地球温暖化防止に向けた日本のあるべきモビリティ

地球温暖化防止に向けた日本のあるべきモビリティビジョンとは
~CO2 削減の鍵をにぎる業務用車両対策と天然ガス自動車~
1.調査の背景と目的
地球温暖化防止に向けて、内外でさまざまな取組が実施されている。運輸部門については、乗用
車の対策は進んでいるが、長距離輸送で物流を担う大型トラックの対策は必ずしも十分であるとは
いえない。
大型トラックは軽油を燃料とするディーゼルエンジンで走行するが、近年、圧縮天然ガス(CNG)
を燃料とする車両総重量 25t クラスの大型天然ガストラックが開発されている。天然ガス自動車は
温室効果ガスや大気汚染物質の排出削減に大きな効果があるとされていることから、運輸部門にお
ける期待は高いと考えられる。
本調査では、実験走行における天然ガス及び軽油の消費データを援用して、トラック単体の効果
を分析するとともに、国内の導入ポテンシャルについても推計を行った。
2.天然ガス自動車の動向
(1)世界の普及動向
天然ガスは環境性に優れ、価格が安価で、供給も安定している。
そのため、天然ガス自動車が世界的に拡大している。2005 年には 400 万台であったが、2010 年
に 1,300 万台へと急増している(The Gas Vehicles Report)
。
(2)ヨーロッパにおける普及動向
ヨーロッパの天然ガス自動車普及台数は 2003 年の 50 万台から 2009 年に 130 万台へと急拡大し
ている (欧州天然ガス自動車協会調べ)
。
欧州で最も普及しているイタリアでは、2009 年末の天然ガス自動車普及台数は 67 万台である。
インフラ整備も進んでおり、今後数年でさらに 70 箇所の天然ガススタンドを建設し、合計 840 箇
所となる見込みである。
ドイツでは、国家施策の下にスタンドを先行普及し、860 箇所の天然ガススタンドを整備してい
る。たとえば、ハンブルク空港内に天然ガス自動車スタンドを設置し、軽自動車の購入に際しては
天然ガス車を優先している。スウェーデンでは、生ごみや食品残渣から精製したバイオガスをバス
燃料として利用している。CO2 削減対策として急伸しており、累計 23,125 台を導入している。
(3)アジアにおける普及動向
アジアが世界の天然ガス自動車市場を牽引している。今後も、経済性と環境性に加え、エネルギ
ーセキュリティの観点から天然ガス自動車がさらに普及する見通しである。
韓国では、市内バスの天然ガス自動車化が進んでおり、ソウルのバスの天然ガス自動車化が完了
し、他の自治体においても拡充が進んでいる。そのため、韓国内の天然ガスバスのシェアは 75%に
達している。また、天然ガススタンドはバスターミナルを中心に集約・大型化している。日本では
1 スタンド当たりの販売量が平均 30~40 万㎥であるのに対し、韓国では 1 拠点当たりの平均販売
量が 1,000~3,000 万㎥となっている。以上は圧縮天然ガス(CNG)を燃料とする天然ガス自動車
の動向であるが、そのほか、500km 超の長距離バス・大型トラックの液化天然ガス(LNG)自動
1
車化も進んでいる。LNG 車への改造が進むとともに、高速道路の L-CNG スタンド建設にも着手し
ている。このような進展は、国・自治体・バス会社・メーカー・ガス会社が連携した取組であり、
導入に向けて、自動車に対して、ディーゼル車との差額 100%補助、燃料価格差補助、取得税・環
境税等の税制優遇、スタンドに対して、全額融資(返済 5 年据え置き、10 年返済)
、立ち上げ時運
営補助(損益分岐点まで補助)といった支援制度が設けられている。
(4)日本の天然ガス自動車の普及状況
日本では、2010 年度末時点で、普及台数が 4 万台を突破し(40,429 台)
、充填所数も 333 箇所
となっている。
344 342
45,000
324 327
乗用車
小型貨物(バン)
軽自動車
トラック
塵芥車
バス
フォークリフト等
充填所
40,000
35,000
天 30,000
然
ガ
ス 25,000
自
動 20,000
車
台
15,000
数
311
288
270
333
40,429
38,861
37,117
300
34,203
31,462
224
250
27,605
24,263
181
200 充
填
所
150 数
20,638
138
16,561
107
12,012
100
82
10,000
5,000
350
62
7,811
5,252
3,640
2,093
50
0
0
8
7
6
5
4
3
2
1
0
9
8
9
20
1
20
0
20
0
20
0
20
0
20
0
20
0
20
0
20
0
20
0
20
0
19
9
19
9
19
9
7
0
出典:一般社団法人日本ガス協会資料よりみずほ情報総研作成
図1 日本における天然ガス自動車普及台数
日本での導入事例として、佐川急便株式会社の取組が挙げられる。同社では、配送車両に天然ガ
ストラックを積極的に採用しており、天然ガストラック導入実績は 2011 年 6 月 20 日現在で 4,347
台に達し、自家用充填スタンドも 23 箇所が整備されている。国内の天然ガストラックの約 25%を
占め、2011 年 9 月には、トラック部門において佐川急便の保有台数が世界最多であることが認定さ
れた。
また、パナソニック株式会社と株式会社タカラトミーは、両社が実施している異業種間協力によ
る共同輸配送で、東京~大阪間の長距離輸送に大型天然ガストラックを導入している。この共同輸
配送には、パナソニックロジスティクス株式会社と、天然ガストラックを中心に展開する運送会社
2
である株式会社エコトラックが大型天然ガストラックを共同運用しており、フル充填で約 600km
の航続距離を実現した。その際、神戸の下水処理場から発生するバイオガスを 56%程度利用し、CO2
排出量を年間 43t- CO2 削減するとともに、窒素酸化物を 90%削減した。
3.分析に用いたデータ
本分析では、株式会社エコトラックが 2011 年 9 月 2 日~4 日にかけて実施した走行実験のデー
タを使用した。実験データの概要は以下の通りである(株式会社エコトラック提供資料に基づく)
。
(1)調査用車両
調査用車両として、次の 3 台のトラックが使用された。
表1 実験調査車両諸元
分類
大型天然ガストラック
車種
いすゞ
GIGA
改造車
PDGCYJ77WS
改
大型ディーゼルトラック
いすゞ
GIGA
PDGCYJ77WS
大型ディーゼルトラック
三菱
ふそう
PJFS54JVZ
排気量(L)
9.83
9.83
12.88
車両総重量(kg)
11,620
11,320
11,880
積載重量(kg)
10,000
10,000
10,000
登録
2010 年度
2007 年度
2005 年度
出典:株式会社エコトラック資料
(2)実験調査走行ルートおよび走行回数
大阪~東京の往復(高速道路利用)を実験調査走行ルートとした。
実験調査車両 3 台が同様な走行条件(気象条件、混雑状況)により燃費を調査するため、同時走
行により行った。走行条件の影響を緩和するために、実施日を変えて各車両とも 2 回実施した。
実験日等は以下の通りである。
•
実験日:2011 年 9 月 2 日~4 日(2往復)
•
走行区間:大阪~東京往復(高速道路利用)
表2 実験調査走行時の状況
第 1 回目
第 2 回目
充填
中環東大阪ES
中環東大阪ES
休憩
上郷SA
上郷SA
充填・休憩
海老名SA
海老名SA
折り返し
横浜町田IC
横浜町田IC
休憩
日本平
愛鷹PA
充填・休憩
上郷SA
上郷SA
充填・休憩
中環東大阪ES
中環東大阪ES
出典:株式会社エコトラック資料
3
(3)その他の実験調査条件
実験走行における上記以外の調査条件は以下の通りである。
1)エコドライブ運行の実施
・法定速度の遵守(必要により最高速度は法定速度+10km/h 迄)
・加速時の回転数制限(2,000rpm 以下、発進時 2,000+100rpm 以下)
・アイドリングストップの実施
・走行時のエアコンは不使用(必要に応じて開窓は可)
・早めのシフトアップ
・排気ブレーキの積極活用
2)安全運転の励行
・急発進、急停車の禁止
・余裕をもった車間距離の保持
3)運行記録等
・デジタルタコメータの搭載、運転日報
4)運転者
・大型トラック、天然ガストラックの運行実務と経験、並びに経験の豊富な運転者
5)貨物積載条件
・各車両とも 10 トンのダミー貨物を積載
(4)実験結果
走行距離は約 1,000km で、燃料消費量は天然ガスが約 280 ㎥、軽油が約 300L であった。
表3 実験調査走行結果
車両
区分
A
天然ガス
B
軽油
C
軽油
走行日
9月2日 ~ 9月3日
9月3日 ~ 9月4日
9月2日 ~ 9月3日
9月3日 ~ 9月4日
9月2日 ~ 9月3日
9月3日 ~ 9月4日
走行距離
1,043 km
1,025 km
1,050 km
1,035 km
1,059 km
1,041 km
燃料消費量
283.3 m3
285.6 m3
299.3 L
304.7 L
309.0 L
285.3 L
出典:株式会社エコトラック資料
4.分析結果
(1)1 台当たりの CO2 排出量の算定
以下の計算式で CO2 排出量を算定した。
・全 CO2 排出量=燃料消費量×CO2 排出係数
ここで、CO2 排出係数=標準発熱量×単位発熱量当たり CO2 排出量
・1km 当たり CO2 排出量=全 CO2 排出量÷走行距離
4
単位発熱量当たり CO2 排出量は、温室効果ガスインベントリオフィス1に掲載されている「日本
国温室効果ガスインベントリ報告書(NIR)
」に示されているエネルギー源別炭素排出係数を用いた。
実験結果から算定した CO2 排出量を表4に示す。天然ガストラックは、軽油ディーゼルトラック
に比べ、1km 当たり排出量平均で約 18%(13~21%)の CO2 排出削減効果が見られた。
表4 CO2 排出量及び関連データ
車両
CO2排出係数
区分
A
天然ガス
B
軽油
C
軽油
2.22
2.22
2.59
2.59
2.59
2.59
総CO2排出量
3
628.1
633.1
774.9
788.9
800.0
738.7
kg-CO2/Nm
kg-CO2/Nm3
kg-CO2/L
kg-CO2/L
kg-CO2/L
kg-CO2/L
1km当たり排出量
602.2 g-CO2
617.6 g-CO2
738.0 g-CO2
762.2 g-CO2
755.5 g-CO2
709.6 g-CO2
kg-CO2
kg-CO2
kg-CO2
kg-CO2
kg-CO2
kg-CO2
(2)天然ガストラックの台数
モーダルシフトが飽和状態といわれている現在、都市間輸送や拠点間輸送の主役は大型トラック
ある。関東、東海静岡、関西地区で広範な輸送需要があり、大都市圏の物流に約 10 万台の大型ト
ラックが利用されている。
表5 大都市圏の物流に利用されている大型トラック台数の推計
着
発
東北
関東
東北
5,658
新潟北陸
甲信
東海静岡
関西
山陽四国
山陰
九州
合計
501
159
643
435
106
0
56
7,558
2,960
2,201
5,303
3,656
1,323
65
1,061
21,861
439
1,630
1,441
201
6
141
7,634
1,531
568
66
0
101
4,796
6,360
1,594
136
718
20,045
5,642
625
1,504
19,304
1,243
2,033
12,653
122
1,997
関東
5,292
新潟北陸
1,115
2,661
甲信
115
2,074
341
東海静岡
940
7,291
1,646
1,360
関西
422
3,675
1,871
288
5,277
山陽四国
137
1,788
282
94
1,835
5,241
山陰
0
113
11
9
123
564
1,055
九州
90
1,039
82
40
602
1,122
2,195
84
合計
8,111
24,299
7,694
4,590
16,944
19,387
12,182
2,159
5,254
5,736
101,102
出典:
「貨物自動車の高速道路利用量率」「1台あたりの積載貨物量」「大型車割合」「貨物・旅客地域流
動調査」等から推計(2010 年 3 月、日本ガス協会調べ)
(3)天然ガストラックの走行距離
大型トラックの年間走行距離を約 6.8 万~15 万 km と想定した。
1
http://www-gio.nies.go.jp/aboutghg/nir/nir-j.html
5
表6 大型トラックの年間平均走行距離
年間平均走行距離
出典
備考
「平成16年度自動車の検査・点検整備に関する基
礎調査検討結果報告書」
(自動車の検査・点検整備に関する基礎調査検討
会、国土交通省自動車交通局)
事業用貨物車
(8トン以上)
100,000 km
日野自動車ホームページ
-
150,000 km
「環境対応車普及の課題と対策(検討項目)」
平成22年2月4日合同会議(第3回「平成21年度環境
-
対応車普及方策検討会」、第3回「地球温暖化対策
中長期ロードマップ検討会自動車WG」) 資料8
68,000 km
出典:各種資料よりみずほ情報総研作成
(4)天然ガストラックの導入による温室効果ガス排出量削減効果
図1に示した「日本における天然ガス自動車普及台数」では、天然ガス自動車のうちトラックは
約 1 万 8 千台が普及している(2010 年度)
。しかし、市販車両は 2 トン~4 トン車であり、長距離
輸送を担う大型トラック(最大積載量 10 トン超)は実験車両のほか数台とされている。
このことから、国内の長距離用大型トラックを天然ガストラックへ転換することは、ほぼ全数を
転換することとなる。
そこで、以下の条件で温室効果ガス排出量削減効果を算定した。
・対象台数:10 万台
・年間平均走行距離:6.8 万~15 万 km
表7 天然ガストラックの導入による温室効果ガス排出量削減効果
区分
年間平均
走行距離
年間走行距離が 天然ガス
最も少ない場合 軽油
68,000 km
年間走行距離が 天然ガス
最も多い場合
軽油
150,000 km
1km当たり
平均CO2排出量
年間CO2
平均排出量
609.9 g-CO2
41.5 t-CO2
735.9 g-CO2
50.0 t-CO2
609.9 g-CO2
91.5 t-CO2
735.9 g-CO2
110.4 t-CO2
年間CO2削減量
(10万台換算)
86 万t-CO2
189 万t-CO2
注1:天然ガスの 1km 当たり平均 CO2 排出量は表4の車両Aの平均値
注2:軽油の 1km 当たり平均 CO2 排出量は表4の車両B、Cの平均値
表7に示すように、日本国内の大型トラックを天然ガストラックに転換すると、年間走行距離が
最も少ない場合でも約 86 万トン、多い場合には約 189 万トンの CO2 削減が見込まれる。
以上
6