モチベーションのマネジメント

モチベーションのマネジメント
Copyright ©Masahiko Fujimoto
モチベーション理論の系譜
モチベーションとは、「組織の目的に積極的に貢献しようとする成員の意識的な動機づけのこと」
(占部都美編『経営学辞典』中央経済社)
主な内容(欲求)説
主な過程説
人間は何によって動機づけられるのかとい
う内容を重視する理論
人間はどのように動機づけられるのかという過
程(背景や個人の意図・関心)を重視する理論
欲求リスト
マレー
強化(オペラント条
件づけ)理論
スキナー
欲求階層モデル
マズロー
期待理論
ブルーム、ロウラー三世
ERGモデル
アルダファー
公平理論
アダムス
X理論・Y理論
マグレガー
職務特性モデル
ハックマン&オールダム
2要因モデル
ハーズバーグ
内発的動機付け
デシ
達成動機など
マクレランド
目標設定モデル
ロック
Copyright ©Masahiko Fujimoto
欲求階層モデル
A.H.マズローの「欲求階層モデル」
Cf. 行動主義心理学、精神分析心理
学に対する第3の「人間性心理学」
①人間は何らかの欲求をもち、②人間の行動はこうした欲求を満足させるためのプロセスで
あり、③一般にこれらの欲求は低次欲求から高次欲求へと下から順に階層を形成していく
メタ欲求
(
成長動機)
高次の欲求は、内面
から沸いて進化的に発
達し、主観的な幸福感
をもたらし個性を増幅
させる(緊急性は低く
なるが消失しやすい)
基本的欲求
(
欠乏動機)
相対的にある
程度満足した
りしなかった
りするが、動
機づけが可
能な領域
「人は、自分がなりうるものにならなければならない。人は、
自分自身の本性に忠実でなければならない。このような欲
求を自己実現欲求と呼ぶことができる」(同上、p.72)
⇒自分の存在価値に関係して才能や能力を十分に活用し
成長していること。
自己実現
の欲求
やりがい,成長感etc.
承認と自尊心の欲求
評価的インセンティブetc.
所属と愛の欲求
組織的アイデンティティetc.
安全の欲求
安定的な雇用保障etc.
生理的欲求
金銭的インセンティブetc.
出所)Maslow, A. H. (1954) Motivation and personality, Harper & Row
(小口忠彦訳『改訂新版 人間性の心理学』産能大学出版部、1987年)
Cf.欲求に階層構造を措定して低次元の欠乏欲求と高次元の自己実現欲求を峻別したが、実証的な検
証によって支持されることはなかった(坂下昭宣(1985) 『組織行動研究』白桃書房)。しかし、その後の理論
的研究における分析的フレームワークや人事労務管理の実践に多大な影響を与えた。
Copyright ©Masahiko Fujimoto
自己実現している人間とは(マズローの観察結果)
現実的な知覚
現実をしっかりと知覚して良好な関係を保っている
受容性
自分自身や他人をあるがままに受け入れる寛容さを持っている
自発性
常に行動が自発的で、緊張したり見栄を張ったりすることなく単純で自然な行動
課題中心的
自分自身の問題よりも何らかの使命感や達成すべき任務や課題にエネルギーを注ぐ
超然性
プライバシーを尊重し周囲に振り回されることなく自己統制している
自律性
周囲の環境から独立して能動的な意思をもっている
新鮮な認識
何事に対しても新鮮で純真な認識をすることに長けている
至高体験
己を忘れるような体験や自己超越を含むような神秘的で至高な経験をしている
共同社会感情
社会や人類との共存共栄を心から願っている
対人関係
心が広く深い対人関係をもっている
民主的性格
身分や階級などの権威を越えて、自分に相応しい人とは分け隔てなく親しくできる
倫理観
道徳的な基準をもって善悪の区別をきちんと行っている
ユーモア性
哲学的で悪意のないユーモアのセンスを持ち合わせている
創造性
発明家のように創造的で独創的な才能をもっている
文化の超越
周囲の文化と調和を保ちながらも完全に同一化されずにある種の内面的な超越をもつ
出所)Maslow, A. H. (1954) Motivation and personality, Harper & Row
(小口忠彦訳『改訂新版 人間性の心理学』産能大学出版部、1987年pp.221-272)より作成
Cf. 一般に若年者には見られず、完全な人間など存在しないように、誰もがこのような自己実現人間になれる
とは思わないだろう、とマズローは指摘している。 (pp.264-266)
Copyright ©Masahiko Fujimoto
X理論・Y理論
リーダーが抱く暗黙の人間性に関する仮定(D.マグレガー)
X理論
マズローの低次欲求に相当する「経済人モデル」
Y理論
マズローの高次欲求に相当する「自己実現人モデル」
普通の人間は本来的に仕事が嫌いで、もし出
来ることなら仕事はしたくない。
人間は仕事が嫌いであるから、組織目標を達
成させるためには、人間に対して強制したり、コン
トロールしたり、方向づけたり、脅かさなければな
らない。
普通の人間は、命令される方が好きで、責任を
回避したがり、あまり野心をもたず、何よりも安全
を望んでいる。
働いている時の生理的・心理的努力は、遊びや休養
の時のように自然である。
外からのコントロールと罰の脅威は、組織目標を達
成させるために人々を働かせる唯一の方法ではない。
人間は、自分の参加している組織の目標を達成するた
めに、自分で方向づけし、自分で制御するものである。
組織目標の達成に個人が参加する程度は、それを
達成して得られる自己実現欲求の満足度に比例して
いる。
普通の人は、適切な条件さえあれば、進んで責任を
負うものである。
たいていの人は、組織の問題を解くにあたって、かな
り高度の想像力、工夫、創造性を発揮するものである。
現代においては、平均的な人間の知的能力は、ほん
の一部しか生かされていない。
McGregor, D. (1960) The human side of enterprise, McGraw-Hill
(高橋達男訳『新版 企業の人間的側面』産能大学出版部、1970年)
Copyright ©Masahiko Fujimoto
ERGモデル
マズローの欲求階層説を部分的に修正したより複雑なモデル
マズローの欲求区分
生理的欲求
安全(物質的)欲求
安全(対人的)欲求
愛情・所属欲求
C.P.アルダファーの
ERG理論の欲求区分
生存欲求
(Existence)
関係欲求
(Relatedness)
尊厳(対人的)欲求
尊厳(自己確認的)欲求
自己実現欲求
成長欲求
(Growth)
7つの主要命題
P1. 生存欲求の満足が低いほど、それはよりいっそう希求される
P2. 関係欲求の満足が低いほど、生存欲求はよりいっそう希求される
P3. 生存欲求の満足が高いほど、関係欲求はよりいっそう希求される
P4. 関係欲求の満足が低いほど、それはよりいっそう希求される
P5. 成長欲求の満足が低いほど、関係欲求はよりいっそう希求される
P6. 関係欲求の満足が高いほど、成長欲求はよりいっそう希求される
P7. 成長欲求の満足が高いほど、それはよりいっそう希求される
出所)坂下昭宣(1985) 『組織行動研究』白桃書房、pp.27-29より作成
①これらの欲求は
必ずしも逐次的に
活性化するのでは
なく、同時的に活性
化することもあり、
②上位階層の欲求
の満足の欠如は、
下位階層の欲求の
強度ないし重要度
を増加させる
Copyright ©Masahiko Fujimoto
経済活動におけるモチベーションの実証研究
実証的研究に基づく仕事に関するモチベーション理論(D.C.マクレランド=“Mr. Achiever”)
達成動機:成功の報酬よりもそれを達成し成し遂げるために懸命に努力しようとする欲求
→責任が重いやりがいのある仕事を達成することに喜びを感じる(誰もがもつ学習可能な欲求)
(達成動機が高い人は成功確率が30%~50%の中程度のリスクを認識した場合に最も動機づけされる)
Cf. 回避動機(アトキンソン):成功への期待という「達成動機」は、失敗への恐れという「失敗回避欲求」によって
れるメカニズムが働く
常に抑制さ
権力動機:他人にインパクトを与え、影響力を行使してコントロールしたいという欲求
→責任の重い地位や身分を重視し、効率的な成果よりも他人への影響力の行使にこだわる
親和動機:友好的かつ密接な対人関係を結びたいという欲求
→友情を求め、協力を促す状況を好み、相互理解が必要な関係構築を望む
達成動機と経済成長の関係に関する実証研究(1961)
達成動機が経済成長の規定要因
M.ウェーバーの仮説にしたがって、人間の自立を価値あるものとするプロテスタント諸国とカトリック諸国の
電力消費量に象徴される経済発展は、前者が高いという有意差があることを実証した。また、プロテスタントと
カトリックが共存する西ドイツの少年は前者の方が達成動機が高いことから、宗教的観念体系は経済成長に
関連しており、それは達成動機の相違を媒介するという仮説を検証した。
1950年の世界各国の国語教科書から達成動機得点を算出し、電力生産増加量による経済成長との関連
を調査すると正の相関関係が導出され、達成動機を高めるような教育が経済成長を促進させると主張。また、
古代ギリシャ時代において経済的興隆期は達成動機が最も高かった時期の後に起こり、経済的衰退期は達
成動機が低下後に起こり、達成動機水準は常に経済成長に先行していたと主張
(川瀬良美「達成動機研究の展開」宮本美沙子、奈須正裕編(1995) 『達成動機の理論と展開』金子書房、pp.23-28)
Cf.マレーの「欲求リスト」の流れを継承し、実証的な欲求系モチベーション研究の創始者として位置付けられる。
また、これらの動機は教育訓練によって学習可能なものでそのプログラムも開発した点が、高く評価されている。
(林伸二(2000) 『組織心理学』白桃書房、pp.125-128)
Copyright ©Masahiko Fujimoto
マネジャーの動機と組織的パフォーマンスとの関係
 良いマネジャーとはどのような動機が強く働いているのか
by米国企業の販売部門での実証研究
良いマネジャーとは、部下の能力を助長して責任感をもたせ、優れた成果に対して適切な報酬を与え、
部下が何をしなければいけないのかということを自覚させるように物事が組織化されるように取り計らう
 達成動機型マネジャー:
達成動機が強いだけでは部下を上手くマネジメントして組織的なパフォーマンスを高められるとは限らない
 親和動機型マネジャー:
誰とでも良い関係を維持しようとするが故に、特別な要求も例外的に扱ってしまう
→部下は上司がルールに対して公平でないと感じてモラールが低下してパフォーマンスが落ちる
 権力動機型マネジャー:
最も高いパフォーマンスを発揮するが、利己的な権力動機ではなく自己抑制的な組織的な権力動機に限る
• 組織的権力型マネジャー(institutional managers):親和動機よりも権力動機は高いが、自己抑制が働く
• 利己的権力型マネジャー(personal-power managers):親和動機よりも権力動機は高いが、自己抑制が
低い
※ただし、動機が組織的な権力志向であっても、行動スタイルは専制的ではなく民主的であることが不可欠
部下の状況
親和動機型
利己的権力動機型
組織的権力型
低い
中程度
高い
組織目標の自覚
中程度
中程度
高い
チーム精神
中程度
高い
高い
責任感
出所)McClleland, D. C., Burnham, D. (1976) “Power is the Great Motivator,” Harvard Business Review,
pp.160-173; 再掲McClelland, D. C. and Burnham, D. H. (2003) “Power Is the Great Motivator,” Harvard
Business Review Vol.81,pp.117-126を参照して作成
Copyright ©Masahiko Fujimoto
2要因理論(衛生要因と動機づけ要因)
ピッツバーグの技師と会計士(約200名)の面接調査(ハーズバーグ,1966)
40
低感情
30
20
10
0
10
態度変化が
短期間で表われる
30
40
高感情
承認
態度変化が
長期間で表われる
仕事そのもの
※箱の長さ:要因の出現頻度
※箱の幅:特定の職務態度が持続した期間
職務不満足の要因
「衛生要因」
20
達成
責任
職務満足の要因
「動機づけ要因」
昇進
会社の政策と経営
監督技術
給与
職務充実の必要性
対人関係-上役
出所)F.ハーズバーグ(1968、原著:1966) 『仕事と
人間性』東洋経済新報社、p.86を一部加筆修正
作業条件
Cf.臨界事象法による職務態度調査の結果から帰納的に導出されたもので、動機づけ要因に関係する「職務充実」による職務
の再設計の重要性を提唱した。しかし、職務上のきわだった好感情または悪感情の経験を回想するための構造化された面接
質問結果のコード化という調査手法に関する批判や、モチベーションと満足を概念的に区別していないという批判がある。
(坂下昭宣(1985) 『組織行動研究』白桃書房、pp.35-47)
Copyright ©Masahiko Fujimoto
主な欲求理論のまとめ
マズローの分類
(階層的)
生理的欲求
アルダファーの分類
生存の欲求
安全欲求(物質的)
安全欲求(対人関係)
親和、愛、社会的欲求
自尊欲求(他の人からの
フィードバック)
自尊(自己確認的活動)
自己実現
マクレランドの欲求
関係性の欲求
成長欲求
ハーズバーグの要因
(階層性が暗示されている)
衛生要因
労働条件
支配
給料と福利厚生
監督
親和
仲間
達成
動機づけ
要因
昇任
昇進
責任増加
やりがいのある仕事
出所)Schein, E.H. (1980) Organizational psychology, Prentice Hall(松井賚夫訳『組織心理学 原書第3版』岩波書店、1981年、p.95
Copyright ©Masahiko Fujimoto
行動主義心理学における強化理論(オペラント条件づけ)
強化理論(オペラント条件づけ理論)
生物は外部からの刺激(S)に対して何らかの反応(R)が起こすという前提に立つと、
人間の行動は、動物と同様に、報酬と処罰によって制御コントロールすることができる
B.F.スキナー(1938)らの行動主義的学習理論である「オペラント条件づけ理論」(環境を
操作して行動を変容・制御するプロセス)の応用であり、「行動は報酬(正の強化因子)と
処罰(負の強化因子)に支配される」という仮説に基づく。ただし、賃金などの一部の報酬
によるモチベーション効果に限定される。
林伸二(2000) 『組織心理学』白桃書房、pp.138-143を参照
Copyright ©Masahiko Fujimoto
期待理論
V.H.ブルームの期待理論
行為i を遂行する
よう作用する力
=
行為i が結果j を
もたらすとの期待
結果j の
× 誘意性
ヴィクターH.ヴルーム(1982、原著:1964)『仕事とモィベーション』千倉書房,p.31より加筆修正
動機づけの力(Force)=期待(Expectancy)×Σ{道具性(Instrumentality)×誘意性(Valence)}
期待(E):ある行為が特定の成果をもたらすであろうという見込み(主観的確率)「0~1」
道具性(I):特定の行為が第2次結果をもたらす主観的確率「0~1」
誘意性(V):特定の結果や成果に対する価値あるいは主観的な魅力の度合(主観的魅力)「+1~-1」
(南隆男ほか(1993) 『組織・職務と人間行動』ぎょうせい、pp.55-57を参照)
E.E.ロウラ-三世の期待モデル
業績達成の見込み(努力E
が業績Pをもたらす期待)
業績と報酬の関係(業績Pが
成果(報酬)Oをもたらす期待)
報酬の魅力(成果(報
酬)Oの誘意性)
Σ
E→P
×
Σ[(P→O)×(V)]
努力
受くべきだと認知された給与額
の知覚
業績
報酬
満足感
出所)Lawler, E. E. (1971) Pay and organizational effectiveness: a psychological view, McGraw-Hill Education
(安藤瑞夫訳『給与と組織効率』ダイヤモンド社、1972年p.376)より一部改編
欠勤、移
動、職務不
満、ストライ
キ、苦情
Copyright ©Masahiko Fujimoto
公平理論(J.S.アダムス et al.)
人間の公平(公正)感に関する認知的不協和を解消しようとする行動プロセスによってモチベーションを解明
する理論
前提①人間は認知的不協和を解消するためのモチベーションが生じ、
前提②このモチベーションは不協和の認知の大きさにしたがって強化される
基本的な態度
態度と遂行の効果
(時間給)
態度と遂行の効果
(出来高給)
過少報酬(不公平):
自分の割合<他人の割合
不満足
生産の量的低下
生産の質的低下と量的増大
※検証データあり
※検証データあり
※検証データあり
公平報酬(公平):
自分の割合=他人の割合
※検証データあり
過多報酬(不公平):
自分の割合>他人の割合
罪の意識
生産の量的増大
生産の質的向上と量的低下
※検証データなし
※検証データあるが、他理論でも
説明可
※検証データあるが、他理論でも説
明可
満足
出所)坂下昭宣(1985) 『組織行動研究』白桃書房、p.62より作成
自分の割合=職務に対する自分のアウトプット
職務に対する自分のインプット
他人の割合= 職務に対する他人のアウトプット
職務に対する他人のインプット
アウトプット:給料、地位、担当職務の特徴(やりがい、責任、権限など)、フリンジ・ベネフィットなどの広義の報酬
インプット:努力、年齢、学歴、勤続年数、職歴、過去の成果(業績)、仕事や組織に対する情意(愛情、意欲、忠
誠心など)
林伸二『組織心理学』白桃書房、2000、p.136を参照
Copyright ©Masahiko Fujimoto
職務満足をもたらす職務の特性とは何か?
職務満足
の可能性 =
V:多様
な技能が
必要
+
I:一人で
完結する
+
S:重要
だと思え
る
×
3
A:自律
的
×
F:フィード
バックが
得られる
①技能多様性(skill Variety):多くの異なるスキルや才能を活用できるような多様な活動か否か
○広い例:自動車会社のオーナー兼修理工(電気やエンジン修理から顧客との交渉まで)
×狭い例:自動車修理工の作業員として1日8時間のペンキスプレー作業
②タスク完結性(task Identity):全体的な仕事としてのアイデンティティを認識できる仕事か否か
○高い例:キャビネットの製作者で、木材の選択から家具のデザインや製作までの完成を任される
×低い例:家具工場で働き、テーブルの足だけを製作する
③タスク重要性(task Significance):他の人々の生活や仕事にどの程度重要な影響を与えるか否か
○高い例:病院の集中治療で病人の看護を行う
×低い例:病院の床を掃除する
④自律性(Autonomy):業務遂行のスケジュールや手順に関してどの程度の自由度を持つか否か
○高い例:電話の設置担当者で、その日の仕事の段取りから設置方法までを自分で決定する
×低い例:電話のオペレーターで、ルーティン化された手順で電話応対するだけ
⑤フィードバック(Feedback):仕事の成果について直接的で明確な情報をどれだけ得られるか否か
○強い例:電子工場の作業員で、ラジオを組み立てテストして正常に作動するかどうかを確認する
×弱い例:電子工場の作業員で、ラジオを組み立て品質管理の上司に渡して必要な調整を行う
金井壽宏(1999) 『経営組織』日本経済新聞社、53-57頁; ステファン.P.ロビンス(1997:原著1997) 『組織行動のマネジ
メント』ダイヤモンド社、pp.324-326を参照
Copyright ©Masahiko Fujimoto
JDSによる職務特性診断(本人用:Job Rating Form)
あなた自身の仕事に関して、下 の選択肢から該当する点数を白い空欄のセルにつけてください
全くあてはまらない ほとんどあてはまらない ややあてはまらない どちらともいえない ややあてはまる ほとんどあてはまる とてもあてはまる
1 2 3 4 5 6 7
No. Job Rating Form
V
I
S A
F
1 その仕事は、どのように遂行するかということについて、自分で決定する余地が大きい
2 その仕事は、工程の一部分ではなく、最初から最後までの全体的な工程を担っている
3 その仕事は、自分の多様なスキルや能力を活用するような多くの異なる業務を要求している
4 その仕事の成果は、他の人々の幸福や生活に重要な影響を与えている
5 業務遂行の良し悪しに関する手掛かりが、上司や同僚からのフィードバックとは別にその仕事そのものから得られる
6 その仕事は、多くの複雑で熟練したスキルを要求している
7 その仕事は、最初から最後までの仕事の全体的な工程を担うチャンスを提供するようにアレンジされている
8 その仕事に求められる作業を遂行することは、自分がやったことの良し悪しを理解する多くのチャンスを提供する
9 その仕事は、全く単純で反復的ではない
10 その仕事は、自分の業務遂行の良し悪しによって多くの他の人々が影響を受ける可能性がある
11 その仕事は、業務遂行に関する自分の独創力や判断力を活用するチャンスを与える
12 その仕事は、自分が着手した仕事を最後まで完了する機会を提供する
13 その仕事そのものから、業務遂行の良し悪しに関する手掛かりを得ることができる
14 その仕事は、業務遂行における自律的で裁量の余地を与えるような機会を提供する
15 その仕事そのものは、物事の幅広い計画において重要な意味をもっている
縦軸の点数を平均してください(小数点第1位まで)。
MPS(Motivatiing Potential Score)={(V+I+S)÷3}×A×F
出所)Hackman, J. R., Oldham, G. R. (1980) Work Redesign, Addison-Wesley Publishing Company
Copyright ©Masahiko Fujimoto
JDSによる職種別の職務特性の集計結果の参考値
集計結果 専門・技術
管理
事務
営業
サービス
Skill Variety
5.4
5.6
4
4.8
5
Task Identity
5.1
4.7
4.7
4.4
4.7
Task Significance
5.6
5.8
5.3
5.5
5.7
Autonomy
5.4
5.4
4.5
4.8
5
Feedback from job
5.1
5.2
4.6
5.4
5.1
MPS
148
151
97
127
131
出所)Hackman, J. R., Oldham, G. R. (1980) Work Redesign, Addison-Wesley Publishing Company, p.317
より加筆修正
Copyright ©Masahiko Fujimoto
内発的動機づけ理論
内発的動機づけとは、何かに取り組む際の意欲の質に関する概念であり、人間は主体的、積極的な学習を通
して成長する意欲をもっていることを前提とする。Ref.H.F.Harlowによるサルの「知恵の輪」の観察実験
Cf.「動因(低減)説」:すべての行動は、生理的欲求あるいはそこから派生した要求の満たされない状態が原因で引き起こされる
有能感
環境との相互作用の中で自らの認
識を深めたり、技能を高め、有能で
ありたいという意思(欲求)をもつ
内発的動機づけ
仕事そのものに動機づけ
られ、働くことそのこと自
体が生きがいとなる要因
(活動自体から得られる
快や満足にもとづく要因)
自己決定感
学習の過程に自ら進んで参加し、
自分の行動は自ら決定したいと
いう意思(欲求)をもつ
自分の行動を協力的にサポート
する情報もしくはポジティブなフィ
ードバックは有能感や自己決定
感の認知を高めて内発的動機
づけを増大させるが、圧力をか
けたりネガティブなフィードバック
は逆に低減させる
ex.小林製薬の「褒め褒め運動」
外発的動機づけ
個々人の外にある、賃金、
人間関係、福利厚生など
の報酬に象徴される要因
参考文献)E.L.デシ(1980,原著:1975)『内発的動機づけ』誠信書房; 鹿毛雅治
(1995) 「内発的動機づけ」宮本美沙子、奈須正裕編『達成動機の理論と展開』金子書房、
pp.133-152; 田尾雅夫(1999) 『組織の心理学 新版』有斐閣、pp.64-65を参照
Copyright ©Masahiko Fujimoto
内発的動機付けの状態(フロー経験)
フロー経験の特徴
•行為と意識の融合(行為の最中にその行為を意識し省みることがない)
•限定された刺激領域への注意集中(行為以外の刺激が排除される)
•自我忘却(自我意識を喪失し「個の超越」の状態)
•首尾一貫した行為とそれに対する明瞭で明確なフィードバックを備えている
•自己目的的(明らかにそれ自体のほかに目的や報酬を必要としない)
行為への機会(挑戦)
不安
心配
退屈
不安
行為の能力(技能)
出所)Csikszentmihalyi, M. (1975) Beyond boredom and anxiety, McGraw-Hill Education
(今村浩明訳『楽しみの社会学 改題新装版』新思索社、2000年、p.86)
フロー経験とは、「全人的に行為に没入している時に人が感ずる包括的感覚」であり、ロック・クライミングや
チェスなどの遊びにだけ随伴するものではなく、外科手術などの高度な仕事や日常的な行為にさえも共通
して存在する。
Cf.内発的動機づけの要因となる「有能さ」と「自律性」(能力と挑戦)を支持している
Copyright ©Masahiko Fujimoto
動機づけアプローチと仕事の特性の関係
仕事の報酬と動機づけアプローチの関係
創造的な仕事や学習
が要求される仕事
即時的なパフォーマン
スが要求される仕事
外発的動機づけアプローチ
(制御的報酬)
金銭や罰の回避などの外部からの統制
内発的動機づけアプローチ
(情報的報酬)
有能さと自己決定に関する情報
出所)Deci, E. L. (1975) Intrinsic motivation, Plenum Press(石田梅男、安藤延男訳『内発的動機づけ』誠信書房、1980年)
pp.235-260を参照して作成
外発的動機づけから内発的動機づけへ
1.
2.
3.
4.
外的制御の段階:誰かに命令されたり、報酬を目当てに外から何らかの圧力によって動かされている状態
注入の段階:行為の意義を消化していないが、表面的につくろいながら一応は自分の意思でやりはじめる状態
同一化(統合化)の段階:行為の意義を理解し、目的遂行の手段として自らの行動規範と一致した状態
内発的動機づけの段階:目的遂行手段ではなく、行為そのものが面白くてそれに動機づけられている状態
「アンダーマイニング現象」:外発的動機づけが内発的動機づけを低下させる
内発的に動機づけられている状態で金銭などの外的報酬を提供(予期させる)すると、原因帰属の認知に関
係する自己決定の感情低下を招くことによって個人の内発的動機づけを低下させる。また、情報的フィードバ
ックは内発的動機づけを高めるが、制御的フィードバックは内発的動機づけを低下させる。
Copyright ©Masahiko Fujimoto
パフォーマンスを高めるための目標による動機づけ
目標設定理論
「具体的な目標は、曖昧なあるいは概略的な目標に比べて、より確実に活動を方向づける」
「具体的な目標ははっきりした期待を生みだす」
「目標はむずかしければそれだけ、あるいはやりがいがあればあるほど、その結果としての成果は高くなる」
※「目標の根底にある動機づけとは、目標達成による成就感および有能感である」
出所) Locke, E. A. , Latham, G. P. (1984) Goal setting, AMACOM(松井賚夫、角山剛訳『目標が人を動かす効果
的な意欲づけの技法』ダイヤモンド社、1984年)邦訳、pp.28-29, p.33
目標の困難さ
目標の選定
(参加)
可能性の認知
(自己効力感)
努力
(行動)
成果
(成功/失敗)
目標の明瞭さ
出所)田尾雅夫(1999) 『組織の心理学 新版』有斐閣、
p.66
具体的で困難な目標の有効性は、必要な知識やスキルを習得している場合に限定される
業務遂行に必要な知識やスキルが不十分な場合⇒具体的で困難な業績目標はマイナスとなる
具体的で困難な学習目標を設定する⇒上手くこなすためのプロセスや手続きの習得に集中させる
出所)Latham, G. p. (2006) Work motivation: history, theory, research, and practice, Sage Publications
(金井壽宏監訳『ワーク・モチベーション』NTT出版、2009年)邦訳、pp.145-146より
Copyright ©Masahiko Fujimoto
「自己効力感」が本人のやる気を引き出す
やる気を引き出すためには、本人の自己効力感を高めよ!
自己効力感=あることに対して「やればできる」という能力に関する信念
自己効力感が高い⇒困難な状況でも学習の機会として認識しながら目標達成や自己実現を促進する
自己効力感が低い⇒困難な状況を脅威とみなし、回避しようとしてコミットメントが低下する
制御体
験
「やればできる」とい
う信念を形成させる
成功体験
生理的、心理的覚醒や感情的状
態(効力感を左右する本人の健康
状態や気分)
他人から「やればで
きる」と説得される
“You can do it”
自己
効力
社会的
説得
自分に似た人々の成功
を観察するモデリング
代理体
験
出所)Bandura, A. (1995) Self-efficacy in Changing Societies, Cambridge University Press(本明
寛、野口京子監訳『激動社会の中の自己効力』金子書房、1997年)邦訳pp.3-5を参照して作成
Copyright ©Masahiko Fujimoto
心理的資本(Psychological Capital)
心理的資本が組織的なハイパフォーマンスをもたらす
自信
柔軟
性
心理的
資本
楽観
主義
心理的資本は、個人の形質(trait-like)ではなく、肯定的な心理的発達
の状態(state-like)であり、各要素がそれぞれ業績と相関するが、それ
らの相乗効果によってより高い業績に結び付く
企業の人的競争力を高め、企業業績と従業員
満足度を高める
(Luthans, F., Avolio, B. J., Avey, J. B., Norman, S.
M. (2007) “Positive Psychological Capital:
Measurement and Relationship with Performance
and Satisfaction”, Personnel Psychology 60,
Blackwell Publishing, pp.541-572)
希望
出所)Luthans, F. , Youssef, C. M., Avolio, B. J. (2007) Psychological Capital
Developing the Human Competitive Edge, OXFORD University Pressより作成
定義
開発方法
自信/効力感
Confidence/Efficacy
チャレンジングな仕事を成功させるための努力を惜し
まずに取り掛かるための自信(自己効力感)をもつこと
成功体験、モデリング学習、社
会的説得、心理的覚醒
希望
Hope
目的を貫徹し、必要に応じて成就するための目的(希
望)への道筋を見直すこと
目標設定、参加、目標達成へ
の状況適応的計画
楽観主義
Optimism
現在や将来における成功に関して肯定的な帰属意識
(楽観)を形成すること
過去への寛容、現在への好意
的理解、将来への機会探索
柔軟性
Resiliency
問題や逆境に陥ったとき、くじけずに立ち直ったり、成
功を成就するために乗り越えること(柔軟性)
資産評価、リスク評価、認知に
影響するプロセス評価
Copyright ©Masahiko Fujimoto
心理的資本(Psychological Capital)を測定する
あなたの現在の状況について、以下の質問に対する回答を空白の回答欄に記入してください。
1=全くそう思わない、2=そう思わない、3=ややそう思わない、4=ややそう思う、5=そう思う、6=全くそう思う
1 解決策を見つけるために長期的な問題を分析することに自信がある
2 仕事で窮地に陥ったとしたら、そこから抜け出す方法をたくさん思いつくことができる
3 仕事で物事の先が見えないとき、いつも最善を期待する
4 仕事で挫折したとき、トラブルが回復して解消するまでやり過ごそうとは思わない
5 マネジメント会議では自分の仕事分野を代表することに自信がある
6 現時点で自分の仕事目標を精力的に追及している
7 もしも自分にとって何か悪い事態になりそうなとき、必ずしもそうはならないと思う
8 いつも仕事では一つもしくは別の方法で困難を乗り切っている
9 会社の戦略に関する討議に貢献する自信がある
10 いかなる問題にも解決策が多くある
11 自分の仕事に関していつも物事の良い面に注目している
12 仕事をなすべきときは、いわば「自分の裁量」でなんとかできると思う
13 自分の仕事分野で目標や目的を設定することに寄与することに自信がある
14 今現在、仕事がうまくいっていると思う
15 仕事に関して将来自分に何が起きるのかということに楽観的である
16 仕事上のストレスの溜る物事はいつも巧みに処理している
17 諸問題を議論するためにサプライヤーや顧客などの社外の人間と接触することに自信がある
18 現在の仕事目標を達成するための方法をたくさん思いつくことができる
19 いまの仕事では、物事は自分が望むような筋道を逸脱して上手くいかないとは思わない
20 過去に困難を経験してきたので、仕事上の苦難の時を切り抜けることができる
21 同僚グループに情報提供することに自信がある
22 現在、自分で決めた仕事目標を達成している
23 「辛くても希望を捨てずにやろう」という意気込みでこの仕事に取り組んでいる
24 今の仕事で一度に多くの物事をこなせると思う
縦方向の空白の数値を合計してください
回答
C
H
O
R
出所)Luthans, F. , Youssef, C. M., Avolio, B. J. (2007) Psychological Capital Developing the Human Competitive Edge , OXFORD University
Press, P.237-238より一部改編
Copyright ©Masahiko Fujimoto
自分の心理的資本の状態をチェックしてみる
自信/効力感
(Confidence)
40
30
20
10
柔軟性(Regiliency)
0
楽観主義(Optimism)
希望(Hope)
Copyright ©Masahiko Fujimoto
今日のモチベーションの統合モデル
仕事特性
理論
目標理論と社会的認知理論
目標仲介
パーソナリ
ティ理論
欲求
価値観、
パーソナリ
ティ
生き方論
目標選択
目標特性
•困難性
•特殊性
目標&
効力
メカニズム
(仲介)
仕事特性
達成&
成果
仕事没頭
組織コミッ
トメント
満足/
不満足
•成功
•報酬
•方向
•努力
•維持
•仕事戦略
誘因
•リーダー
シップ
•金銭etc.
•フィードバック
•コミットメント
•能力
•業務複雑性
行為
•さぼり
•抵抗
•復讐
•防御
•調整
自己
効力感
組織政策
&手続き
出所)Locke, E. A., Latham, G. P. (2004) “What should
we do about motivation theory? Six recommendations
for the twenty-first century,” Academy of Management
Review, Vol.29, No.3, pp.388-403
帰属理論
普及&手
続き的公
平理論
Copyright ©Masahiko Fujimoto
人間の幸福の要件とは何か?(ポジティブィブ心理学からの知見)
 幸福の公式:
V
C
H
S
(永続する幸 = (先天的な + (生活環境) + (自発的なコ
ントロール)
福のレベル)
要因)










今よりも幸せな状態を永続させるためには?
貧しい独裁政権の国ではなく、豊かな民主主義の国に住む→強い影響がある
結婚する→強い影響があるが、それほど決定的ではない
ネガティブな出来事とネガティブな感情を避ける→ほどほどの影響力
豊かな社会ネットワークを獲得する→強い影響があるが、それほど決定位的ではない
宗教を信仰する→ほどほどの影響力
財産を築く→ほとんど影響力がない
健康に留意する→留意するのは主観的健康であって客観的健康ではない
できるだけ多くの教育を受ける→影響力はない
気候に恵まれた土地に移住する→影響力はない
(邦訳、pp.86-87)
「良い人生とは、毎日の生活の主要な領域で、自分の強みを使うことによって引き出せる幸せ
の中にある。有意義な人生とは、人生を豊かにするのと同じ強みを使って、さらに知識や力、
善良さを促進することだ。そういった人生は意義深いものになるだろう。」(邦訳、p.362)
出所)Seligman, M. (2002) Authentic Happiness Using the New Positive Psychology to Realize Your
Potential for Lasting Fulfillment, Atria Books (小林裕子訳『世界でひとつだけの幸せ ポジティブ心理学が教えてくれる
満ち足りた人生』春秋社、2012年)
Copyright ©Masahiko Fujimoto
人生の満足度測定尺度
 以下の質問に1~7点で回答してください
全く同意しない
1
2
どちらともいえない
3
4
5
6
強く同意する
7
質問項目
回答(点数)
自分の人生はだいたい理想に近い
自分の人生の状態は上々である
自分の人生に完全に満足している
今までのところ、自分の人生に望む大切なものは手に入れた
人生をやり直せるとしても、自分はまったく同じことをするだろう
合計
35-30点=人生に非常に満足している
29-25点=人生にたいへん満足している
24-20点=人生にやや満足している
19-15点=人生にやや不満である
14-10点=人生に不満である
9-5点 =人生にたいへん不満である
Cf. 属性による平均値
年配の米国人:男性は28点、女性は26点
北米の大学生:23~25点
東欧・中国の学生:16~19点
病院の入院患者:12点
出所)Seligman, M. (2002) Authentic Happiness Using the New Positive Psychology to Realize Your
Potential for Lasting Fulfillment, Atria Books (小林裕子訳『世界でひとつだけの幸せ ポジティブ心理学が教えてくれる
満ち足りた人生』春秋社、2012年)邦訳p.89-91より作成
Copyright ©Masahiko Fujimoto
心理学における幸福感の要因とは何か?
 幸福の最大要因とは何か?
「幸福の要因に関する科学的な文献のすべてを一言で要約
するなら、それは「社会性」でしょう。人間は地球上で最も社
会的な種です。アリでさえ人間にはかないません。だれかの
幸福を予想したいなら、その人の性別、宗教、健康、所得を
知る必要はありません。私が知りたいのは人間関係、すなわ
ち、その人の友人や家族、そして彼らとの絆の強さです」
出所)Gilbert, D. “The Science Behind The Smile” Harvard
Business Review, January-February, 2012(「幸福の心理学」D
IAMONDハーバード・ビジネス・レビュー2012年5月号)
 幸福度を高めるためには何が必要なのか?
 「毎日、些細な良いことが十数回起こる人は、本当に驚く
ほど素晴らしいことが1回だけ起こる人よりも幸せである
可能性が高い」
 「幸福度を高めるためにできることは、わかりきった些細
なことで、大して時間もかかりません。ただし、毎日続けて
成果が出てくるのを待たなければなりません」(出所)同上
Copyright ©Masahiko Fujimoto
ポジティブ心理学からの知見
 他人との関わり方
 「習慣的に他人に感謝している人は、そうでない人よりももっと幸せである」
→誰かに感謝の手紙を書くことによって幸福感を作りだすことができる
 「自分自身の楽しみを追い求める姿勢よりも、他人の幸せを考えることのできる姿勢を持っている方が、長
い目で見て高い満足度が得られる」
→「楽しい活動」よりも「慈善活動」をする方が幸福感が高まる。
Ex.相手のために何を与えたかではなく、どのように自分自身の貴重な時間を割いて与えたか
出所)Peterson, C. (2006) A Primer in Positive Psychology, Oxford University Press(宇野カオリ訳『ポジティ
ブ心理学入門 「よい生き方」を科学的に考える方法』春秋社、2012年)邦訳p.35およびp.37より
 人生の満足度を決定づける主な要因
自分が「最も満足している」領域(米国人の傾向)
Ex. 自分の健康や結婚が不幸であっても子供が素晴らしければ全体的な人生の満足度が高いと認識
自分が「最も満足していない」領域(日本人の傾向)
Ex. 仕事や結婚が順調でも子供がダメならば全体的な人生の満足度が低いと認識
出所)Peterson, C. (2006) A Primer in Positive Psychology, Oxford University Press(宇野カオリ訳『ポジティ
ブ心理学入門 「よい生き方」を科学的に考える方法』春秋社、2012年)邦訳p.98より
Copyright ©Masahiko Fujimoto
人生の感謝度測定尺度
 以下の質問に1~7点で回答してください
全く同意できない
1
2
どちらともいえない
3
4
5
6
強く同意する
7
質問項目
回答(点数)
①自分の人生を振り返ってみると感謝すべきことが沢山ある
②感謝しているすべての事柄を書き出してみると非常に長いリストになる
③世界中を眺めてみたところで、感謝すべきことはたいしてない
④様々なタイプの人たちに感謝している
⑤歳をとるにしたがい、自分の今までの人生に登場した様々な人々や出来
事、状況に深く感謝できるようになった
⑥何かに(誰かに)感謝しできるようになるには非常に時間がかかるはずだ
※③と⑥の点数を逆転(1点→7点、2点→6点、3点→4点、・・・)してから合計=
35-6点=全く感謝していない
38-36点=あまり感謝していない
41-39点=やや感謝している
42点=非常に感謝している
出所)Seligman, M. (2002) Authentic Happiness Using the New Positive Psychology to Realize Your
Potential for Lasting Fulfillment, Atria Books (小林裕子訳『世界でひとつだけの幸せ ポジティブ心理学が教えてくれる
満ち足りた人生』春秋社、2012年)邦訳p.89-91より作成
Copyright ©Masahiko Fujimoto
ポジティブ感情とネガティブ感情の比率
 幸福感を得るためのポジティブ感情とネガティブ感情との比率=「3:1」
「何か辛いネガティブな感情を経験したときには、そこから自分を引き上げるために、心から
感じるポジティブな感情を少なくとも3回経験する」ことが上昇的な「繁栄」を導く
ポジティブ感情の
10の代表的な要素
喜び
Joy
畏敬
Awe
鼓舞
Inspirat
ion
感謝
Gratitu
de
安らぎ
Serenit
y
愛
Love
興味
Interes
t
愉快
Amuse
ment
誇り
Pride
希望
Hope
出所)Fredrickson, B. L. (2009)
Positivity, Harmony Books(高橋
由紀子訳『ポジティブな人だけがうまく
いく3:1の法則』日本実業出版社)邦
訳、p.72より作成
Copyright ©Masahiko Fujimoto
ポジティビティ比の自己診断(1)
過去24時間にどんな感情を味わいましたか?
一日を振り返って、それぞれの感情を最も強く感じたときの度合いを「0~4」までの数字を○で
囲んでください
(その1)
質問項目
全く感じ
なかった
少し感
じた
中くらい
に感じた
かなり
感じた
非常に強
く感じた
1.面白い、愉快、バカげていておかしい、と最も感じたこと
0
1
2
3
4
2.怒り、いらだち、不快、を最も感じたこと
0
1
2
3
4
3.恥辱、屈辱、不面目、を最も感じたこと
0
1
2
3
4
4.畏敬、驚異、驚嘆、を最も感じたこと
0
1
2
3
4
5.軽蔑、さげすみ、見下す気持ち、を最も感じたこと
0
1
2
3
4
6.嫌悪、嫌気、強い不快感、を最も感じたこと
0
1
2
3
4
7.最も恥ずかしかった、人目が気になった、赤面したこと
0
1
2
3
4
8.感謝、ありがたい気持ち、嬉しい気持ち、を最も感じたこと
0
1
2
3
4
9.罪の意識、後悔、自責の念、を最も感じたこと
0
1
2
3
4
10.憎しみ、不信、疑惑、を最も感じたこと
0
1
2
3
4
出所)Fredrickson, B. L. (2009) Positivity, Harmony Books(高橋由紀子訳『ポジ
ティブな人だけがうまくいく3:1の法則』日本実業出版社)邦訳、p.202-203を改編
Copyright ©Masahiko Fujimoto
ポジティビティ比の自己診断(2)
(その2)
質問項目
全く感じ
なかった
少し感
じた
中くらい
に感じた
かなり
感じた
非常に強
く感じた
11.希望、楽観、勇気、を最も感じたこと
0
1
2
3
4
12.最も鼓舞され、高揚感を覚え、元気づけられたこと
0
1
2
3
4
13.興味、強い関心、好奇心、を最も感じたこと
0
1
2
3
4
14.嬉しさ、喜び、幸せ、を最も感じたこと
0
1
2
3
4
15.愛情、親しみ、信頼、を最も感じたこと
0
1
2
3
4
16.誇り、自信、自分への信頼、を最も感じたこと
0
1
2
3
4
17.悲しみ、落胆、不幸、を最も感じたこと
0
1
2
3
4
18.おびえ、恐怖、恐れ、を最も感じたこと
0
1
2
3
4
19.安らぎ、満足、平穏、を最も感じたこと
0
1
2
3
4
20.ストレス、緊張、重圧感、を最も感じたこと
0
1
2
3
4
出所)Fredrickson, B. L. (2009) Positivity, Harmony Books(高橋由紀子訳『ポジ
ティブな人だけがうまくいく3:1の法則』日本実業出版社)邦訳、p.202-203を改編
ポジティビティ比(
.
)=
白いセル(ポジティブ感情)で「2」以上の数字の合計( )
グレーのセル(ネガティビティ感情)で「1」以上の数字の合計( )
※ネガティビティ感情が0の場合は1として計算
出所)Fredrickson, B. L. (2009) Positivity, Harmony Books(高橋由紀子訳『ポジ
ティブな人だけがうまくいく3:1の法則』日本実業出版社)邦訳、p.204-205より作成
Copyright ©Masahiko Fujimoto
ポジティビティ比率を高めるために
 ネガティビティ感情を減らす方法
 自分が有害な反芻をしていることに「気づく」こと
「同じことをくよくよ考えてもしようがない」気づいて、初めて有効な行動をとることができる
 健全な方法で「気持ちを問題からそらす」こと
ジョギング、水泳、自転車修理などの健全なことで、没頭できて憂鬱な気分を洗い流してくれ
ることをする
 マインドフルネス(自分の思考や感情を、判断を加えずに認識する)を養うこと(メタ認知)
瞑想などをして自分の心の中で何が起こっているかを、判断を加えずに十分に認識すること
 ポジティビティ感情を増やす方法











生活のペースをスローダウンしてポジティビティを心から感じること
悪いことの中にも良いことを見つけて、状況を手直しして、ポジティブな意味を見出す
恵まれている点を数える
自分のした親切を認識する
好きなことに夢中になる
将来を夢見る
自分の強みを活かす
他者との絆を作る
自然とのつながりを持つ(自然を体感する)
メディテーション
ポジティビティのポートフォリオを作る
出所)Fredrickson, B. L. (2009) Positivity, Harmony Books(高橋由紀子訳『ポジティブな人だけがうまくいく3:1の法則』日
本実業出版社)邦訳
Copyright ©Masahiko Fujimoto
幸福の政治経済学
 個々人の幸福を決定する主な要因
主要因の種別
具体的な項目
性格
自尊心、自制心、楽観主義、外向性、神経症など
社会・人口統計上の特性
年齢、性別、既婚・未婚の別、学歴など
経済
個人所得・家計所得、失業、インフレなど
文脈・状況
特定の雇用・労働条件、職場に関連するストレス、同僚や親戚・友人、
そして(最も重要な)配偶者との対人関係、生活条件、健康など
制度
政治的な分権化や市民の直接的な政治参加権の程度など
出所)Fery, B. S. and Stutzer, A. (2002) Happiness and Economics, Princeton University Press
(佐和隆光監訳『幸福の経済学』ダイヤモンド社、2005年)邦訳p.14より作成
 幸福を生み出す心理的メカニズム
主観的幸福感
心理的
バイアス
情動:日常生活の中で生じる出来事に対する評価による気分や感情(快適、不快など)
認知:合理的・知的な判断や比較
出所)同上、p.16-17より作成
適応
環境に合わせて自分の主観的幸福の水準を調整する(宝くじの幸福は長続きしない)
願望
個々人の「願望水準」によって本人の状況が評価される
社会的比較
絶対的な尺度は存在せず、自分と関わりのある他人の立場と比較する(相対所得など)
コーピング
不幸な出来事を乗り越えようとする強い能力がある(弾力性:レジリエンス)
Copyright ©Masahiko Fujimoto
欧米の幸福感および人生の満足度に関する相関関係
0~弱い相関関係要因
中程度の相関関係要因
強い相関関係要因
年齢
友人の数
感謝
性別
結婚の有無
楽観性
学歴
宗教性
雇用の有無
社会的地位
余暇の活動レベル
セックスの頻度
収入
身体的健康
ポジティブ感情を経験する時
間の割合
子供の有無
誠実さ
幸福度尺度の再検査信頼性
人種(多数派対マイノリティ)
外向性
一卵性双生児の幸福感
知能
神経症的傾向(負の相関)
自尊感情
身体的魅力
内的な統制の所在
※ここでの相関関係は因果関係を意味するものではない:「幸せな人が人生の数多くの領域で成功を収める?人
生の成功者が幸せ?」(by ディーナーら)その領域=結婚、友情、収入、職務遂行能力、精神衛生、心理的健康
出所)Peterson, C. (2006) A Primer in Positive Psychology, Oxford University Press(宇野カオリ訳『ポジティブ心理
学入門 「よい生き方」を科学的に考える方法』春秋社、2012年)邦訳p.102およびp.103より
Copyright ©Masahiko Fujimoto
米国女性の幸福感(1)
 R. Layard (2005) Happiness: Lessons from a new science, Penguinの欧米人の幸福度研究より
相手
平均幸福度
1日の平均時間
平均幸福度
友人
3.7
2.6
6
親戚
3.4
1.0
5
配偶者
3.3
2.7
4
子供
3.3
2.3
3
客
2.8
4.5
2
同僚
2.8
5.7
一人でいる時
2.7
3.4
上役
2.4
2.4
1日の平均時間
1
0
出所)橘木俊詔(2013)『「幸せ」の経済学』岩波書店、p.21
Copyright ©Masahiko Fujimoto
米国女性の幸福感(2)
 R. Layard (2005) Happiness: Lessons from a new science, Penguinの欧米人の幸福度研究より
平均幸
福度
1日の平
均時間
セックス
4.7
0.2
社会的活動
4.0
2.3
7
リラックス
3.9
2.2
6
お祈り・瞑想
3.8
0.4
5
食事
3.8
2.2
4
運動
3.8
0.2
3
テレビ
3.6
2.2
2
買い物
3.2
0.4
1
料理
3.2
1.1
電話
3.1
2.5
育児
3.0
1.1
ICT・ネット
3.0
1.9
家事
3.0
1.1
勤労
2.7
6.9
通勤
2.6
1.6
活動
平均幸福度
8
0
1日の平均時間
Copyright ©Masahiko Fujimoto
日本人の本人属性要因と幸福感の相関関係
 男性と女性はどちらの幸福感が高いか?
→男性よりも女性の方が幸福感が高い傾向
 若年層、中年層、高齢層のどの年代層の幸福感が高いか?
→若年層と高齢層が幸福感が高い傾向(加齢によって幸福感がU字型に変化)
 配偶者の有無で幸福感の高さに差があるか?
→有配偶者の方が、未婚者や配偶者と離死別した者よりも幸福感は高い傾向
 他人への信頼感と幸福感とに相関関係はあるか?
→他人への信頼感が高い者ほど幸福感が高い傾向
 「幼少期の辛い経験」は大人になってからの幸福感に影響するか?
→子供時代の辛い経験(虐待やいじめなど)は大人になって幸福感に悪影響する
 男性の「初職」が正規か非正規かによって幸福感は異なるか?
→男性の初職が正規以外だと、正規以外のキャリア期間が長く、所得が低く、未
婚率が高まり、生活満足度が低くなる傾向
出所)小塩隆士(2014)『「幸せ」の決まり方 主観的厚生の経済学』日本経済新聞社
Copyright ©Masahiko Fujimoto
日本人の社会経済的要因と幸福感の相関関係
 所得が高くなればそれだけ幸福感は高まるか?
実質的所得が向上しても生活満足度は向上するとは限らない(イースタリン・パラドック
ス):本人の絶対的な所得水準だけでなく、自分と似たような属性を持つ準拠集団(とりわけ最終学歴
の同級生との平均年収)における自分の所得の相対的な位置づけに左右される(ただし、日本の女性
は個人所得よりも世帯所得をベースに考える)
 職場の社会関係資本(人間関係)が良好ならば幸福感は高まるか?
職場での良好な人間関係や雰囲気は、ストレスを緩和して仕事満足度を向上させる
 居住地域の所得格差
不安定な就業形態にある者ほど、所得格差の認識が幸福感を低下させる
Cf. 低所得地域の居住者はそれだけで幸福感を低下させる(米国での実証研究)
Cf. 所得が低く、生活水準が前年よりも低下したり他人より低いと認識する者ほど所得格差に敏感
になる
 居住地域に対する満足感
地域への満足度、治安に対する満足度、住民の信頼性に対する満足度は健康感を
高め幸福感を高める(とりわけ治安に対する満足感は健康感に直接的な影響を与
え、幸福感にも関係する)
出所)小塩隆士(2014)『「幸せ」の決まり方 主観的厚生の経済学』日本経済新聞社
Copyright ©Masahiko Fujimoto
日本の高齢者の幸福感と主な要因との統計的な相関関係
 「社会的な関わり」
 家族以外の社会的な関わり合いが活発な高齢者ほど幸福感が高い
 高齢者のフルタイム就業やボランティア活動が幸福感を高める
 多くの友人や知人との関係によって、男性よりも女性の方が、家族の離死別などの
ショックを緩和できる
 「家族関係」
 配偶者の存在は高齢男性の幸福感を高めるが高齢女性には関係がない
 子供の存在は男女ともに高齢者の幸福感に関係がない
 未婚の息子との同居が生活満足度を低下させるが、娘との同居は未婚・既婚に関係
なく影響はない
出所)小塩隆士(2014)『「幸せ」の決まり方 主観的厚生の経済学』日本経済新聞社
Copyright ©Masahiko Fujimoto
日本人の生活満足度の推移
出所)Fery, B. S. and Stutzer, A. (2002) Happiness and Economics, Princeton University Press(佐和隆光監訳
『幸福の経済学』ダイヤモンド社、2005年)邦訳p.12
Copyright ©Masahiko Fujimoto
日本人の生活満足度の推移
出所)大竹文雄、白石小百合、筒井義郎編著『日本の幸福度』日本評論社、2010年、p.270
Copyright ©Masahiko Fujimoto
日本人の性格と幸福感の関係
 一般的にどのような性格が幸福に影響するのか
誠実性
幸福感
開放性
0.24**
誠実性
回答数:10,555人 **: p<0.01 *: p<0.05
神経症傾向
外向性
調和性
0.19**
-0.26**
0.29**
0.21**
0.66**
-0.29**
0.27**
0.39**
-0.19**
0.42**
0.04**
-0.31**
-0.23**
開放性
神経症傾向
-0.03*
外向性
調和性
出所)橘木俊詔(2013)『「幸せ」の経済学』岩波書店、p.51
幸福感と性格(パーソナリティ)因子との相関関係
0.4
0.2
0
-0.2
誠実性
開放性
神経症傾向
外向性
調和性
-0.4
出所)橘木俊詔(2013)『「幸せ」の経済学』岩波書店、p.51
Copyright ©Masahiko Fujimoto
幸せな人生の志向性を測定する
 以下の質問は全て、多くの人にとって望ましいと思われる文章になっていますが、あなたの実際の生き方を
表しているかどうかについてのみ白抜きのセルに回答してください
とてもよく当てはまる
5
よく当てはまる
4
やや当てはまる
3
少しだけ当てはまる
2
質問項目
全く当てはまらない
1
回答(点数)
1.自分の人生にはもっと高い目標がある
2.人生は短いので、楽しみを先延ばしにすることなどできない
3.自分のスキルや能力が試されるような状況を探し求める
4.自分がきちんと生きているかいつも確認している
5.仕事でも遊びでも「ゾーン(フロー経験)に入る」ことが多く、自分自身を意識しない
6.自分がやることにいつもものすごく夢中になる
7.自分の周囲で起きていることに気が散ることはめったにない
8.自分には世界をよりよい場所にする義務がある
9.自分の人生には永続的な意味がある
10.たとえ何をしていても、自分が勝つことが重要である
11.何をすべきか選ぶときには、それが楽しいことかどうかをいつも考慮する
12.自分がやるべきことは社会にとって意義のあることだ
13.他の人より多くのことを達成したい
14.「人生は短いー大いに楽しもう」という言葉に同感する
15.自分の感覚を刺激することが大好きだ
16.競い合うことが大好きだ
合計
Ⅰ
Ⅱ
Ⅲ
Ⅳ
Copyright ©Masahiko Fujimoto
幸せな人生の志向性
20
15
10
5
0
Ⅰ快感の追及
Ⅱエンゲージメント
(フロー経験活動)
の追及
Ⅲ意味の追及
Ⅳ勝利の追及