イタリア、ドイツ&スイスのフィットネス視察レポート

尾陰由美子のちょっとひとこと
「イタリア&ドイツ・スイスにおけるフィットネス視察レポート1」
今月は、アクアエクササイズの指導に関する記事をお休みして、6 月 7 日から 14 日までの 9 日間のヨーロッパ
におけるフィットネス&ウエルネス研修ツアーについてレポートしたいと思います。
日本のフィットネス事情は、
主にアメリカを見習って発展してきた経緯がありますが、水中の今後のプログラムや医療との提携、スパ施設の
展開などを考えたときには、ヨーロッパにも学ぶことがたくさんあります。私は、過去 7 年間に渡って主にドイ
ツのクアオルトを中心とした研修ツアーを重ねてきましたが、ヨーロッパもこの間さまざまに変化してきていま
す。国民医療費の問題や高齢化の問題は日本だけでなくヨーロッパも同じです。それぞれの国の事情は違うとし
ても、フィットネスへの取り組みなど今回は、イタリア、ドイツ、スイスとフィットネスクラブの視察もしてき
ましたので少しご紹介をしたいと思います。
イタリアはローマに 2 日間滞在をしました。イタリアというと「テクノジム」という有名なマシーンの会社があ
りますが、そのテクノジムのマシーンがびっちり並ぶフィットネスクラブというよりスポーツクラブという印象
が強い「ローマンスポーツクラブ」を見学してきました。クラブの会員層は老若男女を問わずといった感じです
が、通常のフィットネスクラブのようにスタジオ、ジム、プールの他にラケットボールやスカッシュのコート、
ランニングのために外の公園とつながったジム、会員が食事を取れるラウンジがとても充実しています。ここで
は、スピニングやコンバット(格闘技系)のエクササイズが大人気とのことでした。グループレッスンの参加率
は高く、私達が見学していたときも脂肪燃焼のためのエアロビクスが行われていましたが、日本のエアロビクス
に比べるとかなりシンプルで大雑把な感じがします。参加者も自由な感じで、マイペースで楽しんでいる様子で
した。ここ数年は、ピラティスやヨガといったプログラムも人気だそうですが、メディカルチェックも徹底して
いるとのこと、またエステなどのパッシブなサービスも充実していました。料金表など見る限りでは、ユーロ高
ということはあるものの、総じて少し高めのような感じがします。施設内は、大人の雰囲気で無駄なものがなく、
すっきりとした景観で、スポーツをする場所と感じさせるレイアウトです。日本の民間フィットネスクラブは、
サービスの種類が多すぎてフロント周りがごちゃごちゃしていたり、狭い場所にいろんなマシーンや器具を配置
するのでお客様が落ち着いてくつろげるスペースが少なかったりしますが、かなりイタリア人サイズのゆったり
とした空間作りでした。
ドイツでは、フライブルクにあるピラティスとジャイロトニックの専門スタジオを見てきました。ここは、もと
もとダンサーのためのリハビリ施設でトレーナーをしていた方が、独立をされて作られたスタジオです。日本で
もピラティスやヨガの専門スタジオがありますが、こちらのスタジオのコンセプトは「セミパーソナル=ミニグ
ループ」での指導ということでした。1 つのスタジオに 6 人くらいの人が同時にピラティスなどのワークアウト
を行うわけです。パーソナルだと 1 人が負担するセッションフィーが高くなってしまい、なかなか顧客の獲得が
難しいこと、でも、ピラティスやジャイロトニックの機械を使ってのワークアウトは、多人数では難しいという
ことで、6 人くらいのセッションを提供しているとのことでした。ほとんどが口コミなど、紹介での利用者が多
いということでした。日本でもパーソナルのニーズは増えたといっても、実際にはスタジオなどを運営しながら
の事業展開はまだまだ厳しい面が多いと思います。そのあたりの事情も聞いてみましたが、ドイツも日本と変わ
らず、採算面など課題は山のようにあるとのことでした。
最後にスイスで 3 つのタイプの違う施設を見学してきました。ミグロス(大手食品会社)が経営する「Fitness
Park」というチェーン展開しているクラブです。1 つ目は、バーデンという街にあるかなり高級感の漂う施設で
した。
ウエルネスの部分が非常に充実していて、
「運動と休養」
をテーマに施設の空間作りもかなり凝っています。
会員として利用したならどれほど心地よく優雅な気持ちと身体になるのだろうと思わせる施設です。ちょっとし
た空間の見せ方が心と身体を癒してくれるようです。ここには、
「HAMAM」というオリエント地域のスパ施設
もあります。ここは、スチームを使ったスパ施設ということでかなり遠くのほうからも利用に来られるというこ
とでした。2 つ目の施設は、ビンタトゥールにあるメディカルとフィットネスが一緒になった施設です。ドア 1
つでメディカルゾーンとフィットネスゾーンを行きかうことのできる施設です。特に理学療法にかかる患者さん
の、リハビリ終了後のフィットネスクラブへの入会がうまくつながっていてメリットを感じているということで
した。逆に栄養療法、心理療法を受けている人は、なかなかフィットネスへの入会にはつながらないということ
でした。
日本においても似たような傾向があるように思います。でもリハビリを受けている人が、その後の予防も含めた
日常のフィットネスへの動機付けと習慣づけができる点において、そのシステムと施設作りは非常に参考になり
ます。何といってもフィットネスクラブのジムスペースには、メディカルゾーンからの患者さんが理学療法士と
ともにフィットネス施設を自由に利用できるということです。
最後のチューリッヒ市内にあるクラブは、もっともスポーツクラブらしい施設でした。どこかの工場跡を再利用
したと思わせるようなアートな空間が、クラブに来た人たちをワクワクさせます。ここの施設は、まだ新しいよ
うでしたが、マシーンがとにかく充実しています。利用している方の層もやや若いアクアティブな方が多いよう
でした。パーソナルの指導もありますし、ちょうど私達が見学したときはエステ部門を充実させるということで
大掛かりな工事をしていました。
タイプは違う 3 つの施設ですが、共通しているのはどの施設も感覚(視覚、聴覚、嗅覚、触覚)に訴える空間作
りを意識していること、身体面だけでなく精神面にも配慮をした施設作りになっていることでした。
最後にスイスにおけるグループレッスンは、主にパワー系(ボディパンプ、スピニング、ステップ)のプログラ
ムに人気があり、その次にピラティスということでした。アクアプログラムも人気があるようですが、週に 5 本
くらいで、いわゆるアクアダンスという形態ではないようです。日本との大きな違いは、トレーニング志向が強
いこと、その背景には医療費が高いので自分の身体は自分で守る、予防する意識がスイスは高いということでし
た。きっと、日本も今後は自分の身体を自分で守る、治療よりも予防という意識が育ってくるのではないかと思
われます。また、その時に必要とされる指導者、役に立つ指導者であるための自己研鑽は本当に必要だと感じま
した。
今回の 3 国にわたるさまざまなフィットネス施設を見学して、ヨーロッパの社会背景も日本と大きな差はないよ
うに思いますが、とかく、受身になりがちなフィットネス参加者達を能動的に自立させていくためのアプローチ
がこれからの指導者には求められるような気がします。