「方針の設定と徹底」第2回 いわば「ホームパーティ・コンセプト」

■米国 DL 社から学ぶべきこと <本編 その2の2>
by 蒔苗昌彦
「方針の設定と徹底」第2回 いわば「ホームパーティ・コンセプト」
Masahiko Makanae
創業者 WD 氏が示した考え(いわばコンセプト)が、
「方針」(該当英語:policy)という言葉を付せずして、そ
のまま方針となったもの。いわば「言わずもがな方針」
。その筆頭は「ファミリーテイメント」だが、
この他にも、いくつかある。
今回から、それらを一つずつ、回を分けて説明する。
まず今回は、いわば「ホームパーティ・コンセプト」について説明する。
WD 氏が示したこの考えは、、、
「自分がホームパーティを開きそこに親しい人を招いたつもりで来園者に接しよう」
といった考えである。
このような考えがそのまま方針となっているわけだが、
では、
これは、
DL の何に反映されているのか?
それは、、
、
・来園者と従業員のそれぞれの客観的呼び方
・従業員どうしの呼び方
・接客のあり方
に反映され、そして徹底された。
<来園者と従業員のそれぞれの客観的呼び方>
DL では、
、
、
来園者をゲスト(該当英語:guest)と呼ぶ。
来園者をもてなす従業員たちをホスト / ホステス(該当英語:host/hostess)と呼ぶ。
なぜならば、米国(および英語圏)では、実際のホームパーティにおいて、主催者(その家の主や奥さん等)はホ
スト / ホステスと呼び、招かれた人をゲストと呼ぶが、ホームパーティ・コンセプトである以上、実
際のホームパーティを模すのが当然だからだ。
ちなみに、日本では、ホスト / ホステスと呼ぶと夜の飲酒接客商売が想起されるため使用せず、千葉
県浦安の TDL ではキャスト(該当英語:cast 日本語訳:出演者)と呼ぶこととなった。ホスト / ホステスと
の呼称は、あくまでも米国の DL の話である。
で、このゲストという呼び方に徹するよう、働く人たちへの教育プログラムに付帯的に強調されたこ
とが、
、
、
「入園者は「ゲスト」である以上、「カスタマー(該当英語:customer)」とは呼ばない」
という点だ。つまり、カスタマーは社内使用禁止の用語だったのである。
日本は英語圏ではないのでさておき、英語圏ではカスタマーという言葉には、本来とても重みがある
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(と私は米国 DL 社のマネージャーから聞いた)。どういうふうに重みがあるかと言えば、カスタマーと呼ばれるに
該当する相手(人または会社等)は、ビジネスをビジネス(商売)の対象者であり、かつ、当方に対し金を払っ
た実績が積み重ねられていて、そうではない相手よりも丁重に扱われ、様々な便宜や特典も図られる
べき対象者である。客は客でも、常連かつ上客というわけだ。少なくとも、日本の京都エリアで言わ
れる「一見さん」には該当しないわけだ。
自分がホームパーティを開きそこに親しい人を招いたつもりでお客様をお迎えしよう! というコン
セプトがあるにも関わらず、そのお客様をカスタマーと呼び「一見さん」と区別しようとすれば、矛
盾する。一般的客商売における観点「カスタマー」においては、一見さんと常連さんの区別があって
大いに構わないが、親しい人をゲストに招くというホームパーティを模した場合の観点においては、
1回限りになるかもしれない人と頻繁に来る人の区別はない。結果的に生涯1回だけの訪問になろう
と、招いた時点では大切なゲストである。
また、WD 氏は、ホームパーティというコンセプトに加え、「すべてのゲストは V.I.P. としてお迎え
しよう」という考えを打ち出している。つまり、分け隔てなく応対しようという考えだ。それゆえ、
なおさら、カスタマーという言葉が禁止用語となる必然性があった。
ともかく、来園者は、皆、ゲストであり、V.I.P. であり、それゆえカスタマーではないのである。
ゲストであろうと、V.I.P. であろうと、カスタマーであろうと、日本語で一括りで言ってしまえば皆
お客様なのだから、特に仕分けする必要がない、という意見が出てくるかもしれない。だが、米国
DL 社は、日本での開業の際にも、仕分けにこだわり徹底指導した。
<従業員どうしのお互いの呼び方>
米国 DL では、従業員どうしは、ファーストネームで呼ぶ。
なぜならば、ホームパーティを開きそこに親しい人を招いた側のどうしの現実の呼び方、つまりホス
ト / ホステスどうしの呼び方、人前でのファミリー間の呼び方は、たいていにおいてファーストネー
ムで呼び合うので、それを模したからである。
ちなみに、今、
「たいていの場合」と言ったのは、たとえば小さな子供が自分の親を呼ぶ時に、良い
意味での甘えの情も含め、「dad」とか「mom」と呼ぶ場合があったり、逆に甘えを許さぬ厳格な父
親が自分を呼ぶ時には「sir」と呼ぶよう強要したりすることなどもあるからだ。
DL においてホスト / ホステスがゲストと接する際には、必ずネームタグを胸に付けることになって
いる。従業員どうしはファーストネームで呼び合うわけだから、
そのネームタグには、
ファーストネー
ムのみが記載されている。そのため、もし、ゲストが、園内で特定のホスト / ホステスの名を呼びた
いと思った場合も、ネームタグに記載されているのがファーストネームだけだから、自動的に、ファー
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ストネームで呼ぶことになる。
それにより、ホームパーティに招いた側/招かれた側という状態を模した演出の度合いも高まる。
今となっては、米国2ヶ所、世界で数カ所にある DL だが、創業の地は、米国の南カリフォルニアだ。
その地域の人間関係の傾向は、他の地域に比べたらカジュアルで開放的と言われる。そのため、従
業員どうしが職位の高低の差を超えてファーストネームで呼び合うことへの抵抗は全くない。逆に、
ファーストネーム以外で呼び合うほうが、限定的だ。南カリフォルニア、しかもエンターテイメント
業界ならば、DL でなくとも、然りである。
ちなみに、日本においてはさすがにファーストネームで呼び合うことは風土に合わないと判断され、
ましてや職位の高低を超えてそうすることなど実現不可能と判断され、浦安の TDL では実施されて
いない。そのため、ネームタグにはファミリーネームが記載されている。方針を徹底させること岩の
如し米国 DL 社であっても、この場合においては、郷に入れば郷に従えという柔軟性を、適切に発揮
したのである。
なお、浦安では、日本人キャストどうしがファーストネームで呼び合うのは無理でも、
「ゲストの前
では、職位の高低に関わらず、互いを「さん」づけで呼ぶという取り決めは行い、それには徹した。
ただし、この「さん」づけで呼ぶことは、ホームパーティを模しているという論拠に基づくのではな
く、「非日常的空間の提供」という考えに基づく。この「非日常的空間の提供」という考え、および、
この考えがどうして「さん」づけで呼ぶことにつながるのかについては、別の回にて説明する。
<接客のあり方>
親しい友人をホームパーティに招いたという状況においては、ゲストとの接し方や言葉使い自然とカ
ジュアルになる。DL はこの状況を模したわけだから、接客はカジュアルにしよう、ということになっ
た。
もちろん、くだけ過ぎて失礼にならないことは大前提だ。が、この前提も、実際に親しい友人をホー
ムパーティに招いたという状況における、現実の前提である。模したことにより初めて発生する前提
ではない。いわゆる「親しき仲にも礼儀あり」は、いずれにしても適用されるのだ。
ともかく、来園者はホームパーティに来たゲストである。カスタマーではない。だから、慇懃な接客
をしない。儀礼的な応対、形式張った応対、丁重なお辞儀も必要ない。友人と話すように気さくに声
がけする。余裕があり、相手も応じれば、雑談をしても構わない。
これも、南カリフォルニア、しかもエンターテイメント業界ならば、
DL でなくとも、
然りだ。ホームパー
ティのコンセプトは創業者 WD 氏が打ち出したわけだが、それは誰もが潜在的に持つ要素を概念に
よって顕在化したのであり、ファミリーエンターテイメントと同様に普遍的で、従って DL だけの占
有物ではない。だから、少なくとも南カリフォルニアならば、DL 以外の接客業で、DL のようにカジュ
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「方針の設定と徹底」第2回 いわば「ホームパーティ・コンセプト」
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アルな接客を行う施設は、無数にあるだろう。
なお、これも日本においては、南カリフォルニア並みにカジュアルにすることは不可能と判断された。
ましてや、友人と話をする同様に、丁寧語抜きで来園者と会話することは不可能と判断され、TDL
と TDL 以外の接客業との、お客様への声がけの形式には大きな差はでていない。ただ、これは結果
的状況であり、TDL の開園当時は、お客様へ「こんにちは!」とお声がけする行為は、TDL 以外の
接客業ではあまり見かけなかった。この点においては、TDL の開園当時は、南カリフォルニア並み
にカジュアルではなくとも、日本国内比較においては、結構カジュアルだったし、来園者にとっては
新鮮だったと思われる。
TDL よりもずっと早く日本に持ち込まれたファミリーレストラン「デニーズ」が、店舗に入るなり、
従業員が出迎えて、「ようこそ! デニーズへ!」と声がけしてくれるのが、当時の日本ではとても新
鮮に感じられたのと、同様である。
今では、何もデニーズでなくとも DL でなくとも、お客様が来たら気さくにお声がけするのは当然に
なった。昔の日本であっても、たとえば元気の良い主人のいる寿司屋なり居酒屋なりに入ったら「へ
い! いらっしゃい!」と声をかけてもらえるケースはあった。が、そうではない接客商売も結構多
かっただけに、時代は大きく変化したものだ。実に感慨深い。
とはいえ、誰もが互いにファーストネームで呼び合ったり、お金を払ってくれる相手と丁寧語抜きで
会話することが日本では到底不可能なため、南カリフォルニアと同じほどカジュアルになることは永
遠になかろう。この点からすれば、WD 氏の打ち出した考え(つまり言わずもがな方針)は不動ではあるもの
の、TDL の接客の様態は、米国 DL とは異なる日本独自の接客様態となっていると言ってよい(と私は
判断する)
。
<本編その2の3へ続く>
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