動物実験関連法規と 動物の倫理的な取り扱い

2013年度 教育訓練
動物実験関連法規と
動物の倫理的な取り扱い
小泉 誠
東京慈恵会医科大学 動物実験委員会
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動物実験における原則”3Rs”
実験動物も“命”を持ち,ヒトを含めた他の動物と同じく,
痛みなどの感覚を持っている!
※ 動物実験の立案に際して念頭に置くべき“3Rs”
(Russel & Burch, 1959)
� Replacement(代替法の検討)
� Reduction(動物数の削減)
©動物の痛み研究会
� Refinement(麻酔薬の活用や手技の洗練による苦痛の軽減)
⇒どのように実効性を担保するか?
医学生物学領域の動物実験に関する国際原則
3Rsを基に生物医学に携わる人々と動物福祉を推し進める
グループ双方に研究倫理,概念の枠組みを示す目的で,
国際医学団体協議会(CIOMS:Council for International
Organizations of Medical Sciences)が作成(1985年).
第1条.生きた動物を用いた実験は必要である.
第2条.数学的モデル,コンピューター・シミュレーション又は
in vitroで代替可能なら,そちらを行う.⇒Replacement
第3条.動物実験が,ヒトや動物の健康増進や生物学的知識の
進展に貢献することを確認した上で行う.
第4条.実験に用いる動物は,適切な種及び質で必要最少の数
とすべきである.⇒Reduction
医学生物学領域の動物実験に関する国際原則
第6条.実験者は,ヒトに痛みを引き起こす処置は,他の脊椎
動物にも痛みを引き起こすと考えるべきである.
第5条.動物の適切な管理と使用を心がけ, 不快,苦痛を
与えないか,与えても最小限にする.
第7条.苦痛が生じると予想される処置の際には,獣医学的に
適切な鎮静,鎮痛又は麻酔処置を行う.
第9条.実験終了時又は途中でも,動物が耐えがたい又は,
慢性的な苦痛があると判断される場合は 安楽死措置を
とるべきである.⇒人道的エンドポイントの設定
=Refinement
=Refinement
医学生物学領域の動物実験に関する国際原則
第8条.第7
第8条.第7条に反する実験は,実験者自身だけではなく,
適切に構成された委員会が妥当性を判断する.
⇒動物実験委員会の設置
第10条.実験動物には獣医師の監督下で,快適な飼育環境が
与えられるべきである.
与えられるべきである.また,必要な際には獣医学的な
管理が行われるべき.
第11条.研究機関の長は,動物実験が 人道的に実施されるよ
う
実験者及び関係者に必要な教育を施す責任がある.
⇒教育訓練の実施
⇒以上11箇条(改訂予定)を基に,
世界各国で3Rs原則の普及と法制化が進んだ.
海外における3Rsの実践
自主管理
法規制
例:アメリカ,カナダ等
例:イギリス,フランス等
飼育と実験は別に扱い, 実験を法令で規制.
飼育を法令で規制.
飼育も実験の一部と
実験は行政当局が規範を
みなし,合わせて規制.
示し,機関が自主・自律的
に管理.
日本は自主管理方式
本邦における動物実験関連法規・指針の変遷
実験動物の適正管理(法規制)
1973:「動物の保護及び管理に関する法律」制定
1980:「実験動物の飼養及び保管等に関する
基準」(総理府)
1999:「動物の愛護及び管理に関する法律」
(動愛法)に改正
2001:動物愛護行政が総理府から環境省へ移管
動物実験の適正化(自主管理)
1980:動物実験ガイドラインの策定について
(日本学術会議勧告)
1987:大学等における動物実験について
(文部省通知)
:動物実験に関する指針(日本実験動物学会)
2004:動物実験に対する社会的理解を促進する
2005:「動物愛護管理法の一部を改正する法律」
公布
2006:「実験動物の飼養及び保管並びに苦痛の
軽減に関する基準」(環境省) :「動物愛護管理法の一部を改正する法律」
施行 :「動物の愛護及び管理に関する施策を
総合的に推進するための基本的な指針」
(環境省)
ために(日本学術会議提言)
2006:研究機関等における動物実験等の実施に
関する基本指針(文科省)
:厚生労働省における動物実験等の実施に
関する基本指針(厚労省)
:動物実験の適正な実施に向けたガイドライン
(日本学術会議)
動物の愛護および管理に関する法律
通称:動愛法(昭和48年10月1日法律第105号)
目的:
動物愛護の気風を招来し,生命尊重,友愛及び平和
の情操を涵養.
動物による人の生命,身体及び財産への侵害防止 .
� 平成17年の改正で,動物実験に関する具体的
な条項(41条)が付加され,3Rsが明文化された.
� 前回の改正から5年経過した2012年5月の見直
しにおいては,新たな規制は見送られた.
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動愛法:実験動物と動物実験に関わる条文の概要
第2条:基本原則
「動物は命あるもの」であることを認識し,みだりに
動物を虐待することのないようにするのみでなく,
人間と動物が共に生きていける社会を目指し,
動物の習性をよく知ったうえで適正に取り扱う .
動物の所有者等の責任動物の種類や習性等に
応じて,動物の健康と安全を確保するように努め,
動物が人に害を及ぼしたり、周辺の生活環境を
損なわないように努める.
※みだりに=勝手気ままに,無分別に
動愛法:動物実験に関わる条文の概要
第40条
1. 動物を殺さなければならない場合には,できる限りその動物に 苦痛を
与えない方法によってしなければならない.⇒Refinement(義務)
2. 環境大臣は,関係行政機関の長と協議して,前項の方法に関し必要な事項
を定めることができる.
を定めることができる.
• 第41条
1. 動物を教育,試験研究又は生物学的製剤の製造の用その他の科学上の
利用に供する場合には,科学上の利用の目的を達することができる範囲に
おいて,できる限り動物を供する方法に代わり得るもの を利用すること,
できる限りその利用に供される 動物の数を少なくする こと等により動物を適切
に利用することに配慮するものとする.
ものとする.⇒義務化が議論されている.
2. 動物を科学上の利用に供する場合には,その利用に必要な限度において,
できる限りその動物に苦痛を与えない方法 によってしなければならない.
しなければならない.
3. 動物が科学上の利用に供された後において回復の見込みのない状態に
陥っている場合には,その科学上の利用に供した者は,直ちに,できる限り
苦痛を与えない方法 によってその動物を処分 しなければならない.
しなければならない.
4. 環境大臣は,関係行政機関の長と協議して,第二項の方法及び前項の措置
に関しよるべき基準を定めることができる .
動愛法:第四十四条;罰則
1.愛護動物をみだりに殺し,又は傷つけた者は,
二年以下の懲役又は二百万円以下の罰金に処する.
2.愛護動物に対し,みだりに給餌又は給水をやめることに
より衰弱させる等の虐待を行った者は百万円以下
の罰金に処する.
3.愛護動物を遺棄した者は,百万円以下の罰金に
処する.
4.前三項において「愛護動物」とは,次の各号に掲げる動物をいう.
.前三項において「愛護動物」とは,次の各号に掲げる動物をいう.
一:牛,馬,豚,めん羊,やぎ,犬,ねこ,いえうさぎ,鶏,いえばと
及びあひる
二:前号に掲げるものを除くほか,人が占有している動物で哺乳類,
鳥類又は爬虫類に属するもの
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教育訓練の位置づけ
文部科学省告示第71号「研究機関等における
動物実験等の実施に関する基本指針」および
環境省告示第88号「実験動物の飼養及び保管
並びに苦痛の軽減に関する基準」に基づいて
各機関において教育訓練を行うものである.
本学動物実験規程では「第31条」で教育訓練
について定めている.
研究機関等における動物実験等の実施
に関する基本指針
通称:文科省基本指針(平成18年6月1日 文部科学省告示第71号)
《適用の範囲》第1「定義」の(3
「定義」の(3)
大学,大学共同利用機関法人,高等専門学校,文部科学省
の施設等機関,文部科学省所管の独立行政法人,文部科学
省所管法人⇒厚労省管轄機関では「厚労省基本指針」が
適用される.
適用される.
• 《研究機関等の長の責務》 第2の1〜4
本学における動物実験等の実施に関する最終的な責任者は
学長となる.
となる.学長は学内規程の策定,動物実験計画の承認,
教育訓練の開催,動物実験および実験施設の承認,動物
実験計画の実施の結果の把握および 情報公開等を行う.
等を行う.
研究機関等における動物実験等の実施
に関する基本指針
《動物実験委員会》 第3
動物実験委員会は,学長の諮問の元に,学長が承認すべき
事項の審査・指導,学内規程の検討,動物実験の結果のとり
まとめ,自己点検・評価を行い,学長に答申する組織である
《動物実験等の実施》 第4
動物実験における科学的合理性の確保(実験の意義と計画)、
動物実験等の方法等(3Rs
動物実験等の方法等(3Rs),実験および飼育設備に関する
注意を記載.
注意を記載.また,バイオセーフティの確保についても言及.
また,バイオセーフティの確保についても言及.
《実験動物の飼養及び保管》 第5
「動愛法」および「飼養保管基準」(環境省告示)を踏まえた
飼育を指示.
飼育を指示.
《その他》 第6の1〜3
教育訓練の実施,自己点検・評価,動物実験の実情および
自己点検評価の結果などに関する情報公開について指示.
自己点検評価の結果などに関する情報公開について指示.
実験動物の飼養及び保管並びに苦痛の
軽減に関する基準
通称:飼養保管基準(平成18年4月28日 環境省告示第88号)
動物の健康
*飼養保管施設等の構造や飼育環境
*繁殖の方法
*輸送
人や周囲環境へ及ぼす影響の防止
*逸走の防止(飼育施設の構造を含む) *個体管理
*有害動物の管理
*人獣共通感染症(Zoonosis)の予防と対策
もし指針や基準等を逸脱したら?
罰則事項は記載されていないが,告示を逸脱した 場合,担当省庁からの指導を受けることになり,
指導対象機関名,逸脱事項の詳細,指導内容等
が公表される!⇒役所HP,マスメディア等
当該機関が非難されるにとどまらず,人類福祉
の向上に必要な健全な科学発展をも妨げるよう
な規制に世論が傾いていく懸念がある.
⇒研究者は,これらの指針や基準を単なる締め付け
ではなく,研究の科学的・社会的信頼性を守る
ものであると認識すべきである.
実験動物と動物実験を取り巻く環境は,
極めて動的です.
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健全な科学発展の為に
医療の発展に動物実験は不可欠である.
動物福祉の理念に根ざした実験動物の
取り扱いや動物実験の適正化は,
研究者を無闇に締め付けるものではない.
研究者は,これまで以上に実験の科学上
の必要性を適切に説明できる能力,
客観性と透明性をもった動物福祉への
配慮が求められている.