日本のメディアコンテンツ輸出の現状と課題

日本のメディアコンテンツ輸出の現状と課題
株式会社メディア開発綜研
主任研究員 浅利光昭
Abstract;
Export of Japanese contents such as Hallo Kitty and DORAEMON, POKEMON
spreads rapidly. This appears for the arrival of digitization society, diversification of media business,
and there is it. This expansion advanced rapidly after 1990.Korea and Taiwan, China are in
particular extremely important as an export partner of contents. The top of the amount of export
from Japan is a Console game industry. An export amount of money for Asia is about 20billion yen.
Recently, as well as the export of contents, joint production and talented person interchange,
new business partnership including M&A become active, too. This builds new relation over contents
between Korea, China, Taiwan.
On the other hand, it remains criticism for culture imperialism and illegal copy products.
Furthermore, it brings about a new problem by the spread of Internet.
The digitalized contents which use advanced digital technology such as online game industry, it
brings about a new problem that is rise of industrial protection policy aimed for computer industry
upbringing of an own country.
【keyword】Diversification of media business, Digitalization, Transformation of protection policy
第 1 節 市場規模算定の枠組み
ポケモンやドラえもん、クロサワ映画を代表とする日本製コンテンツの海外進出は、
1990 年以降に顕著にみられるメディアのデジタル化、ネットワーク化、さらにはコンテン
ツそのもののマルチユース化といった流れの中で、さまざまな領域へと進められている。
当初は、日本語という言語の壁や、
「日本人」という欧米ではなじみの薄い顔立ちなどによ
りコンテンツへの親和性が薄いといわれていたが、家庭用ゲームやアニメーションなど、
比較的国籍の面で障壁の低いコンテンツ産業から次第に海外市場を築き始めている。
こうした状況を目の当たりにして、政府は、2001 年 8 月に「知的財産国家戦略フォーラ
ム」を発足させ、本格的な知的財産立国に向けた政策を打ち出した。この流れは、知的財
産戦略大綱1(2002 年 7 月)
、知的財産推進計画2(2003 年より毎年発表)
、そしてコンテン
1
首相官邸ホームページ(http://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki/kettei/020703taikou.html)参照
2005 年 6 月 10 日、知的財産戦略本部は「知的財産推進計画 2005」
(http://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/kettei/050610.html)を
発表した。第 4 章「コンテンツをいかした文化創造国家への取組」において、アジアとの連携を図る取り組みとして、
「アジ
アコンテンツ産業セミナー」の開催(外務省、経済産業省)及び「アジアコンテンツビジネス研究会」の発足(経済産業省)
を打ち出した。
2
1
ツ振興法3(2004 年 5 月に衆議院で成立)へとつながった。与党4や経団連5などもこの動き
に呼応し、知的財産としてのコンテンツ産業の振興、さらに海外展開の促進といった動き
がここ数年で加速している。
日本のコンテンツ輸出は、その形態が作品そのものの輸出(翻訳等簡単な加工・処理さ
れたコンテンツを含む)から、コンテンツを基にしたフォーマット権やリメイク権など権
利ビジネスの輸出が活発化するなど、その形態が非常に多様化している。またハリウッド
等では日本人クリエイターが作品の重要な部分に携わるなど、人的交流も非常に活発であ
る。資金の面では、日本企業による海外コンテンツ事業への出資だけではなく、日本のコ
ンテンツに対して海外の資本が参加するケースも増えている。
こうした事情を考慮すれば、コンテンツの輸出入は商品貿易の側面だけではなく、サー
ビス貿易としての側面も非常に大きい。しかしながら日本において、このような枠組みに
対応する統計及び指標等の整備が非常に遅れており、現状としてこれらの市場規模を性格
に把握することは非常に難しい。
したがって今回の推計は、劇映画、音楽、ゲームの 3 分野について、比較的枠組みの正
確な「モノ」の輸出状況を基本とし、日本製コンテンツの海外市場を推計するものとする。
基礎となる統計資料は、財務省「日本貿易統計」を使用し、このカテゴリーに準じたメデ
ィア(ハード、ソフト)からそれぞれの市場規模を推計する。これに加え、いわゆる権利
ビジネスやライブエンタテインメント(興行ビジネス)などについては、別途各業界団体
による公表資料などを総合的に加味して市場規模の推計を行う。その上で、日本のコンテ
ンツ産業の輸出に関する課題を指摘する。
第 2 節 各コンテンツ産業の輸出額
(1)音楽産業
日本の音楽コンテンツの海外向け市場は、主に、①音楽レコード及びディスク製品の輸
出、②音楽コンテンツの使用権及び複製権等権利使用に対する音楽使用料の 2 つから構成
される6。音楽使用料はその用途により、演奏(ライブ及び放送等)と録音(ディスク録音
及び放送用録音等)に分けられる。
音楽レコード及びディスク製品の輸出額7は、財務省「日本貿易統計」で把握することが
3
衆議院ホームページ(http://www.shugiin.go.jp/itdb_housei.nsf/html/housei/15920040604081.htm?OpenDocument)参照。
自民党(経済産業部会知的財産政策小委員会 著作権に関するワーキングチーム)による「知的財産立国」に向けた著作権
戦略「5 つの提言」
(2004 年 1 月発表)など。自民党ホームページ(http://www.jimin.jp/jimin/saishin04/pdf/seisaku-001.pdf)参照。
5
(社)日本経済団体連合会(経団連)は、2003 年 8 月に「エンターテインメント・コンテンツ産業部会(部会長:依田巽エ
イベックス会長(当時)
)を設置した。同部会は、2003 年 11 月に「エンターテインメント・コンテンツ産業の振興に向けて」
「東京国際映画祭」開催時に
(http://www.jimin.jp/jimin/saishin04/pdf/seisaku-001.pdf)を発表した。経団連は、2004 年 10 月に、
劇映画を中心とするコンテンツ流通の促進を意図した見本市として「東京国際エンタテインメントマーケット 2004(Entama)
」
(2004 年 10 月 23 日~24 日)を開催した。
6
この他に海外でのライブ公演(興行)における実演家に対するギャランティやマネジメント会社に対するマネジメントフィ
ーなどが発生するが、統計上の補足が難しいため今回は除外している。
7
本章では、音楽レコード及びディスク製品として、輸出品別表の品目番号のうち、8524.10-000(蓄音機用レコード)
、8524.32-000
4
2
できる8。日本貿易統計によると、2004 年の音楽レコードの海外向け市場は、25 億 5,700
万円であった。日本国内の音楽レコード市場の縮小も影響して、海外向け市場も年々大幅
に減少している。また世界展開を意図するアーティストが日本のレコード会社ではなく、
海外進出に有利な海外メジャーレーベルと直接契約することが増えている点も、日本から
の輸出を減らしている原因と指摘する声もある。
輸出先を見ると、米国がトップで 12 億 3,700 万円(構成比 48.4%)と市場のほぼ半数を
占めている。次に香港(7 億 5,500 万円)
、台湾(3 億 1,900 万円)と続く。他の東アジア諸
国では、韓国が 1 億 4,100 万円9、中国が 700 万円10であった。中国市場の場合、直接中国
への輸出という形態ではなく、香港経由での輸出というものも相当数含まれるといわれて
いる。
図表 1 音楽レコードの輸出額
4,000
(百万円)
合計
音楽ディスク
蓄音機用レコード
3,359
2,928
3,000
2,928
2,738
2,557
2,000
3,350
2,916
2,896
13
2001
32
2,714
2,485
24
2003
72
1,000
0
9
2000
2002
2004 (年)
〔財務省「日本貿易統計」各年調査結果を基に作成〕
図表 2 音楽レコード及びディスク製品の輸出先上位(2004 年)
(レーザー読出しシステム用のディスク(音声のみの再生用のもの)
)
、8524.99-100(ディジタルオーディオディスク(その他
のもの)
)を採用した。この他にオーディオ磁気テープ(音楽用カセットテープ)が含まれるが、輸出品別表上の分類で磁気
テープで同様の種別が存在しないため、市場推計から除いている。ちなみに音楽用カセットテープが含まれる 8524.51-000(そ
の他の磁気テープ(幅が 4mm以下のもの)
(記録したもの)
)の輸出額は、2 億 3,946 万円(2003 年)であった。
8
財務省「日本貿易統計」による輸出額は、出版物等と同じように、20 万円の少額貨物や見本品、旅客用品(手荷物を含む)
、
博覧会、展覧会、見本市への出品貨物は含まれていない
9
2004 年の韓国からの輸入額は 3 億 2,100 万円(前年比 152%)であった。
10
2004 年の中国からの輸入額は 2,500 万円(前年比 170%)
、香港からの輸入額は 14 億 9,900 万円(同 133%)であった。
3
国名
金額(百万円)
構成比(%)
参考:数量(千枚)
米国
1,237
48.4
1,030
香港
755
29.5
679
台湾
319
12.5
395
フランス
196
7.7
130
韓国
141
5.5
72
〔日本関税協会(2004)
「日本貿易月表」を基に作成〕
また音楽使用料については、日本音楽著作権協会(JASRAC)の公表資料で、ほぼその
全体像を把握することができる。
JASRACによると、2004 年度の海外での音楽使用料は、演奏使用が 4 億 3,712 万円、録
音使用が 1 億 984 万円、合計 5 億 4,696 万円であった。近年では、海外でのアニメ放映及
びビデオソフト化、ゲームソフトのヒットによって音楽使用料も増加する傾向にある11。
図表 3 海外音楽使用料の推移
70,000
(万円)
演奏
66,820
録音
合計
12,948
60,000
50,000
46,449
3,234
43,605
40,000
7,504
55,484
54,696
11,377
10,984
44,106
43,712
2003
2004
38,082
4,907
30,000
53,872
20,000
43,215
36,100
33,175
10,000
0
1999
2000
2001
2002
(年度)
〔日本音楽著作権協会公表資料を基に作成〕
音楽著作権管理業務について、韓国の管理団体KOMCAとJASRACは、相互管理契約を
締結していないため、両国の楽曲関連の著作権管理を進める上で問題となっている12。
11
平成 16 年度の海外入金分配額 1 位は「ポケットモンスターBGM」
(作曲者:宮崎慎二、音楽出版 株式会社テレビ東京ミュ
ージック、株式会社メディアファクトリー、株式会社小学館ミュージックアンドデジタルエンタテイメント)であった。
12
中国の管理団体MCSCとJASRACは、1996 年に演奏権、2003 年に録音権の相互管理契約を締結している。
4
(2)映画産業
日本の映画関連コンテンツの輸出は、①映画フィルムの輸出、②配給権、興行権、キャ
ラクター権など映像作品に付随する権利ビジネスとしての輸出、③配給及び興行を含めた
サービス貿易としての輸出などに分類できる。
日本の劇映画作品の海外市場は、映画フィルムの輸出(製品としての輸出)13と、海外
上映権及び海外配給権、キャラクター商品化権などで得た収入の 2 つのレイヤーが存在す
る。ここでは劇映画ビジネスの実態に近い、上映権等を含む劇映画作品の海外市場をみる
こととする。同市場は、社団法人日本映画製作者連盟が、同連盟加盟社(東宝、東映、松
竹、角川)及びグループ会社の輸出実績をまとめたものを公表している。
同調査によると、2003 年の日本映画の輸出額は、6,957 万ドルであった。2001 年の 8,083
万ドルをピークに14、ここ 3 年は 6 千∼7 千万ドルを維持している15。ジャンル別では、米
国や仏国でヒットした「千と千尋の神隠し」など依然としてアニメ作品が多いものの、
「着
信アリ」
「バトル・ロワイヤル」
「座頭市」などの実写作品も多く輸出されている。
図表 4 日本映画の輸出額
10,000
(万ドル)
8,083
8,000
7,009
6,000
6,957
6,601
5,953
4,000
2,000
0
2000
2001
2002
2003
2004 (年)
(注)国内の映画輸出会社を対象(日本映画製作者連盟加盟社及びグループ会社のみの数値)
〔時事映画通信社(2005)
『2005 映画年鑑』を基に作成〕
日本映画製作者連盟によると、2004 年の日本における外国映画(洋画)市場は 1,318 億
13
財務省「日本貿易統計」では、品目番号 3706.10-000(映画用フィルム(露光し、かつ現像したもの)
(幅が 35mm以上のも
の)
)及び 3706.90-000(映画用フィルム(露光し、かつ現像したもの)
(幅が 35mm未満のもの)
)の輸出実績を示している。
これによると、2003 年の映画フィルムの輸出額は 2 億 329 万円であった。
14
同年は米国で公開されたポケットモンスター劇場版のヒットの影響が大きい。このようにヒット作の有無で市場が上下する
が、
「映画館で一般公開される本数ベースでは着実に輸出は増えている」とのことである。
15
2005 年 2 月に日本映画製作者連盟が公表した 2004 年の日本映画の輸出額は 6,601 万 4 千ドルであった。
5
6,000 万円(前年比 96.9%)であった。2004 年に日本で公開された東アジア地域製作映画
では、
「LOVERS」
(中国)が 22.5 億円でトップの興行収入を記録している。ちなみに 2004
年に輸入された劇映画を国別にみると16、韓国が 29 本、香港が 10 本、中国が 7 本であっ
た17。
図表 5 東アジア地域製作劇映画の興行成績上位作品(2000 年以降)
タイトル
年
製作国
配給
興行収入(億円)
シュリ
2000
韓国
シネカノン/アミューズ
18.5
JSA
2001
韓国
シネカノン/アミューズ
11.6
少林サッカー
2002
香港
GAGA/HUMAX
28.0
HERO
2003
中国
WB
40.5
LOVERS
2004
中国
WB
22.0
〔社団法人日本映画製作者連盟資料を基に作成〕
16
複数国による共同製作作品を除く。
社団法人外国映画輸入配給協会ホームページ(http://www.gaihai.jp/16kunibetu.pdf)より引用
17
6
(3)ゲーム産業
ゲーム産業の海外向け市場規模は、社団法人コンピュータエンターテインメント協会
(CESA)が毎年「国内・海外別ゲーム出荷金額規模」として発表している。これは、日
本国内で生産されたハードウェア及びソフトウェア製品の海外向け出荷金額をまとめたも
のである。同調査では、2003 年のゲームソフトウェア及びハードウェアの海外総出荷金額
は 7,853 億 81 百万円であった。総出荷金額のうち海外が占める割合は 69.2%であった。
ハード、ソフト別の市場動向をみると、ハードウェアが 5,861 億 22 百万円、ソフトウェ
アが 1,992 億 59 百万円であった。海外輸出市場においても、ハード、ソフトともに前年を
10%程度下回る大幅な減少となった。これは、プレイステーション 2(SCE)以降の新機種
投入がなかったためハードウェア市場が大幅に縮小したこと、ソフトウェアの新作ヒット
が少なかったことがあげられる。海外出荷額が市場全体に占める割合は、ハードウェアが
83.2%、ソフトウェアが 46.4%であった。ハードウェアはほぼ国内からの輸出に依存してい
る一方で、ソフトウェアは現地でのゲームニーズに応えるため、現地のライセンシーが開
発に取り組むことが中心となるためである。
図表 6 海外向けゲーム出荷金額規模
1,200,000
(百万円)
ハード
1,000,000
ソフト
合計
972,171
873,529
800,000
253,229
785,381
225,513
199,259
600,000
400,000
718,942
648,016
586,122
200,000
0
2001
2002
2003
(年)
〔社団法人コンピュータエンターテインメント協会(2004)
『2004CESA ゲーム白書』を基
に作成〕
ハードウェア機種別に海外市場の動向をみると、コンソール型ではプレイステーション
2(3,041 億 48 百万円)が、携帯型ではゲームボーイアドバンス SP(1,520 億円)が上位を
7
占めている。プレイステーションが全体の約 5 割、ゲームボーイアドバンス SP が約 25%
を占めており、この 2 機種が海外市場の中核となっている。
ゲームソフトの海外総出荷額をハードウェア機種別にみると、任天堂系(ゲームキュー
ブ、ゲームボーイシリーズなど)の出荷、金額が比較的多くなっている。これは、同社の
ゲームソフトシリーズは、子供が好むソフトウェアの趣向を世界的規模で捉え、子供向け
にカスタマイズしたソフトを数多く提供しているためである。一方、SCE のプレイステー
ションシリーズは、プレイヤーの年齢層をやや高めに設定しているため、それぞれの国(地
域)で趣向が異なるプレイヤーに対処する必要がある。そのため日本でヒットしたソフト
ウェアが世界的なヒットになることは少ない。
そのため SCE では、SCE アメリカなど系列の現地法人や、現地のゲームソフトハウスに
ソフト開発を依託し、販売を行っているため、日本からの海外出荷額は比較的少ない。
図表 7 ハードウェア機種別ソフトウェア海外出荷金額(2003 年)
据置型
携帯型
出荷本数
構成比
出荷金額
構成比
(千本)
(%)
(百万円)
(%)
プレイステーション 2
13,530
11.7
28,064
14.1
プレイステーション
1,780
1.5
2,260
1.1
ニンテンドーゲームキューブ
36,763
31.7
73,729
37.0
ニンテンドウ 64
0
0.0
0
0.0
ドリームキャスト
6
0.0
41
0.0
Xbox
3,376
2.9
6,541
3.3
小計
55,455
47.8
110,635
55.5
ゲームボーイアドバンス
58,354
50.3
83,978
42.1
ゲームボーイ(カラー含む)
2,210
1.9
4,647
2.3
小計
60,564
52.2
88,625
44.5
116,019
100.0
199,259
100.0
合計
〔社団法人コンピュータエンターテインメント協会(2004)
『2004CESA ゲーム白書』を基
に作成〕
地域別にみると、ハードウェア、ソフトウェアともに北米向けがトップとなっている。
ハードの約 56%(約 3,261 億円)
、ソフトの約 70%(約 1,396 億円)が同地域向けとなって
いる。今後成長が期待されるアジア・豪州向け市場は、ハードウェアが約 10%、ソフトウ
ェアが 11.4%となっている。
8
図表 8 ソフトウェアの海外出荷先(2003 年)
アジア・豪州向け
227億39百万円
(11.4%)
中南米向け
27百万円(0.0%)
ヨーロッパ向け
369億1百万円
(18.5%)
北米向け
1,395億92百万円
(70.1%)
〔社団法人コンピュータエンターテインメント協会(2004)
『2004CESA ゲーム白書』を基
に作成〕
ゲーム産業の海外向け市場は、他のコンテンツ産業と比較して圧倒的な規模を誇ってお
り、日本のコンテンツ産業における海外輸出市場の中核をなしている。これは、ハードウ
ェアとソフトウェアが一体でビジネススキームを構築するというゲーム専用機を中心とし
たゲーム産業のビジネスモデルがもたらした結果といえる。しかし輸出という側面から捉
えた日本製コンテンツと狭義に解釈すれば、任天堂と SCE でその方向性が異なるように、
ビジネスモデルによって今後の市場開拓並びに育成手法に差が生まれている。
一方で日本製ゲームソフトの中心は、ゲーム専用機(据置型、携帯型を問わず)による
ゲームコンテンツの開発、販売にノウハウがあった。しかし近年、韓国や台湾、中国のゲ
ーム産業がオンラインゲームを中心に動いており、それぞれ着実に市場を拡大させている
現状を考慮すれば、これら新たなテクノロジーやビジネスモデルに対応することも必要と
なるであろう。
日本においてオンラインゲームは、通信環境の整備の遅れや課金システムの確立などさ
まざまな問題で普及が進まずにいた。ただ、ここに来て、①ブロードバンドの普及に伴う
通信環境の整備、②課金決済システムの多様化、③広告モデルを含めたビジネスモデルの
確立等の要素が相まって、ようやく成功事例も増えつつある。今後は、日本で培ったゲー
ム専用機でのゲームと、韓国や中国で成功、発展したオンラインゲームのノウハウをいか
に結びつけるかが課題となるだろう。
9
第 3 節 日本のコンテンツ産業の輸出に関する課題
日本のコンテンツ産業の海外向け市場は、国内市場による収益でビジネスとしてほぼ完
結していたコンテンツ産業にとって必ずしも魅力的かつ重要なビジネス手段ではなかった。
その中で、国内市場のみに依拠するビジネスモデルでは産業的に厳しい状況にあったアニ
メーション産業が、ほぼ唯一、1960 年代から諸外国のテレビ放送に注目し、海外への輸出
に力を入れていた。
しかし、その後のメディアの多様化とデジタル化、さらには余暇時間の増大に伴うエン
タテインメントメディアの急速な普及により、ゲーム産業を始めとして、多くのコンテン
ツ産業にとって海外市場は国内市場と同等か、それ以上の価値を持つ産業も現れるように
なった。そのため、文化産業の領域でも国際競争力を重視し、検証のための指標化が求め
られてきた18。
まず文化産業における国際競争力の指標化を試みたのは、丸紅総合研究所による「日本
のGross National Cool」であった。2002 年 7 月に公表された同レポートによると、日本のコ
ンテンツ産業をベースとした知的財産による海外からの収益は 1 兆 4,526 億円であった。
また経済産業省は 2003 年に発表した「コンテンツ産業の現状と課題」で、貿易統計及び業
界団体による公表資料を基に、コンテンツ輸出額を 3,200 億円と推計している19。
これらの調査は、モノの流通をベースとしたコンテンツ産業の輸出額を推計したもので
ある。そのためキャラクター権やフォーマット販売など、いわゆる知的財産を基にした取
引は、完全にはこの市場に含まれていない20。そのためポケモンやハローキティ、ドラえ
もんといった日本のコンテンツ市場を包含的に捉えることは、統計上の制約から非常に困
難である。
さらにコンテンツの流通及び小売といった場面での日本製コンテンツの総合力を付加
価値的に捉えることも非常に重要であろう。そのためには、基礎となる統計整備及び調査
の充実が、日本におけるコンテンツ産業の輸出政策の評価を定める意味でも重要な意味を
持つと考えられる。
18
一例としてアニメやゲームなど、我が国発のコンテンツが海外で評価されていることを記した記事として、ダグラス・マッ
グレイ氏の「Japan’s Gross National Cool」
『Foreign Policy』2002 年が知られている。同記事の中で「GNC(Gross National Cool)
」
という指標を使い、その国のポップカルチャーの指標化を試みている。
19
このほか、欧米アジア 15 カ国を対象として、対象国のソフトパワーを指標化し、順位づけしたレポートとして、電通総研
(2002)
『ソフトパワー指数について』がある。同レポートによると、日本のソフトパワーは総合評価で第 6 位であった。
20
コンテンツ産業の権利取引やサービス取引については、完全ではないが、財務省「国際収支統計」のうち「文化・興行」で
把握することができる。同統計によると、2003 年の文化・興行の受取額は 164 億円であった。ちなみに収支差は 907 億円と
圧倒的に輸入超過状態にある。同分野に計上されるサービスとしては、報道用以外の映像・音響関連フィルム、テープ、レコ
ード等の制作費、賃貸借料、上・放映権料の支払、通信教育の講師等報酬、芸能人の出演料、プロスポーツ選手の報酬、協会・
クラブ・学会その他団体への入会金・会費、書籍代金、その他芸能・興行関連行事の費用等の受取などが含まれている。した
がって海外向け劇映画市場や、番組販売市場など一部重複している部分に留意する必要がある。
10