3.天然ガス自動車について(PDF:4584KB)

● 主要部品
3.天然ガス自動車について
(1)燃料供給装置
①ガス容器
燃料である天然ガスを高圧(20MPa)で貯蔵する容器。現在日本では、鋼製継目なし容器、アルミライナー
製複合容器(アルミライナーを繊維強化プラスチックで補強した容器)及びプラスチックライナー製複合容器
(通称:オールコンポジット容器)が使用されています。
1 天然ガス自動車のしくみ
● 天然ガス自動車(CNG自動車)の構造
天然ガス自動車の構造は、基本的にガソリン車、ディーゼル車などの従来車と同じであり、異なるのは燃料系
統だけです。燃料である天然ガスは、高圧(2 0 MPa )に圧縮され、自動車に搭載されたガス容器に充填されま
す。燃料(圧縮天然ガス)供給は、ガス容器から燃料配管を通って減圧弁を介してエンジンに供給されるシス
テムであり、このシステムは基本的に全車種とも同じです。
●CNG自動車の構造
②減圧弁
高圧に圧縮されたガスを段階的に減圧する装置。
③燃料供給装置
空気と天然ガスを混合する装置。ミキサ方式とインジェクタ方式があります。
④燃料配管
燃料をガス容器からエンジンまで送る、内径4∼8mmのステンレス鋼製や銅製(低圧部分の一部)等の細管。
<小 型 貨 物車(例)>
レギュレータ(減圧弁)
燃料配管
燃料フィルター
(2)安全装置
ガス容器
ガス充填口
①過流防止弁
一般的にガス容器元弁に組み込まれた弁で、燃料配管等の折損時にガス容器からの多量のガス流出を防止
する装置。
②安全弁
ガス容器元弁に組み込まれた弁で、火災等によりガス容器の温度・圧力が上昇した場合、可溶栓(一定温度
以上になると溶ける合金でできた栓)が溶けてガス容器からガスを安全に放出する装置。
燃料遮断弁
③主止弁
高圧配管上の容器元弁近くに設置されており、緊急時にエンジンへの燃料供給を自動的に遮断する装置。
④燃料遮断弁
高圧配管上の減圧弁の近くに設置されており、エンジン停止時にエンジンへの燃料供給を遮断する装置。
⑤逆止弁
充填口近くの燃料配管損傷時に、ガス容器からガスの放出を防止する装置。
<トラック(例)>
● 燃料供給装置・安全装置〔インジェクタ方式〕
(例)
三元触媒
ガス容器
ガス充填口(逆止機能付)
容器元弁(安全弁・過流防止弁付)
ガス充填弁
容器元弁
O2センサー
(過流防止弁・
容器安全弁内蔵)
インジェクタ
圧力計 P
ガス容器
(運転席)
エンジン
逆止弁
ガス容器
20MPa
ディスペンサー
0.4MPa
容器元弁(安全弁・過流防止弁付)
逆止弁
ガス充填口
燃料流量制御弁
点火コイル
20MPa
主止弁
圧力センサ
減圧弁
燃料遮断弁 圧力センサ
レギュレータ(減圧弁)
本ページ資料:社団法人 日本ガス協会
2 天然ガス自動車の特徴
● 天然ガス自動車の特徴
● 天然ガス自動車の種類
天然ガス自動車は、燃料の貯蔵方式で分類すると次のようになります。
(1)排出ガスがクリーン
① 圧縮天然ガス自動車(CNG自動車)
天然ガスを気体のまま、高圧(20MPa)でガス容器に貯蔵するタイプ
・地球温暖化の原因となるCO2(二酸化炭素)の排出量を、ガソリン車より2∼3割低減できます。
(次頁「従来車と低公害車のCO2排出量」のグラフ参照)
② 液化天然ガス自動車(LNG自動車)
天然ガスを液体(−162℃)で、超低温容器に貯蔵するタイプ
・光化学スモッグ・酸性雨などの環境汚染を招くNOx(窒素酸化物)、CO(一酸化炭素)、HC(炭化水素)
の排出量が少なく、SOx(硫黄酸化物)は全く排出されません。
③ 吸着天然ガス自動車(ANG自動車)
天然ガスを、ガス容器内の吸着材に吸着させ、圧力数MPaで貯蔵するタイプ
・黒煙は排出されず、粒子状物質はほとんど排出されません。
● 天然ガス自動車の排出ガス性能(例)
現在、世界各国で利用されている天然ガス自動車のほとんどは、圧縮天然ガス自動車(CNG自動車)です。
液化天然ガス自動車(LNG自動車)については、我が国でも19 96年度から実用化に向けた開発が始まって
おり、LNG自動車、LNGスタンドの試作が1998年12月に完了、2001年6月から公道走行試験を行っていま
す。
・G10・15モード
・単位:g/km
■小型乗用車
0.08
0.67
0.08
0.08
0.67
0.5
0.04
0.04
天然ガス自動車
Natural Gas Vehicle
②
①
③
CO
圧縮天然ガス自動車
(CNG自動車)
液化天然ガス自動車
(LNG自動車)
CNG:Compressed Natural Gas
LNG:Liquefied Natural Gas
0.04
0.04
0.01
0.06
①
0.08
②
0.01
①
③
HC
吸着天然ガス自動車
(ANG自動車)
②
③
NOx
①ガソリン車規制値
②天然ガス自動車の排出ガス技術指針
③天然ガス自動車の排出ガス実測値例
ANG:Adsorbed Natural Gas
■重量車
天然ガス専用車
バイフューエル車
デュアルフューエル車
ハイブリッド車
圧縮天然ガスのみを燃料
とするタイプ
2つの燃料どちらでも
走行可能なタイプ
2つの燃料を混合する
タイプ
(天然ガス+軽油)
天然ガスエンジンに電
気モーターなどを組み
合わせるタイプ
ガシリン
エンジン
ベース車
ディーゼル
エンジン
ベース車
(天然ガス/ガソリン
・LPG)
・単位:g/km
3.0
2.9
5
16
4
15
10
2.0
7.4
3
1.69
2
1.0
5
4.5
3.7
0.44
1
0.05
①
②
CO
③
①
②
HC
③
0.01
①
②
③
NOx
①ディーゼル車規制値(D-13モード)
②天然ガス自動車の排出ガス技術指針(G-13モード)
③天然ガス自動車の排出ガス実測値例(G-13モード)
本ページ資料:社団法人 日本ガス協会
● 従来車と低公害車のCO2排出量(ガソリン車を100とした場合)
● 天然ガス自動車の安全性
天然ガス自動車の構造は、基本的にガソリン、ディーゼル車などと同じであり、異なるのは燃料供給系だけで
す。
この天然ガスの燃料供給系には、過流防止弁、安全弁、主止弁などの安全装置が取付けられており、ガス容器、
配管・継手、機器類はすべて厳しい規格に適合したものを使用しています。また、ガス容器、遮断弁等の重要部
品は、衝突の際に直接損傷することのない位置に設置されていることから、通常の自動車に対して同等以上の
安全性が確保されています。
海外では、既に200万台以上の天然ガス自動車が、一般車として普通に走行しており、確かな安全性が実証さ
れています。
たとえ、天然ガス自動車が事故に遭遇したとしても、使用部品や装置の機能により、以下のように十分な安全
が確保されます。
ガソリン車
ディーゼル車
電気自動車
天然ガス自動車
ハイブリッド車
(ガソリン)
ハイブリッド車
(ディーゼル)
メタノール車
(1)衝突の場合
LPG車
0
20
40
60
エネルギー製造・輸送時
(%)
80
100
120 (%)
走行時
(%)
(資料:
「新エネルギー導入基礎調査
(4)
」H9.
3 (財)
新エネルギー財団)
(2)実用車としてあらゆる分野で活躍中
・バス、塵芥車や配送トラックなどディーゼル代替分野、バン、軽自動車、乗用車、フォークリフトなど
ガソリン代替分野のいずれでも、幅広く活躍しています。
(3)優れた走行性能
・走行性能や燃費はガソリン車やディーゼル車など従来車と同等です。
・オクタン価がガソリン等より高く(メタンのオクタン価は130程度)、エンジンの圧縮比を上げて効率
を高めることができます。
・気体燃料であるため、冬場でもエンジンスタートがスムーズです。
・ディーゼルエンジンと比べた場合、騒音・振動が大幅に改善され、優れた静粛性を発揮します。
(4)走行距離
①燃料供給システム
燃料配管系には、ステンレス鋼製管等を使用しており、衝突による曲げ、扁平等の変形においても、折
損等が発生する可能性はまずありません。また接合部の強度も配管自体と同等以上であり、配管と同様
に折損等の可能性はまずありません。衝突により万が一燃料配管系に折損等が生じた場合には、エンジ
ンの停止又は電源の喪失により、ガス容器近傍の主止弁が閉止し、燃料の供給が停止されます。また、容
器近傍の配管の折損時にはガス容器元弁に組み込まれている過流防止弁が作動して、燃料の流出を防ぎ
ます。これにより、折損部から放出されるガスは、燃料配管系に貯まっている僅かな量だけとなり、これ
は空気より軽いため、滞留することなく速やかに上空に拡散します。
②ガス容器
ガス容器は、20MPaの高圧のガスを貯蔵することから、十分な強度を持つよう設計されており、車両を
構成する要素の中で最も強度の高いものです。
(財)日本自動車研究所等で行われた各種実験(追突テス
ト等)においても、変形、損傷等の異常は見られませんでした。
(2)火災の場合
火災時には、ガス容器元弁の安全弁が作動し、ガスは安全に大気中に放出され、圧力上昇によるガス容器
の破裂はありません。また放出されたガスは、噴出速度が速いため大部分が着火せず、さらに空気より軽い
ため滞留することなく、速やかに上空に拡散します。
・一充填当たりの走行距離は300km程度で、日常の使用では問題ありません。最近では、FRP容器や
オールコンポジット容器など軽量容器を採用し、搭載本数を増やすことで、従来車とほぼ同等の走行
距離を確保できるようになりました。
(5)車両重量
・FRP容器やオールコンポジット容器など軽量容器の開発・採用により、乗車定員、積載量は従来車
とほぼ変わらなくなりました。
本ページ資料:社団法人 日本ガス協会
2 天然ガス自動車DATA
● 圧縮天然ガス充填設備
② 小型充填機(昇圧供給装置)
天然ガス自動車へガスを充填する設備の主なものに、急速充填設備と小型充填機(昇圧供給装置)があります。
自動車と原則的に1対1または2対1で設置する小型の燃
料供給装置で、ガスを自動車の最高充填圧力まで昇圧し、自
動車に供給する装置です。一般の家庭に引かれているガス管
に接続すれば、家庭でも使用できます。取り扱いも簡単で、誰
にでも操作できます。
高圧のガスを貯める蓄ガス器を持たないため充填には数時
間程度かかりますが、無人運転が可能で利用できる天然ガス
スタンドが近くに無い場合や、少数の天然ガス自動車を運用
する事業者等に適しています。本体は圧縮機、充填ホース等
で構成されています。
海外では、小型充填機(昇圧供給装置)はアメリカ、カナダを
中心に数千台規模で普及しています。
① 急速充填設備
天然ガス自動車へのガス充填を、ガソリンスタンドと同様に、
1台あたり数分間で行うことのできる充填設備で、一般車両
へガスを販売するスタンド(エコ・ステーション等)や、多く
の車両を有する事業所の専用スタンド(ガス車両基地のス
タンド等)に適しています。主な設備として、圧縮機、蓄ガ
ス器、ディスペンサーで構成されています。大容量の圧縮機
を用いて蓄ガス器なしで急速充填を行う方式もあります。以
下に機器構成例、レイアウト例を示します。
多くの急速充填設備が、エコ・ステーションや、専用スタンド
として建設されています。
▲ 急速充填設備全景(エコ・ステーション)
● 急速充填設備の機器構成例
●小型充填機(昇圧供給装置)の構造
C
可変圧蓄ガス器
吸入スナッパー
高圧蓄ガス器
②
G
③
天然ガス自動車
③ ディスペンサーユニット
①圧縮 機 ユニ ッ ト:ガス導管から受け入れたガスを自動車の最高充填圧力(20MPa)より
高い圧力(通常25MPa程度)まで圧縮機で圧縮します。
②蓄ガス器ユニット:圧縮されたガスを、急速充填が可能なように蓄えます。蓄ガス器を
2∼3段に分けて効率的な運用をはかる方式(カスケード方式)もあります。
③ディスペンサーユニット:蓄ガス器から自動車に充填するガスの流量制御と充填量の計量を行います。
導管
④
⑤
● 急速充填設備のレイアウト(例)
① オイルレスコンプレッサー(圧縮機):
低圧ガスを最高20MPaまで圧縮します。
② 施錠付上面カバー:
操作ボタンを保護し、いたずらを防止します。
④ 充填ホース:
コンプレッサーから車両充填口へガスを導きます。
⑤ 緊急分離カプラ:
万一、ホースをつないだまま車両が発進した場合に、
ホースを分離し、本体を保護し、ガスを遮断します。
⑥ モーター:コンプレッサーを駆動します。
主要設備の設置基準
・圧縮機、蓄ガス器の敷地境界からの距離
地上式
①
③ 吸入遮断弁:停止中に吸入ガスの遮断をします。
P/M
② 蓄ガス器ユニット
① 圧縮機ユニット
N
圧抜きライン
ガス圧縮機
G.M.
▲小型充填機(昇圧供給装置)
⑥⑦
障壁あり:0m以上
障壁なし:6m以上
⑦ ブローダウンタンク:
充填後、ホース内のガスを回収します。
地下式:0m以上
・ディスペンサーと公道の距離:5m以上
・火気取扱施設からの距離:4m(障壁により緩和可能)
地下室換気吸気ダクト
障壁
6mの範囲を遮へい
敷地外へのガス拡散
を防止
管理室
放散塔
リーダープリンター
蓄ガス器
ガスメーターユニット
敷地境界からの隔離距離
圧縮機
蓄ガス器
制御盤
UPS
地下室換気吸気ダクト
火気取扱施設隔離距離
ディスペンサー
M
トレンチ
防火壁
(2m以上)
4m
6m
地下室換気ファン
ディスペンサー
地下貯水槽
5m以上
脱湿器
ガス圧縮機
散水エンジンポンプ
スナッパータンク
敷地境界
道路
〔敷地境界に障壁を設けた地上式の例〕
境界に適切な障壁を設けることにより蓄ガス器、
圧縮機を境界ギリギリの位置に設置できます。
〔地下室の例〕
地下室にすることにより狭い敷地にも天然ガス充填設備を設けることができます。
本ページ資料:社団法人 日本ガス協会
● ③ その他の充填設備
(1)マザー・ドーター式充填設備
ガス導管が通じていない地域で天然ガススタンドを運営するため、原料となるガスを既存の急速充填所(マ
ザーステーション)で容器に充填し、これを現地の天然ガススタンド(ドーターステーション)にトレーラー
で輸送し、そこから各自動車に充填する方式の充填設備です。
①
マザーステーション
③
①
ドーターステーション
▲ ニュージーランドマザー・ドーター式 充 填 設 備
④
②
①カードルトレーラー:マザーステーションでガスを充填し、
ドーターステーションに運搬します
②圧縮機
:カードルのガスをドーターステー
ションの蓄ガス器へ移します。
③蓄ガス器
:カードルのガスを受け入れます
④ディスペンサー
:制御弁、流量計を内蔵
▲ マザー・ドーター式充填設備フロー図例
(2)大型時間充填設備(トリックルステーション)
1台または複数台の圧縮機で、複数台の自動車(通常数十台)に同時に充填できる時間充填設備です。急速
充填設備よりシステムが簡単ですが、蓄ガス器を持たないため、一般に充填時間は長くなります。
②
③
④
⑤ ⑥
GM
①
①ガス導管
②ガスメーター
▲ オーストラリア 大型時間充填設備
:充填所の使用ガス量を測定します
③吸入スナッパータンク:圧縮機の脈動を防止します
④圧縮機
:最高吐出力20MPa
⑤アフタークーラー
:吐出ガスを冷却します
⑥ヘッダー
:充填ホースにガスを分配します
▲ 大型時間充填設備のフロー図例
本ページ資料:社団法人 日本ガス協会