沖縄出身者の本土居住とUターン ──統計的分析── ○琉球大学 大阪市立大学 安藤由美 渡辺拓也 1 目的と方法 この報告の目的は、一定期間以上本土に移り住み、沖縄に帰郷(U ターン)した人びとの経験を統計調査 の結果から明らかにすることである。過去に、U ターン者の量的調査は労働移動の分野では存在するけれど も、教育や家族キャリアも含めた、移動をライフコース上でトータルにとらえた統計的研究は存在しなかっ た。そこで、本報告では、2008 年にわれわれが行った「沖縄県本島中南部都市圏市民意識調査」の対象者 766 人(有効回収票)のうちから、沖縄出身の U ターン経験者 341 人(男 174 人、女 167 人、年齢 30~59 歳)に対する分析結果を報告する。 2 方法 ライフイベントしてみた本土居住と沖縄帰郷を、タイミングの側面すなわち、移動の年齢・年次、回数、 滞在期間を観察する。ついで、本土への移住と沖縄への帰郷の詳細を、行動と意識の側面から明らかにする。 最後に、本土での生活に対する回顧的な評価を取り上げる。 3 結果 本土居住および U ターンを経験した沖縄出身者は、半数にのぼっていた。ただ、女性は男性よりも経験率 は低かった。本土に行き、そして沖縄に帰郷する時期は、就学期から職業キャリアの初期までの成人期への 移行期と重なっていて、その目的は学校と初就職であった。一方、成人期への移行とは必ずしも連動しない 出稼ぎ(季節労働)のパターンも存在する。 本土に行った沖縄出身者が沖縄にUターンするのは、自らの意志に基づく場合がもっとも多い。しかし、 家族の事情で帰郷するケースもある。女性では男性よりも沖縄の家族に望まれての帰郷が多い。また、本土 生活に適応できずに帰郷するパターンは少数であった。 帰郷後の生活への適応は、全体的には、ほどなくして仕事につく人が多いけれども、若い年齢層ほど、帰 郷してもすぐに仕事につかないか、あるいは非正規の仕事につくケースも、一方で増えている。 本土での生活経験は、全般に、よい思い出としてとらえられていた。 4 結論 沖縄の U ターン者にとっては、就学にせよ、就職にせよ、本土に行くことが帰郷後の生活へのステップア ップを強く志向した、ライフコース移行のひとつのプロセスとして経験されている。しかし、学校や就職で 本土に行く人たちの帰郷志向は弱まっている兆しがわずかに見いだされた。それでも、結果的に帰ってくる 傾向は変わらないという事実は、沖縄への帰郷のメカニズムを考える上での材料の一つである。沖縄に戻る 予定を特にもたずに本土に行った場合でも、沖縄からの出郷者を結局は還流に向かわせるなんらかのメカニ ズムが働く場合があるのであり、始めから沖縄に戻る予定で出かけ、所期の目的を果たして帰還した人の場 合にはそれが顕在化しないだけであるとみることもできる。その意味では、谷富夫(1989)がかつて見いだ したような、本土に出た沖縄の人びとを還流させる沖縄的生活様式は、衰えているかもしれないけれども、 決してなくなっていないと推察できる。 文献 谷富夫, 1989,『過剰都市化社会の移動世代-沖縄生活史研究-』渓水社.
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