Instructions for use Title ベトナムの労使関係法と労働組合 Author(s

Title
Author(s)
ベトナムの労使関係法と労働組合
押見, 善久
Citation
Issue Date
URL
2004-12-24
http://hdl.handle.net/2115/28082
Rights
Type
theses (doctoral)
Additional
Information
Instructions for use
Hokkaido University Collection of Scholarly and Academic Papers : HUSCAP
ベトナムの労使関係法と労働組合
押見
善久
目次
Ⅰ
序章
1 基本的認識
1-1 ドイモイと労働立法
1-2 ベトナム労働法の基本的構造
2 問題の所在と本稿の目的
3 構成と方法
Ⅱ
背景的諸事項
1 ドイモイ
2 労働事情
2-1 労働人口
2-2 賃金、労働時間
2-3 ストライキの概況
3 労働立法史の概略
3-1 第一段階(一九四五年から一九五四年まで)
3-2 第二段階(一九五五年から一九八五年まで)
3-3 第三段階(一九八六年から現在まで)
4 労働組合
4-1 ベトナム労働組合の歴史
4-2 ベトナム労働組合の法的地位
① 憲法における規定
② 下位法規における総則的規定
③ 党との関係
④ 国家との関係
⑤ 使用者との関係
4-3 ベトナム労働組合の組織構造
① 基本的構造
② 組合員資格
③ 基礎労働組合、暫定労働組合執行委員会、業団
④ 地方産業別労働組合、県級労働同盟
⑤ 中央産業別労働組合、省級労働同盟
⑥ ベトナム労働総同盟
⑦ 財政
Ⅲ
労働条件決定システムと労働組合
1 労働契約(hop dong lao dong)
1-1 労働契約の経緯と定義
1-2 契約主体
① 使用者
② 労働者
1-3 契約類型と契約手続
① 契約類型
② 契約手続
1-4 労働契約の内容
1-5 労働契約の履行、変更および中断
1-6 労働組合の役割
1-7 問題点
2 就業規則(noi quy lao dong)
2-1 就業規則の基本的性質と作成手続
① 基本的性質
② 作成手続
2-2 紀律責任と紀律処分
① 紀律責任の構成要件
② 紀律処分に関する諸原則
③ 紀律処分の形式と適用手続
2-3 物的責任と物的処分
① 物的責任の理論的根拠と特殊性
② 物的処分の要件
③ 物的処分の程度と方法
2-4 労働組合の役割
① 作成
② 就業規則の周知と労働紀律の保証、強化
③ 紀律処分、物的処分への参加
2-5 問題点
3 労働協約(thoa uoc lao dong tap the)
3-1 経緯と概念
3-2 労働協約制度の適用対象
3-3 締結手続
① 諸原則
② 締結事項
③ 具体的手続(労働組合の役割)
3-4 効力
3-5 問題点
4 労働保護(bao ho lao dong)
4-1 概念と諸原則
4-2 基準の設定
4-3 各労働保護制度
4-4 労働組合の役割
5 社会保険(bao hiem xa hoi)
5-1 基本的構造と諸原則
① 基本的構造
② 諸原則
5-2 各社会保険制度
5-3 労働組合の役割
① 基礎労働組合、暫定労働組合
② 県級労働組合
③ 省級労働同盟
④ 中央産業別労働組合
⑤ ベトナム労働総同盟
5-4 問題点
6 労働契約の終了(cham dut hop dong lao dong)
6-1 合法的な終了
6-2 非合法的な終了
6-3 整理解雇
6-4 精算、労働者手帳の返却
6-5 労働組合の役割
6-6 問題点
Ⅳ
労働紛争解決システムと労働組合
1 経緯と概念
1-1 労働紛争解決システムの経緯
1-2 労働紛争の概念
① 労働紛争(tranh chap lao dong)
② 個別的労働紛争(tranh chap lao dong ca nhan)
③ 集団的労働紛争(tranh chap lao dong tap the)
2 対話(doi thoai)
3 現場での話し合い(thuong luong truc tiep va tu dan xep giua hai ben
tranh chap tai noi phat sinh tranh chap)
4 基礎労働調停協議会(Hoi dong hoa giai lao dong co so)
、
労働調停員(Hoa giai vien lao dong)
4-1 概要
4-2 労働組合の役割
4-3 問題点
5 県級人民裁判所(Toa an nhan dan cap huyen)
5-1 概要
① 裁判管轄
② 提訴、受理手続
③ 審理の準備と和解勧試
④ 仮処分
⑤ 審理と判決
5-2 労働組合の役割
5-3 問題点
6 省労働仲裁協議会(Hoi dong trong tai lao dong tinh)
6-1 概要
6-2 具体的手続
6-3 労働組合の役割
6-4 問題点
7 省級人民裁判所(Toa an nhan dan cap tinh)
7-1 概要
① 裁判管轄
② 提訴(上訴)、受理手続
③ 審理の準備、和解勧試および仮処分
④ 審理と判決
7-2 労働組合の役割
7-3 問題点
8 最高人民裁判所、監督審および再審
8-1 最高人民裁判所(Toa an nhan dan toi cao)
8-2 監督審(giam doc tham)
8-3 再審(tai tham)
9 ストライキ(dinh cong)
9-1 経緯
9-2
9-3
スト権の行使手続
裁判所による解決
① 申立手続
② 和解勧試
③ 仮処分
④ 合法性審査
9-4 罰則
9-5 問題点
Ⅴ
終章 ―労使関係ルールのドイモイ―
1 問題状況の総括
2 ベトナム労働組合の唯一的、一般的代表性に対する修正の試み
2-1 未組織事業体における労働者代表主体
2-2 集団的労働紛争の定義
3 私見 ―展望と課題―
註
付録
Ⅰ 事例
事例① V-Flame 社におけるストライキの顛末
事例② Rehang Vietnam Stainless 社における労働組合の「無効化」の例
Ⅱ
ストライキの解決の現状
付録註
Ⅰ 序章
1 基本的認識
1-1 ドイモイと労働立法
ベトナムではいわゆるドイモイ(刷新)路線が奏効し、経済の発展が著しい。
つい一〇年前は真っ暗闇だったハノイの夜にも電気が灯り、商店にはモノが溢
れている。庶民は財布を持つのが習慣になった。高嶺の花だったオートバイが
渋滞している。高層建築も増えた。肥満気味の子供が眼鏡をかけてパソコンに
向かう。ベトナムは確実に変化している。
ドイモイ路線は一九八六年のベトナム共産党第六回党大会で採用され、一九
九一年の第七回党大会で具体化、確定された。従前の性急な社会主義革命路線
は長期的な段階的革命路線に改められた。社会主義革命の基盤となる経済発展
を優先する観点から市場経済が導入され、国土の工業化、現代化 1が進められて
いる。
また、ベトナムは法権国家 2の建設を急いでいる。とりわけ、市場経済の導入
による労働市場の形成、工業化による被用者の増大などに対応する必要から、
労働契約関係を規制する労働法の整備が急がれている。外資を呼び込むための
法的基盤整備という側面もある。すでに、労働立法はその規定すべき主要事項
をほぼ網羅した。しかし、実際の適用に際しては、概念の不明確さや規定内容
の非整合性、非合理性など多くの問題が露見した。そこで、関係各法規の改正
作業が進められている。二〇〇二年四月には労働法典 335-L/CTN(一九九四年七
月五日)も大きく改正された 4。
1-2 ベトナム労働法の基本的構造
現在のベトナム労働法は、労働組合法 40-LCT/HDNN8(一九九〇年七月七日)5、
労働法典および労働紛争解決手続法令 648-L/CTN(一九九六年四月二〇日)の三
つを基本的構造とする。ベトナム版労働三法である。
ベトナム民主共和国が公布した旧労働組合法 108-SL/L.10(一九五七年一一月
五日)において、労働組合の主要な任務は、社会主義革命における労働者の教
育、動員とされた。ベトナム労働総同盟をナショナル・センターとするベトナ
ム労働組合 7が唯一の法認組合とされ、国家計画の策定などにおいて全労働者を
一般的に代表 8する機能が規定された(つまり非組合員も代表した。もっとも、
戦時期であり非組合員は希だった)。労働紛争は殆ど想定されていなかった。
ベトナム社会主義共和国の樹立後、性急な革命路線が破綻し、ドイモイ路線
が採用された。市場経済が導入され、労働市場の形成が始まった。
一九九〇年、現行労働組合法が公布された。同法の内容は、旧法をベースと
し、市場経済的な労使関係に対応する内容を組み込んだものである。ベトナム
労働組合が共産党の領導を受ける政治-社会組織 9であること、同組合が唯一の
法認組合であり、労使関係における労働者の権利と利益を一般的に代表 10するこ
と(この性質を本稿ではそれぞれ唯一的代表性、一般的代表性と呼ぶ)、および
組合加入権や組合活動権の保護などが規定された。個別的な労働紛争における
労働組合の役割も規定されたが、労働組合と使用者の間における「不一致」に
ついては別に定めることとされた 11。
労使関係における労働組合の役割は、主に双方の利害や意見の調整、労働法
規の実現に関する検査とされた。闘争主体という性質は付与されていない。
一九九一年、第七回党大会がドイモイ路線を確定した。市場経済の発展が加
速し、使用者と労働者の分離が進んだ。必然的に、労働紛争も多発するように
なった。
一九九四年に労働法典、一九九六年に労働紛争解決手続法令が公布され、市
場経済型の労使関係(使用従属関係)を規制する労使関係ルールが設定された。
具体的には、国家が労働条件の最低基準を定めた上で、使用者と労働組合が労
、、
働協約を締結して各職場ないし産業の具体的条件に応じたより高水準の労働条
件を決定する労働条件決定システム、および、専門機関の紛争処理手続に労働
者のスト権行使手続を組み込んだ労働紛争解決システムが構築された。社会主
義国の法でありながら労働者にストライキによる要求実現を認めた点が特徴で
ある 12。
両システムとも、そのあらゆる局面に労働組合を重要なアクターとして配し
ている。労働組合抜きには機能し得ないシステムである。
2
問題の所在と本稿の目的
旧労働組合法をベースとする現行労働組合法においては、社会主義的な立法
スタンスと市場経済的な立法スタンスの混在が見られる。労働条件決定システ
ムおよび労働紛争解決システムは現行労働組合法を前提として構築された。両
システムの重要なアクターである労働組合とは、同法が唯一的、一般的代表性
を規定するベトナム労働組合に他ならない。市場経済型の労使関係を規制する
労使関係ルールにも現行労働組合法における上記立法スタンスの混在状況が反
映されている。
したがって、この労使関係ルールを機能させるためには、その社会主義的な
側面と市場経済的な側面をいかに上手く融合させるかが鍵となる。しかし、実
際にはあまり成功していない。ベトナムの労使関係ルールは機能不全を起こし
ている。
機能不全は集団的労働紛争解決システムに顕著である。労働法典は労働者の
スト権を規定し、労働組合にはこの実力闘争を組織、指導する役割が付与され
た。しかし、労使関係におけるベトナム労働組合の基本的役割は調整および検
査であって、闘争主体となることではない。アンビバレントな役割を付与され
た労働組合は混乱し、身動きが取れなくなった。労働者も、そのような労働組
合に多くを期待していない。結果、労働法典施行後二〇〇四年六月までに発生
した七〇〇件あまりのストライキすべてが山猫ストという、異常な事態が現出
している 13。
労使関係ルールの機能不全を導いている社会主義的な立法スタンスと市場経
済的な立法スタンスのミスマッチは、政治(社会主義)と実社会(市場経済)
のミスマッチが労働法制において顕在化したものに他ならない。この顕在化、
すなわち労使関係ルールの機能不全が、政治-社会組織として政治(党)と実
社会(労働者)を取り結ぶベトナム労働組合との関連において集中的に発生し
ているわけである。したがって、問題の根は深い。
社会主義ベトナムにおける市場経済の導入自体の是非や問題点は、筆者の手
に余るテーマである。しかし、上記の問題状況を認識した上であれば、労使関
係ルールの範囲内に限定してその改善策を模索することにも、十分意義がある
と言うべきである。改善の余地のない法制度など存在しないからである。
本稿は、労働者の権利および利益の確保の観点から、ベトナムにおける労使
関係ルールと労働組合の法的関係を分析して問題点を摘示し、関係法制のドイ
モイについてその展望と課題を明らかにしようとするものである。
3
本稿の構成と方法
法制度の研究は、その歴史的、政治的および社会的なバックグラウンドを踏
まえたものでなければ意味がない。本稿のテーマとの関係では、少なくともド
イモイ路線の経緯と内容、現在のベトナムにおける労働事情一般、そして労働
組合組織に関する歴史と現状について確認したうえで論を進める必要がある。
そこで、第Ⅱ章においてこの作業を行う。まずドイモイ路線に関しては、すで
にわが国研究者においても優れた研究がなされているところであるから、もっ
ぱらそれら先行研究を参考にして基本的な経緯と内容を確認する。つぎに労働
事情に関しては、労働人口や平均賃金などのほか、多発している山猫ストの概
況についても説明する。資料としては、ベトナム国内の関係機関による統計資
料や報告書、新聞記事、研究論文などを用いる。また、ベトナムにおける労働
立法史の概略についても確認する。これは、拙稿「ベトナムの労働関係法制」14
の該当部分を手直ししたものである。さらに、ベトナムにおける労働組合組織
の歴史、政治的ないし法的な基本的地位、および組織の現状について明らかに
する。資料としては、歴史についてわが国およびベトナムにおける先行研究、
基本的地位について関係法規など、また組織についてはベトナム労働組合の内
部規定や報告書などを用いる。
第Ⅲ章および第Ⅳ章では、ベトナムの労使関係ルールと労働組合の法的関係
を分析する。ただし、ベトナムの労使関係ルールは先行研究の乏しい研究領域
であるため、労働組合に直接関連を有する事項のみを取り上げたのでは問題状
況の的確な理解を期待できない。そこで、労使関係ルール全般についてその個
別的内容を逐一分析、検討し、労使関係ルールとその問題点の総合的把握を図
りながら労働組合の役割と問題点を抽出する。第Ⅲ章を労働条件決定システム、
第Ⅳ章を労働紛争解決システムの各内容にあてる。資料としては、関係諸法規
およびベトナム労働組合の内部規定のほか、ベトナム国内の関係機関による統
計資料や報告書、新聞記事、研究論文などを用いる。
以上の順序と方法により問題状況を正確に把握した上で、終章ではベトナム
において進められている関係法制のドイモイについて検討し、その展望と課題
を明らかにする。ベトナム労働組合の唯一的代表性および一般的代表性が中心
的な論点となる。資料としては、関係法規やその各次草案、ベトナム国内の関
係論文のほか、立法関係者に対するインタビュー結果などを用いる。
Ⅱ
1
背景的諸事項
ドイモイ
ベトナムは一九七六年七月に南北統一を果たした。同年一二月のベトナム共
産党第四回大会は、旧ソ連のモデルを基調とする性急な社会主義革命路線を採
用した。しかし、身の丈を超えた同路線は破綻を免れなかった 15。
一九八〇年代から一九九〇年代初頭にかけての社会主義陣営における激変は
周知の通りである。ベトナムにとっては、経済の多くを依拠していた社会主義
経済圏が消滅したということでもあった 16。激しいインフレ(一九八六年時点で
七七四.七%)の発生などにより、人民の不満が高まっていった。
ベトナム共産党は、社会主義同胞諸国における上記事態の主因を、
「国家・社
会運営の失敗によって、政治的安定(つまり一党支配)が失われたことにある」
と分析した。そして、自国内においては、体制の枠内における上からの民主化・
自由化により経済を発展させる大幅な改革が必要と判断した 17。
一九八六年一二月の第六回党大会は、従前の性急な社会主義路線を主観的観
念論であったと自己批判し、ドイモイ(刷新)の開始を宣言した。ドイモイと
は、
「現実に合わない誤った考え、不合理な方法、時代遅れの制度などのいっさ
いを一新する」ということである 18。同路線は、現状を「社会主義への過渡期に
おける最初の段階」19と位置づけた一九九一年一二月の第七回党大会において具
体化され、綱領路線として確定された。
ドイモイ路線は多面的な刷新を旨とするが、特に経済発展のための改革が優
先されている 20。市場経済が導入され、一九八九年頃から経済面において効果が
現れ始めた 21。この市場経済は、二〇〇一年四月の第九回党大会において、「社
会主義指向に沿った国家による管理が行われ、市場メカニズムに従って運動す
る多セクター商品経済」と定式化された。
「社会主義指向の市場経済」と略称さ
れている。具体的には、社会主義の正しい方向を逸れないように国家が管理す
る市場経済において、国営、合作社、民間(私経営的資本主義)
、個人、混合(国
家と民間の共同経営)および外資系の六つの経済セクターの協力的競争関係に
より経済を発展させ、その中で国営セクターおよび合作社セクターの実力を上
げて国民経済全体を社会主義へ導こうという戦略に基づく市場経済である 22。
このように、ドイモイとは単なる規制緩和ではなく、ましてや資本主義への
転向では決してない。現在のベトナムにおいて展開する市場経済は、社会主義
達成の基盤形成という目的に立つ特殊な市場経済なのである。
2 労働事情 23
2-1 労働人口
二〇〇二年時点におけるベトナムの総人口は約八〇〇〇万人である 24。
労働・傷病兵・社会省(部)25の統計 26によると、一五歳以上の労働年齢にあ
る者の総数は約四八四〇万人 27であり、うち約一三〇〇万人(約二七%)28が都
市部、約三五四〇万人(約七三%)が農村部に居住している 29。常態として職を
有する者は、都市部が約九二〇万人 30、農村部が約三〇〇九万人 31で、計約三九
二九万人となっている。
有職者の分布を経済セクター別でみると、個人セクターが約二七〇〇万人(約
六八・七%)と群を抜き、合作社セクター約六一二万人(約一五・六%)
、国家
(行政事業および国営)セクター約四〇〇万人(約一〇・二%)、民間セクター
約一四〇万人(約三・六%)、外資系セクター約四四万人(約一・一%)、混合
セクター約三四万人(約〇・八%)と続く 32。
このように、約三三一二万人(約八四・三%)は個人セクターまたは合作社
セクターの労働者である。その大多数は自営業者または合作社社員であるから、
労働契約に基づく労働者ではない。また国家セクターの労働者の一部は公務員、
軍人などである。したがって、労働契約に基づく労働者、すなわち労働法典の
適用対象者たる労働者は少数派であると言える。
しかし、国土の工業化、現代化政策の下で労働力の分布が大きく変動し、労
働契約に基づく労働者が急増している 33。
有職者の六一・一%を占める農林漁業部門 34労働者のうち九八・六%は個人セ
クターまたは合作社セクターの労働者であり、その九三・六%が農村部に居住
している 35。同部門においては経営規模の拡大や二次産業化が進み、外部労働力
を用いる個人セクターが増えている。合作社においても労働契約に基づく労働
者が現れ始めた。他方、都市部へ出稼ぎに行く労働者も増加している。
このほか、公共サービス部門の一部民営化などにより公務員から労働契約に
基づく労働者に移行する者もある。
一九九〇年に四〇〇万人だった労働契約に基づく労働者は、二〇〇〇年には
九〇〇万人まで増加した 36。二〇一〇年には二〇〇〇万人を突破することが予想
されている 37。
なお、二〇〇二年における失業率は六・〇一%だった 38。
表 39
二〇〇三年における産業/セクター別労働者分布(単位:%)
計
国家
合作社 民間
個人
外資系 混合
農林漁業
59.04
38.16
95.98
59.71
80.50
47.03
32.90
工業・建設業 16.41
0.36
0.07
2.67
0.59
2.04
1.47
サービス業
24.55
61.48
3.96
37.62
18.91
50.93
65.66
計
100.00 100.00 100.00 100.00 100.00 100.00 100.00
労働・傷病兵・社会省
表 40
失業率(単位:%)
1998 年
1999 年
2000 年
2001 年
2002 年
2003 年前期
6.84
6.74
6.52
6.30
6.01
6.00
ベトナム労働総同盟政策-経済-社会委員会
2-2 賃金、労働時間
二〇〇四年現在、公務員および各経済セクターにおける最低俸給、賃金額は
二九万ドンである 41(一万ドンは約七三円に相当)。外資系事業体については別
立ての最低賃金額が規定されている。すなわち、ハノイ市およびホー・チ・ミ
ン市の各区 42につき六二万六〇〇〇ドン/月、両市の各県 43およびハイフォン、
ビエンホア、ブンタウ各市の各区につき五五万六〇〇〇ドン/月などである 44。
割増賃金については、夜間労働が三〇%増、時間外労働には通常賃金の一五
〇%、休日労働には二〇〇%の支払いが義務づけられている 45。また、民間企業
は利益の一〇%以上、外資系事業体は賃金の一ヶ月分以上の水準により賞与を
支給しなければならない。
ただし、このような最低賃金額により都市部において生計を維持することは
ほとんど不可能である(賃金労働者は都市部に集中している)
。筆者が行った聞
き取り調査によれば、ハノイ市で一世帯が生活するためには一ヶ月あたり少な
くとも一五〇万ドンが必要である。ちなみに、幼児一人を公立の保育園に預け
た場合の月謝と食券代が約二七万ドンであり、ほぼ最低賃金額に相当する。政
府内においては最低賃金額を二〇〇七年時点で三四万ドンにまで引き上げるこ
とが検討されているが、これは政府自身の推計による実生活上の必要額(二〇
〇四年で三一万六〇〇〇ドン、二〇〇六年年で三七万三〇〇〇ドン)さえカバ
ーし得ない額である 46。
もちろん、実際の賃金額は上記最低賃金額を大きく上回っている。たとえば
労働総同盟の資料(第九回ベトナム労働組合大会における労働総同盟執行委員
会の報告書)47は、二〇〇三年における賃金額について、中央が管理する国営事
業体 48で一ヶ月一人あたり八〇万ドンから二〇〇万ドン、地方管理、投資部門に
属する国営事業体 49で五〇万ドンから一一〇万ドン、非国営セクターの事業体で
は三五万ドンから八〇万ドン、外資系事業体では八〇万ドンから三二〇万ドン
としている 50。
しかし、労働者が実際に手にする上記賃金額も、実生活上の最低限度の必要
を満たしていない場合が多い。同資料も、
「教育、学生保険、病気治療費など賃
金額に反映されない支出も考慮すると、賃金労働者の生活は極めて苦し」く、
「賃
金に関する政策は何度も調整、改定されたが賃金額はいまだ提供する労務に見
合ったものとなっていない」とまとめている 51。また、農業部門労働者の一.五%
については、その賃金額が最低賃金額さえ下回っているとする資料もある 52。
労働時間は、一日八時間、一週四八時間を基本とし、使用者と労働組合によ
る合意 53を条件に、一日四時間、一年二〇〇時間(特定の輸出生産・加工業につ
いて例外的に三〇〇時間 54)以内の時間外労働が許されている。また満一二ヶ月
未満の子を持つ女性労働者について一日一時間の有給休憩を定めるなど 55、労働
者ないし職種の特性に応じた配慮がなされている。なお、国家セクターについ
ては先行的に週四〇時間労働制が適用されている 56。
表 57
二〇〇三年における業種/セクター別平均月収(単位:一〇〇〇ドン)
平均 国家
合作社 民間
個人 外資系 混合
平均
775
855
642
756
614
927
854
農業・林業
663
756
536
689
579
781
746
漁業
538
600
1,350
450
419
400
鉱業
589
1,610 421
482
450
製造業
507
517
367
476
435
751
561
電力・ガス・水道
598
611
600
490
建設
558
687
505
593
543
550
商業・自動車等修理
468
495
517
492
500
ホテル・レストラン
498
495
517
492
500
輸送・倉庫・通信
684
807
736
689
651
800
640
金融
989
744
2,000 300
1,400
科学・技術
-
不動産
国家管理・保安・
国家防衛・公安
教育・訓練
健康・社会活動
文化・スポーツ
党・機関・組織
個人・地域サービス
家事
国際機関
650
379
483
398
82
600
-
500
345
350
1,000
550
679
400
550
410
830
625
480
689
300
650
800
427
350
200
550
800
425
421
300
880
717
816
653
1,007
896
600
900
1,100 568
675
480
CENTRAL INSTITUTE FOR ECONOMIC MANAGEMENT
2-3 ストライキの概況 58
ドイモイ路線採用後のベトナムでは、市場経済が本格化し始めた一九八九年
頃以降労使紛争が多発している。ストライキについても、発生件数、規模、激
しさの三点がそろって拡大傾向にある。労働法典が施行された一九九五年から
二〇〇四年六月までに発生が確認されたストライキの総数は七〇〇件を上回り、
かつその全てが違法な山猫ストである。
ストライキは、ホー・チ・ミン市を筆頭として南部の大都市に多く、外資系
事業体、特に韓国および台湾資本の事業体に集中している 59。たとえば二〇〇三
年一月一日から一一月三〇日までに全国で発生したストライキは一一四件であ
り、そのうち外資系事業体におけるものが七八件、国営事業体におけるものが
三件、その他が三三件、発生地域はホー・チ・ミン市が五六件で最も多く、ド
ンナイ省 60二四件、ビンズオン省一二件と続く 61。業種別では製靴、縫製、輸出
食品加工など軽工業部門での発生率が高く、また時期は陰暦および陽暦の元旦
前後が多いようである。
ストライキの大半は賃金ないし賞与に関する権利紛争に基づくものである 62。
チャン・ヴェト・ハー 63は、ベトナムにおけるストライキの主因を四つに分類し
ている(括弧内は一九九七年一月から一九九八年六月までに発生した六八件の
内訳を示す)64。第一に、法定ないし契約上の賃金額の保障に関するものである。
賃金の不払ないし遅払い(一九件)、不十分払い(二三件)、理由のない賃金控
除(一件)、祝祭日労働に対する割増賃金の不払い(三件)、時間外割増賃金の
不払い(五件)がある。第二に、賞与に関するものである。賞与制度の不存在
ないし金額の不足または支給の遅れ(八件)、各労働グループ 65間での不公平な
支給(一件)、褒賞基金の非公開(一件)がある。第三に、マネージメント工作
に関するものである。過重なノルマの設定(六件)、合理的な理由のない処罰や
点検または不当な解雇や懲戒処分(一一件)
、罵倒、叱責、工場への監禁など労
働者の人格に対する尊重を欠いた言動(六件)、規定以上の時間外労働の強制(一
〇件)、労働契約の締結拒否や、違法ないし不利な条件での締結の強要(一〇件)
がある。第四に、労働組合に関するものである。労働組合に対して執行委員会
の更迭と再選を要求するケース(〇件)と、使用者に対して労働組合の設立を
要求するケース(〇件)がある。
経済セクター別に見ると、まず国営セクターに関しては、賃金の支払いや雇
用保障などにおいて不十分な面が多く、利益の分配や製品単価の設定などにお
いても民主性に欠ける傾向が指摘されている。つぎに非国営セクターについて
は、最低賃金違反、割増賃金の不払いや超過労働の強制、社会保険料の滞納、
労働契約や労働協約の不締結、見習い期間の延長などが多いとされる。外資系
セクターについては、賃金などに関する問題のほか、労働者の身体や尊厳に対
する侵害 66がストライキを導くケースも少なくない 67。
ストライキが全て山猫ストとなっている原因については様々なものが考えら
れるが、主要なものとして、そもそも基礎労働組合 68(職場単位で組織されるベ
トナム労働組合の末端単位組織)が組織されていない職場単位が多いこと、基
礎労働組合ないし上級組合がストライキの組織、指導に消極的であるケースが
多いこと 69、法定のスト権行使手続が煩雑かつ非合理的であること、労働者や基
礎労働組合役員の法律知識が不十分なことなどが挙げられる。
基礎労働組合の有無との関係で見ると、一九九八年一一月から二〇〇三年一
〇月までに確認されたストライキの七〇%以上は基礎労働組合が未設立の職場
単位において発生している 70。基礎労働組合が未設立なら、当該職場単位におけ
るストライキが山猫ストとなるのは当然の理である。ベトナムにおいてはドイ
モイ以降基礎労働組合の設立率が低迷している(後述)。
しかし、基礎労働組合を有していながらなお山猫ストが発生する職場単位も
少なくない。たとえば、ホー・チ・ミン市で二〇〇一年に発生した三三件のス
トライキのうち二〇件は基礎労働組合が設立済みの職場単位において発生して
いる。二〇〇二年の前半六ヶ月間では二三件中一五件だった 71。またチャン・ヴ
ェト・ハーによると、上でみた六八件のストライキのうち三〇件が基礎労働組
合を有する職場単位で発生しているが、基礎労働組合はストライキ発生後の収
拾に参加しただけであり、しかも解決に成功したものは六件に過ぎなかった 72。
このように、山猫ストが発生する原因の一部は基礎労働組合が自己の責任を
果たさないことにある。労働組合はストライキの指揮という新たな役割に戸惑
っている。当該職場単位における自らの調整能力の欠如を認めることに繋がる
からでもある。制度を理解し利用する能力が不足している場合も多い。そのた
め労働者の多くは労働組合を信頼しておらず、かつ生活上の必要に迫られて山
猫ストを行っているのである。このような状況について労働総同盟は、
「組合組
織が存在するにもかかわらずその活動が効果的でなく、労働者の気持ちや問題
の緊急性が解らないというケースがいくつかある。基礎労働組合の幹部が使用
者の誤った行為を擁護するケースさえある」と自己批判している 73。
このほか、労使紛争の解決を担当する各機関の能力不足も山猫ストが多発す
る原因のひとつである。まず中央の所轄国家機関(労働・傷病兵・社会省)に
ついては、一貫した監視を実現していないために労働法規違反を発見、処理で
きないことが指摘されている。紛争事項の生成を看過しているわけである。こ
のことは特に非国営セクターおよび外資系セクターについて顕著とされる。つ
ぎに労使紛争の解決を担当する地方の所轄機関については、ストライキの発生
後、ケースによってはストライキの終結後に初めてその事実を知ることが多く、
処理に手間取って公安機関への出動要請を余儀なくされるケースも発生してい
る由である 74。
表 75
外資系事業体における国籍別ストライキ件数
年
ス ト 台湾
件数
件数
%
件数
1990
3
1
33.3
2
66.7
0
0.0
0
0.0
1991
3
1
33.3
0
0.0
0
0.0
2
66.7
1992
6
2
33.3
2
33.3
0
0.0
2
33.3
1993
11
4
36.4
4
36.4
0
0.0
3
27.3
1994
17
2
11.8
7
41.2
1
5.9
7
41.2
1995
28
6
21.4
12
42.9
2
7.1
8
28.6
1996
32
15
46.9
10
31.3
2
6.3
5
15.6
1997
24
7
29.2
10
41.7
2
8.3
5
20.8
1998
32
9
28.1
12
37.5
3
9.4
8
25.0
1999
38
20
52.6
9
23.7
1
2.6
8
21.1
10/2000 34
12
35.3
12
35.3
2
5.9
8
23.5
合計
79
34.6
80
35.1
13
5.7
56
24.6
228
韓国
香港
%
件数
その他
%
件数
%
ベトナム労働総同盟法律委員会他
表 76
地域ごとのストライキ件数
総数
ホー・チ・ ドンナイ省
ミン市
ソンベ省 77
その他
1995 年
60
28(46.7%)
6(10.0%)
12(20.0%)
14(23.3%)
1996 年
52
29(55.8%)
10(19.2%)
8(15.4%)
5(9.6%)
1997 年
48
37(77.1%)
3(6.3%)
0(0%)
8(16.7%)
1998 年
62
44(71.0%)
5(8.1%)
6(9.7%)
7(11.3%)
1999 年
63
33(52.4%)
8(12.7%)
19(30.2%)
3(4.8%)
~10/00
66
30(45.5%)
7(10.6%)
15(22.7%)
14(21.2%)
総数
351
201(57.3%)
39(11.1%)
60(17.1%)
51(14.5%)
ベトナム労働総同盟法律委員会
表 78
年
全ストライキ件数
総
セクター
原因
数
国営
件
%
数
労
労
労
そ
最
最
非国営
外資系
働
働
働
の
大
長
件
件
者
条
者
他
参
労
の
件 80
の
加
働
権
取
人
喪
益 79
り
員
失
扱
数
日
%
数
%
数
1989
10
10
100
0
0
0
0
1990
21
18
85.7
0
0
3
14.3
1991
10
7
70.0
0
0
3
30.0
1992
15
9
60.0
0
0
6
40.0
1993
38
14
36.8
13
34.2
11
28.9
1994 82
51
19
37.3
15
29.4
17
33.3
1995
60
11
18.3
21
35.0
28
46.7
1996
52
6
11.5
14
26.9
32
61.5
件
1997
49
10
20.4
15
30.6
24
49.0
数
1998
62
11
17.7
21
33.9
30
48.4
58
93.5 1
1.6 2
3.2 1
1.6 900
4
1999
63
4
6.3
21
33.3
38
60.3
56
88.9 4
6.3 3
4.8 0
0
950
4
2000
71
15
21.1
17
23.9
39
54.9
66
93.0 2
2.8 3
4.2 0
0
1000 5
2001
85
9
10.6
26
30.6
50
58.8
79
92.9 3
3.5 2
2.4 1
1.2 1150 7
2002
88
5
5.7
29
33.0
54
61.4
80
90.9 4
4.5 2
2.3 2
2.3 6300 6
6/2003
76
4
5.3
20
26.3
52
68.4
67
88.2 4
5.3 0
0
6.6 6000 7
合計
751
152
20.2
212
28.2
387
51.5
406 91.2 18 4.0 12 2.7 9
数
い 81
%
件
数
%
件
%
数
件
%
日
数
5
2.0
労働・傷病兵・社会省他
労働立法史の概略 83
ベトナムにおける労働関係法制の形成過程は大きく三段階に分けられる。す
なわち、ベトナム民主共和国が成立した一九四五年から南北が分断される一九
五四年頃までの約九年間(第一段階)
、一九五五年頃からいわゆるベトナム戦争
3
人
(抗米救国闘争。一九六〇年頃から一九七五年まで)を経た後ドイモイに至る
一九八五年までの約三〇年間(第二段階)、および一九八六年から現在まで(第
三段階)の三段階である。
なお、労働組合法制については次節で改めて取り上げる。
3-1 第一段階(一九四五年から一九五四年まで)
一九四五年八月のベトナム民主共和国樹立後、新政権は直ちに労働法規の制
定に着手し、労働省、内務省および社会救済省に対して統一的法規の起草およ
び公布を命じた。同年一〇月には北部、中部および南部の三地域における従前
の規制 84の効力が停止された。その後、メーデーにおける労働者の賃金享受権、
テト(陰暦の正月)および各祝日の休暇、年休、物価調整手当および公務員の
最低賃金に関するホー・チ・ミン主席の各勅令 85(一九四六年)が公布され、続
いて給与所得に対する徴税の廃止、公務員定年退職者の待遇、公務員に対する
無給休暇期限の延長などに関するいくつかの勅令が公布された。また労働省は、
商工業事業主に一ヶ月前の解雇予告を義務づける議定 86(一九四五年一〇月一
日)や、解雇された労働者に対する援助金(五〇ドン)を定める議定などを公
布した。
ベトナム最初の憲法である一九四六年憲法 87は、労働者を含む公民の基本的な
権利と義務を定めた。さらに一九四七年には「各工場、地下鉱山、商店および
各自由業におけるベトナム人または外国人雇用主とベトナム人労働者 88の間の
賃金労働に関する交易」について規定する勅令 29-SL(三月一二日。全九章一八
七条)が公布された。今日のベトナムにおいては、これをベトナム最初の労働
法典と見做す専門家も多い 89。同勅令においては労働者の団結権とスト権が明記
されていた。
しかし、その後フランスによる再侵略が始まった。ベトナム民主共和国樹立
当初に企図された労働法制の形成と実現には大きくブレーキがかけられ、その
内容は急速に公務員ないし国防関係に偏ったものになっていった(実際上も、
労働者は加速度的に国防関係の国営企業に吸収されていった)。この時期に公布
された勅令としては、
「国営企業に企業委員会 90を設置する」勅令 118-SL(一九
四九年一〇月一八日)、「総反撃のための人力、物力および財力の総動員を決定
する」勅令 20-SL(一九五〇年二月一二日)、
「公務員 91の勤務条件に関する」勅
令 76-SL(一九五〇年五月二〇日)、
「抗戦の期間において政府を助ける工人 92に
関する制度を定める」勅令 77-SLおよび「公民の抗戦義務を定める」勅令 93-SL
(ともに一九五〇年五月二二日)などがある。このような戦時総動員体制の中
で、勅令 29-SLはほとんど適用されないまま「幻の労働法典」としてその役割を
終えた。
3-2 第二段階(一九五五年から一九八五年まで)
第二段階はベトナム戦争による戦時総動員体制およびベトナム社会主義共和
国としての南北統一後における性急な社会主義化の時期に当たる。したがって、
労働関係法規の公布は国営経済、集団経済および各国家機関の領域に集中した。
国会の公布にかかる法規としては、一九五七年の旧労働組合法と、一九五九
年および一九八〇年の両憲法 93がある。政府は数千件に上る議定および決定 94を
公布した。主なものとして、
「労働保護に関する臨時条例を公布する」議定 181-CP
(一九六〇年一二月一八日)、
「国家の労働者および職員 95の社会保険に関する臨
時条例を公布する」議定 218-CP(一九六一年一二月二七日)
、「国家の労働者お
よび職員の採用と免職に関する条例を公布する」議定 24-CP(一九六三年一月三
一日)、「集団契約 96の締結制度を規定する」議定 172-CP(一九六三年一一月二
一日)、「国家の各企業、機関における労働紀律 97条例を公布する」議定 195-CP
(一九六四年一二月三一日)、「労働者、公務員および武装勢力の賃金制度の改
善に関する」議定 235-HDBT(一九八五年九月一八日)、「傷病兵および社会問題
に関する一部の制度および政策を補足修正する」閣僚評議会 98の議定 236-HDBT
(一九八五年九月一八日)などがある。また、労働省など各省も単独または連
名で通達 99を公布し、労働者の待遇に関する各制度の細目を定め、施行を指導し
た。
しかし、官僚的、バオカップ 100的集中管理システムに立脚したこの段階の労
働法制は、国家の価格体制と実際の市場価格の乖離など多くの問題を惹起し、
最終的には経済的な恐慌状態 101の中で破綻した。
3-3 第三段階(一九八六年から現在まで)
第六回党大会(一九八六年)におけるドイモイ路線の提唱は、労働法制にと
っても大きなターニングポイントとなった。同路線は第七回党大会(一九九一
年)において綱領路線として確定され、その内容は一九九二年憲法 102にも盛り
込まれた。
「各国営企業に対する計画化と社会主義的経営方式のドイモイ政策を規定す
る」閣僚評議会の決定 217-HDBT(一九八七年一一月一四日)により国営事業体
にも労働契約制度が導入されるなど、経済のドイモイによる労働市場の展開に
備えて、あるいは後押しされながら、市場経済に対応した労使関係ルールの整
備が進められている。
個別的事項について矢継ぎ早に公布された関係諸法規は、一九九四年に労働
法典として大成された 103。労働法典に取り込まれた主な法規としては、ベトナ
ムにおける外国投資法 4-LCT/HDNN8(一九八八年一月九日) 104、「各外資系事業
体に対する労働規制」
(閣僚評議会の議定 233-HDBT一九九〇年六月二二日に付帯
して公布)、労働契約法令 44A-LCT/HDNN8(一九九〇年九月一〇日)、労働保護法
令 61-LCT/HDNN8(一九九一年九月一九日)、
「労働協約に関する規定を公布する」
政府議定 18-CP(一九九二年一二月二六日)、
「各事業体における新たな賃金制度
を暫定的に規定する」政府議定 26-CP(一九九三年五月二三日)、
「社会保険制度
を暫定的に規定する」政府議定 43-CP(一九九三年六月二二日)などがある 105。
なお、労働法典は実質的に初めてスト権を規定した。
一九九六年には労働紛争解決手続法令が公布され、同法令、労働法典および
一九九〇年労働組合法からなるベトナム労働法の基本的構造が完成された。
しかし、短期間に形成された労働法制は実際の適用に際して多くの問題を露
呈した。そこで、
「労働協約に関する労働法典の一部条項の細目を規定し施行を
指導する」政府議定 196/CP 106、
「労働時間、休憩時間に関する労働法典の一部条
項の細目を規定し施行を指導する」政府議定 197-CPおよび「労働契約に関する
労働法典の一部条項の細則を規定し施行を指導する」政府議定 198-CP(いずれ
も一九九四年一二月三一日)、「労働紀律および物的責任に関する労働法典の一
部条項の細目を規定し施行を指導する」政府議定 41-CP(一九九五年七月六日)
107
、「労働契約に関する労働法典の一部条項の細目を規定し施行を指導する」政
府議定 44/2003/ND-CP(二〇〇三年五月九日)など、個別事項ごとの手当てが進
められている。
さらに、二〇〇二年四月一九日には「労働法典の一部条項を修正、補足する」
法律luat35/2002/QH10 が公布され、労働法典本体について多面的な改正が施さ
れた 108。
しかし、問題は依然山積している。特に集団的労働紛争解決システムは全く
機能していない。二〇〇四年六月二四日に公布された民事訴訟法典
24/2004/QH11 は人民裁判所における労働紛争解決システムに若干の改正を加え
たが 109、集団的労働紛争に関する問題状況の改善に寄与し得るものでないこと
は最高人民裁判所労働法廷長も認めるところである 110。
4 労働組合
4-1 ベトナム労働組合の歴史 111
ベトナムにおける労働者階級の形成は、一九世紀末、フランスによるインド
シナの植民地化を契機とする。植民地政策の下での劣悪かつ差別的な労働条件
112
に抵抗する形で始まった労働運動は、必然的に民族独立運動と結合して展開さ
れることとなった。
一九一九年、グエン・アイ・クオク 113がパリ一七区の金属労働組合に加入し
た。後のホー・チ・ミンである。ベトナム人初の労働組合員とされている 114。
同じ頃、サイゴン(概ね現在のホー・チ・ミン市に当たる)のバーソン造船
所で、ベトナム初の労働組合であるバーソン赤色工会 115が結成された。フラン
スから帰国したトン・ドゥク・タン 116(後のベトナム民主共和国主席)が非公
然的に結成した。
一九二五年六月、グエン・アイ・クオクがベトナム青年革命同志会を結成し
て組合組織活動を開始した 117。同会はベトナムにおける最初の政治組織であり、
労働者階級を運動の基幹に据えていた。
同年、バーソン赤色工会を中心とするバーソン造船所ストライキが発生した。
これは「ベトナム初の政治的・国際的労働者階級闘争」であり、
「戦艦が中国で
118
の革命の弾圧に向かうことに反抗してのストライキ」だった 。しかし、翌一
九二六年、フランスの迫害によりバーソン赤色工会は解散に追い込まれ、その
中心メンバーはベトナム青年革命同志会に合流した。
一九二八年には、後にベトナム労働組合主席を歴任するホァン・クオク・ヴ
ェトもベトナム青年革命同志会に加わった 119。そして、一九二九年六月一七日、
同会の北部代表がインドシナ共産党 120を設立した(同党は後にアンナン共産党
およびインドシナ共産主義者同盟を加えて現在のベトナム共産党となる)。
一九二九年七月二八日、インドシナ共産党臨時執行委員会はハノイで北圻赤
色総工会を設立し、同党臨時中央執行委員グエン・ドゥク・カィン 121を総工会
臨時中央執行委員に選出して工会の指導にあたらせた。同年一二月には中圻赤
色総工会、翌一九三〇年四月には南圻赤色総工会が設立された。赤色総工会は、
後に友愛会 122、反帝労働者会 123を経て救国労働者会 124となり、主に北部および
中部で発展した。
南部では南圻赤色総工会が一九四〇年のフランスによる大弾圧で壊滅状態と
なり、それ以後独自に労働組合組織が発展する。一九四五年四月に南圻総工会、
五月に青年先鋒企業委員会が設立され、八月に南部総労働組合に改名された 125。
一九四五年八月、当時ベトナムを占領していたわが国が敗戦を迎え、八月革
命を経てベトナム民主共和国が樹立された。救国労働者会も一定の役割を果た
した 126。翌一九四六年七月二〇日には、南部を含む全国組織である現在のベト
ナム労働組合が組合員数二〇万人をもって発足した。ただし、分断された南部
における組合組織の活動は、ベトナム民主共和国におけるそれとは別個に展開
した 127。
なお、フランスの再侵略による混乱などのため、ベトナム労働組合がその第
一回大会を開催するまでにはさらに三年半の月日を要した。その間、ベトナム
労働組合は五次にわたる愛国競争運動 128を組織して労働者を抗仏戦争に動員し
た 129。
ベトナム労働組合第一回全国大会 130は、一九五〇年一月、タイグエン省で開
催された。同大会は、
「全国の工人、職員、特に兵器部門の工人を動員して、フ
ランス植民地主義に対する抗戦、抵抗を勝利に導くための多くの武器、戦闘器
材を生産する」との目標を設定した。ホァン・クオク・ヴェトが総同盟主席に
選出され、以後ベトナム戦争終結後の一九七八年五月まで三期連続で主席を務
めた。
第二回大会 131は一九六一年二月にハノイで開催された。目標は、
「幹部、工人
および職員を生産労働競争に動員し、
『自らの血肉である南部のために全員が二
倍働く』精神で北部に社会主義を建設して国家統一闘争に貢献する」
。また、ベ
132
トナム労働総同盟からベトナム総労働組合 に名称が変更された。同大会以降、
ベトナム労働組合大会は全てハノイで開催されている。
第三回大会 133は、ベトナム戦争末期の一九七四年二月に開催された。目標は、
「人力および財力を動員して戦場を支援する。全ては南部の解放と国土の統一
のために」。また、トン・ドゥク・タン国家主席が総労働組合名誉主席に選出さ
れた。
第四回大会 134は一九七八年五月に開催された。ベトナム戦争終結、ベトナム
社会主義共和国としての国土統一後における最初の大会である。目標は、
「全国
における経済発展と工業化を推進するために、工人階級その他の労働者を生産
労働競争に動員する」。ホァン・クオク・ヴェトに替わり、後の党中央執行委員
会総書記グエン・バン・リンが総労働組合主席に選出された。
第五回大会 135は一九八三年一一月に開催された。目標は、
「党の三大計画すな
わち『農業と食品工業、消費財生産および輸出の振興』を実現するために工人
および労働者を動員する」。グエン・ドゥク・トゥアンが総労働組合主席に選出
された(一九八七年二月に三役が改選され、ファム・テ・ズエットが主席に選
出された) 136。
第六回大会 137は一九八八年一〇月に開催された。第六回党大会でドイモイ路
線が提唱された後の最初の大会である。目標は、「『雇用、生活、民主的で公平
な社会』のために党のドイモイ路線を実現する」
。ベトナム総労働組合からベト
ナム労働総同盟に名称が戻され、グエン・ヴァン・トゥが総同盟主席に選出さ
れた。
第七回大会 138は一九九三年一一月に開催された。第七回党大会でドイモイ路
線が綱領路線として確定された後の最初の大会である。目標は、
「労働組合の組
織と活動をドイモイし、祖国の建設と防衛に貢献し、工人および労働者の利益
に配慮してこれを防衛する」。総同盟主席にはグエン・ヴァン・トゥが再選され
た。
第八回大会 139は一九九八年一一月に開催された。同大会は、「国土の工業化、
現代化事業、雇用と生活および民主的で公平な社会のために強健な工人階級と
労働組合組織を建設しよう」とのスローガンに要約される長文の目標を設定し
た 140。ク・ティ・ハウが総同盟主席に選出された。
そして、二〇〇三年一〇月、直近の大会である第九回大会が開催された 141。
「強
靱な工人階級と労働組合組織を建設し、工人、職員および労働者の合法的で正
当な権利と利益に配慮してこれを防衛し、全民族の大団結の強化に貢献し、国
土の工業化、現代化事業を実現しよう」とのスローガンに要約される「五大任
務」が設定された 142。総同盟主席にはク・ティ・ハウが再選された。
以上がベトナム労働組合の略歴である。ベトナムにおいて、労働運動と共産
主義運動は同根であった。両者は民族独立という共通の目標の下で密接に絡み
合い、一体となって現在の独立を勝ち取ったのである。構造的には、工人階級
の先鋒隊 143たる共産党がベトナム労働組合を領導し、ベトナム労働組合が労働
者を教育、動員して共産党の目標の達成を助けるという関係が確立されている。
独立の達成後、特にドイモイ路線の採用後において、労働組合の掲げる目標
は、
「労働者の動員」から「労働者の権利と利益に対する配慮と防衛」にシフト
しつつある。ただし、ベトナムが社会主義国家で有り続ける以上、
「労働者の権
利と利益に対する配慮と防衛」が共産党と労働組合の上記関係性を踏み越える
ことは有り得ない。
4-2 ベトナム労働組合の法的地位
① 憲法
ベトナムがこれまでに制定した憲法は、一九四六年憲法、一九五九年憲法、
一九八〇年憲法および一九九二年現行憲法の四つである。
一九四六年憲法は、ベトナム民主共和国樹立の翌年に公布された。フランス
憲法の影響を受け、
「民族的民主的」な憲法であったと評価されている 144。労働
組合に関する規定は置いていない。
一九五九年憲法は、ソ連憲法の影響を受けたものである。
「北部の社会主義へ
の前進に寄与し、南部の解放、祖国の統一、全国における人民の民族民主革命
の任務の達成の事業の強固な基礎となった」と評価されている 145。
労働組合に関しては、第一〇条後段に「国家は経済計画を建設し、これを実
現するために、各国家機関、労働組合組織、合作社およびその他の働く人民の
各組織を拠りどころとする」との規定が置かれたにとどまる。
一九八〇年憲法は、ベトナム社会主義共和国として南北が統一された後の公
布にかかる最初の憲法である。「ベトナム社会主義共和国の政治、経済、文化、
社会制度を規定し、わが人民の集団主人権と市民の基本的権利・義務を確定、
法制化し、国家の組織機構、国家機関の機能と権限、これら諸機関の関係、お
よび国家・人民間の関係等について規定」したものと評価されている 146。
同憲法第一〇条は、
「ベトナム総労働組合はベトナム工人階級の最大の大衆組
織であり、共産主義の学校であり、経済管理、国家管理の学校である。/その職
務 147の範囲内において、労働組合は国家の仕事、国家機関の活動の検査、およ
び企業の管理に参加し、工人、職員を教育し、社会主義競争運動を組織し、国
家機関とともに工人、職員の生活に配慮し、その権利利益を保障する」として、
プロレタリア独裁体系 148における労働組合の位置づけと役割、すなわち経済、
国家および社会の管理における労働組合の重要な位置づけと役割を明らかにし
た。
一九九二年現行憲法は、第六回党大会以降のベトナムにおけるドイモイ路線
の展開、第七回党大会における党の綱領路線としての確定を受けて制定された。
同憲法第一〇条は、「労働組合は工人階級と労働者の政治-社会組織であり、
国家機関、経済組織、社会組織と協力して幹部、工人、職員およびその他の労
働者の権利利益について配慮、防衛し、国家と社会の管理に参加し、国家機関、
経済組織の活動の検査、監視 149に参加し、幹部、工人、職員およびその他の労
働者を教育して祖国を建設、防衛させる」と規定した 150。このように、一九八
〇年憲法第一〇条に比べるとその内容は簡潔なものとなった。共産主義や社会
主義の語も見当たらない。労働組合についても固有名詞による特定がなされて
いない。とは言え、労働組合の位置づけと役割に基本的な変更がなされたわけ
ではない。また、右位置づけと役割の特殊性からも、そこにおいて想定されて
いる労働組合がベトナム労働組合ただ一つであることは明らかと言うべきだろ
う。実際上も、法認組合をベトナム労働組合に限定する一九九〇年労働組合法
第一条第二項は現行憲法の下でも適用され続けている。また、そのことを前提
として、関係諸制度が構築されている。
②
下位法規における総則的規定
労働組合について最初に規定した勅令 29-SLは、ベトナムにおける労働組合を
ベトナム労働組合に限定しなかった。同勅令は、労働組合を産別組合とし(第
一五六条)、各組合がそれぞれ規約を制定することとした(第一五二条)。労働
組合は自らの組合員のみを代表し 151、したがって労働協約の効力もその組合員
にしか及ばない旨規定された(第四四条)
。また、各労働組合がそれぞれローカ
ル・センターおよびナショナル・センターを設立することが認められた(第一
六七条)。もっとも、同勅令が実際にはほとんど適用されなかったことは既に述
べたとおりである。
一九五九年憲法に二年先立つ一九五七年、最初の労働組合法である旧労働組
合法が公布された 152。同法前文は、
「工人階級によって領導される人民民主制度
における労働組合組織の役割、任務および権限を明確に定め、工人階級の発展
と組織の強化のために有利な条件を整え、北部を堅強にして徐々に社会主義へ
進めるための政権の建設 153、経済の建設 154および文化の発展の事業において労
働組合に積極的な作用を発揮させ、国家統一闘争と、平和で、統一され、独立
し、民主的で、かつ豊かで強いベトナムを建設する基礎をなすために労働組合
法を公布する」として、戦時体制における労働組合法公布の目的を明らかにし
た。同法は、労働者の教育動員機関たる労働組合の位置づけと役割を明らかに
し、その活動に法的根拠を与えようとするものだった。
旧労働組合法は、第一章において全三条からなる総則を定めていた。その第
一条は、労働組合は工人階級の自発的結成による大衆組織であること、および、
全ての労働者は労働組合に加入する権利を有することを規定していた。また第
二条および第三条は、労働組合はベトナム労働組合 155の定める労働組合条例(規
約)に基づいて結成され、上級組合の公認を受けるべきことを規定していた。
すなわち、ベトナム労働組合以外の労働組合の結成は許されなかった。
この頃、労働組合が闘争すべき対象は、第一にはフランス植民地主義やアメ
リカ帝国主義に代表される外敵であり、第二には社会主義革命に対する労働者
の消極的風潮であった。企業は全て国営であり、企業と労働組合は共産党の領
導の下で「同志的合作」を行う関係だった。
ちなみに、ファム・コン・チュらの研究 156によると、この頃国家が労働組合
に委ねた権限は次の二種類に大別される。
第一に、生産管理および企業管理の領域における権限である。この領域に属
する諸事項について、労働組合には主として参加権が付与されるに止まり、決
定権は当該企業または機関の長が有していた。具体的には、工人職員会議(職
場大会)の組織と領導 157、企業の長との集団契約の締結 158、労働者の競争運動
の組織と指導 159、技術の改善や生産の合理化 160、国家計画の策定と実現および
企業の管理 161などがこれに当たる。
第二に、労働者の労働条件および生活条件の改善の領域における権限である。
この領域に属する諸事項には、企業の長に対して労働組合執行委員会との合意
が義務づけられている事項や、労働組合に決定権が付与されている事項が有っ
た。具体的には、労働条件の設定と適用 162、労働者の昇級や賞罰 163、労働保護
工作の検査 164、消費財の分配や住居の提供およびその検査 165、褒賞基金および
集団的福利基金の管理と使用 166、保険基金および社会保険事業の管理 167などで
ある。
現在、ベトナム労働組合の基本的地位を規定する下位法規としては、一九九
二年憲法に二年先立って公布された一九九〇年労働組合法(以下、労働組合法)
および「労働組合法の施行を指導する」閣僚評議会の議定 133-HDBT(一九九一
年四月二〇日)がある。また、ベトナム労働組合が自ら定めるベトナム労働組
合条例(組合規約)前文も、ベトナムにおけるベトナム労働組合の基本的位置
づけおよび任務について確認している(労働組合法は労働組合の設立手続など
一部事項の規定をベトナム労働組合条例に委任しており、同条例は準法規的性
質を有する) 168。
労働組合法は、
「社会主義革命における労働組合の役割を発揮させ、労働者の
民主的権利および利益を保証するため」に「労働組合の機能、権限および義務
に関して規定する」との前文を置いている 169。また、旧法と同様、第一章を全
三条からなる総則に充てている。旧法に比べると、前文が簡潔なものとなった
反面、総則の規定はかなり詳細な内容となった。以下、総則の一部を紹介する。
第一条第一項「労働組合は、ベトナム共産党の領導のもとで自発的に設立さ
れる工人階級およびベトナム人労働者(労働者と呼ぶ)の広範な政治-社会組
織であり、ベトナム社会の政治体系における構成員であり、労働者の社会主義
学校である」。
第一条第二項「各経済セクターに属する生産・経営単位、外資系企業、国家
の機関・事業単位および社会組織(機関、単位、組織と呼ぶ)において働くベ
トナム人労働者はすべて、ベトナム労働組合条例の枠内において労働組合を設
立し、加入する権利を有する。/法律の規定に従って設立する労働者の各会 170は、
各労働同盟に加入する権利を有する。/労働組合組織を設立したときは、工作
関係を建設するために、関係を有する政権機関、組織に通知する。/労働組合
組織およびその活動への参加の自発性原則を侵害する全ての行為、労働組合へ
の加入または労働組合の活動を行ったことを理由として労働者を差別する全て
の行為はこれを禁止する」。
第二条第一項「労働組合は、労働者の権利と正当で合法的な利益を代表し、
これを防衛し、国家に参加して生産を発展させ、雇用問題を解決し、労働者の
物質的精神的生活を改善する責任を有する」。
第二条第二項「労働組合は、労働者を代表、組織して機関、単位、組織の管
理、経済-社会の管理および国家の管理に参加し、自己の職務の範囲内におい
て、かつ法律の規定に従って、機関、単位、組織の活動を検査する」。
第二条第三項「労働組合は、労働者を組織、教育、動員して国家の主人公と
しての役割を発揮させ、公民の義務を実現させ、祖国である社会主義ベトナム
を建設、防衛させる責任を有する」。
第三条第一項「労働組合はそのあらゆる活動において憲法および法律を遵守
しなければならない。/国家機関、単位、組織の長は、労働組合の組織面に関
する独立権および本法に規定するその他の権利を尊重する」。
第三条第二項「国家機関、単位、組織の長および労働組合は、機関、単位、
組織の建設、国土の建設、および労働者の利益に対する配慮のためにあらゆる
活動において合作関係を強化しなければならず、意見の相違する問題が発生し
た場合は対話と協議 171を通じて法律に従った解決方法を見出さなければならな
い。国家機関、単位、組織の長は、労働組合活動のために必要不可欠な条件を
整える責任を有する」。
第三条三項「ベトナム労働総同盟との合意の上で、閣僚評議会は、国家機関、
単位、組織の長と各級労働組合の間の活動関係について具体的に規定する」。
以上を旧法における前文および総則と比較すると、主な相違点として二点指
摘することができる。一つは、共産党による労働組合の領導が明記された点で
ある(第一条第一項)。もう一つは、労働組合を労働者の権利と利益の代表者と
位置づけた上で、使用者について不当労働行為を禁止するとともに組合活動の
保障を義務づけた点である(第一条第二項、第三条第二項)。社会主義路線の堅
持を確認した上で市場経済に対応するための規定と評価できる。
なお、本稿で言うベトナム労働組合の唯一的代表性は、法的には上掲の労働
組合法第一条第二項が労働者の団結形態をベトナム労働組合に限定しているこ
とで確保されている。職場単位で見ると、一つの職場単位に存在し得る単位労
働組合はベトナム労働総同盟の末端組織である基礎労働組合のみとなり、組合
の併存は起こり得ない。また、同様に一般的代表性は、第二条各項などが労働
組合の代表する対象を「労働者」と規定し、組合員に限定しないことから導か
れる。職場単位で見ると、基礎労働組合は職場単位の全労働者を組合加入の有
無に関わらず代表する。
③ 党との関係 172
労働組合法第一条第一項は、ベトナム労働組合を党の領導下に組織される政
治-社会組織と位置づけた。政治-社会組織はその後ベトナム祖国戦線法
05-L/CTN(一九九九年六月二六日)第四条において祖国戦線の構成員として明
記された。同法第一条第二項は祖国戦線をベトナム共産党に領導されるベトナ
ム社会主義共和国の政治体系の部分であると定義した。また同法第七条第一項
は、国家の法律とともに党の路線、方針および政策を宣伝し、その実現のため
に人民を動員することを祖国戦線の責任であり権限であるとした。これはつま
りベトナム労働組合の責任、権限でもあるということに他ならない。前に見た
労働組合法における党とベトナム労働組合の関係に関する規定がベトナム祖国
戦線法において一定具体化されたわけである。
しかし、党とベトナム労働組合の関係について法規が規定するのはここまで
であり、具体的な領導の方法などに関する規定は見あたらない。
そこで二〇〇一年ベトナム共産党条例に目を転ずると、その第四一条第二項
は「党は国家機関および政治-社会団体が選出または任命するために水準を満
たす幹部を紹介する」と規定している。領導のチャンネル確保および領導効果
の向上を目的とする規定である。もちろん、政治-社会組織であるベトナム労
働組合もここで言う政治-社会団体に含まれる。
実際、このような紹介はベトナム労働組合組織のあらゆるレベルで行われて
いる。歴代のベトナム労働総同盟主席は必ず党中央委員を兼任する取扱となっ
ている。ベトナム労働総同盟執行委員会の委員もその大半が党員である。筆者
が行った聞き取り調査においても、基礎労働組合の役員選挙に際しては当該職
場内の党委員会が党員を被選挙者として指名するケースが多かった 173。
このことについて、たとえばベトナム労働総同盟および労働組合大学の作成
にかかるテキストは、
「党は、労働組合の工作をさせるために自らの幹部を労働
組合に押しつけるのではなく、大衆が労働組合の指導的要職に自ら選出するた
めに良い党員を紹介するに過ぎない」とする。また、同テキストはさらに次の
ように述べる。
「労働組合には、共産党の領導が不可欠である。なぜなら党は最
も先鋒的で最も積極的な部分の集合だからである。党の労働組合に対する領導
は偶然ではなく、力ずくでもなく、それは工人階級とベトナム労働組合の革命
闘争の歴史の中で形成されたのである」。「党の領導を労働組合の仕事に対する
干渉であると誤解してはならない」 174。
④
国家との関係
ここでは特に国家とベトナム労働組合の協力関係について見ておく。両者の
協力関係については、労働組合法第二章「労働組合の権利と責任」中にいくつ
かの関係規定が置かれているほか、政府首相の決定 465-TTG(一九九四年八月
二七日)に付帯 175して公布された「政府とベトナム労働総同盟の間の工作関係
に関する規制」が、詳しく規定している。
第一に、労働に関係する立法および政策立案における協力がある。
労働組合法第四条第一項が、
「労働組合は労働者 176を代表、組織して、国家の
経済-社会発展計画、経済管理に関する政策およびシステム、労働者の権利、
義務および利益に関連を有する主張 177および政策の策定と実現に参加する。ベ
トナム労働総同盟主席は閣僚評議会の会議に参与する権利を有する。各級労働
組合主席は、関係諸機関、単位および組織が労働者の権利、義務および利益に
直接的に関連を有する問題について話し合う会議に出席することができる」と
規定している。また同法第五条第一項が「労働者の権利、義務および利益に直
接的に関連を有する問題の範囲内において、ベトナム労働総同盟は法律および
法令の草案を国会および国家評議会 178に提出する権利を有する」と規定し、同
条第二項が「労働組合は国家と共に 179労働、賃金および労働保護に関する法律、
政策および制度を策定し、労働者の権利、義務および利益に直接的に関連を有
するその他の各社会政策を策定する」と規定している。そして上掲「政府とベ
トナム労働総同盟の間の工作関係に関する規制」第二条が、関係省庁および政
府機関が労働、賃金、労働者保護およびその他労働者の権利、義務および利益
に直接的に関連を有する法規や政策を起草する場合はベトナム労働総同盟主席
団の意見を求めるべきこと、労働総同盟主席団は草案作成に参加させる代表者
を選出すべきこと、および労働総同盟主席団と起草担当機関の意見が一致しな
いときは政府首相が双方の意見につき報告を受けた上で決定すべきことを規定
している。
なお、一九九七年から二〇〇三年までの間にベトナム労働総同盟が関係した
立法は、法律八五件、法令四五件の計一三〇件であった 180。
第二に、労働者の競争運動に関する協力がある。
労働組合法第四条第四項が、
「労働組合は機関、組織、国営経済単位、事業単
181
位および合作社と協力して 社会主義競争運動を組織し、各経済-社会目標の
実現のために労働者の潜在能力を発揮させる」と規定している。そして上掲「政
府とベトナム労働総同盟の間の工作関係に関する規制」第三条が、生産および
節約に関する工人、職員および労働者の競争運動については政府が目標を設定
し、労働総同盟がこれを発動すべきことを規定している。
そして第三に、法律および政策の実現状況の検査に関する協力がある。
労働組合法第五条第三項が、
「労働組合は労働に関する各政策および制度の実
182
現を監督 、監視する責任を有」し、
「その職務の範囲内において労働契約、選
183
184
抜雇用 、解雇 、賃金、賞与、労働保護、社会保険、および労働者の権利、
義務および利益に関連を有する各政策の実現状況について検査する」とした上
で、個別的事項毎に労働組合の検査、監視に関する権限および義務を規定して
いる。そして上掲「政府とベトナム労働総同盟の間の工作関係に関する規制」
第四条が、ベトナム労働総同盟について、政府ないしその機関による工人、職
員および労働者の権利と利益に関連を有する法律の執行と政策の実現に関する
検査、監視に参加すべきことを規定している。またベトナム労働総同盟は、
「労
働法典の施行のために行うべき諸事項に関する」ベトナム労働総同盟の指示
185
04-CT/TLD(一九九六年四月一八日) 186などを公布して、労働関係法規の施行
およびその検査、監視における下部労働組合組織の国家への協力責任を規定し
ている。
表 187
労働組合が起草に関わった法規数
1997 年
1998 年
1999 年
2000 年
2001 年
2002 年
2003 年
計
法律 14
15
10
9
8
7
22
85
法令 6
3
11
15
1
3
6
45
計
18
21
24
9
10
28
130
20
ベトナム労働総同盟
⑤
使用者との関係
使用者とベトナム労働組合の関係に関する現行規定は大きく二つに分類でき
る。
第一は、上で国家との協力関係について見たように、ベトナム労働組合に対
して労働関係法規の実現状況を検査、監視する役割を付与するものである。そ
の対象事項の範囲は非常に広く、雇用、賃金、労働者保護、社会保険、懲戒な
ど、労働者の権利、義務および利益に関連を有するあらゆる問題に及んでいる 188。
個々の使用者との関係では、ベトナム労働組合の末端単位組織である基礎労働
組合が上級組合の指導の下でこの役割を果たすことになる。具体的な内容につ
いては後にそれぞれ検討するが、基礎労働組合はさまざまな方式を通じてこれ
を実現する。すなわち、単独または所轄機関との協力による検査 189、労働災害
の調査および処理における所轄機関への建議、関係各会議への参加、事業体内
部の安全委員ネットワーク 190の利用などである。使用者は、基礎労働組合が上
記役割を効果的に実現するための条件を整えなければならない 191。また使用者
は、基礎労働組合が検査に際して行う質問や、違法状態の解決方法、違反者の
処分などについて行う建議に回答しなければならない(労働組合法第九条第二
項、第三項)。
第二は、基礎労働組合の活動の保障に関するものである。使用者に対して、
組合活動に協力し、事務所、交通手段および連絡手段などの活動条件を整える
義務 192、不利益取り扱いや支配介入の禁止 193、労働時間中の組合活動に対する
賃金の支払い 194や基礎労働組合役員に対する解雇制限 195などが規定されている。
4-3 ベトナム労働組合の組織構造
① 基本的構造
ベトナム労働組合は、共産党や、共産党の領導を受ける他の全ての国家機関、
政治-社会組織および社会組織と同様に、民主集中原則を体現するヒエラルキ
ー構造により構成されている。ピラミッドの頂点は全国的労働組合指導機関で
あるベトナム労働総同盟である。その指導下に、中央レベルの産業別労働組合
指導機関である中央産業別労働組合 196および省レベルの地域別労働組合指導機
関である省級労働同盟 197が並列に配置されている。その下に省レベルの産業別
労働組合指導機関である地方産業別労働組合 198および県レベルの地域別労働組
合指導機関である県級労働同盟 199がやはり並列に配置されている 200。ただし、
地方産業別労働組合は中央産業別労働組合の下部組織でありながら、直接的に
は省級労働同盟の指導に服する。中央産業別労働組合は補佐的な役割を有する
に過ぎない 201。地方産業別労働組合の設立および解散に関する決定も省級労働
同盟が主導する。県級労働同盟は省級労働同盟の下部組織としてその指導を受
ける。そして最末端の単位組合が、職場単位で設立される基礎労働組合および
同業自由業者により設立される業団 202である。基礎労働組合および業団は地方
産業別労働組合および県級労働同盟に加盟してその指導を受ける。
地方産業別労働組合に関する内部的指導関係に顕著であるように、ベトナム
労働組合組織においては産業別労働組合よりも地域別労働組合により多く指導
的役割が配分されている。たとえば労働紛争解決システムへの参加も地域別労
働組合の役割とされている。
なお、労働組合法第一条第三項は以上の各労働組合についてそれぞれ法人格
を認め、各自が印章を保有すべきことを規定している。しかし、ここで言う法
人格とは、民法典 44-L/CTN(一九九五年一一月〇九日)におけるそれとは異な
るものであるとされる。ベトナム労働組合条例によれば、ベトナム労働組合の
全ての財産はベトナム労働総同盟の所有に属するというのがその理由である 203。
②
組合員資格
労働法典第七条第二項は、
「労働者は自己の権利と合法的な利益を防衛(中略)
するために、労働組合法にしたがって労働組合を設立し、これに加入し、活動
する権利を有する」と規定する。ここで言う労働者とは、
「満一五歳以上で労働
能力を有し、かつ労働契約を締結した者」
(同条第一項)であり、同法典は他に
労働組合の設立、加入に関する制限を規定していない。なお、同法典は公務員
など「労働契約を締結」していない労働者について労働組合を設立、加入する
権利を否定しているわけではない。それら労働者はそもそも同法典の適用対象
外だからである。
また労働組合法第一条第二項は、あらゆる職場で働く「ベトナム人労働者」
について、
「ベトナム労働組合条例の枠内において」労働組合を設立し、加入す
る権利を認めている。すなわち、「ベトナム人」との限定を加えるのみである。
このような広範かつ一般的な規定方法は、ベトナム労働組合条例においても
同様である。二〇〇三年ベトナム労働組合条例第一条は、組合員資格の範囲を
次のように規定するに止まる。
「賃金、俸給を得て働くベトナム人の工人、職員および労働者、または合法
的な自由業者は、ベトナム労働組合条例に賛成し、労働組合の基礎組織におけ
る生活を志願し、規定にしたがって労働組合費を納める限り、職業、性別およ
び宗教にかかわらず、労働組合に加入することができる」。
組合員資格の範囲を具体的に規定するのは、ベトナム労働組合条例の施行を
指導する労働総同盟の通知 204である。しかし、二〇〇四年一月現在、二〇〇三
年労働組合条例に関する通知は公布されていない。そこで、二〇〇三年労働組
合条例第一条と同旨である旧労働組合条例(一九九八年)第一条 205について公
布された通知 68/TTr-TLD(一九九九年五月二七日)を参照すると、その第一条
は次の各対象について組合員資格を認めていた。すなわち、①六ヶ月以上の期
間を定める労働契約に基づく労働者(工人、労働者)206、②職員、すなわち公務
員法令 207の規定する公務員(幹部、公職)および各非政府機関、組織で働く職
員(党職員など)③外資との合弁事業体または株式会社 208において国家により
選ばれて国家の権利利益と所有権を代表する任務に就くベトナム人である。ま
た、④合法的な自由業者、すなわち工業、小規模手工業、運輸交通、サービス、
医療などの各部門において所轄の国家管理機関から営業許可を受けた個人労働
者、および⑤ベトナムの各機関または事業体と外国の各機関または事業体との
間で締結された六カ月以上の期間を定める労働契約に基づいて外国で就労する
労働者についても、労働組合または業団の組合員資格が検討されることとして
いた。他方、次の各対象については組合員資格が否定されていた。すなわち、
①ベトナムの国籍を有しない者、②民間事業体 209または有限責任会社 210の事業
主 211、および③刑事事件の被告人または改造 212期間中の者である。
したがって、ベトナム労働組合における組合員資格の範囲は、民間セクター
については事業主および六ヶ月未満の期間を定める労働契約に基づく労働者を
除くほぼ全てのベトナム人労働者または自由業者、また公務員については公務
員法令の規定対象である公務員の全体ということになる 213。なお、公務員法令
は、裁判官や検察官を含む公務員の大部分をその規定対象とする一方で、軍と
公安の士官職および軍の国防工人を適用除外としているが、二〇〇三年ベトナ
ム労働組合条例第二七条は軍および公安における労働組合組織について規定し
ており 214、実際にも労働組合が存在する 215。
以上のようなベトナム労働組合の組合員資格に関して、問題点を二点指摘し
ておく。
第一は、基礎労働組合組織の設立に際しての人数要件に関連する問題点であ
る。後述するように、二〇〇三年ベトナム労働組合条例は、基礎労働組合およ
び業団の最低設立人数を前者につき五名、後者につき一〇名と定めている。そ
こで、自由業者の団体である業団はさておき、労働者五名未満の職場単位で働
く労働者の組合員資格の有無、および組合員資格が有るとした場合のその実現
方法が問題となる。
現在のところ、この問題について手当てする規定は皆無である。実務におい
ては組合員資格が無いと同様の取扱いがなされている。すなわち、当該労働者
は、自己の職場単位において基礎労働組合を設立できないのみならず、地域や
産別の上級労働組合に個人加盟することもできないと解されている 216(もっと
も、実際にそのような希望を表明した労働者の有無は明らかでない)。
第二は、職位および職種との関係における組合員資格の範囲が不明瞭である
ことである。極端な例としては、民間事業体におけるいわゆる「雇われ社長」
の組合員資格の有無が議論されている。
「雇われ社長」は事業主にあたらず、関
係規定はそのような社長の組合員資格を否定していないことが論拠となってい
る 217。
③
基礎労働組合、暫定労働組合執行委員会、業団
基礎労働組合は、職場単位毎に、五名以上の労働者により、上級組合の決定
を得て設立される 218。
労働法典第一五三条の規定するところにより、地域別および産業別の上級組
合は、活動中の事業体であって労働組合を有しないものについては二〇〇四年
六月三〇日まで 219、また新規に設立される事業体についてはその活動を開始す
る日から六ヶ月以内に基礎労働組合を設立する責任 220を有する。使用者は基礎
労働組合が早期に設立されるための条件を整える責任を有する。基礎労働組合
の設立に至らない期間については、地域別および産業別の上級組合が事業体内
部に暫定労働組合執行委員会を指名する。これは、民間セクターの増加等にと
もなって未組織事業体が増加している現状に鑑み、旧第一五三条における「省
級労働同盟は当該事業体に(中略)暫定労働組合組織を設立しなければならな
い」との規定が改正されたものである 221。
暫定労働組合執行委員会は、基礎労働組合と同様の保護を受け、権限を有す
る 222。設置期間は原則として最長一二ヶ月である 223。基礎労働組合設立のため
に十分な条件が整ったときは、暫定労働組合執行委員会は、正式な基礎労働組
合執行委員会を選出するための職場大会を開催しなければならない 224。
なお、ドイモイによる労働関係の多様化にともない、基礎労働組合の任務と
権限についても当該労働関係の特質に応じていくつかのグループに分けて規定
する必要が生じた。そこで、
「各事業体、機関における基礎労働組合の権利と責
任に関する」閣僚評議会の議定 302-HDBT(一九九二年八月一九日)
、二〇〇三年
ベトナム労働組合条例などがこの問題について規定した。ここでは二〇〇三年
ベトナム労働組合条例における規定内容の概略を紹介しておく(議定 302-HDBT
の規定内容については各註参照)。
第一に、国家の各機関、事業単位および各社会組織の機関における基礎労働
組合の任務と権限 225は、①労働者(組合員、公務員、職員および労働者) 226に
関する政策および法律の施行状況に関する検査と監視(第一五条第一項)、②当
該機関または単位の長 227との協力による、民主的規制 228の実現、職場大会 229の
組織、労働契約の締結の指導、労使条件の改善、労働者の生活への配慮、労働
者の権利利益に関連を有する各種協議への参加(同条第二項)、③労働者の愛国
競争運動など各種運動の組織(同条第三項)、④党の路線と方針 230、国家の政策
と法律および労働組合組織の任務に関する宣伝、労働者の水準向上、各種社会
活動の組織(同条第四項)、⑤組合員の増加および強靭な基礎労働組合の建設(同
条第五項)とされた。
第二に、各国営事業体における基礎労働組合の任務と権限 231は、①当該事業
体の監督 232との協力による、民主的規制の実現、職場大会 233の組織、労働側代
表者としての労働協約の締結、労働契約の締結の指導、雇用問題の解決、労使
条件の改善、労働者(組合員、工人、職員および労働者)の収入、生活および
福祉に関する水準の向上、労働者の権利利益に関連を有する各種協議への参加
(第一六条第一項)、②労働者に関する制度、政策および法律の施行状況に関す
る検査と監視、消極的または貪婪な 234各現象および社会的悪弊に対する闘争、
労働紛争の発見とその解決への参加(同条第二項)
、③労働者の愛国競争運動や
生産性向上運動の組織(同条第三項)
、④党の路線と方針、国家の政策と法律お
よび労働組合組織の任務に関する宣伝、労働者の水準向上、各種社会活動の組
織(同条第四項)、⑤組合員の増加および強靭な基礎労働組合の建設(同条第五
項)とされた。
第三に、生産、工業サービス、手工業など各合作社における基礎労働組合の
任務と権限 235は、①管理委員会 236との協力による、愛国競争運動の組織、職場
大会 237の組織、雇用の保障、労使条件の改善、労働者(組合員、社員および労
働者)の職業水準の向上、社員でない労働者における労働契約の締結の指導(第
一七条第一項)、②ベトナム共産党の路線と方針、国家の政策と法律および労働
組合組織の任務の宣伝、内規の作成への参加、労働者に関する各政策の実現状
況の監視、社会的悪弊に対する闘争(同条第二項)
、③管理委員会との協力によ
る、労働者の生活に対する配慮、各社会活動の組織、困難な状況にある組合員
に対する援助 238、組合員の余暇の組織(同条第三項)
、④組合員の増加および強
靭な基礎労働組合の建設(同条第四項)とされた。
第四に、民間事業体、有限責任会社、株式会社、外資系企業およびその他の
職場単位における基礎労働組合の任務と権限 239は、①労働契約の締結の指導お
よび援助(第一八条一項)、②労働側代表者としての労働協約の作成、締結およ
び実現状況の監視(同条第二項)
、③労働側代表者としての基礎労働調停協議会
240
への参加など各労働紛争の解決への参加(同条第三項)、④愛国競争運動や社
会活動への労働者(組合員および労働者)の動員、仕事や生活の場における互
助、使用者との協力による労使条件の改善、社会的悪弊の阻止に対する闘争(同
条第四項)、⑤党の路線と方針、国家の政策と法律および労働組合組織の各任務
の宣伝、教育(同条第五項)、⑥組合員の増加および強靭な基礎労働組合の建設
(同条第六項)とされた。
ベトナム労働総同盟の資料によれば、二〇〇三年時点で活動中の基礎労働組
合数は六万一四二四である。このうち少なくとも五万九三三組合は国家セクタ
ー(行政、事業セクターおよび国営セクター)において組織されたものであり、
少なくとも一万四三一組合が非国営セクターにおいて組織されたものである 241。
すなわち、活動中の基礎労働組合の約八三%は国家セクターで組織されたもの
である。
また、二〇〇三年一〇月時点での労働組合法の適用対象労働者(工人、職員
および労働者)数は約一〇八〇万人であり、そのうち国営事業体を含む全経済
セクター 242が約八二〇万人、行政事業セクター 243が約二六〇万人となっている 244。
これに対し、同年六月時点のベトナム労働組合の組合員数は約四二五万人 245、
そのうち国営事業体を含む全経済セクターで働く者は約二五二万人(国営セク
ターが約一六七万人、外資系セクターが約三四万人、その他非国営セクターが
約五一万人) 246、行政、事業セクターが約一七三万人である 247。したがって、
ベトナム労働組合はその権利および利益を代表するべき労働者の四〇%弱を組
織しており、組合員の約八〇%は国家セクターの労働者で占められていること
になる 248。
セクター別の組織率については情報が乏しいが 249、国家セクターについては、
一般に行政、事業部門で九五%前後、国営事業体で九〇%前後と言われている。
また新聞報道を総合すると、二〇〇〇年時点での外資系セクター労働者の組織
率は約四〇% 250だった。その他非国営セクターにおける組織率は一部大都市で六
〇%から八〇%に及んだが 251、全国平均では三五%から四〇%に止まった 252(な
お、これら組織率の算定基礎とされた労働者数は組合設立要件を満たした職場
単位の労働者数と思われる)。さらに、非国営セクターおよび外資系セクターを
中心として、基礎労働組合が設立されても敢えて組合員とならない労働者が増
加している 253。
つぎに、基礎労働組合の設立率(基礎労働組合を有する職場単位の割合)に
ついてみると、国家セクターに属する各職場単位はほぼ例外なく基礎労働組合
を有している。これに対し、外資系を含む非国営セクターの職場単位における
設立率は二〇〇二年時点で約四〇%である 254。なお、二〇〇〇年時点の外資系
事業体外における設立率は五〇%弱、その他の非国営セクターでは三〇%弱で
あった 255。以上はいずれも組合設立要件を満たす職場単位における設立率であ
る。
ベトナム労働組合は、第九期(二〇〇三年から二〇〇八年)の間に、組合員
数を一〇〇万人以上増やすことを目標として掲げている。具体的には、行政、
事業機関で働く公務員 256のほぼ全て、国営事業体の労働者(工人、職員および
労働者)の九五%以上、組合設立要件を満たすその他セクターの労働者の六〇%
以上を吸収することを目標としている。また基礎労働組合の設立率については、
国家セクターの職場単位の一〇〇%、その他の経済セクターについては組合設
立要件を満たす職場単位の七〇%が最低目標として掲げられている 257。
表 258
基礎労働組合数
1998年
2003年6月
総数
47,211組合
61,424組合
国家セクター
41,517組合
50,993組合
259
比率
8 7 . 9
4%
非国営および外資系セクター
8 3 . 0
2%
5,694組合
比率
10,431組合
1 2 . 0
7%
1 6 . 9
8%
非国営事業体
4,912組合
9,221組合
外資系事業体
782組合
1,210組合
ベトナム労働総同盟組織委員会
表
260
組合員の内訳(全体)
1998年
2003年6月
総数
3,672,000人
4,251,705人
女性組合員
1,743,108人
2,091,135人
47.47%
49.18%
3,214,000人
3,397,185人
87.52%
79.90%
行政、事業
1,663,308人
1,732,185人
国営
1,550,692人
1,665,000人
458,000人
854,520人
12.47%
20.09%
外資系
154,054人
340,000人
非国営
303,946人
514,520人
比率
国家セクター
比率
非国営および外資系セクター
比率
ベトナム労働総同盟組織委員会
業団は、一〇名以上の同業自由業者により、上級組合の決定を得て設立され
る 261。自由業者であるから使用者は存在しないが、基礎労働組合と同列の末端
単位組合としてベトナム労働組合の組織構造に組み込まれている。シクロや
セ・オーム(それぞれ、自転車、オートバイを用いたタクシー)の個人営業運
転手による組合がその典型である。具体的な活動内容として、たとえばセ・オ
ームの業団における高速道路通行券の共同購入などがある。
二〇〇三年ベトナム労働組合条例第一九条の定める業団の任務と権限は、①
地方政権および所轄機関との関係において業団の団員を代表し、団員の権利と
合法的で正当な利益について配慮、防衛すること(第一項)、②党の路線と方針、
国家の政策と法律および労働組合組織の各任務を宣伝し、また団員を教育して
その政治的、文化的水準を向上させること(第二項)、③職業と生活の場におい
て団結させ、助け合わせ、社会的悪弊に対して闘争させること」(第三項)、④
団員を増加させ、強靭な業団を建設すること(第四項)である。
なお、新聞報道によれば、二〇〇二年時点で活動中の業団数は九七三だった 262。
④
地方産業別労働組合、県級労働同盟
二〇〇三年ベトナム労働組合条例第二一条各項の定めるところによれば、地
方産業別労働組合は、省または中央直属市 263の各経済セクターに属する同部門、
同業種の労働者を束ねる 264産業別労働組合である(第一項)
。その設立および解
散は、当該地域を管轄する省級労働同盟が中央産業別労働組合と合意の上で決
定する(第二項)
。地方産業別労働組合は当該地域の各基礎労働組合の指導 265を
任務とする。右指導を行うにあたって、地方産業別労働組合は省級労働同盟の
指導を受ける。ただし、当該部門、業種に特殊な問題に関しては中央産業別労
働組合の指導を受ける(第三項)。
同条第四項各号の定める地方産業別労働組合の任務と権限は、①省級労働同
盟および中央産業別労働組合の活動方針および省級の労働組合大会における議
決の実現(a)、②当該地域、部門における経済-社会の発展に関する同級管理
機関の活動への参加(b)、③所轄の末端単位組合に対する、関係各法規、制度、
政策および科学技術に関する指導 266および情報サービス、愛国競争運動の組織、
党の路線と方針、国家の政策と法律、労働組合の任務および当該部門における
労働者の伝統、義務および権利に関する教宣(c)、④県級労働同盟との協力に
よる、当該部門、業種に関する各制度、政策の実現の指導 267および検査、当該
部門の労働者の権利および合法的で正当な利益の防衛(d)、⑤組合員の増加お
よび強靱な末端単位組合の建設(đ)である。
なお、ベトナム労働総同盟の資料によれば、二〇〇三年時点で活動中の地方
産業別労働組合数は四三六だった 268。
県級労働同盟は、県、郡 269、市 270および省直属市 271の労働同盟の総称である。
二〇〇三年ベトナム労働組合条例第二二条各項の定めるところによれば、県級
労働同盟は当該地域の労働者を束ねる労働組合であり(第一項)
、省級労働同盟
の決定に基づいて設立、解散され、またその活動についても省級労働同盟の指
導を受ける(第二項)
。
同条各項各号の定める県級労働同盟の任務と権限は、①当該地域の末端単位
組合および県級教育労働組合の設立および解散の決定、右各労働組合に対する
直接的指導(第三項)、②党の路線と方針、国家の政策と法律および労働組合組
織の任務の宣伝(第四項a)、③省級労働同盟の指示、議決および工作方針、県
級の党委員会 272の指示、議決および県級の労働組合大会の議決の実現、県級の
党委員会および国家機関との協力による 273、経済-社会の発展に関する方針の
決定、労働者の仕事と生活に関連を有する問題の解決(同項b)、④愛国競争運
動の組織、経済-社会の発展への貢献、農業および農村の工業化、現代化への
貢献(同項c)、⑤各社会活動の促進、労使条件の改善、貧困の撲滅、文化的生
活様式の建設、消極的または貪婪な傾向や社会的悪弊との闘争(同項d)、県級
の関係国家機関、地方産業別労働組合および総公司労働組合との協力による 274、
関係各制度および政策の実現状況に関する検査と監視、労働者の申請、申立 275お
よび労働紛争の解決(同項đ)、⑥組合員および基礎労働組合の増加、強靱な基
礎労働組合の建設(同項e)である。
なお、ベトナム労働総同盟の資料によれば、二〇〇三年時点で活動中の県級
労働同盟数は六二三だった 276。
表 277
県級の労働組合数
総数
県級労働同盟
地方産業別労働組合
その他の同級
278
労働組合
1998年
2003年6月
1,150組合
1,894組合
552組合
623組合
394組合
436組合
204組合
835組合
279
ベトナム労働総同盟組織委員会
⑤
中央産業別労働組合、省級労働同盟
二〇〇三年ベトナム労働組合条例第二六条各項の定めるところによれば、中
央産業別労働組合は、全国の同一部門の労働者を経済セクター横断的に束ねる
産業別労働組合である。同組合は、各省(部)の機関の労働組合、党および中
央団体 280の各委員会の労働組合、各省(部)または部門 281に属する総公司の労
働組合その他同レベルの労働組合を直接的指導対象とする(第二項)282。中央産
業別労働組合の設立および解散は、ベトナム労働総同盟主席団が決定する(第
一項)。
同条第三項各号の定める中央産業別労働組合の任務と権限は、①党の路線と
方針、国家の政策と法律および労働組合組織の任務の宣伝(a)、②当該部門の
労働者の合法的で正当な利益の代表および防衛(b)、③国家による当該部門の
経済-社会に関する管理、関係各制度および政策の建設への参加(c)、④組織
体系、組織モデルに関する研究、産業別労働組合体系における各級労働組合の
機能と任務の具体化、各下級労働組合の大会の指導 283、労働組合幹部の養成(d)
、
⑤所轄下級組合が行う以下の各事項、すなわちベトナム労働総同盟執行委員会
および同主席団の各指示、議決および中央産業別労働組合大会の議決に関する
研究と具体的展開、事業体などの管理への参加および労働者の利益の防衛、職
場大会 284の組織、労働協約および労働契約の締結、労働者の職業水準の向上、
関係法規、政策および労働者の義務と権利に関連を有する情報の周知および愛
国競争運動の組織の各事項に関する指導 285(đ)、⑥各地方産業別労働組合によ
る関係制度、政策および当該部門の伝統に関する教宣、当該部門の発展、およ
び当該部門に属する各非国営経済単位における基礎労働組合の設立を指導する
省級労働同盟への協力 286、省級労働同盟による地方産業別労働組合の設立また
は解体への参加(e)、⑦省級労働同盟による当該地域の基礎労働組合の指導に
関する分担関係の策定 287における協力(f)、⑧ベトナム労働総同盟主席団の規
定に沿った対外関係の実現(g)である。
なお、ベトナム労働組合のホームページ 288で公開された資料によれば、二〇
〇三年一〇月時点で活動中の中央産業別労働組合数は二〇である。ただし、中
央直属総公司労働組合を含む。同組合は、実質的に中央産業別労働組合と同じ
だからである。
表 289 中央産業別労働組合および中央直属総公司労働組合(二〇〇三年一〇月
時点)
部門
労働者(女性)
組合員(女性)
組織率
基礎労組(生産・経営/行
政・事業/合弁/非国営)
石油・ガス
18,696 (3,214)
16,675 (2,916)
89%
30 ( 26/ 0/
4/
0)
船舶 291
23,904 (5,336)
22,544 (5,131)
94%
38 ( 18/ 0/
0/ 20)
292
44,843 (11,560)
10,292
23%
133 (129/ 0/ 0/ 4)
工業 293
360,200(157,484)
314,956(136,000)
87%
471 (416/ 0/ 0/ 55)
75,000 (38,000)
73,200 (3,600)
98%
117 (103/ 0/ 0/ 14)
111,103 (19,471)
91,853 (17,926)
83%
486 ( - /117/ 16/ 26)
ゴム 296
78,149 (37,287)
72,275 (35,947)
92%
146 (142/ - / - / - )
銀行 297
58,898 (36,127)
55,684 (2,916)
95%
462 (446/ 0/ 0/ 16)
298
12,000 (4,400)
国防 299
101,103 (44,278)
300
14,025 (5,006)
290
鉄道
電力 294
交通運輸
公安
水産
295
8,500
(3,500)
71%
101,103 (44,278)
100%
7,494
(4,115)
53%
34
635 (626/ 0/ 0/ 9)
52 ( 43/ 0/
0/
9)
保健衛生 301
110,500
302
179,884
建設
24
126,934
71%
職員 303
35,789 (13,087)
35,469 (12,978)
99%
商業・旅行
48,800 (20,900)
35,571 (14,096)
73%
123,784 (53,122)
104,173 (43,999)
84%
398 (363/ 0/ 0/ 35)
49
124 (101/ 0/ 0/ 23)
304
農業・農村
56 ( 50/ 0/
0/
6)
24 ( 0/ 24/
0/
0)
49 ( 35/ 0/
0/ 14)
305
印刷 306
10,832 (4,628)
307
2,538
民用航空 308
7,000
教育
逓信 309
総数
(922)
77,000 (38,000)
9,872
2,538
91%
(922)
7,000
73,200 (36,000)
100%
8
100%
95%
1,494,048
※労働者数は基礎労働組合を有する職場の労働者数を意味するものと思われる。
省級労働同盟は、当該省または中央直属市の労働者(工人、職員および労働
者)を束ねる地域別労働組合である。
二〇〇三年ベトナム労働組合条例第二八条各項の定めるところによれば、同
組合は、当該地域の県級労働同盟、地方産業別労働組合、省または市に属する
総公司の労働組合、各工業区労働組合および直属の末端単位組合をその直接的
指導対象とする。また中央の職場単位における基礎労働組合であってこれをカ
バーする中央産業別労働組合または総公司労働組合が存しないものもこの対象
に含まれる(第二項)。省級労働同盟の設立および解散は、ベトナム労働総同盟
主席団が決定する(第一項)。
同条第三項各号の定める省級労働同盟の任務と権限は、①党の路線と方針、
国家の政策と法律および労働組合組織の任務の宣伝(a)、②当該地域の労働者
の合法的で正当な利益の代表および防衛(b)、③ベトナム労働総同盟執行委員
会および同主席団の各指示、議決、省級の労働組合大会の議決、党の各指示、
議決および国家の政策と法律の実現、省級の党委員会 310、国家機関による当該
地域の経済-社会の発展、労働者の生活、雇用および労使条件に関連を有する
方針または計画の策定への参加 311、当該地域の労働者における愛国競争運動お
よび各社会活動の組織(c)、④関係国家機関および中央産業別労働組合との協
力による 312、労働者に直接関連を有する法律および政策の各職場におけるける
実現状況の監視および検査、当該地域の労働仲裁協議会 313への参加、労働紛争
の解決の指導 314、労働災害の調査への参加、当該活動地域で活動する各事業体
における労働者の権利と合法的で正当な利益の防衛(d)、⑤各地方産業別労働
組合、省または市に属する総公司労働組合、県級労働同盟、各工業区労働組合
およびその他同級の労働組合に対する、ベトナム労働組合条例の定める各任務
の実現に関する指導 315(e)、⑥中央直属総公司の基礎労働組合および中央産業
別労働組合直属の基礎労働組合の諸任務 316の実現に関する指導 317(f)、⑦労働
者の文化水準および職業水準の向上、文化活動やスポーツ活動の組織、関係施
設 318の管理、職業紹介センターおよび法律相談事務所 319の組織(g)、⑧労働組
合幹部に関する計画的研究 320、幹部の管理、訓練 321および養成 322、省または市
の党委員会 323およびベトナム労働総同盟の割り当て 324にしたがった幹部政策の
実現(h)、⑨各下級労働組合大会の指導 325、強靭な基礎労働組合と業団の建設
である。
なお、二〇〇三年一〇月時点でみると、省級労働同盟は全ての省(五七省)
および中央直属市(四市)326において設立され、活動している(ただし、同年一
一月に一部の省が分割されるなどした結果、省および中央直属市の総数は六四
となった 327)。
表 328
省級労働同盟(二〇〇三年一〇月時点)
省・市
労働者
組合員
組
専
基礎労働組合(国営/国家/外資
県 級
地 方
織
従
との合弁/非国営)
労 働
産 別
同盟
労組
率
Ha Noi
220,687
216,329
98
437
2,300(1,179/
- /
- /1,121)
12
7
Hai Phong
280,000
157,134
56
129
1,728(1,172/
155/1,004/ 438)
14
9
6
Tuyen Quang
33,881 329
29,944
88
327( 270/ - /
- /
47)
6
Cao Bang
22,241
20,644
93
-
/ - /
- /
6)
13
19,626
46
849( 788/ - /
- /
61)
9
11
34,504
95
78
732( 966/ - /
- /
36)
10
8
69,980
73
135
Thai Nguyen
42,670
Son La
36,306
330
331
( -
Phu Tho
96,100
Vinh Phuc
36,968
27,012
73
Bac Giang
43,849 332
39,509
90
Bac Ninh
29,700
26,932
91
Quang Ninh
56,256 333
54,236
96
Hoa Binh
30,800
Ninh Binh
44,000
28,379
64
642( 567/ - /
- /
75)
8
8
Hung Yen
37,297
29,097
78
602( -
/ - /
- /
36)
10
8
Ha Giang
32,000
25,226
79
668(
36/ 547/
- /
63)
10
7
Thai Binh
50,567
45,353
90
1/ 152)
8
9
Bac Can
14,050
11,999
85
7
4
65
118
1,038( 123/
820/
6/
89)
12
7
658( 635/
0/
0/
23)
7
9
1,016( - /
- /
4/
21)
10
7
677( 606/ - /
- /
30)
8
7
973( 122/ 756/
10/
85)
14
9
11
1,072( 919/
34
- /
413( 405/ - /
- /
8)
Ha Tay
71,373
63,009
88
Lao Cai
31,222
26,108
84
60
690( 675/ - /
Lai Chau
30,000 334
20,120
67
73
464(
Lang Son
32,968
27,341
83
78
730(
Nam Dinh
52,319 335
30,590
58
Ha Nam
42,727 336
30,119
70
53
667(
35/ 453/
337
62,608
90
94
975(
81/ 733/
7/
28,971
99
687( 659/ - /
Hai Duong
69,565
Yen Bai
29,259
Ha Tinh
39,536
Nghe An
Quang Binh
1,375(1,215/
0/
0/ 160)
15)
10
7
61/ 400/
0/
3)
12
8
38/ 692/
0/
19)
11
5
- /
88)
10
9
- / 179)
6
6
54)
12
8
- /
28)
9
8
- /
32)
11
9
- / 217)
19
11
1,307(1,219/
- /
37,598
95
1,124(1,091/
99,858
74
2,119( 116/1,750/
32,877 339
31,572
96
340
24,343
91
57
Quang Tri
26,855
Thua
53,097
47,884
Quang Nam
31,251
23,638
76
67
Da Nang
59,414 341
41,567
70
86
Thien-Hue
90
8
- /
338
134,043
16
- /
806(
46/ 724/
26/
7)
9
46
672(
67/ 605/
- /
24)
9
9
875( 750/ - /
- / 125)
9
11
285( 259/ - /
- /
26)
14
7
6/
8)
6
6
1
2
8
5
11
4
79)
7
9
- / 287)
27
8
76(
Ninh Thuan
16,007
14,575
91
Phu Yen
33,050
28,442
86
65
678(
Binh Dinh
50,300 343
45,000
89
61
928(
Khanh Hoa
57,730
43,820
76
74
737(
Thanh Hoa
81,691 344
80,175
98
179
Binh Thuan
36,383
29,372
81
Dac Lac
83,750
71,103
85
Quang Ngai
45,710
38,716
85
Ba Ria
49,101
43,088
648,094
482,102
Can Tho
68,645
Lam Dong
37/
25/
382( 358/ - /
560/ -
2,060(1,782/
-)
/ - / 118)
62/ 640/
640/ -
24/
342
/
- /
18/
- /
65)
9
7
- /
- /
98)
19
6
831( 734/ - /
- /
97)
12
6
775( 583/ - /
- / 192)
7
11
74
5,354( 393/2,305/
388/2,268)
22
7
59,358
86
1,309( 963/
- /
- / 346)
9
6
40,448
36,747
91
963( 102/ 751/
3/ 107)
22
8
Gia Lai
32,117
28,507
89
822( 774/ - /
- /
48)
14
7
Kon Tum
22,487
19,113
85
497( 467/ - /
- /
30)
8
6
Soc Trang
55,719
31,364
56
750(
25/ 668/
- /
57)
15
8
Ben Tre
32,101
28,174
88
729( 706/ - /
- /
43)
8
6
Vinh Long
34,889
28,026
80
65
885( 640/ - /
2/ 241)
7
7
Kien Giang
39,155 345
32,721
84
86
800(
13
9
-Vung Tau
Ho Chi Minh
826( 761/ - /
2/ 224)
1,464(1,366/
88
75
29/ 716/
- /
55)
Tra Vinh
20,247 346
7,436
37
347
40,522
84
572( 562/ - /
- /
10)
8
8
60
609( 105/ 479/
2/
23)
8
3
75
896( 767/ - /
- / 129)
9
8
204/ 285)
7
7
73)
9
5
181/ 143)
9
13
95)
14
7
- / 482)
11
5
/ - /
- /
69)
11
4
Binh Phuoc
48,358
Tien Giang
56,499
38,857
69
Binh Duong
176,087
116,309
66
Tay Ninh
49,023
35,912
73
62
Dong Nai
169,277
129,682
77
204
Long An
53,205
43,500
82
Dong Thap
40,518
36,394
90
1,001( 519/
An Giang
42,673
999( -
1,005(
38/
478/
885( 789/ - /
1,382( 136/
937(
922/
63/ 779/
- /
14/
- /
38,673
91
Bac Lieu
21,216
348
19,047
90
50
518(
30/ 466/
1/
21)
6
6
Ca Mau
38,792 349
32,965
85
82
754(
40/ 669/
- /
45)
7
9
総数
3,987,150
650
※労働者数は基礎労働組合を有する職場の労働者数を意味するものと思われる。
なお Hai Phong 市、Son La 省の基礎労働組合数など明らかに誤りと思われる数
字も原則としてそのまま記入した。
⑥
ベトナム労働総同盟
ベトナム労働総同盟は、全てのベトナム人労働者を一元的に代表するベトナ
ム唯一のナショナル・センターである。
二〇〇三年ベトナム労働組合条例第二九条各項の定めるベトナム労働総同盟
の任務と権限は、①ベトナム労働組合大会および党の議決を実現するための労
働組合の活動計画 350の決定および各級労働組合の指導 351、党の路線と方針、国
家の政策と法律および労働組合組織の任務の宣伝、労働組合の理論研究工作の
指導 352および右指導内容の実践に関する総括(第一項)、②国家および経済-社
会の管理への参加 353、労働者(工人、職員および労働者)の任務と権利利益に
関連を有する制度、政策および法律の策定とその実現状況の検査および監視へ
の参加、労働保護に関する科学的研究工作の組織および管理、国家の各委員会
および協議会 354における労働者に関連を有する各問題の協議への参加 355(第二
項)、③国家との協力による、国土の現代化、工業化のための労働者の文化、政
治、専門および職業面における水準向上プログラム 356の策定およびその実現の
指導 357、国家、ベトナム祖国戦線その他の団体との協力による 358、労働者にお
ける愛国競争運動および各社会活動の組織(第三項)
、④労働組合の組織と幹部
に関するドイモイの方向およびその手段の決定、労働組合幹部に関する計画的
研究、幹部の管理、訓練および養成、幹部に関する各政策の実現(第四項)、⑤
法律およびベトナム労働総同盟の規定に基づく労働組合の経済活動および財産
の管理、文化、スポーツ、旅行および休息 359に関する各級労働組合の活動の指
導 360(第五項)、⑥党および国家の路線と対外政策に基づいた対外関係の拡大(第
六項)、⑦労働組合の財政および財産の管理に関する方針および手段の決定(第
七項)である。
二〇〇三年一〇月に開催された第九回ベトナム労働組合大会は、二〇〇三年
から二〇〇八年までを任期とするベトナム労働総同盟第九期執行委員会を選出
した。同執行委員会は一九名の主席団を含む一五〇名の執行委員で構成されて
いる。同大会前にベトナム労働総同盟が発表した予定によれば、各執行委員の
出身母体は、ベトナム労働総同盟の各機関のほか、各中央産業別労働組合およ
び省級労働同盟(各組合から一名ずつ)、各級労働組合の専従幹部 361、先鋒的各
部門で直接生産に携わる工人 362、各国家機関および団体の管理職幹部および科
学職幹部 363などである。その五〇%が五〇歳未満、二五%が女性、六%が少数
民族、三%が非党員とされた 364。あくまで予定ではあるが、このような人事は
大会による承認を前提として事前に事実上決定しているのが通例であるから、
概ね上記の通りになったものと思われる。
図 365
ベトナム労働組合の組織構造
ベトナム労働総同盟
中央産業別労働組合
省級労働同盟
地方産業別労働組合
県級労働同盟
業団
/
部分労組
グループ労組
⑦
財政
グループ労組
基礎労働組 (暫定労働組合執行委員会)
部分労組
グループ労組
グループ労組
労働組合法第一六条第一項は「各労働組合は法およびベトナム労働総同盟の
規定に従って財政を行う」と規定し、同条第二項各号がその財源を規定してい
る。
財源は次の二種類に大別される。すなわち、
「組合員から徴収する組合費のほ
か、労働組合の文化、スポーツ、観光および経営活動から得る収入、ならびに
国際団体および外国の労働組合からの寄付」(同項 a)といった独自の財源、お
よび「国家予算から給付される経費、および閣僚評議会の規定に従って機関、
単位または組織から労働組合に移管される資金」(同項 b)といった国家に由来
する財源である。
前者のうち組合員から徴収する組合費については、
「労働組合費の徴収の実現
366
を指導する 」ベトナム労働総同盟の通知 06/TT-TLD(一九九五年一月二〇日)
が当該組合員の給与の一%と定めている。
これに対し、後者に属する事項として、各職場単位から徴収される組合費が
ある。そして、この組合費を納入する義務の主体は民間の事業体にまで拡大さ
れている。すなわち、財政省 367と労働総同盟の合同通達 36876/1999/TTLT-BTC-TLD
(一九九九年六月一六日)に基づき、基礎労働組合を有するすべての行政・事
業機関 369、武装勢力単位、政治組織 370、政治-社会組織、社会組織、および各
経済セクターに属する事業体は、その労働者(工人、職員および労働者)に対
する給与総額の二%に相当する金額を当該基礎労働組合に納めなければならな
い 371。組合員の人数に関わらず、当該職場単位の労働者全員に対する給与額が
算定基礎となる。
上記合同通達は、この組合費の徴収方法について次のように規定している。
すなわち、その労働者が国家予算から俸給の支給を受ける職場単位については、
財政省が当該職場単位に対する国家予算から予め二%を控除してこれをベトナ
ム労働総同盟に直接納付する。労働者が地方予算から俸給の支給を受ける職場
単位については当該地方の財政機関が同様に当該地方の労働同盟に直接納付す
る 372。また、各経済セクターに属する事業体については、労働組合は徴税機関
に対して徴収を委任することができる 373。これら事業体は組合費を製品の原価
または流通費用に組み込むことができる。
なお、外資系事業体については一部の例外を除き組合費の負担が免除されて
いる 374。これは「外国からの直接投資を奨励するいくつかの方策に関する」政
府首相の決定 53/1999/QD-TTg(一九九九年三月二六日)第三条第四項に基づく
措置であるが、ベトナム労働組合は同措置の廃止を提議している 375。
ベトナム労働組合の財政に対する国家予算からの支出は組合費の負担に止ま
らない。前出の「政府とベトナム労働総同盟の間の工作関係に関する規制」は、
その第六条において次のように規定している。
「ベトナム労働総同盟は毎年収支
計画書を作成し、財政省および国家計画委員会 376に提出する。財政省および国
家計画委員会はこれを政府首相に報告する責任を有する。ベトナム労働総同盟
の収入が必要な支出額に満たないことが見込まれるときは、国家は対応を検討
し、その経費の一部を援助する」。
この規定に基づいて二〇〇〇年度の国家予算から支給された援助総額は五四
二億ドン、二〇〇二年度に組まれた援助予算総額は七八九億一一〇〇万ドンで
あった 377。
他方、支出面では、専従組合幹部の給与が大きな問題となっている。
ベトナムにおいては、従来、県級以上の労働組合の被選出幹部は国家の職員
とみなされ、国家予算からその給与が支払われる取り扱いとなっていた。しか
し、財政省、政府幹部組織委員会および労働・傷病兵・社会省の合同通達 79TT/LB
(一九九一年一二月二七日)により右取り扱いは廃止され、それら専従組合幹
部の給与はベトナム労働組合自身が負担することになった 378。
この結果、専従組合幹部の給与額は同級の政府機関などで働く職員の給与額
よりも低くなり、士気の低下など組合活動への支障を導いた。たとえば、労働
総同盟機関紙はある県級労働同盟主席の次のような投書を掲載している。
「四な
いし五任期を勤め上げた県級労働同盟主席および副主席の定年退職時の給与は
三五〇万ドンである。政権の長および副長は三年で一号棒昇給するから、組合
幹部との給与の格差は非常に大きなものとなる。そのため組合幹部の権利利益
は著しく害されており、その活動における熱心さの欠如を導いている。
(略)組
合幹部に対する現在の平均的な活動経費は一年あたり一四〇〇万ドンであるが、
これも合理的でない。なぜなら年度毎に開始と総括の会議を開かねばならず、
報奨金も支出しなければならず、各競争運動を組織してはまた賞金を出さなけ
ればならず、各試験を組織してもやはり賞金を出さなければならないのに、活
動経費が党や国家の同級職員と同等であるというのは合理的でない。なぜなら、
党や国家の同級職員は、ほとんどの場合このような支出が必要ないか、あって
もごくわずかだからである」 379。
なお、専従組合幹部の給与の低さは特に基礎級労働組合において著しく、非
国営セクターにおける組織率と組合活動の低迷の一因となっていた。そこで、
「非国営事業体の専従組合幹部に対する給与の支払いのための経費援助に関す
る」政府首相の決定 1213/QD-TTg(二〇〇一年九月七日)が公布され、二〇〇
一年度中央予算の予備費 380から一二〇億ドンがベトナム労働総同盟の予算に補
充された。これを受けてベトナム労働総同盟は「非国営各事業体の専従組合幹
部に対する給与の支払いに関する臨時規定の公布に関する」労働総同盟の決定
1724/QD-TLD(二〇〇一年一二月三日)を公布し、二〇〇一年七月から二〇〇
三年末まで、外資を含む非国営セクターの専従組合幹部に対して以下の給与を
支給した。すなわち、外資系事業体の専従組合幹部に対して一ヶ月あたり三〇
〇万ドン、その他の事業体(従業員三〇〇人以上)の専従組合幹部に対して一
ヶ月あたり最低賃金の四.三二倍などである。
ちなみに、ベトナム労働組合内部には専従組合幹部の給与を事業体に負担さ
せるべきとする見解も有り、機関紙に掲載されている 381。
Ⅲ 労働条件決定システムと労働組合
1 労働契約(hop dong lao dong)
1-1 労働契約の経緯と定義
労働契約を媒介とする労働関係の形成方式については、勅令 29-SL(一九四七
年三月一二日)および勅令 77-SL(一九五〇年五月二二日)がそれぞれ賃金労働
契約 382、労働者を雇う契約 383として規定し、定員外 384や臨時雇用 385の工人、職員
の雇用に用いられていた。
その後、
「各国営企業に対する計画化と社会主義的経営方式のドイモイ政策を
規定する」閣僚評議会の決定 217-HDBT(一九八七年一一月一四日)を契機とし
て、労働契約制度が労働関係を形成するための主要な形式の一つとなった 386。
労働法典第二六条は、労働契約を「労働者と使用者の間における、賃金の支払
いを受ける雇用、「労働条件」 387および労働関係における双方の権利と義務に関
する合意」と定義している。また同法典第一六条は、使用者による直接的な募集、
採用の自由原則(第二項)および労働者による直接的な応募の自由原則(第一
項)を定めている。
なお、労働契約は、その目的が仕事の完成ではなく労務の提供である点、労
働者が当該契約関係の範囲内で使用者に従属し、また契約した労働者本人が労
務を提供しなければならない点、および継続的な契約関係である点において民
法上の請負契約 388とは異なると説明されている 389。
1-2 契約主体
① 使用者
労働契約上の使用者について、労働法典第六条後段は、
「使用者とは、労働者
を雇用、使用して賃金を支払う事業体、機関、組織または個人である。個人と
しての使用者は満一八歳以上 390であることを要する」と規定している。また、
「労
働契約に関する労働法典の一部条項の細目を規定し施行を指導する」政府議定
44/2003/ND-CP(二〇〇三年五月九日)第二条第一項がこれを次のように具体化
している 391。すなわち、①国営事業体法 392、事業体法 393またはベトナムにおけ
る外国投資法に基づいて設立、活動する事業体、②政治組織または政治-社会
組織の所有にかかる事業体、③国家公務員 394以外の労働者を使用する各行政・
事業機関、④軍または警察勢力に属する各経済組織であって士官、下士官また
は戦士 395でない労働者を使用するもの、⑤合作社、家族または個人であって労
働者を使用するもの、⑥「教育、医療、文化、スポーツ領域における各活動の
社会化 396奨励政策に関する」政府議定 73/1999/ND-CP(一九九九年八月一九日)
に基づいて設立された民間 397の教育、医療、文化、スポーツ各基礎、⑦ベトナ
ム国内において活動する外国または国際の機関、組織または個人であって、ベ
トナム人労働者を使用するもの(ベトナム社会主義共和国が締結または参加 398
した国際条約において他の規定が存する場合を除く)、および⑧外国人労働者を
使用するベトナムの事業体、機関、組織または個人(ベトナム社会主義共和国
が締結または参加した国際条約において他の規定が存する場合を除く)である。
このように、国家機関、ベトナムの領土内で活動する各国際組織および外国
の機関を含む全ての機関、組織、事業体および個人が労働契約上の使用者とな
り得る。
②
労働者
労働契約上の労働者について、労働法典第六条前段は、
「労働者とは、満一五
歳以上であって労働能力を有し、労働契約を締結した者をいう」と規定してい
る 399。なお、前掲の政府議定 44/2003/ND-CP第二条第二項の定めるところにより、
次の者の労働関係については労働契約制度が適用されない。すなわち、①公務
員法令の適用対象に属する者 400、②国会の代表、各級人民会議 401の専任 402代表、
国会または各級人民会議により任期をもって任命または選出 403され、国会、政
府、各級人民委員会、人民裁判所および人民検察院の機関において各職務を行
う 404者、③所轄機関により国営事業体の総監督、監督、副監督または会計長 405の
職務に任命された者、④事業体管理協議会 406のメンバー、⑤政治組織、政治-社
会組織に属し、当該組織の規律 407に基づいて活動する者、⑥各事業体内部の党、
労働組合、青年団組織において工作を行う専従幹部であって、事業体から賃金
の支払いを受けない者、⑦合作社法 408に基づく合作社の社員であって、賃金、
工賃 409の支払いを受けない者、および⑧人民軍または人民警察 410の士官、下士
官、戦士、専業軍人 411および職員は、労働契約上の労働者ではない。
1-3 契約類型と契約手続
① 契約類型
労働法典第二七条第一項各号の定めるところにより、労働契約は、①期間の
定めのない契約(a)、②一二ヶ月以上三六ヶ月未満の期間を定める契約(b)、
③一二ヶ月未満の季節的ないし一定の仕事 412 の完成までの期間を定める契約
(c)の何れかの形式によらなければならない 413。
長期の使用が見込まれる仕事に短期の契約形式を用いてはならない(同条第
三項)414。契約期間の満了後も雇用関係を継続する場合は、契約期間が満了した
日から起算して三〇日以内に新しい契約を締結しなければならない。新しい契
約を締結しないまま三〇日を越えて使用したときは、契約時に遡って期間の定
めのない契約に転化する。また、有期契約の二度目の更新は期間の定めのない
契約によらなければならない(同条第二項および政府議定 44/2003/ND-CP第四条
第四項)。
②
契約手続
労働契約の成立過程は、提案、交渉および締結の三段階に分けられる。
提案(募集、求職)は、一方が他方に対して直接的に行うこともできるし、
雇用サービスセンターや新聞広告などマスコミを通じて間接的に行うこともで
きる(労働法典第一六条第一項、第二項など)。外資系企業については、改正以
前の労働法典第一三二条第一項、
「雇用に関する労働法典の一部条項につき細目
を規定し施行を指導する」政府議定 72/CP(一九九五年一〇月三一日)および「ベ
トナムで外国の組織、個人のために働くベトナム人労働者の採用、使用および
管理に関する」政府議定 85/1998/ND-CP(一九九八年一〇月二〇日)がベトナム
人労働者の直接的募集に制限を課していたが 415、右制限は二〇〇一年の労働法
典改正で廃止された。
交渉の内容および方法について具体的に規定する法規は見当たらない。ハノ
イ法科大学の労働法テキストは次のように解説している。すなわち、募集者(使
用者)は、仕事の内容や労働者の一般的および個人的な利益に関連する諸事項
を説明しなければならない。その内容には当該企業等の経営状況や展望も含ま
れる。求職者(労働者)は、私生活に関する事項を含む必要な情報を提供する
ほか、必要に応じて募集者の指示する能力検査を受けなければならない 416。
労働契約の締結は、原則として書面によって行わなければならない(もっと
も、書面の作成が労働契約関係の成立要件か否かは明らかでない)417。書面は労
働・傷病兵・社会省の発行する統一様式の契約書 418を用いて二部作成し、双方
が署名の上一部ずつ保管する。ただし、三ヶ月未満の期間を定める臨時的な雇
用契約および家事労働 419契約については例外的に口頭での締結 420が認められて
いる(労働法典第二八条)。
なお、求職者はその代表者を通して集団的に労働契約を締結することもでき
る(労働法典第三〇条第二項)421。また、試用期間については別に規定がある 422。
1-4 労働契約の内容
労働契約の内容は、講学上、必要的合意事項と任意的合意事項
423
に大別され
る。必要的合意事項とは労働契約の内容を構成する基本的諸事項である。具体
的には、労働法典第二九条第一項の定める労働契約の主要な内容、すなわち、
仕事 424、労働時間、休憩時間、賃金額、就労場所、契約期間、労働安全、労働
衛生、および社会保険に関する諸事項がこれにあたる。もっとも、右各事項の
いずれかについて合意を欠く労働契約の効力については明確に規定されていな
い 425。
また、同条第二項は「労働者の権利利益につき規定する労働契約の内容の一
部または全部が労働法、労働協約または就業規則の規定する水準を下回るとき、
もしくは労働者のその他の権利を制限するものであるときは、労働契約の当該
部分または全部は修正、補足されなければならない」と定めている。当該内容
が当然に無効となったり、労働法、労働協約、就業規則などの規定内容に自動
的に置き換えられたりする構造にはなっていない。同条第三項の定めるところ
により、労働監察官 426は、当該内容の修正または補足を指導 427、要求し、当事
者が従わないときは当該規定を無効とする権限を有する。労働法典の一部改正
428
により、同項には「この場合における当事者の権利、義務および利益は法律の
規定するところに基づき解決される」との規定が加えられた。これは、後述の
労働紛争解決システムにより解決すべきことを定めたものと解される。
1-5 労働契約の履行、変更および中断
労働契約に基づく労務の提供は、当該契約を締結した本人が履行しなければ
ならない。ただし、使用者の同意がある場合はこの限りでない(労働法典第三〇
条第四項)。
労働契約の一方当事者が契約内容を履行しない場合であっても、他方当事者
は相手方に対してその履行を強制することはできない。たとえば、労働者が契
約した労務の提供を行わないときは、使用者は当該契約関係を終了し、損害の
賠償を請求することができるに止まる。
契約内容の変更は、当事者双方の合意に基づく修正、補足もしくは新しい契
約の締結により行う。変更を希望する当事者は、相手方に対して変更希望期日
の三日前までに申し入れなければならない。変更について双方が合意に至らな
いときは、従前の契約内容を継続し、または契約を終了する(同法典第三三条
第二項)
。
使用者は、
「突発的な困難もしくは生産、経営上の必要性」が生じた場合、一
年に六〇日を限度として労働者を契約内容と異なる仕事に配置することができ
る。この場合については、三日前までの予告、予定期間の明示のほか、仕事の
内容が労働者の健康状態や性別に適合的なものであるべきこと、配置後一ヶ月
は従前の賃金水準を維持すべきこと、および一ヶ月経過後は仕事に見合う水準
に変更できるが、従前の水準の七〇%以上であるべきことがさだめられている
(同法典第三四条各号)。
また、労働契約は、一定の場合において一定の期間中断される。停約 429と呼
ばれる制度である。具体的には、労働者が兵役や国会、人民会議の代表などの
任務に就く場合や懲役刑を科された場合 430など政治的、社会的な理由による場
合、および、労働者が学習や仕事のために使用者の許可を得て一定期間無給で
外国に滞在する場合など双方の合意による場合に適用される(労働法典第三五
条第一項各号)。
1-6 労働組合の役割
労働契約に関して基礎労働組合が担う役割の第一は、合法的な労働契約の締
結の促進に他ならない。ベトナムにおいては、正式な労働契約を締結されない
まま就労する労働者や、法定の労働基準を下回る契約内容に甘んじている労働
者の割合が非常に高いからである。役割の第二は、締結された契約の内容およ
びその実現状況を監視することである。その対象には、使用者のみならず労働
者も含まれている。
法規範としては、閣僚評議会の議定 133-HDBT 431および 302-HDBT 432がこの役割
を定めている。上記各議定を踏まえて基礎労働組合の具体的任務を明らかにし
た「労働協約および労働契約に関する労働組合工作を指導する」ベトナム労働
総同盟の通知 08/TT-TLD(一九九五年二月一八日)第二章は、大要以下のように
規定している。
まず、労働契約の締結を促進するための準備工作として、その必要性、目的、
意義および利益を事業体の労働者に宣伝する。また、事業体の労働協約の内容
を周知することにより、その内容に沿った労働契約の締結、修正ないし補足を
促す(Buoc1-1)。
労働契約を締結していない労働者が多数存在する場合は、全労働者が労働契
約を締結できるようにするための条件の整備方法を使用者に提案、建議する 433
(Buoc1-2)。
また、関係法規 434や労働協約の内容に違反する労働契約の有無を調査し 435、
これら各規範の内容を下回る水準において締結された労働契約を発見したとき
は、使用者に対してその内容の補足や修正、もしくは労働契約の再締結を建議
する(Buoc2 各号)。
さらに、労働契約の実現状況を双方向的に(労、使双方について)検査する 436
する。使用者の側に違反が発見された場合は契約事項の遵守を建議、要求し 437、
労働者の側に違反が発見されたときはその教育や契約遵守キャンペーンを担当
する(Buoc3-1)。
以上の任務は、使用者との密接な協力関係、当該事業体の党委員会 438、上級
労働組合および所轄機関の意見を得て遂行する(Buoc3-4)。
労働協約などにおいて労働契約関係双方の合作関係を定めるときは、労働契
約の締結状況を基礎労働組合執行委員会に通知する使用者の義務を規定するよ
う努力しなければならない(Luu y)。
なお、上掲の通知 08/TT-TLDは、労働契約に関する上級労働組合の任務につい
ても明らかにしている。その第三章の定めるところによれば、上級労働組合は、
それぞれ同級の政権 439および労働機関と協力して、労働契約に関する国家およ
びベトナム労働総同盟の規定、指導 440を研究し、各部門、地方、および単位の
実況を調査、比較 441した上で、各末端組織に対する具体的な指導 442計画を策定
する。
1-7 問題点
労働契約制度の抱える最大の問題点は、その締結における違法の多さに他な
らない。特に非国家セクターにおいて、正式な労働契約を締結されず、あるい
は短期契約の更新を強要され不安定な立場に甘んじている労働者が非常に多い
443
。
ベトナム労働総同盟の資料によれば、国営事業体セクター、外国投資セクタ
ーにおける労働契約の締結率は九〇%を超えている一方、民間事業体 444では四
〇%近くの労働者が労働契約を締結されないまま就労している。また、労働契
約を締結している労働者の八〇%以上は有期契約に甘んじている 445。
多くの民間事業体が、社会保険料の納付義務を免れるために恒常的な仕事に
ついても三ヶ月未満の契約の締結に固執している 446。また、労働契約の締結に
おいて労働・傷病兵・社会省の発行にかかる用紙の購入、使用が義務づけられ
ていることも労働契約締結率の低迷の一因となっている 447。
表 448
労働契約の締結率
労働契約締結率 449
1998 年
1999 年
2000 年
2001 年
2002 年
2003 年前期
78%
80%
81%
84%
84%
87%
ベトナム労働総同盟政策-経済-社会委員会
2 就業規則(noi quy lao dong)
2-1 就業規則の基本的性質と作成手続
① 基本的性質
労働法典第八章は、事業体内部における労働紀律 450および労働者の物的責任
451
について定めている。就業規則は、これらの具体的内容を各事業体内部におい
て明文化させる手段である。
労働紀律とは、労働者の非違行為に対して懲戒権が行使される諸事項の総体
である。わが国の企業秩序に近い概念と言える。労働法典第八二条第一項は、
「労
452
働紀律とは、就業規則において体現される時間、技術 、生産および経営に関
する規範の遵守に関する諸規定である」と定義している 453。また、物的責任と
は、労務の提供過程において労働紀律に違反した結果生じた物質的損害に対す
る労働者の賠償責任である。
このように、ベトナムにおける就業規則制度とは、当該事業体における労働
条件の最低基準というよりも、使用者の労働者に対する支配権や、労使関係に
おける使用者側の財産権の保障を主眼に置いた制度である。
もっとも、労働法典第八章は、使用者が労働者に対して行使しうる懲戒権な
いし損害賠償請求権の内容を詳細に規定し、限界付けている。この点に着目す
れば、就業規則制度は、労働者保護の観点から罪刑法定主義的原則を労使関係
に導入し、国家による積極的介入によって搾取関係を規制するものであること
も事実である。
②
作成手続
常時一〇名以上の労働者を使用する事業体、職場単位 454は、就業規則を文書
により作成し(労働法典第八二条第一項後段)、省級の労働・傷病兵・社会局 455
に登録しなければならない(同条第三項)。登録の期限は、「労働紀律および物
的責任に関する労働法典の一部条項の細目を規定し施行を指導する政府議定
41/CP ( 一 九 九 五 年 七 月 六 日 ) の 一 部 条 項 を 修 正 、 補 足 す る 」 政 府 議 定
33/2003/ND-CP(二〇〇三年四月二日)の公布時点で既に活動中の事業体、職場
単位については二〇〇三年七月一七日まで、また、新設の事業体、職場単位に
ついてはその活動を開始した日から起算して六ヶ月以内である 456。
就業規則の必要的記載事項としては、次の各事項が規定されている。すなわ
ち、①労働時間、休憩時間、②事業体における秩序、③職場の労働安全、衛生、
④事業体の財産および技術上、経営上の機密の保護、⑤労働紀律違反行為と処
分形式、および⑥物的責任である(労働法典第八三条第一項)。
これら各事項に関する就業規則の内容は、労働法その他の法律の定める最低
基準を下回ってはならず(同法典第八二条第一項後段)、かつ労働協約として合
意された労働条件の水準を下回ってはならない(同法典第四九条第二項後段)。
就業規則の発表に先立って、使用者は基礎労働組合執行委員会の意見を聴取
しなければならない 457(同法典第八二条第二項)。
就業規則は、省級の労働・傷病兵・社会局に登録された日から効力を発生す
る。労働・傷病兵・社会局は、就業規則を受領 458した日から起算して一〇労働
日以内 459にその登録を関係者に通知 460しなければならない。右期間内に通知の
ないときは、就業規則は自動的に発効する(同条第三項)。
就業規則の内容は、個々の労働者に通知 461した上で、その要点を事業体の適
当な場所に掲示しなければならない(同法典第八三条第二項)。
2-2 紀律責任と紀律処分
① 紀律責任の構成要件
紀律責任とは、紀律処分を甘受すべき労働者の責任である。
紀律責任の構成要件は、労働紀律に対する違反行為が存在すること、および、
当該違反行為について「過失」 462が存在すること、の二つである。
「過失」は、当該違反行為における労働者の非難可能性の全般を指す用語で
ある。したがって、故意と過失の双方が含まれる。この「過失」概念について、
たとえばハノイ法科大学の労働法テキストは次のように説明している。すなわ
ち、労働者は、労働契約関係における自らの義務を履行するために十分な条件
と能力を有するにもかかわらず労働紀律に違反した場合に、当該違反行為につ
いて「過失」を有するものと見做なされる。「過失」は、「意識のある過失」と
「無意識の過失」に大分される 463。
「意識のある過失」とは、労働者が違反行為
およびその結果を認識することができるとともに、当該行為の実現および結果
の発生を期待する場合の「過失」である。すなわち、わが国における故意に当
たる概念である。これに対し、
「無意識の過失」は、その性質によって二種類に
....
分類される。すなわち、「ぞんざいさによる無意識の過失」と、「自信過剰によ
....
る無意識の過失」である 464。「ぞんざいさによる無意識の過失」とは、行為の結
....
果を予見すべきであり、またそれが可能であったにもかかわらず、ぞんざいさ
の故に予見することができなかった場合の「過失」である。また、「自信過剰に
よる無意識の過失」とは、行為の結果を予見し得たにもかかわらず、行為の結
果は発生しないものと信じ、かつ結果の発生を期待していない場合の「過失」
である 465。
②
紀律処分に関する諸原則
労働法典第八四条第二項は、一つの労働紀律違反行為に対して複数の紀律処
分形式を適用することを禁止している。また、同法典第六〇条第二項は、紀律
処分の適用に替えて罰金を科したり賃金をカットしたりすることを禁止してい
る。なお、前出のハノイ法科大学の労働法テキストは、右原則に加えて以下の
各原則が有ると説明している。すなわち、①一人の労働者が同時に複数の労働
紀律違反行為を行ったときは、最も重大な違反行為についてのみ処分する 466、
②精神病その他の病気により認識能力または行為制御能力を失った労働者の行
為について紀律処分を適用してはならない、③紀律処分に際して、労働者の身
体や尊厳を侵犯してはならない、および④ストライキに参加したことを理由と
して紀律処分を適用してはならない(同法典第一七八条第一項が復讐 467を禁止
している)、という各原則である 468。
③
紀律処分の形式と適用手続
労働紀律処分の形式については、労働法典第八四条第一項(改正後)が、
「労
469
470
働規律に違反 した者は、その違反 の程度に基づき、以下の諸形式の一つに
より処分 471される」としたうえで、次の五形式を限定列挙している。すなわち、
①譴責 472、②六ヶ月を限度とする昇給停止、③六ヶ月を限度とする、賃金水準
の低い他業務への配置換え、④解任 473(管理職について)、および⑤懲戒解雇 474
の各形式である。
最も重い処分形式である懲戒解雇については、労働法典第八五条第一項各号
が、これを適用できる場合を限定列挙している。すなわち、①「窃盗、横領、
もしくは技術上、経営上の機密の漏洩、または事業体の財産や利益に重大な損
害を与える行為」
(a)、②「昇給停止もしくは賃金水準の低い他業務への配置換
え形式による処分期間中もしくは解任形式による処分後における再度の違反行
為」(b)、および③「一カ月に五日もしくは一年に二〇日の、正当な理由のない
欠勤」(c)の各場合である。
また、政府議定 33/2003/ND-CP(二〇〇三年四月二日)が、懲戒解雇を含む各
処分形式と紀律違反行為の対応関係を詳細に規定している。
具体的な適用の手続については、労働法典第八七条各項が次のように定めて
いる。すなわち、労働紀律処分の適用に関する審理 475は、使用者、当該労働者
および基礎労働組合執行委員会の代表の出席を得て行わなければならない(第
三項)。審理において、使用者は当該労働者の「過失」の存在を証明しなければ
ならない(第一項)。労働者には弁明の機会が与えられる。弁明は、労働者が自
ら行うこともできるし、弁護士 476などに依頼することもできる(第二項)
。審査
の過程は文書に記録されなければならない(第四項)。
なお、政府議定 33/2003/ND-CP の定めるところにより、処分の内容は書面に
よって当該労働者に通告しなければならない(口頭での譴責による場合を除く)。
処分を不服とする労働者本人または基礎労働組合執行委員会は、使用者、所
轄機関に対して申し立てを行い、または法律の規定する手続きにより当該紛争
の解決を要求することができる(労働法典第三八条第二項、第九三条)。
労働紀律違反行為は、違反行為の日から起算して三ヶ月、特別なケース 477に
ついては六ヶ月で時効 478となる。右期間を経た行為について労働紀律処分を適
用することはできない(同法典第八六条)。また、昇給停止形式または配置換え
形式の紀律処分を適用した場合において、当該期間の二分の一を経て労働者に
改善、進歩が認められるときは、使用者は処分期間の短縮を検討しなければな
らない(同法典第八八条第二項 479)。
2-3 物的責任と物的処分
① 物的責任の理論的根拠と特殊性
一九九二年憲法第二二条前段は、
「あらゆる経済成分に属する生産、経営基礎
は(中略)法のもとに平等であり、合法的な資本と財産は国家によって保護さ
れる」と規定している。また同憲法第五八条は、国家は公民の合法的な所有権
を保護する旨定めている。ベトナムの労働法学界においては、憲法における右
各規定が、労働者に物的責任を課すことの正当性の理論的根拠とされている。
すなわち、ベトナム労働法は、労働紀律に違反して使用者の財産権を侵害した
労働者に賠償責任を課すことにより、使用者の合法的な財産を保護しているの
だと説明されている 480。
労働者の物的責任は、①労働契約に基づく労務の提供過程においてのみ発生
する点、および②損害賠償の対象となる財産は労働契約上の労務提供義務の履
行過程において労働者が管理、使用、保管または加工する使用者の財産でなけ
ればならないという点で、一般の損害賠償責任とは異なるものであることが指
摘されている 481。
②
物的処分の要件
物的処分とは、労働者に対する物的責任の追及である。すなわち、損害賠償
の請求に他ならない。
物的処分を適用するためには、①労働紀律に対する違反行為の存在、②使用
者の財産上の損害の存在、③違反行為と財産上の損害の間における因果関係の
存在、および④労働紀律に違反した労働者の「過失」の存在という四つの要件
を満たす必要がある。
物的処分を適用するための根拠となる労働者の違反行為は、労務提供義務の
履行中になされたものに限られる。マニュアルを誤用して機械設備を損壊した
場合における「誤用」がその典型である。
また、使用者の財産上の損害とは、その財産の数量または価値の減少を指す。
ただし、物的処分が適用できるのは直接的な損害についてのみである。使用者
は、労働者の規律違反行為と自己の財産上の損害との間に直接的な因果関係が
存在することを立証しなければならない。
③
物的処分の程度と方法
法は、労働者が賠償すべき金額に一定の上限を設定している。
労働法典第八九条後段は、労働者が労働紀律に対する違反行為により機械設
備を損壊した場合などであって、使用者の被った財産上の損害の程度が甚だし
いものでない 482場合については、労働者に対する物的処分の程度は賃金の三ヶ
月分を超えてはならない旨規定している。なお、
「甚だしいものでない場合」と
は、政府議定 41-CP(一九九五年七月六日)第一四条の規定するところにより、
損害額が五〇〇万ドンを超えない場合である。
この場合の賠償は、労働法典第六〇条第一項の定める方法による(同法典第
八九条後段)。すなわち、賃金からの控除である。使用者は、基礎労働組合執行
委員会と協議の上、月給の三〇%を超えない一定額を当該労働者の毎月の賃金
から控除することができる 483。すなわち、労働紀律処分としての賃金カットは
許されないが、物的処分については相殺的な控除が認められているのである。
つぎに、労働者が使用者の所有に属する用具、設備などを紛失し、あるいは
許容量を超えて資材を消費した場合については、同法典第九〇条が次のように
定めている。すなわち、当該労働者は、不可抗力による場合を除き、使用者に
与えた損害の一部または全部を市場価格に基づいて弁償しなければならない 484。
この場合については具体的な賠償方法は定められていない。
いずれの場合についても、損害が複数の労働者の紀律違反行為に起因するも
のである場合は、各人の具体的な労務提供義務の内容および条件に応じてそれ
ぞれの「過失」の程度が確定され、右程度に応じて賠償責任が配分されること
になる。
物的処分の手続および時効は、前述の労働紀律処分におけるそれに準ずる(同
法典第九一条)。
2-4 労働組合の役割
① 作成
労働法典第八二条第二項は、
「就業規則の発表に先立って、使用者は、事業体
の基礎労働組合執行委員会の意見を参考にしなければならない」と規定してい
る。すなわち、当該事業単位の組織率にかかわらず、労働組合が適用対象労働
者の全体を代表して就業規則の作成に関与するシステムとなっている。
ベトナムの労働法学界において、労働組合の意見を参考にする上記使用者の
義務は、就業規則の起草段階から適用される強制的な手続きであると考えられ
ている。また、こうして労働組合が就業規則の起草に参加することは、
「各規定
485
の合理性と正確さを保証することになる」と評価されている 。
ただし、労働組合の意見を参考にすることが就業規則の効力発生要件である
かは明らかでない。
②
就業規則の周知と労働紀律の保証、強化
労働組合は、就業規則を労働者に周知するとともに、就業規則の定める労働
紀律を「保証、強化」する役割を担っているとされる。このことについて、ハ
ノイ法科大学の労働法テキストは以下のように説明している。
労働紀律の「保証、強化」とは、各労働者にその義務をより良く理解させ、
労働紀律に従った労務の提供を実現させることである。具体的には、
「教育、説
得」、「社会的影響」、「奨励、褒賞」などがその手段となる。
「教育、説得」は、労働紀律の内容、目的および効果を労働者に明瞭に理解
させることにより、労働紀律に対する自覚を向上させ、これを遵守させようと
する手段である。つぎに、
「社会的影響」は、労働紀律違反行為に対する批判的
な世論を指導、作出するとともに、自ら手本を示すことによって労働者に労働
紀律の遵守を促そうとする手段である。各職場単位においては、基礎労働組合
をはじめ、青年団や婦人会といった大衆団体がこの役割を担っている。また、
「奨
励、褒賞」も労働紀律の「保証、強化」の重要な手段である。労働法は、各労
働関係の性質と労働者が達成した成績に基づく様々な「奨励、褒賞」の形式、
程度および財源を規定している 486。
③
紀律処分、物的処分への参加
労働法典第八七条第三項および政府議定 41/CP(一九九五年七月六日)第一一
条第一項 b の規定するところにより、使用者は、労働紀律処分の適用に当たっ
て基礎労働組合執行委員会の代表の参加を得なければならない(口頭での譴責
形式による場合を除く)。
具体的には、
「労働組合法の施行を指導する」閣僚評議会の議定 133-HDBT(一
九九一年四月二〇日)第一一条が基礎労働組合との協議義務を定めており、懲
戒解雇については政府議定 33/2003/ND-CP(二〇〇三年四月二日)が同合意義務
を定めている。
また、労働法典第九二条第一項は労働紀律違反行為の調査過程における当該
労働者の一時停職決定について基礎労働組合執行委員会との協議義務を定め、
政府議定 41-CP(一九九五年七月六日)第一一条第二項は基礎労働組合執行委員
会の代表の意見を労働紀律処分の記録書面に記載すべきことなどを定めている。
労働紀律処分、物的処分における以上のような労働組合の参加は、労働組合
が関係情報を把握し、当該職場単位における労働法の実現を検査、監視するた
めの手段の一つとなっていると説明されている 487。
懲戒解雇処分の適用について使用者と基礎労働組合執行委員会の意見が一致
しないときは、基礎労働組合は直接上級の労働組合に報告し、使用者は労働・
傷病兵・社会局にその旨報告する。報告の日から起算して二〇日 488を経て初め
て使用者は懲戒解雇処分を決定することができるが、右決定について責任を負
わなければならない(政府議定 33/2003/ND-CP)。
労働紀律処分または物的処分を不当と考える労働者本人または基礎労働組合
執行委員会は、使用者、所轄機関に対して申し立てを行い、または法律の規定
する手続きに則って労働紛争の解決を要求する権利を有する(労働法典第三八
条第二項、第九三条)
。所轄機関が使用者による処分を「誤ったもの」 489である
と結論付けたときは、使用者は当該決定を取り消し 490、公式に謝罪し 491、当該
労働者の名誉とすべての物質的権利利益 492を回復しなければならない(同法典
第九四条)。
2-5 問題点
就業規則の作成手続については、使用者に対して様々な義務が規定されてい
る。すなわち、文書による作成、基礎労働組合に対する事前の意見聴取、必要
的記載事項、関係法規や労働協約の規定水準を下回らないこと、登録の期限、
および労働者に対する周知などである。しかし、その何れが就業規則の効力発
生要件であるかについては明確に規定されていない。
たとえば、就業規則の定める内容が労働協約において合意された労働条件の
水準を下回る場合について、労働法典第四九条第二項後段は「事業体における
労働に関するあらゆる規定は労働協約に符合するように修正されなければなら
ない」と定めている。しかし、前に見た労働契約の場合と異なり、労働法規や
労働協約に違反する規定内容を一定の手続により無効としたり、労働紛争解決
システムにより解決したりする旨の規定は、就業規則については見当たらない。
違法な内容を定める就業規則の処理について規定する政府議定
33/2003/ND-CP(二〇〇三年四月二日)も、省級の労働・傷病兵・労働局が使用
者に対し該当部分を修正、補足して再登録するよう指導 493すべき旨定めるに止
まっている。
労働者の権利確保の観点から、就業規則の効力発生要件を明確にする必要が
ある。
3 労働協約(thoa uoc lao dong tap the)
3-1 経緯と概念
ベトナムにおいては、勅令 29-SL(一九四七年三月一二日)における集合契約
494
制度の規定が労働協約制度に関する最初の規定であったと評価されている 495。
同勅令は集合契約を「経営者またはその代表と工人またはその代表の間の合意
によって各産業、企業または地域における仕事上の規則および一般的な賃金を
決定するために締結する契約」(第三七条)と定義した。また、「労働組合の代
表はその組合員の個別的委任状を得ずとも組合員を代表 496して集合契約を締結
することができる。労働組合が存しない場合は、工人の代表はその代表する各
工人の明確な委任状を有する場合のみ集合契約を締結することができる。使用
者の代表も、その代表する各使用者の委任状を得てはじめて集合契約を締結す
ることができる」
(第三八条)と定めていた。
すなわち、集合契約制度は専ら契約当事者の規模に着目した制度であり、労
働者の団結により獲得されるものという性質は薄かった。集合契約の直接的当
事者は使用者(ら)と労働者らであり、労働組合はその組合員の代表者である
に過ぎなかった。
集合契約制度は、共産主義的な戦時総動員体制の下で公布された臨時条例(政
府評議会 497の議定 172/CP(一九六三年一一月二一日)に付帯して公布)におい
て、集団契約 498制度として引き継がれた。ただし、当時の時局を反映して、集
団契約制度の主眼は軍需産業への労働者の動員、計画経済の下で割り当てられ
た生産計画の完遂におかれた。また、集合契約制度におけるような未組織事業
体での労働協約の締結手続は規定されず、各国営企業の労働組合がその労働者
全体を代表して集団契約を締結することとされた。一九五七年労働組合法によ
り確立されたベトナム労働組合の唯一的、一般的代表性が、労働協約制度につ
いても実現されたわけである 499。
ちなみに、共産主義的な戦時総動員体制下にあったこの段階において、大半
の労働者は労働組合の存する国営企業の労働者であり、敢えて労働組合に加入
しない者は稀であった。また、非組合員についてもその労務の提供について共
通の目的(抗米救国など)を一応措定できた。したがって、労働者の権利と利
益をベトナム労働組合が唯一的、一般的に代表することについて大きな矛盾は
存在しなかった 500。
労働法典の規定する現行の労働協約制度は、基本的にこの集団契約制度を踏
襲するものである 501。すなわち、第一に、その直接的な当事者は使用者と「労
働者集団」 502である。「労働者集団」とは、必ずしも法的な概念ではないが、一
般的に「各生産、経営、サービス単位において常態として勤務する労働者の全
体」の意味で用いられる用語である。つまり、
「労働者集団」には非組合員も含
まれる。第二に、労働協約の締結においては、基礎労働組合が「労働者集団」
を唯一的、一般的に代表する。したがって、その効果もまた「労働者集団」の
全体に及ぶ。
この現行労働協約制度は、
「労働者集団」と使用者の間の権利、義務関係を国
家の法規および当該職場単位の特性、条件などに適合的に具体化させることを
目的として、双方がその代表者を通して協議し締結する集団的な協定である。
労働法典第四四条各項は次のように規定している。すなわち、
「労働協約とは、
503
労働条件 と使用条件、労働関係における双方の権利利益と義務に関する、労
働者集団と使用者との間の合意文書である。労働協約は労働者集団の代表と使
用者により平等および公開の原則にもとづいて協議され、締結される」
(第一項)。
「労働協約の内容は労働法およびその他の法律の規定に反してはならない。国
家は労働法の規定よりも労働者にとって有利な内容を規定する労働協約の締結
を奨励する」(第二項)。
3-2 労働協約制度の適用対象
労働協約制度の適用対象は、自己の計算において活動し、労働者の収入が生
産、経営効果に完全に従属し、かつベトナム国内で一〇名以上のベトナム人労
働者を常用する事業体と、当該事業体の「労働者集団」
(常勤ベトナム人労働者
の全体)との間の労働関係である(「労働協約に関する労働法典の一部条項の細
目を規定し施行を指導する」政府議定 196/CP(一九九四年一二月三一日)第一
条第一項)。
これに対し、国家の行政、事業機関における公務員の労働関係、すなわちそ
の服務に対する給与が国家予算から支弁される各労働関係については、労働協
約制度は適用されない(同条第二項)。
したがって、武装勢力に属する各事業体の労働関係についても原則として労
働協約制度は適用されないが、例外的に労働契約に基づいて労働者を使用する
一部事業体 504とその賃金労働者の労働関係については適用対象とされている。
また、たとえば合作社とその社員の関係についても労働協約制度は適用されな
いが、近年、合作社と労働契約を締結して就労する賃金労働者が増加している
ことに鑑み、右労働関係については労働協約制度を適用することが新たに定め
られた(政府議定 196/CPの一部条項を修正、補足する政府議定 93/2002/ND-CP
(二〇〇二年一一月一一日)) 505。
なお、産業レベルで労働協約を締結することも可能である。ただし、労働法
典は「(労働協約制度は)産業レベルの労働協約の協議と締結にも適用される」
(第五四条)との一文を置くのみである。また、他に具体的な手続を規定する
法規も見当たらない。
3-3 締結手続
① 諸原則
労働法典第四四条第一項は、労働協約の協議、締結について、自発、平等お
よび公開 506の各原則を定めている。
まず、自発原則とは、労働協約の協議、締結を担うべき双方の代表者に対し、
自発的、積極的な参加を求めるものである 507。その実質は、わが国で言う団交
応諾義務、誠実交渉義務を代表者双方について主張するものに他ならない。こ
の原則については、労働法典第四六条第一項が、
「双方は労働協約の締結とその
具体的内容について要求を行う権利を有する。要求を受けた側は、協議の開催
に応諾するとともに、要求書を受領した日から起算して二〇日以内の期日を合
意しなければならない」と具体化している。もっとも、労働組合が協議を拒否
することは一般に想定されていない。したがって、自発原則は専ら使用者に対
して規定されたものと評価されている 508。
つぎに、平等原則とは、労働協約の協議、締結において不当な圧力を用いる
ことを双方に禁じるものである。この原則についても、念頭に置かれているの
は使用者側による労働組合ないし労働者への圧力である。具体的には、経済的
地位の格差を利用した押し付けや要求などである 509。
また、公開原則とは、労働協約の協議、締結の過程を当該協約の労働側当事
者である「労働者集団」に公開することを求めるものである。具体的には、使
用者および労働組合が提出する要求の内容およびその協議の過程を「民知、民
議、民働、民検」510の精神に則って「労働者集団」に公開すべきことが主張され
ている 511。
②
締結事項
労働法典第四六条第二項は、労働協約において締結すべき主な事項として、
①雇用および雇用保障 512、②労働時間、休憩時間 513、③賃金、賞与および諸手
当 514、④ノルマ 515、⑤労働安全、労働衛生 516、および⑥社会保険 517を挙げてい
る。
また、これら各事項は、政府議定 196/CP(一九九四年一二月三一日)第二条
第一項各号において以下のように具体化されている。
①雇用および雇用保障とは、(イ)各雇用保障手段、(ロ)各職種について適
用する労働契約類型、
(ハ)労働契約の終了事由、
(ニ)退職や失業およびレイ・
518
オフ に対する手当、
(ホ)生産方式の変更や技術革新にともなう労働者の職能
向上、再教育プログラム、および(ヘ)臨時配転期間に関する各原則に関する
諸事項である 519(a)。
②労働時間、休憩時間とは、
(イ)一日および一週間あたりの労働時間、
(ロ)
520
シフト 、
(ハ)職種毎の休憩時間、
(ニ)週毎の休日および祝日、
(ホ)年休制
度(帰省などの場合の往復の時間も含む)、(ヘ)その他の各種休暇制度、およ
び(ト)時間外労働に関する諸事項である 521(b)。
③賃金、賞与および諸手当とは、
(イ)事業体における最低賃金額または平均
賃金額(月給、日給または時間給について)
、
(ロ)事業体における賃金表 522、
(ハ)
523
物価スライド、
(ニ)賃金の支払い方法(時間給、出来高給、請負給 など)、
(ホ)
賃金単価の決定と調整に関する原則、(ヘ)昇給に関する原則と条件、(ト)各
種手当、
(チ)毎月の賃金の支払い時期、
(リ)未消化年休の精算、
(ヌ)年休を
利用して帰省した場合の交通費の精算、
(ル)時間外労働に対する割増賃金、お
524
よび(ヲ)賞与(臨時 、月例、年末、品質、利潤)に関する諸事項である 525(c)
。
④ノルマとは、(イ)ノルマの設定、試行、公布および変更の諸原則と方法、
(ロ)事業体における一般的、個別的ノルマ、および(ハ)ノルマ不達成の場
合の処理方法に関する諸事項である 526(d)。
⑤労働安全、労働衛生とは、(イ)労働安全、労働衛生の保障手段、(ロ)労
働者の健康を守るための基準や装置、装備、
(ハ)労働者の健康向上のための物
資の支給、
(ニ)労使条件の改善手段、および(ホ)労働災害、職業病の補償に
関する諸事項である(đ)。
⑥社会保険とは、社会保険制度(保険料の拠出、納付、および保険金の給付)
に関する「労働者集団」と使用者の権利と責任に関する諸事項である(e)。
③
具体的手続(労働組合の役割)
労働法典第四五条第一項a(改正後)の定めるところにより、労働協約の協議
(団体交渉)527における「労働者集団」の代表者は、基礎労働組合執行委員会ま
たは暫定労働組合執行委員会 528(以下、労働組合)である 529。
また、同項b(改正後)の定めるところにより、使用者側の代表者は、事業体
の長、または事業体の組織条例 530の規定もしくは事業体の長の委任状に基づき
委任を受けた者である。
協議の手続については、労働法典のほか、政府議定 196/CP(一九九四年一二
月三一日)および政府議定 93/2002/ND-CP(二〇〇二年一一月一一日)が規定し
ている。また、
「労働協約および労働契約に関する労働組合工作を指導する」ベ
トナム労働総同盟の通知 08/TT-TLD(一九九五年二月一八日)が労働協約の協議
における労働組合の具体的任務を明らかにしている。
協議には、①使用者の労働組合に対する要求に基づく場合、②労働組合の使
用者に対する要求に基づく場合、および③使用者と労働組合の間に予め合意が
あり、これを共同で「労働者集団」に提案する場合がある。
①の場合、協議に先立って、労働組合は使用者の要求内容を研究し、また「労
働者集団」の意見を聴取しなければならない(08/TT-TLD第三章Buoc2-1-c)。②
の場合、労働組合はその要求書の草案につき予め「労働者集団」の意見を聴取
しなければならない。また③の場合、労働組合は使用者と共同で「労働者集団」
の意見を聴取し、その結果を踏まえて改めて使用者に対する要求書を作成しな
ければならない。なお、労働組合は協議に先立って上級労働組合の指導的意見 531
を仰がなければならない(08/TT-TLD第一章Buoc1-5,6)。
要求を受けた側は、協議の開催に応諾するとともに、協議の日時、場所およ
び人数 532 について合意するための事前協議の場を設けなければならない
(196/CP第三条第二項)。なお、前述したように、協議の日時は要求書を受領し
た日から起算して二〇日以内の期日により決定されることを要する。
協議の結果、労働組合と使用者が合意に至ったときは、労働組合はその内容
を「労働者集団」に諮る。投票もしくは署名により「労働者集団」の過半数の
賛成が得られたときは、右内容を労働協約として締結する(196/CP 第三条第四
項)。
上掲 08/TT-TLDの第一章Buoc2-2 各号はこれを次のように具体化している。す
なわち、労働協約の締結につき合意に至ったときは協約案を作成し、労働組合
と使用者が共同で職場大会 533を開催する。大会においては、協約案の条項ごと
に「労働者集団」の投票を行い、採決する。職場大会を開催しないときは、労
働組合が「労働者集団」の署名により同様に採決する(a)。
「労働者集団」の過
半数が賛成したときは、職場大会において労働協約の締結式を行う。締結式に
は関係諸機関の代表を招待し、そのチェックを受けることを要する(b)。
労働協約の締結は、政府の定める統一様式の書面(196/CP 付録)を用いて行
わなければならない。また、
「労働者集団」による投票もしくは署名の結果(総
数、賛成者数、反対者数、否決された条項および比率)は、書面に作成した上
で労働組合の代表者の署名を得なければならない(196/CP 第四条)。
労働協約は四部作成し、使用者および労働組合がそれぞれ一部を保管する(労
働法典第四七条第一項a、b)。また、一部は労働組合が上級労働組合に送付する
(同項c)。そして、一部は登録のため、使用者が労働・傷病兵・社会局に送付
する。右送付は協約の締結の日から起算して一〇日以内に行うことを要する。
また、上述の「労働者集団」による投票または署名の結果に関する書面を添付
しなければならない(同項d、196/CP第五条第一項) 534。
使用者は、労働協約の協議、締結、登録、修正、補足および周知にかかる全
ての経費を負担しなければならない。また、協議、締結に参加する労働組合執
行委員(専従者を除く)の右参加時間に対する賃金も保障しなければならない
(労働法典第五三条)。
なお、労働協約に関する上級労働組合の役割は、本章1-6で労働契約につ
いて見たところと同様である。
3-4 効力
労働法典第四七条第二項は労働協約の効力発生時期を労働・傷病兵・社会局
による登録の日としていた 535。しかし、労働法典の一部改正 536により、協約中
で合意された期日をもって発効することとされた。発効期日について合意のな
い場合は、協約の締結された日に発効する。
同法典第四八条第一項(改正後)の定めるところにより、労働協約はその内
容の一部に違法のあるときは当該部分につき無効となる 537。また、同条第二項
各号の定めるところにより、以下のいずれかの場合はその全部が無効となる。
すなわち、労働協約の内容の全部が法律に違反しているとき(a)、労働協約の
締結者が適正な権限を有しないとき(b)、および締結手続にその他の違反のあ
るとき(c)の各場合である 538。
労働協約は、一年から三年の期限を定めて締結しなければならない。ただし、
はじめて労働協約を締結する事業体については初回のみ一年未満の期限を定め
ることができる(同法典第五〇条前段)。
労働協約が発効した日から起算して六ヶ月(上記の場合により一年未満の有
効期限を定めるときは三ヶ月)を経過してはじめて、労働組合および使用者は
相手方に対し労働協約の修正、補足を要求することができる。修正、補足の手
続は協約の締結手続に準じる(同条後段)。
労働協約の期間満了に先立って、労働組合および使用者は有効期間の延長ま
たは新しい労働協約の締結を協議することができる。右協議が労働協約の期間
満了時においてなお決着しないときは、労働協約は三ヶ月を限度に効力を持続
するが、三ヶ月を経てなお双方が合意に至らないときは自動的に失効する(同
法典第五一条)。
以上のほか、政府議定 93/2002/ND-CP(二〇〇二年一一月一一日)第一条第五
項は、事業体の吸収合併 539により事業体の労働者の過半数が合併された事業体
の労働者で占められることとなった場合は合併された事業体の労働協約が適用
されるべきこと、また、事業体の統一 540や分割、所有権、経営権または財産使
用権の移転があった場合、および吸収合併であって上述の場合にあたらない場
合については、労働組合と使用者は六ヶ月以内に新しい労働協約の締結のため
の協議を行うべきことを規定している。
また、事業体の活動を承継した使用者は、その協約をも承継してこれを実現
しなければならない(労働法典第五二条第二項、第六六条前段)。
3-5 問題点
労働協約制度の問題点としては以下の諸点を指摘することができる。
第一に、労働協約の効力関係、すなわち労働者の権利の実現に関する問題で
ある。労働協約は、建前上、
「労働者集団」と使用者の間の協定である。その締
結にも「労働者集団」の過半数の賛成が必要である。したがって、協約の内容
を労働者個々人の契約内容など具体的な労働条件に反映させることの妥当性に、
たとえばわが国における労働協約の一般的拘束力におけるような理論的な問題
は少ないと言える。しかし、前に労働契約、就業規則の問題点についてそれぞ
れ見たとおり、労働協約は、適法に発効した場合でも当然には「労働者集団」
の労働条件を変更しない。すなわち、労働協約における合意水準を下回る労働
契約については労働監察官による指導と無効の宣言、そして労働紛争解決シス
テムによる解決が定められているのみである。また、就業規則については、省
級の労働・傷病兵・労働局が修正を指導する旨定められているのみである。使
用者が右指導に従わない場合、労働者はやはり労働紛争解決システムにより解
決を図る他ない。
第二に、労働協約の締結過程における「労働者集団」の圧力手段の行使の是
非、すなわち、労働者の利益の獲得方法に関する問題である。労働法典は「労
働者集団」にストライキ権を規定した。しかし、労働協約の締結過程において、
たとえば協議がデッド・ロック 541に陥った場合にスト権を行使できるか否かは
規定上明確でない。少なくとも、労働協約の締結手続に関する法規およびベト
ナム労働組合の内部規定はこれを予定していない。第Ⅳ章で見るとおり、労働
紛争解決システムは権利紛争に加えて利益紛争をも解決対象としている。しか
し、スト権の行使には、事業体内部での調停をはじめとする何段階もの和解、
調停の前置、さらに労働組合による決定と指導が規定されている。事業体内部
での調停が規定されていることから明らかなように、これは労働協約の締結過
程に適用することを前提とするシステムではない。また、本節で見たとおり、
労働協約の締結手続には「労働者集団」に対する労働組合と使用者の共同提案
の場合が規定されている。このことに象徴されるように、ベトナムの労使関係
ルールにおける労働協約制度の実質は、
「使用者および労働組合」と「労働者集
団」の間の協定制度である。したがって、労働協約の締結過程において「労働
者集団」がスト権を行使することは実際上も困難である。ベトナムの労働法学
界も、労働協約に関する労働紛争とは労働協約の不履行ないし、不完全履行に
関する労働紛争であると理解している。
第三に、実際上の問題点として、労働協約の締結率の低迷が指摘されている。
そもそも、労働組合の設立率が低迷しているからである。労働・傷病兵・社会
省に属する科学および各社会問題院 542が二〇〇〇年三月に行った調査によると、
五一.二五%の事業体において、労働組合が未設立であるために労働協約が締
結されていなかった 543。ベトナム労働総同盟執行委員会の二〇〇三年一〇月の
発表によると、労働協約制度の適用対象事業体における二〇〇二年の労働協約
締結率は、国営事業体で八〇%強、外資系事業体で三〇%弱、民間事業体では
一五%強となっている 544。
以上のように、労働協約制度は、その性質上、同制度自体の問題点に加えて、
労働組合の唯一的、一般的代表性、労働紛争解決システムおよびベトナム労働
組合が内包する理論的、現実的な問題点が最もストレートに発現する問題領域
となっている。
なお、労働法典の一部改正 545に際して、ベトナム労働総同盟法律委員会副委
員長(当時)レ・クアン・チエン 546氏は次のような改正を提案していた。第一
に、労働協約の協議がデッド・ロックに陥った場合におけるスト権行使手続の
明文化である。同氏はあわせて労働協約の実現を求めるストライキの禁止を提
案しているから、その本旨はストライキを利益紛争に限るということにあると
思われる。第二に、未組織事業体における、上級労働組合による労働協約の締
結である。当該協約が使用者と「労働者集団」の間の協定であることは変わら
ない。労働協約の締結における基礎労働組合執行委員会ないし暫定労働組合執
行委員会の役割を、上級労働組合が肩代わりするという改正案である。未設立
の事業体については上級組合が当該事業体の「労働者集団」を代表して労働協
約を締結できるようにすべきことを提言していた 547。ただし、いずれも実現し
なかった 548。
表 549
労働協約締結率(単位:%)
1998 年
1999 年
2000 年
2001 年
2002 年
2003 年前期
平均
55
56
59
63
64
67
国家セクター
80
83
85
89
89
91
非国営セクター
12
12.5
14
14.5
15.2
-
外資系セクター
15.4
17
20.5
25.4
29.1
-
ベトナム労働総同盟政策-経済-社会委員会
4 労働保護(bao ho lao dong)
4-1 概念と諸原則
労働保護とは労働者の健康に関する保護のことであり、公民の健康防衛制度
550
の中心的な課題と位置づけられている。一九九二年憲法は、第六一条において
「公民は健康防衛制度を享受する権利を有する(以下略)」と定めるとともに、
第五六条において、労働保護政策および労働保護制度を公布する国家の義務を
定めている 551。労働保護制度とは、労働安全および労働衛生に関する国家の諸
制度、労働災害および職業病を予防するために国家が定める具体的諸規則の総
体である。
労働保護制度は、労働者の健康保護が国民経済全体に対して有する意味の大
きさの観点から、次の二つの原則の下で展開される。
その第一は、国家による統一的管理の原則である。右原則は、労働法典第九
五条第二項により「政府は、労働保護、労働安全および労働衛生に関する国家
計画を立案してこれを経済-社会発展計画および国家予算に組み入れ、科学的
研究に投資し、労働安全、労働衛生および個人の健康防衛手段のための用具、
設備を生産する事業 552の発展を支援し、また、労働安全、労働衛生に関する基
準、規定および規範 553を公布する」と具体化されている。
その第二は、労働関係の当事者双方に対して実現を強制する原則である。す
なわち、あらゆる職場単位において、労働関係の当事者双方は、労働安全、労
働衛生など労働者の健康保護に関する国家の各規定を実現する責任を有する。
また、使用者は労働者の職務に関連を有する労働安全、労働衛生の各規定やそ
の実現方法について労働者を指導し、訓練しなければならない 554。
4-2 基準の設定
国家は、国家レベル、産業レベルまたは基礎レベルでの労働安全、労働衛生
に関する基準を定める。
国家レベルの基準とは、全国レベルで産業横断的に適用される基準である。
政府または政府の委任を受けた国家機関が公布する。適用対象は、経済セクタ
ー、事業規模の大小、労働者の人数、事業主の国籍などにかかわらず、ベトナ
ムの領土上で労働力を使用する全ての職場単位である。
産業レベルおよび基礎レベルの基準は、当該基準が対象とする産業ないし職
場単位 555に適用される基準である。産業レベルの各管理機関が公布する。
以上の基準について、労働法典は使用者に以下の各責任を定めている。すな
わち、使用者は、第一に、「労働安全、労働衛生の観点から厳重な対応を必要と
する各種機械、設備、物資または物質を生産、使用、保管、維持または貯蔵す
るための事業所の新設、拡充または改造に際し、職場および周辺の環境におけ
る適法な労働安全および労働衛生を保障するための各手段の妥当性を論証しな
ければならない 556」(第九六条第一項前段)。第二に、
「職場における、空間、通
気性、照明、ほこり、蒸気、有毒ガス、放射線、磁気、熱、騒音、振動および
その他の危険有害因子が許容基準内であることを保障するとともに、定期的に
右各因子の数値を測定しなければならない」(第九七条)。第三に、機械、設備
の設置場所その他危険性を有する場所には、全ての人から見やすくかつ読みや
すい位置に労働安全、労働衛生に関する専用の掲示板を置かなければならない
(第九八条第二項後段)。そして第四に、労働災害、職業病を惹起する危機が存
する場合は直ちにその危機を克服する措置を講じ、または活動を停止しなけれ
ばならない(第九九条第一項)。
また、労働者については、労働安全、労働衛生に関する規定を遵守し、労働
保護のために提供された設備、用具を保持、使用するなどの責任を定めている
(第九五条第一項など)。
労働保護に関する各法規の規定は強制的な規範である。労働関係の当事者双
方はこれと異なる合意をなすことができない。
4-3 各労働保護制度
国家は、危険、有害または特殊な労働条件において就労する労働者を保護す
るために、危険有害手当、夜間勤務手当などの各手当制度や、短縮労働時間制
度のほか、以下のような労働保護制度を定めている。
第一は、安全装備 557の提供に関する制度である。使用者は、危険、有害な職
場で働く労働者に対して、労働災害、職業病を予防するための用具、装備を支
給しなければならない。具体的な用具、装備の内容と品質は国家によって規格
化される。使用者は右規格を満たさない用具、装備の支給により発生した結果
に責任を負わなければならない。また、特に高い安全性が要求される物品、た
とえば、ガスマスク、命綱、手袋、ゴム長靴、絶縁マットなどに関しては定期
的にその品質を検査しなければならない。
第二は、健康診断 558制度である。使用者は、職種毎に規定される健康基準に
基づいて労働者を配置しなければならない(労働法典第一〇二条前段)。また、
労働者の雇用前、さらに雇用後は定期的に、労働者の健康診断を実施しなけれ
ばならない(同条後段)。各職業分野における定期健康診断のスパンは厚生省の
規定するところによる。労働者が労働災害に遭い、または職業病に罹患したと
きは、使用者は周到な治療および定期検診を受けさせなければならない(同法
典第一〇五条後段、第一〇六条後段)
。以上の各事項にかかる経費は、全額使用
者の負担となる(同法典第一〇二条後段、第一〇七条第二項)。
第三は、作業後の衛生措置および健康増進のための現物の提供に関する制度
である。使用者は、有害物質やばい菌で汚染された職場で働く労働者に対して、
その就労時間後に消毒、除去、洗浄などの各手段を提供しなければならない(同
法典第一〇四条後段)。また、危険、有害な作業に従事する労働者には、当該作
業の危険性、有害性の程度に応じて健康増進 559のための現物 560を提供しなけれ
ばならない(同条条前段)。現物とは、労働者の健康の回復に貢献し、抵抗力を
増し、身体に取り込まれた有害物質の作用を減少し、または有害物質の迅速な
除去を助けるための、食品、果物、清涼飲料水などを指す。
第四は、特定の労働者に対する保護制度である。国家は、女性、未成年者、
高齢者および身障者について、以下のような労働者保護制度を定めている。
まず、女性者については、労働関係における男女の平等が規定されている一
方で、女性の心理的、生理的特色に鑑み、その健康、身体機能および子供の養
育機会を保護するための各規定がおかれている。具体的には、①子の出産、養
育に悪影響を与えるおそれのある危険、有害な職種(労働法典第一一三条第一
項前段)および常態として潜水し、または地下鉱山に入る職種(同項後段)に
おける女性労働者の使用の禁止、②妊娠七ヶ月以上の女性労働者、生後満一二
ヶ月未満の子を養育する女性労働者の時間外、夜間または遠隔地における使用
の禁止(同法典第一一五条第一項)、③妊娠七ヶ月以上の女性労働者に対する賃
金の減少を伴わない労働時間の短縮(一日につき一時間)または職務の軽減(同
条第二項)、および④月経期間中の女性労働者または生後満一二ヶ月未満の子を
養育する女性労働者に対する有給の休憩(一日につきそれぞれ三〇分、六〇分。
同条第三項)が規定されている。
つぎに、未成年労働者については、満一五歳を原則的下限として 561労働関係
への参加(被用者として)が認められている一方で、①未成年者の体力、知力
および人格 562の健全な発達にとって有害な各職種における未成年者の使用の禁
止(同法典第一二一条)563、②未成年労働者に対する短縮労働時間(一日七時間
以内、一週間四二時間以内)の適用(同法典第一二二条第一項)
、③夜間、時間
564
外労働の原則的禁止 (同条第二項)などが規定されている。
また、標準定年年齢を超えた高齢者、すなわち六〇歳超の男性労働者および
五五歳超の女性労働者 565については、困難、危険な職種および高齢者の健康に
悪影響を及ぼす有害物質を取り扱う職種での使用が禁止されている(同法典第
一二四条第三項)。
さらに、身障者については、①減税措置などの雇用奨励措置(同法典第一二
五条第二項など)、②一定の割合における雇用義務(同条第三項)、③短縮労働
時間(一週間四二時間以内)の適用(同条第四項)、④労働能力の五一%以上を
喪失した労働者の夜間、時間外における使用の禁止(同法典第一二七条第二項)、
および⑤困難、危険な職種または有害物質を取り扱う職種 566における使用の禁
止(同条第三項)が規定されている。
4-4 労働組合の役割
労働者保護に関し、労働組合は以下の任務と権限を有する 567。
第一に、
「ベトナム労働総同盟は、労働保護、労働安全、労働衛生に関する国
家プログラム 568の策定 569、科学的研究プログラムの策定、および労働保護、労
働安全、労働衛生に関する法律の整備 570について政府に参加する 571」
(労働法典
第九五条第三項。労働組合法第六条第一項も同旨)
。また厚生省および労働・傷
病兵・社会省は、職業病のリストの公布に先立ってベトナム労働総同盟(およ
び使用者の代表)の意見を聴取しなければならない(労働法典第一〇六条前段)。
第二に、
「労働組合は、労働者を教育し、働きかけて 572、労働者保護および職
場環境の防衛 573に関する各規定を厳正に執行させる責任を有する」
(労働組合法
第六条第二項)。
第三に、労働組合は、各職場単位における労働者保護関係法規の実現状況を
検査し、労働者の生命に対する危険の徴候を発見したときは当該単位の責任者
に対して活動の一時中止を含む安全性の確保措置を要求する権限 574 を有する
(同条第三項)。また、労働災害事故の調査に際しては労働組合の代表者の参加
を得るべきこと、および、労働組合は国家機関または裁判所に対して労働災害
の発生にかかる責任者の処分を要求する権限を有することが定められている
(同条第四項)。
そして第四に、基礎労働組合執行委員会または暫定労働組合執行委員会は、
労働安全基準、労働衛生基準の実現方法などにつき、使用者との間に労働協約
を締結する。
5 社会保険(bao hiem xa hoi)
5-1 基本的構造と諸原則
①基本的構造
社会保険は、労働者の疾病、労働災害、職業病、妊娠出産、定年および死亡
に際して、労働者自身およびその家族の生活の安定を確保するために国家が統
一的に管理、運営する強制的保険類型である。
社会保険関係は、保険者 575、保険参加者 576、および被保険者 577の三者で構成
される。
保険者は、ベトナム社会保険 578(国が設置する社会保険機関)の長である。
ベトナム社会保険は、財政省、労働・傷病兵・社会省、厚生省およびベトナム
労働総同盟の代表者とベトナム社会保険の長で構成されるベトナム社会保険管
理評議会 579の管理下で社会保険業務を行う。
保険参加者とは、社会保険料など保険財源の拠出者を指す。具体的には、使
用者、労働者および国家である。使用者は労働者に支払う賃金総額の一五%、
労働者は賃金の五%を保険料として納付する。国家は保険財源や給付水準の実
質的価値を保全するなど必要な財政的援助を行う(労働法典第一四九条第一項
各号)。
被保険者は、三ヶ月以上の期間を定める労働契約または期間の定めのない労
働契約に基づいて就労する労働者、および法律の定める各条件を満たすその家
族である(同法典第一四一条第一項)。三ヶ月未満の期間を定める労働契約に基
づいて就労する労働者は強制適用の対象から除外されているが、任意加入も可
能である。右労働者が任意加入しないときは、使用者は右労働者が加入した場
合に使用者が負担すべき保険料に相当する金額をその賃金に上乗せして支払わ
なければならない(同条第二項)。
社会保険に関する紛争のうち、使用者と労働者の間における紛争は労働紛争
解決システムにより解決される(同法典第一五一条第二項a)。労働者が退職し
ている場合 580、および社会保険機関と労働者または使用者の間における紛争は
双方の合意した方法により解決される。双方が合意できないときは人民裁判所
により解決される(同項b)。
②
諸原則
社会保険は国民総生産 581の分配形式のひとつとされ、労働者(被保険者。以
下同じ)各人の社会に対する貢献度(供出した労働力とその成果)に応じた分
配を原則とする。貢献度は、労働者が納付した保険料の総額およびその期間に
基づいて評価される。右貢献度に応じて具体的な保険給付水準および給付期間
が決定される。
ただし、例外も多い。たとえば、後述するように死亡恤救制度において労働
者の遺族が受給する各手当の金額や受給期間は一律であり、労働者が納付した
社会保険料の総額や期間とは基本的に無関係である。また、妊娠出産手当制度
の給付対象は原則的に女性労働者に限られている。このように、被保険者は一
律五%の社会保険料を負担しているからといって、必ずしも社会保険制度の全
てを享受できるわけではない。
なお、社会保険の給付水準は、国家が最低生活水準、最低賃金額などに基づ
いて規定、変更する最低給付額を下回ってはならないと同時に、労働者の生活
上の困難、不幸による収入の喪失、減少または突発的な支出の増加を補填する
ための金銭給付という社会保険給付の基本的性質から、原則として当該労働者
の従前の所得を上回るものであってはならないとされている 582。
5-2 各社会保険制度
現行の各社会保険制度の詳細については、労働法典第一二章および社会保険
条例(政府議定 12/CP(一九九五年一月二六日)に付帯して公布)などが定めて
いる 583。現行制度の内訳は、①疾病手当制度 584、②労働災害、職業病手当制度
585
、③妊娠出産手当制度 586、④退職(年金)制度 587、および⑤死亡恤救制度 588で
ある。以下、右各制度の概要について簡単に紹介する。なお、広義の社会保険
制度には私傷病の治療費などをカバーする医療保険制度 589も含まれる。同制度
も強制加入であり労使それぞれについて保険料の納付が義務づけられているが、
本稿では取り上げない。
①疾病手当制度は、私傷病による休職を対象とする制度である。労働者(被
保険者。以下同じ)が労働災害または職業病以外の怪我または疾病のため医師 590
の証明書を得て休職する場合に、社会保険財源から疾病手当が給付される(労
働法典第一四二条第二項)。ただし、自傷、喧嘩、酒酔い、麻薬の使用などに起
因する怪我または疾病のために休職する場合は給付されない(社会保険条例第
六条後段)。満七歳以下の第一子および第二子(合法的な養子を含む)の怪我ま
たは疾病のために女性労働者、一定の場合においては男性労働者 591が休職する
場合にも給付される(同条例第八条第一項)
。給付額は休職時の賃金の七五%で
ある。給付期間は労働者の職種および社会保険料の納付期間に基づいて決定さ
れる。たとえば、通常の職種で社会保険料の納付期間が三〇年以上の場合は年
間五〇日以内となる(同条例第七条各項)。
②労働災害、職業病手当制度は、労働災害または職業病による労働能力の減
衰を対象とする制度である。労働災害とは、原則として労務の提供に密接に関
連して発生し、労働者の健康または生命、もしくは身体のいずれの部分ないし
機能に影響を及ぼす災害であり、かつ就業時間中に就業場所において、または
通勤の道程において発生するものを言う(同条例第一五条)
。ただし、人命の救
助や国家、人民の財産の救出に起因する災害など、労務の提供とは無関係でも
労働災害とみなされる場合がある 592。また職業病とは、健康に対して有害な要
素を有する「労働条件」593の下で継続的に就労したことにより労働者が罹患する
疾病である 594。厚生省および労働・傷病兵・社会省がその具体的なリストを作
成する(同条例第二四条)。
労働災害または職業病による休職期間中の賃金および治療に要した費用は全
額使用者の負担となる。労働災害、職業病手当制度は右の各費用をカバーしな
い(労働法典第一〇七条第二項、第一四三条第一項前段)。治療期間を経て傷病
が固定したときは、労働者は所轄の医学鑑定評議会 595において労働能力の減衰
の程度に関する等級分類を受ける。右等級に基づいて、社会保険財源から一回
性または毎月の労働災害、職業病手当が給付される。(同項後段)。労働災害、
職業病により労働者が死亡したときは、遺族に対して社会保険財源から最低賃
金の二四ヶ月分に相当する一回性の手当が給付される(同法典第一四三条第二
項)。
③妊娠出産手当制度は、妊娠、およびそのための休職を対象とする制度であ
る。労働者の妊娠、出産にあたって政府が規定する標準的妊娠出産休暇期間に
一ヶ月を加えた期間の賃金相当額が社会保険財源から給付される。標準的妊娠
出産休暇期間は、
「労働条件」 596、業務の危険性および有害性の程度、自宅から
職場までの距離などに基づいて四ヶ月から六ヶ月の範囲で政府が規定する。多
胎の場合は二人目以上一人につき三〇日が加算される(同法典第一四四条第一
項など)。また、妊娠期間中の受診休暇制度もあり、一回一日、計三回を有給で
通院できる。使用者は右通院時間について賃金を支払わなければならない。
④退職(年金)制度は、労働者の退職を対象とする制度である。保険料を一
五年以上納付した労働者が、男性は満六〇歳、女性は満五五歳の定年年齢に至
って退職した場合に適用される。給付月額は、最低賃金額以上、平均賃金額の
七五%以下の範囲内で、保険料の納付期間および同期間中の平均賃金額に基づ
き決定される。すなわち、納付一五年で平均賃金額の四五%が給付され、一六
年目以降一年につき男性は平均賃金額の二%、女性は三%ずつ、三〇%を限度
に増額される。保険料納付期間が一五年に満たない場合は納付一年につき平均
賃金一ヶ月分の退職手当が給付される。この他、退職一時金制度がある。給付
額は平均賃金五ヶ月分を上限として保険料納付期間に基づき決定される(「社会
保険条例の一部条項の修正、補足に関する」政府議定 01/2003/ND-CP(二〇〇三
年一月九日)など)。
⑤死亡恤救制度は、労働者(労働契約関係の終了後において社会保険給付を
受けている者および待機中の者を含む)が死亡した場合を対象とする制度であ
る。葬祭手当制度 597および恤救手当制度 598により構成されている。
葬祭手当制度は、死亡した労働者の葬祭費用を援助する制度である。喪主に
対して最低賃金額の八ヶ月分が給付される(労働法典第一四六条第一項、社会
保険条例第三一条)。また、恤救手当制度は、労働災害に被災し、または職業病
に罹患した労働者、一五年以上社会保険料を納付した労働者、または毎月払い
の形式により退職年金制度もしくは労働災害、職業病手当制度を享受していた
労働者が死亡した場合に、その一定の遺族に対して毎月払いの形式により手当
を給付する制度である。給付対象となる遺族は、労働者が直接扶養していた満
一五歳未満の子、配偶者または定年年齢を過ぎた父母である。
(労働法典第一四
六条第二項)。恤救手当制度の給付水準は、受給者各人につき最低賃金額の四
〇%、他に収入のない場合は同七〇%である。
(社会保険条例第三三条第一項)。
ただし、その人数は四名を限度とされている(同条第二項)。
5-3 労働組合の役割
現行社会保険制度の施行以前、政府議定 43/CP(一九九三年六月二二日)が定
めた暫定社会保険制度、すなわち疾病手当制度、労働災害、職業病手当制度お
よび妊娠出産手当制度の運用にあたっては、使用者負担分の社会保険料(賃金
総額の五%)は各級労働組合組織が徴収し 599、ベトナム労働総同盟がこれを管
理していた 600。しかし、一九九五年一月の政府議定 12/CP(社会保険条例)後、
同年二月にはベトナム社会保険が設置され(政府議定 19/CP)
、社会保険財源に
関するベトナム労働組合の上記役割についても同年七月をもってベトナム社会
保険に引き継がれることとなった(財政省通達 58/TC/HCSN)。
現行制度におけるベトナム労働組合の活動内容については、労働組合法が、
「労働組合は各社会政策の策定に参加し、法律の規定するところにしたがって
社会保険を管理する国家機関に参加する 601」と規定し(第八条第一項)、また、
各級労働組合について社会保険に関する法律の実現状況について単独または関
係機関との協力により検査を行う権利を定めている(同法第一二条)。
ベトナム労働組合の内部においては、
「社会保険工作に関する労働組合の活動
を指導する」ベトナム労働総同盟の通知 99/TLD(一九九六年七月二日)が、
「社
602
会保険は党と国家の大規模な社会政策であり、労働者 の利益を防衛、配慮す
る労働組合の活動の重要な内容のひとつである」
(同付記)との立場から社会保
険制度に関する各級労働組合の活動内容を大要以下のように具体化している。
①
基礎労働組合、暫定労働組合
社会保険制度に関する基礎労働組合および暫定労働組合の活動内容について
は以下の各事項が規定されている。すなわち、①社会保険に関連する制度、政
策および社会保険工作に関する上級組合の指導 603の研究、理解、②労働者に対
する社会保険制度の宣伝、周知、③労働者が労働契約、労働協約(意見参加)
により関係事項を合意し、また社会保険制度を享受するための書類を作成する
場合における指導 604、援助、④職場単位 605における社会保険制度の実現状況の
労使双方に対する検査、監視、および各関係制度、政策の実現の要求、⑤使用
者または社会保険機関に対する労働者の申請、申立の解決の要求、および社会
保険に関する労働紛争の解決のための基礎調停協議会への参加、⑥疾病、妊娠
出産、労働災害または職業病により休職もしくは死亡した労働者に対する見舞
または弔問 606、⑦使用者との協力による 607必要書類の作成および職場単位にお
ける運用上の不備の解決、⑧福利厚生基金による毎年の避暑、保養旅行の使用
者に対する提案 608、⑨職場単位における社会保険工作の責任者となるための指
導的同志 609一名の選出、そして⑩上級労働組合、所轄国家機関に対する関係制
度、政策の改善のための研究の建議、および上級労働組合に対する定期的また
は随時の報告である(99/TLD-Ⅰ)。
②
県級労働組合
県級労働組合 610の活動内容については以下の各事項が規定されている。すな
わち、①単独または同級の政権との協力による 611労働者に対する社会保険制度
の宣伝、周知、および直属の下級労働組合の幹部に対する訓練の実施、②基礎
労働組合に対する社会保険工作の指導 612、③単独もしくは同級の政権との協力
による、使用者における社会保険制度の実施状況の検査、④社会保険制度、政
策の実現過程における労働者の申請、申立に対する回答 613および同級の政権と
の協力による解決、⑤各職場単位における社会保険制度の実現状況の把握、お
よび労使双方の希望を社会保険制度の改善に反映するための情報ネットワーク
の組織、⑥各職場単位に対する、労働者の生活に配慮する 614活動の提案、およ
び同級の政権との協力による、右活動のための条件の整備と奨励、そして⑦労
働組合の社会保険工作に関する定期的評価および上級労働組合への報告である
(99/TLD-Ⅱ)。
③
省級労働同盟
省級労働同盟の活動内容については以下の各事項が規定されている。すなわ
ち、①社会保険に関連する制度、政策および社会保険工作に関する上級労働組
合の指導 615の研究、理解、②単独または同級の政権との協力による当該地方の
労働者および使用者に対する社会保険政策の宣伝、および右政策、ベトナム労
働総同盟の指導内容に関する労働組合幹部の訓練、③単独または各検査団への
協力ないし参加 616による、省または中央直属市の社会保険参加者における社会
保険制度の実現の監視、評価および所轄機関に対する意見の提出、④社会保険
制度に関する労働者の質問への回答、および社会保険政策の実現過程における
労働者からの申請、申立に関する関係単位 617との共同 618解決、⑤省医学鑑定評
議会 619、省労働仲裁協議会への参加 620、および社会保険制度、政策に関する労
働者の権利の侵害を解決するための法廷への参加 621、⑥省社会保険機関 622の活
動に対する労働組合の検査、監視 623の具体的方法に関する同機関の長 624との意
見統一、および省社会保険機関に対する申請 625の解決の建議、そして⑦現場に
おける問題状況を定期的にベトナム労働総同盟に報告するための職場単位レベ
ルとの通信、報告システムの構築である(99/TLD-Ⅲ)。
④
中央産業別労働組合
中央産業別労働組合の活動内容については以下の各事項が規定されている。
すなわち、①労働者に対する社会保険制度の宣伝、周知、②下級労働組合の訓
練、③労働総同盟の指導 626に基づく下級労働組合の指導 627、④社会保険に関連
する制度、政策の理解、右制度、政策との関連における当該産業およびその「労
働条件」628の特殊性の研究、および右制度の労働者のための運用に関する下級労
働組合の検査、監視活動の指導 629、⑤省、部門 630との共同による 631福利厚生基
金の使用に関する事業体および基礎労働組合の統一的指導 632、⑥単独もしくは
省、部門の専門機関との協力による 633各事業体における社会保険制度、政策の
実現状況の検査、およびベトナム労働総同盟に対する当該産業の特殊性の観点
に立った制度改正の建議、⑦省級労働同盟による当該地方における申請、申立
の解決に対する協力 634の解決、そして⑧当該産業における社会保険制度の実現
状況の労働総同盟に対する定期的な報告である(99/TLD-Ⅳなど)。
⑤
ベトナム労働総同盟
ベトナム労働総同盟の活動内容については以下の各事項が規定されている。
すなわち、①全国における労働組合の活動の領導、指導 635、②社会保険の実現
過程における諸問題について労働者、各級労働組合から寄せられた建議の総合、
および社会保険制度、政策などに関する国家への建議、③単独もしくは労働・
傷病兵・社会省など関連各省、部門との協力による 636社会保険制度、政策の実
現状況の検査、監視、④労働総同盟検査委員会 637の活動として、社会保険に関
する労働者からの申請、申立の解決または解決への参加 638、⑤ベトナム社会保
健管理評議会および中央医学鑑定評議会 639への参加 640、そして⑥社会保険制度、
政策の実現状況、労働者の希望および労働組合の社会保険工作に関する毎年の
総括 641である(99/TLD-Ⅴ)。
5-4 問題点
社会保険制度の適用を免れるために使用者が正式な労働契約を締結せず、ま
たは三ヶ月未満の期間を定める契約の締結に固執する傾向が特に非国営セクタ
ーにおいて顕著である。ベトナム社会保険の発表によると、二〇〇三年時点で
ベトナムにおいて活動する約五万の非国営事業体(一九九五年の二〇〇倍)の
うち、社会保険に加入しているものはわずか七〇〇〇事業体に止まっている 642。
また、やはり非国営セクターを中心として、使用者が労働者負担分の保険料
をその賃金から控除しておきながら滞納し、労働者が社会保険制度を享受でき
ないケースが多発している。上出のベトナム社会保険の発表によると、二〇〇
二年における非国営セクター事業体の社会保険料滞納総額は約三三〇億ドンで
あった 643。
表 644
社会保険料、医療保険料の納付状況(単位:人)
1998 年
1999 年
2000 年
2001 年
2002 年
2003 年前期
社会 3,228,100 3,744,100 3,812,700 4,475,925 4,731,721
5,126,640
医療 6,069,000 6,854,000 7,206,000 7,552,000 9,124,000 92,000,000
ベトナム労働総同盟政策-経済-社会委員会
6 労働契約の終了(cham dut hop dong lao dong)
6-1 合法的な終了
労働法典第三六条各項の定めるところにより、労働契約は以下の各場合にお
いて当然に終了する。すなわち、①契約期間が満了したとき(第一項、第二項)、
②当事者双方が合意したとき(第三項)、③労働者について懲役刑の判決が確定
したとき 645、または裁判所の決定により従前の仕事に就くことを禁止されたと
き(第四項)、および④労働者が死亡したとき、または裁判所により失踪を宣告
されたとき(第五項)の各場合である。
また、労働法典は、上記以外の合法的な労働契約終了方法として当事者双方
の解約予告手続を定めている。
すなわち、労働者は、期間の定めのない労働契約については四五日前の予告
により合法的に解約することができる。傷病の治療期間が六ヶ月に及んでなお
労働能力が回復されない場合は三日前の予告で足りる(第三七条第三項)646。ま
た、期間の定めのある労働契約についても、労働者は以下の各場合において予
告により解約することができる。すなわち、①契約で合意した業務、職場に配
置されず、あるいは契約で合意した労使条件 647が保障されないとき(同条第一
項a)
、②賃金が契約で合意した金額または期限により支払われないとき(同項b)
648
、③虐待され、または労働を強制されたとき(同項c)
、④本人もしくはその家
族の事情により契約の実現を継続できなくなったとき(同項d) 649、⑤民選機関
の専従職に選出されたとき 650、もしくは国家機構の公務に任命されたとき 651(同
項đ)、⑥妊娠中であり、医師の指示によるとき(同項e)、および⑦傷病の治療
期間が三ヶ月に及んでなお労働能力が回復されないとき労働能力が回復されな
いとき(同項g) 652の各場合である。右各場合の解約予告期間は、①、②、③お
よび⑦については三日(同条第二項a)、④および⑤については一年未満の契約
であれば三日、一年以上の契約であれば三〇日(同項b)である。⑥については
医師の診断による(同項c、同法典第一一二条)。
また、使用者は、以下の各場合において予告により労働契約を解約すること
ができる。すなわち、①労働者が一貫して契約にしたがった労務の提供を行わ
ないとき(第三八条第一項a) 653、②労働者を懲戒解雇するとき(同項b)、③労
働者の傷病の治療期間が、期間の定めのない労働契約について一二ヶ月、一年
以上の期間を定める労働契約について六ヶ月、一年未満の期間を定める労働契
約について当該契約期間の半分に及び、なおその労働能力が回復しないとき(同
項c)、④天災、火災その他政府の定める不可抗力による場合であって、使用者
があらゆる対策を講じたが、なお生産を縮小し、または事業場を減少させざる
を得ないとき(同項d)、および⑤使用者たる事業体、機関または組織がその活
動を終了したとき(同項đ)の各場合である。ただし、労働者が法定の各有給休
暇または使用者が自ら許可した休暇を取得している期間中は労働契約を解約す
ることができない(第三九条各項)。使用者の解約予告期間は、期間の定めのな
い労働契約については四五日(第三八条第三項a)、一年以上の期間を定める労
働契約については三〇日(同項b)、一年未満の期間を定める労働契約について
は三日(同項c)である。
なお、以上の各解約予告は、その予告した契約終了期日の前であればいつで
も取り消すことができる(第四〇条)。
6-2 非合法的な終了
労働法典は、労働契約が非合法的に解約された場合の処理方法についても規
定している。使用者に明確な解雇意思がある場合に復職を強制することの非合
理性の観点から 654金銭賠償による解決方法を明定していること、同様に労働者
による非合法的な退職に対しても金銭賠償を定めていることが特徴である。
まず、使用者による非合法的な解雇の場合については、使用者は労働者を原
職に復帰させるとともに、使用者の右行為のために労働者が就労できなかった
期間の賃金および手当に相当する金額を賠償しなければならない。ただし、右
賠償額は当該労働者の賃金および手当の二ヶ月分を下回ってはならない。労働
者が復職を希望しないときは、上記賠償に加えて退職手当(一二ヶ月以上勤続
で一年につき賃金および手当の半月分。第四二条第一項)を支給しなければな
らない。なお、労働法典の一部改正 655により、労働者の復職を望まない使用者
は、上記賃金、手当に関する賠償および退職手当の支払いに加えて双方の合意
による賠償金を労働者に支払うことで解決できる旨の規定が加えられた(第四
一条第一項)。
つぎに、労働者による非合法的な退職の場合については、労働者は退職手当
を享受することができず、さらにその賃金および手当の半月分およびその訓練
656
にかかった経費(政府が規定するところによる)を使用者に対して賠償しなけ
ればならない(同条第二項 657、第三項)。
また、前述の予告期間に違反した側は、相手方に対して違反した日数の賃金
に相当する金額を賠償しなければならない。ただし、わが国における解雇予告
手当制度とは異なり、使用者に対して解雇予告期間を短縮するための手段を定
める趣旨ではない。
6-3 整理解雇
以上で見た労働契約の終了に関する一連の規定とは別に、労働法典第一七条
は、事業のリストラや技術革新 658により労働者の仕事が無くなった場合につい
て規定している。使用者は、勤続一二ヶ月以上の労働者について、新しい仕事
への配置により解雇を回避するための再訓練を施さなければならない。また、
新しい仕事を準備できず右労働者を解雇せざるを得ないときは、勤続一年につ
き一ヶ月分の賃金額に相当する失業手当 659を支給しなければならない。ただし、
最低でも二ヶ月分以上支給することを要する(第一項)。
6-4
精算、労働者手帳の返却
使用者および労働者は、労働契約が終了した日から起算して七日以内、特別
な理由のある場合でも三〇日以内に双方の債権および債務を精算しなければな
らない。
事業体が破産した場合の労働者の債権の精算については、事業体破産法(一
九九四年一月一〇日) 660の規定するところによる。
労働契約の終了に際して、使用者はその理由を労働者手帳 661に記入し、これ
を労働者に返却しなければならない。ただし、規定の記載事項のほか労働者の
再就職の障害となるようないかなる事柄も書き加えてはならない(労働法典第
四三条)。
6-5 労働組合の役割
労働者との合意によらない解雇は、原則として労働組合による合意を得た上
で行わなければならない。すなわち、天災、火災などの不可抗力による場合お
よび事業体などがその活動を終了した場合をのぞき、使用者は、基礎労働組合
執行委員会と協議し 662、合意にいたって 663はじめて労働者を一方的に解雇する
ことができる。右協議が合意にいたらないときは、双方は当該地方の労働に関
する国家管理機関にその旨報告しなければならない。右報告を行った日から起
算して三〇日を経てはじめて使用者は労働者の解雇を決定することができるが、
「その決定に責任を負わなければならない」664。使用者による右決定に同意しな
いときは、基礎労働組合執行委員会および労働者は労働紛争解決手続による解
決を要求する権利を有する(労働法典第三八条第二項)
。整理解雇手続による大
量解雇の場合も上記手続による(同法典第一七条第二項)。
なお、未組織事業体に関する取り扱いについては規定がないが、これは未組
織事業体においては労働者を一方的に解雇できないという趣旨ではない。実際
にも普遍的に行われている。
6-6 問題点
労働関係の終了に関する諸規定は、わが国と比較しても労働者の保護に厚い
ものと評価することができる。しかし、そもそも労働契約の締結率が低迷して
いることはすでに見たとおりである。労働・傷病兵・社会省は、この保護の厚
さが使用者における労働契約の締結の忌避、期間の定めのある契約への固執の
一因になっていると分析している(もっとも、それ故に保護を弱めるべきと考
えているわけではない) 665。
また、特に労働組合の役割に関して次の問題点が指摘できる。すなわち、前
出の労働法典第三八条第二項の規定するところによれば、基礎労働組合執行委
員会が労働者の解雇について使用者と合意した場合、使用者は当該解雇につい
て「責任」を負わないことになる。これは、解雇された労働者がもはや使用者
に対して当該解雇の効力を争い得なくなるということに他ならない。労働組合
が労働者の権利を十分に代表しなかった場合において労働者の権利が未組織
の職場単位におけるよりも決定的に損なわれることになる典型例と言える。
Ⅳ 労働紛争解決システムと労働組合
1 経緯と概念
1-1 労働紛争解決システムの経緯 666
ホー・チ・ミン主席の指導の下、ベトナム民主共和国はその成立の直後から
労働法の整備に力を入れた。労働に関する重要な勅令が矢継ぎ早に公布された。
また裁判システムも構築された(労働事案は民事事案の一類型とされ、独自の
解決システムは構築されなかった)。しかし、フランスによる再侵略が始まり、
ベトナムはこれらの制度をほとんど適用することなく共産主義的な戦時態勢へ
と移行した。
一九五四年頃から一九八四年頃までは、国営経済および国家の所有にかかる
集団経済を柱とするこの段階の経済的な特色のゆえに、また、働く人民の集団
的主人制度 667の観点から、国家は労働紛争の存在を否定した。労働に関するあ
らゆる紛争は「労働における不一致」 668と呼ばれ、行政機関により解決された。
しかし、その効果は高くなかった。
一九八五年一月一四日、閣僚評議会(今日の政府)は、所轄機関において解
決に至らなかった数類型の「労働における紛争」を人民裁判所に審理させる決
定QD10/HDBTを公布した 669。最高人民裁判所、最高人民検察院、司法省、労働省
(後の労働・傷病兵・社会省)および職業教育総局は、右決定の施行のために
人民裁判所による「労働における紛争」の解決を具体的に指導する連名通達
02/TT-LN(一九八五年一〇月二日)を公布した 670。
一九九〇年八月三〇日、現行労働法典の基礎となる労働契約法令が公布され
た。また、一九九二年五月一二日、右法令の細目を規定する閣僚評議会の議定
ND165/HDBTが公布された。これが、個別的労働紛争 671に関する現行労働紛争解
決システムの原型となった 672。さらに、同年六月二三日には集団的労働紛争 673に
ついて初めて規定する政府議定 18/CPが公布された 674。また、この間、閣僚評議
会は「各外資系事業体に対する労働規制」、労働・傷病兵・社会省は通達
19/LDTBXH-TT(一九九〇年一二月三一日)を公布し、外資系事業体における労
働紛争の解決手続を規定した 675。
なお、QD10/HDBT以降労働法典の公布までに構築された人民裁判所における労
働紛争解決システム(和解および訴訟。以下同じ)は基本的には民事事案の解
決手続と同様のものであったが 676、実際には労働紛争の大半が引き続き行政機
関により解決されていた。当時の人民裁判所は労働紛争の解決について十分な
経験を有しておらず、使用者、労働者双方も人民裁判所における労働紛争解決
システムをよく理解していなかったため、人民裁判所における労働紛争解決シ
ステムはあまり機能しなかった。
表 677
人民裁判所が解決した労働紛争の件数(すべて個別的労働紛争)
年
総件数
解雇に関するもの
損害賠償に関するもの
1987
408 件
300 件
108 件
1988
313 件
226 件
87 件
1989
142 件
115 件
27 件
1990
108 件
85 件
23 件
1991
34 件
24 件
10 件
1992
46 件
25 件
21 件
1993
41 件
25 件
16 件
出典不祥
1-2 労働紛争の概念
① 労働紛争(tranh chap lao dong)
労働法典第一五七条第一項は、労働紛争を「雇用、賃金、収入 678およびその
他の労使条件に関連を有する権利と利益 679、労働契約の実現、労働協約、およ
び職業学習 680の過程に関する紛争である」と規定している。
ベトナムの労働法学界における説明は概ね以下の内容で一致している。
すなわち、労働紛争とは、労働法典第一五七条第一項の掲げる諸事項につい
て労働契約関係の当事者間に発生した主張や要求の不一致につき、当事者の一
方または双方が自主的解決のための協議を拒否した場合、または協議したが解
決できなかった場合において、当事者の一方または双方が所轄の解決機関、組
織に自己の権利利益の擁護を要求した事態ないしその内容を指す 681。ただし、
労働契約関係の当事者間における紛争であっても、上記以外のもの 682は労働紛
争に当たらない。また、法は労働紛争を個別的労働紛争および集団的労働紛争
の二種類に分けて規定しているが、これは、もっぱら当該紛争に参加 683する双
方当事者の人数 684の観点、すなわち当該紛争が労働者およびその家族、使用者、
ひいては地域や国家の政治的、経済的安定に及ぼす影響の観点から行われた分
類である、と説明されている 685。
つまり、集団的労働紛争は、労働者の団結を通じたより良い労働条件の獲得
ではなく、政治、経済に影響する大規模な労働紛争のコントロールを主眼とし
て設定された概念なのである。
このように、ベトナム労働法における労働紛争の分類方法は、わが国におけ
る分類方法(個別的労働関係紛争と集団的労使関係紛争)686と外形上似通ってい
るものの、特に集団的労働紛争とわが国における集団的労使関係紛争ではその
意味するところが大きく異なっている。
②
個別的労働紛争(tranh chap lao dong ca nhan)
労働紛争の分類に関して、労働法典は、
「労働紛争は、労働者と使用者の間に
おける個別的労働紛争および使用者と労働者集団の間における集団的労働紛争
からなる」
(第一五七条第二項)と規定するのみである。これに対し、労働紛争
解決手続法令が両紛争類型の基本的内容 687を規定し(第一一条)、最高人民裁判
所が公文書 40/KHXX 688がこれを具体化している。
最高人民裁判所の公文書 40/KHXXによれば、個別的労働紛争とは、「労働者個
人と使用者の間の、雇用、賃金、収入およびその他の各労働条件 689に関連を有
する権利と利益、労働契約の実現と職業学習の 690過程、解雇 691形式による労働
紀律処分ないし労働契約の一方的終了、または使用者に対する損害の賠償に関
する紛争」である(A-1)。
これを受けて、労働法学界においては一般に次のように説明されている。す
なわち、個別的労働紛争とは、労働者対使用者の、単独ないし個人的で、組織
性、労働者相互間の集団的連結を有さず、また労働組合組織が当該紛争の当事
者とならない紛争類型である。その内容は、個別的労働者、
「労働者の一団」692ま
たは使用者の、権利、義務または利益に関連を有するものである。個別的労働
紛争は、通常、個別的労働契約の実現、変更または終了の過程、賃金、賞与、
社会保険など関係諸制度の実現の過程において発生する 693。
③
集団的労働紛争(tranh chap lao dong tap the)
集団的労働紛争の基本的特徴は、まさにその集団性、すなわち労働側紛争当
事者の集団性および紛争内容の集団性に求められる。最高人民裁判所の公文書
40/KHXXによると、集団的労働紛争とは、「労働者集団と使用者の間の、雇用、
賃金、収入およびその他の各労働条件 694に関連を有する権利と利益、労働協約
の実現、労働組合の設立、加入および活動の権利に関する紛争」である(A-1)。
しかし、個別的労働紛争の場合とは異なり、集団的労働紛争の定義に関する
労働法学界の説明は統一されていない。
現時点で一応のコンセンサスが得られているのは以下の内容に止まる。すな
わち、第一に、集団的労働紛争は「労働者集団」と使用者の間の紛争であり、
事業体の一部ないし全体、または一つの産業分野 695などさらに広い範囲におい
て発生し得る紛争類型であるということ 696、第二に、集団的労働紛争の内容は
常に「労働者集団」の全体の権利および利益に関連を有するものであり、労働
協約など労使間で合意された諸事項の実現、あるいは労使がいまだ合意にいた
っていない新たな各権利、義務の設定に関して発生する紛争事項であって 697、
その解決の結果は「労働者集団」の全体に及ぶということである。
なお、労働側当事者である「労働者集団」は労働組合により代表されること
を要するとの見解がさまざまな観点から主張されており、結論としては概ね共
通認識として確立している 698。しかし、それら見解の多くは、労働組合による
代表を集団的労働紛争の成立要件とするのか、集団的労働紛争解決システムを
利用するための手続要件に過ぎないとするのかを明らかにしていない。他方、
労働組合による代表の必要性を明確に否定する学説も僅かながら展開されてい
る(後述)。
以上のほか、集団的労働紛争を労働組合により代表される利益紛争に限定す
る見解が主張されている。この見解はすでに一部の集団的労働紛争解決機関で
採用されており、実際に多くの労使紛争の解決要求が個別的労働紛争とされ却
下されている 699。
また、労働組合の幹部に対する不当な取り扱いを集団的労働紛争とする見解
も形成されつつある 700。これは、公文書 40/KHXXが「労働組合の設立、加入およ
び活動の権利に関する紛争」を集団的労働紛争に当たると明記しているにもか
かわらず、これまであまり取り上げられなかった論点である 701。
2
対話(doi thoai)
労働組合法第一〇条は、「労働組合は労働者を代表し、使用者(機関、単位、
組織の長)に対して労働者から提出された各問題に回答するよう要求する。必
要な場合は、労働者の権利、義務および利益に関連を有する各問題を解決する
ために、労働組合は労働者集団と使用者(関連を有する機関、単位、組織の長)
「労働者集団」の規模が一五〇名を
の間の対話を組織する」と規定している 702。
超える職場単位においては「労働者集団」の代表者が出席する(議定 302-HDBT
第五条)。対話は、職場単位の通常の生産、経営活動ないし工作に影響を及ぼす
ものであってはならない(同条、議定 133-HDBT第一六条)。
これは、厳密には労働紛争解決手続ではなく、労働紛争予防手続である。労
働組合は中立的な仲立ち人として機能するに過ぎない。
「労働者集団」の規模が
一五〇名を超える場合の代表者も、労働組合に限定されていない。
しかし、このような対話組織権でさえ、右権限を認めることは労働組合をプ
ロレタリア独裁国家の対抗勢力であると認めることと同義であるとの理由から、
一九五七年の旧労働組合法では規定が見送られた 703。同権限は上掲の労働組合
法第一〇条において初めて労働組合に付与されたものである。
ただし、議定 302-HDBT(一九九二年八月一九日)以後、労働法典、労働紛争
解決手続法令をはじめいかなる関係法規も労働組合の対話組織権について規定
していない。また、実際上も職場単位において対話が組織されることはほとん
ど無いようである。
このような現状を踏まえて、たとえばハノイ法科大学の労働法テキストは、
労働組合の対話組織権を「死んだ権利」 704とし、労働組合法、議定 133-HDBT、
議定 302-HDBTなどにおける関係諸規定は「形式的なもの」 705に過ぎないと説明
している 706。
3 現場での話し合い(Thuong luong truc tiep va tu dan xep giua hai ben tranh
chap tai noi phat sinh tranh chap)
労働紛争は、まず、当該紛争が発生した現場において、紛争当事者間の直接
的な話し合いにより解決が図られる(労働法典第一五八条第一項)。
この段階における労働組合の役割に関しては、
「各級労働組合の労働紛争解決
707
への参加を指導する 」ベトナム労働総同盟の公文書 708674/TLD(一九九七年六
月九日)が概略以下のように規定している。すなわち、個別的労働紛争に関し
ては、基礎労働組合執行委員会の代表者は双方当事者と直接面談し、当該事案
が後述の基礎労働調停協議会にかけられる以前に当事者双方が和解 709に達する
ための条件を整える(phan thu nhat-B-Ⅰ-1)
。集団的労働紛争もしくは集団的
710
反応表現 (違法なストライキやサボタージュ 711など)に関しては、基礎労働
組合執行委員会の代表者は「労働者集団」もしくはその代表者と面談して状況
の把握に努めるとともに労働者に対して仕事に戻るよう働きかけ 712(同Ⅱ-1)、
使用者との間の対話 713のための条件を整え、必要な場合には上級労働組合に通
報してその代表者を招き、また「労働者集団」に対して関係諸手続を指導 714す
る(同 2)。
このように、労働紛争のこの段階における労働者側当事者は、あくまで当該
労働者ないし「労働者集団」自身である。基礎労働組合は、事態の収拾、労使
間の自主的な和解のための仲介役を果たすに過ぎない。
特に集団的労働紛争については、これが曲がりなりにも収拾するケースのほ
とんどは現場での第三者を交えた話し合いによると言われている。第三者とは、
現場に駆けつけた警察官や労働・傷病兵・社会局の担当者、上級労働組合の幹
部などである。新聞記者もここに含まれる。ベトナムにおいて新聞メディアは
全て各国家機関や社会組織などに所属しており、労働紛争を記事として取り上
げる新聞は、必然的に労働、法律、公安などの関係機関、組織に属するものが
多い。新聞記者はそれぞれの機関、組織の職員を兼ねているから(たとえばベ
トナム労働総同盟の機関紙であるLAO DONG紙の記者はベトナム労働総同盟の幹
部職員でもある)、紛争両当事者に対して一定の発言力ないし影響力を有してい
るわけである 715。
4 基礎労働調停協議会(hoi dong hoa giai lao dong co so)、労働調停員(hoa
giai vien lao dong)
4-1 概要
現場での話合いで解決を見なかった労働紛争のうち基礎労働組合(または暫
定労働組合執行委員会。以下同じ)を有する事業体で発生したものについては、
当該事業体内部に常設される基礎労働調停協議会が当事者の申し立てに基づい
て調停を行う 716。
基礎労働調停協議会は、使用者および基礎労働組合の二者構成である 717。双
方が同数のメンバーを出す。人数は双方の合意によるが、総数は四名以上でな
ければならない。任期は二年間である。議長および書記 718は六ヶ月交代で双方
が交互に出す。議決は全会一致により行う(労働法典第一六三条第二項、労働・
傷病兵・社会省通達 10/LDTBXH-TT 719,Ⅱ-1)。使用者は、協議会の設置およびそ
の活動に必要な各条件を整えなければならない(労働法典第一六三条第三項、
通達 10/LDTBXH-TT,Ⅲ-5)。
具体的な調停手続および権限などについては通達 10/LDTBXH-TT が詳細に規定
しているが、ここでは労働法典の関係条項における規定内容からその概要を見
る。
まず、個別的労働紛争の調停手続については第一六四条各項が規定している。
すなわち、①基礎労働調停協議会は、調停申立書を受領した日から起算して七
日以内に労使双方の当事者もしくはその委任を受けた代表者 720の出席を得て調
停を行う 721(第一項)。②双方が基礎労働調停協議会の調停案 722に同意したとき
は、双方および基礎労働調停協議会議長ならびに同書記の署名する調停調書 723
を作成する(第二項)。③調停が不調に終わった場合、もしくは当事者の一方が
文書による呼び出しに対して正当な理由なく二度欠席した場合 724は、調停が不
調に終わった旨の証書 725を作成し、不調となった日から起算して三日以内に右
証書の写しを双方に送付する(第三項)。
つぎに、集団的労働紛争の調停手続については第一七〇条各項が規定してい
る。その内容は、当事者が調停に欠席した場合の規定がない点、調停が不調に
終わった場合の証書には当事者双方および協議会の意見を付記しなければなら
ない点、および右証書の写しの送付について規定がない点を除くほか、上で個
別的労働紛争について見たところと同様である(第三項)。
基礎労働調停協議会が設置されていない事業体 726で発生した労働紛争につい
ては、県級の労働に関する国家管理機関が紛争当事者の申立てに基づいて労働
調停員を派遣し、調停に当たらせる(通達 10/LDTBXH-TT,Ⅴ。個別的労働紛争に
ついて労働法典第一六二条第一項、集団的労働紛争について同法典第一六八条
第一項) 727。職業教育契約 728に関する個別的労働紛争の調停も管轄する(労働
法典第一六五条一項) 729。
労働調停員による調停の具体的な手続などは、上で基礎労働調停協議会につ
いて見たところと同様である(個別的労働紛争について労働法典第一六五条各
項が第一六四条を準用、集団的労働紛争について同法典第一七〇条各項)。
4-2 労働組合の役割
ベトナム労働総同盟の公文書 674/TLD(一九九七年六月九日)は、基礎労働調
停協議会に関する労働組合の役割を以下のように具体化している 730。
基礎労働組合は、第一に、10/LDTBXH-TTの規定に従って基礎労働調停協議会
を設置するための準備および使用者との協議を主導する(phan thu nhat A-Ⅲ-1)。
第二に、基礎労働組合執行委員会の代表者を二名以上選出して基礎労働調停協
議会に参加させる。右代表者には基礎労働組合の主席、副主席 731のどちらかが
必ず含まれることを要する(同 2)
。第三に、基礎労働調停協議会の機構、メン
バー、各関係原則および具体的活動について使用者の合意を得るために協議す
る。右合意内容は基礎労働調停協議会の内規もしくは労働協約の内容として規
定する(同 3)。第四に、基礎労働調停協議会の設置を事業体の労働者に周知し、
また、協力関係を構築するために労働・傷病兵・社会局 732、省、都市、郡およ
び県 733の労働同盟に対して通知する(同 4)
。そして第五に、基礎労働調停協議
会のメンバーとなった代表者の活動を検査し、工作方法の指導、資料の提供、
能力の向上などの面で援助する(同 5)。
上級労働組合は、基礎労働調停協議会のメンバーに選出された者など基礎労
働組合の幹部に対して各種文書、参考資料を提供し、また労働紛争の解決に関
するセミナーを開催する(phan thu hai-2)。また、基礎労働組合の設立と発展、
基礎労働調停協議会のメンバー選出の準備を含め、協議会を設立するための基
盤を整える 734(同 3)
。
4-3 問題点
まず、理論面においては、集団的労働紛争における「労働者集団」と基礎労
働組合の関係が問題となる。ベトナムの労働法学界においては基礎労働組合に
よる代表が集団的労働紛争の成立要件か否かについて明確な回答が出されてい
ないが、現行の労働紛争解決システムは、少なくとも以上で見た職場単位レベ
ル内での解決段階に関する限り明らかに未組織事業体における集団的労働紛争
の発生を予定している。
第一に、基礎労働調停協議会が未設置の事業体で発生した集団的労働紛争(そ
の詳細な定義はともかく)については、①未組織事業体である場合と、②基礎
労働組合が存するが基礎労働調停協議会が未設置の場合が考えられる。①の場
合、労働調停員のもとで調停を受ける「労働者集団」の代表者はもちろん基礎
労働組合ではない。存在しないからである。問題は②の場合である。労働法典
第一六四条第二項は、調停を受ける主体を「当事者もしくはその委任を受けた
代表者」と明記している。したがって、仮に基礎労働組合が「労働者集団」の
代表者として調停を受けるとすれば、その唯一的、一般的代表性によってでは
なく、
「労働者集団」からの明確な委任によって、ということになる。基礎労働
組合がこの委任を取り付けられない可能性もゼロではないことを考えれば、職
場単位レベルにおいて「労働者集団」が基礎労働組合の唯一的、一般的代表性
の妥当性を判断する重大なチャンスとなり得る。
第二に、基礎労働調停協議会が設置されている事業体で発生した集団的労働
紛争についても、上述の②の場合と同様の問題が生じる。なお、この場合にお
いて基礎労働組合が「労働者集団」の委任を受けたときは同じ基礎労働組合が
メンバーの半数を構成する基礎労働調停協議会において調停が行われることに
なるが、これは使用者側についても同じことである。
つぎに、実際面においては次のような問題が生じている。すなわち、民間セ
クターを中心として基礎労働組合の設立率が低迷していることはすでに見たと
おりであるが、その当然の結果として、基礎労働調停協議会の設置率はさらに
低迷している。ベトナム労働総同盟の機関紙が報じたところによれば、二〇〇
三年時点における基礎労働調停協議会の設置率は、国営事業体で約五五%、外
資系事業体で約三〇%、民間事業体では約一五%にすぎない 735。そこで、多く
の事業体においては、労働調停員が労働紛争の調停を担当すべきこととなる。
しかし、労働調停員の数はその担当すべき紛争件数に比べて圧倒的に不足して
いると言われている。
5 県級人民裁判所(Toa an nhan dan cap huyen)
5-1 概要
① 裁判管轄
各級人民裁判所には労働事案を専門とする労働法廷 736が置かれ、全ての労働
事案はこれら労働法廷で審理、裁判される。
基礎労働調停協議会(または労働調停員。以下同じ)による調停が不調に終
った個別的労働紛争 737の事案については、県級(県、郡、市、省直属市)人民
裁判所が第一審裁判所となる(労働法典第一六六条第一項)
。ただし、①懲戒解
雇事案もしくは一方的な労働契約の解約についてその有効性を争う事案(同条
第二項a)、②労働契約の解約にともなう損害賠償または諸手当の支払いに関す
る事案(同項b)、③家事使用人の労働関係に関する事案(同項c)、④社会保険
に関する事案のうち、使用者と労働者の間におけるもの 738(同d)および⑤労働
力輸出 739に関する損害賠償事案(同đ)については、必ずしも基礎労働調停協議
会における調停の前置を要しない。また、外国の要素を有する 740事案について
は裁判管轄を有しない(労働紛争解決手続法令第一二条第二項b。省級人民裁判
所が第一審裁判所となる)
。
県級人民裁判所の地域管轄については、労働紛争解決手続法令第一三条が「労
働事案の第一審を担当する裁判所は被告の職場または住居が存する土地の裁判
所である。被告が法人である場合は、法規が別に定める場合を除き、被告が主
たる住所 741を置く土地の裁判所である。ただし、各当事者は原告が職場または
住居をおく土地の裁判所に対して労働事案の解決を要求することにつき被告と
合意する権利を有する」と規定している。また同法令第一四条が原告の選択に
基づく地域管轄について詳細に規定している 742。
②
提訴、受理手続
労働紛争解決手続法令第三二条各項各号の定めるところにより、県級人民裁
判所に対する提訴期限は、懲戒解雇または労働契約の一方的解約に関する事案
および使用者に対する損害賠償請求事案については当該紛争の発生した日から
起算して一年、調停が不調に終わった日から起算して六ヶ月であり(第一項a)、
その他の事案については調停が不調に終わった日から起算して六ヶ月である
(同項b) 743。
個別的労働紛争事案の当事者 744が原告となるときは、その調停を担当した基
礎労働調停協議会(または労働調停員)は、調停が不調に終わったことの証明
書類およびその他の関係資料を同裁判所に送付する責任を有する(同条第四項)。
県級人民裁判所は、提起された訴えがその裁判管轄に属すると認めるときは、
原告に対して直ちにその旨通知する。この場合、原告者は提訴の日から起算し
て七日以内に訴訟費用を予納 745しなければならない(同法令第三五条第一項)。
予納額は、訴訟額の価値を基準として定まる訴訟費用 746の五〇%、最低五万ド
ンである 747。ただし、労働者が使用者に対して賃金、社会保険、労働災害また
は職業病に関する損害賠償を請求する場合(同法令第三一条第一項a)および労
働者が使用者に対して解雇もしくは雇い止めの効力を争い、または損害賠償を
請求する場合(同項b)は訴訟費用の負担が免除される。したがって、予納も不
要である。また、右各場合に当たらない労働者であって、社、坊、市鎮 748の人
民委員会が経済的に困難であることを認定する者についても、訴訟費用の一部
または全部が免除される(同条第三項)。
県級人民裁判所は、原告が前納訴訟費用の納付証書を提出した日に訴状を受
理 749する。原告が訴訟費用の予納を免除される場合は訴状を受領 750した日に受
理する(同法令第三五条第二項)。
③
審理の準備と和解勧試
県級人民裁判所は、訴状を受理した日から起算して七日以内に被告および関
連する権利利益または義務を有する者に対して訴状の内容を通知する。この通
知を受けた者は、右通知を受領した日から起算して七日以内に当該事案に関す
る意見を文書で回答しなければならない(労働紛争解決手続法令第三六条第一
項)。
県級人民裁判所は、審理の準備段階において必要と認めるときは、自らまた
は他の裁判所に委託して、職権による調査(証拠の確定、収集)を行うことが
できる(同法令第三七条)。
なお、県級人民裁判所は審理の開始決定に先立って和解を勧試しなければな
らない(同法令第五〇条第一項)。和解が成立した場合は和解調書が作成され、
右調書は確定判決と同一の効力を持つ 751。和解が成立しなかった場合は、当該
事案について裁判長 752となる裁判官が審理の開始について決定する(同条第二
項)。右決定は訴状を受理した日から起算して三〇日以内に行わなければならな
い(同法令第三六条第二項)。
仮処分 753
当事者、労働組合および人民検察院は、県級人民裁判所に対して仮処分の決
定を請求 754することができる(労働紛争解決手続法令第四三条第一項、第二項
前段)。裁判所は請求を受領した日から起算して三日以内に仮処分に関する決定
を行わなければならない。また、県級人民裁判所は請求の有無にかかわらず仮
処分を決定することができる(同条第三項 755)。
仮処分の決定は事案の解決過程のあらゆる段階において行うことができる。
決定は、審理の開始以前 756においては当該事案の解決を担当する裁判官がこれ
④
を行い、審理の進行中 757においては審理会議がこれを行う(同条第二項後段)758。
仮処分の内容は、①解雇の一時的停止(同法令第四四条第一項)、②使用者に
対する、賃金または賠償金、もしくは労働災害または職業病に関する手当の、
労働者への仮払いの強制 759(同条第二項)または③当事者その他の組織ないし
個人に対する一定の行為の禁止または強制(同条第三項)のいずれかによる。
⑤
審理と判決
県級人民裁判所は、審理の開始を決定した日から起算して一〇日以内、正当
な理由のある場合でも一五日以内に事案の審理を開始 760 しなければならない
(労働紛争解決手続法令第三六条第三項)。第一審審理会議 761は二名の裁判官 762
と一名の人民参審員 763により構成される(同法令第一六条第一項) 764。第一審
審理会議の各決定は多数決による(同条第五項)。人民参審員にはベトナム労働
組合の代表が就くこともある。
審理は、原告および被告の出席を得て進行される。双方は代理人を立てるこ
とができる(同法令第四七条)。労働者たる当事者は、労働組合の組合員でなく
とも基礎労働組合執行委員会をその代理人とすることができる(労働組合法第
一一条第四項)。当該事案に関連する権利利益または義務を有する者も訴訟参加
者として審理に出席することができる(労働紛争解決手続法令第二〇条第一項)。
また、人民検察院も自らの判断により随時出席することができる(同法令第二
八条前段)。
当事者または各訴訟参加者が正当な理由により初めて欠席するときは審理が
延期 765される(同法令第四九条第一項b)。原告(またはその代理人)以外の者
の欠席については、二度目以降そのまま審理が進行される 766(同条第二項)。原
告の欠席が二度に及んだときは事案の解決が停止 767される(同法令第四一条第
一項c)
。審理の進行に必要不可欠な証人、鑑定人または通訳 768が欠席したとき
は出席するまで審理が延期される(同法令第四七条中段)
。また、人民検察院が
訴訟に参加する場合であって検察官が欠席したときは、その出席または文書に
よる意見の提出を得るまで審理が延期される(同条後段)。
審理においては、まず当事者および各訴訟参加者に対する審尋 769により事実
が確定される(同法令第五一条第一項)。審尋は審理会議が最初にこれを行い、
続いて検察官および「当事者の権利と合法的な利益を擁護する者」770(労働者側
については労働組合の代表者)が行う。当事者および各訴訟参加者は、さらに
審尋を行うべきと考える問題点を審理会議に提出する権利を有する(同条第二
項)。
審尋の終結後、当事者(またはその代理人)および各訴訟参加者による口頭
弁論が行われる。また、検察官は当該事案の解決について意見を述べる(同法
令第五二条)。
以上を経て、審理会議は当該事案につき協議し、多数決により判決を採択す
る(同法令第五四条第一項)。裁判長は、判決の全文を読み上げ、当事者に対し
て上訴 771の権利と判決の履行義務について説明する(同条第三項)。
5-2 労働組合の役割
基礎労働組合執行委員会は、個別的労働紛争の当事者たる労働者から要請が
あったときはその代理人となる(労働組合法第一一条第四項)。また、基礎労働
組合の代表者は「当事者たる労働者の権利と利益を擁護する者」772として訴訟に
参加することもできる(労働紛争解決手続法令第四七条前段)。
これらの規定を受けて、ベトナム労働総同盟の公文書 674/TLD(一九九七年六
月九日)は個別的労働紛争の訴訟における労働組合の役割を以下のように具体
化している。
まず、基礎労働組合は、①各関係書面および資料を準備して訴訟を行い 773
(phan thu nhat B-Ⅰ-4)
、②原告もしくは被告となる労働者のために訴状その
他の書面の準備を助け、物質面を含む援助や弁護士の紹介など支援活動を行い
(同 5)、③労働者の利益になる場合に裁判所に対して仮処分を申請し(同 6)
、
④裁判所の決定、確定判決に基づく当事者双方の権利と義務の実現を監視する
(同 9)などの任務を有する。
また、省級および県級の労働同盟は、①当該地方における各労働事案を調査
し 774、②裁判所において労働者および労働組合の権利と合法的な利益を実現す
る各級労働組合の活動を適宜支援し、③労働組合の代表たる人民参審員の職務
能力の向上のための交流を組織する(phan tu hai-5)などの任務を有する。
5-3 問題点
ベトナムの労働法学界においては、労働訴訟における審理会議に労働組合の
代表者を兼業裁判官として加えるべきか否かが論点となっている 775。なお、こ
のような主張は特に第二審以降の裁判手続について意義を有する。後述するよ
うに、第二審以降の審理会議のメンバーには人民参審員が含まれていないから
である。
また、ベトナムの裁判システム全般に関わる問題点としてつぎの二点が指摘
できる。
第一は、裁判官の専門能力に関する問題点である。このことについては、武
藤司郎がつぎのように紹介している。
「裁判官は、各級とも、裁判所単科大学ま
たは大学法学部を卒業した者でなければならず、かつ最高裁判所の裁判官につ
いては、八年以上法律職に従事した経験が必要である。省級裁判所の裁判官に
ついては六年以上、県級裁判所の裁判官については四年以上法律職に従事した
経験が必要であると規定されている(九三年五月一四日付人民裁判所の裁判官
および人民参審員に関する法令第一六条ないし一八条)。しかし、実際には、現
職の裁判官でも法学士号を有していないものが多く存在しており、法律の素養、
特に市場経済関連法のそれは不十分であるのが現状である」 776。
第二は、判決の事実上の執行力が弱いことである。一例として、VP銀行事
件においては、病気休職中に解雇された同行ホー・チ・ミン支店長がホー・チ・
ミン市第一区人民裁判所から従前の雇用契約の有効性を確認する判決を得たが、
同行は同支店長を職場復帰直後に約二〇〇〇キロ離れた支店の徴収係へ配転し
(給与額七〇%減)、これに対して同裁判所が行った判決に関する趣旨説明(現
職復帰)についても無視を続けた。このような場合に適用すべき強制手段の不
備が問題となっている 777。
6 省労働仲裁協議会(Hoi dong trong tai lao dong tinh)
6-1 概要
省労働仲裁協議会は、基礎労働調停協議会(または労働調停員。以下同じ)
による調停が不調に終わった集団的労働紛争につき、当事者の一方または双方
の申し立てに基づいて「仲裁」 778を行う機関である。
省労働仲裁協議会の構成、機能などについては、労働法典第一六九条第二項
のほか、「省労働仲裁協議会の設立に関する」政府首相の決定 744/TTg(一九九
六年一〇月八日)、右決定 774/TTgの実現を指導する労働・傷病兵・社会省の通
達 02/LDTBXH-TT(一九九七年一月八日) 779などが規定している。
労働仲裁協議会は各省(および中央直属市。以下同じ)の労働・傷病兵・社
会局 780に設置され、同局の経費により運営される(774/TTg第四条)。
基礎労働調停協議会が使用者と労働組合の二者構成であるのに対し、省労働
仲裁協議会は公、労、使の三者構成をとっている(「労」は労働組合)。ハノイ
市およびホー・チ・ミン市の労働仲裁協議会については九名、その他の省労働
仲裁協議会については五名または七名のメンバーにより、三年の任期で構成さ
れる。具体的には、労働・傷病兵・社会局の監督または副監督 781が協議会主席 782
の任に就くほか、以下の者がメンバーとなる。すなわち、省級労働同盟の代表
者一名、合法的な使用者組織 783から選出された代表者一名、労働・傷病兵・社
会局の職員 784たる専従書記一名、および法律家、管理者 785、省級祖国戦線から
選出された有識者 786各数名である(02/LDTBXH-TT-Ⅱ-1)。
基礎労働調停協議会における調停が紛争当事者による積極的な同意を得られ
ない限り不調となるのに対し、労働仲裁会議の「仲裁」裁定は当事者が積極的
に拒否しない限り自動的に発効し、履行が義務付けられる 787。ただし、この「仲
裁」は紛争当事者間の仲裁契約に基礎づけられるものではなく、紛争当事者が
仲裁裁定に不服のときは拘束力を発生しない。したがって、実質的には調停を
やり直しているに過ぎない。
なお、この「仲裁」手続についてもさらに和解勧試の前置が義務づけられて
いる。
6-2 具体的手続
仲裁協議会は、仲裁申立書を受領した日から起算して一〇日以内に、当該集
団的労働紛争の和解 788と解決を進行するための会合を開かなければならない。
労働仲裁協議会の書記は、右会合の五日前までに協議会の各メンバーおよび双
方に対して上記申立書その他の関係資料を提供し、協議会のメンバー、会合の
開催日時および場所を通知する責任を有する(02/LDTBXH-TT-Ⅲ-3)。
仲裁協議会における和解および事案の審理は「当事者の委任を受けた代表者」
の出席を得て行うことを原則とする。一方の代表者が書面による召喚にもかか
わらず初めて欠席するときは審理が延期される。ただし、二度目以降の欠席に
ついては代表者欠席のまま進行される。
審理 789においては、双方の陳述を聴取の上、仲裁協議会の専従メンバーが証
拠その他の資料に基づいて和解案の草案を起草し、各メンバーの意見を取り入
れて修正する。完成した和解案は仲裁協議会主席が双方の代表者に提示する。
和解が成立した場合は和解調書が作成され、双方の代表者および仲裁協議会
主席が署名する。
和解が成立しなかった場合は仲裁協議会の専従メンバーが「仲裁」裁定案を
起草し、各メンバーによる協議の上、無記名投票により裁定が決定される。
「仲
裁」裁定は直ちに双方に通知され、その内容について双方に異議がなければ 790自
動的に発効する(同 4)。異議の表明の期限については特に規定がない。
6-3 労働組合の役割
省労働仲裁協議会の構成員のうち一名はベトナム労働組合の代表者である。
大部分の省労働仲裁協議会では省級労働同盟の副主席がこの任に就いている 791。
ベトナム労働総同盟の公文書 674/TLDは、省労働仲裁協議会での集団的労働紛
争解決手続における基礎労働組合の役割を概略つぎのように具体化している 792。
すなわち、①省労働仲裁協議会の要求に基づいてその各活動に参加するために
必要な条件を整えること(phan thu nhat B-Ⅱ-4)、②「労働者集団」に対して
省労働仲裁協議会における決定の内容およびその根拠を解説すること(同 5)、
③省級労働同盟およびその他の上級労働組合との関係を堅持してその指導、援
助 793を受け、省労働仲裁協議会に対して必要な資料や証拠を提供して紛争の早
期解決を図ること(同 8)、④個別労働者および「労働者集団」の権利と利益の
実現および事業体の安定を確保 794するために、双方の合意や所轄機関(ここで
は労働仲裁協議会)の決定内容の実現を検査、監視すること(同 10)などであ
る。
6-4 問題点
省労働仲裁協議会による集団的労働紛争の解決に関してはつぎの各問題点が
指摘できる。
まず、理論面においては、基礎労働調停協議会について見たところと同様、
集団的労働紛争の当事者たる「労働者集団」の代表者が労働組合に限られるか
否かが明確でない。前述した集団的労働紛争の定義の問題とも密接な関連を有
する論点である。このような理論的状況は、省労働仲裁協議会が集団的労働紛
争の解決を専門とする機関であることとの関係上、制度の運用にも重大な影響
を及ぼしている。
そこで、実際面に目を転ずると、省労働仲裁協議会により解決された労働紛
争はほとんど存在しないと言われている。
従来、その最大の原因は省労働仲裁協議会の設立の遅れにあった。たとえば、
一九九七年(労働法典の施行二年後)時点での省労働仲裁協議会の設置数はわ
ずか一四であり 795、二〇〇〇年末時点でも全六一省、中央直属市のうち少なく
とも七つの省において未設置となっていた 796。しかし、二〇〇三年九月時点で
は全ての省、中央直属市において労働仲裁協議会が設立済みとされており 797、
この問題は一応解決している。
ところが、現在に至ってもなお多くの省労働仲裁協議会が設立以来なにも具
体的な活動を行っていないか、少なくとも集団的労働紛争を解決した経験がな
い。省労働仲裁協議会がその責任を放棄して労働者を苦しめているところさえ
あるとされる 798。
省労働仲裁協議会により解決される事案数の低迷については、前置すべき調
停を担当する基礎労働調停協議会の設置率の低迷が大きな原因となっている。
そこで、基礎労働調停協議会による調停を経なくても省労働仲裁協議会が事案
を受理できるようにすべきとの提議がなされている 799。
しかし、原因は省労働仲裁協議会自身の運営方針にも存在する。すなわち、
多くの省労働仲裁協議会が、基礎労働組合の指導、代表によらない労使紛争を
「多数労働者による個別的労働紛争に過ぎない」として門前払いにしているの
である 800。上述の理論的問題に由来する原因に他ならない。
以上のほか、省労働仲裁協議会による「仲裁」裁定の効力も問題点の一つで
ある。この問題については、ルー・ビン・ニュオン博士が、仲裁契約制度の導
入による紛争当事者への履行強制システムの構築が必要であるとする論文を発
表している 801。
なお、このことと関連して、いったん「仲裁」が成立した事案については省
級人民裁判所への提訴が受理されないことが問題となっている。
7 省級人民裁判所(Toa an nhan dan cap tinh)
7-1 概要
①
裁判管轄
省級人民裁判所は、①外国の要素を有する個別的労働紛争の事案(労働紛争
解決手続法令第一二条第二項 b)および県級人民裁判所の裁判管轄に属する事案
であるが省級人民裁判所において解決する必要があると認められる事案(同項
c)の第一審、②県級人民裁判所が第一審を担当した事案の第二審(同法令第六
〇条第二項)、および③省労働仲裁協議会の「仲裁」裁定に双方のいずれかが異
議を申し立てた集団的労働紛争の事案(同法令第一一条第二項、第一二条第二
項 a)の第一審を担当する。
省級人民裁判所が第一審を担当する場合の地域管轄は県級人民裁判所につい
て見たところと同様である。また、第二審を担当するのは当該省(または中央
直属市)に属する県級人民裁判所が第一審を担当した各事案についてのみであ
る。
②
提訴(上訴)、受理手続
個別的労働紛争の事案(第二審)の上訴、受理手続は概略以下のとおりであ
る。
労働紛争解決手続法令第六〇条各項の定めるところにより、県級人民裁判所
が第一審を担当した事案の当事者またはその代理人は、県級人民裁判所の判決
または決定につき省級人民裁判所に上訴 802することができる(第一項)。また、
県級もしくは省級の人民検察院は、県級人民裁判所の判決または決定に対して
抗議 803を行うことができる(第二項)。
上訴、抗議の期限は、当事者またはその代理人については第一審の判決また
は決定の日から起算して一〇日であり(同法令第六一条第一項)、県級人民検察
院については七日、省級人民検察院については一〇日である(同条第二項)。
上訴、抗議の手続は、第一審を担当した県級人民裁判所に対して行う。県級
人民裁判所は、訴状を受領した日(上訴する者が訴訟費用を予納すべき場合 804に
ついてはその納付証書を提出した日)から起算して七日以内に、訴状および当
該事案に関する全書類を所轄の省級人民裁判所に送付するとともに(同条第四
項)、県級人民検察院、当事者および関連する権利利益または義務を有する者に
対しその旨通知しなければならない。また、人民検察院が抗議手続を行うとき
は、人民検察院は当該抗議に関連する権利利益または義務を有する者に対し訴
状の写しを送付しなければならない(同法令第六二条第一項)。
上訴、抗議に関連する権利利益または義務を有する者は、上記各通知を受領
した日から起算して七日以内に省級人民裁判所に対し当該上訴、抗議に関する
意見を送付しなければならない(同条第二項)。
つぎに、集団的労働紛争の事案の提訴、受理手続は概略以下の通りである。
労働紛争解決手続法令第一九条第三項の定めるところにより、「労働者集団」
は、基礎労働組合執行委員会による代表を通じて 805その訴訟における権利と義
務を実現する。つまり、個別的労働紛争における場合や省労働仲裁協議会にお
ける場合と異なり、人民裁判所における紛争解決過程については、その代表者
が基礎労働組合執行委員会に限定されている。
なお、同法令第一条後段の定めるところにより、
「労働者集団」の権利と合法
的な利益を防衛するために必要と認めるときは、上級労働組合は独自に提訴す
ることができる。この場合、右上級労働組合は原告に準ずる 806訴訟上の権利と
義務を有するが、原告そのものとなるわけではなく、防衛されるべき利益を有
する「労働者集団」の基礎労働組合執行委員会 807が原告とならなければならな
い 808(同法令第一九条第五項)
。
したがって、人民裁判所における集団的労働紛争の解決過程において、労働
側の訴訟当事者は必ず基礎労働組合執行委員会である。また、
「仲裁」裁定の取
消訴訟ではないので、相手方当事者は常に使用者またはその代理人である。
提訴期限は省労働仲裁協議会による裁定の日から起算して三ヶ月である(同
法令第三二条第一項 c)。当事者が提訴したときは、当該集団的労働紛争の調停
を担当した基礎労働調停協議会(または労働調停員)および仲裁を担当した省
労働仲裁協議会は、それぞれ、調停が不調に終わったことの証明書類、仲裁裁
定を関係資料とともに省級人民裁判所に送付する責任を有する(同条第四項)。
省級人民裁判所は、事案がその裁判管轄に属すると認めるときは提訴した者
(原告。ただし、上級労働組合が提訴した場合は上級労働組合)に対して直ち
にその旨通知する(同法令第三五条第一項)
。訴訟費用の予納およびその後の受
理手続については県級人民裁判所が個別的労働紛争事案の第一審を担当する場
合と同様である。ただし、同法令第三一条各項各号の定めるところにより、
「労
働者集団」の利益のために提訴する基礎労働組合執行委員会(第一項 c)および
上述の場合における上級労働組合(第二項)については、訴訟費用の負担が免
除される。
③
審理の準備、和解勧試および仮処分
個別的労働紛争事案の第二審における審理の準備、和解勧試および仮処分の
手続は、①上訴者、人民検察院(抗議の場合)、②当該上訴、抗議に関連する権
利利益または義務を有する者および③「当事者の権利と合法的な利益を擁護す
る者」に対して新証拠の提出を認める規定(労働紛争解決手続法令第六五条各
項)のあるほかは第一審における場合と同様である(根拠条文も同じ)。
集団的労働紛争事案の第一審における審理の準備、和解勧試および仮処分の
手続は県級人民裁判所における個別的労働紛争事案の第一審手続について見た
ところと同様である(根拠条文も同じ)。
④
審理と判決
個別的労働紛争事案(第二審)の審理および判決の手続は概略以下のとおり
である。
省級人民裁判所は、第一審裁判所の判決または決定のうち、当事者が上訴し、
または人民検察院が抗議した部分について審理する(労働紛争解決手続法令第
六六条第一項)。第一審判決または決定のうち、上訴または抗議がなされなかっ
た部分は確定する 809(同法令第六四条)。
審理を担当する第二審審理会議 810は三名の裁判官により構成され(同法令第
一六条第二項)、多数決により各決定を行う(同条第五項)。第一審と異なり、
人民参審員は審理会議のメンバーに含まれない。
審理の手続は、第一審判決に対する上訴、抗議の場合と第一審決定に対する
上訴、抗議の場合とで若干異なる。
まず、第一審判決に対する上訴、抗議については、県級人民裁判所の送付に
かかる関係書類を受領した日から起算して二〇日以内、複雑な事案については
三〇日以内に審理を開始 811しなければならない(同法令第六六条第二項)
。
同法令第六九条各項の定めるところにより、審理は以下の当事者および各参
加者の出席を得て進行される。すなわち、①人民検察院が抗議を行う場合は、
省級人民検察院が出席しなければならない。その他の場合は、人民検察院が自
ら必要と認める場合に出席する。人民検察院が出席する場合、省級人民裁判所
は五日以内に関係書類 812を提供 813しなければならない(第一項)。②訴訟の当事
者および当該上訴、抗議に関連する権利利益または義務を有する者は出席しな
ければならない(第二項)。また、③当事者から要求があり、必要と認められる
場合については、鑑定人、証人および通訳の出席を得なければならない(第三
項)。
以上のうち、人民検察院が出席すべき場合であるにもかかわらず欠席すると
きは審理が延期されるが、その他の者が欠席した場合は欠席のまま進行される
(第四項)。
同法令第七〇条各項各号の定めるところにより、第二審審理会議は第一審に
おけると同様の手続で審理を進行し(第一項)つぎのいずれかの判決を行う。
すなわち、①第一審判決の維持 814(第二項a)、②第一審判決の一部修正 815、③
第一審判決の破棄自判 816(同b)、④第一審判決の破棄差戻し(同c)、⑤当事者
が死亡した場合や、関連する刑事、民事、経済、行政または労働事案の解決の
結果を待つ必要がある場合などにおける審理の一時的停止 817(同d)、または、
⑥第一審について見たところと同様の場合における審理の停止(同đ)のいずれ
かである。
つぎに、第一審の決定に対する上訴、抗議については、特にその意見を聴取
する必要のある場合を除き当事者を召集する必要がないこと(同法令第七二条
第一項)、上訴、抗議の訴状を受領した日から起算して一〇日以内に審理の開始
につき決定を行うべきこと(同条第二項)が定められているほかは、第一審判
決に対する上訴、抗議の場合と同様の手続によるべきことが定められている(同
条第三項)。
第二審の判決、決定は確定判決となり、裁判の日から起算して五日以内に当
事者および各訴訟参加者に送付される(同法令第七一条第二項)。
また、集団的労働紛争事案(第一審)の審理および判決の手続は、県級人民
裁判所における個別的労働紛争事案(第一審)の審理および判決について見た
ところと同様である(根拠条文も同じ)。ただし、労働組合が提訴した場合にお
いて当該労働組合が審理を欠席するときは、出席を得るまで審理が延期される
(同法令第四九条第一項)。
7-2 労働組合の役割
個別的労働紛争事案の第二審における労働組合の役割は、第一審について見
たところと同様である。すなわち、当事者たる労働者から要請があったときの
み、基礎労働組合執行委員会が代理人となる。
これに対して、集団的労働紛争事案については労働者側の訴権が労働組合に
独占されている。訴訟における労働者側の当事者は常に基礎労働組合執行委員
会である。
このことについてベトナム労働総同盟の公文書 674/TLD(一九九七年六月九
日)は、
「労働者集団が省労働仲裁協議会の決定に賛成しないときは、労働組合
執行委員会は、なによりまず 818、労働者集団を裁判所に対する解決要求へと方
向づけなければならない 819。労働組合執行委員会の代表は、訴訟過程における
原告としての各権利と義務を実現する」(phan thu nhat-B-Ⅱ-6)としている。
7-3 問題点
労働組合による訴権の独占は「労働者集団」のスト権の行使を抑制するもの
である。
後に見るとおり、
「労働者集団」は、省労働仲裁協議会の「仲裁」裁定に不服
の場合であって省級人民裁判所に提訴しない場合にはじめて、基礎労働組合執
行委員会の決定と指揮によりストライキを行うことができる。したがって、訴
権を独占する基礎労働組合執行委員会が提訴を決定すれば、ストライキを行う
ことができなくなる。そして、ベトナム労働総同盟の公文書 674/TLD が基礎労
働組合に対して提訴を優先するよう明確に指導していることはすでに紹介した
とおりである。
また、仮に基礎労働組合執行委員会が「労働者集団」の要請によりストライ
キを行おうとするときであっても、上級労働組合が提訴すれば基礎労働執行委
員会は原告とならなければならない。つまり、ストライキを行うことができな
い。
もっとも、そもそも省労働仲裁協議会の「仲裁」にかけられる集団的労働紛
争がほとんど存在しないことも既に述べたとおりである。したがって、省級人
民裁判所もほとんど(あるいは全く)集団的労働紛争の事案を扱ったことがな
いと言われている。
8 最高人民裁判所、監督審および再審 820
8-1 最高人民裁判所(Toa an nhan dan toi cao)
最高人民裁判所は、個別的労働紛争事案のうち外国の要素を有する事案、お
よびすべての集団的労働紛争事案の第二審を担当する。
外国の要素を有する個別的労働紛争事案の第二審の訴訟手続は、省級人民裁
判所におけるその他の個別的労働紛争事案の第二審について見たところと同様
である(根拠条文も同じ)。
また、集団的労働紛争事案の第二審の訴訟手続も、基本的には省級人民裁判
所における個別的労働紛争事案の第二審について見たところと同様である。た
だし、労働者側の訴権が労働組合に独占されていることは、省級人民裁判所に
おける集団的労働紛争事案の第一審について指摘したところと同様である。
図
労働紛争解決の流れ
個別的労働紛争
集団的労働紛争
・外資系の紛争
現場における当事者間の話し合い
労組なし
労働調停員
労組あり
基礎労働調停協議会(未設置のときは労働調停員)
・懲戒解雇
・契約の一方的終了
省労働仲裁協議会
・使用者に対する損害賠償請求 等
県級人民裁判所労働法廷(和解前置)
労
労・使
延期・停止決定
ストライキ
首相
合法性審査
省級人民裁判所労働法廷(和解前置)
最高人民裁判所労働法廷(和解前置)
8-2 監督審(giam doc tham)
労働紛争事案に対する確定した判決、決定について、①訴訟手続に重大な違
反があったとき(労働紛争解決手続法令第七三条第一項a)、②判決、決定の内
容の一部が事案の客観的事情に符合的でないとき(同項b)、および③法規の適
用に重大な誤りがあるとき(同項c)は、以下の者は監督審制度により抗議 821を
行うことができる。
すなわち、①最高人民裁判所長官 822および最高人民検察院院長 823はあらゆる
人民裁判所の判決、決定について(同法令第七四条第一項)
、②最高人民裁判所
824
825
副長官 および最高人民検察院副院長 は地方(省級以下)の人民裁判所の判
決、決定について(同条第二項)、また③省級人民裁判所所長 826および省級人民
検察院院長は県級人民裁判所の判決、決定について(同条第三項)抗議を行う
ことができる。
抗議の期限は、当該判決または決定が確定した日から起算して六ヶ月、労働
者の利益となる 827内容の抗議である場合は一年とされている(同法令第七五条
第一項)。
抗議を行うときは、①当該判決または決定を行った人民裁判所、②抗議に基
づく監督審を担当する人民裁判所(後述)
、③当該事案の当事者、および④抗議
の内容に関連する権利利益または義務を有する者に対して直ちに抗議書面を送
付しなければならない。抗議に基づく監督審を担当する人民裁判所は、抗議書
面を受領した日から起算して一〇日以内に同級の人民検察院に対して関係書類
828
を送付する(同条第二項)
。
抗議を行う者は、当該確定判決または決定の施行を延期させ 829、または一時
的に停止させることができる。
監督審は、以下の各審理会議 830において進行される。すなわち、①県級人民
裁判所の判決、決定については省級人民裁判所の裁判官委員会 831(同法令第七
六条第二項)、②省級人民裁判所の判決、決定については最高人民裁判所労働法
廷(同条第三項)、③最高人民裁判所の判決、決定については最高人民裁判所裁
判官委員会(同条第四項)、また④最高人民裁判所裁判官委員会の決定について
は最高人民裁判所裁判官評議会 832(同条第五項)による審理会議が監督審を担
当する。これらの審理会議のうち、最高人民裁判所に属するものは三名の裁判
官により構成される(同法令第一六条第三項)。省級人民裁判所において組織さ
れる裁判官委員会については構成に関する規定が見当たらない。各審理会議は、
メンバーの三分の二以上の出席を得た上で(同条第四項)
、投票による多数決で
決定を行う(同条第五項)。
各人民裁判所は、関係書類を受領した日から起算して一ヶ月以内に監督審手
続による審理を開始 833しなければならない(同条第六項)。
監督審の審理会議は、当該確定判決、決定のうち、抗議が行われた内容につ
いてのみ審理することができる(同条第一項)。
監督審の審理においては、審理会議が必要と認める場合を除き、当該事案の
当事者や抗議に関連する権利利益または義務を有する者の出席を得る必要はな
い(同法令第七七条第一項)。
審理では、まず、審理会議のメンバーの一名が当該事案および抗議の内容を
説明する。つぎに、当該事案の当事者、訴訟参加者が出席している場合は意見
を陳述する。続いて、検察官が当該事案の解決に関して意見を述べる。以上の
手続を経て、審理会議は討論を行い、判決または決定を出す(同条第二項)。
監督審の審理会議による判決、決定は、次のいずれかの形式による。すなわ
ち、①抗議の棄却 834(同法令第七八条第一項)、②一部修正、③破棄自判(同条
第二項)
、④破棄差戻し 835(同条第三項)、または⑤破棄、同法令第四一条第一
項の規定 836に基づく事案の解決の停止(同条第四項)のいずれかである。
8-3 再審(tai tham)
労働紛争事案に対する確定した判決、決定について、①当事者が判決、決定
の時点においては知り得なかった重大な事実が新たに発見されたとき(労働紛
争解決手続法令第七三条第二項a)、②証人の供述、鑑定人の結論が正しくない
か、通訳による翻訳が原文どおりでないこと、または証拠の偽造があったこと
を証明する根拠があるとき(同b)、③裁判官、人民参審員、検察官または裁判
所書記官が故意に不正確な関係書類を作成したとき 837(同c)、および④裁判所
が判決、決定にあたって依拠した裁判所の判決、決定もしくは国家機関の決定
が取り消されたとき 838(同d)は、再審制度による再審理が行われる。再審制度
における抗議権者、審理の管轄と手続および決定などはすべて監督審制度につ
いて見たところと同様である(根拠条文も同じ)。
表 839
各訴訟段階における基本的訴訟活動
第一審(提訴・起訴 840)
第二審段階(上訴・抗議 監督審、再審段階(抗議)
841
)
審 ‐被告、関連する権利利益・ ‐抗告・抗議の通知
‐抗議の通知
理 義務を有する者に対する通 ‐抗告・抗議に関連する 抗議を行う者は、当該抗議の対
準 知
権利利益・義務を有する 象たる判決・決定を出した裁判
備 ‐上記対象に訴状に関する 者に対する文書による 所、監督審または再審を行う裁
段 回答および資料・証拠を要求 意見の要求
階 ‐*第三六条第二項の決定
判所、および当事者、抗議に関
‐抗告、抗議の取り下げ 連する権利利益・義務を有する
‐仮処分の決定
‐事案解決の停止
者に対して、速やかに抗議書面
‐検察院に記録書類を送付
‐証拠の補充、確定
を送らなければならない。
‐証拠の収集・確定
‐仮処分の決定
‐和解勧試
‐検察院が研究するた
‐検察院、当事者、当事者の めの記録書類の送付
合法的な権利と利益を擁護
する者に裁判所の各決定を
送付
審 二名の専業裁判官および一 三名の専業裁判官
省級人民裁判所裁判官委員会、
理 名の人民陪審員
最高人民裁判所労働法廷、
会
同裁判官委員会、
議
同裁判官評議会
事 ‐和解勧試
‐和解勧試
‐審理会議メンバーの一名が、
案 ‐審尋
‐審尋
事案・抗議の内容を説明
解 ‐事案の解決の停止
‐事案解決の停止
‐召喚された者があるときは意
決 ‐口頭弁論
‐口頭弁論
見を陳述
の ‐判決の起草と申し渡し
‐法廷記録の作成
‐検察院が意見を説明
進 ‐法廷記録の作成 842
‐法廷秩序違反者の処 ‐審理会議が討論し判決・決定
行 ‐法廷秩序違反者の処分
分
召 当事者、当事者の代表者、提 当事者、提訴した労働組 裁判所が決定に先立って意見を
喚 訴した労働組合、当事者の合 合、使用者の代表者、関 聞く必要を認める場合のみ、当
対 法的な権利と利益を擁護す 連する権利利益・義務を 事者、関連する権利利益、義務
象 る者
有する者
を有する者
閉 ‐検察院、要求が有ったとき ‐判決・決定のコピーを 規定なし
廷 は当事者、提訴した労働組合 当事者、提訴した労働組
後 および使用者の代表者に対 合、使用者の代表者、関
の し判決・決定の摘録・コピー 連する権利利益・義務を
活 を判決・決定の日から起算し 有する者および検察院
動 て七日以内に提供
‐法廷記録の修正、補足
に対し判決・決定の日か
ら起算して五日以内に
送付
* 労働紛争解決手続法令
付録
ルー・ビン・ニュオン博士論文
9 ストライキ(dinh cong)
9-1 経緯
ベトナム民主共和国臨時政府は、一九四七年三月、ホー・チ・ミン主席によ
る勅令 29-SLにおいて労働者のスト権を承認した。具体的には、その第三章第三
節「団結とストライキの自由に関する権利 843」第一七四条において、
「労働者は
団結し、ストライキを行う権利を有する。この権利を行使できる範囲について
は、和解、仲裁の方法とあわせ、別に勅令で定める 844」と規定していた。しか
し、同勅令が実際にはほとんど適用されないまま死文化したことは第Ⅱ章で述
べたとおりである。
同勅令については、たとえばハノイ市労働同盟編『労働紛争の解決と違法ス
トライキの抑制における基礎労働組合組織の役割』が、適用範囲が非国営セク
ターの経済単位に限られていたことを問題点として指摘している 845。また、同
勅令が規定した労働者のスト権については、たとえばハノイ法科大学の労働法
テキストが、
「国家による集中経済管理システムの特殊性のゆえに使用されるこ
とがなく、実際上、労働者もこの権利まで使用しなければならない事態には陥
らなかった」と説明している 846。
一九八二年九月二四日、ベトナム社会主義共和国はスト権に関する国際条約、
すなわち、経済、社会、文化に関する国連条約第八条第一項d(一九六六年)を
批准した 847。さらに、一九九二年憲法の制定過程においては、その第一次草案
に市民のスト権 848を規定する条文が盛り込まれた。もっとも、右規定はその後
草案から姿を消し 849、結局、ベトナム憲法は一九九二年憲法の一部改正(二〇
〇一年一二月) 850を経た現在にいたるまでスト権を規定していない。
スト権が実質的にはじめて法定されたのは、一九九四年の労働法典において
であった。すなわち、その第七条第四項が、
「労働者は法律の規定に従ってスト
851
ライキを行う権利を有する」 と規定し、第一七二条から第一七九条がその行使
および解決の手続について規定した。
労働法典にスト権を規定するにあたっては国会内外から慎重論が多く表明さ
れた。たとえば村野勉は第九期国会第五会期における審議の経過について、
「多
くの議員がストライキの条件がゆるすぎるのではないかと原案に不安を表明し、
中には労働者の過半数賛成というのは、現実的でなく、悪用され易いから、執
行部の 3 分の 2 ないし 100%の賛成を条件にすべきだとの意見もあったという。
結局、労働組合は使用者と可能な限り話し合い、ストライキを最小限に抑える
よう努力すべきことを条文に盛り込むということで、ストライキ権がようやく
容認されたのである」 852と紹介している。
このような慎重論がありながらも労働法典草案にスト権の規定が盛り込まれ、
また国会においてもスト権を規定すること自体については概ね賛成が得られた
背景については、現在のところ十分な説明も解明もなされていない。前掲『労
働紛争の解決と非合法的ストライキの抑制における基礎労働組合組織の役割』
は、ドイモイの積極的作用、社会主義を指向する市場経済システムの導入過程
における客観的な必要性、国際的なかかわりの構築過程 853における必要、およ
び国際法の一定の影響があったと分析しているが、その各要因の内容について
は明らかにしていない 854。
9-2 スト権の行使手続
集団的労働紛争が上に見た省労働仲裁協議会の仲裁裁定によってもなお解決
しないときは、「労働者集団」は、省級人民裁判所に提訴するか、ストライキに
よる解決を図るかのどちらかを選択することができる(労働法典第一七二条第
一項、労働紛争解決手続法令第七九条前段)
。ただし、公共サービスに従事する
事業体または国民経済や国防などに必要不可欠な事業体として政府が規定する
一部の事業体 855の「労働者集団」は、ストライキを行うことができない(労働
法典第一七四条)。
ストライキには、
「労働者集団」の提議による場合と、基礎労働組合執行委員
会自らのイニシアチブによる場合の二種類がある。いずれの場合についても、
基礎労働組合執行委員会が「労働者集団」の意見を聞き、その過半数の賛成を
得て 856決定する。
具体的には、事業体全体におけるストライキについては当該事業体の「労働
者集団」の三分の一、事業体の一部分におけるストライキについては当該部分
の「労働者集団」の過半数の労働者が提議したときは、基礎労働組合執行委員
会が無記名投票もしくは署名 857により当該「労働者集団」における賛成者の人
数を確定し(労働紛争解決手続法令第八一条第一項)
、過半数労働者の賛成を得
た上で基礎労働組合執行委員会がこれを決定する(同条第二項)
。基礎労働組合
執行委員会自らのイニシアチブによる場合も同様の手続による(根拠条文も同
じ)。
「労働者集団」の過半数の賛成を得てなお基礎労働組合執行委員会が必要を
認めるときは、投票または署名の結果を得た日から起算して三日以内に再度投
票または署名により「労働者集団」の意思を確認する。
「労働者集団」の過半数
が依然としてストライキに賛成であるときは、基礎労働組合執行委員会は「ス
トライキを決定し、これを領導しなければならない」 858(同条第二項)。
ストライキの決定後、基礎労働組合執行委員会は三名以内の代表者を選出し
て使用者に要求書を手交し、また省級の労働機関および労働同盟に通告書を送
付する。要求書の手交および通告書の送付はストライキ実行予定日の三日前ま
でに行わなければならない(同法令第八二条第一項)。要求書および通告書には、
①「労働者集団」と使用者との間における(ストライキの原因となった)問題
点 859、②使用者に対する要求内容 860、③「労働者集団」における投票または署
名の結果、および④ストライキの開始日時を明記しなければならない(同条第
二項)。
同法令第八四条一項はその各号において、ストライキの前後およびストライ
キ中に禁止される行為を列挙している。すなわち、双方当事者についてはスト
ライキの妨害または他者に対する参加の強制(a)
、
「労働者集団」については暴
力の使用や事業体の機械、設備、財産に対する損害の惹起および公共の秩序、
安全の侵犯(b)
、そして使用者についてはストライキを理由とする解雇、配転 861
およびストライキの参加者や領導者 862に対する報復、復讐 863(c、d)が禁止さ
れている。
政府首相は、ストライキが国民経済、国家の安寧または公共の安全に対して
重大な危険を有すると認めるときは、当該ストライキの延期または中止 864を命
じることができる(同法令第八六条)。
9-3 裁判所による解決
① 申立手続
ストライキの前後およびストライキ中において、基礎労働組合執行委員会は、
当該ストライキの合法性の認定 865を人民裁判所に請求することができる。同様
に、使用者は非合法性の認定 866を請求することができる(労働紛争解決手続法
令第八七条第一項)867。さらに、ストライキの通告を受けた省級労働機関および
省級労働同盟は、ストライキの開始以前もしくはストライキ中において、当該
ストライキの合法性に関する認定を人民裁判所に請求することができる。また、
人民検察院は当該ストライキの非合法性の認定を求めて当事者を起訴すること
ができる。
(同条第二項)868。以上の各請求は、
「労働者集団」がストライキを行
う事業体が主たる住所をおく土地の省級人民裁判所労働法廷に対して行う(同
法令第八九条)。
人民裁判所は、申立書を受領した日から起算して三日以内に、関係書類、資
料 869とあわせてこれを審査 870する。当該ストライキの解決がその所轄に属する
と認めたときは、裁判所は申立書類の受理を記録 871し、基礎労働組合執行委員
会、使用者、省級の労働機関、労働同盟および人民検察院に対してその旨通知
する(同法令第九一条)
。
省級人民裁判所労働法廷の法廷長 872は、申立書の受理後直ちに一名の裁判官
を当該事案の担当者として任命する 873(同法令第九二条第一項) 874。右裁判官
は、当該事案が受理された日から起算して三日以内に解決手続の開始または却
下を決定しなければならない(同条第二項)。
②
和解勧試
ストライキの解決過程においても、さらに和解勧試 875の前置が定められてい
る(法令第九四条)
。
876
和解会議 は当該事案を担当する裁判官により主宰され(同法令第九七条、
第九九条第一項)、つぎの者の出席 877を得て和解を進行する 878。すなわち、①基
礎労働組合執行委員会および使用者の代表者(同法令第九八条第三項)
、②省級
879
の人民検察院、労働機関および労働同盟の代表(参与 。同条第二項前段)880、
および③各関係領域の専門家(裁判所が諮問を依頼した場合。同項後段)であ
る。基礎労働組合執行委員会または使用者の代表者が欠席したときは和解会議
を延期し、三日以内に再召集する。
和解会議において、基礎労働組合執行委員会の代表者は、労働紛争の内容、
省労働仲裁協議会の裁定、右裁定に同意しない理由、使用者に対する「労働者
集団」の要求および提議の内容を説明する(同法令第九九条第二項)。使用者は、
「労働者集団」の要求および提議の内容に関する自己の意見、当該労働紛争お
よびストライキの結果に関する和解案 881を説明する(同条第三項)。
和解が成立したときは裁判官により和解調書が作成され、右調書は確定判決
と同一の効力を持つ。和解が成立しなかったときは、裁判官は和解が成立しな
かった旨の記録を作成するとともに 882、使用者に対して新たな和解案の提出を
命じる。使用者は、右記録が作成された日から起算して三日以内にこれを提出
しなければならない。
使用者の提出した新たな和解案によってもなお双方が合意に至らないときは、
裁判官は基礎労働組合執行委員会に同和解案に対する「労働者集団」の意見の
聴取を命じる 883。基礎労働組合執行委員会は聴取を命じられた日から起算して
三日以内にこれを行わなければならない。裁判官は、同和解案について「労働
者集団」の過半数が同意したときは和解の成立を公認する。他方、
「労働者集団」
の過半数が同意しなかったときはストライキの合法性審査の開始を決定する
(同法令第九九条第五項後段)。
仮処分 884
ストライキの解決過程において、当該事案を担当する裁判官および後述のス
トライキ解決会議は紛争当事者に対して一定の行為を禁止もしくは強制する仮
処分を決定することができる(労働紛争解決手続法令第九六条第一項、第二項)。
③
仮処分は紛争当事者から所轄裁判所の所長に対して申請 885することもできる
ほか、人民検察院もこれを建議 886することができる。所長は、右申立または建
議を受領した日から起算して三日以内にこれを判断し、回答 887しなければなら
ない(同条第四項)
。
④
合法性審査
和解が成立せず、ストライキの合法性に関する審査を開始する旨の決定を行
ったときは、人民裁判所は右決定の日から起算して三日以内に審査を開始 888し
なければならない(労働紛争解決手続法令第九九条第五項中段)。
審査は、ストライキ解決会議 889により行われる。右会議は前記の担当裁判官
を議長とする三名の裁判官で構成される(同法令第一〇〇条第一項)
。審査には
890
人民検察院が出席 する(同条第二項)ほか、基礎労働組合執行委員会および
使用者またはその代表者もこれに参与 891しなければならない(同条第三項)。
ストライキ解決会議におけるストライキの合法性判定基準については、同法
令第八〇条第一項が「合法的とされるための要件」としてつぎの各基準を列挙
している。すなわち、①当該ストライキが集団的労働紛争として労働関係の範
囲内で発生したものであること(同項a)、②同一事業体の複数の労働者 892によ
り当該事業体の範囲内で進行されること(同項b)、③「労働者集団」が省労働
仲裁協議会の決定に同意せず、かつ当該事案の解決を求めて裁判所に提訴しな
いこと(c)
、④調停、
「仲裁」期間中に使用者に対して一方的な行為をしないこ
と、過半数の賛成、基礎労働組合執行委員会による決定を得た上で要求書、通
告書を提出することなど労働法典第一七三条第一項および第二項の規定を遵守
すること(d)、⑤政府の規定するストライキ禁止事業体でないこと(đ)、およ
び⑥政府首相によるストライキの延期または中止の決定に違反しないこと(e)
の六点である(労働法典第一七六条も同旨)。このように、判断基準は全てスト
権の行使手続に関するものである(もっとも、集団的労働紛争の定義が不明確
であることは前述のとおりである)。
審査においては、まず議長が当該ストライキについて行われた解決手続の経
緯を説明する。これを受けて基礎労働組合執行委員会および使用者またはその
代表者が意見を述べ(労働紛争解決手続法令第一〇一条第一項)
、人民検察院の
代表者が当該ストライキの合法性に関する見解を説明する(同条第二項)。以上
を踏まえてストライキ解決会議が協議を行い、多数決により決定する(同条第
三項)。
具体的な決定内容は、ストライキ期間中のスト参加者に対する賃金補償額を
決定する必要上、
「ストライキ参加労働者に対するストライキ期間中の賃金の支
払いおよびその他の権利利益の解決に関する」政府議定ND58/CP(一九九七年五
月三一日)により以下のように細分化されている 893。
第一に、ストライキが合法的なものであり、かつ当該ストライキを導いた集
団的労働紛争の原因について使用者にのみ責を負うべき事由が存する 894とする
決定である。スト権の行使手続を遵守した権利紛争に基づくストライキである
と認定する決定に他ならない。
この場合、使用者はストライキに参加した労働者に対してストライキ参加期
間中の賃金の全額を補償するとともに、
「労働者集団」が当該ストライキにおい
て掲げた各要求を実現しなければならい(ND58/CP 第二条第一項)。
第二に、ストライキが合法的なものであり、かつ使用者に責を負うべき事由
が存しないとする決定である。スト権の行使手続を遵守した利益紛争に基づく
ストライキであると認定する決定に他ならない。
この場合におけるストライキ期間中の賃金補償の有無と金額は、基礎労働組
合執行委員会と使用者の協議による(同条第二項)。
なお、
「ストライキが合法的なもの」である場合に関する規定は以上の二つの
みである。
「ストライキが合法的なもの」であり、かつ「労働者に責を負うべき
事由が存する」場合は規定されていない。以下で見るとおり、
「労働者に責を負
うべき事由が存する」場合は、
「ストライキが非合法的なもの」である場合とセ
ットでしか規定されていない。
「労働者に責を負うべき事由が存する場合」の内
容については規定がないが、たとえば労務の提供過程における非違行為(に対
する懲戒処分に抗議する紛争)などがこれに当たると思われる。労働者におけ
る「責を負うべき事由」の存否がストライキの合法性に関する判断基準に含ま
れるか否かは明かでない。含まれるとすれば、集団的労働紛争該当性の問題と
して判断されることになるだろう。
第三に、ストライキが非合法的なものであり、かつ使用者にのみ責を負うべ
き事由が存するとする決定である。スト権の行使手続に違反した権利紛争に基
づくストライキであると認定する決定に他ならない。
この場合、当該ストライキの中止 895が命じられる(労働紛争解決手続法令第
一〇二条第一項b)。また、ストライキ期間中の賃金補償についてはつぎのよう
に解決される。すなわち、①スト権行使手続違反が同法令第八〇条第一項cまた
は同項dに関するものであるときは、使用者は前月の賃金額の七〇%に相当する
賃金をストライキ期間について補償しなければならない(ND58/CP第三条第一項
a)。これに対して、②スト権行使手続違反が労働紛争解決手続法令第八〇条第
一項b、同項đまたは同項eのいずれかに関するものであるときは、使用者は前月
の賃金額の五〇%に相当する賃金をストライキ期間について補償しなければな
らない(ND58/CP第三条第一項b)。
第四に、ストライキが上掲の労働紛争解決手続法令第八〇条第一項cまたは同
項dに照らして非合法的なものであり、かつ使用者と労働者 896の双方に責を負う
べき事由が存するとする決定、もしくは双方に責を負うべき事由が存しないと
する決定である。スト権行使手続に上記規定に関する違反があり、かつ労働者
側にも責を負うべき事由のある権利紛争、または労働者側に責を負うべき事由
のない利益紛争に基づくストライキであると認定する決定に他ならない。
これらの場合、当該ストライキは中止を命じられる。この場合におけるスト
ライキ期間中の賃金補償の有無と金額は、基礎労働組合執行委員会と使用者の
協議による。責を負うべき事由を有する側は、裁判所の決定にしたがって当該
違法状態を正さなければならない 897(ND/58/CP第三条第二項)
。
第五に、ストライキが労働紛争解決手続法令第八〇条第一項 c または同項 d
に照らして非合法的なものであり、かつ労働者にのみ責を負うべき事由が存す
るとする決定である。スト権行使手続に上記規定に関する違反があり、かつ労
働者側に責を負うべき事由のある利益紛争に基づくストライキであると認定す
る決定に他ならない。
この場合も、当該ストライキは中止を命じられる。ストライキ期間中の賃金
は補償されない(ND/58/CP 第三条第三項)。
第六に、ストライキが労働紛争解決手続法令第八〇条第一項 a または前掲の
同項 b、đ もしくは e に照らして非合法的なものであり、かつ使用者に責を負う
べき事由が存しないとする決定である。スト権行使手続に上記規定に関して違
反のある利益紛争であると認定する決定に他ならない。
この場合も、当該ストライキは中止を命じられる。ストライキ期間中の賃金
は、双方が別に合意する場合を除き補償されない(ND/58/CP 第三条第四項)。
第七に、ストライキが前掲の労働紛争解決手続法令第八〇条第一項 đ に照ら
して非合法的なものであり、かつ使用者と労働者の双方に責を負うべき事由が
存するとする決定である。スト権行使手続に上記規定に関する違反があり、か
つ労働者側にも責を負うべき事由のある権利紛争であると認定する決定に他な
らない。
この場合も、当該ストライキは中止を命じられる。ストライキ期間中の賃金
は補償されない(ND/58/CP 第三条第五項 a)。
第八に、ストライキが前掲の労働紛争解決手続法令第八〇条第一項 e(政府首
相によるストライキの延期または中止の決定に違反しないこと)に照らして非
合法的なものであり、かつ使用者と労働者の双方に責を負うべき事由が存する
とする決定である。スト権の行使手続に上記規定に関する違反があり、かつ労
働者側にも責めを負うべき事由のある権利紛争であると認定する決定に他なら
ない。
この場合も、当該ストライキは中止を命じられる。ストライキ期間中の賃金
は、政府首相が当該ストライキの中止を命じた日以後については補償されない。
右中止命令の日以前の賃金については裁判所の判断による(ND/58/CP 第三条第
五項 a)。
以上の各決定は直ちに施行される 898。ただし、決定内容に不服の基礎労働組
合執行委員会および使用者は、右決定の日から起算して三日以内に最高人民裁
判所第二審法廷に不服申立を行うことができる。この場合、法廷長は三名の裁
判官を指名 899して当該申立を終局的に解決する(労働紛争解決手続法令第一〇
二条第三項)。
なお、ストライキに参加しなかった労働者であってストライキのために就労
できなかった者に対する賃金の補償額については当事者間の協議による 900。た
だし、右金額は政府の定める最低賃金額を下回ってはならない(同条第二項)。
以上を総合すると、スト権の行使手続を遵守した権利紛争に由来するストラ
イキであって当該労使紛争の発生につき労働者側に責を負うべき事由がないと
認定された場合、
「労働者集団」の要求内容(すなわち権利)が実現され、当該
紛争自体が解決を見る仕組みになっている。また、スト権の行使手続に違反し
たあらゆるストライキは中止を命じられる。したがって、ストライキ解決会議
による決定を得た後なお「労働者集団」がストライキを継続し得る場合は一つ
しか存しない。すなわち、スト権の行使手続を遵守した利益紛争であって、労
働者に責を負うべき事由のない場合である。
このように、ストライキ解決会議による協議と解決の対象は、ストライキの
手続的合法性にとどまらず、当該ストライキを導いた労働紛争の原因にまで及
ぶ。文字どおり、ストライキを「解決」するのである。
表
ストライキ解決会議によるストライキの合法性の判定結果と効果
①
②
③
権利類型
権
利
利
益
権
利
権
利
有責性(労)
無
無
無
有
手続違反
④
bđe
c d
c
d
⑤
⑥
⑦
⑧
利
益
利
益
利
益
権
利
権
利
無
有
無
有
有
cd
abđe
Đ
e
×
ストの継続
×
○
×
×
×
×
×
×
賃金補償
全
額
協
議
50
%
70
%
協議
×
×合
意
×
効果
実
現
-
-
-
是
正
-
-
-
命令前:裁判所が
決定/命令後:×
※表中の a,b,c,d, đ,e は、それぞれ労働紛争解決手続法令第八〇条第一項の
各号(a,b,c,d, đ,e)に対応。
-
9-4 罰則
「労働法違反行為に関する行政処罰 901を規定する」政府議定 113/2004/ND-CP
(二〇〇四年四月一六日)第一九条は、ストライキに関連する行政処罰形式お
よびその対象を以下のように規定している。
第一に、①政府首相によるストライキの延期、中止命令に違反した労働者、
および②事業体の機械、設備または財産に損害を与え、もしくは公共の秩序、
安全を侵犯した労働者(同b)については、氏名の公表 902もしくは二〇万ドン以
上五〇万ドン以下の罰金が科される(第一項a、b)。なお、事業体の機械、設備
または財産に損害を与えた者については当該損害に対する賠償が強制される 903
(第四項)。
第二に、ストライキ権の実現を妨害し、または他者に対してストライキへの
参加を強制もしくは扇動 904した者については、一〇〇〇万ドン以上一五〇〇万
ドン以下の罰金が科される(第二項) 905。
第三に、ストライキ参加者またはその指導者 906に対して報復、復讐 907を行っ
た者については、一五〇〇万ドン以上二〇〇〇万ドン以下の罰金が科される(第
三項)。
9-5 問題点
集団的労働紛争における上級労働組合の提訴権についてはすでに述べた。こ
の場合、基礎労働組合執行委員会は原告として出廷する義務を有する。したが
って、
「労働者集団」はスト権を行使することができない。他方、投票、署名の
結果「労働者集団」の過半数がスト権の行使を望んだ場合は基礎労働組合執行
委員会はストライキを組織しなければならない。そこで、たとえば投票、署名
によるスト権の確立段階で上級労働組合が提訴した場合の処理が問題となる。
法はこの問題について規定していない。
また、ストライキ解決手続においては、
「労働者集団」の過半数の意思に基づ
くストライキについてもさらに和解勧試が規定されている。そして、裁判上の
和解(提訴に基づく解決手続における和解)の場合と同様、裁判所において使
用者と和解を行うのは常に基礎労働組合執行委員会である。ストライキ解決手
続における和解については、裁判上の和解と異なり、使用者の提示した和解案
に対する諾否を「労働者集団」の意見聴取により決定する規定があるが、それ
は再提出された和解案についてのみである。最初の和解案については、基礎労
働組合執行委員会がその判断で合意できる。合意した場合の和解調書は確定判
決と同一の効力をもつ。すなわち、
「労働者集団」は当該紛争事項についてもは
やスト権を行使できない。
このストライキ解決手続の申立は、ストライキの実行以前においてすでに行
うことができる。申立権者には、提訴の場合と同様、基礎労働組合執行委員会、
上級労働組合などが含まれる。
結局、
「労働者集団」の署名、投票の結果スト権行使に賛成する者が過半数で
あった場合でも、これに消極的な基礎労働組合執行委員会は、ストライキを組
織する以前に自らストライキ解決手続を申し立て、使用者との間で和解するこ
とでストライキを免れることができるシステムである。
Ⅴ
1
終章 ―労使関係ルールのドイモイ―
問題状況の総括
第Ⅱ章で見たとおり、ベトナムでは市場経済の導入にともない、労働組合を
有さない職場単位、すなわち未組織職場単位が増加した。また、労働組合に加
入しない労働者、すなわち未組織労働者も多くなった。このことは、特に外資
系セクターを含む非国営セクターに顕著である。未組織職場単位、未組織労働
者とも全体の約六〇%を占めている。同時に、右セクターを中心としてストラ
イキが多発している。それらは押し並べて権利紛争に由来するものであり、か
つその全てが山猫ストである。
また、やはり同章で見たとおり、従来歴史的、政治的理由からベトナム労働
組合に付与されてきた唯一的、一般的代表性には、ドイモイ以降の法権国家路
線の中で法的にもこれを再確認し、保障する作業が進められてきた。
まず、権利紛争の多発は具体的労働条件を決定しその実現を確保するシステ
ムが十分に機能していないことを意味する。右システムを個別的事項ごとに分
析した第Ⅲ章では、ベトナム労働組合の唯一的、一般的代表性が未組織職場単
位および未組織労働者の増加と相俟って上記機能不全を導いていることを明ら
かにした。その基本的な構造としては、①職場単位の「労働者集団」
(全労働者)
を唯一的、一般的に代表する基礎労働組合の存在を前提とし重要なアクターと
するシステム設計がなされているため、特に未組織職場単位の割合が高い非国
営セクターなどで労働者の権利の確保が困難になっていること、および②基礎
労働組合が存する場合であっても、労働協約制度において顕著であるようにそ
の役割は中立的であり、この中立的な基礎労働組合に唯一的、一般的代表性が
付与されることにより「労働者集団」の意思を直接的に反映するチャンネルが
確保され得ないシステムとなっていることが指摘できる。
つぎに、ストライキの全てが山猫ストとなっているのは、スト権の行使と解
決の手続を含む集団的な労働紛争解決システムが機能していないことの現れで
ある。第Ⅳ章で検証したとおり、右システムは、そもそも解決対象である集団
的労働紛争の定義が不明確であること、解決手続が極めて繁雑であることなど
の問題を有すると同時に、上で労働条件決定システムについて述べたと同様の
問題構造を内包している。
以上のように、労働条件決定システム、労働紛争解決システムとも、その機
能不全の法制面における原因の多くはベトナム労働組合の唯一的、一般的代表
性に関連して生起している。
この唯一的、一般的代表性の背景にあるベトナム労働組合の政治的位置づけ
には、共産党による一元的国家領導体制が密接に関係している。そのこともあ
って、ベトナム国内においてはベトナム労働組合の右性質自体を問題視する発
想が希薄であり、またタブーにもなっている。しかし、専ら現状への現実的対
処の観点から、立法当事者らは職場単位レベルにおけるベトナム労働組合の唯
一的、一般的代表性の緩和を検討してきた。この問題につき見解を公表する法
学者も現れ始めている。以下、このような改革案に関する状況を概説した上で、
若干の私見を述べて本稿の結論とする。
2 ベトナム労働組合の唯一的、一般的代表性に対する修正の試み
2-1 未組織事業体における労働者代表主体
市場経済の導入後、非国家セクターの成長に伴って未組織事業体(労働組合
が未設立の事業体)が増加した。敢えて基礎労働組合に加入しない労働者も多
くなった。そこで、このような事業体において労働者を代表する主体のあり方
が議論されてきた。
たとえば、一九九二年五月の労働法典起草委員会第一次草案は次のような規
定案を置いていた。すなわち、未組織事業体については地方の労働機関が「労
働者集団」908を指導して労働者代表委員会を選出させる。代表委員会は事業体内
部において労働組合と同様の権利と責任を有し、保護を受ける。また、労働組
合が設立されたが労働者の過半数を組織するに至らない場合は、労働組合執行
委員会が「労働者集団」に非組合員の代表を選出させ、これと協力して「労働
者集団」を代表するというものである。なお、労働者代表権の反組合的目的に
よる利用を禁止する条文が置かれていた 909。
これに対し、一九九四年四月の同起草委員会公開草案における規定案は次の
ようなものとなった。すなわち、未組織事業体については第一次草案と同様で
あるが、労働組合が設立された場合は労働組合がその組織率にかかわらず「労
働者集団」を代表する。ただし、労働組合が労働者の半数を組織するに至らな
い場合であって、「労働者集団」が要求したときは、労働組合が「労働者集団」
に非組合員の代表者を選出させ、これと協力して「労働者集団」を代表すると
いうものである。なお、第一次草案と同様、労働者代表権の反組合的目的によ
る利用を禁止する条文が置かれていた 910。
この時点までの各次草案は、未組織または労働組合が労働者の半数を組織す
るに至らない事業体における労働者代表主体の不在の問題を、当該事業体内部
におけるベトナム労働組合の唯一的、一般的代表性の緩和により解決しようし
ていたのである。
しかし、同年五月の同起草委員会最終草案ではこれとは異なる方向性が選択
された。すなわち、労働組合のみが「労働者集団」を代表することとされた。
また未組織事業体については省級労働同盟が暫定労働組合の設立を指導 911する
こととされた。第Ⅱ章でみたとおり、暫定労働組合は基礎労働組合に準ずるベ
トナム労働組合の末端組織単位である。暫定労働組合が設立されるまでの期間
に関する措置は講じられなかった 912。
結局、同月の第九期国会第五会期で可決された労働法典第一五三条第一項は
次のような規定となった。すなわち、
「活動中の未組織事業体においては労働法
典施行後六ヶ月以内、新設の事業体においてはその活動を開始した日から起算
して六ヶ月以内に、省級労働同盟は、当該事業体の労働者ないし労働者集団の
権利および利益を代表、防衛させるために暫定労働組合を設立しなければなら
ない」というものである。暫定労働組合が設立されるまでの期間に関する措置
は規定されなかった。
ところがその後、未組織事業体の増加、労働者の組合離れはさらに深刻化し
た。また、未組織の外資系事業体の中には従業員代表制を導入するものも現れ
始めた 913。このような状況を踏まえて、
「労働法典の一部条項を修正、補足する」
法律の立法過程において、事業体内部における労働者代表主体の問題が再検討
されることとなった。
ベトナム労働総同盟はその唯一的、一般的代表性を維持する方向での法改正
を主張した。たとえば二〇〇〇年四月、ベトナム労働総同盟は同法起草委員会
に対し、省級労働同盟が暫定労働組合の設立計画書を送付した場合における使
用者の協力義務の規定を提議した 914。また、同年七月にベトナム労働総同盟が
開催したセミナーでは、労働組合の設立を妨害した使用者に罰則を規定すべき
との見解が発表された 915。
同年八月の同法起草委員会報告書 916は、研究が必要な方向性として二つの案
を提示した。第一は、未組織事業体の「労働者集団」を当該地方の上級労働同
盟に代表させるというものである。第二は、労働組合が設立されるまでの期間
について労働者の代表 917を選出し、事業体内部における労働組合の役割を代行
させるというものである。
同法起草委員会の第一次草案は、上記の両案のうち前者を採用した。
二〇〇一年三月、司法省直轄のハノイ法科大学は、未組織事業体の「労働者
集団」に自らの代表者を選出させる方向で第一次草案を修正すべきとする意見
書 918を提出した。しかし、この意見は採用されず、同月一六日に同法起草の主
務官庁である労働・傷病兵・社会省が政府首相に提出した第一次草案の説明文
書 919にも記載されなかった。
その後、事業体内部に組織基盤を有しない上級労働組合に「労働者集団」を
代表させることの非合理性などの観点から草案の修正が重ねられた。結局、同
年五月、未組織事業体については上級労働組合が暫定労働組合執行委員会を「指
名」920する案が採用され、二〇〇二年四月の第一〇期国会第一一会期に上程され
た最終法案にも盛り込まれた。国会は右法案を可決し、労働法典第一五三条第
一項は次のように改正された。
「活動中の未組織事業体においては労働法典の一部条項を修正、補足する法
律の施行の日から起算して六ヶ月以内、新設の事業体においてはその活動を開
始した日から起算して六ヶ月以内に、地方の労働組合、産業別の労働組合は、
労働者ないし労働者集団の権利および合法的な利益を代表、防衛させるために
当該事業体に労働組合組織を設立する責任を有する。/使用者は労働組合組織
が速やかに設立されるための条件を整える責任を有する。労働組合が設立され
ない期間については、地方の労働組合または産業別の労働組合が、労働者ない
し労働者集団の権利および合法的な利益を代表、防衛させるために暫定労働組
合執行委員会を指名する。/事業体における労働組合の設立および活動を妨害
するあらゆる行為はこれを禁止する」。
指名に対する受諾義務は規定されていない。しかし、現在のベトナムにおい
て労働者が右指名を拒否することは困難である。労働組合の設立を事実上強制
するシステムと言える。改正前と比較して、労働法典におけるベトナム労働組
合の唯一的、一般的代表性の保障レベルはむしろ強化されたことになる。
ただし、労働法典以外の労働関係法規には、未組織事業体についてベトナム
労働組合の組織に属さない労働者代表主体を規定するものがある。たとえば、
事業体破産法(一九九四年一月一〇日)は事業体の破産宣告を裁判所に請求す
る権利を労働者の代表に付与している 921。また、労働・傷病兵・社会省の「各
事業体における労働者、職員の昇給を指導する」通達(一九九五年三月二二日)
922
および「賃金に関する政府議定 197/CPの一部条項の実現を指導する」通達(同
年四月一九日)923も、未組織事業体について「労働者集団」の代表者に一定の役
割を規定している。前者は昇給協議会の構成員としての役割、後者は賞与規定
の作成における意見聴取の対象としての役割である。これら各法規は現在も有
効である 924。
このように、ベトナム労働法制における労働者代表主体のあり方の問題は、
少なくとも末端レベル、すなわち各事業体の内部レベルに関する限り、未だ完
全には決着を見ていない。
表
労働法典起草、改正過程における労働者代表主体の取り扱い
未組織事業体
組織率五〇%以下
過半数を組
織
労働法典
労働機関が「労働者集団」に労 基礎級労組が「労働者集団」 基 礎 級 労 組
一 九 九 二 働者代表委員会を選出させる。 に非組合員の代表者を選出さ が代表する。
年 五 月 第 同委員会は基礎級労組と同様 せ、協力して「労働者集団」 労 働 者 代 表
一次草案
労働法典
の権利と責任を有し、保護を受 を代表。
委員会は解
ける。
散。
「労働者集 同上。
同上。基礎級労組が設立された 基礎級労組が代表。
一 九 九 四 ときは労働者代表委員会は解 団」が要求すれば非組合員の
年 四 月 草 散。
代表者を選出させ、協力して
案
「労働者集団」を代表。
労働法典
省級労働同盟が暫定労組の設 基礎級労組が代表。
一 九 九 四 立を指導。使用者は組合設立の
年 五 月 最 ための条件を整えなければな
終草案
らない。
労働法典
省級労働同盟が暫定労組を設 基礎級労組が代表。
立しなければならない。
改 正 法 起 労働者代表制の導入を視野に入れた改正作業の必要性を示唆。
草委報告
書
改正法
上級労組が「労働者集団」の権 基礎級労組が代表。
第 一 次 草 利と利益を直接代表。
案
ハ ノ イ 法 「労働者集団」がその代表を選
-
-
科 大 意 見 出する権利を有する旨改正す
書
べき。
改正法
上級労組が事業体内部に暫定 基礎級労組が代表。
労組執行委員会を「指名」。
2-2 集団的労働紛争の定義
法は、集団的労働紛争を「労働者集団と使用者の間における」労働紛争と定
義し(労働法典第一五七条第二項)、その解決過程において「労働者集団」の代
表者を基礎労働組合またはこれに準ずる暫定労働組合執行委員会に限定してい
る。前述のとおり、
「労働者集団」とは、一般的に「各生産、経営、サービス単
位において常態として勤務する労働者の全体」を意味する語である。
これは、労働者の団結形態がベトナム労働組合(職場単位においてはその末
端組織単位である基礎労働組合)に限定されていること、また、労働協約の適
用対象が組合ではなく「労働者集団」であることなどに照らせば、一貫性のあ
る規定内容と言える。
しかし、集団的労働紛争解決システムは全く機能しておらず、山猫ストが多
発している。機能不全の典型的パターンは、①未組織事業体であるため労働組
合による代表を得られないか、②労働組合が当該紛争を代表しないため、③解
決担当機関が当該紛争を集団的労働紛争と認めない、というものである。
上記事態を改善するために、集団的労働紛争解決システムの改正が検討され
ている。理論面における最大の争点は、集団的労働紛争の定義である。すなわ
ち、労働組合による代表を集団的労働紛争の成立要件とするべきか否かという
問題である。法は、これまでこの点を明確にしてこなかった。
「労働者集団」と
労働組合の関係、すなわちベトナム労働組合の唯一的、一般的代表性が、集団
的労働紛争について問い直されているということに他ならない。
集団的労働紛争の再定義、すなわち労働法典第一七二条第二項の改正に関す
る議論の方向性は、大きく二つに分かれている。
第一は、労働組合による代表を集団的労働紛争の成立要件としない方向性で
ある。代表的な論者はルー・ビン・ニュオン 925博士(ハノイ法科大学助教授)
であり、その論文「集団的労働紛争およびその解決について」において大要次
のように主張している。すなわち、集団的労働紛争の成立要件は、①労働側の
紛争主体が「労働者集団」、多数の労働者、またはその何れかの代表者であるこ
と、および②当該紛争が労働に関係するものであり、
「労働者集団」の一般意思
の発現であることの二点である。すなわち、労働組合による代表は集団的労働
紛争の成立要件ではない。また、集団的労働紛争における労働組合の役割は「労
働者集団」の代表者として行動することであるが、これは労働者代表委員会が
行っても同じことである。したがって、未組織事業体および労働組合が労働者
の半数を組織するに至らない事業体における集団的労働紛争については労働者
代表委員会を「労働者集団」の代表者とするべきである 926。
ルー博士の上記見解は、労働法典改正過程におけるハノイ法科大学の前出の
意見書にも反映された。同意見書は、
「労働者集団」の代表者と使用者の間の労
働紛争を集団的労働紛争として認めるべきとした 927。代表者を労働組合に限定
しない趣旨である。
このように、労働組合による代表を集団的労働紛争の成立要件としない方向
性とは、ベトナム労働組合の唯一的、一般的代表性を集団的労働紛争について
緩和しようとする方向性に他ならない。
第二は、労働組合による代表を集団的労働紛争の成立要件とする方向性であ
る。前出の「労働法典の一部条項を修正、補足する」法律の起草委員会による
第一次草案および労働・傷病兵・社会省による説明文書などがこの立場をとっ
ていた。具体的には、集団的労働紛争の定義について、労働法典第一五七条第
二項に「五名以上の労働者が参加する同一紛争事項に関する労働紛争であって
労働組合により代表されるもの」との成立要件を加えることを提案していた。
五名という人数が「労働者集団」の規模を意味するのか、その一部の労働者に
よる紛争を想定しているのかは明かでないが、労働組合が代表する客体はあく
まで「労働者集団」である。ちなみに、五名という人数は基礎労働組合の最少
設立人数でもある。この、労働組合による代表を集団的労働紛争の成立要件と
する方向性とは、ベトナム労働組合の唯一的、一般的代表性の保障を集団的労
働紛争について確保しようとする方向性に他ならない。
結局、
「労働法典の一部条項を修正、補足する」法律は、集団的労働紛争の定
義に関する労働法典第一五七条第二項を改正しなかった。このため、多数の労
働者が参加する労働紛争、なかんずくストライキの解決に関連して多くの問題
が発生していることは既に見たとおりである。そこで、労働法典の改正後も集
団的労働紛争の定義、
「労働者集団」と労働組合の関係に関する議論が継続され
ている。たとえば、目下進められているストライキ法令草案の作成などがその
舞台となっている。二〇〇四年七月に主務官庁である労働・傷病兵・社会省の
法制局副局長 928にインタビューしたところによれば、草案は労働組合の権限を
強化する方向で作成されているとのことだった。
3
私見 ―展望と課題―
市場経済の発展は今後ベトナムにどのような状況をもたらすだろうか。
白石昌也は、国民生活の安定に伴う価値観や欲求の多様化、利害関係の複雑
化、外国からの情報や知識の流入を背景として、ベトナム共産党に次のような
二者択一が迫られると分析する。すなわち、第一の選択肢は政治的な多元主義
を認めるという方向性である。また、第二の選択肢は、形式的には一党支配体
制を継続しながら一種の連合体のような包括政党に脱皮するという方向性であ
る 929。
私見によれば、上のような分析は、ベトナム労働組合についても妥当する。
ベトナム労働組合に対しては次の二者択一が迫られることになるだろう。すな
わち、第一の選択肢は労働組合組織の多元化の方向性である。つまり、労働者
の団結形態としてベトナム労働組合以外の労働組合組織の設立を容認するとい
う方向性である。また、第二の選択肢は、労働者の団結形態をベトナム労働組
合に限定しつつ、各経済セクターの労使関係の特質に応じて各級、各種労働組
合の位置づけや役割を多様化する方向性である。前に見た未組織事業体の範囲
内に限って労働者代表委員会などの選出を認める案は、上記両選択肢の折衷的
な方向性を国家の側から限定付きで提示させようとしたものと評価できる。
ベトナム共産党は、第一の選択肢すなわち政治的多元主義の導入の可能性を
明確に否定している。たとえば第七回党大会においてグエン・バン・リン書記
長(当時)がこの姿勢を明らかにした 930。しかし、政治-社会組織であり「党
と労働者大衆を結ぶ伝達紐帯」931であるベトナム労働組合が多元化を余儀なくさ
れる事態に陥れば、それはベトナム共産党の一党独裁体制にとっても崩壊のき
っかけとなる可能性が大である。そして、ベトナム労働組合が直面する状況は
ベトナム共産党よりも切迫している。政治-社会組織として活動するフィール
ドが人民の生活に直結する労働の現場であり、またその威信もベトナム共産党
に較べて遥かに低いからである。労働法典にスト権を規定するに際してはベト
ナム労働組合の政治的圧力団体化を危惧する観点から国会で議論が集中したが
932
、同組合の過度の弱体化もまた、党としては避けなければならない。
そこで、非国家セクターの約六割が未組織事業体という現状の下で労使関係
ルールのドイモイを進めるとき、上記のような党の思惑はベトナム労働組合の
唯一的、一般的代表性の維持、強化インセンティブとして働く。当然、労働者
の団結形態としてベトナム労働組合以外の労働組合組織の設立を容認する見解
は、法律の草案としても学説としても公にされたことがない。また、労働者の
代表主体の多元化と団結形態の多元化は次元の異なる問題であるが、事業体内
部における暫定的な代表主体の多元化でさえ認められないのが近年の趨勢であ
る。
未組織事業体における労働者代表主体の問題は、上級労働組合による暫定労
働組合執行委員会の指名という形で決着した。筆者はこれを、労使関係ルール
のドイモイの方向性に関する党および政府の結論を示すものと理解している。
すなわち、ベトナム労働組合の唯一的、一般的代表性の維持、強化をもって現
状への処方とする方向性が確定されたのである。
この方向性をドイモイ路線全般に対する反動と評価するのは早計である。ド
イモイ路線は、単なる規制緩和路線ではないからである。労使関係ルールのド
イモイは、ベトナム共産党による一党独裁体制の安定に資するものでなければ
ならない。問題は、その中でいかに労働者の権利、利益を確保するかである。
本稿では扱わなかったが、ベトナム労働組合は組合幹部のレベル・アップとい
った法制面以外でのドイモイも進めている。このようなドイモイの進展次第で
は、たとえば上級労働組合による暫定労働組合執行委員会の指名も、将来にお
ける社会主義の達成と現在における労働者の権利、利益の代表という二つの課
題へのバランスのとれた解決策となる可能性がある。
しかし、目下、国土の工業化、現代化政策の下で賃金労働者が急増している。
第Ⅱ章で見たとおり、二〇一〇年にはその人口は二〇〇〇万人を上回ることが
見込まれている。ベトナム労働組合がこの激変に対応できないならば、すなわ
ち、現在よりもはるかに大規模化した労働者層の多様化し複雑化した権利と利
益を十分に代表できないならば、近い将来、先述の二者択一はもはや回避不可
能となるだろう。
今後は、第Ⅲ章および第Ⅳ章で指摘した労働条件決定システムおよび労働紛
争解決システムにおける個別的諸問題の改善と併せて、たとえば使用者からの
独立性を確保するシステムの構築など、ベトナム労働組合がより公正かつ積極
的に労働者の権利と利益を代表し得る方向での関係法制のドイモイが必要と思
われる。
註
1
「工業化とは、先進工業国に追いつくことではなく、ベトナムの産業・労働構造を工業国
型に転換することだ。換言すると、産業に占める工業の比率を高めること、労働人口に占
める労働者の比率を高めることだ。また、工業化は現代化と結合したもので、現代的テク
ノロジーを備えることが重視されている。二〇一〇年までの十ヵ年戦略は、『低開発状態
から脱却』し、二〇二〇年までに工業化と現代化を達成する土台を作ることを目標として
いる。そして、この十年間に再度、GDP の倍加をめざす。その間の単年度成長率は七.五%
に設定されている」(北原俊文「[ベトナム]ドイモイ推進の意思しめした国会選挙/社会
主義めざす多セクター市場経済の進展と多様化する社会」前衛二〇〇二年八月号八八頁以
下)。
2
一党独裁体制を堅持する関係上、一般に法治(phap tri)ではなく法権(phap quyen)の
語が用いられている。
3
Bo luat Lao dong
4
luat35/2002/QH10(二〇〇二年四月一九日。二〇〇三年一月一日施行)
5
Luat Cong Doan
6
Phap lenh Thu tuc giai quyet cac tranh chap lao dong
7
現在、ベトナム労働組合の正式名称はナショナル・センターと同じ「ベトナム労働総同盟
(Tong Lien doan lao dong Viet Nam)」である。第六回ベトナム労働組合大会で確定し
た。ただし本稿では、区別の便宜上、組織全体を指す場合にはその一般的な呼称である「ベ
トナム労働組合」を用いる。
8
thay mat/なお、選挙による代表は dai bieu(国会議員など)、契約による代理は dai ly
(代理店など)が一般的であり、thay mat の定義は曖昧である。
9
to chuc chinh tri xa hoi/国家予算法第一一条に規定されるベトナム祖国戦線、ベトナ
ム労働総同盟、ホー・チ・ミン共産青年団、ベトナム退役軍人会、ベトナム婦人連合会お
よびベトナム農民会を指す(白石昌也編著『ベトナムの国家機構』明石書店二〇〇〇年五
月三一日五九頁(渡辺英緒執筆分))。なお、関係法規として「国家財政の管理、予算編
成、執行、および決算の細則を規定する」政府議定 87-CP(一九九六年一二月一九日第一二
条がある。
10
dai dien(代面)/thay mat と同様、その定義は曖昧である。前掲註8参照。
11
第一二条第二項
12
労働紛争処理システムは中国法をモデルにしたものであるが、改革開放政策をとる中国
においても労働者のスト権は規定されていない。中国における「労働紛争処理手続」につ
いて、楊坤「中国における労使紛争処理システムと労働組合の役割」労働法律旬報一四九
一、一四九三、一四九七、一五〇七、一五〇八号所収、および山下昇『中国労働契約法の
形成』信山社二〇〇三年二月一五五頁以下参照。なおスト権について常凱は、ストライキ
自体は法律上規制されていないという意味において合法であるが、積極的にスト権および
その行使について規定されていないので労働組合はこれを組織、指導することができない
というジレンマに陥っているとする。また、国家がスト権を規定しないことの実際的意義
は、「国家はストライキを提唱しないばかりでなく、国家は消極的にストライキを阻止し
または予防することにある」と説明している(常凱「中国におけるストライキ立法」法政
研究第六九巻第三号四六五頁以下)。
13
BAO LAO DONG,9.6.2004,tr.3,DUONG MINH DUC,Phan lon do...“luong-thuong”!
14
拙稿「ベトナムの労働関係法制」北大法学研究科ジュニア・リサーチ・ジャーナル No.6
所収
15
北原前掲註1論文
16
前掲註9書二一四頁(中臣久執筆分)
17
白石昌也『東アジアの国家と社会 5/ベトナム/革命と建設のはざま』東京大学出版会一
九九三年一月二〇日二〇七頁以下(引用部分も)。
18
北原前掲註1論文
19
ベトナム共産党は、過渡期は多くの段階を経ると予測している。レ・カー・フィエウ前
書記長は、過渡期は全体で百年またはそれ以上かかるとのべたことがある(北原前掲註 1
論文)。
20
一九八九年九月、グエン・バン・リン共産党書記長は、建国記念日の演説において、「ベ
トナムのドイモイの当面の重点は経済であり、政治システムの刷新は安定を損なわない範
囲で徐々に行うべきである」と述べた(古田元夫『ベトナムの現在』講談社現代新書一九
九六年一二月二〇日八五頁)。
21
古田前掲註20書一六頁
22
北原前掲註1論文
23
ベトナムの労働事情については、『海外調査シリーズ 47/ベトナムの労働事情』日本労
働研究機構二〇〇〇年一二月七日が詳しい。
24
Tong cuc Thong ke,Nien giam 2002 によると二〇〇二年現在の総人口は七九七二万七四
〇〇人であり、CIA 資料 http://www.cia.gov./cia/publications/factbook/geos/vm.html
によると二〇〇三年七月現在の総人口は八一六二万四七一六人である。
25
Bo(部)。わが国で言う中央省庁に相当。
26
BO LAO DONG-THUONG BINH VA XA HOI:TRUNG TAM THONG TIN-THONG KE LAO DONG VA XA HOI,So
lieu thong ke LAO DONG-VIEC LAM O VIET NAM 2002,NHA XUAT BAN LAO DONG-XA
HOI,HANOI,5.2003
27
四八四一万五九五五人(前掲註26資料 Tr.10)。なお、PGS.TS PHAM QUY TO,THI TRUONG
LAO DONG VIET NAM-THUC TRANG VA CAC GIAI PHAP PHAP TRIEN,NHA XUAT BAN LAO DONG-XA
HOI,6.2003,tr.57 によると、年齢別労働人口の分布は下表のとおりである。
年齢グループ
1979 年
1989 年
1999 年
2009 年(予想)
単位:千人
%
千人
%
千人
%
千人
%
15-19
6,015
22.63
6,820
19.45
8,219
18.44
9,299
16.09
20-24
4,882
18.73
6,000
17.12
6,765
15.18
8,600
14.88
25-54
14,121
53.14
20,264
57.81
27,778
62.33
36,983
63.98
55-59
1,554
5.85
1,967
5.61
1,804
4.05
2,922
5.05
計
26,572
100
35,051
100
44,566
100
57,804
100
28
一三〇四万六一四四人(前掲註26資料 Tr.10)
29
三五三六万九八四一人(前掲註26資料 Tr.10)
30
九一九万六六〇七人(前掲註26資料 Tr.72)
31
三〇〇九万四一三一人(前掲註26資料 Tr.78)
32
それぞれ、二六九九万五八四八人、六一二万三二八人、三九九万五三三九人、一四〇万
二二六七人、四三万七一七三人、三三万八六八三人(前掲註26資料 Tr.236)
33
「各国営事業体のドイモイ、再配置によって経営生産効果を高めるために、各国営事業
体の工人職員労働者の数は大きく変動している。他の経済セクターへ移動する者もある一
方で、工人職員労働者の数を増やしているところもある。各国営事業体には現在一八〇万
人超の工人職員労働者がおり、その中で、いくつかの部門においては、古参の工人、高度
の職業技術を有する工人がいる。伝統芸能については、減少傾向にある。民間事業体 doanh
nghiep tu nhan、合作社、有限責任会社、株式会社の各経営生産基礎における工人、労働
者の数は急速に増加している。現在は一四〇万人近くが働いている。また、各個人経営生
産基礎 cac co so san xuat kinh doanh ca the には、四三〇万人超の労働者がいる。各外
資系事業体で就労する労働者は六〇万人近くおり、日増しに多くの若年工人、労働者を吸
収している。その一部の者は基本的な訓練をうけ、専門、業務、技術に関してかなりの水
準を有している。多くは大きな省、都市、各工業区に集中している。その他、期間の定め
のある契約に基づいて海外で就労する労働者も増加しており、現在では数十万人に達して
いる」(BAO CAO CUA BAN CHAP HANH TONG LIEN DOAN LAO DONG VIET NAM (KHOA Ⅷ) TAI DAI
HOI Ⅸ CDVN,10.2003,tr.2)。
34
部門(nganh)とは、「同じ専門分野に属する組織や個人を、横断的にくくる概念である」
(前掲註9書一八頁(白石昌也執筆分))。
35
農林漁業二四〇二万三一七三人、個人セクター一七七八万三四四三人(農村部一五六八
万四三三三人)、合作社セクター五九〇万八三七三人(農村部五七九万二七九〇人)、両
セクターの計二三六九万一八一六人(農村部二一四七万七一二三人)(前掲註26資料
tr.236,240)
36
BAO CAO TONG KET THUC HIEN BO LUAT LAO DONG,BO LAO DONG-THUONG BINH VA XA HOI,Ha
Noi,20.4.2001(DU AN LUAT SUA DOI,BO SUNG MOT SO DIEU CUA BO LUAT LAO DONG,BO LAO
DONG-THUONG BINH VA XA HOI,HA NOI,5.2001 所収)/同報告書によると、二〇〇〇年にお
ける賃金労働者九〇〇万人の内訳は、国営事業体が五四〇〇基礎に約一八〇万人、私営事
業体が三万七八〇〇基礎に二八〇万人、外国投資企業が約三二万人のほか、小規模・手工
業合作社セクターが一万八〇〇〇基礎に数百万人、農園経済合作社セクターが一一万五〇
〇〇基礎に常態として一〇万人以上のほか日雇いとして年間のべ三〇〇〇万人以上、在ベ
トナムの外国外交機関、代表機関、国際組織、経済組織が二〇〇〇基礎以上に数十万人な
どであり、さらに、行政事業領域においては、そのサービス業務に就いていた人員の一部
を労働契約制度に移行した。また、個人経済セクターについても、外部労働力を使用する
ものが数十万基礎あった。
37
前掲註36報告書
38
二〇〇二年における全国の失業率は六.〇一%であり、これをハノイ市についてみると
七.〇八%だった(Bao lao dong thu do,21.10.2003,tr.4)。また二〇〇三年の都市部に
お け る 失 業 率 は 五 . 七 八 % ( 前 年 比 〇 . 二 三 % 減 ) だ っ た ( BAO LAO
DONG,5.1.2004,tr.2,NGUYEN XUAN NGA,VIEC LAM,DOI SONG NGUOI LAO DONG NAM 2003:That
nghiep giam,nhung doi du con lon)。二〇〇三年時点での地域別の失業率は下表のとお
りである。
Aged 15 and above
At working age
Total
Female
Total
Female
Whole country
5.60
6.93
5.78
7.22
1.Red River Delta
6.18
6.68
6.37
6.90
Ha Noi city
6.64
7.55
6.84
6.90
Hai Phong city
6.96
7.69
7.12
7.77
2.North East
5.75
5.47
5.94
7.92
Quang Ninh
6.66
8.10
6.83
8.40
3.North West
5.02
3.78
5.19
3.94
4.North Central Region
5.22
5.16
5.45
5.47
5.Central Coastal Region
5.25
5.84
5.46
6.13
5.07
5.44
5.16
5.49
6.Central Highlands
4.28
5.16
4.39
5.36
7.South East Region
5.92
8.56
6.08
8.88
6.40
9.46
6.58
9.83
5.11
7.29
5.26
7.59
5.35
7.32
5.55
7.67
Da Nang city
HCM city
8.Mekong River Delta
Can Tho city
Table 2.11: Unemployment Rate of the Urban labor Force in 2003(%),CENTRAL INSTITUTE
FOR ECONOMIC MANAGEMENT,VIETNAM’S ECONOMY IN 2003(A Reference Book),NATIONAL
POLITICAL PUBLISHER,2004
39
Table2.10:Labor Composition by Industry and Ownership in 2003(%)(CENTRAL INSTITUTE
FOR ECONOMIC MANAGEMENT 前掲註38資料)
40
Phu luc 3 “MOT SO TINH HINH CNVCLD,VAN DE THI DUA,KHEN THUONG,HOAT DONG XA HOI”
(前掲註33報告書 tr.38)
41
政府議定 5-CP(一九九四年一月二六日)により一二万ドン/月と定められた最低賃金額
は、政府議定 06/CP(一九九七年一月二一日)により公務員について一四万四〇〇〇ドン/
月に引き上げられた後、公務員および民間についてそれぞれ政府議定 175/1999ND-CP(一九
九九年一二月一五日)、政府議定 10/2000/ND-CP(二〇〇〇年三月二七日)により一八万ド
ン/月に引き上げられた。さらに、政府議定 77/2000/ND-CP(二〇〇〇年一二月一五日)に
より二一万ドン/月、政府議定 03/2003/ND-CP(二〇〇三年一月一五日)により現在の二九
万ドンに引き上げられた。
42
quan(郡)
43
huyen(県)
44
外資系企業に対する最低賃金額は、労働・傷病兵・社会省の通達 11/LDTBXH-TT(一九九
五年五月三日)がハノイ市およびホー・チ・ミン市について三五米ドル/月などと規定し、
ついで同省の決定 385/LDTBXH-QD(一九九六年四月一日)により、ハノイ市およびホー・チ・
ミン市について四五米ドル/月、Hai Phong、Vinh、Hue、Da Nang、Bien Hoa、Can Tho、
Ha Long、Nha Trang および Vung Tau の各都市について四〇米ドル/月、その他の地方およ
び多くの単純労働者を使用する農林水産(養殖)業事業体について三五米ドル/月などの
引き上げが行われた。このように従前は米ドル建てで規定されていたが、同省の決定
708/1999/QD-BLDTBXH(一九九九年六月一五日)においてドン建てに変更となった。ちなみ
に、一九九六年、一九九九年および二〇〇四年時点での為替レートは、それぞれ一米ドル
約一万一〇〇〇ドン、一万四〇〇〇ドン、一万五五〇〇ドンである。
45
政府議定 114/2002/ND-CP(二〇〇二年一二月三一日)第一〇条三項各号
46
Bao lao dong thu do,28.10.2003,tr,1-3/Nguoi lao dong,23.10.2003,tr.2/また BAO LAO
DONG 前掲註38記事によれば、二〇〇四年現在、最低賃金額は労働者の最低限度の生活維
持に必要な額の七二.五%しかカバーできていない。なお、賃金の支払い方法について、
能力給制度の導入を認めることが検討されている(BAO LAO DONG,24.10.2003,tr.1-2)。
47
前掲註33報告書
48
DNNN thuoc cac nganh T.U’quan ly dau tu
49
DNNN thuoc dia phuong quan ly dau tu
50
ちなみに TP.HO CHI MINH: Chi co 61% lao dong duoc ky hop dong lao dong,3.10.2003,BAO
LAO DONG,tr.2,DANG NGOC によれば、ホー・チ・ミン市の賃金労働者一人あたりの平均月収
は一四六万六四〇七ドン。収入の多い順で見ると、外資企業が二三八万九〇〇〇ドン、国
営事業体が一六〇万二〇九七ドン、株式会社が一五二万六九三一ドンと続く(二〇〇三年
九月二九日に同市労働・傷病兵・社会局が国会社会問題委員会(Uy ban cac van de xa hoi
cua Quoc hoi)に対して行った報告の内容)。
51
前掲註33報告書 tr.4
52
BAO LAO DONG 前掲註38記事
53
合意の労働側当事者について労働法典第六九条および政府議定 109/2002/ND-CP(二〇〇
二年一二月二七日)第一条二項三号 a は労働者としていたが、労働・傷病兵・社会省の通
達 15/2003/TT-BLDTBXH(二〇〇三年六月三日)はこれを労組執行委員会に改めた。
54
紡績・縫製・皮革・製靴および水産加工業。なお、労働・傷病兵・社会省の通達
15/2003/TT-BLDTBXH(二〇〇三年六月三日)の定めるところにより、その他の業種につい
ても所轄機関の許可を得て三〇〇時間以内の時間外労働を行うことができる。
55
政府議定 195/CP(一九九四年一二月三一日)第三条三項
56
国家機関(cac co quan,don vi hanh chinh,su nghiep)、政治組織および政治-社会組
織については政府首相の決定 188/1999/QD-TTG(一九九九年九月一七日)、国有事業体につ
いては労働・傷病兵・社会省の通達 23/1999/TT-BLDTBXH(一九九九年一〇月四日)による。
57
Table2.13:The Average Income of a Wage Earner in June 2003 (Thousand VND per month)
(CENTRAL INSTITUTE FOR ECONOMIC MANAGEMENT 前掲註38資料)
58
ベトナムにおけるストライキの実態については、木村大樹『最新ベトナムの労働事情』
自費出版二〇〇四年五月が現地の新聞記事などから多くの具体例を収集し日本語で紹介し
ている。
59
もちろん、これらの国からの進出企業数が多いことも考慮する必要がある。
60
tinh(省)/行政単位。
61
BAO LAO DONG, 11.12.2003, tr.3,NGUYEN VAN DUC,NAM 2003:Tinh hinh tranh chap lao
dong van phuc tap
62
二〇〇一年初頭から二〇〇四年四月までにホー・チ・ミン市の外資系企業で発生したス
トライキの七九.八%が賃金・賞与の不払いないし遅払いに起因するものだった(BAO LAO
DONG 前掲註13記事)。
63
Tran Viet Ha
64
Tran Viet Ha,HUONG DAN TIM HIEU BO LUAT LAO DONG VA CAC VAN BAN,QUY DINH MOI NHAT,NHA
XUAT BAN THONG KE,8.2000,tr.12365
nhom lao dong
66
たとえば、韓国人の社長がベトナム人従業員を殴打して重傷を負わせた事件として
LADIES BORN 社事件 BAO LAO DONG,24.4.2001,tr.2/BAO LAO DONG,26.4.2001,tr.2/BAO LAO
DONG,4.5.2001,tr.2/BAO LAO DONG,5.5.2001,tr.1-7 など。また台湾人使用者のベトナム
人 労 働 者 に 対 す る 暴 力 の 例 と し て Phu My Hung 社 事 件 ( BAO Nguoi lao
dong,25.12.2000,tr.3)など。
67
ストライキを導く使用者側の原因を分析するものとして、TRUONG DAI HOC LUAT HA
NOI,GIAO TRINH LUAT LAO DONG,NHA XUAT BAN GIAO DUC,2.1997,tr.273-275 など。
68
Cong doan co so
69
ただし、労働組合がストライキに消極的であるとの分析に対しては、ベトナムの学界内
に異論もある。
70
前掲註33報告書
71
BAO lao dong thu do,20.12.2002,tr.1-2
72
Tran Viet Ha 前掲64書 tr.123-
73
前掲註33報告書
74
TRUONG DAI HOC LUAT HA NOI 前掲註67書 tr.273-275 など
75
TONG LIEN DOAN LAO DONG VIET NAM:BAN PHAP LUAT,TAI LIEU TAP HUAN CONG DOAN THAM
GIA GIAI QUYET TRANH CHAP LAO DONG VA DINH CONG,10.2000,tr.11/LIEN DONAN LAO DONG
THANH PHO HA NOI,VAI TRO CUA TO CHUC CONG DOAN CO SO TRONG VIEC GIAI QUYET TRANH CHAP
LAO DONG VA HAN CHE DINH CONG CHUA DUNG PHAP LUAT,NHA XUAT BAN LAO DONG–XA HOI,Ha
Noi,2000,tr.136/LUU BINH NHUONG,TAI PHAN LAO DONG THEO QUY DINH CUA PHAP LUAT VIET
NAM,tr.224(ハノイ法科大学二〇〇二年提出博士論文、未公刊),tr.225 他を基に作成。
76
TONG LIEN DOAN LAO DONG VIET NAM 前掲註75資料 tr.11 他を基に作成。
77
一九九六年一一月以降ビンズオン省、ビンフォック省に分割。
78
労働・傷病兵・社会省の報告 52/LDTBXH,15.11.1995、LIEN DONAN LAO DONG THANH PHO HA
NOI 前掲註75資料 tr.135-136/LUU BINH NHUONG 前掲75論文 tr.224/Ban Phap luat TLD,
TINH HINH DINH CONG(前掲註33報告書 tr.39)、厚生労働省編『2001~2002 年海外情勢
白書』日本労働研究機構二〇〇二年一〇月他を基に作成。
79
本稿では quyen loi(権利)を「権利利益」と訳出した。英語では interest に相当する。
権利(quyen/英語では right)と利益(loi ich/英語では benefit)の総体であり、モノ
の享受、所有権の移転、およびその正当性などに関する問題の全体を指す概念である。「労
働者の権利利益(quyen loi cua nguoi lao dong)」と言うときは労働契約関係に由来す
る物質的な interest 全般を指す。その目的物は、第一義的には賃金(その他、食事、制服
など)である。当該 interest が法規や個別的労働契約、就業規則、労働協約などにおいて
既得の権利水準であるか、それ以上のものであるか(すなわち、講学上の権利であるか、
利益であるか)は問わない。「権利利益に関する紛争(tranh chap ve quyen loi)」と言
うときは、講学上の「権利紛争(tranh chap ve quyen)」であると「利益紛争(tranh chap
ve loi ich)」であるとを問わず、具体的なモノの享受、所有権の移転に関する紛争の意
である。
80
dieu kien lao dong/使用者から労働者への所有権の移転をともなわず、労働者が処分
可能性を有しないモノないし事項に関する概念。その主要な内容は作業場の安全、衛生に
関わる諸問題である。dieu kien lam viec も同義。
81
暴言、暴力などによる名誉、人権の侵害など。
82
一九九四年には自営自動車運転手の「集団的反応」が一件発生している。
83
本節の内容は、DANG DUC SAN(編)Tim hieu LUAT LAO DONG VIET NAM,NHA XUAT BAN CHINH
TRI QUOC GIA,6.1996,tr.24-に多く依拠している。なお、本文中(第一段階)で紹介する
各勅令および議定について、筆者は原文を確認できていない。
84
luat le(律令)
85
sac lenh(勅令)
86
nghi dinh(議定)
87
国民会議が一九四六年憲法を採択した日付は、「いまでは、『11 月 9 日』として確定し
ている」(鯨京正訓「党と憲法-『党の指導性』という規定について」『ベトナムの政策
決定過程(中間報告)』財団法人日本国際問題研究所一九九七年三月三三頁)。
88
cong nhan(工人)/一般に cong nhan は直接生産に携わる工場労働者を指す語であるが、
29-SL においては賃金労働者全般を指す広い意味において用いられていた。“Cong nhan”la
nguoi lam thue voi mot nguoi chu de lay tien va thuoc quyen dieu khien cua nguoi chu.Cong
nhan gom co:tho,gia nhan,nguoi lam cong va phu(29-SL 第四条)
89
「勅令 29-SL はわずか一〇章からなるものではあったが、それらの章のなかには、まだ
章にはならないきわめて重要な多くの節を有したものもあった。ただし、わずか二条しか
規定をおかない章もあった。全般的には、現在のものと比較すると、労働紛争の解決、雇
用、社会保険おとび労働の国家管理に関する章、節が欠けているに過ぎない。多年にわた
る草案の作成、意見の収集および調整を経て、我が国の労働法典草案における配列は一七
章からなるものとなった。ただし、基本的には勅令 29-SL における配列を継承、発展させ
たものである」(Lao dong va xa hoi,5.1994,tr.28)。
90
抗戦の期間において当該企業の防衛に協力することなどを任務とする(第七条 b)。
91
cong chuc(公職)
92
cong nhan(工人)/この時期における工人とは国営企業で直接生産に携わる労働者の意
である。
93
それぞれ、一九五九年一二月三一日、一九八〇年一二月一八日国会通過。
94
quyet dinh(決定)
95
vien chuc(職員)/公務員および党などの職員の総称。
96
hop dong tap the
97
ky luat lao dong/職場規律違反者に対する懲戒。
98
Hoi dong Bo truong/「現行の九二年憲法が制定される以前にあっては、国家評議会と
いう集団的大統領機関(議長、副議長、委員で構成)が設けられており、その役割は現在
の国家主席と国会常務委員会のそれをほぼ兼ね備えるものであった」(前掲註9書三六頁
(白石昌也執筆分))照。
99
100
thong tu
「中央集権的、官僚主義的経済管理制度の下での生産、流通、消費に対する包括的国庫
補助金制度」(桜井由躬雄、桃木至郎編『東南アジアを知るシリーズ/ベトナムの辞典』
同朋舎一九九九年二六三頁(三尾忠志執筆分))。
101
一九八五年六月の第五期第八回中央委員会総会における価格、賃金および通貨の一斉改
革決議は、「全国的規模で配給制度を廃止し、配給価格をなくして国家の価格体制を(市
場価格に:筆者註)単一化し、そのかわりに生活必需品の購入に必要な金を賃金に繰り入
れることを骨子とした改革で、あわせてデノミと新通貨発行を決行するというものであっ
た。しかし、八五年秋から実施されたこの改革は、年率で七〇〇%を超えるインフレを引
き起こし、ベトナム経済を大混乱におとしいれてしまった」(古田前掲註20書七二頁)。
102
一九九二年四月一五日国会通過。
103
村野勉は、労働法典制定の最大の意義を「これまでバラバラに出されていた労働関係の
法令・規則を体系化し、集大成したことにある」とする(村野勉「解説」『海外資料 No.9』
日本労働研究機構一九九五年一一月)。なお、労働法典制定の経緯について前掲註14拙
稿参照。
104
Luat Dau tu nuoc ngoai tai Viet nam
105
この時期に公布された重要な労働関係法規として、さらに「工業生産、工業サービス、
建設、運輸業を営む個人経済(kinh te ca the)、自営経済(kinh te tu doanh)に対す
る政策に関する規定を公布する」閣僚評議会の議定 27-HDBT および「工業生産、工業サー
ビス、建設、運輸業を営む各集団経済単位(don vi kinh te tap the)に対する政策に関
する規定を公布する」閣僚評議会の議定 28-HDBT(ともに一九八八年三月九日)、「国営工
業企業条例の公布に関する」閣僚評議会の議定 50-HDBT(一九八八年三月二二日)、「各国
営経済単位における労働力の再配置に関する」閣僚評議会の決定 176-HDBT(一九八九年一
〇月九日)、労働組合法 40-LCT/HDNN8(一九九〇年七月七日)、「各外国投資企業におけ
る労働者の最低賃金額に関する」労働・傷病兵・社会省の決定 365-LDTBXH/QD(一九九〇年
八月二九日)、会社法 47-LCT/HDNN8 および私営事業体法 48-LCT/HDNN8(ともに一九九一年
一月二日)、事業体破産法 30-L/CTN(一九九四年一月一〇日)、「行政、事業の公務員、
職員、および武装勢力の新たな賃金制度を暫定的に規定する」政府議定 25-CP(一九九三年
五月二三日)などがある。
106
政府議定 93/2002/ND-CP(二〇〇二年一一月一一日)により一部改正された。
107
政府議定 33/2003/ND-CP(二〇〇三年四月二日)により一部改正された。
108
二〇〇三年一月一日施行。外資系企業に対して労働者の直接雇用を認める等の改正がな
された。
109
二〇〇五年一月一日施行。労働法廷における裁判官と人民参審員の構成などが改正され
た。
110
Nguyen Viet Cuong 氏。二〇〇四年七月に行った筆者のインタビュー。
111
本節の内容のうちドイモイ(一九八六年)以前に関する部分は、藤原未来子「現代ベト
ナムの労働者に対する労働組合の役割―北部国営セクターにおける労働組合活動の内容の
変化を中心に―」(東京外国語大学一九九八年三月提出修士論文、未公刊)に拠るところ
が非常に大きい。その他の資料としては、TONG LIEN DOAN LAO DONG VIET NAM-TRUONG DAI
HOC CONG DOAN,NHUNG VAN DE CO BAN VE CONG DOAN VIET NAM(Giao trinh dung cho cac lop
cua Hoc vien Hanh chinh quoc gia va cac Truong dai hoc,cao dang Nha nuoc),NHA XUAT
BAN LAO DONG,6.1996/TONG LIEN DOAN LAO DONG VIET NAM:BAN TU TUONG VAN HOA,DE CUONG
TUYEN TRUYEN KY NIEM 70 NAM CONG DOAN VIET NAM 28/7/1929-28/7/1999(TAI LIEU TUYEN
TRUYEN TRONG CONG NHAN,VIEN CHUC VA LAO DONG),Cong ty In Cong Doan Viet Nam,4.1999
/CONG DOAN VIET NAM,KY YEU 70 NAM CONG DOAN VIET NAM,NHA XUAT BAN LAO DONG,1999
などを用いた。ベトナムの労働運動と労働組合の歴史についてさらに詳しくは、HOAN QUOC
VIET,GIAI CAP CONG NHAN VA TO CHUC CONG DOAN VIET NAM,NHA XUAT BAN LAO DONG,12.1970
/BAN NGHIEN CUU LICH SU CONG DOAN VIET-NAM,LICH SU PHONG TRAO CONG NHAN VA CONG DOAN
VIET NAM(1860-1945),NHA XUAT BAN LAO DONG,2.1974/BAN CAN HIEN DAI VIEN SU HOC VIET
NAM,MOT SO VAN DE VE LICH SU GIAI CAP CONG NHAN VIET NAM,NHA XUAT BAN LAO DONG,8.1974
/BAN NGHIEN CUU LICH SU CONG DOAN VIET NAM,So thao lan thu nhat LICH SU PHONG TRAO
CONG NHAN VA CONG DOAN VIET NAM TRONG KHAN CHIEN CHONG THUC DAN PHAP(9.1945-7.1954),NHA
XUAT BAN LAO DONG,7.1985
112
「この時期のベトナム人労働者は、奴隷か囚人のような状態であった。たとえば鉱山労
働者は鉱山地帯を出たら脱走者として取り扱われた。ベトナム人成人男性の賃金はフラン
ス人労働者の 75 分の 1、婦女子の場合は成人男子の 2~3 分の 1 であった」
(Truong Cao Cap
Cong Doan Viet Nam,Lich Su Phong Trao Cong Nhan Cong Doan The Gioi va Viet Nam,Nha
Xuat Ban Lao Dong,1983,tr.149-152 に基づく藤原前掲註111論文九頁註)。
113
Nguyen Ai Quoc
114
ベトナム労働総同盟資料 http://www.congdoanvn.org.vn/
115
Cong hoi Do
116
Ton Duc Thang
117
「ベトナム青年革命同志会を組織したグエン・アイ・クオクは、その機関雑誌『青年』
の中で工会の組織化を主張する。最初の段階では友誼会、相済会といった互助会組織、大
衆組織の形をとったが、実質的には工会組織であった。青年革命同志会のメンバーは工場、
農園、鉱山などに入り、労働者の組織化を進めた。28 年の段階で、北部各州の工場や鉱山
に工会組織が出来ていた」(藤原前掲註111論文七頁)。
118
藤原前掲註111論文七頁
119
Hoang Quoc Viet/UBND THI XA BAC NINH VIEN CONG NHAN VA CONG DOAN,THAN THE VA SU
NGHIEP DONG CHI HOAN QUOC VIET,NHA XUAT BAN LAO DONG,2001 所収各論文、ピエール・ル
ッセ著、角山元保訳『ヴェトナム共産党史/アジア革命の前衛はいかに武装されたか』柘
植書房一九七九年三月五日(第二刷)五頁以下(同書において Hoang Quoc Viet はホァン・
クォック・ヴェトと表記されている)など参照。
120
Dong Duong Cong san Dang
121
Nguyen Duc Canh
122
Nghiep doan Ai huu(一九三五年から一九三九年まで)。「1937 年、インドシナ総督は
『友愛会』という名称で労働者の組織化を認めた。合法的な組織の設立機会を得て、全国
の工会組織は名称変更する。友愛会はベトナム各地で発展し、38 年 5 月 1 日には、ハノイ
で 5 万人の労働者が結集しその勢力を示威したりした。友愛会時代には党の指導の下に労
働者運動が進められ、労働者の要求がわずかながらも通った。しかし人民戦線政府が崩壊
した後フランスは反動化し、労働者運動を弾圧し、39 年 9 月、友愛会の解散を命じた。39
年 9 月だけで、友愛会のメンバー2000 人が逮捕されている。友愛会時代に勝ち取った労働
者の権利は反古にされた」(藤原前掲註111論文八頁)。
123
Hoi Cong nhan Phan de(一九三九年から一九四一年まで)。「再び秘密組織となった工
会は、反帝民族統一戦線の一組織となり、『反帝労働者会』という名称に変わった。かな
り規模が大きくなった友愛会期とは異なり、友愛会から優秀な会員を選び、『三三制』と
いう 3 人組のグループを作り活動した」(藤原前掲註111論文八頁)。
124
Hoi cong nhan Cuu quoc(一九四一年から一九四六年まで)。「41 年にベトナム独立同
盟会(ベトミン)が結成されると、反帝労働者会は『救国労働者会』と名称が変わった。
ベトミンを誕生させた第 8 回党中央委員会では、『一部、一階級の権利は、民族の存亡よ
り(優先度が)下にある』とされ、救国労働者会の最大の任務も民族解放であった。救国
労働者会は反帝労働者会より大衆性が高まり、反仏、反日であれば職業の別なく加盟でき
た」(藤原前掲註111論文八頁)。
125
藤原前掲註111論文九頁
126
藤原前掲註111論文九頁
127
南部における組合活動の展開について、PTS.HOANG NGOC THANH,LIEN HIEP CONG DOAN GIAI
PHONG MIEN NAM VIET NAM(1961-1975),NHA XUAT BAN LAO DONG,1999
128
「現在に到るまで持続されているシステムである競争運動の、『競争』というベトナム
語(thi dua:筆者註)は、『戦闘、生産、工作、あるいは学習において最高の成績を上げ
るようお互いを促し合うため、能力や力を出しきる』という意味である。その意味の通り、
戦時には戦闘への意欲鼓舞、抗戦経済の発展、平時には主として生産や取扱量などの増加
を目的とした競争運動が各産業分野、大衆組織で発動されている。労働組合組織では、抗
仏戦争時には特に武器製造部門で実行され、迫撃砲などより高度な武器も生産されるよう
になった」(藤原前掲註111論文一一頁)。
129
各次愛国競争運動のスローガンは以下のとおり。「労働時間が国を救う」(一九四六年
八月から。一日一時間のサービス残業を内容とする)、「武器生産増加」(一九四八年五
月から)、「武器を増やして衣を自給しよう」(一九四八年六月から)、「積極的に抵抗
し、積極的に総反攻を準備する」(一九四九年一月から)、「積極的に準備して総反攻を
強力にしよう」(一九四九年七月から)。
129
一日一時間のサービス残業(藤原前掲註111論文一三頁)。
130
一九五〇年一月一日から一月一五日まで、Thai Nguyen 省 Dai Tu 県 Cao Van 社(xa)で
開催。二一名の正式な委員および四名の補欠委員(uy vien du khuyet)からなる執行委員
会を選出。Hoang Quoc Viet 主席、Tran Danh Tuyen 総書記(Tong Thu ky)(BAO LAO
DONG,24.9.2003,tr.2,TU DAI HOI DEN DAI HOI:Dai hoi toan quoc lan thu nhat)。
131
一九六一年二月二三日から二七日までハノイで開催。五五名の正式な委員と一〇名の補
欠委員からなる執行委員会を選出。Hoang Quoc Viet 主席、Tran Danh Tuyen が総書記。七
五二名の労働組合代表が出席(BAO LAO DONG,25.9.2003, tr.2,TU DAI HOI DEN DAI HOI:Dai
hoiⅡCong doan Viet Nam)。
132
Tong Cong doan Viet Nam
133
一九七四年二月一一日から一四日まで。六〇〇名の代表が出席。七一名の委員からなる
執行委員会、二一名の委員からなる主席団、九名の委員からなる書記委員会を選出。Hoang
Quoc Viet 主席、Nguyen Duc Thuan 副主席兼総書記、Nguyen Cong Hoa、Truong Thi My 副
主席(BAO LAO DONG,26.9.2003,tr.2,TU DAI HOI DEN DAI HOI:Dai hoi Ⅲ Cong doan VN)。
134
一九七八年五月八日から一一日まで。三九の省、都市の労働組合連盟(Lien hiep Cong
doan tinh, thanh pho)および一八の中央部門労働組合(Cong doan nganh TU’)に属す
る全国二一六万六二五七名の組合員を代表する八六二名の代表が出席。一五五名の委員か
らなる執行委員会、一二名の委員からなる書記委員会を選出。Nguyen Van Linh 主席、Nguyen
Duc Thuan 副主席兼総書記。(BAO LAO DONG, 27.9.2003,tr.2,TU DAI HOI DEN DAI HOI:Dai
hoi Ⅳ Cong doan Viet Nam)。
135
一九八三年一一月一六日から一八日まで。全国四〇〇万名近くの組合員を代表して九四
九名の代表が出席。一五五名の委員からなる執行委員会、一三名の委員からなる書記委員
会を選出。Nguyen Duc Thuan 主席、Pham The Duyet 副主席兼総書記(後に Pham The Duyet
主席、Vu Dinh 副主席、Duong Xuan An 総書記)(BAO LAO DONG,29.9.2003,tr.2,TU DAI HOI
DEN DAI HOI :Dai hoi Ⅴ Cong doan VN)。
136
一九八六年の第六回党大会で共産党執行部が改革派に入れ替わりドイモイ路線が採択さ
れたこととの関係が推察されるが、詳細は不明。
137
一九八八年一〇月一七日から二〇日まで。全国四〇〇万名近くの組合員を代表して八四
〇名の代表が出席。一五五名の委員からなる執行委員会、一五名の委員からなる書記委員
会 を 選 出 。 Nguyen Van Tu 主 席 、 Duong Xuan An 、 Cu Thi Hau 副 主 席 ( BAO LAO
DONG,30.9.2003,tr.2,TU DAI HOI DEN DAI HOI:Dai hoi Ⅵ Cong doan VN)。
138
一九九三年一一月九日から一二日まで。五三の省級労働組合、二三の中央部門労働組合
を代表して六四〇名の代表が出席。一二五名の委員からなる執行委員会、一五名の委員か
らなる主席団(Doan Chu tich)を選出。Nguyen Van Tu 主席、Cu Thi Hau、Hoang Minh Chuc、
Nguyen An Luong、Hoang Thi Khanh 副主席(BAO LAO DONG,1.10.2003,tr.2,TU DAI HOI DEN
DAI HOI:Dai hoi Ⅶ Cong doan VN)。
139
一九八八年一一月三日から六日まで。全国六一の省級労働同盟および一八の産別組合
(cong doan nganh nghe)を代表して八九七名の代表が出席。一四五名の委員からなる執
行委員会、一七名の委員からなる主席団を選出。Cu Thi Hau 主席、Nguyen An Luong、Dang
Ngoc Chien、Do Duc Ngo、Nguyen Dinh Thang 副主席(BAO LAO DONG,2.10.2003,tr.2,TU DAI
HOI DEN DAI HOI:Dai hoi Ⅷ Cong doan VN)。
140
「社会主義への道にしたがって『民を富ませ、国を強くし、公平で文明的な社会を実現
する』ために、工業化、現代化の期間における工人階級を建設してその質と量を発展させ、
農民および知識層との強固な連盟の建設において中核となり、各経済セクターにおける組
合員の発展に努め、強健な労働組合組織の建設と労働組合幹部の水準の向上を継続し、社
会経済戦略の建設と工人、職員および労働者に関連を有する法律および政策の建設に参加
し、工人、職員および労働者の合法的で正当な権利と利益に配慮してこれを防衛し、党と
政権の建設およびベトナム祖国戦線における民族大団結の建設に積極的に参加し、国防と
治安を強固にし、政治的安定と社会の安全秩序を堅持し、沸騰する競争運動を強化し、工
人、職員および労働者を動員して経済的、社会的発展のための内在的力量を発揮させる」
(BAO LAO DONG,2.10.2003,tr.2,TU DAI HOI DEN DAI HOI:Dai hoi Ⅷ Cong doan VN)。
141
二〇〇三年一〇月一〇日から一三日まで、ハノイ市 Cung Van hoa Lao dong Huu Nghi
Viet–Xo で開催。正式な代表九〇〇名のほか、党、国家、ベトナム祖国戦線、各省(BO)、
委員会、部門の代表および海外からの代表約三〇〇名が参加。一五〇名の委員からなる執
行委員会、一九名の委員からなる主席団、一一名の委員からなるベトナム労働総同盟検査
委員会(Uy ban Kiem tra Tong LDLD Viet Nam)を選出。Cu Thi Hau 主席、Dan Ngoc Chien、
Do Duc Ngo、Nguyen Dinh Thang、Dang Ngoc Tung、Nguyen Hoa Binh 副主席(BAO LAO
DONG,24.9.2003,tr.1,2,TONG LDLDVN VA BAN TTVH TRUNG UONG HOP BAO NHAN DIP DAI HOI
Ⅸ
CDVN:Dai hoi cua“Doan ket, tri tue,dan chu va doi moi” / BAO LAO
DONG,14.10.2003,tr.1,2,3)。
142
第九期(二〇〇三年から二〇〇八年)におけるベトナム労働組合の五大任務は、①「工
人、職員および労働者に対する宣伝と教育を推進して堅強な工人階級の建設に貢献し、工
業化、現代化事業において先頭を進む」、②「工人、職員および労働者に関連を有する制
度、政策および法律につき、その建設、実現および検査を主導し、またはこれに参加し、
労働者の権利利益に配慮してこれを防衛する」③「国土の各経済社会目標の勝利の実現に
貢献するために、工人、職員および労働者における各愛国競争運動を広範に組織する」、
④「組合員数を増加させ、堅強な労働組合組織を建設し、労働組合の活動内容と活動方法
をドイモイする」、⑤「各対外的活動を拡大する」(BAO LAO DONG,24.9.2003,tr.1-2,TONG
LDLDVN VA BAN TTVH TRUNG UONG HOP BAO NHAN DIP DAI HOI Ⅸ CDVN:Dai hoi cua “Doan
ket,tri tue,dan chu va doi moi”/BAO LAO DONG,14.10.2003,tr.1-2-3)。
143
doi tien phong cua giai cap cong nhan/一九九二年憲法第四条
144
Trich tham luan cua dong chi Truong Chinh,Luat Hoc,so16(1976),tr.32/鮎京正則『ベ
トナム憲法史』日本評論社一九九三年二月二〇日一二〇頁以下参照。
145
同上
146
同上
147
chuc nang(職能)
148
he thong chuyen chinh vo san
149
それぞれ kiem tra(検査)/giam sat(監察)
150
一九九二年憲法は国会の議決 51/2001/QH10(二〇〇一年一二月二五日)により修正、補
充されたが、労働組合に関する第一〇条については従前の規定が維持された。
151
当該職業分野の一般的権利利益に関連を有する事案について訴訟の当事者となりうる
(第一五九条)が、個別労働者(cong nhan)の訴訟については当該労働者が自らの組合員
である場合にのみその権利を代表することができる旨規定されていた(第一六〇条)。
152
なお Pham Cong Tru (van hung tac gia khac),CAC NGANH LUAT TRONG HE THONG PHAP LUAT
VIET NAM,NHA XUAT BAN PHAP LY,1987.8,tr.50 によると、これに続いて一九五八年四月九
日に同法の施行細則を規定する議定 180-TTg が公布されているが、筆者は未確認。
153
xay dung
154
kien thiet
155
条文上は、「労働総同盟」。
156
Pham Cong Tru (van hung tac gia khac)前掲註152書 tr.50-51
157
議定 188-TTg(一九五八年四月九日。筆者は未確認)第五条、議定 182/CP(一九七九年
四月二六日。筆者は未確認)第一九条
158
一九五七年労働組合法第六条、議定 182/CP 第二〇条、決定 76/HDBT(公布年月日不明。
筆者は未確認)
159
議定 182/CP 第二一条
160
指示(chi thi)82-TTg(一九六一年三月二日。筆者は未確認)
161
一九五七年労働組合法第五条および議定 188/TTg
162
議定 188/TTg 第五条
163
一九五七年労働組合法第五条、議定 182/CP 第一六条
164
「労働保護に関する臨時条例を公布する」議定 181-CP(一九六〇年一二月一八日)
165
議定 182/CP 第一〇条、第一二条
166
議定 182/CP 第一三条
167
政府評議会(hoi dong chinh phu)の決定 31/CP(一九六三年三月二〇日)
168
二〇〇三年一〇月一三日第九回全国代表大会通過。なお TONG LIEN DOAN LAO DONG VIET
NAM-TRUONG DAI HOC CONG DOAN 前掲111書 tr.40 は、「社会主義への過渡期の最初の段
階におけるベトナム労働組合の位置づけは、ベトナム労働組合第三回大会および第四回大
会において確定され、第六回および第七回大会において発展させられた」とする。労働組
合の位置づけは大会毎に可決される労働組合条例の前文に示される。第八回大会は、第七
回大会が可決した前文をほぼそのまま踏襲した(労働者の動員事項に「国土の工業化・現
代化」の語が加えられたのみである)。第七回大会が可決した一九九八年労働組合条例の
日本語訳としては、前掲藤原註111論文所収付録「ベトナム労働組合条例」がある。第
九回大会は、労働組合のこれまでの闘争事業の目的に「労働者の合法的で正当な利益」を
加え、労働組合を「政治-社会組織」と位置づけ、また前文の文章の配列を変更するなど
若干の改正を行ったが、大要に変更はない。その内容は以下のとおり。「ベトナム共産党
の領導の下で、その設立の日から今日にいたるまで、ベトナム労働組合は常に労働者階級
と民族の利益に忠実であり、工人、職員および労働者の運動を組織し祖国の事由と独立、
労働者の合法的で正当な利益のための闘争事業の先頭に立ってきた。そのすばらしい伝統
を発揮し、ベトナム労働総同盟は引き続き工人、職員および労働者を組織、動員して国土
の工業化、現代化事業の先頭に立っている。これは『民を富ませ、国を強くし、公平で民
主的で文明的な社会を実現する』という目標のためである。/ベトナム労働総同盟は、工
人階級、知識人階層および労働者が、勢力を集結、団結するため、力強い工人階級を建設
するため、労働者の権利と合法的で正当な利益を代表し防衛するため、独立し統一された
ベトナムを社会主義へ進めるよう奮闘するために自発的に設立する広範な政治-社会組織
である。/ベトナム労働総同盟は、大衆性を有し、また工人階級の階級性を有する。その
職務は、工人、職員および労働者の権利と合法的で正当な利益を代表すること、国家の管
理および経済、社会の管理に参加し、また国家機関および経済組織の活動の検査に参加す
ること、工人、職員および労働者を教育し動員して、国家の主人公としての権利を発揮さ
せ、公民の義務を実現させ、祖国ベトナムを建設、防衛させることにある。/ベトナム労
働総同盟は、ベトナム共産党によって領導されるベトナム祖国戦線のメンバーであり、国
家と合作関係にあり、各政治-社会組織およびその他の社会組織と協力関係にあり、ベト
ナム社会主義共和国の憲法と法律の枠内で活動する。/ベトナム労働総同盟は、国際的な
団結の伝統を発揮し、友好、団結、平等および互恵の原則の下で各国の労働組合や国際組
織との合作関係を強化、拡大し、労働者の利益のために、また平和、民主、民族独立、社
会の発展と進歩のために奮闘する」。
169
前文の日本語訳は、「労働組合法」日本労働研究機構『海外資料 No.9/ベトナム社会主
義共和国労働法典』一九九五年一一月所収による。
170
Hoi/上級組合により公認され、ベトナム労働組合に加盟するまでは、
「労働組合」
(cong
doan)とはみなされないわけである。
171
doi thoai,hiep thuong
172
ベトナム労働組合に対する共産党の領導の必要性と正当性を解説するものとして、
PGS.TS NGUYEN PHU TRONG,TIM HIEU SU LANH DAO CUA DANG DOI VOI CONG DOAN,NHA XUAT BAN
LAO DONG,2001 がある。ただし同書は専ら党とベトナム労働組合の歴史的連携に立脚した主
張を展開するものであり、法的観点は希薄である。
173
一九九七年にハノイ市の国営金属加工会社などで行った調査。
174
TONG LIEN DOAN LAO DONG VIET NAM-TRUONG DAI HOC CONG DOAN 前掲註111書 tr.41-42
175
kem theo
176
nguoi lao dong
177
chu truong
178
Hoi dong Nha nuoc
179
tham gia voi
180
Nguyen Duy Vy(Deputy Head of Legal Affairs,Vietnam General Confederation of
Labor),ROLE OF THE VIETNAM GENERAL CONFEDERATION OF LABOR IN PROMOTING DECENT WORK
IN VIETNAM(BO LAO DONG-THUONG BINH VA XA HOI,FRIEDRICH EBERT STIHTUNG:ASEM INFORMAL
SEMINAR“THE FUTURE OF EMPLOYMENT IN ASEM:THE DECENT WORK AGENDA IN A GLOBALISED
ECONOMY”,Ha noi,21-23.4.2004 における報告)
181
cung voi
182
don doc
183
tuyen dung(選用)
184
cho thoi viec
185
Chi thi(指示)
186
特に、集団的労働紛争解決システムを機能させるために下部労働組合組織が果たすべき
責任などについて規定している。
187
Nguyen Duy Vy 前掲註180報告
188
労働組合法第九条第一項
189
労働監督官の臨検における協力(労働法典第一八九条)など
190
mang luoi an toan vien
191
労働法典第一五四条第二項など
192
労働法典第一五四条第二項、
「労働組合法の施行を指導する」閣僚評議会の議定 133-HDBT
(一九九一年四月二〇日)第一七条など
193
労働法典第一五四条第三項
194
労働法典第一五五条第二項、133/HDBT 第一八条など
195
労働法典第一五五条第四項「使用者は、基礎労働組合執行委員会の委員である労働者を
解雇し、またはその労働契約を一方的に解約するときは、基礎労働組合執行委員会の同意
を得なければならない。当該労働者が執行委員会の委員長である場合は、直接上部の労働
組合の同意を得なければならない」。労働組合法第一五条第四項も同旨。
196
Cong doan nganh Trung uong
197
Cong doan tinh,thanh pho
198
Cong doan nganh dia phuong
199
Lien doan lao dong huyen(Lien doan Lao dong huyen,quan,thi xa,thanh pho thuoc tinh)
200
二〇〇三年ベトナム労働組合条例はさらに工業地区労働組合(第二三条)、総公司労働
組合(第二四条)およびその他いくつかの労働組合(第二五条)をここに位置づけている
が、本稿では取り上げない。
201
地方産別労組が省レベル労働同盟の指導下にあり、中央産別労組はこれを助ける役割に
あることについて、ベトナム労働総同盟の決定 1261/QD-TLD(一九九六年一一月二六日)
LUAT CONG DOAN VA CAC VAN BAN HUONG DAN THI HANH,NHA XUAT BAN CHINH TRI QUOC GIA,tr.294
所収参照。
202
nghiep doan(業団)
203
TONG LIEN DOAN LAO DONG VIET NAM-BAO LAO DONG,DE TAI NGHIEN CUU-NHUNG DIEM MAU CHOT
TRONG HE THONG PHAP LUAT LAO DONG,2002,Tr.9。なお二〇〇三年ベトナム労働組合条例第
三七条は、「労働組合の元来の資産(nguon von)による財産、国家から労働組合に対して
所有権の移転を受けた財産は、労働組合の所有に属する財産である。ベトナム労働総同盟
は、ベトナム労働組合組織の全ての財産の所有主である。各級労働組合は、ベトナム労働
総同盟から各財産の管理と使用の任務を与えられ、当該各財産の使用と管理に関してベト
ナム労働総同盟と法律の前に責任を負う」と規定している。
204
thong tri(通知)
205
一九九八年労働組合条例第一条「職業、性別および信仰にかかわらず、各経済セクター
に属する各事業体、各事業単位および国家機関、各政治-社会組織および社会組織におい
て賃金を得て働く(lam cong,an luong)すべてのベトナム人工人、職員および労働者、合
法的な自由業者、あるいは期間の定めのある契約に基づいて国外で働く労働者は、ベトナ
ム労働組合条例に賛成し、労働組合の基礎組織で活動することを志願し、規定に基づいて
組合費を納めれば、労働組合に加入することができる。」
206
私立学校の教員および民間の幼稚園または保育園の教員、社、坊、市鎮、県、市社、区
または省直属市の各級政権により賃金を支払われる社、坊または市鎮の医療機関幹部を含
む。
207
PHAP LENH CAN BO CONG CHUC(幹部、公職法令)02N/CTN(一九九八年三月九日)。法令
11/2003/PL-UBTVQH11(二〇〇三年五月八日)により一部改正。
208
事業体法 13/1999/QH10(一九九九年六月一二日)の規定する cong ty co phan
209
事業体法 13/1999/QH10(一九九九年六月一二日)の規定する doanh nghiep tu nhan
210
事業体法 13/1999/QH10(一九九九年六月一二日)の規定する cong ty trach nhiem huu han
211
ベトナム労働総同盟通知(THONG TRI)68/TTr-TLD(一九九九年五月二七日)第一条が事
業主の組合員資格を明確に否定した。ちなみに、一九九七年に筆者が行った調査では、事
業体における唯一の組合員が事業主というケースも確認された(ハノイ市内の小規模バス
修理工場の例)。
212
cai tao
213
このほか、たとえば「労働組合費の徴収を指導する」財政省とベトナム労働総同盟の合
同通達 76/1999/TTLT/TC-TLD(一九九九年六月一六日)は、使用者負担分の組合費の徴収
対象として国家行政・事業機関、武装勢力単位、政治組織、政治-社会組織、社会組織、
社会-職業組織、各経済セクターに属する(組合費の負担を免除されている外国投資企業
を除く)事業体を挙げ、それぞれについて規定しているので、(組合費の負担を免除され
ている外国投資企業を含む)右各労働使用単位がすなわち、ベトナム労働組合の組合員資
格を有する労働者の属する労働使用単位の範囲であることがわかる。
214
二〇〇三年ベトナム労働組合条例第二七条「ベトナム人民軍および人民公安における労
働組合はベトナム労働組合系統における産別労働組合組織であり、国防および治安勢力に
おける各生産、科学、技術、行政・事業、サービス単位で俸給を得て働く工人、職員およ
び労働者を集合させる。ベトナム人民軍および人民公安における労働組合の組織と活動は、
労働法およびベトナム労働組合条例の各規定を保障するという原則に立ち、国防省および
公安省の指導部との討論と一致を経た上で、ベトナム労働総同盟主席団により規定される」。
なお、一九九八年ベトナム労働組合条例第二四条も同旨の規定をおいていた。
215
公安には「人民公安労働組合幹事会」(BAN CAN SU CONG DOAN CONG AN NHAN DAN)、軍
には国防労働組合委員会(BAN CD QUOC PHONG)がそれぞれ存在する。他の産別労組とは名
称が異なるが、組織上の異同、具体的な活動内容などについてはほとんど情報がない。筆
者が関係者をインタビューしたところによれば、公安機関については全員がそれぞれ地域
労組に個人加入し(退役少佐)、軍においては経済活動を行う工廠など関連事業体の労働
者のみが当該職場の労働組合に加入している(現役中尉)。もっとも、たとえば軍につい
ては LAO DONG 紙が国境部隊労働組合の活動について紹介しているなど、軍人の少なくとも
一部は労働組合に加入していることが窺われる(Dai hoi dai bieu cong doan Bo doi Bien
phong
lan
thu
V:Phan
dau
75%-80%
CDCS
vung
manh
xuat
sac,BAO
LAO
DONG,18.7.2003,L.Nguyen)。
216
二〇〇四年一月に筆者が行ったインタビューにおけるベトナム労働総同盟幹部職員(総
同盟機関紙編集者)の回答など。
217
二〇〇三年一〇月に筆者が行ったインタビューにおいて Luu Binh Nhuong ハノイ法科大
学助教授は、①仮に社長の組合員資格が認められた場合は、社長もまたその他労働者と同
じ基礎労働組合の組合員となる(一つの職場単位内に労働組合が並存することは許されな
いことによる)、②その場合、たとえば株式会社であれば株主の代表と当該労働組合の間
で労働協約が締結されることになる、との見解を示された。なお、二〇〇四年一月現在、
社長に対する組合員資格の付与は実現の見込みが低い。したがって、そのような場合の例
に漏れず、この問題を取り上げた論文などが公表されたことは無いようである。
218
二〇〇三年ベトナム労働組合条例第一四条第一項 a。一九九三年ベトナム労働組合条例
における最少設立人数は一〇名であったが、一九九八年ベトナム労働組合条例第一四条第
一項において現在のように改正された。経済のドイモイにともない小規模民間セクターが
発展した結果労働者が一〇名未満の事業体が増加し、基礎労働組合の設立率および組織率
が低下したことなどが背景にあったものと考えられる。もっとも、そもそも基礎労働組合
の最少設立人数を規制する理由は明らかでない。
219
「労働法典の一部条項を修正、補足する」法律 luat35/2002/QH10(二〇〇二年四月一九
日公布、二〇〇三年一月一日施行)の施行から六ヶ月以内。
220
trach nhiem(責任)
221
「労働法典の一部条項を修正、補足する」法律 luat35/2002/QH10(二〇〇二年四月一九
日)第四二条による改正。ただし、このような臨時組合執行委員会および委員長の「指名」
については、既に一九九六年一一月一七日のベトナム労働総同盟主席団の決定 81/QD-TLD
に付帯して公布された「暫定労働組合組織の組織と活動に関する」規定第三条が規定して
いた。同決定は政府首相の公文書 5650/TCCB(一九九五年一〇月六日)による同意を経て公
布された法規である。なお、組合加入の自由原則の建前上この指名には強制力がないが、
指名された労働者にとっては事実上の強制になり得るものと思われる。
222
「暫定労働組合組織の組織と活動に関する」規定第一条。具体的には、ストライキを組
織する権限(第五条第一項)など。
223
「暫定労働組合組織の組織と活動に関する」規定第三条第四項
224
「(一九九八年)ベトナム労働組合条例の施行を指導する」ベトナム労働総同盟の通知
68/TTr-TLD(一九九九年五月二七日)第Ⅲ章 1.1。なお、右規定は、ここで言う条件の内容
として、五名以上(業団については一〇名以上)の組合員のほか、生産-経営ないし工作
上の特色、当該機関、単位の機能、任務および管理面における安定を挙げている。
225
議定 302-HDBT「Ⅲ-各機関(事業単位、国家機関、社会組織)における基礎労働組合の
権利と責任」第一六条「基礎労働組合は機関の長とよく協力し、幹部、工人および職員を
組織してプログラム(chuong trinh)、専門工作計画の作成と実現に参加させる。また、
機関の幹部、工人、職員を動員して職責と与えられた任務、プログラムおよび専門工作計
画をよく実現させるための競争運動を組織する」。第一七条「基礎労働組合は、工作の効
率を向上させるための組織または作業方法の改善、幹部、工人および職員の義務、権利お
よび利益に関連を有する各制度、政策および法律の実現につき、必要に応じて機関の長に
意見を述べる。機関の長と基礎労働組合は、閣僚評議会の議定 133-HDBT(一九九一年四月
二〇日)第七条および第一一条の規定に従って、幹部、工人および職員に対する賃金、賞
与、住居および懲戒処分に関する各問題の決定を実現しなければならない。機関の長は、
幹部、工人および職員の義務および利益に関連を有する合法的な各収入の、国家の方針、
制度、政策および法律に沿った分配と使用について、基礎労働組合と意見を交換(ban voi)
する。基礎労働組合と機関の長は、閣僚評議会の議定 241-HDBT(一九九一年八月五日)に
基づき、機関における人民監査委員会(Ban Thanh tra nhan dan)の組織と活動に関する
各規定を実現する責任を有する」。なお、労働組合法第一二条第二項の定めるところによ
り、国家の行政、事業機関(co quan Nha nhuoc,don vi su nghiep)が賃金、賞与、住居
に関する問題を決定する場合または労働者の解雇を決定する場合は、労働組合執行委員会
と協議し、合意を得なければならない。
226
doan vien,can bo,cong chuc,vien chuc va nguoi lao dong
227
thu truong hoac nguoi dung dau
228
Quy che dan chu
229
幹部、公職会議(hoi nghi can bo,cong chuc)
230
それぞれ、duong loi/chu truong(主張)
231
議定 302-HDBT「Ⅱ-各経済セクターに属する各事業体における基礎労働組合の権利と責
任」「A-国営事業体について」第七条「基礎労働組合は、労働者が事業体の管理について
意見を述べるために、事業体の監督と協力して工人職員大会を組織する。基礎労働組合は、
事業体の監督に対し、生産管理、技術、事業体に交付された国家資産の価値の維持と発展
およびすべての消極的現象の阻止闘争について意見を述べ、労働者の生産、経営および節
約実現の競争運動の組織と、議定 133-HDBT 第四条の規定する事業体の任務の勝利的完成に
おいて事業体の監督と協力する。基礎労働組合と事業体の監督は、閣僚評議会の議定
241-HDBT に基づき、事業体における人民監査委員会の組織と活動に関する各規定を実現す
る責任を有する」。第八条「賃金、賞与、住居および懲戒処分に関する問題を解決すると
きは、事業体の監督と基礎労働組合は、議定 133-HDBT 第一一条の規定を実現しなければな
らない。事業体の福利基金の使用は、国家の政策と法律に基づかなければならない。基礎
労働組合は、事業体の監督と協力して福利基金の使用計画を作成し、工人職員大会に提出
して討論し、決定する。福利基金を緊急の目的(天災、火災または疫病)のために使用す
る必要があるときは、事業体の監督は基礎労働組合とともに決定し、直近の工人職員大会
において報告しなければならない。基礎労働組合は、国家の政策と工人職員大会の決定に
反する福利財源の使用を検査し、これを停止させる権利を有する」。第九条「この規定に
基づき、ベトナム労働総同盟の同意を得た後、国防省は各国防企業における施行につき具
体的な指導を行う」。なお、労働組合法第一二条第二項の定めるところにより、国営企業
(xi nghiep quoc doanh)が賃金、賞与、住居に関する問題を決定する場合または労働者
の解雇を決定する場合は、労働組合執行委員会と協議し、合意を得なければならない。
232
giam doc(監督)
233
工人、職員大会(Dai hoi cong nhan vien chuc)
234
tham nhung
235
議定 302-HDBT「Ⅱ-各経済セクターに属する各事業体における基礎労働組合の権利と責
任」「B-各工業生産、工業サービス、建設、運輸合作社について」第一〇条「基礎労働組
合は、合作社の管理委員会および検査委員会と協力して合作社条例の規定に基づき社員大
会を組織し、全員を動員して社員大会の議決を実現する」。第一一条「基礎労働組合は、
合作社管理委員会による労働者の雇用の解決、効果的生産経営に意見し、労働者の生産労
働、経営および節約実現の競争運動を組織し、合作社条例に従って収入を分配、使用し、
労働者の生活に配慮し、国家の制度、政策および法律に違反する現象の阻止闘争を行う」。
第一二条「合作社において契約制度に基づいて働く労働者は、基礎労働組合に対し、国家
の政策と法律に基づく利益および締結した労働契約に関する各問題について自己を代表す
るよう提議する権利を有する」。
236
ban quan tri
237
社員大会(Dai hoi xa vien)
238
見舞い(tham hoi)と援助(giup do)
239
議定 302-HDBT「Ⅱ-各経済セクターに属する各事業体における基礎労働組合の権利と責
任」「C-私営事業体について」第一三条「基礎労働組合は、労働者集団を代表して事業主
と協議を行い労働協約を締結し、労働者における労働契約の締結を助け、労働に関する制
度、政策および法律の正しい実現や労働者の権利と利益に関連を有するその他の問題につ
いて事業主を監視し要求を行う権利を有し、また所轄の国家機関に対して事業体における
労働に関する法律その他国家の政策に関する違反の処理を建議する権利を有する。事業主
および基礎労働組合による自己の権利と利益に関連を有する問題の解決に同意しないとき
は、労働者または労働者集団は所轄の国家機関に対して建議を行う権利を有する」。第一
四条「労働者を解雇(buoc nguoi lao dong thoi viec)し、または期間の満了前に労働契
約を終了するときは、事業主は基礎労働組合と協議し同意を得なければならない。双方が
合意に至らないとき、または労働者が同意しないときは、労働紛争争の解決に関する法律
に基づき所轄の国家機関に送致する」。「D-外資系企業について」第一五条「これら各企
業における基礎労働組合の権利と責任は、閣僚評議会の議定 233-HDBT に付帯して公布され
た外資系企業に対する労働規制および右規制の施行を指導する労働・傷病兵・社会省の通
達 19-LDTBXH(一九九〇年一二月三一日)に基づいて実現される」。なお、各外資系企業に
対する労働規制の該当部分(第五章「労働組合」)は以下の通り規定している。第二八条
「企業に働く労働者は、労働組合法およびベトナム労働総同盟の条例に従って、労働組合
を設立し、活動する権利を有する」。第二九条「労働者の組織として、企業における労働
組合組織は全労働者の権利と合法的な利益を防衛し、労働者集団と企業の間の各問題にお
いて労働者集団を代表し、団体交渉(thuong luong tap the)を通じて当該企業の労働関
係を安定させ、生産の発展に寄与する機能を有する」。第三〇条「企業の監督は、労働者
の労働組合設立権、組合活動権を尊重し、労働組合の役割を尊重しなければならず、また
恒常的な意見交換、団体交渉のため、および労働組合の各機能の実現のために手段と情報
を提供し、有利な条件を整える責任を有する」。また、「外資系企業に対する労働規制の
施行を指導する」労働・傷病兵・社会省の通達 19-LDTBXH/TT(一九九〇年一二月三一日)
「Ⅴ.労働組合」は以下の通り規定している。一「企業の監督は、労働組合法および労働規
制第二八条、第二九条および第三〇条の規定するところに従い、労働組合の組織と活動に
関する各権利を尊重しなければならない」。二「労働組合執行委員会の主席、または執行
委員会から委任された者は、労働者の権利と利益に関連を有する各協議会に参加し、意見
を述べることができる」。三「労働規制第一六条(労働契約の一方的終了。筆者註)によ
り労働契約を終了するときは、企業の監督は労働組合執行委員会の意見を聴くことを要す
る。監督の決定に同意しない場合、労働組合執行委員会は労働紛争の解決を管轄する機関
に対して報告する権利を有する」。四「労働に関する政策または法律の執行における違反
を発見したときは、労働組合執行委員会は、企業の監督に対して当該政策または法律の正
しい実現を要求する権利を有する」。五「企業の監督は、労働組合の活動のために有利な
条件を整え、手段と情報を提供し、賃金、賞与、労働安全、労働衛生および企業の労働者
に関連を有するその他の事項について状況を知らせる責任を有する。労働組合は、労働者
を教育して労働契約を正しく履行させる責任を有する」。
240
Hoi dong hoa giai lao dong co so
241
ただし、業団を含む可能性がある(Nguyen Duy Vy 前掲註180報告)。
242
cac co so SXKD thuoc moi thanh phan kinh te
243
khoi cac co quan HCSN cua Dang, Nha nuoc,cac to chuc xa hoi,doan the…
244
前掲註33報告書 tr.2/BAO LAO DONG,24.9.2003,tr.1,2,TONG LDLDVN VA BAN TTVH TRUNG
UONG HOP BAO NHAN DIP DAI HOI Ⅸ CDVN:Dai hoi cua“Doan ket,tri tue,dan chu va doi
moi”
245
Ban To chuc TLD,CONG TAC TO CHUC,CAN BO CONG DOAN(前掲註33報告書 tr.33)
246
それぞれ、一六五万五〇〇〇人、三四万人、五一万四五二〇人。
247
前掲註245資料
248
「この五年間、各経済セクターにおける組合員の増加および労働組合組織の建設の工作は
重要な結果を達成した。組合員数および基礎労働組合数は従前より増加し、その分布には
大きな変化があった。非国営セクターおよび外資系セクターにおける組合員数および基礎
労働組合数は、その全体に占める割合を大きく増した。両セクターでは、この五年間に四
〇万人近くの組合員、四七三七の基礎労働組合および業団が新たに加わった結果、その組
合員は八五万人となり、基礎労働組合は一万四〇〇組合を超えた。これは組合員全体の二
〇%以上、基礎労働組合総数の一七%近くを占める数である。特に、工業の集中するいく
つかの省および都市においては五〇%を超えている。この五年間に基礎労働組合の総数は
六万一〇〇〇を超え、組合員数は四二五万人を超えた」(前掲註33報告書 tr.13)。
249
ちなみに堀田芳郎編著『新版世界の労働組合-歴史と組織-』日本労働研究機構二〇〇
〇年九月三五七頁は、二〇〇〇年時点でのベトナム労働組合全体の推定組織率を八五%と
し、また「公共サービス部門」、「国営企業」および「民営企業(非国営企業)」の組織
率をそれぞれ九五%、九〇%、七〇%としている。しかし、全体および「民営企業」の組
織率については、仮に二〇〇〇年時点のものとすればやや高すぎる。
250
BAO LAO DONG,5.10.2000,tr.2
251
BAO LAO DDONG,22.1.2001,tr.2 によれば、ハノイ市、ホー・チ・ミン市で六〇%から七
〇%。BAO LAO DONG,5.10.2000,tr.2 によれば、ハノイ市で約八一%、三万四一九八名。な
お、新聞で用いられる非国営(ngoai quoc doanh)には外資系企業が含まれる場合がある。
252
BAO Nguoi lao dong,10.11.2000,tr.3/BAO Nguoi lao dong,22.1.2001,tr.2
253
たとえば、Hai Phong 市の有限会社 Nam Hoa では従業員一二五三名中一二〇名、Ngoi Sao
社では約一〇〇〇名中五〇名しか組合に加入しておらず、このような事態は同市において
普遍的なものとなっている(BAO LAO DONG,24.11.2003,tr.2,HOANG HOAN,VIEC THU KINH PHI
CONG DOAN KHU VUC NGOAI QUOC DOANH O HAI PHONG:Chi co 3% chu doanh nghiep dong kinh
phi CDLD)。
254
BAO Nguoi lao dong,20.11.2002,tr.3
255
TONG LIEN DOAN LAO DONG VIET NAM,HOI THAO SUA DOI,BO SUNG MOT SO DIEU CUA BO LUAT
LAO DONG,7.2000,tr.5
256
cong chuc,vien chuc
257
前掲註33報告書 tr.29-30/BAO LAO DONG,14.10.2003,tr.1(1 trieu doan vien moi,LUU
QUANG)
258
前掲註245資料を基に作成。
259
国家セクターにおける基礎労働組合の急増はベトナム労働総同盟の公文書 105/TLD(二
〇〇〇年一月二五日)に基づく組織改編が実施されたためである。
260
前掲註245資料を基に作成。
261
二〇〇三年ベトナム労働組合条例第一四条第一項 b
262
BAO lao dong thu do,19.11.2002,tr.1,10
263
thanh pho truc thuoc trung uong
264
tap hop
265
chi dao(指導)
266
huong dan
267
huong dan,chi dao
268
Nguyen Duy Vy 前掲註180報告
269
quan
270
thi xa(市社)
271
thanh pho thuoc tinh
272
cap uy Dang
273
tham gia voi
274
phoi hop voi
275
それぞれ、khieu nai/to cao
276
Nguyen Duy Vy 前掲註180報告
277
前掲註245資料を基に作成。
tuong duong
278
279
増加分のうち六一三組合は県の教育労働組合(CDGD huyen)である。
280
doan the Trung uong
281
Bo,nganh
282
ただし、中央産業別労働組合のうちベトナム公務員労働組合(Cong doan Vien chuc Viet
Nam)が束ね、指導する下級労働組合の内訳については、別途ベトナム労働総同盟主席団が
規定する。(同項)。
283
huong dan,chi dao
284
幹部、公職会議、および工人、職員大会
285
huong dan,chi dao
286
chu dong phoi hop
287
xay dung quy che phoi hop chi dao de huong dan cac Cong doan co so
288
http://www.congdoanvn.org.vn/Cdnganh.htm
289
ベトナム労働組合ホームページ前掲註288で公開された各組合の情報を基に作成。
290
ベトナム石油・ガス労働組合(CONG DOAN DAU KHI VIET NAM)。一九九一年一二月一六
日設立。
291
ベトナム船舶総公司労働組合(CONG DOAN TONG CONG TY HANG HAI VIET NAM)。一九九
六年一一月二五日設立(ベトナム労働総同盟決定 1456/QD-TLD)。
292
ベトナム鉄道労働組合(CONG DOAN DUONG SAT VIET NAM)。一九四六年五月設立。ベト
ナム機関車救国工人会(Hoi Cong nhan cuu quoc hoa xa Viet Nam)を前身とする。
293
ベトナム工業労働組合(CONG DOAN CONG NGHIEP VIET NAM)。一九九七年四月五日設立。
294
ベトナム電力労働組合(CONG DOAN DIEN LUC VIET NAM)。
295
ベトナム交通運輸労働組合(CONG DOAN GIAO THONG VAN TAI VIET NAM)。一九六六年一
一月一八日設立(ベトナム総労働組合決定 669/QN)。
296
ベトナムゴム労働組合(CONG DOAN CAO SU VIET NAM)。
297
ベトナム銀行労働組合(CONG DOAN NGAN HANG VIET NAM)。一九九三年四月一日設立。
298
人民公安労働組合幹事会(BAN CAN SU CONG DOAN CONG AN NHAN DAN)一九九三年六月二
八日設立。
299
国防労働組合委員会(BAN CONG DOAN QUOC PHONG)。
300
ベトナム水産労働組合(CONG DOAN THUY SAN VIET NAM)。一九九二年一〇月二〇日設立。
301
ベトナム保健衛生労働組合(CONG DOAN Y TE VIET NAM)。一九五七年一二月二三日設立。
302
ベトナム建設労働組合(CONG DOAN XAY DUNG VIET NAM)。一九五七年三月一六日設立。
ベトナム基本建設労働組合(CONG DOAN XAY DUNG CO BAN VIET NAM)。ベトナム建築労働
組合(CONG DOAN KIEN TRUC VIET NAM)を前身とする。
303
ベトナム職員労働組合(CONG DOAN VIEN CHUC VIET NAM)。一九九四年七月二日設立。
304
ベトナム商業・旅行労働組合(CONG DOAN THUONG MAI VA DU LICH VIET NAM)。一九五
九年一一月一九日設立。
305
ベトナム農業部門・農村発展労働組合(CD NGANH NONG NGHIEP VA PHAT TRIEN NONG THON
VIET NAM)。一九九七年四月五日設立。
306
ベトナム印刷労働組合(CONG DOAN IN VIET NAM)。一九九五年四月一五日設立(ベトナ
ム労働総同盟決定 364/QD-TLD)。
307
ベトナム教育労働組合(CONG DOAN GIAO DUC VIET NAM)。一九五一年七月二二日設立。
308
ベトナム民用航空労働組合(CONG DOAN HANG KHONG DAN DUNG VN)。一九九〇年六月一
六日設立(ベトナム労働総同盟決定 516/QD-TLD)。
309
ベトナム逓信労働組合(CONG DOAN BUU DIEN VIET NAM)。一九四七年八月三〇日設立。
310
cap uy Dang
311
tham gia voi
312
phoi hop voi
313
Hoi dong trong tai lao dong
314
huong dan va chi dao
315
chi dao
316
党の議決、方針および計画を実現すること、当該地方の所轄国家機関と協力して労働に
関する検査と監視を行い、労働災害事案を調査し、労働者の申請、申立および労働紛争を
解決すること、使用者または国家機関との関係において、また訴訟の場において、労働者
を代表し、防衛すること、および、労働者のための各制度、政策の実現状況を検査、監視
すること。
317
huong dan,chi dao
318
工人、労働組合の文化会館(nha van hoa cong nhan,cong doan)
319
van phong tu van phap luat
320
quy hoach
321
dao tao
322
boi duong(培養)
323
それぞれ、Tinh uy(省委)/Thanh uy(城委)
324
phan cap(分級)
325
huong dan,chi dao
326
ハノイ(Ha Noi)、ハイフォン(Hai Phong)、ダナン(Da Nang)およびホー・チ・ミ
ン(Ho Chi Minh)の四市。
327
二〇〇三年一一月二六日、Can Tho 省、Dac Lac 省、Lai Chau 省は、Can Tho 市、Hau Giang
省、Dac Lac 省、Dac Nong 省、Lai Chau 省、Dien Bien 省の五省、一市に分割された。
328
前掲註○○ベトナム労働組合ホームページで公開された各組合の情報を基に作成。
329
工人一万五六七二人
330
工人四万人
331
工人七万二五〇人
332
工人一万五六八三人
333
工人三万三五九人
334
工人九〇〇〇人
335
工人五万九七一人
336
工人三万一四四三人
337
工人三万九二三九人
338
工人七万二八九五人
339
工人一万九八三一人
340
工人一万一九〇〇人
341
工人三万六五四九人
342
この規模の省で外資との合弁事業体の基礎労働組合が二四もあるのは不自然なので、非
国営事業体における基礎労働組合数の誤りと思われる。
343
工人一万六〇〇〇人
344
工人三万二五七一人
345
工人一万一四〇九人
346
工人一万九〇六一人
347
工人二万八三五七人
348
工人二三六六人
349
工人一万七一九二人
350
chuong trinh(章程)
351
chi dao va huong dan
352
chi dao
353
tham gia
354
それぞれ、Uy ban(委班)、Hoi dong(会同)
355
cu dai dien tham gia/正確には、参加する代表者の選出。
356
chuong trinh
357
chi dao
358
phoi hop voi
359
nghi ngoi
360
chi dao
361
Can bo chuyen trach
362
cong nhan truc tiep san xuat o cac co nganh mui nhon
363
それぞれ、can bo quan ly、can bo khoa hoc
364
本文で紹介したほか、主席団の総数は一九名とし、一名を主席、五名を副主席、一二名
ないし一三名を総同盟の機関で働く主席団委員、二名ないし三名を各中央産業別労働組合
で働く主席団委員、三名を各省級労働同盟で働く主席団委員とする予定である旨報じられ
た(BAO LAO DONG, 24.9.2003,tr.1,2,TONG LDLDVN VA BAN TTVH TRUNG UONG HOP BAO NHAN
DIP DAI HOI Ⅸ CDVN:Dai hoi cua“Doan ket,tri tue,dan chu va doi moi”
365
藤原前掲註111論文八一頁の表「労働組合組織略図」をベースとし、TONG LIEN DOAN LAO
DONG VIET NAM-TRUONG DAI HOC CONG DOAN 前掲註111書 Tr.60 の略図などを参考に一部
変更した。
366
huong dan
367
Bo Tai chinh
368
THONG TU LIEN TICH
369
co quan hanh chinh,don vi su nghiep であるが、co quan hanh chinh,su nghiep と略
されることもある。本稿では何れも行政・事業機関とした。
370
to chuc chinh tri
371
一九九九年以前の同旨の規定として、「労働組合費の徴収に関する」財政省の公文書
3649-TC/HCSN(一九九六年一〇月一五日)、「(一九九五年における)労働組合費の徴収
を指導する」財政省とベトナム労働総同盟の連名通達 103/TT-LB(一九九四年一二月二日)
などがある。
372
財政省と労働総同盟の合同通達 THONG THU LIEN TICH 126/2003/TTLT/TC-TLĐ(二〇〇三
年一二月一九日)により一部改正。
373
特に非国営セクターの事業体につき、「非国営各事業体に対する労働組合費納付方式の
指導に関する」財政省とベトナム労働総同盟の合同通達 74/2003/TTLT/BTC-TLD(二〇〇三
年八月一日)がある。
374
例外として、たとえばロシアとの合弁企業である Viet-Xo 石油社について、政府の公文
書 1184/CP-KTTH(一九九九年一一月九日)が事業体負担分の組合費(賃金総額の二%)の
徴収を規定している。なお、トヨタ・ベトナム社およびホンダ・ベトナム社のように年間
数 億 ド ン に 上 る 組 合 費 を 自 発 的 に 納 付 し て い る 外 資 系 事 業 体 も あ る ( BAO LAO
DONG,31.12.2003, tr.2,QUANG CHINH,VAN DE KINH PHI HOAT DONG CONG DOAN O CAC DOANH
NGHIEP CO VON NUOC NGOAI:Kinh nghiem tu Cty Honda va Toyota)。
375
二〇〇三年三月、ベトナム労働総同盟は政府に対して次のような提議を行った。「労働
組合の活動の条件をつくり、これを援助するために、ベトナム労働総同盟は以下のとおり
提議する。(略)政府は全ての経済セクターに属するあらゆる事業体は組合費を納めなけ
ればならない旨定めるべきである。第一に、首相に対して、外資系事業体から労働組合費
を徴収しない旨規定する決定 53/1999/QD-TTg 第四条第三項の破棄の検討を提議する。また
右規定が破棄されるまでの期間については、政府は二〇〇〇年五月二七日に行われたベト
ナム労働総同盟主席団との会合における Phan Van Khai 主席の結論的意見、すなわち政府
首相は外資との合弁事業体および大規模民間事業体に対して一定の範囲内において労働組
合 工 作 ( 組 合 に 対 す る 援 助 ) を 行 う こ と に 同 意 す る 旨 の 結 論 的 意 見 ( Thong bao so
76/TB-VPCP,26.6.2000,Ⅱ-8)の実現を継続することを提議する。同時に、各省、特に非国
営セクターの職場単位を多く有する各省について、非国営セクターの工人、労働者を集合
させるために労働組合組織に対して経済的援助を行うよう指導することを提議する」(BAO
LAO DONG,15.3.2003)。なお、国家の行政・事業機関、および国内企業における労働組合
費の負担は、その義務性の故にわが国における経費援助とはやや性質を異にするものであ
り、必ずしも使用者による支配介入、労組の弱体化を導くものではないと評価することも
可能である。たとえば、動力・農業機械総公司(TCty MDL&MNN)労働組合は、外資系事業
体に対する組合費負担義務の免除後、外資系事業体の基礎労働組合は従前よりも使用者に
対する従属性を増し、受動的になってしまったとの見解を示している(BAO LAO DONG 前掲
註374記事)。
376
Uy ban ke hoach Nha nuoc
377
国家予算の約〇.〇六%から〇.〇七%に相当した。二〇〇〇年度の決算および二〇〇
二年度の予算については NUOC CONG HOA XA HOI CHU NGHIA VIET NAM BO TAI CHINH,NGAN SACH
NHA NUOC Quyet toan nam 2000 & du toan nam 2002,NHA XUAT BAN TAI CHINH HA NOI,3.2002
を参照。
378
労働組合法第一五条第三項後段「専従幹部の給与はベトナム労働総同盟により一般方針
に従って定められ、労働組合基金から支払われる」、労働法典第一五五条第三項「専従組
合員の給与は労働組合基金により支払われるが、事業体の規定や団体協約により事業体の
他の労働者同様の権利、集団福利を享受する」。
379
BAO LAO DONG,24.9.2003,LE VAN DUONG (Chu tich LDLD Ham Thuan Nam,Binh Thuan),GOP
Y DU THAO VAN KIEN DAI HOI Ⅸ CONG DOAN VIET NAM,Can phai giai quyet nhung bat hop
ly!
380
du phong Ngan sach Trung uong
381
BAO Nguoi lao dong,2.8.2000,tr.3
382
khe uoc lam cong
383
giao keo
384
phu dong
385
tam tuyen
386
TRUONG DAI HOC LUAT HA NOI 前掲註67書 tr.120
387
dieu kien lao dong
388
hop dong khoan viec
389
TRUONG DAI HOC LUAT HA NOI 前掲註67書 tr.123
390
満一八歳はベトナムにおける成人年齢である(民事法典第二二条後段)。民法上の行為
能力と労働契約の締結能力の関係については、鈴木康二訳、著『ベトナム民法/条文と解
説』日本貿易振興会一九九六年六月二一頁参照。
391
直接的には労働法典第四条の細則を定めるものである。
392
Luat Doanh nghiep nha nuoc
393
Luat Doanh nghiep
394
cong chuc,vien chuc nha nuoc
395
それぞれ、si quan(士官)/ha si quan(下士官)/chien si(戦士)
396
xa hoi hoa(社会化)/民営化の意。
397
ngoai cong lap
398
それぞれ、ky ket(記結)/tham gia(参加)
399
満一五歳未満であっても労働契約を締結することはできるが、父母または法定代理人の
同意を得なければならない。
400
ただし、「国家行政・事業機関の一部職務における契約制度の実現に関する」政府議定
68/2000/ND-CP(二〇〇〇年一一月一七日)により、一部公務員についても労働契約制度が
適用されることとなった。このことにつき、さらに「国家の各事業単位における公務員の
採用、使用および管理に関する」政府議定 116/203/ND-CP(二〇〇三年一〇月一〇日)、「議
定 116/2003/ND-CP の一部条項の実現を指導する」内務省通達 10/2004/TT-BNV(二〇〇四年
二月一九日)、「各国家機関における公務員の採用、使用および管理に関する」政府議定
117/2003/ND-CP(二〇〇三年一〇月一〇日)、「議定 117/2003/ND-CP の一部条項の実現を
指導する」内務省通達 09/2004/TT-BNV(二〇〇四年二月一九日)、および「公務員の採用、
使用および管理におけるいくつかの問題の指導に関する」内務省公文書 537/BNV-CCVC(二
〇〇四年三月一五日)参照のこと。
401
Hoi dong nhan dan
402
chuyen trach(専責)
403
それぞれ、bau/cu ra
404
giu cac chuc vu
405
それぞれ、Tong giam doc(総監督)/giam doc(監督)/Pho giam doc(補監督)/Ke
toan truong(計算長)
406
Hoi dong quan tri doanh nghiep
407
Quy che(規制)
408
Luat Hop tac xa
409
それぞれ、tien luong/tien cong(銭工)
410
それぞれ、quan doi nhan dan/cong an nhan dan
411
quan nhan chuyen nghiep
412
mot cong viec nhat dinh
413
労働法典の一部改正(luat35/2002/QH10)により、期間の定めのある労働契約に関する
期間の定め方が、年単位から月単位に変更された。もっとも、各期間の長さ自体は変更さ
れていない。
414
労働法典の一部改正により、第二項から第三項に移動。
415
外資系企業は雇用サービスセンターを通じて求人を行わなければならず、三〇日間経過
後なお適当な人材を得られなかった場合にはじめて直接的に募集、採用を行うことができ
る旨規定していた。ただし、実際には上記雇用サービスセンターはあまり機能していなか
ったとされる。たとえば、労働科学、社会問題研究所が二〇〇〇年末に実施した調査によ
ると、外資系企業の労働者の六一.六七%は直接的に採用されていた。他の方法により採
用された労働者は少なく、特に雇用サービスセンターを通じて採用された労働者は一七%
し
か
い
な
か
っ
た
。
海
外
労
働
時
報
http://www.jil.go.jp/jil/kaigaitopic/2001_10/vietnamP01.html(「ベトナム 2001 年 10
月/外国投資企業 129 社の雇用状況と労働条件」)
416
TRUONG DAI HOC LUAT HA NOI,Giao trinh LUAT LAO DONG VIET NAM,NHA XUAT BAN CONG AN
NHAN DAN,11,1999,tr.130-131 および TRUONG DAI HOC LUAT HA NOI 前掲註67書 tr.136-137
/両書とも、労働契約締結過程におけるこのような交渉の内容と方法は法律に明記されて
いる(Phap luat qui dinh rang)としているが、筆者はそのような法規の存在を確認でき
なかった。
417
労働契約法令 44A-LCT/HDNN8(一九九〇年九月一〇日)以前も、有害または困難な仕事、
および労働者が満一五歳未満である場合については書面による労働契約の締結が義務付け
られていた。使用者による労働者の権利の侵害を予防し、当該契約の締結および実現に関
する所轄機関の検査を容易にすることを目的とする措置であった(TRUONG DAI HOC LUAT HA
NOI 前掲註67書 tr.130)
418
労働契約法令 44A-LCT/HDNN8(一九九〇年九月一〇日)第九条は、書面による労働契約
は労働・傷病兵・社会省の印刷、発行にかかる用紙によるべきこととした。また、「各外
資系事業体に対する労働規制」(閣僚評議会の議定 233-HDBT 一九九〇年六月二二日に付帯
して公布)や、「労働契約法令の施行細則を規定する閣僚評議会の議定 165-HDBT(一九九
二年五月一二日)の実現の指導に関する」労働・傷病兵・社会省の通達 04-LDTBXH/TT(一
九九三年三月一八日)第三条も、労働・傷病兵・社会省の発行にかかる用紙の使用を定め
ていた。また、右用紙については「労働契約用紙の発行、管理および使用に関する」労働・
傷病兵・社会省の決定 207/LDTBXH-QD(一九九三年四月二日)が具体的に定めていた。これ
に対し、労働法典(一九九四年七月五日)は労働契約用紙の特定を行わなかった。しかし、
一九九六年一〇月一二日、労働・傷病兵・社会省が「労働契約に関する政府の議定 198/CP
の一部条項の実現を指導する」通達 21/LDTBXH-TT を出し、その第二章「労働契約の形式、
内容および種類」第一条(Ⅱ-1)において、労働契約は上記 207/LDTBXH-QD に基づいて労
働・傷病兵・社会省が発行する用紙によるべき旨改めて規定した。
419
lao dong giup viec gia dinh
420
giao ket ban mieng/なお、口頭での契約は khau uoc(口約)と呼ばれることもある。
421
この場合の集団とは nhom(グループ)であり、その代表者(nguoi duoc uy quyen hop phap
thay mat cho nhom nguoi lao dong)は労働組合ではない。
422
試用契約も契約の一種であるが、正式な労働契約ではない。この契約においては、仕事の
内容、期間、賃金といった最も基本的な事項についてのみ合意される。正式な労働契約を締
結するための条件の一種と理解されている。束縛の程度も正式な契約ほど高くなく、当事者
はどの時点においても試用契約を解約することができる。ただし、労働法典第三二条の規定
するところにより、被試用者(労働者)が試用契約において合意した条件を満たしている
ときは、試用者(使用者)は当該契約を解約することができない。試用期間は、単純な仕事
については三〇日、複雑な仕事については六〇日を越えてはならない(前掲註416書
(Giao trinh…)tr.131 および TRUONG DAI HOC LUAT HA NOI 前掲註67書 tr.136-137)。
423
それぞれ、dieu khoan can thiet/dieu khoan tuy nghi(もしくは dieu khoan bo sung)
424
cong viec phai lam
425
TRUONG DAI HOC LUAT HA NOI 前掲註67書は、必要的合意事項を労働契約の成立に必要
不可欠な内容であるとし、そのいずれかにつき合意を欠く労働契約は無効であると説明し
ている(tr.128-129)。
426
Thanh tra lao dong
427
huong dan
428
luat35/2002/QH10
429
dinh uoc(停約)
430
bi tam giu,tam giam
431
「労働組合法の施行を指導する」閣僚評議会の議定 133-HDBT(一九九一年四月二〇日)
第六条中段「労働者の要求に基づき、労働組合は、労働契約に関する法律に従って、使用
者側との間における労働契約の締結を助ける」。
432
「各事業体、機関における基礎労働組合の権利と責任に関する」閣僚評議会の議定
302-HDBT(一九九二年八月一九日)第Ⅱ章「各経済成分に属する各事業体における基礎労
働組合の権利と責任」第六条後段「労働者が要求したときは、基礎労働組合は、法律に基
づいて当該労働者が事業体との間に個人の労働契約を締結することを助ける責任を有す
る」。
433
それぞれ、de xuat(提出)/kien nghi(建議)
434
労働法典第二七条から第三〇条まで、および、政府議定 198/CP 第二条、第三条、第四条
および第一二条。
435
to chuc theo doi phat hien kip thoi
436
theo doi,kiem tra,giam sat
437
can thiep yeu cau
438
cap uy Dang
439
chinh quyen
440
それぞれ、quy dinh(規定)/huong dan
441
それぞれ、da soat/doi chieu
442
chi dao,huong dan
443
使用者が労働契約を締結しない場合の罰則を定めるものとして、「政府議定 87/CP(一
九九五年年一二月一二日)および政府議定 88/CP(一九九五年一二月一四日)に規定する労
働契約不締結に関する行政違反処罰を指導する」労働・傷病兵・社会部通達 05/LDTBXH-TT
(一九九六年年二月一二日)がある。
444
DNTN
445
二〇〇三年九月二九日にホー・チ・ミン市労働・傷病兵・社会局が国会社会問題委員会
(Uy ban cac van de xa hoi cua Quoc hoi)に報告したところによれば、ホー・チ・ミン
市の各経済、社会セクターで働く労働者の総数は二三三万五六九九人であるところ、労働
契約を締結している者は一四二万八九〇二人で全体の六一.一八%。期間の定めのない契
約を締結している者は三五万七六九七人であり、労働契約未締結の者が多い職場は、縫製、
製靴、建設及び各小規模生産単位(co so san xuat nho le)である(BAO LAO DONG 前掲註
50記事)。
446
前掲註33報告書 tr.6/BAO lao dong thu do,19.11.2002,tr.10
447
この問題につき、ある新聞(紙名不詳二〇〇一年三月一二日六面)は次のように報じて
いる。「コンピューター、情報工学の普及した今日、少なくない事業体、特に多くの労働
者を雇用し、採用する事業体が、この非科学的な規定に縛られていることに不満の声をあ
げている。なぜなら、労働・傷病兵・社会省自身が印刷、販売する労働契約用紙によって
しか労働契約を締結できず、労働契約書面の作成、管理その他関係するいろいろな問題の処
理のために不必要な出費と時間の浪費を強いられるからである。そこで、次のような提議
を行う事業体が現れるようになった。すなわち、『内容面については労働・傷病兵・社会
省による用紙と完全に同じ物にするので、すなわち、紙の色くらいしか異ならないものを
つくるので、独自に労働契約用紙をコンピューターで作成、保存することを認められたい』
というものである。しかしながら、ある省(tinh)の労働・傷病兵・社会局労働・賃金室
長は次のように述べる。『あらゆる労働契約は、労働・傷病兵・社会省が“特殊な紙”を
用い、“専権により印刷する”用紙により締結されなければならない』。たとえ、省レベ
ルでの管理機関である労働・傷病兵・社会局であってもこれを印刷することは許されず、
一様に労働・傷病兵・社会省のものを購入し、それを各使用者に再販売しなければならな
いのである。この幹部(室長)もまた、次の点について認めている。すなわち、『問題は、
多大な時間の浪費である。労働・傷病兵・社会省は、事業体に対して適時に用紙を供給す
ることができないことが多い』と。もし事業体が労働者と労働契約を締結し、その内容面
については規定されたところを十分に満たしているにもかかわらずこの『専権』をもって
印刷された用紙を使用していなかったという場合についてはどのように解決されるのかと
いう質問に対して、同室長は、『おそらく労働法典違反行為の処罰に関して規定する議定
38/CP に基づいて監督官により処罰されることになるだろう』と述べた」。
448
前掲註40資料を基に作成。
449
いくつかの地方における労働法典施行状況の検査結果に基づく数値。
450
ky luat lao dong
451
trach nhiem vat chat
452
cong nhge(工芸)
453
「労働紀律制度とは、事業体、機関、組織に対する労働者および使用者の義務、責任を規定
する各法規範の総合であり、その任務、責任を執行しないか、または十分に執行しない労働
者に対する処分形式を規定するとともに、それを模範的に執行する労働者を奨励する手段
をも規定するものである」(TRUONG DAI HOC LUAT HA NOI 前掲註67書 tr.221)。
454
具体的な適用対象は「労働紀律および物的責任に関する」政府議定 41/CP(一九九五年
年七月六日)第一条が規定している。国家公務員等の労働関係については別に規定が有る。
なお、同議定第二条は適用除外対象を限定列挙していたが、適用対象を定める第一条のみ
で十分であるとの理由から、政府議定 33/2003ND-CP(二〇〇三年四月二日)により失効し
た。
455
労働法典第八二条第三項(改正後)は労働に関する省級の国家管理機関としているが、
政府議定 33/2003/ND-CP(二〇〇三年四月二日)により労働・傷病兵・社会局と特定された。
456
政府議定 33/2003/ND-CP(二〇〇三年四月二日)は、活動中の職場単位に対する就業規
則の登録期限を同議定の発効(公布の一五日後)から六ヶ月以内としている。
457
phai tham khao y kien
458
nhan duoc
459
労働法典第八二条第三項は一〇日としているが、政府議定 33/2003/ND-CP(二〇〇三年
四月二日)がこれを一〇労働日とした。
460
thong bao
461
thong bao
462
loi
463
それぞれ、loi co y/loi vo y
464
それぞれ、loi vo y do cau tha/loi vo y vi qua tu tin
465
TRUONG DAI HOC LUAT HA NOI 前掲註67書 tr.235
466
ちなみに、労働法違反行為の処罰(もっぱら使用者に対する適用を想定)においては複
数の違反行為について各行為ごとにこれを処罰する原則が採用されている(「労働法違反
行為に関する行政処罰を規定する」政府議定 48/CP(一九九六年六月二五日))。
467
tru dap,tra thu
468
TRUONG DAI HOC LUAT HA NOI 前掲註67書 tr.233-234
469
vi pham(違反)
470
pham loi
471
xu ly(処理)
472
khien trach(譴責)
473
cach chuc(革職)
474
sa thai
475
xem xet
476
luat su(律師)
477
議定 41/CP 第八条に規定。
478
thoi hieu(時効)
luat35/2002/QH10 による改正。
479
480
TRUONG DAI HOC LUAT HA NOI 前掲註67書 tr.239
481
同上
482
khong nghiem trong
483
この場合に限らず、労働者の賃金の一部を控除して支払う場合、使用者は基礎労働組合
執行委員会と事前に協議しなければならない(労働法典第六〇条)。右義務に違反した使
用者に対しては一〇万ドンから五〇万ドンの罰金が新たに規定された(「労働に関する各
法律違反行為の行政処罰を規定する」政府議定 133/ND-CP(二〇〇四年四月二〇日。同年五
月一日施行))。
484
責任契約(hop dong trach nhiem)が締結されているときは責任契約による。なお、TRUONG
DAI HOC LUAT HA NOI 前掲註67書は、多くの場合、労働者は損害の価値よりも低い賠償を
行うだけでよく、その賠償期間中の生活を保証されているとする(tr.244)。
485
TRUONG DAI HOC LUAT HA NOI 前掲註67書 tr.77
486
TRUONG DAI HOC LUAT HA NOI 前掲註67書 tr.239-232/なお、「奨励、褒賞」に関する
労働組合の提議は業務に直接関連しない事柄にも及んでいる。たとえば、路上でひったく
り犯を取り押さえたタクシー運転手に対する表彰を使用者に提議した例として、BAO Nguoi
lao dong,12.1.2001,tr.3 がある。
487
TRUONG DAI HOC LUAT HA NOI 前掲註67書 tr.83
488
政府議定 41/CP はこの期間を三〇日としていたが、政府議定 33/2003/ND-CP により短縮
された。
489
sai
490
huy bo
491
xin loi cong khai
492
quyen loi vat chat
493
huong dan
494
tap hop khe uoc
495
TRUONG DAI HOC LUAT HA NOI 前掲註67書 tr.90
496
thay mat
497
Hoi dong Chinh phu
498
hop dong tap the
499
「集団契約とは、企業の生産計画義務の完遂と工人、職員の生活の改善における双方の
権利と義務の確定を目的として企業の長と労働組合執行委員会との間で締結される文書で
ある。/集団契約は、工人、職員に集団主人精神(tinh than lam chu tap the)を発揮さ
せ、生産計画の完遂と企業における生活条件の改善に関する企業の長(giam doc)と労働
組合執行委員会により代表される工人、職員の間の同志的合作関係(quan he hop tac dong
chi)を強固にし、増強させるための重要な法理論的工具である。集団契約制度は、「各国
営企業における集団契約の締結に関する」政府評議会の議定 172/CP(一九六三年一一月二
一日)に付帯して(kem theo)公布された臨時条例において規定された」。「集団契約は、
以下の各原則に従って締結される。すなわち、工人、職員の幅広い(rong rai)討論を経
た上で企業の長と労働組合執行委員会が社会主義的自覚を持って合作すること、国家計画
以上の成果を達成し現行(当時)法令(luat le)において規定された工人、職員の権利利
益を保障すること、および、集団契約が法的効力を有した後は双方ともに施行の責任を有
すること、という各原則である」。「集団契約書面の内容は以下のものを含む。すなわち、
奮闘(phan dau)と企業の生産計画以上の成果の達成について、労働保護(bao ho lao dong)
について、労働法令(luat le lao dong)の施行について、および、工人労働者の政治、
文化、職業技術の向上の問題についてである」。「集団契約の締結は法律の規定する手続
により実現される」(Pham Cong Tru (van hung tac gia khac)前掲註152書 tr.51-52)。
また、集団契約制度について TRUONG DAI HOC LUAT HA NOI 前掲註67書は、「計画経済の
もとで企業において締結された集団契約は、今日の労働協約と比較すると未だ明確に労働
関係各側の責任、義務および権利を体現するものではなかった」と評価している(tr.90-91)。
なお、筆者は集団契約が規定されていた臨時条例を未入手であり、その内容を直接確認で
きていない。
500
ただし、藤原前掲註111論文は、この時期のベトナム労働組合と労働者の関係におけ
る諸矛盾の存在を指摘している。
501
直接的には、「各事業体、機関における基礎労働組合の権利と責任に関する」閣僚評議
会の議定 302-HDBT(一九九二年八月一九日)の「Ⅱ(各経済成分に属する各事業体におけ
る基礎労働組合の権利と責任)」第六条前段「労働者集団が労働協約の内容につき討論し、
一致した後、基礎労働組合は労働者を代表して事業体の長との間に労働協約を締結する」
を取り込んだものである。
502
tap the lao dong/tap the nguoi lao dong も同義。
503
dieu kien lao dong(労働条件)
504
閣僚評議会の議定 388/HDBT(一九九一年一一月二〇日)に基づいて設立される事業体
505
「労働協約に関する労働法典の一部条項の細目を規定し施行を指導する政府議定 196/CP
(一九九四年一二月三一日)の一部条項を修正、補足する」政府議定 93/2002/ND-CP(二〇
〇二年一一月一一日)。同議定第一条第一項各号の規定する労働協約の適用対象事業体、
組織は、「国営事業体法、事業体法またはベトナムにおける外国投資法に基づいて設立さ
れ、活動する事業体」(a)、「各行政、事業機関、政治組織および政治―社会組織の各生
産、経営、サービス基礎」(b)、「合作社法に基づいて設立される合作社であって、労働
契約に基づく労働者を使用するもの」(c)、「社会化(xa hoi hoa)を奨励する政府議定
73/1999/ND-CP(一九九九年八月一九日)に基づいて設立される民間の各教育、医療、文化、
スポーツ基礎」(d)、および「ベトナム社会主義共和国が締結または参加する国際条約に
別の規定がある場合を除き、ベトナムの領土上で活動する国際または外国の機関、組織で
あって、労働契約に基づいてベトナム人労働者を使用するもの」(đ)である。
506
それぞれ、tu nguyen(自願)/binh dang(平等)/cong khai(公開)
507
前掲註416書(Giao trinh…)tr.96
508
NGUYEN VAN SON–DAO THANH HAI–MAI TRUC ANH,HUONG DAN THUC HIEN LUAT CONG DOAN,NHA
XUAT BAN LAO DONG,Ha Noi,1999,tr.111
509
前掲註416書(Giao trinh…)tr.97
510
党中央委員会第六回大会において提唱された。dan biet,dan ban,dan lam,dan kiem tra
(people's knowledge,people's discussion,people's work,people's control)
511
前掲註416書(Giao trinh…)tr.97-98
512
viec lam va bao dam viec lam
513
それぞれ、thoi gio lam viec/thoi gio nghi ngoi
514
それぞれ、tien luong/tien thuong/phu cap luong
515
dinh muc lao dong
516
an toan lao dong/ve sinh lao dong
517
bao hiem xa hoi
518
tam ngung viec
519
前掲註416書(Giao trinh…)はさらに、事業の縮小に際しての労働者保護制度、労
働契約の実現に関するチェックや紛争の解決における「労働者集団」の代表(すなわち基
礎労働組合)の権限と責任などを挙げている(tr.101)。
520
bo tri ca kip
521
前掲註416書(Giao trinh…)はさらに長期勤続労働者に対する優遇制度などを挙げ
るほか、年休制度に関連して、未消化年休の取り扱い(買い取り)に関する事項をここに
含めている(tr.101-102)。
522
ちなみに、賃金表(およびノルマ表)の作成義務に違反した使用者については「労働に
関する各法律違反行為の行政処罰を規定する」政府議定 133/ND-CP(二〇〇四年四月二〇。
同年五月一日施行)が一〇万ドンから五〇万ドンの罰金を定めている。
523
luong khoan
524
dot xuat
525
前掲註416書(Giao trinh…)はさらに、賃金遅払いの場合の賠償方式、精勤や節約
または生産高に応じた表彰制度などを挙げている(tr.102)。
526
前掲註416書(Giao trinh…)はさらに、物資・原料の節約に関する各ノルマなどを
挙げている(tr.102-103)。
527
528
thuong luong
旧規定においては「暫定労働組合組織」とされていたが、労働法典の一部改正
(luat35/2002/QH10)により「暫定労働組合執行委員会」と改正された。
529
さらに、政府議定 196/CP 第三条第一項、同 93/2002/ND-CP 第二条。
530
dieu le to chuc doanh nghiep
531
y kien chi dao
532
労働法典第四五条第一項はこの人数を双方同数とする規定を置いていたが、同法典の一
部改正(luat35/2002/QH10)により削除された。
533
国営事業体については工人、職員大会(Dai hoi cong nhan vien chuc)、民間セクター
の事業体については民主会議(Hoi nghi dan chu)。
534
労働・傷病兵・社会局への登録は、「労働協約の施行の指導に関する」労働・傷病兵・
社会省の公文書(CONG VAN)1479/LDTBXH に付帯して公布された様式により行う。
535
労働協約は省級の労働機関(労働・傷病兵・社会局)に登録された日から効力を有する
こと、省級の労働機関は労働協約を受領した日から起算して一五日以内にこれを審査し、
使用者および労働組合の双方に文書でその結果(登録)を通知すること、労働協約に違法
のある場合はこれを指摘するとともに双方に対して再登録のための修正を指導(huong dan)
すること、および右期限を過ぎても省級の労働機関が通知を行わない場合は、労働協約は
自動的に発効することが定められていた。なお、政府議定 196/CP 第五条第三項も同旨。
536
luat35/2002/QH10
537
労働法典第四七条第二項の改正にあわせて、労働法典第四八条第一項は、「労働協約は
協約の中の一つもしくはいくつかの条項が省級の労働機関によって承認されないときは当
該部分について無効と見なされるが、登録されたその他の条項は効力を有する」から「労
働協約は協約の中の一つもしくはいくつかの条項が法律の規定に反するときは当該部分に
ついて無効と見なされる」に改正された。
538
労働法典第四七条第二項の改正にあわせて、同法典第四八条第二項 d「省級の労働機関
に登録されなかったとき」は削除された。
539
sap nhap
540
hop nhat
541
be tac
542
Vien khoa hoc va cac van de xa hoi
543
TRAN THUY LAM,MOT SO VAN DE VE THOA UOC LAO DONG TAP THE(労働協約に関するいく
つかの問題について),tap chi Luat Hoc so2,2002 が紹介している(tr.22)。なお、右論
文はこのような状況を踏まえてベトナム労働組合による協約締結権の独占の妥当性を再検
討し、結論としてこれを承認している。ただし、その論旨は必ずしも明確でない。
544
前掲註33報告書 tr.6
545
luat35/2002/QH10
546
Le Quang Chien
547
Le Quang Chien(Pho truong Ban Phap luat-Tong LDLD Viet Nam),THAM LUAN VE MOT SO
GIAI PHAP GOP PHAN HOAN THIEN THOA UOC TAP THE,TONG LIEN DOAN LAO DONG VIET NAM(HOI
THAO SUA DOI,BO SUNG MOT SO DIEU CUA BO LUAT LAO DONG)7.2000,tr.4-5/Le Quang Chien ,Ve
mot so giai phap hoan thien che dinh thoa uoc tap the,LAO DONG & CONG DOAN (LABOUR
AND TRADE UNION REVIEW),CO QUAN CUA TONG LIEN DOAN LAO DONG VIET NAM,7,2000,tr.31
548
なお、「労働法典の一部条項を修正、補足する」法律およびその施行を指導する諸文書
における労働協約制度に関する改正点について、ThS.TRAN THUY LAM,Mot so diem moi ve thoa
uoc lao dong tap the theo Luat sua doi,bo sung mot so dieu cua Bo luat lao dong va
van ban huong dan thi hanh,TAP CHI LUAT HOC,So thang3-2003,tr.47
549
前掲註40資料を基に作成。
550
che do bao ve suc khoe
551
「国家は労働保護政策、制度を公布する。国家は、国家公務員(vien chuc Nha nuoc)
および賃金労働者(nhung nguoi lam cong an luong)に対する労働時間、賃金制度、休暇
制度および社会保険制度を規定し、労働者に対するその他の各社会保険形式の発展を奨励
する」。なお前掲註416書(Giao trinh…)は、右規定を労働者としてその健康、安全
および衛生を保障される公民の基本的権利を規定するものと評価している(tr.185)。
552
co so(基礎)
553
それぞれ、tieu chuan(標準)/quy trinh(規程)/quy pham(規範)
554
前掲註416書(Giao trinh…)tr.185-
555
co so(基礎)
556
phai co luan chung
557
trang bi phong tien ca nhan
558
kham suc khoe
559
boi duong(培養)
560
hien vat(現物)
561
例外職種は労働・傷病兵・社会省が規定する(労働法典第一二〇条前段)。
562
人格の健全な発達に悪影響を与える職場での未成年者の使用禁止、および該当する職場
のリストの公布は、労働法典の一部改正(luat35/2002/QH10)により加えられた。
563
労働・傷病兵・社会省および厚生省がリストを公布する。
564
例外職種は労働・傷病兵・社会省が規定。
565
労働法典第一二三条。同法典第一二四条第一項により使用が認められている。
566
労働・傷病兵・社会省および厚生省がリストを公布する。
567
本文中に挙げる各法規の他、ベトナム労働組合の内部規定として、ベトナム労働総同盟
主席団の議決 01/TLD(一九九五年四月二一日)がある。
568
chuong trinh(章程)
569
xay dung
570
xay dung
571
tham gia voi Chinh phu
572
van dong(運動)
573
bao ve moi truong
574
quyen(権)
575
nguoi thuc hien bao hiem
576
nguoi tham gia bao hiem
577
nguoi duoc bao hiem
578
Bao hiem xa hoi Viet Nam/「ベトナム社会保険の機能、任務、権限および組織機構を
規定する」政府議定 100/2002/ND-CP(二〇〇二年一二月六日)
579
Hoi dong quan ly bao hiem xa hoi Viet Nam
580
労働法典の一部改正(luat35/2002/QH10)により新たに規定された。労働契約関係の終
了した労働者は企業内部に設置される基礎労働調停協議会を利用できないことによる。
581
tong san pham quoc dan
582
TRUONG DAI HOC LUAT HA NOI 前掲註67書 tr.251-253
583
さらに、「社会保険条例の一部条項の修正、補足に関する」政府議定 01/2003/ND-CP(二
〇〇三年一月九日)、「政府議定 12/CP の一部条項の施行を指導する」労働・傷病兵・社
会省の通達 06/LDTBXH-TT(一九九五年四月四日)などがある。なお、人民軍および人民公
安の士官、専業軍人、下士官および兵士(binh si)に対する社会保険制度については、別
途、政府議定 45/CP(一九九五年七月一五日)に付帯して公布された「人民軍および人民公
安の士官、専業軍人、下士官および兵士に対する社会保険条例」およびその一部条項の施
行を指導する政府議定 89/2003/ND-CP(二〇〇三年八月五日)などが、武装勢力における労
働の特殊性の観点から一定の優遇措置を定めている。たとえば、疾病手当を給与額の一〇
〇%とする、妊娠出産手当の受給期間を五ヶ月以上とする、退職金の受給開始年齢を五歳
引き下げるなどである。
584
che do tro cap om dau
585
che do tro cap tai nan lao dong,benh nghe nghiep
586
che do tro cap thai san
587
che do huu tri
588
che do tu tuat
589
che do bao hiem y te
590
thay thuoc
591
労働・傷病兵・社会省通達 06/LDTBXH-TT(一九九五年四月四日)B-Ⅰ-5
592
TRUONG DAI HOC LUAT HA NOI 前掲註67書 tr.262
593
dieu kien lao dong(労働条件)/前掲註80参照。
594
TRUONG DAI HOC LUAT HA NOI 前掲註67書 tr.262
595
hoi dong giam dinh y khoa
596
dieu kien lao dong(労働条件)/前掲註80参照。
597
che do mai tang phi
598
che do tro cap tien tuat
599
「ベトナム労働総同盟による五%の社会保険財源の徴収に関して暫定的に指導する」財
政省とベトナム労働総同盟の合同通達 05/TT-LB(一九九四年一月一二日)
600
ベトナム政府の法文書検索サービス http://vietlaw.gov.vn/が提供する「社会保険工作
に関する労働組合の活動を指導する」ベトナム労働総同盟の通知 99/TLD(一九九六年七月
二日)の前文によれば、財政省とベトナム労働総同盟による通達 86/TB-TT がこのことを規
定していた。ただし、筆者は右通達を未入手のため原文を確認できていない。
601
tham gia voi
602
cong nhan lao dong
603
chi dao,huong dan
604
huong dan
605
co so(基礎)
606
to chuc tham hoi
607
phoi hop voi
608
労働組合法第八条第二項は、使用者と共に(cung)労働者の文化的生活、スポーツ(the
duc,the thao)活動、レクリエーション(nghi ngoi)および旅行活動を組織することを労
働組合の責任として規定している。また、このような活動に用いられる集団的福利厚生基
金(quy phuc loi tap the)については、労働組合が使用者と協力して(phoi hop voi)
管理し、使用すること(同条三項)、基礎労働組合は、使用者と協力して右基金の使用計
画を立て、職場大会にこれを諮り、右大会の議決の執行状況を検査する任務を有し、使用
者による基金の使用に議決違反のあるときはその使用を停止させる権利を有すること(議
定 133-HDBT(一九九一年四月二〇日)第八条)が規定されている。社会保険条例以前、集
団的福利厚生基金は社会保険制度の一つと位置づけられ(「賃金労働および社会労働に関
する閣僚評議会の決定 217/HDBT の実現を指導する」労働・傷病兵・社会省の通達 01/LD-TBXH
(一九八八年一〇月九日)など)、その財源としては国営事業体の収入の一部が国家によ
り再分配されていた(「国家の各生産、経営基礎における集団的福利厚生基金の使用の管
理制度に関する」ベトナム総労働組合の通達(thong tu)5-TT/TCD(一九八〇年二月一九
日)など)。しかし、現行の社会保険制度における同基金の取り扱いについては、筆者の
研究が至らないため明かでない。社会保険条例は同基金について規定していない。
609
dong chi lanh dao
610
より正確には、「基礎より上級の労働組合(cong doan cap tren co so)」であるが、
ここでは「県級労働組合」とした。具体的には県級労働同盟、地方産業別労働組合などが
これに当たる。
611
phoi hop voi
612
chi dao,huong dan
613
tra loi
614
cham lo
615
chi dao,huong dan
616
phoi hop,tham gia
617
don vi(単位)
618
tham gia cung voi
619
Hoi dong giam dinh Y khoa tinh
620
tham gia(参加)
621
cu dai dien tham gia
622
bao hiem xa hoi tinh
623
労働組合法第九条、政府議定 19/CP(一九九五年二月一六日)第四条、および政府首相
の決定 606/TTg(一九九五年九月二六日)に付帯して公布されたベトナム社会保険の組織と
活動に関する規制第一条
624
Giam doc(監督)
625
khieu nai
626
chi dao,huong dan
627
chi dao,huong dan
628
dieu kien lao dong(労働条件)
629
huong dan
630
それぞれ、Bo(部)/nganh
631
cung voi
632
thong nhat huong dan
633
phoi hop voi
634
phoi hop voi
635
それぞれ、lanh dao(領導)/chi dao(指導)
636
phoi hop voi
637
Uy ban kiem tra Tong Lien doan
638
第七期ベトナム労働総同盟執行委員会の議決 4A/NQ-TLD(一九九六年一月五日)MucⅡ
-2-c、ベトナム労働総同盟主席団の規定(Quy dinh)432/QD-TLD(一九九六年四月一八日)
第八条および第九条
639
Hoi dong giam dinh Y khoa Trung uong
640
tham gia(参加)
641
tong hop danh gia
642
BAO lao dong thu do,14.10.2003,tr.1,4,THU HA,85%DOANH NGHIEP NGOAI QUOC DOANH
KHONG THAM GIA BAO HIEM XA HOI(ハノイ市についての統計も紹介している)/ホー・チ・
ミン市について、BAO Nguoi lao dong,13.10.2003,tr.14
643
上掲 BAO lao dong thu do,14.10.2003,tr.1,4
644
前掲註40資料を基に作成。
645
Nguoi lao dong bi ket an tu giam
646
Yen Bai 省のある労働組合員は、このような労働者の予告退職権の存在が使用者が期間
の定めのない労働契約の締結を忌避する原因となっているとし、その対策として短期間で
退職する労働者に対して養成費用(phi dao tao)の返還を義務づける方向で「労働契約に
関する労働法典の一部条項の細目を規定し施行を指導する」政府議定 44/2003/NDCP(二〇
〇 三 年 五 月 九 日 ) の 関 係 条 項 を 改 正 す べ き こ と を 提 言 し て い る ( BAO LAO
DONG,17.5.2004,Phi Quang)。
647
dieu kien lam viec
648
ちなみに、賃金の直接、全額、定期および就業場所での支払い原則違反、および賃金遅
払いに対する補償義務違反については、「労働に関する各法律違反行為の行政処罰を規定
する」政府議定 133/ND-CP(二〇〇四年四月二〇日。同年五月一日施行)が一〇〇万ドンか
ら五〇〇万ドンの罰金を定めている。
649
Ban than hoac gia dinh that su co hoan canh kho khan khong the tiep tuc thuc hien
hop dong
650
duoc bau lam nhiem vu chuyen trach o cac co quan dan cu
651
duoc bo nhiem giu chuc vu trong bo may nha nuoc
652
労働法典の一部改正(luat35/2002/QH10)により追加。
653
thuong xuyen khong hoan thanh cong viec theo hop dong
654
TRUONG DAI HOC LUAT HA NOI 前掲註67書 tr.141
655
luat35/2002/QH10
656
dao tao
657
賃金および手当の半月分の賠償義務は労働法典の一部改正(luat35/2002/QH10)により
追加された。
658
thay doi co cau hoac cong nghe
659
tro cap mat viec lam/なお、失業手当制度の詳細を規定するものとして、「雇用に関
する労働法典の一部条項につき細目を規定し施行を指導する」政府議定 39/2003/ND-CP(二
〇〇三年四月一八日)などがある。
660
Luat pha san doanh nghiep 30-L/CTN(一九九四年一月一〇日)
661
so lao dong
662
trao doi
663
nhat tri
664
phai chiu trach nhiem be quyet dinh cua minh
665
前掲註36報告書
666
ベトナム民主共和国成立から労働法典公布までの労働紛争処理立法に関しては、NGUYEN
QUANG MINH が 裁 判 官 教 育 の た め に 執 筆 し た 論 文 NGUYEN QUANG MINH,DE CUONG BAI
GIANG:TRANH CHAP LAO DONG VA GIAI QUYET TRANH CHAP LAO DONG,KHOA I.1996(未公刊)
中に簡潔にまとめられている。本節の内容は基本的に同論文の該当箇所に依拠している。
667
che do lam chu tap the
668
bat dong trong lao dong
669
NGUYEN VAN TAO-HAI NAM,XET XU CAC tranh chap trong lao dong,NHA XUAT BAN PHAP
LY,7.1986 によると、「労働における紛争(Nhung viec tranh chap trong lao dong)」は、
「労働紛争(Tranh chap lao dong)」よりも内容において広く、そこには「労働紛争」の
ほか、労働と学習におけるその他の各紛争が含まれた。なお、QD10/HDBT の適用対象は、①
国家公務員、職員の懲戒免職に関する紛争、②国内で職業を学ぶ学生、外国において職業を
学ぶ学生、職業を教える教師および生産実習生の国家に対する養成費用の賠償または規律
処分に関する紛争、③外国での労働合作に赴いたが紀律処分により契約期間の途中で帰国
させられた労働者に関する紛争、④賃金労働者と私営雇用主の間の紛争、の各紛争類型だっ
た(tr.7)。
670
各労働事案の解決に関する各級人民裁判所の裁判管轄は、これら各法規および「民事事案
解決手続法令」(Phap lenh thu tuc giai quyet cac vu an dan su)により次のように定
められた。すなわち、省級人民裁判所は、解雇、労働契約の終了に関する各紛争および外国
の要素を有する各労働紛争の解決を管轄する。県級人民裁判所は、QD10/HDBT の規定する人
民裁判所の裁判管轄に属するその他の各労働紛争の解決を管轄する。ただし、困難、複雑な
事案については省級人民裁判所が初審裁判所となることができる。
671
tranh chap lao dong ca nhan
672
その主な内容は次のとおり。①労働紛争が発生したときは、労働者および使用者は和解と
相互の利益の尊重の精神に基づいて直接協議しなければならない。②紛争の解決に関して
相互に合意できないときは、当事者の一方ないし双方は基礎労働和解協議会(hoi dong hoa
giai lao dong co so)に和解の進行を要求する権利を有する。③基礎労働和解協議会は、
使用者側および(もしあれば)労働組合の執行委員会、または「労働者集団」によって選出
された当該職場単位(co so)の労働者数に基づく双方同数のメンバーにより構成する。各
側は基礎労働組合執行委員会の任期に準ずる任期において協議会の会長(chu tich)と書
記を相互に選出する。基礎労働協議会は、要求書を受領した日から起算して一五日以内にに
双方の当事者の出席を得て和解の会合を進行する責任を有する(一方が正当な理由なく欠
席したときもなお進行する)。④基礎労働和解協議会の結論に同意しないときは、各当事者
は基礎労働和解協議会が結論を出した日から起算して一〇日以内に労働仲裁協議会に申請
する権利を有する。その場合、基礎労働和解協議会は五日以内に紛争の記録書類を所轄の労
働仲裁協議会に送付しなければならない。労働仲裁協議会には、中央労働仲裁協議会、省級
の労働仲裁協議会および県級の労働仲裁協議会(必要と認められる場合)がある。これら各
仲裁協議会は同級の労働機関によって設立、主宰される。仲裁協議会の構成員は、それぞれ
同数の労働機関の代表、労働組合組織の代表および使用者の代表であり、同級の労働機関に
よって指名され、同級の人民委員会によって承認される。労働仲裁会議は紛争の記録書類を
受領した日から起算して三〇日以内(複雑な事案の場合は一〇日間延長が可能)に労働紛争
の仲裁を進行し、決定を出さなければならない。各側は、この決定に同意しないときは一〇
日以内に上級の労働仲裁協議会に申請することができる。どの級の仲裁協議会においても
仲裁手続きは同様のものとする。⑤労働仲裁協議会の決定または基礎労働和解協議会の和
解記録の内容は、各側が決定ないし和解記録を受領した日を含め一〇日以内に履行されな
ければならない。各側が履行しないときは、一方ないし双方は各民事事案解決手続(thu tuc
giai quyet cac vu an dan su)に基づき人民裁判所に審理を要求する権利を有する。
673
tranh chap lao dong tap the
674
DAI HOC QUOC GIA HA NOI–TRUONG DAI HOC KHOA HOC XA HOI VA NHAN VAN:KHOA LUAT,GIAO
TRINH LUAT LAO DONG VIET NAM, NHA XUAT BAN DAI HOC QUOC GIA HA NOI,2.1999,tr.335-336
675
これら各法規は外資系事業体で発生した労働紛争の解決に関して以下のように規定して
いた。すなわち、紛争が発生したときは、双方(労働者と企業、労働者の代表と企業の長(giam
doc)は相互 に和解、公平および合理性の精神に基づき相互の利益を尊重して直接協議を進
行しなければならない。合意に至らないときは、双方は①地方の労働機関が仲介する(lam
trung gian)双方同数の代表からなる調停協議会(hoi dong hoa giai)、②地方の労働機
関が設立、主催する仲裁協議会(hoi dong trong tai)または双方が合意のうえで選任した
仲裁者(nguoi trong tai)、および③労働・傷病兵・社会部部長の選任する仲裁者のいずれ
かの形式による調停(hoa giai)ないし「仲裁」(trong tai)を選択することができる。
双方によって合意された調停および仲裁の形式は、労働協約(thoa uoc lao dong tap the)
の中に記載されなければならない。調停が不調となり、または当事者が仲裁裁定に不服のと
き(trong tai khong co hieu qua)は、当事者各側は民事事案審理手続により人民裁判所
に当該紛争の解決を委ねることができる。
676
ただし、以下のようないくつかの特色もあった。すなわち、①労働事案の審理について
は裁判費用の納付が免ぜられた。②決定を出した機関、組織、企業に対して訴えが提起され
(khieu nai)、または裁判所に対して審理の要求があったときは、被告(trong viec kien)
機関、組織の長(thu truong)、企業の長(giam doc)または人民委員会の代表は、裁判所
による調査または審理のための召喚に応じなければならないが、代理人を立てることもで
きた。③裁判所は、民間雇用主(chu tu nhan)と賃金労働者(nguoi lam cong)の間の紛
争については和解(hoa giai)を前置しなければならず、また法廷においてなお必要と認め
られるときも和解を勧試しなければならなかった。ただし、解雇、労働契約の終了または国
家への費用の賠償請求(doi boi thuong phi ton cho Nha nuoc)に関する紛争については
和解勧試の必要がなかった。④審理の開始(mo phien toa)にあたって、裁判所は、法廷に
おいて基礎労働組合執行委員会の意見を発表する代表者を選出させるために、(当事者た
る労働者が就労する職場単位の)基礎労働組合に対して事前に通知しなければならなかっ
た。
677
NGUYEN QUANG MINH 前掲註666論文
678
それぞれ、viec lam/tien luong/thu nhap(収入)
679
したがって、利益紛争を含む。ベトナムの法学界においては、「法律違反の有無にかか
わらず(trong nhung truong hop co hoac khong co vi pham phap luat)」などの表現が
用いられることが多い。使用者の側に法律違反のある場合が権利紛争、ない場合が利益紛
争ということになる。権利紛争(tranh chap ve quyen)と利益紛争(tranh chap ve loi ich)
の分類について、DAI HOC QUOC GIA HA NOI–TRUONG DAI HOC KHOA HOC XA HOI VA NHAN VAN:KHOA
LUAT 前掲註674tr.344 参照。ちなみに中国の「労働紛争」概念においては「権利紛争だ
けで、利益紛争は想定されていない」(楊坤「中国の労使紛争処理法制」日本労働法学会
誌九二号一九九八年所収)。
680
hoc nghe(学芸)
681
前掲註416書(Giao trinh…)tr.245-246
682
「労働における紛争(tranh chap trong lao dong)」と呼ばれる。前出の閣僚評議会の
決定 QD10/HDBT(一九八五年一月一四日)における「労働における紛争」とは異なる。
683
tham gia(参加)
684
muc do
685
DAI HOC QUOC GIA HA NOI–TRUONG DAI HOC KHOA HOC XA HOI VA NHAN VAN:KHOA LUAT 前
掲註674tr.342
686
菅野和夫『労働法第六版』弘文堂二〇〇三年六八三頁など。
687
第Ⅱ章第一一条「裁判所は以下の各労働事案の解決を管轄する」。第一項「基礎調停協
議会または県、郡、市社、または省に属する都市(以下、県級)の労働機関の労働調停員による
調停が成立しなかった、雇用、賃金、収入またはその他の各労使条件に関連を有する権利と
利益、労働契約の実現または職業学習の過程に関する、労働者と使用者の間の各個別的労働
紛争。ただし、以下の各個別的労働紛争については必ずしも基礎における調停を経ることを
要しない(略)」。第二項「雇用、賃金、収入またはその他の労使条件に関連を有する権利
と利益、労働協約の実現、または労働組合の設立、加入、活動権に関し、省、中央直轄市の労
働仲裁協議会(以下、省級労働仲裁協議会)が解決したが労働者集団または使用者が労働仲
裁協議会の裁定に同意しなかった、労働者集団と使用者の間の各集団的労働紛争」。
688
「労働紛争解決手続法令の一部規定の施行を指導する」最高人民裁判所の公文書(CONG
VAN)40/KHXX(一九九六年七月六日)
689
dieu kien lao dong(労働条件)
690
職業学習契約(hop dong hoc nghe)について、TRUONG DAI HOC LUAT HA NOI,TU DIEN GIAI
THICH THUAT NGU LUAT HOC:LUAT DAT DAI;LUAT LAO DONG;TU PHAP QUOC TE,NHA XUAT BAN CONG
AN NHAN DAN,12.1999,tr.118 参照。
691
sa thai
692
mot nhom nguoi lao dong
693
前掲註416書(Giao trinh…)tr.248-249 における説明。
694
dieu kien lao dong(労働条件)/前掲註80参照
695
nganh
696
前掲註416書(Giao trinh…)tr.249
697
TRUONG DAI HOC LUAT HA NOI 前掲註67書 tr.271
698
前掲註416書(Giao trinh…)tr.249
699
BAO LAO DONG,20.9.2003,tr.2,TRUONG DANG-MINH DUC,DU THAO SUA DOI BO SUNG PHAP LENH
THU TUC GIAI QUYET CAC TRANH CHAP LAO DONG:Nham lan ngay tu phuong phap luan!/労
働・傷病兵・社会省がドイツ FES(FRIEDRICH EBERT 財団)と共催した労働紛争解決手続法
令改正法案の草案作成に関するセミナー(二〇〇三年九月一二日、ホー・チ・ミン市)に
おいて、Mai Duc Chinh ホー・チ・ミン市労働同盟副主席は、「『権利と義務』に関する紛
争はすなわち個別的労働紛争であり、使用者と一名から数百名の労働者との間で発生し得
るものである。現在までに発生した六〇〇件以上のストライキのほぼ全ては、使用者が労
働関係における労働者の『権利と義務』を侵害したために、一職場単位内において、同時
期に、同内容の矛盾(mau thuan)が多くの労働者との間に発生し、彼らをして組織的でな
い反応(phan ung)に導いたものである。したがって(それらは個別的労働紛争であった
から)労働組合は右労働者らを代表しなかったのである」と述べた。また、集団的労働紛
争の解決機関である Dong Nai 省労働仲裁協議会の代表(Mai Thi Thuyet 書記)は、同省に
おいて多数の労働者が参加する労働紛争は数多く発生しているが(同様の観点から)集団
的労働紛争に該当するものは少ないので仲裁協議会は暇である旨述べ、個別的労働紛争を
も管轄するホー・チ・ミン市人民裁判所労働法廷の代表(Tran Thi Thanh Mai 裁判官)は、
同一の事案につき数百名もの労働者がそれぞれ訴訟を提起するので極度に多忙である旨述
べた。なお、同セミナーにおいては、多数の労働者を当事者とする個別的労働紛争の解決
システムが必要であるとの結論で出席者が一致した(同記事)。また、同記事を執筆した
記者の一人である LAO DONG 紙記者(ベトナム労働総同盟幹部)Duong Minh Duc 氏も、筆者
が二〇〇三年一〇月に行ったインタビューに対し、この見解に完全に賛成する旨述べた。
700
たとえば、ホー・チ・ミン市労働同盟の機関紙である Nguoi lao dong 紙記者(同労働同
盟幹部)Le Thuy 氏は、筆者が二〇〇三年一〇月に行ったインタビューに対し、基礎労働組
合幹部を労働者側当事者とする労働紛争は、その人数に関わらず常に集団的労働紛争であ
るとの見解を示した。その理由は、全労働者の権利と利益の代表者たる労働組合(ないし
その幹部)自身の権利と利益に関する問題は、当然に全労働者の権利と利益に密接に関係
するものであるから、というものだった。
701
しかし、外資系事業体を中心として、労働組合幹部に対する使用者の不当労働行為的な
言動が見られ始めている。例として、本稿付録「Rehang Vietnam Stainless 社における労
働組合の『無効化』の例」参照。ちなみに、使用者による反労働組合的な言動は、労働組
合活動の「無効化」(vo hieu hoa)と呼ばれている。
702
「対話」システムの位置づけについて、NHA XUAT BAN LAO DONG,HUONG DAN THUC HIEN LUAT
CONG DOAN,quyⅡ/1999,tr.98-99 参照。
703
TRUONG DAI HOC LUAT HA NOI 前掲註67書 tr.87
704
mot quyen bo ngo
705
co tinh chat hinh thuc
706
前掲67書 tr.87-88/なお同書は、
「このことは、国会が労働組合に対して新たな権能、
すなわちストライキ組織権を規定したとき更に明確になった」としているが、その意味す
るところは明らかでない。
707
huong dan
708
cong van
709
hoa giai(和解)
710
bieu hien phan ung tap the
711
それぞれ、nghi viec/lan cong
712
van dong cong nhan lao dong lam viec
713
労働紛争発生後の「対話」である点において、前述の「対話」とは異なる。
714
huong dan
715
実際、「本紙記者のとりなしにより、使用者は一定の非を認め、違法ストライキ参加者
は職場に復帰した」などの記事を目にすることも多い。
716
基礎労働調停協議会の設立義務について、労働法典第一六三条第一項は「設立されなけ
ればならない(phai duoc thanh lap)」としているが、その名宛人は明らかでない。なお、
基礎労働調停協議会の設置基準は従来「常態として一〇名以上の労働者を使用する事業体」
であったが、労働法典の一部改正(luat35/2002/QH10)により「労働組合を有する事業体」
と改正された。従来の設置基準は、(基礎労働調停協議会の構成員である)基礎労働組合
の当時の最少設立人数(一〇名)にあわせたものであった。
717
ちなみに中国の「企業労使紛争調停委員会」は、「従業員代表大会に(または従業員大
会)より選ばれた従業員代表・工場長(支配人)が指名した企業代表・企業労働組合委員
会により指名された企業労働組合代表で構成され(『労使紛争処理条例』第七条第一項)、
組合の代表は自動的に調停委員会の主任となり、調停委員会の事務機関は企業労働組合委
員会に設けられる。中国の労働法学界は、調停委員会の三者構成のメリットとして、当事
者の状況を全面的に把握しえるほかに、各方面の意見を聞くことにも有利であって、公正
な調停を行うことができると指摘している。特に、企業組合代表の役割については、それ
が第三者としての中立の立場にたつので、従業員の合法的権益を守れると同時に、企業の
合法的権益をも擁護しえることができると分析されている」(楊坤前掲註679論文六七
頁以下)。これに対し、二〇〇三年ベトナム労働組合条例第一八条(民間セクター各事業
体における基礎労働組合の任務と権限)第四項は、基礎労働組合は「労働者集団を代表し
て基礎労働調停協議会に参加」する旨規定している。
718
それぞれ、chu tich(主席)/thu ky(書記)
719
「基礎労働調停協議会、県級(quan,huyen,thanh pho,thi xa,thi tran thuoc tinh,thanh
pho truc thuoc Trung uong)労働機関の労働調停員の組織と活動を指導する労働・傷病兵・
社会省の通達」10/LDTBXH-TT(一九九七年三月二五日)
720
dai dien duoc uy quyen cua ho
721
tien hanh(進行)
722
phuong an hoa giai
723
bien ban hoa giai thanh
724
労働法典の一部改正(luat35/2002/QH10)により追加。
725
bien ban hoa giai khong thanh
726
必ずしも未組織事業体に限らない。すなわち、労働組合を有しながら基礎労働調停協議
会を未設置の事業体を含む。
727
ちなみに、労働法典以前、労働契約法令は、基礎労働組合が存しない場合について、「労
働者集団」が選挙で代表者を選出し基礎労働調停協議会の構成員とすることとしていた。
728
thuc hien hop dong hoc nghe va chi phi day nghe
729
労働法典の一部改正(luat35/2002/QH10)により、家事使用人(nguoi giup viec gia dinh)
とその使用者の間の紛争が管轄対象から削除された。
730
基礎労働調停協議会における労働組合の役割について定めるものとして、ほかに「労働
協約および労働契約に関する労働組合工作を指導する」ベトナム労働総同盟通知(THONG
TRI)08/TT-TLD(一九九五年二月一八日)Ⅰ-Buoc3-4「基礎労働組合執行委員会は、法律
の規定にしたがって労働紛争解決に関する権利と責任を実現するために、その代表を選出
して基礎労働和解協議会に参加させる」、「労働法典の施行のために行うべき諸事項に関
する」ベトナム労働総同盟の指示(Chi thi)04/CT-TLD(一九九六年四月一八日。特に労
働法典において規定された集団的労働紛争解決システムを機能させるために下級労働組合
組織が果たすべき責任などを規定)、「各労働紛争の解決への参加における各級労働組合
の活動に関する」ベトナム労働総同盟の指示 09/CT-TLD(一九九六年一二月一四日)、労働・
傷病兵・社会部の通達 10/LDTBXH-TT(一九九七年三月二五日)、二〇〇三年ベトナム労働
組合条例第一八条(民間セクター各事業体における基礎労働組合の任務と権限)第四項「労
働者集団を代表して基礎労働調停協議会に参加し、法律の規定にしたがって各労働紛争の
解決に参加する」などがある。なお、基礎労働調停協議会における労働組合の役割を解説
する文献として、TRAN VIET HA,HUONG DAN TIM HIEU BO LUAT LAO DONG & CAC VAN BAN,QUY
DINH MOI NHAT,NHA XUAT BAN THONG KE,8.2002 がある(tr.103)。
731
それぞれ、Chu tich(主席)/Pho Chu tich(副主席)
732
So/Phong(房)
733
それぞれ、tinh(省)/thanh pho(城舗)/quan(郡)/県(huyen)
734
tao co so
735
BAO LAO DONG,29.9.2003,B.C.D,HOAT DONG PHAP LUAT TONG LDLDVN:Gop phan thuc hien
tot 3 chuc nang cua to chuc cong doan/また BAO Nguoi lao dong,3.1.2001,tr.4 によ
ると、二〇〇一年時点で、ホー・チ・ミン市において一〇名以上を雇用する二万事業体の
うち基礎労働調停協議会を設置済みのものは約半数に過ぎなかった。
736
Toa lao dong
737
基礎労働調停協議会もしくは労働調停員が所定の期限内に解決しなかった場合を含む
(労働法典第一六六条第一項)。
738
労働法典第一五一条第二項 b
739
xuat khau lao dong
740
co yeu to nuoc ngoai
741
co tru so chinh
742
労働紛争解決手続法令第一四条各項の規定するところにより、原告は以下の場合に労働
事案の解決を要求する裁判所を選択する権利を有する。すなわち、①被告の住所および住
居が明らかでないときは、被告が財産を有する土地または最後に住所もしくは住居を有し
た土地の裁判所に対して解決を要求することができる(第一項)。②事案が事業体の支部
において発生したときは、原告は事業体が住所を有する土地または当該支部が住所を有す
る土地の裁判所に対して解決を要求する権利を有する(第二項)。③事案が雇用主(nguoi
cai thau)または中間的役割を有する者(nguoi co vai tro trung gian)たる使用者の行
為によって発生したときは、原告は主たる使用者の住所または住居か、雇用主または中間的
役割を有する者が住居を置く土地の裁判所に対して解決を要求する権利を有する(第三項)。
④事案が労働契約、労働協約、職業教育契約の違反から発生した場合は、原告は労働契約、労
働協約あるいは職業教育契約を実現する土地の裁判所に対して解決を要求する権利を有す
る(第四項)。⑤労災、職業病による生命、健康、医療費に関わる損害賠償の要求、または賃
金、失業手当、停業手当の支払い要求、および強制的社会保険類型に属さない労働者に対す
る社会保険、医療保険に関する支払い金額を争う事案については、原告は原告が住居を置く
土地または被告が住所もしくは住居を置く土地の裁判所に対して解決を要求する権利を有
する(第五項)。⑥労働者に対して財産、職業教育の費用に関する損害賠償を要求する事案
については、原告は被告労働者が就業し、または住居を置く土地の裁判所に対して解決を要
求する権利を有する。複数の被告が相違する職場または住居を有するときは、原告は被告の
一人が就業し、または住居を置く土地の裁判所に対して解決を要求する権利を有する(第六
項)。⑦労働契約または労働協約において紛争解決裁判所に関する合意のあるときは、原告
はその裁判所にのみ提訴することができる。
743
「労働紛争解決手続法令の一部規定の施行を指導する」最高人民裁判所の公文書 40/KHXX
(一九九六年七月六日)A-3「提訴の期限(thoi hieu)について」「事案の受理(第三五
条)、却下(第三四条C)、事案解決の停止(第四一条第一項d)のために労働紛争解決
手続法令第三二条第一項の規定する提訴の期限について考察するときは、提訴する者の合
法的な権利と利益を保障するために提訴期限に算入しない期間と算入の再開に関する民法
典第一六八条ないし第一七一条の各規定を適用する必要がある。/労働法典は一九九五年
一月一日に発効したので、法典がその解決を人民裁判所の管轄とする旨規定(第一五七条)
する各労働紛争は本来ならば一九九五年一月一日から解決(の申立)を受理されなければな
らなかったが、労働紛争解決手続法令は一九九六年七月一日に発効したので、一九九五年
一月一日から一九九六年七月一日までの間に発生した各労働紛争については労働紛争解決
手続法令第三二条の規定する提訴の期限は一九九六年七月一日から計算されなければなら
ない。ただし、閣僚評議会の議定 10/ND-HDBT(一九八五年一月一四日)が規定する四類型
の労働紛争の提訴の期限については、同議定および最高人民裁判所、最高人民検察院およ
び労働省職業教育総局(tong cuc day nghe)の連名通達 03/TTLN(一九九五年一〇月二日)
の規定に基づいて計算される。ここでいう四類型とは、/免職(thoi viec)形式での処分
を受けた国家公務員、職員/紀律処分を受けたことにより国家に対する養成費用の賠償を
強制された、国外において職業学習中の学生、職業学校の教員、および実習生/外国との
労働合作に赴いた者であって期間前に帰国しなければならない紀律処分を受け、契約違反
により国家に対する費用の賠償を強制された者/賃金労働者(nguoi lam cong)とその個
人雇用主(chu tu nhan)の間の紛争に関するものである。/労働法典の発効(一九九五年
一月一日)以前に発生した労働紛争であって上述の四類型以外のものについては、人民裁
判所の管轄外であるから裁判所は訴状を受理せず、当事者に対してその旨明確に説明しな
ければならない」。
744
「労働紛争解決手続法令の一部規定の施行を指導する」最高人民裁判所の公文書 40/KHXX
(一九九六年七月六日)A-2-c「労働紛争解決手続法令第二八条の規定するところにより、
未成年者または障害者たる労働者の合法的な権利と利益に関連する法規違反、およびその
他の重大な各法規違反について提訴する者がいないときは、検察院は所轄の裁判所に当該
労働事案を起訴する権利を有する。労働法典第一一九条の規定するところにより、未成年
の労働者とは一八歳未満の労働者である」。
745
746
nop tien tam ung an phi
①請求額が〇ドン以上一〇〇万ドン未満のときは五万ドン、②一〇〇万ドン以上一億ド
ン未満のときは請求金額の三%(ただし最低五万ドン)、③一億ドン以上一〇億ドン未満
のときは三〇〇万ドンおよび一億万ドンを超える部分の二%、④一〇億ドン以上のときは
二一〇〇万ドンおよび一〇億ドンを超える部分の〇.一%である(「訴訟費用(AN PHI,LE
PHI)に関する」政府議定 70/CP(一九九七年六月一二日)第二一条各項)。
747
「訴訟費用に関する政府議定」70/CP(一九九七年六月一二日)第二三条第一項。なお、
払い戻しなどについて労働紛争解決手続法令第三〇条各項。
748
それぞれ、xa(社)/phong(坊)/thi tran(市鎮)
749
thu ly(受理)
750
nhan duoc
751
co hieu luc phap luat/「労働紛争解決手続法令の一部規定の施行を指導する」最高人
民裁判所の公文書 40/KHXX(一九九六年七月六日)A-4(労働事案の解決過程における和解
について)「民事事案における当事者間の合意の公認手続きにおいては、裁判所は和解調
書を当事者双方および同級の検察院に送付し、その後一五日間当事者が意見を変えず、か
つ検察院が建議を行わないときに初めて当事者間の合意を公認する旨の決定を行う。これ
に対し、労働事案において当事者が合意に至ったときは、裁判所は直ちに当該合意を公認
する旨の決定を行い、右決定は法的効力を持つ。すなわち、各当事者はもはや上訴の権利
を有せず、監督審または再審の手続に基づいて申立を行う権利を有するにとどまる」。
752
Chu toa phien toa
753
bien phap khan cap tam thoi
754
yeu cau(要求)
755
仮処分決定の期限(三日)については労働紛争解決手続法令第四六条第二項にも同様の
規定が置かれている。
756
truoc khi mo phien toa
757
tai phien toa
758
仮処分の決定に際しては当該決定の効力の期限を明記しなければならないが、法律の定
める事案解決期限を超える期限を定めてはならない(労働紛争解決手続法令第四三条第四
項)。
759
buoc
760
mo phien toa
761
Hoi dong xet xu so tham
762
Tham phan
763
Hoi tham nhan dan
764
「事件の種類に応じて多少異なるが、一般に第一審は人民参審員と裁判官から構成され、
控訴審、監督審、再審という法律上の高度な判断が必要な場合には、裁判官のみから構成
されるという制度になっている。人民参審員と職業裁判官は法律上同一の権限を持ち、判
決内容の決定における評決においても、その権限に差はない。第一審に関しては、制度上、
素人による人民裁判の伝統が生かされているといえよう」(前掲註9書一三二頁(武藤司
郎執筆分))。
765
hoan
766
被告が裁判所の召喚に対して正当な理由なく二度以上欠席した場合については五万ドン
から一〇万ドンの罰金が規定されている(労働紛争解決手続法令第二〇条第三項 b)。
767
dinh chi(停止)
768
それぞれ、nguoi lam chung/nguoi giam dinh/nguoi phien dich
769
xet hoi
770
nguoi bao ve quyen va loi ich hop phap cua duong su
771
khang cao(抗告)
772
nguoi bao ve quyen va loi ich cua duong su la nguoi lao dong
773
tham gia(参加)
774
to chuc viec theo doi
775
「(ドイツ、フランス、スウェーデンなどと異なり)ベトナム法においては未だにこのこと
が規定されておらず、この問題は法曹の間で議論の的になっている」(TRUONG DAI HOC LUAT
HA NOI 前掲註67書 tr.86-87)。
776
「このため、司法省に属する裁判官研修所で、法学士号を持っていない地方人民裁判所
の裁判官に基礎法学の再教育をして、法学士号を取得させるようにしている」。「任期は
いずれの級の裁判官も五年である。実際上、ほとんどの裁判官が再任されるが、国会の常
務委員会の決議に従い、在職課程のコースを受けても法学士号を取得できなかった者につ
いては、任期終了後、再任されないことがある」
(前掲註9書一三三頁(武藤司郎執筆分))。
777
BAO LAO DONG,4.12.2003,Tr.2,CAO HUNG
778
trong tai(仲裁)
779
「省労働仲裁協議会の設立に関する政府首相の決定 744/TTg(一九九六年一〇月八日)
の実現を指導する」労働・傷病兵・社会省の通達 02/LDTBXH-TT(一九九七年一月八日)
780
So
781
それぞれ、Giam doc(監督)/Pho giam doc(副監督)
782
Chu tich Hoi dong
783
合作社連盟協議会(Hoi dong lien minh cac Hop tac xa)、省級商工会(Hoi cong thuong
gia cap tinh)、監督クラブ(Cau lac bo Giam doc)など
784
cong chuc(公職)
785
nha quan ly
786
「労働、社会領域に関する有識者であり、当該地方において名望のある社会活動家」
(nha
hoat dong xa hoi co hieu biet ve linh vuc lao dong - xa hoi va co uy tin o dia phuong)
787
もっとも、仲裁裁定の不履行に対する罰則は現在のところ規定されていないようである。
788
hoa giai(和解)
789
phien hop
790
neu hai ben khong co y kien
791
BAO LAO DONG 前掲註735記事
792
省労働仲裁協議会における労働組合の役割について定めるものとして、ほかに「労働法
典の施行のために行うべき諸事項に関する」ベトナム労働総同盟の指示 04/CT-TLD(一九九
六年四月一八日)、「各労働紛争の解決への参加における各級労働組合の活動に関する」
ベトナム労働総同盟の指示 09/CT-TLD(一九九六年一二月一四日)、労働・傷病兵・社会部
の通達 10/LDTBXH-TT(一九九七年三月二五日)、二〇〇三年ベトナム労働組合条例第一八
条(私営セクター各事業体における基礎労働組合の任務と権限)第三項「労働者集団を代
表して基礎労働和解協議会に参加し、法律の規定にしたがって各労働紛争の解決に参加す
る」などがある。
793
それぞれ、chi dao(指導)/giup do
794
bao dam(保担)
795
一九九七年三月に筆者が行ったインタビューに対する政府関係者の回答による。
796
LUU BINH NHUONG 前掲75論文所収の労働・傷病兵・社会省資料によれば、二〇〇〇年
末における省労働仲裁協議会の設立状況は下表のとおり。
省、中央直属都市
労働仲裁協議会書記
注
1
Ha Noi 市
Nguen Van Hop
2
Hai Phong 市
Vu Duy Hien
3
Tuyen Quang 省
Luong Xuan Lap
4
Cao Bang 省
Hoang Gia Toan
5
Thai Nguyen 省
Hoang Thi Vy
6
Son La 省
Do Chi Hoa
7
Phu Tho 省
8
Vinh Phuc 省
Nguyen Tien Danh
9
Bac Giang 省
Nguyen Ngoc Thuyet
10
Bac Ninh 省
Nguyen Tien Dung
11
Quang Ninh 省
12
Hoa Binh 省
Tran Dinh Vui
13
Ninh Binh 省
Nguyen Huu Do
14
Hung Yen 省
Vu Quoc Khanh
15
Ha Giang 省
Bui Huy An
16
Thai Binh 省
17
Bac Can 省
Ta Ngoc Minh
18
Ha Tay 省
Le Viet Tuc
19
Lao Cai 省
Nguyen Manh Tuan
20
Lai Chau 省
Tran Thanh Nhi
21
Lang Son 省
Do Quang Trung
22
Nam Dinh 省
書記名不明
23
Ha Nam 省
書記名不明
未設立
未設立
未設立
24
Hai Duong 省
書記名不明
25
Yen Bai 省
書記名不明
26
Ha Tinh 省
Le Tuyen
27
Nghe An 省
Hoang Thi Huong
28
Quang Binh 省
29
Quang Tri 省
Luu Toan Nang
30
Thua Thien-Hue 省
Hoang Thuan
31
Quang Nam 省
32
Da Nang 市
Nguyen Thanh Trung
33
Ninh Thuan 省
Le Duy Phuoc
34
Phu Yen 省
Nguyen Phat
35
Binh Dinh 省
36
Khanh Hoa 省
37
Thanh Hoa 省
38
Binh Thuan 省
Bui Duc La
39
Dac Lac 省
Nguyen Xuan Duc
40
Quang Ngai 省
Le Van Thai
41
Ba Ria-Vung Tau 省
Nguyen Van Nam
42
Ho Chi Minh 市
Nguyen Thi Dan
43
Can Tho 省
Thai Cong Thanh
44
Lam Dong 省
Nguyen Van Luong
45
Gia Lai 省
46
Kon Tum 省
Le Tung Lam
47
Soc Trang 省
Le Minh Linh
48
Ben Tre 省
Huynh Quang Trieu
49
Vinh Long 省
Nguyen Sy Chung
50
Kien Giang 省
Vu Duy Hien
51
Tra Vinh 省
書記名不明
52
Binh Phuoc 省
書記名不明
53
Tien Giang 省
54
Binh Duong 省
55
Tay Ninh 省
Nguyen Duc Hanh
56
Dong Nai 省
Mai Thi Tuyet
57
Long An 省
Bui The Nhan
未設立
未設立
未設立
Nguyen Hoe
書記名不明
書記名不明
Le Ngoc Mung
未設立
58
Dong Thap 省
Nguyen Trong Tinh
59
An Giang 省
Dang Huy Chau
60
Bac Lieu 省
Quach Son Hoang
61
Ca Mau 省
書記名不明
797
BAO LAO DONG 前掲註735記事
798
TLDLDBPL(ベトナム労働総同盟法律委員会),59/BCPL,BAO CAO TOM TAT TINH HINH THUC
HIEN NGHI QUYET DAI HOI Ⅷ CONG DOAN VIET NAM VE CONG TAC PHAP LUAT,18.10.2000,Ha
noi/BAO Nguoi lao dong,6.11.2000,tr.3
799
BAO Nguoi lao dong,3.11.2000,tr.3
800
BAO LAO DONG 前掲註699記事
801
LUU BINH NHUONG,VE TRANH CHAP LAO DONG TAP THE VA VIEC GIAI QUYET TRANH CHAP LAO
DONG TAP THE,tap chi Luat Hoc,TRUONG DAI HOC LUAT HA NOI,2001-2,tr.38
802
khang cao(抗告)
803
khang nghi(抗議)
804
予納義務の対象と金額は個別的労働紛争の事案について県級人民裁判所が第一審となる
場合と同様である。
805
thong qua dai dien Ban chap hanh cong doan co so
806
nhu nguyen don
807
ban chap hanh cong doan co so cua tap the lao dong
808
phai tham gia to tung voi tu cach la nguyen don
809
co hieu luc phap luat
810
Hoi dong xet xu phuc tham
811
mo phien toa
812
ho so vu an
813
chuyen
814
giu nguyen
815
sua mot phan
816
sua toan bo phan
817
tam dinh chi
818
truoc het
819
phai huong cho tap the lao dong yeu cau toa an giai quyet
820
「ベトナムでは、ソ連法に由来し主に法令適用の誤りを是正するための確定判決に対す
る監督審制度や、事実認定の誤りを是正するための再審制度が採用されており、実際にも
監督審が頻繁に審理されている。一見三審制度が採用されているように思えるが、当事者
は監督審や再審を申し立てる権利がなく、この権利を有するのは、裁判所の所長や検察院
の院長らのみであるので、三審制度が採用されているとはいえない」(前掲註9書一二一
頁(武藤司郎執筆分))。
821
khang nghi(抗議)
822
Chanh an(正案)
823
Vien truong(院長)
824
Pho Chanh an(副正案)
825
Pho Vien truong(副院長)
826
Chanh an(正案)
827
co loi cho nguoi lao dong
828
ho so vu an
829
hoan
830
Hoi dong xet xu
831
Uy ban tham phan
832
Hoi dong tham phan
833
mo phien toa
834
bac
835
Huy ban an,quyet dinh da co hieu luc phap luat de xet xu so tham hoac phuc tham
lai
836
労働紛争解決手続法令第四一条(事案の解決の停止)第一項「裁判所は以下の各場合に
おいて事案解決の停止を決定する」。a「原告または被告が死亡し、その権利、義務が承継さ
れなかったとき」、「組織が解体したが、訴訟上の権利、義務を承継する個人、組織が存しな
いとき」。b「提訴した者が訴状を取り下げたとき、または検察院が起訴の決定を撤回した
とき」。c「原告が召喚に対し二度にわたり正当な理由なく欠席したとき」。d「裁判所が
訴状を受理(thu ly)する前に提訴の期限が過ぎたとき」。đ「事案が他の裁判所または審
査権限を有する機関の確定判決または決定により解決済みであるとき」。e「事案の当事者
たる事業体について裁判所が破産宣告請求の解決手続の開始を決定しているとき」。g「事
案が裁判所の裁判管轄に属さないとき」。
837
co tinh lam sai lech ho so vu an
838
bi huy bo
839
LUU BINH NHUONG 前掲註75論文付録 2
840
それぞれ、khoi kien/khoi to
841
それぞれ、khang cao(抗告)/khang nghi(抗議)
842
Ghi bien ban phien toa
843
quyen tu do ket hop va bai cong
844
Cong nhan co quyen tu do ket hop va bai cong. Mot Sac lenh sau se an dinh pham vi
su dung nhung quyen nay cung cach thuc hoa giai va trong tai
845
「この勅令の適用範囲は非国営セクターの経済単位に限られており、また、戦争状態の
中、結局、施行指導文書も出されることがなかった」(LIEN DOAN LAO DONG THANH PHO HA
NOI 前掲註75資料 tr.20)。
846
TRUONG DAI HOC LUAT HA NOI 前掲註67書 tr.282
847
LIEN DOAN LAO DONG THANH PHO HA NOI 前掲註75資料 tr.12
848
quyen dinh cong
849
一九九二年憲法第一次草案第五章「市民の基本的権利・義務」のうち、表現の自由に関
する第六五条は、「『市民は、情報を伝達する権利および情報を受け取る権利をもち、集
会、結社、示威、ストライキの権利をもつ』と定め、『情報を伝達する権利および情報を
受け取る権利 quyen thong tin va duoc thong tin』および『ストライキ権 quyen dinh cong』
という新たなカテゴリーを規定」した。この「『ストライキ権』の規定は後にはまったく
姿を消すことになるが、『ストライキ権』の規定がこの時期現れたことについては、その
理由は今日までのところ明らかにされていない。しかし、『情報』権利にかんする新たな
規定と同様に、一九八九年末のマス・メディア法をめぐる攻防および一九八九年秋から一
九九〇年の初頭にかけての『複数政党制』を求める世論の存在と無縁ではないと思われる」
(鮎京前掲註144書一四一頁以下)。
850
「一九九二年ベトナム社会主義共和国憲法の一部条項の修正、補足に関する」議決
51/2001/QH10(二〇〇一年一二月二五日)
851
Nguoi lao dong co quyen dinh cong theo quy dinh cua phap luat
852
村野前掲註103「解説」。また、労働法典草案の起草と上程の経過につき、前掲註1
4拙稿参照。
853
qua trinh hoi nhap khu vuc va quoc te
854
LIEN DOAN LAO DONG THANH PHO HA NOI 前掲註75資料 tr.20
855
労働法典第一七四条「政府の規定するリストに基づき、いくつかの公共サービス事業体
および国民経済または安寧、国防に必要不可欠な事業体においてはストライキを行っては
ならない。労働者集団の正当な要求について適宜援助、解決を行うために、各国家機関は
定期的にこれら各事業体において労働者集団の代表および使用者の意見を聞かなければな
らない」。ストライキ禁止事業体のリスト(ベトナム航空など)は、「ストライキを許さ
れない事業体における労働者集団の要求の解決に関する」政府議定 51/CP(一九九六年八月
二九日)が規定している。
856
to chuc lay y kien
857
それぞれ、bo phieu kin/lay chu ky
858
phai quyet dinh dinh cong va lanh dao cuoc dinh cong
859
van de bat dong
860
noi dung yeu cau giai quyet
861
それぞれ、sa thai/dieu dong nguoi lao dong di lam viec o noi khac vi ly do dinh
cong
862
nguoi lanh dao cuoc dinh cong
863
それぞれ、tru dap/tra thu
864
それぞれ、hoan/ngung
865
ket luan cuoc dinh cong hop phap
866
ket luan tinh bat hop phap cua cuoc dinh cong
867
労働紛争解決手続法令第八八条(申請書および各添付資料)第一項「労働者集団または
使用者が裁判所に対してストライキの解決を要求する申立書には以下の内容を明記しなけ
ればならない」。a「ストライキを決定した基礎労働組合の名称、住所。ストライキを指
導する者の氏名、住所」。b「使用者の氏名、住所」c「労働者集団がストライキを行う
事業体の名称、所在地」。d「理由」。d「申立書を提出する者の要求内容」。「申立書と
あわせて、各要求書、ストライキに関する通告書および当該労働紛争の解決に関する省労
働仲裁協議会の裁定の写し、およびストライキの解決に関連を有する各書類(giai to)、
資料を送付しなければならない。/申立書の提出者が使用者であるときは、政府の定める
裁判費用(le phi)を納付しなければならない」。
868
労働紛争解決手続法令第八八条第二項「裁判所に対してストライキの合法性に関する認
定を請求する省級労働機関、省級労働同盟の申立書および検察院の起訴状には以下の内容
を明記しなければならない」。a「請求を行う機関の名称、所在地、要求文書に署名した
者の氏名、職務」。b「労働者集団がストライキを行う事業体の名称、所在地」。c「ス
トライキの合法性に関する認定を請求する理由」。d「各具体的請求内容」。「申立書に
は、ストライキの合法性に関する認定の請求に関連する各資料、証拠を添付しなければな
らない」。
869
労働紛争解決手続法令第九〇条(資料、証拠の提出義務)「基礎労働組合執行委員会、
使用者は、ストライキの解決過程において、裁判所の要求に基づいて必要な各資料、証拠
を十分に提出する義務を有し、当該資料、証拠の正確性について責任を有する。省級の労
働機関、労働同盟が申し立てる場合、または人民検察院が裁判所にストライキの解決を請
求して起訴する場合は、右各機関は資料、証拠を提出しなければならない」。
xem xet
871
vao so
872
Chanh toa
873
phan cong(分工)
870
874
労働紛争解決手続法令第九三条(裁判官の任務と権限)第一項「ストライキの解決を担
当する裁判官は以下の任務、権限を有する」。a「ストライキ解決の記録書類を作成する
ための資料、証拠の収集」。b「現場検証」。c「仮処分」。d「基礎労働組合執行委員
会と使用者の間におけるストライキの解決に関する和解の勧試」。第二項「裁判官がスト
ライキ解決過程において犯罪の徴候(dau hieu)を発見したときは、刑事起訴を検討する
ための資料を人民検察院に提供する」。
875
hoa giai(和解)
876
hoi nghi hoa giai
877
tham gia(参加)
878
労働紛争解決手続法令第九九条第五項前段「ストライキの解決を担当する裁判官は、当
事者に対して各法的根拠を示して説明し、双方当事者がストライキの解決に関して相互に
協議、合意するために和解を進行する」。
879
tham du(参与)
880
労働紛争解決手続法令第九九条第四項「省級の労働機関および労働同盟の代表者は、労
働者集団および使用者の各要求および提議に関する自己の意見を発表し、人民検察院の代
表者はストライキの解決に関する自己の意見を説明する」。
881
phuong an giai quyet
882
和解が成立した旨の記録または成立しなかった旨の記録には、裁判官、和解会議の書記
および各当事者の署名を得なければならない(労働紛争解決手続法令第九九条第五項後段)。
883
giao cho
884
bien phap khan cap tam thoi
885
khieu nai
886
kien nghi(建議)
887
それぞれ、xem xet/tra loi
888
889
890
891
892
893
mo phien hop
Hoi dong giai quyet cuoc dinh cong
tham gia(参加)
tham du(参与)
nhung nguoi lao dong
労働紛争解決手続法令第一〇二条(裁判所の決定)第一項「ストライキの合法性を審査
し結論が出たときは、裁判所は以下の各決定を出す権利を有する」。a「ストライキは合
法的なものである。この場合において使用者に過失があるときは労働者はストライキ中の
賃金の全額を補償される。使用者は、法規の規定に基づいて労働者の正当な各要求を実現
し、その他の権利を解決しなければならない」。b「ストライキは非合法的なものであり、
労働者集団はストライキを中止しなければならない。この場合、裁判所は各側の過失に基
づいて賃金の補償額を決定し、政府の規定するところに基づいて労働者のその他の権利の
解決を決定する」。ND/58 はこれを特にストライキ期間中の賃金補償に関して具体化したも
のである。
894
co loi
895
ngung
896
nguoi lao dong
897
phai co bien phap khac phuc,sua chua loi
898
co hieu luc thi hanh
899
chi dinh(指定)
900
do hai ben thoa thuan/ただし、労働者側の交渉代表者、交渉方法については規定がな
い。
901
xu phat hanh chinh
902
phat canh cao
903
buoc
904
それぞれ、ep buoc/kich dong
905
ただし、同項が根拠とする労働法典第一七八条第二項は扇動(kich dong)を処罰対象と
して規定していない。
906
Nguoi lanh dao
907
tru dap,tra thu
908
909
tap the nguoi lao dong
労働法典起草委員会第一次草案(一九九二年五月)第一六〇条第一項「労働者の過半数を
組織する労働組合組織を有する事業体においては、労働組合執行委員会は当然に労働者集
団を代表する」。同条第二項「労働組合組織を有するがその組合員が労働者の過半数に満
たない事業体においては、労働組合執行委員会は、労働者集団を代表する各仕事(cong viec)
を執行委員会と協力して行わせるために、労働者集団に非組合員の代表者を数名選出させ
る。ここにおいて選出されるべき代表者の数は労働者集団によって決定されるが、地方の
労働機関の承認を受けなければならない(moi la hop phap)。上記労働者代表の権利と責
任は、本章第二節に規定するところによる。何人も、労働者代表権(quyen dai dien nguoi
lao dong)を労働組合執行委員会の役割を減衰させ、労働組合を分裂させるために用いて
はならない」。第一六三条「未組織事業体においては、地方の労働機関が労働者集団を指
導して、少なくとも三名からなる労働者代表委員会(ban dai dien nguoi lao dong)を当
該事業体の労働者集団を代表させるために選出させる。代表委員会は委員長を選出し、多
数決により決定する。労働者代表委員会は地方の労働機関の承認を受けなければならない」。
第一六四条第一項他「(略)労働者代表(委員会)は、基礎労働組合と同様の権利と責任
を有し、保護を受ける」。第一六五条第三項「事業体に労働組合組織が設立されたときは、
本章第一節第一六〇条の規定を適用する。基礎労働組合組織が事業体の労働者の過半数を
組織したときは、本節に規定する労働者代表の役割は当然に終了する」。
910
一九九四年四月草案(新聞公開分)第一五四条「労働組合組織を有するところでは、労
働組合執行委員会が代表者となる。組合員数が労働者集団の過半数に満たない場合であっ
て、労働者が必要と考え、要求したときは、労働組合執行委員会は、執行委員会と協力し
て労働者集団を代表させるために、労働者集団に非組合員の代表者を数名選出させる。労
働者集団により選出されるべき非組合員の代表者の数について地方の労働機関の承認を受
けなければならない(moi la hop phap)。労働者代表権は、労働組合執行委員会の役割を
減衰させ、労働組合を分裂させるために用いてはならない」。第一五七条「未組織事業体
においては、地方の労働機関が労働者集団を組織して、少なくとも三名からなる労働者代
表委員会を当該事業体の労働者集団を代表させるために選出させる。(略)」。第一五九
条第二項「事業体に労働組合組織が設立されたときは労働組合執行委員会が労働者代表委
員会と交替(thay the)する」。
911
huong dan
912
一九九四年五月最終草案(国会上程分)第一五五条「労働組合組織を有するところでは、
労働組合執行委員会が代表者となる。労働組合組織を有しないところでは、省級労働同盟
が、労働者集団を代表させるために暫定労働組合の設立の組織を指導(huong dan)する。
暫定労働組合組織の活動はベトナム労働総同盟の規制するところにしたがう」。
913
外資系事業体における従業員代表制の導入の動きを批判するベトナム労働総同盟機関紙
の記事として、BAO LAO DONG,24.7.2000,tr.2 などがある。
914
413/PL-TLD,5.4.2000,Ha noi
915
Tham luan cua Lien doan Lao dong tinh Dong Nai:NHUNG VUONG MAC BAT HOP LY CAN DUOC
BO SUNG SUA DOI TRONG BO LUAT LAO DONG(TONG LIEN DOAN LAO DONG VIET NAM 前掲註2
55資料所収)。なお、当時の「労働法違反行為に関する行政処罰を規定する」政府議定
38/CP は労働組合の設立に対する妨害行為について罰則を規定していなかった。現在は「労
働法違反行為に関する行政処罰を規定する」政府議定 ND113/2004(二〇〇四年四月一六日)
第二〇条がこれを規定している。
916
Ban soan thao sua doi,bo sung Bo Luat Lao dong,BAO CAO DANH GIA VA NOI DUNG,NGUYEN
TAC SUA DOI,BO SUNG MOT SO DIEU CUA BO LUAT LAO DONG,8.2000
917
dai dien lao dong
918
BO TU PHAP:TRUONG DHL HA NOI,BAN TONG HOP Y KIEN DONG GOP CHO DU THAO LUAT SUA DOI,BO
SUNG MOT SO DIEU CUA BO LUAT LAO DONG,9.3.2001
919
19/TTr-BLDTBXH,16.3.2001
920
chi dinh(指定)
921
事業体破産法第二五条「事業体が労働者に対して連続して三ヶ月以上賃金を支払えない
ときは、労働組合の代表(労働組合組織がないところでは労働者の代表)は、事業体が主要な
本拠を置く土地の裁判所に対して当該事業体の破産宣告を請求する権利を有する。この場
合において、労働組合(ないし労働者の代表)には訴訟費用の前納の必要がなく、一債権者と
して債権者会議に参加し、事業体の経営活動を再組織するための和解立案書を可決する権
利を有し、事業体が和解立案書を作成しないとき、または和解立案書が可決されなかったと
きは、事業体の残存財産価値の分配に関して裁判官と討論し、建議する権利を有する」。
922
「各事業体における労働者、職員の昇給を指導する」通達 05/LDTB-XH(一九九五年三月
二二日)Ⅳ-1「労働者が技術的専門水準の向上、労働効率、生産効果の向上に奮闘するよ
う奨励する国家の客観的でしっかりとした規定に従った昇給を保障するために、事業体は
昇給協議会を設立しなければならない。昇給協議会の構成員は、事業体の長および事業体
の長が選んだ数名の構成員、労働組合執行委員会の代表または労働者集団の代表(労働組
合未設立の場合)である」。
923
「賃金に関する政府議定 197/CP の一部条項の実現を指導する」通達 10/LDTB-XH(一九
九五年四月一九日)4-a および b「賞与規定の作成に際しては、基礎労働組合執行委員会、
労働組合組織が未設立のところでは労働者集団の代表の意見を参考にしなければならな
い」。
924
労働法典以前に公布され、労働法典の指向に伴い廃止された関係法規として、閣僚評議
会の議定 233-HDBT(一九九〇年六月二二日)に付帯して公布された「各外資系事業体に対
する労働規制」および右労働規制の施行を指導する労働・傷病兵・社会省の通達 19-LDTBXH
(一九九〇年一二月三一日)などがある。「各外資系事業体に対する労働規制」第二条第
二項「労働者の代表とは、ベトナム労働総同盟の系統に属する労働組合の主席、または当
該労働組合の執行委員会から委任された受けた者、あるいは、企業内にいまだ労働組合組
織が設立されない場合において労働者集団を代表するために当該労働者集団により選出さ
れた者をいう」
(労働協約の締結主体となる旨規定)。労働・傷病兵・社会省の通達 19-LDTBXH
(一九九〇年一二月三一日)Ⅳ-2「企業の長(または企業の監督から委任された者)は、
企業の具体的条件に基づき、規定にしたがって労働協約につき交渉しこれを締結するため
に、協約の起草を主導し労働組合あるいは労働者の代表と意見を交換する。企業にいまだ
労働組合が存在せず労働者の代表を選出することが必要不可欠である場合は、当該企業で
働く労働者の中から無記名投票により、企業の長(またはその代表)および所轄労働機関
の代表者の検分のもとで選出される」。
925
LUU BINH NHUONG
926
「労働紛争の集団的性質を確定するためには、まず、その主体が労働者集団であるか否
かを確定しなければならない。/通常、労働者集団は集団的行為を通して主体であるとみ
なされる。各個人は、統一的活動目的のもとで、ともに参加し、あるいは組織を承認する
のである。しかしながら、労働者集団の組織形式は他の各集団と同様ではない。労働者集
団は、労働組合の設立、組織性を有する各活動の組織といった正式な表現をとることがで
きる一方、暗黙に承認された主体としても存在し得るのである。すなわち、組織面におい
て未だいかなる具体的な表現をも有していない段階において、人々は暗黙裡に、その一定
の人数と、仕事、賃金、労働条件など彼らが常に関心を向けていなければならない問題の共
通性という二つの要素を有するがゆえに、当該職場単位の労働者全体が労働者集団を構成
するものとして了解するのである」。「集団的労働紛争は以下の基本的徴表から確定でき
る。第一に、職場単位ないしその部分における多くの労働者、または労働者集団の代表の、
使用者に対する紛争であること、第二に、紛争に参加する労働者らが共通の目的を有する
こと、すなわち、紛争における労働者らの要求内容が個人的なものでなく、共通のもので
あること、第三に、紛争の内容が仕事、賃金、社会保障、労使条件、労働災害、職業病、
解雇、労働者の名誉に対する侵害など、労働の過程に関連を有するものであることである。
/以上のような理解方法に依れば、労働組合の参加の有無は集団的労働紛争における必要
不可欠な926要件ではない。なぜなら、労働組合が参加する場合、労働組合は労働者集団の代
表として行動するのであり、このことは労働組合組織がない場合に労働者集団の代表委員
会が行動する場合と比較して何ら変わるところがないからである」(LUU BINH NHUONG,VE
TRANH CHAP LAO DONG TAP THE VA VIEC GIAI QUYET TRANH CHAP LAO DONG TAP THE,tap chi
Luat Hoc,TRUONG DAI HOC LUAT HA NOI,2.2001,tr.38)。
さらに、集団的労働紛争の成立要件として事業体の労働者の三分の一以上かつ一〇名以
上の参加など人数要件を規定すべきとした。
928
PHAN DUC BINH 氏
927
929
白石前掲註17書二〇九頁以下。
「一党制か多党制かは、政治闘争、階級闘争における力関係の反映であり、結果であっ
て、したがって、それは、それぞれの国の具体的な歴史的条件の産物である。現在のわが
国の条件のもとでは、多元的政治メカニズム、野党をともなう多党制を打ち立てなければ
ならない客観的な必要はない。野党をともなう多党制を容認することは、つまりは、祖国
に敵対し、人民に敵対し、体制に敵対して活動する国内の、また外国帰りの反動・報復諸
勢力がすぐさま合法的に再起する条件をつくることである。それは、わが人民がけっして
受け入れない事柄である」。「ベトナム共産党第 7 回大会諸文献についての中央委員会報
告/社会主義の道にそって刷新の事業を引き続き前進させよう/一九九一年六月二十四日
/書記長(当時)/グエン・バン・リン」世界政治一九九一年一二月号上巻五五頁以下。
「ソ連・東欧における社会主義体制の危機・崩壊という事態をふまえて、八九年以来ベト
ナムでは、経済の分野での改革を優先し、政治の分野の改革は経済復興・成長の前提とな
る政治的安定をそこなわない範囲で行われるべきものとされた。つまり共産党の指導性を
否定したり、対立野党を認める政治的多元主義の導入は拒否するという道が選択されるこ
とになった」(古田前掲註20書一七一頁)。
931
一九七四年労働組合条例序文。これはもちろん、レーニンにより提起された「労働組合
=伝達紐帯論」に由来するものと思われる。なお、レーニンの伝達紐帯論について、下斗
米伸夫は、「往々なされる誤解とは反対に、労働組合、労働大衆とソビエト国家との利益
、、、
の不一致を前提としつつ、あらためて両者の統合と同一化をはかる論理として了解された」
ものであったことを指摘している。下斗米伸夫『ソビエト政治と労働組合』東京大学出版
会1982年6月25日5頁。
932
村野前掲註103「解説」参照。
930
【付録】
Ⅰ 事例
事例① V-Flame社におけるストライキの顛末 1
従業員が親会社に対して社長他の更迭を要求したケース/基礎労働組合の一部
役員が労働者代表委員会を承認し、「労働者代表権」を委譲したケース
V-Flame 社(以下「会社」)は、ホー・チ・ミン市 Tan Thuan 輸出加工地区に
社屋を構え、ガスライターを生産する一〇〇%日本資本の有限責任会社である。
従業員は約七〇〇名であり、うち六八〇名が二交代制によるライン作業に従事
している。会社は日本所在の親会社が倒産した後、新しい親会社である Glanz
社からN社長およびI副社長を迎えたが、この新しい指導陣(以下「監督委員
会」)が数名のベトナム人幹部従業員を解雇した上、苦しい財政状況の中で経営
内容のいくつかを変更した結果、従業員らの間で次第に不満がつのっていた。
会社は、二〇〇一年六月二六日、従業員らに対し、七月七日(土)に替えて七
月一日(日)に、しかも通常の労働日の賃金により、二二時まで就労すること
を命じた。会社によるこのような日曜日の就労命令は三週連続のことであった。
因みに、翌七月二日(月)は午前六時から就労することになっていた。なお、
従前は、時間外・休日労働を命ずる必要のある場合、会社は法の定めにしたが
って事前に従業員と協議を行っていたが、この頃には右手続を無視し、従業員
に対して一方的に通告するのみとなっていた。さらに、この過密労働により体
調を崩して休んだ者については、その前日の労務に対しても賃金を支払わない
という違法な措置をとっていた。
このような状況の下、同社でのストライキを呼びかけるビラが六月二九日か
ら会社の内外で配布されていたが、七月一日午後、ついに同社の第二シフトの
従業員二〇〇余名がストライキに入った。その主たる要求内容は休日労働に対
する割増賃金の支払いであったが、従業員らはこれに併せて、労働契約に基づ
く年三米ドルの昇給の実現、社会保険料・医療保険料の納付(会社は、二〇〇
一年一月以降、社会保険料の従業員負担分を賃金から控除しながら滞納してお
り、このため疾病・出産制度を享受できない女性労働者や、退職一時金制度を
享受できない退職者が多数あった)、年休買取金の支払い(会社は一九九八年以
降未消化年休の清算を行っていないが、将来の閑散期に従業員に年休の取得を
強制して自宅待機に対する賃金の支払い(七〇%)を免れることをねらい、形
式的にこれを「支給遅れ」としていた。多くの従業員について三〇日分もの年休
買取金が「支給遅れ」になっていた)、および苛酷な就業規則の改正を要求し、
会社がこのことに関する話合いに応じるまでストライキを継続する意思を明ら
179
かにした。従業員らは五名の代表を選出して使用者側との話合いを試みたが、
N社長はこれを拒否した上、警備員に命じて会社の門を閉めさせ、
「中の者は出
さず、外の者は入れない」手段にでた。さらに、警備員Bが従業員に対して暴
言を吐き、取材に赴いた LAO DONG 紙記者に激しく暴力をふるおうとしたため、
憤激した従業員らが門を取り囲みこれに反対した。結局、同記者の説得により、
同日一六時一五分、従業員らは一旦帰宅した。
翌七月二日(月)、スト参加者は第一、第二両シフトの従業員五〇〇名近くに
増加した。従業員らは、少なくとも七月四日まで、または要求が達成されるま
でストライキを継続することを宣言した。ここにおいて、会社基礎労働組合は
会社に対し同日午前中に従業員らとの対話の場を持つことを建議し、会社がこ
れを承諾したので、基礎労働組合執行委員会の司会により会社と従業員らとの
間で話合いが持たれた。ここで、従業員らは文書により、幹部従業員に対する
責任手当のカット、賄いを一人前五〇〇〇ドンから四五〇〇ドンのものに落と
したこと、労働協約違反、トイレカード制、社会保険料の滞納、年休買取金の
不支給など九点に関する撤回・改善を要求した。このうち、幹部従業員に対す
る責任手当カットとは、会社が、二九名のグループ長、シフト長の毎月の責任
手当を「合理的な理由なく」罰金として三ヶ月間にわたり支払わなかったこと
を指す(一人当たり一〇万八〇〇〇ドンから一二万八千ドン)。また、トイレカ
ード制とは、作業中にトイレに行きたくなった従業員は名前を控えてトイレ使
用許可カードを支給されるために許可を求めなければならず、またこのカード
はライン当たり一枚しかあてがわれなかったため同時に二名以上トイレに行く
ことができず、また原則として各シフトにつき一人一回しか利用が認められな
いという制度のことである。
これにつづき、同日(七月二日)、ホー・チ・ミン市輸出加工地区-工業地区(以
下 Hepza)労働管理室長 Phung Van Hung 氏と Hepza 労働組合副主席 Truong Thi Be
氏により、従業員の代表と会社の監督委員会および報道機関の出席を得て、本
件ストライキに関する和解が進められた。この席において、監督委員会は、従
業員らの要求について次のような回答を行った。すなわち、賄いについては,
確かに五〇〇〇ドンのものから四五〇〇ドンのものに変更したが、現在の食事
は日系の会社との契約により供給されているものであり、品質的には六〇〇〇
ドン相当のものである。しかし、もし従業員が納得しないのであれば従前のも
のに戻す。社会保険料の滞納については、会社は目下経済的に逼迫した状況に
あるので一度に解決することはできないが、二〇〇一年八月から徐々に納付し
てゆき、年末までに完納する見込みである。それまでの間に出産、疾病制度を
享受できなかった従業員に対しては、会社がこれを全額補償する。年金買取金
についても二〇〇一年末までに清算する。時間外・休日労働に対する割増賃金
180
は、法定の基準によりこれを支払う。年三米ドルの昇給についてもこれを実現
する。トイレカード制は廃止する。なお、幹部職員に対する責任手当カットに
ついては、彼らがその責任を遂行せず、品質基準に達しない商品の生産を導い
た結果会社に対して五万米ドルの損害を与えたことを理由とするものであり、
基礎労働組合執行委員会も話合いの結果この決定に同意(黙認)した正当な処
分であったが、彼らの今後の勤務態度いかんによっては再び責任手当を支給す
る用意があるとした。以上のうち責任手当カットについては、Truong Thi Be
Hepza 労働組合副主席の要求により、監督委員会が証拠を提出してその正当性を
証明した。最後に、Phung Van Hung Hepza 労働管理室長と Truong Thi Be Hepza
労働組合副主席が、会社に対し、本件ストライキに参加した従業員を解雇して
はならないこと、従業員の健康を損なわないように時間外労働を配分すべきこ
と、懲戒処分に際しては手続を遵守すべきこと、および現行法に基づいて就業
規則を調整し直すべきことを提議した。以上を踏まえ、従業員らは労務の再開
に同意し、同日(七月二日)一五時頃、二〇〇名前後が一旦仕事に復帰した。
ところが、これに前後して会社内に「労働者代表委員会」なるものが設立され、
会社にその名簿を提出するとともに「監督委員会(N社長およびI副社長)の更
迭」という新たな要求を提示してストライキの継続を宣言、指導した。右「労働
者代表委員会」は、実質的には基礎労働組合執行委員会の構成員七名のうち二名
がこれを設立したうえ同執行委員会名で文書による承認を与え、本来は基礎労
働組合にのみ認められる「労働者代表権」を委譲したものである。なお、この「労
働者代表委員会」には既に会社との労働契約関係を終了した数名の個人が名を
連ねていた。上記「労働者代表委員会」による働きかけの結果、従業員らは前記
同意を撤回してストライキを続行した。結局、同日は一八時まで話合いが行わ
れたが,解決を見なかった。
翌七月三日(火)午前、本件ストライキは、ライン従業員の全員である六八
〇名が参加、会社のあらゆる活動が麻痺するという事態にまで発展した。ここ
において、
「労働者代表委員会」の代表に選出されたL氏は、LAO DONG 紙の取材
に対し、
「我々は要求を達成するまで闘い抜く所存である。第一に、日本の親会
社は新しい監督委員会を任命するとともに、この問題の実現にかかる時間を明
確にすること、第二に、新しい監督委員会が任命されるまでの期間中に現監督
委員会が(従業員に対して)何らかの事項について指導を行おうとするときは
労働者代表(委員会)を通して行うこと。もしこれらの要求が承諾されないと
きは、我々は長期にわたってストライキを継続するであろう」と述べた。
このような事態に対し、同日(七月三日)午前、Hepza 管理委員会常任委員会
副委員長 Nguyen Chon Trung 氏が、通達により、会社に対しては、七月二日午
後に合意した内容を速やかに実現すること、および Hepza 管理委員会が適宜指
181
導できるよう本件ストライキの情勢について報告を絶やさないことを求め、従
業員らに対しては、直ちに仕事に復帰することを呼びかけた。また、ホー・チ・
ミン市労働同盟副主席 Mai Duc Chinh 氏は、同日午後、Hepza 労働組合執行委員
会に対して、会社基礎労働組合執行委員会に前述の権利委譲文書を撤回させ、
全従業員と会って彼らが仕事に復帰するよう運動すべき旨指導した。また、ホ
ー・チ・ミン市公安当局は、本件ストライキについて調査し「扇動者」を処分す
るための担当者を選任した。
七月四日(水)朝、会社が門を開き掲示板を掲げて仕事への復帰を呼びかけ
たところ、約三〇名の従業員がこれに応じた。しかし、残りの約六五〇名は、
会社の正面にある家屋に結集してストライキを続行した。同日午後、Phung Van
Hung Hepza 労働管理室長は、従業員を安心させて仕事に復帰させるため、会社
の監督委員会と連名で九つの内容からなる通知を出した。その内容は、会社は
幹部に対する責任手当カット処分の決定の破棄を約束する。社会保険料は八月
から全額納付する。二〇〇一年度第三期における年休買取金を完全に清算する。
トイレカード制度は廃止する。本件ストライキに参加した従業員を解雇しない
(ただし、前述の Hepza 管理委員会副委員長による通達に故意に従わない従業
員を除く)、などというものであった。同日一七時五〇分、右通達を周知するた
めの掲示板が立てられると、従業員の大部分は帰宅した。なお、親会社である
日本の Glanz 社は同日、本件ストライキの解決に参加させるため、同社U副社
長を現地に派遣した。
七月五日(木)朝、従業員の大部分が通常の仕事に復帰した。ストライキを
継続する者も若干名いたが、会社はこのような従業員については年休を取得し
たものとして取り扱うこととした。同日、ナベシマ社長と Hepza 管理委員会の
代表は、従業員らが本件ストライキに際して行った建議について「会社は従業
員らによる正当な要求の全てについてその解決に同意する」旨の覚書に署名し
た。この他、会社は、Hepza 管理委員会に対しても、ストライキに参加した従業
員を解雇しないことをも約束し(前述の Hepza 管理委員会副委員長による通達に
故意に従わない従業員を除く)、さらに、四日間に及んだ本件ストライキ期間に
ついて、全ての従業員に対して賃金を支払うことを決定した。
七月一〇日午後、Hepza 管理委員会の主催により、Nguyen Chon Trung 同副委
員長の司会で、本件ストライキを検証する関係各機関、組織の会合が開かれた。
この会合は「労働者代表委員会」の設立を容認するか否かという問題で紛糾した。
容認派としては、まず Hepza 管理委員会が「V-Flame 社においては基礎労働組合
と併せて労働者代表委員会を設立することが必要不可欠である」とし、また、
ホー・チ・ミン市党執行委員会動員委員会専門委員の Nguyen Van Le 氏が「労
働者集団は、労働組合組織を認知せず自らその代表委員会を設立する権利を有
182
する」ことを肯定した。これに対して、ホー・チ・ミン市労働同盟副主席 Phan Thi
Anh Thu 氏は,「本件ストライキが発生したのは会社が労働者の合法的で正当な
権利を侵害したためである」として本件ストライキの発生の責任はもっぱら会
社に帰することを認めながら、
「労働者の唯一の合法な代表組織は基礎労働組合
であるから、本件ストライキにおける「労働者代表委員会」の設立は法律とベ
トナム労働組合条例に違反する」とし、Hepza 労働組合に対して、「労働者代表
委員会」を認めない旨の決定を出し、右代表委員会の設立に参加した基礎労働組
合執行委員会の構成員に対して厳格な紀律処分を行うべき旨指導した。その具
体的論拠は、
「憲法第一〇条は労働組合が労働者階級の唯一の合法的な代表者で
ある旨規定しており、また労働組合法および労働組合条例は、労働組合組織が
共産党の指導のもとにある祖国戦線の構成員たる政治-社会組織である旨明確
に規定している。このように、様々な成分からなる現在の経済において、外資
系企業にあっては、党は労働組合組織を通じて労働者階級を指導するのである。
それゆえ、わが国の政治体制は非合法的ないかなる労働者代表組織も労働組合
組織との並存を認めない。もしそのようなものの存在を許すならば、
「労働組合
組織における多元」状態を支持することになってしまう。その場合、党はどの
組織を通して労働者階級を指導することになるのか?」というものだった。結
局、Nguyen Chon Trung Hepza 管理委員会副委員長は、Phan Thi Anh Thu ホー・
チ・ミン市労働同盟副主席の意見に賛成した。ただし状況の安定を維持するた
め、労働者代表委員会を直ちに解散させるのではなく、徐々に解体を進めるこ
とを提議した。また、ホー・チ・ミン市労働組合連合に対し、基礎労働組合幹
部の紛争解決能力の向上とともに労働者に労働法を周知すべき旨提議した。な
お、Hepza 管理委員会はこの会合において、本件ストライキを「扇動」した個人
を擁護するとともに、従業員らが掲げた「監督委員会の解雇」要求についても
これを正当な要求であるとする見解を示した。
七月二七日、Hepza 労働組合は、正式に本件会社における「労働者代表委員会」
の正当性を否定し、これを解散させた。他方、会社の監督委員会は次のような
通告を行った。すなわち,約二〇〇名の従業員によりストライキが開始された
七月一日に就労した従業員らに対しては賃金の二〇〇%を支払い(ストライキ
に参加した従業員に対する取り扱いは不明)、七月二、三、四の各日については、
従業員らは「労働者代表委員会」による扇動、恫喝の犠牲者であるに過ぎないか
ら、全従業員について賃金を支払う(具体的な金額は不明)、とした。
また、「労働者代表委員会」について、会社は、Hepza に対し、「具体的にはL
氏(前出)およびC氏が命令し、電気、電話を止めて会社の生産に重大な損害
を与えた。
『労働者代表委員会』は引き続きストライキを扇動し、就労しようと
する従業員に恫喝を加えている。
『労働者代表委員会』は労働法典第一七三、一
183
七六、一七八の各条に違反している(抄)」等とする申立書を提出した。監督委
員会は、右申立書において、Hepza に対し、
「会社が(Hepza を)信頼して今後も
投資を続けるため」に、「労働者代表委員会」の惹起した損害を解決されたい旨要
求した。
事例②
Rehang Vietnam Stainless 社における労働組合の「無効化」の例
同社は、Long An省Ben Luc県Nhut Chanh 2 において一九九九年に操業を始めた、
家庭用ステンレス製品を生産する一〇〇%台湾資本の私営有限会社(Cong ty
TNHH)である。社長(tong giam doc)Lは台湾人であり、従業員数は二〇〇三
年六月現在で一九三名(うち二一名は無契約状態で就労)、平均給与は一人当た
り月額六〇万ドンである。
同社においては、二〇〇二年一一月に五名の執行委員(全員が直接生産に携
わる工人 3 )による暫定労働組合が結成されたが 4 、会社から供与された組合事務
室には家具等が一切なかったため、後日開催された基礎労働組合設立大会(以
下、大会)においては、出席者全員が土間の炊事場に直接座ることになった。
また、社長は、連続就労を命ずるという手段を講じて男子従業員の全員(人数
等不詳)及び四六名の女子従業員(総数一三〇名。全員組合加入申請書を準備
していた)について大会への出席を阻止した。
同年一一月二三日、社長は全従業員を集合させ、基礎労働組合(以下、組合)
に加入した者は「社長への面通し」 5 のため部屋の一方に進み出るよう命じた。
同年一二月五日、社長は、大会に参加した従業員全八四名(大会に参加した
女子従業員全員)中八三名に対して、大会が開催された時間に相当する二時間
半分の賃金をカットする旨通告した。組合執行委員会は、この件につき会社側
に「干渉」 6 を試みたが解決できず、省労働同盟に報告してその協力 7 を求めた。
これに対し、社長は同月二一日、大会参加者中八〇名を日差しの強い屋外に集
合させ、一時間にわたって通報者の氏名を糺した。組合委員長Nguyen Thi Cam
Nhanが名乗り出ると、社長は同日中に、工場内の圧延グループ 8 で就労していた
彼女を孤立する廃材倉庫に配転した。また、その他の全執行委員についても、
祝祭日の一時金を減額支給した。
社長は、何度も従業員を集合させては、
「何のために労働組合に入るのか。収
入を減らされ、失業しやすくなるためか。組合委員長自身が収入を減らされて
いるのに、どうやって他人を守るのか」と述べ、実際に、二〇〇二年末、組合
に加入した従業員全員について、各手当と賞与を減額支給した。
その後、社長は Le Duc Tham および Nguyen Thi Mong Van の二名の組合執行
184
委員を解雇したほか、組合員 Tran Thi Thoi を強いて組合脱退届を提出させ、
同様に脱退を強要したが拒否された組合執行委員 Nguyen Thi Kim Thanh に対し
ては、二〇〇三年六月初頭、警備要員を使って就労場所である工場構内への立
ち入りを禁じた(Ben Luc 県労働同盟の「干渉」により解決したが、圧延グルー
プから低賃金で重労働の製品研磨ラインに配転させられた)。
また、社長は、自ら組合印を管理して、組合委員長による保管を許さず、組
合がこれを使用する時は毎回社長の検閲を通すべきこととし、さらに上級組合
から送られて来る書類を全て没収して組織内の連絡を遮断した。さらに、頻繁
に組合員を呼び出しては組合の活動内容を取り調べて録音し、特に組合委員長
に対しては、上級組合宛の各文書につき、組合員を告発する内容に修正したり、
前出の執行委員 Nguyen Thi Kim Thanh を職務不適格により除名する決定を行っ
た旨報告するよう迫ったりした(組合委員長は何れも拒否した)。
以上のような組合に対する「無効化」 9 の結果、当初五名だった組合執行委員
は、二〇〇三年六月一一日時点で二名に減ってしまった 10 。
同年六月一〇日、省の関係諸機関による合同調査団 11 は、同社における労働法
の執行状況について、労働法典に違反しているばかりか基礎労働組合組織の全
ての活動を無効化する兆候さえあると結論し、同社に対し、組合活動の条件を
整えるべきことなど一八項目にわたる建議を行った。
翌一一日以降同社に関する上記の事態が新聞に報じられるようになったとこ
ろ、同年六月一五日午後、会社は各工場長を招集して右報道内容を審理 12 した。
その席上、社長は自らの過ちを否定したうえで、報道機関に情報を提供した組
合幹部を糾弾した。また、社長寄りの一部の従業員は会社を告発 13 したことを理
由に組合主席の交代を要求した。
他方、Ben Luc県労働同盟は、六月一九日、Long An省労働同盟および各関係
機関に文書を送り、組合組織の職能、権限を正しく実施したことのみを理由と
してその活動を制限される危機に直面している本件会社の組合幹部を防衛し、
組合執行委員会に対して速やかに組合印を返還するよう同社社長に「干渉」す
べきこと、本件会社監督委員会 14 とともに使用者側と労働者側に労組法と労働法
典を宣伝するための場を設けることを提議した。また、Ben Luc県労働同盟主席
は、Long An省労働同盟に対し、組合組織の活動に関する条例に違反することを
理由として、組合大会を開催して新しい組合執行委員会を選出する(会社側の)
意図を承認しないことを建議した。
ただし、組合執行委員の欠員を補充するため、組合は二〇〇三年八月、Long An
省労働同盟およびBen Luc県労働同盟の検証 15 の下で任期途中の大会を開催し、
同社従業員であるLe Huu HoangとNguyen Thi Mong Hongの二名が当選した。八
月二七日、組合委員長がLong An省労働同盟から送付された新執行委員公認決定
185
書を同社内部の掲示板に貼付したところ、同日午後、社長夫婦がこれを破り捨
てた。また、組合委員長の抗議 16 に対して、社長は、周知したければ従業員を探
しに行って一人ずつ伝えればよいと答え、さらに、
「ここには『申請と許可』17 し
か存在しないのだ」と述べた。
二〇〇三年九月三日、社長は、組合執行委員Nguyen Kim Thanh(女性) 18 に対
して、従前より不利益な(有害手当、昼食、社会保険、職階に基づく賃金から
出来高給への変更など)新しい労働契約への署名を強要した。同氏がこれを拒
否したところ、翌九月四日、同社の警備要員は出勤した同氏の入構証を取り上
げて構外へ追い出した。翌九月五日、同氏が再び同社へ赴き、説明を得るため
に社長に面会を求めたところ、三名の警備要員(男性二名、女性一名)が同氏
を引き倒し、会社の正門までの一五メートルを引きずったうえ、路上に投げ捨
てた。警備員に引き倒された際、彼女は肩を脱臼し、さらに彼女の上衣のボタ
ンは引きちぎられ、群衆の面前で胸がさらけ出された。同氏は直ちにBen Luc県
労働同盟に走り、事情を報告した。
Ⅱ
ストライキの解決の現状
ベトナムにおいて労働者のスト権が実質的に初めて認められたのは一九九四
年の労働法典においてであり、その解決システムもまた同法典において初めて
規定されたものである。しかし、ベトナム国内の先行研究 19 によれば、一九八六
年のドイモイ政策開始から一九九五年の労働法典施行までの間にすでに一二二
件のストライキが発生しており、これらストライキは以下の方法によって解決
された。すなわち、政権(人民委員会)と労働・傷病兵・社会局の干渉による
ものが六件、公安によるものが一件、関係諸部門(混成幹部団)によるものが
九件、労働使用単位の主管機関によるものが四件、上部労働組合組織によるも
のが六件、当事者双方による自力解決が一四件などとなっている。
表 20
一九九七年(労働法典施行の二年後)におけるストライキとその解決の例
日時 地点
1.1
合
組
ク タ ー 数
法
合
等
性
経 済 セ 人
Hoc Mon, 私営(tu 60
TP.HCM
原因/要求内容
解決方法
96.11 分賃金の不十分 県 労 組 同 盟 が 監 -
nhan)
払 い ( 2 度 に 分 け て 督委員会と協力
企業
70%)
して解決(1.4 に
全額清算)
186
-
1.3
Thu Duc, 私営
TP.HCM
40
正月(陽暦)休暇後、監 労組同盟、労働・ -
有 限 責
督者が労働者に点検を 傷病兵・社会室が
任会社
強制/(工場内の)労働 監 督 委 員 会 に 各
政策に関する 10 項目
-
要求内容への対
応の研究を要求
1.3
-
-
賃金不(十分)払いによ -
手
有
合弁
り 96.11 からストライ
続
企業
キ
違
Dong Nai 私営
40
会社が正月(陽暦)の予 会社が要求受諾
有 限 責
定を発表しなかったの 所 轄 機 関 は 会 社
任 会 社
で労働者が休んだが、監 に 労 働 者 に 対 す
分工場
督者が点検を強制/点検 る 労 働 法 教 育 を
強制の禁止、労働時間、 提 議
賃金・賞与
1.5
Hoc Mon, 台湾
TP.HCM
60
※和解協
議会未設置
反
1.6
TP.HCM
私営
171
-/単価の公開、順法清 社 長 が 要 求 に 同 手
算、理由無き懲戒禁止
会社
意
未
続
違
(服飾)
反
1.8
TP.HCM
私営
150
会社
1.8
Hoc Mon, 韓国
TP.HCM
140
低賃金(平均 10 万ドン/ 社 長 が 解 決 を 約 手
月)、賃上げ無き労働時 束
続
間延長/賃上げ、その他
違
労働法規の実現
反
-/賃上げ及び労働条件 社 長 が ス ト 期 間 手
支給と賞与規定 違
会社
の発表を約束
TP.HCM
手
合弁
員会再選出、労働法典の
続
有 限 責
実現
違
500
有
反
任会社
1.16 TP.HCM
反
-/賃上げ、組合執行委 -
1.14 Thu Duc, 台湾
未
中の賃金の半額 続
の改善
100%
未
有 限 責 150
-/歩合保証額維持、法 社 長 が 労 働 者 と -
任会社
運
定休に対する賃金支払 協力して解決
転
い、無過失事故賠償制度
手
廃止、労働契約締結、社
会保険、組合設立
187
未
1.28 Quan1,
国営
-29
事業体
TP.HCM
200
-/正月一時金及びその 経 営 委 員 会 が 正 -
他の権利
TP.HCM
月一時金につき
「進行」
支社
1.30 Thu Duc, 私営
-
1,0
株 式 会 00
低賃金、時間外割増賃金 二 県 の 労 組 同 盟 -
不払い
-
の活動で会社は
生産工程見直し、
社
正月一時金支給、
賃上げ
2.1
Hoc Mon, 韓国
TP.HCM
680
-/一時金の不公平の是 労働・傷病兵・社 手
正、年休の改善
100%
会局と県労組同 続
盟が解決
会社
有
違
反
2.1
Hoc Mon, 合弁
TP.HCM
2.3
2.3
96
会社が正月一時金(の有 県 労 組 同 盟 が 活 -
会社(国
無・水準)につき公表せ 動 す る も 解 決 せ
名不明)
ず
ず
時間外労働分不払い
社長が各要求を -
Quan4,
国営
TP.HCM
事業体
Tan
韓国
50
-
-
解決
400
賃金遅払い、年末一時金 労働・傷病兵・社 手
会局、労組、及び 続
無し
Thuan 製 100%
有
造 加 工 会社
製造加工区管理 違
区,
委員会が会社と 反
TP.HCM
協力して活動し、
社長が解決を約
束
2.13 Cu Chi,
TP.HCM
韓国
300
違法な労働強化、遅刻に 労働・傷病兵・社 手
対する罰金等
100%
会局と県労組同 続
盟が活動し解決
会社
有
違
反
2.13 Cu Chi,
TP.HCM
韓国
100%
51
社長による不当な点検 県 労 組 同 盟 が 活 手
強制
動し解決
続
違
会社
反
188
有
付録註
BAO Nguoi lao dong,2001.7.2,tr.3,V.Tung「V-Flame社の 200 名以上の労働者がストライ
キ」/BAO LAO DONG,2001.7.2,tr.2,Duong Minh Duc-Dang Ngoc「200 名以上の従業員が権
利を要求してストライキ」/BAO LAO DONG,2001.7.3,tr.2,Duong Minh Duc-Dang Ngoc「従
業員集団は監督委員会(BAN GIAM DOC)の解雇を要求」/BAO Nguoi lao dong,2001.7.3,
V.Tung,tr.3「V-Flame社の従業員がストライキを継続」/BAO LAO DONG,2001.7.4,tr.2,
Duong Minh Duc-Dang Ngoc「扇動した個人のためにではなく、集団の権利の犠牲のために」
/BAO Nguoi lao dong,2001.7.4,tr.3,V.Tung「V-Flame社の従業員いまだ仕事に復帰せず」
/BAO LAO DONG,2001.7.5,tr.2,Duong Minh Duc-Dang Ngoc「30 名の従業員が仕事に復帰。
日本のGlanz社副社長がストライキの解決のため渡越の予定」/BAO Nguoi lao
dong,2001.7.5,tr.3,Phan Thao-Vinh Tung「労働関係の範囲を越えた事件に発展」/BAO LAO
DONG,2001.7.6,tr.2,Duong Minh Duc-Dang Ngoc「従業員は仕事に復帰。会社は従業員の正
当な全ての要求の解決に同意」/BAO Nguoi lao dong,2001.7.11,tr.3, V.Tung「過ちを犯
した労働組合幹部に厳格な処理を」/BAO LAO DONG,2001.7.12,tr.3,Duong Minh Duc「非
合法な従業員代表委員会の解散が必要である」/BAO LAO DONG,2001.7.31,tr.2,Duong Minh
Duc「非合法な「労働者代表委員会」に対する断固とした処理が必要である」(「労働法に基づ
き、もしHepza労働管理室長が労働調停員として上記申立てにかかる和解を成立させること
ができないときは、非合法的な「労働者代表委員会」が惹起しその責任を負うべき損害を明
らかにするために、本件事案は裁判所での解決に移されることになる」とする)による。
1
2
3
社(xa)
cong nhan
BAO Nguoi lao dong,11.6.2003-14 は一一月三〇日に結成されたと報じているが、日付に
つき他の記事との整合性に疑問がある。
4
de ong nhan dien
can thiep(干渉)
7 ho tro
8 to can
9 vo hieu hoa
5
6
BAO Nguoi lao dong,12.6.2003-Thoi suは、解雇一名、退職二名と報じている。これに対
して、BAO Nguoi lao dong11.6.2003-14 は解雇二名、退職一名としている。本稿では後者
を採用。
10
Doan Thanh tra lien nganh
12 xem xet
13 kien
14 Ban Giam Doc
15 chung kien
16 phan ung(反応)
17 xin va cho
11
前出の組合執行委員Nguyen Thi Kim Thanhと同一人物と思われる。近年、女性がその
氏名から「家」への所属を意味する「Thi(氏)」を抜いて表示する風潮がある。
19
LUU BINH NHUONG,TAI PHAN LAO DONG THEO QUY DINH CUA PHAP LUAT VIET NAM(ハノイ
法科大学 2002 年提出博士論文、未公刊)tr.152
20
LIEN DONAN LAO DONG THANH PHO HA NOI,VAI TRO CUA TO CHUC CONG DOAN CO SO TRONG VIEC
GIAI QUYET TRANH CHAP LAO DONG VA HAN CHE DINH CONG CHUA DUNG PHAP LUAT,NHA XUAT BAN
LAO DONG–XA HOI,Ha Noi,2000,tr.143-148
18
189