1 - 写真:.タグを装着したシロザケのオスとメス

日本バイオロギング
日本バイオロギング研究会会報
バイオロギング研究会会報
日本バイオロギング研究会会報 No. 56
発行日 2011 年 1 月 27 日 発行所 日本バイオロギング研究会(会長 荒井修亮)
発行人 佐藤克文 東京大学大気海洋研究所 国際沿岸海洋研究センター
〒028-1102 岩手県上閉伊郡大槌町赤浜 2-106-1
TEL: 0193-42-5611, FAX: 0193-42-3715 E-mail: [email protected]
会費納入先:みずほ銀行出町支店 日本バイオロギング研究会 普通口座 2464557
第56号
56号
もくじ
新しい発見‐その 1
大型台風が魚の分布に及ぼす影響
河端雄毅(京都大学大学院情報学研究科)2
新しい発見‐その 2
音の数からイルカの密度を推定する
木村里子(京都大学大学院情報学研究科)2
会員からの寄稿
バイオロギング実習
三谷曜子(北海道大学)3
お知らせ
4
写真:.タグを装着したシロザケのオスとメス:本文 3 ページに掲載
-1-
新しい発見
しい発見-
その1
発見-その1
大型台風が魚の分布に及ぼす影響
報告者 河端 雄毅(京都大学大学院情報学研究科)
台風は人間や陸上動物の生活・生残を脅かしてき
た。また、近年地球規模の気候変動により、大型台
風の発生頻度が増加しているというデータが提示
されている。外洋の魚ならともかく沿岸の魚にも台
風は脅威となり得るようだ。例えば、大型台風の後
には、浜に魚が打ち上げられたり、藻場・サンゴな
どのハビタットが消失したりする。我々が 2 年間シ
ロクラベラの超音波テレメトリー調査をしている
際に、狙い通り(運良く)大型台風が通過した。そ
こで本研究では、そのデータを解析した。まず、あ
るイベントが起こる確率を目的変数として、時系列
と非時系列説明変数との相関を調べることが可能
な、Cox 比例ハザードモデルを用いて解析を行った。
ここでは、調査海域から出ていくことを「分布
変化」として目的変数にした。また、魚の全長、
放流の年、1 週間前までの最大風速、を説明変数
にした。続いて、AICc を用いて、最適モデルを選
択した。その結果、1 週間前までの最大風速がシ
ロクラベラの分布変化に影響を及ぼすことが示
唆された。また、台風通過時の移動データと物理
環境データを時系列にプロットした。その結果、
風速と移動に関係性が見られた個体が居た一方
(図 1)、物理環境データとの関係は無く台風通
過後 3 日間をかけて徐々に調査海域外へ移動した
個体が居た(図 2)。このことは、風速に伴う強
い流れなどの直接的な影響とハビタットの改変
等の間接的な影響の両方の要因で、シロクラベラ
の分布が変化したことを示唆する
図2
図1
図 1.風速と移動に関係が見られた個体の移動パターン。風速が約 20m/s になった時に北への移動を開始し、一旦調査
海域から居なくなった。その後、台風の目が過ぎて再度風速が上がった際に再度調査海域に現れ、今度は北から南に
移動し、調査海域から居なくなった。
図 2. 台風通過後、3 日間かけて徐々に調査海域外へと移動した個体の受信率。1 日の受信率は 1 日の内どれだけの時間
調査海域内に居たかの指標となる。台風通過前までは 1 日の内ほぼすべての時間を調査海域内で過ごしていたが、台風通
過後に徐々に調査海域外で過ごす時間が増え、4 日後に完全に調査海域外に生活圏を移したことが分かる。時折の台風に
よる撹乱であれば、種の多様性の維持に貢献しそうであるが、近年の頻繁な大型の台風の襲来はサンゴ礁魚類などの沿岸
魚類の種構成や分布域を変化させるかもしれない。 今後、異なるタイプの魚類をモニタリングし大型台風の影響を調べるこ
とで、台風の発生頻度が増加すると、どの種にとって有利に働き、どの種にとって不利に働くかなどが分かるかもしれない。
Kawabata Y, Okuyama J, Asami K, Okuzawa K, Yoseda K, Arai N. Effects of a tropical cyclone on the distribution of
hatchery-reared black-spot tuskfish Choerodon schoenleinii, determined by acoustic telemetry. Journal of Fish Biology.
2010. 77, 627–642
新しい発見
しい発見-
発見-その2
その2
音の数からイルカの密度を推定する
報告者 木村 里子(京都大学大学院情報学研究科)
密度推定は動物の資源管理の基本である。本研究
では、受動的音響観察手法を用いて、イルカが発する
音(クリックトレイン)の数から密度を推定するモデルを
考案し、現場水域で密度推定を行った。背景雑音から
一定の正検出率C・誤検出率Fで対象音を抽出する検
出フィルターを作成し、バイオロギング手法で発声頻度
Rを、音響伝播モデルから検出確率Pと検出可能面積
πw2 を推定する。さらに発声頻度に対する群れサイズ
の影響αを考慮してやれば、検出された対象音の数
-2-
Nct は密度Dに変換できる。揚子江に生息するスナメリ
をターゲットとし、揚子江中流の
ポーヤン湖接続域において
2007 年 6 月から 2009 年 5
月までの 466 日間受動的音響
観察を行った。その結果、日によって平均密度が 0 か
ら 4.79km2 まで変化することがわかった(図1)。観察を
実施した 94%の日は密度が 1 頭/ km2 以下で、観察水
域では 6 月前後に密度が高くなることがわかった。
図1.推定された個体数密度。マイナス値は非観察期間を示す。
Satoko Kimura, Tomonari Akamatsu,
Songhai Li, Souyue Dong, Lijiun Dong,
Kexiong Wang, Ding Wang, Nobuaki Arai.
Density estimation of Yangtze finless
porpoises using passive acoustic sensors
and automated click train detection,
J. Acoust. Soc. Am. 128, 1435-1445. 2010
会員からの
会員からの寄稿
からの寄稿
バイオロギング実習
報告者 三谷 曜子(北海道大学)
2010 年 11 月 4 日(木)~7 日(日)に、標津サ
ーモンパークおよび厚岸臨海実験所にて、バイオロ
ギング実習が開催されました。この実習は北海道大
学グローバルCOEプログラム「統合フィールド環
境科学の教育研究拠点形成」人材育成自由企画とし
て企画されたものです。対象は北海道大学環境科学
院および農学院の博士後期課程の学生ですが、バイ
オロギングに興味のある学生、あるいは、さらに解
析のスキルアップを目指す学生に広く学んでもら
いたいと、広く参加を募集し、7名の参加者が集ま
りました。
写真 1:浮力体製作中
まず、第一日目、昼に釧路駅に集合し、レンタカー
2台で「これぞ北海道!」という風景を横目に、標津
サーモンパークへ。ここの研修施設でまず、各種デー
タロガー、発信器の説明と、セットアップを実際に行
った後、参加者一人ずつが浮力体作成に臨みました。
二日目は、実際にシロザケの雌雄1個体ずつに、前
日に作成した浮力体に加速度データロガーと切り離
しタイマー入れたものを装着し、水槽内に放流した
後、観察を行いました。観察水槽の前で、研究発表を
写真 2:思い思いの浮力体
-3-
行いつつ、シロザケの産卵行動を見学し、いよいよ切
り離しタイマーが作動する時間になりました。「ボン
ッ」という音とともに、浮力体が浮上し、切り離し成
功!水槽のガラス越しに、多少の衝撃波が感じられた
ような気はしたものの、シロザケ自身はパニックを起
こしたような行動は見られず、一安心しました。夜は、
お世話になったサーモンパークの市川研究員が懇親
会の幹事をしてくださり、サケしゃぶを堪能しました。
(注:実験に用いたサケではありません!)
写真 3: タグを装着したシロザケ
三日目は標津から厚岸臨海実験所に移動し、坂本講
師による Ethographer 解析演習を行いました。この演
習では、実習で得られたシロザケの産卵行動前後の加
速度データを用いて、行動を解析し、加速度データの
解析方法を学び、その結果を4日目に発表しました。
私は残念ながら、子供の発熱のため、前半のみの参加
で、この解析演習には出られなかったのですが、参加
した学生から、「大変ためになった」との感想を聞き
ました。わざわざ札幌から来ていただいた坂本さん、
ありがとうございました!!
原稿を
原稿を募集しています
募集しています!
しています!
編集局では、これまでどおり常時原稿を募集していま
す。野外調査レポートや新しい発見、学会参加報告な
どはもちろん、「野外調査お助け道具」(ちょっと意外で
便利な調査道具や、野外調査についてのアドバイスな
ど)、「書評」(本のジャンルは問いません。印象深かっ
た本、自著の紹介も大歓迎です)、「バイオロギング川
柳」なども募集しています。
原稿は編集局の田上か
(htanoue”atmark”aori.u-tokyo.ac.jp)
か坂田(chisako”atmark”aori.u-tokyo.ac.jp)
[“atmark”を@に代えてください]までメールでお送りいた
だくか、BLS ホームページに掲載してください。
ホームページへの原稿掲載方法については、ホームペ
ージ内「会員の皆様へ」内にある「簡単な Wiki コンテン
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編集長からの新年の一言
「皆様、あけましておめでとうございます。平凡社新書「巨
大翼竜は飛べたのか」が出版されました。皆様からのコメ
ントや反論をお待ちしています。」 佐藤克文
S・K
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