大石産業株式会社 (本社、北九州市) は包装 資材の総合メーカーで、パルプモウルド製 品で業界トップの実力をお持ちです。2002年 6月に大連大石包装有限公司を設立。2003 年3月から稼動を開始し、中国進出日系企業 向けの輸送用緩衝材の製造販売を主として 事業を展開されています。今回は、大連進 出計画から関わってこられた吉田総経理に お話を伺いました。 Q:大連進出の経緯について教えて下さい。 A:もともと中国での拠点を探していたのですが、大連に決めたのはここに顕在需要 があったからです。ここ大連経済技術開発区内には私共の得意先であるキャノン を始め日系企業が多く進出してきており、大連工場単独で採算が取れる見込みが あったのが決め手です。 また大連には中国で最も大きな企業養鶏家が存在することから、将来的には鶏卵 の輸送用トレーの製造を取り込みたいと考えたことも一つの要因ですね。そのた め工場用地については、増設を見込んでもう1棟分確保しています。 Q:設立に当たってはどのようにされましたか? A:コンサルティング会社から大連の人材派遣会社を紹介してもらい、まず中国人の 総務人事部長と工場次長を探しました。開業までに工場建設と併せて人員の養成 をしなければなりませんが、この人達にこれを実行するための核となってもらい ました。日本語を話せることを前提として、総務人事部長については人事管理や 役所関係の交渉歴のある人、工場次長については品質管理・生産管理・労務管理 ができる人を条件としたのですが、大連の凄いところはそういう人材でも供給に 事欠かないところですね。ほかの現地社員 は労働服務公司(日本のハローワークみた いなもの) で募集をかけました。 Q:大連での事業内容について教えて下さい。 A:大石産業の製品には、パルプモウルド、包 装用フィルム、重包装袋、段ボール等があ りますが、大連では工業用のパルプモウル ドを扱っています。パルプモウルドのモウ ● 9● 大連大石包装有限公司 工場外観 ルドとは成型のことで、原理は紙の抄造と同じで水 で解かした原料を金型に吸い付けて成型します。大 石産業のパルプモウルドは鶏卵用トレーから出発し て約35年の歴史を持っているのですよ。 ここの製品は、主に近隣の日系企業が製造する製品 や部品を包装するときに使う緩衝材として使用され ています。原料には古紙を使用しますが、周辺企業 パルプモウルド商品例 (トナーカートリッジ緩衝材) が部品を輸入する時に使ったダンボール等を原料に し、それを緩衝材に再生していますから資源リサイクルにも役立っていますよ。 パルプモウルドの他には、緩衝設計といわれる包装の効率性と保護性を最適にす る包装設計に強みを持っていますから、CAD・CAMデータを日本の設計センター からこちらに送り、そのデータによって金型も製造しています。こちらでは日本 よりかなり格安で製造できるので、現在親会社で使う金型のほとんどをここから 供給しています。コストが下がった分、以前は1つしか製造できなかったコスト で複数の金型ができるのですから、いろいろな顧客ニーズに対応することができ ます。そのため、ここは大石産業の金型の調達拠点にもなっています。 Q:今後の展望について教えてください。 A:大石産業のパルプモウルド部門には、日本国内の4工場に、ここ大連を加え合計 5工場があります。今後はそれぞれの工場の設備の特徴を活かしたグローバルな 生産分担を行っていく必要があると思っています。 設備にも特徴があって、日本の工場にある機械は高速で量産に向きますが数億円 もします。一方、大連の機械は南京製でスピードが遅いですけれども値段が安く (数千万円) 小回りが利きます。こういった設備を有効に使うにはコストの安い国 で多品種少ロットとなる製品を製造すればいいですよね。 生産効率の悪いものは海外でコストを下げて作り、大量に作れ生産コストが低い ものは日本で生産するというような最適マシンによる適地生産ができれば、お客 様へのサービスもまだまだ向上出来ると思っています。 中国企業向け販売については、今のところいろいろとリスクがありそうなので、 弊社ではまだ手がけていません。中国もWTOに加盟して各方面で改革を進めて いますので、今後状況が変れば考えていきたいと思います。 Q:大連で苦労されたことはありますか。 A:人材育成でしょうか。決め事を守らせるのが難しいですね。信賞必罰といいます が、特に罰則がなければなかなか決めたことを守らないところがあるように感じ ています。本当は性善説で行きたいのですが、実際には性悪説ということでいか ないと難しいのも事実ですね。 また中国人の一大特徴として面子を非常に重んじるということがありますが、これ についてはよく注意して、指導は厳しくやりながらも彼らの面子も尊重してやっ ていかないと思わぬシッペ返しを受けることになりかねません。 ● 10 ● 言葉については、日本語を話せる人たちが多い のであまり苦労しませんでした。係長クラスで 日本語がわかる人は多いのは大連ならではだと 思います。ただ、それに頼っている分、私たち が中国語を覚えることがおろそかになりますね。 人材については転職率が高いです。弊社の場 合、機械をいかに適正に動かすかなので転職に よって大きな影響を受けることはありません が、生産現場では担当が違ってもお互いに仕事 をカバーできるように訓練しています。 吉田総経理 Q:大連についての印象を教えてください。 A:良い点で思いつくのは、他の中国各都市に比べて、安全、清潔、日本語人材が豊 富、性格が温和、反日感情が少ないなどじゃないでしょうか。 欠点は、交通マナーの悪さですね。大連だけに限ったものではありませんが、交 通ルール無視や携帯電話で話すなど日常茶飯事ですね。運転中でも携帯電話がか かってくれば途端にスピードを落としますし、私の乗っていた車も前の車の突然 の急ブレーキで追突事故になったことがありますよ。 Q:中国進出についてのアドバイスなどありましたら教えてください。 A:我々が鶏卵トレーの製造も考えていたことはお話しましたが、まだ開始していな いのは、やはり中国メーカーと直接取引をするには代金回収に様々な問題がある からです。なかなか代金を支払ってくれないということはよく聞きますし、日本 の部品メーカーなどで中国企業と取引したところの中には、未回収代金を抱えた ままで取引を止めたという事例も多くあるようです。決済システムなど日本と違 うこともありますが、日本人の一般的な決済感覚とはかなりの違いがあります。 こういったところをしっかり情報収集してどう商売をしていくか事前にきちんと 準備する必要があるでしょうね。 〈会社概要〉 大連現地法人:大連大石包装有限公司 所在地:大連経済技術開発区東北二街37号 電 話:0411−87631173 FAX:0411−87631191 取材後記 吉田総経理は、大連の前はマレーシアでも勤務され、その経験談は紙面には掲載し切れ ませんでしたが、非常に勉強になるものでした。 大変ご多忙中にも関わらず、快く取材に応じていただきましたことに心から感謝申し上 げますとともに、今後益々のご活躍とご発展を祈念いたします。 ● 11 ●
© Copyright 2024 Paperzz