Training Journal 2006 Back Number

CD版 トレーニング・ジャーナル2006 サンプルバージョン
はじめに
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Message to Sports
答えを求めるのではなく、プロセスとヒントからつかんでほしい
元プロ野球選手で専門学校副校長が語るスポーツへの取り組み方
若林憲一
富士アスレティック&ビジネス専門学校
副校長
わかばやし・けんいち/1953年生まれ。71年、
甲府商業からドラフト 6 位で横浜大洋ホエール
ズ(現横浜ベイスターズ)に入団(81年退団)。
高校時代は、俊足で打撃も優れた遊撃手。プロ
3 年目に外野手にコンバート。10年目には選手
兼 2 軍 1 塁コーチとして若手の指導に当たった。
退団後、富士ビジネスカレッジ専門学校(現富
士アスレティック&ビジネス専門学校)に勤務。
コーチ、トレーナーなどの育成に携わっている。
社団法人全国野球振興会会員、プロ野球OBク
ラブ総務管理運営委員。『野球 バッティング
入門 150キロのボールを打つ』(ナツメ社)
の監修者。
学校の正面玄関にて(http://www.f-college.org)
思わぬドラフト指名
声はかからなかった。
足は速かったので、「外野をやらな
山梨県甲府市出身。子どものとき
しかしいくつか社会人チームから
いか」と言われ、「試合に出られる
から野球に親しみ、元ジャイアンツ
誘いがあり、あるチームでは 1 週間
のならどこでもやる気持ち」で、外
の堀内恒夫氏が甲子園に出場したの
ほど練習に参加したが、入団には至
野手の練習を始めた。
を見て憧れ、同じ甲府商業高等学校
らなかった。プロ野球選手になりた
ノッカーは沖山光利氏、狙ったと
に進んだ。山梨では、甲府商業、甲
いとは思っていたが、なれないだろ
ころに正確に打つ天下一品のノック
府工業、日川、甲府一高が当時の強
うと思っていた。
で鍛えられ、守備はできるようにな
った。
豪だった。中学までは投手をしてい
ところが、横浜大洋ホエールズ
たが、高校からは内野を希望、ショ
(現横浜ベイスターズ)がドラフト
ートを守った。「足は速かった。バ
6 位で若林選手を指名。新聞社が連
「今でもそうでしょうが、高校の監
ッティングもよかった」。
絡してくれ、初めて知った。大学進
督は 1 人で100人くらいをみるので、
ところが、肩を壊した。
しかし、地区大会準決勝で 2 塁打
学も考えたが、今とは違って野球選
1 人 1 人に懇切丁寧な指導はできな
を含むヒット 2 本を打ったものの 1
手も受験してそれなりの点数を取る
い。それでも残ってくるのがいい選
対 0 で敗退。相手の唯一の得点はみ
必要があった。自分で考え、「大洋
手なんです。いわば“勝手にうまく
ずからのエラーで出塁した選手によ
入り」を決意した。
なる”。高校時代は、地肩は強かっ
たけれど、スローイングのフォーム
るもの。「私のエラーで負けたよう
なものです」と今は笑う。
肩を傷め外野手に
が大きかった。プロに入ったとき、
父親が日本通運(日通)に勤務し
プロは「 3 年続けられたらラッキ
それでは通用しないとスローイング
ていた関係で、日通浦和という社会
ー」と思っていた。その 3 年目、慶
を教えてもらいました。でも不器用
人の強豪チームを応援に後楽園(当
應義塾大学から山下大輔選手が入団。 でなかなかできない。そうするうち
時の都市対抗野球の会場)によく行
同じ遊撃手だ。もう内野として必要
に肩に力ばかり入って痛くて投げら
った。「小さいときは日通のユニフ
なくなった。しかし、当時2軍監督
れなくなった。必死でもがいていた
ォームで練習していました」という
の 秋 山 登 氏 ( 故 人 )、 引 地 信 之 氏
けれど、動作もばらばらで、投げ方
くらいのファンだったが、そこから
(故人)はよくかわいがってくれた。
そのものを忘れていたんです」
蚋P.84へ続く
Training Journal December 2006 3
Publication Data
パフォーマンス向上を支えるスポーツ医科学専門誌
月刊トレーニング・ジャーナル
2006年12月号(通巻 326号)
●発行日/平成18年12月10日
●定価/735円(本体700円)
●発行所/(有)
ブックハウス・エイチディ
〒164-8604 東京都中野区弥生町1-30-17
電話03-3372-6251 090-6044-7223
FAX03-3372-6250
郵便振替口座 00130-6-39909
●印刷所/大日本印刷株式会社
©2006 Book House HD,Ltd.
1-30-17 Yayoicho, Nakano-ku
Tokyo 164-8604 JAPAN
http://www.bookhousehd.com
e-mail:bhhd@mxd.mesh.ne.jp
■編集顧問
石河利寛(順天堂大学名誉教授)
窪田 登(元吉備国際大学学長)
黒田善雄(東京大学名誉教授)
中嶋寛之(横浜市スポーツ医科学センター長)
宮下充正(放送大学教授)
山川 純(日本女子体育大学名誉教授)
●発行人/松葉谷勉
●編集人/清家輝文
●編集/田口久美子、田中夕子
浅野将志
●協力スタッフ/妹尾陽子、山田ゆかり
久保友人
●インターネット/山内朱門
●校正/金子和江
●定期購読/古里貞夫
●レイアウト/Humpty Dumpty
●イラスト/犬飼雅美、桐井聖司
本誌の記事、写真、図版等の無断での複製・複
写・デジタル化・映像化は禁じます。
Cover Photo
December Special
特集
現場で活用できる
ツール
1. 爆発的なスピードと
11
12
パワーを高める
“バネ”
の力
佐々木正省・足利工業大学教授、スポーツ科学研究室
16
2. 自作のツールも利用
鈴木秀明・FTA代表、あんまマッサージ指圧師
3. 目的に応じたツールの使用例と
20
そのバリエーション
∼現場リポート∼
樋口彰美・スポーツコンディショニング アーク代表、アイシンAWバス
ケットボール部、コマツ女子柔道部トレーニングコーチ
23
4. パーソナルトレーナーの立場で使えるツール
丸茂大介・(有)スポーツネットワークサービス所属パーソナルトレーナ
ー、NSCA-CPT
5. 考える選手を育てるためのコーチングツール
村田祐造・スマイルワークスe コーチング研究所
26
スポーツトレーニングの誤解を解く――科学的に、かつわかりやすく面白く―― 最終回
クレアチンは肉ばなれを起こしやすくするのか? 30
スポーツと筋力にまつわるいくつかの誤解
谷本道哉・国立健康・栄養研究所特別研究員
Progressing WORLD 競技力向上のスポーツ情報戦略 40
JISSスポーツ情報研究部
シーズンを戦い抜くためのコンディションづくり ―― 8
機能的なウォームアップとクールダウン Part 2 43
菅野 淳・ジュビロ磐田
10月10∼15日、国立代々木競技場(東京都渋谷)
で行われたバドミントンのヨネックスオープン
ジャパン。写真は女子ダブルスの小椋久美子、
潮田玲子組(三洋電機)。今年全英および世界選
手権を制した高崚(ガオ・リン)、黄穂(ファ
ン・スイ)組(中国)と対戦し、13-21、21-16、
11-21のスコアで 2 回戦敗退となった。
写真/藤田孝夫(日本スポーツプレス協会)
4 Training Journal December 2006
チームビルディング ―― 個を活かすための組織づくり―― 11
課題達成効率
福富信也・東京ヴェルディ1969サッカースクール
小山支部コーチ
48
今月の広告掲載会社(50音順)
i-Gear(P57)
http://www.i-gear.jp
2006 12 No.326
CONTENTS
(株)
医道の日本社(P78)
http://www.idononippon.com
(有)
市村出版(P42)
http://www.ichimura-pub.com
投稿
投球障害予防のための試み 2
52
――野球選手の機能的検査について考える
近藤英隆・若田接骨院院長、ワカタアスリートジム主宰
(株)
杏林書院(P86)
http://www.kyorin-shoin.co.jp
マトヴェーエフ博士は語る―― 19
(株)
サトウスポーツプラザ(P59)
http://www.kaatsu.com
筋力トレーニングとアメリカの
ピリオダイゼーションの考え方
60
(株)
ザオバ(P47)
http://www.zaoba.co.jp
魚住廣信・平成スポーツトレーナー専門学校校長、Ph.D
Report
「スポーツNPOと企業」の今後
65
――「スポーツNPOフェスティバル2006」より
KEY
ジャパンライム(株)(P64)
http://www.japanlaim.co.jp
シスメックス
(株)
(表 4 )
http://www.sysmex.co.jp
WORD
肩鎖関節脱臼 ―― ラグビーでは、保存療法という選択肢も
72
スマイルセンター(P51)
http://www.smile-fitness.com
高澤俊治・高澤整形外科院長
トップアスリートの身体感覚 ―― 5
ソフトボール・高山樹里(豊田自動織機)
74
(株)
大修館書店(P69)
http://www.taishukan.co.jp
(株)
ニシ・スポーツ(P35)
http://www.nishi.com
心拍数を使いこなす ―― 11
心拍数(脈拍数)とオーバートレーニング
79
(社)
日本エアロビックフィットネス協会
(P68)
http://www.jafa-net.or.jp
82
(学)
花田学園(P70)
http://www.hanada.ac.jp
杉田正明・三重大学教育学部
海外スポーツ医科学情報――ドイツ・ヘッセンからの便り―― 6
ドイツで理学療法士になるために必要なこと
岡田 瞳・ノードヘッセン専門大学在学中
富士アスレティック&ビジネス専門学校
(P34)
http://www.f-college.org
Message to Sports/若林憲一・富士アスレティック&ビジネス専門学校副校長
ON THE SPOT/現場から
HD SELECTIONS/トレーニング用品通販コーナー
NEW ITEM/新商品紹介
3、84
6
(株)
文光堂(P39)
http://www.bunkodo.co.jp
36
71
TJ FORUM
TJNN:Training Journal News Network ─────────────── 88
SEMINAR CALENDAR/セミナー案内 ─────────────────── 94
HD BOOK INFO/小社出版情報 ─────────────────────── 101
FROM EDITORS/編集室から ──────────────────────── 102
定期購読のご案内 ──────────────────────────────── 102
(学)
平成医療学園 平成スポーツトレーナー専門学校(P64)
http://www.heisei-iryo.ac.jp/sp-tr/
★休載
「メンタルトレーニング」は休載いたします。
Training Journal December 2006 5
ON THE SPOT
現場から
●スポーツNPO
ポーツNPOを立ち上げている選手
さらに自身が所属していたチーム
現役選手によるスポーツ
もいる。しかしその場合、たいてい
の廃部という環境の変化を余儀なく
が少年チーム「クラブ」などを母体
され「こうした経験を多くの選手が
にして「スポーツを通した子どもの
せずにすむために、スポーツの価値
NPO
「S+(シュータス)」設立
育成」を軸にして成り立っているこ
を高めなければならない」と思うよ
ハンドボール日本代表チームをキ
とが多い。「S+」も同様に「子ど
うになった。
ャプテンとして率いる中川善雄選手
もの育成」を掲げているが、母体と
そのためには、まず人と人との連
(大崎電気所属)が発起人・代表を
してクラブチームなど単体は持たな
携をつくる「コミュニケーション能
務めるスポーツNPO法人「S+(シ
いため、上記の例とは活動形態が少
力」を鍛える場を通して“スポーツ”
ュータス)
」が発足した。
し違う。特徴的なのは、これからの
の存在価値を高めていく。1 人でも
去る 8 月には発足を記念して、競
担い手である子どもに対してのアプ
多くの人に「どこで」「何が」行わ
技の枠を越え、ラグビーやアイスホ
ローチに加え、複数競技の現役選手
れているのかを知ってもらうための
ッケーなど、さまざまなアスリート
による「ネットワークづくり」を掲
1 つの策として、各地でのクリニッ
が参加した設立記念イベントが開催
げていることではないだろうか。
クなどを積極的に実施して観客動員
されたのだが、10月 1 日から本格
中川選手が、現役選手同士の「競
を着実に増やし、選手たちのモチベ
的な活動の一環として「S+」ホー
技間連携実現」に至った理由は、4
ーションを高める。高い意欲のもと
ムページがスタート。現役選手によ
年前のアジア大会にさかのぼる。日
で生み出されるプレーは自然と質の
るスポーツNPO設立の目的や趣旨
本代表として多くの競技選手が大会
高いものになり、「 1 つ 1 つ積み重
は何か。本格始動を迎えた「S+」
に臨む場で、それまで接することの
ねるだけでも、大きなことにつなが
代表の中川選手に話を聞いた。
なかった競技選手と話す機会が生ま
ることを実感した」と振り返る。
そもそも現役選手である中川選手
れ、新たな刺激を得ることにつなが
とはいえ「現役選手のネットワー
が、なぜ今このタイミングでのNPO
った。「せっかくこうした機会を得
クづくり」というだけでは、組織と
発足なのか。中川選手は言う。「未
たのだから、これからにつなげてい
しての軸や趣旨を明確に打ち出さな
成年犯罪が多い今、スポーツを通し
くことはできないかと考えた」と言
ければ他から見れば「ただの仲良し
て生きる力を育むための一役を担い
うように、その頃から漠然と「競技
軍団ではないか」という見方につな
たいと思った」。プロ野球選手など
を超えたつながり」を形にする方法
がることも危惧される。ただ当人同
の一部には、自身が代表を務めるス
を模索していた。
士が仲良くするだけの場であるなら
競技の枠を超えて多くの選手が参加して開催された「S+」設立イベント
6 Training Journal December 2006
現場から
ばNPOとして活動する必要はない。
ーニング指導者協会
そこで趣旨に賛同する選手はまず
(以下、JATI)の関
「(スポーツの)価値を高める」とい
東支部によるワーク
うことを念頭に置き、「現役選手が
ショップを開催して
行うことに意味があると思うので、
いる模様をお伝えし
シンポジウムなども実現させていき
たが、去る10月 9 日、
たい」と中川選手は言う。オリンピ
この JATI の設立記
ックなど国際大会に照準をあてて、
念式典が、ホテルラ
日々精進する選手が実践することに
フォーレ東京(東京
よる影響力の高さを選手自身に実感
都品川区)で開催さ
させることや、人任せにするのでは
れ、いよいよ本格的
なく自らの手で何かを生み出してい
にJATIが始動した。
日本トレーニング指導者協会が本格的に始動
くことで、「選手生活を終えてから
まず最初に、JATI 理事長の窪田登
のセカンドキャリアの道しるべにな
氏が「筋力トレーニングのこれまで
進んでいくことに期待する」と締め
くくった。
ればいい」とも考えているそうだ。
とこれから」と題して基調講演を行
「S+」の具体的な活動の第一歩と
った。窪田氏は人類の歴史において、
ストテネシー州立大学)が、「アス
してはホームページを通して、選手
たとえば古代オリンピックの力比べ
リートのための最新トレーニング―
たちのブログなどを掲載し、情報発
におけるクロトナのミロなど、オー
―コーチング経験と科学は両立する
信していくことに加え、それぞれの
バーロードの法則とも呼べるトレー
か」をテーマに特別講演を行った。
競技のルール説明や、見どころの解
ニングが行われていたことを紹介し、
ピリオダイゼーションによるトレー
続いてマイク・ストーン氏(イー
説、さらにトレーニング方法や栄養
「おそらく有史以前にも何らかの筋
ニング刺激の変化を例に、トレーニ
面についてのアドバイスなどを掲載
力トレーニングが行われていただろ
ング指導における経験と科学とい
する。オフシーズンには、複数競技
う」と話した。さらに19世紀ごろか
う 2 つの側面に注目して話を進めた。
によるスポーツクリニックなども開
ら、本格的なウェイトトレーニング
従来の伝統的な線形ピリオダイゼ
催していく予定だそうだ。
が行われ始め、19世紀末にはサンド
ーションの短所として、試合期が長
競技力向上に加えて、普及の観点
ウがダンベルによるトレーニングを
く、スポーツ特異的な適応を維持で
からも「何かをしたい」と思う選手
発表したことを示し、「当時は医師
きない可能性があること、さらにピ
は多くいるだろう。しかし大半が
などから心臓への悪影響を指摘する
ークを 3 週間以上維持することが難
「どうしていいかわからない」とア
声も強かったが、その後科学的な解
しいことが挙げられる。このことか
クションを起こすことなく終わって
明も行われるようになり、アイソメ
ら、非伝統的な強度優勢、あるいは
しまっているかもしれない。まず一
トリックトレーニングやサーキット
ボリューム優勢など、さまざまな非
歩を踏み出すためのきっかけづくり
トレーニングなど、さまざまな方法
線形のピリオダイゼーションモデル
として、現役選手が代表を務める
が広がってきた」と筋力トレーニン
が現れた。ただし現時点では高い競
NPO として発足した「S+」。今後
グの歴史について概要をまとめた。
技レベルを対象とした長期にわたる
の活動に注目するとともに、関心の
さらに窪田氏は「カルポビッチによ
研究がほとんど成されていないこと
ある方は「S+」ホームページ
る研究が行われてちょうど50年経
から、どのようなピリオダイゼーシ
(http://www.shootus.net/ )を参照
ったところ。現在行われている方法
ョンプログラムを作成するかという
がベストとは限らない。日本人に本
点に関して意見の一致はみられない
いただきたい。
当に合ったトレーニング方法がある
という現状が述べられた。さらにス
●ストレングストレーニング
かもしれない」と、新しい科学的知
トーン氏は「ピリオダイゼーション
日本トレーニング指導者
協会設立
見に基づくトレーニング方法への期
によるアプローチが優れていること
待感を述べ、最後は「会員が一堂に
に一定の理解がされている一方、ど
会することで情報交換が円滑に行わ
のように行うべきかについて見解が
れ、互いに刺激を受けてよい方向へ
分かれ、結局は指導者の経験がトレ
本誌10月号において、日本トレ
Training Journal December 2006 7
ON THE SPOT
ーニングの指導の成功を左右する」
アデザイン構築を見
と述べ、「理論や原則は存在するも
据えた活動が目立つ。
のの、コーチングはいまだに芸術
なかでも、「近年と
(アート)であり、根拠に基づく科
くに選手たちに身近
学とともに指導者の経験が重要であ
に受け入れられるよ
る」と話した。
うになってきた」と
この後、有賀誠司氏(東海大学、 C S C リ ー ダ ー ・ 八
JATI理事)よりJATIの今後の活動に
田茂氏が言うのはオ
ついて紹介。有賀氏は「JATIはトレ
フシーズンに行われ
ーニング指導者の社会的地位の向上
るインターンシップ
や、職域、雇用機会の拡大を手助け
制度だ。選手のなか
し、指導者同士の意見交換の場であ
から希望者を募り、
ることを目指す、あくまで現場の指
3 日間にわたり行われる職業体験だ
手が、引退後にどのような目的を持
導者が主役の協会」とし、今後資格
が、4 年前の開始時はなんと応募者
って、どんな職業に就いたかという
認定や教育、雇用促進、交流、調査
ゼロ。「選手がどう受け止めるかわ
話を選手たちにしてきた「OB交流
研究といった各事業を進めていくこ
からなかったが、まさかゼロとは思
会 」。 以 前 か ら 選 手 た ち の 間 で は
とを示した。また、一定の基準を満
わず、さすがにめげそうになった」
「他競技の人から話を聞いてみたい」
たす施設に対して「認定トレーニン
と八田氏。
有森裕子氏によるOB交流会
(写真提供/ J リーグ)
という声が挙がっていたそうだが、
グ施設」とする制度を打ち出し、資
しかし翌年には、参加希望者は 5
なかなか実現には至らなかった。そ
格認定に関しては、2008年 4 月から
名になり、そのなかには現在日本代
こで昨年から手始めに、「現役選手
始まる予定であることが述べられた。
表として活躍する佐藤寿人選手(サ
としてのさまざまなこだわり」をテ
ンフレッチェ広島)も含まれており、
ーマに、杉山愛選手(テニス)、佐
第 1 回の設立記念集会には全国か
ら200名近い参加者が集まり、トレ
その翌年は13名、そして昨年は20
古 賢 一 選 手 ( バ ス ケ ッ ト ボ ー ル )、
ーニングの指導者自身が「自分たち
名で、下田崇選手(サンフレッチェ
為末大選手(陸上競技)などが質問
の団体と思えるような団体にしてい
広島)や鈴木慎吾選手(アルビレッ
に応える形式で撮影したインタビュ
こう」という期待感の大きさが参加
クス新潟)などレギュラークラスの
ービデオを交流会の場で流したとこ
者同士の会話や、各氏の講義から感
選手も参加するようになった。「代
ろ、選手からの反応は想像以上に高
じられるものとなった。
表でプレーしたり、試合に出ている
く、この流れを受け、ついに今年は
選手たちがこうした活動をすること
有 森 裕 子 ( マ ラ ソ ン )、 荻 原 健 司
●キャリアサポート
はインターシップの意義を J リーグ
(スキー)
、中垣内祐一(バレーボー
5 年目を迎えた J リーグ
内外に理解してもらうために、大き
ル)、相沢雅晴(ラグビー)などサ
な効果がある」と八田氏は言う。
ッカー以外のOB各氏が講師として
キャリアサポートセンター
の活動
インターンシップに加え、現在各
招聘された。
クラブのクラブハウスにて、やはり
講義終了後に選手から挙がった感
2002年 4 月の発足以来、5 年目を
参加者を募ってパソコン教室も行わ
想には「違う競技の僕らにメッセー
迎えた J リーグキャリアサポートセ
れている。ブラインドタッチや、メ
ジをくれたことに感動した」「違う
ンター(以下、CSC)。選手のセカ
ール送受信の基本操作、ブログ設立
視点、競技でも気づくことや感じる
ンドキャリア支援、キャリアデザイ
のための基礎知識など、各クラブが
ことは同じだと感じた」など、初め
ン支援の構築を二本柱に、これまで
さまざまなテーマで実施しているパ
ての試みはとても好評だったようだ。
数々の活動を実施してきた。
ソコン教室も、選手たちから非常に
まずはリーグとしてCSCを立ち
設立当初は引退後の選手への求人
好評なのだそうだ。
上げ、キャリア支援や、キャリアデ
紹介や、トライアウトなどキャリア
これらに加え、今年からまた新た
ザイン支援の構築をサポートしてき
支援の活動が目立っていたが、近年
な試みが導入された。これまでは J
た。発足から 5 年を経た今は、リー
はさまざまな趣向を凝らしたキャリ
リーグでのプレー経験を持つOB選
グとしてだけでなく、各クラブ単位
8 Training Journal December 2006
現場から
でもホームタウンでのさまざまな活
まず、広瀬一郎氏(スポーツ総合
動に積極的に参加するなど、競技力
研究所所長、スポーツマネジメント
「CRM事業が今後のクラブ、球団経
向上を図る「ON THE PITCH」の活
研究会チーフコーディネーター)が
営のさらなる発展のために大きく寄
動に加え、ピッチ以外の場でプロと
挨拶、「日本のスポーツの問題を解
与できる分野であると確信してい
して活動する意義、引退後を見据え
決するのがスポーツマネジメントだ
る」と述べた。
て 何 を す べ き か と い っ た 「『 O F F
ということはすでにコンセンサスを
その後CRMについての詳細、お
THE PITCH』の教育が成され始めて
得ていると思う」と述べたあと、海
よびそれを可能にするソフトの解説
いる」と八田氏は言う。さらに、子
外の例を挙げて、「施設」と「ファ
を行ったが、その可能性と重要性を
どもたちを対象にスポーツと人間教
ン(のデータ)」の 2 つの資産をキ
感じさせるに十分な内容であった。
育を通じて、健やかな心身の育成を
ャッシュ化することで日本のスポー
続いてのシンポジウムでは、有川
促す「 J リーグアカデミー」での、
ツは遅れをとっているとし、CRM
久志(東京ヤクルトスワローズ・F
5 ∼21歳までの一環指導における
は後者のツールになると紹介した。
プロジェクトプロデューサー)、鈴
続いて「クラブチーム経営と
木秀樹((株)鹿島アントラーズ F C
「ボールを蹴るだけではない教育」
も背景にあるようだ。
発足当初から掲げてきた活動の柱
Relationship Management)であり、
CRM」と題し、床波浩氏(データ
事業部長)、細谷直(日本電気(株)
スタジアム(株)統括ディレクター)
NEC スポーツプロデューサー)の
を、より強固に太くしていくための
が、まずスポーツ事業は、試合結果
3 氏が、現在実施しているCRMの
5 年間。さらに「人生に対して貪欲
という極めて不確定な要素に収入面
状況あるいは関連事項について紹介、
に、クレバーな選手がもっと出てき
を大きく依存していること、その収
床波氏を加えて、広瀬氏がコーディ
てほしい。新しいライフステージで
入を支える大きな要因が顧客である
ネーターを務めてディスカッション
も自己実現を可能にする選手が多く
こと、その顧客との関係構築が、不
が進行した。
出てくれば、CSCの活動を続ける
確定要素を極小化した経営基盤の獲
このシンポジウムでCRMがツー
ことの意義があると考えています」
得につながること。したがって顧客
ルとしていかに有効か示されたが、
と八田氏は今後への期待を語る。さ
を知り、顧客との関係性を常に管理
誰もが簡単に使用、活用できるわけ
まざまな取り組みは、着実に太い根
できていることが、顧客を維持し、 ではない。広瀬氏も、自分でやるの
と幹を築いている。これらをどう活
拡大するのみならず、効果的なスポ
かしていくかが、今後の活動の軸に
ンサーマッチングやスポンサーメリ
自分でやる必要はなく、その場合は
なっていくのではないだろうか。
ットの明示につながることとし、
「顧
「できる人をつれてくるのが鉄則」
はつらいと思う人もいるだろうが、
客を知ること、顧客との関係性を管
●スポーツマネジメント
理すること」が CRM(Customer
と述べた。
CRMは、今後日本のスポーツの
CRMの時代
去る10月 5 日、東京・大手町のサ
ンケイホールにて、スポーツマネジ
メントレビュー(SMR)創刊記念、
『スポーツ MBA』出版記念として
「スポーツマネジメントの明日を考
える」というセミナー&シンポジウ
ムが開催された(スポーツマネジメ
ント研究会、データスタジアム
(株)
主催)
。
午後 6 ∼ 9 時という時間帯での開
催であったが、300名収容の会場は
満席の状態で、今回のテーマへの関
心の高さがうかがわれた。
CMRを中心に議論された第 2 部のシンポジウム
Training Journal December 2006 9
ON THE SPOT
現場から
なかで必須のツールになっていくだ
身体のコンディショニングを整えて
までの時期に適切な指導とそれを取
ろう。プロスポーツは当然だが、ア
おくことが大切であるそうだ。増岡
り入れた練習が必要になる」とまと
マであっても入場料を取って見せる
氏はさらに「常に測量をしながら走
めた。
のであれば、「スペクテータースポ
っているようなもの」と述べ、丘を
鹿屋体育大学の研究グループによ
ーツ」(広瀬氏が定義したこの日の
登りきったときに一瞬で次の目標ま
る「大学バスケットボール選手の瞬
でを見極めるようにしていることや、
時に取り入れる視覚情報の特徴∼ゲ
日本のスポーツ界がこれまでとは違
時速200kmでは 1 秒間で55mも前
ーム映像呈示を用いて」と題した研
う視点で動き始めたと言えるだろう。
進するので、障害物をいかに早くキ
究発表では、大学生女子バスケット
ャッチするかも重要であり、「数々
ボール選手に対して瞬間的な画像を
●スポーツビジョン
の確認作業によってタイヤのパンク
呈示し、レギュラー群と非レギュラ
眼球のトレーニングの
先にあるもの
を避けることも可能になる」と述べ
ー群、コントロール群で選手の位置、
た。増岡氏の視力は裸眼で1.5ある
動き、ボールの位置を正確につかん
にもかかわらず「状況に応じて10
でいるかを点数化した。発表した吉
去る10月 7 日に、第13回スポー
種類の眼鏡を使い分け、さらに眼の
本佳央理氏は、3 群間で選手の位置、
ツビジョン研究会が興和ビル11階
トレーニングを取り入れて、来年の
動きの正解率に有意差があったこと
ホール(東京都中央区)で開催され
レースに備えている」と話した。
を提示し、「レギュラー群において
「スポーツ」)として同じ範疇に入る。
た。同研究会は、スポーツにおける
続いて石垣尚男氏(愛知工業大学)
は、他の 2 群と比較して瞬時に的確
眼の働きとそのトレーニングについ
が、「小学生の先読み能力の発達」
に多くの情報を取り入れることが可
ての研究発表の場として、毎年開か
というテーマで基調講演を行った。 能であり、瞬間的なゲームの認知能
れているものである。
石垣氏は、スポーツにおける眼のよ
力に優れていることが明らかとなっ
今回はゲストとしてパリダカール
さの本質は状況判断であり、認知し
た」と述べた。さらに、こうした結
ラリーのドライバー、増岡浩氏(三
た後に、次はどうなるか、どう判断
果や、ゲーム状況の認知においては
菱自動車チーム)が「勝利までの道
するかがパフォーマンスで重要にな
「ゲーム状況に関する知識や経験が
のり∼“眼”は勝利のキーワード」
ってくると話し「スポーツの場面で
豊富であったことが要因として考え
と題した特別講演を行った。
はとくに、どこを見ればよいのかを
られるのではないか」とまとめた。
このほかにも、ジュニアのテニス
パリダカールラリーは、そもそも
わかっている必要がある」と述べた。
完走すること自体が非常に難しく、
さらに石垣氏は、小学生38名( 4
選手を対象としたスポーツビジョン
完走率は 3 ∼ 4 割と言う。他のチー
∼ 6 年)および大学生サッカー選手
トレーニング、高校野球における選
ムより早く到達するためにはできる
11名、一般大学生11名を対象とし
球眼向上を目指したビジュアルトレ
だけアクセルを踏みつづけることが
て、ビデオ映像で注視している場所
ーニング、野球のピッチャーからの
重要であり、そのためにはレース前
から先読み能力を推定する実験を行
投球シミュレーション装置など計
日に渡されるコースマップを暗記し、
ったことを述べ、その結果、「先読
10題の発表が行われた。
増岡氏がラリーで実際に使用するさまざまな眼鏡
10 Training Journal December 2006
み能力は小学 5 年生
スポーツ場面における、さまざま
ごろから発達し、6
な視機能について研究されているが、
年生において大学生
今回の研究発表では、視力や動体視
に近づいてくること
力、深視力といった視機能そのもの
が推測された。ただ
だけでなく、より高次な認知や判断
し、個人差が大きい
についても関心が高くなっている傾
こと、視機能との関
向がみられた。スポーツビジョンを
連は有意ではなかっ
手がかりとして、より現場のニーズ
た」ということを明
に沿った研究が行われるようになり、
らかにした。石垣氏
その発表や情報交換の場としてスポ
は「先読みの能力に
ーツビジョン研究会の果たす役割は
関して、小学 6 年生
大きいのではないだろうか。
December Special
特集/現場で活用できるツール
特集
現場で活用できるツール
今回は、スポーツの現場に携わるさまざ
まな立場の方が登場する。佐々木正省
氏にはタイヤ引きの原理によるトレーニ
ング器具について、またアスレティック
トレーナーである鈴木秀明氏には自作
のツールについての考え方を、河野徳良
氏には冷やすための氷の 2 通りの活用
についてインタビュー。樋口彰美氏には、
ストレングスコーチとして、またパーソ
ナルトレーナーの立場からは丸茂大介氏
にそれぞれ現場で使うツールを紹介して
いただいた。最後に、ゲーム分析や動作
の比較に使えるソフトウェアについて、
村田祐造氏にお聞きした。ツールがある
と可能性も広がる。ヒントとなれば幸い
である。
1
2
3
爆発的なスピードとパワー
を高める“バネ”の力
佐々木正省・足利工業大学教授、スポーツ科
学研究室
自作のツールも利用
鈴木秀明・FTA代表、あんまマッサージ指圧
師
4
5
パーソナルトレーナーの
立場で使えるツール
丸茂大介・
(有)
スポーツネットワークサービ
ス所属パーソナルトレーナー、NSCA-CPT
考える選手を育てるため
のコーチングツール
村田祐造・スマイルワークスeコーチング研
究所
目的に応じたツールの使用例
とそのバリエーション
∼現場リポート∼
樋口彰美・スポーツコンディショニング ア
ーク代表、アイシンAWバスケットボール部、
コマツ女子柔道部トレーニングコーチ
Training Journal December 2006 11
Dec Special
1
特集/現場で活用できるツール
爆発的なスピードと
パワーを高める
“バネ”の力
佐々木正省・足利工業大学教授、スポーツ科学研究室
うに、牽引時の波型の高低差と振幅
パフォーマンス向上のために不可欠な運動能力であるスピードとパワー。こ
も異なっている。
れらの要素を強化するためのトレーニング方法、そしてトレーニングツール
同様に負荷を増やし40kgのプレ
として生み出されたのが「パワーユニット」。開発者である佐々木正省氏に
ートを装着して測定を行った結果が
その目的や、使用方法、効果を聞いた。
ある(図 3 、 4 参照)。こちらはパワ
ーユニット装着時の疾走開始時の負
タイヤ引きを科学的にする
ためにはどうしたらいいか
ルスプリング。単に伸びるだけでな
荷衝撃力が44.0kgfであったのに対
く、力を加えることで圧縮する「圧
し、従来の装着器具使用時は92.0kgf
縮コイルスプリング」を紐とタイヤ
と倍以上の負荷衝撃力であるという
つけたタイヤを引っ張る。瞬間的な
の間につけることで衝撃を吸収し、
データが得られた。この結果から
パワー発揮が求められる競技では、
それが弾性筋力の向上につながるの
佐々木氏は「圧縮コイルスプリング
こうした「タイヤ引き」に代表され
ではないかと考えたところからヒン
の効果により、下半身の脚筋群にか
るような、負荷牽引トレーニングが
トを得て、コイルスプリングをつけ
かる一時的な衝撃力が緩和される」
昔から行われてきたのではないだろ
た牽引器具「パワーユニット」を開
とし、「急激な負荷衝撃をやわらげ
うか。
発した。
ることができれば、ケガを防ぐこと
腰のあたりに紐を巻き、その先に
にもつながり、必要な負荷を得られ
しかしこの従来の方法では、ヒ
ト、紐(ロープ)
、負荷物(タイヤな
コイルスプリングで衝撃吸収
ど)を連結しただけであり、その間
実際に従来のように、タイヤと紐
に衝撃吸収作用は発生しない。佐々
で結んだものと、コイルスプリング
木氏が指導にあたる大学のフットボ
を装着したものとで、同様の負荷を
ール部の選手に、従来の方法で負荷
かけてタイヤを引っ張り、そのデー
牽引トレーニングを行っていたとこ
タを比較した(図 1 、 2 参照)
。
ろ、「急激な負荷がかかり、下半身、
ヤを装着し、従来の
蓋靱帯に痛みを訴える選手が増え、
コイルスプリングの
筋断裂を起こした選手もいた」。パ
ない牽引器具と、パ
フォーマンス向上のためのトレーニ
ワーユニットをそれ
ングが、思わぬケガにつながってし
ぞれ同一の選手が牽
まったことで、「何か別の方法で同
引した。その結果、
様の筋群や、スピード、パワーを向
引き始めてから疾走
上させることはできないかと模索が
開始時の負荷衝撃力
続いた」と佐々木氏は言う。
が従来の器具が43.0
急激な動作によって生じる負荷を、
げるものとして着目したのが衝撃吸
収器具としての「バネ」であるコイ
12 Training Journal December 2006
能になるのではないか」と言う。
動きのなかで負荷をかける
筋力をつけるトレーニングという
と、マシンを用いてウェイトトレー
まず 20kg のタイ
とくに大腿四頭筋や大腿二頭筋、膝
一時的にクッションとなり、やわら
るため、効率的なトレーニングが可
kgfであったのに対
し、パワーユニット
一般選手用(牽引重量30∼40kg=写真右)とプロ選
では31.0kgf。図 1 、
手用(牽引重量70∼80kg=写真左)
2 からも示されるよ
60
50
50
40
40
荷重(kgf)
荷重(kgf)
60
・31.0kgf
30
20
30
20
10
10
0
0
-10
0
図1
1
2
3
4
5
時間(秒)
6
7
8
20kgのタイヤ牽引時の負荷衝撃力(パワーユニッ
ト装着時)
-10
0
図2
100
80
80
荷重(kgf)
100
荷重(kgf)
120
60
・44.0kgf
40
20
20
図3
2
3
4
5
時間(秒)
6
7
8
20kgのタイヤ牽引時の負荷衝撃力(従来の牽引
2
3
4
5
時間(秒)
6
7
ット装着時)
0
0
8
40kgのタイヤ牽引時の負荷衝撃力(パワーユニ
・92.0kgf
60
40
1
1
器具装着時)
120
0
0
・43.0kgf
図4
1
2
3
4
5
時間(秒)
6
7
8
40kgのタイヤ牽引時の負荷衝撃力(従来の牽引
器具装着時)
(「パワー革新」より抜粋)
ニングを行い、その負荷によってパ
も効果があるという「スーパーフッ
ピードとパワーをつける方法はない
ワー発揮につながる筋力を養うとい
トボール」という新しいスポーツを
だろうかと考えていました」
う方法もあるだろう。しかし、佐々
日本で初めて考案、足利工業大学で
木氏の考えには、少し異なる点があ
発足させ、地域の子どもたちを対象
る。「室内でのマシントレーニング
にしたスーパーフットボール・リー
そもそも佐々木氏が、「パワーユ
も、ベースになる筋力を鍛え、筋群
グを展開している。こうした活動の
ニット」というこのような器具を開
を増やすということには効能がある
端々からも常々「スピードとパワー
発した最大の理由は何か。
と思いますが、パワーの養成に大切
が大切だと感じていた」と話す。
「スポーツ選手にとって、非常に大
競輪選手から得たヒント
なのは競技の動作を行いながら重量
佐々木氏が「身体の力と身体の速
切な要素である『パワー』を高めるた
負荷をかけ、必要な筋群を鍛えるこ
さ、これが組み合わせられて始めて
めに、どのようなトレーニング方法
とではないでしょうか」。
パワーが生じる」と言うように、
がもっとも効率的なのかを考え続け
大学までは陸上競技を専門として
いたという佐々木氏だが、その後は
スポーツ科学の研究とともに、アメ
「パワー=力×スピード」だ。つま
た結果、思わぬヒントからこのトレ
りそれを高めるために必要なのは、 ーニングツールと、トレーニング方
「重量」のあるものを、より「素早
法に着目するきっかけを得ました」
リカンフットボールの指導に携わる
く」動かすということではないか。
佐々木氏の住む足利市の隣に位置
ようになる。大学での指導だけでな
「相撲の力士が下半身、とくに股関
する群馬県。県庁所在地の前橋市に
く、アメリカンフットボール、サッ
節周囲の筋群を鍛えるために行うの
は前橋競輪場がある。電車に乗って、
カー、ラグビーの要素を取り入れ、
が『四股』
『股割り』『てっぽう』と
車窓から外を眺めていたら競輪場付
遊びの延長で身体を鍛え、バランス
いう基本練習です。腰を落とした体
近の踏み切りで電車の通過を待つ競
能力やスピードを向上させることに
勢で前へ進む、重心を低いままでス
輪選手らしき姿が見えた。選手の腰
Training Journal December 2006 13
写真 2
腰部と頚部についたベルト
るために用いられ
せん。下半身だけに負荷をかけ極端
た圧縮コイルスプ
な負荷がかかることを予防するとい
リングは、力を与
うことも1つの目的ではありますが、
える
(引く=張力)
体幹のトレーニング、姿勢保持に必
ことによって、バ
要な筋群を鍛えるトレーニングにも
ネが圧縮する。そ
効果があるのではないかと思いま
のため、一歩踏み
す」。大学時代に、正しいスプリン
出すたびにコイル
トフォームを身につけるために行っ
スプリングの生膣
ていたトレーニングからヒントを得
である
“跳ね返り”
たのだそうだ。
による伸縮作用に
よって、タイヤや
プレートを引く際
の抵抗負荷による
写真 3
には紐が巻かれ、自転車の後方に腰
トレーニングとは遠いところにある
とイメージされがちな
“タイヤ引き”
に着目した。そこからパワーユニッ
トが生み出されたのだそうだ。
最大の特徴はコイルスプリング
際に使用することができるのか。
アメリカンフットボールや、ラグ
り返しの反復が大
ビー、サッカー選手には「爆発的な
殿筋や大腿四頭筋、
スプリントスピード、パワー、アジ
大腿二頭筋などの
リティーといった運動能力が不可
脚筋群への刺激と
欠」と佐々木氏。これらを向上させ
るために、重量負荷を三段階に分け、
能力が向上され、
回数や牽引距離を変えて行う「ロー
強化することにつ
ドプル・トレーニング」が必要なの
ながる」と佐々木氏は言う。
ではないかと言う。
まず、比較的軽い負荷( 5 ∼10kg
の紐からつながったタイヤが見えた。
思わぬヒントを得て、一見科学的
では実際に、どのような方法で実
緊張と、弛緩の繰
バネが大きな要素を占めるパワーユニット。付加に応じ なり、「筋の弾性
てバネの大きさも異なる
実際の使用例
腰部ベルトと頚部ベルト
さらにもう 1 つの特徴が、腰部と
前後)をジョギング程度の速さで
300∼400mの距離を牽引するとい
頚部、二箇所にかけるベルトである。 うトレーニングを導入として、目的
腰部に装着するベルトは幅広く、
に応じて負荷や距離を変えていく。
クッション製の素材が用いられてい
スピード強化を目的として行うトレ
るためにタイヤを牽引しても、腹部
ーニングでは、負荷重量を15∼30
にベルトが食い込むことはない。
㎏にして、6 ∼ 7 割のスピードで30
先にも述べた通り、パワーユニッ
頚部にかけるベルトは、腰部ベル
∼70mの距離を牽引しながら走る。
トの最大の特徴であり、開発者の
トと固定されたベルトを首飾りの要
さらにここから一段階進んだ方法
佐々木氏自身が「もっとも重要な部
領で首からかける。タスキがけや、
もある。2 人 1 組にして負荷は40∼
位」と言うのが「圧縮コイルスプリ
車のシートベルトのように、固定す
60kgにする。パートナーが前に立
ン グ 」。 通 常 ス プ リ ン グ = バ ネ は 、
る方法は他にもいくつかあるなかで、 ち、構えた姿勢からパートナーの号
引っ張れば伸びる。しかし、一度伸
なぜ頚部にベルトを装着するのか。
令によって 3 ∼ 5 mの短い距離をス
びればそれ以上に力を与え続けるこ
佐々木氏は言う。「頚部・腰部とベ
タート&ダッシュのトレーニングを
とはできず、実験段階でも「多くの
ルトをつけて、後ろから引っ張られ
繰り返す。「腓腹筋や大腿二頭筋な
バネが切れたり、伸びきってしまっ
たら当然首が後ろに傾き、重心も後
どの、下半身強化に効果がある」と
た」(佐々木氏)
。
傾してしまいます。前へ進むために
し、さらに「これらのトレーニング
ただ単に衝撃吸収をやわらげるだ
は、上体の力も当然必要であり、体
は、前に進むための強いパワー発揮
けでなく、さらに力を加えて新たな
幹の力で姿勢を保持しなければ姿勢
だけでなく、より高く跳ぶためのジ
負荷を加えながらトレーニングをす
が崩れ、トレーニング効果はありま
ャンプ力向上能力にも有用なのでは
14 Training Journal December 2006
写真 4
写真 5
中度の負荷で行うスピード能力向上のためのトレーニング
2 人 1 組で重めの負荷でスタート&ダッシュ
写真 6
ないか」と佐々木氏は言う。
写真 7
使用前よりもタ
イムが上がった
さまざまな応用
野球やゴルフなどの、スイング系
競技でも、パワーユニットを使った
トレーニング方法があるという。
写真 6 、 7 のように、一方を固定
選手が多くみら
れた。
ストレングス
コーチ油谷浩行
氏((株)PTT 所
し、頚部と腰部にベルトを装着し、 属)は「まだ(パ
負荷をかけた状態でスイング練習を
ワーユニット
行う。「スイング時に身体の軸をぶ
を ) 導 入 し て 、写真 8
らさないための練習」(佐々木氏)。 トレーニングに
投手の場合は写真 8 のように肩の強
取り入れてから
化を目的とした方法もあるそうだ。
日が浅いので完
野球のスイング練習(写真 6 、 7 )や、肩の強化を目的
としたトレーニング(写真 8 )にも応用できる
さらに、走塁のスピード強化にも
全とは言えないが、パワー、スピー
前述のようなそれぞれの体型や目的
ド能力向上に役立つ要素が多く含ま
現場で役立つツールの開発には
に考慮した負荷重量による牽引トレ
れているので、現場ではとても有用
科学と経験、そしてカンと粘り強
ーニングを行うこともできるそうだ。 なのではないか」と言う。
ないだろうか。
さが必要なようだ。
多くの競技動作が、動きながら負
現場からの声
荷が加わるものである。科学的な
実際にパワーユニットを導入した
“タイヤ引き”の効果はそれぞれで
関西学院大学アメリカンフットボー
体感してほしい。あらゆるスポーツ
ル部では、負荷牽引トレーニング後
選手の身体能力向上に、この基礎ト
に50mのタイム走を行ったところ、
レーニングの大切さを感じるのでは
■パワーユニット
問い合わせ先:ジャサスポーツCo.
【佐々木】
(TEL: 0284-21-4886、FAX: 0284-214893、E-mail: [email protected])
Training Journal December 2006 15
Dec Special
2
特集/現場で活用できるツール
自作のツールも利用
鈴木秀明・FTA代表、あんまマッサージ指圧師
方向も、ゴムに対して正面ではなく、
実業団や大学、高校のバスケットボールを中心に、数チームでアスレティッ
斜め方向へ飛ぶように指導すること
クトレーナーとして契約している鈴木氏に、現場で使うツールについての考
もあります。実際のバスケットボー
え方と使用例をお聞きした。
ルにおける動作を想定してメニュー
もツールもつくりました。
現場では費用の
かからないものを
中学、高校のチームでは、なるべ
くることがあります。トレーナー部
竹製のものは先日踏まれて割れて
屋の浴槽に氷を大量に入れて、つか
しまったので、2 代目はプラスティ
るように指導しています。
ック製の棒と、吸盤、ウェイトプレ
く費用のかからない方法を考えるよ
自己管理を徹底させるうえで、ア
うにしています。ある種原始的な方
イシングに関わるさまざまなツール
法になりますが、温めたり冷やした
は非常に役立ちます。
ートでできています。
木材を使って、プライオメトリッ
クジャンプ用のボックスもつくりま
治療院でも働いているので、施術
した。高さの違うボックスを 2 つつ
身近にあるもので、ドラッグストア
においては、フォームローラー(ス
くって、ジャンプして乗って飛び降
で入手できる電子レンジで温めるパ
トレッチポール)やバランスボール、
り、床に着地後すぐにジャンプして
ックを使っています。本格的なホッ
超音波を使っています。これらは定
乗るというように使います。床に接
トパックを準備するのは大変なので
番のツールだと思います。
触するところにはゴムをつけて傷が
りということをメインに考えます。
つかないようにしています。
すが、これなら電子レンジさえあれ
ばお湯がなくてもつくれるというの
が利点です。ラップで巻いて固定し
ますが、温度が高すぎるときにはタ
オルで巻いて調節します。
自作のツール
目的に応じて自分でツールをつく
ることもあります。
バスケットボールの実業団チーム
別の現場では、角材を安く買い受
けてバランスビームとして使ったり、
跳び箱、ミニハードルも活用しまし
た。
チームを毎日みることができませ
では、動きの中でボディバランスを
治療院では、木製のストレッチボ
んので、ケアの習慣づくりに気をつ
養うための自作ツールを使っていま
ードを可動域改善に使っていました。
けています。選手には、自分の氷の
す。バスケットボールでは、ジャン
丸い板の裏側に中華鍋を固定して不
うとバンデージをなるべく持つよう
プして着地後、あるいはボールをキ
安定板をつくったこともあります。
に指示しています。実業団チームで
ャッチし、ステップを踏んですぐに
は、氷のうを各自持つように言って
動けることが大切です。細い竹を2
いますが、若手よりもベテランのほ
本立てて、その間にゴムひもを張っ
競技ごとに、なるべく近い動きを
うが意識が高いようです。私は「ア
たものをつくりました。ゴムの高さ
出せるように心がけています。こう
イシングは万能薬」と呼んでいます。
は変えられるので、床と並行にした
したメニュー作成は、アスレティッ
治療後にも、予防にも使えます。選
り、どちらかを下げる形にして、ゴ
クトレーナーというよりストレング
手は、自分が「よいもの」と認めた
ムを飛び越え、着地後すぐに動くよ
スコーチの領域に入るかもしれませ
ら自分の習慣にすすんで取り入れる
うなメニューをサーキットトレーニ
んが、現実にはチームにストレング
という点で、手ごたえを感じていま
ングの一環として実施しています。
スの担当がいないこともあり、工夫
す。
斜めになっていると両足同時の着地
を重ねることになりました。ケガの
がしにくくなります。ジャンプする
予防にはボディバランスの改善が重
遠征や合宿などでは、氷風呂をつ
16 Training Journal December 2006
アイデアの源泉
特集/現場で活用できるツール
写真 1
底部は吸盤でできている
写真 2
両足を揃えずジャンプ
写真 3
着地の時間をなるべく短くする
写真 4
着地後すぐに動く
要なのですが、とくに膝の問題があ
い動きづくりを再構築することで、
なるようです。復帰までの期間も短
る場合に、リハビリテーションの過
同じパフォーマンスを発揮しても疲
くなります。
程でボディバランスを高めるような
労を軽減し、結果としてケガも減少
チームに教え込んでいくので、毎
メニューを組む必要があり、このよ
するのではないかと思います。外か
日みることができなくても、自己管
うなトレーニングツールが生まれて
らみると「分野違い」と思われるか
理の習慣がついてきます。そうする
きました。
もしれませんが、結果的に求めてい
と手間をかけずにすみます。また指
今の中学生、高校生は僕らができ
るのは、負担をかけずに身体を動か
導者の方はわれわれのような存在が
て当たり前と考える動きができない
すことによって、ケガを予防するこ
「逃げ道」になるのではないかと心
ことが多いです。スキップができな
とです。
配されるのですが、それは避けられ
かったり、あや跳び、二重跳びがで
もともとは復帰時に選手が怖いと
ます。もっと自分の体調管理に責任
きないこともあります。幼少の頃の
感じず、と考えてのことでした。リ
を持って欲しいとの願いから、自分
遊びが足りていないのでしょうか。
ハビリの期間に何らかの要素を受傷
のケアをせずに「鈴木さん、ケアを
スポーツで求められる技術レベルは
以前より高めることで、選手がプレ
して下さい」という選手からの申し
上がっているにもかかわらず、身体
ーに自信を持てるようにしてします。
出はなるべく断るようにしています。
がついていっていないケースが多い
ようです。靭帯のケガでも重篤なケ
ガになってしまうことが多い気がし
毎日アスレティックトレーナーを雇
ケガの程度が小さくなる
うとなると相当の費用がかかります
アクシデントの場合は仕方がない
が、このように教育を浸透させてい
面もありますが、動きづくりのトレ
くことで週に 1 回の契約でも費用を
大学生でも、無駄に力を使ってい
ーニングと、自己管理の徹底が進む
上回る成果を提供できているのでは
る選手が多いと思います。効率のよ
と、ケガをしてもその程度が小さく
ないかと思います。
ます。
Training Journal December 2006 17
課題を具体化するために自作
し、何を重要視して考えて組み立て
でうまく流れない情報をうまく中継
るか。必要な基本知識は教えるから、
できればと思っています。自分もか
ているポイントを具体化するための
自分で『創作メニュー』を考えなさ
つては選手だったので、直接言いに
道具としての位置付けです。既存の
い。今あるツールがすべてではない
くいことがあるということも理解で
ツールで問題にアプローチできるな
し、もっと効率のよいメニューが生
きます。チーム内に情報の流れるル
らそれを使いますし、なければ、あ
まれるかもしれない。なぜよいのか
ートが、公式なもの以外に複数ある
るいはあまりに高価なツールであれ
を認識する力をつけなさい」と指導
ことは大切です。アスレティックト
ば自作することで対処します。
されました。
レーナーは、治療家としての側面が
ツールというものは、問題となっ
大学で学んだ最後の授業では「こ
んな現場に行ったらどうするか」と
いうディスカッションをしました。
モノもスタッフもいない現場でどう
あり、歴史のあるスポーツでは選手
たまり場としての
トレーナーズルーム
個人に対してアプローチできること
が重視されてきましたし、実際に求
遠征先や体育館のトレーナーズル
められることでした。しかし、これ
ームに、とくに用もない選手が集ま
からはチーム全体に対してのアプロ
個々のリハビリテーションメニュ
ってきます。それは逃げ道とは少し
ーチも期待されるようになるでしょ
ーに関しても同様で、大学で教わっ
違って、落ち着ける場所として存在
う。この面も含めて、アスレティッ
たことは基本的なことでした。「教
しているのだと思います。また、自
クトレーナーの果たす環境整備の役
えたことは役に立たないぞ。自分で
分が、あるいはそういった場が存在
割だと思います。
勉強した知識を使って、何を目的と
することで、選手と監督間、選手間
撮影協力/東京海上日動ビッグブルー
するかということを学びました。
■冷やすためのツールとしての氷
河野徳良・日本体育大学講師
(浅野将志)
サーからボトルや缶で箱ごと提供され
ました。容器ごと氷につけて冷やすこ
とができますので、飲み口につかない
ように注意する程度ですむようになり
氷の 2 つの役割
最初の飲料水用の氷についても、日
ました。
「氷」の役割としては、大きく 2 つに
本代表チームでアマチュアだけの場合、
分けられます。 1 つは飲料水を冷やす
プロ中心の場合など、スポンサーによ
てイタリアに行ったとき、氷を確保す
ため、もう 1 つはトリートメント用で
る提供があるかどうかによって対応も
るのが大変でした。現地では容器ごと
す。
変わってきます。アマチュアだけのチ
冷やすのが一般的で、実際に飲み物の
野球の日本代表チームでアスレティ
ームの場合は、ジャグタンクに氷と水
中に氷を浮かべて飲むことがあまりな
ックトレーナーとして帯同することが
を入れ、粉末タイプのドリンクを入れ
いらしいのです。「料理や魚を冷やす
あるのですが、遠征、とくに海外に移
ていました。飲める水で氷をつくって
ための氷しかない。どうしても必要な
動した場合に氷の確保に苦労します。 おく必要がありますので、水道水は使
10年ほど前に世界選手権に帯同し
ら、製氷用のビニール袋があるから、
ホテル内で製氷機があるのか、どれほ
わず、市販のミネラルウォーターをそ
どの量が確保できるのか、費用は別途
のまま飲用に、また凍らせて氷として
のことでした(写真 1 )。アテネオリ
かかるのかなど、一番気をつけるよう
使いました。
ンピックのとき(2004年)、時差調整
にしています。
写真 1
18 Training Journal December 2006
プロ中心のチームになると、スポン
写真 2
飲める水を買ってきて氷をつくれ」と
のためにイタリア入りしたのですが、
写真 3
特集/現場で活用できるツール
写真 4
写真 5
写真 6
写真 7
写真 8
クライオカップです(写真 5 )。コッ
すが、鎮痛効果はあったとしても、ア
氷に関しては状況がほとんど変わりま
せんでした。
アイシング用であれば飲めない水で
つくられていても問題が少ないと思い
ますが、飲用となると、その場での対
応を考えなくてはならないことがあり
ます。選手に対しても、海外では飲み
物用の氷を入れないように指導してい
ます。
トリートメントのための氷
プ型の製氷容器で、難点としては、氷
イシング効果(低体温による二次的低
製氷機の種類によってさまざまな氷
が溶けるとともに周囲が水びたしにな
酸素障害の予防)はシップでは得られ
ができます。キューブアイスは大きな
ってしまうところです。アスレティッ
ません。
部位に対して、クラッシュアイスは足
クトレーナーが氷を直接握って指先が
首など凹凸がある部位に使っています。 冷えてしまうと、患部に熱感があるか
氷がなければ
どうしても氷が入手できなければ、
氷を入れる際も、アイスバッグ、ビニ
確認できなくなるので、このようなツ
ール袋などの選択肢があります。アイ
ールがなければ紙コップなどを使った
応急処置としてはバンデージを水に浸
スバッグには表面が布製のものとゴム
ほうがよいでしょう。また、クリッカ
して圧迫するという方法をとります。
製のものがありますが、私は簡単に裏
ーは、溶けてこないので便利です。ク
再発予防のためであれば、冷水をかけ
返しにできるゴム製を使っています。 リームなどをつけて慢性のアキレス腱
日本に帰ってきたときに、丁寧に水分
るなど次善の策を考えます。
炎や足底筋膜炎などのマッサージ用に
氷の利点
をふき取らないと荷物にカビが発生す
重宝しています(写真 6 )。なお、ア
ることがあるのです。ただし、ゴムに
イスバケツ(写真 7 )には、RICE処
氷を使う利点は、安価で効果が得ら
アレルギーがある選手もいますので、 置のうち挙上と圧迫ができません。応
れるというのが大きいと思います。こ
布製も用意します。
急処置よりも、練習後のアイシングな
の手軽さから、少年野球では、父母か
どに最適でしょう。
らも「氷ありませんか」と聞かれるほ
ビニール袋は「冷凍用」と書かれた
薄手のものを使っています。私は、ビ
氷水が循環するタイプのアイシング
ど、現場ではアイシングが広がってい
ニール袋の端を唇に入れ、両手で持っ
ツール、クライオカフ(写真 8 )は、 ます。応急処置のツールとして、非常
て形を整えるようにしています(写真
圧迫を加えながら冷却ができ、水がこ
に手軽で、使い方を間違えなければ安
2 )。ただし、このビニール袋は繰り返
ぼれないので移動時に重宝します。ワ
全であると思います。
し使えず、1 回の使用でゴミになって
ールプールに、氷を入れて使うことも
しまうので、遠征などでは密閉チャッ
あります。
氷を用意するのは、海外などでは難
しかったり、国内でも冷凍庫や製氷機
ク(ジップロック)のついた袋を使う
これ以外にも、さまざまなツールが
が必要となり、重さや容積も相当大き
こともあります。ストローを使って空
あります。たとえばコールドスプレー
く運搬が大変な面もありますが、私は
気を抜いています(写真 3 )。米国で
がありますが、これにはアイシングと
アスレティックトレーナーの立場から、
は、タオルを使ったアイシングがメジ
いうより主に一時的な鎮痛効果を目的
応急処置はもちろん、ケアやクーリン
ャーリーグの現場を中心に広まってい
としているものです。また選手によっ
グダウンの一環としてアイシングが使
るようです(写真 4 )
。
ては「シップしたからアイシングしな
われていることをよいことだと思って
くて大丈夫です」と話すこともありま
います。
アイスマッサージで使っているのが
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