「復帰」の裏側————反復帰・反国家論、文学、反戦兵士

[Panel 14]
「復帰」の裏側————反復帰・反国家論、文学、反戦兵士
報告者: 松田潤(一橋大学大学院言語社会研究科修士課程)
「反復帰・反国家論とアナキズム」
村上陽子(東京大学大学院総合文化研究科言語情報科学専攻博士課程)
「長堂英吉「黒人街」論」
徳田匡(東京大学大学院総合文化研究科国際社会科学専攻博士課程)
「兵士たちの武装放棄 反戦兵士の沖縄」
本パネルでは沖縄の日本「復帰」という出来事を、思想・文学・運動史的な視座から再検討することを
試みる。反復帰・反国家論、沖縄文学、反戦米兵についての考察を通して、「復帰」の裏側に封殺されて
きた他なる声を聞き取る可能性を探っていきたい。
反復帰・反国家論は「復帰」運動の思想と理念を問い返す思想として主張された。沖縄県民の主権の獲
得・奪取をめざすために、その主権を剥奪する国民国家へと自己を主体化していったところに「祖国
復帰運動」の陥穽があったと言えるが、戦後沖縄の無主権の状態を絶えず批判しながら、同時にこの
位置を手放すことなく「非国民」として思索を出発させたのが反復帰・反国家論であった。「お国の
ために殉じる」ことを拒否し、「死者としての位相」からの発想が要請されている「非国民」の存在
について、アナキズムの視角から考察する。
長堂英吉の「黒人街」(1966 年)には、米軍内で激しい差別にさらされていた黒人やコザの娼婦の
姿が描かれている。社会の底辺に位置する娼婦と黒人兵の生/性が交錯する場所を描きながら、「復
帰」運動に反発するコザの娼婦の心理と、黒人兵の軍に対する反感が響き合っている点などに注目し、
米軍や沖縄の内部で周縁に押しやられてきた存在からの、国家的な権力に対する不信と抵抗を考察してい
くことを試みたい。
さらに、米本国のベトナム反戦運動や黒人解放運動と呼応するように、米軍占領下の沖縄でも少なくな
い数の反戦米兵や黒人集団が存在した。「異民族支配」という言葉とともに「日/米」という二項対立図
式によって語られる「復帰」とは別のかたちで、「植民地支配」や「第三世界」そして「反戦」のことば
で日米支配に抵抗する思想が反戦米兵、学生、労働運動のなかで派生していた。
反復帰・反国家論、長堂英吉が描いたコザの街、反戦米兵の問題は沖縄で同時期に展開されていた思想、
文学活動、民衆運動である。また、思想・文学・運動史という分野からそれぞれアプローチを行うことで、
これらのテーマの間により密接なつながりや関連する問題が見いだされる可能性もある。国家的権力への
抵抗がいかになされようとしていたのかを検証する作業を通して、沖縄の「復帰」と、「復帰」を経
てなお続く日米の軍事占領体制を問い直し、現在の状況に対峙するための思想の有効性を見いだすことを
目指したい。