11 軸及びハウジングの設計

11 軸及びハウジングの設計
11. 1 軸・ハウジングの精度と粗さ
通常の使用条件では,軸・ハウジングの精度と粗さは,
なお,h 及び r a の値は,軸又はハウジングの隅の丸
表11.1による.
みが,図11.2の(a)の場合に適用し,図11.2の(b)の
ように軸を研削仕上げするときの逃げ寸法は,普通,表
軸やハウジングの精度不良がある場合,軸受はその影
響を受け,必要な性能を発揮することができない.例え
11. 2 軸受の取付関係寸法
11.3の値による.
ば,取付部の肩の精度不良があれば,軸受の内輪・外輪
の傾きを生じ,軸受荷重のほかに端部集中荷重(エッジ
ロード)が加わり,
軸受の疲れ寿命を低下させる.更に,
軸受を軸又はハウジングに取り付けて,アキシアル方
向に位置を決める場合,軸受側面が接する軸の肩又はハ
保持器の破損,焼付きなどの損傷を生ずる原因となるこ
ウジング内径の肩は,軸心に対して直角に仕上げなけれ
とがある.
ばならない(表11.1参照).また,円すいころ軸受正面
また,ハウジングは,外部荷重による変形が少なく,
側のハウジング内径は保持器との接触を避けるため軸受
軸受を十分支持するような剛性のあることが必要であ
の外径面と平行に加工する.
る.剛性が高いほど,軸受の音響や荷重配分などに有利
軸及びハウジングの隅の丸みは,軸受の面取部分と干
である.
渉しないようにする必要がある.したがって,隅の丸み
一般の使用条件では,はめあい面の加工は,旋削仕上
の半径 ra は,軸受の面取寸法 r 又は r1 の最小値を超え
げ あるいは精密中ぐり仕上げなどでよいが,回転の振
ない値とする.
れや音響についての要求が厳しい使用箇所や,荷重条件
r(最小)
又はr 1(最小)
一体形ハウジングに軸受を2個以上配列する場合,ハ
ウジングの はめあい面は,通し穴で加工できるように
ra
設計する.二つ割りハウジングでは,薄肉の外輪を変形
r(最小)
又はr 1(最小)
h
させることがあるので,加工上注意が必要である.
軸受
表11. 1 軸・ハウジングの精度と粗さ
ra
項 目
軸受の等級など
ハウジング穴
0級,6級
IT4
IT 3 ∼̶
̶
2
2
IT4 ∼̶
IT5
̶
2
2
5級,4級
IT3
IT2 ∼ ̶
̶
2
2
IT2 ∼̶
IT3
̶
2
2
0級,6級
IT4
IT 3 ∼̶
̶
2
2
IT4 ∼ IT5
̶
̶
2
2
5級,4級
IT3
IT2 ∼̶
̶
2
2
IT2 ∼ IT3
̶
̶
2
2
0級,6級
IT3
IT3∼IT4
5級,4級
IT3
IT3
真円度公差
円筒度公差
肩の振れ公差
はめあい面
の粗さ
Ra
軸
小形軸受
0.8
1.6
大形軸受
1.6
3.2
備 考 半径法による一般的な推奨であり,軸受の精度に対
応して基本公差 I T の等級を選定する.I T の数値に
ついては,付表11(C22ページ)をご参照ください.
なお,ハウジング穴に しめしろ をもたせて軸受の外
輪を取付ける場合及び薄肉軸受の内輪・外輪を取付
ける場合などには,軸・ハウジングの精度が軸受軌
道面に与える影響が大きいのでさらに精度を向上さ
せる必要がある.
A 100
表11. 2 軸及びハウジングの隅の丸みの半径
とラジアル軸受に対する肩の高さ
(メートル系)
単位 mm
内輪又は
外輪の
面取寸法
軸又はハウジング
r(最小)
又はr 1(最小)
h
r(最小)
又はr 1(最小)
軸
図11. 1 ラジアル軸受の面取寸法と軸・
ハウジングの隅の丸みの半径と肩の高さ
ラジアル軸受に対する軸の肩及びハウジングの肩の高
さは,軌道輪の側面に十分接触し,かつ,取外工具など
が当てられるような高さとする.その最小値は表11.2
による.
軸受の取付関係寸法は,この肩の高さを考慮した直径
で,軸受寸法表に記載されている.特にアキシアル荷重
(最小)
rg
h r
(最小)
r
t
r
(最小)
(最小)
b
(b)
(a)
図11. 2 軸受の面取寸法と軸の隅の丸みの寸法と形状
肩の高さ
h(最小)
隅の丸み
の半径
1
深溝玉軸受( ) アンギュラ玉軸受
自動調心玉軸受 円すいころ軸受(2)
円筒ころ軸受
(1) 自動調心ころ軸受
r(最大)
又は
a
ソリッド形針状
r(最小)
ころ軸受
1
r(最小)
ハウジング
の過酷な場合には,研削仕上げが必要である.
ra
h r
0.05
0.08
0.1
0.05
0.08
0.1
0.2
0.3
0.4
̶
̶
̶
0.15
0.2
0.3
0.15
0.2
0.3
0.6
0.8
1
̶
̶
1.25
0.6
1
1.1
0.6
1
1
2
2.5
3.25
2.5
3
3.5
1.5
2
2.1
1.5
2
2
4
4.5
5.5
4.5
5
6
2.5
3
4
2
2.5
3
̶
6.5
8
6
7
9
5
6
7.5
4
5
6
10
13
16
11
14
18
9.5
12
15
19
8
10
12
15
20
24
29
38
22
27
32
42
表11. 3 軸を研削仕上げする場合の逃げ寸法
単位 mm
逃げの寸法
内輪及び外輪
の面取寸法
r(最小)又はr(最小)
1
t
rg
b
1
1.1
1.5
0.2
0.3
0.4
1.3
1.5
2
2
2.4
3.2
2
2.1
2.5
0.5
0.5
0.5
2.5
2.5
2.5
4
4
4
3
4
5
0.5
0.5
0.6
3
4
5
4.7
5.9
7.4
6
7.5
0.6
0.6
6
7
8.6
10
注 (1)
アキシアル荷重を負荷させる軸受では,この値
より十分大きな肩の高さを必要とする.
大きなアキシアル荷重がかかる場合には,この
(2 )
値より十分大きな肩の高さを必要とする.
備 考 1. スラスト軸受に対しても,この隅の丸みの
半径が適用される.
2. 軸受寸法表には,取付関係寸法として肩の
高さでなく,肩の直径で記載されている.
を負荷する円すいころ軸受や円筒ころ軸受では,つば部
を十分に支持する肩の寸法と強度とが必要である.
A 101
軸及びハウジングの設計
(2)
フリンガ(スリンガ)
(3)
ラビリンス
る必要があり,
支持面の直角度も良くなければならない.
軸に取り付けた回転体の遠心力によって,
油漏れ防止,
軸とハウジングとの間に,小さな すきま をもつ凹凸
ハウジング穴の肩の直径 Da は,玉のピッチ円径より
密封装置は,外部からの ごみ,水分,金属粉など軸
防じん作用をさせる密封形式である.
の組合せであり,特に,高速軸の油漏れ防止に適してい
小さく採り,軸の肩の直径 d a は,玉のピッチ円径より
受に有害なものの侵入を防ぎ,軸受部分に保有する潤滑
ハウジング内側にフリンガを置いた図11.6(a),(b)
る.
大きな寸法とする(図11.3)
.
剤の漏れを防止するものである.したがって,密封装置
は,油漏れ防止を主目的としたもので,比較的 ごみ の
組立てを容易にするため,図11.7(a)が多く使用さ
スラストころ軸受では,ころ の接触長さ全面を支持
は,あらゆる運転条件に対して常に密封,防じんの目的
少ない環境で用いられる.図11.6(c),
(d)は,外部か
れるが,図11.7(b),
(c)の方が密封性は良い.しかし,
する寸法にすることが望ましい(図11.4).
を果たすものでなければならず,異常な摩擦や焼付きな
らの ごみ や水分の侵入を,フリンガの遠心力で防いで
ハウジング又はカバーを.二つ割り又は組立式にする必
肩の直径 d a 及び D a は,軸受形式別に,それぞれの
どを起すようなものであってはならない.同時に,
分解,
いる.
要がある.
軸受寸法表に記載されている.
組立て,保守などが容易にできるものであることが望ま
ラジアル方向及びアキシアル方向のラビリンスすきま
れる.
は,普通,表11.5に示す程度とする.
スラスト軸受の場合,軌道盤の支持面を十分に広くす
11. 3 密封装置
それぞれの用途に応じて,潤滑方法と併せて検討し,
表11. 4 油溝形式の軸とハウジング
との すきま
単位 mm
適切な密封装置を選定することが必要である.
φd a
表11. 5 ラビリンスのすきま
単位 mm
11. 3. 1 非接触形式の密封装置
ラビリンスすきま
軸の呼び直径
ラジアル方向のすきま
50 以下
0.25∼0.4
50 を超え 200 以下
0.5 ∼1.5
軸の呼び直径
軸と接触することがなく,摩擦部分のない密封装置と
しては,油溝,フリンガ,ラビリンスなどの形式がある.
遠心力や,小さな すきま を利用して,密封の目的を果
たすことができる.
φDa
ラジアル方向
アキシアル方向
50 以下
0.25∼0.4
1∼2
50 を超え 200 以下
0.5 ∼1.5
2∼5
(1)
油 溝
図11. 3 スラスト玉軸受の支持面の直径
油溝形式は,軸とハウジングカバーとの小さな すき
ま と,その部分に設けた数本の溝によって,密封作用
を行なうものである(図11.5(a)(b)).低速の場合を
除いて,油溝だけでは,潤滑剤の漏れ防止の効果が少な
いので,
フリンガやラビリンスと併用することも多い
(図
φda
11.5(c))
.油溝に,ちょう度200程度のグリースを詰
めておくと,ある程度防じん効果がある.
軸とハウジングとの すきま は,小さいほど密封効果
は上がるが,運転中に両者が接触してはならないので,
表11.4に示す程度の値を採る.
φDa
(a)
溝幅は,3∼5mm程度とし,深さは4∼5mm程度がよ
図11. 4 スラストころ軸受の支持面の直径
(a)
い.溝数は,溝だけで密封する場合,3本以上とする.
(b)
図11. 5 油溝の例
(d)
(c)
(b)
図11. 6 フリンガの例
(c)
(a)
アキシアルラビリンス
(b)
ラジアルラビリンス
(c)
調心軸のラビリンス
図11. 7 ラビリンスの例
A 102
A 103
軸及びハウジングの設計
11. 3. 2 接触形式の密封装置
合成ゴム,合成樹脂,フェルトなどの接触先端が,軸
と摩擦接触をしながら密封作用を行なう形式で,合成ゴ
ムのリップをもつオイルシールが最も一般的である.
(2)
フェルトシール
い.軸の周速が大きい(4m/s以上)場合にも適さない
フェルトシールは,伝動軸などに古くから使われてい
ので,用途に応じた合成ゴムシールに換えていくことが
布する必要がある.また,運転中には,しゅう動面にハ
たが,油の漏れや浸透もある程度避けがたいので,グリー
望ましい.
ウジング内の潤滑剤が,わずかににじみ出ているような
ス潤滑の場合に防じんの目的だけにしか用いられていな
状態が望ましい.
但し,アクリル系材料は,エステル系グリースでの膨
潤に注意が必要であり,シリコーン系材料は,低アニリ
(1)
オイルシール
ン点鉱油,シリコーン系グリース,シリコン油での膨潤
外部から ごみ,水分,異物などが侵入しやすい箇所,
に注意が必要である.又,ふっ素系材料は,ウレア系グ
又はハウジング内の潤滑剤の漏れを防ぐ箇所に,多くの
リースでの劣化に注意が必要である.
オイルシールが使われている(図11.8,図11.9).
オイルシールの許容周速は,シールの形式,しゅう動
オイルシールには,数多くの形式と寸法とが標準化さ
面の仕上げ程度,密封対象液,温度条件,軸の偏心の程
れており(JIS B 2402参照)
,その中でも,適正な緊迫
度などによって異なる.使用温度範囲は,リップの材料
力を保持するため,ばね を組み込んだものが多い.し
によって制限される.条件の良い場合の許容周速と使用
たがって,軸の偏心又は みそすり運動に対しても,あ
温度範囲は,表11.6に示す値が目安となる.
る程度追随できる.
周速の大きい場合や,内圧の高いときには,軸の しゅ
シールリップの材料としては,通常,ニトリル・アク
う動部をよく仕上げる必要があり,軸の偏心も0.02∼
リル・シリコン・ふっ素の合成ゴム,四ふっ化エチレン
0.05mm以下にするほうがよい.
樹脂などが用いられる.許容温度の上限は,上記の材料
軸のしゅう動部の硬さは,耐摩耗性を高めるため,熱
の順序に高くなっている.
処理又は硬質クロムメッキなどによって,HRC40以上
シールリップと軸との間に油膜がないと,摩耗,発熱
にする必要があり,できればHRC55以上が望ましい.
を起しやすいので,取付け時には,シール部分に油を塗
軸の周速によって要求される しゅう動部の表面粗さ
の目安を,表11.7に示す.
12 潤 滑
12. 1 潤滑の目的
12. 2 潤 滑 方 法
転がり軸受の潤滑の目的は,軸受内部の摩擦及び摩耗
軸受の潤滑方法は,グリース潤滑と油潤滑に大別され
を減らし,焼付きを防止することである.潤滑の効用は,
る.軸受の機能を十分に発揮させるためには,その使用
次のとおりである.
条件,使用目的によく適合した潤滑方法を用いることが
(1)
摩擦及び摩耗の減少
潤滑だけを考えれば,油潤滑が優れているが,グリー
接触する部分において,金属接触を防止し,摩擦,摩耗
ス潤滑は,軸受周辺の構造を簡略化できる特長がある.
を減らす.
グリース潤滑と油潤滑との得失を比較して表12. 1に
(2)
疲れ寿命の延長
粘度が低く,潤滑油膜の厚さが不十分な場合には短かく
なる.
は外部から伝わる熱を,油によって搬出,冷却し,軸受
の過熱を防ぎ,潤滑油自身の劣化を防止する.
許容周速(m/s) 使用温度範囲°C
( 1)
(4)
その他
軸受内部に異物が侵入するのを防止し,あるいは さ
ニトリル系
16以下
−25∼+100
アクリル系
25以下
−15∼+130
シリコーン系
32以下
−70∼+200
ふっ素系
32以下
−30∼+200
四ふっ化エチレン樹脂
15以下
−50∼+220
合成ゴム
図11. 8 オイルシール使用例
(1)
注 (1)
短時間の運転では,使用温度範囲の上限を 20°C ほど
高く採ることができる.
表12. 1 グリース潤滑と油潤滑の得失
分に潤滑されているときには長くなる.逆に,潤滑油の
循環給油法などでは,摩擦により発生した熱,あるい
シールの材料
示す.
軸受の転がり疲れ寿命は,回転中の転がり接触面が十
(3)
摩擦熱の搬出,冷却
表11. 6 オイルシールの許容周速と使用温度範囲
第一である.
軸受を構成する軌道輪,転動体及び保持器の,相互に
び や腐食の発生を防ぐという効果もある.
項 目
グリース潤滑
油 潤 滑
ハウジング構造 簡略化できる
密封装置
やや複雑になり,保守に
注意が必要
回転速度
許容回転数は,油潤滑
の場合の65∼80%
グリース潤滑に比べ,高
い回転数でも使用可能
冷却作用
冷却効果
なし
熱を効果的に放出できる
(循環給油法の場合など)
潤滑剤の流動性 劣る
非常によい
潤滑剤の取替え やや繁雑
比較的簡単
ごみ の ろ過
容易
困難
潤滑剤の漏れ汚 漏れによる汚染が少な
染
い
油漏れにより汚染を嫌う
箇所には不適
12. 2. 1 グリース潤滑
(1)
ハウジング内へのグリースの充てん量
ハウジング内へ充てんするグリース量は,軸受の回転
速度,ハウジングの構造,空間容積,グリース銘柄,雰
囲気などによって異なる.温度上昇を極度に嫌う工作機
表11. 7 軸の周速と しゅう動部
の粗さ
械の主軸用軸受などでは,グリースの充てん量を少な目
にするが,一般的な目安は,以下のとおりとする.
周速(m/s)
表面粗さ Ra(µm)
5以下
0.8
5∼10
0.4
要である.次に,ハウジング内部の軸及び軸受を除いた
10を超えるもの
0.2
空間容積に対して,
まず,軸受内部には十分にグリースを詰める.このと
き,保持器案内面などにもグリースを押し込むことが必
1/2∼2/3(許容回転数の50%以下の回転のとき)
1/3∼1/2(許容回転数の50%以上の回転のとき)
図11. 9 オイルシール使用例
(2)
A 104
程度の量を充てんする.
A 105