえ、いよいよ出番よ」
ひとみ「うまく行くかな」
えりこ「あれだけ練習したんだもの。だいじょうぶよ」
司会者「さあ次は、ニューウェイブのコーナです。今日はとてもユニークなグループ、ケイシラトリ ア
ンド プチファイブです。」
圭介と5つ子が歌う。梨恵と健司は舞台の上手から見守っている。
歌「PAPER BALLOON」
PAPER BALLOON PAPER BALLOON
紙風船の中にあなたの夢を吹き込もう 小さな夢の風をそっと吹き込もう
しぼんでくしゃくしゃになった心が 少しずつ少しずつ膨らむように
紙風船の中にあなたの愛を吹き込もう 暖かい桜色の春風吹き込もう
圭介がスキャットを歌い始めると司会者が出てくる。
司会者「ケイシラトリ アンド プチファイブでした。どうぞこちらへ」
ちぐさ「あれ、まだ歌の途中じゃないの」
司会者「このグループはみんなファミリーだそうですね」
一子「はい」
司会者「君いくつ?」
一子「12歳」
司会者「君は?」
二重「12歳」
司会者「君も?」
三郎「12歳」
司会者「もしかして?」
四乃「12歳よ」
五美「私も12歳」
司会者「ということは」
5つ子「私たち5つ子でーす。」
司会者「みなさん覚えていますか。10年ほど前にテレビを賑わせたあの5つ子ちゃんが今こうして歌
手として帰ってきました。あなたは?」
圭介「え、いやーそのー」
二重「私のパパです」
司会者「おとうさまですか。すばらしいお子さまをお持ちですね」
圭介「あ、ありがとうございます」
司会者「どうですか。お子さまがデビューなされて」
圭介「別にデビューというわけでは・・・」
司会者「兄弟げんかする?」
一子「兄弟げんかなんか毎日、2時間に一回はやっています」
司会者は圭介の存在を無視して5つ子に質問する。
司会者「性格なんかはどうなの? 似てるの。例えば好きなタレントとか」
二重「私は島谷ひろみが好き」
一子「私は平井カン」
四乃「V7」
五美「大塚アヤ」
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司会者「5つ子でもそれぞれ違うんだね。君は、好きな歌手いる?」
三郎「・・・・」
二重「気にしないでください。三郎は無口だから」
司会者「女の子ばっかりの兄弟で、いじめられてんじゃないの」
三郎「ぼくの好きな歌手は・・・ぼくの好きな歌手は、白鳥圭介だ!」
一子「三郎」
三郎「みんな何やってんだ。おれたちはおとうさんをテレビに出すためにここにいるんだろ。今日の主
役はおれたちじゃないんだ。おとうさんなんだよ」
一子、二重、四乃、五美ふさぎ込む。三郎は司会者に詰め寄る。
三郎「もっとおとうさんにインタビューしてよ」
山崎アミ「マジキモイ。家族愛だかなんかしらないけどォ、おたくらの話を聴いてるとチョーむかつ
くって感じ。っていうか、アミ的にはガキは早く家に帰って寝て欲しいわけェ。アミは、チョーいそが
しいから、付き合ってらんない。彼氏と会わなくちゃならないし」
圭介「君、その話し方どうにかならないか。ちゃんとした日本語をしゃべりたまえ」
山崎アミ「バリウザ。アミ、オヤジの説教なんか、聴きに来てるわけじゃないのォ アミがどうしゃべろ
うとォ おたくには関係ないのォ それに何これ?」
山崎アミは圭介の持っている紙風船を払い落とし踏みつぶす。四乃はそれを拾う。
圭介「おい、帰るぞ」
和田「ちょっと白鳥さん。困ります。これ生放送なんです」
豪造が下手から登場する。
豪造「和田くん、これはどういうことだ」
和田「ナベさん! こっちこそお伺いしたいくらいですよ。私は健司くんに頼まれてこの人をテレビに
出したんですから」
豪造「健司! おまえ」
健司「パパ、これにはいろいろ・・・」
圭介「健司くんには関係ありません。これは私の責任です。ただ私はこの番組に似合いません。それで
は」 圭介下手に去ろうとする。三郎はついていく。
豪造「君、これがどういうことか分かっているのか。君のような無名の歌手が、番組に穴を空けるという
ことは、芸能界から追放されるということだ」
三郎「追放されるんじゃない。こちらから出ていくんだい」
圭介は下手に去る。5つ子ついていく。
♪「BRIDGE5」♪で舞台転換10
9場
〇テレビ局からの帰り道(夜)
街頭の灯る道を圭介と梨恵と5つ子が上手から下手へ歩いている。
三郎「おとうさん・・・」
圭介「何だ?」
三郎「売れない演歌歌手もいいね。自由で」
二重「三郎も気が効いたこというじゃない」
圭介「自由だけどお金はない。三郎ポケットゲーム欲しいんだろ」
梨恵「おとうさん、みんなそんなこと気にしてないって」
圭介「かっこいいおとうさんにもなれなかったな」
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五美「そんなことないわよ。なかなかおとうさんかっこよかったよ」
圭介「ありがとう。でもな、今日のことではっきり分かったんだ。テレビに出て有名になるのもいいけ
ど、やっぱりおとうさんは目の前のお客さんに直接自分の声で伝えたいんだ。それにおまえたちには
悪いが、歌って踊るのはおとうさんには向いてない」
一子「それがおとうさんらしいわ」
二重「でもひどいわね。ワンコーラスも歌わせてくれないんだから。あれじゃ歌番組じゃないわ」
五美「でもやっぱり山崎アミはかっこよかったね」
圭介「そうだな、かっこいいなあ」
二重「私サインもらっちゃった」
二重はサインを見せる。
一子「あんたちゃっかりしてるわね」
四乃は山崎アミの裂いた紙風船を出す。
四乃「そうかな。アミはかっこいいかな。私、かっこ悪いと思う。これ踏んだんだよ。おかあさんの紙風船
裂いたんだよ。ああいうのかっこういいかな」
梨恵「四乃」
圭介「おかあさんがいるな」
五美「どこ?」
四乃「見えない」
圭介「見えない・・・でも確かにおかあさんがいる。あの時みんながおかあさんの紙風船のことを考え
た。きっとこの中にはおかあさんの温かい息が詰まっているんだ」
梨恵が「紙風船の歌」を歌いだす。それに合わせてみんなが歌いだす。
歌「帰り道」
紙風船の中にあなたの夢を吹き込もう 小さな夢の風をそっと吹き込もう
しぼんでくしゃくしゃになった心が 少しずつ少しずつ膨らむように
一子「それより早く帰ってご飯を食べよう。おねえちゃん、今日の晩ご飯何?」
梨恵「カレー」
一子・二重・四乃・五美「えーまたカレー」
三郎「カレーか、カレーと聞くとなんかお腹がすいてきたぞ。家まで競争だ」
三郎下手に走る。
五美「負けるか」
五つ子は笑いながら、下手に走る。
圭介「梨恵、やめるぞ」
梨恵「え・・・」
圭介「歌手をやめる」
梨恵「おとうさん、何言ってるの」
圭介「これ以上おまえたちに迷惑をかけるわけにはいかない。おとうさんは長い間勘違いをしていたよ
うだ。いい歌を歌うことと歌手の仕事を続けることは別のことだ」
梨恵「おとうさん、それでいいの?」
三郎が帰ってきてその話を聞いている。
三郎「そんなこといいわけだよ。見損なったよ、おとうさん。どんなに友達にバカにされたって、一所懸
命歌手を続けるお父さんが好きだったんだ。歌手はおとうさんの夢なんだろう。そんなに簡単にあき
らめられる夢だったの。そんなことに家族はつきあってきたの」
圭介「三郎、おまえにもいつか分かるときが来る。自分の才能とチャンス、仕事に対する誇りと家族への
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思い。その間で揺れながら、勇気をもって夢をあきらめなければならない時もあるんだ」
三郎「そんなこと分からないよ」
三郎は下手に走る。
♪「BRIDGE6」♪で舞台転換11
10場
〇5つ子の家(朝)
梨恵が台所から登場し、5つ子を起こす。
梨恵「いつまで寝てんの。お日さまはとっくに起きてるよ」
5つ子が二階からドタドタと降りてくる。一子、二重、五美の順。後でゆっくりと四乃。
五美「おねえちゃん。日曜日ぐらい寝させてよ」
ちか、ちぐさ、みさき、なつみが紙風船を持って遊びに来る。
ちか「おはよう」
四乃「おはよう。あれ、どうしたのその紙風船」
ちぐさ「おじさんにもらったのよ」
五美「おとうさんに?」
えりこ、ひとみも紙風船を持って遊びに来る。
えりこ「ねえ、紙風船もうひとつもらえないかな。妹がほしがって泣くのよ」
一子「ひとみとえりこも持ってる」
二重「うちのおとうさんにもらったの?」
ひとみ「そうよ。大きな箱を背負ってみんなの家を回ってるわ」
一子「薬を売りに行ったんだ」
四乃「歌手やめるの?」
五美「やっぱりミュージックヒットのテレビのことショックだったのかな」
二重「止めるのならそれもいいんじゃない。おとうさんがそう決めたんなら」
一子「このまま歌手を続けても、売れる見込みないしね」
梨恵「みんな聞いて、私が小さかった時、おとうさんは一度歌手をやめようとしたの。そんな時、おかあ
さんはおとうさんにこう言ったのよ。あなたは薬を置くかわりに人の心の中に歌を置いているのよ。
苦しい時,悲しい時,口ずさめば心が癒されていく。あなたの歌はそんな歌なの。梨恵は分かってく
れます。紙風船の中にはどんなに温かい息が詰まっているか。あなたがどんなに温かい息で歌を歌っ
ているか。一子も二重も三郎も四乃も五美もきっと分かってくれます。日本中の人がいつかきっと。
もうおかあさんはいないの。今度は誰がおとうさんに言ってあげるの」
四乃「お父さんを売れない演歌歌手に戻しましょう」
二重「売れないというのは余分よ」
一子「売れないというところがいいのよ。だって売れなかったらいつまでも『紙風船の歌』を歌うしかな
いでしょう」
三郎がラジオを持って二階から降りてくる。
三郎「お父さんの声が聞える」
四乃「本当!」
三郎はラジオを座卓の上に置く。全員がラジオの前に正座して聞いている。
なつみ「この歌どこかで聴いたことない?」
みさき「これおじさんの歌だわ」
春が上手からやってくる。
春「たいへんたいへんラジオから圭介さんの歌が流れてるよ。あらもうみんな聞いてんの」
健司がやってきてその様子を伺っている。
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ラジオの声「お届けしました白鳥圭介の『紙風船の歌』は、北海道の中川様をはじめ120通ものリクエ
ストをいただきました。岡田さんご存じでしたか?」
アシスタント「私は全然知りませんでした。どういった経過でこれほどの人気が出たんでしょう。不思
議です」
健司「不思議でしょう」
梨恵「健司さん!」
健司「大手の音楽業界はうちのパパが押さえているから全部だめ。だからインターネットで流したの
さ。するとどうだい、ぼくのホームページは問い合わせの電子メールでいっぱいさ」
梨恵「ありがとう。健司さん」
健司「ぼくの力じゃないさ、君のお父さんの歌の力だよ。もちろんはじめは君のためにとやっていたさ。
でもだんだん『紙風船の歌』の魅力に取りつかれた感じだ。ここまで来ればそろそろ来るよプロダク
ションの連中が、ほら来た」
数社の芸能プロダクションの営業部の社員が圭介の家に押し掛ける。
A社「白鳥さんのお宅はこちらでしょうか」
健司「そうですここが、『紙風船の歌』で有名な白鳥圭介さんの家です」
A社「あれ、健司さん。社長は?」
B社「私、ノリプロで営業課長をやっております武下です。先日ラジオで白鳥さんの歌を拝聴いたしま
して感銘を受けました。今回ぜひ私どもの会社と契約させていただきたいと思いまして・・・」
C社「課長を寄越すとは失礼ね。私はソンミュージックの営業ぶ・ちょ・うの安芸です。ぜひ業界最大
手の私どもとご契約いただきたいと思っておりますわ」
A社「ソンミュージックさんが業界最大手ですって! おたくはもう危ないって業界じゃ有名ですよ」
C社「何をいうの。新参者のくせに」
友達が誘いにくる。
B社「白鳥さん、うちは契約金を一本用意しています」
四乃「一本っていくら?」
健司「一本は一千万」
リン「一千万だって、すごいね」
C社「用意ってどこにしてるの」
B社「小切手ですよ」
C社「私どもは現金でご用意しておりますわ」
C社の部長はトランクを開けて、テーブルにお金を積み重ねる。
梨恵はお金を返す。
ナナ「三郎のおとうさん、売れる演歌歌手になっちゃった」
A社「世の中お金で解決しちゃいけません。白鳥さんに失礼じゃありませんか。うちは所属の山崎アミ
とのデュエットの計画があります」
なつみ「山崎アミとデュエットだって」
四乃「アミはぜったいイヤです」
B社「この小切手にあなたの好きな金額を書いてください」
C社「うちはもう白鳥さんのコンサートのために日本武道館を予約してございますよ」
A社「後から来て卑怯だ。白鳥さんはうちと契約・・」
A社・B社・C社が言い争う。
五美「まあまあ、あわてずに一人ずつならんでならんで」
圭介が下手から帰ってくる。
四乃「おとうさん?」
圭介「紙風船が品切れなんだ。これが大人気でね。梨恵、奥のタンスの中にあるのを全部取ってくれ。う
れしいね。コンピューターゲームの時代に紙風船で遊んでくれる子どもがいるとは」
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一子「おとうさん。それどころじゃないわよ」
一子はプロダクションの人たちを指す。
圭介「またテレビの取材か。もうお断わりしなさい」
健司「違います。白鳥さん、あなたの『紙風船の歌』が大ヒットなんですよ。だからこうしてプロダクショ
ンが契約に来てるんです」
圭介「冗談だろ?」
A社「間違いありません」
圭介「『紙風船の歌』が大ヒットしてる?」
リン「さっきもラジオで流れてたのよ」
B社「日本中のみんなが口ずさんでいます」
圭介「おれの歌が・・・おれの歌が日本中に。おれの歌が、そうか・・・おれの歌が、いい歌だろう。な、
な。今までどうして売れなかったのかなあ。最近の歌はなんか冷たくってなあ。紙風船の歌,なんか
暖かいっていうか情感があるだろう・・・・」
圭介ははしゃぎながら、座卓に座る。
一子「おねえちゃん、さっきの話の流れとちょっと感じが違うんじゃない?」
四乃「お母さんの話、あれ本当?」
二重「なんか宝くじか競馬に当たって喜んでるオヤジって感じ」
五美「なんかガクっと来たわ」
圭介「あれ? おまえたちうれしくないのか。三郎元気だせ」
一子は怒って
一子「おとうさん、どこのプロダクションと契約するの」
A,B,C社「ぜひうちと」
営業部員たちは机の上にある紙風船を払いのけ、契約書を出す。
圭介、五つ子、梨恵は紙風船を拾う。
圭介「みなさん、私の歌を高くかってくださって感謝します。しかしお断わりさせていただきます」
C社「どうして?」
圭介「三郎、みなさんに帰ってもらいなさい」
三郎は急に笑顔を取り戻して
三郎「というわけだから、さあ帰ってください。」
三郎はみんなを追い返す。
四乃「これで売れない演歌歌手続けられるのね」
B社「一千万ですよ」
A社「デュエット。山崎アミと」
C社「武道館は・・・」
豪造が下手から現れる。
豪造「おや、みなさん白鳥さんところへ?」
B社「渡辺さん、いくらお宅でも無理ですよ。これだけの条件で断られたんじゃね」
C社「へんな家族。売れないことを喜ぶなんて」
A社「社長」
豪造「君はもう帰ってよろしい。白鳥さん、先日は失礼しました。いやあの時はあの時で、いろいろごた
ごたいたしまして・・・」
圭介「渡辺さん、いい息子さんをお持ちですね」
豪造「いやあ、まだまだ青二才です。健司、それで契約の話はどこまで進んでいるんだ」
あつし「おじさんだけだよ、この状況を飲み込めていないのは」
圭介「お前たちには悪いが・・・」
二重「おとうさん。分かってる」
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圭介「一千万あれば」
豪造「一千万ぐらいはご用意させて頂きます」
健司「パパ!」
四乃「私、めざまし時計いらない」
圭介「友達に自慢できるかっこいい歌手になれたかも・・・」
豪造「テレビにもどんどん出演してもらいます」
ナナ「だからいってるでしょう。おじさんはこの状況が分かってないって」
一子「おとうさんはかっこ悪くていいのよ」
圭介「かっこ悪いか・・・」
三郎「お父さんはかっこ悪いけど・・・」
5つ子「最高にかっこいいよ!」
三郎「かっこいい演歌歌手白鳥圭介が歌います。どうぞお聞きください。かっこいいぞド演歌は」
♪「かっこいいぞド演歌は」の前奏♪で舞台転換12
11場
○マスターのスナック(昼)
いつの間にか舞台はマスターのスナックに変わっている。看板には「紙風船の歌大ヒット残念
会」と書かれている。中年の男連中と圭介が演歌を歌っている。
歌「かっこいいぞド演歌は」
中年おやじの歌う演歌が一番かっこいいぞ
同じような歌詞ばかり 同じような節ばかり
酒か涙か連絡船 男度胸で女は弱い あーそれでもかっこいいぞド演歌は
客5「圭ちゃん、聞いたよ。売れりゃどうでもいいっていう世の中、歌手の心意気ってのかな。いい話聞
かせてもらったよ」
客6「圭ちゃんはいつまでも圭ちゃんだ」
圭介「そんなかっこいいことじゃないって、でもこれからだよ本物の歌が歌えるのは」
客2「よ! 日本一」
顔を真っ赤に歌う演歌のこぶしがかっこいいぞ
前奏聴けばすぐ分かる カラオケ画面も味噌くさい
命 未練か 執念か 何やらドロドロした世界 あーそれでもかっこいいぞド演歌は
五つ子、梨恵、健司がやってくる。健司は花束を持ってくる。
健司「おとうさん。どうぞ」
圭介「ありがとう。君には世話になったな」
健司「いいえ。お役に立てませんで」
豪造が入ってくる。
健司「パパ」
豪造「白鳥さん。本日はおめでとうというか残念というか。複雑な気持ちです」
客7「あんたこの間の・・・」
豪造「先日は失礼しました。お詫びとして今日は、このパーティーにゲストを招きました」
四乃「ゲスト?」
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豪造「入ってきなさい」
歌「SOLID LOVE2」
見知らぬ町の片隅で 私はひとり泣いている
弾け飛んだ夢のかけらをその手に握りしめて
生きるってこと考えればジグソーパズルと同じね
ひとつ欠ければ意味がない 全部ひっくりかえっちまえ
SOLID LOVE 柔な優しさはいらないから
SOLID LOVE 私の欲しいのはナイフのようなあなたの愛
合唱団の友だちもやってくる。山崎アミとMIXにサインをもらうために殺到する。五つ子もサイ
ンをもらいに行く。
圭介「おとうさんがサインを書こうか」
二重「おとうさんのサインなんかいらないわよ。だれも知らないもん」
梨恵「四乃まで、サインもらうの?」
四乃「今日来てくれたからもう許す」
山崎アミが人をかき分けて、圭介の前に出る。
山崎アミ「サイン」
圭介「・・・」
山崎アミ「サインして欲しいだけどぉ」
全員「え!」
山崎アミ「なんかぁ,あれからあの歌,気になるのよね。頭ん中グルグルまわっちゃってさあ」
ひとみ「山崎アミが三郎のお父さんにサインもらってるわ」
えりこ「すごいね」
圭介「サイン頼まれるなんて初めてだ。書いたことないよ」
MIX「お願いします」
色紙にサインする。
一子「おとうさん。それじゃ漢字習いたての小学一年生じゃないの」
全員笑う。
山崎アミ「アミ,チョーうれしい」
圭介「君,やっぱりその話し方変わらないなあ」
全員笑う。
五美「はいはいサインはそれぐらいにして、それでは本日のパーティーの本当の名前を発表します。三
郎行くわよ」
三郎「O.K」
三郎が看板についているひもを引くと「健司くん・梨恵さんご婚約おめでとうパーティー」の
文字が出てくる。
全員「健司くん・梨恵さんご婚約おめでとうパーティー」
一子「おねえちゃん。おめでとう」
全員拍手をする。
梨恵「あれ、みんな知ってたの?」
四乃「しらないのはおねえちゃんだけよ」
梨恵「健司さんもしってたの」
健司「もちろん」
梨恵「いや 恥ずかしい」
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二重と五美はからかって歌う。
歌「からかい」
君は何も悩むことはないのさ ぼくに任せて
梨恵「こら! 二重、五美」
全員笑う。
四乃「それではカレーしか作れないお姉ちゃんの婚約をお祝いしてみんなで歌いましょう」
一子「フルコーラスでお送りします。PAPER BALLOON」
歌「ENDING」
PAPER BALLOON PAPER BALLOON
紙風船の中にあなたの夢を吹き込もう 小さな夢の風をそっと吹き込もう
しぼんでくしゃくしゃになった心が 少しずつ少しずつ膨らむように
紙風船の中にあなたの愛を吹き込もう 温かいさくら色の春風を吹き込もう
ポケットに手を入れて歩いた街が さわやかに鮮やかに動きだすように
紙風船の中にあなたの夢を吹き込もう 小さな夢の風をそっと吹き込もう
PAPER BALLOON
圭介「梨恵、長い間おかあさんの代わりありがとう」
梨恵「おとうさん」
圭介「おまえには何もしてやれなかった」
梨恵「私はおとうさんとお母さんから大切なものをもらったわ」
梨恵は紙風船を出す。
五つ子「おかあさんの紙風船」
梨恵「私、これをもって健司さんのところへいく」
圭介「そうか」
梨恵「一子たちがちょっと心配だけど」
二重「私たちは心配ないって、白鳥家伝統のカレーの味を守って行くわ」
全員笑う。
紙風船の中にあなたの夢を吹き込もう
そして空へ そして海へ そして山へ そして人へ
小さな夢の風をそっと吹き込もう
あなたの歌よ飛んでゆけ風にのって
来たる春風 吹き込もう
緞帳が降りる。
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